ラストエグザイル 銀翼のファムでエロパロat EROPARO
ラストエグザイル 銀翼のファムでエロパロ - 暇つぶし2ch768:名無しさん@ピンキー
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12/05/05 01:17:52.14 yZJ4jYYd


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12/05/05 01:18:22.77 yZJ4jYYd


839:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:19:42.93 yZJ4jYYd


840:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:20:15.14 yZJ4jYYd


841:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:21:03.64 yZJ4jYYd
ルスリリw

842:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:21:50.54 yZJ4jYYd
アラルスリリwwwww

843:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:23:11.44 yZJ4jYYd
リリ様w3Pwクソビッチww

844:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:23:45.15 yZJ4jYYd


845:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:25:17.23 obcIObY8


846:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:25:46.05 obcIObY8


847:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:26:17.81 obcIObY8


848:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:26:59.52 obcIObY8
リリ様w

849:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:27:36.48 obcIObY8


850:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:28:29.29 obcIObY8


851:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:29:12.20 obcIObY8


852:名無しさん@ピンキー
12/05/05 01:31:51.06 obcIObY8


853:名無しさん@ピンキー
12/05/05 09:54:03.84 3Gg+JvMS
このままだと次スレになっちゃいそうだ
テンプレどうしよっか。ファム可愛いはあんまりだろw

854:名無しさん@ピンキー
12/05/05 10:33:33.08 NV7j9iUW
他スレのテンプレとか参考にするとこんなかな
追加修正適当に頼む

-----------------------------------------------------

「ラストエグザイル-銀翼のファム-」のエロパロスレです。

・キャラ、カプ否定や萎え、sage発言はダメです。荒らしアンチはスルー
・次スレは>>960居なかったら>>980が立てましょう
・職人さん募集中です

【過去作品(1期)】
2chエロパロ板SS保管庫
URLリンク(green.ribbon.to)
↑ここの『dat落ちスレッドの部屋その1』

【前スレ】
ラストエグザイル 銀翼のファムでエロパロ
スレリンク(eroparo板)

-----------------------------------------------------------
中盤で話題に出たこれ↓も>2あたりに貼っておいた方がいいのかな

SS書きの控え室
URLリンク(hikaeshitsu.h.fc2.com)

855:名無しさん@ピンキー
12/05/06 13:25:10.70 jQ9PR8mf
書き手Wikiって何だったんだ。俺はいまだにたどり着けん
それはともかく俺忍法帳のレベル10もないんだが
うっかり960踏んだらどうしようこわいw

856:名無しさん@ピンキー
12/05/06 18:04:26.67 LdtV5W25
立てられなかったら代わりの人に頼んで立つまで減速でいいんじゃね?

新スレになって新しい職人さんも来てくれるといいな

857:名無しさん@ピンキー
12/05/08 23:06:06.98 UmlEvOb3
ファムは骨盤、ミリアは鎖骨、ジゼは二の腕がエロいと思う
そんでリリアーナは尻、アルは太腿、ヴァサントは頬っぺた
異論は認める

858:名無しさん@ピンキー
12/05/09 00:46:54.24 BsTApzka
なにを言う!ミリアはロリミリア全身が至高に決まってる!
ちくしょうエロいことしたいのに相手がいない!

859:名無しさん@ピンキー
12/05/09 01:28:04.30 zv7h0NWm
個人的には、リリーは尻も良いが、2話ミュステリオン発動時のおっぱいが至高だと思う

ロリミリアはレース中ひとりで抜け出した時に、街中のモブおっさん達に目をつけられて…

860:名無しさん@ピンキー
12/05/11 07:14:34.75 gJadoScX
ファラフナーズが円盤では美熟女に修正されてるて本当すか
39歳で美人ならいける気がする
エロテロリストに期待

861:名無しさん@ピンキー
12/05/11 15:59:22.32 hXajvbJh
手練れのババアにあれこれされる無表情若ルスキニアなんて興奮するが
多分誰もついて来れないと思うので自重、自重だ!

862:名無しさん@ピンキー
12/05/11 19:07:26.79 a5Yd0S/k
うん。腐ったお姉さん以外ついていけないから自重してくれ。
つーかこっちより801にスレ立てた方が良かったんじゃないの。
ほとんどレスしてるの腐女子でしょ。

863:名無しさん@ピンキー
12/05/11 21:12:14.52 zcw5pp6Z
そうね男らしいエロが読みたいけど。あなたどう

864:名無しさん@ピンキー
12/05/11 21:17:38.26 zcw5pp6Z
801と腐の意味もわからんバカは半年romってろと返せばおk

865:名無しさん@ピンキー
12/05/14 07:04:56.62 AKoZ30V3
そもそもイラストでさえラスエグの男性向け二次をほとんど見かけない
供給が追いついてないのかそもそも需要がないのか…

866:名無しさん@ピンキー
12/05/14 21:30:35.03 sYqm3d/f
作品自体が知られてない(作品は知ってるけど見てない)でFA
でも俺得だからミリアが薄汚いおっさんにリンカーンされたりアリスの筆おろしとか
リリアーナ様の凌辱二次マダー?

867:名無しさん@ピンキー
12/05/15 12:32:32.07 6L58Zdty
領土確保のためにシルヴィウスクルーに身売りするミリア、アリスに性的な悪戯されるテディ
ラサス特攻前に兵士達の士気を盛り上げるために身体を差し出すリリー様なんかもいいな。

個人的には内乱を阻止するためにアラウダか皆殺し部隊あたりに凌辱・監禁されて
骨抜きにされるヴァサントなんてのも読んでみたいものだ。

868:名無しさん@ピンキー
12/05/16 06:02:25.69 bd2toBMe
おヴァサントはまかせた
俺は元気なファムとミリ穴姫を犯してくる

869:名無しさん@ピンキー
12/05/16 21:23:36.28 Bn50opfy
>>868
ミリアはともかくファムの喘ぎ声が想像できない
ちょっと試しに書いてみてくれないか

870:名無しさん@ピンキー
12/05/21 20:53:13.48 WDIO5yMF
誰も居ないみたいなのでロリリーは頂いていきますね
穿いてない股間クンカクンカ(*´д`*)

871:名無しさん@ピンキー
12/05/21 22:35:54.20 NRjw+s1B
ファムのあえぎ

「ふ! あ! ふ! あ! ふ! あ! ふ! あ!」
ぎし ぎし ぎし ぎし…

「ちょっ! ファム! ちょい、声でかいぜ! はっ! はっ!」
ぎし ぎし ぎし ぎし…

「ふぁっ!! だっ、だって! きもぢ! いぃ!
 ふぁっ!! ふぁっ!! ふぁっ!! ふぁはあああ!!!!! …ん …んん…」
がくがく ぴくぴく

「くぅ! すげぇ…しめつけ! だ!だすぜ!ファムぅ!」
どぴゅっ! どく… どくぅ…

「はぁ はぁ… えっ? あれ? 何、これ… まさか、まさか…
 ああぁ!! 中に出しちゃってええ!!」
「いや、あんま気持ちよかったから ファムおまえ最高だったよ…って あいてぇ!!!」

872:名無しさん@ピンキー
12/05/22 07:41:13.17 Ne+5jrpl
>>871
相手はフリッツか?
この二人はケンカップルっぽくて可愛いなw

873:名無しさん@ピンキー
12/05/26 03:40:03.91 wdKCkA8v
ファラフナーズ生存ifの続きをwktkしながらずっと待ってる…

874:名無しさん@ピンキー
12/05/26 13:20:44.73 C/JvPKNb
>>854
新スレに合わせて、このスレのSSの保管も保管庫に頼んだ方がいいのかな?

875:名無しさん@ピンキー
12/05/26 21:18:18.73 iYU/wnSd
保管庫って中の人に依頼する形式だっけ?

>>868
ミリ穴って書くとなんかキツそうな感じがする

876:名無しさん@ピンキー
12/05/30 20:44:32.91 uzX4Kdsn
ミリアとリリアーナで姉妹丼もいいなぁ…

877:名無しさん@ピンキー
12/05/30 22:45:53.89 cQBy1I6v
「わたくしはどうされてもいいからミリアにだけは…!」ってやつですね
そしてリリーの素知らぬ所でミリアも調教されて最終的に姉妹丼 これでいこう


878:名無しさん@ピンキー
12/06/04 01:39:40.98 KiL6LQzz
姉妹丼いいな

しかし人いないな… 4月アニメに流れていったのか

879:名無しさん@ピンキー
12/06/04 16:22:05.51 eTvGlO/O
自分はひたすら873のを待機中

ミリアやリリアーナとか貴族の性教育は早いのかな
家庭教師に教わるのか授業風景を覗きたい

880:名無しさん@ピンキー
12/06/06 21:29:57.99 EE2tRZOX
>>879
おひいさまの性教育…実用的な種搾り取る系か全てを殿方に委ねて…系かどっちかな。
「天井の染みを数えている間に終わります」って言われてたのに実際はそんな訳なくて
動揺するミリアやリリアーナを視姦したい。天井の穴から。

881:名無しさん@ピンキー
12/06/07 20:25:34.94 BeIJ8LIM
生き残った五将軍のうちの誰かと肉体関係になるものの相手は勅命だから仕方なく抱いているだけと思い込み、
(わたしがアウグスタだから…!)と絶望しながら後背位でガンガン突かれちゃうサーラたん(16歳)下さい

882:名無しさん@ピンキー
12/06/16 21:41:54.43 BPQAF9XC
>>879
身を守らせるためにも性教育は早そう
子供ができる仕組みを始めて聞いた時表向きは冷静なふりしてても
内心「なななななんて破廉恥なの!」と動揺してるロリリアーナだといい
>>881
16歳かピチピチ食べごろだな
相手はリードが上手そうな手慣れたソルーシュ希望

883:名無しさん@ピンキー
12/06/28 21:07:21.79 ELn7IRVx
初体験の緊張と恐怖で涙ぐむアウグスタ萌え

884:名無しさん@ピンキー
12/06/29 20:38:26.56 IfMCc6dH
サーラはお母さん似では無いから将来あまり乳がでかくならないかもな

885:名無しさん@ピンキー
12/07/03 16:57:35.17 v0Mw9vHA
処女は
サーラ・アル・ミリア・リリアーナ・ファム・ジゼ・ディアン
経験済みか謎なのは
ヴァサント・タチアナ・アリス・ソフィアあたりか

886:名無しさん@ピンキー
12/07/14 02:31:05.70 HkVxUdEb
リリアーナぺろぺろ

887:名無しさん@ピンキー
12/07/26 18:54:28.50 YPtFoNJb
ソフィアぺろぺろ

888:名無しさん@ピンキー
12/08/02 00:39:19.77 0xm1p2+4
873の続きをずっと待ってる!

889:名無しさん@ピンキー
12/08/26 22:55:38.46 yL0kUrH4
人いないな

ファムでもエアリエルログ発売らしいから、新しいネタが明かされて
投下があるといいが…

890:名無しさん@ピンキー
12/08/29 23:17:31.53 X6iYJQ2A
1つでも新規燃料があれば妄想し放題なんだがな

891:姫君と護衛2(0/12)
12/09/02 15:20:42.90 ZZDhyxHP
ファラフナーズ生存ifの続きを投下します
グランレースでのテロが起こらなかった世界線で、姫と護衛が擦った揉んだする話
かなりオリジナル要素が強くなっていますのでご注意ください
今回もエロはほとんどありません。苦手な方はスルーをお願いします

892:姫君と護衛2(1/12)
12/09/02 15:22:27.18 ZZDhyxHP
リリアーナが再びグランレースを観戦するのには、二年の歳月を待たねばならなかった。
五年ぶりにグランレースの開催されたその翌年、いよいよ病を篤くした父の代わりに
摂政として政に采配を振るい始めたリリアーナには、開催地へと赴く時間すら許されていなかった。
だが、平和を望むトゥランの意志を他国に示すには国使の派遣が不可欠だった。
国内情勢などを考え併せた結果、名代には妹姫のミリアが立つこととなった。
幼い彼女を一人で遣るのには不安もあったが、本人は大いに意気込んでいるようだった。
ファラフナーズの望みどおり毎年開催されるようになった平和の祭典に参加できないことは、
リリアーナにとって只ただ残念だった。
しかし、それ以上に周囲の人間に余計な未練を気取られぬよう隠すのに苦労した。
王族らしく感情を押し殺すのに慣れてきてはいたが、ともすれば溢れそうになる想いが自分の中にあることをリリアーナは知っていた。
許されぬ想いだということは理解していた。
それでも、育てまいとしていた種はこの二年のうちに彼女の心に深く根を張っていた。
初めて気付いた時には戸惑った。 否定しようと思ったこともあった。
彼女にとってそれは、物語の中や侍女たちの噂話の中にしか存在しないはずのものだった。
すべてを押し流す激流のようだというその感情が自分を訪れる日は来ないと思っていた。
憧れがなかったわけではない。だが、同じくらい恐れてもいた。

リリアーナはルスキニアに恋をしていた。
相手がなぜあの護衛の青年なのか、自分でも不思議だった。
彼は確かに親切だったが、そのような扱いを受けるのはリリアーナにとって珍しいことではなかった。
立場上、彼女に敬意を払わない男など存在しなかった。
優しくされたことが原因とは考えにくかった。
むしろ、彼の言動はリリアーナを前にした男のものとしてはぞんざいな部類に大別されるだろう。
それなのに、ルスキニアほど彼女の情緒を揺さぶる人間は他にいなかった。
若い男からの見え透いた下心や世辞には辟易していたが、彼の言動はそれらとは一線を画しているように思えた。
起伏の見えにくい彼の表層から心情を読み取ろうとする時のときめきは他の何にも代え難かった。
お気に入りのグラスの縁をなぞるようにその感覚を思い出しては幾度も辿った。
記憶の中の感動は何度繰り返しても色褪せることはなかった。

