らき☆すたの女の子でエロパロ64at EROPARO
らき☆すたの女の子でエロパロ64 - 暇つぶし2ch250:名無しさん@ピンキー
12/02/13 05:46:56.37 f65bGRM/
>>248
醜い。要りません。

251:名無しさん@ピンキー
12/02/13 22:04:28.71 0zp177Qb
>>248

期待してます!

252:名無しさん@ピンキー
12/02/14 04:46:05.24 ge7Fpd44
>>248
忌避してます!

253:名無しさん@ピンキー
12/02/14 23:43:41.60 87pWwuoi
>>248
続き、待ってます。
>>250
消えてください、お願い!!

254:名無しさん@ピンキー
12/02/15 23:02:48.17 xDtG1Pbp
>>248
要りません。
どうか来ないで!

255:名無しさん@ピンキー
12/02/16 00:06:25.40 ZPcLN+H1
別カプが好きなら作品書いて勝負せい 見苦しい

256:名無しさん@ピンキー
12/02/16 18:24:51.49 Ucmb72qU
>>255
激しく同意。

257:名無しさん@ピンキー
12/02/16 19:54:08.80 b53hHAtk
という風に話題そらしのいつもの手

258:名無しさん@ピンキー
12/02/16 21:52:40.25 Ucmb72qU
>>250
>>254
>>257
同一人物? 粘着ねばね~ばwww

259:名無しさん@ピンキー
12/02/16 22:33:02.94 U8lsFqt1
>>255
激しく同意。

260:名無しさん@ピンキー
12/02/16 23:25:26.29 y/KOeMV+
>>254
お前がこの世から出て行け

261:名無しさん@ピンキー
12/02/18 00:19:37.46 +epT84+7
保管庫見てたら
みなみんって
結構性的被虐キャラなんだなあ

262:名無しさん@ピンキー
12/02/18 00:44:03.49 HqusSjVb
相方のゆたかがドSにされる傾向があるからな

263:名無しさん@ピンキー
12/02/18 01:59:12.71 bmw3cDFP
準備されている方がいらっしゃらなければ投下したいと思います。

264:松
12/02/18 02:01:16.33 bmw3cDFP
色々とコメントありがとうございます。

後篇を投下します。
以下注意書きを。

・11レス使用予定。
・原作 7巻のネタをつなぎ合わせて構成してます。
・こなかがもので、かがみ視点になります。

265:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 1
12/02/18 02:06:27.55 bmw3cDFP
「かがみ・・・ごめん・・・」

 こなたは近づきながら声をかける。
 その声を合図にしたようにつかさはスッと後ろに下がり、ハラハラした顔で私たちを見ていた。

「そんなに・・・かがみのこと傷つけてたんだなんて・・・」

 その声は震えていた。
 その双眸からは涙が流れていた。

「私・・・かがみの気持ち・・・知らなくて・・・。
 こんな冗談・・・ひっく・・・最低・・・だよね・・・。
 かがみのこと・・・いっぱい・・・ぐすっ・・・・・・いっぱい傷つけちゃったよね・・・」

 目の前にまで来たこなたは、そう言って諸手を伸ばす。
 その手は小さく震えながら、それでも優しく私を抱きしめようとしていた。
 
 でも・・・・・・。

「・・・・・・え・・・?」

 私は、反射的にその手を払っていた。

「か・・・かがみ?」

 こなたの顔が驚愕に歪む。

「・・・・・・・・・どうせ・・・」
「え?」
「・・・・・・どうせまた嘘なんでしょ?」

 私の言葉にこなたは目を見開き、慌ててもう一度手を伸ばした。

「!?  そ、そんなこと・・・」

 でも私は椅子から立ち上がり、その手を避ける様に後ろへ下がりながら、尚も言葉を続ける。

「そうやってまた私を騙すんでしょ?」

 私から拒否されても尚、こなたは私の方へゆっくりと歩いてくる。

「ち、ちが・・・・・・」

 今までの私なら、口では反発しながらもきっとその抱擁を受け入れていたのだろう。
 そして、そんなこなたの悪戯もきっと許してしまっていたのだろう。
 だからこそこなたは驚きながらも近づけるのだろう・・・。

 だけど・・・・・・。

266:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 2
12/02/18 02:08:10.85 bmw3cDFP
「もう・・・・・・来ないで・・・」

 私の消えそうな声と明確に拒否した言葉はこなたの歩みを止めた。
 こなたはまるで信じられない現実を目の当たりにしたように、私を呆然と見つめていた。

「そうよ・・。私は・・・・・・あんたのことが好きだった・・・。
 いつも一緒に・・・いろんなとこに遊びに行って、買い物して、宿題して・・・」

 私の脳裏にはその時の光景が鮮明な記憶として映っていた。

「私は・・・・・・・・・すごく幸せだった・・・」

 そう、幸せ・・・・・・だった・・・。

「でも、そんなこと言えないじゃない・・・。
 それに、あんたのこと・・・・・・好きだなんて・・・」

 あの時そう言えていれば、きっとこんな結末にはならなかったのかもしれない。
 もっと幸せな気持ちでいられたのかもしれない。

「ラブレターだって・・・・・・もらった時はすごくドキドキしたけど・・・。
 でも・・・・・・本当はそれがあんたからだったらって思ってた・・・」

 でも私はそれを選ばなかった。
 ううん・・・選べなかった・・・。
 こんなどうしようもない意気地なしの私には・・・。

「ふふ・・・。あんたの予想とは違うかもしれないけど・・・。
 ドッキリ成功したわね・・・・・・」

 この期に及んでまで、私は目の前の現実を信じたくなかった。
 こなたが謝罪し、私に歩み寄ってくれているという現実を。

 だって・・・。
 それを信じてしまったら、『私を好きなこなた』は永遠にこの世界に存在しなくなってしまう。
 私を気遣い、その心痛を汲み取ろうとするこなたは『親友のこなた』であって、『私を好きなこなた』ではない。

 あれほど私を安心させてくれたこなたは、ただ俯いたまま微かに身体を震わせていた。
 でも私はこなたに近づけない。
 近づけばそこで現実を受け入れなくてはならない。

 こなたは今や、その苦しい現実に向き合わせるだけの存在でしかなかった。

 私は無言で佇むこなたの横をスッと抜け、ドアに向かって歩き出した。
 私はただ逃げたかった。
 この場にいることも。
 こなたの答えを聞くことも。
 
 でもその歩みは、私の左腕を掴むこなたの右手によって止められた。

267:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 3
12/02/18 02:11:09.89 bmw3cDFP
「ま、待って・・・」

 こなたが絞り出すような声を出し、今にも崩れ落ちそうな様子で私を見つめる。
 その掌からこなたの体温が伝わってくる。

 こんな状況なのにこなたに触れられて嬉しい。
 でもその柔らかく優しい感触が苦しい。
 嬉しいのに苦しくて仕方がない。

「は、離しなさい・・・」

 その気持ちは一旦治まったはずの涙をもう一度呼び起こす。

「やだ・・・」

 こなたは俯いたまま小さく声を漏らす。

「離してったら!」

 私の胸は押し潰されるように息苦しい。
 私はこなたの手を振りほどこうと乱暴に手を振る。

「やだ!! 絶対やだっ!!」

 こなたは負けじと両手で私の腕を掴みその動きを止めようとする。

「だったら・・・・・・」

 私はこなたに握られた腕をそのままに、

「だったら、なんで今更こんなことするのよ!!」

 涙を流し続けるその瞳で、まっすぐにこなたを射るように見つめた。

「そ・・・それ・・・は・・・」

 こなたは目を見開いたままその場で固まった。
 その身体は小刻みに震え呼吸が荒くなっている。

「それは・・・・・・」

 そして、ゆっくりとその口を開き、

「かがみのことが・・・・・・好きだから・・・」

 ―――え?

268:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 4
12/02/18 02:14:02.34 bmw3cDFP
「私・・・本当にかがみのことが好き・・・。好きなんだ・・・。
 だから・・・・・・」

 目の前のこなたは、いつも眠たげだったあの瞳を涙で濡らしていた。
 それはまるで宝石みたいに輝いていて、その滑らかな表面には私の顔が映っていた。

 それまでかたくなだった私の気持ちがぐらりと揺れる。

 こなたは私を好きだと言った。
 こなたは私と同じ気持ちだった。

 嬉しい・・・。
 すごく嬉しい・・・。


 ――だけど。


 それは本当?

 目の前のこなたがウソを言ってるとは思えない。
 こんなにも真剣な顔で。
 こんなにも必死な声で。

 でも・・・。
 それでも信じられない。

 好きなのに、目の前のこなたを信じられない。
 信じたいのに、こなたの言葉を信じられない。
 こんなのって・・・。
 こんなのってないよ・・・。

 まるで心が二つに引き裂かれたみたいに苦しい・・・。

「もう・・・・・・」

 耐えきれなくなった苦しさは私の口を通して流れ出す。

「もうわかんない!」

 ――もう何も考えられない。

「あんたの言うことが本当かどうかなんてわからない!」

 ――本当のことなんてわからなくて良い。

「あんたのこと好きなのに・・・すごく好きなのに・・・・・・」

 ――真実なんて見えなくても良い。

269:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 5
12/02/18 02:16:00.72 bmw3cDFP
「好きだって言えない!!」

 そう言った瞬間、ふわりと優しい香りと共に私の唇に温かな感触が触れ、そこで言葉が止まった。

「え・・・・・・?」

 気がつくと目の前には目を瞑ったこなたがいて、唇には柔らかな感触があった。
 何が起こったのか理解する前に微かな余韻を残してこなたが離れた。

「な・・・・・・」

 突然のことに二の句がつげない私をじっと見つめていたこなたは、やがて静かに口を開いた。

「ごめん・・・」

 ――その声は小さく震えていて。

「全部私の所為・・・」

 ――その顔は涙で濡れてくしゃくしゃになっていて。

「でも・・・」

 ――だけど涙はキラキラ輝いていて。

「・・・かがみが信じてくれるまでずっと言う・・・」

 ――その声は透き通っていて。

「私はかがみが好き・・・。世界中の誰よりも好き・・・・・・だから」

 ――そのすべてが綺麗だった。

「だから・・・・・・だから嫌いにならないで・・・。
 う・・・う・・・は・・・離れ・・・ぐすっ・・・ないで・・・」

 そう言ってこなたは、私にすがりついたまま泣き崩れた。

「もう・・・ひぐ・・・う・・・ウソ・・・つかないから・・・。
 もう・・・誤魔化さない・・・だから・・・ひっく・・・。
 いなく・・・ならないで・・・・・・かがみ・・・」

270:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 6
12/02/18 02:18:15.08 bmw3cDFP
 こなたはまるで独り言のように一人泣きながら言葉を続けた。
 でもその言葉は私の中に染み込み、少しずつ形となっていく。

 こなたは自分の気持ちに素直になれなかっただけ・・・。
 だから悪戯したりウソついたり・・・。

 でもそれって私だって同じ・・・。

 素直になれなくて・・・。
 気持ちを誤魔化して・・・。

 そっか・・・。
 私とこなたは同じだったんだ・・・。

 私はそっと座ると、泣き続けるこなたの両肩に手を添えた。

「こなた・・・・・・」

 瞬間、こなたの身体がビクッと震える。
 私はそれでもしっかりと両手に力を入れ、こなたに語りかけた。

「・・・ごめん・・・」
「え・・・?」

 こなたは驚いた表情で顔を上げる。

「・・・ごめんね・・・こなた・・・」

 信じられないものを見たような顔でこなたが私を見つめる。

「な・・・なんで・・・? なんでかがみが謝るの?」

 私はその顔を苦笑しながら見つめる。

「だって・・・私もあんたと一緒だったんだもん・・・」
「え?」
「自分の気持ちに素直になれなくて・・・誤魔化してばかりで・・・。
 だから、あんたのこと怒れる立場じゃないのよ・・・」
「・・・かがみ・・・」

 こなたは少し哀しそうな顔で私の名前を呼んだ。

「怒って・・・ないの?」

 こなたの不安な気持ちが声を通して伝わってくる。

「うん・・・。今はね・・・。だって気がついたんだもん。あんたと私は同じだって」
「かがみ・・・・・・」

271:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 7
12/02/18 02:20:28.90 bmw3cDFP
 私はその不安を包み込むようにこなたを優しく抱きしめ、その耳元でそっと囁いた。

「こなた・・・私も好き・・・。世界で一番大好き・・・」

 こなたは私の背中に手を回し、ぴったりと身体を寄せる。

「う・・・ひっく・・・かがみ・・・か・・・かがみぃ・・・」

 そしてそのまま、まるで子どものように大きな声をあげて泣いた。

「こなた・・・ごめんね・・・ぐすっ・・・こなた・・・」

 それに呼応するかのように私の瞳からも熱い涙が溢れ、私たちは抱き合ったまま互いに泣き続けた。
 その涙が何なのか説明するのは難しい。
 気持ちが通じ合えて嬉しかったからなのか、それとも今まで気持ちが言えなかったことへの後悔なのか、それともその両方なのか。
 その涙に名前はつけられないけれど、きっとこなたも同じ気持ちなんだって思ったら、泣いているのになぜか嬉しくて、すっごく幸せだった。

「かがみ・・・これからも、ずっと一緒にいてくれる?」

 こなたは顔を上げ、涙で真っ赤に腫らした瞳で私を見つめた。

「うん・・・。私も、これからずっと一緒にいたい。いい?」

 きっと私も同じような眼をしているんだろう。

「うん!」

 だけどいつもの笑顔でこなたが笑ってくれるとそんなことは全然気にならなくて、私はそれが嬉しくて一緒になって笑った。
 ひとしきり笑い合った後、こなたは私の顔を見つめ、ゆっくりと口を開く。

