【友達≦】幼馴染み萌えスレ23章【<恋人】at EROPARO
【友達≦】幼馴染み萌えスレ23章【<恋人】 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
11/09/15 10:27:19.28 2tGA7R0t
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初代スレ:幼馴染みとHする小説
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3:名無しさん@ピンキー
11/09/15 10:27:45.93 2tGA7R0t
*関連スレッド*
気の強い娘がしおらしくなる瞬間に… 第9章(派生元スレ)
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いもうと大好きスレッド! Part 5(ここから派生したスレ)
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お姉さん大好き PART6
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次スレはレス数950or容量480KBを超えたら立ててください。
では職人様方読者様方ともに今後の幼馴染スレの繁栄を願って。
以下↓

4:名無しさん@ピンキー
11/09/15 10:33:10.94 jEQlrleo
>>1

5: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 22:50:51.40 jEQlrleo
新スレ一発目、行かせていただきます。
色々諦めてトリップつけてみた。

ほとり歳時記三期目は、予告どおりストーリーとしてはあまり起伏のない挿話集の予定です。
00-00といった番号が頭に振られていますが、これはこれまでに書いてきたお話の中の、どの辺りの時間のことかを表しています。
例えば01-02.1なら一期目二話が終わった後、といった塩梅です。分かりにくくて申し訳ない。

あと、同時進行でもう一つ別のも用意してみました。
こちらは甲子園や、某ラブコメの名作のファンの方はあまり良い顔をされないかもしれません。
そういう内容ですので、ご留意下さい。
新作『stadium/upbeat』も一気にいきます。

では、まずはほとり歳時記三期目から。よろしくお願いします。

6: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 22:52:09.90 jEQlrleo
ほとり歳時記 三期目

03-01 デッサン

 何が楽しいのか、ほとりはニコニコとしている。
「ひとのまくらはよいまくら~」
「何の歌だよ、それ」
 人の腕を枕にして、ほとりははしゃいでいる。普段とは違う環境が、よほど楽しいのだろう。
「んー、お泊り。わくわくさんだ」
「今日は何を作るんだい?」
「あははは、下手くそー」
 着ぐるみの声はほとりには不評だった。
 灯りを落とした部屋で、小さな声ではしゃぐのは、まるで修学旅行か何かのようだ。
 もっとも、俺とほとり以外誰もいないのだけれど。
 見知らぬ天井、すぐそこを流れる川のせせらぎに耳を傾けていると、ほとりが呆然と呟いた。
「おかしいね」
 ほとりは人の腕を枕にしたまま、俺の顔を見上げている。
 夜空をまとめて詰め込んだような瞳が、窓から差し込む月明かりを映して揺らめいている。その中に間抜けな顔をした自分が居る。
「何が」
 尋ねると、ほとりは悪戯っぽく微笑んでから
「わかんないけど」
 と人の腕に顔を埋めてみせた。
 腕の中ではしゃぐほとりの頭を撫でながら、俺は明日の予定をいい加減に立てることにした。

7: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 22:53:40.53 jEQlrleo
 大学受験が終わった数日後、俺とほとりは旅行に出た。
 卒業旅行というヤツだ。といっても温泉宿に二泊三日というささやかなものだが。
 年末、商店街でしていた福引で当てたものだった。
 因みに俺はクジ運は悪い。自慢じゃないが、自販機の当たりでさえ引いたことがない。アイスのクジも、一回あったか、なかったか。その程度だ。
 ほとりもそう良い方ではない。たしか何かの雑誌の懸賞を当てたことがあるくらいだった。
 俺達のクジ運はどこに言ったかといえば、多分それはかがりさんだ。
 かがりさんのクジ運は凄い。もはや神のご加護でもあるんじゃないという位だ。ウチの氏神様って、クジ運をどうこう出来るんだろうか?
 さておき、そのかがりさんが当てた温泉旅行だったが、俺達に譲ってくれたのだった。
 兄貴と行くようにと言ったのだが、かがりさんは
「んー、あたしは大丈夫。今度ちゃんと連れて行ってくれるから。ね」
 と微笑む。後ろで兄貴は
「人が多いところは嫌だぞ」
 と、呆然と言ってのけた。や、つか、兄貴は旅行ぐらいしたらいいと思う、放っておくと何もしないぐうたらなんだから。
 とにかく、かがりさんの厚意に甘える形で、俺とほとりは卒業旅行に行くことになったのだった。

 温泉街をほとりを伴ない歩き、その辺りのお店を適当に冷やかし、地元とは違った趣の風景を眺めるだけの穏やかな旅行だ。
 およそ年頃の男女がする旅行とは思えないような趣味の内容だが、俺は満足だ。
 自慢じゃないが、俺の州崎ほとりは幸せ上手だ。
 ささやかなことでも本当に楽しそうに、嬉しそうに受け入れてみせている。
 ひなびた温泉街のお土産屋で、お店番のご老人相手に随分話しこんでいる。ああいう聞き上手な所は、俺は嫌いじゃなかった。
「ゴメンね、話し込んで」
 たっぷり二十分はこの辺りの話をしてきたほとりは、申し訳なさそうに俺を見上げる。
「んにゃ、お前は得意だよな、ああいうの」
「そうかな」
「ああ」
 申し訳なさそうなほとりの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めていた。
 そういえば、ご老人は帰り際に
「よほど良い家庭に恵まれたようだねぇ」
 と嬉しそうにされていた。
 ほとりの育ちは、今日日珍しいくらいに良いと思う。
 他所の子の俺が思うくらい、良い家族だと思う。

8: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 22:54:46.14 jEQlrleo
 ひなびた温泉街をウロウロしていると、ふとつぶれた映画館らしい建物を見つけた。
「映画って言えばね、お父さんの話したことあったっけ?」
「ん? 親父さんが、どうかしたか?」
 ほとりはクスクスと楽しそうに笑った。
「お父さんって、映画館で映画観るの苦手なの」
「へえ、まあ分かるよ」
「修も得意じゃないよね」
「ああ」
 映画に限らないが、どうもあの手合いのものは長い間見ていられない。途中、自分ならこうする、といったことを考えてしまい、画面に集中できないのだ。
「お父さんは修とちょっと違うよ、単純に寝ちゃうんだから」
「あー、なるほど」
 なんとなくその場面が目に浮かんだ。
「いつだったか、お父さんと映画館に行ったんだ」
 高校に入ってすぐのことだそうだ。それもかがりさんが何かで当てた、映画の先行上映会だったらしい。
 小母さんに「たまには行って来たら?」とせっつかれ、照れ屋でせっかちな親父さんはビールで勢いをつけてからほとりを連れて映画館へ。
 行ったはいいものの、役者の舞台挨拶の辺りで親父さんはうっつらうっつらし始め、暗くなったとたん眠ってしまったそうだ。
 それから何度も起こすのだが、目を開けるのはその時だけ。
 結局内容は何も分かっていなかったらしい。
 前評判の良い恋愛物というのもまた、親父さんとはミスマッチだが。
 帰ってきた親父さんは、小母さんに「あの女優さん、どうでした?」と尋ねられて「そんなヤツ出ていたか?」と返したそうだ。
 親父さんの口調を真似るほとりが、妙に上手くて俺は声をあげて笑った。

 食事を終えて、風呂も堪能し、窓際でぼんやりと外を眺めていると、ふと親父が母さんに爪を切ってもらっていた時のことを思い出した。
 夜に爪を切ると親の死に目にあえなくなる、などと言うが、親父などはそういうことに妙に律儀だった。
 実家を嫌がってはいても、古い家での教育が骨身にしみているのかもしれない。
 風呂上りにパチパチやっていると、親父が苦い顔で
「お前は親の死に目にあいたくないのか」
 とビールを呷っていた。ふと自分の死ぬ時でも想像したのか、親父は複雑そうな顔になって
「とにかく、そのくらいにしろ」
 と爪切りを取り上げた。
 かと思えば、自分は風呂上りに母さんに足の爪を切ってもらっていた。
「俺はもう居ないからいいんだ」
 と、親父はふん、と言い訳のようなことを口にする。
 ぱちり、ぱちりという音はひどく重く、俺は変な気分で、いつまでも見るものではない気がした。
「ね、何が見える?」
 湯上りの、石鹸の匂いをさせてほとりが寄ってきて、俺は思わず抱きしめていた。
「ッ、どうしたの、急に甘えんぼ?」
「……そうだな」
 湯上りのほとりは、一際良い抱き心地だった。

9: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 22:56:31.15 jEQlrleo
歯磨いたか?
顔洗ったか?
もう1パート!

いったれ千恵ちゃん!

五分後にまた。

10: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:03:48.93 jEQlrleo
stadium/upbeat

01. Bravado

 あたしの家の隣には、二人の兄弟が住んでいる。武司さん家の兄弟だ。
 兄の敦也と弟の和也。アッちゃん、カッちゃんとあたしは呼んでいる。
 和也なんて名前を弟の方に付けたのは、おじさんが古い野球漫画のファンだかららしい。
 志半ばで倒れた弟にぜひ甲子園に行ってもらいたかったらしく、和也と名付けたとのことだ。
 一つ年上のお兄さんの方も本当なら漫画から付けたかったそうだけれど、言い出せなくて妥協した結果敦也になったらしい。
 だから少しだけ漫画とは違う名前の兄弟が出来上がった訳だ。
 隣に住むあたし達深瀬一家の父もやはり同じ漫画のファンらしく、女の子が生まれて大喜び。意気揚々と漫画と同じく南と名付けた。
 ただ、何事も上手くいかないもの。お隣の武司さん家が双子じゃない兄弟で違う名前になったように、ウチも少し誤差が出た。
 カッちゃんと同じ学年に南ちゃんと、もう一人妹が生まれたのだ。
 それがあたし――深瀬千恵。もう少しで北ちゃんと名付けられそうになった双子の妹だ。

 どちらかと言えば口下手でのんびり屋さんのアッちゃんに比べると、器用なカッちゃんは漫画の様に育った。
 親の教育の為かどうかはあたしには分からないが、ウチは少なくともそう誘導していた節がある。
 漫画の影響をありありと受けてしまった我が姉、南は見事な優等生キャラを確立している。
 今でも忘れられないのだが、幼い頃、名前の由来を聞いたあたし達姉妹は逆の反応を見せた。
 姉の南は喜んで漫画通りお隣の兄弟に「南を甲子園につれてって」と言ったのだ。
 アッちゃんは答えかねて曖昧に笑い、カッちゃんは得意そうな顔で「うん」と言っていた。
 あたしはと言えば、そんなバカバカしい理由で名前を付けられたのかと思うとウンザリした。冗談じゃない。もっとも、あの漫画に双子の妹なんてのは居ない。
 そう考えると、あたしが自分の……というかあの三人の名前の由来を聞いて疎外感を覚えるのは当たり前だった。
 千恵という名前を付けてくれたのは、もう死んだお婆ちゃんらしい。お母さんの名前、一恵から一字貰って千恵。
 漫画から付けられるより、ずっと嬉しくて誇らしい名前だった。
 けれど、それが負け惜しみも少し混じっていることも分かっている。
 誇らしくて嬉しい名前。けれど一人だけ違う所以の名前。
 それがあたしには寂しかった。高校に入ってようやく、そんなことを受け入れられたのだけれど。
 だから反抗期らしい紆余曲折のトラブルを乗り越えてまた何となく仲良くなったあたし達四人だったけれど、あたしは少しだけ疎外感も覚えていたのだ。
 あたし一人、違う所以の名前を持ち、それゆえに物語の傍観者でしかないのだ。
 あるいはこれは、あたしの虚勢の物語でもあるのかもしれない。

   ◇

11: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:05:02.07 jEQlrleo
 私達の通う公立高校は、県下有数の野球強豪校だ。これまでにも幾度となく甲子園に出場し、プロ選手も何人も輩出している。
 この夏の甲子園も、この調子ならば出場できそうな雰囲気だった。
 初戦で県外から有力選手を集めてきた私立と当たり、さすがにダメかと観念していたのだが一年生エースの見事なピッチングでこれに快勝。
 そこからはもう波に乗り、向かう所敵なし。
 新設校相手とはいえ一年生エースがノーヒットノーランをすれば、昨年の雪辱を狙う並み居る強豪に競り勝ち、次はいよいよ決勝。
 相手は我が県が誇るもう一つの野球強豪高校、強力打線が売りの工業高校だ。
 新聞やテレビは大々的に報じる。
 強力打線対一年生エース。あの漫画と同じ名前を持つ天才ピッチャーの行方に、大人達は一喜一憂しているのだった。

   ◇

 春。
 あたしとお姉ちゃん、そして幼なじみの男の子は高校に進学した。
 県内屈指の野球の強豪校。姉、南にとってはそこに入学するのは念願だったようだ。
 早々に推薦入学を手にしたカッちゃんは、あたし達姉妹が同じ進路なのをことの他喜んでいた。
 野球の名門校。お姉ちゃんとカッちゃんにとってはそれはそれは大切なファクターだった訳だ。
 同じ高校に一足先に入学していたアッちゃんは、あたしが同じ進路だと聞くと
「そうかー、頑張れよ」
 とのんびり笑うのだった。
 のんびり屋さんで、ぼんやりしていて、運動なんてからっきし。漫画と違う点があるとすれば、アッちゃんは野球なんかこれっぽっちも出来ないということだ。
 下手をすればあたしの方が上手いんじゃないだろうか。
 そんなみんなのお兄さん、アッちゃんだったけれど、中学から始めた吹奏楽は楽しいようだった。
 とはいえ、そこはのんびりしているアッちゃんのこと。お世辞にも上手いとは言えず、要領悪く四苦八苦しながら練習してるのだった。
 だからアッちゃんにとって我が校は野球の名門校ではなく、吹奏楽の名門校なのだった。
 そう、我が校は県内屈指の野球強豪校にして、吹奏楽を初めとする文科系も優秀な成績を修めている。
 過去幾度となく文部科学大臣賞を受賞している美術部などはマスコミにもちょくちょく出ている。
 アッちゃんにとっては吹奏楽の名門校。
 カッちゃんとお姉ちゃんにとっては野球の名門校。
 けれどあたしにとってこの高校は、ごくありふれた公立高校でしかなかった。
 志望動機を問われれば、あたしは単に幼なじみの二人やお姉ちゃんに置いてけぼりにされたくなかっただけだった。

   ◇

12: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:06:15.49 jEQlrleo
 中学で既に県下のみならず県外私立校のスカウトからも垂涎の的だったカッちゃん。
 非の打ち所のない美少女で、成績も運動も優秀。愛想も良くて名前からカッちゃんとセットで扱われていたお姉ちゃん。
 あたしはといえば双子だけれどあまり似ていないこともあり、目立たないごく普通の女子生徒だった。
 もっとも、自分からなるべく目立たないようにしてきたのもあるのだけれど。
 そんな関係は高校になっても変わらない。
 あたしはごくごく普通の女子生徒として、たまにお姉ちゃんの妹ということで驚かれたりするくらいの生活を送っていた。

