11/07/14 19:17:32.99 Eo4X49+E
「と、冬夜…」
冬夜のその行動に私は安堵し、冬夜に甘えるように両手を広げて助けを求めた。
「…校長先生から浜深先生に学校を案内しろと言われてるので今日は無理です。それでは」
一度此方へ一礼すると、何事も無かったように歩いていってしまった。
私は両手を広げたまま固まる…。
いつもなら、私が助けを求めると冬夜は助けてくれた……この小さな段差だって、私一人では無理かも知れないが、冬夜と一緒なら問題無いのに…。
冬夜に壁を作られた?
「無い…ある訳無い…」
冬夜が私に壁を作る訳が無い。
だって冬夜とはこれからもずっと一緒に居るんだ。
結婚の約束はしてもらえなかったが、いずれ結婚もする。
そうなればずっとこの島で一緒に暮らしていける…。
「やっぱり…叩いた事を…」
それしか考えられない…他にあるとしたら……あの女…。
まさか…あの女と浮気?
「ダメだッ…私の醜い嫉妬がライトを怒らせた可能性もある…」
じゃあ、あの女に冬夜を盗られてもいいのか?
そんなの絶対に嫌だ。
でももし既に身体の関係を持っていたら…。
だから、私を置いて一緒に学校へ…
「いや…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、いやぁぁぁぁぁ!!」
237:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:17:56.42 Eo4X49+E
頭を抱えて悲痛な叫び声をあげる。
その瞬間、私の膝に置いてあるバスケットが勢いよく地面に落ち、段差を転がっていった。
咄嗟に手で庇おうとしたが、間に合わなかったのだ…。
「あぁ…」
バスケットの蓋が開き、中身のサンドイッチが外に飛び出してしまっている。
これじゃあもう食べれない…。
「どうしたんですか?藤咲先生」
廊下の方から同僚の教師が歩いてきた。
この人も昔からお世話になってる一人。
「ん?…あぁ、落としちゃったのね」
そう言いながら、同僚は段差を降りてバスケットを掴もうとした。
「やめろッ!触るな!」
バスケットに触れようとする同僚を後ろから怒鳴る。
肩をビクつかせ此方を振り返ると、首を傾げて「何が?」と問いかけてきた。
そのバスケットは私と冬夜のモノだ。
「冬夜が来てくれるので、大丈夫です」
「そ、そう…それじゃ気を付けてね」
気が触れたと思われただろうか?
別に問題ない…誰に何を思われようと冬夜が居れば。
「冬夜!」
冬夜が消えていった中庭奥の方角へと呼び掛ける。
「バスケットを落としてしまったんだ!だから拾ってくれないか!」
冬夜なら絶対に来てくれる。
238:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:18:19.18 Eo4X49+E
「居るんだろ!?私を降ろしてくれたら私が片付けるからッ、だから早く戻ってきてくれ!」
冬夜からの返答は無く、姿も見えない。
「あ、謝ったら許してくれるのか!?意地悪してるならもうやめてくれ!私が悪かったから!私が…悪かったから…」
私の叫び声はすべて空に吸い込まれていく。足が動けば、今からでも冬夜を追いかけるのに。
「うぅぅぅぅッ!」
自分の足を力一杯殴る。
足に痛みは感じない…だけど胸の痛みは増す一方だ。
「このっ、このっ、こッ痛!」
手を振り上げて足を叩くはずが、車椅子に手をぶつけてしまった…。
小指から血が出てる…
「冬夜…冬夜…冬夜!指から血が…出たから…治療を…」
指を必死に段差の向こうへと差し出す。
しかし冬夜はいない…。
だけど…段差の向こう側に居る冬夜に私の痛みが伝われば……そう脳裏に少し浮かんで消えていった。
私は何をしているのだろうか?
冬夜を傷つけ…冬夜に愛想を尽かされ…。
他の女に盗られて…。
「うぅ…ぐッ…ひっ…く…うぁ…」
ポロポロと目から流れ落ちる涙が動かなくなった足を濡らす。
この日嫌というほど再確認させられた…。
―私は冬夜に生かされているのだと。
239:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:18:42.14 Eo4X49+E
■■■■■■
「はぁ…ただいま…」
誰もいない自宅に一人虚しく帰ると、鞄をテーブルの上に投げて畳の上に寝転んだ。
学校に来て一年と数ヶ月…まさか僕が指導役に選ばれるなんて…。
校長からの頼みだから仕方なく受けたけど、やはり疲れる…別に浜深さんに問題がある訳じゃ無い。
浜深さんは熱心に仕事を覚えようとしているし、生徒とも仲良くしようと頑張っている。
……問題があるのは僕だ。
「早く守夜さんと仲直りしなきゃなぁ…」
朝からずっと守夜さんの事を考えっぱなしだ。
喧嘩の原因が原因なので此方から謝るのはシャクだと思っていたが、そうも言ってられなくなってきた。
守夜さんがあの状態ならいつかバレてしまう。
「今から謝るかな…」
受話器を取り、番号に人差し指を持って行く。
「……電話はダメだな」
守夜さんと電話で話して上手く話せた例しが無い。
受話器を置いて、再度畳に寝転がる。
「流石にフラれたかな…」
実は今日の放課後に謝ろうと思っていたのだが、守夜さんは僕を待つこと無くすぐに帰ってしまったのだ。
やはりあの昼休みの出来事が溝を広げてしまったようだ…。
240:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:19:13.29 Eo4X49+E
学校内でお互いの名前で呼ぶのは辞めようと提案したのは僕だが、初めから守夜さんは気に食わなかったのだろうか…。
「とにかく…明日謝らなきゃ」
明日の朝、学校に行く前に守夜さんの自宅に行って謝ろう…。
それが一番良い。
許してもらわなければ…。
「……はぁ~…」
大きくため息を吐き捨てると、カップラーメンに手を伸ばした。
「守夜さんの手料理が恋しい…」
人の手料理に慣れると、インスタントは本当に味気なく感じる。
お湯を入れて三分で出来る料理より、一時間待って僕の為に作ってくれる料理の偉大さにこんな時に痛感するなんて……本当に早く謝って関係を修復したほうがよさそうだ。
―翌朝。
朝早く起きた僕は早速守夜さんの家に向かった。
「守夜さんいますか?守夜さん?」
しかし、先ほどから何度となくノックをしているのだが、出てくる気配を見せない。
仕方なく合鍵で扉を開けて中を覗き込んでみた。
「あれ…もう学校に行ったのかな」
既に守夜さんの靴は玄関から消えていた。
何か授業の準備でもあるのだろうか?
腕時計に目を落とす…まだ6時になったばかりだ。
「僕も学校に向かうか…」
学校に居るなら学校で謝ればいい。
241:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:19:37.85 Eo4X49+E
どうせ生徒達はグラウンドと体育館で遊んでるはずだ。
この時間帯に学校に向かったなら、職員も少ないだろう。
謝る場所が少し違っただけだ…問題無い。
守夜さんの家の扉を閉め鍵を掛けると、足早に学校へと向かった。
―学校へ到着すると、まず校門から見える図書室に目を向けた。
カーテンが閉まってる…となると別の教室。
「まだ来てないって事は無いだろうし…」
「須賀先生!」
表玄関から職員が慌てた様子で走り寄ってきた。
どうしたのだろうか?
「早く、校長室へ行きなさい!」
「ぇ…校長室ですか…?でも鞄は…」
「そんなもん私が預かってあげるから早く!」
職員に背中を押されて学校へと入った。
なんだろうか?
何か問題でも起きたのだろうか…もしかして昨日の浜深さんの指導が悪かったとか…。
「はぁ…胃がキリキリする」
次から次へと問題が出てくる…守夜さんにも謝らなきゃいけないのに。
重い足取りで校長室へと向かうと、校長室の扉を軽く二回ノックした。
「はい」
中から聞こえた声は校長の声だ。
「あの~、須賀ですけど…」
「入っていいよ」
「はい、失礼します」
扉を開けて中へと入った。
242:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:20:04.10 Eo4X49+E
―まず目に飛び込んで来たのは、車椅子…そして守夜さんの後ろ姿だった。
周りには数人の職員達が此方を見ている。
「……藤咲先生の横に立ちなさい」
校長の指示に従い、守夜さんの隣に立つ。
意味が分からず、理由を求めるように守夜さんを見下ろした。
「ぇ…しゅ、守夜さん!?どうしたんですかその頬!!」
守夜さんの頬には赤く滲んだ大きな絆創膏が貼られていた。
おまわずしゃがみこんで守夜さんの頬に目を近づけた。
昨日の夕方までこんな傷なかった…だとすると昨日の学校の帰りか昨日の夜…そして今日学校に行く時…。
「昨日の夜に包丁を滑らせて怪我をしたそうだ……後数センチずれていたら命に関わったそうだよ」
「ッ……(僕は何をしているんだ!)」
心の中で自分に激怒した。
守夜さんは車椅子…こういう事故はいつ起きてもおかしく無かったはず。
もし僕が守夜さんについていたら、こんな事故は……。
「冬夜…ごめんなさい……これで…許して…」
「ぇ…何を許y「それでだが…君に聞きたいことがあって呼び出したんだ」
校長の声に我に返った僕は守夜さんから手を放して立ち上がった。
243:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:20:27.29 Eo4X49+E
―しかし、守夜さんが放した手をギュッと握って来た。
再度守夜さんを見下ろして手を放そうとした……が、守夜さんは僕の手を放さなかった。
震える汗ばんだ手で僕の手を一生懸命握っていた…。
「はぁ……付き合ってるんだね?」
校長がため息を吐き片手で頭を押さえると、椅子に腰かけた。
他の職員も何とも言えない顔を浮かべて立っている。
「……はい」
これはもう誤魔化しようがない…。
いつの間にか守夜さんの事も普通に呼んでしまっている。
「分かった…これは教師としてでは無く、一人の人間として聞くが…守夜と結婚する気はあるのか?」
「…ありますけど……今の僕でy「冬夜とはもう結婚も決まっている。ただ、ちょっと様子を見ていただけなんだ」
「そうか…なら皆に報告しなきゃな」
報告?なんの報告だ?
しかも結婚が決まってるって…。
「ちょ、ちょっとまっy「守夜も結婚かぁ…島の皆が喜ぶな」
「喜ぶどころじゃないだろ。早く子供見せてくれよ!」
「式は早いほうがいいだろ。いつするんだ?」
「まだ詳しく決まっていないが、今年中にはしたいな…」
おいてけぼりのまま話が進んでいく。
244:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:21:25.63 Eo4X49+E
別に守夜さんと結婚するのが嫌な訳じゃ無い…嫌な訳じゃ無いけど、結婚はちゃんと二人で話し合って―
「それじゃ、結婚式は10月ぐらいはどうだろうか?ねぇ。冬夜…」
守夜さんが僕を見上げる。
その眼は僕の全てにすがり付くように弱い眼をしていた。
「…そうですね」
コクッと頷き守夜さんから目を反らした。
結婚は切っ掛けだとよく言われているが、これが結婚する切っ掛けだったのだろうか?
―分からない…分からないけど、皆が話す内容に僕は他人事の様に無言で頷く事しかできなかった。
245:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:23:25.38 Eo4X49+E
ありがとうございました、投下終了です。
夜と闇はあと一回~二回で終わりです。
246:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:39:39.67 dBLkz/2R
>>245
乙
冬夜に何かイライラする しっかり支えてやれ的な
247:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:43:30.91 voZfCAJX
複数連載してると時折ごっちゃになる、といわれているがその様を見た
248:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:48:55.08 Eo4X49+E
あれ…何か間違ってましたか?
249:名無しさん@ピンキー
11/07/14 20:03:57.78 gCOJclFu
>>236かな?
250: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 20:09:34.29 Eo4X49+E
本当だ…。
>「ダメだッ…私の醜い嫉妬がライトを怒らせた可能性もある…」では無く
>「ダメだッ…私の醜い嫉妬が冬夜を怒らせた可能性もある…」です。
すいませんでした…。
次から気を付けます。
>>249
ご指摘感謝します。
251:名無しさん@ピンキー
11/07/14 23:20:19.75 w85DUt+f
>>245
投下乙
面白かった
不穏な空気が漂ってるけど
二人には幸せになって欲しいな
252:名無しさん@ピンキー
11/07/15 07:33:08.00 2Fsv8aDl
GJ!
冬夜にイライラはわかるわw
守夜さんの病院の先生に拗ねて(嫉妬?)見せたくせに自分は棚上げだし、てか嫉妬される=信用されてないとか思考が短絡的すぎてもうね!