「・・・かがみ・・・大好きだよ・・・」

 優しげなその声は、私の気持ちまで優しくさせる。

「私も・・・。こなた・・・大好き・・・」

 二人の距離が少しずつ近づき、その柔らかな唇が触れあう瞬間、背後で大きな物音がした。

「きゃあ!」

 驚いて振り向くと、つかさが床につまずいて転んでいた。
 無言でそれを見ていると、つかさはバツが悪そうに笑いながら振り向いた。

「え、えへへ・・・。あ、あの、お邪魔かなって思って・・・。
 そ、その、静かに出ようと思ったんだけど・・・。
 えと・・・その・・・・・・ご、ごゆっくり~!!」

 つかさは何とも言えない台詞を残して物凄い勢いで階段を降りていった。

272:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 8
12/02/18 02:22:18.72 bmw3cDFP
 とまあ、何とも締りのない終わりを迎えてしまったのだけれど、つかさが去った後にもう一度きちんと話をして、
 結果的にこなたと私はめでたく付き合うことになった。
 その間何があったのかはご想像にお任せするわ。

 あ、そうだ。
 ちゃんと連絡しておかないとな。

 こなたが帰宅し一応の落ち着きを取り戻した私は、携帯電話を取り出してある人物に電話をした。

「もしもし田村さん? 今日、こなたからすっごい上機嫌な電話がきてね?」
「い、いや!! これにはその・・・・・・深ぁ~~~いワケが・・・・・・」

 なぜか田村さんは最初から謝罪モードだったけれど、私は構わずに感謝の言葉を伝えた。

「・・・・・・ありがと・・・」
「ほ、ほんっとーに、すみ・・・・・・へ?」
「え、えっと・・・その・・・た、田村さんのお陰で、うまくいったの」
「あえ? な、何がっスか?」
「あー、その・・・えーと・・・は、話すと長くなるから後で言う・・・っていうか、言えるのか、これ・・・」
「え? 言えないようなことなんスか?」
「い、いや! と、とにかく! 田村さんには感謝してるのよ。
 後で必ずお礼に行くから」
「そ、そそそそそんな、お、お礼なんて・・・って、いわゆるあの特別な『お礼』とかじゃないっスよね?」
「特別? あー、わかった。そういうのが良いの?」
「い、いやいやいやいやいや! そ、そんな特別なのなんて大丈夫っスから!!
 ま、間に合ってまス!!」
「そんな遠慮しなくていいのに。とりあえず、時間見つけて挨拶に行くから。じゃあね~」

 電話を切る瞬間、なぜか田村さんの「いやぁぁぁぁぁ!! 逃げ」とかいう叫び声のようなのが聞こえたけれど何でだろう?
 ま、手紙も持ってきてもらっちゃったし、どちらにしろお礼はしないとな。
 でもどんなのだったら田村さんは喜ぶのかな?
 ん~・・・・・・そうだ! こなたに聞けばわかるかも。
 早速電話しようっと。

 と、田村さんへのお礼を相談するためなのか、さっきまで一緒にいたのに寂しくなっちゃって声が聞きたくなったからなのかは不問にしていただいて、
 私は携帯の通話履歴の一番上の番号に発信した。
 
 今夜も電話が長くなりそうね。

273:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 9
12/02/18 02:24:22.57 bmw3cDFP
 とある休日の昼下がり――。
 私は部屋で勉強をしている。
 いつもと変わらない日常。
 でも、1つだけ違うことがある。

「ねぇねぇ、かがみ。この本の続きってどこ~?」
「あ~、と、その棚に入ってない?」
「ん~? 見当たらないけど・・・」
「あれ~? おっかしいなぁ・・・。この前まで置いといたんだけど・・・」

 そう。
 私のベッドには、足をパタパタさせながらラノベを読むこなたがいる。

「むうぅ。続きが気になるんだよなぁ・・・」
「ちょっと待って。ベッドの脇に落ちたりしてないかしら・・・っと」

 こなたを乗り越えるような形で、壁とベッドの間に手を入れると、その瞬間、不意に下からこなたに抱きしめられた。

「きゃっ!」
「『きゃっ』だって。案外かがみも女の子っぽい声だすんだねぇ~」
「い、いきなり何だよ! つーか、私は女だって!」
「いやぁ、かがみのいい匂いがしたら、ついムラムラっと・・・」
「って、お前はおっさんか!」
「まぁまぁ。よいではないか」

 こなたはいつもの猫口でニマニマしながら私を見つめた。

「ま、まぁ、別にいいんだけどさ・・・」
「とか言って~。ホントは嬉しいんじゃないの~?」
「ぐっ・・・」

 ・・・この前素直になろうと決めたのに・・・。

 こなたに図星をつかれたことに少しだけ悔しさを感じながらも、その温かな体温と柔らかな感触は私の心を満たしてくれた。
 全身でこなたの存在を感じていると、その時、頭の中に1つの質問が思い浮かんだ。

「ねぇ。こなた?」
「うん?」
「私・・・もう少しやせた方がいいと思う?」
「へ? いつも思うけど、そんな気にすることないんじゃない?」
「でも気になっちゃって・・・こなたはさ、私にどうなってほしい?」
「え? う~ん・・・」

 少しだけ考え込むように目を瞑ったこなたは、目を開けると私に笑いかけた。

274:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 10
12/02/18 02:26:07.74 bmw3cDFP
「そのままで良いと思うよ。かがみ気持ちいいし」

 そう言うとこなたは私を抱き寄せ、ぴったりと身体をくっつけた。

「あのさぁ・・・それって、太ってて気持ちがいいんじゃなくて?」
「ちっ、違うよ! そ、そういうんじゃなくて・・・」

 こなたはしどろもどろになりながらも、頬を赤らめてゆっくりと口を開いた。

「・・・・・・その・・・私は、かがみがやせてても、太ってても気になんないよ。
 ただ、かがみにくっついてると、すっごく安心するっていうか・・・・・・。
 何か・・・離れたくなくなっちゃって・・・もっと一緒にいたくなっちゃうというか・・・」

 こなたは耳まで赤くし、次第にその瞳も熱を帯びていく。

「・・・だから強いて言えば・・・・・・その・・・ずっと好きでいてほしい・・・・・・」
「 っ!? 」

 こなたは不意打ちの一言で私の心臓を射抜くと、間髪入れずに第2撃を放った。

「ねぇ・・・? かがみは・・・私のこと・・・・・・好き?」

 少しだけ瞳を潤ませ、こなたは私を見つめた。
 そんな顔見たら、ウソなんてつけない。
 つけるはずがない。

「・・・・・・・・・うん・・・・・・大好き・・・」

 私はそう言ってこなたに笑いかける。
 こなたも嬉しそうに微笑む。

 その顔は、私がいつも思い描いていたものと同じだった。
 でも今までとは違う。
 そこにあるのは私の想像ではなく、紛れも無い『現実』のこなたの笑顔。

「かがみ・・・」
「こなた・・・」

 私たちは互いの名前を呼び合い、徐々に近づいていく。
 そのまま2人の唇が触れ・・・。

275:○かがみの気持ち と こなたの想い  後篇 11
12/02/18 02:28:21.54 bmw3cDFP
「お姉ちゃ~・・・あ、こなちゃんきてたんだ~」

 その時突然ドアが開かれ、つかさが顔を覗かせた。

「「 のわぁぁぁぁぁ!! 」」

 驚きのあまり2人同時に声をあげ、ベッドから転げ落ちんばかりの勢いで離れる。

「の、ののののの、ノックくらいしなさいよ!!」
「あっ! ご、ごめんなさい・・・」

 思わず声を荒げると、つかさはしょんぼりと下を向いた。

「まぁまぁ。つかさも悪気があったわけじゃないんだし」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
「ごめんね、お姉ちゃん。こなちゃん」
「大丈夫だよ、つかさ。それに、どうせこの前ちゅーしてるとこ見られてるし」
「おいっ! 少しは気にしろよ!」
「あ、そっか。今のはちゅーしようとしてたんだね?」
「だから、つかさも冷静に分析すんな!」

 はぁ・・・・・・。
 1人で突っ込むのは疲れる・・・。

「あ! つかさ。そういえば、この前、私の本持っていった?」
「え? あ、うん。部屋に置いてあるけど」
「こなたがそれ読みたいみたいなんだけど、返してもらってもいい?」
「うん。昨日読み終わって返すの忘れてたよ。今、持ってくるね~」

 そう言って部屋を出ようとしたつかさは、もう一度部屋に顔を出した。

「あ、そうだ。さっきあやちゃん家でケーキ作ってきたんだ。
 みんなで食べない?」
「おぉ~。さすがつかさ。かがみも休憩しておやつにしようよ」
「あ、う、うん。そうね」
「じゃあ、お茶の準備してくる・・・あれ? そういえばお姉ちゃんってダイエット中じゃなかったっけ?」

 つかさの言葉に一瞬こなたと顔を見合わせる。
 こなたも私の言わんとすることがわかったのか、すぐに笑顔になると頷いた。
 私はその笑顔に勇気づけられるように、つかさに向かって言った。

「ダイエットはやめたの。私もちょうだい」

 お姉ちゃんが言った通りにはならなかった。
 きっと私のダイエットは成功しない。
 だって私の大好きな人からお墨付きもらったからね。
 ふふ。大好きよ、こなた。





                              了

276:松
12/02/18 02:30:38.98 bmw3cDFP
以上になります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

一応、こなた視点のものも書いてありますので、折を見て投下できればと思います。
お目に触れたときはよろしくお願いします。

ではでは。

277:名無しさん@ピンキー
12/02/18 10:02:11.85 G9+MWjBE
久々にストレートなこなかが、完走乙でした!


278:名無しさん@ピンキー
12/02/18 12:50:12.09 ItDtv5UK
乙でした。
久々のこなかが分、充電できました。

279:名無しさん@ピンキー
12/02/18 12:59:01.20 vxWdv01N
>>276
二度と来るなゴミ。

280:名無しさん@ピンキー
12/02/18 23:47:02.19 RVS/Pu3f
>>276

GJ!

いいお話でした


281:名無しさん@ピンキー
12/02/19 00:01:01.92 Yvi0Nj6U
>>279
だ~れにも相手にされてない件www

282:名無しさん@ピンキー
12/02/19 16:05:30.60 vystcTj8
ゴミなものでもいまは数が足りないんだし・・・

283:名無しさん@ピンキー
12/02/19 23:15:58.76 6eMsxqqx
>>276
素敵なお話をありがとうございました。
かがみの心情がストレートに伝わってきて清々しかったです。



284:名無しさん@ピンキー
12/02/20 20:56:13.44 YDZXsfvM
>>276
FY!
五年経ってもなお虐待を止めない
その腐り切った性根に弔意を表します。

285:名無しさん@ピンキー
12/02/25 23:38:59.69 4+Guvy6U
投下します。

注意事項が多めです…。

・話の主軸はみなみとゆたか
・恋愛要素は薄め
・みなみ達が1年生の頃の話
・直接的な性描写はなし
 ただし、おもらしやおしっこ我慢などの少しマニアックな描写あり
・話が進むに従ってみなみが壊れ気味に…
・作中で3日間にわたる話で、今回は1日目のみ投下

286:みずたまりのほとり みなみ視点 1
12/02/25 23:42:14.94 4+Guvy6U
ゆたかの様子がおかしい。
すごく顔色が悪い。全身ががたがた震えてる。

具合が悪いなら保健室に行かなきゃ。
どうして黙って苦しんでるの、ゆたか…。

もしかして…具合が悪すぎて、人に知らせることさえできないの?

だとしたら、猶予はできない。
私は立ち上がった。

「先生…小早川さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行きます」

先生はゆたかの様子を見てすぐに了承してくれた。
私はゆたかの所に行った。

「行こう。ゆたか」

ゆたかは首を振った。

「だめ…行けない…」

「無理しちゃだめ」

「だめなの…動けないの…」

「歩けないほど辛いの?だったら抱っこしてあげる…だからとにかく…」

私はゆたかを抱き抱えようとした。

「だめ…触らないで…」

私は構わずに動作を続けた。

「やめて!動いたら…!」

ゆたかの声に構わず、私の手がゆたかに触れた瞬間…。

「おしっこがぁ!」

287:みずたまりのほとり みなみ視点 2
12/02/25 23:44:21.61 4+Guvy6U
「…!?」

私はすぐ手を離した。
…でも、遅かった。

ぽたっ。ぽたっ。
ゆたかが座っている椅子の下に、大きな雫が落ちた。

ちょろろろ……。
雫が、流れになった。

しゃあああああぁぁ…。
流れが、強くなった。
あったかそうな液体が床で弾けながら、水たまりになっていく…。

教室がパニックになる。

「……うわあああんっ!」

ゆたかは机に泣き伏してしまった…。

ゆたかの言葉がフラッシュバックする。

『動いたら…おしっこが…』

ゆたかは、動いたらおしっこがもれちゃう状態で、
尿意が落ち着くのを待ってトイレに行くつもりだった…。
それを…私が無理に動かそうとしたから…こうなった。

私がゆたかに、おもらしさせてしまった…。

私は呆然として、その場に立ち尽くした。
どうしたらいいか分からなくて…頭の中に、真っ白な部分ができていた。

「ぐすっ…えぐっ…みない…で…」

ゆたかが顔を伏せたまま言った。
私は慌てて目をそらし、自分の席に戻った。

ゆたかは濡れた椅子に座ったまま、いつまでも泣き続けた…。
おしっこの温もりなんて、とっくに冷えているはず。
このままでいたら、風邪をひいてしまう。
それに、このままじゃまるで晒し者だ。今はこの場所から離れた方がいい。
私はもう一度立ち上がって、ゆたかのそばに行った。

「保健室…行こう。着替えなきゃ、風邪ひいちゃう…」

「……ぐすっ…」

ゆたかはゆっくり立ち上がった。
ゆたかがよろめいたように見えて、私は支えようと手を伸ばした。

288:みずたまりのほとり みなみ視点 3
12/02/25 23:46:27.40 4+Guvy6U
ぱしっ!

