11/10/24 14:49:58.16 2MJV5T7o
ある日、ポロニアンモールのブティックの前に少年がいた。
世間では不況だ謎の奇病だと騒がれている。
今朝、彼が学校に行くついでに見た日経平均の株価は依然として歴史的な低迷を続けていた。
かといって権威ある人々でさえも為す術も無く、まさに「お手上げ侍」であった。
まるでこの世界に綻びが現れたかのようだ。
それにも関わらず、この少年の目は煌々と輝きを帯びている。
あどけなさを残した顔はショーウインドウに飾られているマネキンを見ていた。
季節に合ったファッションのマネキンを見ることに意識のほとんどを注いでいたのだ。
女装する趣味なんか彼は持っていない。
付き合っている女子とデートのシュミレーションをしているわけでもなければ、プレゼントしたい服でもない。
もっとずっと、下の方を見ていた。
彼はブーツを見ていた
現代社会を風刺した服装のマネキンが履いている膝丈の黒いブーツを見ていたのだ。
あれは多分レザーブーツだろうな。
新品の革製のやつはいつ見ても良い。艶も、そして服との相性も良い。
普通の人はブーツを、服装の魅力を引き立てる小道具、いわゆる大根のつまとしか思ってないようだが個人的には逆だと思う。
ブーツこそが主役だ。履いている人の人格、容姿、服装は引き立て役に過ぎないと思う。
いつかの日におかずにした美鶴が履いているのには遠く及ばないが、まだ誰にも買われていないだけあって見栄えは良いな。
ああ、美鶴本人も魅力的だから、あの時のブーツは相乗効果で美しかったな。
彼はそんなことを心の中で言いながら、通行人から挙動不審だと思われないように普通に振舞う。
しなやかな革の素材が照明の光に反射して光り、汚れ、しわやシミも1つも無いのが窺える。
夏が終わり、秋の季節になったので、ブーツを履いた女性が電車の中やここらで見かけるようになった。
大抵はくるぶしから脛のあたりでしわくちゃになっているのが一般的である。
長く愛されれば愛されるほど、つまさき部分などは擦れて光りを失って色褪せる。
彼が割と好きな革製の物でその状態になってしまうから、エナメル素材に対しての彼の評価はもっと厳しい。
履いている人物の人格・品格・知性まで3点セットで問われるというのが彼の持論だ。
例えふさわしくない人物がブーツを履いていたとしても、彼の中のブーツに対する愛は少しも揺らぐことはない。
燃えるように熱い、彼自身のブーツへの情熱はその程度のものでは消えないからだ。