【貴方なしでは】依存スレッド9【生きられない】at EROPARO
【貴方なしでは】依存スレッド9【生きられない】 - 暇つぶし2ch2:名無しさん@ピンキー
11/05/19 19:30:31.06 jyQCcIiO
前スレがデータ容量超えたみたいなので立ててみた

3:名無しさん@ピンキー
11/05/19 21:12:51.51 +FNRHGXd
一乙

前スレの作者さん
投下は非常にGJなんだけど容量がギリギリの時は
自重するかスレ建てるかしてくれると助かるよ

4: ◆ou.3Y1vhqc
11/05/19 21:27:27.55 6DKyqPIn
>>1
ありがとうございます。
>>3
本当に申し訳ない…スレたてれるつもりで投下したんですが、レベルがどうたらで立てる事ができませんでした…続きは避難所に投下させてもらったんですが、もう少し待ってこっちに投下したほうが良かったですね…すいません。
次は気をつけます。

5:名無しさん@ピンキー
11/05/19 22:19:18.91 jyQCcIiO
>>4
避難所投下乙でした

6:名無しさん@ピンキー
11/05/19 23:43:09.10 SzJEGJSR
>>1
そして>>4投下GJ
次からは気をつけてね

しばらくはage進行かね

7:名無しさん@ピンキー
11/05/20 01:27:57.12 iiuS+uj0
避難所見てきた
GJ!
初々しくてニヤニヤできるなあ

8: 忍法帖【Lv=3,xxxP】
11/05/20 09:45:30.83 T9QTBADU
>>1
ninjaがどうとかのスレ建てに関するルールがいまいちよくわからん

9:名無しさん@ピンキー
11/05/20 19:39:34.65 jWp6BF81
忍法帳システムは忍法帳巻物でググってヒットするwikiを見ると分かる


前スレで誰かが作ってくれた避難所もテンプレに入れたほうが良くないかな
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)


10:名無しさん@ピンキー
11/05/20 20:17:31.63 QqQMugg+
>>9
そうだね。
次から入れるようにしたほうがいいかも。
避難所あることすら知らない人もいっぱいいるだろうし

11:名無しさん@ピンキー
11/05/22 04:01:07.78 F0uVvQEJ
保守

12:名無しさん@ピンキー
11/05/22 23:47:27.36 F0uVvQEJ
即死回避に埋めた方が良いかね

13:名無しさん@ピンキー
11/05/23 01:06:30.48 WzxVe4KL
死んでも良いっ・・・からぁもっと激しくしてぇ!
あぁ、もっとぉ!いいっっっ!!!

喘ぎ声の練習 兼 即死回避

14:名無しさん@ピンキー
11/05/23 19:45:31.51 +9Wgv5Hv
「ほしのこえ」のノベライズ版だとミカコが救援艦隊の一員となったノボルと
再会するんだけど、心細さとうれしさから依存娘になってしまった、という
妄想で時折楽しんでいます

15:名無しさん@ピンキー
11/05/23 20:42:56.64 7kM0emVr
それを文章にしたら立派な職人だ。頑張れ

16: 忍法帖【Lv=6,xxxP】
11/05/23 21:19:44.37 FIZbPWc+
商業エロロリ漫画だけど、「ハメ頃しろくろり」に収録されてる「籠鳥の心音」の前編+後編+エピローグが
かなり良質の依存物だったな

17:名無しさん@ピンキー
11/05/24 23:32:38.75 f6tOuzfw
埋め

即死条件が良く解らんが30レスだっけ

18: 忍法帖【Lv=7,xxxP】
11/05/25 00:52:33.67 ZM1adzYz
商業でもいいなら、同人誌だけどおしゃぶり姫も結構良かったよ
小さい頃から幼馴染の男の指を一日でも欠かしたら精神不安定になるほど
しゃぶるのがやめられなくて、ついにはしゃぶるのが舌になってペニスになってって
後日談として結婚式でもおしゃぶりやめらんねぇって内容だけどな

19:名無しさん@ピンキー
11/05/25 20:30:13.04 DUNEqMl5
>>18
もう少しkwsk

20:名無しさん@ピンキー
11/05/25 21:27:49.01 juldYQ3r
たぶんタケイオーキの「しゃぶり姫」のことかと

21:名無しさん@ピンキー
11/05/25 22:25:44.62 IO56POUA
わりと本気で作品投下して。

22: 忍法帖【Lv=8,xxxP】
11/05/26 00:54:10.46 mmw1Ex1B
>>16
読んで見た
結論としてはかなりキュンと来た
守ってあげたい、献身的なロリ妹に依存されたい人に読んで欲しい

以下ストーリーを紹介しておく
ネタばれ注意

前編
・受験失敗し教育熱心な両親に見放され引きこもりになった妹に対し、兄は親の期待を一身に
背負った苛立ちを妹に軽い性的虐待を加えていた。もう飽きたと戯れ交じりに言った言葉に妹は
両親に見放され兄にまで見放されたくない一心で兄のすそをつかむ

「パパと…、ママに嫌われてからもにいさまは・・・みやこのことみて・・・くれた
にいさま・・・にみすてられたら ほんとうに…ひとりぼっと・・・みやこ・・・なんでもする・・・から
きらいに・・・ならないで・・・」という依存好きから見ればご褒美ですな台詞をもらった兄
何でもするという妹に兄は遠慮なくその体を蹂躙した。しかし妹は
兄の気遣いに対し、「ううん・・・へ・・・き、にいさまが気持ちいいなら みやこも・・・うれしい」
と涙を流しながら微笑み、手をこちらに伸ばしていた。
でさらにハッスルしたあと一緒にお風呂に入ってEND

後編
・朝の一戦を終えた後、兄は学校に行く。しかし妹は兄と一緒にいたいので兄に追いすがるが
寸前で玄関が閉まってしまう。妹は強く恐怖を、兄と居られない恐怖を感じた。
学校で授業を受けている兄の教室に妹が来た。誰だ可愛いなとクラスメイトにもみくちゃにされるが、
兄を見つけた途端兄の胸にダイブ。教室に居られなくなった兄は屋上へと逃げた。
引きこもりなのに何故出てこれるんだよという兄に妹は兄と一緒に居たいから来たという
妹は兄をセックスへと誘う。兄はここだと周りに気づかれると意地悪を言った所
「みやこの体も この表情も ぜんぶにいさまだけのものだから」という理由で嫌がり
結局ラブラブエッチに突入

それから
・兄妹が両親から逃れ田舎の親戚へ行きましたとさ

23:名無しさん@ピンキー
11/05/26 17:05:49.30 /BlBRMC9
お前らが一番萌えた依存モノってなによ?

24:名無しさん@ピンキー
11/05/26 17:52:36.58 RTV3OZWC
ぱっと頭に依存モノが浮かばないなw

25:名無しさん@ピンキー
11/05/26 23:49:30.61 gRSij3w6
ユメミルクスリのあえか√

26:名無しさん@ピンキー
11/05/27 18:48:17.42 LmlKSHHt
藤林丈司

27:名無しさん@ピンキー
11/05/27 19:41:33.54 Xkug92C5
雨迷子

28:名無しさん@ピンキー
11/05/28 01:37:28.96 TgplY4vU
とある科学の超電磁砲の二次同人だけど
たくみなむちの超電磁砲のまもりかた

29:名無しさん@ピンキー
11/05/28 02:28:51.68 YLB6w7xI
>>25
あれストレスめっちゃたまったわ

30:名無しさん@ピンキー
11/05/29 21:27:10.75 B9z8pmaS
>>29
けどラストのあれはすごいと思ったわ
色々と

>>26がよくわからんのだが

まぁ、沙耶の唄がいちばんだな

31:名無しさん@ピンキー
11/05/29 23:59:26.66 +VtsOaDZ
ユメミルクスリはラストよか少し前の二回目の自殺未遂のシーンが好きだ
依存関連の中じゃ一番好きかも

32:名無しさん@ピンキー
11/05/31 21:30:47.24 WbklTjRW
>>22
めっちゃ良かった
あーいう嗜虐的な眼してる女の子好きなんだよな…

他にもあったら教えてつかぁさい

33:名無しさん@ピンキー
11/05/31 23:12:51.43 bhAibbwI
>つかぁさい
岡山?広島?

34:名無しさん@ピンキー
11/06/01 01:25:36.31 Z/n1ptpJ
嗜虐的じゃなくて被虐的じゃね?
嗜虐的では虐めるほうになるぞw

35:名無しさん@ピンキー
11/06/03 21:42:52.61 n6oIIUOs
>>32
>>22の長文は読む気がしないから三行でレビューしてくれ

36:名無しさん@ピンキー
11/06/03 22:48:53.13 3NXeVSSN
>>22が長文か?

37:名無しさん@ピンキー
11/06/03 23:00:01.89 WA7syrqd
昨今SSが投下されると見辛いから一文ごとに改行しろだの改行したら空白行入れろだの文句が付けられるご時世です

38:名無しさん@ピンキー
11/06/03 23:06:14.24 yHUbTipl
両親と決定的に不仲になった妹は、重度の引きこもりになるも性的悪戯を加えてくる兄に依存する事により自我を保つ。
でもある日、兄は妹から離れようとして・・・
妹:「なんでもするから、嫌いにならないで」
兄:「んじゃ、今日から肉奴隷な」

以下、ご想像にお任せします。
ってか、原作嫁

39:名無しさん@ピンキー
11/06/03 23:09:32.09 yHUbTipl
連投スマソ
>>38>>35へのプレゼント(笑)です。

40:名無しさん@ピンキー
11/06/03 23:20:48.32 n6oIIUOs
正直かなり読み辛い上に無駄な部分が多かったから読みたくなかった
今は反省している


>>38
早速土日使って買ってくるぜ

41:名無しさん@ピンキー
11/06/04 14:14:39.21 utbJoFUb
保管庫も更新止まってんのな…地震があったから心配だな。
まぁ更新するほど作品投下されてないけどw

42:名無しさん@ピンキー
11/06/05 04:07:56.94 6f6WCo8b
全く流れ無視だけど
夢の国を全裸待機でずっと待ってるのは俺だけ?

43:名無しさん@ピンキー
11/06/05 14:40:56.99 02VZxCFH
>>42
いや、君だけじゃないぞ。

44:名無しさん@ピンキー
11/06/05 15:20:53.36 sKoklCBn
俺も俺も


45:名無しさん@ピンキー
11/06/05 15:28:39.03 Q4bQEPZS
おっと俺を忘れてもらっては困るぜ

46:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:18:37.93 GiK6jRq3
やっと投下できそうです…。
避難所に投下させてもらってもよかったんですが、一週間ほど待ってみました。
夢の国投下させてもらいます。

47:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:19:13.72 GiK6jRq3

「馬何処に隠しましょうか?」
「森の中以外ならどこでもいい。路地裏にでも繋ぐしかないだろ。」
馬から飛び降り手綱をハロルドに手渡すと、フードを深く被り身を隠した。
ユニの港町にある民間から馬を二頭借り(盗んだ)丸々一日かけてホムステルまで戻ってきたのだ。

「ねぇ、ここで何かあるの?」
俺の服を掴み不安そうに周りをキョロキョロと見渡すメノウ。
一日前までこの上にあるバレン城に監禁されていたメノウを城下町であるこの町まで連れて戻ってくるのはかなり危険な事なのだが、危険をおかしても連れてこなきゃいけない理由が出来てしまったのだ。
その理由とは俺の隣に居るメノウの泣き声…。
本来なら忘る森にメノウとクーを残し、俺とハロルドとティエルの三人で戻ってくるつもりだったのだ。
忘る森に近づく人間はいないし、万が一見つかったとしてもメノウの側にクーを置いておくのが一番安全だと判断したのだ。

だからメノウが寝たのを確認して、ユニの町まで馬を調達しに忘る森から出たのだが…森を出た瞬間、森から大きな泣き声が大陸に響いたのだ。

一瞬何事かと思ったのだが、すぐにメノウの泣き声だと分かった。

48:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:21:06.56 GiK6jRq3
しかし、それを無視しユニの町へと向かったのだが……不思議な事に何故かメノウの泣き声がユニの町まで響いてきた。
あり得ない事だが、俺が離れる距離が見えているようにメノウの泣き声が後ろをついてきたのだ。
早く私の元に戻って来いと言わんばかりに…。

このまま泣き続けられたらたまったもんじゃないと、ユニから馬を借りてすぐに忘る森に戻ることにした。
泣き止ませる為にすぐにメノウの元へと戻ると、俺の服を握りしめ地面に倒れ込むメノウが視界に入ってきた。
(クーは木に隠れて両手で耳を塞ぎ「あ~、あ~」唸りながらオドオドしていた…)

急いで馬から飛び降り抱き起こしてやると俺に気がつき泣き止んでくれたのだが、今度は過呼吸に陥り落ち着くまで二時間ほど時間を潰してしまった。
そんなことからメノウを残して行く事の方が危険だと判断し、仕方なく連れていく事にしたのだ。

だが…ここから町中へメノウを連れていくのはリスクが高すぎる。
今見える限りでも港に兵士がちらほら見える。
それに町の入口には検問も張っている。
大人数で中へと入るのは無理だ。

「メノウ…ちょっと俺と約束しようか」
服を掴んでいるメノウの手を掴みメノウと視線を合わせる。

49:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:21:53.27 GiK6jRq3
「なぁに?」
キョロキョロと周りを見渡していた瞳を此方へ向けると、何を勘違いしたのか腕を首に回し抱きついてきた。