「!」

ゆたかは支えようとした私の手を払いのけて、一人で走って教室を出て行った。

「ゆ……」

追いかけようとする自分を押し留めた。
ゆたかの足取りはしっかりしていた。途中で倒れたりはしないと思う。
それよりも、この教室ですぐにやるべきことがある。

私はバケツと雑巾を取ってきて、ゆたかの席に残ったおしっこの後始末を始めた。

雑巾におしっこを吸わせて、バケツに絞る。
一回では吸い取り切れない。何度も繰り返す。
ゆたかの小さな体で、こんなに我慢するのは本当に辛かっただろう…。
…淡々と作業をしていると、たくさんの視線を感じた。
手を止めて辺りを見回すと、教室中の人がこちらを見ていた。
今の私を見ていたら、ゆたかのおしっこも見ることになる。

「…見てる必要は、ないと思う」

私は静かに言った。
自分でもぞっとしたほど冷たい声だった。
教室中に吹雪のエフェクトがかかったような気がした。
みんなの視線がそれたのを感じ、私は作業を再開した。

おしっこを吸い取り終わって、バケツに水を汲んできて、
床と椅子の上を別の雑巾で丁寧に水拭きした。
その後、自分でゆたかの席に座ってみた。
なぜそうしたか、自分でもよく分からない。
たぶん、おしっこの痕跡はもうないことをみんなにアピールしたかったんだと思う。

ゆたかの席に座ると、机の上の涙の跡に気付いて、ハンカチで拭いた。
ハンカチを使ったのは、おしっこの後始末に使った雑巾では気の毒だと思ったから。

289:みずたまりのほとり みなみ視点 4
12/02/25 23:48:47.75 4+Guvy6U
後始末を終えた私は、何事もなかったように自分の席に戻った。
平然とすることで、大したことは起きてないって雰囲気を作ろうとした。
でも、おもらしで起きたパニックの余韻はいつまでも消えなかった。
結局授業は再開されないまま、終了のチャイムが鳴った。

今のが6時間目だったから、もうゆたかが教室に戻る必要はない。
保健室から直接帰れるように、ゆたかの鞄を届けた方がいい。
そして…ゆたかに謝りたい。
それすらも拒絶されるかもしれないけど…。
私はゆたかの鞄を持って教室を出た。

途中の廊下に、点々と何かの雫が落ちていた。
ゆたかが走りながらこぼした涙か、
スカートに染みていた分のおしっこが途中で落ちたものか。
あるいは、ゆたかとまったく関係ない別の液体かもしれない。
とにかく、この跡は消しておくに越したことはない。
雫を一つ一つ靴で消しながら、保健室に向かった。
雫は保健室の前で終わっていた。

保健室には、ふゆき先生と一緒に泉先輩がいた。
ふゆき先生が泉先輩に事態を伝えたのだろう。

「ゆたかの鞄…持ってきました」

「おー、ありがと。ちょうど取りに行こうと思ってたとこだよ」

泉先輩は鞄を受け取ってくれた。

「ん?くんくん…」

泉先輩が、私のにおいをかいだ。

「みなみちゃん、後始末もしてくれたんだ…ほんとありがとね」

もしかして…おしっこのにおいが付いてたのかな。

290:みずたまりのほとり みなみ視点 5
12/02/25 23:51:36.24 4+Guvy6U
「小早川さんはとりあえず着替えて、ベッドで休んでます」

ふゆき先生が教えてくれた。

「会っても…いいでしょうか」

「そうですね。少し興奮していますけど、岩崎さんなら…」

私はベッドのところに行こうとした。

「来ないで!」

カーテンの向こうから響いたゆたかの声。

「会いたくない!帰って!」

覚悟はしていたはずの言葉が、防御の薄い胸に突き刺さった。

…ぽん。

泉先輩が、立ち尽くす私の肩を優しく叩いた。

「ごめんね。わざわざ来てくれたのに。
 …でも、恥ずかしくて誰にも会いたくないって気持ちも分かるでしょ?
 もっと落ち着いたら、私がゆーちゃんと一緒に帰るから。
 まあ、今日のところは、ゆーちゃんのフォローは私に任せてくれたまえ」

泉先輩は申し訳なさそうに言った。
どうして、こんなに優しくしてくれるんだろう。
ゆたかにおもらしさせた張本人は、私なのに。
ふゆき先生がいるから怒りを隠している、という風にも見えなかった。

…きっと、ゆたかはまだ、先輩に詳しい状況を説明してないのだろう。
本当なら、その場で本当のことを告げて泉先輩にも謝らなきゃいけなかった。
でも、ゆたかに拒絶されたことがショックで…そうする気力がなかった。
結局、私は黙って泉先輩とふゆき先生に頭を下げて、保健室を後にした…。

家に帰っても、ご飯を食べても、お風呂に入っても、寝るときになっても、
頭の中の真っ白が、ずっと消えなかった。


291:みずたまりのほとり みなみ視点 6
12/02/25 23:53:21.64 4+Guvy6U
……………

真っ白な部屋の中に、ぽつんとベッドがあった。
ベッドには、ゆたかが横になっていた。
ゆたかは私に気付くと、頭までシーツをかぶってしまった。

「ゆたか…ごめん…本当に…私のせいで…こんなことになって…」

「………」

ゆたかは答えてくれない。

「ゆたか…」

「………」

ゆたかは答えないまま、ベッドの中で顔を背けた…。

「許してなんて言わない…でも…何か言って。知らんぷりしないで…」

「………」

ゆたかは何も言ってくれない…。

「ゆたか…」

声が震える。
泣き出しそうになっている自分を懸命に抑える。

「ゆたか…何か言ってよ…お願いだから…。
 このままじゃ私…どうしたらいいのか分からないよ…」

「無駄無駄。答えるわけないじゃん」

背後からの冷たい声に振り向くと、泉先輩が立っていた。

「ゆーちゃんから聞いたよ。
 おもらししたの、みなみちゃんのせいなんだってね」

「……!」

292:みずたまりのほとり みなみ視点 7
12/02/25 23:56:14.73 4+Guvy6U
「かわいそうにね。ゆーちゃん、すっかり落ち込んじゃってる。
 もう学校には行けないと思う。行ったっていじめられるだろうし。
 取り返しの付かないことしてくれちゃったね…」

泉先輩は、私の目の前まで近付いてきた。

「みなみちゃん…」

泉先輩は、ゆっくりと手を上げた。

「…許せないよ」

その手は、急に速度を上げて、私の顔をめがけて飛んだ…。

びくっ!

体を震わせて目覚めると…真夜中で、私の部屋のベッドの中だった。

「夢…」

私がしたことは、もう取り返しがつかない。
ゆたかはもう二度と私と口をきいてくれない。
ゆたかはもう二度と立ち直れない。
夢が、冷酷に私に突き付けた未来。

「やだ…」

思わず声に出していた。
何とか…できないの?
私はゆたかに永遠に嫌われたって仕方ない。
でも、ゆたかが私のせいで二度と立ち直れないなんて、絶対に嫌だ…!

夢の中と同じように、泣き出しそうになる。
でも、抑え込む。
私に泣く資格なんかない。誰も見ていなくたって。
何もかも、私がまいた種だ。
自分に、そう言い聞かせる。

「………」

何とか、落ち着いた。
その代わり、頭の中にずっとある真っ白が、少し大きくなった気がした…。

293:名無しさん@ピンキー
12/02/25 23:57:33.86 4+Guvy6U
1日目は以上です。
7レスで収まりました。


294:64-285
12/02/26 08:44:25.33 pcJzFuEH
↑の続き(2日目)を投下します。

・9レス使用予定
・当パートにゆたかは登場しません
・その他注意事項は>>285のものに準じます

295:みずたまりのほとり みなみ視点 8
12/02/26 08:47:24.53 pcJzFuEH
それっきり眠れないまま、朝が来て…
支度をして、家を出た。
いつもゆたかが来るバス停で遅刻寸前まで待った。
ゆたかは…来なかった。

朝のHRで、ゆたかは風邪で休みだと先生が言った。

「ほんとは、昨日のあれが原因じゃ…」

教室のどこからともなくそんな声が上がった。

「すっごい泣いてたもんね…」

「下手すると、もう学校来なかったり…?」

「そこまで落ち込まなくても…」

他の生徒からもいろいろな声が上がる。
悲観的な見解が多くて、心がどんどん重くなる。
でも、救われた点もあった。
その声の中に、ゆたかのおもらしを詰るような物はなかった。
みんな、ゆたかのことを心配してくれている。
おもらしのことでゆたかをいじめる人が出るかも…という私の心配は、杞憂のようだ。

一時間目が終わるとすぐ、私は三年生の教室に行った。
泉先輩なら、ゆたかが休んだ本当の理由を知っているはず。
怖かったけど、聞かないでいることはできなかった。

三年生の教室に着いた。
呼びかけるまでもなく、泉先輩が私に気付いた、

「お、みなみちゃん」

昨日と変わらない笑顔。

「ゆたかのことで…聞きたい事があります」

「休んだの、ほんとに風邪かってこと?」

「…はい」

泉先輩は苦笑した。

「聞きに来ると思ってたよ。昨日の今日だし、普通は疑うよね。
 昨日の帰り道で風邪気味だったのは一応ほんとで、
 表向きはまだ治ってなくて休むってことにしたんだけど…。
 今日休んだ理由の99%以上はみんな思ってる通り、昨日のこと。
 今朝も、ベッドから出られないぐらい落ち込んじゃってて…」

296:みずたまりのほとり みなみ視点 9
12/02/26 08:49:08.71 pcJzFuEH
やっぱり、そうだった。

「ゆたか…もう…学校に…来られないんですか…?」

答えが怖くて、声が途切れ途切れになる…。

「いやいや、そんな大げさな」

泉先輩は私が冗談でも言ったように笑った。

「おもらしなんて萌えイベントに過ぎないよ。私だって某ゲームでやらされるし。
 今のゆーちゃん、一人でどんどん深みにはまっちゃってるから、
 何か外からのきっかけがいるかもしれないけど、きっと立ち直れるって。
 こうして、みなみちゃんみたいに心配してくれる友達もいるんだからね」

泉先輩の言葉には、何の当てこすりも含まれていなかった。
泉先輩は、ゆたかのおもらしが私のせいだということを今も知らない。
このまま平穏でいたくなかった、と言ったら嘘になる。
でも、それは泉先輩を騙し続けること。

「泉先輩…昨日の詳しい状況を、ゆたかから聞いてないんですね」

「ん?うん。授業中にやっちゃったってのをふゆき先生から聞いただけで、
 ゆーちゃん本人には何も聞いてないよ。
 詳細希望しないでもないけど、まだ思い出すのもつらいだろうし…」

「泉先輩…」

「ん?」

「私が…ゆたかにおもらしさせたんです」

私ははっきりと告げた。

「え…」

泉先輩は、少しの間考え込んだ。

「あー…みなみちゃんが言ってるのはあれだね?
 漫画とかでよくある『○○さんは私が殺したんだ』みたいな…
 『ゆーちゃんを救えなかった。私がおもらしさせたも同然だ』っていう…」

私は首を横に振った。

「言葉通りの意味で…です。
 私が何もしなければ、ゆたかはおもらししないでトイレに行けました。
 私が手を出したせいで、ゆたかはおもらししたんです。
 だから…ゆたかは怒ってて、昨日、保健室で私を拒絶したんです…」

297:みずたまりのほとり みなみ視点 10
12/02/26 08:50:36.42 pcJzFuEH
「うーん…」

泉先輩がまた少し考え込んだ。
表情から明るさは消えていた。

「…みなみちゃん。
 『おもらしは萌えイベント』とか言っといてなんだけどさ」

泉先輩は、私の目の前まで近付いてきた。
夢の中の光景が、現実と重なって見えた。

「ほんとなら、それはちょっと…」

泉先輩は、ゆっくりと手を上げた。

「…聞き捨て、ならないな」

「………」

…ぽん。

その手は、怖くて目を閉じかけた私の肩に優しく置かれた。

「…でもね。
 一方の言い分だけじゃ判断できないよ。
 今のみなみちゃん、自分の悪い方に悪い方に思い込みしてる気がする。
 ゆーちゃんと同じように、一人でどんどん深みにはまっていってるみたいな」

「………」

思い込みだったら、どれだけいいか。

動くのを懸命に拒否するゆたか。
それを無視してゆたかに触る私。
触った瞬間のゆたかの悲痛な叫び。
それを合図のように、椅子の下に落ち始めたおしっこ。
払いのけられた手。
保健室でのゆたかの言葉。

記憶の全てが、思い込みじゃないことを裏付けている…。

「ゆーちゃん本人にも話を聞くまで、私の態度は保留ってことで。
 もしみなみちゃんの言うのがほんとで、ゆーちゃんが怒ってたら…
 その時は、その時だね」

泉先輩は不敵に微笑んだ。
『その時は覚悟しといてね』という意味にも、
『その時はフォローしてあげるよ』という意味にも取れる、複雑な笑みだった。

298:みずたまりのほとり みなみ視点 11
12/02/26 08:53:17.98 pcJzFuEH
「で、言っておくと、昨日と今朝見た限りで、
 ゆーちゃんが自分以外の誰かを責めてる様子は全然なかったよ。
 保健室のあれも、みなみちゃんに怒ってたというより
 恥ずかしくて誰にも会いたくなかったって感じに私は見えたな。
 今言えるのは、そんなとこ。じゃ、あんまり深く悩まないように」

