12/02/06 01:44:52.02 tR8C7iR+
そこは殺風景な部屋だった。白い壁と白い床と黒い扉で構成されたその部屋には
真ん中に一つだけ白いソファがぽつんと置いてあるのみだ。
ソファの上には女が転がっている。真っ白な長い長い髪と真っ白な肌と灰色の目を持つ
女は作り物のように綺麗に整った顔をしている。まだ年若く、少女と言ってもいい年頃だった。
皺のよった白い修道女のようなやぼったい白い服を着て、女はソファの上に転がっている。
横たわる、ではなく転がっている、としかいいようのないだらしの無い格好である。
服の裾はまくれ上がり、長い足が二本投げ出されている。髪は床まで落ち、
胸元は大きく開いていて肌が見える。
女はソファの上で身じろぎしながらぐだぐだと転がり、ソファから転がり落ちて「うー」とか「あー」とか呻いた。美しい顔に乱れた白髪がかかり、その様子も無駄に
美しい。女はなおもぐだぐだと転がり、ついには履いていた白いブーツを両方とも
脱ぎ散らかした。
いつもの事だが、酷い様子だ。部屋の隅に気配なく幽鬼のように佇んでいたもう一人は
思った。思ったが、いつものように黙っていた。2mを越す巨体を黒い鎧で包んだその顔は
鎧に負けないくらいに黒かった。一切の艶が無い漆黒の毛が顔を覆い尽くし、
鎧の下まで続いているのだろうと思わせた。獣の顔である。狼の風貌であった。
その異形の風貌の上から兜が目を覆い尽くし、瞳の色は見えない。伸びる鼻面には
何の表情も浮かんではいなかったが、内心の声が聞こえたのだろうか、
女は床に転がったまま人狼の方をジロリと睨みつけた。
「なによぉ」
「何も言ってない」
「なにか言いたそうじゃない」
「……今、一つだけ言うとするなら」
「やっぱりあるんじゃない、何?」
「下着が見えてるぞ、主人」
「みせてんのよ」
「しまいなさい」
人狼の言葉を鼻で笑い、女はだらしない格好でだらしない態勢のまま言い放った。
「使い魔ごときが主人に忠告するなんて500年早いわ」
元から主に何か言ったところでその言葉が聞き入れられた試しのない使い魔は
口を閉じた。彼女と長く付き合っていくコツは会話のキャッチボールを期待しない事だ。