いつしか、彼と過ごした短い時間を思い返すことがリリアーナの就寝前の日課となっていた。
思い出のよすがは、あの時ルスキニアが貸し与えてくれた白い手巾だった。
返す機会を逸して持ち帰ってしまったのだ。
手渡してくれた人と同じ色をしたその布からは異国の香りがした。
アウグスタと同じ香の向こうに僅かに残る彼自身の匂いを探した。
時が経つうちに匂いは完全に消え失せてしまったが、リリアーナは毎晩その手巾を嗅ぎながらルスキニアを想った。
あの晩、彼の視線が辿った部分に指で触れると甘い痺れが身体を走った。
繰り返すうちに地を這いながら空を行く術を覚えた。
後ろめたさよりも快感のほうが大きかった。
誰が聞いているとも知れないので、名を呼ぶことだけは絶対にしなかった。
宿直の侍女が隣室で聞き耳を立てていることは知っていた。
自慰をすることは黙認されていたが、それが特定の男を想ってのことだと知れれば許されないのは明白だった。
彼女の身体は髪の一筋に至るまでトゥランの国のものであり、彼女だけのものであったことはなかった。

893:姫君と護衛2(2/12)
12/09/02 15:25:10.39 ZZDhyxHP


旅立つミリアを見送るときも、リリアーナの心を占めていたのはルスキニアのことだった。
「わたしの代わりに、諸国の皆さまによくご挨拶をしてきてくださいね」
旅装に身を包んだミリアの手を握りしめた指に我知らず力が籠った。
「はい、お姉さま。トゥラン第二王女の名に恥じぬよう、精一杯努めて参ります」
満面の笑みを浮かべたミリアの屈託の無さが、いまは恨めしかった。
一瞬、旅立っていく妹を呼び止めて彼への伝言を頼もうという考えが過ったことにリリアーナは驚いた。
何を伝えると言うのだろう。
舞踏会の夜、転んだ彼女を助け起こしてくれたのを突き飛ばして逃げ出して以来、男とは口もきいていなかった。
あれだけのことをしでかして、のうのうとルスキニアの前に立とうと考えている自分がいることに戸惑っていた。
あの夜何があったのかを考えれば、彼との邂逅は喜ばしいだけのものではないとリリアーナは考えた。
現実に再会するということは、記憶の中の彼と戯れるのとはわけが違った。
彼が自分のことをどう思っているのか、想像しようとするだけで気が狂いそうだった。
確認する術を断たれたのはむしろ幸いと言うべきかもしれなかった。
しかし、それでもルスキニアにもう一度会いたいという想いを捨て去ることはできなかった。
幸いなことに、彼女には手巾を返すという口実がある。
思い出は美化される傾向にあるということを、リリアーナは幼いながらに理解していた。
会えば幻滅するだけかもしれない。それでも、そうならない可能性も大いにあり得るのだ。
グランレースの期間中、トゥランでひとり政務に明け暮れていたリリアーナだったが、
頭の片隅では常にルスキニアへの想いがさざ波のように去来していた。

数日後、ミリアは祭りの匂いを濃厚に振りまきながら帰ってきた。
それとは気取られぬよう、細心の注意を払いながらツインの様子を尋ねたリリアーナだったが、
アウグスタの護衛風情には何の興味のないミリアからは二人が健在であることしか聞き取れなかった。
驚くべきことは、彼女はアウグスタ・ファラフナーズにさえ大した興味は持っていなかった。
それでも、姉がこの偉大な女帝を敬愛しているということだけは覚えていたらしかった。
「来年はぜひお姉さまもおいでになるようにと、アウグスタがおっしゃっておられました」
「ファラフナーズさまが?」
「お姉さまは来年成人されるでしょう。ぜひアデスでもお祝いをさせてください、ですって。
 すごいわ、お姉さま。あのアウグスタにそんなことを言ってもらえるなんて!」
「そう…」
ミリアは先年に知り合った空族の少女たちと再会したらしく、すぐに話題はそちらへと逸れてしまった。
投げ遣りにならない程度に感情を込めた相槌を打ちながらリリアーナは、
来年は何としてでもグランレースに参加しない訳にはいかないと考えていた。

894:姫君と護衛2(3/12)
12/09/02 15:28:25.28 ZZDhyxHP
* * *

一年後。季節は巡り、グランレースは三度の開催を数えることとなった。
グランレースは気候の穏やかな春先に行われることが多かったが、この年のグランレースが開催されたのは初夏だった。
この時期までもつれ込んだのは、参加する国が増えたことにより、予定の調整が遅れたためだった。
かつては数十の属州を持つ大国であったアデス連邦は、近年ファラフナーズの意向により独立と自治が進められていた。
強大な軍事力によって周辺諸国を併合してきたアデス連邦にとっては、
アウグスタの押し進めるこの政策は歴史を巻き戻すようなものだった。
軍部においてはアデスが弱体化することを危惧する向きもあったが、
最高位にあるサドリ元帥がアウグスタの意志を支持していることで事無きを得ていた。
ファラフナーズの存在によって危うい均衡が保たれている状態は相変わらずだったが、
数年前までのように本国と属州という対立の構造は崩れつつあった。
連邦という国家形態の代わりにファラフナーズが打ち出したのは、外交や安全保障政策の共通化と、
通貨の統合を基盤とした統合体だった。
グランレイク周辺諸国の多くはこれに賛同し、多くの国が連邦からの独立を成し遂げた。
利に聡い者たちの中にはアウグスタの狙いは政治と経済の分離にあることを見抜いている者もいた。
民族の誇りは尊重しつつ、国家単位の貧富の差を均すことがこの政策の目的だった。

「お姉さま。アウグスタの偉大さは不肖のミリアにも充分理解できました」
次第に熱の籠り出したリリアーナの講義にこっそりと欠伸を噛み殺していたミリアは、
とうとう耐えられなくなって姉の言葉を遮った。
旗艦ラサスの高窓から降り注ぐ日差しは、いつの間にか午後の柔らかさを含みつつあった。
早朝にトゥランを出発してからこちら、リリアーナは喋り詰めだった。
内容は主としてアウグスタ・ファラフナーズの偉大さとその理想の深遠さについてであり、正直なところミリアの興味の範疇外だった。
「少し休憩しましょうよ。喉が渇かれたのではありません?お茶を用意させますね」
「待ちなさい、ミリア。まだ話は終わっていませんよ」
気にせず侍従の少年に茶の用意を申し付けたミリアは、姉に向き直って愛らしく首を傾げてみせた。
「緊張していらっしゃるの、お姉さま」
彼女の言葉はリリアーナにとって思いがけないもののようだった。
「そんな、わたしはただ…」
「アデス領までは、まだ一日はかかるのですもの。もっと気を楽になさらなくては」
昨今何かと気忙しい王宮を抜け出しての久しぶりの外出だというのに、延々と政治の講義を聞かされては堪ったものではなかった。
「グランレースがただ楽しいだけのお祭りではなくて、
 政治的にも重要な行事だということだけ分かっていればいいのでしょう?
 成人される前の最後の旅行なのですから、お姉さまももっと楽しまなくては損をしてしまうわ」
「ミリア…」

いつの間にかしっかりした物言いをするようになった妹に促されるまま、リリアーナは茶器を手に取った。
嗅ぎ慣れた紅茶の香りが鼻先をくすぐり、思わず微笑む。
「いい香り。わたしの好きな茶葉を選んでくれたのね」
「よかった。やっと笑ってくださった」
「ミリア?」
「お姉さま、最近塞ぎ込んでおられることが多かったでしょう。隠しても分かります。
 わたしはまだ頼りなくて、お姉さまの相談相手にもなれないかもしれないけれど、
 でも、いつもお姉さまの味方よ。
 お父さまも、マリアンヌも、テディも。皆きっとそう思っているわ」
リリアーナは瞠目した。
心の内の動揺を、幼いミリアにも気付かれているとは不覚だった。
しかし、無邪気なばかりだった妹がこんなふうに気遣いを見せてくれるようになったのは嬉しい成長でもある。
「ありがとう、ミリア」
どうしようもなく込み上げてくる気鬱を押し殺して、リリアーナは笑みを作ってみせた。
「あなたの言うとおりだわ。せっかくのグランレースですもの、わたしたちも、目一杯楽しまなければね」

895:姫君と護衛2(4/12)
12/09/02 15:32:09.35 ZZDhyxHP


「リリー様、今宵のお召し物はいかがなさいますか」
ふいに掛けられた声に顔を上げたリリアーナは、自分が物思いに耽っていたことに気が付いた。
侍女のマリアンヌが微笑みを浮かべた顔をこちらに向けていた。
「ごめんなさい、ちょっと、考え事をしていたの」
「お疲れになったのではありませんか。昼間は大変な騒ぎでございましたもの」
しとやかさを絵に描いたような侍女は、顔を顰めてそう言った。
グランレースは、はじめて見物したマリアンヌにはたいそうな刺激だったようだ。
「そうね、一昨年とは比べものにならないくらい盛大になっていたから、わたしも驚いてしまったわ」
未だに耳の中に残るファンファーレの音を思い出しながら、リリアーナは微笑んだ。
舞い散る紙吹雪。人々の歓声。
何一つ欠けるところのないような祝福の渦の中で、それでも彼女はひとり物足りなさを噛み締めていた。
「……ファラフナーズ様にはご挨拶もできず、残念でございましたね」
気遣わしげなマリアンヌの言葉に、リリアーナは目を伏せた。
今回のグランレースでは、安全の確保のため、王族達には決められた桟敷席での観覧が推奨されていた。
主催者であるファラフナーズは式典に顔を見せる必要上、他の王族達とは異なる席が設けられており、
以前のように共に観戦することは叶わなかった。
「仕方のない事よ。警備や式の運営を考えれば、従来のようなやり方では無理が出てきてしまうもの。
 それに、お話をする機会は今からでも充分にあるわ」
「今宵の舞踏会はさぞかし絢爛なものになるのでしょうね」
「そうね。並みいる紳士淑女の皆さんを押しのけてファラフナーズ様の御前に立つのは、骨が折れそう」
肩をすくませたリリアーナに、マリアンヌはにこやかに笑ってみせた。
「では、アウグスタにトゥランのリリアーナ姫ここにありとお目を留めて頂くことが、わたくしの腕の見せ所ですわね。
 何かご希望はございますか。天使でも魔女でも、お好きなものに変身させて差し上げますわ」
自信に満ちた女の笑顔は眩しく見えた。
自分が真に望むものはファラフナーズとの邂逅ではないと告げたら、この忠実な侍女はどう思うだろうか。
裏表なく仕えてくれる彼女に自身の内面を告げないのはひどい裏切りかもしれないとリリアーナは思った。

「さあさ、今宵お供の栄誉に預かる果報者を選んでくださいませ」
楽しげにそう言うマリアンヌが、誇らしげに並べてみせたドレスはどれも色鮮やかで美しかった。
いずれも上等で肌触りの良い、滑らかな布地で作られ、完璧な裁断でリリアーナの身体に合うように縫合されていた。
逆に言えば、それらはどれも同じに見えた。
極端な話をすれば、リリアーナは装うことにあまり興味がなかった。
同じ年頃の少女たちのように、優良な伴侶を捕らえるために着飾る必要がなかったからだ。
王族としての体面のために威厳のある服装を心がけてはいたが、どちらかと言えば湖上の儀式で着るような楽な服装の方が心が安らいだ。
大仰な装飾よりは機能的なものを好ましく感じた。
だが、今宵のように公式な社交の場においては美しくあることも務めのうちだった。

896:姫君と護衛2(5/12)
12/09/02 15:35:30.72 ZZDhyxHP
「あなたが見立ててくれたものなら、何でも構わないわ。 マリアンヌ。
 わたくしが外からどう見えるか、一番よく分かっているのはあなたですもの」
「ええ、ええ。よく存じておりますとも。グランレイク周辺諸国の姫君の中で、一番お美しいのが我らのリリー様です」
「マリアンヌったら。褒めても何も出ないわよ。あら?」
「どうかなさいました?」
「いえ…その白いドレス…」
リリアーナの示した先には、簡素な白いドレスが下がっていた。
「ああ、こちらは、まだお召しになったことがございませんね。
 装飾も地味ですし、夜会には不向きかもしれません」
「いえ、これがいいわ」
側に寄って触れてみれば、質素に見えた白い衣装は意外と手の込んだものであることがわかった。
布地にびっしりと縫い込まれた刺繍を指でなぞりながらリリアーナが想像したのはルスキニアのことだった。
彼はいつもギルド式の白い服を着ていた。鮮やかな色合いは彼の隣に相応しくない。
だが、この白い衣装でならば、彼の傍らに立つのに気後れせずに済みそうだと思えた。
たかが、手巾を返すだけのことだ。
そうは思いながらも、リリアーナは自分が浮き足立っていることを認めない訳にはいかなかった。
今までリリアーナは特定の誰かのために着飾ろうと考えたことなどなかった。
だが、今宵だけはどうしても彼からの眼差しが欲しかった。
「マリアンヌ、お願いするわ。このドレスを基調に、わたくしを仕立ててちょうだい」

