キモ姉&キモウトの小説を書こう!part40at EROPARO
キモ姉&キモウトの小説を書こう!part40 - 暇つぶし2ch100:名無しさん@ピンキー
11/12/02 14:36:01.59 IYf3YcBc
NTRに向かったら駄作

101:名無しさん@ピンキー
11/12/02 15:00:54.56 9x0dTQLB
ここから突然NTRに行くかな
ちょっと難しい気がする

102:名無しさん@ピンキー
11/12/02 18:18:17.14 SYgAuUGF
狂依存は大輝がお姉ちゃんのことを嫌いになれば万事解決

103:名無しさん@ピンキー
11/12/02 18:45:45.45 PwzXE5px
>>102
またお姉ちゃんがキモくなって無限ループするぞ

104:名無しさん@ピンキー
11/12/02 19:34:07.04 SvwVeTYY
普通の姉弟になって沙耶と付き合うエンドが無難

105:名無しさん@ピンキー
11/12/02 21:40:49.44 IYf3YcBc
だよな

106:名無しさん@ピンキー
11/12/02 23:00:39.46 UtVkWMt+
あれじゃねぇか?そのまま真剣に姉と付き合うエンドじゃね?

107:名無しさん@ピンキー
11/12/02 23:15:39.17 PwzXE5px
昔お姉ちゃんの誕生日に花をあげた事を聞かれて
恥ずかくて覚えてないて答えたらキモ姉になってしまった

108:名無しさん@ピンキー
11/12/03 00:50:24.75 UQ+f+JUz
まー次は流れからして沙耶に行くだろうな。

109:名無しさん@ピンキー
11/12/03 01:02:21.29 mGes3pKD
展開予想して楽しそうで何より
潰すの好きだなお前らは

110:名無しさん@ピンキー
11/12/03 01:06:38.17 Pkdfh/ut
沙耶は昔の弟の写真みて姉しか見ていないのが嫌で姉は弟のためにやってきたつもりが全部
自分のためにやってたってだけじゃないのか
昔の姉もなんだかんだ言って弟に依存してたしな
狂ってるときも乱暴に弟使ってた時あったし

111:名無しさん@ピンキー
11/12/03 01:54:25.81 UQ+f+JUz
そりゃあ1年以上続いている長編だしなあ。気になるでしょ。



112:名無しさん@ピンキー
11/12/03 03:30:38.36 VhL8Ufr7
>>107
ビー・プレートでも探していろ

113:名無しさん@ピンキー
11/12/03 15:28:37.40 s/f+EIMf
異性を自分に依存させる代わりに怪力と不死身の肉体と神通力を授ける体質
尻に敷かれるの確定だがこのスレ的にはそれもご褒美か

114:名無しさん@ピンキー
11/12/03 16:01:17.76 0EK8vu79
         ,、,, ,、,, ,, ,,
       _,,;' '" '' ゛''" ゛' ';;,,
      (rヽ,;''"""''゛゛゛'';, ノr)
      ,;'゛ i _  、_ iヽ゛';,    お前それサバンナでも同じ事言えんの?
      ,;'" ''| ヽ・〉 〈・ノ |゙゛ `';,
      ,;'' "|   ▼   |゙゛ `';,
      ,;''  ヽ_人_ /  ,;'_
     /シ、  ヽ⌒⌒ /   リ \
    |   "r,, `"'''゙´  ,,ミ゛   |
    |      リ、    ,リ    |
    |   i   ゛r、ノ,,r" i   _|
    |   `ー―----┴ ⌒´ )
    (ヽ  ______ ,, _´)
     (_⌒ ______ ,, ィ
      丁           |
       |           |

115:名無しさん@ピンキー
11/12/03 16:57:01.44 9+fLOJHz
>>113
どっちがその能力を使えるかだな、どっちでもキモ姉妹になるけど

116: ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:46:12.94 1sSpV0un
結構ドSな同調義妹シリーズ
最終回「今と昔の同調義妹」を投下します。
今回エロ無しです。


117:今と昔の同調義妹1 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:47:05.26 1sSpV0un
大草原、辺り一面に広がる緑、
その先にあるいくつもの丘といくつもの山を越えていく、
歩く、二人、簡素な旅装束に身を包む二人の男女。

朝は涼しげなそよ風を受けながら道無き草道を踏みならす、
昼は温かい太陽に照らされながら緑の丘を越えていく、
夜は二人毛布により添い山の寒さに耐えながら朝を待つ。

二人はどこまで歩くだろうか、
どんな困難が待ち受けているのだろうか、
そして、見果てぬ先にいったい何があるのだろうか…

わからない…その先がわからない…
私にはそれが、とても怖かった…


私の名前は、白河姫音(しらかわ ひめね)。
私はある『魔法』が使える、
それは人の心が読める魔法。

でもそんなもの欲しくなかった、
お父さんに知らない男の汚らわしい娘だと言われた、
お母さんに本当は欲しくなかった子だと言われた…

お父さんとお母さんは、いつもケンカばかりしている、
でも私の前では、決してケンカしているところを見せない、
二人とも、私には酷い事を言わない。

だから本当はそんな酷い事を言われていない、
でも私は聞こえてしまう、
私が持っている『同調』という魔法のせいで…

「…ええと、『同調』っていうのはね、本当はお互いの気持ちがわかる魔法なんだよ」

「自分の心の『声』を伝えて、相手の心の『声』を受け取る、
テレパシーみたいなものかな。その中でもキミは特別なケースだね。
相手の『声』を全部受け取る事が出来る。でも自分の『声』は相手に伝えられない…」

ある日、偶然会った女の人から聞いた話だ、
金髪の長い髪を持ち、容姿だけ見ると私と同じぐらいの年だと思う、
でも、私の両親よりも随分と大人びた雰囲気がした。

「でもね、本当にキミの事を好きで、キミもその人の事が好きだったら、
キミの『声』をちゃんと受け取ってくれるはずだよ、どうかそれを忘れないでね」


数日後、私の両親が交通事故に遭って死んだ話を、知らない人から聞かされた、
結局最後まで、あの人たちから私を愛してるという『声』は一度も聞けなかった…
気づいたら、両親がいない子供が預けられる施設に私はいた。

『姫音ちゃんって可愛いよな、一度でもいいからチュ~とかしてみてぇ』
『姫音のおっぱいでか過ぎだろ、いひひっ、今度無理やり揉んでやろうかな~』
『姫音ってさ、男にちやほやされて調子に乗ってんじゃね? 見ててイラつくんだけど』

施設の男の子たちから、私の顔や身体のイヤらしい話を聞かされた、
施設の女の子たちから、私をみんなで仲間外れにする話を聞かされた、
聞きたくないのに、私の『同調』が全部を受け取ってしまう…

118:今と昔の同調義妹2 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:48:27.52 1sSpV0un
『…もう、嫌。何でみんなそんな目で私を見るの…嫌だ、嫌だよ…
誰か助けて! 私を苛めないで! 私を無視しないで! 私を仲間外れにしないで!
私をイヤらしい目で見ないで! ねえ、お願いだから、誰か私を助けてよぉおおっ!!』

私が『叫んで』も、誰も聞いてくれない、助けてくれない、こんなに『叫んで』るのに…!
誰も私を好きじゃない、側にいてくれない、愛してくれない、みんな私の事が嫌いなんだ、
私はどこに行けばいいの、私が居ていい場所は、私の居場所はどこなの…

私は自分が嫌いになっていった、私の顔も、身体も、そしてこの『声』も、全部嫌い、
でもそんな私が一番嫌いだった、
だから、後で引き取られた家でも、私は本当に嫌な子供だった。


私を引き取ってくれた「音羽」の家、父母と息子が一人、とても裕福な家庭だった。
その家の両親はよく海外の出張で長い間、家を開ける事が多く、
私は『兄』と二人で過ごす事が多かった。

「これから二人だけで暮らす事が多くなると思うけど、よろしくね、姫音」

兄は両親に大事に育てられたせいか、人がよく性格も大人しかった。
兄は私に気を使って優しくしてくれるが、私は全て無視した。
両親に愛されて育った優しい『兄』のことが嫌いだった。

ある日、私は兄と中学の女友達を連れて、この島にあるデパートに出かけた。

「でさ~、部活の先輩がさ、私の服、チョ~子供っぽいっていうの、酷くない?」
「あんたの髪型が子供っぽいんじゃない? 今度私が行きつけの美容院紹介してあげる」
「でも折角だから、服だって見ようよ~ 私も新しいの、そろそろ欲しいんだよね~」

「………」

兄はずっと黙っていた。
内気な上、会話の引き出しが少なすぎる兄は、私の友達と話せるはずがなく、
一人黙って私たちの後を付いてくるだけだった、当然、私の計算だ。

それに兄はもともと大人しい性格のせいかクラスの友達も少ない、
私と数人の友達で兄の「噂」を広げると、兄に味方する人はいないため
瞬く間に兄は女子から嫌われ、次第に同性の友人もいなくなった。

そう、兄はクラスで孤立している、今の友人の数はゼロだろう。

「ねえ、私たちだけでこの店に入りたいから、店の前で待っててもらえる?」

突然、私は兄に冷たい口調で言い放った、
そこは女性の下着が売られているランジェリーショップ、男性には近寄り難い店だ、
兄は気弱そうに返事をすると、私たちは店に入り、数分後に兄の死角をついて店を出た。

「ふんっ、バカな人。たっぷり恥でもかけばいいわ」

私たちは離れた喫茶店に入り、兄を騙した事を肴に数時間話し込んだ、
そして私たちは解散し、兄が気になった私はランジェリーショップに向かった。

兄はやっぱり、そこにいた。
他の女性客に変な目で見られたり、店員から話しかけられても「あはは…」と
困ったような愛想笑いを浮かべるだけだった。

そう、兄は人が良すぎる上に、非常にどんくさいのだ、
私がこんな幼稚な手で、兄を辱めれると踏んだのもこのためである。

119:今と昔の同調義妹3 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:49:50.78 1sSpV0un
でも今回は、さすがの兄も私に怒ると思った、
どんなに言葉や表情で隠しても、私には心の『声』が聞こえる、
あのバカ正直で、お人よしの兄でも、文句の一つは出るだろう。

兄も男だ、
どうせ、義妹の私を、イヤらしい目で見るに決まってる、
いつか、私を無理やり襲ったりすることもあるかもね…

「何、ずっと女の下着売り場の前で突っ立てるのよ、バッカじゃないの!?」

「あはは…ごめんね、迷惑かけちゃったね…本当にごめん…」

「一応、私はあんたの義理の妹ってことになってるの。
あんまり変なことして、私にまで恥かかせないで欲しいんだけど」

私は兄に向って吐きだした、
すると兄は情けなく、みじめに、気弱そうに、私にまた謝った。

「何、謝まってんの?」「あんたの愛想笑い、ムカつくんだけど」とか
言ってやろうと思ったけど言えなかった。

だって本当に兄はそう思っていたから…
本当のバカは兄じゃなくて私だった、
でも、そこから私のバカな子はもう少し続くのだった。

両親がいない時、二人でするよう言われた家事を全部兄に押し付けた、
兄が作るご飯をまずいと言って食べなかった、
二人で使う生活費を勝手に買い食いや高い服に使って兄を困らせた。

それでも兄は、困った時は「あはは…」と苦しそうに愛想笑いするだけで、
私の事を決して悪く言わなかった、当然、両親にも告げ口した事はない、
私の無駄遣いがバレたときも、自分が使ったと私をかばってくれた事さえあった。

兄から嫌な『声』は聞こえてこない、それぐらい最初からわかってる、
だって私は『同調』があるから、ううん、そんなものなくたってわかってたんだ、
兄はどうしようもなくお人よしで、私の事を大事にしてくれてるって…

でも私は認めなかった、怖くて、みじめで、情けなくて、
あれだけ優しくしてくれた兄に、つらく当たった罪悪感に耐えられなかったから…
私はどうしようもなく、自分が嫌になった。


そしてある日、事件が起きた、
通帳に記載された3桁の僅かな預金。

「…嘘っ!? お金ってもうこんなに少なかったの!?」

両親の出張がすごく長期に渡り、振り込まれた生活費が尽きてしまったのである。
当然、私の心無い浪費せいだ。

裕福な家だが、生活費として渡されるお金はそう多くはない、
それは二人で家計をやりくりさせるため、そして、いつか日か来る独り立ちのためである、
でもそんな事、当時の私に知る由もなかった。

お金がなかったため、私は今日の夜からご飯が食べられなくなった、
生活費は共通の口座にあるため、兄の食費も多分無いだろう。

そして夜、私は空腹を抱えたまま、自分の部屋のベッドで大の字になっていた。

「お腹すいたな…あいつも今頃、お腹すいてるのかな…」

120:今と昔の同調義妹4 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:51:15.58 1sSpV0un

トン、トン、トンっ…

「姫音、今ちょっといいかな」

兄のノックと声を聞いた、
あいつ、ご飯食べられなくなった事、私に文句言いに来たのかな、
そりゃそうか、お金無くなったの私のせいだし…

「開いてるから、入れば…」

「…うん、お邪魔するね。姫音さ、お腹空いてるよね。
こんなのしか作れなかったけど、食べる?」

どうやら兄は私にご飯を作ってくれたらしい、
見ると、ふりかけご飯と形が崩れたへたくそなオムレツだった。

兄の不器用さは料理についても例外ではなく、兄の作る食事はいつも、
生彩に欠け、レパートリーも少なく、味も単調、お世辞でも美味しいとは言えなかった。

「ふんっ、あんた、まだお金持ってたんじゃない! 一人だけで使う気だったの!?
それに、このご飯と下手くそなオムレツ、全然美味しくないじゃない!
だからあんたの作ったご飯は、食べたくないっていつも言ってるのよっ!」

すごく空腹だった私は兄の作った食事を乱暴に奪い、そして食べながら悪態をついた。

「あはは…ごめんね、美味しくなくて…」

と、兄は弱々しく微笑みながら、私の食事を見ていた。

「何、ニヤニヤ見てんのよ! 気持ち悪い! 出て行って!!」

…だって今の私、すごく情けなくて、恥ずかしいから…

その日から、兄は朝と晩は私にご飯を作って、部屋まで持ってきてくれた。
次の日もふりかけご飯とオムレツ、次の日はご飯と缶詰が出てきた、
しばらくしてアンパン、次は食パンだけ、美味しくないビスケットだけ…