それを優しく解き、もう一度メノウと目を合わせると今度は不安そうな瞳を見せた。

「今からアンナさん迎えにいってくるから。ちょっと此処で待っててくれないか?」

「お姉ちゃん?私も一緒に迎えに行く」

「いや…ほら、危ない人達もまだウロウロしているかもしれないだろ?」

「大丈夫。ライトと一緒なら怖くないもん」
これは何を言ってもついてくる気だ…。
手をガッチリと掴むメノウの手から絶対に放さないというメノウの意志が感じ取れる。

仕方ない…あまり人前では言いたくないのだが。





「実は…今からワンワンに会いに行かなきゃいけないんだ」

「ッ!!?ワンワン来るの?!ワンワンやだ!!」
ワンワンという言葉を聞いた瞬間、メノウの耳と尻尾が逆立つ。
俺の服に頭を突っ込むとガタガタと震え出した。

「あぁ、だからもう来ないでくださいってワンワンに言いに行かなきゃいけないから。そのついでにアンナさん連れてくるよ。だからここでクーと一緒に待っててくれないか?」

「……」
まだ手を放そうとしない。

50:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:22:18.41 GiK6jRq3
「ほら、待ち合わせに遅れるとワンワンのほうからメノウに会いに来るぞ?」

「……ライトすぐに帰ってくる?」

「帰ってくるよ。そしたらメノウの願い事なんでも叶えてやるから」

「アップパイ作ってくれる?」

「あぁ、作ったことないけど作ってやるよ」

「お花畑でお花の首飾り一緒に作ってくれる?」

「おぉ、首飾りでも帽子でも作るよ。だからちょっとだけクーとここで待っててな?」

「……うん…早く来てね」
ゆっくりとメノウの手が放れていく。
生暖かいハロルドとティエルの視線を感じながら、クーへとメノウの手を渡そうとする…。



「はぁ……クー頼むよ…」
今度はクーがそっぽを向いてしまった。
メノウの手を取ろうとせず、自分の両手を後ろへ隠す。
それを見たメノウも手を引っ込めてしまった。

「―クーは?」

「…なにが?」

「―クーのおねがい―」
頭が痛くなってきた…そりゃクーには今まで散々助けてもらったし俺が叶えてやれるような事ならいくらでも叶えてやるのだが…。


「…何をしてほしいんだ?」

「―かたぐるま―」

「肩車?あぁ、たしか町中で親子がしてるのじーっと見てたな…でもそんなんでいいのか?」

51:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:22:48.63 GiK6jRq3
少し肩透かしをくらったが、そう言えばクーも基本メノウと同じ思考の持ち主だった。
肩車ぐらいいつでもしてやる。

「―いい―」
小さくコクッとうなずくと、メノウの手をしっかりと握りしめた。

「よし…それじゃ、なるべく目立たないように隠れていてくれ。ハロルド、ティエル行くぞ」

「はい、わかりました」

「うん、早く助けましょ」
クー、メノウと別れると足早に船小屋の隙間へと足を進めた。
真っ正面から突っ込めば今度こそ命はない…。
俺達が出てきた城裏の抜け道をもう一度使えたら簡単に城内へと侵入できるのだが、今回俺達は城内に用事は無い。
―目指すはホーキンズが公開処刑されるホムステル中央広場だ。

小屋の裏にある荷物に足を掛けて小屋の屋根によじ登ると、町を囲む塀へと飛び乗った。
そのまま滑るように町中へ降り立つと、民家の裏路地を走り出す。

「…なんか変じゃないか?」

「えぇ…人が誰もいないですね」
裏路地を走り続けて二十分。
裏路地とはいえ、誰とも遭遇しないのはおかしい…。

「ワナでしょうか?」

「さぁな…」
ワナでもホーキンズを助けなきゃいけない。

52:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:23:16.69 GiK6jRq3
ずっとメノウを守ってくれていたのだ…今度は俺がホーキンズとアンナさんを助ける。



―全然人間いないわね。多分中央広場に皆集まってる。大きな欲が勢いよく渦巻いてる…早く行かないと危ないかもしれない!

「マジかよ…急ぐぞハロルド!」

「はい!」

ティエルには俺達より三十メートル先を飛んでもらい念話で此方へ情報を送ってもらっている。
念話と言っても会話は出来ず、ティエルからの情報を聞きながら先を進んでいるのだ。


「もうすぐ中央広場付近に到着しますよ」
ハロルドがカバンからなにやら丸いモノを取り出した。
あれは確かホーキンズが使った煙玉。
まず状況を把握しないと分からないが、最悪煙玉を投げて皆がパニックになってる隙をついて助けだすしか方法は無いかもしれない…。

「この通路を通り抜ければ、中央広場だ。」
民間の影に隠れ覗き込む。
確かにティエルが言うように、中央広場に人が集まっているようだ。
警備兵がちらほら見える…それ以上に民間人が溢れ返っている。
多分殆どの兵士はメノウ探しに向かっているのだろう…流石にわざわざ戻ってきているとは誰も思わないはずだ。

「人混みに紛れ込もう…」

53:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:23:43.09 GiK6jRq3
「えぇ…此処からでは状況がまったく分かりませんからね」
通路を抜けると、警備兵の隙をついて人の群れの中へと強引に入り込んだ。
ここまでくればもう兵士に見つかることは無いはず。
この中から俺達を見つけるなど不可能だ。

「ホーキンズ居るか?」
人混みの中から周りを見渡して見る。
周り一面、浅黒肌をしたバレン人で埋め尽くされている。
民家の屋根にも数多くの人がよじ登っている。
公開処刑を見に来ているのだろう…。

「ライト…あれ見てください」
ハロルドが何かを見つけたのか、ある方向に指をさした。

「あれは…高台…?」
あの高台はたしかゾグニ帝王が立っていた場所だ。

「もしかして、彼処で…」

「お、おい…あんな場所までどうやっていくんだよ!?あんな高台に上れねーぞ!」
ここから見ても高台の高さは二十メートルほどあるだろうか?
そこに上るには一つしかない階段を上るしか方法は無い。

「ぐだぐだ言ってる暇は無さそうだな…」
なにやら高台の上が騒がしくなってきた。

「ハロルド…いくぞッ、な、なんだ!?」
突然俺達の周りに居た人々が弾けるように俺達から距離を取った。


「ライト、ワナです!!」

54:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:24:09.06 GiK6jRq3
「私達の肌の色は他国に行けば目立つであろう。逆にお前達の肌色も我の国では浮き彫りとなる…」
あの検問はそのためだったのか……どおりでバレン人しかいないはずだ。

「お前達…我が名を知っているな?」
俺達の前に立ちはだかると、剣を構える俺に問い掛けてきた。

「……ゾグニ帝王だろ?閣下のほうがいいか?」

「貴様ッ、口の聞き方に気をつけろ!!」
後ろに控えている兵士達がいっせいに殺気立つ。

「いかにも…それを知っていながら何故我と堂々の目線に立ち、口を開いている小僧」

「……ホーキンズはどこだよ?」
兵士からゾグニ帝王へと剣先の方向を変える。
すると後ろに控えていた兵士数人がゾグニ帝王の盾になるように立ちはだかった。

「なんとかゾグニ帝王を人質にとれませんか?」
ボソボソっと小さな声でハロルドが呟く。

「難しいな…あれだけ兵士が徹底してたら近づく事すらままならない…」
なんとか此処から逃げる方法を何通りか考えてみたが、どれも失敗に終わるようなモノばかりだった。


「おい…あれを持ってこい!」
ゾグニ帝王が後ろにいる兵士にそう伝えると、数人の兵士が何処かへ走っていった。

55:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:24:37.01 GiK6jRq3
「公開処刑日は王族以外他国者の入国を禁ずる…その罪を犯した者は我が国法をもって罰す。
各国の王族が今日の公開処刑を見に来ているのでな…今から余興を兼ねてお前達にはコイツと戦ってもらう」
後ろを指差すと、控えていた兵士達が道を作った。
その道から一つの馬車がツカツカと歩み寄ってきた。
鉄製の大きな荷台を馬二頭が引っ張っているのだが…物凄く嫌な予感がする。

「鍵を開けろ」
近くの兵士に短く命令すると、ゾグニ帝王はそのまま高台へと歩いていった。

兵士が一人鉄格子の前に行き鉄格子をゆっくりと開く。

「ひぃっ?!た、助けてくれぇ!!」
鉄格子が開いた瞬間、中から長い鞭のようなものが兵士の腰に巻き付いた。
そのまま中へと引きずり込まれると、何かが軋む音と共に大きな悲鳴が一瞬聞こえた。

「ラ、ライト…」
鉄格子の隙間から赤い血が滴り落ちていく。

「グォォオォォオオオ!!!」
鉄格子を見つめていたとハロルドが一歩後ずさると、鉄格子の中から大きな雄叫びが中央広場へと響いた。
その雄叫びが合図となったのか俺達を囲んでいた兵士が数メートル後ろへと下がり大盾を前にかざした。
今度は盾の壁が俺達を囲む。

56:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:26:18.65 GiK6jRq3
「ハロルド先制するぞ」

「は、はい!」
剣からボーガンへと変えると、檻の中へと数発打ち込んだ。
出てくる前に終わらせなければ、勝機は俺達に無い。
ドスッドスッと何かに突き刺さる音が聞こえたのを確認すると続けて矢を放つ。

「……」
ボーガンの矢が無くなるまで打ち続けると、またカバンから矢を取り出し再度ボーガンで檻の中へ打ちこんだ。

「死んだでしょうか?」

「分からん…でも矢は確実に突き刺さってると思う」
三十本ほど矢を打ち込んでやったので、無事では無いと思うのだが…。




「……あっ、ライト、出てきましたよ!」

「……?」
檻の中から姿を表したのは一匹の犬…。
いや…あの姿を犬と言うのはあまりにも酷い。

「あ、あいつ…」
思い出した…たしかバレン船で見た赤目の犬の形をした化物だ。
しかもあの時よりかなり大きくなっている。
人間四人~五人ぐらい簡単に飲み込んでしまいそうだ。

ズルズルと体を引きずるように檻から出てくると、周りを見渡すように首を振った。
そして俺達の存在に気がつくと、俺達に視線をロックした。

「ハロルド…お前は援護に回ってくれ」

57:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:26:47.01 GiK6jRq3
ハロルドが持っているあのカバンの中に何が入ってるのか分からないが、まだ何か隠していることを祈ろう…。

「相手してやるからこっち来いよ!」
剣で地面を叩きながらハロルドから離れていく。
犬はその音につられ、目で俺を追う。

「相手は俺だぞ…絶対に目を反らすなよ」
距離を詰める事なく周り込む為ゆっくりと歩く。

「よしよし…お前の敵は俺だけだからな(…あれ?コイツなんか…)」
ふと、犬の身体に異変を感じ立ち止まる。

―あれだけ放った矢が一本も身体に突き刺さっていないのだ。
まさかすべて外れていた?
いや…この体のデカさにあの檻…間違いなく俺は檻の中に矢を放ったはずだ。
一本も当たらないはずがない…。
不自然に膨らんだ身体…なんだろうか?
何かおかしい…。

「ハロルド!なんかヤバイ感じだぞ!」

「えっ!?ヤバイって何がですか!?」
俺の言葉に同様したのか、勢いよくハロルドが立ち上がる。
すると犬がハロルドに瞬時に視線を戻した。


しかし、襲ってこない…。
再度周りを見渡してみる…。
何故兵士達は大盾の壁を作っているのだろうか?
こんな壁、コイツならすぐに潰してしまうはず…だとしたら別の目的…。

58:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:27:14.84 GiK6jRq3
「ラ、ライト!なんかアイツ膨らんでませんか!?」

「ッ!?」
やっと分かった。
ゾグニ帝王は俺達とコイツを戦わせる為に此処におびき寄せたんじゃない。

横にちらっと目を向ける…。俺の隣にいる兵士が犬の方へと視線を奪われている。

「……(今だ!)」

「ぎゃぁッ!!?」
隣に居た兵士の足目掛けて矢を放った。
大盾の隙間に入り込んだ矢は見事に一人の兵士の足に突き刺さり、倒れ込む。

「きさまッ!」
周りの兵士が此方へ槍を向けてくる、それを掻い潜り大盾を奪い取ると、ハロルドの方へと滑らせた。

「それを盾にして身を隠せハロルド!!」
俺の声を聞いたハロルドは一度大きく頷くと、身を屈めて大盾の下へ潜り込んだ。

―その瞬間、大きな破裂音と共に身体が大きく吹き飛ばされた。後ろで構えていた兵士の大盾を突き破り民間人の群れの中まで吹き飛ぶ。

「がっ…あ、ぉ…(耳がッ…)」
やはり爆発の警告段階だったのか…。
出てきた瞬間おかしいと思ったのだが…。
自分の脇腹へと目を向ける。

自分が檻の中へと放った矢が綺麗に突き刺さっていた。
俺が放った矢をすべて吸い込み、爆発と共にすべて飛ばす…多分四方八方に矢は飛んでいるだろう…。

59:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:27:40.44 GiK6jRq3

「うぅ…」
ハロルドは無事なのだろうか?
多くのバレン人が上から見下ろしている。

―ッ―ッ!

