【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】at EROPARO
【貴方なしでは】依存スレッド10【生きられない】 - 暇つぶし2ch50:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 22:51:44.63 e05eSPoj
危機


『おい、准。待ってくれよ』
『へへ~ん。早く早く~』
准と宮都は道を走っていた。今日は前から約束していたデートの日。
宮都には買い物に付き合って欲しいとしか言ってないが、准にとっては完全にデートのつもりだった。
一緒に洋服を選んだり、食事したり、手を繋いだり………そして腕を組んだり。他にもたくさんしたい事がある。
今日一日、宮都は私のもの。誰にも渡さない。だって私は宮都が大好きだから。
『宮都、早くこないと置いてっちゃうよ。急いでよ』
後ろを振り向きながら呼びかける。するとそこには“やれやれ”といった表情をした宮都が………

“いなかった”

『………え?』
そんな馬鹿な。ここは一本道のはず、いきなりいなくなるなんてあり得ない。
『み、宮都。どこ行ったの?』
呼びかけても何も帰ってこない。すると准の視界にマンホールが入ってきた。准は持っていた細い鉄の棒でマンホールの蓋を持ち上げるとそのままマンホールの中に入る。

螺旋階段を降りて行くと何やら複雑な形をした彫刻がおいてあった。准は恐る恐る彫刻を触る。

次の瞬間准は大空を飛んでいた。青い液体でできたパラシュートを上手く操作しなんとか地面に着地する。

『すみません。このお花一つ下さい』
急に誰かに話しかけられた。何処かで会ったような気がする老婆がそこにいた。
准は男にそばに置いてあった電車の模型を渡すと、後ろにある扉を
開き中に入って行く。

そこには宮都がいた。准は宮都に声をかけようとしたが、口に入っているモノのせいで声が出ない。

待って!

心の中で呼びかけるが宮都はどんどん先に進んでいく。よく見るとそばに女の子が1人いた。
宮都と女の子は腕を組みそのまま歩いていく。何でだろう、脚が動かない。
宮都がこっちを見た。そして微笑みながら手を振って『バイバイ』そう言って2人は腕を組んだまま歩いていく。
『待って!私を置いてかないでええええぇぇぇ!!!』
2人は何も応えない。まるで恋人同士のように歩いていく。

女の子が宮都に抱きつく。2人はそのまま飛行機から飛び降りていった。

そして……………



「はぁっ、ハァッ、はぁ、……夢?」
そこで准は目を覚ました。大粒の汗をかき肩で息をしている。ここは………休憩室。
そして准は思い出す。宮都に頭を撫でてもらったこと、膝枕してもらったこと、そのまま眠ってしまったことを。
宮都は……いない。本当は今すぐ抱きつきたいのに……
「ははっ。何で夢ってどんなにあり得ない事が起こっても受け入れられちゃうんだろ」
あまりにも恐ろしい夢だった。宮都が私から離れて行ってしまうなんて、考えるだけで泣きそうになってしまう。だから自分自身にあれはただの夢だと言い聞かせる為に無理矢理に笑い声を上げた。
今回の夢はあり得ない事だらけだった。余りにも前後の辻褄が合わなさすぎて、それなのに全く気づかなくて……だってそんな事あるわけない。

(起きなくちゃ)
このまま起きて扉を開ければそこには宮都がいる。私の顔を見れば一目で、怖い夢を見た事を察してくれるに違いない。
うんと甘えて、撫でてもらって、抱きしめてもらって、あの笑顔で微笑んでもらって………
あっ!でも武田教授と三田先輩がいる前じゃちょっと恥ずかしい。………そうだ‼宮都に手招きして休憩室に来てもらおう!そして2人っきりになってから………
准はソファーから起き上がると毛布を畳んで定位置に置く。ハンドタオルで顔を拭くと、研究室に戻るためドアを開けた。宮都にうんと甘えるために……

51:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 22:53:29.21 e05eSPoj
宮都は焦っていた。まさかこのタイミングで准が起きるとは夢にも思っていなかった。
准の寝起きの機嫌はとても悪い…情緒不安定になっていると言っても過言ではないくらいに。どうすればこの状況を簡潔に説明出来るのかを必死に模索する。
「ねぇ」
いつの間にか2人のすぐそばに来ていた准は莉緒に声をかける。宮都も聞いた事の無い、とても冷たい声で。
莉緒はそこでやっと准の存在に気付いたらしい。顔を上げて准を見る。
准も莉緒を見る。そしてお互いの目があった瞬間……
「きゃっ!」
准が莉緒を突き飛ばした。両肩を掴んで力任せに。そのまま莉緒は仰向けに引っくり返って床に背中を打ってしまう。これには宮都も慌てて
「おい、准!お前なにやって…」
「それはこっちのセリフでしょ!私が寝てる間一体こいつは私の宮都に何をしてるのッ!!」
准は大声で叫び莉緒を睨む。敵意や憎しみ、下手をすれば殺意すらこもっているような目で。しかし莉緒は俯いているものの平然としている。
「准、少し落ち着け。お前も知ってるだろ?俺の妹の莉緒だよ。今日は友達と一緒に大学見学に来ただけだ」
宮都は諭すように語りかける。今の准は少し興奮しているだけだ。話せばちゃんとわかってくれる。
「だったらなんで、なんで抱きついたりなんか……あんなに身体擦り付けて……ねぇ、なんでぇ?」
今にも泣き出しそうな声でそう言われ、グッと言葉に詰まる。実際のところ宮都自身まったく理由が分からない。

「………妹が兄に抱きついては……いけないんですか?」
莉緒が静かにそう言った。すでに立ち上がっている。目には明らかに敵意が宿っていた。
准は莉緒を涙目ながらもキッと睨んで
「場所を考えなさいよ!よりにもよってこんな………」
(こんな、私の前で……私の、私の宮都に………)
悔しさで涙が溢れてくる。胸がキュッと締め付けられる。さっき見た夢と目の前の状況が准の中で重なる。

………さっきの夢?

あの夢の最後はどうなった?…確か宮都ともう一人の女の子が……。一緒に…どこかに……


「夏目先輩こそ……校内で手を繋いだり、腕にしがみ付いたり……片時も離れず一緒に行動してるらしいじゃないですか」
莉緒はここに来るまでに柳田からいろいろ話を聞いていた。2人の大学での様子や評判などを。
結果、2人は周りの人ほとんどから恋人と認識されている事がわかった。
このままでは兄が准に盗られてしまう……だから、このような行動をとった。

ーーこんな女にお兄ちゃんは渡さない!お兄ちゃんは私だけのモノ!ーー

「そんな人に……そんな事、注意されたく………ありません」
莉緒は既に覚悟している、准と宮都の盗り合いをする事に。
一度覚悟してしまえば勝手に言葉が出てくる。……普段は言えないような事でも
「それに……兄は私のものです。決してあなたのものじゃありません。……あなたなんか……ただの幼馴染じゃないですか」
「そんな、そんな事………」
“幼馴染” 宮都と准を繋ぐ唯一の関係。准もわかっている、自分と宮都は所詮“ただの幼馴染”でしかない事に。だから何も言い返せない……

52:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 22:54:23.10 e05eSPoj
「お前ら少し落ち着け」
宮都は静かに、しかし有無を言わせない口調で言う。顔にはポーカーフェイスが張り付いていて何を思っているのか2人にはわからない。
「えっと、准は莉緒を突き飛ばした事を謝れ」
「な、なんで!?なんでよ!だってこいつは宮都のこと押し倒して……」
「それでも突き飛ばしたのは事実だ。悪い事をしたんだから謝れ」
准は目の前が真っ暗になった気がした。私は宮都のためにやったのに、なんで謝らなくてはいけないのだろう?しかも助けた宮都自身に叱られるなんて………
しかし宮都には絶対に嫌われたくない。そんな事考えられない、あってはならない。
「突き飛ばして、ごめんなさい……」
准は悔しさに顔を歪めながらも頭を下げて謝る。悔しかった、ただ悔しかった。宮都が自分より莉緒を大事にしている事がこれでわかってしまったのだから……

しかし…

「よし、次は莉緒だ」
宮都は今度は莉緒に向き直る。
「………?」
「莉緒、お前も准に謝れ」
「……え?」

莉緒は困惑した。お兄ちゃんは今この女に謝らせたばかりなのに。なんで私まで謝らせるのか?

その表情を読み取ったのだろう、宮都は口を開く。
「突き飛ばされて怒ったのはわかるが、その後准を挑発するようなことを言っただろ。そのことだ」
「………だって私はいきなり、……突き飛ばされて…」
「それでもだ。あんなこという必要は無かっただろ」

莉緒は納得できない。この女は私の邪魔をした極悪人だ!私とお兄ちゃん、2人きりの時間を邪魔した!

「……イヤ」
「莉緒!」
「……私は何も悪くない。…悪いのはその女だけ………」
「准の事を“その女”と呼ぶな。俺の大事な幼馴染なんだぞ」
「……………………」
莉緒は下を向き黙り込む。
「ほら、早く謝るんだ」
絶対に謝りたくない。私は悪い事なんかなにもしてない。でも……
「夏目先輩。……すみませんでした」
お兄ちゃんに嫌われたくない。そのためならプライドだってドブに捨てて見せる。こんな女にだって頭を下げて見せる。

宮都は莉緒が謝罪したことを見届けると
「よし。これでこの件は終了だ。お互いもう何も言うなよ」
これで一件落着……はしていない。それは宮都にもわかっている。これはお互いが“仲直りした”という事にするための儀式だ。取り敢えず今のところはこれでいいだろう。細かい事は後日に後回しだ。

53:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 22:56:02.37 e05eSPoj
「それにしても、柳田と高橋さんは何やってるんだろうな。全然帰って来ないし」
「え、柳田君来てるの?それに高橋さんって?」
「柳田には綿あめ機の事で呼んだんだ。記事にして貰おうと思ってな。高橋さんってのは莉緒のクラスメートだ」
ふ~ん、と言いながら椅子に座る准に宮都はジュースを注ぐ。
そこにドタドタと足音が聞こえて来た。2人が帰って来たのだろうか?
バタン!とドアが開き、武田が飛び込んで来た。気持ち悪いくらいの笑顔だった……、というか実際に気持ち悪い。
「おい、綿あめ機の許可が下りたぞ。しかも100円で売って良いらしい!!」
宮都は正直助かったと思った。これで話を別の方向に持っていける。何せ教授なのだから。
「そうですか。何よりです」
「おぅ!」
してやったり、といった表情で笑っている武田に宮都は高校生の妹と友達が見学に来ている事を告げる。

莉緒と武田はそれぞれ挨拶した後、早速研究室の説明を始めることになった。
「……よろしくお願いします」
「わかった。それじゃ色々説明するからこっちに来てくれ。あともう一人はどこだ?」
その瞬間
「ただいま~」
希美と柳田が帰ってきた。希美は何故かホクホク顔だ。
「やっと帰ってきた。…希美、何してたの?」
「これ見てよ~」
携帯を広げて見せる。画面には5~6匹の猫に囲まれている希美が写っていた。
「凄く可愛かったぁ。私ここ受験する~」
「おお、そうか!!研究室も是非ここを選んでくれよ」
武田がそう言うと希美はキョトンとして宮都に視線を向ける。
「この研究室の顧問の武田教授です。主に微生物についての研究をしています」
宮都がそう言うと希美は慌てて
「あ、申し遅れました。私、高橋 希美と申します。今日はお忙しい中………」
そんな希美を遮って
「そんな固っ苦しい挨拶なんか要らん。俺はそんな事全く気にしないからな」
笑いながらそう言う。このような所が武田の人気の秘訣なのだ。ただ本人がそういう堅っ苦しいのが嫌いなだけだが。

54:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 22:59:36.18 e05eSPoj
その後10分ほど質疑応答が行わた。今の莉緒は先ほどからは考えられないほど無口になっている。これが本来の莉緒なのだから当然ではあるが……
それよりも問題は准の方だ。さっきから黙り込んだままで何も喋ろうとしない。

「綿あめのお客様がいらっしゃいました……あれ、先客がいますね」
そうしている内に三田が学生数人を引き連れて研究室へ戻ってきた。
「チラシを貼っている時に出くわしてね、全員同じ学科の人なんだ」
「「「「綿あめ食べに来ました~」」」」
全員が一斉に声をあげた。なんか子供っぽい気がする。

「わかりました。それから教授、ちょっといいですか?」
宮都は武田に声をかける。
「ん?」
「先ほど作ったチラシには綿あめ代は50円と書いてありましたよね?だから三田先輩には………」
「諸君!!よくぞ来た、申し訳ないがチラシには50円と書かれていたのは三田が独断専行で決めた価格なんだ‼本当の値段は100円なのだ‼
だから100円を払ってもらうぞ!恨むなら俺と小宮と夏目君の3人で決めた値段を無視して勝手にチラシを作った三田を恨むがいい‼」
武田は一気にまくし立てた。恐らくさっきの仕返しをしようとしたのだろう。聞いた学生全員が目を丸くしてポカーンとした顔を武田に向けている……
「あの、知ってますケド。100円だって事」
1人がそう答え、他の全員も頷く。今度は武田がポカーンとした。
「あの、教授。先ほど三田先輩に電話してチラシを修正して貰ったんです。ですから皆さん知っていると……」
「それを先に言えぃ‼」
「言おうとしたんですよ、三田先輩に連絡を取ったって。そしたら教授がいきなり喋り始めたんじゃないですか………」
宮都の反論にぐうの音も出ない武田。勝手に早とちりして三田への意趣返しをしようとして見事に失敗してしまったのだから自業自得である。
その瞬間、部屋の温度が急に下がった気がする。というか実際に下がった!武田に三田がゆらりゆらりと近づいて行く。その様子には流石の宮都もゾクッとし、武田は完璧に固まっている。
「教授?どういうおつもりですか?」
静かに、丁寧に、そして微笑みながら武田に尋ねる三田。その微笑みが何よりも怖い!武田は今まさに蛇に睨まれた蛙の気持ちを体験しているだろう。早くなんとかしないと……武田の命が危ない‼
「あっ!そうだ‼ほら、高橋さんと小宮さんだったか?研究室の説明は休憩室でやるからな!俺は先に行って準備する。その間に綿あめでも食べててくれ!それじゃあな‼」
このセリフを5秒で言い切り走って休憩室に逃げて行った。武田にしてはナイス判断だ。
ちなみに、この状況を見ていた莉緒と希美は流れに付いて行けずに呆然としていた。2人にとって教師が学生に怒られるなど考えられなかったからだ。
「莉緒、それと高橋さん」
宮都は苦笑しながら声をかける。2人はゆっくりと顔を宮都に向けた。
「悪いけど今すぐ休憩室に行ってあげてくれないか?本当は用意なんて必要ないんだ」
「………うん」
「………は、はい。わかりました」
そのまま2人は休憩室へ歩いて行った。
「三田先輩はお客さんのご案内をお願いしてもいいですか?私と准は少し用事がありますので。
柳田も食べて味とか出来栄えとか良いところを記事にしてくれよ?代金は俺が払っとくからよろしく頼む」
今度は三田と柳田に向き直ってそのようにお願いする。ちなみに、今の三田は怖くない。
「任せろ、バッチリ記事にしてやるよ。写真も取るからな」
「うん、わかったよ。それでは皆さん、こちらへどうぞ」
三田は柳田を含む全員を引き連れて実験室に歩いて行く。

55:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 23:01:42.05 e05eSPoj
全員が実験室入るのを見届けた後、研究室には静寂が訪れた。宮都はそのまま何も言わずに准の手を取って研究室から出た。
そのまま研究棟の裏へ歩いて行く。ここなら誰も来ない、2人きりで会話するには絶好の場所だ。
「准、大丈夫か?」
さっきからずっと俯いてなんの反応もしない准に恐る恐る声をかける。この無表情がとても怖い……
「……………………」
「准?」
「……に、してたの?」
「………」
「私が眠ってる間、一体何してたの?」
無表情のまま准が聞いて来る。宮都は目線を下に下げて全てを説明するべきか迷う。というより、なんと説明すれば良いかわからない。
取り敢えず当たり障りの無い返答をしようと目をあげた瞬間いきなり服を誰かに…いや、准に掴まれた。
「はやく答えてよ‼」
いつの間に近づいて来たのだろうか……准が服を両手で強く掴んでいた。両目には涙が光っている。
「准……頼むから落ち着いて………」
「なんで、なんでみやとが……わたしじゃない、女の子にだ、抱きつかれて………うぅ、なん、で………」
「准……」
准の身体は自身の力だけでは立てなくなる程に震えていて、宮都の服を掴んでいなければ崩れ落ちてしまっているだろう。
「なんで?なんでなのぉ?私が悪かったの?それならあやまる…謝るからぁ、だから、だから許してよ……私から離れて行かないでぇ」
とうとう准は崩れ落ちてしまった。それでも必死に宮都の脚に縋り付き決して離そうとしない。
宮都は何度も声をかけたが、今の准には何も届かない……
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
准が慟哭した。森全体に響くかのような大声で、宮都に縋り付きながら……宮都はすぐにでも准を慰めてやりたかった。昔からずっと泣いた時にはあやしていたから……
しかし脚に縋り付かれている今、しゃがむことは出来ないし准の腕を解く事も出来ない、そして声も届かない……ただ准が悲痛な声で泣き叫ぶのを聞くしか出来ない。
「いやぁ……捨てないで‼おねがいッ、おねがいだからあぁ!なんでも、なんでもするからぁ………」
「俺は絶対に准を捨てたりなんかしない‼」
「いや………いやぁ…そんなの、絶対いやぁ…私を嫌いにならないでぇ……」
宮都が何を言っても准には届かない。どうする事も出来ない。何も出来ない。准は壊れたオモチャのように同じ言葉を何度も繰り返し続け、宮都はそれを黙って聞いているしかなかった………

ーー俺は……無力だ。ーー

20分後、だんだんと准の声が小さくなっていき完全な沈黙が訪れた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったらしい。
ここでようやく宮都は准の腕を解いてしゃがみ込む。准の顔は大泣きしたせいで厚ぼったく腫れていた。

ーー俺が准をこのような目に合わせた………この、俺が。…俺が?ーー


56:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 23:02:56.70 e05eSPoj
その後何をしたのか宮都の記憶はない。ただ気づいた時は夏目家の前で准をおんぶして立っていた……
宮都はベルを鳴らして門の中に入って行く。玄関からエリザが出て来た。
「あら、いつもより全然早いわね?何かあったの?」
「ええ、エリザさん……准を、お願いします………」

ーー今のは俺の声なのか?こんな……暗い声が俺から………ーー

「み、宮都君⁉どうしたの?何があったの⁉………ッ⁉酷い顔……」
エリザは何か酷いモノを見るかのような表情で宮都を見る。
「え?俺ってそんな不気味な顔なんですか?流石にショックですよ。ハハハ………」
「茶化さないでっ!一体何があったの⁉大丈夫なの、宮都君⁉」
エリザは真剣な表情で聞いて来る。誤魔化しは一切通用しないだろう。
「ゴメンなさい、今日は勘弁してください。今度お話ししますから」
宮都はそう言って多少強引に准をエリザに押し付けると、そのまま踵を返し夏目家を後にしようとしたが………
「待ちなさい!」
エリザに肩を掴まれ軽く引っぱられて、そして尻餅をついてしまう。
「み、宮都君⁉大丈夫⁉なんでこの程度の力で転んじゃうのよ⁉」
これにはエリザも焦った。まさか宮都が尻餅をつくとは思っていなかった。エリザの予想以上に宮都は衰弱していたのだ。
「なんか今にも死にそうな顔してるわよ!ウチでお風呂に入って行きなさい」
エリザは宮都の腕を掴んで、助け起こしながらそう言う。しかし……
「いえ、そのようなご迷惑はかけられません。帰ります」
立ち上がり、そのまま門へと歩いて行く。
「み、宮都君‼」
エリザは慌てて引き止めようとするが、准を支えているため一度離れてしまった宮都を引き戻すことは出来ない。
「あ、それと准が起きたら明日も9時に迎えに行くと伝えておいてください。お願いします」
そして宮都は夏目家をあとにした。後ろでエリザが何か言っていた気がしたが無視して歩き続けた。

気付くと宮都は自宅の玄関の前にいた。ドアを開けようとしたが鍵がかかっている。宮都は鍵を取り出そうとカバンを………ない?
今の今まで気付かなかったが、カバンは研究棟のロッカールームに置いたままだった……。それに気付き億劫そうにベルを鳴らす宮都。インターホンから香代の声が聞こえて来た。
『はーい、どちら様ですか?』
「俺だよ、母さん……開けてくれ」
『え?宮都⁉どうしたのこんな時間に帰って来て?』
そのままガチャッと音がしてインターホンが切れる。数秒後ドアが開いた。
「お帰りなさい、今日は早上がりだったの?……って、ちょっとどうしたのその顔⁉今にも死にそうよ!!」
「いろいろあってな……どいてくれ、家に入れない……」
宮都は家に入るとそのまま階段を上って自室に向かう。香代はその背中に声をかける。
「宮都!!一体何が……」
「悪い、今日はもう休む。1人にさせてくれ。……あっ、あと莉緒の携帯に電話して俺が家にいることを伝えといてくれ」


バタン!
部屋に入りドアを閉め、そのままベッドに飛び込みうつ伏せに寝る。

ーー俺は一体何にショックを受けてるんだ?
莉緒に押し倒された事?
莉緒と准が言い争いをした事?
准を初めて泣かせてしまった事?

いや、わかっている。ただそれを認めたく無いだけだ……
俺が一度に2人の女性から尋常では無い好意を持たれている事を、しかもそれが幼馴染と妹だという事を………

第三者から見たらなんで俺がこんなにもショックを受けるか分からないだろうな………俺だって具体的に説明なんか出来やしない。
この、言葉にして言い表せないモヤモヤした感情。俺は……ーー

57:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 23:06:22.53 e05eSPoj
宮都はハッとした。何時の間にか眠ってしまったらしい。時計を確認すると夜中の2時だった。
ベッドから起き上がり部屋の電気を点けると、机の上に大学に持って行ったカバンが置いてあった。恐らく莉緒が持って来てくれたのだろう。
下に降りて浴室でシャワーを浴び頭、顔、身体をそれぞれ洗う。頭を乾かした後に自室でお茶を飲みながらやっと一息つく。
さっき洗面所で顔を確認してみたが、それほど酷い顔ではなかった。まぁ、いつもより少し疲れていそうな顔ではあったが。

それにしても、と宮都は思う。ついさっきまであんな非日常だったのに、今はそんな事無かったかのような日常を宮都は過ごしている。
父と母はいつものように眠っているし、家にもいつもの静けさが広がっている。莉緒も恐らく部屋で眠っているだろう。全くいつも通りだ。

ーーさっきの事は夢だったんじゃないか?ーー

そのような事をぼーっと考えながら横になり目を瞑る。もう、どうにかなってしまいそうだった………


そして気付いたら朝になっていた。目覚まし時計をかけ忘れたにも関わらず、体内時計のおかげでいつも通りの8時に起きた。

宮都は部屋を出て下に降りようと階段まで歩いた所でふと足を止める。言いようの無い不安感と共に莉緒の部屋をノックする。
「莉緒、いるか?」
返事はない。宮都はドアを開けて中を確認した。誰もいない……

ーーだよな。昨日あんな事を言ってたけど本当に登校拒否になるわけないよな………馬鹿馬鹿しい!ーー

今度こそ宮都は階段を降りリビングに入る。香代が食事の用意をしていた。その背中に声をかける。
「おはよう」
「あら、おはよう。もうすぐ出来るからちょっと待っててね」
「ん……。父さんと莉緒は?」
「一弥さんは急患が入ったからさっき出かけて行ったわ。莉緒は学校よ」
ここで宮都はようやく安堵した。
「わかった、ありがとう」
食事が出来るまでの時間で身なりを整え、食後に今日の弁当を作る。カバンの整理をして準備は完了した。
途中、香代は昨日の事について何も聞いて来なかった。その気遣いがとてもありがたかった。

全ての準備を終えて、行ってくる事を母に告げて玄関で靴を履く。気持ちの整理はなんとか済ませた。
そして宮都は、准にどのような態度で接すれば良いかを考えながらドアを開けた………

58:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 23:08:44.22 e05eSPoj
ドサッ!

瞬間、宮都に何かが抱きついて来た。とっさの事に身体が固まったが、宮都はその姿を見なくとも抱きついて来た人物が誰だかわかってしまった………

「准………」
「みやとぉ……」

ーーおいおい、どうしたんだよ?そんな顔をしてさ……いつもの笑顔はどうしたんだ?ーー

そのまま准は上目遣いで宮都を見上げる。必死に縋り付くように……
「私のこと、嫌いに、なら…ないでぇ。おねがい……」

ーーなにバカな事言ってんだよ、そんな事あるわけないだろ……なんなんだよ、その顔は………ーー

「これから毎日迎えに来るから……宮都のいう事、なんでも聞くからぁ……。だ、だから……おねがい、おねがいだからぁ……」

「……じゅ…ん…」

「これからも、ずっと…一緒にいて…くれる……よね?」


そして准は、痛々しい顔で無理矢理微笑んだ…………

59:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/11/26 23:14:22.99 e05eSPoj
投下終了です。誤字脱字ありましたら報告お願いします。

>>43
長編連載中に別の作品書けるなんて凄いですね!しかも完成度高いし!
自信が無くなって来た……、まぁもともとあまり無いけどさ…………


60:名無しさん@ピンキー
11/11/26 23:17:50.05 qyX/IcrU
乙ニダ!毎回楽しんで読ませてもらってます!

61:名無しさん@ピンキー
11/11/27 00:02:02.28 eAzSfhlM
投下乙です!
天秤の作者様は短編はわからないですけど
長編に重要な積み重ねる力は充分あると思いますよ
とてもヒロインが繊細に書けてると思いますよ
これからも何度もヒロインが衝突すると思うとぞくぞくしますね
楽しみにしてますんで頑張って下さい!

62:名無しさん@ピンキー
11/11/27 00:23:27.02 TUg5wIBK
gjgj いいのお

63:名無しさん@ピンキー
11/11/27 10:06:46.85 V0L/X5p6
GJ! いやすばらしいですよこれ!

64:名無しさん@ピンキー
11/11/28 00:14:37.29 l/8Wv6T+
面白かった
GJすぎる

65:名無しさん@ピンキー
11/11/28 20:45:23.43 ELFNTduy
これ希美ちゃんも争いに加わるのか?
続編期待~

66:名無しさん@ピンキー
11/11/29 00:55:55.62 fTvP9POJ
保管庫で特にエロいのおせーて

67:名無しさん@ピンキー
11/11/29 01:12:06.85 hJjmbsA+
全部読めと言いたいところだけどこれとかおすすめしとく
URLリンク(wiki.livedoor.jp)
あとこれとか
URLリンク(wiki.livedoor.jp)

68:名無しさん@ピンキー
11/11/29 16:51:40.12 tZvSaNRV
昔のスレで見たちょっと知恵遅れ気味のヒロインのやつがすごいツボだった。電車の中で泣きそうになったわ

69:名無しさん@ピンキー
11/11/29 18:51:02.12 bjEF8BUm
なんで泣きそうになるんだ

70:名無しさん@ピンキー
11/11/29 21:28:29.22 tZvSaNRV
分からんが泣きそうになった。まぁそれだけクオリティが高かったんだよ

71:名無しさん@ピンキー
11/11/29 21:33:38.55 wLwZStYM
痛々しい依存だと抜いた後すごく後味悪いことはある
出来がいいから起こるんだろうけど後腐れないネタじゃないから尚更困るな

72: ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:14:09.19 eRf5c+rO
お久しぶりです。
まだ依存まではいきませんが、投下させていただきます。

73:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:15:03.42 eRf5c+rO
子供の頃から要領が悪く、何をするにもアタフタするだけで人に助けてもらわないと何もできなかった。
周りからは当たり前のようにおっちょこちょいだなぁと言われ、それが嫌で嫌で何とか一人で頑張るけど……頑張れば頑張るほど空回りする。
その度「お前は何もするな」「お前が動くと周りに迷惑がかかる」散々言われ続けた。
だから私は自分が嫌い。
中学生になってもそれは変わらなかった…。


変わらなかったのに………私が高校生になった時―ある男子が私の前に現れた。
見たことが無い男子。
単純に目立たない男子だったので気がつかなかっただけ…。
私も目立たない部類の人間なので、すれ違ってもお互い視線を合わせる事がなかったのだろう…その男子に声をかけられるまで、同じクラスだということすらわからなかったのだ。
第一印象は…あまりよくなかったと思う。
放課後、数少ない友達と一緒に帰ろうとする私にオドオドした態度で近づき「み、三奈(みな)さんに話があるんです!」と唐突に私の名前を呼び、話しかけられたのだ。

74:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:18:18.76 eRf5c+rO
男子に話しかけられるなんて殆ど無いのでビクビクしながら「な、なんですか?」と返答すると、隣に居た友達が見えないのか「三奈さん、つ、つき、付き合ってください!」と片手を差し出し、しどろもどろになりならが私に告白してきた。
無論告白などされた事の無い私は、友達に助けを求めるように涙目を見せる。
その友達は、何を勘違いしたのか一度うなずくと「お前なんか彼氏務まるか!気持ち悪いから近づくな!」と怒鳴り散らし、私の手を掴んで走り去ってしまったのだ…。
翌日にはその話がクラスに広まり、私は「キモい男子に告白された可哀想な子」その男子は「ただの気持ち悪い男」として扱われるようになってしまった。
気持ち悪いと言われていたが、顔はそれほど悪くないと私は思う。
幸か不幸か私はそれが原因で同姓の友達が出来るようになったのだが、その男子は軽いイジメを受けるようになってしまったのだ。
しかし、私は助ける事もできず関係無いという態度を取り続けた。

二年生に上がる頃にはイジメは無くなっていたが、私と違い彼は友達と呼べる人物はまったくいなかった。
仕方ない…自分にそう言い聞かせて今まで見て見ぬふりを続けて過ごした。

一週間前までは…。

75:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:19:27.89 eRf5c+rO
―その日は朝から雪が降っており、マフラーと手袋をしていても身体の芯が痛くなるほど手先が赤くなっていたのを覚えている。
その日も朝からつまらない日常を満喫しながら授業を受け、放課後友達と一緒に帰る予定だったのだが……放課後友達が担任に呼び出されてしまい、私は友達を待つついでに借りていた本を返す為に図書室へと一人向かった。
それが間違いだった……いや、私には“救い”だった。
「はぁ…めんどくっさ。もう高校辞めようかな」
「辞めて何をするの?高校ぐらいは卒業したほうがいいわよ」
「お前が養えよ。俺ずっと家で寝てるから」
「嫌よ。何が悲しくてニート養わなきゃいけないのよ。」
図書室の中から聞こえる話し声に私の足は扉の前でピタリと止まった。
男性と女性の声…カップルが使っているのだろうか?