とりあえず守夜さんは可愛い
253:名無しさん@ピンキー
11/07/15 23:36:32.04 pVERdQO6
保管庫更新感謝します。
254:名無しさん@ピンキー
11/07/16 00:58:40.29 6vaenxm2
浜深先生はどう動くんだろうか…
255:名無しさん@ピンキー
11/07/16 16:23:35.97 zVgpGWAI
このスレに書いてたwkzのひと、プロデビューしたんだね
256:名無しさん@ピンキー
11/07/16 23:58:25.50 PtXR4jft
人すくないなぁ…
257:名無しさん@ピンキー
11/07/17 00:13:40.92 EotrCIil
保管庫更新ありがたいです
258:名無しさん@ピンキー
11/07/20 17:05:44.39 ri785uPi
キャッチャー
259: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:39:15.64 FTrQPxxE
夢の国投下します。
260:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:39:52.13 FTrQPxxE
「それじゃ、水汲みに行ってきますね」
「気を付けていくんだよ。森の中に入らなきゃ安全だから道を歩いていきな」
―翌朝、食事を終えた俺は老婆から頼まれた水汲みに向かう事にした。木の水桶を二つ掴み外へと向かう。
「あっ、ライト私も!」
食事をしていたメノウが、スプーン床に置き此方へ歩み寄って来た。
「ダメだ。メノウは食事がまだ終わってないだろ?」
で歩み寄ってくるメノウを片手で拒み、座るよう促した。
「帰ってきたら食べるからメノウも一緒に行く」
「ダメだ…メノウは此処で待つんだ」
メノウに背中を向けて靴を履く。
俺の肩に乗っているティエルが心配そうに俺を見ているのが視線で分かった…。
だけどこれもメノウの為なのだ。
「ライト!た、食べたよホラ!これでメノウも一緒に行っていい?」
靴を履く俺の横に走り寄ってくると、空になった皿の中身を見せてきた。
「…俺が帰ってくるまで此処で待つんだ」
「ライト……なんでメノウにイジワルするの!?」
立ち上がり家を出ようとする俺の前にメノウが立ちふさがり、睨むように見上げて来た。
「はぁ…別に意地悪じゃないよ……とにかくメノウは此処で待つんだ」
261:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:40:41.18 FTrQPxxE
「いやッ!メノウもライトと一緒に行く!」
自分の靴を慌てて履くと、俺の腕を掴んで外に出ようとした…。
「メノウ…い…言うこと聞かなきゃ…置いていくぞ」
―自分でも分かるぐらい声が震えていた。
メノウの手を払い外へと出る。
「置いていく?…なんで…そんな……」
「泣かずに此処で待ってろ…そしたら戻ってくるから」
涙声になるメノウに言い放つと、そのまま川へと足早に向かった。
「ライト~…あんたのする事間違って無いけどさぁ…ちょっと極端すぎるんじゃない?」
俺の肩に乗り耳元で愚痴るティエル。
極端になるのはしょうがない事…だって今日にはフォルグに入国し、メノウを親に引き渡さなければならないのだ。
俺だって焦る。
「ほら、川見えてきたわよ?」
森の中を一直線に抜けるとあっという間に川にたどり着いた。
老婆から教えられた道を行けば倍近くの時間が掛かってしまう…此方にはティエルが居るからボルゾに襲われる心配は無いはず…(クーが居れば一番安心なのだが…)
「冷たいわね……雪解け水かしら?」
ティエルが俺の肩から飛び降り、川に口をつけている。
262:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:41:07.05 FTrQPxxE
この山の裏は雪原が広がっているそうだから川に流れてくる水は間違いなく雪解け水だろう。
「よし…早いとこ済ませよう」
ティエルの横に座り水桶に水を汲んだ。
「ふ~…帰る…か…?」
ふと、水の中に目を向けた。
水の中には小さな魚達が元気に泳ぎ回っている。
川なのだから当たり前だ……それを目で追っていると一匹の魚が水面を綺麗に跳ねて見せた。
「ぉ……ッ!(な、なんだ…?)」
軽い立ちくらみがしたかと思うと、突然景色が色褪せ俺以外の全てのモノがゆっくりと動きだした。
ティエルの悪戯かと思いティエルに目を向けるが、同様にティエルも固まったまま動かない。
音も聞こえない―色も無い―。
目の前には先ほど跳ねた魚がゆっくり宙を舞っている。
「…(なんだろコレ…夢?)」
おもむろに魚に手を伸ばし、掴んで見た。
「うわぁあ!ライト凄い!!!」
ティエルの声と共に景色が瞬時に元に戻る。
「はぁ…はぁ…なんだ…今の?」
一瞬だが自分の身体じゃないような感じがした…。
「ねぇねぇ、もう一回やってよ!!」
ティエルが俺の膝に飛び乗ると、目を輝かせながら騒ぎ出した。
「…もう一回って何がだよ?」
263:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:42:10.77 FTrQPxxE
「一瞬で跳ねた魚をパシッ!て掴んだじゃない!!」
魚を掴んだ?
夢の話か?
「……あれ…?」
確かに…右手には魚が握られていた。
ピチピチとヒレを動かしてるあたりまだ新鮮な魚のようだ。
「これ…本当に俺が掴んだのか?」
確かに先ほど魚を掴んだ記憶はある…だけど自分の意思では無かった気がする。
「あぁ、そういえばライトは“人間の権利”渡しちゃったんだったね」
「人間の…権利?」
「ほら、あんたドラグノグの瞳使って自分の願望叶えちゃったでしょ?」
「願望…あぁ、あれか」
確かに…“あそこ”に居るホーキンズを攻撃する者達に殺意を持ったのは確かだ。
結果、数多くのバレン人を虐殺したことになってしまったが……俺は後悔していない。
「あの時、ドラグノグの力の権利とライトの人間である為の権利を交換する事になったの」
「なんだそれ!そ、それじゃ俺は今人間じゃないのか!?」
勘弁してくれ……自分の願望を叶える為に人を殺し、その為に人間の権利を捨て…これじゃ本当に魔王じゃないか…。
「人間は人間よ?ただ、ドラグノグの力の一部を貴方が貸してもらってる状態。言わば等価交換ってやつよ」
264:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:42:45.59 FTrQPxxE
「人間の権利とドラゴンの力…等価交換になってんのかよ本当に…」
「本来ならそんな契約あり得ないわね。人間の権利がほしいって思ったのもドラグノグみたいだし…あの子何考えてんのかしら」
俺に聞かれても分からない…ドラゴンが何を考えてんのかなんて……逆に人間が何を考えているのか分からないから、人間の権利を欲しがったとか…。
「てゆうか、ドラグノグはどうしたよ?」
気づけばいつの間にか空を飛んでいたドラグノグは姿を消していた。
「う~ん…ちょっと前に念飛ばしてきたけど……余(よ)の微笑みを受けて顔を強張らせた事を罪に思うがいい…とかなんとか…」
「なんだそりゃ?俺ドラグノグと会話なんかしたことないんだけど」
まったく意味が分からない。
いったいなに目的でアイツは俺達についてきてたんだか…。
「てゆうか人間の権利とやらを使って何をするんだ?」
「人間になってどっかで暮らしてみたいんじゃないの?あの子変わってるみたいだから」
ティエルはドラグノグをあの子呼ばわりしてるが、俺は一度痛い目に合っているので口が避けてもそんな事言えない。
「あれ…そう言えばドラグノグと戦った時に……いや…あり得ないな…」
265:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:43:27.74 FTrQPxxE
少し心当たりのようなものがあったが、あれは見間違いだろう…。
それにしても、自由に飛べる羽を捨てて汚れた人間になりたいだなんて…ますます謎は深まるばかりだ。
「それで…俺の人間の権利とやらはいつ帰ってくるんだ?」
「ん?そりゃ、ドラグノグが飽きるか、ライトが死ねば戻ってくるわよ」
「……あっそ」
ドラグノグが飽きなければ死ぬまで人間とドラゴンのハーフ擬きなのか…。
早くドラグノグが飽きてくれるのを待つしかないようだ…。
「……ッ!?ライト!!!」
「ビックリした…なんだよ?」
突然ティエルが頭を押さえて声をあげた。
「メノウの気が突然不安定になったわよ!!」
「な、本当か!?空を飛んで確かめてくれ!」
ティエルを空へ飛ばすと、剣を掴み水桶を取らずに走り出した。
―メノウを囲むように別の気が何体か見える!
「はぁ…はぁッ…くそ!」
油断していた…十中八九バレンの連中だ。
縺れる足で転けないようにしっかりと森の中をひたすら走り続ける。
―お婆ちゃんの小屋から移動する!早く行かなきゃッ!
「はぁ!はぁ!分かってるッよ!」
こんなことなら馬でくればよかった…。
266:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:43:55.95 FTrQPxxE
初めから森の中を通るつもりで馬は置いてきたのだ…浅はかだった…フォルグが目の前にある安堵からメノウを手薄にしてしまった…。
「はぁ、はぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!なんでいつもいつも要領悪いんだよ俺は!!」
苛立つ自分に怒鳴り付けた。
メノウを守らなきゃいけないのは俺だったはず。
その為にホーキンズは命を落としてまでメノウを守ってくれたんだ…。
それなのに…まだフォルグにも着いていないのに、メノウから目を放して…老婆がメノウを守ってくれるとでも思ったのか?
アホだ…アホ丸出しだ。
「ライト!」
森を抜けた直後すぐにティエルが空から降りてきた。
「何処へ行ったか分かるか!」
「うん!向こうへ走って行った!」
俺の肩に座ると、ティエルはある方向へと指さした。
「どういう事だよ…」
ティエルが指差した方角…それは俺達が目指しているフォルグ王国の方角だった。
バレン兵がメノウを連れて、フォルグに向かうのか?
確かにバレンはフォルグと同盟を組んだが……
「よし…ティエル…中に誰か居るか?」
無心で走り続けやっとの思いで小屋へと戻ってきた。
小屋の裏口に隠れて中を伺う。
ここからでは暗くて見えない…。
267:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:44:24.06 FTrQPxxE
「大丈夫…中からはお婆ちゃんの気しか感じられない…」
「……」
ティエルの顔を見た俺は何も言わずに小屋の中へと足を踏み入れた。
「おそ…かっ…たね…」
「なんて酷い事を……お婆ちゃん!」
ティエルが老婆目掛けて飛んで行く。
その後を追うように俺も老婆へ走り寄った。
「大丈夫ですか?(ダメだ…傷が深すぎる…)」
身体を急所を鋭利なモノで突き刺されている…多分剣か槍…。
壁には老婆の血らしきものがあちこちに飛び散っていた。
「あの子は…女神…様…だっ…たん…だ…ねぇ…」
「すいません…騙すような事をしてしまって…」
頭を深く下げると、弱々しく微笑む老婆の手を握り口に耳を近づけた。
「……この家に…火を…最後…家…から…」
「……分かりました…ティエル行くぞ」
一生懸命に治療を行うティエルに声をかける…が治療の手を止めようとしない。
「ティエル…もういいから行くぞ」
ティエルの手の上に手をソッと添える。
老婆はもう息をしていない…。
「……もういいってなによ…なんでこんな事になるのよ!!」
俺の手を払うと、此方を睨み付けてきた。
268:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:45:18.39 FTrQPxxE
「こんな事になるならッ……こんな事になるならライトに着いてこなきゃよかった!」
それだけ言い放つと、老婆の胸にしがみつきわんわん泣き出してしまった。
確かに…これは俺の落ち度だ。
川にメノウを連れていけば老婆は助かったかもしれない…。
だが…。
「ティエル……此処でお別れだ…じゃあな」
「ぇ……ラ、ライト!?」
ティエルの声を無視し、外へと飛び出した。
こんな所で立ち止まる訳にはいかない。
フォルグにメノウは俺が拐ったという証拠を見せなければ…。
ティエルには今まで助けられてきた…何も返せないが、これからは人間に捕まらないよう自由に生きてほしいものだ…。
「よし…行くぞ!」
馬に股がると、直ぐ様メノウの後を追いかけた。
メノウを拐った奴らは森の中を突っ切る度胸は無いはず…だとすると山道を走ってると考えるのが妥当…森を真っ直ぐ突っ切れば先回りできるかも知れない…一か八かだが…それに賭けるしか方法は無い。
考える暇があったら行動だ…道から反れると森の中へと突っ込んだ。
この森を抜ければ雪原…雪がどんなものか一度も見たこと無いが、確か氷のようなものだと聞いた気がする。
269:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:45:56.16 FTrQPxxE
雪原に慣れていない俺がを馬で追えるか怪しいが、向こうも多分馬だろう…それに雪原に突入する前に追い付けば問題無い。
「はっ!はっ!」
木々の隙間をすり抜け、ひたすら走る。
ティエルがいないのでボルゾに襲われるんじゃないかと思ったが、襲うどころか姿すら見えない。
運がいいのか…それともこれも俺の得た“権利”の一つなのか…。
今は少し有難い。
―三十分ほど森を走ると、開けた場所にたどり着いた。一面草原で小さな丘になっている。
「ここからなら見えるか……」
丘の上からメノウを拐った輩が走っているであろう山道を見下ろした。
距離的には間違いなく森を突っ切った俺の方が早いはず。
絶対に山道を走ってくるはず……
「………来た!」
山道を走ってる馬の集団が微かに見えた。
馬が一頭…二頭…三頭…………全部で七頭。
一人で相手するのは少し数が多い……だが…。
「ティーナに鍛えられてんだよ…お前らなんかに負けるか!」
勢いよく丘を駆け降りると、ボーガンに手を掛けた。
「ッ敵だ!丘から敵兵がッあッ!?」
まずは一人。
「止まるな!このままフォルグへ向かッ…」
続いて二人目。
270:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:46:45.64 FTrQPxxE
続いて二人目。
「なんで走ってる俺達をッぎぃやあああああッ!」
三人目。
「狼狽えるな!たかが一人の兵士だ!山道抜ければフォルグだ踏ん張ッがぁッ!」
「大丈っちょっ、此方に寄りかかるとッあぁ!」
五人目。
後二人だ。
「……ちっ、ボーガンの矢が!」
ボーガンを投げ捨て、腰から剣を引き抜くと最後尾に居る兵士の横に並んだ。
一番前を走ってる馬がメノウの乗っている馬だろう…。
「くッ、このッ!!」
相手の兵士も剣を抜くと、此方へ目掛けて振り下ろしてきた。
それを軽く避けると、剣を兵士に太ももに突き刺した。
「ぎゃっ!?」
小さな断末魔を上げる兵士の顔に拳を叩きつけるとそのまま馬から落馬してしまった。
俺の剣を足に刺したまま…。
「……くそ…」
後一人…だが俺には武器が無い。
このまま追いついてどう戦えばいいのか…。
しかも向こうは高い確率でメノウを人質にするはずだ…。
「どうすれば……んっ?」
―ふと兵士の姿に視線が止まった。
兵士が纏っている鎧……バレン兵のものとはまったく異なっている。
あれは…
「フォルグ国の兵士か?」
肩には数個の星が彫られている…。
271:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:47:33.85 FTrQPxxE
あれはフォルグの国旗にも描かれていたものと一緒だろう。
しかし、何故フォルグの人間がメノウを?
バレンの崩壊を知ったフォルグが俺からメノウを助ける為に来たのか?
