らき☆すたの女の子でエロパロ64at EROPARO
らき☆すたの女の子でエロパロ64 - 暇つぶし2ch300:みずたまりのほとり みなみ視点 13
12/02/26 08:56:21.38 pcJzFuEH
5時間目は無事に終わった。
休み時間になっても、私はそのままじっと席に座って考え続けた。

(私も…)

ひよりが私の所に来て小声で言った。

「ちょっと失礼なこと聞いても…いいかな?」

嫌な予感がしたけど、私は頷いた。

「さっきの授業中から、トイレ行きたそうに見えるんだけど…気のせい?」

…予感が当たった。
授業中にそわそわしてたの、見られていた。

「気のせいじゃない…行きたい」

私は正直に答えた。

「他の人にも…ばれてたかな?」

「ううん、私だけだと思うよ。
 実は、さっきの授業中に私も行きたくなっちゃって…。
 そわそわ=トイレ、っていうのが念頭にあったから気付けた感じ」

ひとまず安心。

「そんなわけで今から行くけど…よかったら一緒にどうかな?」

ひよりはそう言ったけど、私は首を横に振った。

「行かない。私、このままで次の授業を受ける」

「え…」

ひよりの『え…』は、明らかに理由を尋ねていたけど、
私はそれ以上説明できなかった。
さっきから浮かんでる考えをまとめるには、今の状態でいるのがいい。
そう漠然と感じただけだったから。
幸い、ひよりはそれ以上問い詰めようとせず、一人でトイレに行った。
やがてチャイムが鳴り、6時間目の授業が始まった。

(私も、ゆたかと…)

ときどきもじもじしたり、脚をぎゅってしたり、寒気で震えたりはしてしまう。
でも、まだ限界という感じには程遠い。
さっきあんなに焦ってしまったのが嘘のよう。
この授業中に大きな変化は起きない。
確信した私は、授業を適度に聞きながらさっき浮かんだ考えをまとめにかかった。

301:みずたまりのほとり みなみ視点 14
12/02/26 08:58:07.12 pcJzFuEH
…授業が始まってから、ずっと一つの熱い視線を感じていた。
ひよりが私を見ていた。
心配しているようにも、何か期待しているようにも見える、複雑な表情で。
私が目が合うと慌てて視線をそらすけど、少し経ってから見るとまた目が合う。
すごくそわそわして落ち着きが無かった。
私とどっちがおしっこ我慢してるのか分からないぐらい。

もしかして…、
混んでたか何かでトイレ使えなくて、ひよりもまだおしっこ我慢してるとか?
大丈夫かな。ひより…。

私の心配はまた杞憂で、無事に6時間目の授業も終わった。
気の早い生徒はもう帰り始めている。
席に座ったまま、ほっと一息。
考えは、まとまった。
頭の中の真っ白が、小さくなった気がした。

私はトイレに行くために立ち上がった。
立ち上がるのも余裕。歩くのも余裕。

ぴょん、ぴょん。

その場で軽く飛び跳ねてみても、おなかに鈍い痛みを感じる程度。
体育じゃなければ、もう一つ授業があったとしても耐えられそう。
自分の膀胱のしぶとさに呆れた。
明日は、もっと工夫が必要だ…。

無事におしっこを済ませてトイレから出ると、ひよりがいた。

「間に合ったんだよ…ね?」

恐る恐るという感じで聞いてくるひより。

「うん」

「はぁ…今の授業中、ずっとどきどきしっ放しだったよ…」

…今頃気付いた。
ひよりは、おしっこを我慢してる私の事が心配で落ち着かなかったんだ。

「ごめん…そんなに心配してくれてたなんて…」

「いや、いいんだけどね…。
 私が勝手に興奮…げほごほっ、そう、心配しただけだから…」

302:みずたまりのほとり みなみ視点 15
12/02/26 08:59:40.14 pcJzFuEH
「他の人…気付いたかな。私の様子に」

さっきと同じ質問。

「ううん。一応そっちも注意してたけど、そういう気配はなかったと思う」

よかった。
他の人に気付かれてたら、明日は警戒されて計画に支障が出るだろう。
問題は、ただ一人気付いているひよりだけど…。

「ところで…
 さっき、どうしてトイレ行かなかったのかな?
 あんまり聞くことじゃないかもしれないけど、気になっちゃって…」

やっぱり、それを聞かれた。

トイレに行かなかったのは、ある考えをまとめるため。
それを言えば、まとめた考えとは何かも当然聞かれるはず。
その考えを、教えるのは躊躇われた。

「まだ、そんなに行きたくなかったから」

「5時間目の時点で仕草に出ちゃうほどだったのに?
 トイレ行く時間はあったし、別に我慢する必要なかったよね」

「えっと…何となく、あのままでいようと思っただけ。特に意味はないよ」

「何となく…なのかな?
 ほんとは…小早川さんのこと、意識してたんじゃないかと思うんだけど…」

…ひよりは、気付いている。
明日の計画まではともかく、私がゆたかのことで何か考えていて、
それは今日おしっこを我慢してみたのと関係があるということを。
これじゃ、明日、計画を実行し始めた時点ですぐに気付かれてしまう。
そして、ひよりはきっと止めようとするだろう…。

…ごまかすのは無理だ。
ひよりには、明日起こる予定のことを教えるしかない。
教えた上で、邪魔をしないでくれるよう頼むしかない…。

「ひより…」

私はひよりの手を取って、まっすぐに目を見つめた。

「お願いがあるの」

303:みずたまりのほとり みなみ視点 16
12/02/26 09:01:07.49 pcJzFuEH
「な、何?」

「今日のこと…
 私が…おしっこ、わざと我慢してたこと…誰にも言わないで」

「…ももも、もちろん!言うわけないよ!」

ひよりはなぜか照れていた。

「それと…明日、私がまた同じような状態になっても…
 ううん、もっと危なそうな状態になっても、ひよりは気にしないでいて」

「え!?」

「そして…先生や他の誰かに言ったりもしないで。
 …最後まで、放っておいて」

「ちょ、ちょっと待って…『最後まで』って…あの…つまり…」

ひよりは困惑していた。
困惑の理由は二つ考えられる。
一つは、お願いが突飛過ぎて意図が分からないから。
もう一つは…意図を完全に読み取ったから。
…きっと、後者だ。

「ゆたかのために…お願い、ひより」

「う、うん…」

私は押し切った。

(私も、ゆたかと同じようにみんなの前でおもらししたら、
 おもらしした仲間ができて、ゆたかが立ち直るきっかけになるかもしれない。
 それに、ゆたかにおもらしさせた私への報いにもなる…。
 するのは明日。ゆたかがしたのと同じ、6時間目の授業で…)

304:64-285
12/02/26 09:02:41.72 pcJzFuEH
2日目は以上です。

305:名無しさん@ピンキー
12/02/26 16:14:03.40 6V4U01jT
乙です、3日目も楽しみにしてます!

306:64-285
12/02/26 20:56:50.95 pcJzFuEH
「みずたまりのほとり」の続き(3日目・完結)を投下します。

・本編15レス前後、エピローグ3レス使用予定
・その他注意事項は>>285のものに準じます

307:みずたまりのほとり みなみ視点 17
12/02/26 20:58:26.55 pcJzFuEH
次の日。
私は普段通りに家を出た。
ただ、一つだけいつもと違った。
今日はトレードマーク(?)のタイツ無しで、素脚だった。
濡れるのが嫌だったからじゃなく、脚が冷えておしっこが近くなるように。

たぶん、今日もゆたかは来ない。
そう思ったけど、かすかな希望を抱いて昨日と同じようにバス停で待った。
すると…。
いつもゆたかが乗ってくるバスの中から、ゆたかが降りてきた。

「ゆたか…」

「……!」

ゆたかは私に気付いて何か言いかけたけど、
そのままおびえるように顔を背けて学校の方に走り去った…。

学校に来たのは、少なくとも昨日よりは立ち直ったということ。
私がゆたかに嫌われてるとか、そんなのは些細なこと。
なのに…胸が痛くなるのをどうにもできなかった。

教室に行くと、ゆたかの席には鞄だけあって、ゆたかの姿はなかった。

「ゆたかは…?」

教室にいたひよりに聞いてみた。

「来たけど…鞄だけ置いてすぐに出て行っちゃった。
 あっという間で、おはようも言えなかったよ…」

ひよりは寂しそうに言った。

ゆたかは、HRで先生が来るのと同時に戻ってきた。
席についてもずっと下を向いて、周りを見ようとしなかった。
まるで、石ころにでもなりきろうとしているみたいだった。

ゆたかはずっとそんな調子だった。

授業中は板書するのにちらちら前を見る以外、ずっと下を向いていた。
休み時間になるとすぐ出て行って、次の授業で先生が来るのと同時に戻ってきた。
どこか人気のない所で時間を潰しているようだった。、

ゆたかは立ち直ってなんかいない。
きっと、家の人に心配をかけないように無理して来ただけ。
私がこれからすることで、少しでも気持ちを楽にしてくれることを祈るしかない…。

308:みずたまりのほとり みなみ視点 18
12/02/26 21:00:03.73 pcJzFuEH
昼休み。
ゆたかは今までと同じように、昼休みが始まるなりお弁当を持って教室を出て行った。
食欲までは無くしてないと知って、少しだけ安心した。
食べることさえできれば、落ち込んでても体調はある程度維持できるはずだから。

今の時点でもう『おしっこしたい』ってはっきり感じる状態だった。
昨日感じたのは5時間目の途中だったから、それよりずっと早い。
タイツがなくて脚が冷えてる効果が、確実に出てる。
でも、これだけじゃ足りない。

お弁当を適当に済ませた後、
私は、用意してきたペットボトルのお茶を一気に飲んだ。

「んっ……んっ……」

好きでよく飲むお茶なのに、今日はおいしくない。
体にたまってる水分が、新しい水分を拒否していた。
普通の500mlのボトルなのに、その時は何リットルにも感じた…。

「……はぁ」

…何とか飲み干した。
計算では、6時間目の授業中にお茶の効果が出るはず。
効果が出れば、私のしぶとい膀胱だってさすがに耐えられないはず。

そこまでこだわる必要があるのかって、思われるかもしれない。
適当な量だけおしっこをためて、適当な時間にわざとしてしまったって、
他の人から見たら同じことだろう。

でも、それじゃ意味がない。
ゆたかと同じようにいっぱい苦しんで、
本当に我慢できなくなってもらすのじゃないと、
私への報いにならない。

ぞくっ。

「うぅ……」

おしっこのせいか冷たいお茶のせいか分からない、とても嫌な寒気がした。
そんな私を、ひよりが昨日よりも複雑な表情で見ていた…。

309:みずたまりのほとり みなみ視点 19
12/02/26 21:01:29.07 pcJzFuEH
5時間目の授業が始まった。

じっとしているのが辛い。
寒気が断続的に襲ってくるのに、その一方で汗がにじんでくる。

「んっ…!」

おなかに痛みがきて、思わず声が出てしまい、慌てて周りを確認する。
…よかった。誰も気付いていない。
ひよりは驚いてシャープペンの芯を折ってしまったようだけど…。

急に不安になってきた。

この時間のうちに、もらしちゃうかもしれない。
我慢できなくなってするのでも、
ゆたかがしたのと同じ6時間目じゃないと意味がない。

もらさなくても、今みたいに声を出したりして他の誰かに気付かれたら、
きっと先生に伝えられてトイレに行かされてしまう。

それに、ひより。
ひよりは『最後まで放っておいて』という頼みを聞いてくれた。
でも、それは誓いでも約束でもない。私が勢いでうんと言わせただけ。
土壇場で心変わりして、私をトイレに行かせようとするかもしれない。
私の頼み自体が異常なのだから、ひよりがそうしたとしても非難はできない。
友達に『授業中におもらしするのを黙って見過ごして』なんて頼まれて、
おしっこを我慢してるのを延々見せられたら、
私だって、最後まで心変わりしないでいられる自信はない…。

お願い…今はこれ以上何も起きないで。
トイレに行かされるわけにはいかないの。
おもらしするのも、まだ少しだけ早いの。
この授業と次の休み時間だけでいい。このままでいさせて…。

…願いは、通じた。
心配した事態はどれも起きず、5時間目も無事に終わった。

休み時間。
ゆたかはまた出て行って、私は自分の席に座っていた。

おしっこの製造が加速してるのをはっきり感じる。
昼休みに飲んだお茶がもうおしっこになり始めている。
計算よりも少し早かった。

310:みずたまりのほとり みなみ視点 20
12/02/26 21:02:51.26 pcJzFuEH
早く6時間目、始まって…。
早く始まってくれないと、この休み時間のうちに…。
…そうだ、休み時間はもったとしても、授業の最初に起立と礼がある。
立ち上がれるかな。
立ち上がれても、礼をしたらおなかに力が入っちゃう。
もし起立か礼の時にしちゃったら、授業中とは言えない。
起立と礼は何とか耐えなきゃ…。
ううん、それだけじゃだめ。
ゆたかがしたのは、授業が始まってだいぶ経ってからだった。
正確な時間は覚えてないけど、私もできるだけ経ってからじゃないと…。

一人であれこれ考え込んでいる所に、ひよりが来た。
複雑な表情だったけど、言いたいことは分かった。

「岩崎さん…あの…やっぱりさ…」

「…いいの。このままで」

私は、苦しみの中で何とか笑顔を作って言った。

「…ごめんね、ひより。こんなの、見てるだけでも嫌だよね…。
 でも私、他にもうどうしたらいいか分からない。こうするしかないの。
 ゆたかが立ち直るきっかけになれるなら、私はどうなってもいい。
 あと少しだから。このまま最後まで…ね。もう一度…お願い」

「……うん、分かった」

ひよりは戻っていった。
ありがとう、ひより。

やっと、6時間目の始まりのチャイムが鳴った。
黒井先生が来て、ゆたかも戻ってきた。
始まりの起立と礼は何とか耐えることができた。

黒井先生…ごめんなさい。迷惑をかけてしまいます…。

私がおもらしした後、きっとまたパニックになる。
授業は台無しか、少なくとも中断を余儀なくされるだろう。
私は心の中で謝って、授業に臨んだ…。

311:みずたまりのほとり みなみ視点 21
12/02/26 21:04:27.04 pcJzFuEH
………

おしっこ…。

寒気が止まらない。
体が小刻みに震え続ける。
握り締めた手の中が、汗でびっしょり。

………

おしっこ…したい…。

おなかに、破裂しそうな痛みが数秒おきに襲ってくる。
痛みはどんどん鋭くなってくる。
これが感じられる限界だと思っても、次に来る痛みはそれ以上に鋭くなる。

………

おしっこ…もれちゃう…。

呼吸が苦しい。
もう、周りに気付かれてないか気にすることもできない。
頭の中までおしっこが回ってきたみたいに、ぼーっとしてくる…。

やがて…もういいかなと思った。
一昨日のゆたかと同じぐらい…あるいはそれ以上我慢したと思う。
私の頭はもう、おしっこを我慢しようと考えていなかった。
なのに、まだ私はおしっこをしないでいた。
それは、この期に及んで躊躇してるからじゃなくて…、
一つの願望が生まれていたから。

…ゆたかに、復讐してほしい。
…このまま自然にするんじゃなくて、ゆたかにおもらしさせてほしい。

ゆたか…今日はずっと下を向いてるけど、こっちを見てくれないかな。
おもらしさせてって、伝えたい…。

ゆたかの方を見ると、ちょうどゆたかも私を見てくれていた。
朝と違って、今は目をそらさないで見続けてくれる。

(ゆたか…一昨日のこと、復讐していいよ。おもらしさせていいよ。
 どんな方法でも、ゆたかの好きなようにして…)

私は視線でそう訴えた。

ゆたかは困っているようだった。

(復讐の方法、思いつかないの?
 ごめんね、急だもんね…。
 でも…何でもいいんだよ?何かあるでしょ?)

