11/06/11 00:54:02.31 3XtXNWVY
避難所じゃなくて保管庫だ
111:保管庫”管理”人 ◆boay/MlI0U
11/06/12 18:49:25.09 +LakYl85
保管庫を更新しました
大変遅れましてすいませんー
コメントもお返しできずすいませんでした!
>>110
荒らし対策と、あと利便性を考えかなり複雑にリンクを張っているので
更新作業がわりと面倒という点を踏まえ、管理人のみ編集可にしてあります
手伝ってくださる方は保管庫のメールフォームからその旨伝えていただければ、
即刻ID・パスワードを返信しますのでぜひお願いします~
(livedoorIDお持ちの方)
112:保管庫”管理”人 ◆boay/MlI0U
11/06/12 18:56:32.42 +LakYl85
途中送信しました!
(ライブドアIDをお持ちの方はメンバー参加で編集出来ます、パスワードを聞いてもらう方法ではライブドアID取得の必要はありません)
113:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/12 19:12:16.89 PK/bQskF
>>111
ありがとう!お疲れさま。
急かした形になって申し訳ない…。
津波や地震があったから何かあったかと心配した。
114:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/13 01:23:52.88 TsXJXD4I
保管庫の編集方法みたいなページ見たけど一瞬で諦めたわ……
あれをひとりでやってたのか、マジありがとう
115:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 17:55:07.05 PybLy7B+
ぼっきageヽ(`д´)ノ
116:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 22:37:50.01 kDywkpj6
少しでも住人居るんなら見るだけじゃなく一致団結して作品書けよ。
この際リレーでもいいだろ。
117:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 23:42:47.20 kdGiiFwC
保管庫更新乙です
118:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 22:03:53.68 7J/DWhUo
>>116
なら、出だしは任せた
119:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 23:20:08.33 20c0554l
>>118
そうなると誰も書かないよね。
120:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 00:56:08.18 iW507rE/
よし、俺からだ
昔々あるところに、巨乳のおねーさんがいました。
後は任せた!
121:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 01:59:26.74 IAMF0F+U
ある日おねーさんは川へ手淫をしに行きました。
122:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 10:30:55.31 3wH6beIi
その巨乳のお姉さんにはそれはそれは大切な弟が居りまして、毎日のように弟を可愛がっていたのですが…
123:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 23:40:45.42 Omvsarss
弟は貧乳にしか興味を持たない男の子だったのです
そんなある日隣にボーイッシュで貧乳な女の子が引っ越してきました
124:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 23:52:48.98 3wH6beIi
一年近く来てない未完の作品は抹消すべき。
125:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/20 21:57:48.06 vOFaI1OP
まぁ言いたい事は分からんでもないけどな
新しく作品書くとき出だし似てたらパクリとか言われるもんな
こっちだってわざわざ完結した作品ならまだしも未完の作品一つ一つ確認しないし。なら完結してちゃんとした作品にしてから言ってくれと思う
だけど抹消はできない…何故ならその作品の続きを楽しみにしてる人もいっぱいいるからね。
俺も完結しないなら抹消してほしい派だけどねw
126:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/21 07:33:30.93 048W3If3
何なのこいつら
モンスターペアレントじゃないけど、最近は本当に権利拡張型基地外増えたね
127: ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:15:41.77 oiqtNrra
遅くに夢の国投下します。
128:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:16:40.19 oiqtNrra
―これは夢だろうか?