白いドレスを纏い、緩く髪を結い上げたリリアーナを見て、マリアンヌは思わず溜め息を吐いた。
自分の作り上げた作品の出来に満足したのだ。
地味で目立たないと思っていたドレスは、リリアーナが身につけることでその隠された真価を否応なく発揮していた。
姫君が大きく胸を刳った衣装を身に纏うようになってからまだ日も浅かったが、
それ故に滲む恥じらいの色が、白いドレスに初々しい色を与えていた。
控えめな意匠が却って彼女の幼さの残る美貌を引き立てていた。
最低限の装飾品と化粧しか身につけていないにも関わらず、今宵のリリアーナは女神のように美しかった。
「間違いありません、今日の夜会でリリー様に目を奪われない殿方はいないでしょう。
 また崇拝者が増えてしまいますね。付け文を断るのに苦労しそうですわ」
うっとりとした様子でそう言うマリアンヌを尻目に、リリアーナは苦笑した。
腹心の部下と言ってもいい彼女でさえ、己の望みがただ一人からの視線であることを知らないのだ。
「冗談はよして、マリアンヌ。わたくしにそんな価値はないわ」
「戯れ言ではございませんよ、リリー様。人の口に鍵は掛けられぬもの。
 思い余った輩が今日を逃してはと、不逞な真似に及ばぬとも限りません。
 尊い御身に何かあってからでは遅いのです」
「大丈夫よ。アデスの警護は堅牢ですもの。あなたも昼間のグランレースを見たでしょう。
 これだけ多くの国が集まる行事なのに、まだ一度もテロや暴動が起きていないのよ。
 邪な思いを持つ者がいたとしても、護衛の方々に排除されてしまうに違いないわ」
マリアンヌの不安げな眼差しを受けとめたリリアーナは、彼女を安心させるように微笑んでみせた。
口にした言葉の意味するところを、彼女は欠片も疑っていなかった。
彼らならきっとやってのけるだろう。
ファラフナーズの白い天使たち、空の国からやって来たあのアラウダとルスキニアならば。
力強いリリアーナの言葉を受け、マリアンヌの顔にも安堵が浮かんだ。
それを見届けたうえで、姫君は鏡に映る自身の姿をもう一度確認した。
満足のいく出来栄えだった。
そこにいるのは天使でなければ魔女でもない。
ただの人間の少女だ。
だが、リリアーナという一人の少女が持ちうる美しさというものが、遺憾なく立ち現れていることに疑いの余地はなかった。
この舞踏会は、彼女がただのリリアーナとしてルスキニアに対峙することのできる最後の機会だ。
みすみすそれを逃す訳にはいかない。
けれど、とリリアーナは考えた。
自分のこの姿は、ルスキニアの感官に響くものを持ち合わせているだろうか。
国策に関わる権謀術数はいくらでも巡らせることができる。
しかし、ことこの事に限っては、何をもって最善とすべきなのか、彼女にはさっぱりわからなかった。

897:姫君と護衛2(6/12)
12/09/02 15:38:37.24 ZZDhyxHP
* * *

舞踏会の行われている広間の外は長い回廊になっていた。
こっそりと会場を抜け出したリリアーナは、石造りの壁にもたれ掛かった。
無機質な岩石が火照った身体を冷やしてくれた。
左手に掛けていた扇を取り出して風を送ると、目の覚める心地がする。

かねてからの約定のとおり、ファラフナーズはこの舞踏会で、近く訪れるリリアーナの誕生日を祝ってくれた。
「みなさま、お聞きください。
 ここにおられるトゥランの第一王女、リリアーナ姫は、このたび17歳の誕生日を迎えられます。
 偉大なるトゥランの未来の国王の、すこやかなご成長を、みなで共に祝おうではありませんか」
世界中の尊敬を集めるアデス連邦の盟主に手を取られ、グランレースと共に賞賛を受けるのは悪い気分ではなかった。
だが、この舞踏会で以前のように親しく話ができるものと思っていたリリアーナの計算は狂ってしまった。
なによりの誤算は、ルスキニアに近付く機会を逸してしまったことだった。
口々に喝采の声を上げる人々の波の向こうで、無表情のまま周囲と同じように手を叩く彼を見て、リリアーナは我知らず目を伏せた。
嬉しいという気持ちに偽りはなかったが、彼が遠くなってしまったように感じて胸が痛んだ。

開いていた扇を閉じて胸元に当てると、自分の鼓動が脈打つのを感じた。
乏しい光源のもとで、アデス風の幾何学模様とこの地方独特の図案を描いた壁掛けが、うっすらと浮かび上がっているのが目に入った。
リリアーナは目を凝らした。
赤を基調とする画面の中には、小さな植物や兎などの小動物が所狭しと散りばめられている。
中央では豪奢な衣装を着た女が、角の生えた白い馬のような生き物を捕らえようとする様子が描かれていた。
あと一分。それで、ルスキニアが現れなければ諦めよう、とリリアーナは思った。
六枚組のつづれ織りの最後の画面には、リリアーナの知らない国の言葉が織り込まれていた。
もっとよく見ようと首を伸ばしたところに、白い影が二つ視界の隅を過るのが見えた。

「ルスキニア!アラウダ!」
咄嗟に叫んだリリアーナの声が回廊に響いた。
「リリアーナ姫。なぜこのような場所に」
驚いたように口を開いたのはアラウダのほうだった。
「人に…‥酔ってしまって」
ちらりとルスキニアを盗み見たが、彼の注意は周囲にある暗がりに潜んでいるかもしれない不埒者の気配を探ることにあるようだった。
リリアーナの視線を追ったアラウダの顔に、得心に似た表情が浮かんだ。
「おひとりでは、危険ですよ。休まれるのでしたら、従者をお呼びしますが」
アラウダの言葉に、リリアーナは首を振った。
その従者に気取られぬよう抜け出すのには、苦労をしたのだ。

「あの、お二人はどちらへ」
「外の警備の様子を確認に」
「もう一度、戻っていらっしゃる?」
「いえ、そのままサーラ様の宿直に行くつもりです」
幼い姫君は夜会には出ずに部屋へ下がっていた。
慣れない宿所に不安がってツインの二人を呼んでいるのだという。
リリアーナは焦慮した。
彼女の問いかけに応えるのはアラウダばかりで、ルスキニアはリリアーナのことを避けているように感じたからだ。
「では、ルスキニアにこれを」
リリアーナが強引に目の前に差し出した白い手巾を見てルスキニアは首を傾げた。
「これが、何か」
「覚えておられませんか?一昨年お会いしたときにお借りしたものです」
「ああ。捨てて頂いて構いませんでしたのに」
受け取った男は大した感慨もなくそれを隠しにしまった。


898:姫君と護衛2(7/12)
12/09/02 15:42:44.43 ZZDhyxHP
用が済めばリリアーナが彼を引き止める理由はなくなってしまった。
ルスキニアがちらりと光の洩れる扉の向こうへ目を遣った。
「戻らなくてよいのですか。あなたは今宵の主賓のはずでは」
「いいのです。みな、口実がどうであれ、馬鹿騒ぎしたいだけなのですから」
口を尖らせてそう言ったリリアーナにアラウダがにやりと笑った。
「姫は見かけによらず、なかなか辛辣ですね」
「よせ、アラウダ」
軽口を叩くアラウダをルスキニアが嗜めた。
ルスキニアの視線を軽く受け流したアラウダがリリアーナに向き直った。

「何か理由があって抜け出されたのでしょう。姫は、何をお望みですか」
その問いは単純だったがリリアーナの胸を深く穿った。
「わたくしは……」
微笑んではいるが、アラウダの瞳には真摯な色が浮かんでいた。
彼女は己がなんのためにここへ来たのかを思い出した。
この機会を逃せば彼と会話することはますます難しくなるだろう。
ならば、伝えることを躊躇う理由は無い。
リリアーナの望みは、元よりひとつだった。
「わたくしは、ルスキニアと話がしたいのです」

その言葉を聞いて、アラウダの表情が綻んだ。
ルスキニアの肩を叩くと彼は言った。
「見回りには俺が行こう。ルキア、お前はリリアーナ姫のお相手を」
「アウグスタに任された仕事を放り出すわけにはいかない」
「そのアウグスタがおっしゃった言葉を忘れたのか。
 客人を持て成すのも、我々の務めの内だ」
相棒の背を押しながら、アラウダは意味ありげに目を瞬かせた。
「それに、女性をこんなところに一人残していくのには心が痛まないか。
 アデスの臣民として、お前にはリリアーナ姫の護衛をする義務があると私は思う」

半ば強引に押し切るような形で、アラウダは立ち去ってしまった。
二人きりになると途端に気詰まりになった。
「「あの」」
二人同時に発した声が薄暗い回廊に響いて反響した。
「どうぞ、先におっしゃって」
促すリリアーナの言葉にルスキニアは逡巡したようだったがやがて口を開いた。
「あの時は、申し訳ありませんでした。一昨年の、夜会の折です」
単刀直入なルスキニアの言葉に、リリアーナの心臓は跳ね上がった。
だが、同時に懐かしくも思う。
そう、ルスキニアとは、こういう男だ。
何事も唐突で、不器用で、でもその芯にはわかりにくいが確かな誠実さがある。

「私が付いていながら、姫を転ばせるような事態になったこと、深く反省しております」
生真面目に頭を下げるルスキニアを見て、リリアーナは慌てて顔を上げるように促した。
「わたくしこそ、ごめんなさい。あんなに取り乱すべきではありませんでした。
 …………たかが、黒子くらいで」
「は?」
「あのとき、わたくしの太腿にある黒子をご覧になったのではないの?」
「いえ、気付きませんでした」
「ルスキニア。トゥランでは、他人に黒子を見られるということは、大変な恥とされているのです。
 ですから、このことは他言無用になさってください」
開いた扇で口元を隠しながら悪戯っぽく笑うリリアーナに、ルスキニアは目を丸くした。
見開かれた瞳が、彼が本当に驚いていることを示していた。
それでも、姫君の表情には何か感じるものがあったらしい。

899:姫君と護衛2(8/12)
12/09/02 15:45:15.75 ZZDhyxHP
「私は……私は、何かその……ひどい思い違いをしていたようです」
「そのようですね」
見合わせた視線から、二人の間にあったわだかまりの種が消え去ったのが見て取れた。
舞台の幕を落とすように音を立てて扇を閉じながら、リリアーナは言った。
「それより、ひどいわ、ルスキニア。わたくしの前では、気の置けない友人でいると約束してくださったでしょう」
「どういうことでしょうか」
「また、ご自分のことを『私』とおっしゃっています」
ルスキニアは僅かに目を瞠った。
「失礼いたしました」
リリアーナの言葉の意図するところを、今度は正確に受け取ったようだった。
「では」
男の手が、無造作にすらりと宙に伸びた。
手品のようにどこからともなく白い花を取り出したルスキニアは、それをリリアーナの鼻先に突き出した。
「お詫びにこれを」
差し出された花は小ぶりな百合の花だった。
リリアーナはその百合をよく知っていた。トゥランが原生の、珍しい品種だったのだ。
女性の髪を飾るために花弁を小さく改良されたその花は、トゥラン以外の地では根付きにくいと聞いていた。
国内やトゥラン女性の持ち物としてならともかく、アデスの地で目にする事があろうとは考えたこともなかった。

「ルスキニア……この花、どうなさったのです」
差し出された花を受け取ったリリアーナの疑問に、男は事も無げに言った。
「覚えておられませんか。二年前の舞踏会の折、あなたが髪に挿しておられたものです」
思い返してみると、あの時は確かにこれと同じ花をトゥランから持ち込んでいた。
だが、リリアーナはいまの今まで花を落としたことに気付いてもいなかった。
よもや、ルスキニアから二年の時を経て手渡される日が来ようとは、思いもよらないことだった。
「あの時あなたが花を落とされて、すぐにお返ししようと後を追ったのですが叶いませんでした。
 またお会いする機会があればと思い、常に持ち歩いていたのです」
「それで、いまこれをわたくしに?」
よく見ると、手のうちの花は生花ではなかった。
どのようなギルドの技術によるものか、白い花は瑞々しく、たったいま手折られたかのような艶を保っている。
大切に保管されていたのであろうことは明白だった。
包まれてもいない剥き出しの花は、彼そのものだと思った。
それを与えられるとはどういうことか。


900:姫君と護衛2(9/12)
12/09/02 15:48:13.14 ZZDhyxHP
「ありがとう、とても嬉しい」
込み上げてくるものを隠しきれずに微笑んだリリアーナはその白い花を髪に挿してみせた。
「いかがかしら?」
よくあるような世辞の言葉を期待していたわけではなかった。
だからルスキニアの顔に笑みと呼べる表情が浮かんだのを見てリリアーナは驚いた。
彼女の知る限り、彼がこれほど表情を露にしたのは初めてだった。
「よく……似合っておいでです」
リリアーナは惚けたようにルスキニアの顔を見つめた。
「どうされました」
「いえ……そんなお顔もされるのですね」
「何かおかしな顔をしていましたか」
無表情に戻ったルスキニアが軽く首を傾けた。
「いいえ、とても素敵な表情でした」

噛み締めるように微笑んだリリアーナは、爪先立ってルスキニアの耳元に唇を寄せた。
察した彼が少し身を屈めた。
その何気ない気遣いが、リリアーナの胸を詰まらせた。
自分が彼に惹かれるのは、この不器用な優しさゆえなのだと確信した。
皆人が気付くわけではない彼の美徳に触れることのできた自分が誇らしかった。
万感を込めて、彼女は囁いた。
「あなたは素敵よ、ルスキニア」
それ以上の言葉を口にすることを、自分に許すことは出来なかった。
未婚の王族としてはこれだけでも充分はしたない行動と言えた。
身体を離しても、まともに彼の顔を見られなかった。
俯いた視界に自分の爪先が映った。これ以上踏み込めない臆病者の爪先だった。
それでも、何かしらの感情は彼に伝わったようだった。