ゆたかはもっと困っているようだった。

(ゆたか…早く考えて…。
 もうあんまり待てないよ…。
 ゆたか…おもらしさせて…早く…)

312:みずたまりのほとり みなみ視点 22
12/02/26 21:05:34.52 pcJzFuEH
ゆたかは私の周りを見て、急に焦るような様子を見せた後、
不意に立ち上がった。

「先生…みなみちゃ…岩崎さん、具合が悪そうなので、保健室に連れて行きます」

え…?

「あー、ウチもちょうど今気付いた。
 めっちゃ顔色悪いし、震えとるし…岩崎、無理せんと早く行っとき。
 言いだしっぺやし、小早川、頼めるか?」

黒井先生の言葉で、ゆたかが急いで私の所に来た。

「行こう、みなみちゃん」

ゆたかの言葉に、私は首を振った。

「だめ、行けない…」

私はここでおもらししなきゃいけないの。
だから今までずっと我慢してたんだよ…。

「無理しちゃだめ、行こう!
 抱っこはできないけど、支えるから…!」

ゆたかは私にそっと手を伸ばしてきた…。

予感がした。
触られたら、もらしちゃう。

…そう。これはあの時と同じ状況。
私とゆたかが入れ替わっただけ。

ゆたかの意図が分かった気がした。
ゆたかは私に触っておもらしさせてくれる。
私がゆたかにしたように。

ゆたか、嬉しい…。
私が一番望んでた形でおもらしさせてくれるんだね…。

夢見心地のうちに、ゆたかの手が、私の腕を取った。

「あ……」

吐息混じりの声と共に、私はおなかの緊張が解けるのを感じた…。

313:みずたまりのほとり みなみ視点 23
12/02/26 21:06:59.72 pcJzFuEH
「だめえええっ!」

ゆたかが教室中に響く程の声で叫んだ。

「!!」

目の前でその声を聞いた私は、一瞬気が遠くなるほどびっくりした。

ほんの少し前までそうだった『おしっこを我慢している状態』だったら、
それは体の緊張を解いておしっこを解放する効果をもたらしただろう。
でも、『体の緊張を解いておしっこを解放する瞬間』だった今は、
それが逆の効果をもたらした。
全身が一瞬麻痺して、おしっこを出そうとした体の動きが中断された。
びっくりしておしっこが引っ込むって、こういうことなのかな…?

(だめ…ここでしちゃだめだよ!トイレ行こう…みなみちゃん!)

ゆたかが、今度は私以外の誰にも聞こえないように囁いた。

囁きが魔法の呪文だったかのように、頭が再びおしっこを我慢する方向に働き始めた。
もらしちゃうという予感が、消えた。
今なら立ち上がれそう。

「立たせて、いい?」

「…うん」

私は無事に立たせられた。

「歩ける…?」

ゆたかに支えてもらいながら、恐る恐る一歩を踏み出す。
おなかから全身にまで衝撃が伝わってきたけど、少しの間なら耐えられそうだった。

「歩けそう…少しの間なら」

「じゃあ行くよ。ゆっくり、急いで」

ゆたかに支えてもらいながら、私は教室の外に出た。

背後の教室からざわめきが聞こえた。
歩くので精一杯の私に、それをまともに聞き取ることはできなかった。
ただ、ところどころ拾えた単語から、
私がおしっこを我慢していたのがみんなに知られたことは分かった。

314:みずたまりのほとり みなみ視点 24
12/02/26 21:08:14.71 pcJzFuEH
私はそのままゆたかにトイレまで支えてもらって…無事におしっこを済ませた。
下着もチェックしてみたけど、一滴ももらしてなかった。
物理的にも精神的にも、相当に危ない所まで行ったのに。
私は膀胱だけじゃなく、そこから先の部分も相当にしぶといらしい。

「……っ…!」

おしっこを済ませたのに、おなかに破れるような感じの痛みが残っていた。
もしかしたら、膀胱を痛めてしまったのかもしれない。
でも、そんなこと今はどうでもよくて…。

おもらし、できなかった。
ゆたかと同じになれなかった。
ゆたかが立ち直るきっかけになるかもしれなかった事が、未遂で終わってしまった。
その事を自覚した途端、頭の中にまた真っ白な部分が、前より大きくなって現れた…。

手を洗った後、洗面台に手をついたまま動けなくなった。
頭の中の半分近くが真っ白で、ふわふわした虚脱感に襲われていた。
これ以上真っ白が大きくなったら自分を制御できなくなりそうで、
できれば、その場でしばらく休んで頭を整理したかった。
でも、ゆたかが外で待っていた。
私はふわふわな状態のままトイレから出た…。

私が出てくると、ゆたかはちらっと私のスカートから下を見た。

「みなみちゃん…タイツ、もしかして…」

「今日は、はいてきてない」

「そ、そうだっけ…。じゃあ…大丈夫だった?」

「…うん」

「少しも?」

「うん。確認した…」

私が言うと、ゆたかはため息をついた。

「…みなみちゃん。教室から出た時、みんなが話してたの聞こえたんだけど…。
 5時間目から…もしかしたらもっと前からずっと我慢してたみたいだって。
 本当なの?」

「…うん」

「…どうして?」

…答えられなかった。

315:みずたまりのほとり みなみ視点 25
12/02/26 21:09:15.67 pcJzFuEH
ゆたかは、少し考え込んで…悲しそうに言った。

「みなみちゃん…みんなの前でおもらしするつもりだったんだね。
 私がしちゃったから…同じようにって…」

ゆたかな口調は問いじゃなく、分かっている事の確認だった。
その口調に抗えず、私はそっと肯いた…。

「…ばかあっ!」

その叫びは、さっきの『だめえええっ!』よりも小さかったけど、
あの時の『おしっこがぁ!』よりも悲痛で、
頬を思いっきり平手打ちされたみたいに頭に響いた…。

「みなみちゃんまでおもらししたって、私がしちゃったことは消えないよ!
 私と同じように傷付く人が、もう一人増えちゃうだけじゃない!」

「でも…でも…」

ゆたかの言う事が正しいに決まっていた。
それなのに私は、叱られて言い訳をする子供のように口走っていた。

「私は…ゆたかを…傷付けた…だから…。
 私も…同じように傷付けば…ゆたかが…少しは……」

その先が、続けられなかった。

「みなみちゃん…」

ゆたかの表情が、もっと悲しそうになった。

「みなみちゃんがおもらしして傷付くのを見たら…
 私…仲間ができて嬉しいとか、いい気味だよとか、喜ぶと思ったの?
 私のこと…そんなわがままで意地悪な人だって思ってたの?」

そんなわけないって、言えればよかった。
私はゆたかのこと、わがままで意地悪な人なんて絶対に思ってない。
でも…仲間ができたら楽になって立ち直れるかも、とか、
ゆたかに復讐してほしい、とか、そんなことを想像したのは、
心のどこかでゆたかにそういう要素を求めたからに違いなくて…。

「………」

私は何も言えず、黙っている事しかできなかった。
それは…肯定と同じ事。

ゆたかの目に涙が浮かんだ。

「みなみちゃん…私のこと…そんな風に思ってたんだ…。
 そんなの…おもらししちゃったことよりずっと悲しいよ…。
 ひどい…ひどいよ…みなみちゃん…」

ゆたかは下を向いて、肩を震わせた…。

316:みずたまりのほとり みなみ視点 26
12/02/26 21:10:38.47 pcJzFuEH
私…またゆたかを泣かせちゃうんだ…。
ゆたかにしたこと、償おうとしたのに…。
何一つ償えないで…。
償わなきゃいけないことが、また増えちゃった…。

私の頭の中の真っ白が一気に広がって…。
頭の中で何かが吹き飛んだ気がして…。
目の前の景色が急にぼやけて、何も見えなくなった。
意識はあるから、気を失ったわけじゃなかった。
ゆたかが泣くのを見ないですむように、頭が視覚をシャットダウンしたらしい。

……ぽたっ。

ゆたかの涙がこぼれ落ちて、私の足元で弾けた。
見えなくたって、音で感じる…。

……ぽたっ。

また、ゆたかの涙が落ちた。

「…みなみちゃん!?」

ゆたかの驚いた声。
視覚がシャットダウンされてるから、何に驚いたか分からない。
『どうしたの?』って言おうとしたのに、なぜか声が出なくて…、
代わりに、私の頬に何かが伝って落ちるのを感じた。

……ぽたっ。

さっきと同じ音。
ということは…私の頬に伝ったのは、ゆたかの涙らしい。

…待って。

ゆたかの涙が、どうして私の頬を伝うの?

思わず、目の辺りをぎゅっとこすった。
景色が元に戻って、目の前のゆたかがはっきり見えた。

ゆたかは泣いてなかった。

『え?』と思う間もなく、また景色がぼやけて、頬にまた何か伝い落ちた。

……ぽたっ。

まさか…。

流れ落ちてる涙は、ゆたかのじゃなくて…。

泣いてるのは、ゆたかじゃなくて…。

……私?

317:みずたまりのほとり みなみ視点 27
12/02/26 21:11:51.94 pcJzFuEH
「……っ!」

慌てて、目をぎゅっと閉じた。
…でも、閉じた目から、涙がどんどんあふれてきた。

顔を手で押さえた。
…でも、押さえた手からも、涙がどんどんこぼれ落ちた…。

待って…待ってよ…。
どうして?どうして涙が出てくるの?
私…泣こうとなんかしてないよ…!

「みなみちゃん…あ…あの…」

ゆたかが混乱している。

「ご…ごめん…私…言い過ぎた…」

違う。違うの。
泣いたのはゆたかのせいじゃない。
どうして泣いたのか私にも分からなくって…。

「みなみちゃん…そんなつもりじゃなかったんだよぉ…」

だめだ…泣いてるだけじゃ伝わらない。
とにかく、何か言おう。
喋る事で頭の中の整理が付いて、涙が止まるかもしれない…。

「違う…違うの…」

顔を押さえた手を離して…、
涙が頬を伝い続けるのも構わず、私は喋り出した。

「どうして…泣いてるのか…自分でも…分からないの…。
 全部…私がまいた種…なのに…泣く資格なんか…ないのに…。
 涙…いきなり…出てきて…止まって…くれないの…。
 訳…分からない…よね…」

整理が付くどころか、頭の中はどんどん真っ白に侵食されていく。

「ゆたかの…言う通りだよ…おもらしさせたこと…もう…消せない…
 でも…償いたかった…私の…したこと…。
 せめて…立ち直るきっかけ…作りたかった…。
 なのに私…ばかで…ゆたかの気持ち…考えないで…また悲しませただけだった…」

涙がもっといっぱい出てきて、声が詰まって、喋るのさえ辛くなっていく…。

「私……本当に……ばかだ……。
 どんどん……頭……真っ白になって……何も……考えられない……。
 もう……どうしたらいいのか……分からない……分からないよぉ……!」

頭の中を、真っ白が完全に覆い尽くした。
何も考えないで、泣き続けることしかできなくなった…。

318:みずたまりのほとり みなみ視点 28
12/02/26 21:13:45.70 pcJzFuEH
……………

…どのぐらい泣いていたんだろう。
頭の中の真っ白が少しずつ小さくなって、少しずつ思考力が戻っていった。

自分が口走っていた言葉を思い出すうちに、涙が出た理由が、分かった。

『もうどうしたらいいのか分からない…分からないよぉ…!』

簡単に言ってしまえば、
私はこの三日間、ずっとどうしたらいいのか分からなくて、
今のように何も考えないで泣きたかった。
それだけのこと。

あの時から頭の中にあった真っ白の正体は、
どうしたらいいのか分からなくて泣きたい衝動だった。
それは、泣きたいのを抑え付けるたびに大きくなって、
あの計画が頭に浮かんでいた間は小さくなってて、
計画がだめになった時にお釣りが付いて元に戻って…、
今、一度に爆発してしまった。

どうしたらいいか分からないのは、今だって同じ。
でも、真っ白の正体は分かったから、もう制御できる。
真っ白は頭の中でどんどん小さくなって、完全に消えた。
涙が、止まった。

一つ息をついて、手で涙を拭おうとすると…。
私の顔にそっと柔らかい物が触れて、私の涙を優しく拭い去った。

涙は拭い去られたけど、目の前でこんなに泣いたことが恥ずかしくて、
ゆたかの顔を見られなかった。
視線を足元にそらしたら、足元で私の涙が小さな水たまりになっていて、
もっといたたまれなくなった…。

「みなみちゃん…」

ゆたかが口を開いた。

「…ごめんね。ずっと誤解させたままでいて…」

え…?

