【友達≦】幼馴染み萌えスレ23章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ23章【<恋人】 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
11/12/11 22:27:05.98 fSn3x5SQ
おしまいです、失礼しました

251:名無しさん@ピンキー
11/12/12 01:32:10.93 OJwKh42K
                   ,ィ⊃  , -- 、
          ,r─-、      ,. ' /   ,/     }
         {     ヽ  / ∠ 、___/    |
         ヽ.      V-─- 、  , ',_ヽ /  ,'
           ヽ  ヾ、  ',ニ、 ヽ_/ rュ、 ゙、 /
           \  l  トこ,!   {`-'}  Y
             ヽj   'ー'' ⊆) '⌒`  !
               l     ヘ‐--‐ケ   }
               ヽ.     ゙<‐y′   /
              __,.ゝ、_  ~  ___,ノ ,-、
           /  ̄ ¨丶ヾ`ーs一'´__ ¨ ´ ̄`ヽ、
          /       ` 〃 '´        ヽ
         ,′        / l!            ;
          |  j       |D|!                !
         !  /      |S|!.        、/   |
         l  ! :2:.     └ '      .:c::   !    |
            l//"                "    }    !
 ,ィー─--- 、//l                ,′  !
〃  ,〉ー‐ァ'´/ l |                  イ   .'
.  /Y/ 〃勺 l |                l   i
  {__,{ヽ/  ,/ │ !                  |   |
.  弋j/   /   l:│                 |   |
.        /    }│                !    |
      /   / :|                  ヘ  !

252:名無しさん@ピンキー
11/12/12 07:23:02.81 nOWJvrAf
>>250
GJ
可愛いなペロペロ

253: ◆6x17cueegc
11/12/13 02:16:30.33 FEfTJZXM
てすと

254: ◆6x17cueegc
11/12/13 02:17:33.29 FEfTJZXM
こんにちわこんばんわおはようございます
いつぞやの続きを書いてきたので投下します

エロあり、グロその他特殊性癖は多分大丈夫(なし)だと思われます

ではどうぞ

255:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:21:12.60 FEfTJZXM
 4限目終了を知らせるチャイムが鳴ると、先生は大袈裟に溜息を吐いた。
「では今日はここまで。次回、頑張って進むから予習と言わずとも教科書には一通り目を通しておくように」
 どうも予定通りに進まなかったようだ。私は数学の教科書とノートをひとまとめにして机に押し込み、鞄から
ケータイを取り出し電源を入れる。授業中に万が一振動させようものなら即没収の憂き目に遭ってしまうので、
間違いを起こしたくないのであればこれが一番確実なのだ。
「悠希、ケータイ早過ぎでしょ」
 弁当の包みを持ったオカちゃんが、チャイムが鳴ると同時に昼練に駆けだしていった隣の子の席へ収まる。
「やって、ほら、メールとか見なアカンし」
「彼氏ってそんなにメールとかマメに返す人なの?」
 私は言葉に詰まった。言われてみれば拓也はそういうことをするキャラではない。
「まあ、毎日毎日よく飽きずにノロけられるもんだな、とは思うけどね」
「別にノロけたりなんかしてへんやん。ホンマのことを言うてるだけで」
 両方のほっぺたをつかまれてぐにーっとされる。
「いひゃい、いひゃい」
「それのどこがノロけじゃないのよ」
「ひゃ、ひゃって」
「それにしてもよく伸びるわね―っと」
 メールが作成途中だった私の携帯に着信がある。
「ほら、旦那からじゃないの?」
「旦那言いな。……旦那からや」
 お前が言うのか、という綺麗な裏手ツッコミをこれまた華麗にかわしつつ、私は携帯の画面に集中する。

<今日は、前から言ってたけど大学の飲み会に誘われてるので帰りが遅くなります。忘れてたら悪いと思ったの
 で、念の為>

 忘れるものか。3年生から所属するゼミが決まって、その先輩ゼミ生達から飲み会の誘いを受けている、と何度
も聞いていたのだから。

<覚えてるよ。何時頃に帰ってくるの?>
<さあ? ただ遅くなるのは間違いないよ。だから部屋に上がり込んで待つのは無しね>

 私のしようとしていることはすっかりお見通しだ。内心歯噛みしながら続きのやりとりをする。

<分かった。でも帰ってきたら教えてね>
<もしかしたら今日は帰ってこないよ? 二次会三次会も向こうでやるし、電車がなくなったら下宿してる知り
 合いに泊めてもらうつもりだから>

 拓也は家から1時間半もかけて大学に通っている。夜10時に向こうを発車する電車に乗っていないと、この辺
りまで戻ってこれないらしい。確かに、飲み会なら終電には乗れないかもしれない。

<ならそれならそれでいいから連絡して。メールでかまわないから>
<分かった>

 一通りのやりとりを終えると思わず溜息が漏れた。オカちゃんがそれを見計らって私の机の上に自分の弁当の
包みを広げる。
「一生懸命だね」
「当たり前やん。彼女やで、ウチ」
「……あのさ、前から聞こうか迷ってたんだけど」
「何ぃな。言うてや」
「進展ってなんかしてるの? やたら焦ってるっていうか、がっついてない?」
 痛いところを突かれた。自然と涙が溢れてくる。
「え? えっ、ちょっ……しっかりして!?」
 突如泣きだした私に、オカちゃんが動揺して大声を挙げるものだから教室に残っていたみんなの視線が私に集
まる。なんだか自分が情けなくなってきて、後から後から涙が溢れてくる。
「ち、が……っ、ウチ、う、かって……に、な、みだ、うあー……―」
 途中で我慢を諦めて、止められないならいっそのこと全部出してしまえ、と衝動を全開にすると自然と声も出
てきた。周囲をますます驚かせたのは言うまでもない。

256:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:21:51.39 FEfTJZXM
 放課後、未だに少し渋い顔をしているオカちゃんに、ところで相談なんだけど、と身を乗り出す。
「……お昼ご飯を食べられなかったからお腹空いてるとか?」
「それはウチやなくてオカちゃんやろ?」
「嫌みで言ってるんだけど」
「いややなあ、分かってるってそれくらい」
 満面の笑みで返すとまたほっぺたをむにーっとされた。
「らから、いひゃいんひゃって」
「アンタが急に号泣するもんだから私が泣かせたみたいな誤解が広まっちゃって、先生に呼び出されてたんだ
 けど! ……っと」
「いひゃっ! 誤解は解けたからええやんか」
「よくない。……で、相談ってまた彼氏さんのこと?」
 不機嫌に振る舞っていてもこちらの言い分を覚えていてくれるオカちゃんはいい人だと思う。
「うん。……あのな、全然進展がないねん」
「進展って、告白して付き合い始めて3ヶ月くらいだっけ?」
「そんなもんやな。で、付き合うた日ぃに、その……」
 私が言い淀むとオカちゃんはすかさず、言わなくてもなんとなく分かるから、と先を促す。
「……その、それ以来な?」
「……あー、それ以来ね、うん」
「めっちゃ不安になるやん、そういうん。好きなわけやないけど、ほら」
「私はそういう経験ないけど、気持ちは分かる」
 神妙な顔をしてお互いの顔を見つめ合う。最初にエッチしてからというもの、私と拓也はお互いを変に意識し
てしまった。返って疎遠になってしまった感さえある。私としてはもっと仲良くなりたいというだけだったの
に。
「メールとか電話とか、やりとりしてるんでしょ?」
「家が道路を挟んだ向かいにあるんやで? 前進しとるようやけど、実際は後退しとるやんか」
「言われてみれば確かに」
「あーあ、ゲームやってアホな話して、それでよかったんやけどなー」
 溜息と一緒に吐き出すと、オカちゃんは不思議そうに私の顔を覗き込む。
「それなら、なんで付き合いたいって言い始めたの?」
「好きやからに決まってるやん」
「でも物心ついた頃にはもう好きだったんでしょ? 何で今更彼氏彼女になりたいなんて思ったの?」
「えーっと……ほら、好きやったら付き合いたいっていうのが自然っていうか、なんかそういうアレやから」
 曖昧な返事をしながら、自分はこの質問への確実な返答が出来ないことに気がつく。私はどうして拓也と付き
合いたいと思ったのだろう? 遊んだり、バカみたいな話をして楽しいだけなら別に彼氏彼女になる必要なんて
ないのだ。彼氏彼女になる前からそんなことはしていたのだから。
「……なんかそういうアレ、ねえ?」
 オカちゃんもどうも納得がいかない、という顔をしていた。

257:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:22:55.43 FEfTJZXM
 * * * * * *

 手元の紙コップにあった、何杯目かのチューハイを飲み干すと辺りに人はいなくなった。もうみんな随分飲ん
で眠くなってしまったらしい。
 地元出身のゼミ生から提供されたバレーボールコートほどの宴会会場を見渡すと、まだ活動を続けている集落
がいくつかあった。1人で缶チューハイを呷っていても仕方がないので隣の集落へ出かけることにした。時間は
もう夜明け前といった時間だったが、宴会慣れしているらしいゼミの先輩方はまだ部屋のあちらこちらで会話を
楽しんでいた。
「……で、どうしようかな」
「そりゃ、身体を伸ばしてぐっすり眠るのが一番いいよ。―どうしたの?」
「いえ、周りがみんな潰れちゃって」
 さっきまで自分が陣取っていた辺りへ視線を向ける。4人ほどが潰れて眠りこけていた。それを言い訳に女性2
人で話をしているところにお邪魔する。
「おお、寂しいならおいでおいで。まずは1杯いこうか」
「いただきます」
 手の中の紙コップに温んで泡ばかりのビールが注がれる。それを一気に飲み干すと、ビールを注いでくれたの
とは違う先輩がこちらを値踏みするようにじろじろ見ていた。肩より長い黒髪でかなりの小柄、美人というより
可愛い感じの人だ。
「何か顔についてますか?」
「ううん。……ただこんな時間なのに元気だなって」
「ごめんごめん、この子男嫌いでさー」
 俺と長髪の先輩が同時に発言者へ振り向く。茶髪で色々軽そうな人だ。
「ちょっと! ……ごめんなさい」
「別に本当のことじゃんよ。それにもしこの子がアンタに言い寄ってきたら可哀想でしょ?」
 俺に悪い、とたしなめた長髪先輩に対してあっけらかんとして茶髪先輩が返す。
「あ、それはねーッス。俺、一応彼女いますんで」
「あっそうなんだ。どんな子?」
「どうして知り合ったの?」
「親戚? 歳の差は?」
 女子の恋愛話に対する食いつき具合はヤバい。しかも相当酒と眠気が回って、その上時計の短針まで1/3ほど
回っているのだから、両先輩の目の色が変わるのは当然だった。

258:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:24:26.13 FEfTJZXM
 根掘り葉掘り訊かれて洗いざらい白状させられる。どうして付き合うようになったのか、の辺りを特に詳しく
聞き返されてうんざりだ。
「―というわけでして」
「つまり年下の従姉妹の、何も知らない純真でいたいけな子をカドワかしてテゴメにしちゃったと」
「手籠めって……そこまでは言ってないッスよ」
「へぇ~?」
 にやにやと茶髪先輩がこちらを注視してくる。ここで視線を逸らしたらゼミに参加してからもそういうネタで
弄られるに違いない。負けじと見返す。
「厳密には犯罪だよ?」
「だからシてないですって」
「でもシたんでしょ?」
 敵は茶髪先輩一人だと思っていたら、横合いから長髪先輩まで突っ込んできた。思わずうろたえてしまう。
「うっ、ぐ……まあ、それはその」
「ほらー」
 茶髪先輩が腹を抱えて笑っている。それを横目に長髪先輩が手元の紙コップを空にした。すかさず未開封のチ
ューハイを振って見せる。
「私はいいよ。そんなの弱過ぎるから」
 どこから取り出したのか、ウイスキーの瓶を手元に傾ける。中身はもう殆ど空だった。まさかとは思うが、1
人でそこまで飲んでしまったのだろうか。俺が若干引いているのが伝わったのか、長髪先輩はそっぽを向いてし
まう。
「あーあ、もう殆ど飲み干してるじゃない。アンタ、肝臓何で出来てるのよ。疲れが抜けないってのもあんまり
 ガバガバ飲むからじゃないの?」
「身体は身体、肝臓は肝臓。ちゃんと考えて飲んでます。……これは自分で持ってきたし、飲みを強要してるわ
 けじゃないし、誰にも迷惑はかけてないんだからいいじゃない」
「顔色一つ変えずにそんなのをぐいぐい飲んでる姿を見せられる立場になってモノを言いなさいよ。見てるこっ
 ちが気持ち悪くなるじゃない。ねぇ?」
「いや、俺はどっちかというと……」
 俺のウイスキーへ向けた視線を読みとった茶髪先輩が微妙な顔をする。
「キミ、顔真っ赤だよ?」
「俺はすぐに赤くなってしまうほうなんで。見た目ほど酔ってないッス」
「ならいいけどさ……この子、ワクだからね? 間違ってもこの子の飲みに付き合おうなんて考えちゃダメだか
 らね? あんまり飲み過ぎて彼氏にまで見放されてるんだから」
 長髪先輩は男嫌いという話だったが、彼氏はしっかりいるらしい。かなり可愛い容姿をしているから周囲の男
が放っておかなかったのだろう。
「失礼なことを言わないで。見放されたりしてない……多分」
「飲み会に2本もウイスキー持ち込んでる娘が見放されないワケないじゃない。控えないと彼氏に嫌われちゃう
 よ?」
「あの人の前では控えてるもん」
 言われて長髪先輩がこれまたどこからかもう1本取り出した。まさか予備があったとは。
「だからこういうところで思いっきり飲むの。―じゃあ、一緒に飲みましょう?」

259:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:25:53.49 FEfTJZXM
 * * * * * *

