12/03/09 14:41:24.81 sMzZbbGK
>>612
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メガトロンに連れられて、伊東と沖田は施設の奥に向かった。そこにくたびれた姿の白衣の中年男性が立っている。
「紹介しよう、『綴命の錬金術師』ショウ・タッカー君だ」
「ようこそおいでなさいました」
タッカーはニコリと微笑み、沖田に手を差し出した。その手を取り、沖田は握った。
友好の印など、欠片も無かった。ただ、伊東に手配させたことが、成功さえしていればそれで良かった。
「沖田総悟だ。よろしく」
外の雨とは裏腹に、乾いた声で沖田は告げた。
「じゃあさっそく、例のブツを提示してもらおうか」
懐から小切手帳を取り出し、沖田はメガトロンにそれを握らせた。
内容を確認して、メガトロンは小切手をちぎり、返却した。
「いいだろう。では早速タッカー君、あれを出してやれ」
「了解いたしました」
にぃっと口角を釣り上げて、タッカーは獅子が刻まれた取っ手を握り、一気に引き開けた。
ギギギギギギギギギギ
木造の扉が開き、中から静々と一人の女性が出てくる。
その顔を見た瞬間、沖田の目が見開かれた。
「…そうか、これ夢なんだ。俺、まだアイマスク付けて寝てんだ」
呆然と立ちすくむ沖田に、伊東は微笑んで告げた。
「なら呼んでみればいい。彼女の名前を…。君は何と呼んでいたのかな」
とんと背中を押し、よろよろと沖田は前に進んでいく。
その体を、女は両手で抱きとめた。
頬に触れる胸と、肩に触れる両掌の感覚。それはあまりにも、沖田にとって親しみ過ぎたものだった。
「あ…ね…上…」
割れるような声が、喉から響いた。
それにこたえるように、女は微笑んだ。
「また会えたわね、そーちゃん」
その女…沖田ミツバは、ぎゅっと弟の細い体を抱きしめた。