予想外の言葉に顔を上げると…。
ハンカチを手にしたゆたかの表情は、悲しそうだったけど、優しかった。

319:みずたまりのほとり みなみ視点 29
12/02/26 21:14:45.69 pcJzFuEH
「おもらししたの、みなみちゃんが触ったからじゃないよ。
 あの時『おしっこが』って叫んじゃったのは…その…、
 もう、少しもれてて…スカートから椅子の上まで濡れちゃってて、
 動いたらもらしたおしっこが見られちゃうよ、って意味だった…。
 みなみちゃんが来なくたって、椅子から動けないままもらしてた…。
 みなみちゃんが責任を感じる必要なんて、全然なかったんだよ…」

私を慰めるための嘘じゃない…ゆたかの瞳がそう告げていた。
…でも、私は首を横に振った。

「私は保健委員なのに、ゆたかの事、注意してなかった。
 『ゆたか、ちゃんと休み時間にトイレ行ったかな、おしっこしたくないかな』って、
 いつも注意してなきゃいけなかった。
 そうしていたら、動けるうちに教室から連れ出してあげられた。
 だから、私のせいなのは変わら…」

「う~……」

ゆたかが真っ赤な顔で唸り出したので、私は途中で言葉を失ってしまった。
ただ、目は><で、怒ってるというよりふくれてる感じだった。

「あのね~、みなみちゃん…。
 私、おしっこ一人でできない赤ちゃんじゃないんだよ…?
 そこまでいつも注意されてたら、すごく恥ずかしいんだけど…」

「そ、そうかな…?」

ふくれた顔が可愛くて、微笑みそうになってしまう…。
声も、本気で怒ってる感じじゃなく、からかわれて照れているような感じで…。

「そうだよっ!
 今回のことだって、もらしちゃうまで黙ってた私が悪いに決まってるよ!
 みなみちゃん、私のこと、子ども扱いしすぎだよぉ!もうっ!」

「ご、ごめん…」

もちろん、私は真剣に謝ったのだけど…。
張り詰めていた雰囲気が一気に和んでしまった。
否定しようがないと思っていた私の責任も、
冗談のようにあっさり否定されてしまった。
いいのかな、こんなので…。
私が一人で難しく考え過ぎてただけなのかな。
そういえば、泉先輩も言ってたっけ。
私もゆたかも、一人で深みにはまっていってるって…。

320:みずたまりのほとり みなみ視点 30
12/02/26 21:16:16.53 pcJzFuEH
「昨日の夜、お姉ちゃんから聞いてたんだ…。
 みなみちゃんが自分のせいだって誤解して思い詰めてたってこと」

ゆたかが話を戻した。

「違うんだよ、って伝えなきゃって思って、今日、学校に来たのに…
 みなみちゃんを見たとたんに、夢のことを思い出して…逃げちゃった」

「夢?」

「一昨日の夜、見たの…。
 おもらしした子だってみんなにいじめられて…
 みなみちゃんにも嫌われて…一人ぼっちになっちゃう夢。
 すごくリアルで…きっとほんとになるんだって…怖くて…」

「………」

「朝、みなみちゃんから逃げた後も…
 夢と同じようにいじめられるのが怖くて、休み時間は誰もいない所に逃げて…
 先生がいればいじめられないと思って、授業の時だけ戻って…
 そんなこと、繰り返してた…」

ゆたかも、私と同じだった。
夢が見せた未来におびえて、苦しんでいた。

「夢は…夢だよ。
 本当になる場合もあるけど…間違っている場合だってある。
 その夢で、絶対に間違ってる所、一つ、すぐに言える」

それは…今のゆたかに一番伝えたいことでもある。
今なら目と目で分かると思うけど、言葉でもはっきり伝えたいこと。

「私は、ゆたかの事、嫌いになったりなんかしない。
 ゆたかの事、ずっと好きなままだよ。今も、これからも」

「あ……」

ゆたかの表情に、また悲しみが浮かんだ。
きっと、私がゆたかを嫌いになったと勝手に思い込んでいたことへの罪悪感で。
でも、私の『これ以上、何も悲しまなくていいんだよ』っていう微笑みを見て、
その悲しみも消えた。

ゆたかの瞳がまた潤んだ。
さっきとは違う涙で。

「みなみちゃん…ありがとう…。
 私…きっと、おもらしした子っていじめられるけど…
 負けないで頑張っていける…みなみちゃんがいてくれるから…」

321:みずたまりのほとり みなみ視点 31
12/02/26 21:17:51.95 pcJzFuEH
ゆたかは笑顔になった。
でも、その笑顔の中には悲壮な覚悟があった。
今の笑顔も綺麗だけど、何かが違ってて…、
もう一つ、言葉で伝えたいことが増えた。

「…ゆたか。
 私だけじゃない。ひよりはもちろん、他の人だってゆたかの事を心配してる。
 ゆたかをいじめるのは…ゆたかだけだよ」

「え…」

「『おもらしした子だ』とか、『いじめられる』とか…
 自分に何回も言って、辛くなって…自分で自分のこと、いじめてる。
 もし他の誰かがおもらししたって、ゆたかはそんな風にいじめたりしないよね。
 それと同じように…ゆたか自身のこともいじめないであげて。
 私や他の人に優しいのと同じように…自分にも優しくしてあげたらいい…。
 それで、もう、ゆたかをいじめる人はいない…」

「………」

ゆたかは黙り込んだ。
私はそれ以上何も言わなかった。
私の言葉は下手だから、少し時間はかかると思うけど、
伝えたいこと、今はきっと通じてくれる。

「……うん、分かった」

ゆたかの笑顔から、悲壮な覚悟が消えた。
私がいつも見てきた、明るい笑顔がそこにあった。
私の伝えたいこと、通じてくれた。

ゆたかが、私の手を取った。

「ありがとう…みなみちゃん。本当に…」

ゆたかの手から、私の全身に幸せが染み込んできて…
ずっと我慢していた、おなかの破れるような痛みが収まった。
元に戻れたんだってことを、実感した。

辺りの静けさで、まだ授業中だったのを思い出した。

「教室、戻ろうか」

「うん」

私とゆたかは教室に向かって歩き出した。

322:64-285
12/02/26 21:19:18.67 pcJzFuEH
本編はここまでで、引き続きエピローグになります。
途中でsage忘れてしまいました。申し訳ない…。

323:みずたまりのほとり みなみ視点 エピローグ1
12/02/26 21:21:18.56 pcJzFuEH
「今の少しの間で…昨日まで見たことないみなみちゃん、いっぱい見ちゃった」

途中で、ゆたかがふと言った。

教室でおもらししそうになってた私。
おしっこがもれそうでまともに歩けなくて、トイレまで支えてもらった私。
ゆたかの目の前でいきなり泣き出した私。
涙が止められなくて、足元に小さな水たまりができるほど泣いた私。

「……呆れた、よね」

思わず自嘲する…。

「そんなことないよ!」
ゆたかが真面目な顔で打ち消した。

「おもらししそうだった時のみなみちゃん…かわいかった。
 夢を見てるみたいにぼーっとした目とか、
 見てて何だかどきどきしちゃったもん…」

私は真っ赤になった…。

「泣いてる時もそうだった。
 私みたいに大きな声で泣くんじゃなくて、静かで大人っぽくて…。
 綺麗な人は泣いたって綺麗なんだなぁって、羨ましくなっちゃった。
 涙を拭いてあげるのも忘れて、自然に泣き止むまで黙って見ちゃった…。
 涙もきらきらしてて…落ちたら宝石に変わるんじゃないかって思ったぐらい」

「………」

頭から蒸気が出そうだった…。
照れたんじゃない。
本気で褒めてくれているんだろうけど、
そんなことを褒められても恥ずかしいだけで…。
もし私がおもらししてたら、おしっこまで綺麗とか言い出したかも…。

これ以上言われたら、恥ずかしくて倒れてしまいそう…。
そう思ったところで、幸い教室に着いた。

324:みずたまりのほとり みなみ視点 エピローグ2
12/02/26 21:22:40.13 pcJzFuEH
教室に入ると、みんなが私を一目見るなり気の毒そうな表情になった。

「ああ、この表情は…」

「思いっきり泣いた後っぽいし…」

「だめだったんだね…」

「あの状態じゃしょうがないよな…」

みんなが口々にそんな事を言っている。

「……?」

私もゆたかも、みんなの言っている意味が分からなかった。

「あちゃー…その様子だと間に合わんかったようやな」

「え…」

黒井先生の言葉で、私とゆたかはやっと事態が飲み込めてきた。

「まー、気ぃ落とすな。おもらしなんて大した失敗やないって。
 泣くだけ泣いたんやろ?もう忘れーな」

「え、え、ちょっと…」

おもらし寸前の状態で出て行って、明らかに泣いたばかりの顔で戻ってきた私。
おもらしして泣いたと誤解されて当然だった。
戻る前に顔を洗えばよかった…。

…まあ、別にいいや。些細な事。
ゆたかが立ち直ってくれて、ゆたかと元の仲良しに戻れただけで、私は…。

325:みずたまりのほとり みなみ視点 エピローグ3(完)
12/02/26 21:24:01.00 pcJzFuEH
「ち、違うよ!」

ゆたかの方が慌てて否定し始めた。

「みなみちゃん、そんなので泣いたんじゃない!
 みなみちゃん、おもらしなんかしてないよ!
 ほら、スカートだって全然濡れてない!」

ゆたかは私のスカートを掴んでみんなに示した。

「ほら、横も!後ろも!こっち側も!」

ゆたかは私の体を90度ずつ回転させて、スカートがどこも濡れてない事を示した。

「ゆたか、落ち着いて。私はいいから…」

私が言う間もなく…

「ほら、スカートの中だって…!」

ばさっ。

ゆたかが、私のスカートを思いっきりまくり上げた。
私のスカートの中が、教室の全員の前に露わになった…。

教室の中が凍り付いた。

「あ……」

ゆたかは我に返ってスカートを離してくれた。
…でも、遅かった。

誰かが、ある色名をつぶやいた。
それは、私の下着の色を正確に描写した色名だった。
ばっちり、見えたということ。

下着は濡れてない。それはさっきトイレで確認した。
だから、おもらししなかった事の証明はできたと思う。
ありがとう、ゆたか。

でも…。
そこまでして証明することだったのかな…。
今のって、おもらししたって思われるより恥ずかしい気がしてならないよ…。

教室に戻るまでの会話で既にキャパシティを超えかけていた恥ずかしさが、
今ので一気に限界を振り切った。

しゅー………ぼん。

頭から蒸気が出るのを感じて…。

……ぱたっ。

私は、気を失った…。

(おわり)

326:64-285
12/02/26 21:27:36.03 pcJzFuEH
以上でみなみ視点版は終わりです。
なお、説明不足な点を補うゆたか視点版とひより視点版も製作中です。

ありがとうございました。

327:名無しさん@ピンキー
12/02/26 21:33:10.40 90UHOrjb
>>326
乙でした



328:名無しさん@ピンキー
12/02/27 04:44:08.99 gNQlgE2k
>>326
乙でした
幕引きとオチも綺麗だなー、他の視点版も楽しみにしてます!

329:64-285
12/03/10 23:03:14.45 wXnnEo9N
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(1日目)を投下します。

・11レス前後使用予定
・時間軸でみなみ視点の1日目に対応
・いじめ等の鬱シーンあり
・ゆたかも壊れ気味…(特に夜中のシーン)

330:みずたまりのほとり ゆたか視点 1
12/03/10 23:04:46.21 wXnnEo9N
「みなみちゃん、さっきの授業のここなんだけど…」

前の授業で分からないところがあったので、
休み時間、いつものようにみなみちゃんに教えてもらいに行きました。

「ここ…どうしてhaveが主語より前に来るの?」

「Neverが文頭に来ると、倒置が起きて…」

「ここがtheじゃだめなのはどうして?」

「There is構文は不特定の物がある時しか使わない…だからここはaじゃないと…」

今回は分からないところが多くて、ようやく終わった頃には、
もう次の授業のチャイムが鳴っていました。

「ごめんね。みなみちゃんの休み時間潰しちゃって…」

「別に謝らなくてもいい…」

みなみちゃんは微笑みました。
みなみちゃん、いつも本当にありがとう。

席に戻って、次の授業の準備をして、先生が来て…しまった、と思いました。
今の休み時間に、お手洗いに行きたかったのです。
みなみちゃんに分からないところを聞いてからでも時間はあると思って、
後回しにしたのですが…失敗でした。

我慢…できるよね。
後回しでいいと思ったぐらいだし、あと一時間ぐらい…。

………

今はお手洗いに行けない…。
そのことを意識すればするほど、おしっこしたいって気持ちが強まります…。

授業、半分ぐらい終わったかな…

時計を見たら…まだ10分しか経っていませんでした。

………

あれから…だいぶ経ったよね。
おしっこ…さっきよりずっとしたくなってる…。

時計を見たら…まだ15分ぐらいでした。

………

いくらなんでも…もう終わりに近いはずだよね…。
おしっこ…本当に辛くなってる…かなりの時間が経ったはず…。

時計を見たら…まだ15分と20分の間でした。

331:みずたまりのほとり ゆたか視点 2
12/03/10 23:06:08.27 wXnnEo9N
…無理です。
こんな調子じゃ、授業が終わるまでなんて我慢できません。
先生に言って、トイレに行かせてもらうしかありません。

でも…恥ずかしいから、本当に我慢できなくなってから言おう…。

………

もうちょっと…我慢できる…。

………

たぶん…もうちょっと…我慢できると思う…。

………

もうちょっと…我慢できるんじゃないかな…。

………

…そろそろ…言おうかな…。

じょわぁ。

「!!」

不意に…小さな解放感と共に、あったかい感覚がスカートの中に広がり始めました。

もれてる!
だめ!出ちゃだめ!止まって!