「……ふぅ」
昔の私なら友達を待つか後日また返しに来るかするのだけど、この一年でメンタル的にも成長した自分は一度深呼吸した後、思い切って図書室の扉を静かに開けた。
「……あら、どうしたの?」
扉を開けて真っ先に視界に入ってきたのは眼鏡を掛けた黒髪の見知った女性。
クラスメートの月森 静さん。

76:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:19:53.37 eRf5c+rO
二年連続学年委員長で皆に頼られる俊才…教師に頼まれた図書委員長の掛け持ちをしており、容姿も相まって告白される事もよくあるそうだ。
「本返しに来たの?いつも昼休みに返しにくるのに珍しいわね、山科(やましな)さん」
私の名字を丁重に呼ぶと、椅子から立ち上がり迎え入れてくれた。
「あ、その……時間があったので返しにきました。遅くなってごめんなさい」
頭をペコッと下げて鞄から本を二冊取り出すと、月森さんに本を手渡たす。
細く綺麗な指が本を二冊しっかり掴むと、ニコッと微笑んだ。

「また、何か借りていく?」
「あっ、はい。ちょっと見たい本が何冊……か…」
月森さんから目を反らし本が並べられている本棚へと目を向ける。

―本棚手前の椅子に一人の男子が座っていた。
そう…彼が…。
心臓がはね上がり、自然と足が後ずさる。
「ほら、瞬太(しゅんた)がそこに座ってると山梨さん本棚に近づけないでしょ。早く帰りなさいよ」
その時初めて彼の名前を知った。
「……」
「い、いえ!本を探したらすぐに帰りますから」
何も言わずに立ち上がり帰ろうとする彼を両手で止めて、彼の横を通り過ぎ本棚へと向かう。
別に彼に嫌悪感を抱いている訳ではない。

77:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:21:15.23 eRf5c+rO
どちらかと言うと、やはり罪悪感のほうが大きい。
私のせいで、あんな事になってしまったのだから…。
後ろに彼を感じながらも、一冊一冊本を探していく。
「本の名前言ってくれたら借りられてるか確かめるわよ?」
数十分本棚を探していると、見かねた月森さんが後ろから声をかけてくれた。
「あ、その…お願いします」
本の題名を彼女に伝えてパソコンで調べてもらう。
初めからこうすればよかったのだ。
静かな部屋にキーボードをカタカタと叩く音が響く。
その間に周りを見渡し他に誰かいないか確認する。
あの会話をこの二人がしていたのだろうか?
私から見たらまったく接点の無い二人に見えるのだけど…。
と言うか、あんな会話を彼がするとは正直思えなかった。
「誰も借りてないみたいね。31番の本棚にあるはずだけど」
「は、はい。31番ですね…」
再度本棚へ視線を向ける。
本棚の上には数字がふっており、見つけやすくなっているのだ。
人差し指で本をなぞりながら調べていく…が、やはり探している本は見当たらない。

「あの…すいません…」
唐突にかけられた声に肩をビクつかせ条件反射で振り向いた。
そこには彼が立っており、小さな本を手に持っていた。

78:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:21:42.79 eRf5c+rO
「多分…この本じゃ…」
恐る恐る差し出された本を此方も恐る恐る手に取る。
確かに私が探していた本だ。
「あ、読んでたんですね。それじゃ別に…」
「いえ、適当に取った本がそれだったってだけなので……すいません」
私から距離を取り一度頭を下げると、目を合わせる事なく鞄を手に取り歩き出してしまった。
「あ、あの!」
「……」
何故引き留めたのだろうか…。
自分でも分からなかった。
此方へ振り返る事なく立ち止まる彼に問いかける。

「学校…辞めちゃうんですか?」
寒さでは無く緊張で震える声は、静かな図書室に反響する。
自分の声なはずなのに反響して耳に入ると痛く感じた。
「分からないですけど…」
「あの…そ…わた、私は…その…」
まったく何も考えていなかった私はただ口ごもるだけで、言葉を発する事ができなかった。
「そ、それじゃあ…」
「あっ……」
呼び止めようとしたが、彼の背中を見ていると何故か声に詰まってしまう。
やはり罪悪感が私の胸を締め付けているのだろう…。

79:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:22:10.79 eRf5c+rO
彼が学校を辞める理由も少なからず私にあるはず……彼にすればもう私は見たくもない人間になっているのかも知れない。
だけど謝りたい…謝って早くこのモヤモヤから逃げたい。
私はこんな時でも楽になる方法を探してしまうのです。
私は自分が嫌い……変えるといいながらも楽な方へと逃げようとする自分が嫌い。


「あの月森さん…」
「はい?」
「彼は放課後毎日来るんですか?」
「そうねぇ…暇な時は基本的に放課後図書室に来て、時間潰して帰るわね」
「そうですか。分かりました、ありがとうございます」
その日から私は本を返却すると言う口実で、放課後図書室へと足を運ぶようになり、なんとか一言~二言彼と会話するようになった。

それもただの罪滅ぼし。
彼に謝る切っ掛けを私は探していた。
小さな罪から逃れたくて―。

80: ◆ou.3Y1vhqc
11/11/30 00:23:46.81 eRf5c+rO
ありがとうございました、こんな感じで初っぱな投下終了です。
最後どうなるかは今のところ考えていないですが、完結はさせたいと思います。
よろしくお願いします。

81:名無しさん@ピンキー
11/11/30 00:58:30.64 ymcZo4rE
おおおお好みのはじまり方だ
これは期待

82:名無しさん@ピンキー
11/11/30 01:53:54.83 5fSp+NCI
GJ
つづきが気になる

83: 忍法帖【Lv=4,xxxP】
11/11/30 03:48:43.21 /qNiM84g
b

84: 忍法帖【Lv=22,xxxPT】
11/11/30 20:07:18.13 WkLfZHcT
おお、これは続きが気になる
GJ!!

85:名無しさん@ピンキー
11/11/30 23:44:24.98 UBOebssw
期待

86:天秤 第10話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:23:07.58 eAgADolT
こんばんは、投下します。
なんかまた新連載が投下されましたね。しかも超大御所!これからの展開が待ちどおしいです!

87:天秤 第11話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:23:40.56 eAgADolT
宮都と莉緒


あの日から10日経った。宮都は家で今日もあの日の事を整理していた。もはや自惚れているのではないかを疑う必要すらない。宮都は2人の女性に盗り合いをされている。
一人は大事な幼馴染。
一人は大事な妹。
あの場は無理やりに終わらせる事が出来たが、次からはそうも行かないだろう。あの2人は本気で憎しみ合っている…
いつもなら宮都が仲裁に入っているのだが、原因が他ならぬ宮都自身なのだから、今回はむしろ逆効果だろう。
かといって誰かに相談するわけにもいかない。というよりも相談できない。
「俺を取り合って准と莉緒が憎しみ合ってます。どうすれば良いのでしょうか?」
試しに口に出して言ってみるが、やはりこんな事誰にも相談できない。宮都自身したくない。

大体、一番の問題はそこじゃない

「それにしても……どうすりゃ良いんだ」
宮都は深いため息を吐く。今まで生きて来てこんな事は初めてだ。こんなのドラマや小説での出来事でなら何度も見たことがあるのだが……
取り敢えず何かの案を出さなければならない。このままでは行き着く先は恐らく崩壊だろう。現に准はかなり酷いことになっているのだから。

88:天秤 第11話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:24:13.94 eAgADolT
宮都にとって准は大切な幼馴染だ。今までずっと一緒に過ごして来たのだから当然だ。
もし准を失ってしまったら宮都は今までのように生きては行けないとさえ思っている。それほど大切な奴なのだ。
最近の准は宮都にべったりくっ付き、ほぼ毎日のように抱きついてくるようになった。
通学中、大学内、帰宅中、何処でも人目を憚らずに抱きついて来るのだ。
いつまでもこのままでいるわけにはいかない。気持ちが落ち着いたらなんとかして以前の距離に戻らなくてはいけないだろう。

宮都は准が好きだ。それは確実に言える。しかし恋愛感情となると………宮都自身全くわからなかった。一緒にいると楽しいし、准が悲しんでいると宮都は決して放ってはおけないだろう。
准が困っているなら必ず手を差し伸べるし、笑っている顔を見ると心が暖かくなり幸せな気持ちになる。
しかし、それは宮都にとって当たり前のことでこれが恋愛感情なのかと改めて考えるとどうしても答えは出ない。
恐らく幼馴染でいる期間が長過ぎたのだろうと宮都は思っている。だから抱き着かれた程度でドキドキしないし適当にあしらう事すら出来る。

ーー俺は一体准をどう思っているんだ………ーー


宮都とって莉緒は唯一無二の妹だ。無口で大人しくて、昔はいつもべったり後ろにくっ付いて来たかわいい妹。
それがパッタリと止んだのはいつ頃だっただろう。たしか、宮都が中学に入った頃だったか。そのくらいの時期から莉緒は宮都に話しかける事がなくなった。
最初は面食らったが、だんだんとそれが当たり前になり今に至る。
もちろんその程度で嫌いになったりなどしなかった。宮都は今でも莉緒を大切に思っているし、昔みたいにまた甘えてくれる事を嬉しくすら思っている。
でも……アレは度が過ぎている気がした。何せ宮都を押し倒したのだから。それも外で。
実は宮都は准に感謝していた。あのまま准が起きなかったら宮都は莉緒を払い除ける事が出来なかっただろう。少々やり方が強引だったが…
もちろん莉緒に押し倒されて抱き着かれても、驚きはするが別にドキドキはしないし、もちろん恋愛感情を持つこともないだろう。何せ実の妹なのだから。
つまりこの時点で莉緒の負けは決まっているのだ。兄妹は決して恋愛は出来ないし宮都もするつもりはない。それなら………

89:天秤 第11話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:24:56.43 eAgADolT
「ふざけるなよ」
宮都はポツリと呟き机に鉄拳を叩きつける。ペンが何本か落ちたがそれを無視して今度は机を殴りつける。手がジンジン痛むがそんな事を気にはしない。
「俺は一体どうしたいんだよ。准の気持ちに応えたら莉緒が悲しみ、その逆もまた然りだ。そんな決断俺に、俺なんかに出せるわけねぇだろ……」
怒鳴りたくなる気持ちを何とか抑える。

宮都はどちらも悲しませない方法をずっと模索している。しかしそれが見つからない。
今までたくさんの壁にぶつかったが全て乗り越えて来た。ある時は相談し、ある時は協力し、またある時は自分の力で、全てを解決してきた。
今までがなんとかなって来たのだから今回もどうにかなるはず、あの時はそう思っていた。そしてそれが自惚れだった事を10日かけて思い知らされたのだ。
宮都が何を言っても准に笑顔が戻る事は無かった。エリザに聞いたところ、家の中でも絶えず不安な顔をしているらしくふさぎ込んでいるらしい。
今この瞬間も准は家で不安に押し潰されようとしているのだ。宮都に捨てられる恐怖に……。そんな事などあるわけ無いのに………
だからこそ一刻も早く解決しなければならない。それが出来るのは宮都だけで、さらに義務でもある。

今回の問題はすでに解決方法は提示されているのだ。どちらか片方を選ぶという明確な方法が。ただそれを実行できないだけ。
宮都の中の天秤は決して片方に傾くという事はしてくれない。准と莉緒はピタリとつり合っている。どちらかに傾けるにはどちらかを外す以外に方法はない。
自分のエゴでどちらかを外せたらどれだけ楽だろうか。しかしそれをするには宮都は余りにも優しすぎた。
大体、どっちも同じくらいの年月を共に歩んで来たのだ。今更どちらかを捨てる事など宮都でなくともできるはず無い。厳密に言えば准の方が2年くらい長いが………

ーー考えてみたら家族の莉緒より准の方が付き合い長いのか……。まぁ当然っちゃあ当然か。妹と幼馴染なら幼馴染の方が長いに決まってる。
莉緒がいなかった時はまさに姉弟のように育ったらしいし……。莉緒が生まれた後も、いつも俺は准の後をついて歩いてたらしい。その後幼稚園、小学校、中学、高校と全部同じ所に通って来た。特に小学校の6年間はずっと同じクラスだったらしく、いつも仲が良かったらしい。
中学に入ってから最初の一年は同じクラスだったがその後は同じクラスにはならなかった………。そして中学1年のアレも………いや、よそう。これはもう終わった事だ!思い出す必要なんか無い!!ーー

ここまで来て宮都はなにか違和感を感じた。何かがおかしい。何がかは分からないが……。何か大切な事を忘れてるような………

90:天秤 第11話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:25:39.05 eAgADolT
必死に違和感の正体を考えていると誰かが部屋をノックした。恐らく莉緒だろう。宮都は顔の表情を柔らかくする。
「入っていいぞ」
するとやはり莉緒が入ってきた。パジャマを着て、手にはクシとドライヤーを持っている。
「……あの、私の髪の毛乾かして」
宮都は頷き椅子に座るように指示する。しかし莉緒は座らず宮都に寄り添う。
「……お兄ちゃんに寄っ掛かりたい。………ダメ…?」
あの日以来、家の中で莉緒は片時も側を離れようとしなくなった。まるで身体がくっ付いてしまったかのようにピッタリと寄り添って来る。今まで離れていた分を取り戻すかのように。
何度か注意しようと莉緒に話しかけたが、その幸せそうな顔を見せられてしまうと何も言えなくなってしまうのだ。