「南の応援、聞こえてた?」
 お姉ちゃんは自分のことを名前で呼ぶ。
 これも例の漫画の影響だ。
「勿論」
 答えるカッちゃんは得意そうだ。カッちゃんの口調も影響を受けている。正直に言わせて貰うと、二人の会話はどうにも芝居がかっていて変だ。
 そう思っているのは、どうやらあたしくらいのものらしいけれど。
 明日は決勝戦ということで、カッちゃんは軽めのトレーニングだけで帰ってきている。
 カッちゃんの為に夕飯を用意したお姉ちゃんは、楽しそうに柔軟の手伝いをしている。
 あたしはといえば特にすることもなく、自分の食事を終えてもう部屋に帰ろうかと思っていた所だ。
 ふと外に目を向けると、丁度アッちゃんが帰って来ていた。
 今アッちゃんの家では近所の不良中年が集り、未来のヒーローへの祝杯を延々と挙げ続けているはずだ。
 もちろんそんな所にアッちゃんの食事なんかあるはずもない。
 あたしは夕飯の残りをいい加減にタッパーに詰めてから、アッちゃんの家へ駆け込んだ。
 案の定、要領の悪いアッちゃんは台所で小さくなってお茶菓子の余りをもそもそ齧っていた。
 あたしを(というよりも手の中のタッパーを)見るなりアッちゃんのお母さんは察したようで、にっこり笑って招き入れてくれた。
 挨拶もそこそこに、おばさんはつまみであるらしい大量の食べ物を宴会場と化している仏間へと運び始める。
 あたしはその背中と、居心地悪そうなアッちゃんを見比べてから
「……晩御飯」
 とタッパーを置いた。
 アッちゃんは少し驚いてからタッパーを覗き込み
「うん、旨そうだ。ありがとう、千恵ちゃん」
 と微笑んだ。
「ご飯は?」
「多分あるんじゃないかな?」
 アッちゃんは炊飯器を開いて、しばらく考えてから
「少し前まではあったみたいだ」
 と何が楽しいのか笑みを浮かべてみせる。
 その呑気な顔に、あたしはむかっ腹が立った。
 要領が悪くて、いつも貧乏くじばかり引いて、それでも微笑んでさえみせる。
 そんなアッちゃんや、それを当たり前と思っているらしい周りの大人や、そして何よりもそんな時イライラするしかないあたしに。
 あたしは何も言わずに急いで自分の家からご飯も取ってくる。
 アッちゃんは硬めのご飯が好きだけれど、カッちゃんはそうじゃない。だからいつもウチのご飯を喜んで食べてくれる。
 そう思えば、今回ばかりはそう貧乏くじじゃないのかもしれない。

13: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:07:25.37 jEQlrleo
 いかにも美味しそうに夕食を平らげたアッちゃんは、静かに微笑んで
「ありがとう、千恵ちゃん」
 ともう一度言った。
 どうやらおばさんも宴会に巻き込まれたらしい、先ほどから帰ってこない。
「あたしが作ったんじゃないから」
「でも俺を気にして持ってきてくれたんだろ? あのままじゃせいぜいつまみの余りくらいしかなかっただろうから、助かったよ。だからありがとう」
 本当に、貧乏くじもいい所だ。
「和也、そっちに居るのか?」
 アッちゃんにお茶を淹れてあげると、それを啜りながら尋ねられる。
「そうよ、今お姉ちゃんが相手してる。明日に備えてストレッチの真似事してる」
「そうかー」
 アッちゃんは他人事のようにお茶を一啜りする。
「さっきも『南の応援聞こえた?』とかやってた」
「そうか、南ちゃんのそれ、まだ直ってないのか」
「それ?」
 一つ年上のアッちゃんは困ったように微笑む。
「一人称。高校生の一人称が名前っていうのも結構痛いからなあ、何とかしてやんないと」
 驚く。周りの大人達はジンクスだか願掛けだかで、お姉ちゃんの悪癖を嗜めようともしないのに。
「アッちゃんは、アレどうにかした方がいいと思うんだ?」
 アッちゃんは不思議そうに首を傾げてから
「当たり前だろう? 小さい子ならとにかく、あと四、五年もすれば成人するのに。社会に出てから恥かくだろうし」
 とごく真っ当な、けれどあたし以外では始めての意見を口にした。
「…………アッちゃんも、そう思っていたんだ」
「そりゃあね、今もうすでにギリギリだと思うし」
「ギリギリだよ、本当だよ」
 仏間では、今も未来のエースを讃える祝杯が続いている。
 明日の、約束された勝利をお祝いする声が続いている。

 アッちゃんとあたしは、そんなお祝いムードの中に取り残されていたのだった。

   ◇

 入学式を終えてすぐ、カッちゃんは野球部へ入部した。お姉ちゃんももちろんマネージャーに。
 とりあえずお姉ちゃんは新体操なんてする気はなく、三年間ずっとマネージャーのつもりらしい。
 あたしはといえば、どこにも入部しなかった。
 長い黒髪が目を引く美人の先輩から郷文研に、地味な格好だけれど可愛い先輩からは文芸部に誘われたけれどお断りさせてもらった。
 そのどちらかに入部したら、またおかしなことになりそうだったからだ。その様子を見ていた男の先輩二人が
「一本釣り失敗」
 とか言っていたけれど、そこはスルーで。
 アッちゃんの居る吹奏楽部に行こうかな、とも少しだけ思ったけれど、あたしは自分で言うのもアレだけれど致命的に音感もリズム感もない。
 アッちゃんに言わせれば
「奇跡のリズミカルさだ」
 らしいけれど。
 マーチをワルツに出来るのは世界であたしだけらしい。
 何事もオンリーワンよりナンバーワンの方が良いと思うので、あたしは音楽に関しては聴衆になる以外は辞退することにしている。

14: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:08:35.94 jEQlrleo
 天才投手武司和也と、その兄にしてごく普通の吹奏楽部員武司敦也。
 校長を初め諸先生方は、アッちゃんを捕まえては
「今日まで練習してきた成果を披露する時が来たな」
 と声を掛ける。
 アッちゃんは困ったように微笑むだけだ、が。
 あたしは思う。面白くない。
 アッちゃんはカッちゃんの為に歌っている訳ではない。ただアッちゃんは、舞台が好きなだけなのだ。
 自分の好きなもの、大切なものの為に頑張っているのだ、アッちゃんは。カッちゃんが両親や周りの大人達や、お姉ちゃんの期待に応えているように。
 差異はその程度だけれど、周りの大人達はそうは思わない。天才投手を応援する為にアッちゃんが吹奏楽をやっていると思っているのだ。
 先日、気の早いローカル紙の記者がアッちゃんとカッちゃん、お姉ちゃんの取材に来た。
 記者は散々二人の過去を根掘り葉掘りほじくり返して、天才投手の弟とそれを必死に応援する兄の虚像を作っていた。
 そして最後に記者はアッちゃんに向かって
「これで甲子園で演奏できますね」
 なんてことを言った。
 アッちゃんは困ったようにしばらく首を傾げてから
「縁があれば」
 とぼんやりとした答えを口にした。多分それが、アッちゃんのギリギリ妥協できるラインだったのだと思う。
 けれどそんなアッちゃんを、記者は不服そうに見てから帰っていった。
 多分、あそこで甲子園で演奏できて光栄だ、とか嬉しい、とか、その機会をくれた弟に感謝、とか言って欲しかったのだろう。
 だがその辺りはアッちゃんだって分かっている。分かった上で惚けてみせたのだ。
 アッちゃんと、アッちゃんの仲間がする演奏は、カッちゃんや野球部の為にあるのではないのだ。
 その分の愛想はお姉ちゃんが振りまいたから、十分だろう。
 あたしはといえば、居心地が悪くてずっと奥に引っ込んでいた。
 本当はあたしも取材対象だったそうだけれど(それは多分オマケとかお情けとかでだろうけれど)あの日が重くて気分が優れないと言い張り逃げた。
 多分記者があたしに期待した答えは、お姉ちゃん共々頑張って応援します、程度だ。穿った見方をすれば『南ちゃん』の当て馬か。

15: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:12:18.08 jEQlrleo
 吹奏楽部は夏休みに入ってすぐの週末に定期演奏会を開くのが通例で、あたしはアッちゃんに誘われて観に行くことになった。
 カッちゃんやお姉ちゃん、おじさんおばさんにウチの両親にも来て欲しいとチケットを渡していた。
 運の悪いことに、と言うべきか否か。その日は丁度野球部の県予選の試合でもあった。それも第四試合。
 終わってから駆けつければ、ギリギリ演奏会に間に合うかどうかの時間だった。
 けれどそれまでの試合が長引いたこともあり、その日の第四試合が始まったのは予定時間を随分過ぎていた。
 相手校は堅い守備と甲子園出場経験もある三年生投手が自慢で、大人達の予想通り投手戦になった。
 一日で一番暑い中を二人の投手は好投を見せ、一点も入らないまま試合は延長戦に。長い長い試合になった。そうだ。
 実の所あたしは最後まで見ていない。
 七回の辺りでアッちゃんの演奏会に間に合わなくなりそうだったので、とっとと帰ることにしたのだ。
 他のみんなは「私達の分までアッちゃんをお願い」とメールで寄越して来ただけだった。
 仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。けれどどこか釈然としないものを感じながら、あたしは花屋に寄って自分のお小遣いで買える精一杯大きな花を買った。
 今の自分の気持ちをいっぱいにこめた花を受付に渡してから客席へ。
 高校の吹奏楽部の演奏会とはいえ、県内屈指の実力を誇る団体だけあり客席は満杯だった。
 あたしは後ろの方にどうにか腰を落ち着けると、一応周りを確認してみた。ウチの両親やおじさんおばさん、そしてお姉ちゃんは居ない。当たり前だけれど。
 試合がいつまで続くのか分からないけれど、早く終わればいいと思った。
 あたし以外に、アッちゃんの身内はいないまま開幕。
 八月最初の週末は吹奏楽コンクールの県大会。その課題曲と自由曲、その二つを初めに披露する第一部の始まりだ。
 今年選んだ課題曲はコンサートマーチで、軽快なリズムと優美なメロディーが特徴(であるらしい)
 自由曲はローマの英雄を題材にした交響詩。
 吹奏楽では人気の作曲家による作品で、技術面は当然としていかにそのドラマ性を音楽に出来るかの表現力も問われる一曲(であるらしい)
 もちろんアッちゃんが後から教えてくれたことだが。
 その時のあたしにはそんな小難しいことは全然分からなかった。
 けれど一つだけ分かったことがあった。

16: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:13:33.77 jEQlrleo
 アッちゃん達は、こんな凄いことが出来るんだと。
 顧問の先生が指揮台に上がり、部員達を見渡す。そしてすっとその右手が上がると、それに応えるように僅かな音を立てて楽器が構えられる。
 その瞬間、始まりの一音が出るまでのその僅かな時。
 あたしは鳥肌を立てた。こんな緊張感は他に味わったことはない。何かが始まるという予感にあたしは息を飲んだ。
 この瞬間、世界中全ての音は存在さえ許されないのではないかとさえ思えた。
 そしてあたしは自然とアッちゃんを見つけていた。
 トロンボーン、と言うらしい楽器を構えたアッちゃんは、見たこともない表情をしていた。
 あたしがそんなアッちゃんを知ることが出来たのは自分一人だけだという優越感と、本当にあれはアッちゃんなのかという不安感が複雑に絡まった気持ちを持て余していると。
 音が弾けた。
 それは耳で聴くのではなく、肌で受けると言った方が正しいような音の氾濫だった。
 それまでの緊張感を切り払い、物語が始まるような音楽が響く。その瞬間、確かに世界が切り替わったのだ、音による虚構に。
 音楽の知識もセンスも何もないあたしだったけれど、のんびり屋さんなアッちゃんが入れ込む理由は分かった。
 どう言葉にすればのかさえ分からないけれど、訳もなく泣きたくなった。
 何かあるとすぐに泣いてみせる女の子もいるが、あたしはアレが嫌いだった。
 ただの傍観者が結果だけを見て、全てを分かち合おうというかのような態度がとても嫌いだったからだ。
 泣いていいのは、当事者かそれをずっと支えてきた人だけだ。
 泣くということは、特別でとても大切なことだから。と得意そうに教えてくれたのは誰だったか?
 定かではないが、その特別で大切なことを押さえきれない衝動にかられた。溢れてしまいそうな沢山の感情を持て余してしまっていた。
 嬉しくて誇らしくて羨ましくて寂しくて悲しくて腹立たしくて……泣きたくなった。
 けれどあたしに泣く資格はないから、それをぐっと我慢して耳を、体を舞台に集中させる。
 軽快に続くマーチ、そしてその流れもそのままに始まる音楽による叙事詩。
 始まる前、世界中の音が存在を許されないと思った。その理由が分かった。
 全ての音は、今間違いなくこの舞台の為に集っているのだ。
 世界中の音は、今この舞台で歌われる為にある。そう言い切ってさえ良い気持ちになる。
 後でそうアッちゃんに言うと、困ったような顔で「言い過ぎだよ」と苦笑していたけれど、この時のあたしにはそれが真実だった。
 自分の理解の及ばないものに打ち据えられ、揺さぶられ、呆然としている間に終わってしまった。よく分からないまま、ただただ凄いとしか言えない様な時間だった。
 最後の一音が溶けていくと同時に、あたしは力の限り手を叩いていた。
 割れんばかりの拍手に会場が包まれているのを、あたしは自分のことの様に嬉しいと思った。
 舞台は終わらない。第二部はステージドリル。演奏のみならず、演技でも舞台を行う華やかな時間。
 続いて第三部はあたしでも知ってる曲が並ぶポップスステージ。流行り歌に定番の一曲、様々な歌が巡っていく。
 歌い、踊り、演奏だけに終わらない舞台は、時間が矢の様に過ぎていく。
 けれどそれも永遠に続くものではない。
 最後の演目まで演奏し終え、アンコールに応え、そしてとうとう幕が下ろされる。
……舞台がはねて、そしてあたしは気が付いた。
 現実に戻ってきている。舞台に立つことを、アッちゃんは「まるで夢を見ているみたい」と言っていたことを思い出した。
 確かにその通りだった。まるで夢を見ているみたいな時間だった。
 多分、世の中にはもっと凄い演奏家や歌手が居て、もっと素晴らしい舞台があるのかも知れない。
 そうなのだとしても、何も知らないあたしにとって今日の舞台は……「まるで夢を見ているみたい」だった。