 目が覚めると外は夕暮れの気配を見せていた。両手で顔を拭うようにして頭をシャキっとさせる。
 そうだ、確か9時過ぎに家に辿り着いて、それでシャワーを浴びようと思いつつも目に入ったベッドに吸い込
まれてしまったのだ。
 昨夜は結局、夜が明けるまで飲みに付き合わされた。ほとんど2人で1本空けるなんて無茶にも程があったが、
長髪先輩(結局名前は訊き忘れた)のピッチはいつまで経っても変わらず、結局瓶に1/3を残してこっちがギブ
アップさせられてしまった。半ば意識が薄れてきた頃に長髪先輩が言っていた『チューハイなんてどれだけ飲ん
でもただのチェイサー』という発言だけは忘れたくても忘れられないだろう。
 話は飛ぶが、高校時代、部活の遠征帰りに疲労困憊で辿り着いた玄関で倒れたまま眠ってしまったことがあっ
た。目が覚めたのは翌日の昼前だった。そして枕元には一通の置き手紙。
『バッグの中に1日放置した汗まみれの洗濯物は自分で洗うように byお母さん』
 以前にそんなことがあったので自室に戻るところまではなんとかしたのだった。今回はその後がどうにもなら
なかったが、とりあえずベッドで眠れたのはよかった。もし硬く冷たい玄関口や廊下で眠ってしまっていたら、
今の時期、風邪を引いていただろう。
 しかし、何かを忘れている気がする。軋む身体を持ち上げてタンスの中の着替えを手に取り、風呂場へ向か
う。身体中が気持ち悪かった。恐らく汗が原因の不快感だとは思うが、ただの寝汗のそれとは違ったベトつき
だ。
 そうだ、何かを忘れている。裸になってシャワーを使い、頭の天辺からやや熱めに設定したお湯を振りかけ
る。頭皮の汚れを流し終えたのか、どろりとした水が足下へ流れていくのを感じた。そのままお湯を浴び続ける
と全身すっかりさっぱりとした。
 なんだったか、と昨日の出来事を一つ一つ巻き戻していく。シャワーを浴びただけでは寒い。シャワーで熱い
湯を浴び続けるか、それともこのままお湯を溜めて風呂に入ろうか。
 ……風呂に入ってゆっくりしよう。そうすればこの思い出せない何かに文字通り腰を据えて取り組める。きっ
と思い出せるだろう。シャワーをカランに切り替えてバスタブへ湯を張り始める。どうどうと大きな音を立てな
がらバスタブに湯が張られていく。溜めながら湯船に身体を沈める。下半身が徐々に沈むのが心地よく、同時に
もどかしい。背中の縁に首を預けて天井を見上げ目を瞑る。湯を張る音が外からの音を防ぎ、心を静かに落ち着
けてくれる。
 それにしても、だ。思い出せないのは一体何のことだったか。昨日は三次会で延々恋バナをさせられて、聞か
されて―男嫌いの長髪先輩は彼氏にどれだけ惚れているのかだとか、茶髪先輩の姉が恋愛結婚に至り、来年年
明けに結婚式を挙げる話だとか―、そして飲まされた。二次会はカラオケでブルーハーツの熱唱。今でも少し
声がいがらっぽい。一次会は大学近くの居酒屋で、講義は夕方のモノに出席して……なんで大した話もしていな
いくせに毎回出席を取るんだ、あの教授は。
 昼休みには食堂で唐揚げ丼を食おうか、それともAセットにしようか悩んで、飲み会に出す会費のことも考え
てお得なAセットにしたんだった。で、食堂に行く前に悠希にメールして……
 ひらめきを得たのと風呂場に悠希が乱入してきたのは同時だった。

260:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:27:10.58 FEfTJZXM
 ガラス戸が砕けるのではないかという勢いで扉を開いた悠希はそのままこちらへ歩み寄り、仁王立ちでこちら
を睨みつける。
「…………」
「……た、ただいま?」
 ひく、と彼女の左頬が痙攣したかと思うと、地獄の底から絞り出したような声でおかえりと一言発し、そのま
ままた押し黙る。蛇口がお湯を吐き出すどうどうという音だけが響く。
「え、えっと、連絡……そう、連絡は風呂出たらするつもりだったんだよ」
 嘘ではない。連絡を忘れていたのを今思い出したのだから、風呂上がりに連絡していたのだろう。
「ウチ、いつ連絡してほしいて言うた?」
「帰ってきたらって言ってました」
「じゃあ今帰ってきたんやな?」
「……えーと、朝帰ってきて今まで寝てました。爆睡でした」
「つまりウチのケータイに、朝に着信がないとおかしいんやな? ……無いで? なんで?」
「速攻寝たかったんでそれどころじゃなかったです。てかぶっちゃけ忘れてました。ごめんなさ痛てッ!」
 悠希は足下の洗面器を蹴り飛ばして器用に俺の顔へぶつけてきた。
「……どうせ朝方まで飲んどってベロベロなって帰ってきたんやろ。もうええわ。今ので手打ちにしたる」
 言うが早いか、上に着ていた薄手の七分丈のシャツを脱ぎ始めた。
「アンタ帰ってくるん待っててウチも寝不足やねん。お風呂入らせて」
 偶然にも2人でちょうどいいくらいにお湯が溜まっていた。

261:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:27:55.15 FEfTJZXM
 お互い向き合って体育座りになり、広めに作られている湯船に身体を沈める。
 一緒に風呂に入ったのはいつ以来だったか。3つ歳が離れていたから、小学生の頃は面倒見てやれと一緒に入
らされていた覚えがある。その頃に比べれば、当たり前だがこの湯船は狭い。
「……こっち見ぃな」
 ジロジロ見るのも悪いと思い間近の壁へ視線を落としていると、彼女が不機嫌そうにそう言った。
「ウチら、カレカノやろ? もう、その、シ……て、もうたんやし、今更やんか」
 恥ずかしそうに言っているのを横目に見ながら、そういうモノでもないだろう、と返す。
「何をシても恥ずかしいことは恥ずかしいだろ。お前だって恥ずかしいから見せないように足を折り曲げてるん
 じゃないの?」
「それはアンタがこうやって入ってるからやんか。アンタのほうにウチの足、伸ばす隙間があれへん」
「なら胡座で入ったほうがいいか?」
「うん」
 思わぬ即答にこちらが面食らった。てっきり胡座なんて丸見えになるんだからそのまま閉じてろ、と怒鳴られ
ると思っていたのだ。
「どないしたん? 早よしてや」
 自分から言い出したことを今更止めるわけにいかず、足を広げてそこを晒す。
「……勃ってる?」
 それを隠すための体育座りだったのだが、バレてしまっては仕方がない。
「……勃ってて悪いか」
「ううん全然」
 凍り付いたように静かになる。天井から落ちてきた滴が湯船に落ちて小さく音を立てた。
「なぁ」
「んだよ」
「触ってええ?」
「え?」
「触るで」
 言うが早いか彼女は無遠慮にそこへ指を走らせた。爪の鋭さを感じて背筋に悪寒が走り、力が抜けていく。
「う、わ……えっ? ええっ!?」
 彼女は自分のしでかしたことを理解していないらしい。男の防御本能なんて分からなくて当たり前か。なにせ
この間、初めてシたときもそんなに触らせなかった記憶がある。触られるとすぐに果てそうだったからというの
もあったが、力任せにこすられるのが容易に想像できたからだ。
「た、たくやぁ……どないしよう……」
 たったこれだけのことで彼女は泣きそうになっていた。何も泣かなくてもいいのに。
「ちょっと爪で引っ掻いただろ? それでびっくり、した、だけ……!」
 臍の下に力を込めるようにして萎れてきていた分身を再度勃ちあがらせる。彼女はそれを見て、壊れたおもち
ゃが修理されて戻ってきた子供の顔をしていた。俺のはお前のおもちゃか。
「……なんや、拓也がビビりやっただけか。安心したわ」
「ビビりってお前……今の場合、大体の男は俺の味方してくれるっつーの」
「男の人のってそんなんなん?」
「そんなんだと思うぞ」
「ふぅん……ゴメンな、痛くしてもうて」
 悠希はざば、と身体をこちらに寄せ、顔を近づけて俺のを弄る。今度はソフトタッチ過ぎてくすぐったいだけ
だったが、この場合は誰に触られているのかが重要だった。全力で興奮している。
「熱ぅ……ホンマに熱いなぁ。こんなん、どうなったらこんなんなるんやろ? 人体の不思議やな」
「俺から言わせれば、女の身体のほうが不思議だって、のっ……!」
 快感のせいで背筋に震えが急に来た。息を呑んで耐えたが遅かった。悠希が得意満面といった表情をこちらへ
向ける。
「拓也、ウチの手ぇで気持ちよぉなってるんや?」
「……湯冷めしてるだけだよ」
 8割は強がりの発言だった。残りの2割は本当に浴室の室温が下がってきていたのが理由である。お湯の追加投
入を頭の隅で考えながら、俺も彼女の身体を弄ることに決めた。何の前触れもなく触られて、こっちだけ満足さ
せられて終わりました、というのはちょっと格好がつかない。
 彼女を抱きしめようと両腕を伸ばすと、意外なことに向こうのほうからこちらへ飛び込んできた。まだまだ飽
きずに触り続けると思っていたのだが。
「わーい抱っこー」
「子供かお前は」
「子供やったらアカンの? なら大人の抱っこしてや」
「……意味分かってて言ってるのか?」
「こんだけしてまだ違う意味があるんやったら教えてほしいわ」
 驚きの目で彼女の顔を覗き込むと強い意志を持った瞳に見返された。

262:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:29:54.99 FEfTJZXM
「お前、どうしたんだよ急に」
 そんなことはあの夏の日以来全くしていない。手を繋いでデートだとか、毎日メールで会話するだとか、そう
いうことは多くしてきたけれど、キス以上のあれこれは全くしていなかった。俺は強引にするような真似は避け
たかったし、彼女からも言い出してこなかったのでそうなっただけの話ではあるが。
「ちょっと怒ってるだけや。拓也、あの日ぃ以来なんもしてけぇへんねんもん」
「して、よかったのか?」
「そら強引なんはイヤやで? でも一緒の部屋でゲームやって遊んだりとかまでせぇへんようになったやんか。
 ウチは拓也とそういう風に一緒に居るんが一番好きやねん」
 言われてみれば、そういう風に遊んで、馬鹿な話をして、といった時間の使い方をしなくなった気がする。彼
女だからそれなりの待遇で扱わなければならないのだ、と気張っていた。
「そういうんの中で、その……エッチなこととか、求めてくれるんやったらまんざらでもないんやで?」
 私自身はどうでもいいけれど、拓也が欲しいと言ってくれるならそれはそれでうれしい、とも言う。こんな状
況でそんなことを言ってどんな目に遭うのか分かっているのか?
 ……いや、分かっているから言っているのだろう。とっとと腹を括って私を襲いなさい、と言っているのだ。
直接言い出す度胸がないだけで。
「拓也」
「なんだよ」
「ウチな、もう一回アンタと―」
「ヤろっか、って?」
「―そういう味気ない言いかたは嫌いや」
「我侭言うな。それに大人の抱っこしてくれ、なんて言った奴に今を非難する権利はないだろ?」
 ここにきてやっと、悠希が苦笑気味ではあるが笑った。
「そういうんヤるんやったら、なんかこう、ええ雰囲気作ってヤるもんやと思っとったんやけどなぁ……」
「そういうのがいいんだったら俺なんか選ぶな。もっと王子様みたいな奴選んでろ」
「イヤや、拓也がええ。拓也のそういうとこも全部合わせて好きになったんやから我慢する」
 にへ、とだらしなく笑った悠希の額へ口づけを落とす。開始の合図だった。

263:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:31:13.54 FEfTJZXM
 悠希は俺の身体を抱きすくめると、まずキスを求めた。しかも舌を伸ばしてだ。俺にもそれを求めるので従
う。
「ひゃ……く、ふぅん……」
 舌を絡めると、彼女は更に密着を求めて首へ両腕を引っかける。浮力があるとはいえ首で支えるのも辛いので
こちらも彼女の尻を抱いて持ち上げる。
「あ、んぅ……ひゃく、やぁ……」
 彼女は目を瞑ったまま貪るつもりのようだ。馬鹿正直に彼女の顔を見つめていても仕方がないのでこちらもそ
れに倣う。否応なく彼女の刺激だけを感じるようになった。
「ウチ、のん……ひぇんぶ……ひゃくやのん、に、してぇ……」
 こいつ、意味が分かっててこんなことを言っているのだろうか。行動や発言がエロマンガのそれだ。
 彼女の身体を支える腕を少しずらし、手指を窄まりへ伸ばして撫でる。悠希は一瞬舌の動きを止めた。身体を
硬くして次に何をされるのかと身構えている。
「―ん、ぱぁ……どうした?」
「やって、そこ、お尻……やで?」
「そうだけど?」
 言いながら、閉じられた門へ指を突っ込む素振りを見せる。彼女は真っ赤になって、本当にそんなところです
るのか、と素っ頓狂な声を上げた。
「お前には内緒にしてたけど、俺、そういう趣味があったんだよ。こないだ、前は慣らしたからさ、今度は後ろ
 の―」
「う、嘘や! だって拓也の部屋のエロ本にはそんなんあんまり……!」
 不穏な単語の並びに手の動きが止まる。確かに俺は本当はそっちの趣味はない。これはただの悪戯みたいなも
のだ。そして確かに、部屋にあるエロ本の類もそういう趣味を反映してそっちのジャンルは少ない。
「……悠希?」
「あ、んまり、揃ってへんかった、から! べ、別に男がそんなん持つんはおかしないやん!? ウチは怒った
 りせえへんで!?」
「でもお前、中身全部確認したんだよな? でないと、そんなのあんまり持ってなかった、なんて言えないもん
 な?」
 悠希は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。もう湯あたりしてしまったのだろうか。
「そういうこと、好きじゃないんじゃなかったっけ? それなのに全部読んだんだ?」
 今持っているのはせいぜい10冊程度だが、それを端から端までちゃんと読んだらしい。そういうことは好きで
はないと言っていた彼女が、である。
「……読んだらアカンの?」
「さっきそういうことはどうこうって言ってたじゃないか」
「どうでもええって言うただけや。……嫌いや、ない」
「なら好きなんだ」
「ちゃ、違うわ」
「シたことない?」
 後ろから更に指を伸ばして襞に指を引っかける。
「ここ、自分で捏ねたりこすったり、シたことないんだ?」
 我ながら嫌らしい訊きかたをするものだと思う。ないと答えてもあると答えても、彼女のプライドを散々にか
き回すことになるだろうから。
「そん、なん、アンタに関係ないやんか」
 悠希が俯いて吐き捨てる。この辺りが潮時だろうか。
「でも、どうシたら気持ちいいのかくらいは訊いてもいいだろ?」
 彼女は一旦こちらを仰ぎ見るようにして視線を合わせると、こくりと頷いた。

264:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:32:50.15 FEfTJZXM
 風呂場に途切れ途切れの吐息が響く。悠希のくせに艶めかしい声を挙げるなんて。
「そこ、な……ゆび、で、ほじる、みたいにしてぇな」
 彼女は恥ずかしいのかそれとも感じてくれているのか、頬をますます上気させて瞳を潤ませていた。そして手
にはしっかり俺の分身を握っている。
「たく、や、は、どうしてほしいん?」
「さっきみたいに、触ってみてくれないか?」
「……ん」
 彼女もゆるゆると手を上下させる。亀頭を指で包み込むようにしてくすぐる。力加減のコツをつかんできたら
しく手指の動きは段々活発になっていった。
 こちらも負けてはいられない。以前に触ったときのことを思い出しながら彼女のツボを探る。いきなりクリト
リスに手を出すのは痛いから止めてほしい、とだけは言われたので、そこは避けて内部を目指す。
「たく、気持ちええんや? 顔、歪ぁっ、ん、でんでぇ……?」
「おま……え、も、そうだろうが……」
 コトは我慢大会の様相を示してきた。お互いがお互いをゆっくりじんわり嬲りにかかっている。但しこのまま
では分が悪いのはこちらのほうだろう。さっき触られていたときの『ダメージ』が抜けきらないうちに再開した
のだから当たり前だ。
「あ、すごいわぁ、それぇ……」
 筋に沿って二指を走らせながら、その間を広げていく。入口を掻き分けて押し広げながらゆっくり往復させ
る。風呂のお湯が滑りを良くしてくれているお陰か、すぐにでも指をねじ込めそうだ。
「それ、な? 気持ちええ、ねん。もっとしてぇ……?」
 彼女の手が止まってきた。本当に没入し始めているらしい。このまま押し切れば、我慢大会は俺の勝ちだ。開
いた入口に空いた指をあてがって押し込んだ。
「ぅ、あっ……あ、はぁ、あっ……」
 人差し指と薬指で広げた穴に中指を前後させながら挿れる。数度出し入れしながら慣らして、人差し指も突っ
込みにかかる。
「2本、も? 太すぎるってぇ……」
「お前が握ってるのよりは細い、はずだけど」
 言われて気がついたのか、止まりかけていた手が再び動き出す。それに応えるため、挿入した指を深く反らせ
るようにして奥をつつき、指を折り曲げて臍の裏辺りを刺激しながら入口まで戻る。また反るくらいに指に力を
込めて送り込む。
「え、ぐ、んなぁ……」
「痛いか?」
 黙って首を振る。
「ちゃう、ねん。ナカ、ぴりぴりして、いきなり過ぎてぇ……」
 これも刺激が強すぎるらしい。だがこちらは言われた通りにしこりには触れずにいたのだ。これ以上言うこと
を聞いてやるのはちょっとサービス過剰だ。
「たぁ……く、ぅうっ!」
 若干睨まれはしたが言うことを聞いてくれないことに腹を立てている様子はない。ここが勝負どころか、と風
呂の側面に彼女の背中を預けさせてこちらは両腕とも解放する。今までは胡座の上に乗せていたのもあって、左
腕だけは彼女の腰を支えていたのだった。

265:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:34:14.17 FEfTJZXM
 彼女の内側を掻き回しながら左手は胸へ伸ばす。先端を指で挟んで潰すように力を入れ、左右に捻りを入れ
る。
「むねもぉ……?」
「触られるの、イヤか?」
「……好き、や。自分でスるときも触るし」
「へぇ、スるんだ」
「……シたらアカンの?」
「いや? 俺もスるし。ただ、そういうの、スる人だと思ってなかったらびっくりしただけ」
 これは本心だ。そういうことは苦手なのだと思いこんでいた。何せコイツときたら自暴自棄にならないと想い
人(恥ずかしながら俺のことである)に言い寄ることさえ出来なかったような奴だったのだから。
「ウチ、そこまでウブやと思われとったんや」
「てか、妹だと思ってたし。……今は違うぞ?」
 今はもうすっかり彼女だ。でなければこんなことをシたいだなんて思うものか。俺にそっち方面の趣味はな
い。
「妹でもええんやで? 拓也がその気になってくれるんが一番ええ」
「……ならさ、俺のエロ本見たんなら、俺の好みの女の子になってくれたりなんかしちゃったりするのかよ?」
 上体を乗り出して彼女に被いかぶさる。彼女の身体に触れさせた指はさっきのままだ。角度が変わって刺激が
走ったのだろう、彼女の喉の奥が小さく鳴った。
「……一番多かったんは幼馴染モノやったやんか」
「……だっけ?」
 巨乳で控えめな性格の女の子を押し倒して後ろから色々柔らかい部分を鷲掴みにしつつ襲いかかるようなのを
中心に揃えていたと思っていたが違ったのか。
「そうやった。……嘘と違うで?」
 不安そうにこちらを見てきた彼女の視線で察する。
「下らない嘘吐く奴は嫌いだぞ? んな顔しなくても、それはそれ、これはこれ、だ」
 何か言いかけた悠希の唇を塞いで、指をまた動かし始める。嘘の言い訳を長々と聞いてやれるほどこちらも余
裕があるわけではない。こうした会話を楽しむのは後回しで、今は本能を満たすことにした。

266:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:34:55.59 FEfTJZXM
「ん、ぐっ、ぷふぁっ……」
 急に口を塞がれて息の抜け場がなくなったらしく最初のうちは拒否するような素振りを見せていたが、そう
した抵抗も次第になくなっていく。心持ち上から唾液を流し込みつつ舌で蹂躙していく。
「あ、くぅっ……!」
 無論、指で責めるのも忘れない。上も下も俺のことしか考えられなくしてやる、とやや強引に責める。触るの
は控えていた肉芽にも親指で触れ、軽く圧す。
 悠希は全身に力を入れて耐え、喉の奥で悲鳴を挙げる。握ったままだった俺自身を握り潰すようなことはなか
ったが、指そのものは硬直しているのが伝わってきた。様子がおかしいと一旦離れる。
「……悠希?」
「あ、アホ、さわ、たらアカンで、って言うたのにぃ……」
 息が荒い。目尻からついと滴が滑っていった。
「お前、もしかして、もう……」
「アホ、言いな。こんだけで、イったりするわけない、やんか」
「……こんだけでイったんだろ?」
 だから触るなと言ったのだろう。少し弄るだけで簡単に振り切ってしまうツボだったらしい。
「それだけ感じてるなら、もう準備が出来てるな? 俺も結構限界なんだ」
「……イってへんもん」
「ならそれでいいけど」
 頑なに事実を認めない悠希を抱き直して後ろを向かせる。俺はその後ろ、浴槽の縁に腰掛けて、持ち上げた彼
女を膝の上に座らせる。
「お前のせいで、俺もこんなになってんだ」
 勃起が彼女の股下をかすめて顔を見せる。不意に跳ねたそれが彼女の亀裂を叩いた。
「もう、今すぐ入りたい」
「……後ろからとか変態なんやで、拓也?」
 悠希はその変態行為を認めてくれるつもりらしい。湯船の底に足をつけて中腰になり僅かに腰を浮かせると、
片手で俺を掴み、片手で秘裂を押し広げ、収まるように腰を降ろしていく。
「ふ、ぁあっ……!」
 風呂のお湯とは違う温かい液体で満たされていた。半ばまで埋まったところで我慢が出来なくなった。悠希の
身体を抱きすくめて立ち上がる。持ち上げて、押しつけて、突き入れる。
「あ、たくやぁ……立ったまま、やんか、こんなん」
「嫌か?」
「アンタ、が好き、なんやったら、ええよ」
 浴槽の向こう側の壁に手を突いて自分の身体を支えると、彼女はこちらを振り返る。セミロングの髪が首筋か
ら垂れて房になった。
「へんた、い、やけど、な?」
「変態変態、言う、なっ!」
 腰を突く。彼女の喉の奥で息が行き場を失って、鈍い音を響かせる。
「その、変態の、エロ本、全部読み漁ってたのは、誰、だよッ!」
「そんな、読み漁ってへん、よぉっ! ひあぁっ!」
 ちょっと引いて、押し込む。いや、叩き込むと言ったほうが正しいだろうか。腰を激しく前後させ何度も叩き
つけて身体をぶつける。彼女は崩れ落ちそうになりながら、必死で壁にしがみついていた。
 膣内はうねっていた。突っ込んでジッとしているだけで出してしまいそうな刺激だと思う。腰の動きで気を散
らしているのもあるだろう。動けば動くほど、力が湧いて出てくるように感じる。
「た、く……っ!」
 動きが激しすぎると言いたいのだろう。もし腕が滑ってしまったら上半身が折れ落ちてしまう。下に落ちる前
に壁で支えるため、後ろから押しつけているのだ。

267:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:36:12.60 FEfTJZXM
 突き込んだまま、一歩踏み込む。彼女の腕が浴槽から壁のタイルへ移って胸の辺りまでがぺったりとくっつい
た。
「ここ、ひゃっこいぃ……」
 タイルの予想外の冷たさに戸惑ったのか、彼女はこちらへ尻を突き出してタイルから離れる。押し返されてま
すます深く刺さる。この感触が気持ちいい。この圧力を長く愉しみたい。尻肉を掴んで身体を寄せる。
「ゆう、き、俺……ダメだわ」
「なん、なん? ……きゃっ、あっ!?」
 掴んで引き寄せて腰をただ押しつける。尻たぶが歪んで引き攣れるほど力を入れているのが痛いのか、彼女は
頭を揺すって耐えていた。
「おく、かたいんが、ゴリゴリしてる、やんかぁ……!」
「それが、いいん、だろ」
 ゆっくり引き抜いて、また強く突き入れる。ぶちゅ、ばちゅ、と粘液をかき混ぜる卑猥な音が浴室に響いた。
少しずつ、自分を悠希の内側にマーキングする。そんな馬鹿みたいな作業が堪らなく気持ちいい。
「アカン、そんなん、おく、アンタのんに、されてまう……っ!」
「ゆ、うき、そろそろ、俺、げんかい、で」
「な、ナカは、アカンで!? 出すんやったら、あぁっ!」
 腰の動きを徐々に早めていく。ばちゅばちゅと粘液と肌のぶつかる音が立ち、溢れた粘液が内腿を伝って湯船
に落ちていく。
「あっ、あっ、た、くっ! きい、てんの!?」
「聞こえてる、よっ!」
「ひぁっ……! ぜったい、アカン、からな!?」
「分かっ……、く、うっ!」
 筋の根元からせり上がってきた感触に悲鳴を上げてしまう。先端がピリピリして痛くなってきた。射精を押し
とどめようと腹筋に力を入れると、上体が折れ曲がって悠希に圧しかかる格好になる。
「ゆう……っく」
「アホ、やなぁ……」
 いつの間にか肘を壁に押しつけて身体を支えていた彼女は、その片腕を外して俺のほうへ伸ばした。
「そんな、いっしょけんめ、せんでも、いっぱい相手、したるのに」
 悠希は振り向いてなんとか見える俺の顔へそんな言葉を投げかける。ぷつ、と何かが切れる音が聞こえた。
「……なら、してもらうぞ」
「……へ?」
「俺が、そういう気分に、なったとき、絶対に、相手して、もらうからな……!」
 言うだけ言って彼女の返事は待たずピッチを上げる。片腕の支持だけではずり落ちてしまう、と彼女は再び両
肘で身体を支える。
「嫌がろうが、なんだろうが、お前は、悠希は俺のモノだってっ……!」
「ん、な、あぁっ、アホぉっ……!」
「う、あぁあぁぁっ……!」
 ついに限界を迎えて腰を引き抜く。上を向いた銃口から白濁が溢れて飛び散った。悠希の尻、背筋に落ちた体
液は相当な熱を持っていたのだろう、彼女は小さく、熱い、と呟いた。

268:まるで呼吸をするように ◆6x17cueegc
11/12/13 02:36:38.19 FEfTJZXM
 * * * * * *

「やっぱりお風呂入ってるんやから、身体の汚れは落とさなアカンよな」
 風呂の椅子に腰掛けて俺に背中を流させながら、悠希は一人で呟いて一人で納得していた。
「汚したとこはちゃんと洗ってや?」
「んなもんお湯で流せばすぐだろ……っと」
 言われた通り背中をボディソープで洗ってやったが俺の態度が不満だったらしい。肩越しに睨まれる。
「アンタ、あんな乱暴にしたくせに文句言う権利あると思てるん?」
「はいはいないですよありませんよ」
 手桶に汲んだお湯を頭から振りかける。む、と喉の奥で唸った彼女を尻目に、掌に新たなボディソープを取
る。
「だから、汚れたところは念入りに洗わせていただきますとも」
 揉み手をするように泡立てつつ悠希に一歩近づく。途端に彼女は身体を硬くして身構える。
「な、にを……ひゃっ……!」
 内腿に石鹸で塗れた両手を置いて捏ねながらそこを洗う。徐々に中心へ腕を動かしていく。
「また、スるん?」
「洗ってるだけだろ? 汚したところ洗えって言ったの誰だよ」
「そこは、汚なないし」
「シてる最中、とろとろ垂れてたけど」
 手桶が横殴りに飛んできた。頭に当たるといい音を立てて床を転がっていく。こめかみの辺りに当たったせい
でくらくらする。
「……そういや、な」
「なにぃな」
「昨日の飲み会で彼氏持ちの先輩が言ってたんだけどさ。私は彼氏と一緒に何がしているだけで嬉しい、だから
 付き合ってるんだ、って話しててさ」
「それ、ウチもおんなじや。拓也とゲームやってるんが一番オモロい」
「でな、俺、お前と彼氏彼女の関係になってちょっと気張りすぎたなと思うんだよ」
「で、コレかいな」
 彼女はうんざりといった表情で、コレ、と言いながら俺の手の甲を摘み上げる。痛みに顔をしかめながら、彼
女を抱きしめる。
「俺、今まではこういうことしたら悠希に嫌われるんじゃないかって思っててさ、だから色々我慢してたんだ。
 でもどうやらお前自身まんざらじゃないらしいし、どうせならこの機会に今までの我慢をいっぺんに解消させ
 てくれたらいいな……って、痛い痛いその指を離せ」
「何が解消やアホらしい。ウチかて今までアンタに避けられてた、思ってたんやで? こっちがサービスしてほ
 しいくらいや。……スんのやったら優しぃしてや?」
 最後に小さく付け足した言葉を聞き逃さなかった。アイサー、と元気に返事をすると肌を重ねる作業に全力を
尽くすことに決めた。

269: ◆6x17cueegc
11/12/13 02:38:50.09 FEfTJZXM
と以上です
コンセプトは会話。最中でも会話を多めで。多少ネタがかぶっても気にしない。泣かない。



前スレでは意図しなかったこととはいえあのようなかたちになり大変失礼致しました
今後は気をつけます

保管庫の関係で一つお願いがあるのですが、ここに書きこんでも大丈夫なのでしょうか?
現在01/02と登録されている話を、どうせなら1ページにまとめていただきたいのですが……
保管庫専スレのようなところがあるのでしょうか?