宮都は床に足を広げて座りその隙間に莉緒が腰掛けて宮都の身体に寄っ掛かる。昔と全く同じ座り方だ。
宮都はドライヤーの電源を入れて髪を乾かし始めた。まずは手で軽く髪を梳く。全く手に引っかからない、とても滑らかな髪だ。そのまま軽く頭を撫でてみる。
「…ん……気持ち良い…」
目を細めて完全にリラックスしている。ある程度乾かしたら次はクシで髪を梳き始める。天然の癖っ毛も湿った状態なら素直にクシのいう事を聞く。
そのまま丹念に、決して髪が傷まないように乾かす。
「莉緒、熱くないか?」
「ううん、大丈夫。とっても気持ちいいよ、お兄ちゃん……」
夢心地な口調で返事をする。莉緒は人に髪を乾かしてもらうと眠くなってしまうのだ。昔はよく宮都にもたれ掛かって眠ってしまったものだった。


「よし、終わったぞ」
莉緒の髪を乾かし終え、手で軽く髪を整えてからそう言う。やはりどんなに整えても天然の癖っ毛は治らず、少し跳ねてしまう。
「うん。ありがと、お兄ちゃん」
そのまま宮都に抱きついてくる。風呂上りだから当然温かく、シャンプーのいい香りがする。
「おいおい、いちいち抱きつくなよ。もう子供じゃないんだから」
「だってお兄ちゃんのこと離したくないんだもん。ずぅっとこうしていたいくらい。……ん~」
莉緒は目を細めながら顔を胸にすり寄せる。まるで猫みたいだ。
「お兄ちゃん、いい匂い……。私が一番大好きな匂い………」
莉緒はとろんとした目で宮都を見上げる。風呂上りだからなのか、それともそれ以外の理由なのか、莉緒の顔は上気していて、普段からは考えられない色っぽさを醸し出していた。

宮都は微笑みながらそんな妹を軽く撫でると、自分も入浴する事を告げて風呂場に向かう。まぁ腕を離してもらうまで少し掛かったが………

91:天秤 第11話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:26:25.12 eAgADolT
風呂から上がり髪を乾かそうとドライヤーを探したが、どこにも無い。よく考えたらドライヤーは今宮都の部屋にあるのだ。
それを思い出した宮都はタオルで髪を拭きながら自室へ向かう。
部屋では莉緒がドライヤーを持って待っていた。どうやら髪を乾かしてくれるらしい。特に断る理由も無いので宮都は椅子に座り微笑む。
「頼むよ」
「頑張る!」

莉緒は宮都の髪を乾かし始める。慣れない手つきではあったが頑張って乾かしている。
「ゴメンね、お兄ちゃん。下手で……」
申し訳なさそうに謝って来る莉緒に宮都は笑いながら返事をする。
「大丈夫だって、全然熱くないしちゃんと乾いているだろ?髪なんか乾けば良いんだよ」
「もぅ、お兄ちゃんったら……」
そしてしばらくの間無言。莉緒は髪を乾かす事に集中しているから、そして宮都は……
「なんか、眠くなって来たな。ふぁ~あ……。莉緒の気持ちがわかるよ」
「そうでしょ?でもお兄ちゃんは私より全然上手いから、もっと気持ち良いんだよ?」
「そう?それは光栄だな」
宮都は莉緒と比べて髪が短い。だからその分乾くのも早いのだ。莉緒は乾いた事を確認して、軽く手で髪を整えた…が、アホ毛はなくならない。
「前から思ってたんだけど、お兄ちゃんも私みたいにかなり癖っ毛だよね」
「だよな……。父さんも母さんも癖っ毛じゃないのになんでだろうな?まぁ、万一2人が本当の親じゃなくても俺と莉緒は100%兄妹だな」
「うん、………お兄ちゃんとおんなじ……」
莉緒はうっとりと自分の髪をいじっている。そんな莉緒に笑いながら礼をする。
「ありがとな、なかなかに快適だったぞ」
「えへへ、どう致しまして」
莉緒は照れくさそうに笑い、頬を指で掻く仕草をした。

そして今はベッドの中。宮都と、莉緒がいる。莉緒は抱き枕に抱き付くかのように宮都を抱きしめて、胸に顔を埋めて眠っている。
莉緒に「……一緒に寝て」と言われた時、流石に宮都は断ったが莉緒は頑として聞き入れなかった。
結局宮都が根負けして一緒に寝ることになってしまった。宮都はため息を吐く。
「俺ってこんなに押しに弱かったのか…。まぁ、あんな泣きそうな顔は反則だよなぁ」
宮都はすでに眠ってしまっている莉緒を優しく抱きしめながらそう独りごちた。


その日から宮都の腕の中が莉緒の寝所になった………

92:天秤 第11話 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/01 19:27:55.43 eAgADolT
以上です。恒例ですが、誤字脱字なとありましたら報告お願いします。



93:名無しさん@ピンキー
11/12/01 19:40:09.82 RC87dMET
うおおおおおテンションあがってきたよ!
ぐっとくるねぇ、いいねえ!
これからも楽しみにしてますんで頑張ってください!

94: 忍法帖【Lv=5,xxxP】
11/12/02 02:53:55.68 xqp6pIbT
待ってました!!GJ!

95:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:34:04.43 CJB6jKiZ
>>92
お疲れ様でしたGJです。
話作るの上手いですねぇ…続きが凄く見たくなります。

偽りの罪、続き書いたので投下させてもらいます。

96:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:34:59.31 CJB6jKiZ
放課後の図書室―乾燥した空気が風と一緒にガラス窓の隙間から入り込んでくる。
カーディガンの縫い目をすり抜け、身体にあたる風は私の身体を痛く冷やす。
今の時間帯なら本来私は中学時代からの友達の島ちゃんこと、島田 圭(しまだ ケイ)と一緒に帰り道を歩いているのだけど…10日前から私は放課後この図書室に来るようになっていた。

「これはどうかな」
「それは一度見ましたけどあまり……あっ、これはどうですか?」
「それは見たことないかも…それじゃ、それ借りるかな」
理由は隣に座るこの男子―名前は滝 瞬太くん(たき しゅんた)
私は滝くんと呼ばせてもらっている。
私は異性の友達は一人としていない。
なぜ居ないのかと言うと、人見知り&軽い男性恐怖症が重なってしまい、男性の前に立つと呂律が回らなくなるから。
目の前に居る滝くんも実はそう……本人を目の前にしては口が裂けても言えないけど、本当は少し辛い……図書室なのだから静かにするのが当たり前なのだけど、会話が途切れる度に顔色を伺ってしまう。
滝くんも会話が途切れ無いように会話を振ってくれるのだけど、私は一言~二言返すだけ…。

97:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:35:22.73 CJB6jKiZ
会話が途切れるのは完全に私が原因なのだけど、やはり男子との対話は一線引いてしまう。
そんな私がなぜ放課後、残ってまで友達でも無い異性と会話しているのかと言うと。
一言で言えば罪滅ぼし。
私の中にある罪が滅んでくれるのかは分からないけど、滝くんが学校を辞めないでいいように、少しでいいから学校生活の手助けになりたい…。
そしてもう一つ大きな理由がある。


それは、なぜ私に告白したのか…。
初めは罰ゲームや嫌がらせかと思っていたのだが、月日が経つにつれて友達が居ない事に気が付き、罰ゲームでは無い事を知る。
そして、こうして話しだしてから滝くんが嫌がらせ目的で人に告白するような人間では無いと判断できた。

じゃあなぜ何の魅力も無い私なんかに…

「どうかした?」
不思議そうに顔を覗き込む滝くん。
「え…ぁ、いえっ!なんでもないです!」
顔を反らして本棚に顔を向ける。
危ない…赤くなっているであろう顔をガラス窓に写らないように、うつ向き加減に本を探す。

「この列の本棚にまだ見てない本ってあるかな…」
私の顔色を知ってか知らずか、隣に滝くんが並び私と同じように本を探しだした。

98:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:36:00.48 CJB6jKiZ
この一週間で私と滝くんはお互いの好きな本を、教え合うまでに会話が成立するようになっていた。
普通の人なら一日あれば笑いあっておどけあうのが当たり前なのかも知れない。
だけど私にはこれがものすごく大きな一歩だと思っている。
異性と会話が成り立つこの空間。
私と滝くんの二人で会話がちゃんと成立しているのだ。

「二人とも、もうすぐ閉めるわよ。本決まったの?」
と言っても図書室に二人しか居ない訳ではない。
月森さんが一緒に居るからこの空間が成り立っているのだろう。
“二人きり”なら多分まともに会話すらできないはず。
と言うか空気に耐えられない。
月森さんが居るから上手い具合に中和され、空間が保たれているのだ。

「はい、この三冊をお願いします」
薄い小説本を月森さんに手渡す。
一冊は私が決めて借りたモノ。
そして二冊は彼…滝くんのオススメで借りたモノ。
本ぐらいしか趣味の無い私は小説三冊程度軽く一晩で読んでしまう。

「図書カードに記入してね。それじゃ一週間までに返してね」
「はい、わかりました」
図書カードに借りた本の題名、借りた日付時間を書き込み、手渡した本を月森さんから再度受け取る。

99:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:36:57.90 CJB6jKiZ
それを鞄に入れると「では、また明日」と、どうにも隠せない笑顔を浮かべながら二人に頭を下げて図書室を後にしようとした。

「おっ、三奈いたいた!」
扉を開けようと人差し指を窪みに引っ掻けた瞬間、突然力を入れてもいないのに扉が勝手にガラガラガラッと開いた。
「あれ?島ちゃんどうしたの?」
扉前に立っていたのは友達の島ちゃん。
図書室なんだからもう少し優しく開けなさいと言いたかったのだけど、私が島ちゃんに注意してもどうせ数分後には忘れてるだろう。
「皆と話し込んでたらこんな時間なっててさぁ、一緒に帰ろうよ。
あっ、静もお疲れ~って……」
身長の低い私の頭上から滝くんが見えたのだろう。
月森さんを見た後、滝くんが居る方向に目を向けると、笑顔を消して私を見つめてきた。
「なんでアイツ居るの?」
島ちゃんが小さな声でぼそぼそっと耳元で呟く。
「なんでって…図書室なんだから誰が居ても不思議じゃないでしょ…」
別に間違った事は言ってない…。
「…まさか友達とかに…」
「な、なる訳ないでしょ…早く帰ろうよ」
まただ…また私は自分を偽ってる。
自分可愛さに…。
会話を聞かれていなかったか、ちらっと後ろを見て確認する。

100:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:37:22.78 CJB6jKiZ
滝くんは…遠くて聞こえていなかったと思う。
月森さんは…分からない。
パソコンに目を向けているので多分聞こえていなかったと思う。
「まぁ、いいや。んじゃ帰ろっ……と、その前に静にCD返さなきゃ」
鞄から音楽CDを二枚取り出すと、島ちゃんは私の横を通り過ぎ月森さんに走り寄って行った。
月森さんは男女関係無く友達が多い。
見た目は堅苦しいと思われがちだけど、話せば誰とでもスグに打ち解けるほどコミュニケーションも得意だ。

―単純に羨ましい。

私の理想は月森さんのような女性なのかも知れない。
島ちゃんと月森さんの会話を扉前で聞きながら、終わるのを待つ。
「…」
「あら、瞬太帰るの?」
何も言わずに立ち上がりそそくさと帰ろうとする滝くんに月森さんが話しかける。
こんな時私なら、話しかけないでと思ってしまうに違い無い。
多分滝くんも同じ。

足を止める事なく、ばつが悪そうに島ちゃんから目を反らしながら私の方へと歩み寄ってくる。

「……」
「……」
滝くんが通れるスペースを作り避けると、通り過ぎる間際、わざとらしく目線を下げて目を合わせないようにしてしまった。
この場で「さよなら」と言われても多分私は返せない。

101:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:37:45.97 CJB6jKiZ
だから目を反らして無関係を装う。お互い無言ですれ違うと、滝くんは階段を降りて行ってしまった。
小さくため息を吐き、目線をあげる。

「…」
「ぁ…」
月森さんと視線がぶつかる。
また視線を下に落とし、上履きを見つめた。
私は本当にダメな人間だ…誰に対しても上手く対応できない。

「ねぇ、静はなんであの男に優しくするの?」
滝くんの足音が完全に消えたのを確認すると、島ちゃんが月森さんに話しかけた。
島ちゃんは気軽に会話を振っているが、私は滝くんに聞こえるんじゃないかと階段をチラチラ見ながらそわそわしていた。

「同級生だから仲良くしようと思うのが普通でしょ?貴女達こそなんで瞬太を毛嫌いするのよ」
“貴女達”と言う言葉に心臓が跳ね上がった。
嫌な汗が手を包む…ここで私は毛嫌いなんてしてませんと言えたら何か変わるかも知れない。

―もし悪い方向に変わってしまったら?