「……ありがとう…ございます」
そう呟いたルスキニアの声に、今までにない色を感じて面を上げたリリアーナは彼の顔を見て息を呑んだ。
これまでどうしても作り物めいた印象を拭えなかった彼が、初めて紛れもなく、人間の顔をして見えた。
男の顔に浮かんでいたのは、紛れもない微笑みだった。
硬く閉ざされていた蕾がほころんだような、柔らかな表情だった。
リリアーナは、自分が一人の女として放った言葉を、彼もまた一人の男として受けとめてくれたのだと感じた。
思いがけない僥倖に、これまで努めて押さえ込んでいた欲望が溢れるのを感じた。
最後に、ただ一度だけの我が儘を自分に許そうと思った。
込み上げてくる熱いものを堪えながら、リリアーナは精一杯微笑んだ。
「わたくし、今宵は以前こちらに伺った時に果たせなかったことを為しに来たのです。
 あの日は叶わなかったけれど……今度こそ、噴水を見せてくださる?」
ルスキニアは先程のように会場に戻れとは言わなかった。差し伸ばした手は恭しく受け入れられた。
「御心のままに、リリアーナ姫」
顔を上げた男と目が合った。
氷のようだと思っていた瞳が、今は霞のかかった春の空のように柔らかく見えた。

901:姫君と護衛2(10/12)
12/09/02 15:50:20.42 ZZDhyxHP
* * *

「きれい…」
月明かりに照らされてさざめく水面を見てリリアーナは呟いた。
ようやく目にする事のできたアデスの噴水は、トゥランのもののように豪快に水飛沫を噴上げる類いのものではなかった。
濡れて艶めく硬質な石の上を、透き通った水が滑るように流れ落ちていた。

「姫、そろそろ戻られたほうが。供の者が心配をするでしょう」
水の流れをぼんやりと眺めていたリリアーナに背後で控える青年が声をかけてきた。
言われて彼女は自分が何の断りもなく会場を抜け出して来たことを漸く思い出した。
「ごめんなさい、ルスキニア。あと、もう少しだけ」
リリアーナには、ルスキニアにどうしても伝えなければならない言葉があった。
そのために、慣れない服に身を包み、待ち伏せなどというはしたない真似をしてまでこの機会を得たのだ。
その言葉を発するのに相応しい場は、いまここをおいて他にないことは明らかだった。
しかし、いざとなると彼女の舌は縫い付けられたように動かなかった。
どうやって切り出そうかと思案したまま、時だけが二人の上に降り積もってゆく。

月が空の上で位置を変え、噴水に木立の影が差した。
水面に反射する光が翳るのを見たリリアーナは漸く心を決めた。
「最後に、お会いできてよかった。これで諦めがつきますもの」
ルスキニアが微かに身じろぎしたのがわかった。
月影に照り映える彼の白い顔を横目でちらりと確認する。
相変わらず彫像のように直立したままの男を見て僅かに微笑みながら再び噴水に目を遣った。
流れる水は時の流れを象徴しているかのようだった。
月日は止め所なく流れていく。塞き止める事などできるはずもない。
早く大人になりたいと思っていた頃、時間はリリアーナにとって頼もしい味方だった。
夜眠りに就く時は、朝になるのが待ちきれなかった。
朝目覚めて鏡を覗き込む時は、その中に一歩大人に近付いた自分を認めるのが嬉しかった。
だが今は違う。
彼女にとって時の流れは、忌まわしい敵以外の何者でもなくなっていた。

傍らから無言で先を促す気配を感じてリリアーナは言葉を続けた。
「わたくし、結婚することになりました」
ルスキニアは戸惑ったようだった。
「いつ」
「半年後に。このあと、トゥランに戻ったらすぐに準備に取りかかります。
 お父さまは、わたくしが十七歳になるのを待っていたのですって。
 次期トゥラン国王として、わたくしは早急に、国民に世継ぎの顔を見せて安心させねばなりません」


902:姫君と護衛2(11/12)
12/09/02 15:52:47.62 ZZDhyxHP
リリアーナは婚約者のことを考えた。彼は遠縁の貴族の青年だった。
王室に他国の血を入れることを善しとしなかった父が選んだ相手だ。
無難な選択だと彼女も考えた。幼い頃から知っている男は決して悪い人間ではない。
よき夫、よき父親となり、リリアーナの治世を支えてくれるだろうと誰もが言った。
だが、彼女は自分が彼の胸に抱かれ、子供をもうけることを全く想像できなかった。
その理由は痛いほど自覚していた。

「嫌だと言って駄々を捏ねられるほど、無邪気ならよかったのにと思うことがあります。
 実際は、そんな可愛げなどわたくしにはないのですけれど」
リリアーナは力なく自嘲した。
ルスキニアが食い入るようにこちらを見ているのを知っていた。
目を向けると案の定、目が合った。
なにかしらの言葉が発せられるのを待ったが男の唇が開かれることはなかった。

「おめでとう、と言ってはくださらないのね」
ぽつりと呟いて視線を落とした。
何を期待しているのだろうと思った。
彼から祝福の言葉を受けて、それで未練を断ち切れるとでも思っていたのだろうか。
あるいは、彼がこの結婚に異を唱えてくれることを望んでいたのかもしれない。
ルスキニアが自分のことをどう思っているのかは知らない。
だが、別の男の物になると告げれば少しでも心を動かしてくれるのではないかと、
愚かにも思ってしまったのだった。

―なんて浅ましい。
俯いた視界に爪先が入った。おろしたばかりの白い靴は庭を歩いたせいで少し汚れていた。
どうせなら、こんな汚い己を知らず清らかなまま花嫁になれたのならよかったのに。
再び熱いものが込み上げてきたが、自分には泣く権利などないと知っていた。
泣いてはいけない。王族らしく、気高く優雅にあらねばならない。それが彼女に課せられた運命だ。
リリアーナにはリリアーナの、ルスキニアにはルスキニアの運命がある。
未来の国主と他国の護衛官ではその運命が交わろうはずもない。
感情を殺し、心を殺して―そうやって、石のように堅く乾いた大人になるのだ。


903:姫君と護衛2(12/12)
12/09/02 15:55:10.11 ZZDhyxHP
リリアーナは唇を噛んで堪えた。
それでも、溢れた涙の数滴が乾いた土に落ちて染みを作った。
砂の擦れる音がして、見慣れぬ靴が目に入った。
顔を上げるとルスキニアが立っていた。表情の乏しい白い顔が、彼女を見下ろしていた。
見上げなければ顔が目に入らないほど近い距離だった。
薄い唇が、前触れもなく言葉を発した。
「自分を偽ることなど出来ない」
驚いて後ずさろうとしたリリアーナを男の手が阻んだ。両肩を掴まれて息を呑んだ。
「俺も、そしてあなたも」

腕にくい込むルスキニアの指は痛いほどだった。
生まれてこの方、リリアーナはこんな風に腕を掴まれたことなどなかった。
無礼者と叱責して振り払うこともできたはずだが、何故か頭を掠めもしなかった。
初めて目の前の男に恐怖を感じた。
「ルスキニア、何を」
「あなたに、謝らなければならないことがある」
こちらを見つめるルスキニアの瞳の奥に、野火のように燃え盛るものがあった。
「二年前のあの夜、俺は自分の欲望であなたを汚した」
燻っていた燠火が、突然火を噴いたようだった。
見知らぬ炎が、彼を内側から燃やしているのがわかった。
恐ろしかった。だが、同時に興奮もしていた。
彼がこれほどの熱を彼女の前で示したのは初めてのことだった。
そしてその感情は、リリアーナただ一人に向けられているのだ。

「それだけではありません。あれ以来、俺はあなたを思って身を焦がさない夜はなかった」
彼女は生娘だったが、それが甘ったるいだけの意味ではないことは理解した。
一年前ならば、意味が分からず困惑しただろう。
一年後であれば、動揺を押さえ込んで微笑み、上手くあしらうことも出来たかもしれない。
だが、今のリリアーナにはそのどちらの道も用意されていなかった。
本来なら交わらなかったかもしれない二人の運命を繋ぐことが出来るのは、今このときだけだった。
恐ろしくなかったと言えば嘘になる。
それでも、リリアーナはなけなしの勇気を振り絞ってルスキニアの袖を引いた。
震え出した計器が誤った方向へ振り切れようとしているのが分かったが止められなかった。
思うより先に、言葉は溢れていた。
「いま、わたくしはあなたの目の前にいるのに、触れてはくださらないの」

904:891
12/09/02 16:00:44.62 ZZDhyxHP
今回の投下は以上です。読んでいただきありがとうございました
前回投下分に頂いた感想も読ませていただきました
励みになります。ありがとうございます

1回分の予定が長くなりすぎて分割したため、中途半端なところで終わってしまいすみません
次回はルスキニア視点で本番ありの予定です
よろしくお願いいたします

905:名無しさん@ピンキー
12/09/02 20:34:36.68 ToIFPMvf
投下GJです
村田氏の銀ファム本2冊と交互に読んでニヤニヤしてるw
次回を気長に待ってますよー

村田氏本やエアログで何か萌えネタ投下あるといいなぁ

906:名無しさん@ピンキー
12/09/02 21:08:09.21 DhZ7RQRy
うおお!続き待ってましたー!!!
投下ありがとうそして面白かった!!
次回も楽しみにしてます!

907:名無しさん@ピンキー
12/09/03 01:27:12.61 kqd0IpC+
>>904
キター!!続き投下してくれて有難う!
リリアーナの葛藤凄いぐっと来た。ルスキニアもイイヨイイヨー
wktkしながら次待ってます

908:名無しさん@ピンキー
12/09/04 13:24:08.09 FsOmN75u
>>904
続き来てたー!乙です
いいところで終わってて先が気になる
続きのんびりお待ちしてます

909:名無しさん@ピンキー
12/09/04 19:55:23.45 Ic6Ai6UL
読みごたえあっていいねー。キュンキュンするわぁ
そしてこれからのエロ展開も非常に楽しみ。
頑張れルスキニア、押し倒せ!w

910:名無しさん@ピンキー
12/09/04 23:09:42.32 tSA4Kkcu
>>904
待ってました!続き投下乙です
こっちのルスリリは大人の方とはまた違って可愛くてニヤニヤ
次回も楽しみにしてます

911:名無しさん@ピンキー
12/09/13 19:37:54.89 oUvxWDRN
>>904
うおおお素晴らしい乙です
次も楽しみだ
前回の投下は5ヶ月前なのか
首を長くして待ってます

912:名無しさん@ピンキー
12/09/14 22:42:11.28 lUzpaaGO
レンジが描いた若ルスキニアとギリロリリーが見たい・・・

913:名無しさん@ピンキー
12/09/14 23:40:10.09 4m5eTuzU
>>904です
続きを投下します
グランレースの悲劇が起きなかった未来で
ルスキニア(22)とリリアーナ(16)がにゃんにゃんしてるだけ

規制中のため実験的なサイトを使って書き込んでいます
途中で投下止まったらスマソ

914:姫君と護衛3(1/8)
12/09/14 23:41:56.95 4m5eTuzU
* * *

「お前に足りないのは、言葉や感情表現ではなく思慮深さだ」
いつだったか、アラウダにそう言われたことがあった。
緑陰から降り注ぐ木漏れ日が白い額を斑に染めていた。
光の加減で左右の目が違う色をして見えた。
虹彩に日差しが射し込んで玉虫色に輝いた。
何事も飲み込みの早い相棒は、心の有り様においてですらルスキニアの先を行くらしい。
「女性に興味を持つようになったのはいいが、匙加減を間違えるなよ、ルキア。
 リリアーナ姫は未来のトゥラン国王だ。お前が懸想したところで、どうこう出来る相手じゃない」
「なぜその名前が出て来る」
苦々しげに言ったルスキニアにアラウダは事もなく答えた。
「違うのか」
「……明言したことはない」
「見れば分かる」
アラウダは声を上げて笑った。
「お前は、自分で考えているより、よほど分かりやすい人間だよ」
「適当なことを言うのはよせ」
見透かしたようなことを言う片割れは、ルスキニアの心を苛立たせた。
しかし睨みつけた視線は遠くを見つめる瞳に受け流された。
「恋はいい。心を豊かにする。だが、身の程を弁えなければ痛い目を見ることになる。
 俺は、俺なりにお前の事を心配しているんだ」
するりと頬を撫でながら感慨深そうにそう言うアラウダに、近頃女の影がちらついていることにルスキニアは気付いていた。
「女は怖いぞ、ルキア。あれは、我々の理解の範疇を超えた存在だ」
「くだらない。男も女も人には変わりないだろう」
その時ルスキニアはアラウダの言を益体もない妄言と切って捨てた。
だが、今にして思えば、あれらの言葉は蓋し至言であったのだ。

* 

「ルスキニア」
震える声で名を呼ばれて、ルスキニアは我に返った。
耳を赤く染めて俯いた姫君が、彼の服の布地を控えめに掴んでいた。
見下ろした首筋から背中にかけての曲線がうっすらと桃色に上気していた。
「わたくしは……わたくしは、あなたに触りたい。もっとよく、あなたのことを知りたいわ」
ルスキニアは混乱していた。
姫君の言葉は大方彼の予想外だった。
己の告白は彼女を不快にさせこそすれ、好意を抱かせるようなものではなかったはずだ。
嫌悪され、軽蔑されてしかるべきだと思っていた。
むしろ、想いを断ち切るために言ったつもりの言葉だった。

混迷する思考の中でただ一つ確かなことがあった。
ここで彼が身を引けば、彼女の面目が潰れるだろうということだ。
いまこそアラウダの言っていた言葉を身を以て体感する時だった。
彼に足りないのは、まさに思慮の二文字だった。
そもそも思慮深い人間であれば、みすみすこのような事態を招く行動は慎んでいたはずだ。
会場の外で花を渡したとき、そこを抜け出して宵闇の庭園へと足を踏み出したとき。
あるいは、噴水を眺める姫君に会場に戻ることを勧めたとき。
引き返そうと思えば出来たはずのいくつもの機会を、自分から取り零してきたのだということに彼は気が付いた。