270:名無しさん@ピンキー
11/12/13 08:15:38.41 mMBSDhZN
>>269
GJ

271:名無しさん@ピンキー
11/12/13 11:17:53.92 PsvV7CUZ
>>269
関西弁ではやてを思い出したのは俺だけだよな、うん。

272:名無しさん@ピンキー
11/12/14 00:55:17.91 Miiw+pV5
(読んだら)いかんのか?

273:名無しさん@ピンキー
11/12/14 09:47:40.17 hQSRO9Kh
>>269
ねっとりとした描写がいいね GJ

保管庫には「連絡用スレッド」があるからそこで言った方が良いと思うよ
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

274:名無しさん@ピンキー
11/12/18 19:54:25.87 4qqLMyq7
黒髪ポニテで弓道少女の幼馴染みに再会って感じの読みたい。
再会系は甘えん坊かツンデレで武道娘って感じのあまりないんだよな

275:名無しさん@ピンキー
11/12/18 22:02:19.42 tcSL1/bS
しののののののさん……

276:名無しさん@ピンキー
11/12/18 22:28:29.31 gUIpNqCY
しのののさんは剣道部や

277:名無しさん@ピンキー
11/12/20 02:05:53.69 IJup84/y
しのののさん
最近久しぶりな幼馴染みの勝ち組
実の姉が問題だが

278:名無しさん@ピンキー
11/12/21 12:01:24.35 s/aypPcP
両想いなんだけどお互いに気づいてなくて
毎晩相手を思いながら自分を慰めてるという幼馴染を妄想

279:変態紳士 ◆AN26.8FkH6
11/12/21 13:13:22.11 zETVObbS
>>278
それやばい

280: 忍法帖【Lv=38,xxxPT】
11/12/21 21:04:54.48 yI8l2jDV
どの作もGJ

281:名無しさん@ピンキー
11/12/21 23:22:09.97 IY0YzJYz
>>274
甘えん坊やツンデレの対になる「武道娘キャラ」って、分かるようで分からんなー
と思ったので、一つ習作を書いてみた。

三レス掌編、テーマは>>274を踏襲したつもり。

282:27
11/12/21 23:25:00.54 IY0YzJYz

 毛糸の靴下で踏み込んだ道場の床は、予想以上に寒かった。師走のキンとした冷気が、
つま先を通じて膝にくる。以前、裸足や足袋で出入りしていた頃には、冷たいと感じこそすれ、
寒いと思ったことは無かったのだが。
 これが、7年という時間長さの現れなのか、と達司は心の中で独り言ちた。一見して、
この弓道場の風景は以前と全く変わらない。射場も、矢道も、的場も、彼の記憶の中に
あるそのままだ。しかし、そこに纏う空気は違った。屋根の無い矢渡りから吹き込む北風に、
門下生の頃に感じた凛とした厳しさは無かった。ただただ、険しかった。
 ここは既に、彼の場所では無い。そんな思いを胸に神棚へと一礼し、達司はそっと射場
の後ろへ回った。眼前では、彼の代わりに一人の少女が、射法八節に則って悠然と弓を
引いている。

「見事」
 タンッ、と最後の矢が的を射たところで、達司は心からの賛辞を送った。しかし、
射手はそれを梢のさざめきとばかりに関しない。たっぷり一呼吸の残心を決め、立礼して
射点を下がる。それからやおら、ぱっと後ろを振り向いて、娘は言った。
「もう、こっそり忍びこまないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」
 後ろに高く一纏めにしてもなお、背の中ほどまで垂れる柳髪を跳ねさせ、娘は楽しげに
息を弾ませる。その様は、道場と違って七年前とは似ても似つかなかったけれど─
この場で初めて、彼の気を緩ませる温かみを持っていた。

  *

「いつ戻ったんですか?」
「家に着いたのは十時過ぎ。成田には昨晩だけどな」
「あ、なるほど。前に伯母さんから昨日には戻るよって言われたんですけど、今朝来て
みたらまだって言われて。ちょっとびっくりしてたんです」
 慣れた手つきでストーブに火を入れながら、川上梓は言った。午前十一時三〇分。陽も
高く大分寒さが緩んできた頃合いではあったが、それでも息の白さが消えることは無い。
この季節、午前の稽古を終えた生徒は、着替えの前に談話室へ引き上げ、暖をとるのが
常らしい。

 達司もそれに倣って、しばし火にあたる事にした。弓道衣の梓に比べれば格段に温い
格好をしていたはずだけれど、節々に刺さった冷えを融かさずには居られなかった。
つい十年前まで、小雪の中を袴のままで自転車に跨っていた自分が信じられない。
 翻って正面を窺うと、梓は白筒袖の上からジャンパーを羽織り、中々温まらない火の前で
さぶさぶと両手を擦り合わせていた。その何処か小動物めいた仕草は、ほのかに昔の彼女
を彷彿とさせる。
 しかし、それ以外には、彼の袴に纏わりついていた十歳の女の子の面影は無かった。

「お袋には会社の日程表をそのまんま転送しちまったから、誤解したんだな。悪かったよ」
「いえ、まあ。その間、こうして道場貸切にさせてもらったわけですし」
「しかし、土曜の午前だってのに、参加者一名か。こりゃいよいよ危ないなあ」
「この寒さですから、仕方無いですよ。最近は、子供よりも中年のおばさんとか定年の
お爺さんとかのが多いんです」
「なるほど、シニアシフトね。まあ、きちんとしたモデルに沿ってやるならいいけども」

 ようやく色づいてきたストーブの炎筒を眺めながら、達司たちはしばし他愛のない世間話
を続けた。
 彼らは、厳密には七年ぶりの再会では無い。大学卒業後、就職までの間に達司が
一時帰郷した折、少し対面で話している。だが、それでも丸々三年は空いているし、
こうして袴姿を道場で見たのは、正真正銘七年ぶりだ。他に、何か言うことがあるだろう
という思いはあったが、具体的に何をとなると言葉に詰まった。
 七年前なら簡単だった。膝の上に乗せて話を聞き、飽きたら両手を持って空中ブランコ
でもしてやって……最後に、彼の射を見せてやれば、それで良かった。
 だが、今さらそんなことは出来ない。鎖骨程のところに旋毛が来る娘だから、ジャイアント
スイングぐらいは何とかなるかもしれない。だが、それで華の女子高生が喜ぶはずも無く、
まして膝の上なんぞに乗せた日には、巻藁の詰め物にされても文句は言えない。
もちろん、彼の弓を見せるというのは─
 今さら、何の意味も無い。

283:名無しさん@ピンキー
11/12/21 23:27:26.81 IY0YzJYz
「まあ、人が減っちゃってるのは事実でしょうね。かくなる上は、長男さんが頑張って
外資注入してくれないと」
「おーい、用法が全く意味不明だぞ受験生」
「あいた。すみません……でも、やっぱり息子がエリートビジネスマンやってるのって、
師範にとっても凄い心強いみたいですよ」
「エリートなら入社早々五年も中国に飛ばされたりしねぇ」
「いや、入社してすぐに海外駐在って、結構有り得ないとおもうんですけど……」

 それでも、世間話なら回せてしまうのが、幼馴染の人徳とも言えた。七年前、いや四年前
と今でも、話題の選び方は全く違う。そもそも、今時の女子高生の話題など、日本のメディア
から離れて三年の達司には見当もつかない。だが、彼女の口元と指先を見ていれば、
続けたい話題とそうでないものは何となく見分けがついた。

 恐らくは、普段この談話室行われているのと、ほぼ同じような漫談を続ける事しばし。
足先の痺れが痒みに変わる頃には、達司はもうさほど、今の梓に気後れを覚えなく
なっていた。今回は、正月を挟んで一週間ばかりの帰国となる。今日のところは
これで十分と、彼は談話室の椅子を引いた。
「よし。じゃあ、ちょっくら台所の様子でも見て来るわ。久々に和食にありつきたいしな。
お前も食ってくだろ?」
「あ、はい。って……えと、あのっ!」
 引き戸に手をかけたところで、つと、梓が強く呼びとめた。達司は少なからず驚いた。
昔、やんちゃしていた頃も、あまり大声は上げない性質だったからだ。振り向くと、
ストーブの炎とは違う、より鮮やかな朱を頬にさした少女が、こちらを向いて立っている。
 見つめ合うこと一拍。射場に立つ前と同じ、深い呼吸で面を上げた梓は、その瞳で
しかと達司を射抜く。

「お帰りなさい、達兄さん」

 完璧な所作の、立礼とともに、娘は言った。七年前、いくら言っても直らなかった
へっぴり腰は何処にも無い。けれど、髪をきつく束ねた頭に見える旋毛の色は、
彼が上京の日に列車から見たそれとおんなじで。

「……ああ。ただいま、あーちゃん」

 声だけは平調に、他の震えは寒さのせいにして、達司は片手を上げるのが
精一杯だった。己が憚っていた一言をあっさり、いやあっさりではない、その憚りを
二人分飲み下した上で、きちんと迎えの言葉をくれ娘に、達司は感傷を隠すことが
出来なかった。
 駆け寄って頭を撫でてやりたい衝動を必死に抑え、もう一度「飯を見てくる」と言い残すと、
彼は足早に母屋の方へ引き上げた。


284:名無しさん@ピンキー
11/12/21 23:29:37.01 IY0YzJYz

  *

 弓を引かない弓道家の嫡男。外部の資金援助で回す道場経営。達司と弓道場との関係は、
昔の彼にも、今の彼にも、滑稽なものだった。外から金を入れているだけ済むなら、近寄り
たくないと思う時期もあった。

 しかしながら、やはり一時帰国して良かった、と達司は思う。自分は、ここを守らなければ
ならない。例え彼自身の居場所がなくても、彼が引き込んだ少女の居場所を、潰してしまって
いい道理は無い。
 己の弓を「きれい」と言ってくれた幼馴染が、その弓で育つことのできる場所を残すこと。
それが、彼に唯一残された弓の道だった。

 それを、今一度、思い知らされた。



 台所に入ると、案の定、飯釜だけが湯気を吹いていた。冷蔵庫の中身を確認し、流し台で
簡単に手を洗う。一二月の水道は身を切る様な冷たさだったが、今度は達司も怯まなかった。
なあに、中つ国じゃあ真冬の給湯器の突然死など日常茶飯事だ。そうやって開き直って
しまえば、体の芯を砕くような震えも、もう来なかった。
 およそ、正道とは言い難い。いやしくも武道を修めた者の心構えとは到底言えない。
しかし、ドロップアウトした人間ならば、これで上出来なのかもしれない。
 
 矢は、弓を十全に撓めて初めて前に飛ぶ。ならば、せめて彼女の矢が真っ直ぐと的を
射るように、己は精一杯身を撓めてやろうと、達司は思った。


285:名無しさん@ピンキー
11/12/21 23:33:00.86 IY0YzJYz
以上です。
気付いたら「黒髪ポニテ」が全然生かせてない……乱文スマソ

武道娘ですが、やってみて書きやすいのは実直後輩系かなあと。
他に幼馴染と合わせるとしたら、どんなんでしょうね。熱血/素直クールとかか。

286:名無しさん@ピンキー
11/12/22 01:33:00.76 z5qH4V1Y
>>285


個人的には無口、物静か系が良し。幼馴染だけが正確にその心情を理解できる
という幼馴染らしさを演出できる。男を逆に雄弁タイプにするのもいいけど同じように
落ち着いた性格でもよさそうなんだよなあ。
二人で一緒にいるとき無言で何をするでもないのにそれが全く苦にならない二人。で、いつの間にかいちゃいちゃし始めている。
何も話が始まらんけどね。むしろすでに完結している!

287:名無しさん@ピンキー
11/12/22 01:40:12.30 VhAYrI5w
そんなあなたに無口ス(ry

288: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:37:02.38 l8+H/DX+
帰ってくるまでに、これほど投下されているとは。
GJ

>>234
>>せっかく18禁を書くのだったら、エロの中にストーリを絡めてこそと思うのです。

とても耳が痛いです、先生。
こんな素敵な文章書く人に、こういわれては立つ瀬がねーのですよ。〇刀乙。

ま、それはさておき。
八つ当たりで書いてるstadium/upbeatの三発目。参ります。

289: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:37:43.75 l8+H/DX+
 夏休み明け。
 始業式では夏休み期間で大きな賞を獲得した部活動はその栄誉を讃えて全校生徒の前で『改めて』校長より賞状やトロフィーが授与される。
 学校から授与されるのではない。
 得たものを学校に納めて、それをわざわざ改めて渡してもらうのだ。
 一度手にしたものを、わざわざ校長に渡してから返してもらうという一連の儀式の意味は、よく分からない。
 とにかく部活動の盛んな我が校では、この始業式での再授与が長い。
 バスケにバレー、卓球に競輪、剣道柔道弓道書道に美術演劇英文。何を競ったのか分からないけれどボランティアまで。そして甲子園出場を果たした野球部。
 その度に吹奏楽部はファンファーレを鳴らす。何かのスイッチでも組み込まれたように。
 校長の長々とした話の中に甲子園が幾度も出てくる。五回目くらいからもう面倒になって数えるのは止めてしまったが。
 素晴らしい成績として甲子園をあげてその栄誉を讃える。
 また来春以降の大会への期待を口にして、その日の話は終わった。
――吹奏楽部の栄誉が讃えられることは、なかった。
 吹奏楽コンクール支部大会銀賞。
 残念ながら全国大会……普門館こそ届かなかったものの、あたしの聴く限り素晴らしい演奏だった。
 そしてマーチングコンクールでも最優秀賞を得て県代表に選出されたが、そんなことを知っている生徒は多分誰も居ない。

290: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:38:41.40 l8+H/DX+
 後から聞くところによれば、辞退したらしい。あの場での再授与は。
 どうも応援不参加がよほど不興を買ったらしく、生徒間での吹奏楽部の評判が悪くなった。
 それを『考慮』しての対応であるらしい。
 一応、学校側は再授与をすると言っていたらしいけれど。
 優勝候補だった母校の一回戦敗退が、よほど不満だったらしい。生徒にしても、卒業生にしても、先生にしても。
 だからと言って、これはどうかと思うけれど。
 翌週、音楽室のドアに、消火器が撒かれていた。
 もしもこれが悪評の『火消し』だというのなら、犯人は中々にシャレの分かる人物かもしれない。
 もっとも、そんなことをされた側の気持ちの方は、分かりはしないだろうけれど。