………。

…止まった…みたい。

でも…。
椅子の下まではこぼれなかったけど、スカートまで濡れちゃった。
もう動けない…。動いたら濡れたスカートが見られちゃう…。

残ったおしっこも…もうもれちゃう。
なんで?おかしいよ。少し出ちゃった分、楽になってもいいのに…。
これ以上もれたら、椅子からこぼれてみんなにばれちゃう…。

ばか!私のばか…!
休み時間、どうして先にお手洗いに行かなかったの?
どうしてもっと早く先生に言わなかったの?

332:みずたまりのほとり ゆたか視点 3
12/03/10 23:07:31.21 wXnnEo9N
…がたっ。

「!」

みなみちゃんが立ち上がりました。

「先生…小早川さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行きます」

「!?」

みなみちゃんが、私の様子がおかしいのに気付いたのです。
先生はすぐに許可して…みなみちゃんが近づいてきました。

「行こう。ゆたか」

「だめ…行けない…」

「無理しちゃだめ」

「だめなの…動けないの…」

動いたら…おしっこで濡れたスカートが見えちゃうよ…。

「歩けないほど辛いの?だったら抱っこしてあげる…だからとにかく…」

「だめなんだよぉ…」

見られちゃうんだよぉ…おしっこが…。

みなみちゃんは、構わず手を伸ばしてきました…。

「やめて!動いたら…!」

おしっこが…おしっこが…!

心の中で空しく『おしっこが』と叫び続けるうちに、
とうとうみなみちゃんの手が触れて…頭の中が弾けました。

「おしっこがぁ!」

心の中の叫びが、本当の叫びになって飛び出して…
さっきと同じ、解放感とあったかい感覚が広がって…
もう…止まりませんでした。

椅子の下からぱちゃぱちゃ水が弾ける音がし始めて、
教室中がパニックになりました。

「……うわあああんっ!」

私は、机に突っ伏して泣き出しました…。

333:みずたまりのほとり ゆたか視点 4
12/03/10 23:09:32.52 wXnnEo9N
………

何も考えられなくて、赤ちゃんに戻ったみたいに泣き続けていると…。

「保健室…行こう。着替えなきゃ、風邪ひいちゃう…」

みなみちゃんの声で少しだけ考える力が戻って、
濡れたところが冷たくて気持ち悪いことに気付きました。
それに、今の自分が晒し者みたいになっていることにも…。

ここから離れよう。みなみちゃんの言う通り、保健室に行こう…。、

私は立ち上がりました。

みんなの視線を感じて、頭の中ががんがんしました。

見ないで…私なんか…。

みなみちゃんが、私に手を伸ばしました。

触らないで…私なんか…!

私は、みなみちゃんの手を払いのけて、教室から駆け出しました。

びちょびちょのスカートから、おしっこの雫が落ちてるのを感じて…。
走りながら涙がどんどん出てきて…。
頭の中ががんがんして、どんどん気が遠くなって…。
…何とか保健室に着いて、ノックもしないで中に飛び込みました。

「小早川さん!?」

びっくりしているふゆき先生に泣きながら抱きついて…。

「ひっく…えぐっ…せんせい…」

「は、はい。どうしました?」

「おしっこ……もらしました……」

最後の力でそれだけ言って…力が抜けて、何も分からなくなりました…。

334:みずたまりのほとり ゆたか視点 5
12/03/10 23:10:36.62 wXnnEo9N
………………

…気がつくと、保健室のベッドに寝ていました。

…あれ?冷たくない。
さっきまで、スカートもその中もびちょびちょで冷たかったのに…。

夢だったのかな?
具合が悪くなって保健室で寝てて、悪い夢を見ちゃっただけかな?

そんな希望が一瞬、心をよぎりました。

でも、手で触ってみると…スカートがなくなってて、
下は体育のショートパンツになっていました。
ショートパンツの中には…何もありませんでした。

「ゆーちゃん、気が付いた?」

こなたお姉ちゃんが、ベッドの横に座っていました。
私が気を失っている間に、ふゆき先生が呼んできてくれたのでしょう。

「心配ないよ。濡れちゃったものはふゆき先生が洗ってくれてるから」

…お姉ちゃんは、優しくそう言いました。

教室でおもらしして、泣きながら走ってきて…
ふゆき先生の前で気を失って…
気を失っている間に着替えさせてもらって…

…みんな、本当に起きたのです。

「……うぅ……」

また涙が出てきました…。

「ゆめじゃ…なかった…」

「ゆーちゃん、そんなに落ち込むことじゃないよ」

「もう…だめだよ…」

「そんな大したことじゃないって。私だって某ゲームで…」

「ひとりにして!」

「…う、うん」

私のわがままを聞いてくれて、お姉ちゃんはカーテンの向こうに出て行きました。
カーテンが閉じられましたが、向こう側の様子は音で分かりました。

335:みずたまりのほとり ゆたか視点 6
12/03/10 23:11:53.23 wXnnEo9N
しばらくして…少し落ち着いて涙が止まった頃。
ノックの音が聞こえて、誰かが保健室に入ってきました。

「ゆたかの鞄…持ってきました」

みなみちゃんが、私の鞄を持ってきてくれたのです。

「おー、ありがと。ちょうど取りに行こうと思ってたとこだよ」

お姉ちゃんが鞄を受け取ってくれたようです。

「ん?くんくん…
 みなみちゃん、後始末もしてくれたんだ…ほんとありがとね」

「!!」

もらしたおしっこをそのままにしてきたから…
みなみちゃんがその後始末をすることになったのです。

私のおしっこを雑巾で拭き取ってるみなみちゃん。
『きたないなぁ…おしっこくさいなぁ』って、ため息をつくみなみちゃん。
『こんなにいっぱいしちゃって…』って呆れてるみなみちゃん。

そんな映像が次々に頭に浮かんできました。

「ゆたかは…?」

「とりあえず着替えて…ベッドで休んでます」

「会っても…大丈夫でしょうか」

「そうですね。少し興奮していますけど、岩崎さんなら…」

みなみちゃんがこっちに来る気配がします…。

やだ…恥ずかしくてみなみちゃんの顔なんか見られない…!

「来ないで!」

気がつくと、叫んでいました…。

「帰って!みなみちゃんの顔、見たくない!」

みなみちゃんがこっちに来るのをやめた気配がして…
お姉ちゃんが何か言って…
やがて、みなみちゃんが出て行ったのが分かりました。
足音だけで…元気がないことが分かりました。

みなみちゃん…ごめんなさい…

今さら遅すぎるその言葉は、またあふれてきた涙で声になりませんでした。

336:みずたまりのほとり ゆたか視点 7
12/03/10 23:14:08.19 wXnnEo9N
さらにしばらくして、ふゆき先生が乾いたスカートとパンツを返してくれて…
元の服装に戻ると、家まで帰れそうなぐらい気分が落ち着きました。
ふゆき先生にお礼を言って、お姉ちゃんと一緒に帰り道につきました。
外に出ると、もう暗くなっていました。

「…くしゅん」

帰り道、くしゃみが何回も出ました。

「ゆーちゃん、もしかして風邪かな」

「うん…少し熱っぽいかも…そんなにひどくはないと思う」

みなみちゃんが心配した通り、濡れたままでしばらくいたせいで
風邪をひいてしまったのかもしれません。
でも、お姉ちゃんに言ったのは本当で、そんなにひどいとは感じませんでした。
一晩寝たら治ってしまいそうな、その程度でした。

途中で悪化することもなく、無事に家に着けました。
そうじろうおじさんは帰りが遅かった理由などを一切聞いてきませんでした。
お姉ちゃんがすでに、事情は伝えてくれていたのでしょう。

夕食が終わると…すぐに部屋に戻ってベッドに入りました。
何もしたくありませんでした。
体がおしっこで濡れてたことを思い出しても、
お風呂に入る気力すら湧きませんでした。

……………

いつの間にか、教室の自分の席にいました。

「おもらし女」

「きたない」

「出て行け」

みんなが私に聞こえるように呟きました。
紙くずとかを投げつけてくる人もいました。
泣きそうなのをこらえていると…。

「小早川さん」

田村さんが笑顔でスケッチブックを持ってやってきました。

「イラスト描いてみたんだ。見てくれる?」

337:みずたまりのほとり ゆたか視点 8
12/03/10 23:15:39.39 wXnnEo9N
笑顔で接してくれることが嬉しくて、私も少し元気になりました。

「…うん」

田村さんはスケッチブックを開いて見せてくれました。

…そこに描かれていたのは、おもらしして泣いている私でした。

「どう?あの時の小早川さん、かわいいなーと思って描いてみたんだ。
 あと、小早川さんをモデルにしたおもらし漫画も描いてるとこ。
 完成したらネットで公開する予定だよ。うふふふ…」

「…わあああんっ!」

私は泣き出して、廊下に飛び出しました。

廊下にも人がいっぱいいました。

「どこ行くの?またもらして保健室に行くの?」

「うわー、きたない」

「学校来ないでほしいよね」

もう……やだ。

「もういいよぉ!わかったよぉ!かえるよぉ!もうこないよぉ!」

私は叫んで、みんなの笑い声の中を駆け出しました。
靴も替えないで、昇降口から外に飛び出そうとして…

「ゆたか」

みなみちゃんの声が聞こえました。
振り向くと、みなみちゃんが一人で立っていました。

そういえば…教室の中にも、廊下の人の中にも、みなみちゃんはいませんでした。
みなみちゃんは…みなみちゃんだけは、私を見捨てないでくれてるのかも…。

「みなみちゃんっ…!」

私はみなみちゃんに飛びつきました。
でも…みなみちゃんはすっと体をかわして…私は勢い余って床に倒れました。

「近付かないで…おしっこくさくなっちゃう」

みなみちゃんはそう言って、背を向けてそそくさと離れていきました。
私は…一人ぼっち。

338:みずたまりのほとり ゆたか視点 9
12/03/10 23:17:31.17 wXnnEo9N
「いやあああああ!」

がばっ!

叫びながら飛び起きたら…私の部屋のベッドの中でした。
…夢で飛び起きちゃうことって、本当にあるんですね。

…そんなささやかな驚きは、すぐに去って…。

明日から学校でみんなにいじめられる。
みなみちゃんももう私のこと嫌いになって、本当に一人ぼっち。

夢で見た、そんな未来がのしかかってきて…。

「……ひっく…ひっく…ぐすっ…」

私はベッドの中でまた泣き出しました…。

(…何を泣いてるの?
 おもらししちゃう子なんて、みんなに嫌われて当たり前だよ) 

他に誰もいないのに、誰かが冷たく私に告げました。
それは、私の中の『私』の声でした。

「ひっく…わかってる…わかってるよ…。
 だけど…ぐすっ…みなみちゃんまで…」

(みなみちゃんはお母さんじゃないんだよ?愛想尽かして当たり前だよ。
 ううん。お母さんでも愛想尽かしちゃうんじゃないかな?
 高校生にもなって、教室でおしっこだよ?もらしちゃったんだよ?
 ぱちゃぱちゃすごい音立てて、大きな水たまり作っちゃって…)

「いや…やめて…」

私は耳を塞ぎました。

(おまけに、もらしたおしっこ、その場に残して逃げちゃって。
 赤ちゃんと同じだね。これからはおむつして学校に行ったら?
 それで濡れたら今日みたいに泣きながら保健室に行って、
 ふゆき先生に取り替えてもらえば?)

『私』は容赦なく言葉を続けます…。
内側からの声だから…耳を塞いでも無駄でした。

339:みずたまりのほとり ゆたか視点 10
12/03/10 23:19:00.33 wXnnEo9N
「…ぐす…ひっく…どうして…どうしてそんなこというの?
 わたし…えぐ…おもらししたくて…ひくっ…したんじゃないよ…」

(もらしたくなかったんなら、休み時間に行っとけばよかったでしょ?
 ううん、授業中だって、もらしちゃう前に先生に言えば行けたよ?
 もれちゃうって正直に言えば、行っちゃだめとは言われなかったはずだよ?)

「はずかしかったんだよぉ…」

(へー、トイレ行きたいって言うの、おもらしするより恥ずかしかったんだ?)

「…もうやだ…いわないで…」

(本当に赤ちゃんと同じだね。
 おしっこって言えなくて、そのままもらして泣くだけだもんね。
 ほんとに高校生?ちっちゃいし、幼稚園から迷い込んだだけなんじゃない?
 あ、幼稚園の子に失礼だね。幼稚園の子でもおしっこぐらい言えるもんね)

「やだ!やだってば!やめて!」

(明日学校に行ったら、みんな何て言うのかな?
 夢の中みたいに、『きたない』とか『おしっこくさい』とか嫌がるかな?
 『おしっこって言えない赤ちゃんが迷い込んでるよ』って笑うかな…?)