915:姫君と護衛3(2/8)
12/09/14 23:44:12.52 4m5eTuzU
「あなたも同じように思ってくださっているのなら……どうか、お願いです」
ルスキニアは彼女の頬が涙のせいだけでなく上気していることに気が付いた。
薄く開いた口の歯列の間からは幼い欲望が顔を覗かせていた。
ここに至って、ルスキニアは重要なことに思い及んだ。
それはリリアーナもまた彼を望んでいるのかもしれないという可能性だった。
甘く香る花に誘われて罠に嵌り込んだのは自分の方かもしれなかった。
己の指が、我知らず少女の身体に触れているのにルスキニアは気が付いた。
手の内にある身体の華奢さに身震いした。
なるほど、女は恐ろしい。

「リリアーナ」
何かに背を押されるように一歩踏み込んだ彼に、今さら怯んだ様子の姫君が身を竦ませた。
「ルスキニア、わたくしは」
「黙って」
急いた唇がリリアーナのそれに触れた。少女は軽く息を詰めたようだった。
抵抗されたらすぐに引き下がるつもりだった。
少なくとも、彼の心の裡ではそうだった。
だが、姫君は逃げなかった。

驚いたように見開かれた瞳がゆっくりと閉ざされて、ルスキニアは自分の行いが赦されたことを悟った。
こんなふうに他人から受け入れられたのは初めての経験だった。
触れ合った唇の柔らかさに何故か怒りのような感情を覚えた。
自分より以前に彼女に同じことをした人間がいなければいいと思った。肩を掴む手に力が籠った。
背後の木立に縫い付けるように押さえ込むと、少女の背が大きく撓った。
もどかしく投げ捨てた理性が地に落ちるよりも早く、ルスキニアの舌は獲物を捕らえていた。

唇と唇の狭間から、仔猫が乳を舐めるようなあえかな水音が響く。
息継ぎをするたび洩れる鼻息が、どう聞いても間抜けな音だった。
火照った頬に触れる鼻先の冷たさが妙に印象に残った。
時折くぐもった嗚咽のような声を漏らす姫君の様子を鑑みれば、余裕がないのはお互い様のようだった。
崩れた思考が混ざり合って意味をなさない形状を作る。積み上げては崩して壊すことを繰り返した。
いつの間にか草むらの中に倒れ込んでいることにすら気付かなかなかった。
後はただ、溺れる人のように互いの身体にしがみついた。
直に触れた肌は不安を覚えるほど柔らかかった。
強くすれば壊れてしまうのではないかと思った。
指先で慎重に形を辿れば、楽器を奏でるように高い声が洩れた。
うぶな反応とは対照的に、彼女の身体はすでに女として完成されていた。
堅く閉じられた蕾を抉じ開けると目も眩むような芳香がした。
草いきれの中に横たわるリリアーナは一つの大きな花のようだった。
隠された彼女の秘密を暴いていくのは、幾重にも折り畳まれた厚い花弁を一枚ずつ捲っていくのに似ていた。
開き切った蕾の奥には鍵を待ちわびる扉があった。
許可を求めて目を合わせると少女は恥じ入るように瞼を伏せた。ルスキニアはそれを了承ととった。

916:姫君と護衛3(3/8)
12/09/14 23:46:17.95 4m5eTuzU
性急に押し付けた熱が触れたぬかるみに沈むと目の前で星が散った。
押し開いた先には温かな闇が待っていた。
手つかずの海に沈んだルスキニアは悦びに打ち震えた。
この場所は、あの夜以来、何度も繰り返し彼の夢見て来た場所だった。
己はずっとここを目指して飛び続けて来たのだと思った。
甘美な物だろうと予測はしていた。
だが、これ程のものだとは思わなかった。これ以上があるとも思えなかった。
これこそが彼が最も望んでいたものであり、同時に最も恐れていたものだった。
心地よいと言うにはあまりにも凶暴な感覚だった。
頭の中で、何かを繋いでいた楔が引き千切れる音がした。
このまま引きずり込まれ、二度と生きては帰れないような気がした。

「ルスキニア」
彼の背に爪を立てたリリアーナが、白い喉を仰け反らせて喘いだ。
締め付ける肉が強さを増して、ルスキニアも呻いた。
数度往復するのが限界だった。
体中の血が逆流するようなその衝撃は、致命的な傷を負ったときの症状によく似ていた。
手負いの獣が生命の残り火を燃すように、ルスキニアはリリアーナの中で蠢動した。
抱きしめた身体が同調するように痙攣した。
リリアーナと自分が、何か大きな一つの生き物になったような気がした。
恐ろしいほどに幸福だった。
同時に、限りない絶望を感じてもいた。
一度離れれば、再び同じようには交われないことだけが解っていたからだった。



「ルスキニア、重い」
耳元に流し込まれた呻き声で我に返ったルスキニアは、目の前の惨状を見て青ざめた。
組み敷かれ、仰臥した姫君は泥と草にまみれていた。
美しく結い上げられていた髪は解け、ほつれた毛束が頬を彩っている。
開いたままの脚の奥では、純潔の証が白いドレスの裾を汚していた。
「俺は…なんてことを……」
「ルスキニア」
顔を覆って呻き声を上げたルスキニアを、緩慢な動作で身を起こしたリリアーナが抱きしめた。
「わたくしは、後悔していないわ。お願いです。あなたもそうだとおっしゃって」
耳朶を打ったその言葉にルスキニアは息を呑んだ。

「リリアーナ」
顔を覆っていた手を離し、震える手で彼女を抱きしめた。
温かかった。
細い身体は彼の腕の中で確かに息づいている。
「リリアーナ、俺は」
咄嗟に口をついた言葉は少女の細い指に阻まれて押し籠められた。
「今宵のことは、誰にも言いません。だから、きっと大丈夫」
リリアーナはそういって微笑んでみせた。
「あなたが失うものなど何もないのよ。これは、どこまでもわたくしの我が儘なのですから」
噛み締めるようなその言葉にルスキニアは呆然とした。
姫君は、いまこの時を一夜の過ちにしようとしている。
自分が、もう彼女なしには三日と生きていられないだろうと確信しているその横で。

917:名無しさん@ピンキー
12/09/14 23:57:01.80 flKyFB3d


918:姫君と護衛3(4/8-1)
12/09/14 23:59:45.76 iuq4er7W
「逃げましょう」
無意識のうちに口から零れ落ちた言葉に誰よりも驚いたのはルスキニア自身だった。
そんなことができるとは考えたこともなかった。
しかし、いまはそれ以外に術などないと思った。
誰にも知られずここを抜け出し、邪魔するものなど何一つない世界で彼女を思う存分愛することができたなら。
だが、姫君は容易く頷かなかった。
「無理です。わたくしは、トゥランを捨てることなどできないわ」
吐き出されたリリアーナの言葉は重かった。
国を統べる者がどのような立場に置かれているのか、護衛とはいえアウグスタの側近くに控えるルスキニアは充分想像がついた。
ましてや、リリアーナは生まれた時から国母となるべく育てられてきたのだ。
国を捨て、私情に走ることなど、彼女には考えも及ばぬことに違いない。
それでも、ルスキニアに迷いはなかった。

919:姫君と護衛3(4/8-2)
12/09/15 00:01:29.13 iuq4er7W
「ならば、無理にでも攫うだけのこと」
肩を掴んで引き離したリリアーナの顔を覗き込んだ。
見開いた瞳に無様に取り乱す自分の姿が映っていた。
姫君の目の中には僅かな躊躇いがあった。
ルスキニアにとって、それだけが一縷の望みを繋いでいた。
「真実はいずれ白日の下に晒される。俺があなたにしたことが知れたら、無事では済まないでしょう。
 どうせ滅びるのなら、これ以上ないほどあなたを味わい尽くしてからから果てたい。
 俺を哀れと思うのなら、その為の時間を与えてくれないか」
「ルスキニア…」

920:姫君と護衛3(4/8-3)
12/09/15 00:02:29.04 iuq4er7W
いっそ狂的とさえ言えるその言葉が、どのように姫君に届いたのかはわからなかった。
小さな唇から息が一つ洩れた。
リリアーナの手が伸びて肩を掴むルスキニアの指に触れた。絡み取るように視線が合った。
見下ろした青い瞳の中に、もう迷いはなかった。
「離して下さい」
「嫌だ」
「勘違いをしないで。あなたが罪に落ちるのならば、わたくしも共に参ります」
ルスキニアの見ている前で、リリアーナは躊躇う事なく白いドレスの裾を引き裂いた。
脚に絡まる長い裾は、道行きには不向きだったのだ。
身軽になった姫君がルスキニアの手を取って彼を見上げた。
「行きましょう、ルスキニア。わたくしたちの未来のために、退路を用意して」

921:姫君と護衛3(4/8-3)
12/09/15 00:02:53.75 LP7EUUae
いっそ狂的とさえ言えるその言葉が、どのように姫君に届いたのかはわからなかった。
小さな唇から息が一つ洩れた。
リリアーナの手が伸びて肩を掴むルスキニアの指に触れた。絡み取るように視線が合った。
見下ろした青い瞳の中に、もう迷いはなかった。
「離して下さい」
「嫌だ」
「勘違いをしないで。あなたが罪に落ちるのならば、わたくしも共に参ります」
ルスキニアの見ている前で、リリアーナは躊躇う事なく白いドレスの裾を引き裂いた。
脚に絡まる長い裾は、道行きには不向きだったのだ。
身軽になった姫君がルスキニアの手を取って彼を見上げた。
「行きましょう、ルスキニア。わたくしたちの未来のために、退路を用意して」

922:姫君と護衛3(5/8)
12/09/15 00:05:10.82 Qgyooa0A


夜陰に紛れて駆け出した彼らの耳に、会場から姿を消して久しい主君を探す従僕たちがリリアーナを呼ばう声が聞こえた。
トゥラン側からの要請があったのだろう。アデスの兵も混じっているようだった。
「ルスキニア」
不安げに見上げたリリアーナに、ルスキニアは声を出さず頷いた。
遠く木々の向こうで、幾多の篝火が揺れているのが見えた。
「こちらへ」
リリアーナの手を引いたルスキニアが、護衛の任に携わる者しか知らぬ抜け道へと彼女を誘った。
「どこへ行くのですか」
「この先に格納庫がある。今日のレースで使われた機体がまだ残っているはずだ」
「あなたが操縦を?」
尋ねるリリアーナにルスキニアは頷いてみせた。
「訓練は受けている」
盗むのか、とはリリアーナは尋ねなかった。
自分たちが、ヴァンシップよりももっと大変なものを剽窃しようとしていることをよく心得ていたからだ。

ベリファイ・チェックを終えた機体を格納庫から引き出したところでリリアーナが身を竦ませた。
風に乗って、思いがけない近さで己を呼ぶ声が聞こえたからだった。
「お姉さま!どこにいらっしゃるのですか?お姉さま!」
リリアーナが傍らのルスキニアの服を掴んだ。
「ミリアだわ」
ルスキニアは黙ったままリリアーナの手を引いて格納庫の扉の陰に隠れた。
やがて、ヴァンシップの駆動音を聞きつけたらしい少女が短い草を踏み分ける足音が聞こえた。
「誰か……いるの?」
無人に見える格納庫を覗き込んだミリアを内側に引き込み、口元を押さえた。
「静かに」
くぐもった声を上げて暴れ出しそうになった妹姫を制止したのは、リリアーナだった。
「ミリア、わたしです」

泥だらけのリリアーナを見たミリアが、力を弱めたルスキニアの手を振りほどいた。
短い悲鳴が上がった。
「お姉さま!そのお姿…どうなさったのです」
引き裂かれたドレスは、どう見ても暴漢に襲われた後のそれだった。
「ミリア姫、大きな声を出さないでください」
声を掛けたルスキニアを振り仰いだミリアはわなわなと唇を震わせた。
「お前は…」
白い彫像のようなその男が何者なのか、知らないミリアではなかった。
アウグスタ・ファラフナーズの護衛、初めて参加したグランレースで幼かった自分を怯えさせた張本人だ。
ここへきて、リリアーナの惨状にこのいけ好かない男が関わっているのは明らかだった。
「ギルド人!お姉さまに何をしたの!」
激昂した妹を遮るように、リリアーナが二人の間に割って入った。

923:姫君と護衛3(6/8)
12/09/15 00:06:16.56 Qgyooa0A
「ミリア、よく聞いて。わたくしたちはいまからこの島を出ます」
「お姉さま、何をおっしゃって…」
「わたくしたちが結ばれるにはこうするしかなかったのです」
真剣な面持ちでそう言う姉の姿を見て、ミリアの中で符合するものがあった。
沈みがちな面差し、物憂げな瞳。
結婚を間近に控えた姉の様子がおかしいことには気付いていた。
彼女はそれを、花嫁特有の気鬱だと思っていた。
だが、それが勘違いだったのだとしたら。
この状況で、リリアーナが目の前の男のことをどう思っているのかわからないほど、ミリアは鈍感ではなかった。

「本気なのですか」
妹の瞳の中に非難の色を見出したリリアーナが唇を噛んで顔を背けた。
迷いを断ち切るように目を閉ざして言った。
「ごめんなさい……」
「本気で、トゥランを……わたしたちを捨てて、その男の手を取るというの?」
「ごめんなさい、ミリア。許して頂戴」
肩に触れた姉の手は小刻みに震えていた。
「お姉さま……」
「わかってくれとは言いません。あなたには、途方もないものを背負わせてしまうわね。
 でも、この道を選ばなければ、わたくしはわたくしでなくなってしまうの。だから……お願いです」