「あはは…今日はこんなものしかなかったんだ、ごめんね、姫音」

「こんなの、いらない…。だって美味しくないよ…」

私は、せっかく兄が持ってきてくれた食事を断る、
ぱさぱさのまずいビスケットは、昼食を抜き、まともな食事を取っていない私にとって、
見ているだけで唾液が出てくるごちそうだった、でも…

「どうして私なんかにご飯持ってくるのよっ! あんたが食べれば良いじゃない!」

「あはは…僕ってあまり食べないほうだから」

「嘘っ!! 嘘つかないでよっ!! 嘘ついたって、私には全部わかるんだからっ!!」

「私、あんたに酷い事した! 怒らないの!? 仕返ししないの!?
何か言ってみなさいよっ!! ほら、どうしたの? あんた、私に同情でもしてるわけ!? 
お父さんやお母さんがいないから、私に優しくしてくれてるつもりなのっ!?」

私は、もう何もかもわからないぐらい感情を爆発させていた、
兄はじっと私を見ていたが、少しずつ口を開いた。

121:今と昔の同調義妹5 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:52:34.10 1sSpV0un
「ううん…違う…ただ姫音がこの家に来て、僕がお兄ちゃんになるって言われた時、
僕が姫音の父さんや母さんの代わりになって、姫音をずっと守っていこうって思ったんだ。
いつでも姫音の味方になって、いつか姫音に頼ってもらえるようになれたらいいなって…」

兄は弱々しく微笑んだ、
その顔は青白く、頬もやせこけているようで、まるで病人みたい、
身体も細々としていて、最初に会った時よりもずっと痩せていた。

「……あんた、すごく痩せてる。顔色だって悪いし、やつれてる。すごく苦しそう!
どうしてこんなになるまで、私にご飯をくれるのっ!? 私を守ろうとするのっ!?
もっと自分を大事にしなさいよっ!! 私じゃなくてっ!!」

私は兄を怒鳴りつけると、また兄はしばらく私の顔を見つめていたが、
何か遠い物を見るような目で、穏やかに切り出した…

「僕さ…勉強できなくて、運動できないし、カッコも良くなくて、何の取り柄も無いんだ。
だからさ、きっと僕は…将来すごい人には多分なれないと思う」

「だけど姫音が来てくれた時、すごく嬉しかった。
僕、最初に姫音に会った時、姫音の事、すごく可愛いと思ったんだ。
こんな可愛い子とお話したり、デート何かできたら最高だろうなって」

「でも僕みたいなダサくて、要領も悪くて、女の子と話したりできない人が、
最初から姫音みたいな可愛い子と釣り合うはずないんだ。その代わりさ…
兄として、家族の一人として、姫音を一生守っていこうって思ったんだ」

「僕は、大勢の人を幸せにする事はできないけど、目の前の姫音を一生守り切って、
その幸せを見届けていくことぐらいは、してみたいと思ったんだ」

再び兄は弱々しく微笑む、
だが言葉だけではない兄の強い意志が、『同調』能力が無くてもはっきりと伝わってくる。

この人は今の私だけを見ていない、
これから先の私を見て、ずっと守ってくれようとしてたんだ…

ああ…この人はバカだ…どうしてこんな私を守ってくれるんだろう、
本当にどうしようもないぐらいのバカ…!
私…この人に…何て事をしたんだろう……!!

兄は微笑んでいたが、突然ぐぅと弱々しいお腹の音を鳴かせた。

「え、あっ、あはは…ごめんね。それ食べてもらっても構わないからさ」

兄は私の部屋を出る……ダメ! 絶対にダメっ!!
気づいた私は、とっさに兄の手を掴んだ…!

「待って…! 待ってよっ!! お願い! 行かないでっ!!」

「…ビスケット…食べてよっ!! あんた、ずっと何も食べてないでしょ!?
そんなの、死んじゃうじゃないっ! やだっ! そんなの、やだぁああああああっ!!」

私は初めて人前で、泣いてしまった…
みっともなく大声をあげて兄に泣きついた、
私と同じ年の兄は、男子なのに女の子にみたいに華奢で細くなっていた。

122:今と昔の同調義妹6 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:54:07.40 1sSpV0un

………
ぱり…ぽり…パリ…ぽり…

二人で食べる乾いたビスケットの音が私の部屋に響く、
月明かりが差し込むだけの薄暗い部屋、
私は兄と背中合わせだった。

「今度、お金振り込まれたらさ、あんたにご飯作るね」
「うん…ありがとう、楽しみにしてるよ」
「嘘じゃないからね、本当に作るんだからね!」
「うん、わかってる」

「掃除とか洗濯とかも、ちゃんとするから」
「うん、ありがとう…すごく助かるな」
「お金も…考えて使う…こんなこと、もう二度としない」
「…うん、わかった」

「さっきから、うんうん、ばっかり…」
「ん?…あはは…ごめんね…」
「別に怒ってるわけじゃないから…」
「うん、わかってるよ」

「………」
「……姫音?」

不器用で、どん臭くて、お人良しの兄、
いつも私を大事にしてくれる、
支えてくれる、守ってくれる。

「あのさ…あんたに変な事聞いていい?」
「変な事? 何?」

誰にも愛されず、荒んだ私を、心の底から受け入れてくれる、
私の大切なお兄ちゃん。

「今さ、私の声が聞こえなかった?」
「え?…ごめん、何か言ってたの? 聞いてなかった…」

女の人が男の人を、顔やお金や名声で好きになるんじゃない、
この人とずっと一緒にやっていきたいという気持ち。

「いい。今は、まだいいから」
「うん…わかった」

だから私は今、あなたに言います。

『お兄ちゃん、今までこんな私を守ってきてくれて、ありがとう。
もしも許されるなら、あなたとずっと一緒に歩ける人でありたいと思います』

生活費の不足は両親に連絡すれば、追加で出してもらえる事になっていた、
でも私たちはそれをしなかった。

私はこの家の両親に意地を張るためだけに、
兄は自分ひとりだけで義妹の私を守るために、
同じ年の二人にはこれだけの大き過ぎる差があった。

その夜、私は兄と一緒の毛布に包まれて眠った、
兄は恥ずかしがっていたが、私が強引に引き込んだ、
別に兄にならもう何をされても良かった、でも何もしてこない、優しいお兄ちゃんだった。

123:今と昔の同調義妹7 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:55:34.77 1sSpV0un
私は毛布の中で兄に抱きつく、温かい、何故かとても落ち着く、
月明かりだけが入ってくる私の部屋、私と兄は毛布の中で静かに抱き合って眠った。


――コト、コト、コト…

かすかに寒さが身にしみる朝、味噌汁のお湯が沸き上る音がキッチンに響く。

キッチンには一人の可憐な女性が朝食の支度をしていた。

そこへ階段から、一人の男性が少し眠そうな顔をして降りてくる。

「あっ、おはようございます。朝ごはん、もうすぐできますよ」

「うん、おはよう。いつもありがとう。ちょっと顔を洗ってくるね」

5分後、リビングのテーブル上に温かで彩り豊かな朝食が並ぶ、
二人が手を合わせ同時に「いただきます」を言う。

「そう言えば、今日から帰りが遅くなるんでしたよね」

「うん、会社で小さいけどあるプロジェクトのリーダーを任されることになったんだ。
だからいつ帰れるかわからない、多分すごく遅くなると思う。
晩御飯はいつも一緒に食べてるけど、今日から食べられないかも…」

「いえいえ、いくら遅くなっても、帰ってくるまでいつまでも待ってますよ。
だから一緒に御飯を食べましょう。きっと一人で食べるより、
二人で食べたほうが美味しいに決まってますからね」

家を出るまでのわずかな朝の時間、
だが二人の間には穏やかな時間が流れる、
いつも二人で食事を囲み、会話し、温かく微笑み合う、そんな穏やかな時間。


『こういうの…いいな』

どこからだろう…、リビングの空間の外から声が響く。

『うん、すごくいいと思う』

その少女の声に応えるように少年は頷く。

二人の男女が温かな朝食を囲う光景、
それは少年と少女が思い描く理想、
それは夢の中でしか存在できない幻想。

『いつか、いつの日か、こういう毎日を過ごせるように…なれたらいいよね…』

『うん、だったらさ。やってみようか…』

『え…いいの…? 私と何かで…』

『うん、姫音とやってみたいんだ。僕と姫音でやろうよ。約束だ』

『…うん約束。ありがとう、お兄ちゃん。…すごく嬉しい。明日、楽しみだね』

私とお兄ちゃんはゆっくり微笑み合う。

…明日が欲しい、明日から微笑み合っていけるように…
ここからもう一度、お兄ちゃんと歩き始める事ができるように。

124:今と昔の同調義妹8 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:56:56.13 1sSpV0un
そこで私の意識は闇に沈んだ。

次に見たのは懐かしい緑の風景。

緑の絨毯、辺り一面に大草原が広がる、
見上げると緑の丘、その先にいくつもそびえる高い山々、
そして草原から二人の男女が並んで歩いていく。

穏やかな風が吹き、晴れた青空の下を歩く二人、
恋人か、それとも夫婦だろうか、
歩く二人の背中は草原の彼方へ向かって少しずつ小さくなる。

そして、緑の水平線に消えていく…
私は後ろから、その二人を見ていた。

二人はどんな顔をして歩いているんだろう、
二人が行きつく先はどこなんだろう、
二人はずっと一緒なのだろうか…

そんなことを考え、不安に襲われる、
だって怖いから、先が、何があるか、何が待っているか分からないから…

…だから、隣に…誰か…、お兄ちゃん…


朝、目が覚めると兄はすごい高熱を出していた、そして救急車で運ばれていった、
極度の栄養失調のため、免疫力が著しく低下したとのことだ。

私のせいだ、私のせいだ…私の人生で最大の汚点だった。

幸い兄の命に別状はなかった、
でも「幸い」なのはこれだけだ、

兄は、記憶喪失になっていた…

兄は始め、自分の名前さえわからなかった、
それでも時が経ち、治療が進むと、少しずつ記憶の回復が進んだ、
ただし、私に関する記憶を除いて…

いや、客観的に見れば「私」の記憶は戻ったと言えるかもしれない、
だがそれは事実とは異なるものであった。

兄がいる病室、
兄は体調や記憶も順調に回復していることから、退院の日は近かった、
兄が熱を出して倒れた日から、私は毎日のようにお見舞いに来ていた。

「ごめんね、姫音。また来てもらって」
「別に…私が来たいと思って来ているだけだから気にしないで…」

「でも姫音にはいつもお世話してもらってるからね。今度何かお返ししないと」
「本当に、そんなの、いいから…」

「うーん、でも姫音には、いつもご飯とか作ってもらってるし。今度、僕も何か作るよ」
「う、うん…」

私は、一度も兄にご飯作ってあげた事は無かった、
いつも兄に作ってもらって、文句ばっかりを言って食べない事もあった…

「掃除や洗濯も手伝わないと。姫音にばっかりやってもらったら悪いし」
「うん…」

125:今と昔の同調義妹9 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:58:21.43 1sSpV0un
家事も全部、兄に押し付けてばかりだ、
それでも兄は、両親にはいつも私に手伝ってもらっていると嘘をついてくれた…

「お金の管理までやってもらってるね。あはは…姫音がいないと僕って何もできないな…」
「……」

私が両親から貰った生活費を、全部使っちゃったから、
兄はずっとご飯食べられなくて、それで…

それに比べて、今の私はこうやってのうのうと生きてる、
兄にずっと支えられて、守られてきた。でも私は、兄を無視して、苛めて、困らせて、
餓死寸前まで追い詰めて、高熱を出させて、記憶まで失わせて、私は生きている!

私は最低だ、何の価値も無いクズだ、ゴミだ、疫病神だ、
生かされてる価値もない、守られる価値もない、私は最低のクズだ…!

「姫音? どうしたの? もしかして疲れてる?」
「ううん…」

突然、私は兄が寝ているベッドに近づき、兄の手を取った、
そして服の上からでもわかる、自分の大きな乳房に押し付けた。

「えっ、何!? 姫音、どうしたの!?」
『■■■■■■■、■■■■! ■■■! ■■■■■■■■■■■■■■■■!』

慌てる兄、でも私は気にせず、目をつむり、
兄の唇に自分のものを合わせようと顔を近づけていった。

「ひ、姫音、ダメだって! 僕たち兄妹じゃないか!」
『■■■■、■■■■■■! ■■■■■? ■■■■■! ■■■■■■■■!』

兄が本当に困っているようだったので、これ以上は止めておいた。
私は持ってきた兄の着替えなどを渡して、病室から出ていくことにした。

「ごめんね。ちょっと私、気が動転しちゃって。また明日も来るからね、お兄ちゃん」


兄の記憶喪失の後遺症、
それは私、音羽姫音という人物に関する記憶改変だった。

兄の世話をする義妹、面倒見の良い義妹、
それが兄にとっての「音羽姫音」だ。

人は心的ストレスを受け続けると、心の負担を減らすために「逃避」行動を取る事がある。
兄が創った「音羽姫音」は、最もストレスを受けない人物、または理想の形かもしれない。
当然だが、兄にとって私は重い負担になっていた、しかも記憶を改変してしまうぐらいに。

その事実を知った時、私は自分を殺してやりたいほどの激しい自己嫌悪に襲われた、
兄に謝りたい、でも謝ったら優しい兄はきっと私を許してくれる、こんな最低な私でも…
だけど、そんなの私が許さない! 私は、私を、一生許してやらないっ!!

…だから、私は兄に一度も謝る事はなかった。

代わりに、これからの私の人生を、兄のためだけに使うと決めた。
兄の理想像である「音羽姫音」になるために、甲斐甲斐しく兄のお世話をする、
私の『同調』で兄の欲求を読み取り、何であっても叶えてあげる。

そして今日、先ほどの病室で大きな収穫があった、
それは私の胸を触らされ、キスをしかけられた時の、兄の黒い欲望の『声』。

126:今と昔の同調義妹10 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 17:59:44.07 1sSpV0un
『姫音のおっぱい、柔らかい! 大きい! このおっぱいで顔を挟まれてみたい!』
『姫音の顔、すごく可愛い! キスするの? キスしたい! 可愛い顔の姫音と!』
…か、すごく嬉しかった! 兄もちゃんと私を、女の子として見てくれていたんだ!