17: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:14:44.19 jEQlrleo
 興奮冷めやらぬまま家に帰ると、両親は居なかった。
 お姉ちゃんは制服のまま食卓でスコアと思しいノートを眺めてニヤニヤしている。
「おかえりー」
 お姉ちゃんはニコニコと上機嫌だった。
「……試合、いつ終わったの?」
 その上機嫌なお姉ちゃんに、あたしは一番気になっていたことを尋ねた。食器棚から適当に選んだグラスを手にする。
「延長十一回、千恵ちゃんが帰ってから四十分くらいかな」
「そっか。勝ったんでしょ」
 どうせ、とは言わない。
「そうだよ! カッちゃん凄かったんだよ! 延長十回裏にカッちゃんのタイムリー! で、その後の十一回もきっちりカッちゃんが守ってそれが決勝点になったの」
「そっか」
 あたしは冷蔵庫から冷えた麦茶を出して注ぐと、一気に飲み干した。
「お父さんとお母さんは?」
「祝勝会。帰ってきてからもう優勝したみたいな騒ぎで、カッちゃんの家で盛り上がってたよ。おじさんもおばさんもすっごく喜んでたんだから」
「……そっか」
 あれから四十分なら、半分くらいはアッちゃんの演奏会を見られたはずなんだけど……祝勝会をしていたのか、おじさん達。
 グラスを流しに置いてから、あたしはため息をついた。
「どうしたの? 甲子園だよ、甲子園! カッちゃんなら絶対甲子園行けるんだから!」
 お姉ちゃんは顔いっぱいの笑顔であたしを見つめている。何一つの疑問も迷いもない、綺麗な笑顔だった。地元の雑誌に載るほどの美少女の、自信にあふれた笑顔だった。
「かもね」
 あたしはお姉ちゃんのそれと同じになるように祈るような気持ちで笑みを模ってみせた。
「そうだよ、千恵ちゃんも次は最後まで応援してね、凄いんだから。どうせなら甲子園に行くところ見たいでしょ? 千恵ちゃんも」
「分かった、お姉ちゃん」
 居た堪れなくなり部屋に戻ろうとするあたしの背中に
「ああそうだ、忘れてた。アッちゃんはどうだった?」
 とお姉ちゃんは付け足した。
「…………あたし音痴だから、音楽の善し悪しなんて良く分からないよ」
 振り返るとどんな言葉が口から出てくるか分からない。あたしは精一杯の妥協を口にして、その日はもう部屋から出なかった。

 ひどく惨めで、悔しくて、寂しい気持ちだった。
 たった二時間の演奏会、その為に懸けるのは半年。アッちゃんは誇らしそうにそう言った。
 まだ雪がちらつく季節から、たった二時間の演奏会の為に選曲をし、下積みの練習をし、開催の為の準備を続けるのだ。
 だからあの演奏会は、その時間の集大成。
 野球部の県予選と優劣を競うなんてことは意味のないことだ。
 音楽は取り返しのつかない芸術だ、と吹奏楽部の顧問の先生は舞台がはねる前に語った。
「リハーサルが終わった段階でこの舞台は99パーセント成功している。残り1パーセント、最後の一回っきりの本番でどれだけのものが出せるか。それが勝負だから」
 そう言う顧問の先生の後ろで、部員達は誇らしそうに胸を張っている。
「音楽は取り返しのつかない芸術だから、この一回に頑張っていこうと、生徒達には伝えました」
 思わずアッちゃんを探す。いつもの曖昧な苦笑ではない。自信に満ちた、堂々とした笑顔だった。
「そしてその残り1パーセントも、皆さんの暖かい拍手で満ちたように思えます。ありがとうございました」
 あたしの拍手が、最後の1パーセントになったのか。
 あたしは吹奏楽部から逆に素晴らしいものをプレゼントされた気持ちになった。
 その気持ちと、他の何かと優劣をつけようなんて微塵も思わない。
 思わないけれど、寂しかった。
 隣の家からは、楽しそうな声がカッちゃんの勝利を讃えている。どうやらお姉ちゃんも混じったみたいだった。
 アッちゃんが今日は後片付けや何やらで学校に泊り込むことになっているのが、唯一の救いだった。

18: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:15:52.37 jEQlrleo
 翌日両親やおじさん達から演奏会の感想を尋ねられたが、あたしは「よく分からなかった」としか答えなかった。
 勿体ないと思ったからだ。アレは、実際に聴いた人だけのものだ。
 両親は苦笑して「音楽の分からない奴だ」と言い、おじさん達も困っていた。
 ただ、その後母が
 「まあ演奏会は来年もあるけど、県予選の試合は一回っきり。次どうなるか分からないし」
 と言った時に、黙ってその場を立ち去ったのは我ながら中々の忍耐力だったように思う。

 その日の夜、帰ってきたアッちゃんはわざわざあたしの所に
「見に来てくれてたんだね、ありがとう」
 と言いに来てくれた。
 とても満足そうな笑みだった。
「あの、でもあたししか行けなくて」
「うん、まあみんな疲れてたんだろうしね」
「……アッちゃんは、怒ってないの?」
「千恵ちゃんが見てくれたなら十分だよ。あ、そうだ。あんな大きな花大変だっただろ? あれも嬉しかったよ、本当にありがとう」
 答えあぐねてどうすれば良いのか分からなくなったあたしに、アッちゃんはいつもの優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。
「本当にありがとう、千恵ちゃん」
「アッちゃん……凄かったよ、演奏会。感動した。上手く言えないけど、本当に凄かった」
「うん……そう言ってもらえたなら、俺も他のみんなも満足だよ」

 定期演奏会を終えた吹奏楽部は、八月第一週の日曜に行われるコンクールが次の目標になる。
 演奏するのは、定期演奏会でも披露していたあの曲だ。
 このコンクールで県の代表に選ばれれば、次は支部大会。そしてその支部大会で代表権を獲得すれば全国大会へ参加出来るそうだ。
 普門館。
 吹奏楽をする人間なら、一度は立ってみたいと思う舞台なのだと、アッちゃんは言う。
 日本最大の吹奏楽のコンクール。日本でいちばんの吹奏楽部を決める大会。
 だからそこは『吹奏楽の甲子園』と呼ばれているのだそうだ。
 何とも皮肉なことに、アッちゃんも『甲子園』へ行こうとしているのだ。
 定期演奏会の翌日から休みもなく練習だったらしく、アッちゃんは花のお礼を言うとそのまま帰ってしまった。
 明日も早くから練習だから、もう後はお風呂に入ってご飯食べて寝るだけらしい。

 そうしてアッちゃんもカッちゃんもそれぞれ練習や試合に打ち込み、数日が過ぎた。
 順調に勝ち進んだカッちゃん達野球部の、決勝戦の日。
 アッちゃん達吹奏楽部も、応援に参加するようになっていた。

   ◇

19: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:16:30.99 jEQlrleo
 七月二十八日。決勝戦前夜、いつも通りの練習を終えたアッちゃんは、宴会場と化した自宅の隅で小さくなっていた。
 酔っ払い達が食べ荒らした後でロクに夕飯にもありつけず、余り物のお茶菓子で空腹を誤魔化しながら。
 あたしの用意した余り物を食べると、それでようやくひと心地ついたようだった。
「明日、応援に行くんだ」
「まあね、さすがに決勝戦で留守にするのは体裁が悪いし」
「そっちの練習に影響は?」
 あたしの問いにアッちゃんはしばらく考えて、困ったように笑った。
「まあ、演奏する曲はどれもそんなに難易度高くないし、問題ないよ。一応練習してきてる」
「そっちの曲じゃなくて、吹奏楽部が演奏したい方の」
 アッちゃんはまた困ったような顔で笑う。
 あたしだって困らせたい訳はない。けれど、どうしても止まらなかった。
「……今までの貯金で、どうにかなるさ」
「嘘だ」
「本当に。一日二日でどうにかなるほど、安い音楽やってないよ」
「でも、影響はゼロじゃないんでしょ?」
「…………」
 アッちゃんは空になった湯飲みを口に運び、気が付いて恥ずかしそうにした。
 何も言わないアッちゃんに、あたしはお茶のお代わりを注ぐ。
「球場で、応援で要求されるのは音程じゃなくて音量」
「……千恵ちゃん?」
 あたしの言葉に、アッちゃんは呆然とする。
「コンクール前に音質が変わりかねない程の音量を要求される演奏をしなくちゃいけないのは、正直痛い」
「誰に?」
「先生に、直接」
「すごい行動力だね」
 アッちゃんは呆れたような、困ったような顔で笑う。
「でも、大丈夫。この程度なら問題ないよ」
 二煎目のお茶を舐めるように飲みながら、アッちゃんは
「言っただろ? そんな安いもんじゃないって、俺達の音楽は」
「けど、野球部にそこまで振り回されて」
「そんな悪者にするもんじゃないよ。千恵ちゃん、何かあった?」
 ゴミ箱の中、六枚の使わないまま捨てられたチケットが思わず目に浮かぶ。ぐしゃぐしゃで、何かの油で汚れたチケット。
「別に」
「…………悪いことばかりでもないよ、大きな音を一度出しておくのもさ。手加減抜きで出せるのって、そうないから」
 アッちゃんは「本当だよ」と付け足す。
 だからあたしは肩の力を抜いた。アッちゃんがそう言うならきっと本当なのだろうし、それに部外者のあたしがアレコレ困らせることを言うのも筋違いだ。
「まあ、甲子園なんてトコに行くかもしれないんだ、そりゃみんな騒ぐさ」
 アッちゃんはまだ祝杯を挙げている仏間を見やる。あたしもそれに習う。
「そういえば例の漫画だと、弟は行けないんだっけ、甲子園」
「漫画と俺達を一緒にされちゃ困るよ」
 さすがに今のは失言だ。あたしが恐る恐る見ると、アッちゃんは肩をすくめている。
「俺は代わりに野球なんて出来ないしな」
「まあ、アッちゃん運動はからっきしだもんね」
「あはははは。まあね」
 ようやく楽しそうに笑うアッちゃんに、あたしは少し胸を撫で下ろした。
「勝つかな」
「さあね」
 アッちゃんは他人事のように呆然と付け足す。
「漫画じゃないんだから」

 翌日、カッちゃんは当然の様にマウンドに立った。
 アッちゃんやお姉ちゃんの応援を受けて、カッちゃんは誇らしげに大きく振りかぶった。

20: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/15 23:19:59.68 jEQlrleo
今回ここまで。
長々と失礼しました。

21:名無しさん@ピンキー
11/09/16 00:00:15.18 YL6Pk7vd
GJ!!!! 

三期目に新作キタ!

22:名無しさん@ピンキー
11/09/16 14:43:55.52 LmNMI02C
>>20
三期も新作も続きお待ちしております
GJ

23:名無しさん@ピンキー
11/09/16 21:30:04.51 zI2MP4lg
GJGJ!
ほとり一期二期も面白かったので三期と新作も期待

24:名無しさん@ピンキー
11/09/16 22:15:43.56 ln6KmFzO
投下乙

新作は色々フラグを邪推して無駄にドキドキするな

25: ◆e4Y.sfC6Ow
11/09/17 10:08:59.13 jouAOZUu
追記

今作『stadium/upbeat』の各話タイトルは、様々な曲名からいただいています。
モトネタの曲↓

Bravado
URLリンク(www.youtube.com)

26:名無しさん@ピンキー
11/09/18 20:14:38.20 yz3SpMfL
>>20
投下乙です。GJ
ほとりコンビは相変わらずいちゃつきっぷりで安心w
個人的には村越さんの活躍にも期待してます。


さて、ここらで新規投下させていただきます。

純愛よりも幼馴染系まったりエロスを目指しましたが、うまく書けたかどうか。

27:残暑ロスタイム
11/09/18 20:16:53.70 yz3SpMfL

 ノックも無しに17歳の娘の部屋を開けて着替えを目撃したとなれば、これは間違いなく
闖入者が悪い。反対に、外からよく見える室内で小学生にイチモツを晒していたオジさんは、
迷惑行為で立件されたそうである。
 では、この場合─ドアを開け放して着換え女の部屋にやってきた男を、彼女は咎める
ことが出来るのか。

 少なくとも、そんなことを考える暇が、皆瀬那津子にはあった。制服を着直すにも扉を
閉めるにも足りなかっただろうが、アクションを取らずにボーっとしていたのは彼女の
意思だ。

「うぃーす、なっちゃん。クーラー借りに……っって、暑っ! 何この部屋!」
 スカートを膝まで下げたセーラー服姿を正面から見つめて、西野亮一は開口一番そう
のたまった。
「ご覧の通り、今帰ったとこなんだよ」
「制服ってことは、そっか。なっちゃんは今日始業式?」
「そ。私立のおぼっちゃまは休みが長くて羨ましいわー」
「おぼっちゃまなら、節電を盾にクーラー禁止令出されたりされたりしねえって。お袋の
やつ、居間だけは付けっぱOKなんて自己中にも程がある……」
 ぶつくさ言いつつ、持ち込んだ大荷物(勉強道具やら本やら果てはノートPCまで)を
床のテーブルに拡げ終わると、亮一は窓に手を掛けた。
「ちょっと、勝手に開けないでよ」
「この部屋、外より全然暑いぞ。クーラーより先に、一度熱気を出した方がいい」
「そうじゃなくて、着換え中なんだけど」
 ショーツ姿で上着のリボンタイを抜きながら、那津子は言う。
「……そういうことは、ちゃんとドアを閉めて着替える人が言わないと」
 眉を落として半眼になりつつも、亮一は後ろ手でカーテンを引いた。


28:残暑ロスタイム
11/09/18 20:19:24.82 yz3SpMfL

 西野家と皆瀬家は歩いて1分の距離にある。間に道路を挟むが、町内会は同じだ。
那津子には彼と初対面の時のはっきりとした記憶は無い。しかし、幼い亮一が良く回覧板
を持ってきた事を覚えている。母親から「一人でお使いできて偉いねぇ」と褒められるに
彼に、酷く嫉妬していたのだ。回覧板を回す方向が逆だったら、私が亮ちゃんのママに
褒められたのに、とかなんとか。

 そんな微笑ましいエピソードもあるので、互いに行き来出来る窓が無くても、まあ幼馴染
と言って差支えない関係だろう。互いの部屋は顔パスで上がり放題、無断外泊も西野家
と皆瀬家の相互に限っては問題が無い(というか、勝手に連絡が行くのでその必要が
無い)。
 とはいえ、今現在の那津子がうら若き少女であることもまた事実。そんな彼女が、
同い年の男を前に半裸を晒したまま会話しているのには、それなりの理由があった。