ミリアは大きく息を吐いた。
リリアーナの言を受け入れるのならば、彼女は多くの物を姉姫から受け取ることになるだろう。
だが、それと同じくらい、否、それ以上の物を失うことになる。
覚悟を決めなければ。
「これを」
硬い顔をした姉の手の内に、いつも身につけていたペンダントを外して押し込める。
「ミリア?」
「中にカルタッファルの…わたくしの知己の空族が住む場所の地図が入っています。
 周辺諸国へ逃げても、すぐに追っ手が付きます。でも、国家にまつろわない彼らなら」
「でも、そんなことをしたらあなたのお友達が…」
受け取るのを躊躇い、返そうとしたリリアーナから、ルスキニアがペンダントを奪った。
薄い色の瞳がミリアを見た。
「感謝する」
どこまでも気に障る男だ、と彼女は思った。
「ルスキニア。お姉さまを泣かせたら、わたくしが許さないわ」
「ああ」
睨みつけるミリアの眼光をものともせずに男は頷いた。
「そんなことがあれば、俺も自分を許さない」

924:姫君と護衛3(7/8)
12/09/15 00:07:20.08 Qgyooa0A


離陸したヴァンシップは危うげなく島の外を目指した。
許可なく城壁を越えようとする怪しげな機体はすぐに警護の兵たちの知る所となった。
「止まれ!どこの国の機体だ?夜間の発着は許可されていないぞ!」
誰何の声を振り切って速度を上げた不審機に砲撃を許可する声が飛んだ。
「アデス連邦の威信を汚す不届者め!構わん、撃ち落とせ!」
夜の静寂は俄に騒がしくなった。
リリアーナの失踪から徐々に膨れ上がっていた不穏さが音を立てて弾けたようだった。
「撃ぇ!」
号令を合図に、夜を切り裂いて光線が走る。

舌打ちしたルスキニアは警備の手薄な箇所を思い描きながら高度を下げた。
「リリアーナ、頭を伏せていろ」
後部座席に座ったリリアーナが首を伸ばして辺りを伺おうとしているのを見て、ルスキニアは叱責した。
そんな下手を踏むつもりはないが、流れ弾に当たらないとも限らない。
「ルスキニア、前を!」
姫君の叫び声に向き直ったルスキニアは舌打ちをした。
眼前に迫った小隊が銃火器を構えるのが見えた。
光の矢が、闇を駆けるヴァンシップを狙って放たれた。
「くっ!」
旋回したが間に合わなかった。
低く呻いて左目を押さえたルスキニアを見てリリアーナが悲鳴を上げた。
「ルスキニア!」
眼球が燃え上がるように痛んだ。
操縦桿を握る手が震え、軌道が不安定に揺れた。

「ルスキニア!ルスキニア!」
身を乗り出したリリアーナが振り落とされそうになりながら操縦席へと転がり込んできた。
なぜか笑いが込み上げてきて、ルスキニアは小さく息を吐いた。
「無茶をする、あなたは」
腕の中の女のためならば何でも出来るような尊大な気分が頭をもたげていた。
早鐘のように脈打つ柔らかな身体ごしに操縦桿を握り直す。
流れる血が向かい風に煽られて邪魔だった。
片方の手で隠しを探ると、先刻リリアーナから返された手巾があった。
手探りで彼女の掌の中にそれを押し込む。
「リリアーナ、止血を頼む」
「ルスキニア、ああ、血が…‥」
「早く!」

リリアーナが震える手で手巾を左目に当て、頭に巻き付けると、ルスキニアは高度を上げるべく、機首を傾けた。
みるみるうちに城壁が迫る。
ぎりぎりまで堪え、衝突の寸前に一気にスロットルを全開にした。
弾丸のように駆け上ったヴァンシップを止められる者はなかった。
数を増した地上の篝火を映して一瞬煌めいた機体は、すぐに夜陰に紛れて見えなくなった。

925:姫君と護衛3(8/8)
12/09/15 00:10:40.01 Qgyooa0A


不穏な気配を嗅ぎ取ったアラウダはサーラの寝所を抜け出して島の東にある物見台へと向かった。
警備計画に不備はないつもりだったが、現に何者かがこの島の安全を脅かしているようだ。
次善策を講じるのが彼の仕事だった。
相棒が隣にいないことにやや不安を覚えたが、彼はいま逢瀬の最中だ。
無粋な呼び出しはしたくなかった。
辿り着くまでの間、自然と耳に入ってきた断続的な情報から、騒ぎの源が不審なヴァンシップであることを知った。
許可無く島内を飛行している不審機は、アウグスタを含む要人達の集う館とは逆方向に進んでいるらしい。
おそらく、すでに目的を果たし、脱出する心づもりなのだろうと判断出来た。
物見台へと向かう城壁は薄く、僅かに人ひとりが通れる歩廊が設けられているだけだ。
人員の配置が難しく、警備が手薄になっているのは否めなかった。
侵入者が何者であるのかは不明だが、グランレースの期間中に事を起こすとなれば、地の利を得る程度の下準備は整えているはずだ。
問題の機体は、間違いなくこの経路を辿るに違いない。

物見台には数人の兵士が詰めていた。
駆け込んで来たアラウダを見て若い士官が敬礼をした。
「アラウダ殿」
「オーラン中尉、不審機は」
「こちらに向かっているようです」
「やはりな」
そのとき、遠眼鏡を覗いて目視していた上等兵が叫び声を上げた。
「どうした」
「そんな、まさか……」
「クレイシュ!報告しろ!」
「リリアーナ姫が、トゥランのリリアーナ姫が乗っておられます……!」
「そんな馬鹿な!」

それを聞いたアラウダは、絶句するオーランを傍目に外へ飛び出した。
闇の中で微かにクラウディア機関の駆動音が聞こえた。
すぐに、大きな質量を持ったものが近付く気配を捉えた。
下だ。
崖下を覗き込もうとしたアラウダの鼻先を掠めるようにして、一機のヴァンシップが風を切って空へと駆け上っていった。
乱れた気流に乗って、白いものが降ってきた。
足下に落ちたそれを拾ってみる。
白い、小さな百合の花だった。
彼はそれに見覚えがあった。
ルスキニアの部屋の窓辺に、この二年間ほどずっと飾られていたものだ。
アラウダは花から目を逸らし、空を仰いだ。
不審な機体は星の間に隠れ、もう影も見えなかった。
見上げた夜空には複数の月が光っている。
眩しさに、彼は眉をひそめた。
「ルキア……」
呟いた声は夜の闇に溶けて消えた。

明けて翌日、リリアーナ姫誘拐の一報が世間を震撼させた。
トゥラン王国とアデス連邦は国を挙げて捜索したが、姿を消した姫君と不埒者の行方は杳として知れなかった。

926:名無しさん@ピンキー
12/09/15 00:12:42.44 Qgyooa0A
投下は以上です。読んでいただきありがとうございました
途中で無駄にレスを使ってしまいすみません

次回はまた間が空くかと思いますが、最後まで投下させて頂ければ幸いです

927:名無しさん@ピンキー
12/09/15 12:59:33.92 fSrTWTh6
続き来てたー!!!投下乙です!
GJGJ!!今回も楽しませてもらいました
続きものんびり待ってます

928:名無しさん@ピンキー
12/09/15 20:06:34.44 jqZ0Y2MH
続き投下おつ
いいねえ駆け落ちは
ここでカルタッファルかー
次にどこへ転がっていくのかとても楽しみにしてます

929:名無しさん@ピンキー
12/09/15 23:51:57.37 2zXb/wxG
>>926
乙です!
こんな早く続き来るとは思わってなかったから嬉しいw
ミリア繋がりでカルタッファルへは上手い流れですね
続き気になる、次回楽しみにのんびり待ってます

930:名無しさん@ピンキー
12/09/16 20:59:21.23 PaRJ2QdG
>>926
キタ━━━(゚∀゚)━━━ !!
ありがとう

931:姫君と護衛
12/10/08 22:46:08.97 HLCg/HJK
ファラフナーズ生存ifの続きを投下します
ルスキニア×リリアーナで捏造オリジナル路線のため、苦手な方はスルー推奨
今回は短めで5レス程度の予定ですが
実験サイト使用による投下のため、ミスや投下切断があるかもしれません

932:姫君と護衛1/5
12/10/08 22:47:34.35 HLCg/HJK
* * *

高らかに響く鳥の囀りによって、リリアーナは目を覚ました。
ひんやりとした初秋の空気を震わせる澄んだ波長が、早朝の空を高く低く渡っていく。
その声の調子で天気を読み取る術を、いつの間にかリリアーナは身につけていた。
今日の天気は快晴のようだ。
大きく伸びをしたリリアーナは、隣で蹲る毛布の塊に目を遣った。
胎児のように身体を丸めて眠る男の口元から、小さな寝息が洩れていた。
伸ばされた腕はしっかりとリリアーナの腰に回されている。
少し伸びた白い髪が、寝乱れて頬に影を作っていた。
ほつれた毛束を優しく除けながら、リリアーナは微笑んだ。
毎朝、目を覚ますたびに、傍らでよく馴れた獣のようにルスキニアが横たわっているのを見るのは不思議な気分だった。

滑らかな肌を撫でると無骨な革製の眼帯が指先に違和感を与えた。
あの逃避行の折、警備隊の銃撃によってルスキニアは左目に負傷を受けた。
治療の甲斐なく彼の視力は失われてしまった。
端正な顔のにあっては異様な印象を与えるその眼帯は、彼らの罪の象徴だった。
ふいに、なめした革をなぞるリリアーナの手に他人の指が触れた。
見下ろすと薄い色の右目と視線が合った。
「リリアーナ」
僅かに目を見張ったリリアーナは彼の名を呼んだ。
「ルスキニア。起きていらしたの?」
「いま起きた」
寝返りを打って仰向けになったルスキニアは手の甲で目元を覆って低く呻いた。
すぐに身を起こそうとはしない彼を見てリリアーナは子供のようだと思った。
寝汚いところがあるのは、共に暮らすようになって初めて知った彼の意外な一面だった。

リリアーナは寝台に手をついてルスキニアの顔を覗き込んだ。
明るい色の髪が髪が流れ落ちてシーツの上に蟠った。
薄い紗のカーテン越しの柔らかな光を透かしたリリアーナの髪が、滝のように彼らを囲い込んだ。
黄金色の牢獄に捕らえられた男が、寝惚け眼のままリリアーナを見上げて何か言いかけた。
彼女はかがみ込んでその唇から言葉を奪った。
顔を離し、徐々に覚醒した様子の彼を見下ろして微笑んだ。
「おはようございます、ルスキニア」
ルスキニアは、彼をよく知る人でなければそれが微笑みだとはわからないほど僅かに頬を緩めた。
薄い唇の端から息を吐いた。
「おはよう、リリアーナ」

933:姫君と護衛2/5
12/10/08 22:48:32.84 HLCg/HJK
「もう少し、休んでいてください」
ひとしきり朝の儀式を堪能したリリアーナは、そう言って寝台を抜け出そうとした。
朝食を作るのは彼女の仕事だった。
当初は慣れない作業に難儀をし、この世のものとは思えない存在を造り出したこともあったが、
今では茶を淹れ、パンを温める程度ならば文字通り朝飯前だった。
まだあまり上手いとは言えないが、少しは食べられるものも増えてきたのだ。
働かざるもの喰うべからずというのは、空族ならずとも市井の間では当然の事実だった。
リリアーナはここへ来て初めて土を触り、芋を掘ることさえ覚えた。
炊事や洗濯といった日常の雑務は、リリアーナにとっては初めての経験だった。
冗談ではなく、書物より重たいものを持ち上げたことなどなかったのだ。
瑕一つなかった白い手にはあかぎれができ、夜眠れないほど痛むこともあったが、彼女にとってはその痛みすら勲章に思えた。

その栄えある御手をルスキニアが掴んだ。
「朝食はまだいい」
均衡を崩したリリアーナは寝台の上に柔らかくくずおれた。
見上げた天井がルスキニアの顔で覆われた。
ごく近くで、薄い色の瞳が射るように見つめていた。
狩人の美徳である容赦のなさが、彼女をシーツの上に縫い留めていた。
今度は、閉じ込められたのはリリアーナの方だった。
けぶる瞳を瞬かせながら彼女は囁いた。
「わたくしをどうなさるの?」
ルスキニアの指が、リリアーナの唇から頬にかけての曲線をなぞった。
狙いを付けられた獲物の感覚が、彼女の神経を高揚させた。
徐々に頭をもたげはじめていた彼女の欲望を汲み取るように、男は言った。
「どうされたい」
答える代わりに、リリアーナはルスキニアの首に腕を回した。

明るい朝の日差しの中で、ルスキニアはもはやどんな欲望も隠そうとはしなかった。
リリアーナもまた、彼に己のすべてを晒すことを躊躇わなかった。
望み、望まれているという事実が、彼女をより一層大胆にしていた。
姫君であった頃であれば眉をひそめたであろう所作も、彼女の奔放さを繋ぎ止める鎖にはならなかった。
咥えた喉の奥でルスキニアが爆ぜるのを感じるのが、リリアーナは好きだった。
小鳥が枝を離れて飛び立つ瞬間のように、それは力強い歓びに満ちあふれていた。
かたく抱きしめ合うと、その歓びはさらに確かに感じられた。
あるべきものがあるべき所に収まっているのだと思えた。
絡み合う腕や脚、肌の間に存在するのは、互いの欲望以外にない。
ルスキニアの指は、何度でも飽きることなくリリアーナの根源に触れた。
この世で一番珍しい鳥の卵を扱うように繊細な手つきで触れられるのは悪い気分ではなかった。
ルスキニアは相変わらず寡黙だったが、言葉にはしなくても大切にされているということは分かった。
押し寄せる波頭に攫われそうになるのを、二人は幾度となく堪えた。
何度目かの大きな潮のうねりが、自分とルスキニアを柔らかく押し流すのをリリアーナは感じた。
彼とともに、誇らしく強かな何かの一部となって波間に漂うことは、なんと素晴らしいことだろう。
いまやリリアーナを所有しているのは彼女とルスキニアの二人だけだった。