これで…お兄ちゃんのどす黒い男の欲望も、満たしてあげられるんだ…
私はとても救われた気分になった。

これから何でも叶えてあげる、どんなものでも食べさせてあげる、
欲しいモノがあればバイトしてでも買ってあげる、して欲しい事をしてあげる、
どんなエッチな事でも、喜んでお兄ちゃんにしてあげる…全部、そう全部してあげる!

お兄ちゃんに彼女が出来て、私がすごく傷ついて、無様に泣いて、心がズタズタに壊れて、
最後には、ボロクズのように捨てられるその日まで、私が兄の心の隙間を埋めてあげる、
それまでのお兄ちゃんは、私の居るべき大切な『居場所』だから…!

私は、その日からアダルトビデオや、18禁のゲームなどでHな知識を蓄えていった、
また兄さんのPCを勝手に閲覧し、兄さんの嗜好を見定めていった。

この「兄さん」という呼び方は、
兄さんが高校になってハマった、エッチなゲームに出てくる女の子からの呼び名だ、
私の髪型、性格、しゃべり方、声色まで全部、その兄さんが好きなヒロインに合わせた。

これは『ダ・カーポ』の朝倉 音夢(あさくら ねむ)というヒロインだ。
義妹である私にとっては、本当に都合が良かった、
そのヒロインっぽく、兄さんの前では兄さん大好きだけど、ちょっとツンデレに振る舞う。

おそらく兄さんは、SかMかで言ったら、Mだろう、
私はヒロインとしての演技も兼ねて、女の子の嫉妬に関しては兄さんにきつく当たり、
ついでにエッチなオシオキを行い、兄さんを苛めて喜ばせてあげる事にした。

正直なところ、今まで酷い目に合わせてきた兄さんをエッチなことでも苛めるのはつらい、
でもやるんだ、それは兄さんが心の底で本当に望んでいる事だから、
それを叶えてあげるために、そう、兄さんが好きだから、愛しているから苛めるんだ。


そして家の中だけじゃない、
外の世界、学校でも兄さんが平和に過ごせるようにする必要があった。

兄さんが通学できるようになる一月前のこと、
私は仲良くしている友人たちの目の前に立っていた、
あのデパートで兄さんを下着物売り場に置き去りにした女子グループだ。

「オッス姫音、お前のアホ兄貴って、もうすぐしたら学校戻ってくるんだっけ?」
「え~っ!? マジであのキモオタ帰ってくんの? 最悪、マジいらねーんですけど」
「だったら今度はアタシらでまた苛めて記憶喪失にでもしてやる? もう一年ぐらい」

「兄さんを苛めるの、止めてもらえる」

「…はぁ? 姫音、オマエ何言ってんの? 最初はお前から言い出したんじゃねーか?」

「いいから兄さんを苛めるの、止めて」

「何言ってんだコイツ? 今日のお前、マジ頭おかしいんじゃね?」

「兄さんを苛めないでっ!!」

「おいおい、姫音落ち着けって。別にアタシらだけじゃないだろ、兄を苛めてんのは」


127:今と昔の同調義妹11 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 18:01:05.28 1sSpV0un

――ドガっ!!

三人の誰だっただろう…?
私は全力でそいつを殴り飛ばした。

「兄さんを苛めるなーっ!!」

授業が始まる前の朝の教室、
一瞬にして喧騒が広がった。

殴って、殴られて、引っ張って、引っ張られて、蹴って、蹴られて…

私はまた叫ぶ。

「兄さんを無視するな! 悪口を言うな! 苛めるのを止めろーっ!!」

私は他の誰かに殴りかかっていく、
他のクラスから人が集まってくる、
騒ぎを聞きつけた先生たちが駆けつけてくる。

…この後の事はあまり思い出したくない。

ただ一つ、
一ヶ月後に兄さんを無視したり、悪口を言う人がいなくなった事はすごく嬉しかった。


そして時は、現在に至る、
兄さんは昨日、私に一晩中くすぐられて、ぐっすり眠っている。

眠りの間、多分兄さんは、昔の私を夢で見たはずだ、
もしかしたら、私との記憶が完全に戻っているかもしれない…
そしたらすごく気まずい…もしかしたら兄さんに、軽蔑されるかもしれない…

でも時刻は7時30分を過ぎた頃、
もう兄さんに起きってもらって、朝ご飯を食べて欲しい時間だ。

兄さんに遅刻をさせないようにするためにも、これ以上寝させるわけにはいかなかった、
私は兄さんの足の裏をくすぐって起こす事にした、多分兄さんがして欲しい事だろう。

「兄さんの足の裏…こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」

「…!? ひゃあああああっ!?」

「あっ、起きましたか、兄さん♪ おはようございます」

兄さんが情けない声を上げて起きる、
でも私は努めて、普段の『意地悪な姫音』を演じる、
だから、もうちょっとだけ兄さんをくすぐってあげる事にした

「ほらほら、兄さん♪
義妹に無理やり足の裏をくすぐられて起こされるって、どんな気分ですか?
ほ~ら、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」

そして、私は最後の賭けのつもりで、兄さんに『声』を送ってみた。

『私、兄さんの事、ずっと前から好きでした』

「……兄さん、今、私の声が聞こえませんでしたか?」

128:今と昔の同調義妹12 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 18:02:28.40 1sSpV0un
「…えっ、声? もしかして早く起きろって言った?」

ほらね、やっぱり聞こえてない、私ってば、ざまあみろ…
私は可愛く怒った顔を作って、兄さんの足の裏を思いっきりくすぐった!

「……ぶぶ~っ! 乙女心がわからない人には、オシオキです!
ほ~ら、こちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょこちょ~♪」

あはは…まいったな…
兄さんは、どこまでいっても私を義妹としか見ないだろう、
それに私が兄さんを好きになる資格もきっとない。

「うふふっ♪ 可愛い義妹に足の裏くすぐられて気持ちよかったですね~♪」

薄暗い気持ちが渦巻いていたが、兄さんの前で暗い表情は決して見せない、
どんなに辛くても兄さんの前では、いつも可愛く笑みを浮かべるようにしてる、
そんな可愛くない私だった。

そして登校時、通学中の生徒が次第に多くなる頃、
私と兄さんは並木道を並んで歩く。

「姫音…!」

突然、兄さんに呼ばれる。

「はい。何でしょうか、兄さん?」

私は何とか兄さんに笑顔で返すことができた。

今の私は兄さんから何を言われてもおかしくない、
どんな酷い事を言われたり、命令されたとしても私は兄さんに従うだろう、
ただ、兄さんから捨てられる事だけがすごく怖い…

兄さんが真剣な顔で私を見て、口を開く。

「姫音。いつもご飯とか作ってもらってありがとう。今の僕は、
姫音のふさわしい人にはなれないかもしれないけど、勉強して、良い大学に入って、
就職して、いつかきっと姫音の側にいられるぐらいの立派な大人になるよ」

「……あ、あの…に、にぃ、兄さん…?」

私は一瞬で顔が真っ赤になる、プシューッと顔から蒸気が噴き出した、
バ、バカですかっ!? 朝から公衆の面前で、そんな恥ずかしいこと平然と言うなんて!?
ああ恥ずかしい…兄さんと腕を組んで登校するより100倍恥ずかしい!

そしてあろうことか、兄さんに真剣な顔で、プロポーズ並みの告白をされたせいか、
私の胸の鼓動は高まり、頭の中がグルグルと回りだし、正常な思考ができなくなっていた、
反射的に私は『声』を上げて、兄さんに叫んだ!

『朝からこんな公衆の面前で、いきなりそんな恥ずかしい事を…!
兄さんの…兄さんの、バカーーーっ!!』

…あっ、しまった、この『声』じゃあ、兄さんには聞こえないよね、
私はもう少しエレガントに非難しようと言葉を選んでいると…

『ごめんね、姫音。今日、今、ここで、姫音に言いたかったからさ』


129:今と昔の同調義妹13 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 18:03:49.21 1sSpV0un
えっ? 嘘? 兄さんに私の『声』が聞こえたの?
だって、私の『声』って、私を好きになってくれないと聞こえないはずじゃ…
まさか、今ここで、兄さんが私の事を…

ここで私は、昔、金髪の魔法少女から聞いた話を思い出した。

「でもね、本当にキミの事を好きで、キミもその人の事が好きだったら、
キミの『声』をちゃんと受け取ってくれるはずだよ、どうかそれを忘れないでね」

本当に私の事を好きで、私もその人が好きだったら『声』を受け取ってくれる…
そして、私が兄さんに、プロポーズ的告白をされてから、
『声』を受け取ってくれたってことは…

私はその解答に対する答えが、既に分かってきていたが、
恥ずかしさのあまり、私はそれを頭の中で言えないでいた、
その代わりに私は兄に向って『呼び』かけた。

『…兄さん』
『何かな、姫音?』

『兄さんっ!』
『うん、姫音』

『兄さん! 兄さん! 兄さ~んっ!!』
『ちゃんと聞こえているよ、姫音』

私たちにしか聞こえない、バカみたいな呼応の応酬、
それが私には、たまらなく嬉しかった。

『私、これからもずっと兄さんにご飯作ります。何でもお世話します。
兄さんが望む事は、全部私がしてあげますっ!』

『ありがとう姫音。でも、ご飯だったら、たまには僕にも作らせてくれないかな?
オムレツも上手くなりたいし、それに他のモノも作れるようになりたいな。
良かったら姫音に教えて欲しいかな。あっ、掃除や洗濯は交代制で良い?』

『……兄さん…やっぱり記憶、戻ってたんですね。…私、すごく悪い子でしたよね。
兄さんにいっぱい迷惑かけて、困らせて、私、酷い…酷かった…』

『ううん、僕も姫音を支えてあげられなかったんだよ。僕が記憶を無くす前も、
そして記憶を無くして、姫音にあんな事をさせた。結局、僕は姫音を追いつめたんだ』

『ごめんなさい、兄さん。謝っても許される事じゃないと思う。
今でもこれから先もずっと私は、私を許せない。
だから、追いつめられるぐらいがちょうど良いんです』

『うん、だから僕は、姫音が自分を許せるぐらいの頼れる大人になりたいんだ。
姫音がどんな立場でも、いつでも姫音の味方になって、姫音が安心できる『居場所』に
なりたいんだ。多分、今は無理だけど…絶対にあきらめない、頑張る!』

うう…っ! すごく恥ずかしいっ!!
どうして兄さんはこんなに恥ずかしいセリフを、堂々と言えるんだろう…
いや、心から聞こえる本心だから、余計に恥ずかしいよ~っ!!

でもそのおかげで、私の薄暗い気持ちは完全に消えてしまった、
もう…兄さんにはやっぱり敵わないな…

本当は兄さんが大好きなはずのに、
いつの間にか、好きにならないといけないって思い込んでしまってたんだ、
相変わらずバカだな、私って…そうだ、頑張るのは兄さんじゃなくて私の方だ…!

130:今と昔の同調義妹14 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 18:05:10.76 1sSpV0un
だから私は、覚悟を決めた…!!

『兄さん、私は本当にあなたの事を好きになりました。
もしも許されるなら…、ううん、私、兄さんと一緒に歩ける人になりたい』

『うん、僕も姫音が好きだ。ずっと姫音が僕の隣で居られるように、頑張るよ』

人通りが多くなる通学路の並木道、
私と兄さんは、ずっと「無言」のまま、お互い正面を向いて見つめ合っていた…

私の『同調』は好きな人同士が以心伝心になれる魔法、つまり恋人の「テレパシー」だ、
私は兄さんの『義妹』、「シスター」だから、
『同調義妹(テレパシスター)』って言うのかな?

何だがバカっぽいけど、うん、面白いかも。

私は、また兄さんに向って『呼び』かけた。

『兄さん、私、兄さんが好き』
『うん、僕も好きだよ。姫音』

『兄さんの事が大好き!』
『僕も大好きだ!』

『兄さんを、愛してる~っ!!』
『僕も姫音を、愛してる!!』

また二人だけのバカな応酬が始まる、
恥ずかしいのに、心がこんなにも軽く、弾む!
生まれて初めて、輝かしい太陽の光を浴びたみたいだった。

そして私は、一歩、二歩と軽くバックステップで下がり、
息を深く吸い込み、大声を出して言ってやった…!

「ふ~んだっ! 兄さんの事なんか、全然好きじゃないんだからね~っ!!」

並木道を通学する生徒たちが、いっせいに振り向いてくる。

それを見た私と兄さんは、思わず噴き出してしまう。

ああ…どうしてこんなにも、晴れやかな気持ちになれるんだろう、
私の心は、今日の晴天の青空のように、どこまでも澄んでいて、
どこまでも飛んで行けそうだった。

ふいに私はあの夢に見た風景を思い出す。

それは緑の草原を歩いていた二人の男女、
それは昔、まだ父と母の仲が良かった頃に
連れて行ってもらった美術館で見た一枚の絵。

二人の男女が大草原を抜けて、いくつもの丘を登り、山を越えていく、
けどその先は見えない、いったい何があるんだろう…

海? 森? 雪原? また山かな? 
もしかしたら、まだ誰も行ったことが無い秘密の洞窟を見つけたりして!
幼い私はそんなことを考えていた。

でも同時に、すごく怖いと思った、
二人はどこまで歩くのか、どんな事が起こるのか、つらくないだろうかと不安になる。

131:今と昔の同調義妹15 ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 18:06:29.52 1sSpV0un
…でも、もう大丈夫。

私は、すっと、兄さんの隣に寄り添った。

「兄さんと一緒に歩いて行ける、隣の『居場所』があるから大丈夫です」

「ああ、そうだね。ずっと一緒だ」

私と兄さんは、一緒に並んで同じ並木道を歩きだす、
そしてお互いの顔を見合い、穏やかに微笑み合う。

そう、隣には兄さんがいる。

晴れた陽気な日には歌を歌い草原の道を並んで歩く、
うれしい時には丘の上で和やかに二人微笑み合う、

つらくて苦しい山道では手をぎゅっと握り合って歩き、
山の寒い夜には二人で身を寄せ合って暖めあう。

こうやって一歩ずつ、一歩ずつ、歩いていく、
だから例え苦難の道のりでも、過酷な日々があるとしても、
きっと大丈夫、でしょ?

