【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】at EROPARO
【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】 - 暇つぶし2ch350:名無しさん@ピンキー
12/01/25 23:50:45.00 9DpTpBB3
ふう

351:名無しさん@ピンキー
12/01/27 13:40:40.26 BPs+ix7t
お前ら頑張れよ

352:名無しさん@ピンキー
12/01/27 15:02:50.37 fgycBRV3
読み手が書き手になる時が来ているのさー

353:名無しさん@ピンキー
12/01/27 15:05:01.55 2hQHSqud
書き手になるのが強いられてるんだ!

354:名無しさん@ピンキー
12/01/29 17:14:12.86 4IAnLz2V
ほしゅう

355:名無しさん@ピンキー
12/01/29 19:45:14.49 Fv6LmzIX
書き手ぼしゅう

356:名無しさん@ピンキー
12/01/29 21:04:19.15 sDu0RCP8
これはやばいな…

357:名無しさん@ピンキー
12/01/29 21:14:22.31 z69uav/T
ここって時々読み手こそが依存させられてるって思わせる魔力があるよね……

358:名無しさん@ピンキー
12/01/30 21:14:23.49 D2PEqYMR
実際そうじゃないか

359:名無しさん@ピンキー
12/01/30 22:50:09.14 XN+etlkB
みんなウチのこと飽きたん?

360:名無しさん@ピンキー
12/01/31 14:25:52.05 6CPz7tzF
まだ~?

361:名無しさん@ピンキー
12/01/31 16:04:14.48 j+aVrplb
俺達が書いて自給自足しなければこのスレは滅びるんだよ!
これこそがマヤの預言2012年にある(依存スレの)滅びだったんだよ!

362:名無しさん@ピンキー
12/01/31 18:20:36.24 KNhrMOie


363:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 18:22:00.83 KNhrMOie
こんばんは
書き終わったので投下します

364:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 18:31:37.80 KNhrMOie
すみません、ちょっとタンマ!

365:名無しさん@ピンキー
12/01/31 19:51:20.47 KfF+NJjV
なんという生殺し

366:名無しさん@ピンキー
12/01/31 20:10:25.92 YDxSlbj2
まだ始まってないからセーフにしよう

367:名無しさん@ピンキー
12/01/31 20:36:30.03 7XjKOKq5
「ふふふ、そんなにほしいの?それなら腹筋しててね?」

368:名無しさん@ピンキー
12/01/31 21:33:43.55 zHHBuAlu
シュッ!シュッ!

369:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:26:40.63 KNhrMOie
改めましてこんばんは
先程はすみませんでした、ちょっと用事が入りまして

気を取り直して投下します

370:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:27:53.71 KNhrMOie
道場


「あら、宮都どこ行くの?」
玄関で靴を履いている宮都に母の香代が声をかける。
宮都は肩にスポーツバッグを提げているので大体予想は付きそうなものだが……
「どこって、道場だよ。見ればわかるだろ」
「じゃあなんで莉緒までいるの?」
「見学したいんだと」
莉緒は母に向かってコクコク頭を振る。
宮都以外の人物には相変わらず以前と変わらない態度で接しているのだ。
「あらそう。でも莉緒には似合わないんじゃない?どうせなら合気道の見学とか……」
「まぁモノは試しだし、見学くらい平気だろ。それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃい、気を付けるのよ」

今日は准が九州に行ってから二日目だ。
初日には既に決勝トーナメント進出を決めたらしく、嬉しそうな声で電話がかかってきた。
そして残りの二日は審判の講習会らしく、実際に他人の予選試合で練習して力を付けているらしい。
さらに、智久は試合に出る全員に居合斬りを披露したらしく、さっきエリザから写メが届いた。
真剣を持って構えている智久の写真は宮都も惚れ惚れする格好良さだった。

「ここから歩いてどの位なの?」
「道場までか?大体15分くらいかな」
莉緒もあれ以来、家の外では至っておとなしい。
2人で出かける事すらあまり無く、たまに出かけても腕を組むことや手を繋ぐ事さえしない。
やはり根は変わっていないんだななどと考えながら宮都は先を歩いて行く。


371:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:28:55.03 KNhrMOie
「ねぇ、道場ってどんな感じなの?先生とか生徒とかどんな人がいるの?」
莉緒が宮都にそう尋ねる。
やはり初めて行く場所は不安なのだろうか。
「んー、先生ではなく師範って俺たちは呼んでるんだけどな、多分莉緒が想像している道場の先生って感じだと思うよ。強くて厳しいけど優しい、そんな人。
門下生は全部で30人強いるかな、小学生が7~8人、それ以上が残りの25人くらい。男女比は6:4くらいで女性の方が多いな」
宮都は簡単に説明する。
莉緒にとって女性の方が多いのは恐らく好都合だろう。男にあまり免疫がないのだ。
「柔道の道場なんだよね」
「便宜上はな。でも師範は幼い頃から様々な国で生活してその後沢山の国を回ったから、他にもいろんな拳法が使える。
カンフー、少林寺、テコンドー、空手、合気道、剣道、棒術、長刀、ムエタイ、サバット、ジークンドー、あとは……他にもあるらしいけど忘れた。
頼めばいろいろ教えてくれるし凄く楽しいぞ。基本的に自主練して悪いところを師範が直すっていうスタイルだからな、柔道以外を教わる時はマンツーマンで教わる感じになるな」
「ふ~ん。お兄ちゃんも柔道以外になにか教わったの?」
「まあな。でも最近は師範の補佐として門下生に柔道を教える側になったからな、なかなかいい機会が来ないんだよ」
「お兄ちゃんって道場で偉い人なんだ……。やっぱり強いの?」
莉緒が尊敬の眼差しで宮都を見る。
宮都としても悪い気はしない。
「強いかどうかはわからないけど、段は師範の次に高いな。一応自分で道場を開く事ができる段にはなってる」
「凄い……!!それじゃあ将来はお兄ちゃんも道場を開くの?」
宮都は軽く笑いながら
「いや、その予定は無いよ。今は大学の勉強を活かせる企業に就職するつもりだ」
「ふ~ん。なんかもったいない気がするなぁ、せっかく先生になれるのに段が無駄になっちゃうよ?」
「まるっきり無駄にはならないよ。履歴書の資格の欄に書けるし、道端で不良とかに絡まれた時も対処出来るしな」
莉緒はそれを聞いて少しモジモジしながら
「それじゃあもし、私が誰かに絡まれたりしちゃっても守ってくれる?」
「当たり前だ。俺がいる限り莉緒には指一本触れさせない。必ず守ってやる」
「うん。嬉しい……」
莉緒はそう言って立ち止まると宮都に寄り添った。
目を瞑り、軽くもたれ掛かって来るこの姿勢は…

「……んっ………」
頭を撫でて欲しいという合図なのだ、だから宮都は莉緒を撫でる。
莉緒は気持ち良さそうな声を上げされるがままになっている。
「お兄ちゃん、ありがと」
「これくらいならいつでもやってやるよ。それじゃそろそろ歩くぞ」
宮都はそう言って莉緒に手を延ばした。
「え………」
「ほら、手でも繋いで行こうと思ったんだけど駄目か?」
「そんな事……恥ずかしい」
宮都は苦笑いをする。
家の中での事を考えればこれくらい全然平気だと思っていたのに……本当に極端な奴。
大体今の今まで頭を撫でられていたというのに、それは平気で………
一体どこが境界線なのだろうか?
「おいおい、家の中でいっつもくっ付いて来るお前の言うセリフかよ」
「それとこれとは別だよ。外だとやっぱり恥ずかしい……」
「まぁ無理強いはしないから。それじゃ行くぞ、もうちょっとで着くから」
宮都はまた歩き出した。莉緒もその後ろを付いて来る。まるでカルガモの親に付いて歩く子供のように。

372:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:29:31.03 KNhrMOie

「次の角を曲がれば道場に着くぞ。準備はいいか?」
宮都は振り向き莉緒に尋ねる。
莉緒の表情はかなり緊張していた。
「大丈夫だって、皆普通の人だし優しいから。小学生や中学生、莉緒と同年代の高校生の女の子もいるから」
「うん、でもやっぱり……」
「いざとなったら俺もいるだろ。莉緒に何か危害を加えた奴は俺がやっつけてやるから。まぁ100%そんな人はいないけど」
笑いながらそんな事を言っていると…


「なら私がその悪役になって見せましょう」
宮都はいきなり後ろから強い力で張り手されよろめいた。
「お、お兄ちゃん‼」
莉緒が軽い叫び声を上げ、慌てて宮都を支えようとする。
「大丈夫、少しびっくりしただけだ。たいして痛くない」
莉緒は安心すると共に宮都を叩いた人物を見る。
身長は莉緒よりも低く少し青っぽい髪色、人懐っこそうな笑顔を浮かべている。
「お兄ちゃんになにするんですかっ!」
莉緒に強い口調で言われてその女性は少し狼狽える。
「え?い、いや…これはちょっとしたスキンシップみたいなモノで……」
宮都は莉緒に見えないように意地の悪い笑みを浮かべると
「莉緒、よく聞け。この人はいつも俺の背中を叩いて来る極悪人だ」
「うぇ⁉み、宮都君⁉」
「俺の背中は既に傷だらけ、毎日毎日叩かれる日々が続いてる」
「毎日は会ってないよ‼」
「さらに師範をも裏から操っていてな、俺が道場を辞める事を出来ないのはそれが理由だ」
「そんな事出来るかっ!」
「とにかく恐ろしい人だからな、莉緒も気をつけろ。絶対に近づくな」
莉緒はそれを聞き宮都の後ろに隠れてしまう。
怯えた顔をして宮都の腕を掴みながら目の前の人物を見る。
「宮都く~ん、なんか私本気で怖がられてるんだけど」
「実際そうじゃないですか。なにを今更……」
「ストップ!そろそろ止めて‼」
「俺に道場を辞めろと……。貴方のような方にそう言われては……。わかりました、わたくし宮都は今日でこの道場を……」
「いきなり叩いて申し訳ありませんでした。ゴメンなさい、許して下さいっ!」
女性は90度に身体を折り曲げて、まるで謝罪のお手本のように頭を下げた。
この頃になると莉緒もなにか違和感を感じ始める。
とうとう耐え切れなくなったのか、宮都は笑い出す。



373:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:30:02.40 KNhrMOie
「ぷっ、ククッ、アハハハ。頭を上げて下さい茜部さん」
茜部は頭を上げる。既に目がウルウルしていた。
「茜部さんがいけないんですよ?いきなり後ろから叩いて来て、これくらいの仕返しはしますよ」
「それにしたってうら若き女性をいぢめるなんて、酷い‼男はもっと寛大じゃないと」
「いぢめるって……なにかわい子ぶってるんですか。それなら女性はもっとお淑やかであるべきでは?」
宮都にそう言われてむぅ、と黙り込んでしまう。
莉緒はそんな2人に半ば置いてかれて呆然としているが、ハッとしたかのように宮都に聞く。
「あの、お兄ちゃん?」
「あ、悪い悪い。もうわかってると思うけどさっきのは全部冗談な」
「当たり前でしょ!私そんな酷い人間じゃないよ!!」
茜部はムスッとして頬を膨らましている。
もう25歳を過ぎているはずだが低い身長と童顔のせいで全くイタいとは思わせない。
むしろ可愛らしい。

「この人は門下生の一人の茜部さんっていう人。家と駅の間にブルーダイアっていうアクセサリーショップあるだろ?あそこの店主をやってるんだよ」
ブルーダイアという単語は莉緒も学校で聞いた事がある。
希美や他の子と喋っていた時に話題になったのだが、かなり腕が良いと評判らしかった。
「始めまして、茜部 葵(アオイ)です。莉緒ちゃんもなにかご所望だったら是非うちの店に来てね~、なんでも取り揃えてるから。
あっ!あと学校の友達にも宣伝しといてね!ヨロシク‼」
ちゃっかりPRする茜部を宮都は苦笑しながら眺める。
これくらいしないと店は出せないのだろう。
でも確かに腕は良いし宮都もお世話になっている。
少し加勢しても罰は当たらないだろう、そう宮都は考えた。

「ちなみにその首に掛かっているネックレスも茜部さんに作って貰ったんだぞ。腕は確かだろ?」
「えっ⁉」
莉緒はネックレスに手をやる。
これをこの人が……莉緒は目を見開いて茜部を見た。
茜部はというと
「イエース。メイドイン私だよ!凄いでしょ?」
ビシッと親指を立てて得意気な表情で笑っている。
「茜部さん、言わぬが花って諺知ってます?」
「いいの!これは私の自慢出来る事なんだから。手に職付ければこんな私でも人の役に立てるんだから!」
確かにこれは一理ある。宮都はそれもそうですね、と笑いながら言うと
「とにかく悪い人じゃないから、全然安心して良いからな。ほら、挨拶出来るか?」
と言い、莉緒の背中をポンと押して前に出そうとするが、莉緒は前に出ようとせずに宮都の背中にしがみ付いている。
「だいじょーぶ、全然平気だよ~そんな不安そうな顔しなくても良いよ~」
茜部が莉緒に近付こうとすると、莉緒はますます宮都にしがみ付いてしまう。
「ありゃ⁉写真ではあんなに可愛い笑顔見せてたのに……もしかして私のせいなの⁉私が怖いから⁉そりゃあ、お姉さんショック!」
大仰に天を仰いで頭を抱えながらジタバタし始めた。
「すみません。こいつは凄い人見知りなんです。だからどうか気を悪くしないで下さい」
「え、そうなの?私が宮都くん叩いたからじゃ無いの?良かったぁ~」
いちいちオーバーに反応する茜部を見ながら宮都は苦笑する。

374:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:30:39.76 KNhrMOie
「あ、宮都先生!」
その時後ろから女の子の声が聞こえて来た。
「ん、よう美来。元気か?」
そこにいたのは門下生の一人で中学生の神谷 美来(ミタニ ミク)だった。
なかなかに元気がいい子だ。
「あ、美来ちゃん。こんにちは~」
「こんにちは、茜部さん。今日も頑張りましょうね」
「それじゃあそろそろ行くか。そこ曲がればすぐだし……美来?どうした?」
美来はなぜかブルブル震えている。
ちょうど宮都の後ろを、幽霊でも見つけたかのような表情で。
「宮都先生が、宮都先生が……」
「美来?」
「宮都先生が彼女連れて来たあぁああぁあぁ‼‼」
そう叫んで美来は角を曲がって道場に走って行ってしまった。
「おいっ、バカ。違う‼」
宮都は慌てて追いかけるが美来はもう道場に駆け込んで行った後だった……

「あー、莉緒。道場に入ったら覚悟しとけよ…。絶っ対にからかわれる……」
「大丈夫だよ、私は絶対にからかわないから!」
「茜部さんは当然でしょうが!知ってるんですから。……莉緒?」
莉緒は真っ赤になってしゃがみこんでいる。
それでも宮都の服を掴んでいるあたり流石と言うべきか。
「大丈夫だって、すぐに誤解は解くから。そして美来はシメる」
宮都は莉緒を抱きかかえて道場の入り口まで歩いて行く。
茜部はそんな2人の後ろをニヤニヤしながらついて行く………なんかウザい。
「大丈夫か?1人で立てる?」
宮都は莉緒を離すと、莉緒はなんとか1人で立ち上がった。
「……恥ずかしい」
「ははっ、俺も……」
「………ぷふっ…… 」

道場の下駄箱に靴を入れ3人は奥へと進む。
「そこの扉を開けると練習場だ。俺と茜部さんは着替えがあるから莉緒はここで待っててくれ」
「うん、わかった。」
宮都は男子更衣室に茜部は女子更衣室へとそれぞれ向かう。
ここから廊下を進んだ反対側にあるのだ。
莉緒は扉の横で待つ事になった。

「あっ!」
後ろから声がしたので莉緒が振り向くと誰かがサッと扉の向こうに隠れてしまった。美来だ。

また少し顔が赤くなるのを感じる。
恥ずかしさ半分嬉しさ半分といった所か。
大好きなお兄ちゃんと恋人と勘違いされた事は、少なからず莉緒を興奮させていた。
さっきしゃがみこんだのは恥ずかしさからでは無く嬉しさからだった。
思わず顔がにやけてしまうのを抑える事が出来なくて…でもそんなみっともない顔を大好きなお兄ちゃんに見せたく無くて……

お兄ちゃん……お兄ちゃん!早く…早く来てよ!早く頭を撫でて!早く抱きしめて!