なら、このまま見逃した方が…。
いや、それだと意味が…。
「このアホライトッ!!」
「痛ッ!?」
頭に何かで刺されたような痛みが走り咄嗟に上を見上げた。
「メノウを助けに来るような人間がお婆ちゃんを殺す訳ないでしょっ!!まったく、あんたは本当に私がいないとダメなんだから!」
俺の頭の上には先ほど別れを告げたティエルの姿があった。
何故…と問いかけようか迷ったが、それを聞くのはヤボというものだろう。
そうだ…俺はメノウを助けるためにフォルグに向かうのだ。
俺がメノウと一緒にフォルグに向かわないと意味が無い。
「よっしゃ!山道抜けるからティエル捕まってろよ!」
「いっけぇぇぇぇ!」
ティエルの声と共に山道を抜けると、雪原へと突入した。
辺り一面銀世界…今まで走り続けていた緑に囲まれた世界が昇華したかの如く景色の全てが雪の華のように俺達を迎え入れた。
これが雪…。
こんな状況じゃなければゆっくり見ていれるのに…。
272:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:48:02.00 FTrQPxxE
「はぁ……最悪だな…」
数百メートル先に兵士の大群が見えてきた。
真っ白な雪の上に歪な鎧。
あの鎧は…間違いなくバレン騎士団の連中だ。
だとするとやはりフォルグはもうバレンに完全に落ちたと考えるのが妥当……しかしメノウの親がフォルグ国の王ならまだなんとかなるはず。
バレンが国として完全に滅んだ事を伝えれば、同盟を組む理由も無くなる。
なんとかしてメノウの親に会わなければ…。
「はぁ、はぁ、くそっ!」
「やっと追いついたぞクソ野郎!」
最後の一人の背後に着いた。
「死ねぇ!!」
「おっと…ッ!」
武器がなければ奪えばいい。
振り下ろす剣を腕で受け止める……馬に乗った状態で人を斬ると間違いなく普段以下の力しか出せない。
達人でも無い限り、馬に乗った状態なら斬るより刺す…馬上に置いての基本戦術だ。
これで分かった…間違いなくコイツらは素人だ。
「ぎっ、あぁぁぁあ!」
剣を奪い取り相手の鎧に手を掛けると、先ほどの兵士と同じく太ももに剣を突き刺し、突き飛ばす。
今度は剣を持っていかれないように引き抜いた。
「よ~しよしよし…」
走りながら馬を落ち着かせて、ゆっくりと止まらせる。
273:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:48:27.28 FTrQPxxE
すぐさま馬から飛び降りると、 メノウを馬から降ろして抱き抱えた。
身体は小刻みに痙攣を起こして、目に視点が合っていない。
一番危険な状態だ。
「メノウッメノウ!大丈夫か!くそっ、メノウゆっくり息を吐けッ!ほらっ、はー…はー…くッ、メノウ、口を開けろ!」
歯を食い縛るメノウの口を無理矢理指で抉じ開け、息を吐かせる。
「ひゅー…ひゅー…ライ……ト…」
「ん…なんだ?」
メノウを抱きしめ、数分背中を擦ってやると、小さく途切れ途切れだメノウの口から声が漏れた。
「…ごめん…なさ……待ってろって…ひっ…ぅえ…言われ…ッだのに゛…いッ…」
「もういいから…俺が悪かった…俺が悪かったから」
「おいで…いがな…いでッ…うッ、あ…ッぁ…ッ!」
聞き取り辛いがメノウの悲痛な心の叫びを聞いた気がする。
俺の手の中で安心したのか、俺の胸にしがみつくと、声にならない声で泣きだしてしまった。
危うくメノウを壊す所だった…今はメノウの独り立ちでは無く、メノウの安全が第一。
早く両親の元に行きメノウが安心できる場所を作ってやらないと…。
「ライト!来た来た来た!」
「来たって何が…だ…」
274:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:49:03.45 FTrQPxxE
ティエルの声にやっと我に返った俺は、冷静に周りを見渡す事ができた。
―いつの間にかバレン騎士団に取り囲まれている…そう言えばコイツらもいたんだ。
「ティエル…お前太陽みたいに光るとかできないか?目眩ましみたいに」
「あんた私を蛍かなんかと勘違いしてない?無理に決まってるでしょ…」
妖精なら光ぐらい放てると半信半疑ながらも少し期待していたのだが…流石にそこまで上手くいかないか。
「……一人、向かってくるわよ」
「あぁ…メノウの服の中に隠れてろ」
大群の中から一騎…此方へゆっくり向かってくるのが見えた。
あの赤い鎧は…。
「よぉ…久しぶりだな?」
確かホーキンズの知り合いの……ミアだったか。
俺の挨拶に軽く頷くと、冑を外して馬から飛び降りた。
それと同時にミアの方へと剣を向け構える。
「探しましたよ…魔王様」
「はぁ?なんだいきなり」
俺の前へと来ると突然膝まずづき頭を下げてきた。
意味が分からずミアを凝視していると、周りの異変にもすぐに気がついた。
―全てのバレン騎士団が此方へ向かって膝まずいていたのだ。
「な、何事だよコレ…」
恐る恐るミアに問いかける。
275:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:50:07.48 FTrQPxxE
「今から我々バレンシア騎士団兵は貴方を守る盾となり、全ての脅威を払ってみせます」
「ライト、罠よ絶対に!」
「あぁ、分かってる。ミア…だっけか?そんな戯言に誰が耳を傾けるんだ?
お前達がホーキンズにやった事を一日や二日で忘れるほど俺はまだイカれてないんだよ」
こいつらの目的はハッキリしている。
ゾグニの代わりに俺を祭り上げて、バレン王国を再建しようとしているのだろう…。
こいつらだけは信用してはならない。
「ゾグニはどうした?確か民を捨てて逃げ出したはずだが?」
「ゾグニもフォルグへ向かっています。全ての兵がバレンから逃げてきた者ばかりなので歩兵のみ……兵力は二千…その中に我々騎士団の兵を二百人ほど潜り込ませているのでゾグニ側の兵士は千ハ百人ほどかと」
「ちょっと待て…なんだ潜り込ませているって?俺はお前達の王になるつもりは無いぞ?身内で殺し合うなら勝手にしてくれ……それじゃあな」
今はもうゾグニなんてものに構ってる暇は無いのだ…早いとこフォルグに向かわないと。
「姫様を助けるためにフォルグに向かうなら、無意味だぞ?」
馬に股がり走り出そうとすると、見計らったようにミアが男口調で声を掛けてきた。
276:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:50:35.22 FTrQPxxE
先ほど初めてあった時とは明らかにミアに違和感を感じると思ったのだが…話し方が原因か。
再度馬を止めてミアを見下ろした。
「姫様の親である十五代目フォルグ国王は数年前に大臣達によって毒殺…同じく王妃も殺害されている」
「……」
「理由は簡単、バレンにメノウ姫を渡さなかったから…だから大臣達を金と地位で此方側に引きずり込み、今は前国王の弟がフォルグの王様だ」
ヘラヘラ笑いながら俺達の周りを回ると、フォルグに指をさして俺を見上げた。
「フォルグは姫様を魔女として狩りを始めるつもりだ…今フォルグに行けば自ら仕掛けられた網に引っ掛かりにいくようなもんだよ」
話終えると、ミアは俺の返答を聞かずして馬に股がり冑を被った。
ミアの表情からは嘘か真実か見分けがつかなかった…。
しかしミアの話す内容が本当の事であればこのままフォルグに向かうことはできない。
「……お前の言いたい事は分かった。だが俺達はフォルグへ向かう」
やはりバレンの人間は信用できない。
ミアの横を通り過ぎ、フォルグへと向かう。
「ライト上だ!」
後ろから聞こえてきたミアの声に反射的に上を見上げた。
277:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:51:00.89 FTrQPxxE
何かが飛んでくるのが見えたので、咄嗟に剣で防いだ。
「な、なんだ……矢?」
飛んできたものは剣に当たると、軌道を変えて地面に突き刺さった。
それは間違いなく俺を狙って誰かが放った矢だ。
「ミア隊長!フォルグの兵が此方へ押し寄せてきます!」
一人の兵がミアに近づくとフォルグ国の方角へと指をさした。
砂ぼこりを巻き上げて此方へ向かってくる軍勢が視界に入ってきた。
千近く居るだろうか?
「ちっ…此処は俺達が死守する!姫様連れて森に逃げ込みな!」
俺にそう言い放つと、ミアは前線に居る兵士達の元へと走っていってしまった。
「ライト!」
「あぁ、言われなくても無駄な戦争に巻き込まれるのはゴメンだ!」
勝手に戦争して勝手に滅びてくれるなら嬉しい限りだ。
人数的に考えてバレン側が完全に不利。
此処でフォルグがバレンの騎士団を潰せば、フォルグとバレンの繋がりは間違いなく切れるはず。
そうなればゾグニもフォルグに取り入る事はできないだろう…。
孤立した帝王など賊に等しい。
「魔王様をお守りしろ!」
―また出直せばいい…出直して、フォルグを調べて安全か確かめてから…。
「すべては魔王様の為に!」
278:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:51:42.79 FTrQPxxE
安全じゃなかったら?
「指一本触れさせるな!全員壁となり盾となれ!」
また長い間旅に出て…メノウが安全な場所を…。
「魔王様とメノウ様を守るんだ!武器を持てぇぇぇぇ!」
メノウが安全な場所…
「ライト…」
不安そうな瞳を向けて俺の目を覗き込むメノウを見て確信した。
「はは……安全な場所なんて…そんなのねーだろ…」
馬を止めて後ろを振り返る。
あれだけ俺達を痛め付けたバレン人がフォルグの攻撃から俺達を守っている。
何故か笑えてくる…あれだけ憎まれていたのに…。
背景には霧に覆われてメノウの故郷であるフォルグ王国がうっすら姿を見せている。
あれがメノウの故郷……綺麗な所なんだろうなぁ…。
「メノウ見えるか?あれがメノウの家だ」
遠くに見えるフォルグの城を指差して見せた。
俺の胸に顔を埋めていたメノウはチラッと見ると、またすぐに目を反らして胸にしがみついてしまった。
「……そうだよなぁ…」
ため息を吐き捨て、息を大きく吸う。
「全軍に告ぐ!今からこの魔王が指揮を取る!!後線にいる兵士はすべて剣から弓に持ちかえて敵の前線兵を蹴散らせ!その後、全軍森に潜り込むから俺についてこい!!!」
279:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:52:07.45 FTrQPxxE
声を張り上げ、騎士団達に命令を下した。
「お前ら聞こえたかー!魔王様直々に指揮を取られるぞ!我々の勝ちは決まったようなものだ!!」
押されていた騎士団員達にミアの声が響き渡った。
後線兵は即座に剣から弓に持ちかえ、弓を放つ。
「…」
もうこれしかメノウを守る術が残っていない。
こいつらが俺達を利用するなら俺も利用するだけだ。
そう…皆が想像する魔王になってやるのだ。
「約束守れなかったなぁ…」
最愛の妻になるはずだった人の顔を頭に浮かべて小さく呟いた。
どんな子供が産まれるのだろうか…父親気取りかと言われるかも知れないが、純粋に子供は見たかった。
それにティーナにだって愛してるの一言も言えなかった…男失格だ。
「…愛してる」
「メノウも…ライトを愛してる…」
呟いたメノウの声に小さな笑みがこぼれた。
メノウの小さな勘違い…いつの間にか子供から女に変わっていたんだな。
メノウには悪いが俺が発した言葉の送り相手はメノウでは無く……ティーナだ。
メノウは一生気がつか無いだろう…いや…気がついても理解できないはずだ。
―メノウに向けた愛とティーナに向けた愛の違いを。
280: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:52:46.18 FTrQPxxE
ありがとうございました、投下終了です。
281: 忍法帖【Lv=8,xxxP】
11/07/22 01:55:46.18 DM/3TUZ8
寝る前に覗いたらリアルタイム投下ktkr
投下乙!
282:名無しさん@ピンキー
11/07/22 16:49:18.76 ivgQ8JmK
GJ!
夜と闇にも期待!
283:名無しさん@ピンキー
11/07/22 23:01:19.35 A9ldkKm0
うっかり手を出してしまったのかと思ってた<帰れない
そしてお婆ちゃん……
284:名無しさん@ピンキー
11/07/22 23:08:26.45 i1+01hVe
gj ハラハラしてまいりました!
285:名無しさん@ピンキー
11/07/23 00:41:27.69 qvr/Q8p0
グッジョオォォォブッ!!
ティーナが報われなすぎて読んでるのが辛いよ…
286:名無しさん@ピンキー
11/07/23 00:56:02.28 i83F5aDc
投下GJ!!!
続きが気になーる
287:名無しさん@ピンキー
11/07/23 12:15:53.91 3laE9ZeA
投下乙
ファンタジー系は敬遠してたんだが面白いね
288:名無しさん@ピンキー
11/07/27 19:30:20.82 ZI4RiapG
ぇ…マジで書き手一人だけなの?
289: 忍法帖【Lv=9,xxxP】
11/07/28 02:10:53.72 vG0qq8hb
現在長中編を投下してるのは一人だけだね
短編はちらほら投下されるけど
マジで人いねぇorz
290:名無しさん@ピンキー
11/07/28 21:07:07.97 x/yNjaJ7
夢の国の作者が書き終わるとこのスレも完全に機能しなくなるのかw
291:名無しさん@ピンキー
11/07/28 23:58:21.29 vB3DtxQ3
それはさもしいのぅ
292:名無しさん@ピンキー
11/07/31 18:14:47.54 /iridcae
女王とか超お嬢様を薬や魔法で自分に依存させて奉仕させたり
貴方が居ないと生きていけないとか居なくならないならなんでもするとか
言わせて見たい
293:名無しさん@ピンキー
11/07/31 21:41:30.69 WEGVG1JA
高貴な生まれで気高く育ったが故に誰にも頼られずに生きてきたお姫様
でも本心では誰かに支えて欲しくてたまらず惚れてしまった相手に依存しちゃって何もかも捧げてしまう
萌える
294:名無しさん@ピンキー
11/08/01 23:38:36.54 2kQJvvoJ
書き手くるまで雑談しなさいよ。
例えば>>1に書いてるけど男の依存は個人的にアリなのかとか、依存はどこまで許されるのかとか、物に対する依存って文にすると対人じゃないから難しくね?とかあるだろ。
誰かレス返して
295:名無しさん@ピンキー
11/08/02 07:16:55.51 T9vPSElu
依存かー
男が依存してるのはぐっとこないけど
女が男に依存するようにし向けた結果とかならぐっとくるな
296:名無しさん@ピンキー
11/08/03 00:12:46.55 O4LI6ph4
前書かれてたチョコに依存する女とその子に依存する男の話はいい出来だった
297:名無しさん@ピンキー
11/08/03 00:52:02.60 WK6/kTx3
物に依存って短編じゃないと無理だよね。
物に依存するって言うと、ベタな所はお酒や煙草あたりか…後パチンコやスロットとかも依存になるのか?