 
「いくらドアが空いてたからって、着換え中に踏み込んで一言も無いのはどうかと思う」
 冷房の真下を陣取り、頬杖ついて自分の脱衣を眺める少年に、那津子は言った。
「ごめんごめん。お詫びに制服脱ぐのを手伝うよ」
「もう脱いでる」
「では着る方をお助けしましょう」
「暑いからいい」
「それは、纏わりつかれるのが暑いという意味? それとも、季節柄服を着る気が無いと
のご意向でしょうか」
「女子高生を何だと思ってるんだ変態」
「……一人だったらパンツ一丁のくせに何言ってんだ」
 図星を突かれて痛いというほどでもないが、とはいえ正論には軽口も叩きにくい。その
まま無視して制服をハンガーを掛け、ついでキャミソールを捲り上げたところで、ブラの
ホックが勝手に外れた。
「おいコラ何をする」
「だから、無駄に真実を言って怒らせちゃったお詫び」
「別に怒って無い上にお詫びになっとらん」
「じゃあ勝者にご褒美を」
「確かにその方が筋は通るが亮ちゃんと弁論大会してた覚えもなくええい揉みしだくな
暑苦しいっ!」

29:残暑ロスタイム
11/09/18 20:22:00.03 yz3SpMfL
 後ろに放った那津子の肘鉄を難なく捕まえた亮一は、そのまま万歳させて肩紐を抜く。
 その無駄な手際の良さに溜息をついて、10秒ほど好きにさせてから、那津子は言った。
「背中が汗で気持ち悪い。なのにお腹だけ寒い。サイアク」
「おっと、そりゃ悪かった」
 亮一は後ろから双乳を揉んでいた手をぱっと離し、自分が冷房の風上側に回った。
今度は正面から抱き付いてくる。そのまま、ベッドに押し倒そうとした彼を、那津子は
肘で軽く突く。
「学校帰りで喉乾いてんの」
「もう1分だけ揉んだら麦茶とってくる」
「30秒」
「了承」

 押されるままにベッドに座った娘の胸元へ、亮一は膝立ちになって顔をうずめた。時間
を値切ってしまった手前、那津子も何となく義務感を感じて、両肩を前に寄せてやる。
そうしてたわわに実ったCカップを、亮一は優に45秒は楽しんだ。最後に、ジュッっと強く
下乳を吸って、ようやく人心地と顔を上げる。
 そんな彼と、数秒、無言のまま目を合わせていた那津子は、ポツリと言った。
「アクエリがいい。水で割ったのがいつものとこにあるから」
「りょーかい、なっちゃん。俺のポンジュースは?」
「知らない。でもお母さんこないだ買ってたと思う」
「じゃあ、また上の天袋かなー。ちょっくらついでに冷やしてくるわ」
「ん」

 最後に、またちょっと手で触ってから、亮一はすっくと立ち上がった。あとは、特に
名残惜しげな様子も見せずに、ぱたぱた台所へ降りて行く。
 彼の物音が聞こえなくなってから、那津子はふぅ、と息を吐いて箪笥へ向かった。下着
の棚を開けて、今履いているショーツと同じものを探す。残念ながら、見つからなかった。
今さら見栄を張る相手でもない、と自分に言って、今度はキャミを漁り始める。
 水色のストライプが好みと聞かされた。だが、ババ臭い肌色の奴の方が、生地も薄いし
ちょっと大きめなのでし'や'す'い'らしい。ちょっと迷って、後者を被ると、彼女はのそのそと
クーラーの下に戻った。


30:残暑ロスタイム
11/09/18 20:25:10.75 yz3SpMfL

 付き合っているのか、と聞かれて、今さら否定するつもりはない。用もなく互いの部屋
に入り浸り、二回に一回以上の頻度で体を合わせていれば、言い訳の仕様も無いだろう。
 実際、さしあたり他に狙っている男がいない事もあり、那津子は周囲に彼氏がいること
を公言している。もっとも、今の高校に亮一を知るものはいないのだけれど
 だから、問題があるとすれば、
「いつから付き合ってるの?」
と聞かれても、答えようがないこところだろう。
 正式な告白から始まった関係では無い。互いに好きと言い有った記憶もあんまりない。
(恋人プレイで好き好き言い合った覚えはあるが、あれはなにか違うと那津子は思う)
 初体験の時の記憶はさすがにある。しかし、それを起点とするのもしっくりこない。
以前と以後で、何かが決定的に変わったとは思えないからだ。性への興味、大人への
反抗、思春期的衝動が閾値を越えた点が偶々表面化しただけで合って、亮一と那津子の
関係から生まれたものとも思えない。
 では、つまるところセフレなのかと要約されると─それは、違う、と言いたい気持ちが、
少なくとも那津子側にはある。
 


「ただいま~っと。お、大分冷えてるな」
 5分程して、亮一は両手にお盆を抱えて戻ってきた。釣果はラベルの剥がれた2Lペッ
ト、麦茶のパック、缶入りの水羊羹。
 最後のはお中元で伯母の家から送られた奴だ。那津子一人で勝手に空けると、母親から
小言を貰ってしまう。なので、この点はグッジョブ、と彼女は状況を評価した。
「アクエリってこれだよな」
「うん。コップは?」
「無い。ラッパでいいじゃん」
「重いから嫌。とってきて」
「えぇー。ご無体な」
 そう言いながら、亮一は上半身をゴロンとベッドに投げ出した。しかし、ちょうど那津
子の足裏に耳が来たので、彼女が親指でツンツンと抗議していると、やがてムずがる様に
身を起こす。


31:残暑ロスタイム
11/09/18 20:27:17.59 yz3SpMfL
 だが、部屋のドアをバタンと締めて踵を返した亮一は、そのままペットボトルのスポー
ツ飲料を煽った。
 なにするの、と問い詰める間もなかった。彼は今度こそ那津子をベッドに押し倒すと、
強引に唇を合わせてくる。彼女が観念して口を開くと、甘くてやや冷たい液体が、亮一の
舌を伝って注がれた。
 こういうのは、本当はあまり好きじゃない。美味しく感じるのは今喉がカラカラなおかげで、
普段なら気持ち悪さが勝ってしまう。食べ物系は絶対NGだし、アレを飲むのは相手が
小躍りするほど喜んでくれるから出来ること。素の状態では、とてもじゃないが無理だ。
 だが、そんなことは亮一だってよく分かっているはずだった。だから那津子には、
彼が焦っている理由の方が気になった。

「いつの間にそんな盛ったん?」
「いやあ、久々の制服姿だったもんで」
「四六時中見られる今から、そんな親父趣味でどうすんの」
「いや、俺言う程なっちゃんの制服姿見れてないんだってっ。登下校は一緒じゃないし、
家ん中は何時も私服だろ? セーラーなっちゃんは何気にレアなんだよレア!」
 恥ずかしい台詞を恥ずかしそうに言う亮一は、どこか作っている感がある。胸元へ這い
上がってきた手をインターセプトして、那津子は自分にのしかかる少年を見つめた。
 結果、10秒で亮一の方が根負けした。
「着換えの窓は締め切るくせに、俺が入ってくるドアは開けっぱだから……ちょっと
ムラっと来たんだよ」
 確かに、こっちの方が恥ずかしかった。そう思った瞬間、再び唇が奪われる。

 束の間の雰囲気に押される形で、二人はしばし濃い目の接吻を続けた。最後は、
亮一が体重をかけていたとに気付いて体を起こす。その際、唇の間で透明な水橋で
したたり落ちた。
「すまん、苦しかった?」
「ん。全然」 那津子は嘘を吐いた。
 しかし、続けたいという気持ちも強かったから、返事としては間違っていない。
 それをどこまで汲んだか分からないが、小さく「さんきゅ」と言って亮一は再び横に
なった。今度は彼女の横に横臥して腕枕する格好だ。頭に回した右手で膨らみを
愛でつつ、反対の手でじっくりと全身をまさぐっていく。

32:残暑ロスタイム
11/09/18 20:31:32.46 yz3SpMfL

「…は…ぅん」
 臍の周りで存分に円を描いた後、とうとう左手がショーツの中に潜り込んだ。何度も
交わって、目の前で拡げられたことも、舌を入れられたこともある。けれど、この瞬間は
いつも引き攣るような緊張がある。
 だが、そんな那津子の心境とは裏腹に、彼女の秘部は潤沢なぬるみを以って出迎えた。
部屋の明かりを消して貰っていないので、その惨状は下着の上からでも明らかだろう。
割れ目に沿って二、三度前後させるだけで、亮一の指はたっぷりと愛液に包まれる。
「ひ……んんっ…ぁ…」
 前庭に溢れた蜜を、亮一の人差し指が秘所全体に塗り広げていく。下から円を描くよう
にせり上がってきて、今にも上端の敏感な実を擦られる─そう那津子覚悟した瞬間、
小指がするりと中に入ってきた。
「…っきゃんっ!」
 裏をかかれて、那津子は思わず嬌声を漏らした。事の最中、彼女はあまり声を上げない
性質だ。しかし、亮一はそれが不満らしく、あの手この手を打ってくる。
 だから、今回も憎たらしいドヤ顔が待ってるんだろうなぁと薄目を開けると、意外な
ことに彼は不機嫌そうな顔をしていた。
 不機嫌というか、正確には余裕の無い顔。
「え……?」
 反射的に那津子は空いている手で亮一の股間を探った。勃起しているのは予想通り
だが、思ったよりずっとカチカチだ。彼女が触っても無いのに、根元のところまでこんなに
なるのは珍しい。下着の前開きを潜って直に触ると、案の定、傘の部分は先走りで
濡れていた。
「……亮ちゃん、」
「あー…。ムラっと来たっていったろ」
 ぶっきらぼうに言うと、亮一は誤魔化しのつもりか再び唇を塞いで来た。同時に、
中に入れる指をもう一本増やして、少し乱暴に出し入れする。
 その攻めはちょっとまだ早かったけれど、那津子は悪い気はしなかった。がっつかれる
のは嫌いじゃない。17の男子だけあって、普段も亮一からしたがる方が多かった。
けれど、こんなにあからさまに、自分に余裕があって、相手が一杯々々なのは久しぶりだ。

33:残暑ロスタイム
11/09/18 20:33:36.84 yz3SpMfL

「……ぅん、もういいよ、亮ちゃん」
「え? いや、お前まだ…」
「んーん、だいじょぶ。第一、こんなんじゃもう限界でしょ」
 下着から取り出したものをゆっくりしごきながら、那津子は言った。
「まあ、せっかく大丈夫な日なんだし、一回で終わりなんて言わないよ。だから、妙な
遠慮はいらないって」
「…っ。わりィ、なっちゃん」

 感謝してるのに、つい「悪い」と出てしまう癖。良く無い口癖だから、亮一も直そうと
しているけれど、昔から本音を漏らす時は一緒に零れ出てしまう。
 それを知っているから、「謝らないで、『有難う』って言ってよ」なんて野暮を、那津子
は言わない。でも、他の女ならどう反応するかな。なんてことを思うと、心の奥が
くすぐったい。

 そんなバカな事を考えているうちに、彼女の足からするりとショーツが引き抜かれた。
たっぷりと蜜を吸った下着を余裕なくベッド下に捨て、彼は両手で大きく少女の股を
割り開く。
 そのまま、一気に挿入を試みた亮一だったが、興奮が過ぎるのかうまくいかない。
モノが強く反り過ぎていて、角度が合っていないのだ。
「……すまん、ちょっと脚持ってて」
「ん」
 亮一の嘆願に、那津子は応じた。自分で膝を抱えて、股間を拡げた体勢を維持する。
普段なら相当に抵抗のある格好だが、相方が正気で無い今はいくぶん気楽だ。
 はね上がった一物を手で押さえ、再び亮一が覆いかぶさってきた。一度、わざと上の方
に押し当てて、襞の裏側の滑りを塗りこめる。それから、ぐっと腰を落とすと、先端を
泥濘へと沈めていく。傘の部分が入口の狭いところを潜り抜けたのを確認し─

34:残暑ロスタイム
11/09/18 20:35:41.64 yz3SpMfL

「ふっ…ぁ…はぁぅっ!」
 二回、浅瀬で弾みを付けてから、一気に奥まで押し込んで来た。準備の時間は十分で
なかったけれど、受け入れられない程では無い。膣内の潤みは十分だったし、多少
こなれない肉襞も、今のガチガチな彼のモノにはちょうどいいかも知れない。
 続けていい、との意志表示のつもりで、那津子は両脚を彼の体に巻き付けた。
力は入れず、抽送の邪魔にならないよう、足首を腰の後ろでそっと組む。
 そんな長年の阿吽の呼吸は、幼馴染に正しく伝わった。感謝のお礼の様なキスの後、
亮一は上体を起こして頭の横に手を突くと、怒涛の勢いで腰を振るう。

「はあっ……ひゃっ……や…ぁ…んあぁ!」
 15cm差の男に手加減無く突き上げられて、さすがの那津子も明確な喘ぎ声を上げ始めた。
快感以上に、体の中を内側から押し潰すような圧迫感が、彼女の肺と喉を震わせる。
 けれど、その激しさが那津子は嫌いでは無かった。薄目を開ければ、ガクガクと揺れる
視界の端に、切羽詰まった幼馴染の顔が見える。
 今この瞬間、主導権は間違いなく彼の方にある。那津子の体は内も外も、息をつく
タイミングまで亮一の動きに支配されている。でも、そうさせているのが他ならぬ自分
だと言うことを感じるこのとき、目の前の少年がたまらなくいとおしい。

 だから、はっきり言って、セックスは好きだ。
 その理由のために、不純と言われるなら、否定は出来ない。
 
「あっ、ああっ……ひゃっ……んああっ!」
 それにしても、今日の亮一の高ぶりは凄いな。と、霞のかかってきた頭で那津子は思った。
固さと"反り"が尋常じゃない。出す直前だって、普段はこんなにならない気がする。
おかげで、お腹側の壁をグリグリと削られる感じがすごい。
 クリトリスを触られたような快感は無いけれど、しびれに似た熱が確実にお腹の奥に
溜まっていく。時々、入口の襞が意志とは関係なく痙攣し始めた。初回はただ受け入れる
だけのつもりだったけれど、一緒にいって上げられるかもしれない。

35:残暑ロスタイム
11/09/18 20:37:44.73 yz3SpMfL

 そのことを伝えたい、と那津子は思う。一回目は自分本位で終わることを引け目に感じ
ている彼に、ちゃんと気持ちよくさせられてるんだって教えてあげたい。性感だけでなく、
征服感も味わってほしい。普段生ばっか言ってる口の悪い女も、今は亮ちゃんに
の'さ'れ'て'るんだって。
 でも、普通の彼女だったら、そういうのは恥ずかしいから隠そうとするのかな。