ここでハッとする。そうだここは家じゃないんだ……。危なかった!

我慢しなくちゃ…。家に帰れば好きなだけ甘えられる。好きなだけ抱きしめられる。だから外では我慢しなくちゃ!


375:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:35:12.33 KNhrMOie
「あの~、大丈夫ですか?」
「へっ?……い、イヤッ!」
急に誰かの手が莉緒の目の前に伸びて来た。
莉緒は驚いて反射的にそれを払いのけた。
「痛ッ!ちょっ!、え?」
莉緒は顔をあげて相手の顔を見る。
手を伸ばして来たのは男で、年齢は宮都と同じくらいか少し上だろうか。
髪はスポーツ刈りにしてあり、背が190cm近くある大男だ。
すでに道着をを着ている。
「………あ、……あっ…………」
莉緒は完全に怯えてしまった。
知らない大男がいきなり手を伸ばして来たのだから当然だ。
手を口元に当てて後ろに少しずつさがる。
「ちょっと君!大丈夫かい?」
大男は心配そうな顔をして莉緒に近づく。
彼に悪気は無いのだが今の莉緒にこれは完全に逆効果だ。ますます怯えてしまう。
「ぃ……ぃゃ……。こ、こな…い…で」
小さく震えた声を出す莉緒。それゆえ相手には伝わらない。
「え?なに?どうかしたのか?」
さらに大男は莉緒に近づいた。
声が小さいからこうしないと聞き取れないのだ。
その時、練習場所の扉が開き中から美来が出てきた。
「あ、矢那(ヤナ)君。こんにちは~」
美来は大男に声をかける。大男もそれに応える。
「こんにちは。あのさ、この子なんだけど……」
矢那は莉緒を見ながらそう言うと美来も莉緒に気付いた。
「ああ、その人はね………宮都先生の彼女さんです!」
「え?うぇえぇぇえぇ⁉宮都先生のぉ?」
驚き、大声を出す矢那。
さらに怯える莉緒。
そしてその大声に反応して練習場から出てくる人たち。全員子供だ。
「矢那さん、どうしたんですか大声出して?」
「今ストレッチ中なんですから少し静かに……」
「おっきい声だったねぇ~怪獣みたい」
「あれ、皆さん。そこに集まってどうしたんですか?」
「なになに?なんかあったの?面白いこと~?」
さらには今道場に着いた人たちも集まって来て、莉緒は約10人に取り囲まれた……ように感じた。
「あ、皆さんこんにちは」
「よう!この子は美来の友達?」
「え、そうなの⁉やったー!また同年代の子が来た~」
「か、可憐だ……」
「ねぇねぇ、名前は?年は?」
「おねぇちゃん、こんにちは~」
「お!良く挨拶できたな。偉いぞ」
「それよりもこの子大丈夫なのか⁉顔真っ赤だぞ!」
「さっきからそうなんだよ、でもなにも言わないし……」
「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」
「みんなが騒ぐから恥ずかしがってんのよ!はい、みんなはそれぞれ準備しに行きなさい」
「なんでお前に指図されなきゃいけないんだよ!お前が先に行けよ」
「ほらそこ、喧嘩しない!弟はお姉さんの言う事を聞かなきゃ駄目でしょ」

(周りが騒がしい……。たくさんの人に囲まれて見られているのを感じる……。
でもその中にお兄ちゃんはいない………
早く来て!助けてよ…お兄ちゃん!私を1人にしないでぇ……)

「あなた達なにしてるの?早くストレッチしないと駄目でしょ!」
その時女性の声が聞こえて来た。その声に集まっていた全員が振り向く。
そこにいたのは40歳くらいの女性、恐らく主婦だろうと思われる。


376:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:36:32.00 KNhrMOie
「あ、川奈(カワナ)さん。こんにちは」
美来が挨拶し、それに続き矢那、その他大勢もそれぞれ挨拶する。川奈もそれに応えてここでようやく莉緒に気付いた。
「あら、その子どうしたの?入門希望者?」
「えっと、宮都先生が連れて来たんです」
美来がそう言うと川奈は驚いた表情をして
「え、宮都君が?」
まじまじと莉緒を見る。その視線に気付いた莉緒は一瞬顔をあげて、目が合った途端また伏せてしまう。
「あらあら、怯えちゃって……。ほら、あなた達が騒ぎすぎなのよ。ちょっとあっちに行ってなさい」
それを聞いてみんなはぞろぞろと退散して行った。
そして川奈と莉緒が残された。
「ごめんなさい、驚かせちゃった?みんな悪気があったんじゃ無いのよ」
「………………」
莉緒はまだ怯えた様子だったが、かろうじて頷く事はできた。それを見て川奈はもう一度謝罪をする。
「本当にごめんなさい。みんなまだ子供なのよ……。あの大っきい男の人いたでしょ?矢那君っていうんだけど。あの子だってまだ中学3年生なのよ」
「…⁉」
これには莉緒も流石に驚いた。てっきり宮都と同年代と思っていた。
「びっくりでしょ?」
フフッと笑いながら川奈が言う。
それに対して莉緒も頷いた。
「でもみんな良い子だから心配はいらないわよ。これから一緒に頑張りましょ!」
「…え⁉」
どうやら川奈は莉緒の事を入門希望者と勘違いしているらしい。
そういえばさっき美来は宮都が連れて来たとしか言っていない。
「…ぁ、あの……ち、違っ……」
「大丈夫よ、最初は大変だけどだんだん楽しくなるから!みんなともすぐに打ち解けられるわよ!」
肩をポンポン叩きながら莉緒を励ます川奈。
なかなか思い込みが激しいらしい。
「それにしても宮都君も人が悪いわねぇ、こんな可愛い彼女さんがいたのに全く教えてくれないなんて………。案外恥ずかしがり屋なのかしらね」
川奈は1人で勝手に盛り上がっている。
莉緒としては早く訂正したいのに声が出てこない。

(お兄ちゃん……まだなのぉ?早く帰って来てよぉ……。私、もうダメだよ……これ以上ひとりぼっちにしないでぇ………)

「呼びましたか?川奈さん」
莉緒が必死に祈っていたその時、莉緒がずっと待ち望んでいた最愛の人が……やっと帰ってきた。
「お、おにい、ちゃ………」

(ずっと不安だった。ひとりぼっちになっちゃって、知らない人たちに囲まれて、驚いちゃって、そして怖くて………。
でも、お兄ちゃんが戻って来てくれた。だからもう大丈夫なんだ……。全部お兄ちゃんが、なんとかしてくれるんだ!)

莉緒の頬をポロポロと涙が流れ落ちて行く。
恐怖からではなく安堵から。嬉しくて…嬉しくて、もう我慢出来なくて……莉緒は宮都に飛びついた。
「莉緒⁉おい、どうしたんだ⁉大丈夫か⁉」
「おに…グスッ、おにいちゃん!……うぅぅ……。怖かった……さみしかったよぉ……。うぅ…」


377:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:37:50.25 KNhrMOie
(お兄ちゃんに包まれるこの感覚。
何度味わっても飽きる事が無い。お兄ちゃんの体温、お兄ちゃんの鼓動、お兄ちゃんの匂い。
とっても安心する………。絶対に離れたくない………)

「安心しろ莉緒。何があったのかは分からないけど、俺が来たからにはもう大丈夫だ」
そのまま背中に手を回し優しくさすってやる。
「…ぅ……うん!」
莉緒は泣き笑いの表情になりながら宮都に身体を預ける。
「川奈さん。一体なにがあったんです?」
宮都は莉緒をさすりながら川奈に聞く。
なにせ莉緒は泣いているのだ、なにか辛い事があったに違いない。
「それがね、みんながその子を一斉に見に来たのよ。周りを囲んで名前とか年齢とか聞いててね。だから怖くなっちゃったんじゃないかしら?」
「はいッ⁉」
たったそれだけの事で?
「それだけですか?他になにかありませんでした?」
「いえ、特に無かったと思うわよ。下駄箱まで聞こえて来た内容はこのくらいね」
「はぁ……」
宮都はまだ納得出来ないみたいだが取り敢えず話題を変える。
「わかりました、ありがとうございます。どうぞ着替えて来て下さい。ーーーーほら、莉緒。大丈夫か?」
川奈が更衣室に入った事を確認して莉緒に声をかける。
「うん、もう平気。……お兄ちゃんが来てくれたから……」
「そうか?それなら良いんだけど……。一体何があったんだ?なにか嫌な事でもあったのか?」
宮都としては自分が着替えている最中に何があったのかを知りたい。
なぜ、莉緒が泣いたのかその理由を知りたかった。
「ううん。ただ不安になっちゃっただけ……。お兄ちゃん、いなかったから」
「………そうか」

宮都は違和感を感じた。
たったそれだけの事で莉緒が……高校3年生の莉緒がこんな風になってしまうとはどうしても考えられなかった。
大体、囲まれたといっても全員莉緒より年下のはずだ。
いくら人見知りとはいっても年下相手には自己紹介くらい出来なくてはおかしい。
これではまるで…………
「お兄ちゃん、どうしたの?なんか顔が怖いよ……」
莉緒はいつの間にか胸から顔を離して宮都を見上げていた。
その表情は少し怯えが入っている。
「ああ、なんでもないよ。これから皆にからかわれる事を考えてただけだから」
そう言って微笑みながら莉緒を撫でる。

(これではまるで、俺にべったりだった頃の……
1人じゃ何も出来ない、俺に頼り切りだった頃の莉緒じゃないか………)

378:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:38:21.64 KNhrMOie
宮都の頭をそんな考えが支配する。…が、宮都は急いでそれを否定する。
それもそのはず、なぜならその頃の莉緒は小学3~4年生くらい。今の莉緒は高校3年生なのだ。
宮都がいないとなにも出来ないなんて、そんな事があるはず無い……。あってはならない!

「おやぁ~、誰もいない事をいい事にラブラブしてますねぇ。お姉さんには目の毒だよ」
「え⁉……きゃっ⁉」
いつの間にか茜部か2人の事をニヤニヤ顏で眺めていた。
それに気付いた莉緒は慌てて宮都から離れる。
「茜部さん、いつからそこに?」
宮都はジト目を茜部に向ける。それに対し笑いながら
「『ううん、ただ不安になっちゃっただけ。』のとこから。私ってもしかして家政婦の才能あるのかな!
テレビドラマでもあるじゃん、“家政婦が見た”ってのが!」
いろいろと間違っている気がしたが、宮都はあえて何も訂正せずに言葉を濁した。
横では莉緒が赤くなって縮こまっている。
「おい、大丈夫か?そろそろ練習場いくぞ」
宮都に引っ張り起こされてなんとか立ち上がった莉緒は、必死にコクコクと頷いている。
どうやら覚悟が決まったらしい。


練習場に入るといきなり歓声が巻き起こる。
やはり美来によって莉緒の事が広まっていた。………全部誤解だが。
「おめでとうございます!」
「先生素敵ー!」
「彼女さんとどこで知り合ったの?」
「名前は?歳は?」
「ラブラブですか?」
「キスはしたの?」
「きすってなぁに?」
「ちゅーのことだよ」
「えー!ちゅーしたのー?」
「私も先生狙ってたのにー」
「え、そうなの?それなら俺で妥協しない?」
「死ね!」
「宮都先生爆発しろー!」
宮都に聞き取れたのはこれだけだが、実際はもっと多くの発言があった。しかもほぼ同時に。
上は高校生から下は小学生まで年齢にばらつきがあるが、やはり全員恋愛については興味津々らしく、
次から次へと話しかけて来てあっという間に囲まれてしまった。
莉緒はその間宮都の背中にしがみついていたが、先程のような不安感は無いらしく安心した顔をしている。

379:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:38:45.32 KNhrMOie
「はい皆、静かに!」
宮都は手をパァンと鳴らして全員を黙らせる。
普段の練習中にも使っている方法なので一斉に静かになる。
「お前らはいろいろと誤解してる。これは俺の恋人じゃない!」
そう言った途端周りがざわつく。
宮都はため息を吐いて美来を見据える。
対して美来は気まずそうに目を逸らした。
「それじゃあそのおねぇちゃんはだれなんですか?」
小さい女の子が宮都の道着の裾を引っ張りながら聞いて来る。
この道場で1番年下、小学1年生の楓(カエデ)だ。
「ああ、楓。この人はな……ほら、自己紹介しろ」
宮都はそう言うと莉緒の背中を押して前に出そうとした、が……
「………………」
莉緒はがっしりと宮都にしがみ付いてしまう。
少し強めに押してみたが、目をギュッと瞑り首を横に振って絶対に離れようとしない。
「大丈夫ですか?なにか具合でも悪いんじゃ?」
「いや、ちょっと人見知りが激しくてな………」
「さっきも顔が赤かったんですよ。本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、そのはずだ……」
受け答えをしている間にもなんとか莉緒を押し出そうとするが、既に腰に手を回されてどうにもならなくなっていた。仕方がない……
「こいつは俺の妹の小宮 莉緒っていうんだ。妹だぞ、い・も・う・と!
今日は道場の見学に来たんだよ。邪魔はしないからよろしく頼む」
簡単に莉緒の紹介をする。そして周りの反応はというと………
「ーーーーーー!」
「ーーーーー!」
「ーーーーーーー!」
一斉に美来に文句を言い始めた。全くの同時に10数人が喋り始めたので宮都には全く聞き取れないが。対する美来はというと
「ーーーーだってそうだと思ったんだもん!……ーーーーーうるさい!…」
顔を赤くして必死に言い訳をしている……その割には偉そうにしているが………