「やあぁ!やだああぁ!やめて!やめてってばぁ!!」

そのとき、慌てたようなノックの音が聞こえました。

「ゆーちゃん!ゆーちゃんっ!」

お姉ちゃんの声でした。

「ゆーちゃん!入るね!」

お姉ちゃんがドアを開けて入ってきて、明かりをつけました。

「…おねえ…ちゃん…」

私は、涙をぽろぽろ落としながら
お姉ちゃんを見つめることしかできませんでした…。

お姉ちゃんは、部屋に私しかいないのを見て少し安心した様子で、
私のベッドに腰掛けました。

「ほー…よかった。お父さんがついにやらかしたかと…」

お姉ちゃんは、大げさにため息をついてそう言いました。
冗談で和ませようとしてくれたのでしょう。
半分ぐらいは本気で言ったように聞こえたのは、たぶん気のせい…。

340:みずたまりのほとり ゆたか視点 11
12/03/10 23:20:10.14 wXnnEo9N
私は涙をパジャマの袖で拭って、深呼吸をしました。

「ごめんね…起こしちゃって…」

「いやいや。今ので起こされたわけじゃないよ。
 ネトゲやっててちょっと休憩してたとこ。それより…どうしたの?」

「………」

…言えませんでした。
心の中の『私』と話して、気が付いたら泣き叫んでた…なんて。

「怖い夢…見ちゃって…寝ぼけてただけ」

「そう…何か温かいものでも飲む?落ち着くから…」

「ううん…もう落ち着いた…寝るよ」

「ほんとに大丈夫?もうちょっと一緒にいてもいいんだよ?
 なんなら添い寝してあげてもいいし…」

「い、いいよ…本当にもう大丈夫だから」

「そう…じゃあ戻るけど、私はもう少し起きてるから。
 不安になったら、遠慮しないで呼ぶなり来るなりしていいよ」

「うん…ありがとう」

お姉ちゃんは戻っていきました。
私はまたベッドに横になって、明かりを消しました。
お姉ちゃんと話したことで少し心が安定したみたいで、
その夜はもう『私』は何も言ってきませんでした。

341:64-285
12/03/10 23:22:37.39 wXnnEo9N
1日目は以上です。

342:64-285
12/03/17 00:32:51.55 uRez8m7c
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(2日目)を投下します。

・5レス前後使用予定
・時間軸でみなみ視点の2日目に対応

343:みずたまりのほとり ゆたか視点 12
12/03/17 00:34:20.24 uRez8m7c
…気がついたら、朝でした。
朝の眩しさも、昨日の失敗を消してくれませんでした。
風邪気味だったのはもう治っていたのに、
ベッドから出ようとしても、体が動いてくれません…。

(どうしたの?起きなきゃ…)

『私』がまた、言ってきました。

(学校に行く準備しなきゃ…いじめられにね)

「……」

(ほらほら、どうしてベッドから出ないの?)

「うぅ…」

ノックが聞こえました。

返事をすると、お姉ちゃんが入ってきました。

「ゆーちゃん。朝ごはんだよ」

「……いらない」

私は布団から顔も出さないで、答えました。

「具合悪いの…?風邪ひどくなった?」

「ううん、風邪はもう治った…だけど…体が動かないの」

「んん…」

「学校…休みたい…」

「………」

お姉ちゃんは少し考え込んで…、

「…そうだね。まだ治りがけだし、無理しない方がいいよ。
 学校の方には伝えとくから、今日はゆっくり休んで」

そう言って、出て行きました。

(そうだね。学校に行かなきゃいじめられないね)

お姉ちゃんが出て行くなり、『私』が続けます。

(みんな心配するだろうけどね。お姉ちゃんも、おじさんも、
 ゆいお姉ちゃんも、みなみちゃんも…
 …あ、みなみちゃんが心配するわけないか。もう私のこと嫌いだもんね)

「……くすん…」

344:みずたまりのほとり ゆたか視点 13
12/03/17 00:36:32.30 uRez8m7c
………

ベッドの中でだらだらしているうちに、学校が始まる時間になりました。

(今頃、みんな私のこと、話してるよ。
 きっとずる休みだって。おもらししたのが恥ずかしくて来ないんだって。
 ずるい子だって、みんな怒ってるだろうね…。
 それとも、きたないから来なくてよかったって喜んでるかな)

『私』は、止まりません…。

「ううぅ……」

きゅー…。

おなかが鳴りました…。
こんな状態でも、普通におなかは空いていました。
朝ごはんはいらないと言っちゃったので、お昼まで我慢です…。
ずる休みの罰だって自分に言い聞かせてた、そのとき…。

こんこん。

ノックの音が聞こえて…。
返事をすると、朝ごはんのお膳を持ったおじさんが入ってきました。

「こなたに頼まれてね。落ち着いた頃にご飯持ってってあげてって。
 食べたい気分じゃないかもしれないけど…まずは食べるが基本です、だからね」

罪悪感で胸がちくちく痛んだけど…しっかり全部食べました。
ありがとう…おじさん、お姉ちゃん…。

食べたら、少しだけ気分が前向きになって…。

嫌いだったら…おしっこの後始末をしてくれたり、
鞄を持ってきてくれたりしないんじゃないかな?
みなみちゃんはまだ私のこと、見捨てないでいてくれてるんじゃないかな?

そんな、小さな希望が湧いてきました。

(そんなの、保健委員の仕事だからやっただけだよ。
 もし、鞄を持ってきてくれた時までは見捨ててなかったとしても、
 追い返されたことでもういいやってなったんじゃない?)

すかさず、『私』が言ってきました…。

「そうかもしれないけど…会って話してみないと分からないよ」

(会って、冷たくされたらどうするの?立ち直れるの?)

「うぅ……」

『私』は、私の中にいっぱいある弱さを簡単に引っぱり出してきて…、
私はすぐ、元の弱気に戻ってしまいました。
ただ…このままじゃだめ、っていう気持ちも、少しだけ湧いてきました。

345:みずたまりのほとり ゆたか視点 14
12/03/17 00:39:01.83 uRez8m7c
………

お昼は、ちゃんとお部屋から出て、おじさんと一緒に食べました。
お昼ごはんを食べたら、また少し前向きになれて…。
このままじゃだめ、って気持ちがもう少し強くなりました。

みなみちゃんに会って、もし冷たくされたって、
このまま一人でおびえてるよりはましだよ。

そう、思い始めました。
『私』も何も言ってこなくて、弱気に戻らないでいられました。

………

夕方になって、お姉ちゃんが帰ってきました。
お姉ちゃんはすぐに私の部屋に来ました。
私はパジャマのままだったけど、もうベッドに寝てはいませんでした。

「ゆーちゃん、気分よくなった?」

「うん…今朝よりはずっとよくなったよ」

「よかった…。それじゃ、聞きたいことがあるんだけど…ただ…」

「ただ?」

「昨日の…『あのこと』なんだよね。まだ、思い出すの辛いかな?」

「………」

今朝の私なら、今のお姉ちゃんの言葉だけでまた泣きそうになったかもしれません。
でも、今は少しだけ弱気から抜け出せていたから…、

「大丈夫…聞いていいよ」

少し時間がかかったけど、そう言うことができました。

346:みずたまりのほとり ゆたか視点 15
12/03/17 00:41:04.78 uRez8m7c
「…実はね。今日、みなみちゃんが来て…。
 自分がゆーちゃんに『あのこと』させた、って言うんだよ」

「…え」

「それも『ゆーちゃんを助けてあげられなかった自分の責任だ』って意味じゃなく、
 言葉通り『自分がさせた』んだって。
 自分が何もしなかったら、ゆーちゃんは『あのこと』しないですんだ、って…」

「………」

まったく予想しなかった内容に、言葉が出ませんでした。

「聞きたいのはそこで…みなみちゃんが言ってるのって、ほんとなの?
 わざとじゃないにしても、みなみちゃんがうっかりやったことが
 『あのこと』の引き金になってたりするの?」

「そんな!そんなことないよ!」

みなみちゃんがなぜそんなことを言い出したのか、分かりません…。

「念のため、ほんとに念のため、聞くよ。
 私が怒ってみなみちゃんに何かすると思って、かばってたりしないね?」

「かばってなんかない。みなみちゃんは何も関係ないよ…」

「うーん…じゃあみなみちゃんはどうしてあんなことを…」

お姉ちゃんは考え込んでしまい…私も考え込みました。
記憶の奥底の、永遠に触れたくなかった部分に手を伸ばして…
その中からさらに、みなみちゃんがそばにいた部分だけ拾い出します…。

休み時間のことは…明らかに無関係です。
時間は一気に飛んで…もう、少しもらしちゃった後。
みなみちゃんが先生に言って私のところに来て…。
みなみちゃんが私を連れて行こうとして…。

「……!」

あのとき口走った言葉を思い出して、繋げてみて…はっとしました。

『だめなの…動けないの…
 だめなんだよぉ…
 やめて…動いたら…おしっこがぁ!』

私が言ったのは『動いたらもらしたおしっこが見られちゃう』という意味でした。
でも…断片だけ聞けば『動いたらおしっこがもれちゃう』という意味にも取れます。

私はあのとき、トイレに行くために尿意が落ち着くのを待っていて、
それを自分が無理に動かそうとしたせいでもらしてしまった。
みなみちゃんはきっと、そう誤解しているのです…。

347:みずたまりのほとり ゆたか視点 16
12/03/17 00:44:29.33 uRez8m7c
「…ゆーちゃん」

私がそれに思い至ったのとほとんど同時に、お姉ちゃんが口を開きました。

「みなみちゃんのせいじゃないってこと、早く伝えた方がいいと思う…」

「うん」

「…それでね、私から伝えるより…できれば、ゆーちゃんが直接伝えた方が
 いいと思うんだけど…どうかな…?」

「…うん。私が自分で伝える。明日は、学校に行くよ」

不安なことはたくさんあったけど、私ははっきりとそう言いました。

「おぉ、よかったぁ…」

そう言ったお姉ちゃんの体が、少しふらついた気がしました。

「お姉ちゃん?」

「ん…?」

よく見ると、お姉ちゃんは顔が少し赤くて、呼吸も乱れていました。

「お姉ちゃん、具合悪いんじゃ…」

「ん…昼頃からちょっと風邪気味かなって感じしてた…。
 もしかしたら、昨日のゆーちゃんのがうつってたのかもね…。
 今日は…さすがに早く寝よっかな」

…その後もお姉ちゃんの具合はよくならず、ご飯もあまり食べられない様子でした。
やがて寝る時間になって、明日に備えてベッドに入りました。
でも、お姉ちゃんのことも、明日のことも心配で…なかなか寝付けませんでした。

348:64-285
12/03/17 00:47:08.68 uRez8m7c
ゆたか視点の2日目は以上です。
今回はここまでです。

349:名無しさん@ピンキー
12/03/17 03:19:32.02 FyVmc51y
乙です!

350:名無しさん@ピンキー
12/03/18 09:07:59.03 9TxHfTQG
乙乙

351:名無しさん@ピンキー
12/03/22 01:25:17.79 0bPZEcWJ
乙!!!

352:64-285
12/03/29 00:25:23.67 Adz7DQF/
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(3日目・前編)を投下します。
3日目は長くなったので前後編に分けます…。

・10レス前後使用予定
・時間軸でみなみ視点の3日目の前半に対応

353:みずたまりのほとり ゆたか視点 17
12/03/29 00:27:15.56 Adz7DQF/
次の日の朝…。
お姉ちゃんは、苦しそうにベッドに寝ていました。

「…38度7分」

おじさんが、体温計の数字を読みました。

「学校行くの…無理かな…?」

「無理に決まってるだろ。静かに寝てなきゃ」

お姉ちゃんの苦しそうな言葉を、おじさんが即座に打ち消しました。

「ゆーちゃん、ごめん…学校、一人で大丈夫かな…」

こんな状態でも、私のことを心配してくれるお姉ちゃん。

「大丈夫だよ。だから、ゆっくり休んで」

学校に行く準備はもうできていました。

「行ってきまーす」

私は一昨日までと同じぐらい元気に見えるように、家を出ました。
…元気に、見えるように。

家から見えないところまで来たとたんに、足が重くなりました。

(大丈夫なの?本当は、いじめられて我慢できなかったら
 お姉ちゃんのところに行って泣き付こうって思ってたでしょ?)

『私』の言葉をきっぱり否定できない自分が…嫌でした。

(代わりはふゆき先生かな?…でも、保健室に行ったら
 『あらあら、またおもらしですか?』って迷惑がられたりしてね)

「………」

重い足取りで駅まで行って、電車に乗りました。
引き返さなかったのが、自分でも不思議なぐらいです…。

電車から降りて、バスに乗って…。
周りに同じ制服の人が多くなってきました。

(同じクラスの人は今のところいないね。
 でも、おもらしのこと、知ってる人はいると思うよ。
 そういう噂はすぐ広がっちゃうからね…)

私はずっと、顔が見えないように下を向いていました…。

354:みずたまりのほとり ゆたか視点 18
12/03/29 00:28:41.40 Adz7DQF/
バスが学校前のバス停に着いて…バスから降りました。

「ゆたか…」

バス停の前に、一番会いたくて…一番会わなきゃいけない人。
みなみちゃんが立っていました。

「み…」

喋ろうとした、そのとき。

(『近付かないで…おしっこくさくなっちゃう』)

『私』が、あの夢の中のみなみちゃんの言葉を繰り返して…。

「……!」

…気が付いたら、私はみなみちゃんを置いて駆け出していました。

………

「はぁ…はぁ…」

校舎の前までぱたぱた走っただけで、疲れ切ってしまいました。
この前は学校のマラソン大会も完走できたのに…。
自分がどこまでも弱気になってるってことを、実感しました。

振り向いてみても、みなみちゃんはいませんでした。

(追いかけてきてくれると思った?
 せっかく待っててくれたのに、話もしないで逃げといて…)

おもらししたのはみなみちゃんのせいじゃないって、伝えなきゃいけなかったのに。
私は、せっかく訪れたチャンスを自分で蹴飛ばしてしまいました。

…学校にいれば、またチャンスはあるよ。

自分をそう慰めながら、一人でとぼとぼ教室まで行きました。
教室に一歩入ると…みんなの視線が集まってくるのを感じました。

(『おもらし女』…『きたない』…『出て行け』…)

『私』がまた、夢の中で聞いた言葉を繰り返して…
私は鞄を投げ出すように机に置いて、教室から駆け出しました。

…誰もいない空き教室の、外から見えない隅っこに座り込んで、
気がつくと、HRが始まるチャイムが鳴っていました。

先生がいれば…いじめられない…たぶん。

恐る恐る教室の前に戻ると、ちょうど先生が来るところでした。
先生と同時に教室に入って、席につきました。
席についてからも、ずっと下を向いて息を潜めて、気配を消そうとしました。
石ころみたいに、誰も私の存在を気にしないでくれるように祈り続けました。

355:みずたまりのほとり ゆたか視点 19
12/03/29 00:30:48.69 Adz7DQF/
………

1時間目の授業が始まって…終わりました。

すぐ教室から出て、さっきの空き教室の、さっきと同じ隅っこに座り込んで、
2時間目のチャイムが鳴るまで時間を潰しました。
チャイムが鳴ると、教室に戻って…先生と同時に中に入りました。

………

2時間目の授業が終わると、すぐまた同じ空き教室に行って、座り込みました…。

(こんなので、みなみちゃんと話すチャンスがあるの?
 一昨日は保健室で会いたくないって言って、今朝は待っててくれたの無視して、
 それでもみなみちゃんが諦めないで探しに来てくれるとか、思ってる?)