「ひゃう……あっ、やっ…っく…きゃんっ!」
 しかし、いずれにせよ、もう那津子に出来るのは彼の迸りを受け止めることだけだ。
亮一の手が腰を押さえ、抽送のペースがさらに上がる。膨らんだ傘が娘の体奥を容赦なく
突き上げ、まともな呼吸もままならい。このまま続けられたら窒息するんじゃないかと思う
けれど、それは相方の方も同じかもしれない。
 パタパタと生温かい粒が、那津子の顔に降っている。亮一の汗だ。それに気付いて、
最後にもう一度瞼を開けると、彼も那津子を凝視していた。激しく揺れて、涙に曇った
視界でも分かる、うつろで取り付かれた男の瞳。
 それを見て、多分、笑ったような表情を作ったんだと、那津子は思う。
 次の瞬間、亮一はがばっと体を落としてきた。両腕を後ろに回して、彼女を全力で引き
よせる。そうして、身動き一つ取れない娘の一番深いところへ、己の分身を突きたてた。
「ふぁっ…やっ……はうううぅぅん!」
 全身を圧搾れて、悲鳴ような嬌声を上げながら、那津子は亮一の射精を受け止めた。


36:残暑ロスタイム
11/09/18 20:39:47.72 yz3SpMfL


 亮一が体を起こしたのは、1分程経ってからだった。最後の一滴まで注ぎ込もうと、
未練がましく腰を押し付けていた彼は、そこで再び自分の重さの事を思い出したらしい。
「わり、苦しかった?」
「だから、いいってのに」
 小さく吹き出しながら、那津子は答える。さっき同様重かったのは確かだけれど、
それに見合うだけの満足があった。だから、いい。
 それに、体の方も、ちゃんといけたみたいだった。はっきりとした波があったわけでは
無いけれど、終わったあとの倦怠感も、事後特有の敏感になった感触もある。クリトリス
を使わない時はいつもそんなもんだから、これが中イきの感触なんだと、那津子は考えて
いる。

「それより、さっきまでの暴走モードは収まった?」
「へへぇ、御蔭さまで……と言いたいところではあるんだが」
 中に収めたままのモノを、亮一はピクンと跳ねさせた。先程よりは幾分小さくなって
いるものの、まだ内にしっかりとした芯がある。
「…っん。…まあ、好きなだけって言質渡したのは、私だしね」
「御厚情、痛み入ります」
「だが先ず小休止を要求する」
「合点承知」

 快諾して、亮一は彼女の体を抱きしめたまま体を起こす。正常位から、対面座位に移行
した格好だ。膝を立ててうまい具合にクッションを仕込み、ちょうどいい背もたれを作って
くれる。
 但し、お腹の一物を抜く気は無いらしい。那津子もこの体位は嫌いではないが、相方の
"入れっぱなし"好きには時々辟易することもある。

「とりあえず、水分補給したいんだけど」
「おう、任せとけ」
 安請け合いしつつも、顔しかめるまで体をねじり、やっとのことでペットボトルを取っ
た少年に、彼女はジト目で言ってやった。
「一度外せばいいだけなのに」
「ばっか、それじゃ意味ねーんだよ!抜かず二連発ってのは、生でヤレる日じゃないと実
現できない究極の男のロマ…」
「うるさい」
「すみません」
 腰を上げてやろうかと思ったけれど、亮一が恭しくアクエリのペットを捧げ持ったのを見て、
那津子は許してやることにした。そもそも、ちゃんと立てたかは怪しいものがあるけれど。

37:残暑ロスタイム
11/09/18 20:42:10.66 yz3SpMfL
「んっく……っぷは。でも、やっぱ飲みにくいから後でコップ持ってきて」
「うい。終わったらちゃんと持ってくる」
 それじゃ何時になることやら、と溜め息をつき、彼女は即席の背もたれに身を預けた。
深く呼吸すると、下腹の中身も動くのか、亮一のものが中で擦れるのを感じる。
「水はもういいの?」
「ん」
「羊羹食べる?」
「いや、今はさすがに……」
「アクエリが合わなきゃ麦茶もあるよ?」
「……なぜ執拗に飲食させようとする?」
「頂いた温情に報いたいと思う俺の仁義の心がだな、」
「いや、単純にもっとアブノーマル染みた企みを感じる」
 再びにらめっこ勝負になるかと思いきや、今度は亮一があっさりと折れた。
「なっちゃんが飲んだり食べたりするとね、その内臓の動きがあそこに伝わって面白いと
いうか気持ちいいというか」
「………………変っ態」
「お褒めに預かり光栄です」
 直前に似たようなことを考えていたせいで、罵倒がワンテンポ遅れてしまった。
そのことに気付かれたかどうかは分からないけれど、彼の余裕な返しが見透かされて
いたようで恥ずかしい。

 軽口のネタも尽きて、那津子は溜息とともに顔を落とす。すると、自然に繋がったままの
そこが視界に入ってきた。
 股間に一物が深々と突き刺さっている光景は、いつ見ても異様だ。あの太さのものを
体重かけて揮われるわけだから、そりゃあ大変なわけだと納得する。股座は激しい抽送で
掻き出された蜜がびしょびしょに溢れていたが、亮一の精液は栓が効いているのか、
まだ垂れてきていない。
 ふと、男の子の入れっ放し願望の理由が分かったような気がした。相手へ確実に自分の
遺伝子を流し込みたいという、牡の本能なのだろうか。
 でも、するていと、中出しした後に、逆流するのを見たがるアレは何なのだろう。一種の
マゾヒズムか何かか?

38:残暑ロスタイム
11/09/18 20:44:12.76 yz3SpMfL

 なんて、那津子が酷い物思いにふけっている間に、亮一の手が彼女の両胸に伸びていた。
膨らみを正面から鷲掴んで、全体をゆったりと揉みこんだり、時々乳首を口に含んだり。
「ん……もうはじめるの?」
「どーかなー。とりあえず、あるもの触らないのは勿体ないので」
 徒に快感を煽るようなことはしなかった。一回目の後戯だか二回目の前戯だが分からない
ような、曖昧なペッティング。
「あー。こうしてると、夏も終わりを感じるなー」
「おっぱいに季節感なんてなかろうに」
「いやいや、そんなことないぞ? 夏場の汗かいた谷間の匂いは……だー、すまん、
悪かったって!」
 今度は本気で立とうとしたのだが、やはり途中で腰砕けしてしまった。半分程抜けかけ
た強張りが音を立てて中へ戻り、反動で亮一のが浸みだしてくる。
「でも実際、学校始まったら、こうしてまったり長時間繋がったり出来ないよ? ましてや
安全日を狙ってなんて」
「まあ、それは……っん……そうかもね」
「学校帰りとか塾帰りとか、一・二時間の都合を合せて腰振って身支度して……慌ただしい
にも程があるぜー」
「すさまじく身も蓋もない言い方だが、……一理はあるか」
「だからだね。こうして…あむ……。時間を気にせずなっちゃんのおっぱいを堪能できる
のも僅かかと思うと、夏の終わりの寂しさをひしひしと感じるわけですよ」
「綺麗に纏めようとしているのは評価するけど、あまりうまくはないなぁ」
「うむ、だんだんと余裕も無くなってきて……いいか?」
「ん」

 後ろに持たれていた那津子の体を、亮一が再び抱き戻す。角度が合って、彼のものが
グッと奥まで沈みこんでくる。途中から、中をグイグイと押し広げていたから、彼女もそろ
そろかなとは思っていた。個人的には、もう二・三分休んでいたいところだったけれど。
 ただ、今度は一度目のような激しい行為にはならないだろう。さっきのような益体も
無いお喋りを挟みつつ、時間をかけてゆっくりと交わる。途中、自分本位で終わったと
思い込んでいる亮一が、一度はいかせに来るだろう。その後、二人でお茶飲んで、羊羹
食べて、途中でまた彼が那津子の身体で遊び始めて、三回目。終わったころには夕飯だ。

39:残暑ロスタイム
11/09/18 20:46:15.61 yz3SpMfL

 大したお出かけもせず、さしたる雰囲気も無しに、部屋に籠って体を繋げるばかりの日々。
自分たちの夏は、傍目から見ればそんなものかもしれない。
 けれど、終わってみればちょっと名残惜しい。ひと夏の思い出なんて呼べるものは無い
けれど、どこを振り返っても彼とのまったりとした時間がある。
 それを思い返した時、何となく頬が緩むのが、那津子にとっての西野亮一というものだ
った。ドラマのような大恋愛にはとんと縁が無いけれど、こういう幼馴染がいる自分は、
まあ、幸運な部類に入るのだろうと、彼女は思う。

 

「……なっちゃんてさ、時々してる最中に、そうふにゃって笑うよね」
 正常位に戻って、浅い抽送を始めていた亮一が、出し抜けに言った。
「あに。薄気味悪いって?」
「何でそうなる……。つか、いつもそんな風に笑ってくれると、安心するんだけどなー」
「安心?」
「うむ。なんつーか、わたし幸せですって感じだからさ」
「……亮ちゃんってさ、時々してる最中に、ヤな感じでナルシストよね」
「っうえ!? なになに? どゆ意味?」
 那津子は無言で両手を伸ばし、亮一の頭を抱き寄せると、小うるさい唇を封じて
黙らせる。

 ひとまず、今は余計なことを考えずに、この夏最後のロスタイムを満喫しよう。

40:名無しさん@ピンキー
11/09/18 20:48:22.49 yz3SpMfL
以上です。


距離が近すぎて何気なくエッチまでしちゃった末の熟年夫婦みたいな
幼馴染が好きです。
それでいて、年相応な部分も残っているアンバランスさがあると尚よろしい
ちょっと特殊性癖かな……

41:名無しさん@ピンキー
11/09/18 21:20:03.64 NJUmxrf+
>>40
GJです。なんかまったりしてていいですね。

42:名無しさん@ピンキー
11/09/18 21:23:52.72 QjhpKPZI
おお。実にまったり……よきかなよきかな。
GJですわ。

43: 忍法帖【Lv=1,xxxP】
11/09/18 21:51:48.20 BqWzwnro
>>40
なんかこの怠惰な感じが新鮮
グッドジョブですわ

44:名無しさん@ピンキー
11/09/18 23:03:41.98 B0nEposM
いいなあ、こういうの

G J !

45:名無しさん@ピンキー
11/09/19 02:04:06.96 LZiXGUQD
>>40

絶妙のアンバランスさだ。
怠惰でただれていて、それでいて年相応でどこか初々しい。
こんな情事を書ける力が心底羨ましい。

46:名無しさん@ピンキー
11/09/19 19:12:48.03 sZmgKoAL
気軽に部屋に遊びに来る幼馴染にネットで手に入れた睡眠薬を飲ませて悪戯。
後始末はきっちりやって相手は何をされたか気付かないのでその後も普通に遊びに来る。
そしてその度に睡眠薬を飲ませて悪戯。


しかし実は睡眠薬の量が足りてなくて体は麻痺してるけど意識ははっきりしていて、何をされてるのか全て知ってたというオチ。



こんな話を読みたいです。

47:名無しさん@ピンキー
11/09/19 19:54:47.60 fA6K+Iyt
それは昏睡レイプといふ立派な強姦でやんす

48:名無しさん@ピンキー
11/09/20 21:12:24.20 XlEcl/kJ
>>47
意識があってなにされてるか知ってるってことは嫌ならもう二度と来ないだろう
それにも関わらず何度も来るってことは、一応同意の上ということになるのでは?

49:名無しさん@ピンキー
11/09/20 22:37:29.76 qNvIEQLA
>>40
素晴らしい!こういう味ってなかなか出せないんだよね
でも今の高校生は「ご無体な」とか言わないと思うw

50:名無しさん@ピンキー
11/09/21 09:36:29.10 JhALheGt
前スレ埋めネタがどれも秀逸だった。GJ

51:名無しさん@ピンキー
11/09/21 23:44:02.97 2YDcPFcz
ここである種の小説がこのスレに適してるかどうか聞くのって
誘い受けでご法度になりますか?

52:名無しさん@ピンキー
11/09/22 00:05:06.47 X33bV94O
シチュが合ってるかどうかってこと?
そのくらいなら別にいいんじゃないかな。
ちなみに、どんなの?

53:名無しさん@ピンキー
11/09/23 01:56:27.43 6Sb3lTs1
魔法とか剣とかのファンタジー物です
このスレに投下するつもりでずっと書いてたんですけど今更ながらスレの趣向にあってるか不安になりまして…




54:名無しさん@ピンキー
11/09/23 02:20:54.75 CE+KIOnz
>>53
このスレは幼馴染み萌えスレ。
どんな舞台でも、そこに幼馴染みが居るのなら問題ないと思う。

55:名無しさん@ピンキー
11/09/23 20:37:42.92 tzzf2wwm
>>53
不安なら.txtで上げて注意書きして置いとくとかでもいいとおもうよ

前スレラストGJ
最後の一行がエロく見えてしまった

56:名無しさん@ピンキー
11/09/24 01:24:03.93 8JGTCJrp
なんだね、キミはパンダこと高橋由伸に恨みでもあるのかね

57:名無しさん@ピンキー
11/09/24 02:44:54.02 jfRz97tl
最近は……まあ、ねぇ?
ファンだからこそ「オフの度に体型変わってるんじゃねえ」とか
「てめえ心臓に悪いからダイビングしないでくれ」とか言いたいことはそれこそ山のように(ry

58:名無しさん@ピンキー
11/09/25 01:10:09.11 bYLokJcL
>>40
なんかこう…すごいムラムラした。
主人公の変態ぶりのせいだな。
汗まみれのおっぱいはロマン。

59:名無しさん@ピンキー
11/09/26 00:02:33.85 A368KQDc
ひよこ系幼馴染

60:名無しさん@ピンキー
11/09/26 01:16:34.81 wYB5FW20
幼なじみが教室でいきなり自分を抱けという

61:名無しさん@ピンキー
11/09/27 12:14:42.50 77w00Q+q
だが断ると彼は言う

62:名無しさん@ピンキー
11/09/28 00:14:51.25 WnHqU7eE
前スレの「カッター」はかおるさとーさんでしたか~ありがとうございます

63:名無しさん@ピンキー
11/09/29 00:25:11.76 tUkD8yia
だが糖尿で全摘&透析通い

じいちゃんが透析患者だったけどよく20年も続けたもんだと思うわ

64:名無しさん@ピンキー
11/09/29 00:31:47.74 tUkD8yia
まさかの誤爆スマンカッタ

65: 忍法帖【Lv=8,xxxP】
11/09/30 05:16:08.50 UasszfMK
保守

66:名無しさん@ピンキー
11/10/02 03:21:11.26 nCq/8od1
>>63-64
誤爆先が甘えスレじゃなくて良かったなwww

67:名無しさん@ピンキー
11/10/02 22:40:10.20 LFZDC7bM
昔見たんだが
女主役
惚れた先輩にストーカー気味
サッカーボール盗む
幼馴染が後始末
物盗むの見つかって振られる
幼馴染に慰められそのまま
ってのが思い出せない