空一面覆う黒い影…太陽の光をすべて遮断し、大地に影を落としている。
「イヤァァァァァァァッ!!!」
逃げ惑う貴族―
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
身を裂かれ血を流し次々に倒れ込む兵士達―
「熱いぃぃ!ぎゃあぁぁぁぁぁぁあ!!」
燃え尽きる神父―
「痛いッ、お母さん!!!」
助けを求める子供達―
「イヤッ、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
助けることすらできず泣き叫けぶ母親―
―逃げ惑う何万という人々。
あれだけ此方へ向けていた人々の殺気も今はまったく感じない。
いや…空から襲い掛かる“者”から逃げる事に必死になっている。
「なんだこれ……ハロルド?ハロルドどこだ!?」
人混みの中、周りを見渡しハロルドを探す。
「ラ、ライトこっちです…ッ!」
人を押し退けフラフラと歩み寄ってくる。
ハロルドも手酷くやられたようだ…。
「これ、どうなってるんだ!?」
「分かりません!ライトが居た場所が光ったと思うと、突然空にアレが…」
ハロルドが身を屈めながら空を見上げた。
同じように空を見上げる。
空から次々と襲い掛かる“者”……あれは間違いない。
129:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:17:33.08 oiqtNrra
「ドラゴン…」
そう……空を覆う影は紛れもなくドラゴンの群れ。
そのドラゴンが次々と逃げ惑う人間に襲いかかっている。
老若男女区別すること無く空から襲い掛かるドラゴン…。
ドラゴンの炎が建物や人間を燃やし、中央広場は大きな火の鳥籠のようになっている。
言わば俺達人間は鳥籠に放り込まれた“餌”だ。
「……ホーキンズ…ホーキンズはどこだ!」
「高台下に行きましょう!」
人の流れに逆いながら前に進む。
その間もドラゴンの一方的な攻撃は止む事なく無力な人間に襲いかかっている。
空から降る火の雨…火に飲み込まれた人間は小さな断末魔をあげると、灰になり消え失せる。
ふと、ティエルが話していた言い伝えが脳裏を過った。
―影が太陽を覆う時、神の怒りが地上に降り注ぐ―
「影が光を遮断…神が怒りを覚えると赤い涙を流す……赤い涙が地上に降り注ぐ…」
「ッ……まさか!これがティエルが言ってた言い伝えなんですか!?」
「分からないが…多分そうだろ」
それしか考えられない。
でも何故突然…。
足元に目を落とすと、砕け散ったクーのペンダントが散らばっていた。
130:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:18:01.40 oiqtNrra
「まさかな……とにかくホーキンズの所…?しゃがめ!」
「え?なっ痛ッ!」
風が舞いハロルドが大きく吹き飛ばされる。俺の前に三体のドラゴンが降り立つ…。
「ライトッ今助けます!」
「俺の事は気にすんな!それよりホーキンズを……いや、アンナさんを今すぐに助けに行け。
ホーキンズの所には俺が行く!」
ボーガンをドラゴンの隙間へ投げると、それをハロルドが両手で抱き締めた。
「分かりました……すぐに戻りますから!!」
険しい表情を保つハロルドが一度此方へ頭を下げると、高台へと走って行った。
高台の上に居たゾグニと騎士団の連中は既に姿を消していた。
多分、逃げたのだろう…。
だからハロルドを行かせたのだ。
それに早くアンナさんを助けないと、高台にドラゴンの炎が飛び移っている。
「悪いけど、俺はお前達より数倍大きなドラゴンと一度対峙してるんだよ。お前らを見てすべての人間が逃げ惑うと思うなよ?」
隙間からハロルドを見送ると、刃こぼれした剣で三匹のドラゴンと対峙する。
ドラグノグより小さいと言っても、俺より遥かに大きい…だが、ドラグノグの時のような絶望感は無い。
「…ん?な、なんだ?」
131:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:18:25.34 oiqtNrra
此方へ向いていたドラゴン達がくるっと俺に背中を向けると、周りに居る兵士達を襲いだした。
「……」
次々にドラゴンの餌食となっていく兵士達…一瞬助けようかと迷ったが、助ける人間を間違えてはいけない。
立ちはだかってきたドラゴンの横をすり抜け高台下へと目指す。
「賊を捕まえろ!メノウ様の居場所をッぐぁあッ!!」
「逃がすな!追え!捕まッぎゃああああああ!!!」
「はぁ、はぁ、(なんだ?何かおかしいぞ?)」
「逃がすな!アイツを生け捕りにッ?ヒィィィィッ!?」
「はぁ、はぁ、なっ、んだよこれッ」
敵兵の群れの中を走り抜け高台下へたどり着くと、息を整え後ろを振り向いた。
俺の前には先ほどの三体のドラゴンと、別のドラゴンが数体立ちはだかっていた。
―いや。
―俺を守るようにドラゴン達が俺に背を向け兵士達と対峙していた。
「なんで俺を襲ってこないんだ?」
走ってる途中…いや、ドラゴンが姿を表してから俺は一度もドラゴンから攻撃を受けていない。