泉先輩は手を振って戻っていき、私も自分の教室に戻った。

「泉先輩に聞いてきたんだね。小早川さんのこと」

ひよりが聞いてきた。

「うん」

「どうだって?」

「昨日風邪気味だったのは本当。でも、休んだのは、やっぱり昨日の事」

「そう…」

自分の口で言って、改めて認識を深くする。
私のせいで、ゆたかは学校に来られなくなってしまった…。

「あのね、あくまで私の意見だけど…
 岩崎さんが責任を感じる必要はないと思う」

私の心の中の呟きを聞き取ったかのように、ひよりは言った。

「あんな状態になってたら、すぐ保健室に連れて行こうって思うのは当然だよ。
 私が岩崎さんの立場でも、きっと同じようにした。抱っこは無理だけど…。
 …それに、触られただけでもらしちゃうような状態になっちゃったら、
 結局、トイレに行くのは無理だったんじゃないかな?
 つまり、おもらしは誰にも防ぎようがなかったわけで…」

…そうかもしれない。
私が余計な事をしなくたって、結局尿意は収まらないで、
ゆたかはおもらししてしまったかもしれない。

…でも。
もっと早くゆたかがおしっこしたいのに気付けば、
まだ動けるうちに連れ出すことはできた。
私は保健委員なのに、ゆたかのこと、注意してなかった。
それがおもらしを招いた。
泉先輩の言葉の一部を借りれば、
『ゆたかを救えなかった。私がおもらしさせたも同然』だ…。

「…ありがとう、ひより。何だか、気持ちが楽になった」

私はそう言って微笑んだ。

「………」

ひよりは『楽になったように見えないよ』と言いたそうな目をした…。

299:みずたまりのほとり みなみ視点 12
12/02/26 08:55:04.56 pcJzFuEH
重い気持ちのまま、お昼が過ぎて、5時間目の授業中。

…ぶるっ。

不意に寒気がした。

教室は快適な温度に調節されている。
今日は特に体調が悪いという事もない。
なのに、どうして寒気が…。

「…っ!」

ぎゅっ。

おなかに嫌な感覚がきて、脚を思いっきり閉じた。

おしっこ…したい!

そういえば、今日は学校で一回もトイレに行った記憶がない。
ゆたかのことばかり考えていて忘れていた。

普段の私は、いつも余裕を持ってトイレに行ってる。
過去に失敗した経験からじゃなく、たしなみとして自然に身についていた。
だから授業中に今のような状態になるのは初めてで…すっかり焦ってしまった。

どうしよう……!
おしっこ……授業中なのに……!
どうしよう……どうしよう……!
おしっこ……おしっこ……!
このままじゃ……!

「……!」

そわそわしているうちに、あることに思い至った。

今の私の状態は、昨日のゆたかに繋がっている。

…頭の中で、まだ形にならない一つの考えが生まれた。

(私……)

頭の中に真っ白な部分があるせいか、うまく考えを形にできない。
でも、意識がおしっこからそっちの方に行ったことで、落ち着いてきた。
『おしっこしたい!』と感じた直後は焦ってしまったけど、
落ち着いてみるとまだまだ余裕だった。

300:みずたまりのほとり みなみ視点 13
12/02/26 08:56:21.38 pcJzFuEH
5時間目は無事に終わった。
休み時間になっても、私はそのままじっと席に座って考え続けた。

(私も…)

ひよりが私の所に来て小声で言った。

「ちょっと失礼なこと聞いても…いいかな?」

嫌な予感がしたけど、私は頷いた。

「さっきの授業中から、トイレ行きたそうに見えるんだけど…気のせい?」

…予感が当たった。
授業中にそわそわしてたの、見られていた。

「気のせいじゃない…行きたい」

私は正直に答えた。

「他の人にも…ばれてたかな?」

「ううん、私だけだと思うよ。
 実は、さっきの授業中に私も行きたくなっちゃって…。
 そわそわ=トイレ、っていうのが念頭にあったから気付けた感じ」

ひとまず安心。

「そんなわけで今から行くけど…よかったら一緒にどうかな?」

ひよりはそう言ったけど、私は首を横に振った。

「行かない。私、このままで次の授業を受ける」

「え…」

ひよりの『え…』は、明らかに理由を尋ねていたけど、
私はそれ以上説明できなかった。
さっきから浮かんでる考えをまとめるには、今の状態でいるのがいい。
そう漠然と感じただけだったから。
幸い、ひよりはそれ以上問い詰めようとせず、一人でトイレに行った。
やがてチャイムが鳴り、6時間目の授業が始まった。

(私も、ゆたかと…)

ときどきもじもじしたり、脚をぎゅってしたり、寒気で震えたりはしてしまう。
でも、まだ限界という感じには程遠い。
さっきあんなに焦ってしまったのが嘘のよう。
この授業中に大きな変化は起きない。
確信した私は、授業を適度に聞きながらさっき浮かんだ考えをまとめにかかった。

301:みずたまりのほとり みなみ視点 14
12/02/26 08:58:07.12 pcJzFuEH
…授業が始まってから、ずっと一つの熱い視線を感じていた。
ひよりが私を見ていた。
心配しているようにも、何か期待しているようにも見える、複雑な表情で。
私が目が合うと慌てて視線をそらすけど、少し経ってから見るとまた目が合う。
すごくそわそわして落ち着きが無かった。
私とどっちがおしっこ我慢してるのか分からないぐらい。

もしかして…、
混んでたか何かでトイレ使えなくて、ひよりもまだおしっこ我慢してるとか?
大丈夫かな。ひより…。

私の心配はまた杞憂で、無事に6時間目の授業も終わった。
気の早い生徒はもう帰り始めている。
席に座ったまま、ほっと一息。
考えは、まとまった。
頭の中の真っ白が、小さくなった気がした。

私はトイレに行くために立ち上がった。
立ち上がるのも余裕。歩くのも余裕。

ぴょん、ぴょん。

その場で軽く飛び跳ねてみても、おなかに鈍い痛みを感じる程度。
体育じゃなければ、もう一つ授業があったとしても耐えられそう。
自分の膀胱のしぶとさに呆れた。
明日は、もっと工夫が必要だ…。

無事におしっこを済ませてトイレから出ると、ひよりがいた。

「間に合ったんだよ…ね?」

恐る恐るという感じで聞いてくるひより。

「うん」

「はぁ…今の授業中、ずっとどきどきしっ放しだったよ…」

…今頃気付いた。
ひよりは、おしっこを我慢してる私の事が心配で落ち着かなかったんだ。

「ごめん…そんなに心配してくれてたなんて…」

「いや、いいんだけどね…。
 私が勝手に興奮…げほごほっ、そう、心配しただけだから…」

302:みずたまりのほとり みなみ視点 15
12/02/26 08:59:40.14 pcJzFuEH
「他の人…気付いたかな。私の様子に」

さっきと同じ質問。

「ううん。一応そっちも注意してたけど、そういう気配はなかったと思う」

よかった。
他の人に気付かれてたら、明日は警戒されて計画に支障が出るだろう。
問題は、ただ一人気付いているひよりだけど…。

「ところで…
 さっき、どうしてトイレ行かなかったのかな?
 あんまり聞くことじゃないかもしれないけど、気になっちゃって…」

やっぱり、それを聞かれた。

トイレに行かなかったのは、ある考えをまとめるため。
それを言えば、まとめた考えとは何かも当然聞かれるはず。
その考えを、教えるのは躊躇われた。

「まだ、そんなに行きたくなかったから」

「5時間目の時点で仕草に出ちゃうほどだったのに?
 トイレ行く時間はあったし、別に我慢する必要なかったよね」

「えっと…何となく、あのままでいようと思っただけ。特に意味はないよ」

「何となく…なのかな?
 ほんとは…小早川さんのこと、意識してたんじゃないかと思うんだけど…」

…ひよりは、気付いている。
明日の計画まではともかく、私がゆたかのことで何か考えていて、
それは今日おしっこを我慢してみたのと関係があるということを。
これじゃ、明日、計画を実行し始めた時点ですぐに気付かれてしまう。
そして、ひよりはきっと止めようとするだろう…。

…ごまかすのは無理だ。
ひよりには、明日起こる予定のことを教えるしかない。
教えた上で、邪魔をしないでくれるよう頼むしかない…。

「ひより…」

私はひよりの手を取って、まっすぐに目を見つめた。

「お願いがあるの」

303:みずたまりのほとり みなみ視点 16
12/02/26 09:01:07.49 pcJzFuEH
「な、何?」

「今日のこと…
 私が…おしっこ、わざと我慢してたこと…誰にも言わないで」

「…ももも、もちろん!言うわけないよ!」

ひよりはなぜか照れていた。

「それと…明日、私がまた同じような状態になっても…
 ううん、もっと危なそうな状態になっても、ひよりは気にしないでいて」

「え!?」

「そして…先生や他の誰かに言ったりもしないで。
 …最後まで、放っておいて」

「ちょ、ちょっと待って…『最後まで』って…あの…つまり…」

ひよりは困惑していた。
困惑の理由は二つ考えられる。
一つは、お願いが突飛過ぎて意図が分からないから。
もう一つは…意図を完全に読み取ったから。
…きっと、後者だ。

「ゆたかのために…お願い、ひより」

「う、うん…」

私は押し切った。

(私も、ゆたかと同じようにみんなの前でおもらししたら、
 おもらしした仲間ができて、ゆたかが立ち直るきっかけになるかもしれない。
 それに、ゆたかにおもらしさせた私への報いにもなる…。
 するのは明日。ゆたかがしたのと同じ、6時間目の授業で…)

304:64-285
12/02/26 09:02:41.72 pcJzFuEH
2日目は以上です。

305:名無しさん@ピンキー
12/02/26 16:14:03.40 6V4U01jT
乙です、3日目も楽しみにしてます!

306:64-285
12/02/26 20:56:50.95 pcJzFuEH
「みずたまりのほとり」の続き(3日目・完結)を投下します。

・本編15レス前後、エピローグ3レス使用予定
・その他注意事項は>>285のものに準じます

307:みずたまりのほとり みなみ視点 17
12/02/26 20:58:26.55 pcJzFuEH
次の日。
私は普段通りに家を出た。
ただ、一つだけいつもと違った。
今日はトレードマーク(?)のタイツ無しで、素脚だった。
濡れるのが嫌だったからじゃなく、脚が冷えておしっこが近くなるように。

たぶん、今日もゆたかは来ない。
そう思ったけど、かすかな希望を抱いて昨日と同じようにバス停で待った。
すると…。
いつもゆたかが乗ってくるバスの中から、ゆたかが降りてきた。

「ゆたか…」

「……!」

ゆたかは私に気付いて何か言いかけたけど、
そのままおびえるように顔を背けて学校の方に走り去った…。

学校に来たのは、少なくとも昨日よりは立ち直ったということ。
私がゆたかに嫌われてるとか、そんなのは些細なこと。
なのに…胸が痛くなるのをどうにもできなかった。

教室に行くと、ゆたかの席には鞄だけあって、ゆたかの姿はなかった。

「ゆたかは…?」

教室にいたひよりに聞いてみた。

「来たけど…鞄だけ置いてすぐに出て行っちゃった。
 あっという間で、おはようも言えなかったよ…」

ひよりは寂しそうに言った。

ゆたかは、HRで先生が来るのと同時に戻ってきた。
席についてもずっと下を向いて、周りを見ようとしなかった。
まるで、石ころにでもなりきろうとしているみたいだった。

ゆたかはずっとそんな調子だった。

授業中は板書するのにちらちら前を見る以外、ずっと下を向いていた。
休み時間になるとすぐ出て行って、次の授業で先生が来るのと同時に戻ってきた。
どこか人気のない所で時間を潰しているようだった。、

ゆたかは立ち直ってなんかいない。
きっと、家の人に心配をかけないように無理して来ただけ。
私がこれからすることで、少しでも気持ちを楽にしてくれることを祈るしかない…。

308:みずたまりのほとり みなみ視点 18
12/02/26 21:00:03.73 pcJzFuEH
昼休み。
ゆたかは今までと同じように、昼休みが始まるなりお弁当を持って教室を出て行った。
食欲までは無くしてないと知って、少しだけ安心した。
食べることさえできれば、落ち込んでても体調はある程度維持できるはずだから。

今の時点でもう『おしっこしたい』ってはっきり感じる状態だった。
昨日感じたのは5時間目の途中だったから、それよりずっと早い。
タイツがなくて脚が冷えてる効果が、確実に出てる。
でも、これだけじゃ足りない。

お弁当を適当に済ませた後、
私は、用意してきたペットボトルのお茶を一気に飲んだ。

「んっ……んっ……」

好きでよく飲むお茶なのに、今日はおいしくない。
体にたまってる水分が、新しい水分を拒否していた。
普通の500mlのボトルなのに、その時は何リットルにも感じた…。