298:名無しさん@ピンキー
11/08/04 02:59:07.68 Axw9/tN2
ヤバい干からびてきた。
職人様が投下して下さる燃料が唯一の糧だってのにorz
選り好みはしませんから、職人様かもーん
299:名無しさん@ピンキー
11/08/05 17:23:49.94 vym/CS2W
長編書いてくれる書き手が二人いれば上手く回ってくれるんだが、一人だと流石にキツイか
300: ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:06:01.94 5aUFKfPW
夢の国投下します。
301:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:06:42.87 5aUFKfPW
森に逃げ込んで二時間が経った。
未だフォルグが追いかけてくるスピードを緩める気配を見せない。
「ミア隊長…本当に魔王様の言うこと信用して大丈夫なんすかね?」
後ろを走っていた、隊長の一人が俺の隣に並び話しかけてきた。
本来なら俺はバレン城で死んでいたのかも知れない…助かったのは俺の後ろに居る騎士団の連中が地下から助け出してくれたからだ。
地下も地獄だったが…上の世界はもっと地獄だった。
死体が雑に転がり町は壊滅状態。
何が起こったのか理由を聞くと、魔王様がドラゴンを使って町を破壊してしまったと震えながらに呟くのだ。
意味が分からず、町中を歩いてみると不思議な事に町人も同じように魔王様と言う言葉を発するのだ。
ゾグニはすべてを捨てて逃亡。
俺達残ったバレンシア騎士団は魔王の配下になるべく魔王を追ってフォルグに向かったのだが……まさかライトが魔王だなんて思いもしなかった。
「信用もなにも…もう信用するしか方法はないだろ」
今更逃げる事はできない。
「後数キロでゾグニ帝王が居る岬に到着します!」
「よ~し、俺達を裏切った前王のゾグニ狩りだーッ!!!魔王様の作戦通り事を運ぶから俺に付いてこい!」
302:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:07:09.60 5aUFKfPW
剣を掲げて、森を突っ切った。
山道を抜け、川を渡り草原を走る。
「ゾグニ軍見えてきました!」
草原のど真ん中に大きな陣を張っている兵が視界に入ってきた。
人間は…パッと見ニ千…間違いなくゾグニだ
「オッケー!んじゃ、作戦開始なー!!」
フォルグ軍となだれ込むようにバレン軍の中へと突入する。
「な、なんだ!?敵兵か!?」
「え、バレン騎士団!?味方だぞ!全員攻撃するなよ!!!」
突然現れた俺達にパニックに陥る兵士達。
ライトが言った通りだ。
バレン兵は皆、何処に武器を向けていいのか分からないのだ。
そして作戦第二段階。
兵士達が群がるど真ん中に移動すると、大声を張り上げた。
「す~……ッフォルグ軍が攻めて来たぞー!!!ゾグニ様をお守りするため、我々が騎兵が周りを固める!!歩兵はすべてフォルグ軍の足止めをしろ!!!」
「お、おぉー!!!」
戸惑いながらも歩兵は剣を手に取り前線へと向かう。
―実質軍を動かしていたのはゾグニでは無い。
「くくっ、あんたのミスだせ?帝王」
軍を動かしていたのはゾグニが殺害した、軍総司令官のレムナグだ。
303:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:07:40.17 5aUFKfPW
「よし、んじゃお前ら…他の騎士団の連中にも魔王様の事を伝えて来い」
「はい、わかりました」
歩兵をすべて前線に送り、団員に命令を下すと、俺はゾグニの元へと向かった。
「なんだお前達は!」
騎士団に守られ、偉そうにふんぞり返るゾグニが視界に入ってきた。
「お久しぶりですね…ゾグニ様」
冑を外して、馬から飛び降りた。
ゾグニの前に膝をつき、頭を下げる。
「お前は…確か地下に幽閉したはず。何故此処に居るのだ?」
「ドラゴンの襲撃により城が破壊され、外に出る事ができました」
「ふん…死ななかったのか…そんな事よりこれはいったい何事だ?」
立ち上がり周りを見渡すゾグニ。
何が起こっているのか分からないのだろう。
突然現れたフォルグと戦が起きたのだ…無理も無い。
前線ではバレン兵とフォルグ兵が剣を交えている。
多分どちらの軍もお互いに何故殺しあっているのか理解できていないはずだ。
剣先を見ればすぐにわかる……お互い鈍っているのだ。
「我々生き残った騎士団兵三百…ゾグニ様を守るべくフォルグに向かったのですが……向かう途中、バレンに進軍してくるフォルグと鉢合わせ…援軍かと思いましたが突然攻撃を受けまして…」
304:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:08:05.55 5aUFKfPW
「…フォルグの分際で…我を潰そうと言うのか…ッ!フォルグ如きに潰される我ではないわ!再度メノウ姫を手に入れ、フォルグを食いつくしてくれるわ!」
高らかに笑い声をあげ、空に両手を差し出した。
「ぐぁっはっはっはっはッ!我は帝王!すべてを滅する帝国の王だ!!!
バレンシア最強の騎士団よ!我と共に再度国を作ろうぞ!使い捨ての歩兵などゴミも同然!!バレンに戻り、今すぐ残った兵士をすべて集めメノウ姫を探し出すのだ!!!」
膝まずく俺達にそう言い放つと、勝鬨を上げるかの如く叫んだ。
「……騎士団員、全員馬に乗れ!!!」
暑苦しいゾグニの妄言を聞き流した後、立ち上がり全団員に言い放つ。
俺の声を聞いた団員はゾグニに下げていた頭を上げて、各々馬に乗り出した。
「な、なんだ?おい、我の馬を用意せんか!」
騎士団に囲まれ見下ろされるゾグニ。
唾を飛ばし、叫び散らすゾグニに手を差し伸べる者は騎士団にもう存在しない。
「全員俺について来い!我々の王である魔王様の元へ戻るぞ!!!」
俺の声に反応した団員達が一斉に片手を突き上げ、雄叫びを張り上げた。
305:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:08:49.15 5aUFKfPW
「我々の王は魔王様だ!全てを統べる王は帝王にあらず!我々が守るのは女神であるメノウ様とドラゴンすら蹴散らす魔王様!!!」
ゾグニが俺を見上げ、口をだらしなく半開きにして他人事のように眺めている。
見下ろされる事は多々あったが見下す事は一度もなかった。
これで全部終りだゾグニ…。
「全員戦から脱出するぞ!じゃあな、ゾグニ!お前は此所で滅びろ!」
ゾグニの首を力いっぱい上から蹴り飛ばすと、無様に水溜まりに顔から突っ込んだ。
それを見た後すぐに戦から騎士団全員脱出する。
後ろからゾグニの叫び声が聞こえたが、馬の足音で何を叫んでいるのか聞こえなかった。
俺達騎士団は草原を後にし、ライトが待つ丘へと足早に馬を走らせた。
◆◇◆†◆◇◆
「うひゃー…すごいことになってるわよライト」
「……そうか」
空を飛ぶティエルが、此方へ降りてくる。
メノウの頭に飛び降りると、布団の上で寝るようにメノウの頭に寝転んだ。
ティエルに気を使っているのかメノウは微動だにせず、馬の鬣を撫でている。
ティエルごとメノウの頭を撫で、草原に視線を向けた。
306:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:09:13.13 5aUFKfPW
―ミアと別れた俺達は、反対側に回り込み一キロほど離れた丘でゾグニ軍とフォルグ軍の衝突を見ることができた。
ミアに命令したのは、二つの軍を真っ正面から潰し合わせる作戦。
ゾグニ軍とフォルグ軍の壊滅的打撃効果を狙ったのだ。
この戦…十中八九ゾグニ側が勝つだろう。
勝つと言うより途中でフォルグが撤退するはずだ。
フォルグはゾグニと戦を構えるか否か上の者から伝達されているのか、かなり怪しい。
メノウを捕らえる命令は下せても、ゾグニと戦争する決断をこんなに早く弱国が決めれるはずが無い。
「あっ、あいつら帰って来たわよ」
森の中からミア達が姿を現した。
「上手くいったな?」
ミア一人が馬から飛び降り此方へ歩み寄ってきた。
他の兵士は俺を恐れているのか、馬の横で膝を地面つけて頭を深々と下げている。
「騎士団の人数は?」
「人数はゾグニの護衛をしていたヤツを合わせて五百弱程度だな…」
五百か……五百もいれば敵が何千人居ようと問題無い。
「これからどうするんだ?」
ミアが此方へ歩いてくる。
身体を強張らせ、ミアの行動に注意した。
コイツは別の意味で危ない……メノウも警戒しているのか、ミアを睨み付けている。
307:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:09:37.00 5aUFKfPW
何故かメノウはミアに強気なのだ。
ミアになら勝てると思っているのだろうか?
何か感じるものがあるのかも知れない。
「まぁ、もう少し待てよ…お前も高みの見物しとけ」
もうすぐ…もうすぐでフォルグが撤退するはず……。
「あら……ゾグニ勝っっちゃったよ?失敗か?」
「ミア…全員に告げろ!今から残兵狩りだ!ゾグニ軍に突っ込むぞ!!」
ミアの横を抜けて草原に向かった。
「な、なんだぁ!?ぜ、全員魔王様の後に続けー!!今から戦を始めるぞ!」
ミアも意味が分からないと言った感じだが、しっかり自分の役割をこなしている。
隊長としてはかなり優秀な部類に入る将だ。
―森の木々をすり抜け、草原を目指す。
今ゾグニを叩かないと、後々癌となって俺達の前に姿を現すはずだ。
森を抜けて草原に入ると、真っ先にゾグニの元へ馬を走らせた。
「ゾグニィィィィィィィィ!!!!」
血が吹き出すほど、身体が熱くなる。
―やっと会えたなゾグニ。
「ぞ、賊だ!メノウ様を人質にしているぞ!!」
周りの兵士が殺気立ち騒ぎ出す…がそんなもので俺は止まらない…絶対に止められない。
308:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:10:02.82 5aUFKfPW
「おまえら魔王様の道を開けるぞッ!前騎馬兵突っ込めぇぇぇぇぇっ!」
ミアがゾグニの周りに群がる兵士達を蹴散らす為に騎馬兵数十人槍を持たせ、兵士の壁に突っ込ませた。
これは有難い…楽にゾグニの元へたどり着く事ができる。
大穴の如く開いた道をまっすぐ走る。
「貴様ッ!」
数人の兵士に守られたゾグニ。
「そんなもので身を守ってるつもりか?」
馬から飛び降りると、剣を引き抜きゾグニ目掛けて突っ込んだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
ドラゴンを見た兵士達だろう。俺の顔を見るなり武器を捨て逃げて行った。
「お、お前ら!?ぬぅ!平民の分際で我に勝てると思っているのか!?平民如きの剣、我にかすりもせぬわ!!」
兵士が捨てた剣を拾い俺に向かって構えた。
やっとだ…やっと届くぞホーキンズ…。
「死ねぇええええええゾグニィィィィィィィィィイ!!!」
「この小僧…ッ!?」
振り下ろされるゾグニの剣を避け潜り込む。
「ッた…!」
ゾグニの目を真っ直ぐに睨み付け、勢いよく剣を振り抜いた。
―ゾグニは何と言おうとしたのだろうか?
―助けてくれ?