291: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:40:05.39 l8+H/DX+
   ◇

 八月七日。
 全国高等学校野球選手権大会二日目第二試合。
 我が校の第一回戦は、素晴らしい好天に恵まれた。
 けれどその試合内容は荒れに荒れた。一回から我が校の一年生エース武司和也は四球二つで無死一二塁のピンチを自ら作り出してしまう。
 相手校三番は武司和也の甘い球を見逃さず左翼への見事な適時打、いきなり二点を許してしまう。
 続く四番に再び三塁打を浴び、一回で三失点。三回にも二失点、四回に一失点を喫してしまう。
 エースの乱れが打線にも響き、五回を終えた時点でようやく一点を返しただけだった。それも相手の四球で出塁した走者が、盗塁とエラーで帰っただけのパッとしないもの。
 そしてその一点が我が校甲子園での唯一の得点となった。
 エースは四回で交代、中継ぎとしてマウンドに向かった二年生投手も七回に二失点。
 結局強豪にして優勝候補の一角に数えられていたはずの我が校の甲子園は、一対八という大差での敗北に終わってしまった。
 追記すれば、その相手校も二回戦で敗退。その相手もまた三回で敗退。八月七日以降、甲子園と言う単語はタブーにさえなってしまった。
 完膚なきまでに叩きのめされた天才投手は……カッちゃんは、数日の間ぼんやりと過ごしていた。

   ◇

 八月十日。
 あたしは未だにぼんやりと過ごしているカッちゃんの様子を見るために武司家のドアを開いた。
 朝早くからアッちゃんは練習に出て行っている。
 カッちゃんはといえば、パジャマのままぼんやりとテレビを眺めていた。その背中を眺めながら、あたしは食卓の椅子に腰掛ける。
「小さい頃に、こんな風になりたいって思ってたんだよ」
 テレビでは再放送の滑舌の悪い特撮ヒーローが、決め台詞を叫んでいる。
 何を許さないのか知らないが、ヒーローらしくない真っ黒のスーツだった。
「こんな風って、特撮ヒーロー? そういえばそんなごっこ遊びもしたっけ」
 カッちゃんはぼんやりと頷く。
「皆を助ける正義のヒーローに、なりたかった。ぼくも……ヒーローに」
「正義かどうかはともかく、ヒーローにはなったでしょ。まあ、町内レベル止まりだったけど」
「ん……」
 振り向くカッちゃんの、いつも自信に満ちていた双眸が迷いに曇っていた。

292: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:40:42.58 l8+H/DX+
「結局、アニキの言った通りだったよ」
「……アッちゃん?」
「ん。予選大会の決勝戦前にさ、言われたんだ」
「野球好きか?」
「え?」
「でしょ?」
「……千恵ちゃん、見てたの?」
 迷いに曇っていた瞳が、驚きに見開かれる。
「まあね。その内あたしが言ってやろうと思ってた台詞だったし」
「そう……なんだ」
 テレビの中で、特撮ヒーローが当たり前の様に勝ち、街の平和は今日も無事に守られる。
 カッちゃんはそれを横目にぼんやりと見やって、そうしてから
「野球、好きだと思ってたんだ。ずっと」
 と口にした。
 あたしは髪の枝毛を探しながら、その独白を聞く。
「毎日毎日練習して、南を甲子園に連れて行くって自分に言い聞かせて、それだけを考えて」
 そして、甲子園。
「ゴール、イン。しちゃったんだな、あの日で」
「七月二十九日」
「うん」
「しちゃったか、ゴールイン」
「うん、しちゃったんだよ、あの日で」
「そっかー」
 大きく伸びをする。
 テレビの中では、高校野球選手権第五日目の第一試合が始まっていた。
「プレイボール」
 カッちゃんは薄く笑みさえ浮かべて、それを眺めた。
「甲子園はさ、野球が本気で好きで……それ以外考えられないような、一途な選手しか受け入れないんだよ、きっと」
「……身持ち硬そうだもんねえ」
「あははは、そうだね」
 勢いよく立ち上がると、カッちゃんは大きく振りかぶった。
 第一球。
「かきーん……とさえ、ならなかったよ」
 武司和也投手の甲子園第一球はボール。そして第一打者を四球で出塁させている。
「もの凄かったよ、甲子園は。地鳴りでもしてるのかって思うような大歓声で。日差しまで違って感じたよ」
「そりゃ、あれだけ人が集ってればね」
「怖かった。生まれて初めて、マウンドに立ってバッターが構えて……そういったもの全てが怖いと思ったんだ」
 第二球。
 見事なフォームで、カッちゃんはパジャマのまま振りかぶる。
 身内贔屓も込みになるけれど、テレビの中のどこかのピッチャーよりも様になっている。
 横顔は引き締まり、この一瞬のみあの日を取り戻している。
 まるで、甲子園の続きをしているみたい。
「まだ、怖い?」
「…………分かんない。あれからボールに触ってないから」
 野球部は、あれから自主練習になっている。マネージャーのお姉ちゃんが言うには、半分くらいは集っているそうだ。
「……ぼくって、こんなに怖がりだったんだなって、そう思い知ったよ」
「んー」
 さて、これは言ってしまっていいのかどうか。
 しばらく考えてから、あたしは面倒になった。まあ、あたしには関係ないしどうでもいいので放っておこうか。
 傍観者のあたしにしてみれば、お芝居で野球やっていた……お芝居でなきゃ勝負の世界に居られなかったカッちゃんやお姉ちゃんが怖がりだなんていうのは当然の帰結だったのだけれど。

293: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:41:47.52 l8+H/DX+
「千恵ちゃん?」
「あ、ううん、ナンデモナイデスヨ?」
「……そう?」
 さて、とはいえあんまりウジウジとされているのを見るのも鬱陶しいし、一つ尻でも叩いておくか。
「あのさカッちゃん、それでいつから練習は再開するの?」
「え?」
「何その意外そうな顔は」
「いや、千恵ちゃんが野球をしろなんて言うの初めてだから」
「あー、そりゃね、まあね」
 確かにそうだった。
「本音を言わせて貰えば、カッちゃんが甲子園に行こうがマスターズに出ようが土俵入りしようが知ったことじゃないのよ、あたし」
「ひどいね」
「まあね、あたしひどい女の子だし。でもさ、こうやって毎日毎日ゴロゴロゴロゴロとされてるのを見るのも腹が立ってくるのよ。仲間だった人達は頑張ってんのに、あんた何やってんのよ」
「え?」
「カッちゃんはお姉ちゃんを甲子園に連れて行ったからもう何もしないの? 甲子園に行きたかったのは野球したかったからじゃないの?」
「そりゃ、その通りだけど――」
「野球好きだからあんな毎日毎日やってたんでしょ? そんなの当たり前じゃない、じゃなきゃ出来ないもん」
「でもそれは、南の為で……ぼくが本当に野球が好きかどうかなんて、分からなくなって」
「あんなに毎日練習してとうとう甲子園にまで行って。これで野球好きじゃないとかどの口で言うつもりよ。カッちゃんは頭にバカが付く位の野球好きよ」
「う……」
「お姉ちゃんが何言ったとかどうでもいいのよ、くっだらない。そんなのカッちゃんには関係ないでしょ。だって行くのはカッちゃんなんだから」
「千恵ちゃん……」
「行って、そして野球するのはカッちゃん。納得してないんでしょ、あの試合」
「……うん」
「なら――さっさと行って、今度は少々ビビってもねじ伏せられるくらい、強くなって来なさいッ! 納得は行かないけど練習もしないとか、泣き言はボコボコに負けてから言いなさい!」
「あの、ボコボコに負けたんだけど――」
「あんなの負けたうちにはいるもんか! 負けるっていうのは、本当に手も足も出ないくらいのを言うの! カッちゃんは手も足もそもそも出してないでしょッ!」
「うぅ……千恵ちゃん、優しくないね」
「今のカッちゃんに優しくする理由なんて毛筋ほどもなし! ごちゃごちゃ言ってないでさっさと服着替えて行きなさい! カッちゃんの行きたい所に!」
 ほとんど八つ当たりではあったけれど、言いたいことを言ってスッキリした。
 カッちゃんはまだ何かごにょごにょと言っていたけれど、その辺に転がっていた食パンを朝ごはん代わりに口にねじ込んでユニフォームを突きつけると諦めたようだった。
 着替えが終わったら適当に余り物を詰め込んだ弁当を持たせて、家から追い出した。
 これで、とりあえずあたしの役目は終わりだろう。『南ちゃん』ならもっとスマートにしたんだろうけれど、あたしはその辺に居るただの女子高生。そういうのは専門分野外だ。
 次に甲子園に出られるかどうかなんかあたしの知ったことじゃないし、後は野となれ山となれな訳だし。
 その日の夕方、お姉ちゃんと一緒にカッちゃんは帰ってきた。
 どうやら逃げずにちゃんと部活に出たようだ。
 優しく励ますお姉ちゃんの声が外から聞こえてくるが、あたしは明日のバイトに備えてだらだらすることにした。

294: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:42:41.23 l8+H/DX+
   ◇

 甲子園から帰ってきたおじさん達は不用意だった。
 帰ってきて、アッちゃんを見るなり
「お前の応援があれば、もう少し違ったかもしれないのに」
 なんて言ったのだから。
 アッちゃんの方の結果なんて聞きもせず。
 まあ、アッちゃんだっておじさん達に褒めてもらいたくてやってたんじゃないだろうけど、それにしてももう少し言いようはあったんではないだろうか。
 優勝候補と持ち上げられて、浮かれて騒いで、そして上手くいかなかった理由をそんな所に求めて。
 アッちゃんはただ曖昧に笑うだけだった。
 他に何も出来なかった。隣で悔しくて腹立たしくてイライラするだけのあたしと同じように。

   ◇

 八月十四日。
 吹奏楽コンクール支部大会。
 あたしは長距離バスに乗ってその会場へと足を運んだ。
 我ながらよくもまあと思わなくもないが、アッちゃんが必死に頑張ってきたことを……あたしは、自分の目と耳に焼き付けておきたかったのだ。
 意味があるのかどうなのかは、ともかくとして。
 お姉ちゃんがどんな理由であれカッちゃんが甲子園に行くまでを支え続けてきたように。
 あたしも、アッちゃんにとってのそうでありたいと思ったからかもしれない。
 もっとも、あたしがそう思ったのは僅か一ヶ月前からのことなのだけれど。
 新参の、にわかの、ミーハーと呼ばれても反論できないような、そもそも音楽なんてまるで理解できないあたしでも……アッちゃんの行方を見守るくらいは出来るはずだったから。

 この地方の吹奏楽が一堂に会してのコンクール。
 各県で選出されただけあり、どの団体も素晴らしい出来だった。
 正直素人のあたしにはどの演奏も素晴らしいような気がしてくる。
 だから思い知る。
 アッちゃん達でさえ……あたしにとってはとてつもない名演だったアッちゃん達のそれでさえ、この中では凡庸なものに過ぎなかったということを。
 もしもこの中を突破するとすれば、それは突出した何かがないとならなかったのだ。
 だから……アッちゃん達が。我が母校の吹奏楽部が銀賞に終わった時、不思議と心は静かだった。
 手も足も出ないとは、このことかと。

295: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:43:40.95 l8+H/DX+
   ◇

 八月十五日。
 帰ってきたアッちゃんはため息一つついて微笑んだ。
「あの……」
 何となく武司の家で待たせてもらっていたあたしは、けれど何と言って迎えればいいのか分からなくなってしまった。
「ありがとう」
「え?」
 だから、先にお礼を言われたあたしは呆然としていた。
「また聴きに来てくれてたろ? ありがとう。おかげで精一杯の演奏が出来たと思う。ゴメンね、普門館はまた来年になるけど」
「……ッ! アッちゃん!」
「うん?」
「それでもあたしには、あたしにはアッちゃんが一等賞だから!」
 ひどい嘘だ。
 あたしはあの会場で、金賞を受賞して全国大会への代表権を得た団体に納得したのだから。
 あの団体の演奏なら、金賞でも、支部代表でも仕方ないと……アッちゃん達以外にそう思ったのだから。
 けれど……アッちゃん達の演奏が一等賞だと思ったのも……ただの詭弁だけれど、確かだった。
「……千恵ちゃん、ありがとう」
 多分、あたしのそんな強がりのような嘘なんて、アッちゃんにはばれていたと思う。けれど、それでもアッちゃんは微笑んでくれた。
 だから、あたしはもう一度口にした。
「あたしには、アッちゃんが一等賞だから――」

   ◇

 春の甲子園に出場する為には、秋の地方大会に勝ち抜かないとならない。
 夏の惨敗で評価を落としたらしい我が校……いや、武司和也だったけれど、あの敗戦が彼を大きく育てたらしい。
 それまであったムラッ気や驕りが消えて、それは見事な選手になったそうだ。
 まあ、全部新聞の受け売りなのだけれど。
 さて、そんな秋の地方大会も順調に勝ち進んで決勝戦。
 夏の焼き増しであるかのように強力打線が売りの男子校との対戦だった。
 これまた焼き増しであるかのようにローカル紙の記者がお姉ちゃんにインタビューをしている。
 例の同窓会長は居並ぶ吹奏楽部を無視して客席に唾を飛ばして何やら喚いている。
 何やら針のむしろのような中、それでもアッちゃん達は平然と立ち並ぶ。あたしは野球の試合そのものよりも、その求道者が試練に耐え忍ぶような姿をずっと見ていた。
 アッちゃん達の歌は、周りがどのような目で見ていようとも何も変わらない。
 全てが美しく輝いているのだと言わんばかりに、歌う喜びを表現してみせていた。
 付け足すと、また優勝していた。
 アッちゃん達が大きな拍手をし始めたのでどうやら試合が終わったらしいとようやくスコアボードへ視線を投げる。
 相手にほとんど何もさせていなかった。
 因みにしばらくたってから、ごく当たり前の様に春の甲子園出場が通達されたらしい。
 あたしがそれを知ったのは、校舎に誇らしげに掲げられた『甲子園出場おめでとう。野球部』の垂れ幕だった。