68: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:02:55.40 /o6Tfi3L
では長らくお待たせしました。

stadium/upbeat
02. Moorside March
投下します。

注意点
本作品はフィクションであり、実在の人物団体など一切関係ありません。
また劇中に言及される某作品への悪意などもありません。個人的には好きな作品です。本当ですよ? 全巻そろえてます。

69: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:03:33.96 /o6Tfi3L
02. Moorside March

 決勝戦前は、誰もが浮かれて騒いでいた。アッちゃんやあたしを置き去りにして。
 アッちゃんの夕食が終わると、どうやら帰ってきたカッちゃんが仏間に現れたらしい。一際大きな歓声が上がり、酔っ払いは口々に未来のヒーローを讃えている。
 あたしは漬物を齧っては三煎目のお茶を舐めるようにゆっくり飲む。
 どうやらカッちゃんにもお酒を呑ませようとしているらしい声がする。それ聞いて、アッちゃんが立ち上がった。
「アッちゃん」
 思わず呼び止めると、アッちゃんは肩を竦めた。
「しょうがないな」
 苦笑を浮かべて、アッちゃんは仏間へ向かった。
 あたしは何となく立ち上がり損ねてしまう。アッちゃんは巧く酔っ払いからカッちゃんを引き離したようだ。足音が寝室のある二階に向かう。
 アッちゃんも居なくなった訳だし、あたしはタッパーとどんぶり鉢を手に家に帰ることにした。
 食器を洗ってから居間へ向かうと、お姉ちゃんは居なかった。
 はてこんな時間にどこに行ったんだろうと思っていると、庭先に居た。
 何やってんだかと声を掛けようとすると、お姉ちゃんの声が聞こえた。
「もし……明日カッちゃんが勝って甲子園にいけたら……」
 誰に話し掛けているのか、覗き込んでみるとアッちゃんが困ったように笑っていた。
「いけたら?」
「そうしたら……次はアッちゃんが、もうひとつの南の夢をかなえてくれる番ね―」
「もうひとつの夢?」
 アッちゃんは怪訝そうに尋ねるけれど、お姉ちゃんは答えない。さて、何となく出て行き辛い雰囲気だし、さっさと退散してしまおうか。
 そう思うけれど、なんとなく足が動かない。
 アッちゃんがどう答えるのか、どう感じているのか……気になった。
「普門館にいきたいの?」
 アッちゃんの目指す場所。けれどお姉ちゃんは
「不問間? 何それ」
 知らないようだった。それも当然だろうけれど。
 アッちゃんは困ったようにかぶりを振った。お姉ちゃんはそんなアッちゃんに重ねる。
「もっとふつうの夢よ」
「ふーん」
 アッちゃんは眠たそうに目を瞬いてから
「じゃあ明日もあるから、おやすみ」
 と、たいした感慨もなくさっさと出て行った。お姉ちゃんはその背中を呆然と見送ってから
「もうちょっと尋ねてくれてもバチは当たらないと思うんだけどな……南の夢」
 と随分なことを言っていた。

70: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:04:56.01 /o6Tfi3L
 翌朝。
 何となく起きる気になれなくてごろごろしていると、庭先が賑わしくなった。
 何をやっているのやらと覗いてみると、アッちゃんカッちゃんと、お姉ちゃんがキャッチボールの真似事をしているらしかった。
 特に混じる気にもなれなかったので、ぼんやり眺めることにした。
 アッちゃんはカッちゃんの投げる球を取り損ねて苦笑している。もっとも、取れないアッちゃんを責めるのはお門違いだ。
 仮にも高校野球の予選大会決勝戦に出る投手が、変化球を使うのだから。
 二階の窓から、上から眺めて分かるほど大きく逸れていく球を取れるというのなら、アッちゃんは野球を試しているだろう。
「キャッチボールもまともにできない男なんかといっしょになると、女は幸せになれない」
 カッちゃんはそんな事をお姉ちゃんに耳打ちする。
「世のお父さん達がみんなキャッチボール出来るとは限らないだろうに」
 アッちゃんは転がっていった球を取り、もう止めだと言わんばかりにその辺りにグローブごと置いてしまう。
「もう止めちゃうの?」
「野球部のエースの相手なんか出来ないよ、俺には」
「そんなことないよ、兄貴」
 カッちゃんはどこかおどけた様な顔で
「ではこれより、プレイボール!」
 右手を軽く掲げて、そう宣言した。
「それ、死亡フラグ」
 と呟くあたしの声は、地上には届かない。
「何がさ?」
 アッちゃんはきょとんとしている。
「兄貴とおれの先の長い勝負――」
 二人のあまり似ていない兄弟と、双子の妹を持つ少女。
 そんな三人が、何かをしている。
 あたしはどうしたものかとため息をつく。
「あ、審判は公平にね。ひとまず特別な感情はおいといて」
 カッちゃんが重ねる。芝居がかった口調と仕草が、あたしにはひどく滑稽に見える。
「先攻はぼくだね」
 芝居がかった口調と仕草。そのセリフを、ひょっとしなくても憶えるほど読みこんだのだろう、例の漫画を。
「……」
 呆然とアッちゃんはそのお芝居に組み込まれていく。アッちゃんが巻き込まれていく。
「まず南を甲子園につれていくことで、先取点をねらいますので……よろしく!」
 対するアッちゃんは、胸を張るカッちゃんを一度眺めてから
「……和也」

71: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:06:01.78 /o6Tfi3L
 芝居くさい雰囲気を斬り払うように。珍しく強い口調で、アッちゃんはカッちゃんの名前を呼んだ。
「いつからだったか、俺はずっと和也に。南ちゃんにも、言わないとと思っていた」
 アッちゃんは『台本』にないセリフを口にする。
「千恵ちゃん、今日はまだ起きてないんだね」
「え? うん、まだ寝てる」
「……そっか」
 きょとんとしている二人を置き去りにして、アッちゃんは続ける。
「和也、お前は何で甲子園に行きたいんだ?」
「え? そ、それは南を――」
「それも良いだろうさ。そういう目的だって言うのなら、俺も止めはしない。でもな……お前は武司和也だ。ドラマチックに仕立て上げるのが好きな大人に振り回されるな」
「兄貴?」
 アッちゃんはふと上を見る。あたしは慌てて首を引っ込めた。
 アッちゃんの、不思議に静かな笑みが目の端に残る。
「結局さ、誰かの為に何かをするなんて、無理なんだよ」
「アッちゃん……」
「滅私なんて聞こえは良いけどさ、そんなの聖人君子が公の為にすることだろ? だから俺は、お前が自分の為に戦ってきて欲しいと思ってる」
 あたしは、朝の日差しの中で一人口の端を持ち上げる。
 いつかあたしが言おうと思っていたことを、今舞台の上に上がっているアッちゃんが突きつけている。
「これから起きることの結果なんか俺には分からない。ただ……それは全部お前のものだ。上手くいってもいかなくても、誰も責めはしないよ。自分以外は誰も、な」
 アッちゃんの言葉が続く。もう芝居じみた雰囲気は、微塵も残っていない。
「この夏が終わった後にお前が納得していることが、俺の望みだよ」
 恐る恐る顔を出し、アッちゃんの顔を盗み見る。
 いつもの穏やかな顔で、けれどアッちゃんは続ける。
「和也、野球好きか?」
「え?」
「一番大事なのは、少なくとも俺はそこだと思ってる」
 そう言い残すと、アッちゃんは手をふらふらと振ってそのまま二人を置き去りにする。
「試合は一時からだろ。次は球場で」
 そのまま家の中へ消えていくアッちゃんを見送ると、あたしは起き上がった。
 言いたかったことは、あらかたアッちゃんが口にしてくれた。
 あたしは何となく清々しい気持ちで顔を洗い、台所へ。
 浮かれて球場へ行く準備をしているらしい両親を尻目に、お弁当の余り物で朝食を済ませる。
 さて。
 行くつもりはまるでなかったのだけれど、なんとなく球場へ足を運ぶ気になった。
 せっかくだ。部外者のあたしは部外者らしく、客席から眺めさせてもらおう。それがあたしの仕事のような気がした。
 カッちゃんは大事をとっておじさんが学校まで送るらしく、両親とお姉ちゃんは見送りに出て行った。
 あたしはのんびりと表へ出て、タイミングよく出て行った車のおしりを眺めた。
 無事に球場に辿り着くことを、密かに祈りながら。

72: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:07:01.60 /o6Tfi3L
 七月二十九日。
 全国高等学校野球選手権地方大会決勝戦。
 その試合が行われる県営球場、時間は午後十二時三十分。
 一塁側アルプスでは『カッちゃん』の応援に駆けつけたお隣に住む幼なじみの『南ちゃん』の取材が行われている。
 あたしはと言えば、アルプスの一番高い所から、その『南ちゃん』を眺めている。
 既に両チーム球場に到着している。
 もちろんカッちゃんもだ。特に何も起きることなく、当たり前の様に。
 アッちゃん達吹奏楽部も応援の準備をしている。
 アルプスの一番前で、同窓会会長だと言うどこかの中年が、血気盛んに何かを叫んでいる。
 応援席の諸君は十人目のナインである。決死の覚悟で応援せよ。と喚いているのが聞こえてきた。野球で甲子園で決勝戦となると毎回沸いてくる手合いの人間だ。
 それにしても、十人目のナインって変な言葉だ。それに、この応援席のどの人間が『十人目』なのか。疑問と突っ込みどころは尽きない。
 まあ、順当に行けば十人目は『南ちゃん』だろうけれど。
 野球部マネージャーは他に二人、三年と二年に一人ずついるが、ベンチには三年の人が入っているらしい。
 あたしはテンション上がりっぱなしの生徒の中をかき分けて、吹奏楽部の近くの席を確保した。
 アッちゃんたちが、練習の時間や音質を犠牲にしてまでする応援を聴いておこうと思ったからだ。
 ふと、アッちゃんの顔を見つける。
 必勝の鉢巻を楽器に巻きつけ、自分はタオルを巻いたアッちゃんはあたしの視線に気付いてくれて、静かに微笑み返してくれた。
 それだけであたしは少し嬉しくなる。
 野球部には悪いけれど、あたしはもう満足だ。
 そうして午後一時。
 大きなサイレンの音の後……
「ではこれより、プレイボール」
 あたしはこっそり、そう口にした。
 吹奏楽部が、自分を犠牲にした音で歌い始めた。

 結果を言えば、優勝した。
 カッちゃんは見事試合を投げきり、春の甲子園でベスト4だった強力打線を抑えてみせた。
 大人たちは興奮しきり、未来のヒーローを讃えて隣近所が総出で祝勝会を開いている。
 これで、カッちゃんは南ちゃんを甲子園に連れて行けるわけで、文句なしのハッピーエンド、めでたしめでたしだった。
 お姉ちゃんは学校で取材と片づけを終えてから帰ってきた。
 すぐに隣の祝勝会に連れて行かれたけれど。
 あたしは冷蔵庫の余り物を適当に煮付けて、ご飯を炊く。少し固めのご飯を。
 夕食の準備を終えると、丁度アッちゃんが帰ってきた。
 どうせアッちゃんの夕食なんてないのだ。
 あたしは少し待ってから、アッちゃんの家へ。
 台所で昨日と同じく小さくなって余り物をもそもそ齧っているアッちゃんを見つける。
 やはり、アッちゃんの夕食はない。
「ああ、おかえり千恵ちゃん」
 アッちゃんは相変わらずの貧乏くじで、あたしは肩をすくめて
「ご飯、ウチにおいでよ」
 と誘った。
「……あー、じゃあ」
「ん。たいしたものはないけど」
「ううん。ありがとう、千恵ちゃん」
 アッちゃんはぼんやりと笑っていて、あたしはその色々貧乏くじばっかりな所がその実嫌いじゃなかったのだ。

73: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:09:07.47 /o6Tfi3L
   ◇

 そして一週間ほどが過ぎ、甲子園の対戦カードを決める抽選が行われた。
 今年の夏の甲子園は八月六日から行われる。
 あたし達の高校は大会二日目の第二試合。
 息子の晴れ姿を大手を振って見に行けると、おじさんとおばさんが大喜びする素晴らしい日程で、抽選の中継を見て万歳をしていた。
 日曜日の試合がよほど嬉しいらしい。
 そう、八月第一週の日曜が、カッちゃんの試合の日になったのだ。
 それを見ていたあたしは、さすがに血の気の引いた顔になっていたと思う。
――八月第一週の日曜日。
 それは、吹奏楽連盟主催吹奏楽コンクール県大会が開催される日でもあった。

「どうするの?」
 帰ってきたアッちゃんを捕まえるとウチの庭先へ引っ張り込んだ。有無を言わさずそのままあたしは食いかかるように尋ねる。
「ん……」
 アッちゃんは困ったように笑って、けれどキッパリと答えた。
「決まってるよ。俺達は吹奏楽部だ」
 あたしはほっとした。野球部には悪いと思ったけれど、良かった。
「うん。あたし、聴きに行く」
「きっと、あまり楽しくないよ。それより甲子園に行った方が……」
「何が楽しいかなんてあたしの勝手。あたしは甲子園より、市立文化センターに行きたい……普門館に行きたい」
「え?」
「アッちゃん……あたしを普門館につれてって」
「千恵ちゃん……」
「ね、元気、出た?」
 見つめる。
 少しだけあたしよりも高くなった背を。
 いつも曖昧に苦笑いを繰り返していた優しい顔を。
 今は苦しそうに嬉しそうな瞳を。
「ああ……ありがとう」
「ううん。ありがとうは、あたしだ」
 あんなに沢山のものを貰ったのだ。あの二時間の価値は、あたしの中にある。
「でも、アッちゃん……本当に大丈夫? 甲子園行かなくて」
「ん……正直今日は練習よりそっちの話し合いの時間が長かったよ」
「話し合う余地なんてあるの?」
「部員と先生は満場一致でコンクール。でも校長先生とか教頭先生がね、やっぱりね」
「……何て?」
「甲子園で演奏出来るのが名誉だろう。とか、我が校の応援席に吹奏楽がないのは考えられない。とかね」
「何それ、吹奏楽部は応援団じゃないのに」
「まあね、でもテレビで中継されるし、そういう見えやすい部分の栄誉? とか、そういうの優先するのは学校や大人なら当たり前なんだろうけど」
 縁側のガラス戸を引き開けて、あたしはそこに座る。隣を手で叩いてアッちゃんを誘った。
 アッちゃんはふわりと微笑んでから、ゆっくりとあたしの隣に腰掛けてくれた。
 あたしよりも少しだけ高い上背。それがいつからそうなったのかは、実は分からない。