もう確かめる事はできない。
309:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:10:30.91 5aUFKfPW
ただ、ゾグニの目が一瞬だけ恐怖に歪むのが分かった。
そう…子供のように幼い目で怯えるように俺を見ていた。
晴れ渡る空が見渡せる草原のど真ん中―俺は初めて人をこの手で殺めた。
◆◇◆†◆◇◆
「ティーナ!聞いてるの!?」
「……」
「貴女の子供なのよ!?貴女が育てていかなきゃこの子は死んでしまうのよ!?」
「……」
「……ティーナ…」
―ティーナが子供を産んで2ヶ月が過ぎた。
私達がユードに帰って来てから季節が二つ進み、凍える風が肌を突き刺す冬になった…ティーナはいつものように窓の外に見える海を眺める毎日。
帰ってくるはずも無い待ち人を待ち続け、港に到着する船を毎日眺めている。
あの日…ライトが帰って来ないと理解した日からティーナの心は壊れてしまった…。
ライトがゾグニ帝王を処刑したと報じられたのは10ヶ月前の事…ゾグニ帝王を殺害してバレンの王となった魔王…それがライトだ。
この出来事には全世界に大きな衝撃が走った。
あのゾグニ帝王率いるバレンが滅びるなんて…何かの間違いではないかと騒ぎ立てる他国にバレンの現状を伝えるかの如く映像が全世界に送られた。
310:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:11:07.65 5aUFKfPW
残酷に切り捨てられたゾグニ帝王の頭を掴み、高々にあげるライトの姿……まさに魔王の風貌。
それを見たティーナは、騎士団の団長としての地位を放棄し、母親となることを放棄し……生きる事を放棄した。
あの時のティーナの一言が今でも忘れられない。
―そうか……私は捨てられたのか…
今では騎士の面影は一切無く、死神に心を奪われた様に息をするだけの入れ物……口から出る言葉はライトの名前のみ。
身体に入れるのは点滴のみ……明らかに衰弱していくのが目に見えて分かった。
アルベル様やルディネ様も何度となくユードに戻ったティーナの元に出向いて、元気付けてはいるが…これは私達ではどうする事もできない。
ライトが悪い訳では無い…大まかに言えば一番の被害者はライトだろう。
だけど…。
だけど、これじゃあまりにもティーナが可哀想だ。
私も好きな人が遠くに行ってしまったからわかる…。
女の心は男しか治せないのだ…愛する男しか。
「せめてパンだけでも食べましょ?」
ティーナの前に回り込み、手に持ったパンをティーナに見せてみた…が、やはりパンには目もくれず、光が灯っていない瞳で窓の外を眺めなている。
311:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:11:32.67 5aUFKfPW
「はぁ…」
ため息を吐き、椅子に腰かけた。
今私はホーキンズの店でパンを作っている。
評判は…残念ながらあまり良く無い。
やはりホーキンズのパンが好きで買いに来ていた客が多いらしく、ホーキンズの葬式が行われた時もユードの皆が涙を流してホーキンズを見送ってくれた……ホーキンズもライト同様にこの町に無くてはならない存在だったと言うわけだ…。
それでも、心優しい人達や常連の人達は普段通り買いに来てくれる。
ハロルドやクーの手伝いもあって、なんてか店を切り盛りできている。
クーはパンを食べに来ているだけなんだけど…クーの容姿を見て買いに来る人達も居るのだ。
有難いのか悲しいのか…。
「………ん?あれ…ティーナ?」
ティーナが居た場所に視線を向けると、いつの間にかティーナが居なくなっていた。
立ち上がり窓際に近づいてみる…。
「テ……ティーナ!?」
点滴の針が地面に転がっているのを見て慌てて外に飛び出した。
周りを見渡しティーナの姿を探す。
「……あ、ティーナ何やってるの!!」
数十メートル先にティーナがヨロヨロ歩いているのが視界に入ってきた。
慌ててティーナに駆け寄り抱き抱える。
312:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:11:58.74 5aUFKfPW
「はぁはぁ…船が…」
まだ家から数十メートルしか離れていないのに、凄く辛そうだ。
体力も大幅に落ちている。
「船がどうしたの?港に行くの?」
「ライトが…船に…ライト」
弱々しく港方向に指を伸ばして何かにすがるように呟いた。
「分かったわ…分かったからちょっとだけ待ってて…」
近くのベンチに座らせて、走って家に戻った。
「よ~しよしよし…少しだけ散歩しましょうねー」
ベッドから赤ん坊を抱き抱えると、毛布を二枚手に取り家を出た。
「ティーナ!?まったくあの子はッ!」
ベンチにティーナの姿は既に無い。
先に港へ行ったのだろう。
赤ん坊を毛布にくるみ、港へと向かった。
◆◇◆†◆◇◆
「…」
波の音…毎日聞こえる…
私の剣は?
剣?何故剣?
寒い…なぜ私はこんな場所で…
あぁ…ライトを待っているんだ…。
今日はいつ頃帰ってくるのだろうか…?
「ティーナ、風邪引くわよ?」
後ろからアンナが声をかけてきた。
私の肩に毛布をかけてくれた。
それを手に取り海に目を向ける。
一隻…海門を抜けて船が戻ってきた。
「ライト…」
あの船にライトが居るかも知れない。
でもあの船はノクタールの船。
313:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:12:26.35 5aUFKfPW
一応手を振っておこう……ライトは私がまだノクタールに居ると思ってるかもしれないから。
「ティーナ……この子を一度でいいから抱いてあげて…ね?」
手を振る私の前に遮るように何かを差し出してきた。
ライトに見えるように手を振っているのに…退くようにアンナを睨み付けてやった。
それでもアンナは私の前から退かない…。
「……ッ」
手を振り上げ、アンナの顔目掛けて勢いよく手を振り抜いた……つもりだったが、軽く避けられてしまい自分の右手に振り回され地面に転げ落ちてしまった。
「テ、ティーナ大丈夫!?」
アンナが慌てたように私に駆け寄ってきた。
もう一度手を振り上げで叩いてたやろうかと思ったが、海門からもい一隻船が入ってきたのですぐに立ち上がりまたライトに見えるように手を振って、私の存在が此処にあることを示した。
気づいてくれるまで、ずっと―。
来る船来る船手を振り続け、海門が閉められる直前まで手を振り続けた。
―結局今日ユードに来た船は一隻の貨物船のみ。
貨物船から降りてくる人々の顔を一人一人見たが、ライトの姿は無かった。
「ティーナ…帰りましょう」
アンナの声に混じって違う泣き声も聞こえる。
314:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:13:01.66 5aUFKfPW
「……」
アンナの腕の中から聞こえてくる…。
アンナに近づき、腕の中を覗き込む。
小さな赤ん坊が声をあげて泣いていた。
「ほら…貴女とライトの子供よ……貴女がお母さんなのよ?」
私とライトの子供…。
お母さん?私が?
いつから?子供を産んだ日から?
じゃあ、お父さんは?
「…よしよし…」
そうだ…ライトが帰ってくるまでお母さんをしなくては。
アンナから赤ん坊を受け取り手で抱え込んだ。
不思議と泣き叫んでいた赤ん坊は泣き止み寝息をたてだした。
「ティーナ…!」
震える涙声をあげ私を見ているアンナ…何を泣いているのだろうか?
赤ん坊を胸に抱え、帰路についた。
翌朝―酷い雑音と、ドアをノックする音で目が覚めた。
アンナは…ホーキンズのパン屋か…
「……」
何度もドアを叩く音が聞こえる……しかし私は反応しない。
ライトならノックなどせずに入ってくるはずだから……。
「ティーナ…居るんだろ?」
数分間ドアを叩いていたが、私が中に居ることが分かっていたのだろう……勝手に部屋の中へと入ってきた。
窓から目を反らし扉へと目を向ける。
そこに立っていたのはアルベル様だった。
315:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:13:28.07 5aUFKfPW
何をしに来たのだろうか?
私はもう騎士団の人間ではない。
ライトが帰ってくるまで待たなければいけないのだ…。
アルベル様の顔を少しだけ眺めた後、再度窓の外へと目を向けた。
窓の外には騎士団の連中も来ている…。
私を見るなり敬礼して頭を下げてきた。
もう私は騎士団の団長では無い…だからもうソッとしといてもらえないだろうか…心の底から毎日願っている。
「食事はちゃんと取っているか?」
「…」
食事?
ライトが帰ってきていないのに、私が先に食事を取る訳にはいかない。
妻として当たり前の事だ。
「そろそろ…子供にも目を向けてやらないと」
「……」
子供?
あぁ…子供か…だが子供を育てる為にもライトが帰って来ないと私一人では無理だ。
「……ライトはもう戻って来ないぞ」
「……」
もうコイツの戯言にも飽きた。
何が戻ってこないだ……ライトをバレンに行かせたのはお前だろう?
「ライトはルフェリオット・シェナ=メノウ様と結婚した」
「……」
結婚?嘘だ。
ライトは私と結婚するんだ。
子供だっている。
それにライトは私と結婚すると約束したんだ。
だからこうやってライトが帰ってくるのを待っているんだ…。
316:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:14:03.79 5aUFKfPW
「……先ほど、バレンの人間がティーナな宛にとある物を置いて行ったよ……ライトからだそうだ」
「……ライト?」
窓から目を離して、アルベル様に目を向けた。
「あぁ……今外に持ってきているが…見るか?」
「…」
一度大きくコクリと頷き返答する。
それを見たアルベル様は片手で頭を抱えた後、扉の外に居る兵士に何かを持ってくるように命令した。
「ちょっと待ってください!!」
その直後、慌てたようにアンナとハロルドがなだれ込んできた。
外で待機していた兵士数人が剣を引き抜きアルベル様の前に立ち二人の前に立ちはだかった。
「よい…お前達は外に出ていろ」
兵士達を外に追い出し、アルベル様自ら扉を閉めた。
「アルベル様!このような物をティーナに見せては今までの苦労が水の泡になりますよ!?昨日やっとティーナが子供を抱いたんです!やっと一歩踏み出したのに…」
「僕もアンナさんに賛成です……そもそもこれは本当にライト本人が?ティーナさんと赤ん坊を守ると言い張ったライトがこのような物をティーナさんに贈るとは思えないのですが」
私から隠すように二人の後ろには布の被った何かが置いてある。
317:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:15:17.42 5aUFKfPW
兵士が二人かがりで持ち込んだモノだが…なんだろうか?
見た感じドレスのような…。
「先日ノクタール騎士団の密偵にバレンを偵察させに行かせたのだがな……その時偶然ライトに会ったそうだ」
ライトに会った?
再度アルベル様へと視線を向けた。
「その密偵がな…ライトにティーナの現状を伝えてしまったんだよ。
ソイツもティーナの事を思ってした事なのかも知れないが……それを知ったライトがティーナにこれを贈ってきたのだと…」
「なんと軽率な事を…」
ハロルドが頭を抱えて私を見てきた。
その目には同情の色が強く含まれている。
「……」
「ティーナ!」
無言で立ち上がり、布の被ったモノの元へと歩み寄っていく。
ライトからの贈り物なら、私は大歓迎だ。
「ティーナ…貴女は母親なのよ?だから…」
「…退いて」
震える手でアンナを横に押すと、ライトの贈り物に被さる布を掴み勢いよく引き剥がした。
「……これ…は…?」
真っ白なドレス……これはウェディングドレス?
いや…違う……鎧だ。
真っ白なドレス型の鎧だ。
「ライトが何を思ってこれを贈ってきたのかは分からん……でもお前に必ず渡せと言われてな……」
318:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:16:50.62 5aUFKfPW
ふと、胸元部分に紙切れが挟まっている事に気がついた。
それを指先でつまみ上げてみる。
小さな文字で“最愛なるティーナへ”と書かれている。
それを一度だけ指先でなぞると、ゆっくり紙を広げて中を確認した。
―心から愛してる。
「………この鎧は私のだ……誰にも触らせない」
―たったの一言。
何ヶ月も待ったのに、ただ一言だけ雑に書かれていた…。
「ぇ…どうしたの?ティーナ…」
紙を握りしめ、鎧に抱きつく。
……私の在り方が今やっとはっきり分かった。
―結婚してライトに守られるのが私では無い。
―ライトの前に立ち、率先してライトの道を切り開くのが私では無い。
「…ライト…すぐに行くから…愛してるわ…ライト…私も愛してる…」
ライトを“私のモノ”にするのでは無い。
私が“ライトのモノ”になるのだ。
その時、初めて私は昇華する。
私はライトの所有物として、全てを捧げよう。
ライトが王になるなら、それを守る負けない兵が必要だ。
そう…絶対に王を傷つけない騎士が…。
319:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:17:44.64 5aUFKfPW
ありがとうございました、投下終了します。
もうすぐ終わりです。
320:名無しさん@ピンキー
11/08/07 22:31:05.89 JCs78Xaj
ひゃっほう一番乗りGJ!
おわっちゃうのか・・・グスン
321: ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:31:44.79 5aUFKfPW
先ほど兵士が二人がかりで持ち込んだモノだが…なんだろうか?
見た感じドレスのような…。
「先日騎士団の密偵にバレンを偵察させに行かせたのだがな……その時偶然ライトに会ったそうだ」
ライトに会った?
再度アルベル様へと視線を向けた。
「その密偵がな…ライトにティーナの現状を伝えてしまったんだよ。
ソイツもティーナの事を思ってした事なのかも知れないが……それを知ったライトがティーナにこれを贈ってきたのだと…」
「なんと軽率な事を…」
ハロルドが頭を抱えて私を見てきた。
その目には同情の色が強く含まれている。
「……」
「ティーナ!」
無言で立ち上がり、布の被ったモノの元へと歩み寄っていく。
ライトからの贈り物なら、私は大歓迎だ。
「ティーナ…貴女は母親なのよ?だから…」
「…退いて」
震える手でアンナを横に押すと、ライトの贈り物に被さる布を掴み勢いよく引き剥がした。
「……これ…は…?」
真っ白なドレス……これはウェディングドレス?
「いや…違う…」
鎧。
真っ白なドレス型の鎧だ。
綺麗に光を反射して光輝いている…こんな鎧見たことが無い。
いや…この鎧以外存在しないだろう。
322: ◆ou.3Y1vhqc
11/08/07 22:32:10.00 5aUFKfPW
「ライトが何を思ってこれを贈ってきたのかは分からん……でもお前に必ず渡せと言われてな…」
ふと、胸元部分に紙切れが挟まっている事に気がついた。
それを指先でつまみ上げてみる。
小さな文字で“最愛なるティーナへ”と書かれている。
それを一度だけ指先でなぞると、ゆっくり紙を広げて中を確認した。
―心から愛してる。
「………この鎧は私のだ……誰にも触らせない」
―たったの一言。
何ヶ月も待ったのにただ一言だけ雑に書かれていた…。
「ぇ…どうしたの?ティーナ…」
紙を握りしめ、鎧に抱きつく。
……私の在り方が今やっとはっきり分かった。
―結婚してライトに守られるのが私では無い。
―ライトの前に立ち、率先してライトの道を切り開くのが私では無い。
「…ライト…スグに行くから…愛してるわ…ライト…私も愛してる…」
ライトを“私のモノ”にするのでは無い。
私が“ライトのモノ”になるのだ。
その時、初めて私は昇華する。
私はライトの所有物として、全てを捧げよう。
ライトが王になるなら、それを守る負けない兵が必要だ。
そう…絶対に王を傷つけない騎士が…。
323:名無しさん@ピンキー
11/08/07 22:33:35.80 5aUFKfPW
本当にごめんなさい!317と318は間違いです。無視してください。
>>317が>>322
>>318が>>323
となります。
本当にすいません…
324:名無しさん@ピンキー
11/08/07 22:45:43.77 5aUFKfPW
>>317が>>321
>>318が>>322
ですね。
再度申し訳ないです。
325:名無しさん@ピンキー
11/08/07 23:32:10.74 fc5DoyZT
アナゴ様が見ている
326:名無しさん@ピンキー
11/08/08 01:31:45.18 7cQxp10B
GJ!
だけど、ティーナが切なすぎて鼻水がとまらない
327:名無しさん@ピンキー
11/08/08 02:08:28.88 7Vg4HHpP
GJ!
ティーナが可哀相な反面、次回以降のメノウのデレっぷりに期待してしまう
328:名無しさん@ピンキー
11/08/09 00:09:44.24 MQys1cLX
投下GJ!