……そして茜部はその様子を見てゲラゲラ腹を抱えて笑っていた。
「はい、静かに!」
宮都はもう一回手をパァンと鳴らして静かにさせる。
「とにかくそういうわけだから、今日は全員格好良い所見せろよ!わかったな!」

「「「「「おお~!」」」」」


そして各自ストレッチに戻らせると、宮都は莉緒を連れて練習場の隅に荷物を置き、そこに莉緒を座らせた。
「それじゃあここに座って見学しててくれ。練習が本格的に始まるのはまだ先だからな、自由にしてていいぞ」
「うん、わかった」
「あとな…さっきの事だけど、ちゃんと挨拶しないとダメだろ?
恥ずかしいのはわかるけど皆莉緒より年下なんだから、ちゃんとお姉さんらしくしないと」
「うん、ゴメンなさい……」
「後で師範が来るから、その時はちゃんと挨拶する事。わかったな?」
莉緒は首を縦に振る。これで安心だ。
宮都は軽くストレッチを済ませた。

「それじゃあ俺はあっちに行くから。何かあったら呼んでくれ」
宮都はそう言い残してストレッチを終わらせた人たちの指導へと向かった。
すでに大人の人達も練習に加わっている。
そんな兄の姿を莉緒はジッと見つめていた。
笑いながら、それでいて的確なアドバイスをする兄を飽きる事無く。

380:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:39:49.46 KNhrMOie
(お兄ちゃんってすごいなぁ……。周りの人達からも慕われてて、……あっ!さっきの大きな人を投げた!あれって、もしかして一本背負い?……すごいっ、初めて見た!
それになんか、いつもの優しい表情じゃなくて少し荒々しい表情してる……。でも、全然怖くなくて…それどころか素敵!…お兄ちゃん凄く格好良いな……)

「ーーーーー」

(私も、お兄ちゃんになら投げられてみたいかも……、そして大丈夫か?って助け起こされて…でも足を挫いちゃったりして……、そしたらまた北海道の時みたいにお姫様抱っこしてもらったり………)

「ーーーぉー!」

お兄ちゃん…。私の、私だけのお兄ちゃん!私の為に何でもしてくれる、いつでも私の味方でいてくれる格好良いお兄ちゃん……

「莉緒!」
「え⁉…あっ」
肩を揺すられて意識が覚醒する。揺すったのはもちろん宮都だ。
「本当に大丈夫か、顔真っ赤だぞ?それにさっきからブツブツ言ってるし」
声に出てた⁉莉緒は慌てて立ち上がる。
「お、お兄ちゃんッ!なに言ってるか聞こえてた⁉」
「いや、なんにも。ブツブツ言ってる事くらいしかわからなかった。何言ってたんだ?」
「な、なんでも無いよ!」
「……?まぁいいけど。それよりもほら、この方がこの道場の師範の波田(ハダ)師範だ」
宮都の後ろには見るからに重厚そうな男が立っていた。
見るからに怖い外見をしている。

(正直怖い。でも挨拶しないと……、さっきお兄ちゃんに注意されたんだ!早く、はやくしないと!)

「…ぅ…ぁ………そ、の」
声が上手に出てこない、心臓が痛い、手足が震える。
気持ちばかり先行して身体がついて来ない。

(助けて……助けて!お兄ちゃんッ!!)

「莉緒、早く挨拶しないか。俺の服を掴む必要はないだろ」
「…………ぅぅ…」

(ああ~、こりゃダメだ……。この目は完ッ全!に俺に頼り切ってやがる。
それしてもこれ程までになにも出来なかったとは……。これまではどうして来たんだ、こいつ?)

「………無理か?」
莉緒はコクコク頷く。こういう時だけ反応が早い。
宮都は仕方がないといった表情で波田に向き直る。
「先程お話した私の妹の莉緒です。今日は見学に連れて来ましたので、よろしくお願いします」
宮都は軽く頭を下げる。波田は了解の意を示すように頷く。
以前喉の手術で声帯を取り除いた為、喋ることができないのだ。
波田は軽く頭を下げて皆の指導へと戻って行った。
「それじゃ俺も戻るからな、じっくり見学しててくれ」


381:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:40:53.65 KNhrMOie
それから2時間、莉緒はずっと宮都を見続けた。
ずっとずっと、一瞬たりとも目を離さずに。
宮都自身も言ってた通り、宮都は師範と共に指導に当たる事がほとんどだった。
たまに空いた時間は師範に何かの武術らしきものを学んでいたが、次から次へと門下生が来るので本当にわずかの時間しか練習できていない。
しかし、呼ばれる度にイヤな顔一つせずに指導を行う。

(お兄ちゃん、楽しそう。あんな笑い方もするんだぁ……本当に私ってお兄ちゃんの事なにも知らなかったんだなぁ……)

「どりゃああぁあぁぁあぁ!!」
「ちょっ!げふっ!!」
「よっし!やったぁ!」

(あ、お兄ちゃんが投げられた……。今の人って茜部さん?だったよね。すごい掛け声!)

「ちょっと!思いっきり投げないで下さいよ……。イタタ…」
「あの日注意されたからね、勢いよく投げさせてもらったよ!!」
「え?あの日ってなんの事ですか?」
「え~忘れちゃったの~?ほらぁ、私が寝ぼけてて………ッ!!なんでも無い!!!」
茜部は慌てて口を閉じた。
あの日宮都を投げてしまった事は2人だけの秘密なのに、なぜ墓穴を掘ろうとするのか………。
「大丈夫です、誰も聞いてませんよ」
「ふぇ~、危ないところだった~
あ、そう言えばあの時注文された品完成したよ!」
「本当ですか⁉随分早いですね!」
「うん、頑張ったからね!いつ取りに来る?この後そのまま来る?」
「いえ、後日取りに行きます。出来栄え期待してますね」
「了解!それじゃあまた後で聞きに来るね~」
茜部は手をヒラヒラ振りながら去って行った。

「それにしても、……イタタ。腰が……」
「せんせーだいじょうぶ?いたいのいたいの、とんだけ~」
宮都が腰をさすりながら立ち上がると、後ろから楓がおまじないをかけてくれた。なんか情けない……


「はい、それじゃあ時間になりましたので今回の練習はここまでです。お疲れ様でした!!」
宮都が大きく号令をかけると、全員が「お疲れ様です!」と声を揃えて解散する。
「師範、宮都先生、ありがとうございました~」
「お疲れ様でした」
「さようなら」
「しはんとみやとせんせー、またねー」


382:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:41:41.90 KNhrMOie
各々簡単な挨拶をして、練習場から出て行く。全員が出て行った事を確認して
「お疲れ様です!それじゃあ戸締りと消灯は私がやっておきますね」
宮都は波田から練習場の鍵を受け取りそう言った。
波田は宮都に礼をすると(身振り手振りで)練習場から出て行った。
「莉緒ー、悪いけど一緒に窓の戸締りの確認してくれないか?」
「うん、わかった!鍵をしてあるかの確認でしょ」
2人はそれぞれ戸締りの確認を行い、それが終わったら荷物を持って練習場から出た。
「電気消して来るから少し待っててくれ」
宮都はそう言い二階へ上がって行く。
照明関係の機器は全部二階にあるのだ。

「あっ!さっきのおねぇちゃん!」
莉緒は急に声をかけられて身を竦ませた。一体誰……⁉
「あーやっぱり。みやとせんせーの……えーっと??」
「……えと…い、妹?」
「そーだ!せんせーのいもうとだぁ!」

(この子、たしか最初にお兄ちゃんが名前言ってた女の子……?)

「おねぇちゃん!みやとせんせーはどこにいるの?」
「ぇ……っと……、お、お兄ちゃんは二階に……」
「ふーん、でんきけしにいったんでしょ、かえでもみやとせんせーについてったことあるからわかるよ!」

(そうだ、楓ちゃんだ!多分この道場で1番年下の子だ!)

「えっと、楓ちゃん…だよね?どうしたの、皆帰っちゃったのに」
流石の莉緒もこんなに小さな子供と1対1でなら話せる。
「あのね、ママがむかえにきてくれないからまってるの。ひとりでかえっちゃダメっていわれてるの…」
なるほど、確かに平日の昼間とはいえ小学生の女の子1人では危険もあるだろう。
「そっか、お母さんはいつ来るの?」
「わかんない。いつもはもうきてるのにきょうはまだ……あっ!みやとせんせー!」
ちょうど宮都が二階から降りて来た。扉を振り返って見ると、練習場が暗くなっている。
「ん?楓か。どうしたんだよ、お母さんは?」
「まだこないの……」
少し不安そうな顔をして宮都を見る。
この歳では普段と違う事態に臨機応変に対処しろといっても無理な話だろう。
「そうだなぁ…いつもならとっくに来てる時間だし……、もしかしたら寝坊してるのかもな」
「おねぼう?」
「もしかしたらだけどな。良かったら一緒に帰るか?」
「え、みやとせんせーと?」
「そう、このお姉さんも一緒だ!」
「で、でもお兄ちゃん。もし行き違いになっちゃったらどうするの……」
「楓ン家はここから一本道なんだよ。だから絶対に行き違いにはならない。
よし、そうと決まれば急いで着替えなくちゃな。少し待っててくれ」
宮都はそう言うと急いで更衣室へと入って行った。
宮都は手首から肘にかけてバンテージを巻いているのでそれを外すのに時間がかかるのだ。

383:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:42:32.85 KNhrMOie
その間、莉緒と楓は待つ事になるのだが会話が無い。
楓は母が来ない事に不安がっているから。そして莉緒は………

「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

(なんだろう、さっきから楓ちゃんが私をチラチラ見てくる………。なにか付いてるのかな?)

莉緒はハンカチで顔を軽く拭ったが、それでも楓は莉緒をチラチラ見てくる。
そして目が合うと慌てて顔を逸らしてしまうのだ。
「楓ちゃん、さっきからどうしたの?」
痺れを切らしてとうとう莉緒が楓に話しかけた。
楓は一瞬ビクッとしたものの、おずおずと莉緒にこう言った。
「おねぇちゃん、どおしておこってるの?」
「え、怒ってる⁉それって私が⁉」
「うん、さっきからおかおがこわいの。おねぇちゃん、かえでのこときらいなの?」
「………あっ⁉」
莉緒はハッとした。宮都が楓と一緒に帰る提案をした時から、なにか心の中でモヤモヤした感情が渦巻いていた。
その感情の正体に今の言葉で気づいた!

(私、嫌だったんだ。楓ちゃんと一緒に帰るのが……
だってお兄ちゃんとの2人きりの時間が減っちゃうから……)

莉緒は宮都との帰り道に、どのように甘えるかをずっと無意識に考えていた。
そこに楓という邪魔者が入って来た事を無意識に疎ましく思っていたのだ。

(私、馬鹿だ……最低だ………
こんな小さな子供に対してこんな事思っちゃって…
楓ちゃんはなにも悪くないじゃない!)

「やっぱりおねぇちゃん……かえでのこと、きらい……なん、だ…」
莉緒の無言を肯定と受け取ったのか、楓は泣き出してしまった。
「…ぅぅう、うわぁああぁぁん!」
「ち、違う!…楓ちゃん。誤解!誤解なの!」
慌てて楓を泣き止ませようとするが、一度泣き出してしまうと心の中は負の感情で溢れかえってしまい、どうにも止められない。
「ち、違うの…、私は楓ちゃんの
事嫌いじゃないの!だから…大丈夫だから!」
「うっく……うぅぅ、ママ、はやくかえでをむかえにきてよぉ、うぅ…うぅぅうぅ………」
もう莉緒には泣き止ませる事は出来ない。それが出来るのは宮都だけだ。
莉緒は必死に宮都が早く戻って来るように祈り続けた。すると……


384:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:43:11.27 KNhrMOie
「おい、どうしたんだ楓⁉更衣室まで泣き声が聞こえて来たぞ!」
楓の鳴き声を聞きつけた宮都が小走りにやって来た。
すでに着替えは終わっていて、あとはバンテージを取るだけだ。
「お兄ちゃん、お願い!どうにかして!!」
宮都は泣いている楓の正面にしゃがみ込むと、目線を合わせて優しく語りかけた。
「楓、一体どうしたんだ?先生にお話ししてくれるか?」
「せんせぇ……うぅ、みやとせんせー!!」
楓はついに我慢出来なくなったのだろう。宮都の首に手を回して勢いよく泣き始めた。
「うわあぁああぁあぁ!!みやとせんせえぇ!!!」
「よしよし、もう大丈夫だぞ!先生がいるんだからな!!」
そう言って背中をポンポンとたたいてあやしてやる。

子供を泣き止ませるには、思いっきり、気が済むまで、好きなだけ、そして泣き止むまで、泣かせてやるしか方法が無い。
そしてその時に大人がすべき事は、安心して泣く事ができる場所を作ってやることだけなのだ。
ただそれだけでいい………


楓が泣き止んだのはそれから10分後。
まだ鼻を啜っているが会話ができる程度にはなった。
そして宮都は事の顛末を楓から聞き出した。莉緒の事も………
「なるほど、楓はお姉さんが怖い顔してるから心配になっちゃったのか。お姉さんが楓の事を嫌いになっちゃったのかと思って」
「…うん………こわかったの」
宮都はニカっと笑って楓を安心させる。
「大丈夫だよ!このお姉さんは絶対に楓の事を嫌いになったりしないよ。多分お姉さんはなにか考え事をしてたんだよ。そうだろ?」
「えっ⁉…う、うん、そう。私は楓ちゃんのこと嫌いじゃないよ」
「……ほんと?かえでのことすき?」
「う、うん好きよ!本当に!だから安心して!!」
「……うん」
ようやく安心したのだろう。楓は笑顔を見せてくれた。これで一安心だ……

「よし、帰ろう。ほら、楓!背中に乗りな、おんぶしてやるよ」
それを聞いた途端、楓がぱあっと顔を明るくして宮都に飛び乗った。
「ありがと~みやとせんせー!ーーーーわぁ!たかーい!」
ここまで喜ばれると宮都の方も嬉しくなって来る。
「莉緒!扉の鍵は閉まってるか?」
「えーと、うん、大丈夫」
「それじゃあ出発だ!行き先は楓のお家!」
「しゅっぱつしんこー!!」
そして3人は道場を後にした……

385:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:44:58.55 KNhrMOie
(あの時…俺が楓と一緒に帰ると言った時、莉緒はイヤな顔をしていた。つまり莉緒は楓の事をやっぱり…………
そんな馬鹿な!!何を考えてるんだ俺はッ!そんな事はないッ!莉緒は…莉緒は優しい子なんだ!
さっきのだって俺の見間違いに違いない!!
…………あぁ、クソッ!さっきから思考がループしてやがる!)