前から一人此方へ駆け寄ってくる。
ハロルドだ。
右手に何かをかざし、民間人を威嚇しながら歩み寄ってきた。
導火線が見える…爆発系だろうか?なら勘弁してほしい…。

「―イ―…ライッ―ッ―ライト―!」
耳鳴りが少しずつ治まりハロルドの声が聞こえるようになってきた。

「大丈夫ですか!?」
慌てたようにハロルドが俺を抱き起こす。

「あぁ…大丈夫だ…急所は外れてるッ、く…ッ」
突き刺さる矢を折り、後ろから引き抜くとゆっくり立ち上がった。
綺麗に矢が貫通してくれたお陰で出血も少なく抜く事ができた。


なんとか中央に戻ると、周りの兵士が数十人倒れているのが視界に入ってきた。
皆矢と爆風で怪我を負ったようだ。
ハロルドが身を隠した大盾も数本矢が刺さっている。
あの犬は跡形も無く消し飛んでいた。

「どうだ!我の兵器は!!」
高台の上に立つゾグニ帝王が高らか手を掲げ声をあげた。

「この兵器が我が城の地下に何万と存在する!我を敵に回すこと、即ちそれは滅びと直結することを意味すると心に深く刻み込むがいい!」

60:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:28:09.59 GiK6jRq3
この言葉は俺達に言ってるのでは無い…多分見に来ている他国の王族どもに警告しているのだろう…我が国の下につけと。
バレン兵達も剣を空に掲げ、雄叫びをあげている。

しかし…あれが兵器か…確かに動物とは言い難い…しかしあれも口から息をしていた。

苦しそうに息をしていたのだ…。

「……このクソ帝王!!!」
張り上げた声に兵士達が静まり返る。


「……もう一度言ってみろ小僧」
高台の上からゾグニ帝王が睨み付けてくる。

「何度でも言ってやるよ!偉そうに高い場所に立ちやがって!バカは上に登りたがるって言うだろ?!あれはお前の事だよクソ野郎!
降りてきて俺と勝負しろよ!平民怖くて兵士囲ってなきゃ表にもでれねーのか!?ならさっさと辛気臭い城に戻って引きこもってろブタ!!!」
周りの兵士が殺気立ち、此方へ剣を向けてくる。
もういい…どうせこの先嫌な事しかまっていないのだ。
死ぬなら暴れて死んでやる。

「ライト…僕が言いたいこ気持ちよく叫んでくれましたね。スッとしましたよ…」
ハロルドが俺の肩を掴み微笑んだ。
ハロルドも決断したようだ。

「いいだろう…お前達も公開処刑に処してやる。
…しかし、お前達の死刑はまだだ。」

61:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:28:32.06 GiK6jRq3
高台の後ろへと下がると、何やら大きな木の板が二つ運ばれてきた。

十字架の形をした木の板…。
その板が高台上に立てられる。



「おい…何してんだよお前ら……何してんだよお前らぁッ!!」

木の板に張り付けにされた二人の男女…。

一人は大切な幼馴染み。
そしてもう一人はメノウの母親代わりになってくれたミクシーの女性。

「ホーキンズ!アンナさん!」
俺達が助けに来た二人の姿がそこにあった―。

「此処からでは言葉が届きません!なんとか近づかなくては!」
ハロルドが何か兵士目掛けて投げつけた。
兵士の足元へと転がると、小さな爆発音と共に、煙りが出てきた。

煙り玉…だけどこの広さでは風ですぐに煙りが散ってしまう。
案の定煙りはすぐに消えてしまった。

民間人と兵士の壁…此処から高台まで七十メートルほど…数百人の壁が俺達を阻んでいるのだ。


「ふはははははっ!コイツらはお前達の仲間なのだろう?良いものを見せてやろう」
ハロルドの口に巻き付いてる布を勢いよく引き剥がした。



―布の下に隠れていたハロルドの口…そこには見慣れたハロルドの顔はなかった。

62:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:28:58.37 GiK6jRq3
口元は真っ赤に染まり、口から頬にかけて大きく何かで裂かれ、鼻は骨が見えるほど削がれていた。



「な……酷い…なんて事をッ……貴方には人間の心がないのかぁッ!!」
ハロルドがゾグニ帝王に飛びかかる勢いで吠えたてた。

「人の心…?ふん…この帝王の前で人の心だと?そんなモノは遠の昔に捨てたわ!」
自分が持ってる短剣を腰から引き抜くとそれをハロルドの手に突き刺した。

「ぐッ…つっぁッ!」
ハロルドが歪んだ表情を浮かべ眉間にシワをよせた。


「ハロルド…俺がなんとかあそこまでたどり着く…上に登ってゾグニの首切り落とすからお前は適当に炸裂弾投げまくってくれ」

「わかりました」
剣を構えると、勢いよく走り出した。

「来るぞ!槍隊前を固めろ!」
目の前に槍を構えた兵士が数十人立ちふさがる。

「ハロルド!」

「はいっ!」





―俺達はこんな場所で何をしているのだろうか?

痛い思いをして…大軍と真っ向から戦って…ただ友達を助けにきただけなのに―。

メノウだってそうだ。
まだ十代の女の子だ。やりたいことも、まだ経験してないことも、勉強しなきゃ行けないことも、腐るほどあるんだ。

63:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:29:20.87 GiK6jRq3
そんなごく普通の女の子を政治の道具に使って良い訳がない。

―ホーキンズだってそうだ。
アイツはただのパン屋だぞ?
武器を握った事が無い…刃物と言えば包丁ぐらいだ。

これから一生懸命パンを作って東大陸一のパン職人になる予定なんだ。
決定事項に近い“予定”なんだ!

―だから俺の親友を傷つけて良い訳がない。



「今からメノウ姫誘拐の大罪を犯した賊の処刑を行う!」
ゾグニ帝王の声が広場へ響き渡る。

「正義は我にあり!大罪人を裁くのは我の剣なり!」
長剣を天高く振り上げ高らかに宣言する。

「クソ!お前らどけぇ!!」
やっと会えたのに―帰ったらホーキンズが作るパンを腹が壊れるまで食べるんだ。
だからホーキンズを返してくれ。

「これがお前達の友の最後となる顔だ!しっかりと見納めとくんだな!」

―ゆっくりと―

「ホーキンズ!!今助けてやるからな!」

―ホーキンズと視線が交差する―




「助けてやるから…絶対に助けてやるからぁ!」




だから…




―だから、そんな泣きそうな目をしないでくれ―。

64:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:29:46.09 GiK6jRq3


「そうだ!」
クーからもらったペンダントを取り出す。

「頼む!助けてくれよ頼むから!!」
ペンダントを強く握りしめ何度も願う…。
見たこともないような光を発しているが、何も変化はおきない。

「ッんだよこれ!!何が俺のピンチに助けてくれるだよ!」
光るだけで何も起きないペンダントなんて必要ない。

「このガキ!」

「がはぁッ!」
矢傷のある脇腹を兵士の足が直撃する。

「メノウ様を返せ!この賊風情がッ!」
あまりの激痛にその場に倒れ込むと、それに続き周りにいた兵士が飛びかかってきた。

「ぐっ!ッっ!!」
頭を抱えしゃがみこむ。
鉄が頭に直撃する度意識が遠退いていく。



「そいつらを立たせよ!」
ゾグニ帝王の声と共に無理矢理手を掴まれ、立たされる。
今ので骨が何本折れただろうか?
やはり数百人相手するのは無理のようだ。

「見ておけ!お前達が助けようとした仲間の末路を!」
ゆっくりとホーキンズの後ろへと回り込むゾグニ帝王。
民間人や兵士達、数十万人が一斉にざわめき立つ。

「早く賊に天罰をー!」

「罪深き大罪人に鉄槌をー!」

「やめろっ!メノウを拐ったのは俺だぞ!!殺すなら俺を殺せ!!!」

65:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:30:11.74 GiK6jRq3
地鳴りのような民衆の声が俺の声をかき消す。
この国の大地や風すらゾグニの味方をしているように、俺の身体の力を奪っていく。


やめてくれ…

頼むからやめてくれ…




「神の裁きだ!」
ゾグニが勢いよく長剣をホーキンズの背中に突き刺した―。

「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」
それと同時に沸き起こる民衆の歓声。
俺の叫び声など誰一人届いていないだろう…。
俺にも民衆の歓声など耳に届かなかった―本来なら聞こえてくるはず無いだろう…アンナさんの小さな悲鳴が聞こえた気がしたからだ。


「民よ!お前達も賊に鉄槌を下すのだ!」
ゾグニ帝王が木の板を蹴り飛ばすと、張り付けにされたホーキンズが無造作にゆっくり高台から落ちていった。

走馬灯のようにゆっくりとホーキンズが落ちていく。
再度、一瞬ホーキンズと目が合った。

その目にはもう光が灯っていなかった―。


「もういいだろ…やめろよ…」
ホーキンズに群がる民衆に届くはずない声を投げ掛ける。

「もう十分だろ…そいつはy「大罪人は処刑された!後はメノウ様を助けだすだけだ!」

「そんなにしたら…ホーキンズが泣y「首を切り落とせ!七日間晒し首にしろ!」

66:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:32:04.50 GiK6jRq3

なんでそこまで俺の親友を傷つけるんだよ?
お前達だって傷つけられたら痛いだろ?

あぁ…お前達は痛みが分からないのか…。








―頭の中でブチッと何かが切れる音がした。




「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!!!!!」
無意識の内に首からペンダントを引きちぎり地面に叩きつけていた―。














――……… グ ルッ― グル……ルッ ギ ッャ…ッ

67:名無しさん@ピンキー
11/06/06 01:34:14.47 GiK6jRq3
>>53>>54の間一つ忘れましたすいません。

68:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:35:08.95 GiK6jRq3
人々の群れの中央に残された俺とハロルド…ワナと気付いた時にはすでに遅かった。
俺とハロルドの周りを武装した民兵が取り囲んでいたのだ。

「くそっ!!ハロルド此方に来い!」

「はい!」
咄嗟に剣を引き抜き、構える。
ハロルドに背中を預け、目の前の兵士達に剣先を向けた。

兵士が何人居るか分からない…俺達を囲んでいるだけでも五十人はいる。
流石にこれは逃げられない。
まだクーが居れば逃げ道ぐらいは作れたかも知れないが、俺とハロルドでは逃げ道すら作れない。

「ライトどうしますか…?」

「すまん、ハロルド…………ティエル!速攻でクーの所まで戻って森の中へ逃げ込むよう伝えてくれ!!!」
ティエルが何処に居るか分からないが、俺の声は届いたはずだ。

「仕方ありませんね……捕まり、また逃げ出す機会を伺うしか…」



「お前達が逃げる隙を私が与えると本気で思っているのか?」
突然地割の如く人間の群れが割れ、皆膝を地面に落とした。
頭を地面に擦り付け、何かを呟いている。

その中央から数百人の軍勢を連れて此方へ歩み寄ってくる一人の男性。
禍々しい黒い鎧を身に纏うその姿は悪魔を連想させる。

69: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/06 01:38:42.37 GiK6jRq3
>>53>>54の間に>>68が入ります。
申し訳ないです…。

ありがとうございました、投下終了します。
夢の国も終盤なんで早く書いていきたいと思います。
あと目が見えない女の子はもうちょっと待ってください。
それでは。

70:名無しさん@ピンキー
11/06/06 01:39:30.75 GiK6jRq3
最後にsag忘れ…申し訳ない

71:名無しさん@ピンキー
11/06/06 01:41:22.68 tZz8PYFV
寝る前にども。

ライト、いろんな意味で不幸だな……
しかも、この後一番やっかいなのがやってきそう

72:名無しさん@ピンキー
11/06/06 02:01:48.94 shB0ce9Y
GJ!

まさかの鬱展開か・・・

73:名無しさん@ピンキー
11/06/06 06:58:12.95 NzDXSzQJ
久々に神降臨ktkr
今回もグッジョブです!

74:名無しさん@ピンキー
11/06/06 20:51:48.14 CPIiCYro
投下GJです!
待ってました

75:名無しさん@ピンキー
11/06/07 00:42:55.25 r1FyLeyf
GJ‼
これは続きが気になる!

76:名無しさん@ピンキー
11/06/07 03:04:09.74 u0X65jrx
gjgj


77: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/07 11:08:57.50 T0Tf/us0
>>62の二ヶ所名前間違いしました。

>自分が持ってる短剣を腰から引き抜くと、それをハロルドの手に突き刺した。

>ハロルドが歪んだ表情を浮かべ眉間にシワをよせた。


この二つ、ハロルドでは無くホーキンズです。

78: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:54:37.47 Lidtm6kP
夜と闇二話目投下します。

79: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:55:16.07 Lidtm6kP

「先生また明日ね~!」
「あぁ、気をつけて帰れよ。あと変なおっさんについていくなよ」
「分かった~、バイバ~イ!」
門の前で最後の生徒に手を振り見送ると、門を閉めて職員室へと向かった。
この島に来て半年。
生活にも少し余裕が出てきた。

「冬夜、お疲れさん」
職員室に入ると、真っ先に守夜さんがコーヒーを持って近づいてきた。

「ありがとうございます藤咲先生。それと学校では名前で呼ぶのダメですって」
カップを受け取り椅子に腰かけると、自然と守夜さんも隣に車椅子を着けた。




―守夜さんと付き合う事になって半年が経った。
お互い職場も一緒なので顔を会わせる事も多いのだが、バカップルと言われてもおかしくないぐらい僕達は順調に交際を続けてきた。
一日一回寝る前に電話をする。
夕食は一緒に守夜さんの家でご馳走になる。

まだ身体の関係を持ってはいないが、キスまでならなんとかできた。
サバサバした守夜さんが頬を赤らめ目を瞑り、唇を前に突き出す姿はいつ見ても良い意味で胸が締め付けられた。

そんな守夜さんだが、付き合いだして驚いた事がいくつかあった。
一つは予想以上に嫉妬深い一面があること。

80: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:56:19.80 Lidtm6kP
3ヶ月ほど前に島を離れて都会にデートしに行く事になった時、市内にある動物園へと足を運んだのだが、イルカショーを見に行った時、観客に手伝ってもらうというコーナーがあり、飼育係の女の子に僕が指名されてしまったのだ。

人前で恥ずかしいと思いながらも、飼育係に手取り足取り教えてもらい、アタフタしながらも何とかこなしていると、ふと守夜さんが視界に入ってきた。

うつ向き僕がプレゼントした膝掛けを握りしめているので、気分が悪くなったのかと思いすぐにステージから降りて守夜さんの元へと戻ったのだが…。

「冬夜…動物園はもういい…早く家に帰ろう」
と小さく呟いた守夜さんの異変を察知し、昼頃には島に戻る事になってしまったのだ…。

守夜さんを家に送り帰ろうとしたのだが、守夜さんに家へ招かれ…その時初めて守夜さんからキスを求められた。
「私の前で他の異性と仲良くするのはやめてほしいんだ…私は冬夜の彼女だろ?ならその権利はあるはずだ」と言われたのでなるべく同世代の異性との会話は避けている。
守夜さんからキスを求められたのはその日だけだったが、あの時の守夜さんはどこか怖かったのを覚えている。

81:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:57:39.04 Lidtm6kP
もう一つは守夜さんの車椅子…これは仕方無い事だが車椅子を触られる事を極端に恐るのだ。
一度、僕が坂道で困っている守夜さんを見かけたので後ろから車椅子を押してやると。
キッと睨まれ「車椅子を押すのはやめてくれ!自分で動かせるから!」と怒られてしまった…。
なんでも他人に車椅子を押してもらうのが怖いらしい……その時はお互い頭を下げて謝ったのだが、それから一週間後ぐらいに見知らぬ男性が守夜さんの車椅子を押しているのを見かけた。
後から話を聞くと、守夜さんがお世話になっているお医者さんらしく、唯一守夜さんの車椅子を押せる人物だそうだ。
笑顔でそう話す守夜さんに彼氏として少し不安になってしまったが、それも仕方の無い事だと自分に言い聞かせている。

そして最後に身体の関係…。
守夜さんと付き合って半年が経ち、普通のカップルなら身体の関係を持ってもおかしくないはず。
僕は付き合いだしたころから守夜さんは下半身が不自由だから無理なんだろうなぁと諦めていたのだが、性行為は普通に出来るらしい。
だけど下半身不随になるまでずっと漁師として男臭い仕事をしていたので男との免疫が無く、恥ずかしいらしい。

82:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:58:11.86 Lidtm6kP
それでも僕は男…綺麗な女性を目の前にしてムラムラしないほうがおかしい。
なんとか身体の関係を持ちたくて優しく誘導しようとしたのだが…やはりダメだった…。

あまりに惨めだったのか、守夜さんが落ち込む僕の背中に手を起き途切れ途切れに一言…。

「手でなら…別にいい…けど…」
と顔を真っ赤にしながら言うので、その日から毎日守夜さんの手で手伝ってもらっている。
我ながら情けないとは思うが、性欲には逆らえないのだ。

お互い小さな不満はいくつかあるが、それでも幸せに充実した日々を送っている。

「それじゃ、藤咲先生帰りましょうか?」
「あぁ、行こう」
コーヒーを飲み干し立ち上がると、職員室の電気を消して学校を後にした。

「冬夜、今日は何が食べたい?」
「そうですね…カレーが食べたいですね」
「ちょうどいい。フネさんの所で買った野菜がまだ残ってるから多分作れるよ。
ルーも1ヶ月前に使った残りがまだあるんじゃないかな」
フネさんとは島に二軒だけある食品や雑貨品を扱っている数少ない店の亭主。
八十歳のお婆さんだが、いつも元気だ。

「そう言えば、検査診察って明日でしたっけ?」

83:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:58:58.46 Lidtm6kP
「んっ?そうだよ。学校が終わってそのまま直行するから先に私の家に行っててくれ」
「僕もついていきましょうか?」
「いや、大丈夫。それに診療所は民家の密集地にあるから二人仲良く病院に行ったなんて学校で広まったら何を言われるか分からないぞ?」
確かに…二人とも同じ学校の職員。
それに俺はまだ学校に来て半年の新米教師。
仕事もまだまともにこなしていないのに俺と守夜さんが交際している事がバレたら守夜さんに迷惑がかかる。

「それに若い看護師も数人居るからな」
「んっ?何がですか?」
「いや、早く帰ろう」
守夜さんに手を捕まれゆっくりと車椅子で走り出すと、二人並んで守夜さんの家へと向かった。





―翌日。
窓を叩く音で目が覚めた。

「はいはい、起きるから叩くな!」
毎度の事ながらこれは慣れない…。
窓の鍵を外してやると、勢いよく窓が開かれた。

「おはよう先生!」
「早く学校行こうぜ!」
窓の外に二人の生徒が立っていた。
この二人、僕の生徒なのだが毎日僕を起こしにきてくれる。

島に来て1ヶ月ほどまでは朝早く生徒数十人で僕の家に押し寄せてきていたのだが、日に日に少なくなり今ではこの二人だけになってしまった。

84:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/09 23:59:29.83 Lidtm6kP
別に僕が嫌われている訳では無い。
学校に行けば皆学校で待ち伏せ?してるし、朝早くからサッカーだの野球だのバレーだの引っ張り回されるし…職員で若い教師は僕と守夜さんだけなので、僕が基本生徒との遊び相手となっているのだ。

「早く着替えろよ!紗枝なんか先生先生うるせーんだよ」
「なっ!?あんた変な事言わないでよね!」この二人、坊主の男子が浩司、メガネ女子が紗枝という名前なのだが、男子と女子のリーダー的存在となっている。
特に紗枝は女子の間で一番信頼されている風紀委員で男子と真っ向から対立するほど気が強い。
特に浩司とは昔から腐れ縁らしく、いつもいがみ合っている。
仲がいいのか悪いのか…。

「服着替えるからちょっと待ってくれ…」
ギャーギャー騒ぐ二人を無視して服を着替えると、朝食も取らず家を出た。

「今日は俺達とサッカーだよな!?」
「なんであんたらなんかとサッカーするのよ!今日は私達とバドミントンするんだから!」
「今日は!?おまえ今“今日は”って言ったか?!二週間ずっとお前達が先生拉致してんだぞ!今日は絶対に俺達だ!」
「嫌よ!年寄り集めて勝手にサッカーしてなさいよ!」

85:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:00:12.32 Lidtm6kP
「まだ寝てる人達も居るんだから静かにしなさいって…………それにしてもお前ら…本当にいつも一緒だよな」
言い争いをする二人の後ろ姿に問いかけた。
僕の声を聞いた二人は言い争いを辞め、眉を潜め双子のように「なに言ってるの?」と口を揃えた。

「お前達お似合いだよ。結婚しちまえ」
頭をかきながら二人の間をすり抜け前を歩いていくと、慌てたように二人が後ろから走り寄ってきた。

「先生勘弁してくれよ!俺は綺麗な人がいいんだよ!」
「こっちこそ願い下げよ猿なんて!それに何度も言ってるでしょ!?私はこの島で一番綺麗になる予定だって!」
「予定?はっ…綺麗な人は子供の頃から綺麗だって決まってるんだよ!藤咲先生みたいにな!」
「そこで藤咲先生を出すなんてッ……うぅ~ッ」
助けを求めるように紗枝が視線を向けてきた。
普段浩司から助けを求めてくることのほうが遥かに多いのだが、今日は珍しく紗枝が弱気になった。
仕方ない…助け船を出してやるか。

「浩司一つ教えといてあげる」
「なんだよ?」
「女の子に優しくしない男子は…間違いなくモテない」
浩司の顔色が変わった。

「特に坊主の苛めっ子ほどモテないヤツはいない」

86:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:01:14.36 Lidtm6kP
「マっ、マジかよ!?」
自分の頭を押さえ目を見開いている。

「だがな…その逆はモテるぞ?」
「逆?」
「あぁ…坊主のヒーローだ」
「ヒーロー!?」
「あぁ。略してボーロだ」
「ボーロ…なんかスゲー強そうだ…分かった!今日から俺ボーロになる!」
手を天高く掲げると、手を振り回し僕の回りをクルクル回り出した。
子供は本当に単純…いや純粋で助かる。
なんでもかんでも吸収して大きくなるのだから難しい年頃でもあるのだが…。

「それに紗枝だって可愛いだろ?男子には人気あるんだぞ紗枝は」
特に下級生から紗枝はお姉さんのように憧れている生徒も数多く居る。

「可愛い…?」
「な…なによ?」
頬を赤らめ、浩司を見ている。

「大きくなったら紗枝は美人になるぞ?それこそ藤咲先生よりも綺麗になるかy「私よりなんだって?」
後ろから聞こえてきた声に心臓が跳び跳ねた。
咄嗟に振り返り声のした方に目を向けると、数メートル後ろから守夜さんが此方へ向かってくるのが視界に入ってきた。

「「おはようございます藤咲先生!!」」
紗枝と浩司が礼儀正しく頭を下げると、守夜さんも小さく微笑みおはようと答えた。

「…須賀先生もおはよう」

87:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:01:42.44 Lidtm6kP
「お、おはようございます藤咲先生」
守夜さんの雰囲気が何処かおかしい…。
先ほどの話を聞かれてしまったのだろうか?
しかしあれは悪気があって言った事では無い。
少しでも自信がついたらと思って、口から出た言葉なのだ。

「お前達は先に行ってていいぞ?僕は藤咲先生と一緒に行くから」
「分かった、早く来いよ!」
浩司が走って行く。

「待ってよ!あ、先生これ食べて。梅と鮭のオニギリ二つ入ってるから…毎朝何も食べてないんでしょ」
可愛らしい小さな包みを僕に手渡すと、浩司の後を追って紗枝も走り去っていった。
気を使ってくれるのは有難いのだが、後一時間半寝れる時間を延長してくれるともっと有難い。

「可愛い子だな…私より」
「はは……はぁ…」
やはり聞こえていたようだ…。

「そのオニギリどうするんだ?」
「せっかく作ってくれたんだから食べますよ」
「私の弁当はどうなる」
膝上に置いてある紗枝とは違いシンプルな包みを掴み僕に差し出した。
付き合いだしてから朝飯と昼食の二食分の弁当を毎日作ってきてもらっているのだ。
流石にそれは悪いと断ろうとしたのだが、自分の弁当を作るついでなので手間はかからないらしい。

88:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:02:15.46 Lidtm6kP
「昼にでも食べます」
「昼には昼の弁当を作ってきているだろ」
「あ……それじゃ藤咲さんが作った弁当も食べます。オニギリ二つではお腹ふくれませんし」
「……もういいよ」
ため息を吐き捨てると、そのまま一人学校へと向かってしまった。

「……はぁ」
どうしろと言うんだ…相手は小学生の生徒。無下にも出来ないのは守夜さんも知っているはずだ。

「なんだかなぁ…」
最近小さなすれ違いが多くなっている気がする。
仕事帰り毎日守夜さんの家に行くのも流石に疲れてきた。
別に嫌では無いのだが…たまには一人の時間も作りたい。
美人な守夜さんと付き合えてこんな事言うのは贅沢なんだろうか?
それとも都会暮らしが長すぎて島の人達の暖かさにまだ慣れていないだけなのか…。

「とにかく守夜さんに謝るか…」
守夜さんの後を追いかけるように学校へと向かった。



―学校に到着し、足早に職員室へと向かうと、すでに別の教師も数人来ていた。

「おはようございます(なんでこんな時に限って朝早く学校来てるんだよ…)」
一人一人挨拶をしていく。
最後に守夜さんにも軽く挨拶をする。

「……」
無視された。

89:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:04:18.43 Lidtm6kP
それから朝は生徒達に付き合い、授業をこなし休み時間はまた生徒に付き合わされ…気がつけば夕方。
生徒達を見送り職員室に行くと、すでに守夜さんの姿はなかった。
結局守夜さんとは朝から今まで顔を会わす事無く時間が過ぎてしまった…。

「そう言えば今日は検査診察の日だったっけ…仕方ない、明日謝るか」
守夜さんの家に行こうかと思ったが、少しお互い頭を冷やす時間が必要だろう。
短時間でお互い近づきすぎたのかも知れない…。
いつもならその足で守夜さんの家へと向かうのだが、今日は自宅へと足早に帰宅した。


―その日の夜、守夜さんから電話が掛かってきた。
いつも二十三時頃に電話が掛かってくるのだが、今日は二十時とかなり早かった。

「なんで、家に居ないんだ?料理を作って待ってるんだが」
「なんでって…留守電に入れましたよ?今日は自宅に直行するんで料理はいいですって」
「そんなことを聞いているんじゃない!言ったじゃないか!検診が終わったらすぐに帰るから私の家に先に帰ってくれって!冬夜も聞いていただろ!」
そう言えば守夜さんから言われた気がする。

「そうでしたね…すいません」
「今から来てくれるのか?」
「今から…ですか?」

90:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:05:06.97 yZJscv9O
別に時間的に行くのは問題無いのだが…。
今行けば変な喧嘩をしてしまいそうだ。

「今日は辞めときます。また明日話しましょう…それじゃ」
「ちょ、ちょっと待って!」
受話器を置こうと耳から放すと、慌てたような守夜さんの声が受話器から聞こえてきた。
再度耳にあて、なんですか?と問いかける。

「別に冬夜と喧嘩をしたい訳じゃないんだ」
「それは僕も同じです。だからお互い頭が冷めてから話しましょう」
「わ、私が悪かったよ…だから会いにきてくれないか?本来なら私が謝りに行けばいいのだが……分かるだろ?私では冬夜の家には行けないんだよ」
守夜さんが言うように、守夜さんでは僕の家に来れない。
僕の家は島でも高い位置に存在し、階段が多い場所でもある。
車椅子の守夜さんには人の手を借りないと絶対に来れないのだ。
しかし、僕はそんな事を言ってる訳では無い。

「いや、別に守夜さんが悪いとか悪くないとかそんな話ししてる訳じゃないんですよ。
それに守夜さんが悪いなんてまったく思っていません」
これは本当の気持ちだ。
守夜さんに対して怒りなど微塵にも感じていない。

91:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:05:35.63 yZJscv9O
ただ、お互い少しだけでも距離をおかないと正直学校でも守夜さんを名前で呼びそうになる時があるのだ。
多分自分自身守夜さんと付き合えた事にまだ浮かれているからなのだろうけど、いつまでもこのままではダメだと思っている。
考えが古いのだろうか…。