「うん、大丈夫。姫音と一緒だからできるんだ」

「ええ、余裕ですよね。兄さん♪」

これから一緒に歩いて、一緒に微笑んで、
ゆっくりと歩んでいく、
穏やかに齢を重ねていく。

そして、健やかなるときも、病めるときも、
また、喜びのときも、悲しみのときも…

「僕は姫音を愛し、姫音の隣にあり続けると誓うよ」

「はい。私も兄さんを愛し、兄さんの隣で歩き続けていくと誓います」


大草原、辺り一面に広がる緑、
その先にあるいくつもの丘といくつもの山を越えていく、
歩く、二人、簡素な旅装束に身を包む二人の男女。

それは大草原を往く旅人夫婦の一枚絵。

彼らのくたびれた服から、いくつもの苦労の跡が見てとれる、
しかし二人の表情はとても穏やかで、お互いに微笑み合い、
そして手を繋ぎながら、どこまでも歩いて行くのだった。


Fin


132: ◆D.t0LfF1Z.
11/12/03 18:07:02.43 1sSpV0un
以上です。ありがとうございました。
これで結構ドSな同調義妹シリーズは終わりになります。

4話というこのスレの中では短めの短編でしたが
まとめサイトに入れて頂いた方、誤字を指摘して頂いた方、
そしてこのスレの皆様方には大変お世話になりました。
ここに厚くお礼を申し上げさせて頂きます。

133:名無しさん@ピンキー
11/12/03 18:14:52.14 Bo57BFLl
完結お疲れ様でした
報われて何より

134:名無しさん@ピンキー
11/12/03 20:48:17.68 9+fLOJHz
GJ
綺麗にハッピーエンドで完結おめでと

135:名無しさん@ピンキー
11/12/03 22:37:59.05 fgeMIfPs
>>132
完結お疲れ様です
ハッピーエンドで終わって良かった

136: 忍法帖【Lv=15,xxxPT】
11/12/03 23:50:21.92 7aFT+E+/
GJいい話だったよ。
こういう昔と今でデレの差があるのが
たまらんわ

137:名無しさん@ピンキー
11/12/04 00:07:11.95 +f4OOOe+
桜氏はどこぞ?
補足を所望する!!

138:名無しさん@ピンキー
11/12/04 19:58:49.30 dI7GZjCw
お疲れ様でした。
結末にはほっとしました。
全4話だったんだと作者さんの後書きで気付いたくらい、ボリュームがある濃い話でした。
また筆をお執りになることを期待しています。本当にありがとうございました。

139: ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:01:30.97 a9m8wlMU
狂もうと投下させてもらいます。

140:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:02:02.73 a9m8wlMU
産まれた時から僕にはお母さんしか居なかった。
お父さんが居ない事に疑問を感じなかったのかと言われたら嘘になる…だけど僕はお母さんと二人で幸せだったし、家族はお母さんだけで問題なかった。
ある日、お母さんに僕にはお姉ちゃんが居る事を知らされた。
兄妹が居ない僕には姉と言う存在がどんなものか想像できず興味があったものの、言い知れぬ怖さもあり、お母さんに由奈と言う名の姉に会いに行こうと言われても会う事を拒否し続けた。

だけど気になる…どんな人か…優しい人なのか……お母さんに教えてもらった日からずっと頭でどんな姉か想像した。
悩みに悩んだ結果、お母さんと一緒にどんな人か姿だけ見に行く事にした。
橋の上に車を止めて学校から帰ってくる姉を待つ。
お母さんは何度かこの場所で姉を見に来ていたらしく、「もうすぐ向こうから来るわよ」と指をさして私に教えてくれた。
お母さんが言った通り、二十分ほど待っていると制服姿の一人の女の子歩いてきた。
見た目は本当に綺麗な人…笑顔を浮かべ花のような女の子だった。
そしてその笑顔を浮かべる先には一人の男性が居た。
別に目立たない男性…良くも悪くも優しそうな人だった。

141:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:02:46.51 a9m8wlMU
その人がお兄ちゃんだと聞かされた時は、姉ちゃんとはまったく似てないなぁ…と子供心に思っていた。
血の繋がりなんて複雑な事は当時の僕にはまったく分からなかったのだ……ただ、兄ちゃんに甘える由奈姉ちゃんを見て、純粋に羨ましいと思った。
背中に抱きつく由奈姉ちゃんを鬱陶しがる素振りすら見せず、笑顔を浮かべる兄ちゃんに僕は強く興味を引かれた。
だから時間がある度にあの橋に行き、兄ちゃんを見に行った。
それこそ雨が降る日もお母さんに内緒で…。
ただ、必ず兄ちゃんを見れた訳ではない。
三回に一回は見れなかったし、夜までまって道を通らない日もあった。
だけど私はやめなかった―いや、やめられなかった。
1ヶ月に一度のお小遣いで使い捨てカメラを買って兄ちゃんを橋の上から撮った事もあるけど、現像のしかたが分からない僕は使い捨てカメラがそのまま五つほどそのまま残ってしまっている。
多分殆どまともに撮れていないだろうけど、隠れて写真を撮る度、カメラを見て一人笑っていた。
それは今でも机の中に大切に保管している。

そんな日が数ヶ月続くと、小さな欲望が首をもたげてくる…。
もっと近くで見たい…触って見たい…声をかけてもらいたい…。

142:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:03:12.12 a9m8wlMU



―僕も甘えてみたい…。
感情が加速すると、もう止まらなかった…。
ある日いつものように橋に到着して兄ちゃんを待っていると、空から小雨が降ってきたのだ。
朝に見た天気予報で雨が降る事を知っていた僕は勿論、傘を持っている。
だから傘をさして兄ちゃんを待つ事にした。
小さな傘にパタパタッと小雨が当たる音を聞きながら長く続く道を眺め続ける。

「…………あっ、来た!」
自然と声が出る。
小さく二つの傘が遠目に見えた。
間違いなく、兄ちゃんと由奈姉ちゃん。

「なんだよッ…此処からじゃ全然見えないな」
傘で隠れて兄ちゃんの顔がまったく見えない…なんとか横に歩いて顔を見ようと右往左往してみるけど、どうにも橋の上からでは見辛い。

「あぁ…過ぎちゃう…」
一歩一歩、歩いてくる二人。
橋を潜ってしまうと、もう顔を見ることができなくなってしまう…。

「ぁ…あそこから降りれるかな」
ふと橋の横に降りられる階段とも言えない坂が視界に入ってきた。
橋の下で休んでたという最もらしい理由を作る為に持っていた傘を地面に叩きつけ壊すと、急いで坂を滑り落ち、橋の下へと移動した。
見えやすいように壊れた傘を両手で掴み石の上に腰かける。

143:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:03:42.41 a9m8wlMU
「ふぅ…あ、雨やまないかなぁ…(あぁあー!大丈夫かなぁ…不自然じゃないかなぁ…心臓痛いっ!)」
ドキドキする胸を傘で押さえつけ、フードを被り前を流れる川に目を向ける。
パニックになる頭が大根役者顔負けのわざとらしい言葉を勝手に口からひねり出す。

「傘壊れたし…どうしよ…(うわぁ…頭痛い!緊張で痛い痛い身体全体痛いッ!)」
まだ兄ちゃん達は遠く離れている…だけど私の口は焦りからくるパニックで勝手にポンポンと突いて出る。
目は川に向いているが、意識はすべて兄ちゃんが歩いてくる方角へと向けられた。
アスファルトを叩く雨音に混じって遠くから聞こえる足音…その足音が徐々に近づいてくる。
足音が近づいてくるにつれて、私の独り言も口から出なくなっていった…。

―お兄ちゃん、今日はちゃんと弁当に入れたトマト食べた?○×くんにあげたりしてないでしょうね
―なんでお前が○×の事知ってるんだ?もしかしておまえ…
―そんな訳ないでしょ!?殴られたいのお兄ちゃん!

二人の会話が耳に入り込んでくる……フードの隙間からちらっと横を見てみると、すぐそこに兄ちゃんと由奈姉ちゃんが並んで歩いてくるのが見えた。
慌てて視線を前に向ける。

144:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:04:16.00 a9m8wlMU
「びしょびしょだよ…ったく」

「傘さしてるのになんでお兄ちゃん濡れるの?お兄ちゃん傘揺らしてんじゃない?」
僕の視界の中を二人が横切っていく…顔を動かさずに目だけでそれを追いかける。
僕に気がつかないのか、二人は未だに会話したまま歩いていた。

「ぁ……お…おっほん!(ヤバッ…今のはわざとらしい…自分でも分かるぐらいわざとらしい!)」
頭の中でもう一人の自分が頭を抱えてのたうち回っている…。

「ん…?」
私の咳に二人が振り向いた。
フードを深く被り直し、身を縮める。

「どうしたの?大丈夫?」
真っ先に声をかけてきたのは由奈姉ちゃんだった。
深く被るフードの中を覗き込むようにしゃがみこみ、僕を見上げている。

「あ、だっ、だいっじょっ!」
まさか唐突に話しかけられるとは思っていなかったので、話す心の準備ができておらず、由奈姉ちゃんから勢いよく目を反らして背中を向けてしまった。

「ほら、由奈の顔が恐いから背中向けちゃっただろ?」

「お兄ちゃんつまらないこと言ってると、叩くよ?」

「はは、ねぇキミ」

「は、はひ!?」
突然後ろから肩をポンポンっと叩かれる。

145:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:04:41.62 a9m8wlMU
「キミよく橋の上にいる子でしょ?傘壊れちゃったんだよね?此処に傘置いとくからこれで家に帰りな」
まさか気づかれていたなんて…軽いショックを受けながらも気づいてくれていた嬉しさで自然と口がにやける。
まぁ、あれだけ顔をピョコピョコだしていたら気がつかれるかも知れないけど…。
私が座っていた石に兄ちゃんが使っていた傘を立て掛けると、そのまま二人の足音が遠ざかっていくのが分かった。

「あっ……ぉ、おい!」
慌てて振り向き、呼び止める。
由奈姉ちゃんは振り向かなかったけど、兄ちゃんは振り向き笑顔を向けてくれた。

「あ、ありがと…今度返す…よ」

「あぁ、俺が下通り過ぎる時にでも橋の上から放り投げてよ」
冗談混じりにそう笑うと、由奈姉ちゃんの傘に入って二人仲良く遠ざかって行った…。
それを見えなくなるまで見送った後、兄ちゃんに貸してもらった傘をさしながら橋の下から出てみた。
大きな黒い傘…僕の傘より2周りほど大きな傘は、僕に雨を一切寄り付けなかった。

「ははっ…おっきいなこの傘!」
大人用の傘なので重たかったけど、僕は二時間ほど傘をさして雨の中を歩き回った。

146:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:05:09.75 a9m8wlMU
おかげで38℃を超える熱をだしてしまったけど、その日は本当に幸せだったのを今でも覚えている。
しかし熱は3日間続き、その間家から一歩も出られなかった…だから兄ちゃんの顔も見れなかったし、傘を返す事もできなかった。
熱が引いた翌日、急いで橋まで行って傘を返す為に兄ちゃんを待ち伏せした…今度は堂々と橋の下で。
だけど、その日暗くなるまで待ってみたけど兄ちゃんが姿を見せる事はなかった。
今日は運が悪かった…その日は諦めて、次の日も…その次の日も……晴れでも曇りでも雨でも傘を持って橋に向かう。
結局あの日から兄ちゃんがあの道を通る事はなかった。
後日お母さんに聞いたら、高校卒業後に一人暮らしするために町を離れてしまったとのこと…。
その事に大きなショックを受け、僕は一週間家に引きこもり、お母さんにバレないように泣いた。
男子とケンカして殴られても絶対に泣く事なんてなかったのに、初めて悲しさから目が腫れるまで僕は泣いた。
それからその橋に行く事が無くなり、数年後、僕は中学生になった。
月日が経っても兄ちゃんを忘れる事は無く…いや、それ以上に兄ちゃんに会いたくなる一方で何度も兄ちゃんの実家に行こうかと思っていたほど…。

147:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:05:36.42 a9m8wlMU
お母さんにダメだと言われていたので仕方なく諦めていた…。



―僕が中学生に上がる頃からだろうか…お母さんがよくお酒を飲むようになったのは…。
酔うと決まって僕の知らない男性の名前を呟き涙を流すお母さん…何度かお母さんにお酒を控えるようたしなめるけど、私が口出すと怒るのだ。
だから口出さずに飲ませていたけど…。

ある日、夜遅くに酷く酔っ払って帰ってきたお母さんは、私の知っているお母さんの顔をしていなかった……真っ赤な目に真っ赤な顔…明らかに悪酔いしているなと一目で分かるほどお酒にのまれていた。
鞄を壁に叩きつけ、叫ぶお母さんを静かにしようと腕を掴む…それを振りほどき私に怒鳴る。

―本当なら私があの人と一緒になれるはずだったのに!死んだんだから私を―ッ―

「お母さん静かにしてよ!近所迷惑でしょ!」

―そうよっ!まだあいつらが残ってるからッ

「あいつら?何を言ってるの?」

―あいつらさえ居なくなればッ!

「やめて?ね?お母さん変なことやめてね?」

―空!喜びなさいよ!あいつら私が―してやる!

「なっ!?何言ってるんだよ!そんな事したらっ」

148:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:06:11.05 a9m8wlMU
―住所も知ってるのよ!―してやる!今すぐ―してやるッ!!!