「……はぁ」

…何とか飲み干した。
計算では、6時間目の授業中にお茶の効果が出るはず。
効果が出れば、私のしぶとい膀胱だってさすがに耐えられないはず。

そこまでこだわる必要があるのかって、思われるかもしれない。
適当な量だけおしっこをためて、適当な時間にわざとしてしまったって、
他の人から見たら同じことだろう。

でも、それじゃ意味がない。
ゆたかと同じようにいっぱい苦しんで、
本当に我慢できなくなってもらすのじゃないと、
私への報いにならない。

ぞくっ。

「うぅ……」

おしっこのせいか冷たいお茶のせいか分からない、とても嫌な寒気がした。
そんな私を、ひよりが昨日よりも複雑な表情で見ていた…。

309:みずたまりのほとり みなみ視点 19
12/02/26 21:01:29.07 pcJzFuEH
5時間目の授業が始まった。

じっとしているのが辛い。
寒気が断続的に襲ってくるのに、その一方で汗がにじんでくる。

「んっ…!」

おなかに痛みがきて、思わず声が出てしまい、慌てて周りを確認する。
…よかった。誰も気付いていない。
ひよりは驚いてシャープペンの芯を折ってしまったようだけど…。

急に不安になってきた。

この時間のうちに、もらしちゃうかもしれない。
我慢できなくなってするのでも、
ゆたかがしたのと同じ6時間目じゃないと意味がない。

もらさなくても、今みたいに声を出したりして他の誰かに気付かれたら、
きっと先生に伝えられてトイレに行かされてしまう。

それに、ひより。
ひよりは『最後まで放っておいて』という頼みを聞いてくれた。
でも、それは誓いでも約束でもない。私が勢いでうんと言わせただけ。
土壇場で心変わりして、私をトイレに行かせようとするかもしれない。
私の頼み自体が異常なのだから、ひよりがそうしたとしても非難はできない。
友達に『授業中におもらしするのを黙って見過ごして』なんて頼まれて、
おしっこを我慢してるのを延々見せられたら、
私だって、最後まで心変わりしないでいられる自信はない…。

お願い…今はこれ以上何も起きないで。
トイレに行かされるわけにはいかないの。
おもらしするのも、まだ少しだけ早いの。
この授業と次の休み時間だけでいい。このままでいさせて…。

…願いは、通じた。
心配した事態はどれも起きず、5時間目も無事に終わった。

休み時間。
ゆたかはまた出て行って、私は自分の席に座っていた。

おしっこの製造が加速してるのをはっきり感じる。
昼休みに飲んだお茶がもうおしっこになり始めている。
計算よりも少し早かった。

310:みずたまりのほとり みなみ視点 20
12/02/26 21:02:51.26 pcJzFuEH
早く6時間目、始まって…。
早く始まってくれないと、この休み時間のうちに…。
…そうだ、休み時間はもったとしても、授業の最初に起立と礼がある。
立ち上がれるかな。
立ち上がれても、礼をしたらおなかに力が入っちゃう。
もし起立か礼の時にしちゃったら、授業中とは言えない。
起立と礼は何とか耐えなきゃ…。
ううん、それだけじゃだめ。
ゆたかがしたのは、授業が始まってだいぶ経ってからだった。
正確な時間は覚えてないけど、私もできるだけ経ってからじゃないと…。

一人であれこれ考え込んでいる所に、ひよりが来た。
複雑な表情だったけど、言いたいことは分かった。

「岩崎さん…あの…やっぱりさ…」

「…いいの。このままで」

私は、苦しみの中で何とか笑顔を作って言った。

「…ごめんね、ひより。こんなの、見てるだけでも嫌だよね…。
 でも私、他にもうどうしたらいいか分からない。こうするしかないの。
 ゆたかが立ち直るきっかけになれるなら、私はどうなってもいい。
 あと少しだから。このまま最後まで…ね。もう一度…お願い」

「……うん、分かった」

ひよりは戻っていった。
ありがとう、ひより。

やっと、6時間目の始まりのチャイムが鳴った。
黒井先生が来て、ゆたかも戻ってきた。
始まりの起立と礼は何とか耐えることができた。

黒井先生…ごめんなさい。迷惑をかけてしまいます…。

私がおもらしした後、きっとまたパニックになる。
授業は台無しか、少なくとも中断を余儀なくされるだろう。
私は心の中で謝って、授業に臨んだ…。

311:みずたまりのほとり みなみ視点 21
12/02/26 21:04:27.04 pcJzFuEH
………

おしっこ…。

寒気が止まらない。
体が小刻みに震え続ける。
握り締めた手の中が、汗でびっしょり。

………

おしっこ…したい…。

おなかに、破裂しそうな痛みが数秒おきに襲ってくる。
痛みはどんどん鋭くなってくる。
これが感じられる限界だと思っても、次に来る痛みはそれ以上に鋭くなる。

………

おしっこ…もれちゃう…。

呼吸が苦しい。
もう、周りに気付かれてないか気にすることもできない。
頭の中までおしっこが回ってきたみたいに、ぼーっとしてくる…。

やがて…もういいかなと思った。
一昨日のゆたかと同じぐらい…あるいはそれ以上我慢したと思う。
私の頭はもう、おしっこを我慢しようと考えていなかった。
なのに、まだ私はおしっこをしないでいた。
それは、この期に及んで躊躇してるからじゃなくて…、
一つの願望が生まれていたから。

…ゆたかに、復讐してほしい。
…このまま自然にするんじゃなくて、ゆたかにおもらしさせてほしい。

ゆたか…今日はずっと下を向いてるけど、こっちを見てくれないかな。
おもらしさせてって、伝えたい…。

ゆたかの方を見ると、ちょうどゆたかも私を見てくれていた。
朝と違って、今は目をそらさないで見続けてくれる。

(ゆたか…一昨日のこと、復讐していいよ。おもらしさせていいよ。
 どんな方法でも、ゆたかの好きなようにして…)

私は視線でそう訴えた。

ゆたかは困っているようだった。

(復讐の方法、思いつかないの?
 ごめんね、急だもんね…。
 でも…何でもいいんだよ?何かあるでしょ?)

ゆたかはもっと困っているようだった。

(ゆたか…早く考えて…。
 もうあんまり待てないよ…。
 ゆたか…おもらしさせて…早く…)

312:みずたまりのほとり みなみ視点 22
12/02/26 21:05:34.52 pcJzFuEH
ゆたかは私の周りを見て、急に焦るような様子を見せた後、
不意に立ち上がった。

「先生…みなみちゃ…岩崎さん、具合が悪そうなので、保健室に連れて行きます」

え…?

「あー、ウチもちょうど今気付いた。
 めっちゃ顔色悪いし、震えとるし…岩崎、無理せんと早く行っとき。
 言いだしっぺやし、小早川、頼めるか?」

黒井先生の言葉で、ゆたかが急いで私の所に来た。

「行こう、みなみちゃん」

ゆたかの言葉に、私は首を振った。

「だめ、行けない…」

私はここでおもらししなきゃいけないの。
だから今までずっと我慢してたんだよ…。

「無理しちゃだめ、行こう!
 抱っこはできないけど、支えるから…!」

ゆたかは私にそっと手を伸ばしてきた…。

予感がした。
触られたら、もらしちゃう。

…そう。これはあの時と同じ状況。
私とゆたかが入れ替わっただけ。

ゆたかの意図が分かった気がした。
ゆたかは私に触っておもらしさせてくれる。
私がゆたかにしたように。

ゆたか、嬉しい…。
私が一番望んでた形でおもらしさせてくれるんだね…。

夢見心地のうちに、ゆたかの手が、私の腕を取った。

「あ……」

吐息混じりの声と共に、私はおなかの緊張が解けるのを感じた…。

313:みずたまりのほとり みなみ視点 23
12/02/26 21:06:59.72 pcJzFuEH
「だめえええっ!」

ゆたかが教室中に響く程の声で叫んだ。

「!!」

目の前でその声を聞いた私は、一瞬気が遠くなるほどびっくりした。

ほんの少し前までそうだった『おしっこを我慢している状態』だったら、
それは体の緊張を解いておしっこを解放する効果をもたらしただろう。
でも、『体の緊張を解いておしっこを解放する瞬間』だった今は、
それが逆の効果をもたらした。
全身が一瞬麻痺して、おしっこを出そうとした体の動きが中断された。
びっくりしておしっこが引っ込むって、こういうことなのかな…?

(だめ…ここでしちゃだめだよ!トイレ行こう…みなみちゃん!)

ゆたかが、今度は私以外の誰にも聞こえないように囁いた。

囁きが魔法の呪文だったかのように、頭が再びおしっこを我慢する方向に働き始めた。
もらしちゃうという予感が、消えた。
今なら立ち上がれそう。

「立たせて、いい?」

「…うん」

私は無事に立たせられた。

「歩ける…?」

ゆたかに支えてもらいながら、恐る恐る一歩を踏み出す。
おなかから全身にまで衝撃が伝わってきたけど、少しの間なら耐えられそうだった。

「歩けそう…少しの間なら」

「じゃあ行くよ。ゆっくり、急いで」

ゆたかに支えてもらいながら、私は教室の外に出た。

背後の教室からざわめきが聞こえた。
歩くので精一杯の私に、それをまともに聞き取ることはできなかった。
ただ、ところどころ拾えた単語から、
私がおしっこを我慢していたのがみんなに知られたことは分かった。

314:みずたまりのほとり みなみ視点 24
12/02/26 21:08:14.71 pcJzFuEH
私はそのままゆたかにトイレまで支えてもらって…無事におしっこを済ませた。
下着もチェックしてみたけど、一滴ももらしてなかった。
物理的にも精神的にも、相当に危ない所まで行ったのに。
私は膀胱だけじゃなく、そこから先の部分も相当にしぶといらしい。

「……っ…!」

おしっこを済ませたのに、おなかに破れるような感じの痛みが残っていた。
もしかしたら、膀胱を痛めてしまったのかもしれない。
でも、そんなこと今はどうでもよくて…。

おもらし、できなかった。
ゆたかと同じになれなかった。
ゆたかが立ち直るきっかけになるかもしれなかった事が、未遂で終わってしまった。
その事を自覚した途端、頭の中にまた真っ白な部分が、前より大きくなって現れた…。

手を洗った後、洗面台に手をついたまま動けなくなった。
頭の中の半分近くが真っ白で、ふわふわした虚脱感に襲われていた。
これ以上真っ白が大きくなったら自分を制御できなくなりそうで、
できれば、その場でしばらく休んで頭を整理したかった。
でも、ゆたかが外で待っていた。
私はふわふわな状態のままトイレから出た…。

私が出てくると、ゆたかはちらっと私のスカートから下を見た。

「みなみちゃん…タイツ、もしかして…」

「今日は、はいてきてない」

「そ、そうだっけ…。じゃあ…大丈夫だった?」

「…うん」

「少しも?」

「うん。確認した…」

私が言うと、ゆたかはため息をついた。

「…みなみちゃん。教室から出た時、みんなが話してたの聞こえたんだけど…。
 5時間目から…もしかしたらもっと前からずっと我慢してたみたいだって。
 本当なの?」

「…うん」

「…どうして?」

…答えられなかった。

315:みずたまりのほとり みなみ視点 25
12/02/26 21:09:15.67 pcJzFuEH
ゆたかは、少し考え込んで…悲しそうに言った。

「みなみちゃん…みんなの前でおもらしするつもりだったんだね。
 私がしちゃったから…同じようにって…」

ゆたかな口調は問いじゃなく、分かっている事の確認だった。
その口調に抗えず、私はそっと肯いた…。

「…ばかあっ!」

その叫びは、さっきの『だめえええっ!』よりも小さかったけど、
あの時の『おしっこがぁ!』よりも悲痛で、
頬を思いっきり平手打ちされたみたいに頭に響いた…。

「みなみちゃんまでおもらししたって、私がしちゃったことは消えないよ!
 私と同じように傷付く人が、もう一人増えちゃうだけじゃない!」

「でも…でも…」

ゆたかの言う事が正しいに決まっていた。
それなのに私は、叱られて言い訳をする子供のように口走っていた。

「私は…ゆたかを…傷付けた…だから…。
 私も…同じように傷付けば…ゆたかが…少しは……」

その先が、続けられなかった。

「みなみちゃん…」

ゆたかの表情が、もっと悲しそうになった。

「みなみちゃんがおもらしして傷付くのを見たら…
 私…仲間ができて嬉しいとか、いい気味だよとか、喜ぶと思ったの?
 私のこと…そんなわがままで意地悪な人だって思ってたの?」

そんなわけないって、言えればよかった。
私はゆたかのこと、わがままで意地悪な人なんて絶対に思ってない。
でも…仲間ができたら楽になって立ち直れるかも、とか、
ゆたかに復讐してほしい、とか、そんなことを想像したのは、
心のどこかでゆたかにそういう要素を求めたからに違いなくて…。

「………」

私は何も言えず、黙っている事しかできなかった。
それは…肯定と同じ事。

ゆたかの目に涙が浮かんだ。

「みなみちゃん…私のこと…そんな風に思ってたんだ…。
 そんなの…おもらししちゃったことよりずっと悲しいよ…。
 ひどい…ひどいよ…みなみちゃん…」

ゆたかは下を向いて、肩を震わせた…。

316:みずたまりのほとり みなみ視点 26
12/02/26 21:10:38.47 pcJzFuEH
私…またゆたかを泣かせちゃうんだ…。
ゆたかにしたこと、償おうとしたのに…。
何一つ償えないで…。
償わなきゃいけないことが、また増えちゃった…。

私の頭の中の真っ白が一気に広がって…。
頭の中で何かが吹き飛んだ気がして…。
目の前の景色が急にぼやけて、何も見えなくなった。
意識はあるから、気を失ったわけじゃなかった。
ゆたかが泣くのを見ないですむように、頭が視覚をシャットダウンしたらしい。

……ぽたっ。

ゆたかの涙がこぼれ落ちて、私の足元で弾けた。
見えなくたって、音で感じる…。

……ぽたっ。

また、ゆたかの涙が落ちた。

「…みなみちゃん!?」

ゆたかの驚いた声。
視覚がシャットダウンされてるから、何に驚いたか分からない。
『どうしたの?』って言おうとしたのに、なぜか声が出なくて…、
代わりに、私の頬に何かが伝って落ちるのを感じた。

……ぽたっ。

さっきと同じ音。
ということは…私の頬に伝ったのは、ゆたかの涙らしい。

…待って。

ゆたかの涙が、どうして私の頬を伝うの?

