12/10/20 03:10:25.25 sxONPjZx
>>78
「じゃ、気を取り直して…。四名様ごあんな~い!」
そう言って迷わず中央階段を登り始めたタローを、ハジメは獲物を射落とさんとする程の形相で睨み付けていた。
まぁ睨み付けただけで文字通り手も足も出なかった訳だが。
「部屋はこの階段を登って更に奥にある廊下の一番奥だよ。端っこだから覚えやすいよね?」
「へ、へぇ~。凄く良い場所なんですね」
「そうだね~。丁度キャンセルが入ってたから、おじさんが開けておいてくれたんだ。ほらほら、ハジメチャンもう少しだよ~」
「……………」
とうとうハジメの反論は完全に潰えてしまう。
実際言い返すだけ無駄なのもまた事実なのでどうしようも無いのだから。
(ハジメさん…ごめんなさい……)
一応心の中で謝っておく。
一足先に駆け上がっていた翔が上から手を振っていた。
「お~い、早く来てみろよ」
「あははは、翔クン元気だね~」
「あれで昼までは病人だったんだから。弟ながら毎回感心するわ」
「若さってやつだね~」
「タローってたまにじじむさいな」
「何か見付けたのかな?」
「ハヤトクンも行けば分かるよ」
タローが階段の上を指す。
かく言う自分も興奮を押さえきれずにいる一人であり、言われた時には既に階段を走っていた。
「何かあったの?」
「良いからあれ見てみろよ」
そう言って翔が指したのは、この吹き抜けの中心部分となる場所だった。
「わぁ…」
そこには天井に吊り下げられた揺り籠の様な浮島があり、フロアの水路の起点となっているらしい。
「行ってみようぜ」
「あ、病み上がりなんだからあんまり走らない方が良いよ」
「もう大丈夫だって。ハヤトも心配性だよな」
(それが無理してる様に見えるから心配なんだってば)
「………とにかく、先輩一人で突っ走らないでよ」
「へ~いへい」
「全く…どっちが先輩でどっちが後輩なんだか」
「むぅ、それは聞き捨てならないな」
やはりこの言葉は釘を指すのに最適らしい。
特に翔は敬語こそ苦手としていても、自分が歳上である部分はかなり意識している節がある。
「あれ、虹が見える?」
「本当だ」
「あれは…?」
連絡階段を登ると、水の音がより一層大きくなる。