12/02/25 20:33:41.58 DL+DMHSG
>>230 の結果を話す。多少記憶違いもあったので、最初から。
出典は「子ども世界」(けやき書房)の第95号、昭和57(1982)年6月1日発行。
タイトルは「鬼と、いり豆」(雑誌内の「日本の鬼ども」という連載コーナーの54回目の話)
ぶん:山下清三、え:中村景児
以下、端折って話す。
「ごめんください」といって、突然鬼があらわれました。
応対したお母さんが用件を尋ねると、
「おたくの娘さんを、おれの、およめさんにしていただけないでしょうか」
お母さんはちょっと考えて、台所から煎ったそら豆を3つ、鬼に渡しました。
「この豆が、芽を出すことがあれば、娘をお嫁にさしあげましょう」
こうやって、鬼の申し出を断ったお母さんでしたが、鬼は真顔で
「芽を出したら本当に娘をお嫁にくださるのですね。そうしたら早速畑にまいてみます」
別のそら豆でごまかすことを恐れたお母さんは、
「私の家の畑でまいてください。水や肥料を与えても結構です」
お母さんの見ている前で、鬼はそら豆をうえました。
それから鬼は毎日現れ、水や肥料をやり、草むしりをしました。
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が来てもそら豆は芽を出しません。
それでも鬼は世話を諦めず、雪をのけては藁をかけて、そら豆を守ります。
みかねた近所の人が、鬼に言いました。
「そら豆はもう死んでいるのだから、おやめなさい」
「芽を出してくれないと、お嫁さんに来てもらえないのです」
「それはそうですが、出来ない事は出来ないのです」
鬼は悲しそうに帰っていったが、それでもあきらめません。
どこかの村には、煎り豆から芽を出すことを知っている人がいるかもしれない。
明日からは何処までもその人を探して歩いてみようと思いました。
夜が明けて、鬼は旅支度を整えました。
ところが戸をあけると、そこには件の娘が立っているではありませんか。
「どうしたのですか、これは」
「あなたのところにお嫁に行くようにと、お母さんが言ってくださったのです」
「本当にそうおっしゃったのですか」
「本当です」
娘はにっこりして、
「お母さんは、あなたを見ていて、あなたの心が分かったのです。
この世で一番私を大事にしてくれるのは、あなたより他にいないから、
あなたの所に行くが良いと言って下さったのです」
雪がどんどん降り始めました。
「風邪を引くといけない。早く家に入りなさい」
鬼は、もう大喜びでありました。
(おわり。たぶん)