思わず、目の辺りをぎゅっとこすった。
景色が元に戻って、目の前のゆたかがはっきり見えた。

ゆたかは泣いてなかった。

『え?』と思う間もなく、また景色がぼやけて、頬にまた何か伝い落ちた。

……ぽたっ。

まさか…。

流れ落ちてる涙は、ゆたかのじゃなくて…。

泣いてるのは、ゆたかじゃなくて…。

……私?

317:みずたまりのほとり みなみ視点 27
12/02/26 21:11:51.94 pcJzFuEH
「……っ!」

慌てて、目をぎゅっと閉じた。
…でも、閉じた目から、涙がどんどんあふれてきた。

顔を手で押さえた。
…でも、押さえた手からも、涙がどんどんこぼれ落ちた…。

待って…待ってよ…。
どうして?どうして涙が出てくるの?
私…泣こうとなんかしてないよ…!

「みなみちゃん…あ…あの…」

ゆたかが混乱している。

「ご…ごめん…私…言い過ぎた…」

違う。違うの。
泣いたのはゆたかのせいじゃない。
どうして泣いたのか私にも分からなくって…。

「みなみちゃん…そんなつもりじゃなかったんだよぉ…」

だめだ…泣いてるだけじゃ伝わらない。
とにかく、何か言おう。
喋る事で頭の中の整理が付いて、涙が止まるかもしれない…。

「違う…違うの…」

顔を押さえた手を離して…、
涙が頬を伝い続けるのも構わず、私は喋り出した。

「どうして…泣いてるのか…自分でも…分からないの…。
 全部…私がまいた種…なのに…泣く資格なんか…ないのに…。
 涙…いきなり…出てきて…止まって…くれないの…。
 訳…分からない…よね…」

整理が付くどころか、頭の中はどんどん真っ白に侵食されていく。

「ゆたかの…言う通りだよ…おもらしさせたこと…もう…消せない…
 でも…償いたかった…私の…したこと…。
 せめて…立ち直るきっかけ…作りたかった…。
 なのに私…ばかで…ゆたかの気持ち…考えないで…また悲しませただけだった…」

涙がもっといっぱい出てきて、声が詰まって、喋るのさえ辛くなっていく…。

「私……本当に……ばかだ……。
 どんどん……頭……真っ白になって……何も……考えられない……。
 もう……どうしたらいいのか……分からない……分からないよぉ……!」

頭の中を、真っ白が完全に覆い尽くした。
何も考えないで、泣き続けることしかできなくなった…。

318:みずたまりのほとり みなみ視点 28
12/02/26 21:13:45.70 pcJzFuEH
……………

…どのぐらい泣いていたんだろう。
頭の中の真っ白が少しずつ小さくなって、少しずつ思考力が戻っていった。

自分が口走っていた言葉を思い出すうちに、涙が出た理由が、分かった。

『もうどうしたらいいのか分からない…分からないよぉ…!』

簡単に言ってしまえば、
私はこの三日間、ずっとどうしたらいいのか分からなくて、
今のように何も考えないで泣きたかった。
それだけのこと。

あの時から頭の中にあった真っ白の正体は、
どうしたらいいのか分からなくて泣きたい衝動だった。
それは、泣きたいのを抑え付けるたびに大きくなって、
あの計画が頭に浮かんでいた間は小さくなってて、
計画がだめになった時にお釣りが付いて元に戻って…、
今、一度に爆発してしまった。

どうしたらいいか分からないのは、今だって同じ。
でも、真っ白の正体は分かったから、もう制御できる。
真っ白は頭の中でどんどん小さくなって、完全に消えた。
涙が、止まった。

一つ息をついて、手で涙を拭おうとすると…。
私の顔にそっと柔らかい物が触れて、私の涙を優しく拭い去った。

涙は拭い去られたけど、目の前でこんなに泣いたことが恥ずかしくて、
ゆたかの顔を見られなかった。
視線を足元にそらしたら、足元で私の涙が小さな水たまりになっていて、
もっといたたまれなくなった…。

「みなみちゃん…」

ゆたかが口を開いた。

「…ごめんね。ずっと誤解させたままでいて…」

え…?

予想外の言葉に顔を上げると…。
ハンカチを手にしたゆたかの表情は、悲しそうだったけど、優しかった。

319:みずたまりのほとり みなみ視点 29
12/02/26 21:14:45.69 pcJzFuEH
「おもらししたの、みなみちゃんが触ったからじゃないよ。
 あの時『おしっこが』って叫んじゃったのは…その…、
 もう、少しもれてて…スカートから椅子の上まで濡れちゃってて、
 動いたらもらしたおしっこが見られちゃうよ、って意味だった…。
 みなみちゃんが来なくたって、椅子から動けないままもらしてた…。
 みなみちゃんが責任を感じる必要なんて、全然なかったんだよ…」

私を慰めるための嘘じゃない…ゆたかの瞳がそう告げていた。
…でも、私は首を横に振った。

「私は保健委員なのに、ゆたかの事、注意してなかった。
 『ゆたか、ちゃんと休み時間にトイレ行ったかな、おしっこしたくないかな』って、
 いつも注意してなきゃいけなかった。
 そうしていたら、動けるうちに教室から連れ出してあげられた。
 だから、私のせいなのは変わら…」

「う~……」

ゆたかが真っ赤な顔で唸り出したので、私は途中で言葉を失ってしまった。
ただ、目は><で、怒ってるというよりふくれてる感じだった。

「あのね~、みなみちゃん…。
 私、おしっこ一人でできない赤ちゃんじゃないんだよ…?
 そこまでいつも注意されてたら、すごく恥ずかしいんだけど…」

「そ、そうかな…?」

ふくれた顔が可愛くて、微笑みそうになってしまう…。
声も、本気で怒ってる感じじゃなく、からかわれて照れているような感じで…。

「そうだよっ!
 今回のことだって、もらしちゃうまで黙ってた私が悪いに決まってるよ!
 みなみちゃん、私のこと、子ども扱いしすぎだよぉ!もうっ!」

「ご、ごめん…」

もちろん、私は真剣に謝ったのだけど…。
張り詰めていた雰囲気が一気に和んでしまった。
否定しようがないと思っていた私の責任も、
冗談のようにあっさり否定されてしまった。
いいのかな、こんなので…。
私が一人で難しく考え過ぎてただけなのかな。
そういえば、泉先輩も言ってたっけ。
私もゆたかも、一人で深みにはまっていってるって…。

320:みずたまりのほとり みなみ視点 30
12/02/26 21:16:16.53 pcJzFuEH
「昨日の夜、お姉ちゃんから聞いてたんだ…。
 みなみちゃんが自分のせいだって誤解して思い詰めてたってこと」

ゆたかが話を戻した。

「違うんだよ、って伝えなきゃって思って、今日、学校に来たのに…
 みなみちゃんを見たとたんに、夢のことを思い出して…逃げちゃった」

「夢?」

「一昨日の夜、見たの…。
 おもらしした子だってみんなにいじめられて…
 みなみちゃんにも嫌われて…一人ぼっちになっちゃう夢。
 すごくリアルで…きっとほんとになるんだって…怖くて…」

「………」

「朝、みなみちゃんから逃げた後も…
 夢と同じようにいじめられるのが怖くて、休み時間は誰もいない所に逃げて…
 先生がいればいじめられないと思って、授業の時だけ戻って…
 そんなこと、繰り返してた…」

ゆたかも、私と同じだった。
夢が見せた未来におびえて、苦しんでいた。

「夢は…夢だよ。
 本当になる場合もあるけど…間違っている場合だってある。
 その夢で、絶対に間違ってる所、一つ、すぐに言える」

それは…今のゆたかに一番伝えたいことでもある。
今なら目と目で分かると思うけど、言葉でもはっきり伝えたいこと。

「私は、ゆたかの事、嫌いになったりなんかしない。
 ゆたかの事、ずっと好きなままだよ。今も、これからも」

「あ……」

ゆたかの表情に、また悲しみが浮かんだ。
きっと、私がゆたかを嫌いになったと勝手に思い込んでいたことへの罪悪感で。
でも、私の『これ以上、何も悲しまなくていいんだよ』っていう微笑みを見て、
その悲しみも消えた。

ゆたかの瞳がまた潤んだ。
さっきとは違う涙で。

「みなみちゃん…ありがとう…。
 私…きっと、おもらしした子っていじめられるけど…
 負けないで頑張っていける…みなみちゃんがいてくれるから…」

321:みずたまりのほとり みなみ視点 31
12/02/26 21:17:51.95 pcJzFuEH
ゆたかは笑顔になった。
でも、その笑顔の中には悲壮な覚悟があった。
今の笑顔も綺麗だけど、何かが違ってて…、
もう一つ、言葉で伝えたいことが増えた。

「…ゆたか。
 私だけじゃない。ひよりはもちろん、他の人だってゆたかの事を心配してる。
 ゆたかをいじめるのは…ゆたかだけだよ」

「え…」

「『おもらしした子だ』とか、『いじめられる』とか…
 自分に何回も言って、辛くなって…自分で自分のこと、いじめてる。
 もし他の誰かがおもらししたって、ゆたかはそんな風にいじめたりしないよね。
 それと同じように…ゆたか自身のこともいじめないであげて。
 私や他の人に優しいのと同じように…自分にも優しくしてあげたらいい…。
 それで、もう、ゆたかをいじめる人はいない…」

「………」

ゆたかは黙り込んだ。
私はそれ以上何も言わなかった。
私の言葉は下手だから、少し時間はかかると思うけど、
伝えたいこと、今はきっと通じてくれる。

「……うん、分かった」

ゆたかの笑顔から、悲壮な覚悟が消えた。
私がいつも見てきた、明るい笑顔がそこにあった。
私の伝えたいこと、通じてくれた。

ゆたかが、私の手を取った。

「ありがとう…みなみちゃん。本当に…」

ゆたかの手から、私の全身に幸せが染み込んできて…
ずっと我慢していた、おなかの破れるような痛みが収まった。
元に戻れたんだってことを、実感した。

辺りの静けさで、まだ授業中だったのを思い出した。

「教室、戻ろうか」

「うん」

私とゆたかは教室に向かって歩き出した。

322:64-285
12/02/26 21:19:18.67 pcJzFuEH
本編はここまでで、引き続きエピローグになります。
途中でsage忘れてしまいました。申し訳ない…。

323:みずたまりのほとり みなみ視点 エピローグ1
12/02/26 21:21:18.56 pcJzFuEH
「今の少しの間で…昨日まで見たことないみなみちゃん、いっぱい見ちゃった」

途中で、ゆたかがふと言った。

教室でおもらししそうになってた私。
おしっこがもれそうでまともに歩けなくて、トイレまで支えてもらった私。
ゆたかの目の前でいきなり泣き出した私。
涙が止められなくて、足元に小さな水たまりができるほど泣いた私。

「……呆れた、よね」

思わず自嘲する…。

「そんなことないよ!」
ゆたかが真面目な顔で打ち消した。

「おもらししそうだった時のみなみちゃん…かわいかった。
 夢を見てるみたいにぼーっとした目とか、
 見てて何だかどきどきしちゃったもん…」

私は真っ赤になった…。

「泣いてる時もそうだった。
 私みたいに大きな声で泣くんじゃなくて、静かで大人っぽくて…。
 綺麗な人は泣いたって綺麗なんだなぁって、羨ましくなっちゃった。
 涙を拭いてあげるのも忘れて、自然に泣き止むまで黙って見ちゃった…。
 涙もきらきらしてて…落ちたら宝石に変わるんじゃないかって思ったぐらい」

「………」

頭から蒸気が出そうだった…。
照れたんじゃない。
本気で褒めてくれているんだろうけど、
そんなことを褒められても恥ずかしいだけで…。
もし私がおもらししてたら、おしっこまで綺麗とか言い出したかも…。

これ以上言われたら、恥ずかしくて倒れてしまいそう…。
そう思ったところで、幸い教室に着いた。

324:みずたまりのほとり みなみ視点 エピローグ2
12/02/26 21:22:40.13 pcJzFuEH
教室に入ると、みんなが私を一目見るなり気の毒そうな表情になった。

「ああ、この表情は…」

「思いっきり泣いた後っぽいし…」

「だめだったんだね…」

「あの状態じゃしょうがないよな…」

みんなが口々にそんな事を言っている。

「……?」

私もゆたかも、みんなの言っている意味が分からなかった。

「あちゃー…その様子だと間に合わんかったようやな」

「え…」

黒井先生の言葉で、私とゆたかはやっと事態が飲み込めてきた。

「まー、気ぃ落とすな。おもらしなんて大した失敗やないって。
 泣くだけ泣いたんやろ?もう忘れーな」

「え、え、ちょっと…」

おもらし寸前の状態で出て行って、明らかに泣いたばかりの顔で戻ってきた私。
おもらしして泣いたと誤解されて当然だった。
戻る前に顔を洗えばよかった…。

…まあ、別にいいや。些細な事。
ゆたかが立ち直ってくれて、ゆたかと元の仲良しに戻れただけで、私は…。

325:みずたまりのほとり みなみ視点 エピローグ3(完)
12/02/26 21:24:01.00 pcJzFuEH
「ち、違うよ!」

ゆたかの方が慌てて否定し始めた。

「みなみちゃん、そんなので泣いたんじゃない!
 みなみちゃん、おもらしなんかしてないよ!
 ほら、スカートだって全然濡れてない!」

ゆたかは私のスカートを掴んでみんなに示した。

「ほら、横も!後ろも!こっち側も!」

ゆたかは私の体を90度ずつ回転させて、スカートがどこも濡れてない事を示した。

「ゆたか、落ち着いて。私はいいから…」

私が言う間もなく…

「ほら、スカートの中だって…!」

ばさっ。

ゆたかが、私のスカートを思いっきりまくり上げた。
私のスカートの中が、教室の全員の前に露わになった…。

教室の中が凍り付いた。

「あ……」

ゆたかは我に返ってスカートを離してくれた。
…でも、遅かった。

誰かが、ある色名をつぶやいた。
それは、私の下着の色を正確に描写した色名だった。
ばっちり、見えたということ。

下着は濡れてない。それはさっきトイレで確認した。
だから、おもらししなかった事の証明はできたと思う。
ありがとう、ゆたか。

でも…。
そこまでして証明することだったのかな…。
今のって、おもらししたって思われるより恥ずかしい気がしてならないよ…。

教室に戻るまでの会話で既にキャパシティを超えかけていた恥ずかしさが、
今ので一気に限界を振り切った。

しゅー………ぼん。

頭から蒸気が出るのを感じて…。

……ぱたっ。

私は、気を失った…。

(おわり)

326:64-285
12/02/26 21:27:36.03 pcJzFuEH
以上でみなみ視点版は終わりです。
なお、説明不足な点を補うゆたか視点版とひより視点版も製作中です。

ありがとうございました。

327:名無しさん@ピンキー
12/02/26 21:33:10.40 90UHOrjb
>>326
乙でした



328:名無しさん@ピンキー
12/02/27 04:44:08.99 gNQlgE2k
>>326
乙でした
幕引きとオチも綺麗だなー、他の視点版も楽しみにしてます!