もうそろそろ終わるのか。
寂しいなあ
329:名無しさん@ピンキー
11/08/09 08:59:15.83 en6+zPi7
投下乙!ようやくティーナのターン?
330:鉄平 ◆RaOe7CTARw
11/08/09 14:50:56.33 ev6G3GN0
ライト………はあ…
331:名無しさん@ピンキー
11/08/10 00:42:47.30 X8LD8URy
らいとぁああ!
332:名無しさん@ピンキー
11/08/10 21:22:32.15 CkYNhcrK
乙です
333:名無しさん@ピンキー
11/08/10 23:02:50.54 mVCCx6T6
ティーナ以外は投下しなくていいよ!どうせ駄作だろうし
334:名無しさん@ピンキー
11/08/10 23:16:01.32 OPSRWRVv
脈絡無さすぎて意味が分からない。
335:名無しさん@ピンキー
11/08/11 18:58:25.69 1R8DVpEX
荒らし乙
このまえ他スレにこのスレ晒してたやつだろ
336:名無しさん@ピンキー
11/08/11 19:45:46.46 4GpVB3+M
このスレ晒しても仕方ないだろwどんな暇人だよw
337:名無しさん@ピンキー
11/08/11 19:48:24.12 yDekDgAM
クーとエロりんこ出来るまで終了とかマジで止めて
クーとやりたい…クーとやってからにして!!
お願い致します
338: ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:29:04.54 5vL9k6rm
夢の国投下します。
339:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:29:37.62 5vL9k6rm
「ティーナ!待ちなさいティーナ!」
後ろを追いかけてくるアンナを無視してスタスタと歩き続ける。
今まで全てを怠っていたからだろう…身体が思うように動いてくれない。
それでも私は港へと歩き続けた。
「な…なんだ?」
周りの町人が私を見るなり後ずさる。
無理も無い。
こんな鎧を身に纏っていれば目にもつく。
「団長、飛行船が到着しました!」
「あぁ、今すぐ出発だ」
「ティーナ!!」
港へ到着すると、まず視界に入ってきたのはバレンが乗ってきた小型の飛行船。
そして鎧姿の騎士団員。
私を見るなり全ての団員が私に敬礼をして見せた。
「我々騎士団は今からバレンに向かう!目的はただ一つ!バレンを滅ぼした魔王討伐!!!」
団員達の前に立つと、できるだけ大きな声を張り上げた。
久しぶりに大声をあげたからだろうか?不覚にも立ち眩みを起こしてしまった。
ふらつく私をアンナが支える。
「ティーナ…やめなさい。貴女はもう母親なのよ?貴女が守らないといけないモノはなに?考えなさい」
私の前に立ちはだかると、私を睨み付け問いただした。
私が守るモノ?
そんなの初めから決まっている。
340:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:30:00.51 5vL9k6rm
「騎士団全兵飛行船に乗り込め!魔王の首を取るぞ!」
アンナの手を払い、飛行船に向かう。
「貴女が母親を放棄するなら私があの子の母親になるわ!!!貴女が帰ってきても、もう自分の子供が居ると思わないで!」
「……勝手にしろ」
後ろを振り向かず、飛行船へ乗り込んだ。
◆◇◆†◆◇◆
バレンが崩壊して十一ヶ月が過ぎた。
雪が舞い降り、景色を白く染めて行く。
景色を眺めるだけなら“雪は綺麗だな”ですむのだが、今の状況はいろいろと困る。
何故困るのかと言うと、町の復旧作業の真っ只中だからだ。
「ライト、見て見て!綺麗なお花!」
「おぉ、本当だな」
そういった事を気にしないのはメノウとティエルぐらいだろう。
今も雪にまみれて外を散歩中だ。
外を散歩と言っても町中を歩く程度。
町人達は俺やメノウに最大限の注意を払って作業を進めているせいか、あまり進んでいない気がする。
道を塞ぐ瓦礫を片付けるだけでも七ヶ月近くかかってしまったのだがら、無理も無い話しなのだが…。
早く作業しないと、餓死者や凍死者が出てもおかしくないかも知れない。
食料庫が無事だったのでなんとか餓死者を出さず今まで頑張ってこれたが…。
341:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:30:45.92 5vL9k6rm
…冬に入ってそれも厳しくなってきた。
「ティエルは……帰ったのか」
最近、ティエルはよく森に帰る事が多くなった。
やはり欲が強く渦巻くこの場所にいるのが疲れるそうだ。
それでも一日一回は遊びに来る。
「ティエル……ホーキンズと話てんのかな…」
忘る森…ティエルの故郷であり、死の森と言われている樹海。
何故死の森と言われているのかティエルに聞くと、人間は亡くなると魂が身体を抜けてその土地の精霊の元へ引き寄せられるそうだ。
そして浄化されて、産まれた土地に帰ると……本来ならすでにホーキンズの魂は浄化され産まれた土地…ユードに帰っているはずなのだが、今でも忘る森に留まっているそうだ。
理由は…まぁ、お節介のホーキンズの事だからなんとなく想像はつく。
「ライト…手痛い」
メノウが涙目になりながら両手を差し出してきた。
雪を触ったからだろう。冷えて真っ赤になっていた。
メノウの両手を布で包み込み、擦ってやる。
「ライト~…」
甘えるように額を胸にぐりぐり押し付けてくると、尻尾をゆっくり振り背中に手を回してきた。
俺をメノウの背中に手を回して背中を擦ってやる。
それが気持ちよかったのか、目を細めて微笑んだ。
342:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:31:34.54 5vL9k6rm
「寒いな…後宮に戻るか?」
本城は破壊されてしまったが、少し離れた場所にある後宮はドラゴンの攻撃を受けなかったらしく唯一まともな形として残っていた。
ドラゴンの情けだろうか?
それなら城は壊さないでもらいたかった…。
「おい、お前達も今日はキリが良い所でやめとけよ!」
周りで作業している平民貴族兵士全員に聞こえるように声を響かせた。
慌てたように全員此方へ振り返り、わざわざ膝まずく。
俺がこの町に来てからずっとこの調子なのでもう諦めているのだが…わざわざ俺達が通る度、魔王様!だの女神様!だの妖精様!だの寒いのに暑苦しい。
とくにティエルはそれが面白くて何度も道を行ったり来たり。
その度に全員がティエルを崇めるもんだから作業も進まない…。
「お~い!魔王様~!」
遠くから聞こえる声にメノウがいち早く反応した。
耳と尻尾を逆立て、一直線に睨んでいる。
「一応、城の埋もれてた瓦礫と地下にいる“アレ”は処分してきたぜ」
姿を現したのは現在騎士団をまとめている、言わば団長の地位に座るミアだ。
「そうか…悪いな?」
「いいよ別に。“アレ”はこの世にあっちゃいけないモノだからな」
343:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:32:03.28 5vL9k6rm
ミアが言うアレとは、俺とハロルドの前に現れたあの生き物の事だ。
ドラゴンの襲撃により殆どが絶命していたらしいのだが、まだ生きていたモノの処分をミアに頼んだのだ。
「それじゃ、城に入れるだけ女と子供を入れてやれ。寒さぐらいは凌げるはずだ」
まだ女子供が入れば国を再建できる。
国の宝は金では無く、女と子供なのだ。
「なんだ?女子供囲って何を企んでッ痛ッた!?」
ニヤついたミアをメノウが思いきり突き飛ばす。
見事に転び、壁に頭を打ち付けた。
「なにするんだこのガキ!」
「ライトはそんな事しないもん!」
ミアの前に立ちはだかり、ミアに威嚇する。
「仲がいいのは分かったから喧嘩するなよ。後なミア、自国の姫様にガキは無いな。罰として一日一人港見張りの刑だ」
「仲良くないもん!」
「ちょっとまてぇ!?なんで一人なんだよ!!」
飛び付く勢いで詰め寄る二人。
多分友達にはなれそうだ。
「んじゃ、ミア後は頼んだからな」
「へ~い…」
渋々港へと向かうミアと別れた後、後宮に戻りこれからの事について考えた。
このままでは、必ず死者が出てしまう…近隣国に援助を求めるか…それとも…。
「ねぇ、ライト!」
344:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:32:28.96 5vL9k6rm
「ん?どうした?」
膝の上に座るメノウが大きな目をぱちくりしながら、見上げてきた。
緑のドレスで着飾り、耳と胸にはグリーンメノウのイヤリングとネックレスが輝いている。
イヤリングはゾグニの宝物庫にあったモノを拝借した。
「メノウねぇ…赤ちゃん欲しい」
「……そっか。メノウの赤ちゃんは可愛いだろうな」
耳を撫で、窓から外に目を向けた。
最近、メノウが子供を欲しがるようになってきた。
理由は分からない。
だけど身体を擦り寄せ、小さな喉声で鳴くメノウを押さえるのも時間の問題かも知れない。
子供問題は国の王になると決めた時から考えていた事だが、俺は他国から養子を取るつもりだったのだ。
それがせめてものティーナに対して罪滅ぼしだと思っている。
今、ティーナは騎士団を辞めてユードに戻っていると聞いた。
団長の仕事をすべて放棄してユードに戻ったと……密偵の一人から「お前が団長を弱くした」と言われた時は流石にショックを受けたが、ティーナはそれ以上の心の痛みを受けたに違いない。
だから俺は騎士の盾である鎧をティーナに贈ったのだ。
もう一度、ティーナに騎士団として胸を張って指揮を取ってほしい。
345:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:33:12.39 5vL9k6rm
そして一度も言えなかった―愛してると言う言葉を一枚の紙切れに書いたのは純粋にティーナを愛していたからだ。
今までのティーナとの生活は嘘では無いと……本当に充実していたし……心からティーナの事を愛していた。
次会う時は敵同士かも知れない。
その時は―ティーナに斬られよう。
喜んでティーナの剣を身体で受け止めよう。
「ライト…またボーっとしてる」
「ん…あぁごめんごめん。今日は疲れただろ?もう休むといいよ」
メノウを抱き抱えると、ベッドに連れていき寝かせてやる。
「ライトも一緒に…」
「あぁ、分かってるよ」
メノウの横に同じように寝転ぶ。
すると、上半身だけ持ち上げたメノウが一度俺を見下ろすと、顔を近づけ口にキスを落とした。
それを避けることなく受け止める。
「ん……っぁ…はっ…」
「ん…メノ…」
恐る恐るメノウの舌が俺の口の中へ侵入してくる。
それを迎え入れ、優しく抱き締めてやる。
「ほら…もう寝な」
上からしがみつくメノウを横に再度寝かして、布団を掛けてやる。
「うん…ライト何処にもいかないでね?」
「あぁ、行かないよ。俺とメノウは結婚したんだ……何処にも行かないさ」
346:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:33:40.23 5vL9k6rm
「うん…ライト…愛してる…」
「あぁ…俺も愛してるよ」
メノウを抱きしめると、お互いそのまま眠りについた。
―その日、久しぶりに夢を見た。
母とティーナが一緒に料理を作っている姿を後ろから眺めている夢。
二人ともエプロンをして何か作っている。
後ろから見ても楽しそうに雑談しているのが見て分かった。
母が此方へ振り向き、何かを呟く。
――
(なに?聞こえないよ母さん)
再度問いかけると、呆れたように母がティーナに話しかけた。
ティーナが振り返り、此方へ歩み寄ってくる。
左手薬指には、光る指輪。
そうだ…俺はティーナと結婚して―
ロングスカートを引きずらないように手でつまみ上げながら此方へ歩み寄ってくる。
それを笑顔で迎え入れると、口を俺の耳元に近づけ呟いた。
―裏切り者。
「違うッ!!!」
大声を張り上げ、ガバッと起き上がる。
周りをキョロキョロと見渡し、母とティーナの姿を探した。
居ない…。
乱れた息を沈めて、再度周りを見渡す。
見慣れない風景が広がっている…。
「そっか…俺魔王なんだっけ…」
意識がはっきりすると、自分がバレンに来ている事を思い出した。
347:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:34:06.13 5vL9k6rm
今さっきまでユードにある自宅で家族団欒を楽しんで…は無いな。
「メノウ起きてたのか……メノウ?どうした?」
ふと隣に居るメノウが窓の外をぼーっと眺めているのに気がついた。
耳を立てて窓の外をジーッと見ている…。
返答が無いので不思議に思い、再度メノウに話しかけた。
それでも返事を返さず、窓の外を見ている。
ベッドから立ち上がり窓に近づく。メノウすぐにベッドから立ち上がり後を追ってきた。
窓を開けて、外に目を向ける。
―その瞬間、強い風と城下町から騒がしい声が聞こえてきた。
「なんだよ…こんな朝っぱら………ん?」
窓の外に広がる町の向こう…普段なら海が広がっているのだが…。
海一面を様々な船で埋め尽くされていた。
「流石に早いぞ……クソ」
壁を拳で叩いて、すぐに部屋を後にした。
多分俺を潰しに他国の者達が来たのだろう。
まだ、何も整っていないのに。
流石に今戦争をすれば負ける…。
「ライト!ヤベー事になったぞ!」
ミアが血相を変えて此方へ走り寄ってきた。
「向こうは何人ぐらいだ?」
「人数?全部合わせて五十万ぐらいか…それより中央広場に来いって!」
ミアに腕を引かれて走り出す。
348:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:34:35.63 5vL9k6rm
何ヵ国来ているんだ?
