12/10/20 03:06:40.35 sxONPjZx
>>76
「アイツ、自分が病人だった事忘れてんな」
「待ってよ先輩、僕も行く!」
「あ、おいコラ手伝えお前ら!」
「良いじゃないの。“オニイサマ”」
「別にお前には期待してない」
「じゃあお言葉に甘えて」
両手が塞がっているハジメの首に自分の荷物を引っ掛けて、硝子は手ぶらで二人の後を追った。
「あのやろ、いつか潰してやる」
右に左によろめきながら、ハジメは一行の殿を強制的に務めるのだった。
その頃ハヤトは何とか翔に追い付き、二人で外観を見て回っていた。
「海に近いけど、裏は結構森の奥まであるみたい」
「本当だ」
「外から見ると結構不気味だね」
「そ、だな…」
「何でそこで咬むのさ」
「いや、別に…」
「まぁ良いや。そろそろ戻ろう。ハジメさん達着いてるかも」
「だな」
下ろしていた荷物を持ち上げ、二人は正面に戻る。
すると何故か手ぶらな硝子と逆に手荷物で達磨状態になっているハジメが待っていた。
「ちょ…どんな状況?」
「ハジメ兄ぃが快く荷物を引き受けてくれたから。さぁ、入りましょう」
「コノヤロ…」
「て、手伝いましょうか?」
「ここでハヤトに頼んだら多分俺の負けだな」
最早兄妹間の争いは勝ち負けの問題にまで発展していた。
流石にそれには苦い笑いを浮かべるしか無い。
結局現状は何も変わらないまま、ハヤト達は自動扉を通り抜ける。
その瞬間、涼しげな空気がハヤト達を出迎えた。
「す…げぇ……」
「きれいとかそんなんじゃなくて、とにかく凄い…」
玄関ロビーの先の景色に二人は目を奪われる。
身体中に伝わる涼しげな清涼感の正体は、吹き抜けの回廊に沿って流れる小川によるものだった。
どうやら最上階の噴水から各階層に流れる様に設計されているらしい。
もう少し奥を覗いてみると、小川の行く先には中央の大階段があり、その両端を囲む様な滝になっている様だ。
宛ら自然にある水の芸当を全て取り込んだ、水の美術館と言った所か。
「ようこそ。遠路はるばるご苦労さん」
景観に見とれていると台車の車輪の音と共に、明るい声の少年がハヤト達の前に現れた。
台詞から察するに、彼がハジメの言っていた親戚なのだろう。
「翔クンはボクの事覚えてないかな~? 昔一緒に遊んだ事あるんだけどな~」
「え~っと…。あ、あーっ! 思い出した、タロ兄ぃ!!」
「イエース!」
ややオーバーなリアクションを取ると、息も吐かせぬ間に少年は翔に勢い良く抱き付いていた。