11/11/10 02:30:51.50 cacm3W3d
「いいかい、荻野目さん。薬の力なんかに頼っちゃ駄目だよ。君と僕が夜をすごすこと自体に意味があるんだから」
普段ではありえない歯の浮く台詞を吐く自分に、他人事のように感心した。とにかく今は、
彼女を落ち着かせることが最優先事項だ。
「やだ、晶馬君たら・・・」
むくれていた苹果はコロリと表情を変え、両手を頬にあてはにかんでいる。
こういうところは本当に普通の女の子なのに、どうにも他人の予想とは正反対の方向に飛び出してしまうようだ。
今でこそ、そんなところも可愛いと思えなくもないが、とりあえず今は落ち着いて欲しい。
彼女の暴走はいつだって裏目に出るのだから。
「じゃあ、私たちの身体を使って出来ることをしましょ。何がいいかしら…私、ちゃんとたくさん勉強してきたんだから!」
苹果は鼻高々に胸を張る。もう、嫌な予感しかしない。
しかしここで頭から否定しても事態は好転しないだろう。
とりあえず口を挟まずに様子を見ようと、先を促す。
「あのね、晶馬君は…ワカメ酒って知ってる?」
「嫌です」
晶馬は即答した。
「えっ、…知ってるの?」
「知らないよ。知らないけど大体想像つくよ!っていうか酒って僕らまだ未成年だろ!
っていうか君こそ、そんな知識どこで仕入れてくるんだよ!!」
「ちゃんと勉強したんだって言ったでしょ。ううん、これも嫌なら…そうね」
ごそごそ、がちゃがちゃと大仰な音がして、取り出されたのは鞭とロウソクとハイヒールと赤い麻縄。
ああ、それならわかりやすい分マシだな、と思ってしまった自分を脳内で1発殴る。
「…ってちょっとあいたたた!」
「あれ、ここをこうして…」
いつの間にか背後に回りこまれ麻縄を巻きつけられ、よく分からない体勢で
縛り上げられそうになる。
「いやこれ無理だってば!僕たちにはハードル高すぎるよ!!」
「練習のときはうまくいったのよ!」
結局苹果は思い通りに扱えず、残念そうに麻縄をほどいて脇に置き、
その手で今度はロウソクを持ち出した。
「じゃあこれは…ん、その顔だけで嫌って分かるわ、もう!あと残っているのは…」
一体どこに隠していたのか、床には謎の形をした器具やら水着やらビデオカメラやら手錠やらが
次々に並べられる。どう見ても医療器具であろう薬剤とチューブは一体何に使うのか、
考えたくもない。怪しげな品々に囲まれて晶馬は途方に暮れた。
僕はただ、初めての夜を幸せにすごしたいだけなのに…!
「いや、荻野目さん、そういうのはまた次の機会にしてさ、今日はもう普通に」
「何言ってるの!今日、この夜を華麗に彩らなくてどうするの!そうだ、これはどう?」
聞く耳持たず。苹果に悪気がないのは百も承知だが、言いようのない感情が胸に溜まっていく。
高揚していた期待と欲が、行き場を求めている。
僕はただ、お互いのことだけを想い合って過ごしたいのに。
俯く晶馬に苹果は気付かず、卑猥な形のピンク色の機械をいじくっている。
「荻野目さん。」
機械がうまく動作せずぶつぶつ呟いている苹果には、晶馬の呼びかけも耳に入らない。
悪戦苦闘の末、妙な動きを始めた機械を持って晶馬ににじり寄る。
「さ、晶馬君!こうなったらあなたにこれを挿れ、きゃ」
晶馬は無防備で華奢な肩を掴み、そのまま押し倒した。衝動の中に残した理性で、
苹果が変に身体をぶつけないように加減する。機会は耳障りな音を立てて転がっていき、
そのまま動きを止めた。
「っなに、ぅ」
抗議の声を上げかけた苹果が息を飲む。いつも優しく輝いている緑色の瞳が剣呑に光り、
しばしばハの字に垂れ下がる眉が根を寄せていた。
「…いい加減にしろよ」
聞き慣れたはずのテノールが、響きを変えて苹果の鼓膜を震わせた。