今俺が持ってる兵力は二万程度。
流石に二万と五十万ではドラゴンの力を借りない限り勝ち目は無い。
ドラゴンの力なんてのはもうゴメンだが流石にこの崖っぷちぶりは頼りたくなってしまう。
「五十万相手に俺のハッタリが通用するのか?……いや、無理だろぉ…なぁ、メノウ?」
「え?うん、そうだね」
隣を走るメノウに唐突に話しかけた。
何が?と言った感じで一度首を傾げたが、考える素振りを見せると元気よく頷いた。
とにかく…すぐに対策を考えないと。
民間人が居る限り、攻撃はして来ないはず。
民間人もろとも攻撃なんてすれば、それこそ全世界の強国の的になるからだ。
「ライトぼーっとすんなよ!中央広場に着くぞ!」
「お前外では魔王って言えよ…名前を言うな名前…を……」
中央広場に到着すると、見たこと無い国旗を掲げた国がズラリと並べられていた。
いや…見たことある国旗も手で数えるほどならいくつか存在する。
一番目につく国旗は二つ。
一つはフォルグの国旗…。
数ヶ月前にやり合ったばかりなので、此方側の騎士団員や兵士達は殺気だっている。
そしてもう一つの見慣れた国旗……。
349:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:35:03.98 5vL9k6rm
「久しぶりだな?ライト」
一際目立つ見覚えのある鎧を身に纏い、俺の前に立ちはだかる女性。
後ろには一年前まで必死に守っていた国旗が揺れていた。
「久しぶりだな…ティーナ」
ロゼス・ティーナ……ノクタール騎士団団長で俺の幼馴染み。
そして結婚する予定だった女性だ。
やはり密偵が言っていたように身体は衰えた感じはする。
鎧を纏っていると言うより、鎧に纏われていると言った感じだ。
「おまえ、痩せたな…」
「そうだな…」
「似合ってるじゃないか…それ」
笑って鎧を指差した。
「あぁ…」
しかしティーナは表情を崩さない。
ずっと睨み付けている。
仕方の無い事…分かっているのに胸が苦しい。
「私が魔王だ!お前達、何目的で我が地に足を踏み入れた!!!生きて帰れると思うなよ!?ドラゴンの餌にしてくれるわ!!」
表情を作り周りの他国者達に声を荒らげた。
ドラゴンと言う言葉にざわめき立つ。
「お、お怒りを静めてくだされ魔王様!」
一人の貴族が剣を両手で掴みながら此方へ歩み寄ってきた。
俺の周りに居た兵士が庇うように前に立つ。
350:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:35:29.79 5vL9k6rm
「わ、我々ユーグリアは魔王様と同盟を結びたく馳せ参じた所存でございます……我々に攻撃の意思はありません…どうか…どうか我々の剣をお受け取りくださいませ」
俺の前に膝まずくと頭を下げ大きく両手を上げて剣を差し出してきた。
ユーグリア…確かドラゴン王の神話と妖精王ティナ・ノーグの神話が根強くある土地の国だった気がする。
「……よかろう…お前達の国を攻撃対象から外す」
剣を受け取り周りに目を向けた。
明らかに動揺している…。
「ふ、ふざけるな!」
アタフタする周りの国を見て一人の大臣らしき人物が立ち上がった。
後ろにある国旗に目を向ける。
見たこと無い国旗だ。
「お前は何処の国だ?」
「セ、セイアン王国だ!」
セイアン王国?
確か西の大陸にある小さな国……軍事力もたかが知れていた気がする。
「おまえ家族は居るか?」
「家族?居るが…そ、それがなんだ」
唐突な質問に身体を強張らせ、拳を握りしめた。
これは周りを脅すのに立派な起爆剤になる。
「7日後……お前の国にドラゴン千体向かわそう」
「なっ、何を!?」
351:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:36:21.69 5vL9k6rm
「まず、お前の知り合い。その次は親類。その次は妻……そして子供……全ての悲鳴をお前に聞かせてやる。心して待つがいい」
みるみるうちに顔が青ざめ、へなへなと地面にへたりこむ。
「我に同盟を求める国は剣を持ち前に出ろ!!前に出なかった国は敵とみなし、バレン同様火の海にしてくれる!!!」
片手を大きく上げて、言い放つ。
内心ドキドキしながら、ハッタリをかましているのだが、これで何ヵ国同盟を結ぶか…。
「わ、我が国も同盟国として迎え入れてもらいたい!」
一人の騎士が剣を手に前に一歩出た。
近隣国の者だろう…。
「我が国も!」
「そ、それなら私の国も!」
次々に現れる同盟志願国。
殆どが近隣国の連中ばかりだ。
それでいい…この大陸の国を味方に引き込めば、他の大陸から来た者達は手をだせなくなる。
やはり近隣国はまだ独裁者ゾグニの念に苦しまされているようだ。
この土壇場でまさかゾグニの存在が役に立つとは思ってもみなかった。
「ミア…この大陸の国はどれぐらい居るんだ?」
現時点で同盟志願国は八ヶ国。
「前に出てる八ヶ国と後は後ろにいる、ティケ、ラグエル、ハーフラードの三ヶ国だな」
352:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:37:01.81 5vL9k6rm
やはり八ヶ国すべてこの大陸の国か…。
せめてこの大陸を同盟国で固めたい。
後三ヶ国…。
「待ってもらいたい」
「……なんだ?」
国同士議論を交わす中、ティーナが片手を上げて前に歩いてきた。
その手には剣を持っている。
同盟志願…では無い。
片手で剣を持ちながら此方へ歩み寄ってくる。
「止まれ!魔王様に近づく―」
一瞬―ほんの一瞬だった。
瞬きした時にはすでにティーナに歩み寄った兵士の上半身が無くなっていた。
さ迷うように下半身だけニ~三歩歩くとその場に倒れてしまった。
唾を飲み込み全ての者達がティーナに釘付けにされた。
「魔王……お前メノウ姫と一緒になったと言うのは本当の事か?」
スタスタと歩いてくるティーナに自然と足が後ろに下がった。
アルベル将軍が言ってたのはこの事か…。
確かにこれは“戦神”だ。
「あぁ、本当だ」
横に居るメノウを引き寄せて見せた。
しかしティーナの表情はやはり変わらない…。
「と、止まれといっ」
「貴様ッ」
なんの迷いもなく歩み寄ってくるティーナに数人の兵士が立ち向かう。
兵士達に止めろ!っと言う前にティーナが剣を振り抜いた。
353:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:38:00.90 5vL9k6rm
「おいおい……魔王ってアイツの事じゃねーのか?」
飛ぶ二つの首を眺めながらミアが呟いた。
流石にこれはヤバい…今戦えば間違いなくティーナに殺される。
いや…殺されてもいいのだが、今は流石にダメだ。
メノウがどうなるか分かったもんじゃない。
「……ミア…お前メノウ連れて一番後ろに下がれ」
「はぁ?序列的に次は俺が行く番だろ?」
ニヤァと口を歪めると。腰から剣を引き抜き無防備にティーナに近づこうとした。
それを慌てて止める。
コイツはティーナ相手に勝てると思っているのだろうか?だとしたら頭が弱いどころの話ではない。
「ティーナは俺の相手だ…だからメノウを頼むよ」
メノウの手を掴み、ミアに差し出した。
「……」
メノウが手を握り締めたまま開こうとしない…ミアと手を繋ぐのが余程嫌らしい。
だけど今はそんな事言ってられない…早くしないとティーナが一歩一歩近づいてきている。
「メノウ…俺の言うことを聞く約束だろ?ミアの手を繋いで後ろにさがれ」
少し強引にメノウの手を開かせミアに渡した。
ミアも何処か居心地悪そうにメノウの手を掴み、後ろに下がっていった。
「……よし…」
354:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:38:39.42 5vL9k6rm
自分の顔を両手でバシバシッと力をこめて平手打ちすると、後ろを振り返り、ティーナと対峙した。
「やっと出たな魔王……さっさと前に出てこい」
剣を此方へ向けると、広場のど真ん中まで戻っていった。
周りに見えやすく真ん中で公開処刑か…。
ティーナらしいと言えばティーナらしいが…。
兵士の剣を借りて前に歩き出す。
「魔王様ー!」
「業火で戦神を消し炭に!」
後ろから聞こえるバレンシア騎士団や兵士。民間人の声援。
「ティーナ団長やっちゃってくださいよ!」
「そうだ!我々は戦神がついている!!!魔王なんて潰せ!」
ティーナに声援を贈るノクタール騎士団とその同盟国。
それらすべて雑音として耳に入り込んでくる。
ティーナも同じだろう…周りの声に一切耳を傾けない。
「まともにやり合うのって確かユードでやった以来だな」
広場の中央に到達すると、既に構えて待っていたティーナの前に立ち俺も剣を構えた。
「……」
返答無し…か…。
まぁ、期待はしていなかったがこれはかなり恨まれている。
そりゃそうだ…恨まないほうがおかしい。
「来いよティーナ!(……メノウが逃げる時間ぐらいは稼げるだろ…ッ!?)」
355:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:39:22.89 5vL9k6rm
―危ないと感じた頃には既に遅かった。
目の前にあるティーナの顔、理不尽極まりない早さで間合いを詰められる。
咄嗟に後ろへ飛び腕一本持っていかれる覚悟でガードした。
鈍い痛みが腕を襲い、地面の揺れで足元をすくわれる。
「……お前はいつも通り弱いな」
「ぐっ…お前はいつも通り人間じゃないなッ」
腕から滴り落ちる血を止める為に傷口を手の平で押さえた。
ギリギリ…本当にギリギリで肉だけ斬られていた。
いや…単純にティーナがワザと外したのだ。
「……私はいつでもお前を殺せる」
「分かってるよ」
立ち上がり剣を構えた。
そうだ…この状況は今に始まった事じゃ無い。
いつもティーナと剣でやり合ってたじゃないか…。
ただ本気が本気じゃないかの違いだけ。
ティーナの癖がどこかにあるはずだ…ティーナの癖が…。
剣を構えると再度ティーナが突っ込んできた。
今度は真っ正面から…。
此方も真っ正面から剣で受け止める。
間合いを作らせない為にティーナに身体を寄せた。
私も―心から愛してるわよライト。
……え?
356:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:40:21.52 5vL9k6rm
ティーナに弾かれた剣……咄嗟に体制を立て直し、ティーナを見ず剣を振り抜いた。
「なっ!?」
そんなつもりじゃなかったんだ―。
振り抜いた剣はティーナの剣を根本から砕き―
「ラ…イ…ッ」
剣先がティーナの首目掛けて飛んでいった。
赤い血が空に舞いティーナの身体がゆっくり崩れ落ちていく。
固まる俺とは違いティーナは優しい笑顔を浮かべていた。
俺を優しく包み込むように…母のような瞳を向けて。
何処からおかしくなったんだ?
―メノウ達が拐われた時から?
―ホーキンズが殺されてから?
―昨日お母さんの夢を見たから?
あぁ、そうだ…。
俺は魔王になったんだっけか―誰も逆らえない魔王。
全てを滅ぼす魔王に…。
357:名無しさん@ピンキー
11/08/12 00:40:43.95 SoFy0C5O
支援
358: ◆ou.3Y1vhqc
11/08/12 00:41:28.63 5vL9k6rm
ありがとうございました、投下終了です。
後二回で本編終了になります。
359:名無しさん@ピンキー
11/08/12 00:47:09.81 LmLu4p1u
GJJJJJJ
360:名無しさん@ピンキー
11/08/12 01:01:55.00 HH3M+sRX
投下乙
ティーナ・・・
361:名無しさん@ピンキー
11/08/12 01:16:38.22 0kuCBoJb
YABEEEEEEEEEE!
このヒキはヤバいティーナ不憫過ぎるだろ……
グッジョブ次回までティーナの無事を祈りつつ全裸待機
362:名無しさん@ピンキー
11/08/12 01:36:19.26 TR1+yQuo
パン屋の居候になったクーは幸せなのかもしれない
363:名無しさん@ピンキー
11/08/12 01:50:51.24 N4vHptri
ちょっとまってちょっとまってちょっとまって
とりあえず作者様GJ…なんだけど
ちょっとまってよぉぉぉぉティーナ!!!
364:名無しさん@ピンキー
11/08/12 02:18:21.59 WMcxyeaW
どうしてこうなった…
365:名無しさん@ピンキー
11/08/12 18:43:42.16 CEwbYXU3
ティーナ・・・
366:名無しさん@ピンキー
11/08/12 23:41:33.71 XtuA4Z4J
えっ……
ティー、ナ?
367:名無しさん@ピンキー
11/08/13 01:07:41.05 EXhA2ihN
投下GJ!
ティーナェ
368:名無しさん@ピンキー
11/08/14 02:12:55.87 517U0lFz
作者さんGJすぐる!!
つーかマジでこのクオリティならエロ抜きで文庫化できるんじゃね!?
書店にあったら俺は絶対買うもん
369:名無しさん@ピンキー
11/08/15 06:20:24.56 gu55S2cS
「春春夏秋冬」最後まで読んで
あまり合わなかったんで
「夢の国」嫌厭してたんだが
もしかして損してる?
370:名無しさん@ピンキー
11/08/15 07:44:06.26 sPOEYgiY
それは人それぞれだから分からん
初めの方見て面白いと思ったら見たらいいよ
内容的には春春夏秋冬とはまったくの別物だし
371:名無しさん@ピンキー
11/08/15 10:31:53.17 a4fDeU/d
>>369
損、してるかもしれん。
いや、あくまで私の主観上ではね。
長編故の取っつき難さはあるが、なに、春春夏秋冬読めるんなら文章量的には問題ないだろうから、試しに読んでみなよ。
372:名無しさん@ピンキー
11/08/15 13:10:08.10 sPOEYgiY
てゆうか春春夏秋冬ってネーミングセンス良いな。
意味的にも綺麗な感じ。
373:名無しさん@ピンキー
11/08/16 02:50:26.13 uxaCR1mR
>>368
禿同。
この職人様の作品が書籍化されるってんなら、狂喜乱舞して買い集めてそうだ
374:名無しさん@ピンキー
11/08/16 09:11:34.18 KEjncjH1
誰か読み手が一人でも書き手に変わらない限りスレ的に終わりも近い気がする。
375:名無しさん@ピンキー
11/08/17 21:16:18.77 XOZwb6/L
過疎画像半端無い…
376:名無しさん@ピンキー
11/08/18 20:24:41.20 VQ0ilT40
敢えて言おう
ライト死ねっっっっっ
377:名無しさん@ピンキー
11/08/18 20:51:59.20 +ElqO4kI
ライト生きるっ!!!
378:名無しさん@ピンキー
11/08/19 02:24:50.88 2cXvVeCQ
保管庫更新感謝乙!
