11/05/30 21:14:56.57 zqokQQry
なんだって?
あやせが?
どこに、行くって…?
「あやせが…!海外に行くって言ったの!!」
怒鳴る桐乃に、俺はどんな顔をしているのだろう。
きっと、説明出来もしない顔だと思う。
今の俺には、どんな表情をすればいいのかわからないから。
「あやせが海外に行くって…どういうことだよ?旅行に行くって話じゃねえの?」
んなわけない。
わかってても、そう願わずにはいられない。
「んなわけないじゃん!海外に移住するって言ってんの!!」
目を潤ませながら、桐乃は叫ぶ。
つかちょっと待て。今、とんでもない事を言ってなかったか。
「移住…?留学じゃねえのか?」
桐乃は頭を横に振り、「違う」と言った。
「あんた、美咲さん覚えてる?」
「美咲…?」
「私があんたに彼氏役になってもらった時に、会った女の人」
「…お前を、ヨーロッパに連れて行こうとした人か?」
「そう、その人」
美咲さん、確か本名は美咲。
桐乃を専属モデルにスカウトしていた、どっかの大手会社の社長だった気がする。なにせ、一度しか会ってないから、あんまり覚えてないんだよ。
美咲さんは、桐乃をひどく気に入っているようで、前に桐乃を本社があるヨーロッパに連れていこうとした。
それを阻止するために――詳細は省くが、俺が桐乃の彼氏を演じてデートまでするはめになったのだが…。
久しぶりに聞いた名前に、嫌な予感がする。
「その美咲さんに誘われて、海外に行くことにしたって…」
「あやせが…?」
そんなワケがない。
そんなことがあるワケがないんだ。
ガッと桐乃の両肩を掴む。
桐乃は、それに抵抗しようとしなかった。