「みやとせんせー!そこのてきにぶつかるとダメージうけちゃうよ!よけて!」
「マンホールがいつの間にか人類の敵に⁉ おっと、避けたぞ!」

(大体、それを抜きにしても今日の莉緒はおかしすぎる。あまりにも何も出来なさ過ぎる!
なんで挨拶が出来ないんだ!なんで…すぐに俺を頼るんだ⁉)

「みやとせんせー!そこはしろいところだけしかわたれないの。くろいところはガケだからきをつけて!」
「横断歩道を渡るのも命がけだな」

(それに、俺も俺だ!なんで莉緒を甘やかすような事をしちまうんだよッ!叱るべき箇所はキチンと叱らなくちゃいけないってのに……
特に楓との件なんか絶対に問い詰めなくちゃいけないのに………、なんで出来ないんだよッ!!)

「そこのイスでやすまないとダメ!エネルギーのかいふくしないとおうちまでいけない!いっぱくしないと!」
「………10秒で良いか?」


(俺は一体、莉緒とどう接すれば良いんだ……)




ちなみに楓の母親は道場と家の中間地点で、長話に花を咲かせていたのだった…………

386:天秤 第14話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/01/31 22:48:20.20 KNhrMOie
今回はここまでです
こっから物語をどう持って行こうか悩んでいたり……

次回は准出ます

387:名無しさん@ピンキー
12/02/01 00:18:54.96 02Iq9gZA
はやほおおおおおおおおおおお


388:名無しさん@ピンキー
12/02/01 16:53:45.71 AR/+lDIo
GJ!

389:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:37:20.57 YP9REk8v
こんばんは
二日連続になってしまいますが投下します
よろしくお願いします

390:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:38:17.15 YP9REk8v
学園祭 前編


准が九州から帰って来た3日後の事。
「ーーーーーと、いう事で皆さんの内誰かに協力して頂きたいんです!」
ここは武田研究室。部屋にはいつもの4人ともう1人、学園祭実行委員がいた。今は1週間後に控えた学園祭の催し物についての説明を受けていた。
「もちろん方法などはこちらで考えますし、そちら様からの要望があればそれにも出来るだけお応えします。
他の研究室からも何人か集めてますので様々な案が出ると思います」
「ふむ、なかなか面白い企画だな……。一体何人必要なんだ?」
武田が真面目な表情で聞く。
遊ぶ事については妥協しないのだ。
「定員はあと一名です。ですからどなたかお1人で完了なんですよ!」
「なるほど、よし!それでは俺が……」
「教授は受験生の対応があるでしょう?ダメです!」
三田に逃げ道を塞がれた。
武田は仕事が大っ嫌いなのだ!!
「む……、だがな、今回は遊びがメインの行事なんだぞ!そんな時に真面目くさって見学に来る学生などおるまい」
「いますよ!去年は教授が遊びに行ってしまうからとんでもない事になったんですよ?」
そう、武田は去年もこんな事を言って遊びに行ってしまい、三田が1人で対応に追われたのだ。
その後一週間、部屋の温度は下がりっぱなしだったらしい。
「…うぐぐ………それでは俺が遊べないではないか!!」
「と・う・ぜ・ん・で・す!!」


「それではそちらのお二方の内どちらかとなりますが……よろしいですか?」
委員が宮都と准に聞いて来る。
今のやり取りから武田と三田は無理だという事を悟ったらしい。
「えっと……どうする?」
「宮都はどうしたい?」
2人は顔を見合わせて思案する。

准としては学園祭を2人で回りたい。

宮都としては面白そうだから参加してみたい。
でも准とも一緒に回りたいし……それだと莉緒の問題もある。

ここで宮都は名案を思いつく!
准と莉緒の問題も関係ないし宮都も催し物に参加できる素晴らしい案を。
「そうだ!それじゃあゲームをしよう!」
「え⁉どんな?」
「それはな………」



「ーーーーーってのでどうだ、面白いだろ?勝ったらご褒美、負けたら罰ゲーム!」
「なるほど、でもそれじゃあ宮都が不利なんじゃない?だって、相手が私なんだよ?」
「そう言う事は勝ってから言うんだな!俺の頭脳をフル活用して負けないように頑張るからな」
宮都はニヤッと笑って委員に向き直る。
「と、言うわけで俺が参加します」
「本当ですか⁉ありがとうございます!それでは後日打ち合わせをするのでご連絡しますね!」

391:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:38:47.85 YP9REk8v
その後……

「くそったれ!なんで俺は教授なんて職業に就いたんだ⁉給料は安い!疲れる!カミさんはうるさい!」
「なに馬鹿な事を言ってるんですか………飲み過ぎですよ!
大体奥さんは関係ないでしょう……」
「馬鹿と言ったな⁉教授に向かって馬鹿って言ったな!
馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!この馬鹿!!」
あの後、委員が帰ってからも武田と三田は不毛な言い争いを続けている。
しかも武田は飲酒済み。
いつになれば終わるのやら………

「よし、正解だ」
「んふふ~、でしょ?頑張ったもん」
一方、宮都と准は勉強会を開いていた。
宮都は先生、准は生徒。
准が一問正解するたびに宮都は准の頭を撫でる。
これが2人の最近の勉強スタイルだ。
「まさかこの応用問題もストレートで正解するとは思わなかった。かなり頑張ってるみたいだな、偉いぞ」
笑顔で准の頭を優しく撫でてやる。
「ありがと」
准はそのまま頭を宮都の身体に預ける。
これが出来るから必死に勉強しているのだ。

「三田ぁ~!今までの恩も忘れてその態度…許さんぞ!」
「あぁもう!飲み過ぎですってば!」
「大丈夫だ、全然酔ってない!」
「酔っ払いは皆そう言うんですよ!あぁッ、気持ち悪い!抱きつくなぁ!!」
………いつまで続くのだろうか。


そして三日後

「あ、宮都。どうだった?」
研究室に帰って来た宮都を准が出迎える。とてとて歩いて来る様子は犬みたいで可愛らしい。
「ん、決まった。俺の案が採用されたからな、この勝負は俺が貰った!」
自信満々な態度で高らかに笑う宮都。
「ふ~ん、そんなこと言っていいんだぁ~。だって私が相手なんだよ?」
准も自信満々に笑いながら応える。
なぜか武田も笑っている。
「ふふふ、そのゲームには俺も参加する予定なんだぞ?この俺がなぁ!」
「教授は一日中この研究室で待機です。絶対に外に出しませんからね」
「お前は俺の母親か………」

392:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:39:48.19 YP9REk8v
さらに二日後の夜

「……あの、お兄ちゃん。今度大学で学園祭あるって…ほんと?」
夕食の席で莉緒が徐に聞いて来た。
相変わらず宮都と2人っきりの時以外はもじもじしてる。
「ん、あるけど……。なんで知ってんの?」
「私が調べたのよ!綿あめの為に」
「母さん……、そういう情熱はもっと別のところで使えよ」
「大学でここまで大々的に学園祭をやるってのも珍しいな。…ところで!ミスコンもやるんだろ?」
一弥が口を開く。結構楽しみにしてるっぽい気が………っていうか⁉
「まさか全員来るのか⁉」
「うん」
「ええ」
「おおっ!」
全員同時に返事をした、さすが家族。
「だから宮都に案内してもらおうと思ってね。どうせ暇でしょ?」
「こういう時こそ宮都の出番だ!家族の期待に応えてこそ長兄なのだ!」
「…一緒に回ろうね、お兄ちゃん」
3人に期待の眼差しで見つめられる宮都。
莉緒に至っては腕を絡めて寄り添って来た。
しかし………
「あぁー、その日はちょっと用事があってな……」
宮都は学園祭の催し物に参加するため一日中忙しい事を伝える。

「ーーーーーと、いう事で無理なんだよ」
「ダメな子ねぇ……」
「お前はそれでも俺の子か!情けない!!」
「…………そんなぁ……」
なぜここまで責められなきゃいけないのか……、そして莉緒の視線が心に突き刺さる……
「しょうがないだろ、頼まれたんだからさ」
「それでその催し物ってなんなの?」
香代が聞いて来る。
「それはお楽しみ。大学入口のテントで用紙を配ってるからそれを見てくれ。まぁ家族だから簡単かもしれないけどな」


393:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:40:25.26 YP9REk8v
次の日

「ーーーーーと、いうわけで俺の家族も来る事になったんだよ。准のとこはどうするんだ?」
「………………ねぇ、もし私じゃない別の人が勝っちゃったらどうなるの?」
「う~ん………、その場合は引き分けかな?ご褒美も罰ゲームも無し」
「もし私のお父さんかお母さんが勝った場合は?」
「その場合はなぁ………、准の勝ちでいいや」
「ほんと⁉嘘じゃない⁉」
「男に二言は無い」
「わかった、それなら連れて来る!ありがとぉー宮都ぉ!」
「それなら、って………」
宮都は苦笑する。
もしも今の問いに否定的な答えをしてたら連れてこなかったんだなぁ、と考えながら
「あ、それともう一つ伝える事があってな。実はーーーーー」

その夜

「本当⁉勝ったらご褒美⁉」
莉緒がずいっと顔を近づけて来る。
凄く興奮しているのか、息が荒い。
「ああ、負けたら罰ゲームだけどな。父さんか母さんが勝っても莉緒の勝ち、それ以外の人が見つけたら引き分け」
「えっと、つまり……」
「莉緒か母さんか父さんが勝ったらご褒美、俺が最後まで逃げ切ったら俺の勝ちって事。それ以外が引き分け」
「え、逃げ切るってどういう事?」
「おっと、秘密にしとくんだったな。今のなし、聞かなかった事にしてくれ」
「……?とにかく頑張る!絶対に勝ってみせるから!」
「でもな、敵も多いぞ。准だけじゃない、大学に来るほとんどの人が敵だからな」
「大丈夫!だって家族なんだよ?」
莉緒はにへら~っと笑い、目を瞑りながら宮都に寄り掛かったのだった。

そして学園祭当日………


394:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:40:49.82 YP9REk8v
「ここだな。えっと、ここから歩いて10分くらいか」
大学の最寄り駅に小宮家の3人が到着した。とてもいい天気で絶好の学園祭日和だろう。
「あ、ほら看板出てるわよ!これなら絶対に迷わないわね」
「ぬ……、昨日パソコンで地図を印刷したというのに…。大学もなかなかやるな!」
なにを?
「それじゃあ行きましょ!ほら、莉緒も早く」
「あ、うん」
こうして家族3人で歩くのは大分久しぶりだ。
普段はこのような機会は無いし、旅行だと宮都も加わるのだ。
まさに帯に短し襷に長し、と言ったところか。
「綿あめが楽しみねぇ~」
「ミスコンとやらが楽しみだぁ♪」
「………お兄ちゃん……………」
三者三様、様々な想いを抱えて道を歩く。
一弥の場合は本能に従っているだけだが……


「ここか!」
3人はとうとう大学に到着した。かなり賑わっているようだった。


「こんにちはー!お好み焼きやってます!ぜひ来て下さ~い!」
「焼きそばやってますよ!」
「大学の地図とパンフレットはこちらです!」
「劇団カナリアの公演は13時からとなります!期待の新人“隼人”が主役を務めます。是非いらしてください!」
「ミスコンの投票用紙はこちらです。“マリン”、“リア”、“キュート”、“フラー”、“マリア”の5名が参加です!」
「イケメンコンテストの投票用紙もこちらです。“ライ”、“サイバ”、“カノン”、“ハゲ”の4人が参加です!」
「簡単に学べる合気道教室!覆面被った先生ですが腕は確かです!」
「自転車レースは午後から開催です。機械系の学生の手作り自転車、午前は試し乗りもやってますよ~!」


「すごい熱気だな!客も多いし」
「ええ、はぐれないように気を付けないと……」
「えっと、宮都はどこだ?何かの催し物に参加するって言ってたが」
「そういえば何に参加するか聞いてなかったわね、まさかイケメンコンテストじゃああるまいし……どうしましょう」
その時莉緒の携帯が鳴り出した。この音楽は……宮都だ!
「…お母さん、お兄ちゃんからメールが来たよ」
莉緒は携帯を取り出しながら母に報告する。
一体なんの用だろう?
「え、本当⁉それで何だって?」
「なるほど、宮都のやつ挑戦状を叩きつけて来たな。それでこそ我が息子だ!」
「えっと、………⁉本当だ!件名に挑戦状って書いてある」
ドヤ顔を決めている一弥を横目で見ながら莉緒は本文を読み始める。

『そろそろ全員着いた頃だと思う。かなり賑わってるだろ?
莉緒ははぐれないように注意しろよ。この大学は無駄に広いからな…
さて、今回のゲームについての説明を始める。まずはパンフレットを配ってるテントまで行ってくれ』

「あそこだな」
3人はテントの下まで歩いて行く。


395:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:41:12.55 YP9REk8v
『そこではパンフレットと地図を配っていると思う。まずは3人分それを確保してくれ』

「はい、3つずつ貰ったわよ」
「ありがとう、お母さん」
3人はパンフレットを開いてみる。すると……
「どれどれ、おお!ミスコンの出場者は大学内を歩き回るのか!名前が日本人離れしてるが全員外国人なのか?」
「なんか芸名っていうの?そういうやつらしいよ。早い話、匿名って事ね」
「そうか…少し残念だなぁ…。でも良い!全部で5人……、全員会ってみせるぞー!!」
「イケメンコンテストなんてのもあるのね……、こっちも大学内を自由に歩き回ると…。1人名前がおかしいわね……」
「おっ、素人大喜利なんてのもあるのか!その後ステージで漫才とかコントもやるだと⁉」
「演劇もあるのねぇ~、さっきの劇団カナリア…だっけ?見てみたいわねぇ」
「…人力車?………なんだろう、これ?」
「ん?莉緒、人力車知らないのか?良い機会だから乗ってくれば良い!カメラも用意してあるからな」
一弥は愛娘の為に購入した、かなり高価なカメラを手に、任せておけ!と言わんばかりのポーズを取る。
「恥ずかしいよ……」
「ねぇねぇ!学生が作った自転車のレースもやるらしいわよ」
「森の動物と触れ合い癒されよう!なんて企画もあるのか?凄いなここは!」
「こっちにはDNAの抽出実験を体験できるって書いてあるわよ、本当に凄いわね!」
「かと思えば傘で人は飛べるのか?という、くだらなさそうな実験もやるらしいな」
「…喫茶店もあるみたい。女の子は可愛いフリフリの服で、男の子はスーツを着るって書いてある」
俗に言うメイド喫茶と執事喫茶の複合型だろう。
美男美女が揃っているらしい。
「昼に行ってみるか。もしかしたらそこで宮都が働いているのかもしれないし」
「お兄ちゃんが……」

(お兄ちゃんが執事……。わ、私に『お帰りなさいませ、お嬢様』って………
格好良い服を来てそんな事言われたら……私………
お兄ちゃんが……おにいちゃんがぁ……)

「でも宮都は勝ち負けがある勝負をしかけてきたんでしょ?だから違うと思うわよ。
大体宮都に執事なんて似合わないでしょ」
莉緒の作った世界が母の無残な言葉によって一瞬にして消滅した………
莉緒をお姫様抱っこして、迫り来る悪党(イメージ:准)から逃げている良いトコロだったのに……
「だな、あいつはどちらかと言ったらフリフリの方だろ。あんな顔してるしな」
2人は共に笑い合う。
莉緒はそれを見てかなり宮都の扱いが酷いことに、ちょっとムッとする。

(そんな事ない!お兄ちゃんは格好良いもん!なんでも出来るもん!
私のお願いはなんでも叶えてくれる最高の男の人だもん!!)