私と滝くんの立場が逆になってしまうかも…。

「だってさぁ…一年の時に三奈に告白してきたんだよ?」
「だから?」
「だからって…ねぇ?」
会話に入れず視線を泳がせていると、島ちゃんが気まずい空気のまま私に会話をパスした。

102:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:38:09.37 CJB6jKiZ
会話の相手が島ちゃんから私に変わったと判断されたのか、月森さんは島ちゃんから目を離して私に向けてきた。
「私は別に…その……驚いただけで…」
スカートを握りしめ、しどろもどろで返答する。
誰に向かって返答したのか自分でさえ分からないほど、私の言葉は宙をさ迷っていた。

「瞬太は告白しただけでしょ?それを尾ひれつけて襲われたみたいに広めたら何かしら起きるに決まってるでしょ。特に瞬太は口下手だから一日でクラスに広まった話を纏めるほど対話慣れしてないし」
「静…もしかして怒ってる?」
島ちゃんが恐る恐る姿勢を低くして月森さんに聞いた。
内心私も心臓が破裂しそうなほどドキドキしていた。
この距離だったからまだよかったのかも知れない…私が島ちゃんの場所に立っていたら間違いなく頭を下げて逃げていたに違いない。
それでも話の終着点が見えない私には、胃に穴が空くほどの重い話に聞こえた。
「怒る?私は怒らないわよ。ただ、揉め事を作られると関係無い私に全部くるのよ。だから変な揉め事は辞めてちょうだい」
「ぅ…申し訳ありませんでした、静姉様…」
項垂れる島ちゃんの肩を叩いて「分かればいいのよ」と呟くと、お互い小さく笑いあっていた。

103:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:38:34.87 CJB6jKiZ
「……」
このやり取りが私にはできない。
どこまでが本気でどこまでが冗談なのか―区別がつかないのだ。
私なら間違いなく、身体を震わせ、呂律の回らない舌を必死に動かして、謝り倒したに違いない。
それをすれば空気が悪くなると分かっていても謝らずにはいられないのだ。
今も月森さんが一度でも私に強い視線を向けていたなら、頭を下げて謝っていたと思う。

「とにかく。瞬太をフッたのは仕方ないとして、仲良くできないなら変に避けないで普段通り素通りしなさい。それがお互いの為よ」
「は~い……んじゃ、私達先に帰るね」
「えぇ、二人とも気をつけてね」
手を振る月森さんに軽く手を振り替えして図書室を後にする。


「なんか静ちょっと不機嫌だったね」
「えっ、そうなの?」
ロッカーで靴を履き替えていると、島ちゃんが苦笑いしながらそう話しかけてきた。
私には分からなかったけど……やっぱり滝くんの事を言われて腹が立ったのかも知れない。
そう考えると、明日図書室に行くのを辞めたほうがいいのかと悩んでしまう。
「まぁ、静は多忙だから疲れてたのかも…寒いし早く帰ろっか」
「うん…」
学校から外に出ると、冬風が音を立てて耳に入り込んできた。

104:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:39:04.51 CJB6jKiZ
首をすくめてマフラーに顔を埋める。


「はぁ…(そう言えば私、滝くんに告白の返事してない…)」
月森さんから言われた“フッた”と言う言葉が今になって頭に浮かび上がった。
フルもなにも私はあの時、狼狽えるだけでまともに返答すらできていなかった。
(一年経ってるし今も思ってくれてる……って事は流石にないよね)
熱くなる頬をマフラーで隠して歩き出す。
もし私があの時、滝くんの告白を受けていたら今頃どうなっていたのだろうか?
一緒に本を借りて二人で読んで…お互いの本を貸しあったり感想を言い合ったり。
それこそ充実した日々を送れていたのかも知れない。
滝くんと二人で会話をしていると時間を忘れる時がある…それも楽しいからだろうか?
まだ話す度に詰まってしまうけど、もう少し時間を掛けて友達のように会話ができるようになれば…。
軽く肩を叩いてふざけあったり…弁当を一緒に食べたり。

「楽しいのかな…」
「ん?何が?」
誰にも聞こえない程の声で呟いたはずなのに、島ちゃんの耳には届いてしまったらしい…。
慌てて両手を振り「なんでもない」と伝えると、足早に学校から遠ざかった。

105:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:39:31.12 CJB6jKiZ

(また明日も行ってみよう……もしかしたら…)
そんな自分勝手な小さな幸せに思いを馳せ、誰にも気づかれないように笑顔を作る。
マフラーで隠れた笑顔は自分の内面を写し出しているのかもしれない…。
そう…私は表で笑顔を浮かべる時、八割が“作り笑い”なのだ。
文字通り作った笑顔……張り付いて離れない笑顔。
鏡を見れない笑顔…。
この笑顔も自分の自信の無さの表れだと思っている。
だから嫌い。
誰にでも好かれる笑顔が欲しい。
そして月森さんみたいに慕われる人間に私もなりたい…。




―翌朝、いつも通り学校へ登校し教室に入ると、不思議な光景が視界に入ってきた。

「ほら、謝るから許してね?」
「いや、別に俺は初めから…」
「やめなさいって。瞬太困ってるでしょ」
滝くんと島ちゃんと月森さんが三人仲良く話している。
クラスの皆も不思議そうにその光景を遠目に見ており、話の内容が気になるようだ。

扉前で固まってしまった足を無理矢理動かし、自分の席まで歩いていく。
鞄を机横に掛けて椅子に腰かけると、一時間目にある数学の教科書を机の上に置いて時間割り表へと目を向ける。

106:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:40:02.00 CJB6jKiZ
わざわざこんな事しなくても頭に時間割りなんて入っている…だけど自分から話に入るなんて積極性は私に無い。
だから話しかけてもらうまで待つのだ…。

「あれ、三奈来てたんだ。おはよー」
「あ、うん、おはよう」
私に気がついた島ちゃんが滝くんに手を振り此方へ歩み寄ってきた。
滝くんも恥ずかしそうに軽く手を振り前を向いてしまった。

「一応私のやり過ぎだったかなぁと思ったから謝っといたよ」
「へ、へぇ…そうなんだ」
「うん、それじゃね」
席に戻る島ちゃんに手を振り滝くんに視線を向ける。
話しかける月森さんにただ頷く滝くん。
滝くんも周りの目が気になるのだろう…あれが月森さんじゃなくて私なら多分そう目立たないはず。
お互い目立たない人間が会話してもそう気にならないだろうし…。
(今なら…大丈夫だよね…)
周りを見渡しクラスメート達が各々会話に戻るのを確認すると、鞄から図書室から借りた本を取り出し、私が選んだ一冊を掴み滝くんに歩み寄った。

「つ、月森さんおはよう」
滝くんにでは無く、月森さんにまず挨拶をする。
「あら、おはよう。本どうだった?私も好きな小説だったから面白かった?」

107:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:40:34.20 CJB6jKiZ
わざわざこんな事しなくても頭に時間割りなんて入っている…だけど自分から話に入るなんて積極性は私に無い。
だから話しかけてもらうまで待つのだ…。

「あれ、三奈来てたんだ。おはよー」
「あ、うん、おはよう」
私に気がついた島ちゃんが滝くんに手を振り此方へ歩み寄ってきた。
滝くんも恥ずかしそうに軽く手を振り前を向いてしまった。

「一応私のやり過ぎだったかなぁと思ったから謝っといたよ」
「へ、へぇ…そうなんだ」
「うん、それじゃね」
席に戻る島ちゃんに手を振り滝くんに視線を向ける。
話しかける月森さんにただ頷く滝くん。
滝くんも周りの目が気になるのだろう…あれが月森さんじゃなくて私なら多分そう目立たないはず。
お互い目立たない人間が会話してもそう気にならないだろうし…。
(今なら…大丈夫だよね…)
周りを見渡しクラスメート達が各々会話に戻るのを確認すると、鞄から図書室から借りた本を取り出し、私が選んだ一冊を掴み滝くんに歩み寄った。

「つ、月森さんおはよう」
滝くんにでは無く、月森さんにまず挨拶をする。
「あら、おはよう。本どうだった?私も好きな小説だったから面白かった?」

108:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:41:39.59 CJB6jKiZ
「あ、面白かったです。よかったら…滝くんも…」
小さな声で呟き滝くんに本を差し出す。
差し出すと言うより、本を滝くんの机に置いただけ。
「あ、ありがとう…」
断られたらどうしようと思ったけど滝くんは優しく微笑んで本を手に取ってくれた。


―この日…初めて私は滝くんと教室で会話した。
一時間目が始まるまでの5分間だけだったけど、普通に会話できた。
周りの目もそれほど気にならなかった…多分それは月森さんが居たからだと思う。
休み時間は会話できなかったけど、その日の放課後も私は当たり前のように図書室に向かった。
図書室に入ると、いつものように滝くんは窓側の席に座り外を眺めていた。
私が入ると、笑顔を浮かべ礼儀正しく一度お辞儀する。
私もそれに対して軽くお辞儀して中へと入る。
私はこのやり取りが少し気に入っていた。
何となく言葉を使わずして、意志疎通ができているようで…。

「あれ…月森さんは…」
いつもなら月森さんが居るんだけど、今日は何故か居なかった。
本来の私なら月森さんが居ないと分かると、忘れ物を取りに行くフリをして図書室から離れていたに違いない。

109:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:42:13.73 CJB6jKiZ
と言うか滝くんより、まず月森さんが居るか居ないか確かめるのだけど…。

―多分自分に“余裕”ができたからだと思う…。
月森さん不在を気にする事なく私は滝くんが居る席に歩み寄っていった。
「本帰ってから読むんですか?」
鞄を机の上に乗せて、滝くんの横に座る。
「うん、明日休みだからもう一冊何か借りていこうかと思ってるんだけど、今日はしずっ…月森さんいないからもういいかなぁって」
「……」
今、月森さんの事“しずか”って言いかけた…。それより何故、目の前に私が居るのに月森さんに頼ろうとするのだろうか?
本なら私の方が詳しいのに…

「もしよかったら私が探しますよ?」
よく分からない感情を頭を刺激する。
滝くんの返答を待たずして立ち上がり本棚に近づくと、いつも良く借りる本棚の欄から自分のベストに入る小説を一冊取り出した。
それを滝くんに手渡す。今度はちゃんと滝くんの“手に”渡す。

「あ…これ有名な小説だね。見たこと無いけど面白いの?」
「うん、私も何回も見てるから自信もって面白いって言えます」
最近図書室に入ってきた新しい本だけど、私は一年前に既に読んでいる。

110:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:42:58.72 CJB6jKiZ
話の作りが上手く、個性的な表現が好きでよくこの作者の本を愛読させてもらっているほど。
私の部屋の本棚もこの作者の本で埋まっている。
普段の会話から察するに、滝くんも私と同じような本を好むはずだから、私が紹介する本も楽しんで読んでもらえるはずだ。

「それじゃ、これも借りていくよ。ありがとう」
手渡した本を鞄に入れると、携帯を取り出し何処かに電話しだした。
どこに電話しているのだろうか?
図書室は携帯電話禁止なんだけど…。
「もしもし?俺だけど……図書室から勝手に本借りていいか?」
それを注意できるはずもなく、電話する滝くんの横顔を眺める。
(そう言えば図書委員が居ないと借りる事ができなかったんだ…忘れてた)
図書委員が居ない場合、図書室を管理している教師に記入した図書カードを手渡すのだけど…。

「うん…うん…図書カードにはまだ記入してない。え?なんの本?SF小説だけど…題名?え~と……」
鞄から本を取り出すと、本の題名を携帯に向かって読み上げた。
「あ~…その、この本だけど、月森さん持ってるみたいなんだ。なんか貸してくれるみたいだかy「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて彼の手を掴み会話を止める。

111:偽りの罪 ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:43:26.33 CJB6jKiZ
―また…また月森さんッ!
シワを寄せた眉間が酷く痛む。

「な、なに?」
「ぁ…ご、ごめんなさい!」
ビックリした表情を浮かべ私を見下ろす滝くんに気がつき勢いよく手を引き離した。
我に帰ると、胸を押さえて自分を落ち着かせる。
多分今が自分を変える一番のチャンス…そして罪を償えるチャンス。
これを逃せばまた同じように自分に偽りながら生きていく―そんなの絶対に嫌。
私も頼られる人間になりたい…。

「その小説私も持ってますから…私が…貸します」
震える声で滝くんにはっきりと伝える。
滝くんが耳に携帯を当てたまま、固まり私を見ている。
(お願い…断らないでッ!)
返答を待つ数秒間、私の頭は祈りをするシスターの如く何度も神様に願う。
「……あぁ…山科さんが貸してくれるらしいからやっぱりいいわ」
「ッ!?」
私は心の中で強くガッツポーズをした。
月森さんでは無く、一人の人間が私を頼りにした…その事実が嬉しくて何度も胸の中で喜んだ。






そして心の底で月森さんを小さく嘲笑った。

112: ◆ou.3Y1vhqc
11/12/03 00:45:23.14 CJB6jKiZ
ありがとうございました、投下終了です。

113:名無しさん@ピンキー
11/12/03 00:47:25.06 sgRvOKPG
GJ
生投下久々に会えた
山科いいなあ、人間くささがたまらん
次回も期待してます

114:名無しさん@ピンキー
11/12/03 02:08:54.33 Osvuv2RD
乙!

115: 忍法帖【Lv=6,xxxP】
11/12/03 03:43:26.06 laX32jBo
おお、素晴らしい。GJ!!

116:名無しさん@ピンキー
11/12/03 05:52:22.90 gsdy0Wp1
どちらも続きが気になる


117: 忍法帖【Lv=23,xxxPT】
11/12/03 19:56:38.03 LkI65sIj
GJ!!
丁寧だわホント色々と

118:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:48:59.12 fUz0qL6P
さてそろそろ投下しても大丈夫ですかね
今回はそこそこ怪作に仕上がった気がします
では投下しますね

119:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:49:36.10 fUz0qL6P
妹が死んだ。
それは十二年前の寒い冬の日のことであった。
俺は妹が死ぬ前日に、妹から禁忌の恋心を伝えられていた。
兄としてではなく、一人の男性として俺を求めていたのだと。
当然、受け入れることは出来なかった。
妹はまだ十二歳という若輩者であるからその身体が幼く情欲をそそられないという部分もあるにはあったが、主な理由は倫理面である。
俺は自分で言うのも何だが極めて常識的な人間である。
盗みを働いたことも暴力を奮ったこともないし悪口も好き好んでは言わない。
世の中には禁断の果実を好んで食らいたがる破滅主義者が散見されるが、俺はそのような人間ではなかった。
もちろん空想でなら、俺にだってある。幼く可愛らしい存在が、俺を兄と慕う。それは妹的存在なのであって、妹ではない。
母性豊かな人を好む男が母親を犯したがるわけではない。
妹から恋を打ち明けられた俺は、彼女をたしなめた。
子供は友情や尊敬を恋や愛情と混同しやすいこと、好きや愛の感情は家族に向けるものと異性に向けるものは違うこと。
粘り強く、小さい妹でもわかるように噛み砕いて説明した。
それでも妹は決して屈さず、俺を愛していて自慰の空想にまで用いている事までさらけ出した。
はっきり言おう、おぞましかった。
目の前の生き物が、俺が可愛がり面倒を見ていた妹、美優であるとは思えなかった。
まるで悪霊が取り付いた様で、その瞳には俺には理解できない炎が爛々と灯っていた。
俺は理解を放棄した。考えたくもなかったのかもしれない。
美優の告白を冗談として扱い、夜も遅いからと彼女を寝床へ追いやった。
去り際に俺を見る美優の目には、失意の念が宿っていた。
その目に宿るものから、俺は何か不吉な予感を感じ取っていた。
事態が思いも寄らない方向へ転がっていくのは、家人の誰もが寝静まる夜中の事だった。
隣の妹の部屋から、ごり、がり、と何か硬いものがぶつかり合う音がする。
不審に思った俺は妹の部屋を訪れた。
そこで俺の見た光景は、俺の理解を越えるものだった。
妹は部屋の中央に座り、何かを鬼気迫る表情で飲み込み続けていた。
飲み込んでいたのは、彼女の前に山のように積まれた石ころであった。
たくさんの石を飲み込んだのだろう、美優の腹は妊婦のように膨らんでいる。
「何をしているんだ!」
俺は思わず怒鳴ってた。美優はそんな俺の声など全く気にしない様子でその行為を続ける。
「ああ、お兄ちゃん。美優ね、お兄ちゃんのための子供を産むの」
うっとりした顔の妹の口から出された言葉に理解が追い付かない。

120:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:50:24.34 fUz0qL6P
「美優、悲しかった。私がいくら訴えてもお兄ちゃんはわかってくれない。
それどころか私を汚ならしいものでも見るかのように顔を歪める。
どうして私に応えてくれないのか、足りない美優の頭で一杯考えた。
そうしたらね、わかったの。お兄ちゃんが隠していたえっちな本はたくさんの女の人から愛される本ばかりだった。
お兄ちゃんはたくさんの女の人から愛されたかったんだね。美優一人には縛られたくなかったんだね。
だから美優はお兄ちゃんのはーれむの一員になることにしたんだ。
でもその方法がわからなくてうとうとしてたら寝ちゃったの。
そしたら夢にね、ぴかぴかした真っ白な人が出てきたの。
その人がね、言ったの。
だったら貴女が兄のために兄のためだけの女を産みなさい、って。
美優ね、それは名案だと思ったの。
だってお兄ちゃんが選んだ人が独占欲から私を排除するかもしれない。
それに私にだって独占欲くらいある。
でもはーれむがみんな私の子供なら何も怖くない。だってみんな私から生まれたものなんだから。
そしてね、その方法を教えてくれたの。
ぴかぴかした真っ白な人が子産み石を用意するからそれを飲み込めば子宝に恵まれるって。
目が覚めるとお部屋にまぁるい石がたくさん積まれてたの。
真っ白な人ありがとう、ってお礼してからのみ始めたの。
石なんて飲めるはずないんだけど、するする飲めちゃったの。
それに飲んだらお腹の中で石がぽかぽかしてきて、ああ、赤ちゃんになってるんだってわかった。
お兄ちゃんのために孕んだんだって思うと幸せを感じたよ。これが女の幸せってやつなのかなぁ。
えへへ、たくさん産んであげるねお兄ちゃんのための女の子を。
何人だって、何度だって、何年だって産み続けてあげる。
美優のお腹が壊れてしまうまで、貴方だけを求めて、貴方だけを愛する女達を産んであげるんだ」
俺のせいで美優は妄想に取り付かれて狂ってしまったのだろうか。
恍惚の表情で腹部を撫でている妹が突然苦しみ出す。
「う、産まれる、赤ちゃんが出てきちゃうっ!」
そんな馬鹿な、と唖然とするがすぐに飲み込んだ石ころのせいであると思い直す。
赤ずきんの童話の狼のように、ぷっくりとお腹は膨らみきり、妊娠線が幼い皮膚の上を走っている。
美優の顔には内臓を石で傷つけたのか、苦しみから顔を強張らせてびっしりと汗を浮かべていた。
明らかに危険な状態だ。俺はすぐさま救急車を呼ぶことにした。
搬送された美優は、程なくして命を落とした。自らの命を引き換えに三人の赤子を残して。

121:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:51:48.72 fUz0qL6P
医者から告げられた言葉を俺を含めた家人は理解出来なかった。

腹部には石など詰まっておらず、胎内に赤子がいることが診断によって判明する。
母体が幼く、三つ子であることから帝王切開を行う。
母体は理由は不明だが極度の衰弱状態にあり、帝王切開による負担に耐えきれず心肺停止に陥った。

祖父母と両親は何者かに犯された上に子供を孕ませられ死んでしまった妹の事に何故気付いてやれなかったのだ、と自分達を責めた。
俺は妹が妊娠していたはずがないとわかっていた。
だが腹からは石ではなく赤子が取り出され、妹の部屋にあった山積みの石は何処にもなかった。
さらにこの件の不可解さから虐待を疑われて警察やマスコミが我が家を荒らしに荒らした。
疑いは時と共に晴れたが、家族はぼろぼろだった。そんな俺達の支えになったのは美優の遺した三人の娘達。
この子達を失った美優の分まで可愛がって育てていく、それは家族全員の思いだった。
優子、優香、優輝と名付けられた娘達は母親がいないのに本当にすくすくと育った。
優子は明るくおしゃれに敏感な今風な性格。優香はぽんやりとして占いなどが好きな昔で言う不思議ちゃん。
優輝は名前の通りに男勝りな性格で運動が大好きだ。
美優は気弱で緊張して喋るとどもり、人見知りが激しくいつも俺の後をついてくるような子だったから新鮮に感じる。
三人は見た目は妹と瓜二つに育った。目はお月様のように真ん丸で、鼻は可愛らしい団子鼻、唇はやや厚くぷりんとしている。
三人とも綺麗な黒髪を肩まで伸ばしている。……妹と同じように。
三人の見分け方は喋り方と目だ。そのままぱっちりさせてはきはき喋るのが優子。
やや眠たげにしていて夢見がちな少女のように喋るのが優香。
目を吊り上げてやや低い声で男みたいに喋るのが優輝だ。
三人は同じ遺伝子を持っているはずなのに全く違った個性の持ち主になった。
まるで異なる性格になることを示しあわせたかのように。
思えば不思議な子達だった。赤ん坊は自分に年の近いものをよく見る、なんて迷信を聞いたことがある。
それでも赤子であった彼女達は異様な程に俺を意識していたように思える。
俺が動くたびにベビーベッドから赤ちゃん達はじっとつぶらな目で俺の姿を追いかけていた。
おしゃぶりや哺乳瓶なんかより俺の指をしゃぶる方がお気に入りだった。
母親がいない寂しさからそうするのだろうと放っておいたら、水分でしわくちゃになるまでしゃぶられたものだ。
そしてそれを俺が嫌がって止めさせると激しく泣く。
いつもは俺が抱いてあやすとどんな時でも笑うのだが、指をしゃぶることだけは譲れないようだった。
お陰で三人娘がある程度大きくなるまでは指が渇く暇がなかった。

122:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:53:47.90 fUz0qL6P
ある程度大きくなっても三人はトイレのしつけが中々上手く行かなかった。
小学三年生くらいまでは大小どちらも手伝わされたものだ。
甘やかされた子供は一人でトイレをするのが遅れるという。
外ではきちんとしていたようだが、家では甘えてしまうのだろう。
甘え、そう、三人娘はひどく俺に甘えが、両親にも祖父母にもあまりなつかなかった。
12歳となった今ですら、三人娘は俺を無邪気に父と慕ってくるのだ。世の父親はそれぐらいになると洗濯物を分けられたりするが。
未だにお父さんのお嫁さんになると言ってくれるのは嬉しいが、気恥ずかしくもあるものだ。
早く父離れをして欲しいとも思う反面、急に構わなくなったら寂しくて泣いてしまうだろうとも思う。
三人娘は赤ん坊の時から泣き出すと俺でないと泣き止まないために自然と俺の部屋で面倒をみていた。
12にもなるとそれぞれの部屋が欲しいだろうと家人で物置になってた部屋を整理したりした。
三人娘はその提案を受け入れず、未だに俺の部屋で寝起きしている。
もちろん布団は別だがあの年頃の乳臭い甘ったるい少女の匂いが部屋に常に充満している。
俺が普段着る寝巻きや布団にもそれが濃く付いてしまい、着たり寝たりするたびに他人の持ち物を借りてる気分になる。
だがそれが大好きな娘達からのものなら汗だって何だってうれしいものだ。これも親馬鹿だろうか。
仕事が休みな日はもちろん三人娘を遊びに連れてってやったり、勉強を見てやるだけで終わってしまう。
いい年にもなって告白したりされたりの経験が妹一人とは情けない。
それでもこんな日々が続く事を俺は願っていた。


何故急に昔のことを思い出したんだろう。
走馬灯のように巡る娘達との想い出に俺は何か違和感を感じていた。
何だろうか、この予感は。
帰宅途中の電車の中でうつらうつらと眠っている内に見た過去は何故かもはや遠いものに思えた。
そんなはずはない、平凡な娘達との日々はこれからも続くのだと自分に言い聞かせながら家を目指す。
言い知れぬ焦りから歩く速度は上がっていく。
家の玄関のドアを開けると美優が立っていた。
美優の姿は、火葬される前にそっくりだ。肌は青白く、死化粧を施されて幼さが影をひそめたその顔には満面の笑みが浮かんでいた。
病的な肌の白さとは対照的に赤く塗られた唇が笑みで弧を描く様は、ちらりと覗く白い歯と相まって何とも妖しい。
幽霊か、幻覚か、この美優が俺の前に現れたのは今が初めてではない。
始まりは俺が忙しさにかまけて日課の美優の位牌へのお参りを怠けた時だった。
月命日や命日は忘れずにきちんとしていたのだが、日課を怠けた次の日に俺の前に現れた。

123:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:55:24.95 fUz0qL6P
俺が何気なく居間へ行くと、恨めしそうな顔をした美優がこちらを睨んでいた。
といっても所詮は美優だ。頬を丸く膨らませて、垂れ目を精一杯吊り上げても怖いはずがない。
団子鼻をふんふんと鼻息荒く怒ってるふ様は冷静に見れば微笑ましいくらいだ。
それでも死んだ人間が目の前に現れるなんてのは予想もしないことだ。冷静でなんていられない。
俺は腰を抜かした。女性よりも尿道が長いために男性は漏らしにくいのだが、無様にもだだ漏れだった。
そんな哀れな姿に美優は呆れた顔をして、すうっと陽炎のように消えた。
その日は一晩中、美優の位牌に手を合わせていたことは言うまでもない。
それから美優はたびたび俺の前に姿を現すようになった。
電車でうつらうつらしていると、いつの間にか対面の座席に座っていたりしたこともある。
一生懸命に目を吊り上げて口の前で両手を使ってバツ印を作っていた。
気付くと既に降りる駅で、美優がサインを出さなければ会社を遅刻するところだった。
知人の女性と喫茶店でお茶をしていた時にカウンターの中で店員に混じってこちらを見ている美優に驚いて吹き出しそうになった事もある。
愛らしい垂れ目がそのまま溶けてしまうようにしょんぼりと垂れ下がっている美優はあまりにも哀しそうだ。
その知人の女性とは交際も視野に入れて交友していたのだが、そんな美優の様子を見たからか自然と疎遠になった。
また、三人娘を仕事が忙しくてあまり構ってやれない時には俺を叱ってくれた。
娘達は俺に心配をかけまい、と気丈に振る舞っていたのだが、隠れて泣いているのを美優の手招きによって発見したのだ。
不甲斐ない俺を見て、美優は両手を耳の側に置いて指を立てて鬼の真似をしながらぷりぷりと頬を膨らませていた。
そんな風に美優は俺を手助けしてくれる守護霊のような存在になっていた。
普段は姿を見せないが、色んな事を知らせるためにすぐに目の前に現れる事が出来るということは、頻繁に近くにいるのだろう。
死してなお俺の後をよちよち付いてくる美優の事が、幼い頃にお兄ちゃん、お兄ちゃんと付いてきた時を思い出させて何だか嬉しく思えた。
美優のおかげで事故を逃れたりしたこともあり、良い事だらけのようだが美味い話には裏がある。
美優が幽霊として初めて俺の前に現れてからしばらくして、夢にまで美優は出てくるようになった。
それもただの夢ではない。えっちな夢、いやらしい夢、いわゆる淫夢である。

124:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:56:56.46 fUz0qL6P
淫夢の中で俺は夢であるという認識を持たず、兄であるという意識さえ忘れて、妹の未成熟な裸体を貪っていた。
着ているものを破り、非力な抵抗を押さえ込み犯すのだ、殆ど強姦のように。
無理に体を開かれ、俺の変な力のかけ方で痣が幾つも出来ても、血をいくら流そうとも、美優は本当に嬉しそうに悦ぶのだ。
人のように言葉は交わさず、獣のようにただただ吐く息とうなるような喘ぎだけで快楽を表す。
犬のように、はっはっはっ、という荒く吐かれた息も、発情期の猫のような間延びした、ぁあーん、ぁあ、という喘ぎも心地好い。
愛も情も投げ捨てて、俺も妹にならいどんどん一個の獣へも転じていく。
どくどく、だくだく、と小さな子宮に子種を注ぎ込む事だけが全てとなっていく。
髪をつかみ、固さの残った尻に手を何度も叩きつけながら、がつがつと後ろから挿入してやる。
犬のように叫ばせ、犬のように交尾を強いることに堪らなく支配欲が満たされていくのを感じる。
どんなに荒々しい行為でも美優は受け入れる。
それどころか性行に没頭する俺を本当に夢見心地で見つめるのだ。
互いの分泌する体液まみれになりながら、子犬がじゃれ合うように美優の体を玩ぶ。
それが延々と繰り返されるのだ。精は尽きず、欲も尽きず、目が覚めるまで……。
俺は股間に感じる冷たさで目を覚ます。そうすると、下腹部は小水を漏らしたように我慢汁やら冷えた精液やらでびしゃびしゃなのだ。
驚きに血の気が引いていると、くすくすと笑い声が聞こえる。
その声の方向を見ると、幽霊である美優が唖然とする俺をいとおしそうに眺めていた。
幾ら語りかけても美優は何一つ語らず、ただただ微笑み続けていた。
それから地獄とも天国ともわからない夜の営みが交わされるようになったのだ。
夢で美優はあらゆる姿に変幻する。
ある時は俺よりも一回り上の歳の熟れきった女になったこともある。
俺を膝枕しながら、豊満に育った乳房を惜しげもなく赤子にするように俺の唇に与える。
美優の乳首から出るとろりとしたミルクに激しく興奮した俺の一物を手で優しくしごいてくれる。
またある時は高校生くらいの美優とお互いに制服を着て図書室の隅で隠れながら激しく交わった。
人が近くを通りすぎるたびに息をひそめながらゆっくりと腰を動かすと、羞恥からそんな生ぬるい感覚でも簡単に達する。
珍しい時には獣人や耳が長くて金髪の俗に言うエルフの姿で交わったこともある。
獣人の時は尻尾が性感帯らしく、全身に薄く生えた毛の心地よさを抱いて味わいながらいじり倒してやった。
エルフの時は耳が性感帯のようで、噛み後がたっぷりと付くまで甘く噛んでやった。
どんどんと淫夢に溺れていく自分がいた。それは美優の策略かもしれないが、美優を一人の女として愛し始めている自分がいた。
この十二年間の夢での逢瀬と現実での助けから、実質的には幽霊の美優は俺の妻のようになっていた。

125:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:58:21.27 fUz0qL6P
倫理に背く罪悪感や禁忌の念はもはやなかった。
死んだものにまでそれを適応するべきではないと思ったし、生きてる内には幸せにしてやれなかった事への罪滅ぼしもある。
不自然な出来事ではあったが、その不幸の引き金を引いたのは間違いなく俺だ。
こんな風変わりな結ばれ方もありと言えばありなのかもしれない。
だから霊能者を頼って除霊だとか、美優を嫌がるとかはなかった。これもまた娘達と同じく、平凡な日々になっていた。


「どうしたんだ美優、やけにご機嫌じゃないか」
美優はまるで受験に受かった高校生のように満面の笑みだった。
それを見て、嫌な予感が胸をよぎる。美優はにこにこと俺の部屋の方を指を指す。
「俺の部屋か?娘達が何かしてるのか?」
玄関には靴は娘達のものしかなかった。
両親は仕事に、祖父母は公園でゲートボールや公民館で将棋やお茶会でもしたいるのだろう。
美優の先導に従って、俺は自分の部屋を目指して歩き出す。
廊下を歩く音がやけに響く。
このまま行けば、何か見てはいけないものを見てしまう気がする。
決定的な何かが起こってしまう確信があった。
俺は美優の招きに構わず、外で時間を潰そうとする。
そんな俺の手を凍えるような冷たさの手で握りしめて美優は引き止める。
「あぁ、美優、俺は用事を思い出したんだ。買わなきゃいけないものがあって……」
自分でも言ってて苦しい言い訳だ。
そんな俺の苦し紛れな言葉を、美優は小さな顔をふるふると横に振ることで一刀両断してしまう。
生きていた頃は非力だったのに、死した今では捕まれた所が痣になりそうなくらい力が強い。
軽く全身をねじって脱出を試みても徒労に終わる。
仕方なく美優に従う事にした。
美優は機嫌が良さそうに鼻歌を歌いながら先を歩く。
そうして俺の部屋へと到着した。



「あっ、父さん、父さんっ!はぅ、ぅぅ、ぅん、はぁっ、好きっ、ぁあ!」
優子は三人の中で長女だからか一番大人びるのが早かった。おませさんとも言っていい。
バレンタインデーチョコを一番最初に俺にくれたのも優子だ。
無理に手作りにしようとしたのか、形は崩れてたけど味は美味しかった。
俺がそれを褒めたからか、料理に凝るようになって日曜の昼などには色んな試食をさせられる。
父さんはもっとおしゃれに気をつかいなさいよ、と言って俺の服装をコーディネートしてくれる。
友人などからセンスが良いと褒められると、娘は末はデザイナーか、なんて親馬鹿な妄想をしてしまう。
無精がちな俺を叱咤し、励ましてくれる実の姉のような俺の可愛い娘。
何処に嫁に出しても胸を張れる三人娘の長女。
その娘は今、ベットの上で衣服を乱しながらうつぶせになって顔を俺の枕に埋めて自慰に耽っている。
俺がいるドア付近の場所からではその顔を見ることは出来ない。
しかし、欲望の熱から耳と頬は薄い紅色に染まり、肌からは汗が流れ出しているのはよく見える。

126:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 04:59:55.34 fUz0qL6P
かいた汗によって肌に貼り付いた乱れた衣服が何ともいやらしい。
喘ぎに連動するように動かされる優子の右手からは、ちゅぶっ、ぐちゅ、という卑猥な雌の音がしている。
「あぁ、と、父さんの匂い、ぁっ、し、幸せっだよぅ、いいにっ、おいだよぅ、くぅん!」
俺からはその表情を見ることは出来ないが、淫らに歪められている事は容易に想像出来た。

「お父様に包まれてるっ、はぁ、やだぁ、こんなの見られたらい、いやですぅ、でもっ、き、きもちいい、うっ、うぅぅ」
優香は変わった子に育った。
お父様、なんて呼び方は中世のお嬢様くらいしかしないのではないだろうか。
優子はセブンティーンなんかによく載るような流行の服装が好きだが、優香はいわゆるロリータファッションだ。
俺から見ても不気味ないわゆるゴスロリではなく甘ロリとかいう白いドレスみたいなのを好んで着ている。
占いやオカルトが好きで、周りからは少し気味悪く思われてしまう事も多い。
それでも、三人の中で一番心優しい事を家族は皆が知っている。
家人が風邪や怪我をしたら心配そうにしながら色々と世話を焼いてくれる。
俺がインフルエンザで倒れた時は涙をだらだら流しながら一晩中看病してくれた。
飼っていたわけでもない隣の家の犬が死んだだけで長い間塞いでしまうような娘。
あのわんちゃんは天国に行けたでしょうか、そう言って俯く優香の頭を撫でて慰めてやった。
将来はきっと人の助けになるような仕事に就いて立派な人になってくれるであろう可愛い娘。
その心根に触れれば誰でも微笑まずにはいられない自慢の次女。
そんな優香は今、素肌に俺の寝巻きを身に纏って一人遊びに耽溺している。
目には何も映さず虚ろで、口は何かを求めるようにだらしなく開かれて小さなピンクの舌が覗いている。
「お、おとぉさまぁっ!もっ、もっと強くだいてぇぇ、いっ、いいっ、つ、つよくっ、してぇっ!」
俺の匂いの中で、俺に強く抱き締められる空想を味わっているのだろう。
俺がいつも着ているズボンの股の部分は優香の愛液によってひどく濡れていた。
余りの濡れ方に床まで濡らし、小ぶりなお尻が快楽に身じろぎするたびにびちゃり、ぴちゃ、と妖しい音を立ててしまう。

「父ちゃんっ、ぴちゃっ、僕っ、すんすん、ぁあ、僕っ、はぁ、ご、ごめんなさいっ、えっちで、ぁあ!」
優輝は名前通りに少年らしい娘に育った。
服装なんかもジャージなんかの簡素なもので姉二人からいつも注意されている。
運動が大好きで、早朝には三十路近く健康を気にし始めた俺とランニングをよく行う。
俺が運動に適したジャージ等に着替えて玄関へ行くと、今か今かと待ち構えてうずうずしてる優輝は散歩前の犬のようだ。
二人っきりで走りながら学校なんかであったことを語られるのはとても大切な時間だ。
運動音痴な姉二人が優輝ばかり構われるその時間に嫉妬して、朝は俺にべったりとついて離れないのには困るが。

127:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 05:03:12.09 fUz0qL6P
そんな犬のような優輝は、僕は父ちゃんとこのまま走りながら一緒に死んじゃってもいいなぁ、なんて困った事を言う娘でもある。
美優の事が身に染みている俺は、死というものを軽んじる感じの優輝の発言をたしなめる。
優輝は笑いながら謝った。答え方は軽いが、二度と死を軽んじる発言はしなかった。
いつもにこにこ笑って少年のように振る舞うけど、本当は女性らしく他者の機微に敏感なのを俺は知っている。
だから優輝と一緒にいることはとても楽しい。
仲の良い友人としか作り出せない自然に気持ちが盛り上がっていく空気を、優輝はどんな人とも共有出来る。
そんな優輝は三人娘の中で一番友達が多い。
明るくて三人のムードメーカーな可愛い娘。
結婚した旦那さんはきっといつだって笑っていられることを世間の誰にだって保証出来る三女。
そんな優輝は、俺の普段使っている椅子に敷かれたクッションに膝立ちで顔を乗せて手淫に夢中になっている。
クッションを鼻で嗅ぎ、舌を走らせるその様は、一匹の発情した雌犬のようだ。
「こ、濃いよぉ、ここ、濃いのぉ、こんなの、駄目になっちゃう、僕っ、父ちゃんからえっちな子にされちゃうっ!」
ずりおろされたズボンから露になっている尻たぶはぷるぷると揺れて、普段からは想像出来ない程に女の妖艶さにまみれていた。



俺は目の前の光景から逃げ出したかった。目を瞑っても、少女達は男を惑わせる嬌声を上げ続ける。
性の戯れに夢中な少女達は父に気付かない。
この場から逃れるために身体を動かそうとしてもぴくりとも動かない。腕や脚、口でさえも。
まるで金縛りにあったかのように、いや、恐らく美優によって金縛りにあっているのだ。
くすくす、と美優が笑いながら俺の股間をまさぐる。
俺のペニスは鉄の芯でも入ってるかのように硬くなっていた。
俺は育ててきた何よりも大切な娘達の乱れる姿に激しく欲情していたのだ。
娘達の声と身体の震えが激しくなっていく。
美優は俺のベルトを緩めてからズボンに手を入れて、娘達の自慰に合わせて肉棒をしごき始める。
ボクサーパンツの締め付けと、驚くほど冷たい美優の手、そして何よりも娘達の性欲に溺れる姿が俺をどんどん高めていく。
「と、とうさぁんっ、ぁっ、はぅ、あぅぅ、ぁぐぅぅぅ!」
「はあぁ、ひっぎっ、んんん!お、おと、おとぉさまぁ……ぁあ、はぁ」
「ひっ、ひぃっ、とうちゃ、んっ、ひっぃいいい!」
娘達が激しく達したと同時に俺もまた美優の手によって激しく射精させられていた。
どくっ、どく、と絶え間なく流れ出してくる。
視界には絶頂して放心した幼い娘達が見える。
心労からか、余りの快楽からか、意識が遠ざかっていく。
ふらふらと夢に落ちていく中で、笑う美優の声が聞こえた。

128:三つ子の愛 上編 ◆FBhNLYjlIg
11/12/04 05:05:46.77 fUz0qL6P
投下終了です
キモウトは周りの泥棒猫を殺す
んじゃ私の依存妹には泥棒猫を産ませてみよう、という発想で出来ました
ジャンルはホラー?
下編は年内には投下します
なんかDV妻依存ものと忠誠依存ものを新しく思い付いてしまって
中々予定通りには行きませんがとにかく書き続けてはいくんでご容赦を
いやー私も周りのみなさんみたいにばしばし長篇投下したいんですけど浮気症の上に早漏で駄目ですね
まあ少しでも楽しんで頂ければ幸いです

129:名無しさん@ピンキー
11/12/04 05:50:28.30 ZFCWwaqB
>>128
いいです、凄く好みです。
色々と思いつくみたいだし、ジャンルも多種。
すんばらすぃ

130:名無しさん@ピンキー
11/12/04 05:56:34.35 PrDosXU5
>>128
乙乙、キモウトとキモムスメ(予定?)の両方に逢える作品が来るとは…
感謝。

131:名無しさん@ピンキー
11/12/04 09:17:09.82 sewQYK06
>>128
とても良かった!
絶対に続編を書いてくれよ!!

132:名無しさん@ピンキー
11/12/04 14:30:41.36 UEtchwKw
>>128
ぼくいぞ完結させてくれ(´・ω・`)

133:名無しさん@ピンキー
11/12/04 14:32:50.91 sNB4uICZ
(´・ω・`)

134:名無しさん@ピンキー
11/12/04 21:05:16.14 zwVaNK/H
ぼくいぞで三回抜いた俺にも言わせてくれ
来年の春まで待つから完結させよう、な?

135: 忍法帖【Lv=7,xxxP】
11/12/04 21:24:05.18 Ru+SiC/m
>>128
素晴らしいよ!!GJ!!

136:名無しさん@ピンキー
11/12/04 21:58:09.56 FK/40ZzD
偽りの罪と天秤 何回も読み直してるわ マジで傑作

137:名無しさん@ピンキー
11/12/04 22:12:57.12 6+vK/Qsb
>>128
ホラーなエロスとか…理想過ぎておっきとまんねえ
マジGJ

138:天秤 蛇足 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/05 00:05:34.14 0LpwRFcO
こんばんは~
偽りの罪、三つ子の愛、ぼくいぞ。全部楽しく拝見させていただいてます。どの作品も女の子が可愛くて……本当に素晴らしいです!

そして今回は蛇足。12話ではないのであしからず………
そしてとても短いお話です。時間軸は4話のすぐあと、莉緒が宮都にネックレスを貰ったところからの続き。

前スレでも言いましたが、私は本っ当に!エロは書けません。そっち方面は上記の素晴らしい作品で補充して下さい。

139:天秤 蛇足 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/05 00:06:27.57 0LpwRFcO
夢現


宮都は疲れていた。妹の誤解を解いた後は入浴してすぐに寝るはずだった。しかし一階で父に捕まり散々尋問されやっと解放された時、時間は既に2時に達していた。
明日は…いや、今日は8時に起きなくてはならない。宮都はシャワーだけ浴びてすぐに眠った。既に疲労はピークに達している。
だから、自室に莉緒が忍び込んだ事に気づかなくても不思議ではない。

「…お兄ちゃん?」
寝ている事を確認すると兄のベッドの傍まで近づく。そして…
「ごめんね。…お兄ちゃん。私、もう我慢……出来ない………したくない……」
ベッドに入り兄と一緒に毛布をかぶる。お互いの顔は5cmほどの距離しかない。
しばらく兄の綺麗な顔を見つめていたが唐突に目を瞑る。そして………

140:天秤 蛇足 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/05 00:08:02.56 0LpwRFcO
心臓が痛いくらいに脈打つ。顔が赤くなる。私は一体何をした?
目を瞑り顔を近づけただけだ。ほんの5cmだけ。たったそれだけ。
自問自答で自分をごまかす。しかし莉緒自身が一番理解している。
自分が何をしたのかを。心臓が痛いのが……顔が赤いのが恥ずかしさでは無く嬉しさからくるものだということを。
「……もう一回」
兄の身体の下から腕を回して抱きしめる。そして今度は目を開けたまま…………

自らのソレを兄の唇に触れさせた。

10秒くらいしただろうか。ゆっくり顔を離す。息を整えてもう一回……
次は15秒。そして20秒。そして………
「ん、んふ。」
軽く舌を入れる。しかし宮都は寝ているため歯に進行を阻まれる。なら……
「………ん…」
莉緒は歯を舐め始める。1つ1つを丁寧に。奥の方から順番に。
宮都は食後と就寝前は必ず歯を磨く。初めてのキスはミントの香りがした…………
「ぷはっ」
夢中になっていて息をするのを忘れてた。少し慌てて息継ぎをする。
「ぉ…お兄ちゃぁん………」
莉緒は無意識に兄を呼ぶ。発した自分でも信じられない位に、とても甘ったるい声だった。起きて欲しくない、でも気づいて欲しい。そんな矛盾した思考が頭を巡っていた。