296: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:44:41.44 l8+H/DX+
 そんな秋の中、アッちゃん達の『本業』の方はといえば、吹奏楽連盟主催のマーチングコンクール支部大会が行われていた。
 あたしはもちろんそれも見に行った。
 演奏をしながらのパレード、と言えば一番想像しやすいと思う。
 ただ、彼らのそれはただ歩くだけではない。
 それは、確かに『演技』なのだ。
 それぞれが創意工夫を凝らして、何かを表現しようとする『演技』なのだ。
 さすがに支部大会だけあり、どの校の演奏、演技共に素晴らしい出来で、あたしは少し不安になった。
 この中で、アッちゃん達の歌はどのような評価を受けるのか。
 そんなあたしの不安をよそに、アッちゃん達の演技が始まる。
 目は自然とアッちゃんを探し当てる。
 いつもの優しそうな笑みを引き締めて、誇らしそうに客席を見据えている。
 あの瞬間がさ、一番好きなんだ。
 そう言っていたのを思い出す。
 これから起きる全てに、アッちゃんは子供みたいにわくわくしているのだ。
 その為に。
 その為だけに積み重ねた時間を、今聞いてくれてる皆に伝えられる。
 そのことが何よりも嬉しいんだと、子供みたいに笑ったその顔を、あたしは忘れない。
 だから、あたしがアッちゃんを見つめている間に。
 一瞬。
 息の音。
 それで、会場の音の全てを制して。
 始まった。
 それまでの緊張感をすべて切り払い、一音が駆け抜ける。
 それまでにステージを飾っていた他校の演技に比べると、派手さはなかった。
 特別派手な衣装を凝らしているでなく。
 特別何か目立つ道具を用意するでなく。
 ただの歌だけで勝負をしている。
 だからこそ、その音の全てがあたしには愛しいと思えた。
 軽快なリズムに乗せてトランペットが歌う。
 トランペットの一番槍の後をクラリネットが追いかけ、更に歌い上げる。
 凛々しくも鮮やかなメロディーラインをチューバが押し上げる。どうだ、まだやれるだろうと言わんばかりに。
 フルートが間隙を縫って立ち上がる。歌とはこう歌うのだと、そう主張する。
 サックスが、ホルンが、オーボエが、ユーフォが、それに反論する。高い音だけが歌ではないと。
 そしてトロンボーンが。
 静かにそれらを繋いでいく。
 つい見た目の派手さに騙されていた。
 これは演技であり、そして何よりも……演奏なのだ。
 歌でしか言えないから、彼らは歌っているだけの。ただそれだけのことなのだ。
 ただの歌。
 ただそれだけで、他の誰にも負けないだけの演技をなしえてみせる。
 だから全ての演奏が終わった瞬間、あたしは心からの賛辞をのせて両手を何度も叩いたのだった。

 そして、翌日。
 帰宅したアッちゃんの満面の笑みに、あたしも一番の笑顔を返した。
「おめでとう、アッちゃん」
「うん、普門館じゃないけど……全国大会、見せてあげられるよ、千恵ちゃん」
 あの日の演奏が評価された点は、やはり純粋に演奏が優れていたということで。あたしはその評価に心から満足した。

297: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:45:46.35 l8+H/DX+
   ◇

 秋といえば芸術の秋。我が校も多くの他校の例に漏れず文化祭が行われる。
 何故かヤキソバ対決をしている野球部とサッカー部。
 可愛い娘で客を集め、男子が調理に励んでいるバスケ部のお好み焼き。
 美味しさスマッシュ! という意味不明のあおり文句を連呼する卓球部のたこ焼き。
 書道部が何故か似顔絵を描き、美術部が絵筆で書に挑んでいる。お前らは交代しろ。
 各々のクラスがいい加減な喫茶店や謎の画廊、変な骨董品みたいなのの展示会をしている中、吹奏楽部はといえば例年通りステージを開いていた。
 もっとも、その公演時間はごく短時間になっていたが。
 これも不評のせいであるらしいが……いい加減あたしも気が付いた。一般生徒にはそこまで恨み骨髄にいつまでも不評などないのだ。
 より端的に言えば、どうでもいい。それに尽きる。数ヶ月が経ち、春の甲子園も決まった今となっては話題にさえならない。
 つまり恨み骨髄にいつまでも不満を持っているのは学校側なのだろう。あるいはあの同窓会長あたりが文句を言っているのかもしれない。
 全国区の大会出場ということなら、吹奏楽部もだが知名度の有無ということなのだろう。
 あたしは僅か十五分だけの吹奏楽部の演奏を少しだけ悔しい気持ちで聴き、逆に棚からぼた餅ではないけれど十分な時間を得た軽音楽部や有志の演奏をぼんやりと眺めた。
 さて、吹奏楽部も屋台を開いている。
 あたしはあまり目に止まらないように、混雑している中を狙って顔を出した。
 アッちゃんは奥で真剣な顔で鍋をかき混ぜている。
 なぜおでんの屋台にしたのかはまるで分からないけれど、とりあえず美味しかった。

   ◇

 初めての全国大会でアッちゃん達は楽しそうに演奏を終えた。
 全国レベルの中ではやはり決して高い評価を得ることは出来なかったけれど、全てを出し切ったと微笑むアッちゃんを見ていると何も言うことはなかった。
 だから一足早く帰ったあたしは、武司家の台所を拝借してお祝いの料理で迎えることにしたのだった。

   ◇

 そして春。
 甲子園だが、カッちゃんは優勝した。
 今回は応援席で演奏した吹奏楽部に、同道会長が偉そうに「どうだ、こんな素晴らしい栄誉を与えてくれた野球部に感謝しろ」とか言い出していた。
 苦笑する顧問の先生は、静かに撤収を呼びかけた。

 それからは連日お隣と、そして『南ちゃん』に取材の人が訪れる。
 例の漫画を思わせる二人と、そして兄。
 余り物の妹であるあたしは、なるべく目立たないようにしていた。
 季節は春。
 全てが明るく輝くようなその中を、あたしはひっそりと過ごしたのだった。

298: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 03:46:40.51 l8+H/DX+
今回ここまで。

今回のモトネタ

ジョン・ラター作曲『All Things Bright And Beautiful』
URLリンク(www.youtube.com)

因みにこれもマーチに編曲されたものを演奏したのでした。
や、本当にどうでも良い話題ですが。

次でラスト。
年末に相応しい例のあの歌で締めたいと思っています。

正直八つ当たりみたいなお話ですまん。

299:変態紳士 ◆AN26.8FkH6
11/12/24 06:17:05.74 WN+AUtoM
>>298
乙です。

今回は無難な流れかな? 淡々として感じたけど、結局どう纏まるのが気になるぜ

300:名無しさん@ピンキー
11/12/24 08:15:44.64 uaBjdHgy
>>298
お待ちしておりました
次回楽しみにしてます

301: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 20:07:21.63 l8+H/DX+
メリークリスマス。
雪が降るという天気予報を聞いてむしゃくしゃして書いた。今は反省している。

302: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 20:08:06.85 l8+H/DX+
ほとり歳時記 三期目
02-04.5 AKA

 受験生の冬はどう足掻いてももう勉強以外にありえない訳で、街が赤と緑と白に彩られ、目に痛い程の電飾をまとって煌くこの日も例外ではない訳で。
「で、ここにさっき出した数値を入れて……」
 目の前ではごく真面目な顔つきで、俺に数学を教えている恋人《ほとり》が居てもそれは変わらない訳で。
「…………修、聞いてる?」
「お、おう。お姫様可哀そうだな」
 ヨヨヨ、と涙を拭くふりをしてみせると、ほとりの教科書が縦で頭に落ちてくる。
「あた」
 別に痛くはない。ないが、一応言ってみると、ほとりはやれやれと苦笑している。
「もっかい初めっからやる?」
「や、大丈夫。聞いてたから」
 聞いてはいる。頭に入っているかはまあ、さておき。
 ほとりは先ほどまでと同じように参考書片手に、何らかの数字とアルファベットを語り始める。
 花が綻ぶような淡い色合いの唇が滑らかに動いて言葉を紡ぐ。
 淡雪の頬は、暖房のせいなのだろう桜色に僅かに上気している。
 自慢の黒髪は、今は簡単に後ろで一つに束ねている。
 けれど白状するのなら、俺はそんなほとりの油断したような姿を見るのが、結構好きだったりする。
 元から化粧っ気の少ない奴だけど(それは多分俺の好みに合わせてくれているからなのだろうけれど)こうして人前に出ない日は本当に質素に済ませるらしい。
 眉も軽く調える程度で済ませていて、それでもこれだけ美人なんだから神様というのは不公平だなあ、とか思ったりもする。
「修? ちょっと……疲れてる?」
「ん?」

303: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 20:08:23.98 l8+H/DX+
 疲れていると言えばもちろんそうだが、実の所ほとりにこうして勉強を教えてもらうのは楽しい。
 や、より正確には静かに考え込んだり、難しい問題が解けて頬を緩ませたり、真面目にやらない俺を睨んだり……そういったほとりの表情を見ているのが楽しいのだ。
「疲れてはないけどさ……そうだほとり、垢抜けるってどういうことか知ってるか?」
「どうしたの? 急に……ん、垢抜けるってアレでしょ? 洗練されているとかそういうニュアンスの」
「そ、どうして『垢抜ける』なんて表現になったか……まあ、語源か由来な」
「垢って言うくらいだからお風呂とか関係あるのかな?」
 ほとりはしばらく考えてから、そんな風に答える。まあ、ほとりが考える顔を見たくてそんなことを尋ねただけなのだが。
「二つ説があるんだ。一つ目は『灰汁』野菜なんかのアレな。ちゃんと灰汁抜きしないと煮炊きは旨くならないだろ?」
「ああ。灰汁があかになまったとかそんな理由?」
「そう。後もう一つはそのものずばり『垢』、垢が取れて綺麗さっぱりした様子のこと」
「じゃあお風呂であってるんじゃない」
「そだよ」
 ほとりはしたり顔で偉そうにふんと胸を張った。
「江戸娘はみんな磨きをかけた素肌にごく薄い白粉と口紅だけで勝負したんだとさ」
「薄化粧だったってこと?」
「そ、ベタベタ塗りたくるっていうのは野暮の極みな」
 そっと手を伸ばす。化粧っ気の薄い頬。指でなぞる水蜜桃の唇にそっと乗せられたルージュは咲き初めの薔薇。
「だからそれが垢抜けるってこと。本物はさ、小賢しくベタベタ何でもかんでも顔に塗りたくらなくても良いってこと」
 居心地悪そうなほとりの仕草は、照れ隠しだ。ようやく何を言いたいのかが分かったらしい。
「あのさ、修――」
「垢抜けた美人と今日一緒で、嬉しいよほとり」
「……バカ」
 このところ毎日の様にほとりに付きっ切りで勉強を見てもらっていて、なかなか隙がなくて大変だったけれど。それでもどうにか間に合わせたプレゼントをポケットから取り出した。
 本物の美人に相応しいような赤い色をした、ルージュを一つ。

304: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/24 20:09:43.21 l8+H/DX+
今回ここまで

__________
    <○√
     ∥ 
     くく
しまった! これは糞SSだ!
オレが止めているうちに他スレへ逃げろ!
早く! 早く! オレに構わず逃げろ!

クリスマスだってのに、無茶しやがって……


305:名無しさん@ピンキー
11/12/24 20:49:03.47 DmAGdXdz
>>304
お待ちしておりました。
こちらも続き楽しみにしております

さて、私も支えるのを手伝わせていただきますよ…

306:名無しさん@ピンキー
11/12/24 22:16:40.13 P4kJKK/T
あんただけに、いいカッコさせねぇぜ…!

307:名無しさん@ピンキー
11/12/24 22:44:57.93 wXCqLJnx
俺も一人身さ(家族はいるけど)

俺も最愛の幼なじみとクリスマスを二人きりで過ごしたかった・・・
他の男といるかもしれないと思うととても胸が裂けそう・・・

308:名無しさん@ピンキー
11/12/25 00:21:59.48 Al+jrWYJ
3歳の時点で幼なじみに振られた俺に隙はなかった

……今頃、子供2人くらいのお母さんかな、あの子も

309:名無しさん@ピンキー
11/12/25 02:49:03.63 JWUhlq+l
>>304
甘ぇ、こいつは甘ぇ!
死にそう。

310: ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:02:03.01 wjteJVmX
>>304
相変わらずラブラブでGJです。
ちゃんといつも綺麗にしているほとりさんも、それを褒められる修くんも幸せ者ですね。

間を開かずの投下になってしまいすみません…時事ネタということで、御寛恕を。
前スレ551の手をちゅっちゅする桜子姉ちゃんの話のクリスマス番外編です。

311:『所有権は義務を伴うらしいのです』番外編 ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:05:27.15 wjteJVmX
『クリスマスはどうしますか?』(12月6日)



午後六時の暗い駅舎に、冬の風がうなっている。
しゅうと息をあげて閉じたドアの向こうを眺めながら、私は乗ってきた学生たちをちらと見遣った。

電車通学が多い東北地方のこの季節。
帰りの電車は雪を避けて、学校帰りの中高生がにぎやかだ。
同じ制服を着て色気なくはしゃいでいたのが昨日のことのよう。
スーツを着るのにもお化粧にも慣れて、社会人三年目の後半だなんて時が経つのはあっという間だな、なんてことを思う。
師走を迎えて、眼の前の高校生たちは参考書片手に、雑談の中身もセンター試験一色だ。
そう、十二月なのだ。
もやもやして息をつく。

あぁ年賀状どうしよう。
甥っ子のお年玉がお財布にきつい。
コートがほつれてきたから新しいのを買いたいけどボーナスが減っちゃった。
……てっちゃんへのプレゼント、用意しなきゃダメかなぁ。

ガタンガタンとレールの継ぎ目を揺れながら、暗い夜空を煙る窓が映していた。
冬の電車は少し暑い。

「桜子」
「………ぁ。え、何?」

脇から心配そうに呼ばれて、はっと我にかえった。
付き合っている年下の大学生が、携帯ラジオのイヤホンを片方外して、私を見ている。
自然に寄せあう距離は近い。
……距離が変わったなぁ、と意識する。
一年前までは確かに姉と弟だったのだけれど。
仕事帰りの私と、茶色い髪の大学生は、周りからどう見えているんだろうなんて時々思う。

「何溜息ついてんだよ。だいじょぶか」
「んーちょっと…、ね、てっちゃんはクリスマス」
「おい、外でその呼び方しない」
「ごめんごめん」

隣で吊革を握る幼馴染を含み笑いでそっと見上げる。

「えっと、でね。徹哉はクリスマスどうしたい?」
「どうって?」
「何かしなきゃダメかなぁ」
「………」

てっちゃんが情けなく呻き、みるみるうちに落ち込んだ。
どうやら色々考えていてくれたらしい。
慌てて半分ホントのフォローを入れる。
ちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密だ。

