12/03/10 00:20:28.48 Y+opnwLA
「…………」
私は電子戦用エンジェロイドタイプβニンフ。
私は今、とても落ち込んでいる。
「なんで、なのよ……」
トモキに食べてもらおうとケーキを作り始めて結構な時間が経った。
だけどケーキは一向に完成しない。失敗作のスポンジだけが、どんどん増えてゆく。
膨らまなかったり、焼き過ぎて焦げちゃったり。どうしてきちんと出来ないんだろ。
「ニンフセンパーイ! これも貰っちゃっていいんですかー?」
「いいわよ。もう、好きなだけ食べちゃいなさい」
「わーい! ケーキいっぱいー!」
仕方ないから失敗作は全部デルタに食べさせてる。
この子も喜んでるんだから、別にいいわよね。
「さて、と。次こそは……っ」
だけどこのままデルタのエサを増やし続けるワケにもいかない。
私の目的は、そんな事じゃないんだから。
いい加減、成功させないと。
……………。
………。
……。
「センパーイ……もう食べられません……」
「…………」
決意を新たにしてからさらに一時間経過。ついにデルタが倒れた。
というかあのデルタに『もう食べられない』って言わせるとか、どんだけ失敗してるのよ、私。
「きゅぅ~……」
「…………」
眼を回してるデルタを見ると、さすがにヘコむ。
私にお菓子作りなんてムリなのかなって。
だけど、それでも。
私はこのケーキを自力で完成させて、トモキに食べてもらうんだから。ゼッタイ。
だから、まだまだ諦めるわけにはいかない。
あと何回だって、挑戦してやるんだから。
「……わ」
思わず声が出た。オーブンから出てきたスポンジケーキは、ちゃんと膨らんでる。
黒く焦げてたりもしない。
やっと、出来た。
「まったく、手間をかけさせてくれたわね」
口元が緩みそうになるのを抑えながら、出来上がったスポンジケーキをテーブルの上に運ぶ。
しばらく冷まして、今度はデコレーションに入る。
とりあえず冷ましてる間にクリームを……
「おーい、ニン―」
「あっち行ってて!」
「―フぅっ!?」
部屋に入ってこようとしたトモキを拳で追い出した。
私は電子戦用エンジェロイドタイプβニンフ。
直接戦闘は得意じゃないけど、それでもパンチ一発で人を吹き飛ばす事くらいは出来る。
「というかアルファはどうしたのよ。見張りを頼んでおいたはずなのに……」
多分アルファの事だから、トモキに通りたいって言われたら、強く出られなかったんだろうけど。
どっちにしても、これでしばらくは入ってこないでしょ。イタかっただろうし。
「……ゴメン、トモキ」
少しだけ、罪悪感。
でもこれも、美味しいケーキを完成させる為なんだから。自分にそう言い聞かせた。
「えっと、生クリームとチョコレートを耐熱容器に入れて……」
今はケーキ作りに集中。これ以上失敗しないようにしないと。