「ぅ…んん…?」
「……!!」
宮都が声をあげた。莉緒は自分の心臓を鷲掴みにされたようにビクッとなり、硬直した。
「………」
宮都はそのまま寝返りを打つとまた規則正しい寝息を立て始めた。
莉緒は安堵の息を吐く。
「大丈夫……まだ」
莉緒は宮都を後ろから抱きかかえ、背中に自分の頬を擦り付ける。
(なんだろう、この感覚。すごく安心する。それに、いい匂い……)
すると宮都が急に寝返りを打った。莉緒を抱きしめるように。
「~~~!?」
必死で声を抑える莉緒。寝ている兄に自分から抱きつくなら平気だが相手からいきなりやられるとなると話は別だ。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
宮都はまるで抱き枕に抱きつくように莉緒をつつむ。腕や脚は動かせない。莉緒の視界は宮都の寝顔で埋め尽くされた………
(暖かい……凄く気持ちいい)
まどろみが莉緒を襲う。

141:天秤 蛇足 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/05 00:09:01.19 0LpwRFcO
いつからだったろう…兄の顔をまともに見れなくなったのは。
いつからだったろう…兄と話すたびに心臓が早鐘を打つようになったのは。
いつからだったろう……兄に愛されたいと思い始めたのは………

最初は他の家庭と同じだったと思う。『将来お兄ちゃんとけっこんする~』みたいなやつだ。
宮都は莉緒を生まれた時から可愛がっていたし、莉緒もずっと宮都を慕っていた。
本来はそこから少しずつ兄離れをしていくものだが莉緒にはそれがなかった。宮都が優しすぎたのだ。

家では常にべったりだったし、小学校でも時間があればお兄ちゃんに会いに行っていた。
外出する時もずっとお兄ちゃんに付いて行って……人見知りのせいで初めて会う人と何も喋れなくても、いつもお兄ちゃんがなんとかしてくれた。
全部お兄ちゃんに頼ってた。お兄ちゃんさえいれば他には何もいらなかった……
お兄ちゃんもそれを嬉しがっていたと思うし何の問題もないと思っていた。しかし……

『いやっ!行っちゃイヤ!お兄ちゃん!』
『莉緒。たった二日だけなんだから我慢しろって。お土産買ってくるから』
『いやぁ……二日も会えないなんて絶対………お願いだからぁ……』
修学旅行の前日、莉緒は泣いて宮都に懇願していた。
今まで出した事のないような大声で、そしてとても悲痛な声で……。この時莉緒は小学4年生。たった二日くらいならば我慢出来なければおかしい年齢だ………
『宮都は明日の準備をしていなさい。莉緒は…こっちに来なさい』
傍で聞いていた一弥が莉緒を連れて行こうと腕を掴む。一弥が力ずくで物事を解決しようとしたのは後にも先にもこれが初めてだった。
『いやぁ!やめて!私からお兄ちゃんを盗らないでぇ。助けてッ!!助けてよぉ!お兄ちゃんッ!!』


あの後お父さんに言われた。
『自律しなさい』『お兄ちゃんに迷惑をかけるのをやめなさい』『なんでもかんでもお兄ちゃんに頼るのはやめなさい、そんな子はお兄ちゃんだって好きじゃないぞ』と
その後は……何だっけ?何を言われたのかは覚えてない。
でもその日を境に私は変わった。
お兄ちゃんに抱きつくのもやめた。我儘言うのもやめた。甘えるのもやめた。話しかけるのもやめた。
だってそうしないと我慢できそうになかったから。この衝動を……
そうして私は何もかもを心に溜め込んでいった。
お兄ちゃんと顔を合わせるだけで、数分話すだけで爆発してしまいそうになるまで………
そして何より………お兄ちゃんに愛されたかった…………

142:天秤 蛇足 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/05 00:09:48.38 0LpwRFcO
そこで莉緒はハッとする。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。時計を見るともうすぐ7時になる。ちょうどいい時間に目覚めた。
莉緒はベッドから抜け出し、宮都に毛布をかけると部屋を出た。
昨日の夜……私は何をしたんだっけ?お兄ちゃんの部屋に来て、ベッドに入り込んで……その後どうしたっけ?その後何か夢も見たような…………
何か大切なものを失ってしまったかのような大きな喪失感。

…………でも

自室に戻って机に置いてあるネックレスを見ると、そんな事はどうでも良かった。
「………準備しなくちゃ」
そして莉緒は学校に行く仕度を始めたのだった。

143:天秤 蛇足 ◆9Wywbi1EYAdN
11/12/05 00:13:18.66 0LpwRFcO
以上です。短いですが蛇足という事で勘弁して下さいね……

パワポケの新作(14)では9でバグだった夏目 准が攻略出来るとか!キャラが被らないように気を付けないと………

144:名無しさん@ピンキー
11/12/05 00:48:42.09 +5vH2vZD
うおおお!どんどん妹が可愛くなっていく!
天秤さんにはエロなんていらんかったんや!
応援してます!これからも頑張って下さい!

145:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:17:42.84 OUwc3Fu/
なんか次スレ立ってるけど

146:名無しさん@ピンキー
11/12/05 20:20:07.53 N5aXDiTh
問題なくね?

147:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:02:41.15 OUwc3Fu/
問題ねーな

148:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:05:24.35 bCeMxnxV
せやか

149:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:06:58.55 0LpwRFcO
誰が立てたん?

150:名無しさん@ピンキー
11/12/05 21:13:29.20 bE/skqI6
というかなぜ立てた
まだ150いってねーぞ

151:名無しさん@ピンキー
11/12/05 22:18:34.05 QKiYIVSU
落ちるんじゃねーの?

152:名無しさん@ピンキー
11/12/05 22:20:33.93 wEBaUN1H
んじゃ保守しとくか

153:名無しさん@ピンキー
11/12/05 23:30:28.55 cCrxjJUy
必要ないだろ
どうやっても次スレ移行は早くても3.4月ごろなんだし

154:名無しさん@ピンキー
11/12/06 00:47:38.82 yQugfGF3
>>143
投下乙!いつも楽しみにしてます

しかし何故立ったのか?
書き込めなかったから機能してないと思ったとか?


155:名無しさん@ピンキー
11/12/07 20:59:35.49 yO3RP9io
なんか突然このスレから作者が消える予感がしたから書き込み

156:名無しさん@ピンキー
11/12/07 21:19:18.65 uSdQJ7w+
わかる

157:名無しさん@ピンキー
11/12/08 20:21:52.69 fMfc1UX/
おいおい、コンスタントに投下しろよベイビー達ぃ!

158:名無しさん@ピンキー
11/12/08 20:49:58.26 mlgr+TV1
言い出しっぺの法則

159:名無しさん@ピンキー
11/12/10 12:01:48.61 kiZWMSgc
SS初めて書いてみたんだが投稿してもいいんですかね
そして今書いたところまでだと絡みが全然ないんだけどいいんですかね
エロい人教えて下さい

160:名無しさん@ピンキー
11/12/10 12:18:56.43 s6WegNX/
>>159
いきなりシーンってのもあるけど、
やっぱりストーリーも見たい人もいるし、問題ないと思う。

161:名無しさん@ピンキー
11/12/10 12:29:02.61 ATnSAG12
新しい書き手さんやー嬉しいなぁ
ここはエロなしでもOKだし大丈夫だよー

162:名無しさん@ピンキー
11/12/10 12:32:18.25 kiZWMSgc
分かりました!それじゃあ投稿していきます!

163:「きょうみをもつひと」 1/7
11/12/10 12:34:16.69 kiZWMSgc
1.『敢て管せず』

「それにしても、忠幸はお父さんににてしっかりしてきたねぇ」
母はそう言いながら、俺の胸元をとん、と叩いた。妙にこそばゆい。
そして、父さんに似ていると言われて照れていた。
顔が赤くなるのを感じる。

「あんまり触るなって。若いエネルギーを吸い取られそうだ」
「はは、私は元気の固まりだよ。若いもんの精気なんてなくとも自前で十分」
むん、と胸を張る母。
発言は肝っ玉お母さんだが身長は150cmに届かず、
ブラジャーなんて要らないのではないか、
というか要らない(本人談)というプロポーションには少しミスマッチで笑える。

妹の雪香と並ぶと、どっちが親で子供か割と本気で分からない。
姉妹に間違えられるならまだマシな方だ。
そしてもちろん若くみられるのは母である。
妹はこのことについて本気で悩んでいたりする。
まあそう意味では、「若いもんの精気なんてなくても」というのは納得である。

「忠幸がしっかりしてきたおかげでだいぶ助かってるのよ、本当に。
このまま就職もカチッと決めちゃって下さいな」
今は大学3年生という大切な時期だった。
大黒柱がいない今、俺がその後任を担うしかない。

「そうだな、そろそろ母さんを楽にしてやりたいし。今日もこの後パートなんだろ?」
「そうよ。コンビニおばさんになってくるわ。レジ打ちの鬼と言われる私の実力を、とくとみるがいい」
とくとみるがいい、の部分を凄んで言おうとしているのだろう。
頑張って低い声を出そうとしているのだが、どう見ても苦しんでいるようにしか見えない。
笑えるのだが、こんなことぐらいで笑っていたら母とは会話ができない。


164:「きょうみをもつひと」 2/7
11/12/10 12:35:27.85 kiZWMSgc
「いや、みるがいい、って。見に行かないよ」
「あら薄情ね。少年漫画雑誌を小一時間立ち読みして、
苦し紛れにガム買って帰ってくだけでも歓迎するわよ」
「またえらい具体的な。まあ顔は出せないけど、家で帰りを待ってるさ」
「うーケチ。いけず。とーへんぼく」
 ぷぅ、と顔を膨らませながら睨みつける母。威厳なんてあったもんじゃない。
「はいはい、いってらっしゃい」
「いってきます!たーくん!」
「おいっ」
たーくんはやめてって言っただろう! という前に
いたずらっぽく笑いながら家を出ていった。




これが母との最期の会話になった。

交通事故だった。


正直もう耐えられなかった。

父さんが死んで3年だった。

家族3人で助け合っていこうと頑張っている最中だった。

完全に心が、折れてしまった。

廃人だった。就活なんて碌にできずにいた。


そんな俺を一生懸命支えてくれたのが雪香だった。

今度は私がお兄ちゃんを支える番だって。

お父さんが亡くなったときに支えてくれたからって。

あの時雪香が居なかったら俺は生きていなかったかも知れない。


165:「きょうみをもつひと」 3/7
11/12/10 12:36:21.16 kiZWMSgc
「何ぽけっとしているんですか先輩」
はっと我に返る。
目の前にはスクリーンセーバが起動したディスプレイ。
「いやぁちょっと思い更けてた」
そう言いつつ振り返ると、そこには予想通り無表情の柿沼が突っ立っていた。

裾が短めのダークブラウンのダッフルコートを羽織っており、
すらっとしたスタイルと、タイトに決めたスーツ、そして仏頂面の柿沼にはちょっと可愛い組み合わせだった。
生肌が拝めないのは少し寂しい物があるが、冬場の着込んだ感じもそれはそれでいい。
それにしても、こんな格好をしているということはもう帰るのだろうか。

「体調悪いのかと思いました。最近咳もしょっちゅうですし」
柿沼が自主的に声をかけてくれる事は非常に稀なことだった。

柿沼は入社以来俺の下にずっとついてきているのだが、ほとんど私語を交さない。
別に仲が悪いわけではない。仕事に関してはとても素直で、指導しがいがある。
ホウレンソウもしっかりしているので、とてもよくできた後輩だ。
ただ、互いにプライベートな話をまったくせず、趣味もなくテレビも見ないため
(柿沼の趣味やテレビを見るかについては憶測)、仕事以外で話す内容がない。
それ以前に柿沼は俺と同じで、他人にあまり興味がないのだろうと思っていた。

そんな彼女が声をかけるだけではなく、俺を心配してくれているのだ。
という訳で、俺は完全に面食らっていた。それが顔に出ていたのだろう。
「心配ぐらい私だってしますよ。風邪ひきたくないですし」
と、付け足した。

これを少し恥じらった感じでぼそっと言ったら可愛げがあるのだが、案の定というか相変わらずの無表情であった。
本当に文面のままが本心なのだろう。ただ、この歯に衣着せない言動は嫌いではなかった。

「マスクしてればうつらない、はず。それにそろそろ治るさ」
身体がだるいと感じ初めてからかなりの日数が経っていた。
熱も出ていたが動けないほどではなく、薬を飲みつつ出社していた。
そろそろ治ってもらわないと辛いものがある。

「だったらいいですけど、面倒なことになる前にしっかり治して下さい」
分かったよ、と言うと、それではあがります、とそそくさと帰ってしまった。
柿沼の軸のブレなさにある種の尊厳を感じつつ、そろそろ自分も帰りの支度を始める事にした。
もうこの時間になると終電まで後数本しか残っていないのだが、
年末にかけて夜間警備すること請け合いなので、それに比べれば数段マシだ。

166:「きょうみをもつひと」 4/7
11/12/10 12:37:00.50 kiZWMSgc
空に伸びる細い枝に無数の電飾が施され輝く。昨日にはなかった物だった。
時間が遅いためか、周りに人はほとんど見えない。
キツいライトアップも、こうも周り侘しいと悪くない気がしてくる。

俺は年末という時期が憂鬱で仕方がなかった。
この時期は仕事が忙しいのだが、それは大きな問題ではない。
それよりもうっとうしいのは、いろんな人に食事や飲み会に誘われる事であった。

俺は柿沼のように、自分と関わるなという雰囲気を出しておらず、
むしろ仕事を円滑にこなすために、人当たりはよい。
そうすると、年末の空気にあてられた人々からお誘いの声がかかる。

曰く、仕事の疲れ飛ばすためにぱーっと飲みにいかないか。
曰く、最近近くに出来たイタリアンにみんなで行くんですけど、どうですか。

俺が行く訳がないのだが、しれっと断る訳にもいかない。
いろいろと言い訳を考えて、申し訳なさそうに断る。これが本当に憂鬱であった。
ただ、何回も断るのが続くと向こうも察したようで、最近になると全く声がかからなくなり、悩む事もなくなった。
その頃にあの柿沼があてがわれたので、上司も思うところがあったのだろう。
さぞ周りから見たら奇異なコンビであろう。まあどうでもいいのだが。


そんな事を考えていると駅についていた。電車がもうすぐ来るようだった。
すかさず乗り込むと、車内では金曜日でもないのに酒の匂いが漂う。
電車が動き出すと、見慣れた風景が流れていく。
その流れる風景と同じように、いつも通りに思考が流れていく。

 そういやそろそろクリスマスプレゼント用意しなくちゃな。
 誕生日プレゼントは思ってたより喜んでくれたからな。
 今回はもうちょっと奮発しよう。雪香に何が欲しいのか聞くのもいいが、
 サプライズで渡すのもいいな。よし、今回はサプライズにしよう。

仕事帰りの車内で考えるのはいつも同じ事、雪香の事である。
むしろ、仕事の事以外で考える事は雪香の事しかない、といった方が正しい。
そして仕事は雪香のためにしていると言っても過言ではないので、俺にとって雪香は全てと言える。
それがいい事だとは思えないが。



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