11/07/29 02:31:40.35 XaiORdds
>>23 また名前消えてた
「あんまりだよ。そんなの…」
「どうなのかしらね。周囲が悪かったのか脚本が悪かったのか。若しくは心弱かった二人か…。私には分からないわ」
不意にセシルは服を引っ張られる。
先刻まで自分のすぐ前に並んでいた男の子だった。
「ねぇ、おとこのひとがおとこのひとをすきになったらだめなの?」
「え?」
「だってぼく、みんなのことだいすきだよ? それってだめなことなの?」
成る程と思う。
この男の子の『すき』は…
「馬鹿ね。そう言う『すき』じゃ無いの。難しい言葉で言うと、お互いを愛し合う事を言うの」
儚くも哀しい程に純粋な、子供の疑問。
それに対して、少女は言い訳もせずに真っ直ぐ答える。
「覚えておきなさい。一つの言葉に対して意味は一つとは限らない。今は分からなくても少しずつ、その意味を考える様になれば良いから」
その少女の瞳は何処か淋しげで。
泣き出してしまうのではないかと思った。
「ここまで来れば後は在り来たりな話し。夜中に大浴場を使っていると、何故か湯船のお湯が真っ赤に染まるの。発現条件は分からないけどね」
「それが、その二人の血だって事?」
「まぁ、そうなるわね」
余りにも謂れの方が大き過ぎて、怪現象の方が霞んでしまう。
予想通り誰も怖がっている様子は無い。
「何か…うん」
「あら、拍子抜けしている余裕は無いわよ。成就出来無かった想いが怨念となって、仲睦まじい人が居ようものなら襲われるかも知れないんだから」
「え…?」
思い当たる節があり過ぎるだけに、その新情報は見逃せない。
怪現象を信じている訳では無いが。
「幽霊で無くても嫉妬って怖いものだもの」
「嫉妬、か…」
人間の負の感情の象徴。
溢れ過ぎると破裂してしまう、爆弾の様なもの。
人を人として見えなくしてしまう、快楽の無い麻薬。
「それって、好きな人同士が居たら…」
「想像の通り、引き裂こうとするわね。彼達にしてみれば、成就しなかった想いを当て付けられているんだもの」
それが本当だとしたら、その二人の傷は相当深くまで刻まれているだろう。
「そんなの…」
「ケビン?」
「あ、ううん。何でもない。それより、そろそろ行かないと遅くなっちゃうよ」
「そうね。私も随分と長話をしてしまったわ。お風呂を早めに切り上げるなんて愚行はしたくないし、もう行きましょう」
先刻の列を再び作り、一行は足を進める。
だが、その間に口を開く者は居なかった。
大浴場の前に着いても、時間を確認するだけだった。
ようやく口を開いたのは子供達だった。