379:名無しさん@ピンキー
11/08/19 23:45:33.56 F0twdKjI
この状況で続きを書いたら色々と叩かされそうじゃのう・・・・・
380:名無しさん@ピンキー
11/08/20 01:04:36.67 avknbFXH
>>379
続きでも新作でも小ネタでもなんでもプリーズ!!
381:名無しさん@ピンキー
11/08/20 02:10:49.69 EqM6uQBr
test
382:名無しさん@ピンキー
11/08/20 04:25:39.79 wFOd3xtb
>>379
叩かれる?
何処をどう見てそう思ったのか知らないけど、過疎ってるから頼むよ
383:名無しさん@ピンキー
11/08/20 23:08:38.81 GfVdMbXN
少なくとも夢の国レベルにも満たない駄作は投下するなよ
384:名無しさん@ピンキー
11/08/20 23:24:00.63 wFOd3xtb
sageの書き方も分からないヤツが書くことじゃないわな
過疎スレ覗いて何をイキッてんだお前は
385:名無しさん@ピンキー
11/08/21 09:21:32.59 xcs/2rhw
上手いかどうかなんて投下してくれなきゃわからないからいいんじゃん
このまま高いレベル期待して待ち続けるようならこのスレ潰れるしな
386: ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:56:04.21 9k0gXKm5
夜と闇投下します。
387:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:56:35.00 9k0gXKm5
―島に来て十三年が過ぎた。
島人達にも既に家族のような待遇を受けており、都会に居た時と比べたら苦労も絶えないが、良いこともたくさんある。
その一つが守夜との結婚…そして出産。
守夜と結婚した時に身体の問題で子供は諦めていたのだが、神様の恵みにより子を授かる事ができた。
その子と言うのが、一人娘の麻利(まり)。
今年9歳になる小学4年生だ。
勿論、僕が教師を勤める学校の生徒として学校に通っている。
―「おはよう~、皆早く席につけよ。早速だけど明日テストあるからー」
「え~!?そんな唐突に言われても~!」
僕に不満の声を上げる生徒達。
先ほどまでキャッキャ騒いでいたのに、突然な教師の理不尽に皆が顔色を変えた。
「普段授業の範囲から内容を出すから勉強してるヤツなら問題ないだろ?」
「え~…でも麻利は既に知ってるんでしょ?俺達だけ知らないってズルくない?」
教卓の前に座る麻利を指差し、愚痴を吐く一人の生徒。
「マリそんなズルしないもん!」
椅子から立ち上がり指差す生徒を睨み付けた。
偶然なのか校長の差し金なのか、一年生から四年生まで僕はずっと麻利の担任となっている。
388:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:57:01.36 9k0gXKm5
初めは麻利が嫌がったりイジメの対象になるんじゃないかと心配していたのだが今までそんな事は一度も無く、クラス皆仲良く過ごしている。
「じょ、冗談だって~んな怒るなよ麻利」
「……ふん…」
謝る男子生徒から露骨に顔を反らすと雑に椅子に腰かけた。
ため息を吐き肩を落として項垂れる男子生徒。
他の生徒から聞いたのだが、この男子生徒は麻利の事が好きなんだそうだ。
好きな子にちょっかいをだしたくなる気持ちは分かるのだが、教師になってそれで上手く行った生徒を僕は見たことが無い。
やはり優しくされる方が女の子も嬉しいのだ。
「先生、授業しなくてもいいの?」
麻利が時計を指差し、僕に目を向けてきた。
「あ、あぁ…すまん。それじゃ、一時間目は数学だな。皆教科書だしなさい」
慌てて数学の教科書を出して教卓の上に置いた。
麻利は誰に似たのだろうか?
顔は守夜…性格は僕と守夜を半分したような性格だ。
まだ小学生なのでまだまだ子供っぽさは抜けないが、将来は守夜さんのような綺麗な女性になるんじゃないかと親バカながらに本気でそう思っている。
389:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:57:28.10 9k0gXKm5
■■■■■■
「それじゃ今日はこれで授業終わり。明日のテスト忘れるなよ~」
「は~い。先生さよ~なら~」
皆がパパに手を振り教室から出ていく。
それを見送ると、パパも教室から出ていこうとした。
「ん?須賀どうしたんだ?帰らないのか?」
椅子に座るマリにパパが気がついた。
「先生はいつ帰るの?」
「先生は職員室で終礼があるから六時ぐらいになるかな」
六時…後二時間もある。
「じゃあ、マリ待ってる」
「別にいいけど……此所で待つのか?」
誰もいない教室を見渡して、心配そうに呟いた。
確かに…教室一人で待つのは寂しいかもしれない。
「大丈夫だよ。今日の宿題しながら待つから」
カバンから教科書とプリントを取り出すと、机に並べてパパに微笑んだ。
「そうか…分かった。なるべく早く終わらせるよ。後ママにも電話しときなさい」
パパが携帯をポケットから取り出して、私に差し出した。
本当はダメだけど、どうせ皆戻って来ることは無いはず。
今日はクラブも無いのでグラウンドも使えなくしている。
私みたいに学校に留まる理由が無い子達は既に学校から出ていると思う。
パパから携帯を借りて、パパを見送った。
390:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:58:01.00 9k0gXKm5
早速携帯を開いてママに電話する。
「もしy「もしもし?冬夜?」
二回のコールで出たかと思うと、マリの声を遮ってママの声が耳に響いてきた。
「ごめんなさい。マリだよママ」
「……あぁ、マリなの…。どうしたの?」
一瞬声のトーンがはねあがった…だけどマリだと分かるとすぐにいつものママの声に変わってしまった。
「今日はパパと一緒に帰るね?」
「分かったわ。それより麻利…今日もちゃんとパパの言うこと聞いて良い子にできた?」
「うん!今日の体育マラソンだったんだけど、女の子の中でマリが一番早かったの!」
「そう、偉いわね麻利。お父さんに迷惑かけちゃダメよ?」
「うん!マリ良い子だから大丈夫だよ!」
「えぇ、それじゃ気をつけて帰ってきなさい」
「は~い、バイバイ」
電話を切ると、携帯電話を自分のポケットの中に入れた。
ママはいつもパパの顔色を伺っている気がする。
ママはパパが好きだから、いつも気になるのよと言ってたけど、パパはどうなんだろう。
パパもママの事を好きだと思うけど…。
「……パパが来る前に早く宿題しなきゃ」
筆箱の中から鉛筆を取り出すと、宿題のプリントに意識を集中させた。
391:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:58:25.44 9k0gXKm5
■■■■■■
「洗濯は取り込んだし…お風呂も洗ってお湯沸かした……食事も後は温めるだけ…」
一つ一つ何度も確認して、家の中を車椅子で走り回る。
本来ならフローリングにキズがつくからこんな事しないのだけど、このご時世身体障害者にも優しくなってきたようで、バリアフリー様々多少楽をさせてもらっている。
楽と言っても基本的には何も変わっていないのだが、悩みが減る事は有難い。
「化粧も治した……よし…大丈夫…」
鏡で顔を確認すると、エプロンを外して服を着替えた。
―冬夜と結婚して十一年と三ヶ月十八日。
私は一度も妻と母を怠った事は無い。
そして冬夜の“女”という地位も怠った事は無いと自分では思ってきた。
ただ最近、冬夜との身体の関係が無くなってきたのだ。
お互いにいい年なのだから落ち着いてきたのかも知れない……だけど、私には区別がつかないのだ。
冬夜は私に飽きたんじゃないだろうか?
他に女ができたんじゃないだろうか?
……捨てられるんじゃないだろうか?
冬夜を見ていると、いつも考えてしまう…。
だから学校での冬夜の動向を毎日さりげなく麻利に聞くことが日課となってしまっている。
392:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:58:52.81 9k0gXKm5
そして最近麻利の話す内容に“浜深先生”という聞き覚えのある名前がちらほら出てくるようになってきた。
確か私達が結婚する直前に研修として学校に来た女性。
一年ほど前からこの島の学校に赴任し、教師として働いているそうだ。
その新任が最近冬夜と昼食を供にする事が多いらしい。
十数年、私と冬夜の間には大きな絆が存在する―だから心配する事は無い…。
だから他人の女なんかに流されるなんて事は無いはずだ。
「ただいま~」
玄関から聞こえる、声に我に帰った。
今の声は麻利の声。
慌ててドアを開けて玄関へ向かった。
「ただいま、守夜」
「おかえりなさい、冬夜」
麻利の後ろから冬夜が姿を現した。
ギリギリセーフ…なんとか冬夜が玄関に入る前に冬夜を迎え入れる事ができた。
「食事にする?先にお風呂?」
「そうだな…先に風呂に入るよ」
「分かったわ。お湯沸いてるからどうぞ」
冬夜からカバンとスーツを受け取ると、それを膝上に置いて車椅子を走らせた。
「パパ一緒にお風呂入ろ~」
麻利の声に走らせた車椅子を止まらせた。
後ろを振り向き冬夜に目を向ける。
「麻利はもうお姉ちゃんじゃないか。一人で入れるだろ?」
393:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 00:59:19.81 9k0gXKm5
「えー、マリも一緒に入りたいー」
脱衣場に向かう冬夜の足にしがみつき駄々をこねている。
それを困ったように冬夜が放そうとする…。
「麻利、お父さん疲れてるから一人で入りなさい」
「…パパと入りたy「麻利!」
私の声に麻利は肩をビクつかせて冬夜から離れた。
「おいおい…そんな怒らなくてもいいだろ?ほら、麻利。一緒に入ろう」
私を見てため息を吐くと、麻利を抱き抱えて脱衣場に入ってしまった。
少し大人気なかっただろうか?
たまにでる麻利の我が侭が冬夜を困らせるんじゃないかとヒヤヒヤさせられる…。
「……オカズ温めなきゃ」
二人が風呂場に入るのを確認すると、リビングに向かう事にした。
オカズを暖めなおして5分、二人の寝間着を部屋に取りに行き脱衣場に置くと、食器をテーブルに並べた。
―二人が風呂場から出てくると、早速夕食を取る事にした。
小さなテーブルに三人。
これは冬夜が小さいテーブルの方が家族団欒が楽しくなるからと結婚してすぐに購入したものだ。
結婚した当初は未来の二人の話をよくした。
麻利が食卓に加わる事になってからは話の中心は殆ど麻利の事になっている。
394:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 01:00:12.09 9k0gXKm5
冬夜は麻利の話す内容に頷くだけだが、冬夜は丸々一日麻利と一緒に居るような感じなので、麻利の話を聞くのは基本的に私。
それでもだいたい話の内容は同じことの繰り返しなので、後半は私も頷くだけになってしまう事が多い。
「それでね、それでね!」
「ほら、麻利…もう九時だから早く歯を磨いて部屋に行って寝なさい」
食事が終わった後も身ぶり手振り騒がしく話をやめようとしない。
こんな時は私か冬夜が話の腰を折らないと永遠に続くのだ。
「あっ、本当だ……それじゃ、もう寝るね!パパ、ママおやすみなさい」
時計に一度目を向けると、椅子から飛び降りて部屋に向かった。
「それじゃ、僕も明日早いからもう寝るよ」
「ぁ…あの…冬夜……今夜は…その…」
「……明日早いからゴメン」
それだけ言うと、私に目を向ける事なく寝室へと入っていった。
後を追いかけるように私も寝室へと入る。
既に冬夜はベッドに潜り込んでおり、掛布団を肩まで掛けて寝てしまっている。
こうなると、私からは誘う事ができなくなってしまう…。
「おやすみ、冬夜」
仕方なく私もベッドに潜り込み目を瞑った。
やはりあの女と繋がりが…だから私の身体に飽きて、他の女に…。
395:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 01:00:45.46 9k0gXKm5
「……(冬夜は私の夫…絶対に他人なんかに渡さない)」
私自身、女の魅力が消えかかっているなら、また取り戻せばいい。
昔の私よりももっと冬夜の目を引くように…。
―翌朝、冬夜と麻利を見送った後、スーツに着替えて家を後にした。
数十年ぶりのスーツ…着なれない服は少し肩が凝ってしまうけど、背筋が引き締まるこの感じは嫌いでは無い。
「おぉ…久しぶりに見たが、スーツ姿もやっぱり似合ってるじゃないか」
門前に到着すると、見知った老人が姿を現した。
「えぇ、ありがとう。それで…挨拶したいんだけど?」
「皆待たせてるよ。ビックリするだろうなぁ」
老人の後を追い、とある場所へと向かった。
懐かしい場所…階段も…廊下も…何も変わっていない。
「準備はいいか?」
「えぇ、いいわよ」
部屋の中から聞き覚えのある複数の声が聞こえてきた。
その中には忘れる事の無い愛しい声も含まれている…雑音に近い声も…。
「それで、急な話なのですが今日は長い間休養していた教師が今日から復帰される事になりました。挨拶をされるので皆暖かく迎え入れるように」
老人が先に入ると、それが合図のように私が呼び出された。
396:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/08/24 01:01:14.12 9k0gXKm5
一度深呼吸をして、車椅子に手を掛ける。
ゆっくりと息を整えると、姿勢を正して部屋の中へと入っていった。
「えっ、守夜!!?」
真っ先に反応したのは私の夫である冬夜だった。
そう…ここは冬夜が働く学校。
十一年前まで私の仕事場でもあった場所だ。
冬夜の声に、職員皆が私に驚きの目を向ける。
「今日からまた同じ職場で働かせて頂くことになりました、“須賀”守夜です。
皆さんご存知かと思いますが、須賀冬夜の妻になり子供も手が掛からなくなったので校長先生に無理を言って復帰させてもらうことになりました。
今日からまたよろしくお願い致します。」
深く頭を下げて職員達に挨拶をした。
「おぉー!よかったよかった!守夜が教師を辞めてから学校が寂しかったたんだ!」
「また一緒に働けるのか。図書室の整理は年寄りに辛くてなぁ」
一人…また一人と私を歓迎してくれるように手を叩き迎え入れてくれた。
冬夜もオドオドしながらも、手を叩いている。
「……(アレか)」
冬夜の隣のデスクに一人…若い女性が居る。
雰囲気は変わっているが確かにあれが研修の時に来た女だ。
一度、私と冬夜の関係を壊そうとした女―。