312:『所有権は(略』番外編 ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:06:35.95 wjteJVmX
「あ、あのね、そういう意味じゃなくって。えっと」

もちろんお財布痛いなぁとか思っていたのも本当なのだけれど、
それを言ったらきっと立ち直れなくなりそうなのでこれまた秘密にしておく。
いやそのだって、友達や後輩ちゃんに聞いたところの、
「彼氏へのクリスマスプレゼント」の相場って妙におかしいのだ。
桁がひとつ違っていたりしないんだろうか。
もしアレが常識なら、てっちゃんの周りの学生さん達はどうしてるのかなぁ比べられちゃうかなぁ社会人なのに等々、
悩むほどにクリスマス自体が面倒くさくなってきてしまったというか。
変にその「相場」に合わせて、まだ学生のてっちゃんに気後れさせちゃうのも申し訳ないというか。
そう、それに…一応、半分くらいはちゃんとした理由もある。

「えっとね、ほら。お母さん達が今年もケーキ注文しちゃってたりするでしょ? だから、聞いてから用事入れないと」
「あー……やっべ。それ忘れてた」

そう。
私のうちもてっちゃんのうちも母子家庭で。
贅沢できないけどクリスマスくらいはホールケーキを食べたいし、でも天城家は母娘二人で、石川家は母と兄弟の三人暮らし。
両家が仲良しで、それぞれホールケーキを頼むにはちょっと少人数すぎる…となれば、当然、道はひとつ。

―ケーキの共同購入である。

その日ばかりは節約家のお母さんたちが奮発して、割と良いところのクリスマスケーキを予約する。
もちろん夜は洋風料理が出るし、チェーン店のフライドチキンパックとかも用意される。
303号室と403号室を毎年交互に飾り付けて、ツリーを並べて、小さい頃はちょっとした大イベントだった。
そんなわけで、両家合同のささやかなクリスマスパーティーは、
公営住宅に越してきたばかりのころからずうっと続く家庭内行事なのだ。

大きくなって飾り付けなんかはもうやらなくなったけれど、ちょっと豪華な食事会は今でも毎年続いている。
まぁ徹君は彼女が出来たとか言ってここ数年来ないのだけど。

そんなわけで、クリスマスの夜に出掛けるというのは、私とてっちゃんにとっては、それなりに大問題なのである。
母親に文句を言われつつ豪華ディナーとケーキを食いはぐれるか、二人で過ごすのを別の機会にまわすか。
ケーキかデートか、それが問題だ。



313:『所有権は(略』番外編 ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:08:34.36 wjteJVmX

***


「っていうかね。あのね。プレゼントなんだけどね」

てっちゃんの部屋で、インスタントコーヒーにスナック菓子を食べつつ協議する。
某量販店のフリースにジャージと、我ながら好きな男の子と一緒いにいる格好ではないのだけれど、
(だっててっちゃんだしなぁ)という気持ちの方が勝ってしまい、結局いつものスタイルだ。
『あんたそんなんだから彼氏できなかったのよ大事にしなさいよ』と
母親にも友達にも言われるのだから、きっと相当ひどいのだろう。
ごめんねてっちゃん、と心の中で謝りつつも、小さい頃からいつもこの格好で一緒にうだうだしていたのに、今さら格好つけても仕方がないとも思うのだ。
でも…その、昔はローテーブルに向かい合って話していたところを、
今では隣に座って肩を触れ合わせているところが、やっぱり違うかもしれない。
ともかく、悩んでいるのも私らしくないので、この際だからぶっちゃける。

「プレゼント。クリスマスの」
「うん?」
「お金があんまりないんだけど、マフラーとか編んだら多分失敗する気がするの」
「………え、あ。……あぁ、そう」

てっちゃんは数秒、私を凝視して、それから困ったように頭をかいた。
あちこち押し入れや本棚を眺めたりして、眼を逸らしながらぼそりと呟く。

「別にいいよ、無理しねぇで」
「失敗したマフラーでも良いの?」
「いやそうじゃ、……っていうか何で失敗するの前提なんだよ」
「えーだって。てっちゃん、私が編み物出来ると思う?」
「思わねぇ」

一瞬の間もなく即断された。
ひどい。
……分かってるけれど、それはそれでちょっと悔しい。
むっとしている私を見てからまた眼を逸らし、しばらく沈黙した後に。
てっちゃんは持っていた珈琲カップを机に置いた。
それを目で追う間に、慣れた骨と指の感触が左手の指の付け根に触れてきた。
左手首を握られて、身体の芯がひくと怯える。

「ぁ、あの……てっちゃん?」
「桜子、命令」

そのまま、手首を握られて左手を持ち上げられて、一度だけ手の甲にキスされる。

―初めてこうされた時から、私の手は、てっちゃんのものだと決まっていて。
私の手はてっちゃんのものなので、言われたらその通りにしなくてはいけないのだ。


314:『所有権は(略』番外編 ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:10:50.53 wjteJVmX
時折、こうして手首を握られてキスされて、それからささやかな命令をされる。
主に橋の下でさせられたようなことや、ひたすら手を弄られている間に口を塞ぐなとか、そういうことだ。
年下の幼馴染に、いつも背中をついてきた弟分の筈なのに、何故だかこうされると抵抗が出来ない。
下を向いて、左手から力を抜いて目を瞑り、命令を待つ。
だいじょうぶ。
今日みたいに、おばさんが隣にいるときは、そう滅多な命令はされない、……はずだ。

「桜子」
「……は、い」

薄眼を開けて床に視線を落とす。
あれから夏も秋も、何度もあったことなのに、命令を待つだけで、緊張する。

「両手に命令」
「………っ、はい」
「下手でも、失敗してもいいから。不器用な手だって分かってるけど。どんなでも許すから、マフラー編んで、俺にくれよ」

耳に命令が沁みとおるまでには、たっぷり数秒の、間があった。
は………、う、ええ!?

「え、ええええぇ、え」

顔が熱い。
漏れた声が震える。

て、てっちゃん何言ってんのは、は……恥ずかしい。
そういうの、そういうの恥ずかしいから!
じょ、冗談だったのに手作りのマフラーとかちょっと、冗談だったんだってば、だからそのまさか。
私が作ったらどういうことになるかくらい知ってる筈なのに、ずっと一緒にいたのに、
それでも私の手作りの何かを欲しがるだなんて予想の範囲外もいいところだ。

「っ、う、あ……でも、失敗するかも、ていうか!そのっ、今からじゃクリスマスまで、間に合わないか、も……」
「失敗は良いって言ったろ。間に合わない時は罰ゲーム」
「う、ええぇ、罰ゲームってな、何」
「ん。今から考える。どうすっかな」

時計の音がチクチクと耳を刺す。
おばさんが見ているお笑いテレビがどっと歓声を遠く、扉向こうであげている。



315:『所有権は(略』番外編 ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:12:15.23 wjteJVmX

「桜子、この前俺の押入れ勝手に開けてエロ本捨てたろ」
「……あ、あはは、なんのこと?」
「今までは黙認してたのに酷くね?傷付いたぞアレ」

捨てましたすみません。
うん、ちょっとした喧嘩の腹いせに確かにそんなことをしたような。
……やっぱりちょっとやりすぎだったかもしれない。

「ごめん。…う、まさか罰ゲームで買ってこいとか言わないよね」
「まさか」

てっちゃんが、実に意地悪そうに、私の手にもう一度くちづけをしてから、口の端で笑った。

「俺が新しいの買ってくるから全ページ俺の前でめくって読む」
「ええええーーー!? さ、サイテー!てっちゃん最っ低、変態!!!」
「こ、声大きい!!」

焦って口を塞がれる。
確かに大きかったと反省して、少し声を押さえながら抗議する。

「ばかっ。ナシ、それなし。絶対だめ!」
「別に、桜子が頑張ればいいんだろ?どんなに失敗してても完成すればいいじゃん」
「てっちゃんいつからそんな意地悪になったの? ひどい。いいよもう、クリスマスはうちで夕ご飯とケーキ食べるから。デートとか絶対しないから」
「ええ、ちょ、ちょっと待」
「てっちゃんの命令聞くのは手だけでしょー。足がどこに行くかは私の勝手でしょ? 知らないからね」
「っていうか、だから、なんで最初から完成できないって前提なんだよ、諦め早すぎるだろ!」
「だって無理じゃない!」


どんどん喧嘩が不毛になる。
なんだかんだとくだらないやり取りをして拗ねたり怒ったりしながら。
去年の今頃は、てっちゃんの大学受験のやる気がどうのこうので怒っていたことを考えると、ずいぶん平和だなぁと不意におかしくなった。

グダグダになって、頭を冷やして仕切り直しと外階段に出てみると、空が白くて雪がパラついていた。
ともあれ、どんな予定になるとしても。
今年も、303号室の幼馴染の少年の隣でクリスマスを過ごすことだけは、変わらず決定しているのだった。






おわり

316: ◆NVcIiajIyg
11/12/25 11:16:13.81 wjteJVmX
ではではメリークリスマス!ノシ

317:名無しさん@ピンキー
11/12/25 11:40:39.85 b2kDYj2x
>>315
なんか泣けてくるわ……GJ!

318:名無しさん@ピンキー
11/12/25 15:40:24.84 6+yegnAj
>>315
ほおお…GJ!!
ほのぼのした感じがすごく良かった!
ありがとうです。

そしてなぜか目から汁がでてきたよ

319: 忍法帖【Lv=39,xxxPT】
11/12/27 20:02:24.21 E0Tb0yz4
>>315

ごく個人的な話。
私も少し年上の幼馴染みの姉さんに「てっちゃん」と呼ばれていたのでした。

……このシリーズ、すなわち俺得。

個人的な思い入れも込みで、激しくGJ

320:名無しさん@ピンキー
11/12/29 01:40:15.38 GlWUr2NI
幼馴染みを看病

321:名無しさん@ピンキー
11/12/29 20:54:14.53 ib1gwK9E
男が女を?

322:名無しさん@ピンキー
11/12/29 21:05:26.01 MFTOL9a+
女が男を?

323:名無しさん@ピンキー
11/12/29 22:08:24.87 JAJ5LSp/
どちらでもいけます

324:名無しさん@ピンキー
11/12/29 23:27:25.29 x+CFqBOF
女x女のほうが見てて楽しいかも
体拭いたりとかも同性の方が遠慮や抵抗が無いので異性とはまた違った趣が

325:名無しさん@ピンキー
11/12/30 17:32:57.00 nDUUoYMc
そういや幼馴染百合って投下されたことあるのかな。

326:名無しさん@ピンキー
11/12/30 21:14:06.80 vgODy1Jo
百合は百合スレあるからねぇ。
でも保管庫に一作連載あった気がする

327: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:19:28.38 UEkwDxDe
年内にどうにか間に合った……このタイトルで年明けは出来なかったので、今からです。
stadium/upbeat
最終話。是非お願いします。

328: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:20:05.24 UEkwDxDe
stadium/upbeat


04. 歓喜の歌 ~ベートーベン交響曲第九番第四楽章~

 この捻くれ者な性分は小さい頃からで、今思えば下らないことで両親やお姉ちゃんと喧嘩してはむくれて家出をした。
 とはいえそこは小さい子供のすること、家出先なんてせいぜい橋の下や公園のベンチ、学校の倉庫が関の山だったが。
 友達の家に逃げ込まなかったのは、子供なりの意地だったのだろうと思う。
 恐らくは子供なりに甘えていたのだろう。愛されているか試していたのだろう。捻くれ者のやり方で。
 もっとも、そんな愛情確認にウチの家族は律儀に応えてくれていたのだから、我ながら、そして今更ながら申し訳なくもあるのだけれど。
 なかなか幸せな家庭環境だった私だけれど、それでも小さい頃の家出癖はなかなか抜けなかった。
 ただそんな時、いつだって探し当ててくれるのは家族ではなくて隣の家に住むアッちゃんだった。
 理由なんて分かっている。わざと家出前に目星をつけていた場所でアッちゃんと遊んだりしていたのだから。
 結局、小さい頃から一番甘えた相手は少しだけ年上の、あの男の子だったのだろう。
 我ながら……嫌な子供だった。

   ◇

329: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:21:41.12 UEkwDxDe
 春の甲子園優勝。
 夏の敗戦から一転のドラマチックな成功劇は、マスコミ受けがかなり良かったらしい。
 最近の風潮か、カッちゃんも王子様なんて呼ばれている。
 何王子だか知らないが、連日の様に隣の家にはマスコミ関係者が詰め寄る。そこには得意そうなお姉ちゃんの顔もあるのだった。
 誰もが口々にカッちゃんの活躍を讃えて歓声を上げる。

 そんな狂乱も少しだけ落ち着いた春の終わり、あたしが縁側に腰掛けてぼんやり空を眺めているとお姉ちゃんが現れた。
 見上げた空には青く輝く一際明るい星明り。あれは確か乙女座のスピカだったか。
 鮮やかな橙色に輝くアークトゥルス、そしてデネボラを結ぶ線を春の大三角と呼ぶ。さて、何で読み齧った知識だっけ。
 どうでもいいことを考えて、姉のかまって欲しそうな視線を無視する。
 あれがスピカ、アークトゥルス、デネボラ……ちょっと語呂が悪いなあ。なんて思っていると、隣のお姉ちゃんがおずおずと口を開いた。
「カッちゃん、凄かったよ」
 視線を空から地上に。
 隣に見慣れた姉の、珍しく冷めた表情がそこにあった。
 妹のあたしが言うのも何だけれど、お姉ちゃんの可愛さはちょっと半端じゃない。
 肩の辺りまでで揺れる甘く艶やかな黒髪。
 処女雪めいた白磁に透き通った肌。
 鮮やかに輝く黒真珠めいた瞳。
 小ぶりな鼻や柔らかな頬、凛と整った眉。
 いかにも少女らしい瑞々しさで桜色をしている唇。
 触れれば解けそうな程危うくも愛らしい首の線や、痛々しいほどに可憐な肩。
 まだいたいけでありながらも女を主張する甘やかな胸は品良く曲線を描き、驚くほど細身の可憐な腰へと続く。
 すらりと嫌味なく伸びる足も、羨ましいほどの艶やかなバランスをしている。
 身内びいきなしに。妹のあたしが言うのも何だけれど。ウチのお姉ちゃんの可愛らしさは本当に半端ない。
 そんじょそこらのアイドルくらいになら、勝ってしまいかねないくらいの。
 これで成績良いわ、運動神経も良いわ、料理上手いわ、ピアノなんかも弾けたりして、出来ないことの方を探す方が難しいくらい。
「甲子園、凄かったでしょ」
「……そうだね」
 あたしはアルプススタンドの後ろの方で、揺れるアッちゃんの後姿をずっと眺めていただけだったのだが。
 何となく足が向かなかったあたしは基本的にずっと留守番をしていた。
 決勝戦にまで勝ち進み、興奮した親に引きずられる形であたしは甲子園に向かったのだった。
 白状すればそれまでロクに応援してこなかったあたしには、あの時一緒になって優勝の喜びを分かち合う資格はないと思っている。
 そこまで厚顔無恥なわけがない。
 あたしの微妙そうな顔に気付いたのだろう、お姉ちゃんの顔から表情が消える。
 いつも朗らかで、いわゆる『愛されキャラ』で通していて、口も達者な姉だった。その姉の整った目鼻立ちから愛想が抜け落ちると、ひどく冷たい顔が残っていた。
「千恵ちゃん……」
「……何?」
 多分、可愛さの度合いが落ちるだけで、あたしも同じ表情をしているのだと思った。