74: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:09:51.34 /o6Tfi3L
 気が付くと、アッちゃんはあたしよりも背が高くなった。
 カッちゃんよりも成長ものんびりしていたアッちゃんだったけれど、それでもちゃんと男の子なのだ。
 そんなことに思い至ると、真面目な話をしている途中だというのに少しだけどきりとした。
「後は連絡を受けて駆け込んできた同窓会会長だっておじさんの説得が大変だったな」
「あー」
 それは分かる。いかにも野球バカって感じだった。
「お前らも応援の為に今日まで練習してきたんだろう! とか言い出した時は、どうしたもんだかと思った」
「どう説得したの?」
「してないよ」
「え?」
「話し合いの途中で向こうが怒って帰っていった。大変だった」
「うわ……」
 もうメチャクチャだ。
「で、校長先生とか教頭先生をどうにかなだめすかして帰ってきた。一回戦はコンクール出ないメンバーとOBの有志でどうにかするって」
「出ないメンバーって、どれくらい居るの?」
「んー、パート毎に一人か二人、合計十四人かな? OBの有志は今から探す」
「……困ったね」
「んー、まあ日曜だからOBの先輩も多分それなりに来てくれるだろ」
 アッちゃんは苦笑してからそう答える。それだけで、今日はどれだけ大変だったか分かるような気がした。
 野球部を優先して吹奏楽部は蔑ろにする大人達相手に、なだめたり謝ったり逆ギレされたり。同じ高校生の部活動なのに、どうしてそんなに差がつくのか。
 あたしはこっそりとため息をついた。
 もし居るなら、神様でも何でも良いんですけど、助けてあげてくれませんかね。
 せめてアッちゃんが、何の後ろめたさも感じずに舞台に上がるくらいのこと、させてあげて下さい。
 家に帰るアッちゃんの後ろにを何となくついて歩く。
 これから応援には出ないことを両親に説明するらしい。
 あたしは何も出来ないしただの傍観者だけれど、それでもせめてアッちゃんの味方になりたかった。
 もっとも、そんな必要はなかった。
 アッちゃんの両親は笑って
「行って来なさい」
 と言ってくれたのだから。
 本当に良かったね……アッちゃん。

75: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:11:01.97 /o6Tfi3L
 もうそろそろ寝ようかと思っていると、携帯に着信。一昔前のあまり流行らなかったバンドの歌が、お姉ちゃんからだと告げる。
 大体用件は分かってしまうので、あたしはしばらく躊躇ってから渋々と着信に応じた。
「……はい」
「あの、千恵ちゃん。今大丈夫?」
 野球部に付き添って神戸で逗留しているお姉ちゃんの、久しぶりの声だった。
「大丈夫」
「ありがと」
 お姉ちゃんはどこか緊張した声音をしていて、しばらく言いよどんだ。
 それで、あたしはお姉ちゃんの用件が想像通りだと確信する。
「お姉ちゃん? 何の用?」
 いい加減面倒になったあたしは、お姉ちゃんを促す。
「ん……あの、千恵ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど」
 ベッドに腰掛けて、長期戦に備える。
 気分は迎撃。大切な何かを守るそれに、白状すれば気分が少し高揚する。
「吹奏楽部……アッちゃんが甲子園に来てくれないって、本当?」
「みたいだね」
「……どうして、なんだろ」
「そりゃ、アッちゃんにはアッちゃんのやりたいことがあるんだから……当たり前じゃないの?」
「南ね、甲子園が夢だったんだ。小さいときからの―」
「知ってる」
「初めてTVでみた甲子園―そして……背番号1!」
 その時のことは、あたしも憶えている。
 当時すでに例の漫画については聞かされていし、実際に読んでもいた。だから正確には、TVで甲子園を見てからではないのだが……
 そんなことをイチイチ指摘するほどあたしも空気が読めない訳でも、暇な訳でもない。
「カッコよかったなァ…」
「そっか」
 どうせいつもの夢見がちな目をしてどこか宙を見ているのだろう。
 お姉ちゃん自慢の黒髪を揺らせて。
 お姉ちゃんの肩口までで揃えられた黒髪は、ゆるやかに波打っている。特にお風呂上りのお姉ちゃんの髪の毛は、女のあたしが羨む程に綺麗だった。
 双子なのにまるで似ていないあたしの髪の毛は、お姉ちゃんみたいに柔らかくない。硬い髪質で、手入れが結構大変だ。
 それでも長く伸ばしているのは、せめてもの意地だ。お姉ちゃんよりも可愛くない妹の、女の子らしいところをみせたいという。
「それがサ、もし自分の高校で………そしてその背番号1が南の―」
 相槌を打って欲しいらしい呼吸に、あたしは気付いてないふりをする。お姉ちゃんのお芝居につきあうつもりは全くなかった。
「幼なじみだなんて最高じゃない……」
「ふーん」
 極論、あたしにとっては他人事だ。カッちゃんが甲子園に出ようが、オロナミンC球場に出ようが、東京ドーム地下闘技場に出ようがあまり関係ない。
 今日まで傍観者を決め込んでいたあたしに、カッちゃんが叩き出した結果に乗っかって喜びを分かち合う資格はないのだから。
「それをTVじゃなくて甲子園のスタンドでみるの……それが南の夢」
「それで?」
「……ねえ、千恵ちゃんからもお願いして欲しいんだ、アッちゃんに――」
「お断り」

76: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:11:44.05 /o6Tfi3L
 ハナっからお姉ちゃんの話は勘付いていた。アッちゃんに、吹奏楽部に自分達のコンクールよりも甲子園を優先させて欲しいと頼むつもりなのだと。
「でも、甲子園だよ! 日本中が注目して、みんなが喜んでくれてるんだよ!」
「そんなの知ったことじゃないわよ。誰が注目していようと、誰が喜んでいようと、大事なのはそこじゃないんだから」
「同窓会の会長のおじさんなんか、わざわざ電話までかけてきたんだよ」
「どこの誰がどう思っていようと、吹奏楽部は吹奏楽部の為にあるに決まってるじゃない」
「南は――ただ、甲子園を、みんなで応援したいってだけなのに」
「あたしは、アッちゃんが市立文化センターに出てくれる方が嬉しい」
 価値観の、絶対的にして絶望的なまでの相違だった。
「……吹奏楽部の応援がないアルプスなんて、見たことないよ」
「コンクールに出ないメンバーと、OBの方が来てくれるって」
「でもそれって、吹奏楽部の本気じゃないってことじゃない」
「そりゃ、吹奏楽部が本気で歌うのはアルプススタンドの訳がないわよ。だいたいお姉ちゃん、アッちゃんの本気、聴いたことないでしょ?」
「……だから、それをアルプススタンドで聴かせて欲しいの」
 ため息を一つ。
 TVに映るとか、知名度が高いとか、そんな下らない理由でただの高校生の部活動を持ち上げたり蔑ろにしたりして。
 どこの大人も、本当にどうかしている。
 内心の苛立ちを隠して、あたしは静かに……けれど力を込めて言い切る。
「アッちゃん達の本当の本物の歌は、いつだって舞台の上にしかないんだから」
 そしてそのまま何か言っているお姉ちゃんを無視して、あたしは通話を切った。
 多分きっと、お姉ちゃんには分からないだろうと思う。
 あの日のチケットを、食べかすや生ゴミと一緒に捨ててしまうような人には。

77: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:12:50.43 /o6Tfi3L
   ◇

 その日も夏に相応しく、腹立たしいほどの快晴だった。
 全長3,500Kmを覆う高気圧に一人戦いを挑むほどあたしもアホじゃない。ただ鬱陶しい日差しに辟易としながら、向かうだけだ。アッちゃんが立つ舞台に。
 吹奏楽連盟主催吹奏楽コンクール県大会。
 先の定期演奏会とは違い、今回はあくまでもコンクール。自然と聴衆はよほど興味のある人に限られていて、あたしは一人浮いてないかどうか少し不安になる。
 訳もなく謝りたくなる。
 あたしは吹奏楽が好きなのではなく、単純にアッちゃんを視にきたというのが正しいのだから。
 音楽なんてものを正しく理解なんて出来ないくせに、と自己嫌悪しながら遠慮して一番後ろの席へ着いた。
 あまり聴衆がいないこともあってか、客席が控え室も兼ねているらしい。出場する人たちが他の団体の演奏を聴いていて、あたしは思わずアッちゃんの姿を探してしまう。
 後姿だけで、それでも見分けられた。
 あたし達の高校の吹奏楽部は総員八十人を超えていて、その内男子部員は七人。
 男子部員達はひとかたまりになっていて、あたしは一番後ろの席からその中からアッちゃんを見分ける。
 まあ、後姿を遠目に見て。
 そして見分けるくらい……出来なくて何が恋か。
 まあつまり、幼なじみから片想いの相手へと変わっていたのだ。いつからかは知らないけれど。そんなものにあまり意味はないのだろうけれど。
 丁度どこかの団体の演奏が始まる。
 課題曲はアッちゃん達と同じ選択で、あたしも一度は聴いた曲。だけれど、演奏する人が違うだけでこうも変わるものかと思った。
 あれほど優美で軽快だった旋律が、まるでない。
 贔屓目なく、アッちゃん達の演奏ほどの力はなかった。
 あたしは少しだけ肩の力を抜く。どうもコンクールというだけで緊張しすぎていたようだ。
 力を抜いて、それぞれの違いくらいは聞き比べてみよう。
 あたしは目を閉じて、深呼吸をした。

 そして一番最後の演奏。
 あたし達の母校の吹奏楽部の出番。
 ここまでの演奏で、あたしが聴いた中では進学率で有名な高校が頭一つ飛び出ていた。
 正直先日演奏会で聴いたアッちゃん達のそれと遜色ない素晴らしい出来で、あたしは審査員席にそっと目をやる。
 どう評価したのだろうか。
 ただの聴衆に過ぎないのに、そんな心配をしているうちに準備が整う。
 あの始まる前の独特の緊張感に、あたしは舞台に目を向ける。
 指揮台には顧問の先生。
 あの時と同じように部員達を見渡して、そして一つ確かめるように頷かれた。
 そして――音が、生まれる。
 あれから二週間強。
 素人のあたしにも分かる。
 あたしが無為に過ごした二週間は、アッちゃん達にとっては素晴らしい成長の時間だった。
 優美な旋律は更に艶やかに。
 軽快な旋律はより鮮やかに。
 そしてアッちゃん達の音は、より強くなっていた。
 世界中の音を従えて、アッちゃん達は舞台にかけていた。
 身内贔屓は、もちろんある。
 ないなんてことは言わない。
 けれど……それを加味しても、素晴らしい演奏だった。
 あたしは一番後ろの席で、小さく震えた。
 世界中に向かって自慢したくなった。
 どうだ――これが、あたしの幼なじみの歌だ。と。

 だから、アッちゃん達が金賞を受賞して、県代表として次の支部大会へと駒を進めたのはごく当然のことだった。

78: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:14:43.42 /o6Tfi3L
 はしゃいでいるアッちゃん達がバスに乗り込むのを遠くで眺めてから、あたしは自分も帰路についた。
 声をかけようかなとも思ったけれど、仲間内で喜びを分かち合っている姿を見ると、部外者のあたしがしたり顔で出て行くのは憚られた。
 せめてアッちゃんが帰ってきたら美味しいものを用意しよう。
 アッちゃんはジャガイモがごろごろはいったコロッケが好物で、あたしは帰りにスーパーに寄って材料を買い集めた。

 家には誰も居なかった。もちろん武司家にも。
 みんな甲子園に行ったからだ。
 甲子園の結果はあまり気にならなかった。
 春の甲子園でベスト4の工業高校を倒しているのだ、初出場で特筆する選手も居ない相手に負けはしない。らしい。
 まあお父さんが新聞の受け売りを得意そうに言っていたことだから、真偽の程は定かではないが……まあ多分大丈夫だろう。分からないけれど。
 明日の天気が晴れか雨かくらいの感覚だったのだ、あたしには。
 夕食の用意を済ませると、丁度アッちゃんが帰ってきた。
 誰も居ないからウチで食べようと昨日から言っておいたのだ。
「おかえりなさい、あと……おめでとう、アッちゃん」
 アッちゃんは曖昧に笑う。
「うん。聴いてくれてたんだね、ありがとう千恵ちゃん」
 その少し照れくさそうな笑みが、あたしは好きで。誰も居ない私の家で出迎えるというシチュエーションに、心が弾んだ。
「お礼なんて良いよ。それより次もあるんだね」
「ん、おかげさまで県代表。来週末かな? 次の支部大会は」
「そっか、どこで?」
「県外、少し遠い」
「んー、頑張れば聴きにいけるかな?」
「あはは、大変だよ?」
「ううん、聴きに行く。アッちゃんの演奏」
「ん、ありがとう」
 そう言ったアッちゃんの顔が、少し沈んだ。
「……アッちゃん?」
「ん。あのさ、千恵ちゃん……負けたんだってね、和也」
「へ?」
 キョトンとしてしまった。
「アレ? 出て行くときは楽勝みたいに言ってたよ、お父さん」
「ん、下馬評じゃそうだったみたいだけどね。和也の出来が無茶苦茶だったみたいだ」
 さっき帰り際に聞いたよ。と付け足す。後になって噂で小耳に挟んだのだけれど、帰ってきたアッちゃん達吹奏楽部はチクチクと嫌味を言われたそうだ。
 お出迎えは留守番で甲子園に行けなかった先生。『この夏』から甲子園ファンになったその先生に、はしゃぐ部員達は冷や水を浴びせられたそうだ。
 試合見てないのか。応援が足りなかったから勝てる試合も落としたんだ。可哀そうに、あんなに頑張ってたのに。兄貴のくせに女々しい、弟の晴れ舞台の応援も出来ないのか。
 エトセトラ、エトセトラ。
 荒野を行くような、夏の始まりだった。

79: ◆e4Y.sfC6Ow
11/10/06 23:15:02.70 /o6Tfi3L
今回ここまで。

因みに、ほとりさん達はまだ温泉街でのんびり湯治中ですよ。
次はほとりさんの湯治と引越しくらい出来たらなあ、と思っています。

今回のモトネタ

グスターヴ・ホルスト作曲『Moorside March』
URLリンク(www.youtube.com)

ホルストといえば惑星が有名で、日本でも最近誰だったか忘れましたが木星のメロディーで歌ってましたっけ。

しかしマーチばっかだな、セレクト。

80:名無しさん@ピンキー
11/10/07 09:59:04.47 j2YFsPni
おつ!
続きwktk

81:名無しさん@ピンキー
11/10/07 14:22:18.97 Pfbuy6Ou
続きお待ちしております

82:名無しさん@ピンキー
11/10/09 15:33:11.30 bM6vUE5X
面白いが、出て来る野球の人間が屑杉ワロタwww

83:名無しさん@ピンキー
11/10/09 17:06:47.31 9l0EeALJ
個人的にはこの手の話にはハブられてた主人公とヒロインの「圧倒的な勝利」みたいなものを期待するけど、
どんな終わり方にするのか楽しみだな。

84:名無しさん@ピンキー
11/10/09 21:12:38.37 MxLKzU6t
さすがですね~GJすぎです
僕は高校時代野球部でしたが吹奏楽部って誰の依頼で応援しに来てるんだろうな~と不思議でした。

85: 忍法帖【Lv=11,xxxPT】
11/10/18 07:38:23.62 6gTqrVb5
保守

86:名無しさん@ピンキー
11/10/21 16:11:31.93 /yTiLO/o
幼馴染みものって女の方が成績家事優秀圧倒的に多いな

87:名無しさん@ピンキー
11/10/22 13:13:08.63 hwk1zDIO
しっかり者の幼馴染の欲しかった男が多いからじゃね?

