11/10/30 20:27:07.61 GibTSoTg
>>206 最後までエロくなくてゴメンネ
「笑うかよ。引くけどな」
「ハハハ、そりゃそーよね」
軽く笑って、彼女は言った。俺が此奴に会ったことがあった(メンドクセエ表現だな)と言われても、全然実感がわかない。
俺にとって記憶が残っているのは、この牧場に入ってからの4年間だけなのだから、うん。まぁ…1年目の冬から通った
六式体術習練が死ぬほど厳しかったから他全部忘れたのかもしんないけどな。今でも俺は豹とか麒麟とか狼とかを見ると
震えが止まらなくなる。
トラウマを俺が引きずっていることに気付かず、ヴェントは訥々と語りだした。
「でもさ、忘れてるんだろうけど…私に正面から向き合ってくれた『敵』は、あんたが初めてだったんだよ」
「それは、どういうことだ」
単純に顔が怖すぎてみんな逃げちゃったってことか?などと失礼なことを考えていた俺の耳に飛び込んだのは、予想だに
しない事実だった。
「私の能力は『天罰術式』つってね。私に敵意を抱いた者は、その瞬間に意識を失うってものなんだ」
「な・・・」
思わず俺は絶句した。
「なんだよそれ…無敵じゃねーかよ…」
「そうなのよ…敵意さえ抱いたら、『私』のことを知らない人でも、思っただけで倒れるの」
ポカンとバカみたいに口をあけて呆然自失とする俺に対し、少し顔をふせてヴェントは答えた。
その声には、自慢の心も嬉しさも入ってはいなかった。
「だから…初めてだった」
白い喉を鳴らして生唾を飲み込み、ヴェントははっきりと声を上げた。
「私と真正面から向き合って、戦ってくれた敵は・・・!」
「それが、俺だったのか?」
「そうよ、あなたは覚えていないだろうけどね」
ヴェントの長いまつげが伏せ、その三白眼を覆った。
顎に手を当てて、俺は考えた。
「自分以外の全ての敵が何の相手にもならず、精神耐性も無視し、射程も広い完全な能力。
それと引き換えに手に入れたのが、誰一人自分と向き合ってくれないという孤独だったってわけか」
心の中で呟いたつもりだったが、どうも声に出ていたらしい。
「・・・・木原みたいに、私をカスとしか認識しなかった奴は別だけどね」
誰だそれ。
「だから、今回沖田副隊長にあんた相手の仕事をもらった時は、本当に嬉しかったんだよ」
鼻の下をこすって、彼女は小さく声を漏らした。
「もう一度あんたに会えるから。会って話ができるから、ってね」