330: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:22:38.81 UEkwDxDe
 姉の不服は感じていた。
 そこれそ物心ついた頃から……今日まで。今日までずっと。
 何もかもを持って生まれてきた姉だったけれど、それ故の不服。
 だからあたしも臨戦態勢を整える。一瞬で整った臨戦態勢は、いつか来るだろうと思っていたからだ。
 けれど、冷たい顔のままお姉ちゃんは頭を下げた。
「ありがとう」
「…………何が」
 さすがに拍子抜けした。あたしがお姉ちゃんにお礼を言われることなど思い当たらない。
「夏の後でね」
「ああ」
 カッちゃんの尻を叩いてグラウンドに追い立てた時のことであるらしかった。
 僅かに緊張感を残して、お姉ちゃんは顔を上げる。
「南がどんなに励ましても、カッちゃんは元気にならなかったから」
「……あの時のカッちゃんには、励ますよりも尻を蹴った方が早いと思っただけだよ」
 どうということのない、下らない出来事だった。
 エースだかトップだか知らないが、いじいじと引きこもっているのを見ているのが腹立たしかったから。
 より正確に言うのなら、カッちゃんよりもずっと負けが多いアッちゃんが、どんな結果を受けても……それでもにっこり笑って歌い続けたあの姿が……
「だって、あんなの負けたウチに入らないし。それに、カッちゃんが野球嫌いな訳がないんだから。それだけはあたしにさえ分かるような簡単なことだったよ」
 目に、焼きついていたから。あんな結果でもう引きこもる弟の諦めの良さが、癇に障ったのだ。
「…………アレは負けだよ」
「うん、試合はね」
「千恵ちゃんは……分かってないよ」
「だろうね」
 すっくと立ち上がるお姉ちゃんの顔は、逆光で見えない。
 見えなくて良かったと思う。
 迂闊だったと、今ようやく気付いた。
 あたしは姉をこてんぱんにやっつけてしまったのだった。
 今まであたしに負けたことなんてただの一度もない、無敵のお姉ちゃんを――

   ◇

331: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:23:34.79 UEkwDxDe
 あたしたちの高校二年の夏は、去年の繰り返しであるかのようだった。
 野球部は順当に勝ち続け、昨夏の雪辱をと周りは更に興奮する。
 周囲は期待をかけ、カッちゃん達はそれに当たり前の様に応えて更に強くなっていく。
 そして夏休み。
 その最初の週末……何の因果か、また第四試合だった。
 相手校は右腕本格派と左腕の変化球投手の二枚看板が売りの守りのチーム。
 周囲の予想通り長い長い投手戦となったその試合が終わったのは午後六時。
 吹奏楽部の定期演奏会の開演時間と同じで、あたしはまた応援に熱狂している家族を尻目にアッちゃんの方へと向かったのだった。

   ◇

 思わず
「おひさしぶり」
 なんて言ってしまった。
 開演前の雰囲気へ、あたしは感謝したのだった。言葉には出来ないけれど、色々なことへ。
 高校ながら昨年あちこちの大会でなかなかの成績をおさめ、マーチングのみならず全国区の音楽祭に招待される程の団体の定期演奏会だけあり、相変わらずの混みようだった。
 そんな客席の騒々しさと対照的に、微動だにしない緞帳の重圧がひどく楽しい。
 そう、これから楽しいことが起きる。
 その予感に、あたしの心は柄もなく浮き足立っている。
「今年のも会心の出来だよー」
 昨日帰ってきたアッちゃんは、待っていたあたしにそっとそう耳打ちしてくれたのだった。
 渡されたチケットは今年は一枚。
 捨てられることのない、大事な一枚。
 アッちゃんが自分たちの演奏を聴いて欲しいと思ったのはあたしだけだった。
 少しだけ誇らしくて、でもやっぱりちょっと寂しい。
 一応アッちゃんの身内が来てないか観客席を見回して……そして誰も居ないことを確認してから、落胆とも安堵ともつかないため息を一つついた。
 満員の観客席に開演を知らせるブザーが鳴り響き、照明が落ちる。
 それだけで騒々しかった周りが静まり返る。
 緞帳がゆっくりと開いて、僅かに舞台の光が広がっていく。
 光と共に溢れてくる音。
 まずはご挨拶代わりとばかりに聞こえてくるのは耳に馴染んだ我が校の校歌だ。
 期待と羨望のこもった拍手の中を指揮者がゆっくりと歩いていく。
 見慣れたただの音楽の先生が、今この時はまるで別人だ。
 右手が上がる。
 ただそれだけで全てを制して、そして目の前の演者達に……観客に緊張が走る。
 今年の一曲目はやはり恒例、コンクール用の演奏だ。
 今年の課題曲は和風のメロディが取り入れられているらしい。
 技術は当然のことながら、タイトル通りのイメージを聞き手に与えられるかどうかの演技力が問われる一曲であるらしい。
 アッちゃんはご飯の時まで体を揺らしてイメージの構築に没頭していた。一緒に屋上でお弁当を食べていて、何を話しても上の空だった。
 正直もう少しあたしの相手もして欲しかったのだけれど、真剣な顔で楽譜を見つめる姿が……ん、こういうことを言うのはあたしのキャラクターじゃないのだけれど。
 そう……とても格好良かった。
 あたしの幼なじみの、ちょっとだけ年上の男の子は……格好良いのだ。
 弟よりも小柄な背丈も、照れたような恥ずかっているような曖昧な笑みも、子供の頃から変わらない泣き虫な所も。
 そしてちょっとだけ優柔不断な態度も、時折掛けてくれる優しい言葉も……みんな、あたしの大切な宝物だ。
 けれどそんな大切な宝物は、全て過去へ押しやられていく。
 今あたしの目の前で舞台にかけているアッちゃんは、それまでの想い出のどれよりも格好良くて、それだけでドキドキする。
 クラリネットが、フルートが煌びやかに音を刻む中を重厚に進むメインメロディー。そしてトロンボーンが、アッちゃんが歌う。
 裏拍を踏んで始まったその音は、やがて激しく、大きくうねり終局へとなだれ込んでいく。
 そして静かに終わりの一節が響いてから、溶けていった。

332: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:24:37.32 UEkwDxDe
 一瞬遅れて生まれる拍手は、観客を飲み込むほどの演奏の証だ。だからこそ割れるような拍手が起きる。
 そしてその中を再び指揮者の右手が舞い上がる。
 ただそれだけで観客もまた静まり返る。
 続いて始まるのは壮大で華やかなメインメロディーが特徴的な曲。幾重にも幾重にも、華麗な衣装のようなメロディーのリフレイン。
 軽快に響く木管の音色を纏って、これでもかとばかりに歌われる主題は凄艶な金管の声。
 時に重々しく、時に華美に、時に鮮やかに――。
 そのタイトル通りの華々しさや品格なんかをいかに出せるかが勝負だと思っている。そう言ったアッちゃんだったけれど、あたしの心はとっくに奪われている。
 どんなに言葉を重ねたって、この歌の華麗さには敵わないように思えた。

   ◇

 全てが昨年よりも上回っていた。
 あたしは終始アッちゃん達の舞台に振り回されて、揺さぶられて、終わった時にはすっかりぼんやりとしてしまっていた。
 気が付くとどうやら無事に家には辿り着いていたようだ。
 去年と同じようにお姉ちゃんがスコアを見ている。
 あたしは努めて素っ気無い顔を作ってからお姉ちゃんの前を通り過ぎる。
「ただいま」
「……お帰り、どうだった」
「え?」
「え、って……アッちゃんの演奏会よ」
 振り返ると、お姉ちゃんが笑みを張り付かせてこちらを見据えていた。
「……ん、あたし音痴だから、よく分からなかったよ」
「嘘」
「嘘ったって……あー、それよりカッちゃんの方は?」
「負けるわけないわよ、カッちゃんは頭にバカがつく野球好きなんだから」
 まあ、そうかもしれないけれど。それにしてもお姉ちゃんの様子がおかしい。
「ねえ、何かあった?」
「何も。何もないよ」
 スコアを置いてお姉ちゃんが立ち上がる。
「それよりアッちゃんは」
「今日は帰ってこないんじゃない? 片付けやら何やらで忙しいらしいし」
「ねえ千恵ちゃん……南はね、甲子園に連れて行ってもらって……そうしたらどうすればいいんだろうね」
「知らないわよ、そんなこと」
 またつまらないことを。そう思ったけれど、お姉ちゃんは何だか寂しそうに、自虐的に笑って
「だよね、千恵ちゃんには分からないよね」
 と言い捨てて部屋に向かう。
 あたしは、そんな何かに負けたようなお姉ちゃんの背中がひどく痛々しくて、どうすればいいのか分からず……ただ見送った。

 付け足すと、数日後の決勝戦も無事に終了。我が校は二年連続の夏の甲子園出場を決めた。

   ◇

333: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:25:40.30 UEkwDxDe
 さすがに二年連続でそんなことはないらしい。
 カッちゃんの夏の甲子園第一試合は二日目、木曜日。
 アッちゃんのコンクールにはまるで関係のない日程で、あたしは密かに胸を撫で下ろす。
 あたし自信はどうでもいいのだけれど、これ以上アッちゃん達が悪者になるのは耐えられない。
 甲子園でアッちゃん達は歌う。
 それまで練習して積み上げ、磨いてきた音を犠牲にして。
 繊細に調えてきたものを、乱雑に扱われるのにもただ黙して。
 あたしは居た貯まれず、甲子園に行くことも出来ず、テレビでさえ見ることが出来なかった。
 密かに祈る。
 どうか、早くアッちゃん達が帰ってきて、自分達の練習に戻れますように、と。
 それはつまりカッちゃんに負けろと言っている訳で……あたしはそんな風に祈る自分の性悪さに、吐き気さえ覚えるのだった。

   ◇

 連戦をカッちゃんは乗り越えていく。
 全国から集り、勝利を求める相手校を見事に制して……今大会最高の投手とさえ言われている。
 そして決勝戦……ついに優勝の掛かった大一番にたどりついた。
 八月第三日曜日。
 決戦は応援に向かう父兄には絶好の日程で……応援に向かう吹奏楽部には、最悪の日程だった。

   ◇

 八月第三日曜日。
 吹奏楽連盟主催吹奏楽コンクール支部大会。
 またしても応援を優先しろを言う同窓会や学校を振り切り、アッちゃん達は自分達の舞台へと向かう。
 あたしに言わせればそれまで自分達の練習時間や音楽を全部犠牲にしてきたのに、それでもまだ不満があるというのかというところだが。
 大人はそうはいかないらしい。
 甲子園、決勝戦。
 それに比べれば、吹奏楽部の目標など下らないのだろう。
 一応コンクールに参加しない部員やOB等で応援団は結成され、ただ音を鳴らすだけなら十分な人数が用意されている。
 それでもダメであるらしい。
 あの同窓会の偉い人が、また音楽室に乗り込んで騒いだらしい。もちろん校長や教頭なんかも。
「アッちゃん……それでも行くよね?」
「……行く。俺達は応援団じゃない……吹奏楽部なんだから」
「うん!」
 帰ってきたアッちゃんは、待っていたあたしにそう言ってくれた。何もできないあたしだったけれど、それでもただ嬉しかった。

   ◇

 カッちゃんはまた優勝した。
 テレビや新聞や大人が大騒ぎしていた。

   ◇

334: ◆e4Y.sfC6Ow
11/12/31 08:28:26.25 UEkwDxDe
 周囲の反対を振り切って、それでも続けた練習は無駄じゃなかった。
 支部大会での演奏は、どの団体のそれよりも素晴らしい出来だった。少なくともあたしにはそう聴こえた。
 結果発表のあの瞬間、沸き立つアッちゃん達を遠目に見たあたしも泣きたくなるほど嬉しかった。
 いっぱい、いっぱい我慢を続けて。
 色んなモノを犠牲にして。
 色んなモノを奪われて。
 それでも歌い続けたアッちゃん達の、ようやく手にした栄光だった。
 カッちゃん達のソレが世間で大騒ぎになる中、アッちゃん達は反感を買ったせいかあまり喜んだりは出来なかったようだけれど。
 けれど、訳を知る人だけは心から精一杯の祝福を贈ったのだった。
 おめでとう、アッちゃん。

   ◇

「千恵ちゃん……やったよ」
 帰ってきたアッちゃんは、満面の笑みであたしの所に来てくれた。
 だからあたしも、めいっぱいの笑顔で出迎える。
「うん、聴いてた。凄かった。泣きそうになった」
「あははは、うん……うん」
 もうそれだけでアッちゃんはちょっと涙目になっている。
「ほら、嬉しい日なんだから、そんな泣かないでよ。本当に、アッちゃんはいつまで経っても泣き虫なんだから」
「そんなことないよ。俺、千恵ちゃんよりも年上なんだよ」
「それでも、体はあたしよりもずっとおっきくなっても……それでも」
「ん……あのさ、普門館にさ……聴きに来て欲しい。俺、精一杯やるから、聴いて欲しい」
「うん、絶対に行く」
 小さな頃から捻くれ者だったあたしを、いつも気にしてくれていた男の子がやっとの思いで手にしたもの。
 それをあたしに聴かせてくれる。
 あたしにも分けてくれる。
 その栄誉に、あたしは感謝と歓喜で胸を高鳴らせるのだった。

   ◇


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