329:64-285
12/03/10 23:03:14.45 wXnnEo9N
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(1日目)を投下します。

・11レス前後使用予定
・時間軸でみなみ視点の1日目に対応
・いじめ等の鬱シーンあり
・ゆたかも壊れ気味…(特に夜中のシーン)

330:みずたまりのほとり ゆたか視点 1
12/03/10 23:04:46.21 wXnnEo9N
「みなみちゃん、さっきの授業のここなんだけど…」

前の授業で分からないところがあったので、
休み時間、いつものようにみなみちゃんに教えてもらいに行きました。

「ここ…どうしてhaveが主語より前に来るの?」

「Neverが文頭に来ると、倒置が起きて…」

「ここがtheじゃだめなのはどうして?」

「There is構文は不特定の物がある時しか使わない…だからここはaじゃないと…」

今回は分からないところが多くて、ようやく終わった頃には、
もう次の授業のチャイムが鳴っていました。

「ごめんね。みなみちゃんの休み時間潰しちゃって…」

「別に謝らなくてもいい…」

みなみちゃんは微笑みました。
みなみちゃん、いつも本当にありがとう。

席に戻って、次の授業の準備をして、先生が来て…しまった、と思いました。
今の休み時間に、お手洗いに行きたかったのです。
みなみちゃんに分からないところを聞いてからでも時間はあると思って、
後回しにしたのですが…失敗でした。

我慢…できるよね。
後回しでいいと思ったぐらいだし、あと一時間ぐらい…。

………

今はお手洗いに行けない…。
そのことを意識すればするほど、おしっこしたいって気持ちが強まります…。

授業、半分ぐらい終わったかな…

時計を見たら…まだ10分しか経っていませんでした。

………

あれから…だいぶ経ったよね。
おしっこ…さっきよりずっとしたくなってる…。

時計を見たら…まだ15分ぐらいでした。

………

いくらなんでも…もう終わりに近いはずだよね…。
おしっこ…本当に辛くなってる…かなりの時間が経ったはず…。

時計を見たら…まだ15分と20分の間でした。

331:みずたまりのほとり ゆたか視点 2
12/03/10 23:06:08.27 wXnnEo9N
…無理です。
こんな調子じゃ、授業が終わるまでなんて我慢できません。
先生に言って、トイレに行かせてもらうしかありません。

でも…恥ずかしいから、本当に我慢できなくなってから言おう…。

………

もうちょっと…我慢できる…。

………

たぶん…もうちょっと…我慢できると思う…。

………

もうちょっと…我慢できるんじゃないかな…。

………

…そろそろ…言おうかな…。

じょわぁ。

「!!」

不意に…小さな解放感と共に、あったかい感覚がスカートの中に広がり始めました。

もれてる!
だめ!出ちゃだめ!止まって!

………。

…止まった…みたい。

でも…。
椅子の下まではこぼれなかったけど、スカートまで濡れちゃった。
もう動けない…。動いたら濡れたスカートが見られちゃう…。

残ったおしっこも…もうもれちゃう。
なんで?おかしいよ。少し出ちゃった分、楽になってもいいのに…。
これ以上もれたら、椅子からこぼれてみんなにばれちゃう…。

ばか!私のばか…!
休み時間、どうして先にお手洗いに行かなかったの?
どうしてもっと早く先生に言わなかったの?

332:みずたまりのほとり ゆたか視点 3
12/03/10 23:07:31.21 wXnnEo9N
…がたっ。

「!」

みなみちゃんが立ち上がりました。

「先生…小早川さんの具合が悪そうです。保健室に連れて行きます」

「!?」

みなみちゃんが、私の様子がおかしいのに気付いたのです。
先生はすぐに許可して…みなみちゃんが近づいてきました。

「行こう。ゆたか」

「だめ…行けない…」

「無理しちゃだめ」

「だめなの…動けないの…」

動いたら…おしっこで濡れたスカートが見えちゃうよ…。

「歩けないほど辛いの?だったら抱っこしてあげる…だからとにかく…」

「だめなんだよぉ…」

見られちゃうんだよぉ…おしっこが…。

みなみちゃんは、構わず手を伸ばしてきました…。

「やめて!動いたら…!」

おしっこが…おしっこが…!

心の中で空しく『おしっこが』と叫び続けるうちに、
とうとうみなみちゃんの手が触れて…頭の中が弾けました。

「おしっこがぁ!」

心の中の叫びが、本当の叫びになって飛び出して…
さっきと同じ、解放感とあったかい感覚が広がって…
もう…止まりませんでした。

椅子の下からぱちゃぱちゃ水が弾ける音がし始めて、
教室中がパニックになりました。

「……うわあああんっ!」

私は、机に突っ伏して泣き出しました…。

333:みずたまりのほとり ゆたか視点 4
12/03/10 23:09:32.52 wXnnEo9N
………

何も考えられなくて、赤ちゃんに戻ったみたいに泣き続けていると…。

「保健室…行こう。着替えなきゃ、風邪ひいちゃう…」

みなみちゃんの声で少しだけ考える力が戻って、
濡れたところが冷たくて気持ち悪いことに気付きました。
それに、今の自分が晒し者みたいになっていることにも…。

ここから離れよう。みなみちゃんの言う通り、保健室に行こう…。、

私は立ち上がりました。

みんなの視線を感じて、頭の中ががんがんしました。

見ないで…私なんか…。

みなみちゃんが、私に手を伸ばしました。

触らないで…私なんか…!

私は、みなみちゃんの手を払いのけて、教室から駆け出しました。

びちょびちょのスカートから、おしっこの雫が落ちてるのを感じて…。
走りながら涙がどんどん出てきて…。
頭の中ががんがんして、どんどん気が遠くなって…。
…何とか保健室に着いて、ノックもしないで中に飛び込みました。

「小早川さん!?」

びっくりしているふゆき先生に泣きながら抱きついて…。

「ひっく…えぐっ…せんせい…」

「は、はい。どうしました?」

「おしっこ……もらしました……」

最後の力でそれだけ言って…力が抜けて、何も分からなくなりました…。

334:みずたまりのほとり ゆたか視点 5
12/03/10 23:10:36.62 wXnnEo9N
………………

…気がつくと、保健室のベッドに寝ていました。

…あれ?冷たくない。
さっきまで、スカートもその中もびちょびちょで冷たかったのに…。

夢だったのかな?
具合が悪くなって保健室で寝てて、悪い夢を見ちゃっただけかな?

そんな希望が一瞬、心をよぎりました。

でも、手で触ってみると…スカートがなくなってて、
下は体育のショートパンツになっていました。
ショートパンツの中には…何もありませんでした。

「ゆーちゃん、気が付いた?」

こなたお姉ちゃんが、ベッドの横に座っていました。
私が気を失っている間に、ふゆき先生が呼んできてくれたのでしょう。

「心配ないよ。濡れちゃったものはふゆき先生が洗ってくれてるから」

…お姉ちゃんは、優しくそう言いました。

教室でおもらしして、泣きながら走ってきて…
ふゆき先生の前で気を失って…
気を失っている間に着替えさせてもらって…

…みんな、本当に起きたのです。

「……うぅ……」

また涙が出てきました…。

「ゆめじゃ…なかった…」

「ゆーちゃん、そんなに落ち込むことじゃないよ」

「もう…だめだよ…」

「そんな大したことじゃないって。私だって某ゲームで…」

「ひとりにして!」

「…う、うん」

私のわがままを聞いてくれて、お姉ちゃんはカーテンの向こうに出て行きました。
カーテンが閉じられましたが、向こう側の様子は音で分かりました。

335:みずたまりのほとり ゆたか視点 6
12/03/10 23:11:53.23 wXnnEo9N
しばらくして…少し落ち着いて涙が止まった頃。
ノックの音が聞こえて、誰かが保健室に入ってきました。

「ゆたかの鞄…持ってきました」

みなみちゃんが、私の鞄を持ってきてくれたのです。

「おー、ありがと。ちょうど取りに行こうと思ってたとこだよ」

お姉ちゃんが鞄を受け取ってくれたようです。

「ん?くんくん…
 みなみちゃん、後始末もしてくれたんだ…ほんとありがとね」

「!!」

もらしたおしっこをそのままにしてきたから…
みなみちゃんがその後始末をすることになったのです。

私のおしっこを雑巾で拭き取ってるみなみちゃん。
『きたないなぁ…おしっこくさいなぁ』って、ため息をつくみなみちゃん。
『こんなにいっぱいしちゃって…』って呆れてるみなみちゃん。

そんな映像が次々に頭に浮かんできました。

「ゆたかは…?」

「とりあえず着替えて…ベッドで休んでます」

「会っても…大丈夫でしょうか」

「そうですね。少し興奮していますけど、岩崎さんなら…」

みなみちゃんがこっちに来る気配がします…。

やだ…恥ずかしくてみなみちゃんの顔なんか見られない…!

「来ないで!」

気がつくと、叫んでいました…。

「帰って!みなみちゃんの顔、見たくない!」

みなみちゃんがこっちに来るのをやめた気配がして…
お姉ちゃんが何か言って…
やがて、みなみちゃんが出て行ったのが分かりました。
足音だけで…元気がないことが分かりました。

みなみちゃん…ごめんなさい…

今さら遅すぎるその言葉は、またあふれてきた涙で声になりませんでした。

336:みずたまりのほとり ゆたか視点 7
12/03/10 23:14:08.19 wXnnEo9N
さらにしばらくして、ふゆき先生が乾いたスカートとパンツを返してくれて…
元の服装に戻ると、家まで帰れそうなぐらい気分が落ち着きました。
ふゆき先生にお礼を言って、お姉ちゃんと一緒に帰り道につきました。
外に出ると、もう暗くなっていました。

「…くしゅん」

帰り道、くしゃみが何回も出ました。

「ゆーちゃん、もしかして風邪かな」

「うん…少し熱っぽいかも…そんなにひどくはないと思う」

みなみちゃんが心配した通り、濡れたままでしばらくいたせいで
風邪をひいてしまったのかもしれません。
でも、お姉ちゃんに言ったのは本当で、そんなにひどいとは感じませんでした。
一晩寝たら治ってしまいそうな、その程度でした。

途中で悪化することもなく、無事に家に着けました。
そうじろうおじさんは帰りが遅かった理由などを一切聞いてきませんでした。
お姉ちゃんがすでに、事情は伝えてくれていたのでしょう。

夕食が終わると…すぐに部屋に戻ってベッドに入りました。
何もしたくありませんでした。
体がおしっこで濡れてたことを思い出しても、
お風呂に入る気力すら湧きませんでした。

……………

いつの間にか、教室の自分の席にいました。

「おもらし女」

「きたない」

「出て行け」

みんなが私に聞こえるように呟きました。
紙くずとかを投げつけてくる人もいました。
泣きそうなのをこらえていると…。

「小早川さん」

田村さんが笑顔でスケッチブックを持ってやってきました。

「イラスト描いてみたんだ。見てくれる?」

337:みずたまりのほとり ゆたか視点 8
12/03/10 23:15:39.39 wXnnEo9N
笑顔で接してくれることが嬉しくて、私も少し元気になりました。

「…うん」

田村さんはスケッチブックを開いて見せてくれました。

…そこに描かれていたのは、おもらしして泣いている私でした。

「どう?あの時の小早川さん、かわいいなーと思って描いてみたんだ。
 あと、小早川さんをモデルにしたおもらし漫画も描いてるとこ。
 完成したらネットで公開する予定だよ。うふふふ…」

「…わあああんっ!」

私は泣き出して、廊下に飛び出しました。

廊下にも人がいっぱいいました。

「どこ行くの?またもらして保健室に行くの?」

「うわー、きたない」

「学校来ないでほしいよね」

もう……やだ。

「もういいよぉ!わかったよぉ!かえるよぉ!もうこないよぉ!」

私は叫んで、みんなの笑い声の中を駆け出しました。
靴も替えないで、昇降口から外に飛び出そうとして…

「ゆたか」

みなみちゃんの声が聞こえました。
振り向くと、みなみちゃんが一人で立っていました。

そういえば…教室の中にも、廊下の人の中にも、みなみちゃんはいませんでした。
みなみちゃんは…みなみちゃんだけは、私を見捨てないでくれてるのかも…。

「みなみちゃんっ…!」

私はみなみちゃんに飛びつきました。
でも…みなみちゃんはすっと体をかわして…私は勢い余って床に倒れました。

「近付かないで…おしっこくさくなっちゃう」

みなみちゃんはそう言って、背を向けてそそくさと離れていきました。
私は…一人ぼっち。

338:みずたまりのほとり ゆたか視点 9
12/03/10 23:17:31.17 wXnnEo9N
「いやあああああ!」

がばっ!