「………」

『私』の声に何も言えないでいるうちに…3時間目のチャイムが鳴りました。

………

3時間目が終わって…また休み時間。
また空き教室にいると…。

がらっ。

突然、誰かが入ってきました。
もしかして…。

「小早川さん…こんなところにいたんだ」

入ってきたのは…田村さんでした。
田村さんが近づいてきます。

(『小早川さんのおもらしイラスト描いてみたんだ。見てくれる?』)

『私』がまた、あの夢を思い出させる言葉を繰り返して…
私は慌てて立ち上がって、空き教室から駆け出しました。

そのままあてもなく廊下を歩いていると、4時間目のチャイムが鳴りました。

………

4時間目が終わって…昼休みです。
お弁当を持って、私は教室から駆け出しました。
あの空き教室はもうだめだと思って…屋上に行ってみることにしました。

屋上には誰もいませんでした。
お弁当を食べて、5時間目のチャイムが鳴るまでそのまま時間を潰しました。
次の休み時間も、ここで時間が潰せるかもしれません。

356:みずたまりのほとり ゆたか視点 20
12/03/29 00:33:46.13 Adz7DQF/
………

5時間目も終わって、屋上で時間を潰して…。6時間目が始まりました。
黒井先生の授業でした。
このまま一日が終わる…そう思っていました。

でも…その授業中に、今までと違うことが起きたのです。

誰かが、私の背中をつっつき始めました。

(とうとう、授業中でもいじめが始まったかな…?)

やめて…。
私は石ころだよ…相手にしないで…。

気付かないふりをしていると…その誰かが、もっと背中を強くつっつきました。
そのつつき方は、遊んでいるんじゃなくて、まるで助けを求めるかのようでした。
恐る恐る振り向くと…田村さんでした。
田村さんは下を向いたまま、震える手で私に1枚のメモを差し出していました。
表情は分かりませんでしたが、全身が苦悶に震えていて…何かの理由で、
ものすごく追い詰められているのが分かりました。

メモを受け取ると…乱れた走り書きでこうありました。

『いわさきさんがおもらししちゃう』

「!?」

みなみちゃんを見ると…、
顔が青白くて、視線が虚空をさまよっていて、
全身ががたがた震えていて、呼吸も苦しそうで…。
あの時の私と同じ…いえ…もっとひどい状態に見えました。
スカートは濡れてなくて、まだ手遅れではないようでした。
でも…いつそうなってもおかしくない状態でした…。

それだけのことを即座に見て取った、その直後。
みなみちゃんも私の方を見て…視線が合いました。

みなみちゃんは、視線で私に『何かをして』と訴えていました。
でも…どうしても『何をしてほしいか』が分からないのです。
普通、こんな状況だったら『助けて』だと思います。
なのに『助けて』じゃないことだけが分かるのです…。

みなみちゃんの視線が『早く…もうあんまり待てないよ…』と訴えてきます。

待てないのは分かるの…。でも、どうしてほしいか分からないんだよ…。
『助けて』じゃないなら…何をしてほしいの?
こんな状況で、他にしてほしいことなんて、思いつかないよ…。

357:みずたまりのほとり ゆたか視点 21
12/03/29 00:36:12.04 Adz7DQF/
…焦っているうちに、周りの人がみなみちゃんの様子に気付き始めました。
少しずつ、視線がみなみちゃんに集まっていきます…。

「…ん?」

黒井先生もとうとう気付きました。もう考えてる余裕はありません。

がたっ!

黒井先生が言葉を発する前に、私は大きな音を立てて立ち上がりました。
みんなの視線が、みなみちゃんからこちらに移りました。
みんなに見られるのは嫌だったけど、今はそんなこと気にしていられません。

「先生…みなみちゃ…岩崎さん、具合が悪そうなので、保健室に連れて行きます」

とっさに考えた、無難な言葉。

「…あー、ウチもちょうど今気付いた。
 めっちゃ顔色悪いし、震えとるし…岩崎、無理せんと早く行っとき。
 言いだしっぺやし、小早川、頼めるか?」

黒井先生はすぐに許可してくれました。
私は急いでみなみちゃんに駆け寄りました。
みなみちゃんは震えながら、切なげに私を見つめてきます…。
さっきはびっくりしていて気付きませんでしたが…かわいいです。
いつもクールなみなみちゃんが、おしっこしたくて震えてる。
そのギャップが、さらにかわいさを後押ししてて…。

このまま、みなみちゃんがおもらしするの…見てみたい。

一瞬だけ…本当に一瞬だけ、そんないけないことを考えてしまいました…。

「…行こう、みなみちゃん」

いけない考えを振り払って、そう言うと…みなみちゃんは首を振りました。

「だめ、行けない…」

「無理しちゃだめ、行こう!抱っこはできないけど、支えるから…!」

このままここにいたって、いずれ限界が来ておもらししてしまうだけです。
みなみちゃんは私なんかよりずっと意思も体も強いから、
こんな状態になっても、まだ動けるかもしれない。
その可能性に賭けるしかありません。
私はそっと、みなみちゃんを立たせるために手を伸ばしました…。

358:みずたまりのほとり ゆたか視点 22
12/03/29 00:38:16.96 Adz7DQF/
…みなみちゃんの表情が変わりました。
目が潤んで…幸せな夢を見ているような、不思議な微笑が浮かびました。
その微笑を見たとき…一つの予感がしました。

私が触ったら…みなみちゃんはおしっこをしちゃう…。

思わず、伸ばしかけた手を止めました。
すると…みなみちゃんは困ったような表情になって…。

『どうしたの…ゆたか、早く触って…』

視線でそう訴えてきました。
さっきと違って、今訴えていることははっきり分かりました。

だめだよ…触れないよ…。だって、触ったら…。

『…早く、ゆたか…』

…どうしたらいいの?
このまま諦めたら…みなみちゃんはここでしちゃう…。
でも…連れて行くために触れば…それでも…。

『時間をかけるなんて、残酷だよ…』

みなみちゃんが懇願するように見つめてきます…。
その視線は、ずるいって思うぐらい魅惑的で…。
気が付いたら、操られたように手が動いていて、
みなみちゃんの腕をそっと掴んでいました…。

「あ……」

吐息交じりのぞくっとするような声と共に、
みなみちゃんが目を閉じて…おなかの緊張を解いたのが分かりました…。

「だめえええっ!」

「!!」

私の絶叫で、みなみちゃんがびくっと体を震わせて…、
気を失いかけたように一瞬よろめいて…、
放心したように再び私を見つめました。

そのときの私は、みなみちゃんがおしっこをしてしまう気配で
パニックになって叫んでしまっただけでした。
それが、予想外の奇跡を起こしました。
びっくりしたことで、みなみちゃんの体のおしっこを出す動作が
止まってしまったようなのです。

(だめ…ここでしちゃだめだよ!トイレ行こう…みなみちゃん!)

私は、誰にも聞こえないように囁きました。

夢から覚めたように、みなみちゃんの瞳に生気が戻って、
触ったらもらしちゃうという予感が消えました。
今ならみなみちゃん、動けそうです…。

359:みずたまりのほとり ゆたか視点 23
12/03/29 00:41:31.75 Adz7DQF/
「立たせて、いい?」

「…うん」

私はそっとみなみちゃんを立たせました。

「歩ける…?」

みなみちゃんは、私の言葉で恐る恐る一歩を踏み出しました。

「歩けそう…少しの間なら」

「じゃあ行くよ。ゆっくり、急いで」

私は、みなみちゃんを支えて教室から出ました。
教室でざわめきが始まって…ここまで聞こえてきました。

「トイレだったよな、どう見ても…」

「間に合うかな、あんな状態で…」

「そういや岩崎、5時間目から様子変だったような…」

「今日、岩崎さん、席から離れたの一回も見てない…」

「じゃあ、もしかしたら一回もトイレ行ってないってこと?」

「どうして…?」

「もしかして、小早川…」

「はいはい、つまらん詮索すな。授業続けんでー」

黒井先生がざわめきを鎮めて、何も聞こえなくなりました。
…今は余計なことを考えてる暇はありません。
お手洗いまでゆっくり、急がなきゃ。

………

無事にお手洗いに着きました。
個室のドアを開けて、みなみちゃんを中に入れました。

「もう大丈夫…離していい…外に出てて…」

みなみちゃんの言葉に従い、そっと体を離して、
お手洗いの外まで駆け出しました。

360:みずたまりのほとり ゆたか視点 24
12/03/29 00:43:54.30 Adz7DQF/
お手洗いの前で一人になって…さっきの続きを考えました。

聞こえた言葉が本当なら…
みなみちゃんは、わざとおしっこを我慢していたことになります。
最後の、途中で遮られた言葉を思い出して、どきっとしました。

『もしかして、小早川…』

もしかして…みなみちゃんは…
私のために、私と同じようにみんなの前でおもらしするつもりだったの?

…そんなの、何の意味もない。
おもらしした人が増えたって、私はしたことは消えない。
みなみちゃんも私のとこまで落ちちゃうだけ…誰も救われない。

みなみちゃんも同じように傷付いて…いじめられる…。
想像しただけで、悲しくなって…、
どうしてそんなばかなことするのって、理不尽な怒りも湧いてきて…。

…待って。落ち着こう。
周りの人の言葉から、私が勝手に想像してるだけ。
みなみちゃん本人に聞かなきゃ、本当のことは分からない…。

何とか心を落ち着けたところに…みなみちゃんが、お手洗いから出てきました。
つい、気になって下の方を見て…、
みなみちゃんが素脚なのに気付いて、どきっとしました。

「みなみちゃん…タイツ、もしかして…」

「今日は、はいてきてない」

「そ、そうだっけ…。じゃあ…大丈夫だった?」

「うん」

「少しも?」

「うん。確認した…」

ひとまず、安心です…。

361:64-285
12/03/29 00:47:09.18 Adz7DQF/
ゆたか視点 3日目前半は以上です。
今回はここまでです。

362:名無しさん@ピンキー
12/03/29 00:48:34.82 xaSJfhe4
乙でした!

363:名無しさん@ピンキー
12/03/29 21:20:34.46 TFEUPM3S
乙です!

続き楽しみにしてます

364:64-285
12/04/09 01:11:59.98 QpDzvU0R
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(3日目・後編)を投下します。

・11レス前後使用予定
・時間軸でみなみ視点の3日目後半(エピローグ直前まで)に対応
・みなみ視点とクロスするシーンで、大きな流れは同じですが
 細かい言い回しなどを所々変えてます

365:みずたまりのほとり ゆたか視点 25
12/04/09 01:13:45.31 QpDzvU0R
…でも、みなみちゃんの顔色はおしっこを我慢していたときと同じぐらい悪くて、
その上…どこか痛いのを我慢しているように見えました。

「みなみちゃん…どこか痛いの?」

「…う、うん。おなかが…ちょっと」

ちょっとには、見えませんでした。

「もしかして…膀胱、傷めちゃったのかも…」

私よりずっと意志の強いみなみちゃんが、歩けなくなるほど我慢したのです。
膀胱にかかった負担は私の場合とは比べ物にならなかったはずです。

「そうかもしれない…でも、どうでもいいから…」

「どうでもいいって、そんな…!」

「え…。あ…ごめん、大丈夫だから、って言いたかった」

そう言って微笑んで見せるみなみちゃんは、大丈夫になんて見えませんでした。
話をするのも辛そうで、本当に保健室に行って休んだ方がいいぐらい…
それどころか…今すぐ病院に行かなきゃいけない状態にだって見えました。

「…みなみちゃん」

なのに私は、みなみちゃんに本当のことを聞きたい気持ちを抑えられませんでした。

「教室から出た時、みんなが話してたの聞こえたんだけど…。
 5時間目から…もしかしたらもっと前からずっと我慢してたみたいだって。
 …本当なの?」

「…うん」

みなみちゃんは少しためらってから、肯定しました。

「どうして?」

「………」

みなみちゃんは何も言いませんでした。
それは、私の『どうして?』が聞こえなかったからじゃなくて、
理由がなかったからでもなくて、私が悲しむような理由だから言えないのです。

「みなみちゃん…みんなの前でおもらしするつもりだったんだね。
 私がしちゃったからって…同じようにって…」

366:みずたまりのほとり ゆたか視点 26
12/04/09 01:16:15.84 QpDzvU0R
みなみちゃんは…さっきより長い間ためらって…そっと肯きました。
さっきの悲しみと、理不尽な怒りが心の中にまた燃え上がって…。