934:姫君と護衛3/5
12/10/08 22:49:50.08 HLCg/HJK
「わたくし、あなたのことを天使だと思っていました」
浅い息を吐きながら、リリアーナはルスキニアの裸の胸に頬を寄せた。
押し付けた耳から伝わる彼の鼓動もまた、自分と同じように弾んでいることがどこか小気味よかった。
「天使?なぜ」
「最初にお会いしたとき、ファラフナーズ様が、そうおっしゃったの。
 あなたたちは、空からやって来た天使なのだと。
 だからわたくし、初めてあなたの裸を見た時は少し期待していたのです。
 もしかしたら、背中に翼があるのじゃないかって」
「期待に添えず、すまなかったな」
「構いません。あなたが天使だったら、きっとわたくしとこんなことはしてくださらなかったでしょう」
「違いない」
そう言ってルスキニアはリリアーナの頭を抱き寄せた。
接吻を期待するふりをして、リリアーナはそっと目を伏せた。
寝台を共にするようになってから、それまで染み一つなかったルスキニアの背中に傷痕が残るようになったことを知っていた。
彼に羽根がないのは、自分がそれをもぎ取ったからかもしれないと彼女は考えていた。

「…‥後悔、してはいませんか」
「何を」
「わたくしの手を取って、アデスを去ったことです。あなたは、ファラフナーズさまのことを」
取り縋るように見上げると、全てを見透かしているようにも、何ひとつわかっていないようにも見えるルスキニアと目が合った。
「ギルド人の身体能力は、十代後半が最高潮だと言われている。その後はただ衰えてゆくだけだ」
なおも言い募ろうとしたリリアーナをルスキニアの言葉が遮った。
「俺もアラウダも、護衛としては少々とうが立ちすぎていた。後進に道を譲るべき時期だった」
返す刃で深く斬りつけられ、リリアーナは言葉を忘れた。
「後悔しているのは、お前の方ではないのか」
失ったものの数を数えれば、リリアーナの方がその損害の大きいことは誰の目にも明らかだった。
「わたくしは…」
彼女の視線が惑ったのは一瞬のことだった。
すぐにルスキニアを見つめ直したリリアーナは彼の手をそっと取りながら言った。
「わたくしは、後悔していません。こんなに穏やかに暮らすのは、生まれて初めて」
あかぎれの痕の残る細い指が、陽に灼けて少し硬くなったルスキニアの指としっかりと絡みあった。
「あなたの腕の中は、わたくしにとって世界で一番安全な場所なのよ、ルスキニア」

935:姫君と護衛4/5
12/10/08 22:50:41.17 HLCg/HJK


その年最初の雪がカルタッファルの家々の屋根を白く染めた朝だった。
リリアーナは夢を見て飛び起きた。
不吉な夢だった。
世界は争いと怨嗟に満ち、空は数多の戦艦で黒く埋め立てられていった。
トゥランに月が落ち、大地は朱に染まった。
夢の中のルスキニアは冷酷な独裁者で、世界を踏みにじった挙げ句に、誰にも看取られることなく孤独の中で世を去った。
目が覚めても動悸が収まらず、瞳からは涙が溢れて止まらなかった。

「リリアーナ!リリアーナ!」
強い力で揺さぶられて我に返った。
「ル…スキニア?」
「どうした、うなされていたぞ」
怪訝な顔をしたルスキニアが顔を覗き込んでいた。
その眉間に皺が寄っているのを見てリリアーナは再び涙を流しはじめた。
正体もなく彼の胸にすがって泣いた。
「ルスキニア、ここにいるのね。わたくしの、手の触れるところに」
表情が変わるということは生きている証だ。
それは、夢の中で最後に目にした彼からは失われたものだった。
「よかった…本当に、よかった」
「俺はここにいる。お前を置いて、どこへも行かない」
ルスキニアの表情は戸惑いの色が濃かったが、手の所作は迷いなく力強く、動揺するリリアーナの心を現実に引き戻した。
広い大きな掌でリリアーナの顔にかかった髪の気束を取り除け、頬を包むようにしてルスキニアが言った。
「消えそうなのは、お前の方だ。リリアーナ」
溢れた涙が、彼と自分の肌の間に染み入っていくのを彼女は感じた。
温かな指の感触は、リリアーナを安堵させるのに十分な力を持っていた。
それでも、すべての不安を払拭するのにはまだ遠い。
身を起こしたリリアーナはルスキニアの頭を掻き抱いた。
「抱いてください、ルスキニア。わたくしがここにいるということを、あなたの手で確かめて欲しいの」
「リリアーナ…」

「あー!まーた朝っぱらから盛ってる!」
突然響いた能天気な叫び声に、ルスキニアの愛撫に身を任せていたリリアーナは悲鳴を上げた。
床に作られた押上式の扉から、小さな頭が覗き、オリーブ色の瞳がこちらを見つめていた。
「ファム!だめだったら!」
押し殺したような叱責の声が聞こえたが、少女は気にする様子もなく梯子の最後の段を踏み上がった。
「こら、総統!リリー様を解放しろー!」
足取りも軽く駆け寄った栗色の髪の少女は、ルスキニアの身体を押し退けてリリアーナの身体に抱きついた。
総統というのは少女がルスキニアに付けたあだ名だった。
左目を覆う眼帯が悪役然としているというのがその由来だった。
「だって、いかにも悪者って感じじゃん」と彼女は宣った。
「実際、お姫さま攫って囲い者にしてるわけだしさぁ」

936:姫君と護衛5/5
12/10/08 22:54:51.48 bFlilbxK
「ねえねえ、リリー様。今のは何回目?総統は早漏だってフリッツたちが言ってたけど、本当なの?」
「コレット、ファンファンを摘み出せ」
慌ててシーツで身を隠すリリアーナの周りを飛び回りながら、さかんに囀るファムを示して、
苦虫を噛み潰したような表情のルスキニアが言った。
おっとりとした動作で部屋に入って来た黒髪の少女は、彼らが世話になっている空族の長の娘だった。
ルスキニアの言葉に応えようと彼の方を向き、そしてすぐに顔を背けた。
「ルキアさん、その、言いにくいんですけど、前は隠したほうが…」
男は黙って椅子の背に掛けてあった肩掛けを下半身に巻き付けた。
無垢な乙女の目に入れるのは憚られる形状を呈していたからだった。
お世辞にも優雅とは言えないその所作を見て、息を抜くような奇妙な音を立ててコレット嬢が笑った。
「毎朝お盛んですね」
「毎朝ではない。せいぜい、一日おきだ」
「じゃあ夜は?」
黙して答えないルスキニアに、少女は頬を染めて口を歪めた。

「なんにせよ、色惚け総統の伝説に、また新たな一頁が書き加えられたわけだ」
服を着るために奥へ下がったリリアーナから離れたファムが、相棒の傍らへと駆け戻ってきてそう言った。
「なんだそれは」
「伝説そのいち。ヴェスパの運転中に振り返ってリリー様とキスしてたせいでグランレイクに落っこちた。
 伝説そのに。夕飯の支度の途中でおっぱじめたせいで焦げたポテパンにより火災が発生。
 あやうくカルタッファルが火の海に。
 伝説そのさん。テレザおばさんの若い時の服を着たリリー様を見て……」


937:姫君と護衛5/5
12/10/08 22:57:53.82 bFlilbxK
「ファムー! ジゼルー!」
滔々と述べ立てる少女の言葉を遮るようにして、よく通る声が響いた。
ルスキニアは今回も、ファム・ファンファンを絞めころす絶好の機会を逸した。
「ディーオ!」
足取りも軽く階段を登ってくる音が聞こえ、ディーオと呼ばれた少年が、 床板に開いた扉から顔を覗かせた。
「やあ、総統とリリー様は起きた?」
彼は、隈取りのある瞳をぐるりと巡らせて、部屋の中を面白そうに見回した。
ルスキニアと目が合うと含みのある視線を送ってみせた。
その意味は、お気の毒様といったところだろう。
総統閣下は威厳を持ってそれを無視した。
布に覆われた股間に目を止めた少年が、愉快そうに笑ったのを知っていたからだ。
服を着て奥から現れたリリアーナが、ディーオを見て声を上げた。
「ディーオ、あなたまで。一体どういう風の吹き回しです」
「ルスキニア、それにリリー様。お楽しみのところ悪いけど、お二人にビッグニュースだよ」
ディーオの言葉に、 顔を見合わせたファムとジゼルがはしゃいだように歓声を上げた。
手を取り合って、 少女たちは笑った。
「ミリアが来るの!」

938:姫君と護衛
12/10/08 23:00:31.42 bFlilbxK
投下は以上です
読んでくれた人に感謝

次回投下が最後になるかと思いますがそれまでスレが残っているか少し不安です
落ちていた場合はお焚き上げスレあたりに落とすことにします


939:名無しさん@ピンキー
12/10/10 00:22:00.95 Vpg5hmlX
投下来てたー!乙です!穏やかでいいな
この世のものとは思えない存在を造り出していたリリー様にワロタw
次で終わってしまうのは寂しいけど続き楽しみにしてます

940:名無しさん@ピンキー
12/10/10 03:18:18.50 MXMkVoUm
>>938
GJです、お盛んな2人良いw
2人の貴重な話もっとずっと見ていたい
ラストのんびり待ってます

941:名無しさん@ピンキー
12/10/10 12:56:06.97 WNZc2FXM
>>938
乙です!ルスリリにカルタッファル勢が絡むと可愛いな
ラストも楽しみにしてます

942:白い月(1/7)
12/11/09 22:54:06.08 sXQ72aAo
1期のタチアナいじめを見かねて、個人的にスッキリしたくて
書いた。ファムで出番があったから、あーあwと思ったものの
…創作という事でお許し下さい。貴重な残レスを減らして
すみません。イーサンとアリスティア。

=白い月=

なま暖かい雨がざあざあ降っている。
干ばつ地帯には避難命令が出て、街の軒という軒に
避難民があふれている。でも、避難民も、街のやつらも
どこか浮かれている。
数年間待ち望んでいた雨が降りだして、すぐではなくても
いずれかは、赤茶けた大地に水と緑が戻ってくることを
若く美しい新皇帝が宣言したからだ。

俺は雨を避けてアリスティアとふたり、安ホテルに泊まってる。
明日はアリスティアが先遣隊として母星に帰還する日だ。
正直寂しい。でも先遣隊が安全が確認すれば…俺はアリスティアを
追って地上に降りる。ほんの少しのお別れだ。
17才のアリスティアが、再会したときにはさらに肉感的に
成長している姿を想像して俺はにやける。

「…どうかした?イーサン」
同じシーツにくるまった裸のアリスティアが俺を見て言う。
スケベ心を見透かされたようで俺はあわてて表情を引き締める
「なに?」「笑ってた…口がこう…いきなりこんなふうに」
アリスティアが胸元で重ねた手をわずかに動かして
2本の人差し指で自分の口の端を持ち上げてみせる。
やさしく下がった目尻と、持ち上げられた口角が
可愛らしい笑顔に見えて、俺は愛しさがこみあげて、
乱暴にアリスティアの頭を抱き寄せる。
「あ、…ん」
胸にすっぽり収まったアリスティアに言う
「愛してる」
「…ふふ」
茶味の強いブロンドが絡まないように細い首と女らしい肩に
指を滑らせると、アリスティアは行為の後で敏感になった肌を
粟立てて甘えるような鼻声を出す。 張りのある瑞々しい肌も、
細身の身体に不釣り合いな大きな乳房も、筋張った俺の足を挟む
柔らかい足も、その付け根の密壷も。
すべてが愛しくて、俺はまた引きずられるようにアリスティアに
のしかかりたくなるけど、今は我慢だ。だって。

943:白い月(2/7)
12/11/09 23:04:38.43 /vy3rL9E
俺は表情を引き締めて、今日こそは言おうと思っていた言葉を続ける。
「ち、地上に降りたらさ…、俺は家を建てるから、そしたら…
俺と一緒に住んでくれる?」
「………」
アリスティアは返事をしない。
相手は17才の、まだ少女と言っていい年齢だ。
俺みたいな、整備士としては下っ端の、ぱっとしない年上と
将来を約束するのはまだ早いと思っているのかもしれない。
アリスティアは黙ったまま、俺の腕からするりと抜け出す。
裸のままテーブルまで歩いて、トレーの上に伏せられた
コップのひとつに水挿しから水を注ぐ
「……な…、なんか、反応がないね」
「薬を飲む時間だから」
「あ、ああ。ありがとう」
事故の後から俺は眠れなくなって、酒と、アリスティアが
運んでくる薬に厄介になっていた。
「アリスティア、あの…薬の前に、さっきの返事がほしいな」
「薬を飲んだら返事をあげるわ」
俺の手に薬包を握らせて、母親のように微笑みながら
コップを差し出すアリスティアの言葉を聞き、俺はぱあっと
気分が明るくなって、急いで大きな薬包の中身を口に流し込む。
アリスティアはそんな俺の様子をベッドに腰掛けて見ている。
「…それで、返事。私とあなたが母星でいっしょに住むっていう」
「う、うん」
俺は色よい返事を期待して、ベッドの上で背筋を伸ばして身構える。
「イーサンは母星で何をして暮らすつもり?」
「え。あー。うん。機械の整備の仕事をしながら、農業…かな?
ヴァンシップを直すだけじゃなくて、農業機械の整備もできるし…。
畑も耕せるよ。アリスティアの好きな、棗椰子を植えようか。
それと、水が多い大地で育つような…、小さい頃に食べただけだけど、
えーと萵苣。あれはおいしかった。そういうのを」
「…水、ね。母星には、あるのかしら」
「あるよ。ここに雨が降らなかったのは、ギルド人が
さぼってたからなんだろ?」
「作物は、穫れるのかしら」
「植えれば育つんじゃない?」
ベッドに腰掛けて考え込んでいたふうのアリスティアが
大きく息を吸い込んでため息とともに言う。
「……ばかみたい」
「え?」
アリスティアは肩越しに俺を見る。
「無害な環境だけ切り取られて、ぽっかり空に浮いていた私たちが、
これから地上に降りるのに、どうしてそんな幸せな未来ばかり
思い描けるの?」
アリスティアが背中にかかる髪をまとめて、左肩に回す。
「母星の様子はギルド人すら把握していない。
ただアルヴィスが産まれてエグザイルが起動したから降りるだけ。
母星では先住民と交戦する可能性がある。私は、畑を耕しに
行くんじゃない。人を殺しに行くのよ」
意外な、いや軍人なら当然だけど。さっきまで年端もいかない
少女と思っていたアリスティアの変化に俺は戸惑う。

944:白い月(3/7)
12/11/09 23:13:41.43 CnKi8AjB
「…ぼ、母星に、降りたくなかったんだ?」
「降りたくなかった…」
アリスティアが天井を見ながら俺の言葉を繰り返して
首を左右に振る。
「いいえ、タチアナが降りると言えば、私は従うわ」
俺は、威圧的なまでに美しいタチアナの横顔を思い出す。
「あのー……、何も主君だからって、いやならいやって言ってもいいんだろ?
従わなくても。軍だって、辞めればいいんだし…」
そうだ。主従だからと言って、タチアナと一緒にアリスティアまで
危険な真似をする必要はない。アリスティアは俺の妻になって、
俺の子供を産んで、お母さんになることだってできる。
「……変なイーサン」
アリスティアが表面上は穏やかに、俺の言葉を否定する。
「タチアナが、帰還は軍功を挙げる好機と考えるなら私は付き合う。
私が生涯をかけて従う人はタチアナだから。」
いつもの静かな調子でアリスティアは話を続ける。
「…だから私は、タチアナを侮辱し続けた男たちを許さない。
それはあなたも例外じゃない。イーサン」

-傭兵として乗船してきたふるいつきたくなるような美貌の少女に
真っ先に声をかけたのは俺たち整備士だ。
タチアナと名乗ったその少女は、お義理の敬礼の後に無表情で
そっぽを向いた。
傭兵のくせに、ずいぶんと偉そうな、ツンとした態度だった。
後からその少女が、士官候補だった貴族で、身分が違うことを
説明されても初対面の生意気な印象を払拭することはできず、
俺たちは彼女にずいぶん意地悪をした。
時には、泣かせてしまうくらいに。
泣き出した彼女の傍らで、従者だというアリスティアは
黙ってその様子を見つめていた。途方に暮れたような、
悲しそうな表情で。

あの時のような悲しい顔をさせた気がして
『いや、そんなつもりじゃなかったんだ』って、俺は慌てて
手を伸ばす。シーツをはねのけて、ベッドに腰掛ける
アリスティアの背中に触れようと。
そこで俺は大きくふらつく。ベッドのスプリングに弾かれて、
サイドボードに強く腰を打ち付ける。
どういうわけなのか、そのまま頭が床に投げ出される。
何が起こったかわからない。
視界が切り替わっただけで、衝撃も痛みも感じない。
アリスティアは驚くふうはなく、ベッドから転落した俺を
避けるように立ち上がった。
俺はあれっ、と思う。声が。出ない。
アリスティアが言う
「薬が効いた?」
薬?薬。いつも飲んでる入眠剤はこんな効き方はしない。
「心配ない、イーサン。意識を失った後に、吐瀉物による窒息死。
苦しい事はひとつもない。ただ人生が終わるだけ」
何を言ってるんだ?
「言えなかったけど…イーサン、私の最愛の人はタチアナなの。
私は誰より深く、タチアナを愛してる」

945:白い月(4/7)
12/11/09 23:22:25.77 Twwcknil
……愛してるって?冗談だろう。女同士で。
俺は、こんな時なのにアリスティアとの夜を思い出す
俺に巻き付いて離れようとしない足。その柔らかい締め付け。
男に適わない非力な筋力に反して俺をぎゅうぎゅうに
締め付けるヴァギナ。奥に深く、吸い込まれていくような快感。
アリスティアが俺でイクときの形と暖かさを俺は知ってる。
アリスティアが俺をどれほど激しく求めたか俺は知ってる。
こんないやらしい身体の持ち主が、女で満足できるはずはない。
「……私が、女で満足できるはずがない?」
勘のいいアリスティアはたまに相手の心を言い当てる。
息が止まるようなタイミングで。
「そうかもね。イーサンひとりじゃ満足できなかったし」
「ゴドウィンやコスタビとも寝た」
ああ、知ってる
「イーサンが嫉妬に狂ってふたりを殺してくれたのは助かった」
あれは、事故だよ。
「故意に、イーサンは手を滑らせた。私は見てた」
アリスティアは俺に近付いて、俺の身体がどこまで動かないのか
観察している。痙攣する俺の瞼を手で抑えて、そのまま、ご褒美でも
与えるように俺の頭を撫でる。
数回それを繰り返すと、ずいぶん暫くして、俺の耳元で…
「滑るような細工をしたのは私だけど」
耳元で、そうあってほしくなかった事を囁く。

ああ、アリスティア。アリスティア。
言ってくれれば、頼んでくれれば。
俺は、仲間を殺す事くらい何でもなかったのに。
俺は、アリスティアのためならどんな事でもできるのに。
アリスティアの心が俺に無いとしても、それでも俺は。

「これまでありがとう…。でも、さよなら。イーサン」
閉じられた瞼の中で足掻いても、指の一つも動かない絶望に
打ちのめされながら。俺は、アリスティアが部屋を出ていく音を
ただ聞いているしかなかった。

 ***

何日も降り続いた雨を今朝だけは止ませる事にしたのだろうか。
明け方に雨は止んで、雨雲の向こうの朝日が世界を黄色く染めている。
エグザイルで母星に搬送される予定の戦艦群は濁流の川を
見下ろす丘の上に停泊している。乗船時間まであと1時間。
帰還する家族や友人の艦を見送ろうとする人々、
彼らに花や土産物を売ろうとする露店。ぬかるんだ地面の上で、
逞しく展開されるお祭り騒ぎを手をつないだアルとホリー、
クラウスとラヴィ、生体キーを監視するタチアナとアリスが
乗船待機場所から見つめていた。

946:白い月(5/7)
12/11/09 23:28:56.15 jJqIlh+c
送別の賑わいに圧倒されて、アルが掠れた声で訴える。
「大丈夫かな…私、ちゃんとエグザイルを飛ばせるかな…。
ホリー。ラヴィ、クラウス」
「だいじょーぶだって。練習したじゃない。あたしたちがついてる!」
「起動すればあとはオートコントロールと聞いているし、何かあっても
ギルド人がどうにかする約束だよ。心配しなくて大丈夫」
のんびりしたクラウスに優しく微笑まれ、アルはエプロンドレスの
裾を握ってうれしそうに頬を赤らめる。
「クラウス!」
「げっ、ゲイルさん?」
「イーサンを見てないか?一緒にお前らを見送るつもりだったんだ」
「それは、僕よりアリスティアさんのほうが…タチアナさん」
「アリス?イーサンは見送りに来ないのか?」
タチアナに問われると、アリスティアは目を伏せて答えた。
「…来ると、もっと悲しくなって、みっともなく泣いてしまう
だろうから、見送りには来たくないって言ってたわ。…彼ね、
すっごく落ち込んでて。見てられなかった」
「そんなにか…ゴドウィンとコスタビの葬儀から雰囲気が
暗かった…、イーサンのせいじゃないのに。」
つい数週間前の事故で亡くなった整備士達の葬儀を思い出して
一同はどこか沈んだ気持ちになる。その雰囲気に耐えられず、
ラヴィが口を開く。
「で、でも、ほら。イーサンは、後からアリスティアさんを
追っかけてくるんでしょ?」
アリスティアはラヴィを見て、首を左右に振る
「志願はしたみたいだけど…、よくわからないわ」
生真面目なタチアナは、公認の仲の相手に対する無頓着な
アリスティアの言い方を聞き咎める。
「そういう煮え切らない態度が…、アリス」
「タチアナ…、お母様がいらしてる。お別れを」
「あ、ああ」
人混みの中の、車椅子のヴィスラ準男爵とその奥方のもとに
タチアナを向かわせると、アリスティアは胸ポケットから
包みを出してゲイルに向き直る。
「ゲイル、これ。気休めだけど…、蛇除けの香料が入った軟膏なの。
干ばつ地帯の大水に土嚢を積みに行くんでしょ?
あそこは、毒蛇が出るから」
「お、こりゃどうも」
「長靴の間あたり…地肌に塗って、休憩時間にまた塗ってね…お餞別よ」
「イーサンには?」
「夕べ渡してる」
ホテルのサイドボードに置いてきたのは蛇除けの香料だが、
ゲイルに今渡したのは蛇寄せだ。毒蛇に咬まれてゲイルが死ぬか、
それはわからないが、イーサンと関係を持ちながらゴドウィンや
コスタビを誘惑していた事に後々気付かれては都合が悪い。
念のためだ。
ゲイルはアリスティアに渡された軟膏の蓋を開けて、自分の好みの
香りであることを確認してにやっと笑う。
「もう世話女房の貫禄じゃないか。酒もやめろって言ってるんだろ?
イーサンとの結婚式には呼んでくれよ」
「…よく言われるけど。まだ早いでしょう?」
目を伏せて静かに否定する姿は照れているようにも見える。
ゲイルはアリスティアの左肩を何度か叩き
「身体に気を付けてな!」と励ます。
アリスティアは素っ気なく「ゲイルもお元気で」と答える。
頷いたゲイルはクラウスのほうに身体の向きを変え、
その肩を両手で掴む。「クラウスには…いずれ会いに行くから、
それまで元気でな?」調子に乗って、曖昧な態度のクラウスに
唇を近付けていくゲイルをラヴィとアルが悲鳴をあげて阻む。

947:白い月(6/7)
12/11/09 23:35:12.18 3/FA7SH4
アリスティアは、自分の渡した軟膏がゲイルの胸ポケットに
入ったのを見届けて……密かに、周りの誰にも悟られないくらい
静かに笑った。

両親に別れを告げて、待機地点に戻ってきたタチアナは言う
「待たせたな」「集合時間どおり」アリスティアは応える。
「今更なのに、母上に引き留められて…イーサンは来たのか?」
「ううん、結局来なかった。ゲイルはあそこで見送るって」
「そうか…シルヴァーナの整備士連中ともお別れなのに…」
「うち2人とは永遠の別れになったわね」
「亡くなっていなければ、2階級特進を自慢して、アカンベーで
別れるつもりだったが…全く後味の悪い別れになったな」
「…タチアナは、乗艦早々いじめられてたから」
「私の態度が悪かったんだろう…そう言ってたしな」
「態度が悪いとか。あんなのはあいつらの言いがかりに過ぎない。
実際タチアナは昇進しているわけだし…気にすることはないわ」
「どうかな…お互い様だろう」
タチアナは肩をすくめて苦笑する。
「今はああいう連中も巧くあしらえる…奴らに鍛えられたおかげだ」
タチアナの切り替えが早いのは聡明さ故だろうか。
そのくせ計算高いところは皆無で、伝えるべき言葉を本来の相手に
伝えられない不器用さがある。アリスティアはそんなタチアナを心底
愛おしいと思う。

-私の、大切なお嬢様

士官学校に入学する直前に、呼ぶなと命令された幼い頃の
呼び方を心の中でつぶやく。
母親に手を引かれ、主人となるタチアナに引き合わされたとき
彼女の美しさに息を呑んだ。お嬢様は、白い月のようだと思った。
それは、昼の暑さが引いていくのと同時に輝き出す。

雨の切れ間の、黄色い空の下。
雨雲の向こうには、映写された夜明けの月が浮かんでいる事だろう。
でも、これから降りる母星の空には真実の月がある。
白い月を追いかけて、追いかけて。私はこれからも。

「時間だな」
タチアナが時計を見て搭乗艦を見上げる。
「そうね」アリスティアは返事をする。
「さあ、アル。ホリー様、お時間ですよ」
「参りましょう」
タチアナとアリスティアはふたりの少女を間に挟んで、
乗艦口へ歩を進めた。

(終)

7も使わなかったw通し番号6にて、謹んで訂正いたしますw

948:名無しさん@ピンキー
12/11/13 00:07:12.59 1Ie5tGG5
おぉ新作来てた!乙です!
めったに見ないアリス素材GJです

949:名無しさん@ピンキー
13/01/01 18:02:09.23 QlGaS5tm
>>947
タチアナハァハァ

950:名無しさん@ピンキー
13/01/06 22:45:13.45 Jrv0bRnv
ほす

951:名無しさん@ピンキー
13/02/05 05:31:20.36 bjZazA/8
正座で全裸待機

952:名無しさん@ピンキー
13/02/17 02:31:01.30 FnGaF1uc
続きをずっと待機してる

953:名無しさん@ピンキー
13/03/18 23:04:13.96 YgHjVhZx
まだまだ正座で全裸待機

954:名無しさん@ピンキー
13/03/29 22:07:57.57 1/QcAlcf
いつまでも待機してるわー

955:名無しさん@ピンキー
13/05/11 15:52:12.92 TEIGb+/b
グローリアアウグスタ!

956:名無しさん@ピンキー
13/07/22 00:13:47.29 WlQN/ZLd
アウグスタとリリアーナと全裸待機


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