「お母さん!やめてッお母さん!お母さッ―ッ―ぅッ――ああああああああああああああああ!!!!!!!」




※※※※※※※


「昌彦(まさひこ)はッ…昌彦は何処に居るんですか!?」
そう叫びながら私の胸ぐらを掴んで、揺さぶる女性…名前は留美子。名字は知らない。
留美子さんが涙を流しながら私にすがり付くには大きな理由がある……それは車の中に居る男の子の存在。
留美子さんの弟で、小学六年生の可愛らしい子供だ。
何故留美子さんの弟が私の車に居るのかと言うと、わかりやすく言うと私はその子を下校中に拐ったのだ。
留美子さんが事故にあったと伝えると、簡単についてきたから楽だった。
多分空ちゃんも居たから疑いもしなかったのだろう…私が言えた事では無いけど、もう少し人を疑う知識をつけないと今後も危ない事に巻き込まれそうだ。

「焦らないで、後部座席に居るわよ」
そう伝えると、私の胸ぐらから手を離して車へと駆け寄った。

「昌彦!昌彦大丈夫ぶ!?貴女昌彦に何をしたのよ!」

149:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:07:43.88 a9m8wlMU
後部座席のドアを開けて昌彦くんを抱き抱えると、目を覚まさない昌彦くんを見て私を睨み付けて怒鳴った。

「睡眠薬で眠っているだけだから安心しなさい」
助手席に居た空ちゃんも外に出て昌彦くんの顔を覗き込む。

「近寄らないで!」
空ちゃんを突き飛ばすと、昌彦くんを抱いて立ち上がり私達から距離を取った。
お兄ちゃんを取り戻すという私の目的は達成されたのだからもうどうでもいいのだけど、恨まれたらたまらないので留美子さんに一つの鍵を手渡した。
鍵を見つめ「なんですかこれ?」と警戒心を解く事なく私に聞いてくる留美子さん。

「ほら、離島に別荘あるでしょ?あそこ誰も使ってないから貴女が使っていいわよ。クルーザーがある場所は分かるでしょ。鍵は刺したままだから」
それだけ伝えると、車に乗り込む為に留美子さんから遠ざかった。

「な、なんで私がそんな所に行かなきゃいかないんですか?」
私の“厚意”が分からないのだろうか?
ため息を吐き捨て昌彦くんを指差す。
何を勘違いしたのか私から守るように昌彦くんの顔を隠して見えないようにした。

150:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:08:26.92 a9m8wlMU
「二年ほどの食料は地下にあるから。島には貴女とその子の二人だけ……島に行くか行かないか貴女が決めていいわよ?貴女達の両親は私が何とかしてあげる。
緊急で何か必要なら、鍵の掛かった緊急電話があるからそれを使いなさい」
留美子さんを小さく嘲笑い、車のエンジンをかけた。
この留美子さんという人間は本当にわかりやすい……あの目…独占欲にまみれた純粋な子供のような目をしている。

「……」
私の言葉に耳を傾け、無言のまま私を見ている。
数十秒後―留美子さんは私に一度深く頭を下げると、昌彦くんを抱き抱えたまま闇の中へと消えていった。
それを見送り、車を発進させる。

「なぁ、あの二人大丈夫なの?なんか留美子のヤツ危ないような顔してたけど…」

「大丈夫でしょ。もう会うことはないだろうけど、幸せになるといいわね」
本来なら私とお兄ちゃんで使おうかと思っていた別荘なのだけど、少し不便なので迷っていたのだ。
誰も居ない小さな島で二人だけ…しかも相手は小さな子供…クルーザーなんて運転できないはず……そう考えたらあそこは昌彦くんにとって監獄のようなものじゃないだろうか?

151:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:08:54.10 a9m8wlMU
精神を壊して作り替えるには持ってこいの場所。
どうせ留美子さんも零菜さんを裏切った時点で居場所なんて無いのだから、死ぬまで仲良く二人で“混ざれば”いい。

「早く兄ちゃんの所に行こうよ。多分寂しがってるから」
心配そうに呟く空ちゃんを見て、今すぐ外に捨ててやろうかと思った。
当たり前のように兄ちゃん…兄ちゃん…兄ちゃん…兄ちゃんッ!
昌彦くんを留美子さんに手渡す為に家を出る時も「僕が兄ちゃんについてるから由奈姉ちゃん行ってきなよ」とほざいたのだ。
二人にすると何をするか分からないので無理矢理連れてきたけど、何か勘違いをしている“これ”にもちゃんとわからせないといけない。
妹は私一人だけ…。

「由奈姉ちゃん唇血出てるよ?」
空ちゃんに言われてミラーでちらっと確認する。
確かに唇から血が一筋ツーっと垂れている。

「えぇ、そうね」
それを拭き取る事なく車を走らせた。
零菜さんを潰した後は…やはりこの子が目障りになってきた。
いや…前々から気にくわなかったが、さりげなくお兄ちゃんの側にいようとするこの“女”が憎くなってきたのだ。

(まぁ…そんな空ちゃんとも、もうすぐお別れだからいいか)

152:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:09:20.51 a9m8wlMU
空ちゃんを横目で見ながら心の中で呟いた。

―今朝…零菜さんの事がニュースで流れた。
意識不明の重体。死んだかと思っていたのだけど…ゴキブリ並みにしぶとい生命力だ。
まぁ、零菜さんが意識を取り戻して警察にたれ込んでも問題無い…だって突き飛ばしたのは私ではなく空ちゃんなのだから。
そして空ちゃんが突き飛ばした時、私は意識朦朧とするお兄ちゃんと車の中で一緒に居た。
そう……警察から何を言われても、お兄ちゃんは必ず私を守ろうとするのだ。
もうすぐ空ちゃんともお別れ…悲しくは無いけど、笑って送り出してあげよう…満面の笑みで…ね。






―隠しきれない~移り香が~♪

「……ずいぶん古い歌知ってるわね。そう言えば空ちゃん演歌ばっかり歌ってるけど好きなの?」
助手席に座る空ちゃんが機嫌よく演歌を歌っているので気になって聞いてみた。
普段からよく歌を口ずさむけど、すべて演歌なのだ。

「うん、お母さんがよく歌ってたから僕も好きになったんだよ。いつしかあなたに浸みついた~♪」
窓の外を向いたまま歌を歌い続けた。

「ふぅん…ねぇ…」

「誰かに盗られる~くらいならぁ…なに~?」

153:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:09:46.27 a9m8wlMU
「……お母さん何で亡くなったの?」
何となく…本当に軽い興味で聞いてみた。
自分の母親がどんな死に方をしたのか。



「あなたを殺して…いいですかぁ~………僕が殺したよ?」
ブレーキを踏む。
別に空ちゃんの言葉に驚いてブレーキを踏んだ訳ではない。
単純に赤信号だから踏んだのだ。
ただ、軽く会話するように呟いた事に少し驚いた。
空ちゃんに目を向けるが、窓側に顔を向けているので此処からでは表情がまったく見えない。
本当か嘘かの区別がつかない…だけど多分本当だろう。
背中を見て不思議とそう思った。

「……なんで殺したの?」

「兄ちゃんに酷いことしようとしたから…だから首にヒモくくりつけて引っ張った」
兄ちゃん…お兄ちゃんの事だろう。
しかしこれで分かった…何故躊躇無く零菜さんを突き飛ばす事ができたのか。
この子はたった一度の殺人で人を殺す事に“慣れて”しまっている。


「そう…酷いこと…それなら仕方ないわね」
どうせ篠崎が証拠隠滅したに違いない。
事故か自殺扱いにでもしたのだろう…。
でも私は空ちゃんを責めない…多分私も同じ状況なら同じような事をするに違いないから。

154:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:10:12.41 a9m8wlMU
赤信号から青信号になるのを確認すると、再度車を発進させる。
それからは家までお互い無言を通した。

「兄ちゃ~ん、帰ったよー」
家に到着し、玄関で靴を脱ぎ捨てると、空ちゃんはお兄ちゃんの部屋へと一人走っていった。
帰った?残念ながら此処は私とお兄ちゃんの部屋。
他の誰のモノでも無い。
明日になったら実家に電話して迎えに来てもらおう…それで完全に終わり。
関係は完全に断ち切る。

「お兄ちゃんただいま。身体の具合はどう?」
部屋に入ると、ベッドに座るお兄ちゃんが視界に入ってきた。
いつも通りのお兄ちゃん…だけど、やっぱり表情は暗い。
私の声に痛々しく笑うと、空ちゃんの頭を撫でて私から目を反らした。
お兄ちゃんの心にできた傷は深い…その傷を癒せるのは私。
職場も家も全て変えて心機一転…今度は絶対にバレない遠い田舎にでも行こうかと思っている。
海外でもよかったのだけど、言葉の壁でお兄ちゃんのストレスがたまってしまうかもしれない…だから田舎で自営業をして二人で暮らして行く。
お兄ちゃんを傷つける者が居ない場所に行くのだ。

「お兄ちゃん、お風呂入らない?」

「いや…いいよ」

155:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:11:06.22 a9m8wlMU
「そう…それじゃ身体だけ拭こうか。タオル持ってくるからちょっとだけ待っててね」
消えそうな声を震わせるお兄ちゃんを置いて部屋から出ると、洗面所へと向かった。
零菜から引き離し家に帰ってきた時から、お兄ちゃんは私に対しても少しおかしい…。
やはり前に強引に身体の関係を迫ったから私も警戒されているのだろうか……だとしたら後悔の念が津波のように押し寄せてくる。
私はお兄ちゃんの妹……お兄ちゃんの妹……だけどお兄ちゃんの身体に所々刻まれた赤い痣…零菜のキスマークの痣を見る度に私の欲が首をもたげてくるのだ。
そして強い殺意に似た感情が自分を支配する。
何故零菜さんなのだろうか?私ならお兄ちゃんを傷つける事なく愛し合える自信があるのに…。
お兄ちゃんのすべてを自分の色に染めようとした零菜さんはお兄ちゃんを傷つけただけ……だけどお兄ちゃんと長い時間愛し合った。

「ッ……ぐッ!」
湯で濡れたタオルを握りしめ、力強く捻る。
これは間違いなく嫉妬…私は零菜さんに嫉妬している。
お兄ちゃんとキスをして…お兄ちゃんに舌を這わせて…お兄ちゃんと繋がったあの女が……羨ましかった。

「ふざけんな…死ね…死ね…死ね」

156:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:11:56.87 a9m8wlMU
私の殺意はやはり自分の手で零菜さんを殺さないと収まらないようだ…何とかして自分の手で零菜さんを殺して罪を空ちゃんに擦り付けられたらいいのだけど…。
それはまた、後で考えよう…まずはお兄ちゃんの傷を癒す事だけを考えないと…。


「由奈姉ちゃん、誰か来たよ?」
後ろから聞こえてくる声で我に帰る。
反射的に後ろを振り向くと、扉前に空ちゃんが立っていた。

ピンポーン―ピンポーン―

たしかに、玄関からインターホンの音が鳴り響いている。

「私はお兄ちゃんの身体拭くから、空ちゃん出てよ」

「えぇ…僕が拭くよ」

「早く行け!」
空ちゃんの頬を叩いてやろえと手を振り上げる。
振り上げる手を避けるように顔を引っ込めると、玄関へと走っていった。
それを見送った後、駆け足でお兄ちゃんの元へ向かった。

「お兄ちゃ~ん…」
扉から顔だけ突っ込み中を覗き込む。

「あれ…寝ちゃった?」
先ほどはベッドに座っていたのだが、ベッドに横たわり瞼を閉じてしまっている。
ベッドに近づきお兄ちゃんの顔を覗き込む。

「すぅ……すぅ…」
可愛らしい寝息を立てて眠っている。

「お兄ちゃんカワイイ…」

157:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:16:14.70 a9m8wlMU
お兄ちゃんの唇に人差し指を添えると、微かに感じる寝息が私の人差し指を熱くする。

「ねぇ、お兄ちゃん。私じゃダメなの?んっ…」
お兄ちゃんの唇に人差し指を添えると、微かに感じる寝息が私の人差し指を熱くする。

「お兄ちゃん…ねぇ、私じゃダメなの?零菜さんなんかよりもお兄ちゃを愛してるんだよ?んっ…」
お兄ちゃんの唇に人差し指を軽く押し込み、でこぼこした歯茎を人差し指でなぞる。
口から指を引き抜き、指を見つめる。
綺麗にお兄ちゃんの唾液で光っていた。

「はぁ、はぁ…あむっ」
その指を大切に自分の口に押し込む…。
自分の指をお兄ちゃんのペニスと想像して舌を這わせる…お兄ちゃんを起こさないよう音を立てずに…。

「は…ぁ…お兄ちゃっん゛ッッ」
一気に沸点が上がったように頭がカッと熱くなる。
自然と指は自分のズボンの中へと滑り込みパンツの中へと侵入していく。

「は、あッん…」
陰部に中指を押し込みお兄ちゃんの顔を見つめる。
お兄ちゃんにはもう変なことは絶対にできない…できないけど身体がお兄ちゃんを欲している。
数回中指を出し入れした後、引き抜く。
自分の愛液でベトベトになった指…それをお兄ちゃんの唇に薄く塗った。

158:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:16:41.76 a9m8wlMU
そして口の中へ恐る恐る押し込んだ。

「ねぇ…私のと零菜さんの…どっちが美味しい?ねぇ?私の方がいいでしょ?」
お兄ちゃん決して聞こえないように近くで囁く。
お兄ちゃんは私のモノ…お兄ちゃんは私のモノ…お兄ちゃんは絶対に誰にも渡さない…渡さない…渡さない…。
頭で何度も呟きお兄ちゃんの唇を指で“犯した”。




―ッ―ッ!

「……チッ!」
玄関から何やら騒いでる声が耳に入ってきた。
耳障りな音…何を騒いでいるのだろうか?
自分でもお兄ちゃんが起きるんじゃないかと思うほどの舌打ちをして立ち上がる。
扉を開けて玄関へと歩いていく…。
空ちゃんは一度本気で説教しないと気がすまなくなってきた。

「あんた何を一人で騒い………え?」

「あっ、由奈姉ちゃん!」
扉を開けて玄関前まで歩いてくると、まったく想像していなかった光景が視界に飛び込んできた。
玄関で空ちゃんと知らない中年が掴み合っているのだ。

「このっ、くそ野郎!」
空ちゃんが相手の腹部に何度も膝蹴りを入れる。
それでも相手は怯むことなく空ちゃんを離そうとしない。

「ぇ…なにこれ…ちょっとあんたら…」

159:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:17:09.28 a9m8wlMU
状況が飲み込めない私はその場に立ち止まり二人を眺めることしかできなかった。
真っ先に頭に浮かんだのは……あんた誰?
純粋にそう思った。
そして服装…郵便局の職員だろうか?