「……ばかあっ!」

気が付いたら叫んでいて、みなみちゃんがびくっと体を震わせました。

「みなみちゃんまでおもらししたって、何にもならない!
 私がしちゃったことは消えないよ!
 私と同じように傷付く人が、もう一人増えちゃうだけだよ!」

「でも……でも……」

弱々しいみなみちゃんの声。

「私は…ゆたかに…おもらしさせて…傷付けた…だから…。
 私も…同じように傷付けば…ゆたかが…少しは…」

「みなみちゃんが傷付いたらどうだっていうの?
 もっともっと悲しくなるだけだよ!
 みなみちゃんが傷付くのなんか見たくない!
 そんなの、想像するだけでも悲しくなっちゃうよ…!」

悲しみと理不尽な怒りに突き動かされ、一方的にまくし立てる私。

「………」

みなみちゃんはおびえたように黙り込んでしまいました。
私の中の怒りはしぼんで、悲しみだけが残りました。

「みなみちゃん…。みなみちゃんがおもらしして傷付いたら…
 仲間ができて嬉しいって、私が喜ぶと思ったの?
 みなみちゃんが、私と同じところまで落ちてきたらいいって…
 そんなこと考えてるって、思ってたの?」

それでも…声のトーンが落ちただけで、私は止まりませんでした。
残った悲しみだけでも、私を突き動かし続けるのには十分だったのです。

「………」

みなみちゃんは、何も言わないで黙っているだけでした。
でも、その追い詰められた表情は、言葉と同じようにはっきり告げていました。
『否定できない』…と。

そのとき…やっと分かりました。
教室で、私が立ち上がる前、みなみちゃんが視線で訴えていたことが何なのか。
あのときみなみちゃんが、私に何をしてほしかったのか。

「みなみちゃん…教室で私が立ち上がる前に伝えようとしてたことって…。
 一昨日の仕返しにおもらしさせて、ってことだったんだね?
 おもらしのことでみなみちゃんを恨んでて、仕返ししたがってるって…
 私のこと、そんな自分勝手で意地悪な人だって…思ってたの?」

367:みずたまりのほとり ゆたか視点 27
12/04/09 01:18:01.68 QpDzvU0R
「………」

みなみちゃんは、黙っているだけでした。

「みなみちゃん…どうして何も言ってくれないの?
 違うんだったら、違うって言ってよ…」

「………」

みなみちゃんは、それでも黙っていました。
『違う!そんなわけない…!』って言いたそうに見えました。
でも、声にして言わないのは…やっぱり否定できないということです。
みなみちゃんの中で…私はそういう子だったのです。

「そうなんだ…私のこと…そんな風に思ってたんだ…。
 ひどい…ひどいよ…みなみちゃん…」

涙が浮かんできて…下を向いた、一呼吸の後。

……ぽたっ。

足元で、涙の雫が弾けました。
…私の涙は、まだあふれていないのに。

「え…」

顔を上げると…同じように下を向いていたみなみちゃんの瞳から
二粒目の涙が落ちていって…。

……ぽたっ。

足元で、同じ音を立てて弾けました。

「みなみちゃん!?」

私の驚いた声に、みなみちゃんは顔を上げました。
顔を上げたことで、またあふれた涙は、すぐに落ちないで頬を伝いました。

「え…」

みなみちゃんは手でさっと目の辺りを拭って…。
また、涙が伝って…。

「……!」

みなみちゃんはそのとき初めて、自分が泣いているのに気付いたのでしょう。

目をぎゅっと閉じて…。
閉じた目から、また涙がこぼれて…。

「……っ!」

両手で顔を押さえて…。
それでも、押さえた手から涙がこぼれ落ちていきました…。

368:みずたまりのほとり ゆたか視点 28
12/04/09 01:19:44.33 QpDzvU0R
「みなみちゃん…」

(泣かせちゃった…みなみちゃんが泣くなんて、どれだけ傷付いたんだろう…)

『私』の声で、みなみちゃんを泣かせてしまったことを今頃になって自覚しました。

「みなみちゃん…あ…あの…ご…ごめん…私…言い過ぎた…」

(今さら何言ってるの?口から出した言葉は戻せないよ)

『私』の声に同意したかのようなタイミングで、
みなみちゃんが顔を押さえたまま、無言で首を横に振りました…。

(ほら、『今さら謝っても遅いよ!』って言いたいんだよ、きっと)

「みなみちゃん…そんなつもりじゃなかったんだよぉ…」

(どういうつもりだったの!言ってみてよ!)

『私』の声が今までで一番冷たく、そして強く頭の中に響きました。

「………」

何も…言えませんでした。

(…どうして言えないか、教えてあげる。
 私がしたのはただのいじめだって、認めたくないからだよ。
 みなみちゃんが弱ってて抵抗できないから、調子に乗って泣くまでいじめただけ。
 学校でいじめられるっておびえてずる休みまでしたくせに、
 抵抗できない相手がいたらいじめっ子に早変わり…勝手すぎだよ)

そんな…そんなつもりじゃなかったんだってば…。
みなみちゃんが無茶なことしたのが悲しかったから…。
みなみちゃんに変な風に思われてたのが悲しかったから…。

(無茶なことさせたのも、変な風に思わせたのも、私じゃないの?
 もっと早くみなみちゃんに本当のこと教えてたら、
 みなみちゃん、おもらししようとなんてしなかったんじゃないの?
 支えようとした手を振り払われて、顔見たくないって言われて、
 待ってて話しかけようとしても口もきかずに逃げられて、
 それでも恨まれてるって思わない方が変じゃないの?)

そこまで言って、不意に『私』は、言葉を切りました。
聞こえるのは、みなみちゃんのかすかな嗚咽と、涙が足元で弾ける音だけ。
私は…自分でそうさせたことなのに、みなみちゃんを責めて泣かせてしまった。
そのことを噛み締め、絶望が心を覆い始めて…、
それを待っていたように『私』は言葉を続けます…。

(…最後に残ってた希望、自分で壊しちゃった。
 ずっと見捨てないでくれてたみなみちゃんの心まで踏みにじって…
 もう味方になってくれる人なんていない。本当に一人ぼっち。
 あの夢、やっぱり本当になった…というより、自分で本当にしたんだよ)

369:みずたまりのほとり ゆたか視点 29
12/04/09 01:21:36.10 QpDzvU0R
もう…もういいよ…わかった…わかったから……。

絶望に呑み込まれて…私自身のこと、消したいぐらい嫌になって…
みんなの前から消えてしまおうって…駆け出そうとした、そのとき。
みなみちゃんが顔から手を離して…涙できらきら輝く瞳と視線が合いました。

「違う…違うの…」

え…?

「ゆたかのせいで…泣いたんじゃないの…」

みなみちゃんは、涙が止まらないまま喋り始めました。

「どうして…泣いてるのか…自分でも…分からないの…。
 私…泣きたいなんて思ってない…。
 頭…真っ白になって…気が付いたら…涙が出てて…止まって…くれないの…」

その声は震えて途切れ途切れだけど、涙声じゃなくてはっきり聞き取れました。
泣いていても、完全には自制を失っていないのです。

「ゆたかの…言う通りだよ…おもらしさせたこと…もう…消せない…。
 せめて…ゆたかが…立ち直るきっかけ…作りたかった…。
 そうできたら…私は…どうなってもよかった…。
 なのに…私のしたことは…ゆたかの気持ち…考えないで…また悲しませただけで…、
 今度は…泣き出して…困らせてる…。ばかだよね…訳…分からないよね…。
 全部…私が自分でまいた種で…泣く資格なんか…ないのに…」

みなみちゃんが、喋れば喋るほど辛くなっているのが分かりました。
涙がもっといっぱい出てきて…体が小刻みに震えて…。
それでも感情を懸命に抑えて、喋り続けるみなみちゃん。

「私……本当に……ばかだ……。
 どんどん……頭……真っ白になって……何も……考えられない……。
 もう……どうしたらいいのか……分からない……分からないよぉ……!」

『分からないよぉ……!』でとうとう涙声になって…、
みなみちゃんはそれっきり何も喋れなくなりました。

みなみちゃんを泣かせたのは…やっぱり、私でした。
みなみちゃんはあのときからずっと、
どうしたらいいのか分からなくて泣きたいのを抑え付けてきて、
今、とうとう抑え切れなくなったのです。
そして…どうしたらいいか分からなくさせていたのは、私なのだから。

みなみちゃんが今言ったことは、みんな逆。
みなみちゃんの気持ちを考えないで、ずっと悲しませ、困らせ続けたのは私。
ばかで、訳が分からないことばかりしてたのは私。
全部の種をまいたのも、私だったのです…。

370:みずたまりのほとり ゆたか視点 30
12/04/09 01:25:21.68 QpDzvU0R
みなみちゃんへの罪悪感はさらに大きくなって、胸がずきずき痛みました。
なのに、さっきのような駆け出したい衝動はもう起きませんでした。
心が落ち着いて…というより、目の前のみなみちゃんに心を奪われてしまって
余計なことが考えられませんでした。

泣いているみなみちゃんは…そのぐらい綺麗だったのです。
きらきら輝く涙は、流れ落ちて宝石に変わってる…。
足元に視線を向けたとき、半分ぐらい本気でそう思っていました。

…もちろん、足元にあったのは、小さな水たまりだけでした。
でも、それはただの水たまりじゃなく、みなみちゃんの心が溶け込んでいて、
私の嫌な心も優しく溶かしていく、魔法の水たまりでした。

みなみちゃんに言葉をかけることも、涙を拭いてあげることも忘れて、
私は、少しずつ大きくなり続ける水たまりのほとりで立ち尽くしていました…。

どのぐらいの時間が経ったのか…。
みなみちゃんの涙が止まって…私はようやく我に返りました。
すぐにハンカチを出して、みなみちゃんの涙を拭きました。

「みなみちゃん…ごめんね。ずっと誤解させたままでいて…」

言わなきゃいけなかったこと、ようやく言えました。

「あのとき…おもらししたの、みなみちゃんが触ったからじゃない。
 あの時にはもう、少しもれてて、スカート濡れちゃってた。
 あのとき、私が言ってたのは、動いたらもれちゃうって意味じゃなく、
 動いたらもらしたおしっこが見られちゃう、って意味だった…。
 みなみちゃんが来なくたって、あのまま全部もらしてた。
 みなみちゃんが責任を感じる必要なんて、全然なかったんだよ…」

「………」

みなみちゃんは私の顔を見て、嘘じゃないことを分かってくれたようでした。
でも、みなみちゃんは首を横に振って…、

「私は保健委員なのに、ゆたかの事、注意してなかった。
 ちゃんと休み時間にトイレ行ってるかな、おしっこしたくないかな、って
 いつも注意してなきゃいけなかった。
 授業中におしっこしたそうな素振りを見せたら、すぐに気付いて
 連れ出してあげなきゃいけなかった…」

…真顔で、そう言ったのです。

371:みずたまりのほとり ゆたか視点 31
12/04/09 01:27:41.43 QpDzvU0R
☆☆☆☆☆☆☆

休み時間に、みなみちゃんが来て…。

「ゆたか…おしっこない?」

「ないよぉ。お昼休みに行ったもん」

「でも、お昼にカフェオレ飲んだし…行っておいた方がいいと思う」

「大丈夫だよぉ」

そして、授業中…

「…んっ」

ぎゅっ。

「…んん…」

もじもじ…。

私がそわそわし出すと、みなみちゃんがすぐに立ち上がって…。

「ゆたか、行こう」

「うん…」

私はみなみちゃんに連れられて教室を出て、小走りにお手洗いに向かいます…。
すっきりしてお手洗いから出ると、みなみちゃんが待っていました。

「…ほら、さっき休み時間に行っておいた方がよかった」

「うん…ありがとう、連れ出してくれて…」

みなみちゃんは微笑みました。

「私がいつも注意してる。ゆたかは、おしっこの心配なんかしなくていい…」

☆☆☆☆☆☆☆

……ぼんっ。

頭から煙が出て、そんな想像を振り払いました…。

「う~~……」

私は、真っ赤になって、変な声を出してしまいました。
ちょっとだけいいかもと思ってしまった自分が、すごく恥ずかしいです。
でも、みなみちゃんに真顔で言われたら、何だか心がほわほわして、
怒ろうとしても、ぷーってふくれるだけになっちゃって…。

「あのね~、みなみちゃん…。
 私、おしっこしたくても言えない赤ちゃんじゃないんだよ…?
 そこまでいつも注意されてたら、すごく恥ずかしいんだけど…」

372:みずたまりのほとり ゆたか視点 32
12/04/09 01:30:01.87 QpDzvU0R
「そ…そうかな…?」

みなみちゃんの声の調子も、何だか和らいでいました。

(一昨日『おしっこしたい』って言えないでおもらししたのは誰だっけ…)

『私』がそうつぶやいた気がしましたが、スルーできました。
そのぐらい、ほわほわしていたのです…。

「そうだよっ!もうっ!今回のことだって、
 私が自分で言ってトイレ行かせてもらえばよかっただけだよっ!
 みなみちゃんに責任なんか全然ない!
 みなみちゃん、私のこと、子ども扱いしすぎだよぉ!」

「ご、ごめん…」

何だか雰囲気が和んでしまって…。
このまま笑い合って終われたらって、思いました。
でも、そんなわけにもいきません。

「昨日の夜、お姉ちゃんから聞いた…。
 みなみちゃんが自分のせいだって誤解して思い詰めてたってこと」

私は話を戻しました。

「違うんだよ、って伝えなきゃって思って、今日、学校に来たのに…
 みなみちゃんを見たとたんに逃げて…もっと誤解させちゃった。
 その後だって…みなみちゃんのところにいけば話せたのに、
 夢と同じようにいじめられるのが怖くて、休み時間は誰もいない所に逃げて…
 先生がいればいじめられないと思って、授業の時だけ戻って…
 そんなこと、繰り返してた…」

「夢?」

「一昨日の夜、見たの…。
 おもらしのことでみんなにいじめられて…
 最後にみなみちゃんにも嫌われて…一人ぼっちになっちゃう夢。
 きっとほんとになるんだって…ずっとおびえてた…」