そんな事はつゆ知らず一弥と香代は好き放題言っている。
まぁ、2人とも息子に対しての深い愛情は持っているのだが………
「お母さん、お父さん。……そろそろメールの続き読むよ」
「ん、そうだったな。頼む」
莉緒はメールの続きを読み始める。

『そしたら地図を見てくれ。今いるテントから北東の方に支部があるだろ?
そこに行けば全てが分かる。健闘を祈ってるぞ、絶対に捕まえてくれよ?』

396:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:41:37.17 YP9REk8v
「これで終わりか……。えっと、支部は、と………、あった」
一弥は地図に書いてある支部を見つけた。
「すぐそこねぇ、そこに行けばいいの?」
3人は書かれている通りに支部へと向かう。少し歩いたらすぐに見えてきた。ちょっと立派なテントだ。

「あのー、すみません」
「はい、いらっしゃいませ。皆さんも賞金稼ぎご希望ですか?」
「…⁉えっと、それはなんなの?」
「はい、ここでは賞金稼ぎゲームのご案内をしております。
ゲーム内容は、こちらの写真の人間をこの大学内で探し出してここに連れて来る、といったものです」
係員は3人に、後ろにかかっている10枚の写真を見せる。その中に………
「あっ、お兄ちゃん……」
宮都がいた。
「なるほどぉ、そういうことだったのか。こりゃあ大学に来る全員が敵だな」
一弥は得心がいったと言わんばかりにうんうんと頷く。
「それにしても家族にこんな勝負を挑むなんて……、宮都もバカねぇ」
香代は呆れるようにそう言った。
自信満々のようだ。
「こちらが賞金首の情報と懸賞品のご案内です」
係員はプリントを3枚渡してくれる。
そこには賞金首の特徴や写真、さらに懸賞品の案内が載っていた。

パッと見たところお好み焼き無料券、たこ焼き無料券、25%off券などの懸賞が出るらしい。
しかしその中でも宮都の懸賞品は群を抜いていた。
「…1.5リットルのペットボトルジュースが10本、…宅配サービス付き」
「星のマークが10個全部点いてるって事は1番難易度が高いって事ね」
「ふむ、なかなか格好良く写ってるな。昔の俺そっくりだ!」
三者三様に感想を述べる。
いつもの事ながら一弥の考えは少しピントがずれているが……
「賞金首は様々な手段で隠れています。
人の多いところに隠れたり、建物の中を逃げ回っていたり、物陰に潜んでいる事もあります。
しかし、一度捕まえてしまえばもう逃げる事はありません。そのままこちらに連れて来ていただければ懸賞品の受け渡しが行われます。
もちろん、1人で2人以上捕まえる事もできます。
そして一度捕まった賞金首は二度と他の人には捕まりません。
どなたかが賞金首を捕まえて来たらアナウンスでの発表がありますので、お渡しした写真に目印を着ける事をお勧めします。
ルールは以上です。なにかご質問はありますか?」
全員が首を横に振る。
「はい、それでは頑張ってください。
現時点でライバルの人数は75人です、早い者勝ちですから急いでくださいね」

まず最初に小宮家作戦会議が開かれた。円を組んでヒソヒソ話す。
「どうする?宮都はどこにいると莉緒は思う?」
「え、……えと、わかんない」
「そう。それじゃあ一弥さんはどう思う?」
「う~ん………、親の俺にもよく分からん奴だからなぁ……
ひとまず大学全体を回ってみるか。宮都の所属している研究室にもお邪魔したいしな」
「……あ、ここに紹介があるよ。綿あめの販売やってるって」
莉緒はパンフレットの一点を指差す。
そこにはこう書いてあった。

『武田研究室 見学者歓迎!綿あめの販売もしてます!』

「森を通るのか…。結構遠いんじゃないか?」
一弥は地図を見ながらポツリと言った。
それを聞いた莉緒はこう言った。
「ううん。そんなに遠くないよ」
一弥はすぐさま否定した莉緒を訝しげに見る。その様子を見た香代は、莉緒が宮都の所属している研究室に見学に行った事を説明した。

397:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:42:16.42 YP9REk8v
「なんだそうだったのか。言ってくれれば良いものを…」
「私も宮都から聞くまで全く知らなかったのよ。この子ったら本当に何も喋らないんだから……」
「……ゴメンなさい」
「全くだ!お父さん悲しいぞ!」
明らかに肩を落とす一弥。
なんとなく哀愁が漂っているその背中に、香代が止めを刺した!

「でも最近、お兄ちゃんには甘えてるのよね、夜も一緒に寝てるみたいだし」
香代はねぇ?と言いながら莉緒に同意を求める。
その瞬間莉緒は固まった。
一弥も固まった。
「…なっ⁉なん、で……」
莉緒の口から辛うじて出た声は掠れていて……、さらに引っくり返っていた。
「なんで知ってるのかって?フフッ、私はあなた達の母親なのよ?分からないわけないでしょ?」
イタズラっぽく笑いながら莉緒に対して指を指す。
母親は偉大だ…
「……ましい」
「??」
「羨まし過ぎるぞ、それ!!宮都のやつそんないい思いしてるのか⁉なんで俺じゃないんだー!!
う……うわああぁぁあぁあ!!」
一弥が久々に吼えた!
そしてそのまま森に走って行ってしまう。
「あらあら、一弥さんたら……、困った人ねぇ」
香代は平然として一弥を見送る。一方莉緒は少し慌てていた。
「お、お母さん!放っておいていいの⁉早く追いかけないと!」
「大丈夫よ、アレでも一応大人なんだし。迷子にはならないでしょ」
香代も香代でどこかピントがずれているのだ。
「それにこの研究室に向かったのは分かるんだから焦る必要もないでしょ?さぁ、ゆっくり行きましょう」
「?なんでお父さんがここに行ったって分かるの?」
莉緒は地図の武田研究室を指差して聞く。
それに対して香代は笑いながら応えた。
「だって、私がここに行きたいって言ったんだもの。一弥さんはそういう人よ」
そして香代は地図を見ながら武田研究室へ向かって歩き始めたのだった。
母親は偉大だ…………


398:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:42:41.45 YP9REk8v
「ーーーーーーと、いうルールなの。分かった?」
「なるほど、面白いわね」
「………………」

一方こちらは夏目一家。
准によるルール説明が終わったところだ。
「学園祭実行委員の先生に聞いたんだけど、今までこの企画5年以上続けて来た中でも最高に難しいらしいの。
それも宮都が自分で隠れ方を考えたんだって」
准にとっては不利な事のはずなのに、どこか嬉しそうにそう言う。
准はいつでも自分の事より宮都を優先させるのだ。宮都が幸せなら准も幸せだから結局は自分の幸せに繋がっているのだが。
「だから気を引き締めていかないとダメ!ライバルは多いんだから」
「はいはい、ちゃんと頑張るわよ。ねぇ、智久さん?」
「……ああ」
「それじゃあどうする?手分けして捜す?それとも全員で行く?」
「手分けした方がいいと思う。各自見学しながら怪しいところをしらみつぶしにして!それじゃあ解散!」
言うや否や走り出して行ってしまう。
全てはご褒美のために……

(待っててね、宮都!私が絶対に見つけ出してあげる。そしてご褒美を貰うんだ!
頭を撫でてもらおうかな、ほっぺたスリスリの方が良いかな、それとも……久しぶりに一緒に寝てもらおうかな……
私も宮都ももう子供じゃないんだから(厳密には宮都は19歳)、もしかしたら何かあるかも!!ほっぺたにキスとか!!宮都が…宮都に…宮都ぉ……)

決して宮都には言えない准の本心……
笑顔が戻った日を境に、准は以前にも増して宮都との距離を必死に埋めようとするようになった。
もちろん外見には極力出さないように気を付けているから宮都にはバレていないと思う。
しかし、心の中ではいつもこのような事を考えているのだ。
もう何度キスをする妄想を抱いた事だろうか。
何度結婚する妄想を抱いた事だろうか。
いつの日か武田に褒められた発想力がこんなところで役に立っているのだ。
それを叶える足がかりにするためにも、今日の勝負は絶対に勝たなくてはならない。
どんな事をしてでも………


そしてエリザと智久はというと…

「私たちはまず最初に研究室に行きましょう。いつもお世話になってる方達に挨拶しないと」
「……そうだな」
冷静だった……


斯くして、宮都のご褒美を巡っての争いがここに幕を開けた。


続く

399:名無しさん@ピンキー
12/02/01 21:48:58.23 AR/+lDIo
乙!
上の方でうだうだ言ってた奴らどこいったんだ

400:天秤 第15話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/01 21:49:12.30 YP9REk8v
以上です

次回の後編が終わったら、いろいろ伏線を回収しつつ物語を終わりに近づけていきます。
はっきり言って今回の学園祭話はいらないと思ったんですが、最後のギャグ回として温かく見守って下さい。
結末はまだ決めてませんが、バッドエンドの可能性もあるかもです。



401:名無しさん@ピンキー
12/02/01 23:59:19.36 Gn5Li756
おつ!

402:名無しさん@ピンキー
12/02/02 00:06:08.55 P+qyefa9
おぉ!神感謝GJ!!!いつも楽しみにしてます

403:名無しさん@ピンキー
12/02/03 01:44:14.69 tX+kFRBn
おつつつつつつつつt

404:名無しさん@ピンキー
12/02/04 03:50:29.39 qdHKMa07
おつ!面白かったでござる!

405:名無しさん@ピンキー
12/02/04 21:49:44.32 61oPFwPa
おつです。
続きも楽しみに全裸待機してますw


406:名無しさん@ピンキー
12/02/04 22:34:22.08 DyNK3N5Y
天秤さん最高でっせ!これからも楽しみにしてます!

407:名無しさん@ピンキー
12/02/07 20:55:53.10 Y4DVGL0W
保守

408:名無しさん@ピンキー
12/02/07 22:18:30.34 i+clLLeD
今年になってまだ投下の無い作者何人いてるんだ?

409:名無しさん@ピンキー
12/02/08 02:47:55.41 I2dtHuWC
長編が長すぎる
10話程度で終わらせろ

410:名無しさん@ピンキー
12/02/08 02:56:15.71 E3/DlDUf
>>409
要望を言うのは自由かもしれないけど、
命令口調で「終わらせろ」っていうのは良くないと思う

411:名無しさん@ピンキー
12/02/08 04:04:01.39 RfMQBmo3
書ききってくれるなら長いほうが俺は好き途中で投げられるともんもんしちゃう

412:名無しさん@ピンキー
12/02/08 12:54:20.58 KsK2mDK0
>>409
気持ちはわかるがそんなもの作者の勝手

413:名無しさん@ピンキー
12/02/08 14:57:00.91 xK6GlPGB
長ければ長いほど楽しめるじゃないか。
長編最高っすよ。

414:依存娘
12/02/08 15:01:48.90 joGPe4Hs
黙れ猿

415:名無しさん@ピンキー
12/02/08 18:18:28.22 9txL7rSq
お前は少しの間しか依存してもらえないのと
長い間依存してもらえるのとどっちがいいんだ?

416:名無しさん@ピンキー
12/02/08 20:25:39.46 W+eGQg4k
長編なんだから長くて当たり前だろ

417:名無しさん@ピンキー
12/02/08 22:45:01.54 CuhPFCLX
いちいち相手にすんなよ、このスレつぶしたいのか?
俺も含めみんなこのスレに依存しているんだ
依存しているものがなくなった奴はどうなるか忘れたのか

418:名無しさん@ピンキー
12/02/08 22:54:58.84 c7Dwqvm+
禁断症状に陥った住民たちが一斉にイモムシみたいにびくんびくんするとか・・・

419:名無しさん@ピンキー
12/02/09 00:10:23.52 CZVFwl/0
その時はみんな依存っ娘にTSしますん

420:名無しさん@ピンキー
12/02/10 03:10:22.37 Zb6iFfiJ
ダメで寂しい人間の、相互援助に関する契約書

佐藤達弘を甲とし、中原岬を乙とし次のとおり契約する。

1.甲は乙を嫌いにならない。

2.つまり甲は乙を好きになる。

3.ずっと心構えをしない。

4.いつまでも心を変えない。

5.寂しいときはいつもそばにいてくれる。

6.といっても乙が寂しいのはいつものことなので、つまり甲はいつもそばにいる。

7.そうすれば多分人生が良い方向に進む。

8.苦しいことがなくなると思う。

9.約束を破ったら、罰金一千万円。

421:名無しさん@ピンキー
12/02/10 05:39:07.88 6+HCyrxj
罰金安くね?

422:名無しさん@ピンキー
12/02/10 13:41:32.08 sThk7fDE
佐藤にとっては人生終わるレベルの金額だと思うけどw

423:名無しさん@ピンキー
12/02/10 13:51:55.48 HMKSaVtn
N・H・Kにようこそ

424:名無しさん@ピンキー
12/02/11 01:40:07.42 qel71EYq
懐かしいw

425:名無しさん@ピンキー
12/02/11 17:39:23.18 jDaTDg7m
最近の婚姻届は斬新ですね

426:名無しさん@ピンキー
12/02/12 12:56:44.70 X/9BQHmH
依存されたいお
依存したいお

427:依存スレの古株3-180
12/02/12 19:04:19.88 jPgKqPol
殺伐とした依存スレに救世主が?!



このスレ内の適当な語句を題に依存小ネタを書こう!
その1は「ほしゅう」だ!