88:名無しさん@ピンキー
11/10/22 18:38:10.85 aHzyCGtF
幼馴染だけでない
男が書く女は大抵そう
女が書く男は逆が多いな

89:名無しさん@ピンキー
11/10/22 23:24:38.03 ojrZ1Fc7
家事は知らないが成績優秀で優しい幼馴染みならリアルにいたよ・・・

90:名無しさん@ピンキー
11/10/22 23:36:01.57 nwiu1Tnc
ただし男だったというオチか?

91:名無しさん@ピンキー
11/10/23 02:35:48.97 DJfEMiyl
投下します


92:思春期
11/10/23 02:37:20.69 DJfEMiyl
1.

 いつもは退屈な古典の授業だが、この日だけは違った。教材が教材だったからだ。
 それは、伊勢物語の『筒井筒』と言う作品だった。幼馴染みの男女が紆余曲折を経て結ばれる話。
 俺は思わず後ろの席をちらりと見る。すると、そいつと目が合った。園児時代からの腐れ縁である、香奈という女子と。
「何だよ」
 香奈は小さく、しかしドスのきいた低い声で言った。相変わらず女とは思えんヤツだ。
「別に」
 俺はそっけなくそう言い返し、ノートを取る手を動かし始めた。
 幼馴染みの女と恋愛関係? ないない、ありえない。
 俺の竹馬の友は、自分が女だって意識してないんだ。未だにガキの気分のままなんだ。
 幼馴染みとの恋愛。所詮そんなものは幻想に過ぎないと、俺は千年以上前の作品にケチをつけるのだった。

「なあ、光一」
 香奈が俺を呼ぶ。もしかして今日も……もう一週間連続だぞ。
「今日も部活終わったらお前んち行くからな。飯作っといてくれよ」
「いや、ちょっ……おい!」
 俺の言い分なんて聞く必要もないとでもいうように、香奈は愛用のテニスラケットを持って教室を出た。
 
「聞いてたぞ。なあ、光一、お前ここんとこ香奈とよろしくやっているみたいじゃねえか」
 俺のもう一人の幼馴染である順平がくだらないことを言ってきた。
「バカ、そんなんじゃねえよ。あいつの両親が超忙しくて家にほとんどいないこと、お前も知っているだろ」
「知ってるけど。でも、年頃の男女が毎晩一緒にいるなんて、勘繰るじゃん?」
「俺が? あのオトコ女と? おいおい、寝言は寝て言え」
「まったく。そう言って、本当は毎晩理性との戦いだろ?」
 俺は図星をつかれた。こいつの言うとおりだ。これが最近の悩みの種だった。
 いくら香奈がオトコ女とはいえ、体は女子だ。思春期真っ盛りの男子が反応しないわけない。
 それに―
「ガキの頃からのダチである俺が言うのもなんだが、あいつ、高校入ってからますます可愛くなったしな」
 順平の言葉に、俺は小さく頷いた。それは、まあ、否定しない……。
「まあ、ボクにも可愛い彼女がいるんですけどねー」
 順平が手を振った先には、小柄で愛くるしい女子がいた。これから二人で放課後デートだろう。
 女の子は気恥ずかしそうに手を振り返した。何ていじらしい、これこそ男の理想の彼女だ。
「キミも青春を頑張りたまえよ、光一クン」
「黙れ、とっとと消えろ。お前の顔なんて見飽きてんだからよ」
 ホント、幼馴染み3人が同じクラスってどんな確立だよ……。


93:思春期
11/10/23 02:38:07.06 DJfEMiyl
 香奈は玄関のチャイムを鳴らさずに入ってきた。
「ただいまー。今日の飯はー?」
「ここはお前の家じゃない」  
 そう言って玄関まで行く。すると、例によって香奈は私服だった。しかも夏ということで、とびっきり薄着の……。
「いつも言ってるけどよ、何でわざわざ着替えてくんだ?」
 そのおかげで俺は目のやり場に困っている。しかも、今日の服はいつにもまして大胆だ。
「だ、だってよ。制服じゃ暑いだろ。お前んちいつも冷房28℃だし」
 だからといってその格好はないだろ。
 胸元が見えそうなくらい危ういタンクトップに、肉付きのよい脚が丸見えのホットパンツ。
 こいつは女としての自覚が足りなさ過ぎる。
 もう少し恥じらいがある女の子のほうが俺は好みだ。とはいえ、男の正直な本能は女体を意識してしまう。
「いいから、早く飯だメシ」
 香奈は背後に立ち、触れんばかりの距離で俺を押し出し始めた。

「ふぅー、ごっそさん」
 香奈はあっという間に俺の作った炒飯を何杯も平らげた。やっぱ生まれてくる性別を間違えてるよ、こいつ。
「なあ、今日親父さんいないん?」
「ちょっと遅くなるってよ」
「……なるほど」
 何がなるほとかはよく分からんが、俺は親父が早く帰ってくることを祈った。
 親がいれば理性は外れないだろう。こいつ相手にそんなことを考える自分が情けないが、やはり本能は強力だ。
「……なあ、悪いけど、風呂貸してくれない?」
 俺はもうすぐで口に含んだウーロン茶を吹きだすところだった。
「家で入れよ!」
「いやー、節水したいじゃん。留守中、親に家を任されている身としては。頼むよー」
 香奈はいきなり俺の肩に手を置き、抱き寄せてきた。オトコ女に似つかわしくない豊かな谷間が目に入った。
「お、俺の家の光熱費はいいってのか?」
 正直光熱費よりも俺の理性が心配だった。
「親父さん、超一流企業の社員だろ? 平気平気。でも、そんなに心配なら……一緒に入るか?」
 俺は鼓動が急上昇し、全身に緊張が走った。
「はあ!? 嫌だよ。何でオトコ同士で入んなきゃいけないんだよ、気持ち悪い」
 動揺を隠そうと、心にもないことを言ってしまう。
「……バっ、バーカ、冗談に決まってるだろ。覗いたぶん殴るからな。私の体は安くねーんだ」
 香奈は持ってきていた袋を手に取ると、足早に風呂場へと去っていった。
 体……カラダって、お前……。

 シャワーの音が聞こえる。あいつは今、裸で……。裸のあいつが、俺の家に……。
 俺は理性が保てるか心配になってきた。早く帰ってきてくれ、親父!

94:思春期
11/10/23 02:38:48.47 DJfEMiyl
 2.

 温度調節が十分にされているシャワーを浴びながら、私はイライラしていた。
 せっかく人が大胆な格好で行ったのによ。あいつ、何の反応も示さねえ。もしかして、イ○ポなんじゃ……。
 いや、違うよな。
(―何で男同士で入んなきゃいけないんだよ、気持ち悪い)
あいつの言葉がまだ頭の中で響いている。
 やっぱ光一は、私のことを女とは思ってねーんだな。けど、それも当然か。
 ガキの頃から、順平を交えて3人で男遊びばっかやってたしな。口調も男みたいだし。
 クラスメイトとオシャレ話するよりも、スポーツして汗流しているほうがよっぽど楽しい。
 一部の女子がやっているような、男とあらば即媚びるような演技なんか死んでもしたくない。
 男の望む「女らしさ」なんて真っ平御免だ。
 ……こんな女じゃ男になんて好かれるわけねぇよな。
 いっそのこと、本当に男だったらどんなに良かったか。
 こんな、馬鹿みたいに苦しい思いなんてしなくてすんだのに。
 私は思わず自分の胸を触った。この乳房が忌々しい。
 こんなものが膨らんでこなければ、私は自分を「女」だなんて意識しなかった。
 光一のことを、「男」として意識しなかった。 
 いつまでも気軽にバカをやれてたのに。
 思春期ってヤツが憎らしい。

 けど、しょうがねえよな……好きになっちまったもんはさ。
 何でかは自分でもよく分かんないけど、中学に入って、あいつが女子と仲良く話しているところを見たとき、猛烈に嫌な気分になった。
 こんなことは初めてだった。友達を取られると思った嫉妬か? でも、順平が女子と話していても特に何とも思わない。
 その気持ちが何日も治まらなかった。光一の顔を見ると、あのへらへらした面をぶん殴りたい衝動に駆られた。
 自分は一体どうしちまったかのか? 友達の由香里に聞いてみたところ、
「それって恋じゃん。あんたにもそんな季節が来たかぁ」
 とのことだった。
 私は恋をしたらしい。飽きるくらい一緒に同じ時間を過ごした、幼馴染みに。いつの間にか……。

 バスタオルで体を拭いたあと、私は歯ブラシと歯磨き粉を手に持った。
 ホント、家にいるみたいだ。それくらいこの家には何度も来た。
 両親が仕事でいないとき、いつも泊めてくれた。
 布団に入って、光一と二人で学校や遊びのことを何度も語り明かした。幼稚園、小学校のときの記憶が昨日のように蘇る。
 あいつに恋してもう4年―。
 未だに告白できていない。でも、したくない。
 失敗して、この関係が終わるのが嫌だったから。
 でも何とかしたい。もう少し光一との関係を進めたい。
 そう思って、高校に入ってから順平と由香里に相談した。そしたら二人とも口をそろえて、
「相手のほうから告白させりゃいいじゃん」
 と言った。つまり、光一が私を好きになるよう仕向ければいいと言うのだ。
 自分でも卑怯なやり方だと思うが、私はそうすることに決めた。一番、確実な方法だと思うから。
 
「さっぱり、さっぱり。働いた後の風呂は最高だな」
「おっさんかよ、お前」
「おいおい、だーれがおっさんだって」
 私はあえて光一に接近し、ヘッドロックした。
 こうやってスキンシップしていれば、女のことしか考えていない思春期男子なら、私を意識してくれるかもしれないから。
 光一、お前はよく私のことを男扱いするけど、これならどうだ? 
 性格は確かに「女」とは程遠いけど、体はちゃーんと女なんだぜ。


95:思春期
11/10/23 02:39:33.59 DJfEMiyl
 3.

 俺は窮地に立たされていた。
 ジャージ姿の香奈にヘッドロックをかけられたとき、女子特有のいい匂いが鼻いっぱいに広がった。
 そして何より、こいつの胸がいまにも触れんばかりの距離にある。
 正直な話、股間が……反応し始めている。
 今にも香奈の胸を触ってしまいそうだ。だが、もちろん友達にそんなことできるはずもない。
 それに、香奈はテニス部で鍛えまくっているし、対する俺はただの帰宅部。あとが怖すぎる。
「やめろバカ。さっさと離せ」
「何だよ、もう降参か? 情けねえな」
 そうじゃねえ。お前、自分の胸を男に見られてるんだぞ。どうしてそれを気にしないんだ。
 思春期になった俺たちは、いつまでも昔のまんまじゃいられないんだ。どうしてそれが分からないんだよ。
「やめろ!」
 俺は思わず香奈を突き飛ばしてしまった。すると、香奈が尻餅をついた。
「な、何だ……結構やるようになったじゃねえか」
「あ、悪い。いや、お前も悪いぞ、いきなり人にヘッドロックなんてするから」
「ああ、悪かったよ。ごめん」
 香奈は深刻な顔つきになった。こいつが俺に対してこんなに神妙に謝るなんて珍しい。
「あっ、そろそろ帰るわ。何か今日の部活一段ときつかったから、眠いんだ」
「そうか。明日も来るのか?」
「いや、まだわかんね。まあ、嫌だってんなら友達の家行くからよ」
 別に嫌ではないが。俺がそう言おうとする前に、香奈は玄関に向かって歩き出した。 
「んじゃ、また明日」
「ああ、ってジャージのままで帰るのか?」
「別に普通じゃね? つーか、歩いて何分もかからん距離だろ」
 そう言って、香奈は軽く手を挙げ出て行った。

 香奈が帰ってからも、あいつのことが頭から離れなかった。
 男を挑発するかのような薄着。風呂上りの甘い匂い。……可愛らしい顔立ち。
 すべてが俺には刺激的だった。あいつのことなんか、気の合う友達としか見てこなかったはずなのに。
 昔からの友人をいやらしい目で見てしまった自分が恥ずかしい。
 けど、仕方ないじゃないか。いくら香奈が男勝りだからって、本当の男じゃないんだから。
 俺たち男子がこっそりと見ているAVの主役と、同じ性別なんだから。
 思春期ってのは厄介な奴だ。俺たちは無理矢理「男」と「女」に引き裂きやがった。
 もう昔のように、くだらないことで体をつつき合ったり、一緒にお泊りしたりできないんだ。
 子どもの頃の思い出が、妙に懐かしく、かけがえないものに思えた。

「ただいま」
 すると、玄関から親父が現れた。
「ああ、おかえり。飯できてるぞ」
「おお、そうか。じゃ、早速いただくとするか」
 一緒に居間でテレビを見ていると、遅い夕食にありついた親父が突然、
「そういえば、帰りに香奈ちゃんに会ったぞ。またここに来てたのか?」
「ああ」
「まあ、仲が良いのは結構だが、あんまり遅い時間まで一緒にいるなよ。相手は女の子なんだ」
「分かってるよ」
 くそっ、親父までそんなこと言うのかよ。
 男の性欲ってのはホント厄介なもんだな。信用なんか欠片もない。
 香奈も、それに気付くべきなんだ。


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