11/12/12 10:19:17.63 W+dHvzGy
「そんな大変な事だったんですね。それじゃ私たちも学校に行きましょう」
風花は今すぐに助けてくれた彼から離れたかった。
理由は、彼が心の中に踏み込んでくるのを拒みたかった。
人を観察している時の彼の目は鋭い。
その鋭さは探索の能力を持つ風花でさえ舌を巻くほどだ。
今、風花の心には「見て、見て、かわいそうな私を見て」という気持ちの割合が少なくない。
悲劇のヒロインを演じるのは簡単で、同情はされる。
しかし、度が過ぎると演じているのを見破られて人間関係にヒビが入る欠点を恐れている。
そんな理屈なんて考えなくとも、彼に余計な心配はかけたくないというのが風花の本音だった。
幸い、痴漢に触られたショックはもうほとんど気にしていない。
だがもし彼に今抱えている気持ちを悟られたら、色々とおかしくなってしまうかもしれない。
彼女は、自分がいじめられっ子だった頃の経験をある意味活かしていた。
「……風花?」
戸惑う彼を残して、彼女は一人ですたすた歩き始める。
「ああ、君か。さっきはよく痴漢を捕まえられたね、お疲れ様」
タイミングが良いのか悪いのか、駅員が戻ってきて彼に話しかけてきた。
逃げるなら今しかない。
痴漢は捕まえる事ができたが、逆に駅員に捕まった彼を残して先に学校へと向かった。
助けてくれた人にこの仕打ちはひどいと自覚はしている。
風花は心の中で「ごめんなさい」と思った。
そして、もう少し自分の中で抱えている気持ちの整理が着くまで待って欲しかった。
汚い「思い」と「想い」で散らかった心の中を覗かれるのは風花にとって堪えられなかった。