・補習
「先生、何故私だけ毎日補習なんでしょうか?」
「そんなの一分一秒でも貴方のそばに居たいに決まってるじゃない」
「おかげで高二の今の時点で東大余裕なんですが」
「そんなの貴方に良い所に就職してもらって、私とたくさん生む予定の子供たちを支えて
もらう為に決まってるじゃない(*ノωノ)キャッ」
「いや何故そこで照れる」


「それにしても何故私なんです?」
「貴方の靴下の芳しい香が忘れられなくて(*ノωノ)キャッ」
「まさかの靴下匂いフェチ?!」


・補修
「もうしわけありません博士。私の補修に手間を取らせてしまって……」
「いや、いいんだよ。生まれたばかりのロボットである君に料理は未だ早かったみたいだね」
「いえ、私には家事全般をマスターして博士を一人では何も出来ない駄目人間にする使命がありますので」
「……え?」
「そうすれば博士は私無しでは生きていけなくなりますよね?博士(の補修)無しではやってけない私が
これからも確実に存在するには博士も同様にするのが一番手堅いですから^^」

私が即時に彼女を停止させ人工知能を補修したのは言うまでも無い

428:依存スレの古株3-180
12/02/12 19:06:29.81 jPgKqPol

・捕囚
私の目の前には四肢をロープによってベットの端にくくり付けられた裸体の若い娘が居る
凛々しく整った顔を歪め、長く真っ直ぐな金髪をベットの上に広げ、美しい宝石のような碧眼で激情を込め睨んでくる
戦場で剣を交えた相手をこのような状態で見るのは老練騎士と言われた私でも始めてである

敵国の名門武家の跡取り娘であるらしい彼女の体は引き締まっており腹筋が割れているものの
全体的に女性らしい丸みをおびたやわらかそうな印象を受ける
特に胸と尻は非常にボリュームがあり、なんというわがままボディとまじまじと見ていると彼女からの鋭い視線が飛んできた

彼女曰く、一騎打ちで負けた相手に身も心も捧げなければいけない家訓なのだそうで
彼女は捧げる際の作法として、抵抗せず貴方の物になるという意味をこめて四肢を拘束されているので
恥ずかしい所もおっぴろげであるが、この年まで童貞を守ってきた身にとっては刺激的すぎて目を向けられない
さて、このような典型的な据え膳を目の前にして手を出さない理由は
捕虜取り扱いに関する条約や法律に違反するわけでも監視があるわけでも無い


「はっ早くしなさいよ!一騎打ちには負けたけど軍全体では我が国が勝ったんだからね!
私を貰わないと貴方も私も殺されるのよ!私は家に、貴方は国に!
私を抱いて結婚してくれないとここから出さないんだからね!」
……これでは、どっちが捕囚の身なのか分からんな
と、囚人服のまま彼女の屋敷に拉致され地下室に閉じ込められ人生の墓場に放り込まれそうな
哀れな男がつぶやいてみる
依存っ娘が好みだったが、相手の命を握っているこの状況も依存なのかねぇ……


「げ、現実逃避してないで早くしてよ!恥ずかしいんだからね!(*ノωノ)キャッ」
「いやお前自分の目を塞げるって事はロープ解けてるだろ」



・書こうと思えばどんなネタからでも書ける
・だが質はそれなりである
・その2?ねぇよそんなもん

429:名無しさん@ピンキー
12/02/12 20:42:21.41 UQrNWbnu
いいネタだww

430:名無しさん@ピンキー
12/02/12 21:07:33.72 jHN5PKQh
これが救世主か!

431:名無しさん@ピンキー
12/02/13 21:39:07.55 Hgt0Q+iq
マジで今年でスレが終わりそうな予感

432:名無しさん@ピンキー
12/02/13 23:11:38.08 336GBihx
きのこ先生

433:名無しさん@ピンキー
12/02/14 00:03:22.42 aDe4GJ3J
過疎るのはしゃーなしだな。
今こそ自給自足、読み手が書き手になる時だぜ!


434:名無しさん@ピンキー
12/02/14 23:41:41.31 UPzpXOGg
チョコ投げつけんぞ

435:名無しさん@ピンキー
12/02/15 01:48:05.83 Puuo0P8a
これはこのスレも滅びるなぁ
あーどこも過疎だなー

436:名無しさん@ピンキー
12/02/15 01:53:01.34 Wbvq4yyy
まぁ元々過疎スレだったからね
数年前まではここまで続いたのが奇跡なぐらい過疎ってた

437:名無しさん@ピンキー
12/02/16 23:07:52.35 Tq7hJRzT
このスレの住民とずっと一緒だから
寂しくなんかないよ

438:名無しさん@ピンキー
12/02/16 23:24:10.60 1koeMzBt
頻繁に投下してた書き手はどこいった

439:名無しさん@ピンキー
12/02/16 23:56:58.44 OvSp5P5R
天秤さんならいるじゃん。
夢の国さんは某所でも投下してるからなぁ。

440:名無しさん@ピンキー
12/02/17 00:00:19.42 MCazp3qO
色々忙しいんだろ
気長に気長に

441:名無しさん@ピンキー
12/02/17 16:54:33.11 +EQBr31E
そうだよ気長に気長に
作品投下数を現在から一年前までで見てみると相当多いと思うし
たまたま最近多かっただけでしょ

442:名無しさん@ピンキー
12/02/18 13:49:02.93 7RRL15Ew
書き手がちょっと頑張るとすぐ依存しちゃうんだから此処の住人は





それでこそ依存スレッド

443: ◆ou.3Y1vhqc
12/02/18 18:30:29.26 ml/XT2uV
申し訳ありません、偽りの罪の続きを書けなくなってしまいました…
保管庫のコメント欄に偽りの罪1~3話を消していただけるように管理人様にお願いしてきました
一話から3話と短かったですが、見ていただいた方々、本当に心から謝罪し致します
真に申し訳ありません…次からこのような事が無いように心がけますので、今後また書くことがあれば、よろしくお願いします

444:名無しさん@ピンキー
12/02/18 18:46:31.08 PppA31ai
残念だけど>>443の書く作品好きだから次回期待してる

445:名無しさん@ピンキー
12/02/18 19:12:08.72 94Eo7oxX
残念です……。
作者さんの書く作品はとても好きなのでこれからも頑張ってください!

446:名無しさん@ピンキー
12/02/18 22:02:42.94 5wRIMEmO
残念だなあ
良い作品だったのに
応援してます

447: 忍法帖【Lv=40,xxxPT】
12/02/19 22:47:00.98 4wtwfcB0
ぐぬぬ

448:名無しさん@ピンキー
12/02/19 23:42:06.11 q3odGa/C
ええええええ
職人さんがどんどん消えてゆく~
書き手求む!

449:名無しさん@ピンキー
12/02/21 00:13:13.06 /WNuAwXR
職人さんももうあんまり来ないよ。何処も過疎だよ。
天秤さんだけが頼りだよ。

450:名無しさん@ピンキー
12/02/21 01:45:48.35 k8HaeFqx
クライシス

451:名無しさん@ピンキー
12/02/21 09:43:48.44 G3n6aTqW
まぁ新しい書き手が来てくれるのを祈ろう

452:名無しさん@ピンキー
12/02/21 16:59:15.53 yT8EsFIk
読み手が書き手になる時が来てるようだな

453:名無しさん@ピンキー
12/02/21 17:24:26.67 NgoCInQr
ゴクリ…

454:名無しさん@ピンキー
12/02/21 18:26:11.29 hFq9wNwh
生き残るためには自給自足しかないのかー
わはー

455:名無しさん@ピンキー
12/02/22 02:27:36.89 R4ij9XoA
そやねー
じゃあ俺も書くからお前らも書けよー

456:名無しさん@ピンキー
12/02/22 07:34:14.83 XC9WKwK5
まず一人の住人が書いて投下したら他の住人も重い腰をあげるかもな
これで増えなかったらもう無理

457:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:12:33.70 0y7POlyv
し、死にかけた……
インフルじゃないってのに40℃越すって……ありえない!

そして投下します


458:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:13:53.25 0y7POlyv
学園祭 下


一弥は激怒した。

自分を差し置いて娘と仲良くする息子などあってはならない。
そんな奴は俺が粛正してやる!
「どこだ!宮都!出て来い!」
一弥は声を張り上げて宮都を呼ぶが全く出てこない。
当たり前だ……
「怖気ついたかッ!どこにいるんだ宮都ォ!そしてここはどこだッ!」
そう、現在一弥は絶賛迷子中だった。
香代からとどめの一撃を喰らって走り出したとこまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。
現時点で分かっている事は、一弥が森にいるという事だけだ。
「うーん……、一本道を真っ直ぐに来たハズだよなぁ。それなら生命研究棟とやらはこの先か」
取り敢えずそこに向かう事にした。
そうすれば香代たちとも合流出来るだろう。
しばらく歩くと道が二手に別れていた。
目の前の木には右、生命研究棟と書かれている。
それならば右か、と思い進みかけ…ここである考えが浮かんだ。

「もしかして宮都が隠れてるんじゃないか?」
それならば確かめてみるしかない、一弥は左に進んだ。
しばらく行くと行き止まりにぶつかったが、その傍にポツンと小屋があった。
見るからに怪しい……
「宮都でないにしても誰か隠れてそうだな…」
これは父の威厳を回復する絶好のチャンスではないか?
1人見つけた波に乗り宮都も捜し出してやる!
……そして一発ブン殴る!
一弥は力を込めて扉を開けた。
その中には………
「うわっ⁉三田!許してくれ!!もう逃げ出さん!!ーーーーーん?」

白衣をきたオッサンがいた………


「いらっしゃいませ!あっ、君はこの前の……」
莉緒はこくんと頭を下げて挨拶した。
ここは武田研究室、綿あめの良い匂いがする。
「いらっしゃい、残念だけど今日は小宮君はここにいないよ?彼は……」
莉緒は賞金首の紙を三田に見せる。
「ああ、君も参加してるんだ!頑張ってね!綿あめ食べるかい?君にはサービスで無料にしておくよ」
三田はそう言って綿あめ機の方へ歩いて行く。
今日の為に実験室から研究室に運んでおいたのだ。
「あ、………その…」
莉緒はなにかを言いかけたが、声が小さすぎて三田の耳には届かなかった。
そうしている内に…
「はい、どうぞ」
三田は綿あめを作り終え莉緒に手渡した。
「あ、ありが…とう、ございます」
小さく礼を言うと三田はニコッと微笑む。
宮都と同じ暖かい笑顔だった。

459:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:15:03.82 0y7POlyv
「今日、ご両親は一緒じゃないのかい?」
「えと、その…はぐれて、しまって……」
あの後、莉緒と香代は一緒に武田研究室に向かって歩き始めた。
最初は香代が先頭だったのだが、途中で一度来た事のある莉緒が先頭の方が効率が良い事に気付いて交代したのだ。

そしたらいつの間にかいなくなってた………

「それは災難だったね、携帯とかで連絡取らないの?」
それも考えた。でも……
「…これもあるので」
莉緒は賞金首の紙を見せながら言う。
莉緒としてはバラバラで探した方が効率がいいのだ。
「ああ、そっか。懸賞品が豪華だもんね、特に小宮君のジュースとか」
三田も流石に宮都の挑戦までは知らないようだ。
莉緒にとって一番大事なのはその後のご褒美の事だから。

「すみませ~ん」
「はい!いらっしゃいませ!」
今度は別のお客さんがやって来た。女の子5人グループだ。
「綿あめくださ~い!5個!」
三田の手に500円が手渡される。
「はい、ありがとうございます。自分で作る事も出来ますけれど、どうしますか?」
「えー!そんな事出来るの⁉」
「ほら、あの自転車漕ぐんじゃない?遠心力とか簡単に作れそう!」
「やってみようよ!」
「よし!みっちゃん漕いでくれる?」
「任せて!」
そんな感じてワイワイ楽しそうに綿あめを作っていく。

その時、急に音楽が鳴った。
どうやら学内放送のようだ。

『皆様にお知らせ致します。たった今、賞金首No.5番が捕獲されました。残りは9名です、是非頑張ってください』

莉緒は慌てて紙を見る。
一覧を見ると……良かった!お兄ちゃんじゃない!
宮都はNo.10だ。莉緒はNo.5に目印を付けてまた仕舞い直した。


460:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:15:35.27 0y7POlyv
「あの~すみません」
ふと前を見ると女の子が1人三田に向かって話しかけているのを見つけた。
「ここに小宮君っていたりしますか?」
莉緒は全身が硬直した。
ここにも敵が!
「いや、いないよ。だって小宮君って星のマークが最大でしょ?こんな簡単なとこにはいないよ」
三田は笑いながら否定した。
言っている事は尤もな事だ。
「う~ん……ここでもなかったかぁ……。見つからないなー」
女の子達は全員考え込んでしまった。
ここで莉緒はある事に気付いた。今この人は“ここにも”と言った。
つまりある程度他の場所は探し終えたのだろう。
それならこの人達に話を聞けば無駄を減らせる!
しかし、いざ声をかけようとしても声が出て来ない。
莉緒にとって見ず知らずの人に自分から話しかけるのは無理難題にも程があった。
椅子から立ち上がろうと足に力をいれても、すぐに怖気ついてしまって立ち上がれない。

(どうしよう……
この人達に話を聞きたいけど怖い。
もしかしたら断られちゃうかもしれないし……私の事なんか無視してどっか行っちゃうかも……
どうしよう、どうしたらいいの……)


ーーその時

「ねぇあなた達、ちょっとお話を聞かせてくれる?」
研究室のドアに2人の人がいた。
1人は金髪の外国人の綺麗な女の人、もう1人は厳しそうな顔をした日本人の男の人だった………


「あら、莉緒ったらどこに行っちゃったのかしら?」
一方こちらは香代。
現在大学中をウロウロしている。
「全く、母親を置いて行くなんて酷い娘ねぇ」
そもそもはぐれた原因は、香代がイケメンコンテストの出場者を見つけて、
そちらの方に気を取られたからであって莉緒は全く悪くないのだが………
「それにしても格好良かったわねぇ~、サイバ君だったかしら」
そのように浮かれて歩いていると何やら人だかりが見えてきた。
なんだろう?