「コイツ郵便物があるって言うから開けたらッ、突然家の中に入ってきたんだ!」
突然中に入ってきた?何故?まったく状況を把握できない私を差し置いて二人は周りの物を壊しながら激しく掴み合っている。

「このガキッどけ!」

「痛ッ!」
空ちゃんを軽々と振り回し壁へと叩きつけると、今度は私に目を向けてきた。
―この時、初めて身の危険を感じて近くにあった花瓶を掴んだ。

「な、何よあんた?人の家に勝手に入ってきて」
見たことない人間が自宅に居る…言い知れぬ恐怖に足を震わせながらも花瓶を両手で掴んで男と対峙する。
これで頭を殴れば間違いなくただ事ではすまないだろう…だけど自分の身を守る為だ。

ゆっくりと此方へ歩み寄ってくる…。

「このっ!死ね!」
立ち上がった空ちゃんが男の背中めがけて飛び蹴りを入れる。
よろめき後ろを振り向いた瞬間、後ろから花瓶を頭に叩きつけてやった。
ガシャンッと激しい音と共に壁に血が飛び散る。

160:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:17:32.43 a9m8wlMU
「ッ!」

「なっ!?あぐ!!!」
血だらけの顔を気にする素振りすら見せず、男は再度振り返り私の頬を強く殴った。
壁に頭を叩きつけ、そのまま地面に倒れ込む…。
視界がぐらぐらと揺れ、立ち上がれない。多分、脳震盪を起こしたのだろう。
早く立ち上がらないと何をされるか分からない…。
ガクガク震える足を何とか動かすが、まったく言うことを聞いてくれない。

「……」

「ぅッ…つ…?」
私を殴った後、突然男は周りをキョロキョロと見渡しだした。
まるで私達が見えないように、何かを探している。

「由奈姉ちゃんッ…」
空ちゃんが台所を指差して何らかのジェスチャーをして見せた。
多分台所から何かを持ってくると言っているのだろう。
一度うなずくと、再度立ち上がる為に足に力を入れる。

「ふっ…うぅ…」
何とか立ち上がり、再度男と対峙する。

「どけッ!」

「きゃっ!」
今度は突き飛ばされて、地面に転ばされる。
ダメだ…まったく足に力が入らない。
下から男を睨み付け、次の攻撃に備えた。

「……あそこか…」
そう呟くと、私に目もくれずに私の横を通りすぎて行った。
その行動に私の精神は酷く揺らされた。

161:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:17:55.76 a9m8wlMU
奥の部屋にはお兄ちゃんが一人寝ているのだ。

「ちょっと待ちなさいよ!!!あんた何が目的よ!」
足を引きずり男を追うが、男は私の声が聞こえないようにスタスタ歩いていった。
「空ちゃん!はっ、早く戻ってきて!早くッ!」
男がお兄ちゃんが居る部屋の扉に指を掛けて扉を開ける。
何とか立ち上がり、空ちゃんを大声で呼んだ。
今の私では何もできない…お兄ちゃんを守らなきゃいけないのに!

「ゆ、由奈姉ちゃん、持ってきてよ!」
リビングから飛び出してきた空ちゃんの両手には包丁が二つ握られていた。
それを一つもらい、お兄ちゃんの部屋へと覚束無い足取りで歩いていく。

「このっ!このっ!ダメだ!中から鍵けてる!」
空ちゃんがガチャガチャと取っ手を回して強引に開けようとする…が鍵が掛けられておりビクともしない。

「お兄ちゃん!?逃げてお兄ちゃん!!!」
私も叫びながら何度も扉を叩いた。
叩く手から血がでようとも壊す勢いで叩いた。


―ぎッああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!

「お兄ちゃん!?お兄ちゃん!!!」
聞いたこともないようなお兄ちゃんの叫び声に、私の胸は張り裂けそうなほど悲鳴をあげていた。

162:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:18:21.19 a9m8wlMU
部屋の中から聞こえるお兄ちゃんの叫び声に二人で顔を見合わせる。

「開けろッ!おまえ兄ちゃんに何かしたら殺すからな!!!」
取っ手がちぎれるんじゃないかと思うほど空ちゃんが引っ張る。
ネジが緩んできてはいるが、開く気配を見せない。

「このっ、くっ、、ッ!?空ちゃん離れなさい!」
突然鍵穴からガチャガチャッと音がしたと思うと、先ほどの男が扉を開けて廊下に飛び出してきた。

「う…(何この臭い!?)」
扉を開けて真っ先に感じたのは、焼ける匂いと薬品の匂いが混じって異臭。
顔をしかめて部屋の中へと飛び込む。

「うあああああああああああああ!!!」

「お兄ちゃん!何をされたの、お兄ちゃん!?」
顔を押さえながらベッドの上で苦しそうにうずくまるお兄ちゃん。
お兄ちゃんを抱き抱えて問いかけるが、お兄ちゃんは悲鳴をあげるだけで会話にならなかった。

「兄ちゃん!だ、大丈夫か!?」

「あの男は!?」

「逃げていったよ。背中を何回か刺したけど普通に走って逃げた。それより兄ちゃんは!?」

163:狂もうと ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:18:52.61 a9m8wlMU
血のついは包丁を両手で握りしめ、男が戻って来ないように扉の外を見張っている。
あの男、何が目的か分からない…けど言動や行動を見る限り、初めからお兄ちゃんを狙っていたように感じた。
だけど、今はそんな事どうでもいい。
早くお兄ちゃんを病院に連れていかないと―。

164: ◆ou.3Y1vhqc
11/12/04 20:20:17.25 a9m8wlMU
ありがとうございました、投下終了です。
年内に終わらせようと思ったけどちょっと難しいかもしれません…。

165:名無しさん@ピンキー
11/12/04 20:50:19.81 rlUM/YBE
>>164
GJです!
遂に由奈と空ちゃんの一騎打ちに突入するのか…と思ったら急展開
零菜も一応生きてるみたいだしまだまだ先が読めないわ

166:名無しさん@ピンキー
11/12/04 21:14:01.09 nPFoeQ/Z
>>164
GJ!!!
とりあえず零菜が生きてるようでホッとしました。
そしてまさかの急展開にwktkが止まらないですw
次回も楽しみにお待ちしてます!

167:名無しさん@ピンキー
11/12/04 22:12:09.64 NFo1dlPA
GJ!!
零菜生きてて良かった。
そしてお兄ちゃんフルボッコになっとる

いったいどうなってしまうんあ

168:名無しさん@ピンキー
11/12/05 00:41:21.74 k/YJjhuP
GJ!!

この中年って零奈に袖にされたアイツだよなw逆恨みっていうかそんな感じのアレかw

169:名無しさん@ピンキー
11/12/05 03:20:57.92 RroGca/m
黒い百合まだぁ?

170:名無しさん@ピンキー
11/12/05 03:28:32.14 YVOesZlm
まだだよ

171:名無しさん@ピンキー
11/12/05 17:47:30.40 5EExDS7b
GJ!
零菜なんとか生きてるようで良かった。
しかし今度は勇哉が心配になってきたな•••
この文章から察するにあの液体はもしや硫酸かなんかか?

172:名無しさん@ピンキー
11/12/05 18:14:00.11 wEBaUN1H
勇哉の顔が化物みたいになっても由奈はお兄ちゃんを変わらず愛してくれるよね

173:名無しさん@ピンキー
11/12/05 19:56:00.33 hz0QxwdP
これは零菜の差し金かな?
自分も傷を負ったのと同じく兄も傷物にして、周りから遠ざけるという
とにかくGJ、続き期待してます

174:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:15:36.95 OUwc3Fu/
お前らすげぇ作者潰しにかかるよな

175:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:17:14.72 Y/S2zhKI
これも風mi(ryz...

176:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:18:13.87 N5aXDiTh
風見死ねや自演やめろやカス

177:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:21:47.94 OUwc3Fu/
>>175-176
いや、お前の自演も凄いけどなw

178:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:28:00.66 wEBaUN1H
>>175-177
これも風見の自演か

179:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:35:33.29 IJGeKQI1
おなかすいた(´・ω・`)

180:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:41:17.75 OUwc3Fu/
>>179
姉にホットケーキ作ってもらえ。
妹じゃダメだからな?姉に作ってもらうんだ

181:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:43:32.20 bCeMxnxV
>>179-180
風見自演乙

182:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:41:26.88 O4sBAZTW
はがないの小鳩がキモウトだったら…



オラわくわくが止まらね!

183:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:42:44.47 wEBaUN1H
キモ・・・

184:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:44:50.84 IJGeKQI1
壁|・ω・) ソー…

壁|・ω・)ノシ チャオ!!

壁|ミ ピャッ

185:名無しさん@ピンキー
11/12/05 22:20:49.98 Y/S2zhKI
壁 |☆~(ゝ。∂)風ちゃんで~す

186:名無しさん@ピンキー
11/12/05 22:21:55.28 wEBaUN1H
壁│☆(ゝω・)vキャピ

187:名無しさん@ピンキー
11/12/06 00:08:00.17 5sfx8O4I
>>182
小鳩と聞いて「俺つば」の方の小鳩を連想してしまった
多重人格の兄に対して健気に接する妹がいい

ただこういう多重人格と妹や姉の愛を結び付ける作品を書くのは
かなり技術が必要だわな

188:名無しさん@ピンキー
11/12/06 00:10:26.35 vjSNnGJ8
>>187
まぁ、ちょっと特殊な感じって気がするね


189:名無しさん@ピンキー
11/12/06 00:29:10.70 i7AG0IX5
wikiいろいろ見てるんだけど
妹姉ががっつり襲ってくるんだけど絶対間違い犯さない兄貴とかの作品ない?


190:名無しさん@ピンキー
11/12/06 01:35:25.54 0J9Qdk5m
弟におしっこかけてマーキングする雌犬キモ姉

191:名無しさん@ピンキー
11/12/06 03:11:28.87 wbjSwTlm
>>189
いってる意味が分かりづらいけど、転生恋生の弟は途中まで姉の誘惑にも下半身が反応してない

192:風見 ◇uXa/.w6006
11/12/06 03:19:06.06 uAkqiKjI
俺って天才!!投下するぜ!!

四年前・・・俺は家にいた。その時のノマルは異常なんてなかった・・・。何であんな感じになったんだ?
 いや・・・うっすら思い出した!ノマルがおかしくなった日、俺はとある人に会ったんだ!

 中学校に通う途中、その人は俺の前を歩いていた。
 ・・・妙に筋肉質だな・・・。その人は後ろの俺に気づくと、道を譲ってくれた。

 何だ、優しい人じゃないか。筋肉質な人は悪いなんて考えはやめようかな。
 そして俺はその人の前を通った。すると・・・。



「道を譲ると思っていたのか!?」



 グサッ!



 空が真っ赤に染まった。あぁ、左目を切られたのか?顔が真っ赤になっているのが見ないでもわかる。あぁ・・・俺、どうなるのかな・・・?



「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
 手術室に行くまでの道で、ノマルの声が聞こえた。あぁそうか・・・。愛する兄を傷つけられたこの瞬間にノマルはおかしくなったんだ・・・。くそ・・・。俺は妹を・・・。





「という夢を見ていたんだよ!」
 誰もいない部屋で俺は一人、PCに自作物語を書いていた。
 友達なんかいない。たった一人の妹は俺の顔に包丁で傷をつけ去っていった。
 理由は簡単、俺がいたら俺の幼馴染みであるシドウと一緒になれない。
 だから妹は部屋のドアを接着剤で固定して、足を砕き、顔を切り裂いて、家を出ていった。

 そんな俺の過去を面白おかしく書いてみたが、単なる自己満足で終わってしまった。

 やれやれ、そろそろ寝ようかな・・・。

 書き込みボタンを押して、俺は眠りについた。贅肉が邪魔で眠りにくいな・・・。



 夢を見た。荒野に一人立っていた俺は空を見た。
 見えるのは光の球体みたいな物。それはゆっくりと俺に近づいてきた。
 光に包まれる瞬間、声が聞こえた。

「俺は悪魔だ。」

\デデーン/

193:名無しさん@ピンキー
11/12/06 03:37:50.68 zmMdsHjs

192 風見 ◇uXa/.w6006 2011/12/06(火) 03:19:06.06 ID:uAkqiKjI
俺って天才!!投下するぜ!!

四年前・・・俺は家にいた。その時のノマルは異常なんてなかった・・・。何であんな感じになったんだ?
 いや・・・うっすら思い出した!ノマルがおかしくなった日、俺はとある人に会ったんだ!

 中学校に通う途中、その人は俺の前を歩いていた。
 ・・・妙に筋肉質だな・・・。その人は後ろの俺に気づくと、道を譲ってくれた。

 何だ、優しい人じゃないか。筋肉質な人は悪いなんて考えはやめようかな。
 そして俺はその人の前を通った。すると・・・。



「道を譲ると思っていたのか!?」



 グサッ!



 空が真っ赤に染まった。あぁ、左目を切られたのか?顔が真っ赤になっているのが見ないでもわかる。あぁ・・・俺、どうなるのかな・・・?



「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
 手術室に行くまでの道で、ノマルの声が聞こえた。あぁそうか・・・。愛する兄を傷つけられたこの瞬間にノマルはおかしくなったんだ・・・。くそ・・・。俺は妹を・・・。





「という夢を見ていたんだよ!」
 誰もいない部屋で俺は一人、PCに自作物語を書いていた。
 友達なんかいない。たった一人の妹は俺の顔に包丁で傷をつけ去っていった。
 理由は簡単、俺がいたら俺の幼馴染みであるシドウと一緒になれない。
 だから妹は部屋のドアを接着剤で固定して、足を砕き、顔を切り裂いて、家を出ていった。

 そんな俺の過去を面白おかしく書いてみたが、単なる自己満足で終わってしまった。

 やれやれ、そろそろ寝ようかな・・・。

 書き込みボタンを押して、俺は眠りについた。贅肉が邪魔で眠りにくいな・・・。



 夢を見た。荒野に一人立っていた俺は空を見た。
 見えるのは光の球体みたいな物。それはゆっくりと俺に近づいてきた。
 光に包まれる瞬間、声が聞こえた。

「俺は悪魔だ。」

\デデーン/

194:名無しさん@ピンキー
11/12/06 05:22:55.16 puf8YpX9
はーい、スルースルー

195:名無しさん@ピンキー
11/12/06 07:48:07.94 ZnpqSlya
朝から弟相手に顔面騎乗する姉がほしい

196:名無しさん@ピンキー
11/12/06 07:49:46.49 FPseOlri


197:名無しさん@ピンキー
11/12/06 08:32:58.97 v9tMIho3
投下します


198:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:35:10.97 v9tMIho3

ぞろり―。
 冷たい掌に尻を撫でさすられた瞬間、眠っていた彼の意識の一部が覚醒を果たした。

(お濃か)
 そう思い、振り向くと、案の定そこにいるのは彼の妻。
 しかし、これは珍しい事と言わねばならない。
 つい半年ほど前に祝言を挙げたばかりの彼の妻は、いまだ少女と呼ぶべきほどに幼く、とてもではないが彼との営みで自ら愛撫を行うような積極性は無い。
(いや……そうだったかな?)
 どうも頭がハッキリしない。
 彼は、中途半端にぼやける記憶をたどる。
 確かに彼女は新婚当初こそ、閨(ねや)の片隅で震えて夫の仕様を待っているような従順な娘であったが、それから半年が経ち、彼との交合に身も心も慣れてくるに従い、互いに楽しみながら快感を与え合うような仲になっていた気もする。
 そう思い当たった瞬間、にわかに彼女からの愛撫が激しさを増した。
 その手さばきに、まるで男性的な荒々しさが加わったのだ。

