11/08/16 16:30:49.28 FjO6963G
「で、結局なんて言ってたの?その曲の名前」
「ああ……、旅ガラスのうた、だって」
「うわ、直球だねぇ。ま、維織さんらしいかな」
維織さんの失踪からはや一週間、俺は閉店後の喫茶店でコーヒーをすすっていた。
いつもの席、いつものコーヒー、けれども、一番大切な、いつもの人はもう居ない。
思い返せば、ヒントはあった。維織さんが語ったあの曲のストーリーに、維織さんが居なかった理由。
『ヒーロー』は、救うべき人の真実を知らなかったからだ。
『ヒーロー』は、どこかで道を間違えたのだ。
『ヒーロー』は、あの晩、最後のチャンスを見逃したのだ。
だから、『ヒーロー』が主人公である話において、維織さんの話は語られないまま終わった。
維織さんが何のためにあの曲を作ったのか、俺には推測しかできない。
ただ、もし、あの曲が、全てを諦めていた維織さんの、僅かに滲み出た無意識な未練だったとしたら……。
お笑い草だ。『ヒーロー』は、本当に守りたかったものを、目の前で見殺しにしたのだから。