「みんなー!私に投票してね~。名前わかる?キュートだよー!」
「えへへ、私にもお願いします。マリンです」
人だかりの中心には2人の女の子がいた。
どちらもかなり可愛い子だ。
キュートは腕にリングをたくさん巻いたり茶髪で化粧をしていたりとかなり派手な感じ、一方マリンは清楚な女の子のお手本みたいな子だ。

461:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:16:05.98 0y7POlyv
「ああ、なんだ。ミスコンの出場者ね」
香代は全く興味がない。
一弥なら泣いて喜んだだろうが………
香代はその場を離れようとした。
その時ふと目に付いた1人の女性がいた。
なんかどこかで見た事があるような………
「…………………あ、もしかして」
香代はカバンの中から一枚の紙を取り出す。
紙と女性をよく見比べて………そして。
「ねぇあなた。ちょっと良いかしら?」
「はい?」
「やっぱり、あなた賞金首でしょ!このNo.3の」
そう、この賞金首はミスコン出場者の近くにいる事でその身を隠していたのだ。
ミスコンに興味がなかった香代だからこそ見つけられたのだ。
「………あっれ~?おっかしいなぁ~、幾らなんでも見つかるの早くない?」
とぼけた様子でバンザイのポーズをとる女性。
どうやら観念したようだ。
「うふふ、ゴメンなさいね。えっと、これからどうすればいいんだっけ?」
「私と一緒に支部に行けば良いんですよ。懸賞は大学屋台の25%off券です」
「ありがとう。それじゃあ行きましょうか」
この頃になってようやく周りの人達も賞金首の存在に気づき始めた。
「ゴメンなさいねー、もう捕まっちゃいましたから」
女の子が大きく声を出す。
周りからは悔しそうな声が次々聞こえてくる。
そんな中、誰かが香代達に向かって来た。
ミスコンの出場者の2人だ。
「おめでとうございます!まさかこんな所にいたなんて全く気付きませんでしたよ!」
「本当です。私も全然気付きませんでした。凄いです!」
キュートとマリンが香代に話しかけて来る。
「偶然よ。気付けたのは運が良かっただけ……。でも嬉しいわ、ありがとう」
キュートとマリンが惜しみない拍手をする。
それにつられて周りの観客も次々と拍手をし始める。
香代は拍手喝采に見送られながら支部を目指して歩き始めた。


『皆様にお知らせ致します。たった今、賞金首No.3が捕獲されました。残りは8名です』

「もう2人も捕まっちゃったんだ……」
准は今、自転車レースの出場者に会って来たところだ。
もしかしたらそこに宮都がいるかもしれないと思ったが、残念なことに見当違いだった。
それにしてもここまで見つからないとは………
すでに准はほとんどの催し物を見て回っていた。
素人大喜利のメンバー、喫茶店の店員、合気道の仮面男、その他多数。
数にして約20もの場所を転々と走り回った……が、宮都は見つからない。
実際准は宮都以外の賞金首は既に全員見つけてしまっていた。
それを突き出さない理由はただ一つ、時間の無駄だったからだ。
准にとって宮都以外の賞金首はなんの魅力もない。
そんなもの突き出すだけ時間の無駄。
だから准はひたすら走り回る、宮都を求めて……

462:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:16:28.30 0y7POlyv
「はぁっ…はぁっ、どこにもいない。なんで見つからないの?」
准は甘く考えていた。
どんなに難しいと言われていてもそれは他人からしたらであって、ずっと隣を歩んで来た幼馴染の自分なら簡単に見つけ出せると高を括っていたのだ。
しかし実際探してみると全く見つからない……
「うぅ…ここまで見つからないなんて………どうしよう…このままじゃ………」
ご褒美がなくなるなんて、そんな事は考えてなかった。
絶対に見つかると思い込んでいた。
すぐに宮都に会えると思っていた……
「宮都……一体どこにいるの?うぅ……」
目頭が熱くなって来る。
涙を堪えると今度は喉が少し痛くなってくる。
それでもこみ上げてくる涙をグッと堪えてまた准は走り出した。
次は屋台を見て回ろう、そこにいるかも…………

「よう夏目!どしたんだ、そんなに急いで?」
足を止めて振り返るとそこにいたのは…
「あ、……柳田君」
新聞部に所属している柳田だった。
片手にフランクフルトを持ち、もう片方の手をヒラヒラ振りながら准の元へ歩いて来る。
「どしたよ、そんな張り詰めた顔
してよぉ。祭りはもっと楽しむモンだぞ」
「……ん…」
確かに柳田の言う通りではある。
しかし今はとてもじゃないが祭りを楽しめる気分じゃない。
「…その紙。なるほど、夏目は小宮の事を探しているんだな!それならば俺も少しながら協力しよう」
「え⁉ほ、本当⁉」
「おぅ、俺はお前ら2人を応援してるからな、可能な限り協力しようじゃないか!何か必要な情報はあるか?」
柳田はこの学園祭の事を記事を書くためにいろんな情報を聞き込みしているのだ。
その中には賞金首についての情報もある。
「宮都の居場所は……」
「流石にそれは知らん。他の奴なら2~3人見つけたけどな。
……今まで夏目はどこを探したんだ?」
准は自分が探した場所を全部伝えた。
それを全て聞き終わった柳田の顔は驚愕していた。
「全部1人で探し回ったのか⁉それ全部⁉そりゃあご苦労さんなこった。
………と、なると残りは生命研究棟か屋台だな」
柳田はポケットから手帳を取り出してページをめくり始める。
そして少し唸って准にこう告げた。

463:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:16:57.18 0y7POlyv
「生命研究棟は白だ。ここには先輩が取材しに行ったがどこにもいなかったらしい。
二階から上は立ち入り禁止エリアに指定されていてルール上そこには隠れられない」
柳田はページをもう少しめくる。
「次に屋台だが…ここも白だ。全部回って確認したけど小宮はいなかった。
と、なるとだ……どこにもいないじゃねーか!!」

たった今2人の出し合った情報を元にすると理論上、宮都はどこにも存在しない……出来ない事になる!
「うそ……そんなハズ、そんなハズないでしょ!!」
「まぁ落ち着け。まだ決まったわけじゃない。もしかしたら演劇に飛び入り参加するのかもしれないし………まてよ」
柳田が何かを閃いたらしい。口の中でブツブツ言っている。
「夏目、お前いろんな所を探したらしいが小宮は本当にいなかったのか?うっかり見落としたりとか……」
「そんな事は絶対にない!私達はもう何年も一緒にいるんだよ?そんな事はあり得ない!」
准は息を荒くして柳田に迫る。
まさに掴みかからんばかりの気迫だ。
柳田はそんな准を手で制しながら聞いた。
「もし小宮が変装していたとしてもか?」
「変……装?」
「そうだよ、変装だ。どうだ、見落とす可能性は?」
准は呆然となった。そんな事考えてなかった。
「………分からない。……もしかしたらあるかも」
途端に自信なさげになった。
宮都に対して先入観を持っていたので見落とす可能性は充分にある。
その様子を見た柳田は
「どうやらもう一回探し直しみたいだな。俺も協力するから頑張ろうぜ!」
親指をグッと立ててそう言ってくれた。
柳田も結構楽しんでいるみたいだ。
「柳田君、ありがとう。私一人じゃ変装なんて思いつかなかったよ
!」
准も俄然やる気が出てきたようだ。
先程までと比べてもかなり表情が柔らかい。
柳田は地図を取り出した。
「それじゃあ俺はこっちのエリア、夏目はこっちのエリアを捜してくれ。もし俺が見つけたらメールする。捕まえるのはあくまでおまえだ!」
「分かった!本当にありがとう!それじゃあね!!」
そして2人は同時に走り出した………


「ーーーーで、こっちにもいませんでした。残ってるのはこの生命研究棟ぐらいしか……」
「あなた達凄いわね!5人でこんなに多くの場所を探したなんて…」
そしてここは武田研究室。
金髪の外国人女性が女の子達から話を聞き終わったところだ。
「それでは私達、そろそろ行きますね」
「ええ、ありがとう。わざわざゴメンなさいね」
5人は武田研究室から出て行った。
大方別の場所を捜しに行ったのだろう。
「それにしても凄いわねぇ宮都君は……、どこにいるのかしら?」
「私達も本格的に捜したわけでもないだろう」
日本人男性が静かに応える。
その言葉には本格的に捜せば必ず見つかる、というニュアンスが含まれていた。
「……………」
一方莉緒は今までの会話を盗み聞きしながら作戦を練っていた。
どうやら宮都を見つける事は至難らしい。
本当に私に見つけることが出来るのだろうか?

464:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:17:22.16 0y7POlyv
「あっ、そんな事よりも……」
女性はハッとしたように三田の方へと歩いて行き、男性もそれに続いた。それに気づいた三田は…
「いらっしゃいませ、綿あめですか?」
2人に笑顔を見せながらそう言う。
しかし女性は首を横に振った。
「いえ、ご挨拶に来たんです。あなたが三田さん?」
「え、…はい、そうですけど」
「いつも娘がお世話になっております。私、夏目准の母の夏目エリザと申します。こちらは主人の智久」
2人は軽く頭を下げる。
准からこの研究室の事はよく聞いていたのだ。
三田はようやく得心がいった様子で顔をほころばせた。
「そうでしたか!初めまして、4年の三田 隆(タカシ)です」
三田は2人にそれぞれ挨拶をする。
その様子を莉緒はジーッと見ていた。
これが……夏目 准の両親…………
莉緒の目から見てもエリザは美人だった。
顔は綺麗だし髪の毛も凄く綺麗、さらにはスタイルも抜群!

(あのまな板の親がこんな人だったなんて………。もしこのスタイルがあの女に遺伝してたら……)

そう考えるとぞっとする。莉緒も決してスタイルが悪いわけではない。
胸だってCはあるし太り過ぎず痩せ過ぎず、まさに標準体型だ。
しかし、そこは女の子。
自分では魅力がないと思い込んでいるのだ。

「ところでそちらにいるのは小宮君の妹の莉緒さんですよ。ご存知ですか?」
「………ッ⁉」
急に自分の名前が出て来て驚いた。
バッと顔をあげると3人の目が莉緒を見ていた。
「もしかして莉緒ちゃん?わぁ~久しぶり。覚えてる?准のお母さんのエリザよ!」
嬉しそうな顔をして莉緒に話しかける。
莉緒は正直覚えていない。
最後にあったのは小学校の頃なのだから……
「ぇ……お、お久しぶり……です………」
なんとか返事をする。
こういうフレンドリーなタイプは莉緒が最も苦手とする人種だ……
「あら、緊張してるの?別に平気よ~、莉緒ちゃんも宮都君を捜してるの?」
今この人はなんと言った?莉緒ちゃんも?
「ぁ…ぇ……、エリザ…さんも、お、お兄…ちゃんを?」
「そうなの、娘に頼まれてね。何か勝負をしてるみたいなのよ」
なんて事だ!つまりこの人たちも私の敵じゃないか!
莉緒は焦る。敵に宮都の情報を知られてしまった事を。
こうしてはいられない!
「ご、ごめんなさい!わ、私…もう行きます!」
莉緒は慌てて立ち上がると軽くお辞儀をして急いで出て行ってしまった。
「あら、どうしたのかしら?」
エリザはそれを呆然と見送りながらポツリと呟いた。
智久はなんとなく予想はついていたが、それを伝えるのも野暮だろうと思い静かにこう言った。
「彼女にも色々と事情があるのだろう。あまり詮索はしない方が良い」
「ん……、それもそうね」


465:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:18:44.03 0y7POlyv
「いやぁ~、色々と楽しいもんですなぁ」
「全くだ。あっ!あそこにミスコンの出場者がいるぞ!」
「おおっ!あれはキュートちゃん!写真で見るよりも全然美人だ!いやぁ眼福眼福!」
こちらでは武田と一弥のペアが2人で大学巡りをしていた。
あの小屋で目を合わせた途端、2人には何か通じるところがあったらしく、次の瞬間ヒシッと握手をしていた。
「マリンちゃんも一緒にいるじゃないですか!ほら、キュートちゃんの後ろ!!」
「おお、あいつかぁ……。俺の講義を履修してる奴だ!」
「おお!して名前は?」
「それは言えん。俺がクビになっちまう」
まるで旧知の仲のように会話する2人。
本当に運命的な巡り合いだった………
一弥がパンフレットを見ながら武田に提案する。
「もうすぐ素人大喜利が始まるんですが、ご一緒に如何ですか?」
「なに?そんなものまであるのか!よし、行こう!」

「素人大喜利、会場はこちらです!一列になってお並び下さ~い!」
既に会場には長い列が出来ていた。
2人はその最後尾に並ぶ。
「いやぁ~、楽しみですな!朝、門のところでパンフレットを貰った時から楽しみで……」
「ああ、本当に。これでビールと柿ピーがあれば最高なんだがなぁ………」
「ッ!!あなたとは本当にうまい酒が飲めそうです!今度どうですか?」
「よし!そうしよう!」
完璧に意気投合している。
ちなみに一弥の頭からは宮都を捜し出すことは既に欠落していた…………


「ここにもいない~」
「どこにもいない~」
「帰ったんじゃないの?」
「それはルール違反……。絶対にどこかにいるハズ」
「…………………」
一方こちらはエリザに情報を渡した5人組。
以前宮都に勉強を教えて貰った谷野を初めとするグループだ。
現在も宮都を必死で捜索中。
「本当に見つからないね~」
「ホントホント、帰ったんじゃないの?」
「だからそれはルール違反…」
「ねぇ、みっちゃん。何か思い付かない?」
リーダー格の谷野は先ほどからずっと黙って考えている。
宮都が隠れられそうで自分達が探そうと思わないだろう場所を。
しかし……
「…………ダメッ!わけわかんない!!」
ずっと黙って考え込んでいた谷野がついにキレた。
「全くわかんない!どこッ!どこにいるのッ!とっとと出てこ~い!!」
力の限り叫んだため通りすがりの人々がビクッとして谷野を見る。
しかし谷野はそんな事をお構いなしにチクショー!とかコンニャロー!とか叫び続けた。
「みっちゃ~ん、叫んでも小宮君は出てこないよ……。むしろ逃げちゃうんじゃない?」
「むー………」
仲間に指摘され渋々叫びをやめた。見るからにしょんぼりしてる。
「もうこの際諦めちゃおうよ……。どうせ答えは発表されるんだしさ。また来年頑張ろうよ」
この5人組、ここ3年間ほどこのゲームに参加し毎回最難関の賞金首を捕まえているのだ。
しかも開始から3時間以内に……
「でもさぁ……なんか悔しくない?」
「まぁそうだけど…」
「………こんな年もある……我慢も大事…」
「むむむ~」


466:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:19:13.27 0y7POlyv
全員の間に諦めムードが漂い始めた。そんな時…

『にゃ~……にゃ~…』

「あ、ごめん。電話来た」
谷野が携帯を取り出して通話を始める。
随分とかわいい着信音だ。
「もしもし、ーーーえっ⁉今どこ?ーーーーーうんーーーあぁそこですか。はい!ーー…はい、今から行きます、そこで待ってて下さいねっ!」
谷野は電話を切ると嬉しそうな顔をして皆に向き直った。
「今電話があったんだけどね、私の叔父と従妹が来たんだって!ちょっと迎えに行ってくる」
「え~⁉みっちゃんの従妹ぉ⁉」
「どんな子⁉可愛い⁉格好良い⁉歳は⁉」
「男の子?女の子?」
「もしかして年上だったり?」
一瞬にして宮都のことは忘却の彼方へ行ってしまったようだ。
「前に会った時は幼稚園だったから今は小学1年生かな?それと女の子」
全員がキャーキャー黄色い悲鳴をあげ始める。
そんな親友達を手で制しながら谷野は校門へと歩き始めた。


(しばらく会ってなかったけど……元気かなぁ…楓ちゃん)


こうして時間は過ぎて行く……。しかし、誰も宮都の姿を見つけられないまま学園祭終了まで残り2時間となった。


「はぁっ…ゲホッ!……はぁ…はぁ……」
准はもう一度大学全ての催し物を捜し回っていた。
既に息はあがっていて身体中から滝のような汗が吹き出ている。
柳田からの報告によると既に賞金首の人数は250人を超えているらしく、宮都以外の賞金首は全員捕まっている。
でも……宮都だけが見つからない!
「みや…と、はぁ…はぁ…、本当に…どこ行っちゃったの………」
大丈夫、まだ1時間ある。まだ捜す時間は充分にある!
「もう一回喫茶店の方に…行ってみよう……かな」
既に息も絶え絶えでかなり疲れている。
しかし、諦めることなどできない!
宮都からのご褒美を絶対に手に入れてみせる!!

