11/10/21 12:01:52.26 plHsczxR
>>36
ただ単に翔が眠っているから。
だからこれは、ほんの人形遊び。
それに気付いてしまったのは、それから暫く後の事だった。
自分と翔が幼稚園に入園して、自分と同じ年齢の子供達が楽しんでいた。
楽しい楽しい、御飯事遊び。
そう思い知る。
何も変わっていなかった。
翔に心を許したと思っていた。
現実は、ただ翔を玩具に見立てて遊んでいるだけだった。
ふと、中庭を見やる。
年少組の甲高い声が絶えず聞こえて来た。
一人窓際の椅子に座り、その様子を眺める。
幾つもの輪があって、その島のひとつの中心に翔が居た。
どうやら陣取りゲームの一環の様だ。
ルールは詳しくは分からないが、取り敢えず翔側が有利に動いているらしい。
「どうしたの? あの子達と一緒に遊びたい?」
出来る限り優しい声を取り繕ったつもりだろう、気味の悪い音色で保母担任が話し掛けて来た。
自分がクラスの輪に溶け込めて無いのを危惧しているのだろう。
「別に。ただ弟を見ていただけだから」
「弟…? あぁ、翔君。弟を気に掛けているなんて、硝子ちゃんは良いお姉ちゃんね」
近所の伯母さん達の井戸端会議のそばを通ると、必ず聞こえて来る決まり文句。改めてここまで気分が悪くなるとは思わなかった。
「そんな事無い。もう翔には私は必要無いみたいだから」
「え?」
「別に、何でも無いわ」
どうやら外の喧騒に掻き消えて、言葉が伝わらなかったらしい。
椅子から降り、近くに居た女の子の集団に紛れ込む。
(そう…。もう私は必要無い)
ゲームのリーダーシップを握っていたのは、紛れも無い翔だった。
クラスで浮いている自分とは違い、翔はその中心人物になっていた。
まともに他人と付き合った事の無い翔が、たった数日でその環境に馴染んでいるのだ。
だったらこんな自分なんて必要無い。
それだけ。