11/10/24 14:50:46.26 2MJV5T7o
彼はベルベットルームから出た後、その足で帰りの電車の中にいた。
片手で吊り革を掴み、片手で鞄を提げている。
出入り口の窓からはぽつぽつと光っている街の夜景が見える。
少年がさりげなく右を見れば、優先席で携帯電話をいじっている若者。
左の方を見れば月光館学園の制服を着ている学生達が大きな声で笑い合っている。
キタローはため息をつきながら視線を戻そうとした時、ある若い女性が履いているブーツが目に入った。
あれは革製じゃないな。ここからじゃよくわからないがそれ以外の素材か。
エナメルはともかく、革でできた素材のやつは大人な雰囲気の女性が履きやすい気がする。
大人な雰囲気といえば、美鶴がまず一番に思いつく。
あの人のようなかっこいい女性はほとんどが振る舞いや言動―信念といえばいいか―が、なんとなく洗練された印象がある。
同じ革でも、足首かふくらはぎまでのショートブーツを履く女性ってどうなんだろう。
膝丈とハイヒールの中間に位置してるだけあって、その人自身の社会的な立ち位置も中間なんだろうか。
彼は視線を元に戻し、再び顔を右に向け、優先席に座っている女性を見る。
身長はおよそ160センチ前後で童顔で卵形、色白の顔。恐らく20代後半。
真っ白のワイシャツに黒のスーツ、黒のタイトスカートに肌色のストッキング。靴は黒いエナメルのハイヒール。
今日のお仕事でお疲れの様子なのか、電車の壁に首をもたげてすやすやと眠っているようだ。
ふむ、顔がかわいいからゆかりが履いているようなのが似合いそうだ。
ゆかり、なぁ……あのブーツは確かどうだったっけ。
彼は電車内のやかましさから逃避する為、携帯音楽プレイヤーの電源を入れる。
マリリン・マンソンの「Rock Is Dead」を選曲し、エンドレス再生にした。
以前、ゆかりに聞いてみたが本当なのだろうか。
確かムートンブーツ、といったか。
履いているだけで足が暖かくなるブーツらしいが、「ちょっと失敗した」と言っていた。
なんでもそのテのブーツは、履いた状態で長い間歩いていると足が蒸れるらしい。
前にタイミングを見計らってそのブーツを脱いだ状態のゆかりの足を嗅いでみたら……臭かった。
時間が経った納豆を彷彿とさせる臭さで、頭がクラクラした。
しかし、僕の下半身はあの時も、そして思い出した今も大歓迎みたいだが……。
革製じゃないからと甘く見ていたが、あのような臭さは―僕は嫌いじゃない。
そう言いながら彼は口元を歪めてズボンごしに自分の下半身をやさしく撫でた。
ゆかりの顔と、ゆかりが履いているブーツを思えば思うほど彼の分身はどんどん硬くなる。
そろそろ下りる駅が近いと感じた時、アナウンスが聞こえてきた。
『えー、次は巌戸台、巌戸台。お忘れ物のなきようお願いいたします』