ドサッ!!

准は走って曲がり角を曲がろうとしたが、そこで誰かにぶつかってしまった。
「あっ!ゴメンなさ……い……」
「何をしてるんですか、夏目先輩?痛いじゃないですか」
「り、莉緒…ちゃん…」
目の前にいたのは莉緒だった。
この前も見たあの冷たい視線を向けられている。
「どうですか?お兄ちゃんは見つかりましたか?」
冷たく笑いながらそう尋ねる。
全て分かっているクセにそれでも聞くのだ。
「………まだ見つかってない。でもそれはあなたもでしょ?」
「ええ、まだ見つかってません」
平静にそう返す。
その態度に准のイライラは募るがそこはグッと我慢。

467:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:19:54.14 0y7POlyv
「それならこんな事してる場合じゃないんじゃないの?早く探しに行ったら?」
准としては早いところ宮都を捜しに行きたかった。
こんな事をしてる間にも刻一刻とタイムリミットは近付いて来てるのだから………

「先輩。なぜそんなに必死なんですか?」
横を通り抜けようとした時、莉緒が唐突にそんな事を聞いてきた。
准にはその言葉の意味が理解出来ない。
むしろ、なぜ莉緒が必死にならないかがわからない。
「なんでそんな事をわざわざ?頑張るのは当然でしょ⁉だって………」
「私、最近お兄ちゃんと一緒に寝てるんですよ」
「なっ⁉」
今この女はなんと言った?寝てる?宮都と一緒に?
「本当の事ですよ。お兄ちゃんと一緒のベッドで…お兄ちゃんに撫でて貰いながら、お兄ちゃんに抱きしめて貰いながら寝てます」
莉緒は淡々と、それでいて勝ち誇った様に告げる。
「ですから私にとってお兄ちゃんからのご褒美はそこまで魅力がないんです。だって頼めばいいんですから、どんなことでも……」
莉緒はウットリした顔でそう言う。
その顔を見るだけで莉緒が今までどんな事を宮都に要求したのか大体の予想が付いた。
「わ、私だって…宮都に頼めば……」
「一緒に寝てくれると思いますか?そしてそれ以上の事を、頼んだだけで……してくれると本気で思ってるんですか?同じ家に住んですらいないあなたが?」
「……………」
「ですよね。私が避けたかったのは、あなたがお兄ちゃんを見つけてしまう事だけです。でも、ここまで捜して見つからないのなら、もうその心配もないでしょう。
安心して下さい。私はもう積極的にお兄ちゃんを捜す事はしませんから」

『賞金首ゲーム、残り45分です。まだNo.10の小宮 宮都君が潜伏しています!』

准は放送を聞いてハッとする。もう時間がない!
「もうこんな時間ですか………。急いだ方がいいですよ、このままじゃ2人とも罰ゲームになっちゃいますから」
全く焦った様子のない莉緒の横を准は黙って通り過ぎた。
まだ時間はある……絶対に捜し出してみせる!

現時点で大学内の至る所は既に探索済みだ。
どこかに黙って隠れているという事はあり得ない!
つまり宮都は変装をして私達の前に堂々と姿を現しているハズ!
それに私が気付いていないだけ……、じっくりと観察すればわかるハズ!わからないわけがない!!
そう、焦った所で何も始まらない……
今の最優先事項は落ち着く事…、これさえ出来ればかなり有利になる。
「はぁー、すぅー、はぁー」
深呼吸して呼吸を整える。
深呼吸はまず息を吐く。
昔宮都から教わった……
ひとまず大学キャンパスの中央広場に向かう。
今、最も人が多いのがそこだろうとふんだのだ。


准の予想通りそこは人で溢れかえっていた。
一番外側には覆うように屋台が並んでおり、自転車レースの優勝者や劇団カナリアのメンバーなども全員揃っていた。
少し離れて人だかりが見える。
准は何の集まりだろうと確認に行くと、どうやらイケメンコンテストとミスコンの全参加者が最後のアピールをしている所らしかった。
念のためその人混みを丹念に捜すが、宮都らしき人物はいない。
変装している可能性も考えながら捜したが、それでもいないみたいだ。
その時、少し遠くから歓声が聞こえて来た。
人だかりも出来ている。
まさか宮都が見つかってしまったのか⁉
緊張した面持ちでそちらに向かうと………

468:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:21:41.96 0y7POlyv
‘保護者様のド素人大喜利’

と書かれた垂れ幕がかかっており、簡易的なステージが用意されていた。
その中心に中年の男が5人ほどいる。
その中には………


「はい!」
「それでは小宮さん」
「『手術上手』と書いて…」
「どこですか?」
「エーゲ海(エエ外科医)」
「おぉ……これはうまい!座布団2枚!」

「はい!」
「……武田教授、大丈夫ですか?」
「今度は大丈夫だ!」
「さっきは酷かったですよ…」
「平気だって、俺を信じろ!」
「はぁ……それじゃあ武田教授」
「はい!『男』と書いて…」
「どこですか?」
「アルゼンチン!」
「馬鹿野郎ッ!」
「でもウケてるからいいじゃねえか!」
「女の子もいるんです!1枚持って行きなさい!!」


「武田教授⁉なんであんな所に……。今日は一日中研究室にいるって………
それにあの人……宮都のお父さん⁉」
「そうなのよ~、子供みたいに張り切っちゃってねぇ」
「!!あ…お、小宮さん」
「お義母様、でも良いのよ」
香代はイタズラっぽい顔で微笑んだ。
手には沢山の荷物を持っている。
「賞金首を捕まえて25%off券を貰ってね、沢山買っちゃったわ」


「はい!」
「小宮さん」
「着物とかけて空と解きます」
「その心は?」
「どちらも、模様が大事です」
「うまいですねぇ!座布団1枚!」

「はい!」
「……………武田教授」
「電車とかけて新婚初夜と解く」
「……………その心は?」
「連結します」
「全部持って行きなさいッ!!!」


469:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:22:10.21 0y7POlyv
「あらあら、でもお上手。宮都の研究室は毎日楽しそうねぇ……。
ところで准ちゃん、宮都は見つかったかしら?」
「……まだです。どうしても見つからなくて…」
「准ちゃんでも?本当にどこ行っちゃったのかしらね」
香代はため息を吐いた。
香代も香代なりに精一杯捜したのだ…が、それでも見つからなかった。
「准!」
「あ、お母さん!お父さん!」
「あら!夏目さん、お久しぶりです」
「あら小宮さん!お久しぶりです。いつも娘がお世話にーーーー」

簡単なやり取りを3人で交した後それぞれが報告を始める。
とは言っても宮都が見つからなかった事は目に見なくとも明らかだった。
「私達もね、女の子とかに情報を聞いたりして沢山の場所を調べたんだけど………」
「………………スマン」
エリザは申し訳なさそうな顔で、智久は難しい顔で准に報告した。
「うん………大丈夫、だって…私も…見つけられなかった…から」
泣きそうになるのを必死に我慢し、声を絞り出す。
幸いな事に周りの人は全員ド素人大喜利に見入っている。
「だから、もういい……諦める」
周りが拍手に包まれる。
どうやら大喜利が終わったようだ……
そして………


『賞金首ゲームのタイムリミットまで後10分!中央広場のステージでカウントダウンを行い、その後解答を発表します!!
それと同時にイケメンコンテストとミスコンの結果発表も行います!!!』


「おお、皆さんお揃いで!スーパースターの小宮 一弥が来ましたぞ!」
「俺もいるぞ!」
大喜利の終わった2人が肩を組みながらステージから降りて来た。
一弥は座布団獲得数が一番多かったので粗品の紅茶葉の缶を持っている。

それからはかなりゴチャゴチャだった。
小宮、夏目両家の両親が武田に挨拶、一弥が夏目家の3人に挨拶、
いつの間にか戻ってきていた莉緒はずっと香代の後ろに隠れていた。
ステージの周りにはミスコンの結果発表や宮都の隠れ方を見ようとたくさんの人が集まって来た。
その中には三田もいたわけで…………、これ以上語るのは野暮だろう。

と、そこに…
「おーい、夏目!」
遠くから柳田が走ってやって来た。
「あ…柳田君……」
少し息を荒くしながら准の正面まで真っ直ぐに走って来た。
「駄目…だったのか?」
「うん……せっかくヒント考えてもらったのに。ゴメンね…」
「謝るのは俺の方だ。もしかしたら俺の言った事で変な先入観を持たせちまったかもしれないし…」
申し訳なさそうに頭を下げて詫びる柳田。
その光景を見ていたエリザが柳田と准に近づいて行く。
「あなたは准に協力してくれたの?どうもありがとう」
「え?あ、はい。えっと……夏目のお姉さんですか?」
「ううん、私のお母さん」
「は?お母さん?この人が?」
(若っ⁉ 30前半に見えるぞ⁉いやでも夏目は今20歳だし……一体いくつだこの人⁉)
「あっちにいるのがお父さんで、あそこの2人が宮都のご両親」
「うえぇええぇ⁉」
まさか宮都と准の家族が全員いるとは思わなかったのだろう。
素っ頓狂な声をあげてしまう。
その時………

470:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:22:36.33 0y7POlyv
『えー、皆さん。大変お待たせ致しました。ただ今よりミスコンとイケメンコンテストの結果発表、及び賞金首ゲームの解答を行います』

周りが一気に騒がしくなる。自分の投票した子は何位だ?とか宮都の隠れ場所の考察などが聞こえてくる。
「さて、俺の投票した子はどうだろうな」
「俺の選んだ方が良いに決まってる!」
武田と一弥も例外ではなく……
「私の投票した子はどうだろうか………」
智久も例外ではなかった……一体いつの間に………

『それではまずイケメンコンテストの発表から始めます。』
声と同時に参加者4人が舞台袖から出てきた。
全員緊張の面持ちだ。
そして周りが静まり返る…

『順位はーーーー』

順位が発表され、一位の学生がトロフィーを受け取り、その場にいた全員が惜しみない拍手を贈る。

『はい、おめでとうございます!………それでは次にーーーー』

そんな風に周りが賑やかななか、准は1人、へこんでいた。
さっきは諦めると言ったものの、時間と共に悔しさが増してくる。
それでもただ、自分のつま先を見て涙を我慢していた。
そして莉緒もまたへこんでいた。
ご褒美に魅力が無いのは本当の事だが、出来るなら自分の手で兄を探し出したかった。
だってメールには『捕まえてくれ』と書いてあったから……、兄は見つけて貰うことを望んでいた……
それなのに…見つけられなかった。

だから仕方なかった。
目の前に提示されていた“解答”に気付かなくても…………


『それでは発表します!ミスコンの順位は…………』

それはとても小さな声だった。
普通ならとても聞こえないような小さな………
しかし結果発表寸前で、静まり返っていたその空間には充分過ぎるほどの声量。

「みやとせんせー?」


471:天秤 第16話 ◆9Wywbi1EYAdN
12/02/22 20:23:03.16 0y7POlyv
「「えッ⁉」」
今の声は誰?…それよりも今宮都って……。
准と莉緒は同時に顔を上げて舞台を見る。
そして……そこに……宮都が…いた……

「え!宮都いたの⁉どこどこ?」
「やっと出たな!俺が成敗してくれる!どこだ!」
「あら、見つかったのかしら?」
「………………」
「やっとあいつも見つかったのか」
「これが答え合わせなんですかね?」
「よっしゃ!デジカメ持って来て正解だ!誰だ、見つけたのは?」
「お兄ちゃん?どこ、お兄ちゃんッ!」
それぞれ香代、一弥、エリザ、智久、武田、三田、柳田、莉緒のセリフだ。
つまりまだ誰も気付いていない……
目の前に解答が“いる”のに………

「宮都ッ!」
准は舞台下に駆け寄った。群がる人をかき分けて、押しのけて…やっと辿り着いたその先に先客が6人。
「夏目さん?」
「谷野さん!さっきの声ってあなただったの?」
「ううん、私の従妹の子がね………」
「やの かえで です!よろしくおねがいします!」
「え?よろしく………」
「それよりも小宮君がいるんでしょ?どこどこ⁉」
どうやら谷野も宮都に気付いていないみたいだ。
気付いているのは准、楓の2人だけ。
その他は誰も気付いていない。
親も、妹の莉緒さえも…………

恐らく100人以上はいるであろうこの空間でたった2人だけが気付いているのだ。
用紙を見ながら確認している人もいるがそれでも気付いていない。

『あの~?』
「舞台に上がってもいい?」
准が司会者にそう聞く。
どうやらこの司会者も、そしてミスコン、イケメンコンテストの出場者すら宮都に気付いていないようだ。
「あのね、そこにみやとせんせーがいるの」
「そう。だから上がっていい?」
司会者は何やら舞台袖の人物と小さな声でやり取りをしていたが、それが終わると准と楓を手招きして舞台に上がるように指示した。
「ありがとう」
「ありがとうございます!」

そして2人はとうとう対峙する。ずっと探していた宮都と………
「……本当に気付かなかった。全く考えもしなかった。まさかこんな所にいたなんて…………
一度でも見ていたら…すぐに気付けたのに……」
准は疲れたような声でその人物に語りかける。
相手は眉一つ動かさずに聞いている。
会場の全員がその様子を固唾を飲んで見守っている。
未だに宮都の正体に気付いている者はいない。

「ねぇ、せんせー?」

そこに楓が決定的な一言を放つ。

「なんで、おんなのこのかっこうしてるの?」


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