「ほら、今日は守夜さんも検診帰りで疲れているだろうし、また明日話しましょうよ」

『冬夜……他に女ができたんじゃないのか?』
守夜さんからの唐突な質問に脳が一瞬ストップした。
今までの会話の中に僕が他の女性を匂わせる言葉を発したのだろうか?
見覚えは無いのだが…。

『私はこんな身体だから…冬夜の気持ちになかなか答えてあげることは難しいんだ。でも私は冬夜の事を考えて行動してるつもりだ…』
「それは分かってますし、守夜さんの身体に関して不満は無いですよ?だから明日会って話しましょう」
『なんでそんなに早く切ろうとするんだ?私は冬夜と別れるつもりは無いからな』
「僕も無いですよ…だからそんな重く考えないでください」
『今からそっちに行く。女が居るなら帰らせてくれ』
それだけ言うと勝手に電話を切ってしまった。

「なんだよ…意味が分からない」
話が飛びすぎて正直ついていけない。

92:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:06:41.83 yZJscv9O
守夜さんってあんなに情緒不安定だったのか…。

「行くしかないよな…」
守夜さんが僕の家に来ることはできない…来るとしても階段下までだろう。
今から家を出たとして、車椅子の守夜さんは三十分ほどで到着するはず。
仕方なく、テーブルから携帯を取り家を後にすると、家前にある階段を足取り重くゆっくりと降っていった―。


■■■■■■


「ははっ、優しそうな子だったからそれはないんじゃないか?」
「私もそう思うんですけど…だけどやっぱり不安で」
窓ガラスから外を眺めて呟いた。
見慣れた景色…民家と海と山しか無い景色がずっと続いている。
本土から観光目的で来る人も「何も無い所だな」と言うほど何も無い。
あるとしたら綺麗な海ぐらいだ。
そんな綺麗な海も今は真っ暗でまったく見えない。
漁師をしていた私でも夜の海は恐怖を感じる時がある。すべてを吸い込みそうな黒い海…。
この黒い海に私の父は飲み込まれていった…。
そして私の身体の一部も…。

「…」
自分の足に視線を落とす…冬夜から貰った膝掛けの下には動かなくなった足が二つ並んでいる。
この足だけでは無い…私の身体には事故の時に受けた無数の消えない傷がまだ残っているのだ。

93:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:07:12.73 yZJscv9O
優しい冬夜もこの身体を見られたら離れていってしまうかもしれない…

「ッ…(それだけは絶対に嫌だ…)」
膝掛けを握りしめ胸元で抱き締めた。

「大丈夫だって。ちゃんと話し合えば」
運転する男性が優しく声をかけてきた。
それを笑顔で返すと、再度窓の外に視線を戻した。
このメガネをかけた男性…私が通う病院の医者なのだが、昔から足のリハビリでお世話になっている。

今日も病院に行き治療を受けて家に帰ってきたのだが…いつもなら窓から灯りが見えるのに今日に限って見えなかったのだ。
その時点で大きく不安に刈られ、震える手で自宅の扉を開けようとすると、ガチッと嫌な音がした。
何度もガチッガチッとノブを回して引っ張ってみるが、開かないのだ…。
合鍵を冬夜に渡しているので普段なら冬夜が居るはず…ポケットから鍵を取り出し鍵を開けるとゆっくり扉を開た。

「冬夜?いないのか冬夜…?」
玄関先で冬夜の名を数回呼びかけて見るが、返答は無い。
それどころか靴も無い。
恐る恐る家の中に入りリビングに向かう。
やはり冬夜の姿は無かった。
少しの間放心した後、慌てて冬夜に電話したのだが…。

「…なんであんな事言ったんだろ…」

94:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:07:53.86 yZJscv9O
冬夜が浮気するような人間では無い事は分かっているのに…。
つい口から出てしまった…。

「冬夜傷ついただろうな…」
逆の立場なら私も傷つくはずだ…。

「ほら、ここでしょ?」
目の前に石畳の階段が姿を表した。
忌々しい階段だ…この階段さえなければ私も冬夜の家に行けるのに…。

先生が運転席から降りると、後ろから車椅子を取り出し助手席側の扉前に車椅子を持ってきてくれた。

「ありがとうございます」
助手席から足をだすと、先生に抱えてもらい車椅子に座った。
この先生とは長い付き合いだが、細かな気配りができる本当に良い先生だと私は思う。
多分私が一番信用でき、安心できる人間かもしれない。
だけどそれだけ…一番安心できる人は先生かもしれない…だけど…。




―側から離れて不安になる人は冬夜だけなのだ。

「あっ、危ない!」
突然、先生の声と共に上に覆い被さってきた。
意味が分からず先生を凝縮する。

「ちゃんと下を向かないと…」
先生が指差す場所に目を向ける……車椅子の車輪がスッポリはまりそうな浅い溝が壁に沿って掘られていた。
そう言えば最近雨の水を流す為に溝を作ったって誰かが言って……



「守夜…さん?」

95:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:08:39.46 yZJscv9O

「と、冬夜!?」
慌てて先生から離れて距離を取る。

「…藤咲さん車で来られたんですか?」
冬夜が石畳の階段を降りてくると、ゆっくり近づいてきた。

「そ、そうなんだ。家を出る時に先生がちょうど私の財布を届けに来てくれてな。帰り道だと言うので、ついでに乗せてもらったんだ」
「……そうですか…」
「……冬夜?」
「……なんですか?」
「なんで私と目を合わせてくれないんだ…?」
先ほどからずっと空気を見る様に私に視線を向けない。

「そりゃ…抱き合ってる姿を見たら誰でもこうなると思いますよ?逆なら藤咲さんも思わないですか?」
「ち、違う!車椅子が溝にはまりかけてッ、助けてくれただけなんだ!」
わかりやすく先生から距離を取ると、すぐに冬夜の元へと向かった。
冬夜が発する“藤咲さん”と言う言葉に距離を感じる。
冬夜の手を掴み引き寄せようと引っ張ってみるが、冬夜は私の元へ歩み寄ってくれなかった。

「先生、わざわざすいませんでした。藤咲さんは僕が責任をもって家まで送っていくので」
「君は何か勘違いをしているかもしれないが彼女が言ってる事は本当だよ?」
「分かっています。今のは冗談なので気になさらないでください」

96:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:09:18.26 yZJscv9O
先生に一度頭を下げると、私を一度チラッと見た後、スタスタと歩き出してしまった。

「冬夜待って!」
それを慌てて追いかける。
いつもなら私の速さに合わせてくれるのだが、今日は私が見えないように歩いていく。

「冬夜私の話を聞いてくれ!お願いだからッ!」
なんとか冬夜の隣まで追いつき、腕を掴んだ。

「あれは本当に誤解なんだ!先生は既婚者だし…それに私が好きなのは冬夜だけだから…だから私の目を見てくれ…」
この手だけは絶対に放せない…放したら冬夜は行ってしまう…私を置いて闇に消えてしまう―。


「誤解なんてことは分かっていますよ……だけど…正直守夜さんが何を考えてるのか分からないです」
「私だって冬夜が何を考えてるのかなんて殆ど分からない…だから悩んで悩んで冬夜にどうしたら喜んでもらえるか考えながら行動してるんだ…だから……?」
冬夜が私の手を掴みソっと手放した。







「別れy「嫌ッ!!」
放れていく冬夜の手を掴み腰にしがみつくように車椅子から転げ落ちる。
独りでに降っていく車椅子すら視界に入らず冬夜にしがみついた。

97:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:10:18.82 yZJscv9O
「お願いだからそんなこと言わないで!冬夜のしたいことなんでもするから!お願いだから捨てないでっ!」
暗い闇の中、震える身体を冬夜に押し付け必死に追い縋る。
涙腺が壊れたように涙が溢れ、冬夜のズボンを濡らしていく。

「ちょっ、守夜さん車椅子がッ」
私を離そうと冬夜の手が私の肩を掴む。
それすら拒絶に感じてしまう―。

「イヤッ、私を冬夜の側にいさせて!他に女が居ても何も文句言わないから!お願いだからぁぁぁぁ!!!」
大声を張り上げ泣き崩れた。
冬夜との温かい記憶が遠くなっていく…。
暗い部屋で独り生きていくのはもう嫌なのだ。

「分かりましたから!だから車椅子を拾ってこないと…」
私の手を強引に引き剥がすと、冬夜はそのまま坂を降っていった。

「待って!待って冬夜!」
足を引きずり冬夜を追いかける。

「はぁ…はぁッ…とう…や…ぁ…」
両手で力一杯冬夜を追いかける。
整備されていない地面が私のスカートをジャリジャリと汚していくがそんなこと気にならなかった。

「守夜さん!?何をしているんですか!」
前から車椅子を押した冬夜が走り寄ってきた。
私を抱き起こすと、車椅子に乗せてくれた。

98:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:11:03.42 yZJscv9O
本当に心配しているような表情を浮かべている。

「冬夜…」

冬夜が私を心配してくれている―。

冬夜が私を見てくれている―。

「スカート破れちゃったじゃないですか…それに膝掛けが…」
「あっ!」
冬夜の手にはずぶ濡れになった膝掛けが握られていた。
溝に落ちたようだ…。
冬夜の手から慌てて膝掛けを取り、冬夜に謝罪する。

「はぁ…もういいですから…」
何度も頭を下げる私の肩に一度手を乗せると、今度は私に合わせてゆっくりと歩き出した。


「冬夜何か食べたいモノあるか?冬夜が食べたいモノなんでも作るよ(…このままじゃ駄目…このままじゃ駄目…冬夜と別れるのは嫌だ!)」
「食べたいモノですか…まぁ軽いモノなら…」
「分かった。なら帰ったらすぐに作るよ(冬夜が私から離れない繋がり…繋がり……繋がり…)」







その夜―私と冬夜は初めて身体と身体で愛し合った。




そう……私は細い糸のような“繋がり”をやっと手に入れたのだ。

99:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/10 00:11:58.29 yZJscv9O
ありがとうございました、夜と闇投下終了します。

次は夢の国を投下させてもらいます。

100:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 00:48:22.66 9VJjY/nR
おお・・・とにかく一気に読んでしまいました。
まだまだ続きがみたいですね!

夢の国もあなただったんですね。

101:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 01:10:37.49 QI+uClM2
ヤバいすごく・・・イイ!GJ

てゆか関係ないが酉見て気付いたんだがキモウトスレでも投下している方だったのか

102:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 01:11:06.52 X0sUJeL5
良い依存GJ!

103: 忍法帖【Lv=4,xxxP】
11/06/10 03:10:58.74 OonMoFU3
投下来てたのかGJ!
いやあ、思い人から捨てられないか不安に泣き出してしまう女の人っていいもんですよね

104:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 05:52:25.40 DdtY5DNU
朝イチからこんな素晴らしい短編を読めるなんて感激ですよ~
毎度々々、良質な作品をありがとうございます!

105:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 09:19:57.79 psNcmd5U
いい作品だ。

106: 忍法帖【Lv=9,xxxP】
11/06/10 09:56:12.70 dFRN/3rO
一歩間違えればヤンデレ化してしまいそう
だが、それがいい

107:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 23:44:16.14 MQWzWcpq
GJ

>>106
そのヤンデレが悪いみたいな言い方はやめてくれよ……
過剰反応しすぎかもしれないけどさ

108: 忍法帖【Lv=10,xxxPT】
11/06/11 00:16:52.88 yEr4s9gF
>>107
そう取られるようなコメントをしてしまい申し訳ございません

109:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 00:53:27.24 3XtXNWVY
避難所の更新は管理人しか無理なの?
俺やりかた分からないけど。

110:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 00:54:02.31 3XtXNWVY
避難所じゃなくて保管庫だ

111:保管庫”管理”人 ◆boay/MlI0U
11/06/12 18:49:25.09 +LakYl85
保管庫を更新しました
大変遅れましてすいませんー

コメントもお返しできずすいませんでした!

>>110
荒らし対策と、あと利便性を考えかなり複雑にリンクを張っているので
更新作業がわりと面倒という点を踏まえ、管理人のみ編集可にしてあります

手伝ってくださる方は保管庫のメールフォームからその旨伝えていただければ、
即刻ID・パスワードを返信しますのでぜひお願いします~
(livedoorIDお持ちの方)

112:保管庫”管理”人 ◆boay/MlI0U
11/06/12 18:56:32.42 +LakYl85
途中送信しました!

(ライブドアIDをお持ちの方はメンバー参加で編集出来ます、パスワードを聞いてもらう方法ではライブドアID取得の必要はありません)


113:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/12 19:12:16.89 PK/bQskF
>>111
ありがとう!お疲れさま。
急かした形になって申し訳ない…。
津波や地震があったから何かあったかと心配した。

114:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/13 01:23:52.88 TsXJXD4I
保管庫の編集方法みたいなページ見たけど一瞬で諦めたわ……

あれをひとりでやってたのか、マジありがとう

115:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 17:55:07.05 PybLy7B+
ぼっきageヽ(`д´)ノ

116:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 22:37:50.01 kDywkpj6
少しでも住人居るんなら見るだけじゃなく一致団結して作品書けよ。
この際リレーでもいいだろ。

117:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 23:42:47.20 kdGiiFwC
保管庫更新乙です

118:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 22:03:53.68 7J/DWhUo
>>116
なら、出だしは任せた

119:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 23:20:08.33 20c0554l
>>118
そうなると誰も書かないよね。

120:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 00:56:08.18 iW507rE/
よし、俺からだ

昔々あるところに、巨乳のおねーさんがいました。

後は任せた!

121:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 01:59:26.74 IAMF0F+U
ある日おねーさんは川へ手淫をしに行きました。

122:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 10:30:55.31 3wH6beIi
その巨乳のお姉さんにはそれはそれは大切な弟が居りまして、毎日のように弟を可愛がっていたのですが…

123:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 23:40:45.42 Omvsarss
弟は貧乳にしか興味を持たない男の子だったのです
そんなある日隣にボーイッシュで貧乳な女の子が引っ越してきました

124:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 23:52:48.98 3wH6beIi
一年近く来てない未完の作品は抹消すべき。

125:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/20 21:57:48.06 vOFaI1OP
まぁ言いたい事は分からんでもないけどな
新しく作品書くとき出だし似てたらパクリとか言われるもんな
こっちだってわざわざ完結した作品ならまだしも未完の作品一つ一つ確認しないし。なら完結してちゃんとした作品にしてから言ってくれと思う

だけど抹消はできない…何故ならその作品の続きを楽しみにしてる人もいっぱいいるからね。
俺も完結しないなら抹消してほしい派だけどねw

126:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/21 07:33:30.93 048W3If3
何なのこいつら
モンスターペアレントじゃないけど、最近は本当に権利拡張型基地外増えたね

127: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:15:41.77 oiqtNrra
遅くに夢の国投下します。

128:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:16:40.19 oiqtNrra

―これは夢だろうか?
空一面覆う黒い影…太陽の光をすべて遮断し、大地に影を落としている。



「イヤァァァァァァァッ!!!」

逃げ惑う貴族―

「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

身を裂かれ血を流し次々に倒れ込む兵士達―

「熱いぃぃ!ぎゃあぁぁぁぁぁぁあ!!」

燃え尽きる神父―


「痛いッ、お母さん!!!」

助けを求める子供達―

「イヤッ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

助けることすらできず泣き叫けぶ母親―

―逃げ惑う何万という人々。
あれだけ此方へ向けていた人々の殺気も今はまったく感じない。
いや…空から襲い掛かる“者”から逃げる事に必死になっている。

「なんだこれ……ハロルド?ハロルドどこだ!?」
人混みの中、周りを見渡しハロルドを探す。

「ラ、ライトこっちです…ッ!」
人を押し退けフラフラと歩み寄ってくる。
ハロルドも手酷くやられたようだ…。

「これ、どうなってるんだ!?」

「分かりません!ライトが居た場所が光ったと思うと、突然空にアレが…」
ハロルドが身を屈めながら空を見上げた。
同じように空を見上げる。
空から次々と襲い掛かる“者”……あれは間違いない。

129:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:17:33.08 oiqtNrra





「ドラゴン…」
そう……空を覆う影は紛れもなくドラゴンの群れ。
そのドラゴンが次々と逃げ惑う人間に襲いかかっている。
老若男女区別すること無く空から襲い掛かるドラゴン…。
ドラゴンの炎が建物や人間を燃やし、中央広場は大きな火の鳥籠のようになっている。
言わば俺達人間は鳥籠に放り込まれた“餌”だ。




「……ホーキンズ…ホーキンズはどこだ!」

「高台下に行きましょう!」
人の流れに逆いながら前に進む。
その間もドラゴンの一方的な攻撃は止む事なく無力な人間に襲いかかっている。

空から降る火の雨…火に飲み込まれた人間は小さな断末魔をあげると、灰になり消え失せる。
ふと、ティエルが話していた言い伝えが脳裏を過った。





―影が太陽を覆う時、神の怒りが地上に降り注ぐ―


「影が光を遮断…神が怒りを覚えると赤い涙を流す……赤い涙が地上に降り注ぐ…」

「ッ……まさか!これがティエルが言ってた言い伝えなんですか!?」

「分からないが…多分そうだろ」
それしか考えられない。
でも何故突然…。
足元に目を落とすと、砕け散ったクーのペンダントが散らばっていた。

130:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:18:01.40 oiqtNrra
「まさかな……とにかくホーキンズの所…?しゃがめ!」

「え?なっ痛ッ!」
風が舞いハロルドが大きく吹き飛ばされる。俺の前に三体のドラゴンが降り立つ…。

「ライトッ今助けます!」

「俺の事は気にすんな!それよりホーキンズを……いや、アンナさんを今すぐに助けに行け。
ホーキンズの所には俺が行く!」
ボーガンをドラゴンの隙間へ投げると、それをハロルドが両手で抱き締めた。

「分かりました……すぐに戻りますから!!」
険しい表情を保つハロルドが一度此方へ頭を下げると、高台へと走って行った。
高台の上に居たゾグニと騎士団の連中は既に姿を消していた。
多分、逃げたのだろう…。
だからハロルドを行かせたのだ。
それに早くアンナさんを助けないと、高台にドラゴンの炎が飛び移っている。

「悪いけど、俺はお前達より数倍大きなドラゴンと一度対峙してるんだよ。お前らを見てすべての人間が逃げ惑うと思うなよ?」
隙間からハロルドを見送ると、刃こぼれした剣で三匹のドラゴンと対峙する。
ドラグノグより小さいと言っても、俺より遥かに大きい…だが、ドラグノグの時のような絶望感は無い。


「…ん?な、なんだ?」

131:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:18:25.34 oiqtNrra
此方へ向いていたドラゴン達がくるっと俺に背中を向けると、周りに居る兵士達を襲いだした。


「……」
次々にドラゴンの餌食となっていく兵士達…一瞬助けようかと迷ったが、助ける人間を間違えてはいけない。
立ちはだかってきたドラゴンの横をすり抜け高台下へと目指す。

「賊を捕まえろ!メノウ様の居場所をッぐぁあッ!!」

「逃がすな!追え!捕まッぎゃああああああ!!!」


「はぁ、はぁ、(なんだ?何かおかしいぞ?)」

「逃がすな!アイツを生け捕りにッ?ヒィィィィッ!?」

「はぁ、はぁ、なっ、んだよこれッ」
敵兵の群れの中を走り抜け高台下へたどり着くと、息を整え後ろを振り向いた。

俺の前には先ほどの三体のドラゴンと、別のドラゴンが数体立ちはだかっていた。



―いや。







―俺を守るようにドラゴン達が俺に背を向け兵士達と対峙していた。

「なんで俺を襲ってこないんだ?」
走ってる途中…いや、ドラゴンが姿を表してから俺は一度もドラゴンから攻撃を受けていない。
それどころか俺の周りを守るように兵士や民間人の接触を炎と爪で断っている。

「ホーキンズどこだ!ホーキンズ!ホーキンズッ!!」

132:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:18:50.07 oiqtNrra
しかし今はそんなこと考えてる場合じゃない。
早くホーキンズを探さないと…。

「……ホーキンズ!」
居た…高台の端に倒れている。
走り寄りゆっくりとホーキンズを抱き起こすと、うぅっと小さなうめき声が聞こえた。

「ッ……大丈夫だ。
今すぐ助けてやるからな。店もほったらかしてるから…早く開かないと、村の皆も困るだろ?俺もハロルドも手伝うから」
崩れ落ちそうなホーキンズ身体を支えると耳元で小さく囁いた…。数年間騎士団の団員として過ごして来たので人の怪我は何度も見てきた……だから分かる。





―ホーキンズはもう助からない…。


「…ぁ…ぅぁ…ぁ…」
ホーキンズの血の溜まった口が痛々しく開くと、小さく言葉にならない言葉を発した。

「あぁ…わかった…わかってるよ…うん…」
ホーキンズの口に耳を近づけ、大きくうなずく。

「……ぅあ…あ…ぃ…」

「……うん゛…う゛ん…ッ…分がっ…だよ…ッやぐそく…ッずる…」
自然と溢れ落ちる涙が、ぽたぽたとホーキンズの頬を濡らしていく。

「…な…な…ょ…」

「う゛ん…ッながない゛…ッ…」
目を擦り涙を拭うと、再度ホーキンズの目に視線を向けた。

133:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:19:13.67 oiqtNrra
―もう目が見えていないのだろう…ホーキンズの眼球は一点の空気を見つめたまま、微動だにしない。




「……」

「はは…なに笑ってんだよおま…………ホーキンズ?おい……ホーキンy「ライト無事でしたか!」
高台の階段からハロルドが降りてきた。
背中にはアンナさんを抱えている。

「……アンナさんは」
ゆっくりとホーキンズを地面に横たわらせると、身体に布を被せて立ち上がる…。


「大丈夫です。気絶してるだけですから…それよりホーキンズは…」
ハロルドの問い掛けに対して小さく首を横に振って答える。
険しかったハロルドの顔が少しずつ歪んでいくと、大粒の涙が目から落ちた。
分かっていたこと…ゾグニに刺された瞬間ホーキンズは助からない…分かっていたことなのに……。




「…なんとか助けられないんですか?」
どうしても諦められない―大切な親友だから。

「無理だ…刺された傷と拷問の傷が酷すぎる。もう……手の施しようが無い…」

「ティエルなら…ティエルならなんとか!」

「無理なんだよ!」

「なんでですか!!!」







「ティエルでも死んだ人間を生き返らせる事はできねーんだよ!!!」

134:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:19:51.58 oiqtNrra
ホーキンズを指差し声を荒げる。
俺が指差す場所にはもう……息をしていないホーキンズの亡骸が横たわっているだけだった。


「助けるってッ!俺に任せろって言ったじゃないですかぁ!」
アンナさんを地面へ落とすと俺に掴み掛かってきた。

「一緒に帰ってッ、一緒に帰ってホーキンズのパン屋を手伝うって!ホーキンズのパンが食べたいって!そう言ったじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

「うるせぇよ!俺だってそうだ!!ずっと一緒だったんだぞ!?お前やティエルなんか比べ物にならないぐらいずっと一緒にいたんだ!!!」
―これからもずっと一緒だと思ってた。
ユードを出ていってしまったけど、いつもユードに戻ればホーキンズがパンを焼いて待っていてくれるとずっと信じていたんだ。

「お前に何が分かるんだよ!ホーキンズは俺の家族だ!!」
お互い母親と父親がいない俺達は兄弟だ。
絶対に離れない絆があるんだ―。


だから―


「だからホーキンズを助けてくれよハロルドォォォォォ!!!」
ハロルドの胸にしがみつき泣き叫んだ。
俺だってホーキンズが居なくなるなんて考えられない。
だけどもう笑って喋るホーキンズは居ないんだ…。

135:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:20:19.68 oiqtNrra
パンを焼くホーキンズもいないんだ…。


「やめなさい!」


「うぅ……ア、アンナさん…」
いつの間にか気絶していたアンナさんがホーキンズが居る場所まで移動していた。

「…ホーキンズ」
アンナさんが首に手を回して抱き起こす…が、ホーキンズは無反応。
そりゃそうだ…ホーキンズはもう…。



「うん?…うん…わかってる…大丈夫よ…あなたは私達を守ってくれたわ」
突然アンナさんがホーキンズの口に耳をあて、頷きはじめた。

突然の事にハロルドと胸ぐらを掴み合った状態で固まる。
ホーキンズの死で頭がおかしくなったのかと思ったがアンナさんの目はしっかりと光が灯っていた。

「うん…そうね…。大丈夫…私も愛してるわ…一緒に帰りましょう」
ホーキンズの口にキスをすると、ゆっくり此方へ目を向けた。
その目は聖母を想像させるほど、穏やかだった。

「……帰りましょう…ユードへ」
この瞬間、周りに響き渡っていた悲鳴が沈黙へと変わった。

周りを見渡すと、燃え盛る民家と死体の山だけが無惨にも残されていた。

空を見上げてみる…。

いつの間にかドラゴンの群れは綺麗に消えていた。
太陽の光が真っ赤に染まった地を照らしている…。

136:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:21:07.98 oiqtNrra
「……あいつは…」
太陽の光に影が一つ…。



「ドラグノグ…」
鉄よりも硬い真っ赤な鱗を身に纏い優雅に空を飛んでいる。
ドラグノグ居たのか……しかしこう見ると、やはり先ほど群れを成していたドラゴン達とは風格も体格も違う。

今襲われたら間違いなくこの都市は完全に崩壊する…だが、空を飛んでいるだけで攻撃してくる気配は無さそうだ。

「アンナさん…港へ降りましょう。ホーキンズは俺が抱えますんで」

「えぇ…お願い…」
アンナさんに抱き抱えられているホーキンズを受け取りおんぶすると、死体で埋め尽くされた広場を歩き出した。

死体に躓かないように、足元を見ながら歩く。

「…」
女……子供……赤ちゃん……兵士…。
一人一人の死体と目が合う。
その度胃液が喉まで上がるが、それを我慢して飲み込んだ。

数十分…ほんの数十分であれだけ活気があった都市が死滅したのだ。
後ろを振り返り、バレン城へと目を向ける…。
被害がかなり大きく全壊と言っても過言では無いかもしれない。
国としてはもう再起不能だろう…。
王が民を捨て逃げたのだ…この国にはもうゾグニの居場所は無い。





「…魔王様……魔王様が降臨なされたぞぉ!!!」

137:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:21:39.06 oiqtNrra
一人の老人が突然両手を重ね天高く突き上げた。
魔王様?頭をやられたのだろうか?
この老人も怪我を見る限りもう助からない。

「魔王様の怒りが我々に裁きをあたえたのだ!!魔王様の歩む道を拒む者を消すんじゃ!」
ヨロヨロと俺の足元へたどり着くと、目の前にある死体を一体引きずり俺の前から取り除いた。

「魔王様…魔王様!」

「我々に…慈悲…を…」
それが切っ掛けとなり、次々と続く者達が現れた。


「な、なんですかこれ…」

「さぁな…俺が魔王だってよ…はは」
頭を地面に擦り付け慈悲を乞う老人を無視して歩き出す。
歩く先々、傷だらけの者達が死体を取り除き頭を地面に擦り付ける。


正直胸くそ悪かった…コイツらは完全なる敵だ。
敵から突然崇められても俺はコイツらの神になるつもりは無い。
勝手に滅べばいいのだ。

何とか広場を抜けると、足早に港へと向かった。

「…どこも死体だらけですね」

「あぁ…多分町に居た兵士はほぼ全滅だろうな…」
幸か不幸か兵士の半数近くが俺達討伐の為にこの国を離れているはずだ。
その兵士達は助かったと思う…しかし…。

「……ゾグニ…」
あいつだけは俺の手で殺したかった…。

138:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:22:04.76 oiqtNrra
何をされても……蔑まれようとも…。