(ああ……そうか、そういうことか)
 彼はうなずいた。
―これは夢だ。
 その理解に到達するや否や、天地晦冥の闇の中で妻だと認識していた女が、筋骨たくましい若衆に突如姿を変えたのだ。
(犬千代……?)
 確かに、そこには彼の寵童の一人である前田犬千代がいた。
 彼とて時代の子である。乱世のたしなみとして衆道を楽しむ趣味は当然あった。
 犬千代は、いつものように激しい責めを彼の菊座に施し、さらに同時に彼の性感帯の一つでもある耳朶に甘嚙みを加えてくる。
 そのねちっこい攻撃に、思わず彼は声を漏らすが、おのれの菊門に硬いものが侵入してくるという、彼にとってはある意味馴染みの快感を知覚しながらも―しかしながら、彼の五感は違和感を覚えていた。
 
(これは……女か?)
 後門への挿入感がある以上、この相手が男性であることは間違いない。
 だが、それでもこの指使い、舌使い、皮膚感覚、何より彼の鼻腔に直撃する花の香りのごとき体臭が、この人物が女性であると彼の意識に訴えているのだ。
(誰だ?)
 思い当たる女はいくらでもいる―とは言えない。
 むろん妻以外にも側女はいるし、他にも、たわむれに手をつけた女もいくらでもいる。
 だが、今夜の彼は独り寝だった。彼が夜伽(よとぎ)を申し付けたならともかく、自ら彼の寝室に忍んで来るような女など、やはり妻以外にいない。
 含羞の微笑を見せながら、まるで赤子のように彼の股間に吸い付いてくるような、無邪気さと淫靡さを併せ持った少女―。
(そうだ、それが俺の妻のお濃だったはずだ)
 そう思い出した瞬間、彼の菊門奥深くに侵入していた硬いものが、彼の弱点である“その一点”を突く。

「~~~~~っっっ!!!」

 その“弱点”を突かれると同時に肉棒を激しくしごかれ、たまらず頂点に達した彼は、魚のように痙攣しながら精を吐き続け、そのまま意識を失った……。



199:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:36:21.99 v9tMIho3
///////////////

 織田三郎―後の正一位右大臣・織田信長―は困惑していた。

 朝、目を覚ました瞬間、いつものように布団を蹴り上げて身を起こそうとしなかったのは、昨日の夜の淫夢を思い出し、さらに下帯の中におのれが夢精している事実に気付いたから―というだけではない。
 その時、彼は自らの体にまとわり付く他人の手足の存在に初めて気がついたのだ。
 おそらく……いや、間違いなくこの者こそが、淫夢の直接原因であろう。

―誰ぞ。
 とは問わない。問うまでもない。
 まるで赤子のように彼の背にしがみつくその者が、
「あにうえさま……」
 と寝言を言うのが聞こえたからだ。
「市……もうここにはくるなと申しつけたではないか……」
 うんざりしたように呟くが、もちろん気持ち良さげに眠っている彼女に聞こえるはずもない。


 彼女は三郎の妹であって、もちろん妻でもなければ退屈しのぎに体を重ねてよいような側女どもとは違う。
 世間的には「尾張のうつけ」「織田のたわけ殿」などと呼ばれ、数々の非常識な言動で守役の平手政秀や実母の土田御前などを常に悩ませているような彼であったが、それでも妹と夜をともに過ごそうなどと思うほどに非常識ではない。
 ましてやこの妹は、父が側室に生ませた妾腹ではなく、彼と両親を同じくする正真正銘の「実妹」なのだ。さすがの三郎といえども、そんな彼女に性的関心を催すはずもなかった。
 しかし、ならば彼女が妹でなければ手を出していたかと問われれば、さすがの三郎も口を噤まざるを得ない。


 なぜなら、彼女―お市の美しさは完璧であったからだ。


 元来、少年の実家―古渡織田家は美男美女で知られた家系であり、父の弾正忠や弟の勘十郎も世間的には十分美男で通る容貌の所有者であったし、この三郎とて目鼻立ちだけを見れば、絵草子に登場する平家の公達もかくやといわんばかりの美形ではあった。
 だが、こと美貌という点では、この市に勝る者は一門一族には誰もいない。
 三郎の妻も、美濃随一の美人という触れ込みを持って嫁いできたのだが―そして実際、お濃は水もしたたるがごとき美少女には違いなかったが―それでもこの妹に比べれば、いささか見劣りすると断言せざるを得ない。

 三郎は当年とって十六歳。現代の満年齢に換算すれば十四歳の少年でしかない。
 ならばこそ当然のように、十代の少年相応の汲めども尽きぬ情欲が彼にはある。妻以外にも気に入った者がいれば、男女の区別無く平然と一夜の相手を命じるし、それを疑問には思わない。この時代のこの国には同性愛を禁忌とする価値観など存在しないからだ。
 だから、もしもこの妹が、彼に何のゆかりもない娘であったなら、むしろ三郎は進んで彼女に手を付けていたかもしれなかった。
 だが、今はそんな想像をめぐらすことに何も意味もない。
 それでも彼女が三郎の妹である現実は変えようも無いものだったからだ。



200:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:38:32.98 v9tMIho3
 
(やれやれ……)
 心中に呟きながら、自らの裸身に絡みつく妹の手足を外し、寝間着越しに背中に押し付けられた薄い乳房から身を離して、立ち上がる。
 妻でなかったのは意外であったが、それでも夢見心地に菊座や男根に愛撫を受けたような感覚は、確かにまだ彼の記憶に残っている。だが―それでも、その触肉の名残は錯覚であったと判断せざるを得ない。
 さもなければ、天女のようなあどけない寝顔を晒すこの妹が、お濃や犬千代を思い出させるほどに濃厚な愛撫を睡眠中の兄に施した、ということになるからだ。
(そんな馬鹿なことがあってたまるか)
 さすがの三郎といえどもそう思う。
 兄に肉欲を抱く妹など、いかに戦国乱世といえど聞いたこともないからだ。
 すると、ようやく目を覚ましたのか、少女の細い声が聞こえた。

「あにうえさま……おはようございます……」

 まだ完全に意識が覚醒していないのか、のろのろと身を起こしながら市は焦点の合わない瞳を三郎に向けていたが、その瞬間、彼女は頬を赤らめ、うつむきながら口を開く。
「も、申し訳ございません兄上……」
「い、いや、こっちこそ、済まぬ」
 三郎も反射的に妹に背を向ける。
 彼女が、起き抜けにいきり立った三郎の股間を目撃したのは間違いない。そして、普段ならばむしろ勝ち誇るように余人に勃起を見せ付けるような三郎も、彼らしくない羞恥に身を包みながら、うつむかずにはいられない。
 しかし、それも無理はないだろう。
 頬を朱に染めながら、それでも上目遣いにこちらを見つめる市は、まさにこの世ならざる美しさに輝いていたからだ。


/////////////////

「入りますよ殿」
 と言いながら、少女は返事を待つことも無く、からりとふすまを開けて彼の居室に入る。
 そこでは、三郎が朝餉の膳を食べながらも、書見台の本をめくっていた。
(あらあら、相変わらず無作法な)
 そう思いながらも、少女は口元に浮かぶ笑みを抑え切れない。
 勿論それは嘲笑ではない。
 たとえ世間的にはどれほど無礼・無作法に見えようが、彼の行動には、つねに彼なりに追求された美意識や合理性が含まれていることを少女は理解しているからだ。
 たとえばこの場合は、口では食を摂りながら、同じ時間内に読書という頭脳労働をすることで、二つの行為を別々に行う場合にかかる時間を節約しているつもりなのだろう。

 また、それは食膳の品ひとつとっても変わらない。 
 彼の食膳に並ぶ煮物や煮魚は、色が変わるほどに味噌や醤油で煮込まれており、素材の味を可能な限り殺さず活かす京料理を上品とするならば、まさに悪趣味と呼ぶほどに濃厚な味付けのものばかりである。 
 少なくとも朝っぱらからこんなものを喜んで食べる人間は、彼の家族にはまずいないはずだが、彼は違う。おかずの味が濃ければそれだけめしが進む。結果、少ない副食物で満腹になり、その分の食材を節約できるというのが三郎の理屈なのだ。
 もっとも、当時の上流階級が好む京料理の馬鹿馬鹿しいまでの薄味にどうしても馴染めぬ三郎―信長が、この種の味付けに、おのれの嗜好と相容れぬ世俗の象徴として憎しみさえ抱くようになるのは、また後代の話であるが。
 しかし、好物のはずの煮魚をおかずに丼めしを口にかきこみながらも、少年の顔は冴えない。それは珍しい眺めであったと言わねばならないだろう。


201:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:40:30.12 v9tMIho3

「あらあら、今朝の殿は何やら御不興のようですこと」

 そう言いながら彼女は、ころころと玉を転がすような笑顔を見せる。
 三郎の気性の激しさを知る家臣や侍女たちならば、こんな揶揄するような口を彼に利くことはまず在り得ないが、それでも少女は口元に浮かべる笑みを消そうともしないし、そして彼も、そんな彼女を咎めもしない。
 なぜなら、この少女こそが―彼の妻たる女であったからだ。


「お濃か、早いな」
「おはようございます殿。しかし、相変わらず帰蝶(きちょう)とは呼んで下さらないのですね」
「美濃の女ならばこそ、お濃と呼ぶ―当たり前のことであろうが。そんなことより犬千代たちはもう揃っておるか?」
「はい。前田様、池田様たちがいつものところで、すでにお待ちでございます」
「待たせておけ」
「また朝から水練でございますか?」
「水練などというものではない。ただの水遊びじゃ」
「そろそろ風も冷たい季節でございましょうに」
「体が冷えれば相撲でもして暖を取るまでじゃ」
「あらあら、まったく殿方のお遊びというのは乱暴ですこと」

 そう含み笑いをしながら彼女―帰蝶―いや、濃姫はぺたりと三郎の隣に腰を下ろす。
 夫と呼ぶにはあまりにも腕白丸出しの子供っぽい三郎であったが、それでも少女にとっては愛しい伴侶であることには間違いない。
 いや、むしろ「美濃の蝮」とよばれた梟雄を父に持つ彼女としては、この少年は、いかにも小賢しげな利発さが顔に出すぎた彼の弟の勘十郎などより、よほど好感の持てる存在であった。
 が―その清々しいまでに直情的な腕白坊やが、今朝に限っては屈託ありげな顔を隠さない。

「で、どうなされたのです殿、朝から何か御不快なことがあったのですか?」
 そう訊かれて、三郎はじろりと濃姫を見る。
「そんなに俺は険しい面をしておるか」
「はい。まるで素足で油虫でも踏みつけたかのような」
 そう言って彼女は微笑み、三郎もようやく苦笑いを浮かべた。
 

「市が、また俺の寝床に潜り込んで来た」


 あらあらまあまあ、と濃姫は口元を押さえて目を瞬かせた。
 むろん彼女は、絶世の美少女たるその義妹を知っている。
 しかしそれでも、彼女が常に浮かべている柔和な微笑が消えることは無い。なぜなら妹が兄の布団に潜り込んだというだけの話ならば、それはむしろ兄妹の微笑ましい仲を示す罪なき逸話のはずだからだ。
 だが、三郎は瞳にはふたたび沈鬱な光が宿る。

「あやつが俺の臥所に忍んで来たのは、これが三度目じゃが、どうもその度に奇妙なことが起こってのう」
「奇妙?」
「うむ。おかしな夢を見る」
「夢、ですか?」
「うむ、夢じゃ」


202:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:42:21.63 v9tMIho3

 そう言いながらも三郎は照れたようなしかめっ面のまま、その夢については説明しようとしない。
 まあ、さすがに彼といえど、他人に背中から犯される夢を見たなどと言えるものではないのだろうが、それでも濃姫は聡明である。彼が敢えて口にせぬという事実と、その含羞の表情から、その夢とやらのおおよその内容が想像できてしまった。
(なるほど、つまりそういう夢だということですのね……)
 濃姫の微笑が苦笑に変わる。
 この、人並みはずれて気位の高い少年をからかうのも楽しいが、それでも限度というものがある。これ以上、彼から言葉を引き出そうとするのは無粋というものであろう。
 
「夢を見るというだけならば別に問題は無いように思えますが……でもまあ、それが殿の御心のうちを悩ませるというのならば、わたくしから市姫様に、もう殿の寝所には勝手に行かぬように申し聞かせておきましょう―それで宜しゅうございますか?」

「うむ、助かる」
 三郎は素直にうなずくと、そのまま味噌汁を飲み干し、箸を置いた。

 
///////////////

 お市は窓の外に熱っぽい視線を向けている。
 といっても、眼下に広がる那古野の城下に彼女が見るべきものなど何も無い。
 彼女の視界の焦点は、下帯一丁になって川べりで戯れる数人の少年たち―その中の、ただ一人のみに向けられていた。

 そこにいたのは彼女の兄―織田三郎。

 彼はこの家にとっては三男坊であるにせよ、正室の子―つまり嫡出であるために、父の正式な後継者であると認められていた。だが、その母や弟、さらに家臣たちから兄がどのような眼で見られているのか、お市は十分に理解している。
 だが、そんなことは少女にとってはまったく関係の無いことだった。
 そういうこととは全く別次元のところで、彼女は兄を愛していたからだ。
 この感情がいつ以来のものなのか、実はお市自身にも分からない。
 分からない、というよりも思い出せない、と言った方が正確であるかも知れない。
 それほどまでに以前―おそらくは物心ついた当時から、彼女は兄に惹きつけられていたのだろう。

 何故、もしくはいつから、などという己の慕情の起源をたどる事など彼女にとってはどうでもいい。
 むしろ考えるべきは、あの兄に、いかにして自分の恋を受け入れさせるかという事であろう。この妹の思考法は、三郎に似て、あくまで前向きかつ具体的だった。
 むろん兄と妹が契りを交わすなど、いくら乱世といえどもあってはならない醜聞だ。普通に考えれば、三郎がお市の想いを受け入れるなど在り得る話ではない。
 だが、その点では彼女はむしろ楽観的だった。非常識という点では、およそ彼女の知る限り兄の三郎以上の存在はいない。ならば、たとえ世間一般でいかに禁忌を謳われようとも、一度欲しいと思ったものに手を伸ばすことを躊躇するような兄ではないはずだ。
 つまりそれは、女の魅力を磨いてさえおけば、兄はいつの日か必ずや自分に手を出すであろうという事を意味している。お市は自分の外見が世間的にどれほどの価値を持っているか、ちゃんと認識していたからだ。