「………」

みなみちゃんは少しの間の後、安心したように微笑みました。

「夢は…夢だよ。本当になる場合もあるけど…間違っている場合だってある。
 その夢で、絶対に間違ってる所、一つ、すぐに言える。
 …私は、ゆたかの事、嫌いになったりなんかしない。
 ゆたかの事、ずっと好きなままだよ。今も、これからも」

373:みずたまりのほとり ゆたか視点 33
12/04/09 01:32:08.68 QpDzvU0R
「あ……」

一瞬だけ、幸せに包まれそうになりましたが…。
その幸せは、すぐに悲しみへとひっくり返りました。

自分勝手で、弱虫で、みなみちゃんの優しさも踏みにじった私。
みなみちゃんに好きって言ってもらう資格なんかないから…。

……でも。
みなみちゃんの微笑みは、私の勝手さ、弱さ、それに今したこと、
全てを受け入れてくれていて…
『これ以上、何も悲しまなくていいんだよ』と告げてくれていたのです。

悲しみが…幸せにまたひっくり返って…。
今度こそ、幸せに包み込まれて…また涙が浮かんできました。
一昨日から何度も流してきた涙とは、違う涙。
あの時からずっと忘れていた笑顔が、戻ってくるのを感じました。

「みなみちゃん…ありがとう…。
 私…どんなにいじめられたって、負けないで頑張っていける…。
 みなみちゃんが見捨てないでいてくれる…それだけでいい…」

「…ゆたか」

みなみちゃんは、首を横に振りました。

「私だけじゃない。ひよりだって、他の人だって、みんなゆたかの事を心配してる。
 ゆたかをいじめるのは…ゆたかだけだよ」

「え…」

「おもらしのことで自分を責めたり、自分がいじめられるって想像したり…、
 そうやって、自分で自分のこと、いじめてる。
 もし他の誰かがおもらししたって、ゆたかはそんな風にいじめたりしないよね。
 それと同じように…ゆたか自身のこともいじめないであげて。
 私や他の人に優しいのと同じように…自分にも優しくしてあげたらいい…。
 それで、もう、ゆたかをいじめる人はいない…」

「………」

みなみちゃんの言葉が、胸に染み込んできました。

(…みなみちゃんの言いたいこと、分かるね?
 みなみちゃんが言ってるのは、今、このときだけの話じゃないよ)
 
『私』が言いました。
その声は、みなみちゃんの声と変わらないぐらい温かくなっていました。

374:みずたまりのほとり ゆたか視点 34
12/04/09 01:34:36.08 QpDzvU0R
『私』は、私自身。
『私』があの夜からずっと冷たかったのは、
私が自分のことを嫌になっていたのに呼応していただけ。

今は、もう違います。

(みんなから今回のことの記憶を消せるわけじゃない。
 だから、これから先、今回のことを話題にされることはきっとある。
 軽い気持ちでからかわれることだってあるかもしれない。
 だからって、またすぐさっきまでの私に戻っちゃだめ…ってことだよ)

「…うん。分かった」

私は、はっきりと言いました。
それは、みなみちゃんへの言葉でもあり、『私』への言葉でもありました。

(…よし。もう大丈夫。元通りの私に戻ったよ)

『私』が、去った…いえ、私の中に戻っていったのを感じました。

元に戻れたっていうのを実感して…、
みなみちゃんがくれた幸せが、今は包むだけじゃなく
心の中までいっぱいに染み込んでいました。

「ありがとう…みなみちゃん。本当に…」

私はみなみちゃんの手を取って、ありったけの想いを込めて言いました。
本当はぎゅ~って抱きつきたかったけど…自重しました。

しばらくそうしていて…
ふと、みなみちゃんの顔色がさっきより良くなっているのに気付きました。

「みなみちゃん…おなか痛いの、大丈夫?」

「…うん。本当は、さっきまで破れてるみたいに痛かったけど…。
 今はもう和らいだ。ゆたかが…治してくれた」

「私が…?」

「ゆたかが本当の笑顔になってくれて…手を取ってくれて…
 すごく幸せで…痛いのが飛んで行っちゃった…」

照れたようにそう言うみなみちゃんは、こぼれるような笑顔でした。
今の私も、こんな素敵な笑顔になれてるのかな…。

375:64-285
12/04/09 01:37:08.87 QpDzvU0R
ゆたか視点の三日目後半は以上です。
後はエピローグだけですが今回はここまで…。

376:名無しさん@ピンキー
12/04/09 01:39:09.01 WEHlRfys
乙です!

377:名無しさん@ピンキー
12/04/09 21:16:00.28 y3XUKO17
>>375
GJ

378:64-285
12/04/11 01:21:00.81 lYxTp2/A
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(エピローグ)を投下します。

・4レス前後使用予定

379:みずたまりのほとり ゆたか視点 エピローグ1
12/04/11 01:23:32.26 lYxTp2/A
………

教室を出てから、とても長い時間を過ごしたように感じましたが、
まだ教室を出たときと同じ、6時間目の授業中でした。

「教室、戻ろうか」

「うん」

私とみなみちゃんは教室に向かって歩き出しました。

「…今まで見たことないみなみちゃん、いっぱい見ちゃった」

今まで知らなかったみなみちゃんの魅力を、いっぱい知ることができました。
そのきっかけは、授業中におもらししちゃったこと。
そう考えると…おもらしって案外いいものかも、ってちょっとだけ思えてきて…
さすがにそれはない、と思い直しました…。

「……呆れた、よね」

「…え?」

「おもらししそうになったり…泣いたり…みっともないとこばかり見せちゃった…」

みなみちゃんは自嘲するようにため息をつきました…。

「そんなことないよっ!
 おもらししそうだった時のみなみちゃん、ずるいって思うぐらいかわいかった!
 震えてた体も、切ない表情も、私を見つめてた瞳も、何もかも全部!
 だから、あのとき……」

…私の言葉は、そこでいきなり途切れました。
『このままおもらしするの見たい、ってちょっとだけ思っちゃった』なんて、
いくらなんでも言えません…。

「…とにかく、みっともなくなんかなかった!呆れるなんてとんでもないよ!」」

「………」

みなみちゃんは真っ赤になってしまいました…。

「泣いてる時だって、すごく綺麗だった!
 私みたいにわーわー泣くんじゃなくて、自制を失ってなくて、静かで、大人で…、
 涙を拭いてあげるのも忘れて、涙が止まるまで黙って見惚れちゃった…。
 涙も宝石みたいにきらきら輝いてて…流れ落ちて本当に宝石に変わってるって
 半分ぐらい本気でそう思っちゃった…。
 綺麗な人は泣いたって綺麗で…それどころか流した涙まで綺麗なんだなぁ…って
 羨ましくなっちゃった…」

「………………」

380:みずたまりのほとり ゆたか視点 エピローグ2
12/04/11 01:25:40.10 lYxTp2/A
私が感じたことをありのまま伝えれば伝えるほど、
みなみちゃんはどんどん恥ずかしそうになって…。
教室に着く頃には、今にも頭から蒸気を吹いて倒れてしまいそうでした…。

教室のドアを開けると…。
みんながみなみちゃんを一目見るなり、気の毒そうに話し始めました。

「生脚になってる…ってことは…」

「いや、タイツは朝からはいてなかったよ」

「でも、この表情は…」

「うん、それに目も…」

「苦しくて涙出たとかのレベルじゃない…思いっきり泣いた後…」

「だめだったんだね…」

「あの状態じゃしょうがないよな…」

「むしろ、あの状態まで耐えた上に少しでも歩けたことがすごいよ…」

みんなが口々にそんな事を言いました。

「……?」

みなみちゃんと私は、教室の入口に立ったままで顔を見合わせました。
みんなの言っている意味が分かりません。
みなみちゃんにも分からないようです。

「あちゃー…その様子だと間に合わんかったようやな」

状況を悟るきっかけになったのは、黒井先生の言葉でした。

「え…」

「まー、気ぃ落とすな。おもらしなんて大した失敗やないって。
 泣くだけ泣いたんやろ?もう忘れーな」

おしっこが限界寸前の状態で教室を出ていったみなみちゃん。
そして…戻ってきたみなみちゃんの、真っ赤に泣き腫らした目。
今にも倒れてしまいそうなほどの恥ずかしさを湛えた表情。

みなみちゃんは、間に合わずにおもらしして泣いてしまった。

他の人から見たら、そう誤解されても仕方ない状況だったのです…。

381:みずたまりのほとり ゆたか視点 エピローグ3
12/04/11 01:27:33.96 lYxTp2/A
「え、え、ちょっと…」

慌ててみなみちゃんを見ると…、
苦笑しながら、『まあ、別にいいや』という感じでため息をついています。
誤解を解く気はないようです…。

「ち、違うよ!」

そんなの、だめだよ!
誤解、絶対に解かなきゃ…!

「泣いたのはそんな理由じゃないよ!
 みなみちゃん、おもらしなんかしてない!」

どうしよう…どうやったらおもらししてないって証明できるの…?

…そうだ。
私がおもらししたときはスカートがびちょびちょになっちゃった。だから…。

「ほら、スカートだって全然濡れてない!」

私は、みなみちゃんのスカートを掴んでみんなに示しました。

「ほら、横も!後ろも!こっち側も!」

私はみなみちゃんの体を90度ずつ回転させて、
スカートがどこも濡れてない事をみんなにはっきりと示しました。

「…ね!濡れてなかったでしょ?」

みんなを見回しましたが…納得したようには見えませんでした。
後になって考えれば、私の突然の行動に驚いてそれどころじゃなかったのでしょう。
でも、納得した様子が見えないことに私はもっと焦ってしまって…。

…どうして?
どうしてみんな納得してくれないの?

382:みずたまりのほとり ゆたか視点 エピローグ4
12/04/11 01:29:32.59 lYxTp2/A
……分かった!

私のときにスカートがびちょびちょになったのは、椅子に座ったままもらしたからで、
そうじゃない状態でもらしたら、スカートが濡れるとは限らない。
だから、スカートが濡れてなくたって中のパンツはびちょびちょなんじゃないかって
疑ってるんだ!

だったら、こうすれば!

「ほら、スカートの中だって濡れてない…!」

ばさっ。

私は、みなみちゃんのスカートを思いっきりまくり上げました。
みなみちゃんは、少しももらしてないって、確認したって言ってました。
だから、これで完全に証明できるはず…。

「………」

…気が付くと、教室の中が凍り付いていました。

「あ……」

自分がしたことの意味に気付いて…私はみなみちゃんのスカートを離しました。

…でも、遅すぎました。

凍り付いた教室の中で、誰かが、ある色の名前をつぶやきました。
私は夢中だったので見てなくて、断定はできないけど…、
状況からして、それはみなみちゃんのパンツの色を描写したもの。
つまり、みんなにばっちり見えてしまったということ…。

しゅー………ぼん。

みなみちゃんの頭から蒸気が出て…。

……ぱたっ。

みなみちゃんは、気を失ってしまいました…。

「きゃあああ!みなみちゃあああん!」

パニックになる私。さらに…。

たぱたぱたぱ…。

教室の中から、何か流れ落ちる音がし始めて…、

「うわー、こっちもやばい!」

「血が!血が止まんないぞー!」

すでにパニックだった私には、誰に何が起きたのか分かりませんでしたが…
それが起きたのは、明らかに私が今したことが原因です…。

あああぁぁぁ、私、どうしたらいいの……?

(おわり)

383:64-285
12/04/11 01:33:19.89 lYxTp2/A
以上でゆたか視点は完結です。
お付き合い下さりありがとうございました。

なお、エピローグ部分で増えた謎はひより視点で解明されます…。

384:名無しさん@ピンキー
12/04/11 01:33:57.27 nrKpgmkV
乙です!
ひより視点も楽しみに待ってます!

385:64-285
12/05/02 01:03:02.84 u9g3RWby
「みずたまりのほとり ひより視点」(1日目)を投下します。

・基本的な注意事項はみなみ視点・ゆたか視点に準拠
・ひよりも話が進むにつれて壊れてきます(みなみ・ゆたかとは別の意味で)
・時間軸でみなみ視点・ゆたか視点の1日目に相当
・8レス前後使用予定

386:みずたまりのほとり ひより視点 1
12/05/02 01:04:54.78 u9g3RWby
授業中…みなみちゃんが不意に立ち上がった。

「先生…小早川さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行きます」

見ると、ゆーちゃんは確かに顔色が悪く、がたがた震えていた。
さすがみなみちゃん。ゆーちゃんのこと、よく注意してる。

みなみちゃんが近づくと、ゆーちゃんは首を振った。

「だめ…行けない…」

「無理しちゃだめ」

「だめなの…動けないの…」

「歩けないほど辛いの?だったら抱っこしてあげる…だから、行こう」

…私の脳内に、0.05秒でお姫様抱っこの図が完成する。
すでに手が走って、ノートにラフを描き始めていた。

「だめ…触らないで…」

恥ずかしいのか、首を振っていやいやをするゆーちゃん。
大丈夫!何も恥ずかしいことないから!早くお姫様抱っこされて見せて!

「やめて!動いたら…!」

ゆーちゃんの声に構わず、みなみちゃんは手を伸ばす。いいよいいよー!

みなみちゃんの手が触れた瞬間…。

「おしっこがぁ!!」

「!?」

みなみちゃんはすぐに手を離した。
…でも、手遅れだった。

ぽたっ…ぽたっ…ちょろろろ……しゃあああああぁぁ……。

ゆーちゃんが座っている椅子の下に、あったかそうな液体が流れ落ち始めた。

「うわあああんっ!」

ゆーちゃんは机に泣き伏してしまった。
それでもおしっこは止まらず、椅子の下に水たまりになっていく…。

「……」

私は魂を奪われたように、大きくなっていく水たまりを見続けた…。


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