悪魔になろうとも…。


「港につき……………酷い有り様ですね…」
港に到着するとまず始めに目についたのは、やはり死体の山だった。
沖に数隻船が出ているが、すべて燃えている。
逃げようとした船だろうか…。
港に停泊している船もすべて全壊していた。

ふと、港の端にある倉が視界に入った。
倉の前に一体のドラゴン…あそこは確かメノウ達が隠れている場所。

「おい、皆居るのか!?」
少し離れた場所から問いかけてみる。
ティエルに俺の声が届いていればすでに森へと逃げているはずなのだが…

俺の声が届いたのか倉の隙間からひょこっとクーが顔を出した。

「お前ら逃げてなかったのか!?てゆうか早く此方に来い!」
目の前に居るドラゴンが見えないのか、クーは無防備のままメノウの手を引き此方へ歩み寄ってきた。

「―ねてる?」
此方へと到着すると、クーはメノウの手を離し俺が担いでるホーキンズに顔を近づけた。

「……あぁ…ちょっと疲れたから寝てるんだ…イタズラすんなよ?
それよりあのドラゴン…なんなんだ?」
やはりあのドラゴンも我々に危害を加える気配を感じさせない。

139:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:22:33.03 oiqtNrra

「聖物達はライト……貴方が呼び寄せたのよ」
クーの頭に乗っかるティエルが空を見上げて呟いた。
先ほどからドラグノグが俺達を見ながらずっとついてきている…。

「ティル・ナ・ノーグってしってる?」

「なんだそれ?」

「聞いたことあります……核戦争が起こるよりも遥か昔…6000年前に世界でも数少ない“楽園”と呼ばれる地が存在したとか……一部の人の間では“常若の国”と言われていたそうです。
たしか妖精最後の生存地と言われていましたよ。
神族の母と崇められる女神ダヌに見守られた聖地であると…たしか妖精ディーナ・シーもそこに住んでいるそうですが…」
ハロルドが意味深に首を傾げて話し出した。
神族の母?女神ダヌ?また宗教臭い話しなのか…。
でも妖精ディーナ・シーは聞いたことがある。
何を隠そうティーナはそのディーナ・シーから名前を頂いたそうだ。
ティーナのお母さんが妖精のように可愛くなるようにつけたらしいが……。

「存在って言うか今でも存在するわよ?貴方達生物体の母神である女神ダヌを守る守護獣として産まれたのがドラグノグ………ちなみにドラグノグの“ノグ”はその地名からきてるのよ?」

140:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:24:15.27 oiqtNrra
「へぇ…お前ら物知りだな」

「てゆうか聞いたこと無いの?これもかなり有名な神話の一つよ?」
そんなに有名な話しなのか…生憎俺は夢の国と言われたエンジェルランドしか知らない。


「ドラグノグは女神ダヌが産み出したドラゴンの中で一番古い聖物になるの…貴方が壊したあの丸い結晶はドラグノグの瞳よ」

瞳?そう言えばティエルがそんなこと呟いていたような…

「でも何故俺がドラゴンを呼び寄せた事に繋がるんだ?俺はただ投げて割っただけだぞ?」
別に宗教染みた事は何一つしていないはずだ。

「あの瞳はね…持っている者の憎悪が大きくなるにつれて光が増すのよ…」

「そうなのか?」
確かに強く光っている時、俺の頭の中は憎悪で埋め尽くされていたかもしれない…クーに反応せずハロルドや俺に反応したのはそう言う事だったのか。

「そしてその憎悪を覆う欲……血が渦巻く時…結晶となったドラグノグの瞳を割ると、瞳は主人の代わりに血の涙を流すの…」
血の涙?そう言えば俺がペンダントを割った時光と同時に赤い何が溢れた気がする。

「それを感じたドラゴン達は、仲間の危機と感じ、割れた瞳へと集まる……いえ…割った“主人”である者の元へと集うのよ」

141:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:26:18.40 oiqtNrra
割った主人…俺の事か…。

「聖物達がライト達を攻撃せず、守る対象に選んだのはそう言うことよ……貴方は今、ドラグノグと対等に話せる唯一の人間って事ね…まぁ、対等って言ってもドラグノグと横に並んだ訳じゃないから勘違いしないでよ?
ライトなんか一瞬で殺されちゃうから」

「んなことわかってるよ…それに俺は一度こっぴどくやられてるからな…もうごめんだ」

それより…これからどうするかだ…。
船はすべて潰された…これでは脱出できない。
それに船ではすぐ追手に追い付かれてしまうだろう…。

「そう言えば…確かティーナがこの国に来たのは空飛ぶ船に乗ってきたって言ってたな」
そんなもの存在するかかなり怪しいが、ティーナが嘘つくとは思えないし…。

「……おい、おまえ」

「ひっ、ひぃ!?」
血を流し横たわる兵士に声をかける。
目を見開き俺を見上げると、傷だらけの体を引きずりながら逃げようとした。

「お前に聞きたい事がある…空を飛ぶ船ってなんだ?」

「そ、空を…ひ、飛行船です!その倉の中に飛行船が数隻あります!それの事だとッひぃ!?」
胸ぐらを掴み無理矢理立たせる。

「寝てるお前達も来い!ドラゴンの餌にするぞ!」

142:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:27:35.59 oiqtNrra
俺の声に死んだフリをしていた兵士が数人慌てて立ち上がる。
立ち上がらない他の兵士は本当に死んでいるようだ。
倉を兵士達に開けさせ中へと入る。

「これが飛行船…」
倉の中には人が数十人乗れるであろう船があった。
ただの船に見えるが…普通の船ではなさそうだ。
それに思ったより小さい気がする…。

「この他に飛行船は無いのか?」

「お、大きい飛行船はすべて他国の来客達を送る為に出払ってます…バレン城にも数十隻ありますが…多分すべて…」
ドラゴンが潰した…か…。
確かにバレン城があの状態ではかなり高い確率で破壊されているだろう。
バレン城まで戻る時間を考えればこの飛行船しか無いか…。

「よし…ならすぐに飛べるようにしろ。変なことを考えるなよ?ドラゴンの力をかりなくてもお前らぐらいなら片手でも余裕なんだからよ」
剣を腰から引き抜き目の前の兵士へと向けた。

「た、助けてください!貴方様には決して逆らいません!私達は貴方様の下僕…どうか命だけは」
震える体を隠す素振りすら見せず地面に頭を擦り付ける。

「…さっさとやれ」
兵士達の言葉を無視し、踵を返して倉の外へと出た。


これでやっとホーキンズを帰してやれる…。

143:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:28:03.59 oiqtNrra
バレン王国―世界屈指の大都市であり、世界一の軍事力を誇る強国。
その強国が一時間足らずで壊滅的な被害を受けた。
呆気ない…本当に呆気ない…人間が作るモノはここまで弱いモノなのか。



「…もうすぐ帰れますね…」
ハロルドが後ろから歩み寄ってきた。

「あぁ…そうだな」
海を眺め思うのは、故郷ユードの花畑。
この大海の向こう側にユードがある…見えないけど海を眺めていると落ち着く。
ユードの花畑から見た海とは雲泥の差だが、海は海だ。
母なる世界の海は全ての大陸に繋がっている―。

「ハロルド…」

「なんですか?」
ハロルドの顔を見る事なくホーキンズを手渡した。
安らかに眠るホーキンズの顔を目に焼き付け再度海に目をむけ呟いた。





「……俺は一緒に帰れない」

「……は?な、何を言っているのですか!?」
一瞬呆気に取られたハロルドが我を取り戻し声を荒らげた。

「俺は顔を知られ過ぎた…この国のヤツらは俺がドラゴンを使って攻撃したと思っているだろう…いや、実際そうだ」
無意識にせよ兵士平民貴族すべてを敵だと判断したのは紛れもなく俺自身だ。

「だからなんですか!?貴方は一つも間違った事などしてません!」

144:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:30:17.38 oiqtNrra
「そう言う問題じゃない…俺がこの船に乗りノクタールへ戻れば必ず他国と戦争が起きる。
ノクタールがバレンを滅ぼしたって図は絶対に作っちゃいけないんだ」
その図を作ればユードだってただじゃすまない。

「そんな…」

「それにな…ノクタールで俺を待ってる女も居るんだ…もうすぐ子供も産まれる……だから…俺がノクタールへ戻らない事がその女と子供を守る事に繋がるんだよ」
自分のエゴかもしれない…だけど事が大きくなりすぎた今、俺ができる事はただ一つ。

「ライト…貴方まさか…」

「……平民から世界一の騎士団員になり、初代騎士団長しか成し得なかったドラゴン殺しの名誉を受け英雄になり、騎士団福長になって仲間を助ける為に旅人になり……最果ての地で魔王になる。
筋書きではかなり良い物語じゃねーか?」

おどけたように笑うと、アンナさんと一緒に居るメノウに近づいた。
俺が近づくとアンナさんから離れてメノウから歩み寄ってきた。

「メノウ…お前はこの船に乗れないんだ」

「メノウ乗れないの…?なんで?」

「お前は魔王の人質になるからだ」

「魔王ってだれ?」

「俺だよ俺」
もうこれしか方法が無い。
皆を助ける方法はこれしか…。

145:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:30:44.10 oiqtNrra

「アンナさん…ホーキンズをよろしくお願いします」
アンナさんに一度大きく頭を下げると、倉の裏に繋いでいた馬にメノウを乗せて一緒に股がった。

「待ってください!」
走り出そうとする馬の前に立ち塞がるハロルド。
その目は今まで見てきたハロルドの目とはまったく違った。

「ホーキンズとアンナさんは僕が責任を持ってユードまで守ります…ですから…」

「あぁ…わかってるよ…またな」

「―」

「クー…肩車の約束なんだけど…また今度でいいか?」

「―クーもライトといっしょにいく―」

「…ダメだ…クーは皆を守ってくれ…」
本当の所クーを早くシェダの元へと帰してやりたかった。
シェダも心配しているはずだ、これ以上危険な目に合わせる事はできない。

「―いや―クーも―いく―」

「クー…そうだ…それじゃもう一つ何か約束しようか?」

「―」

「何がいい?」

「――また―クーに―いっぱい―おしえてほしい―」

「……分かった。約束だ」
馬の上からクーの頭を軽く撫でると、兵士達に目を向けた。
明らかに怯えた目……コイツらには俺が悪魔にでも見えているのだろうか?

146:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:31:30.59 oiqtNrra
「お前達…此処に居る者を安全に東大陸まで送り届けろよ。もし何かあったら…」

「わ、わかりました!命に換えても送り届けます!!」
倉の中に居た兵士達が皆声を揃えた。
これなら大丈夫そうだ…。

「メノウ…ライトの言う事ちゃんと聞くのよ?あとこれ…御守り」
メノウの手に布で作った手作りの小さな御守りを握らせた。

「ありがとうお姉ちゃん!またアップルパイ作ってね!」

「……えぇ…元気でね」
アップルパイという言葉に一瞬アンナさんの目に涙が溜まった…アンナさんも分かっているのだろう……もうメノウとは会えない事に。

「それじゃ行くわよ!!此処から私の力を存分に見せつけてやるんだから!!」

「……おい…お前は話聞いてたのか?」
俺の頭で小さな棒を振り回すティエルに問い掛けた。

「私は私の行きたい場所に行くの!!ライトがなんて言おうと私も行くわよ!」
馬の頭に飛び乗ると元気よく棒をかざして将軍を気取った。
これは何を言ってもダメだな…。


「はは……なら心強いな…んじゃ行くか…メノウ舌噛むなよ?」

「うん!」

「進め進め~!」

―目指すはメノウの故郷―水に愛された都市、雪原大陸フォルグ王国だ。

147:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 02:33:09.23 oiqtNrra
ありがとうございました、夢の国投下終了です。
次は夜と闇投下させてもらいます。

148:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 05:54:54.81 mTeKv/cH
あーくそ、ややこしくなって頭がこんがらがってきやがった

149:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 12:12:19.54 8RlJrdJ7
>>147
「夜と闇」投下告知!
「夢の国」も良いけど、こっちの方がツボなんでwktkしながら待ってます!

150:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 21:26:02.02 aMrQfQzg
俺は夢の国が好きだああああああああああああああああああああああああああああああ

これでまたしばらく頑張れる

151:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 22:58:12.44 ihBSk1GT
GJ

夜と闇期待

152:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/23 10:06:33.90 8Xcwzfe/
おおおお!!GJ

しかしティーナはどこまでも報われないな・・・

153:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/23 23:21:35.97 W6yJAeBd
ってか夢の国の作者さんの精神力やばくね?
よく放置せず書き続けられるよな…クオリティもめっちゃ高いし…

まぁ何が言いたいかって言うと…ホーキンズぅぅぅぅううぅぅ…

あとティーナを幸せにしてくれ…
ライトに妊娠を告白したシーン読み返したんだが…可愛すぎるだろ…

これからも応援してます!

154:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 00:09:45.68 IBBWlyBM
最近エロパロ板に夢の国が投下されてるか見に来るのが日課になってる。

155:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 07:11:23.98 hN6mC83z
俺はメノウ派
続き楽しみにしてますぜぃ

156:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 12:07:39.30 EBIjnhrS
保管庫トップにコメしたやつまじやめろ
管理人さんに迷惑かけないで

157:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 13:13:48.57 k00A2oir
保管庫更新感謝

158:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 01:02:04.09 7Keed4ZT
ていうかまさか俺らがこのスレに依存しているんじゃ・・・

159: 忍法帖【Lv=23,xxxPT】
11/06/25 02:02:57.25 YjaoAEZT
>>158
何を今更

160:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 04:17:21.36 68ZKGf2/
>>158
ここの住人達は、それこそ初代から依存しっぱなしだぜ?

161:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 12:20:03.11 ARKzBuCz
>>127
投下GJ!!
たまらん

162:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 14:46:59.42 68ZKGf2/
>>127
あれれ。。。ホー…キンズ……orz

163:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/27 18:25:30.55 1ZTKuXBd
夜と闇もまってりゅううううううう

164:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/27 20:11:58.00 ZOZk9lu7
保管庫さん乙!

165:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/28 01:02:28.13 pILZRmpw
このスレは最高だ


166:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 23:17:34.05 ++goOpLB
保守保守

167: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:52:27.92 mMvJOqsr
夜と闇、投下させてもらいます。

168:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:53:04.73 mMvJOqsr
この島に来て一年と数ヶ月が過ぎ、守夜さん以外に数人ではあるが顔見知りもできた。
島生活を堪能する暇も無く、慌ただしく暮らしてきた生活も今は穏やかだ。
楽しく、暮らしている。
教師業も板に付き、余裕を持って生徒達と向き合えるようになった。

そして守夜さんとも……。


「ちゅ…む…ッあむ……っはぁ…どうだ?気持ちいいか?」
「は、はい…ッ」
守夜さんの口と僕のペニスがいやらしく糸を引く。
僕の返事に心良くしたのか、そうか…と呟くと再度ペニスを小さな口で頬張った。
頭を上下に揺らし、チュポチュパッと水を含んだ音を鳴らしながら舐めたり吸ったりと忙しそうに動いている。

「守夜さん…ッ…出ます!」
守夜さんの頭を軽く掴み、喉の奥へとペニスを差し込んだ。

「うっごッ…ぁ……ッん…」
一瞬苦しそうに眉を潜めたが、すぐに元の表情に戻りペニスから出た精子を飲み込んだ。
「ごほっ……ふふ…冬夜のは美味しいな…」
ペニスから口を放すと、いとおしそうにペニスを手で擦る。

「守夜さん…学校行かなきゃ…」
「分かってる…その前にもう一度だけ…」
ベッドへ横になると、自分で足を開き僕を誘うように広げて見せた。

169:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:53:35.17 mMvJOqsr

―結局、その後も三回もしてしまった。

「はぁ…ぁ…はぁ…腰がッ、抜けるかと思った…ッよ…」
「抜けるって……でも、守夜さんエッチしてる時感触は無いんでしょ?別に無理しなくても…」
「無理などしていないさ。冬夜と身体を合わせる事が幸せなんだ。」
そう笑顔で話すと、僕の頬へキスをした。

最近守夜さんの家に泊まる事が多くなってきた。
理由としては、夕食を守夜さんの家で取り一緒に風呂へ入る→エッチ→一緒に風呂→お互い疲れて寝る→起きる→朝早くからエッチ→一緒に風呂→食事→軽くイチャイチャ→学校へ向かう……こんな感じだ。

殆ど同棲状態…それに他の教師も疑い始めている。
生徒からも「先生達、二人で歩いてたよね?」と言われた事がある…。

「守夜さん」
「なんだ?」
「もう少し規則正しい生活してみませんか?」
二人一緒にシャワーを浴びた後、朝食を取っている時に提案してみた。

「規則正しい?例えば?」
「そうですね…例えば初心に戻るとか」
「初心…?」
「えぇ。付き合い始めた頃は僕がこの家にお邪魔して夕食を食べて家に帰っていたじゃないですか?あんな感じですよ」
正直言うと、最近疲れが取れていない気がする。

170:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:54:16.54 mMvJOqsr
一つのベッドに大人二人が寝るとたまに身体の節々が痛いのだ。


「な、なんで突然?何か冬夜の勘に触るような事を私はしたのか?」
「違います、違います。単純にそうしたほうがお互い身体の疲れも取れやすいでしょうし…それに自分の家を毎日空けるっていうのは…」
「で、でも二人で一緒に居た方が何かと便利だし、助け合っていけるじゃないか」
確かに…守夜さんは僕が居た方が何かと便利だろう…だけどそれじゃ僕が何かの理由で居なくなってしまった時、守夜さんはダメになってしまう気がする。

「まぁ、とにかく今日は一度家に帰ります。冷蔵庫の中身も整理しなきゃ。
ごちそうさまでした。遅くなってすいません、美味しかったです」
食事を終え箸を茶碗の上に乗せると、既に食べ終えていた守夜さんの食器と僕の食器を重ね合わせ流し台へと持って行った。


「なぁ…冬夜?」
「ん~?なんですか~?」
食器を洗いカゴの中へと次々入れていく。
食器を洗うのは僕の仕事と決まっているのだ。





「そろそろ…私達も結婚とか…しても…」
食器を洗う手がピタッと止まった。

「結婚…ですか?」

171:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:54:52.39 mMvJOqsr
「うん……二人とも良い歳だろ?それなりのケジメというか……。
それに結婚したらコソコソしなくても堂々と一緒に居られるじゃないか」
確かに…結婚すれば周りからあーだこーだ言われる事は無くなるかも知れない…しかし…。

「う~ん…まだ付き合い出して一年ちょっとですし……結婚は真剣に考えてはいますが、…」
まだ胸を張って守夜さんを幸せにできるかと言われれば…かなり怪しい。
まだまだ若造だし、人生経験も豊富では無い。
それにお互いやりたいことも出てくるかも知れない。

「い、いつかは私と結婚してくれるんだろ?」
「え?そりゃ、この先どうなるかなんて分からないですが、現時点では守夜さんとは将来結婚したいと思っていますよ」
「ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「この先どうなるかって…この先は結婚しかないだろ?
だって二人が愛し合ってるなら遅かれ早かれ結婚に繋がるはずだ。ただ次期の問題なんだろ?私は結婚してくれると約束してくれるならいつまでも待つつもりだ」
洗い物を終えると、タオルで手を拭き守夜さんの元へと向かった。

「そうやって堅苦しく考えてたら疲れますよ?僕が結婚したいと思えば貴女にちゃんとプロポーズしますから。」

172:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:55:18.18 mMvJOqsr
今はこの関係が心地良い…。

「だから今は恋人同士を満喫しましょうよ」
「ん…分かったよ…冬夜を信じる」
守夜さんの頬にキスすると、学校へ行く為に早速スーツへと着替えた。
誰も居ない事を見計らって守夜さんの家を先に出ると、ゆっくりと学校へ向かった。
一緒に家を出て見つかりでもしたらすぐに噂される…。



「お~い!先生~ッ!」
「んっ?おぉ、どうしたんだ?」
前から見覚えのあるイガグリ坊主が走って来た。

浩司だ。

「先生知ってたのか!?」
「はぁ?何が?」
突然現れたと思ったら意味不明な事を口走った。


「今日新しい先生くるんだろ!?」
「……はっ?新しい先生?」
「もう職員室に来てるよ!」
「はぁ?」
そんな話し聞いてないぞ?
何かの間違いじゃないのかと聞き返したが、浩司は学校に行けば分かるの一点張り。
話にならん…どうせからかってドッキリでも仕掛けようとしているのだ。

「先生!」
また目の前から一人走って来た。
今度はメガネが似合う女の子、紗枝だ。

「なんか新しい先生が来てるんだけど!」
「本当か!?」
「ちょっ!?なんで俺の時は信用しなかった癖に紗枝の時は信用するんだよ!!」

173:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:55:45.76 mMvJOqsr
それは日頃の行いの違いとしか言いようが無い。

「こんな場所で何を騒いでるんだ?」
ギャーギャーわめく浩司のイガグリを手で押さえ付けていると、後ろから守夜さんが追い付いてきた。

「あ、藤咲先生おはようございます。
いや…なんか新しい教師が赴任して来たって…」
白々しく守夜さんに挨拶をした。

「おはよう、須賀先生。
新しい教師?あぁ、研修生の事でしょ?数年に一度のペースで学校に新米が研修生として勉強しに来るんだ」
あぁ…そう言う事か…。

「でも僕知らなかったですよ?」
「多分知らない職員は君だけだよ。普通は知らされるモノだから」
なんだそれ?俺は普通じゃないのか?

「とにかく僕達も早く学校へ向かいましょう」
「えぇ、そうね。でもちょっと疲れたから押してくれないか?」
僕の前に車椅子で移動すると、背中を預ける様に車椅子のグリップを差し出した。

「分かりました。それじゃ行きますね」
当たり前の様に車椅子に触れると、そのままゆっくりと車椅子を押して前へと進んだ。

―これは一番大きな進歩だと僕は思っている。

174:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:56:14.03 mMvJOqsr
あれだけ車椅子に触れられる事を嫌っていた守夜さんが、僕に「車椅子を押してくれないか?」と頼んできたのは、僕と守夜が初めて身体の関係を持った翌日の事だった。

なんでも僕には全てを任せる覚悟があるという所を見せたかったらしく、その日ゆっくりとだが学校の校門前まで車椅子を押していった。
それを何度も繰り返し、今では何も言わず僕が車椅子を押しても驚かなくなった。

これは僕に対して安心感を得た証拠なのだろう…純粋に嬉しかった。


「ねぇ、先生なんで最近家に居ないの?」
「あっ、そうだよ!俺達が迎えに行っても全然居ないじゃん!」
僕と守夜さんを挟むように隣を歩いていた二人が疑問をぶつけてきた。

「先生にも友達が出来たんだよ」
「友達って誰だよ?寺のやすしか?この島で一番の美女花子か?」
誰だ寺のやすしって……。
多分コイツらはこの辺一帯の住人の顔を殆ど知っているのだろう…ちなみに花子と言うのはこの島に数頭居る牛の一頭だ。

「お前らは知らないよ…」
「なんか怪しいぞ…まさか……藤咲先生と同棲してるんじゃッ!?」
このハゲはたまに核心を突くから侮れない。

「えっ、嘘でしょ!?先生、本当なの!?」

175:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:01:30.25 mMvJOqsr
浩司の言葉に過剰反応した紗枝が俺の手を掴み必死に問いかけてくる。
この年代は恋愛系の話にかなり敏感だ。

「はは…そんなわy「もし同棲してたらどうするんだ?」
軽く否定しようとすると、横から守夜さんが割り込んで来た。

「ぇ…どうって…え?本当…?」
「は、はははっ、騙されたな紗枝。そんな訳無いじゃないか。藤咲先生も生徒をからかわないでくださいよ~」
笑いながら紗枝の頭を軽く撫でると、守夜さんの車椅子を押して足早に歩き出した。
後ろから二人の愚痴が聞こえてきたが全て無視してやった。


―学校へ到着し、浩司と紗枝と校門前で別れると、早速職員室へと向かった。

「研修生ってどんな人なんですかね?」
「さぁ……あんまり興味無いな」
本当に興味が無いようで、廊下の窓から見える景色をぼんやりと眺めている。
最近分かった事なのだが、守夜さんはあまり人に対して執着したり興味を示したりしない人らしい…。
人と出会っても僕以外は挨拶程度だし、他人に自分から話しかけようとしてる所なんて殆ど見たことが無い。

「おはようございま~す」
ガラガラッと職員室の扉を片手で開け、挨拶をしながら中へと入った。

176:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:01:56.70 mMvJOqsr
「おぉ、おはよう。今日も仲良く出勤だな」
初老の職員が話しかけてきた。

「はは…研修生の方が今日から学校に来るって聞いたんですが、何処ですか?」
軽く流して話をすり替える。

「ん?あぁ、あれだよあれ」
後ろを振り返り軽く指差した。

「女性の方…ですか」
後ろ姿しか見えないのでハッキリとした事は分からないが、見た目は僕より年下に見える。


「あの~…」
「え?あっ、おはようございます!」
後ろから声を掛けると、慌てて振り向き挨拶をしてきた。
僕が使っていいのか分からないが、初々しい。
僕もこの学校に来た時はこんな感じだったのだろうか?
新しいスーツに薄い化粧…髪も黒く誠実そうだ。


「この学校で教師をしています須賀 冬夜です」
「あのっ、今日から研修生として勉強させてもらうことになりました、浜深 唯(はまみ ゆう)です!よろしくお願いします!」
「はは、僕もまだ此処に来て一年過ぎたぐらいだから君とあんまり変わらないよ。一緒に勉強していこうね」
「は、はい!」

お互い頭を下げて、自分のデスクに鞄を置いた。

「あ…そう言えば藤咲先生…あれ…?」
後ろを振り返り守夜さんに声を掛けようとした……。

177:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:02:37.93 mMvJOqsr
しかし既にそこには守夜さんはおらず、自分のデスクへと向かっている最中だった。

(守夜さん、浜深さんに自己紹介したのかな…?まぁ、いいか)
深く考えずに椅子に腰かけた。

「この学校って若い職員の方少ないんですか?」
偶然が分からないが、僕の隣が浜深さんらしい。

「そうだね。僕とあそこに居る藤咲先生ぐらいだよ」
「色々と大変じゃないですか?」
「まぁ、子供達と遊ぶのは完全に僕一人ですからね…初めの頃は筋肉痛続きで嫌になることもありましたが、今は楽しくさせてもらってるよ」
「凄いですねぇ、教師の鏡みたいです!」
「はは、あんまり言わないでね?恥ずかしいから」
同世代だからだろうか?誉められるとかなり恥ずかしい。

そんな感じで軽い雑談をしながら時間を潰していると、職員全てが職員室に集まり、職員朝会が始まった。
皆が立ち上がり校長の話に耳を傾ける。
毎朝の事ながら、30分だけの短い職員朝会が一番眠たくなる。

デスクに片手をつき、ボーっと話を聞いていると校長から浜深さんの話がでた。
もう一度、挨拶と自己紹介をしてもらうそうだ。

カチコチに固まった肩を軽く叩いて、送り出してやる。


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