 そういう意味では、お市もまた、三郎と同じく常識を逸脱した少女であったかも知れない。
 いまだ彼女は十二歳。満年齢に換算すれば僅か十歳の少女に過ぎない。
 だが、彼女の胸のうちに宿る恋の炎は、単なる耳年増の一言で済ませられる程に矮小ではなかった。


203:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:45:08.52 v9tMIho3

 お市は妾腹の子ではない。三郎と同じく、父の正室たる土田御前の娘である。妾腹の子ならば、家臣の誰かに降嫁することもあろうが、嫡出ならばそうはいかない。
 近攻遠交の鉄則に従い、他家との同盟のために、いずれ遠からず自分が嫁に出され、そこで恋しい兄とは似ても似つかぬ馬の骨に抱かれて子を生まねばならない運命についても、彼女は充分に理解していた。
 つまり、自分に時間が無いということをだ。
(まあ、それでもまだ数年くらいは猶予があるでしょうけど……)
 そう思いながら、お市の視線には徐々に険しいものが含まれてゆく。
 それはつまり、その数年の間に結果を出さねばならないということだからだ。

 兄と通じ、兄の子を宿し、兄の子を生む。
 いわば俗に言うところの「傷物」になってしまえば、たとえ父といえどもそう簡単にお市を嫁には出せなくなるだろう。
 何よりその時点ですでに兄の愛情を獲得してしまっていたなら、お市がこの家を去らねばならなくなる確率は、さらに低下するはずだ。なにしろ兄はいずれ、父・弾正忠信秀に代わってこの織田家を継ぐべき人間だからだ。

 だからこそ彼女は行動に出たのだ。
 睡眠中の兄に性的な刺激を与え、その快楽を無意識下に刷り込むという行動に。
 すでに昨日の夜で、彼女の「夜這い」は三度目になるが、兄の肉体がお市の与えた愛撫に快感を覚えていることは、彼の反応を見れば分かるし、その快感を、起床時に見るお市に結び付けているのも分かる。
 初体験どころか初潮すらも未だ迎えていないお市ではあるが、世評でいうところの「肉悦」なるものがどういうものであるかは、侍女や家臣たちに聞いて、彼女はすでに充分すぎる知識を入手している。
「そういう夢」を見た翌朝に、おのれの布団に共に朝を迎えた女がいれば、たとえその女を抱いていなくとも―むしろ抱いていなければこそ―意識するようになるのは自明の理である。
 そういう結論を、すでにしてお市は得ているのだ。

 兄が余人に伽を命じず、一人で眠る夜というのは、実はさほど珍しくは無い。
 夜明けから日暮れまで、お付の少年たちを引き連れて、真っ黒になるまで駆け回り、遊びつくす三郎は、食事と入浴が済めば泥のように熟睡してしまうことはよくあることなのだ。
 ならばこそ機会はこれからもいくらでもある。あるはずだった。
 しかし……。

 お市の奥歯がぎしりと音を立てる。

 兄の寝込みを襲ったのは、これで三度目だったが、それでも彼の態度が変わることはなかった。
 三郎は、あくまでお市を妹として遇し、それ以外の視線などちらりとも寄越さなかったのだ。
 なるほど、確かに今朝は珍しく頬を染め、視線をそらす兄というものを見た。だがそれは、あくまで兄妹のスキンシップの範疇を出るものではない。
 むしろ兄の性格を考えれば、その行動はお市が望むものとは正反対のものだと言うべきかも知れない。あの兄は、おのれが情欲を感じた女には、逆に喜んで勃起した男根を見せ付けるであろうし、その女の肌を見て目を逸らしたりなどするはずがないからだ。


204:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:48:12.03 v9tMIho3

(どこかで間違えちゃったかなぁ……)
 そう思いながら、。お市はちらりと視線を下にやる。
 彼女の袂(たもと)が窓から入る風になぶられ、ゆっくりと揺れている。
 そこには昨夜、兄の尻を貫いた木彫りの張型が入っているのだ。
 勿論それは、男にしか為し得ない「挿入」という快感を発生させることで、兄の記憶を混乱させる―などという下らない目的のためではない。
 兄の菊座は、陰茎と並ぶ彼の最大の性感帯であると聞いていた以上、お市からすれば、たとえ僅かであっても、兄により多くのエクスタシーを与えるために、その箇所を責めるのは当然の行為だったからだ。

 だが、それと同時に、ある懸念がちらりと彼女の頭をよぎる。
(もしも兄上の本当の意趣が、女ではなく男なのだとしたら)
 その想像は彼女の背筋を寒くするが……すぐさま否定し、苦笑する。
 衆道の習慣は一般に広く認められたものではあり、兄もその例に漏れず夜伽童を愛でる趣味を持っているが、それでも兄がこれまで手を付けた女の数や、何よりあの濃姫の様子を見れば、兄が女より男が好きだなどという想像は、まず成立しないことは分かる。
(やっぱり、あの蝮の娘が嫁に来てからよね……おかしくなったのは)
 が、そう思うとともに口元の苦笑は消え、お市の眉間に深い縦皺が走った。
 幸せそうに三郎に寄り添う、その女の顔が頭に浮かんだから―というだけではなく、背後の足音とともに、その女独特の花のような体臭がお市の鼻に届いたからだ。


「あらあら、こんなところにいらっしゃったのですか市姫様」


 振り向くと、案の定そこには例の女―嫂(あによめ)がいた。
 あるかなしかの微笑をつねに口元に浮かべ、見る者の心をホッとさせるような雰囲気を持つ女性―とはいっても、年齢的には兄と一つしか変わらぬ少女に過ぎないのだが、彼女はお市と違い、すでにして成熟した人妻の空気を発散している。
 すでにお市は先程までの怒りを完全に表情から消し去っており、いつものように、にっこりと太陽のような笑顔を向けると、ぺこりと頭を下げた。

「おはようございます帰蝶様―あ、濃姫様とお呼びした方が宜しいですか?」
「駄目です。義姉(あね)上もしくは帰蝶とお呼びなさい」
「はい、義姉上様」
「よろしい。これからは気をつけるのですよ?」

 そう言って二人はくすくすと笑い合う。
 無論お市は、その心中までは笑っていない。この女が自分を「お濃」と呼ばせるのは、あくまでも三郎だけなのだ。あたかもその「特別な名」を呼んでいいのは夫一人のみの権利であると言わんばかりに。
 もっともそれは、見知らぬ他国に嫁いできたからには、せめて夫以外の者たちからは親より与えられた名で呼んで欲しいというだけの話かも知れないが、それでもお市の目には、彼ら夫婦がそういう仇名をダシに、いちゃついている様にしか見えない。

 この時代の、この階級の婚姻というものは後世の恋愛結婚とは違って、家門同士の外交手段の一環である。
 当然ながらその夫婦生活も、当人同士の愛情の果ての行為などではなく、次代を担う男児の出産という、半ば義務的な目的のものであるはずなのだが―にもかかわらず彼ら二人はよほど馬が合ったのか、傍目にも微笑ましくなるほどに仲のよい夫婦であった。


 そしてお市は、その事実が何よりも我慢できない。



205:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:50:26.40 v9tMIho3

 兄はお市に優しかった。
 世間のあらゆる慣習・道徳・価値観を鼻で笑い、あくまで自己流の信条を押し通そうとする兄は、それゆえに周囲の者を怯えさせるほどに峻烈な気性の所有者であった。その「威」があればこそ、彼は廃嫡を免れていたと言えるほどに。
 が、そんな兄がたった一人、親しみと優しさを見せる存在は、このお市だけであったはずなのだ―少なくとも、隣国から濃姫が嫁いでくるまでは。
 あの優しかった兄が、その濃姫との祝言以来、ほとんどお市と遊んでくれなくなってしまった。
 それだけではない。それまでお市が独占していたはずの兄の笑顔や優しさを、濃姫は当然のように享受しているのだ。それまでお市だけのものだったはずの、誰も知らない兄の一面を、この女が奪ってしまったのだ。

 許せなかった。
 耐えがたかった。
 認めたくなかった。
 
 そしてまた、その許しがたき女が自分に向けて口を開く。
「ねえ市姫様、やっぱり独り寝は寂しいですか?」
「え?」
「あなたが兄上様をどれだけお慕いしているかはわかりますけど、わたくしもたまにはあなたと一緒に夜語りなどして楽しみたいですわ」
「と、言われますと?」
「ええ、ですから―」
 言いながら濃姫は、お市の肩にそっと手を置き、
「お寂しい夜は、兄上様だけでなく、わたくしの寝所にもいらっしゃって下さいな。一日遊んで高いびきをかくだけの三郎様とは違って、精一杯のおもてなしをさせていただきますわ」


 その濃姫の言い草を、
(つまり、これ以上兄上の部屋に勝手に行くなと言いたいのか)
 と、お市は解釈した。
 ではその台詞を聞いて「蝮の娘が女房気取りで何を偉そうに!!」とお市が叫び出しそうになったかといえば、実はそうではない。

 彼女の心に込み上げた感情は、むしろ歓喜であったからだ。

 濃姫が自分の判断でそんなことを言うわけが無い。
 なぜなら、お市のとった行動は客観的に見れば、夜間むずがった十歳の妹が、勝手に十四歳の兄の寝床に忍び込んだというだけの微笑ましい逸話に過ぎないからだ。
 濃姫が、そんな事実にまで嫉妬心を燃やすような女ならば、三郎がここまで無軌道に妻以外の女に手を付けまくれるはずが無い。
 ということは、必然的にその言葉は濃姫のものではなく、兄が彼女に言わせたものであるという事実を示している。
(つまり、兄上自身が私を警戒して距離を起きたがっている)
 ということになる。


 警戒しているということは言い換えれば―すなわち、兄がお市を“女”として意識している、ということに他ならないではないか。


 ならば、この女の言葉に従う必要などどこにもない。今はとりあえずハイハイ言っておけばそれでいい。
 どちらにしろ、兄はすでに自分を意識し始めている。
 そうなってしまえばこちらのものだ。もうあと一押しで兄は堕ちる、いや陥とせる!!
―そういう思いが、彼女に大輪の花びらのような笑顔を与え、その美しさにむしろ濃姫は言葉を失った。

「では、今夜か明日にでもさっそく義姉上様のお部屋に伺わせていただきますわ」

 お市はそう言い、うっとりと目を細めた。


206:戦国奇妹伝 (第一話)
11/12/06 08:52:29.26 v9tMIho3
投下はここまでです
ではでは

207:名無しさん@ピンキー
11/12/06 08:54:30.08 Rl8tBwfP
GJ
今後に期待

208:名無しさん@ピンキー
11/12/06 08:58:08.05 ei9tZ4ws
GJ

209:名無しさん@ピンキー
11/12/06 09:22:39.91 D3I4BqVO
お、歴史物好きだから続きに期待

210:名無しさん@ピンキー
11/12/06 12:18:37.62 0J9Qdk5m
新作来たか!GJ
戦国キモ姉妹無双期待をする

211:名無しさん@ピンキー
11/12/06 12:31:01.30 76sJMi0d
GJ
歴史ものとは渋い
今後も期待してるぜ

212:名無しさん@ピンキー
11/12/06 13:23:41.36 vjSNnGJ8
歴史ものは難しい言葉使おうとするから、書くの疲れて途中で辞める人いっぱいいそう

213:名無しさん@ピンキー
11/12/06 16:49:06.36 7oBZaLkj
GJ!
幼いキモウトで頭脳派でお姫様って最強だな

214:名無しさん@ピンキー
11/12/06 21:09:29.90 gr40MI2R
GJ!!こんな素晴らしいSS風見にはかけないなw
おい風見!おまえが暴れないようしっかり俺が見張ってるからな!!
URLリンク(beebee2see.appspot.com)


215:名無しさん@ピンキー
11/12/06 23:56:08.01 D3I4BqVO
寒い…
姉にストーブ送ってもらうか(´・ω・`)

216:名無しさん@ピンキー
11/12/07 07:14:26.60 4Oh07Dgd
寒がる弟を自分の体で温めようとする姉

217: 忍法帖【Lv=16,xxxPT】
11/12/07 08:44:48.65 V1mdvbS0
確かに姉ストーブいや姉湯たんぽは暖かそうだ
身体的な意味で

218:名無しさん@ピンキー
11/12/07 10:53:33.75 2UwqhP3L
久々にWikiを見てから来たけど、
ひきこもり大戦記がとても面白かった。
やっぱり主人公視点の話のほうが俺は好き。

219:名無しさん@ピンキー
11/12/07 23:45:28.34 9gCBT0cP
サッパリした性格の友達みたいな双子キモ姉が実は弟を狙ってる女だった

220:名無しさん@ピンキー
11/12/08 06:56:45.23 FQtv2J0J
>>206
GJ!!目的の為に我慢の出来る理性的なキモウトとはかくも魅力的なものか
続きも期待してます

221:名無しさん@ピンキー
11/12/08 17:34:36.03 XYvv7BVA
とある国の女王は権力や金などあらゆるモノを手に入れたが
唯一手に入れていない生き別れの弟
国の軍事力全てを使って弟を探し自分のものにするため
あらゆる違法行為を使って調教

222:名無しさん@ピンキー
11/12/08 18:34:19.43 fMfc1UX/
>>221
だからなんだ?としか言いようがないな

223:名無しさん@ピンキー
11/12/08 19:09:36.14 BpE6G//R
>>220
弟の幼馴染が全世界を敵に回して戦うんだな

224:名無しさん@ピンキー
11/12/08 23:20:08.25 ZKuKKW5p
>>221
弟幼馴染連合vsキモ姉帝国か胸熱

225:名無しさん@ピンキー
11/12/08 23:45:29.31 BpE6G//R
キモ姉帝国の弟狩りだ―

226:名無しさん@ピンキー
11/12/09 03:01:51.20 fSUMz0L4
シスが暗黒卿ダースネーチャン
弟の下着スーハー

227:名無しさん@ピンキー
11/12/09 03:05:34.55 /wrrZccr
全ての女性は自分の嗜好を受け入れるべきだと、世界中から姉弟を拉致って目前で強制結合させまくるキモ姉女王


次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch