11/12/15 00:22:26.55 nWsXpV4g
長い髪を、水滴が伝う。
中に湯が入らないように伏せていた耳をピッ、ピッと動かし少女はその水滴を掃った。
「……ん、ありがとうございます、すっきりしました。」
余程気持ちよかったのか、目を伏せたままにアヌビスが声をかけた。
身体を重ねた後、二人で浴室へ入った。
当然と言える事ではあるが母の目を気にし、居宅での入浴は二人別々になって居たため久しく一緒の入浴は出来なかった。
いつしか当たり前になっていた彼女の髪を洗う行為もそれ以来になっており、久方ぶりの洗髪に満足した表情を見せていた。
何時ものように、洗い終わった青年は先に湯船に入る。
彼女は両手で濡れた髪を掬い、いつものように軽く絞り湯船に浸からないように丸く纏めた。
うなじを水滴が伝い背中を流れ、やがて床に落ちるのをなんとなく見届けた。
「自分でも、洗うんだろ?」
その背中に声をかける。
「はい?」
「髪の毛、一緒に入ってなかったけど、自分でも洗ってると思うけどなんとなく。」
少女は、少しだけ困った顔を見せる。
「……いえ、私たちは特に汚れを落とさなくても、清潔に保たれるようになってますから。」
ヒトでは無いことを一つ証明するように、事実を口に出した。
どう答えればいいのかわからず、自分を責めるように軽く天井を仰いだ。
「……あー……ごめん。」
そう言うか言わないか、視界いっぱいに彼女の顔が見え、両頬を軽く抓られた。
「……アヌビス?」
「貴方に洗ってもらうのすっごく気持ち良いんですから、いいじゃないですか。」
ぱっと両手を離し今度は自分の頬を摘み、可愛らしく笑う。
「だって、私が貴方の事を好きで……それからきっと、貴方が私の事を好きでいてくれてるって、感じれるんですもん。」
照れを隠すように笑顔のままで呟き、湯船に手をかけた。
目の前で足の親指からゆっくりとお湯に入り、すぐに両足が膝のあたりまで隠れ。
彼女が膝を曲げると。
心地良い感触がして、膝の上に小さな体が乗りかかっていた。
「ふふ♪」
いつもより少し高くなった、上機嫌な声。
柔らかな背中が胸元に押し当てられ口元で、彼女の纏められた髪の尻尾が揺れた。
「あ、アヌビス?」
彼女らしくも無い行動に戸惑い、声をかける。
「……今日は……」
振り返らず、彼女は答えた。
「今日はもう思いっきり、甘えちゃうんです。」
そう言って恥ずかしそうに、彼女が両手で頬を口元を覆った。
(続く……はず)