12/11/15 02:28:20.75 sasmuLf+
>>84
「そんなに見詰められると流石の私でも照れてしまうわよ」
「あ、すすすみません!! ただ、その…綺麗だなって…」
「あら、正直ね」
「じゃなくて! えっと…」
「何だ違うの?」
「い、いや…違わないんですけど!! あの………ぁぅ」
「そこまでだ。余りハヤトをいじめるなよ」
「良いじゃないの。折角さっぱりしたんだから気分良いままでいたいじゃない?」
生まれて初めてハヤトは異性の容姿を称賛する事の気恥ずかしさを思い知る。
思わず口走った言葉が余りにもむず痒く、顔から火が出る勢いで真っ赤に染まっていた。
「ま、何はともあれ時間も丁度良くなったし…ハヤトも一つ経験した所で晩メシ食べに行くか」
「折角旅館に来たのにバイキング料理なんて」
「お前がそれ言うか」
「良いじゃん。好きなもの選んで食べれるんだからそっちの方が嬉しい」
「………まぁ翔はそうだろうな」
我が弟ながらと言わんばかりにハジメと硝子はがっくりと肩を落とす。
「今度テーブルマナーの教室にでも行った方が良いかしら? 私もちょっと自信無いし」
「真剣に検討しておく」
「…何なんだよ」
「あんたが…いえ、もう良いわ」
またこの話題になるのは本日何度目だろうか。
いい加減に二人も諦めが付いたようだ。
取り敢えず翔に対する教育方針が見直されたのはまず間違い無い。
「あ…」
一度だけ、他人の容姿を誉めた事があった。
それは他でも無い翔に言った言葉であり、翔と付き合う切っ掛けとなった言葉でもある。
単純明快な言葉。
「あの時可愛いって言ったけど…」
確かに翔は可愛いと今でも思っている。
ただし、今の“可愛い”はまるで小さな子供を見る時と同じ。
決して目上の人物に対する意味合いとしては使えない。
(もう少しがんばりましょう…)
心の中でひっそりと、翔に採点評価を下した。
(でも、それって僕も同じだよね。“大人になる”…か)