12/09/23 07:59:52.90 2s3osFvU
>>72
額に手を付き、硝子は肩を竦めた。
どうやら硝子には翔が居なくなるのは想定の範囲内だった様だ。
流石姉弟と言いたいところだが、この場合は何か根拠があるのだろう。
論理的な思考に基づいて硝子は言葉を紡ぐ。
それはこの夏休みでハヤトなりに硝子を見てきたからそれなりに解る。
「不思議そうな顔してるけど、あなたもすぐに解るわよ」
「え…?」
「あれ、もう戻って来てたのか?」
驚きと安堵が入り雑じった、奇妙な感覚がハヤトにまとわり付く。
振り返ると、何事も無かったかの様に翔がそこに立っていた。
更に両手には何処かの店で買ってきたらしいカップアイスが握られている。
昨日の光景を再現しているのかとも思えた。
(そっか…。だから硝子先輩…)
「あんたねぇ、ハヤトが待っててって言ったのに何処かに行ったらハヤトが心配するでしょう」
「そうだよ。びっくりしたじゃないか」
「うぅ、ごめん…」
「まぁそれだけ元気ならもう大丈夫でしょ。ハジメ兄ぃも待ってるから、アイスは車で食べたら良いでしょう?」
「そうだな。じゃあそのお茶だけでも貰おうかな」
硝子にカップアイスを手渡し、代わりにハヤトの手にあったお茶を翔は受け取る。
「んじゃ、いただきます」
「硝子先輩は?」
「私は自分のお茶は車に置いてるから。それに貴方が持ってきたんだから、貴方が飲むべきでしょう」
「じゃあ、遠慮無く…。いただきます」
とても熱くて一度には飲み干せなかった筈のお茶を、二人は苦もなく飲み干してしまう。
それだけ時間が過ぎてしまったのだと気付くと、ハジメを車を随分と待たせてしまっている事を明示していた。
「急いで戻ろう。ハジメ兄ぃずっと待ってるからな」
「あんたがそれ言う?」
「あぅ…」
「ま、まあまあ…」
車に戻る途中、ハヤトは一人足を止める。
何事も無かったかの様にハジメの元へと戻る二人を、ハヤトは一人眺めていた。
(誰かに心配されるのが申し訳無い…違う。怖い、か…)
ハヤトには翔の今の明るさはただの空元気にしか見えなかった。
(ううん、それだけじゃ無い)
翔だけで無く、ハジメと硝子の二人にも何か違和感を感じていた。
三人揃って蒼井家の兄弟である筈なのに、何処かに亀裂が見える。
無論、それが不仲な関係を現している訳では無い。
寧ろその逆で、必要以上に“兄弟であろうとしている”様に見えてならないのだ。
(そんなの、当たり前なのに。当たり前、だから…?)
「ハヤト~何やってんだ? アイス溶けちゃうぞ!」
「あ、ごめん。今行く!」
(僕の考え過ぎ、だよね?)