叫びながら飛び起きたら…私の部屋のベッドの中でした。
…夢で飛び起きちゃうことって、本当にあるんですね。

…そんなささやかな驚きは、すぐに去って…。

明日から学校でみんなにいじめられる。
みなみちゃんももう私のこと嫌いになって、本当に一人ぼっち。

夢で見た、そんな未来がのしかかってきて…。

「……ひっく…ひっく…ぐすっ…」

私はベッドの中でまた泣き出しました…。

(…何を泣いてるの?
 おもらししちゃう子なんて、みんなに嫌われて当たり前だよ) 

他に誰もいないのに、誰かが冷たく私に告げました。
それは、私の中の『私』の声でした。

「ひっく…わかってる…わかってるよ…。
 だけど…ぐすっ…みなみちゃんまで…」

(みなみちゃんはお母さんじゃないんだよ?愛想尽かして当たり前だよ。
 ううん。お母さんでも愛想尽かしちゃうんじゃないかな?
 高校生にもなって、教室でおしっこだよ?もらしちゃったんだよ?
 ぱちゃぱちゃすごい音立てて、大きな水たまり作っちゃって…)

「いや…やめて…」

私は耳を塞ぎました。

(おまけに、もらしたおしっこ、その場に残して逃げちゃって。
 赤ちゃんと同じだね。これからはおむつして学校に行ったら?
 それで濡れたら今日みたいに泣きながら保健室に行って、
 ふゆき先生に取り替えてもらえば?)

『私』は容赦なく言葉を続けます…。
内側からの声だから…耳を塞いでも無駄でした。

339:みずたまりのほとり ゆたか視点 10
12/03/10 23:19:00.33 wXnnEo9N
「…ぐす…ひっく…どうして…どうしてそんなこというの?
 わたし…えぐ…おもらししたくて…ひくっ…したんじゃないよ…」

(もらしたくなかったんなら、休み時間に行っとけばよかったでしょ?
 ううん、授業中だって、もらしちゃう前に先生に言えば行けたよ?
 もれちゃうって正直に言えば、行っちゃだめとは言われなかったはずだよ?)

「はずかしかったんだよぉ…」

(へー、トイレ行きたいって言うの、おもらしするより恥ずかしかったんだ?)

「…もうやだ…いわないで…」

(本当に赤ちゃんと同じだね。
 おしっこって言えなくて、そのままもらして泣くだけだもんね。
 ほんとに高校生?ちっちゃいし、幼稚園から迷い込んだだけなんじゃない?
 あ、幼稚園の子に失礼だね。幼稚園の子でもおしっこぐらい言えるもんね)

「やだ!やだってば!やめて!」

(明日学校に行ったら、みんな何て言うのかな?
 夢の中みたいに、『きたない』とか『おしっこくさい』とか嫌がるかな?
 『おしっこって言えない赤ちゃんが迷い込んでるよ』って笑うかな…?)

「やあぁ!やだああぁ!やめて!やめてってばぁ!!」

そのとき、慌てたようなノックの音が聞こえました。

「ゆーちゃん!ゆーちゃんっ!」

お姉ちゃんの声でした。

「ゆーちゃん!入るね!」

お姉ちゃんがドアを開けて入ってきて、明かりをつけました。

「…おねえ…ちゃん…」

私は、涙をぽろぽろ落としながら
お姉ちゃんを見つめることしかできませんでした…。

お姉ちゃんは、部屋に私しかいないのを見て少し安心した様子で、
私のベッドに腰掛けました。

「ほー…よかった。お父さんがついにやらかしたかと…」

お姉ちゃんは、大げさにため息をついてそう言いました。
冗談で和ませようとしてくれたのでしょう。
半分ぐらいは本気で言ったように聞こえたのは、たぶん気のせい…。

340:みずたまりのほとり ゆたか視点 11
12/03/10 23:20:10.14 wXnnEo9N
私は涙をパジャマの袖で拭って、深呼吸をしました。

「ごめんね…起こしちゃって…」

「いやいや。今ので起こされたわけじゃないよ。
 ネトゲやっててちょっと休憩してたとこ。それより…どうしたの?」

「………」

…言えませんでした。
心の中の『私』と話して、気が付いたら泣き叫んでた…なんて。

「怖い夢…見ちゃって…寝ぼけてただけ」

「そう…何か温かいものでも飲む?落ち着くから…」

「ううん…もう落ち着いた…寝るよ」

「ほんとに大丈夫?もうちょっと一緒にいてもいいんだよ?
 なんなら添い寝してあげてもいいし…」

「い、いいよ…本当にもう大丈夫だから」

「そう…じゃあ戻るけど、私はもう少し起きてるから。
 不安になったら、遠慮しないで呼ぶなり来るなりしていいよ」

「うん…ありがとう」

お姉ちゃんは戻っていきました。
私はまたベッドに横になって、明かりを消しました。
お姉ちゃんと話したことで少し心が安定したみたいで、
その夜はもう『私』は何も言ってきませんでした。

341:64-285
12/03/10 23:22:37.39 wXnnEo9N
1日目は以上です。

342:64-285
12/03/17 00:32:51.55 uRez8m7c
「みずたまりのほとり ゆたか視点」(2日目)を投下します。

・5レス前後使用予定
・時間軸でみなみ視点の2日目に対応

343:みずたまりのほとり ゆたか視点 12
12/03/17 00:34:20.24 uRez8m7c
…気がついたら、朝でした。
朝の眩しさも、昨日の失敗を消してくれませんでした。
風邪気味だったのはもう治っていたのに、
ベッドから出ようとしても、体が動いてくれません…。

(どうしたの?起きなきゃ…)

『私』がまた、言ってきました。

(学校に行く準備しなきゃ…いじめられにね)

「……」

(ほらほら、どうしてベッドから出ないの?)

「うぅ…」

ノックが聞こえました。

返事をすると、お姉ちゃんが入ってきました。

「ゆーちゃん。朝ごはんだよ」

「……いらない」

私は布団から顔も出さないで、答えました。

「具合悪いの…?風邪ひどくなった?」

「ううん、風邪はもう治った…だけど…体が動かないの」

「んん…」

「学校…休みたい…」

「………」

お姉ちゃんは少し考え込んで…、

「…そうだね。まだ治りがけだし、無理しない方がいいよ。
 学校の方には伝えとくから、今日はゆっくり休んで」

そう言って、出て行きました。

(そうだね。学校に行かなきゃいじめられないね)

お姉ちゃんが出て行くなり、『私』が続けます。

(みんな心配するだろうけどね。お姉ちゃんも、おじさんも、
 ゆいお姉ちゃんも、みなみちゃんも…
 …あ、みなみちゃんが心配するわけないか。もう私のこと嫌いだもんね)

「……くすん…」

344:みずたまりのほとり ゆたか視点 13
12/03/17 00:36:32.30 uRez8m7c
………

ベッドの中でだらだらしているうちに、学校が始まる時間になりました。

(今頃、みんな私のこと、話してるよ。
 きっとずる休みだって。おもらししたのが恥ずかしくて来ないんだって。
 ずるい子だって、みんな怒ってるだろうね…。
 それとも、きたないから来なくてよかったって喜んでるかな)

『私』は、止まりません…。

「ううぅ……」

きゅー…。

おなかが鳴りました…。
こんな状態でも、普通におなかは空いていました。
朝ごはんはいらないと言っちゃったので、お昼まで我慢です…。
ずる休みの罰だって自分に言い聞かせてた、そのとき…。

こんこん。

ノックの音が聞こえて…。
返事をすると、朝ごはんのお膳を持ったおじさんが入ってきました。

「こなたに頼まれてね。落ち着いた頃にご飯持ってってあげてって。
 食べたい気分じゃないかもしれないけど…まずは食べるが基本です、だからね」

罪悪感で胸がちくちく痛んだけど…しっかり全部食べました。
ありがとう…おじさん、お姉ちゃん…。

食べたら、少しだけ気分が前向きになって…。

嫌いだったら…おしっこの後始末をしてくれたり、
鞄を持ってきてくれたりしないんじゃないかな?
みなみちゃんはまだ私のこと、見捨てないでいてくれてるんじゃないかな?

そんな、小さな希望が湧いてきました。

(そんなの、保健委員の仕事だからやっただけだよ。
 もし、鞄を持ってきてくれた時までは見捨ててなかったとしても、
 追い返されたことでもういいやってなったんじゃない?)

すかさず、『私』が言ってきました…。

「そうかもしれないけど…会って話してみないと分からないよ」

(会って、冷たくされたらどうするの?立ち直れるの?)

「うぅ……」

『私』は、私の中にいっぱいある弱さを簡単に引っぱり出してきて…、
私はすぐ、元の弱気に戻ってしまいました。
ただ…このままじゃだめ、っていう気持ちも、少しだけ湧いてきました。

345:みずたまりのほとり ゆたか視点 14
12/03/17 00:39:01.83 uRez8m7c
………

お昼は、ちゃんとお部屋から出て、おじさんと一緒に食べました。
お昼ごはんを食べたら、また少し前向きになれて…。
このままじゃだめ、って気持ちがもう少し強くなりました。

みなみちゃんに会って、もし冷たくされたって、
このまま一人でおびえてるよりはましだよ。

そう、思い始めました。
『私』も何も言ってこなくて、弱気に戻らないでいられました。

………

夕方になって、お姉ちゃんが帰ってきました。
お姉ちゃんはすぐに私の部屋に来ました。
私はパジャマのままだったけど、もうベッドに寝てはいませんでした。

「ゆーちゃん、気分よくなった?」

「うん…今朝よりはずっとよくなったよ」

「よかった…。それじゃ、聞きたいことがあるんだけど…ただ…」

「ただ?」

「昨日の…『あのこと』なんだよね。まだ、思い出すの辛いかな?」

「………」

今朝の私なら、今のお姉ちゃんの言葉だけでまた泣きそうになったかもしれません。
でも、今は少しだけ弱気から抜け出せていたから…、

「大丈夫…聞いていいよ」

少し時間がかかったけど、そう言うことができました。

346:みずたまりのほとり ゆたか視点 15
12/03/17 00:41:04.78 uRez8m7c
「…実はね。今日、みなみちゃんが来て…。
 自分がゆーちゃんに『あのこと』させた、って言うんだよ」

「…え」

「それも『ゆーちゃんを助けてあげられなかった自分の責任だ』って意味じゃなく、
 言葉通り『自分がさせた』んだって。
 自分が何もしなかったら、ゆーちゃんは『あのこと』しないですんだ、って…」

「………」

まったく予想しなかった内容に、言葉が出ませんでした。

「聞きたいのはそこで…みなみちゃんが言ってるのって、ほんとなの?
 わざとじゃないにしても、みなみちゃんがうっかりやったことが
 『あのこと』の引き金になってたりするの?」

「そんな!そんなことないよ!」

みなみちゃんがなぜそんなことを言い出したのか、分かりません…。

「念のため、ほんとに念のため、聞くよ。
 私が怒ってみなみちゃんに何かすると思って、かばってたりしないね?」

「かばってなんかない。みなみちゃんは何も関係ないよ…」

「うーん…じゃあみなみちゃんはどうしてあんなことを…」

お姉ちゃんは考え込んでしまい…私も考え込みました。
記憶の奥底の、永遠に触れたくなかった部分に手を伸ばして…
その中からさらに、みなみちゃんがそばにいた部分だけ拾い出します…。

休み時間のことは…明らかに無関係です。
時間は一気に飛んで…もう、少しもらしちゃった後。
みなみちゃんが先生に言って私のところに来て…。
みなみちゃんが私を連れて行こうとして…。

「……!」

あのとき口走った言葉を思い出して、繋げてみて…はっとしました。

『だめなの…動けないの…
 だめなんだよぉ…
 やめて…動いたら…おしっこがぁ!』

私が言ったのは『動いたらもらしたおしっこが見られちゃう』という意味でした。
でも…断片だけ聞けば『動いたらおしっこがもれちゃう』という意味にも取れます。

私はあのとき、トイレに行くために尿意が落ち着くのを待っていて、
それを自分が無理に動かそうとしたせいでもらしてしまった。
みなみちゃんはきっと、そう誤解しているのです…。

347:みずたまりのほとり ゆたか視点 16
12/03/17 00:44:29.33 uRez8m7c
「…ゆーちゃん」

私がそれに思い至ったのとほとんど同時に、お姉ちゃんが口を開きました。

「みなみちゃんのせいじゃないってこと、早く伝えた方がいいと思う…」

「うん」

「…それでね、私から伝えるより…できれば、ゆーちゃんが直接伝えた方が
 いいと思うんだけど…どうかな…?」

「…うん。私が自分で伝える。明日は、学校に行くよ」

不安なことはたくさんあったけど、私ははっきりとそう言いました。

「おぉ、よかったぁ…」

そう言ったお姉ちゃんの体が、少しふらついた気がしました。

「お姉ちゃん?」

「ん…?」

よく見ると、お姉ちゃんは顔が少し赤くて、呼吸も乱れていました。

「お姉ちゃん、具合悪いんじゃ…」

「ん…昼頃からちょっと風邪気味かなって感じしてた…。
 もしかしたら、昨日のゆーちゃんのがうつってたのかもね…。
 今日は…さすがに早く寝よっかな」

…その後もお姉ちゃんの具合はよくならず、ご飯もあまり食べられない様子でした。
やがて寝る時間になって、明日に備えてベッドに入りました。
でも、お姉ちゃんのことも、明日のことも心配で…なかなか寝付けませんでした。


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