12/10/20 03:02:20.42 sxONPjZx
>>73
高速道路を降りた時点で既に時刻は午後の前半部分を終了仕掛けていた。
更に国道から逸れた山道を右に左に揺られながら走る事一時間半。
林の隙間から見える日光が橙色に変わり始めた頃、ハヤトはその隙間の奥に小さな光を見付けた。
「わぁ…」
木々の隙間が少しずつ広がるく。
その度に、橙色の光は強くなっていく。
その正体を、ハヤトは遂に目の当たりにする。
山道を抜けると、そこは小高い丘の上。
その目と鼻の先には果てしない水平線に煌めく太陽が沈み行く直前の、昼と夜の境目が写真の様に広がっていた。
「凄い、きれい…」
「これぞ海って感じだな」
「そうね。この時間にこの道を通った事は無かったから、私も始めて見るわね」
「だな。もうすぐ目的地だぞ」
「本当?」
「旅館…って言ってましたよね。きっと眺めも良いんだろうなぁ」
様々な期待が自分の中で膨れ上がるのが分かる。
それは翔も同じだった様で、自然と顔を見合わせて笑い合った。
「おー楽しみにしておけ。絶対にお前ら気に入るだろうからな」
ハジメのその言葉で、旅先の期待値は一気に跳ね上がった。
「結局、海は明日と明後日になってしまったけどな」
「しょうがないですよ。時期も時期ですから」
「そーそー。それに、遅くなったのは俺のせいもであるからさ」
「………サンキュ」
ハジメが肩を竦めてみせると、硝子からクスリと小さな音が聞こえた。
「…波が小さいわね」
「波?」
道路が砂浜に近付くと、ポツリと硝子が呟いた。
「そうだな」
ハジメはどうやらその意味を知っているらしい。
もう一度翔と顔を見合わせるが、翔も怪訝そうな表情を浮かべていた。
「やっぱ翔は覚えて無いか」
「ん?」
「ま、それもすぐに分かるさ。よし、着いたぞ」
「おぉすげえ!」
玄関口を真っ直ぐ進んだ先に、正に楼閣と呼ぶに相応しい五階層の建物が見える。
先刻目の当たりにした夕陽が建物の窓にいくつも映り、更に建物その物も夕陽に照されている為、建物全体が金色に染まっていた。
「本当に海に近いんだ」
「そうね。地元のカレンダーに使われたりしてるみたい」
「ふぇ~」
「さ、荷物持ってさっさと部屋行こうぜ。かなり待たせてしまってるしな」
「おー」
トランクから自分の荷物を取り出すと、ぱたぱたと旅館の方へ駆けて行ってしまった。