11/07/29 02:45:50.03 XaiORdds
>>28
「撮影用の、小道具…」
「なっ…。じゃあ、さっきの停電…」
「えぇ。ただこの場所の電気を消しただけ。暗がりの中でもすぐに仕掛けられる様にしていたの。廊下も元々暗かったから、セシルも気付かなかったみたいね」
撮影用だけあって見た目こそ本物に見えるが、感触はただの絵の具でしかない。
考えてみれば、飛散痕が波紋状に広がっている筈が無いのだ。
「ペイントボールは失敗したと思ったけど、なかなか様になってるでしょう?」
「何、で…」
「確証が欲しかった。ただそれだけ」
「確証…?」
「あれだけ見せ付けられたもの。諦めも付くと言うものでしょう?」
血溜りに近付くと、彼女は底の栓を一気に引き抜く。
その後に近くのホースで血糊に御湯をかけた。
当然その朱は流れ落ち、何事も無かったかの様に排水口へ消えて行った。
「さっきの話も、嘘…だったの?」
「さぁ、どうかしら。それはケビン、貴方が決めて良い事じゃないの? いいえ、貴方の気持ちが自ずと決めてくれる筈」
「僕の…」
それだけを言い残して踵を返すと、彼女は風呂場から出て行った。
辺りがしんと静まり返る。
何処かの水道の音すらも嫌に大きく聞こえた。
「そんなの、分かんない…分かんないよ……」
喉まで出掛かった言葉をぐっと飲み込む。
それはこの場に居る誰にも聞いて欲しく無かった。
「ケビンは知らなくて良い事だよ」
きっと自分は此所に居られなくなる。
何処か遠くへ、消えてしまいたくなる。
余計な優しさに、潰されてしまいそうになる。
(ごめん、ケビン。その理由はボクには教えてあげられない。教えたく、無いから…)
初めて、自分が父親と同じ血を引いている事を自覚する。
独占欲と言う底知れない嫉妬深さに、何処までも墜ちて行けそうな気がした。