それどころか俺の周りを守るように兵士や民間人の接触を炎と爪で断っている。
「ホーキンズどこだ!ホーキンズ!ホーキンズッ!!」
132:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:18:50.07 oiqtNrra
しかし今はそんなこと考えてる場合じゃない。
早くホーキンズを探さないと…。
「……ホーキンズ!」
居た…高台の端に倒れている。
走り寄りゆっくりとホーキンズを抱き起こすと、うぅっと小さなうめき声が聞こえた。
「ッ……大丈夫だ。
今すぐ助けてやるからな。店もほったらかしてるから…早く開かないと、村の皆も困るだろ?俺もハロルドも手伝うから」
崩れ落ちそうなホーキンズ身体を支えると耳元で小さく囁いた…。数年間騎士団の団員として過ごして来たので人の怪我は何度も見てきた……だから分かる。
―ホーキンズはもう助からない…。
「…ぁ…ぅぁ…ぁ…」
ホーキンズの血の溜まった口が痛々しく開くと、小さく言葉にならない言葉を発した。
「あぁ…わかった…わかってるよ…うん…」
ホーキンズの口に耳を近づけ、大きくうなずく。
「……ぅあ…あ…ぃ…」
「……うん゛…う゛ん…ッ…分がっ…だよ…ッやぐそく…ッずる…」
自然と溢れ落ちる涙が、ぽたぽたとホーキンズの頬を濡らしていく。
「…な…な…ょ…」
「う゛ん…ッながない゛…ッ…」
目を擦り涙を拭うと、再度ホーキンズの目に視線を向けた。
133:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:19:13.67 oiqtNrra
―もう目が見えていないのだろう…ホーキンズの眼球は一点の空気を見つめたまま、微動だにしない。
「……」
「はは…なに笑ってんだよおま…………ホーキンズ?おい……ホーキンy「ライト無事でしたか!」
高台の階段からハロルドが降りてきた。
背中にはアンナさんを抱えている。
「……アンナさんは」
ゆっくりとホーキンズを地面に横たわらせると、身体に布を被せて立ち上がる…。
「大丈夫です。気絶してるだけですから…それよりホーキンズは…」
ハロルドの問い掛けに対して小さく首を横に振って答える。
険しかったハロルドの顔が少しずつ歪んでいくと、大粒の涙が目から落ちた。
分かっていたこと…ゾグニに刺された瞬間ホーキンズは助からない…分かっていたことなのに……。
「…なんとか助けられないんですか?」
どうしても諦められない―大切な親友だから。
「無理だ…刺された傷と拷問の傷が酷すぎる。もう……手の施しようが無い…」
「ティエルなら…ティエルならなんとか!」
「無理なんだよ!」
「なんでですか!!!」
「ティエルでも死んだ人間を生き返らせる事はできねーんだよ!!!」
134:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:19:51.58 oiqtNrra
ホーキンズを指差し声を荒げる。
俺が指差す場所にはもう……息をしていないホーキンズの亡骸が横たわっているだけだった。
「助けるってッ!俺に任せろって言ったじゃないですかぁ!」
アンナさんを地面へ落とすと俺に掴み掛かってきた。
「一緒に帰ってッ、一緒に帰ってホーキンズのパン屋を手伝うって!ホーキンズのパンが食べたいって!そう言ったじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「うるせぇよ!俺だってそうだ!!ずっと一緒だったんだぞ!?お前やティエルなんか比べ物にならないぐらいずっと一緒にいたんだ!!!」
―これからもずっと一緒だと思ってた。
ユードを出ていってしまったけど、いつもユードに戻ればホーキンズがパンを焼いて待っていてくれるとずっと信じていたんだ。
「お前に何が分かるんだよ!ホーキンズは俺の家族だ!!」
お互い母親と父親がいない俺達は兄弟だ。
絶対に離れない絆があるんだ―。
だから―
「だからホーキンズを助けてくれよハロルドォォォォォ!!!」
ハロルドの胸にしがみつき泣き叫んだ。
俺だってホーキンズが居なくなるなんて考えられない。
だけどもう笑って喋るホーキンズは居ないんだ…。
135:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:20:19.68 oiqtNrra
パンを焼くホーキンズもいないんだ…。
「やめなさい!」
「うぅ……ア、アンナさん…」
いつの間にか気絶していたアンナさんがホーキンズが居る場所まで移動していた。
「…ホーキンズ」
アンナさんが首に手を回して抱き起こす…が、ホーキンズは無反応。
そりゃそうだ…ホーキンズはもう…。
「うん?…うん…わかってる…大丈夫よ…あなたは私達を守ってくれたわ」
突然アンナさんがホーキンズの口に耳をあて、頷きはじめた。
突然の事にハロルドと胸ぐらを掴み合った状態で固まる。
ホーキンズの死で頭がおかしくなったのかと思ったがアンナさんの目はしっかりと光が灯っていた。
「うん…そうね…。大丈夫…私も愛してるわ…一緒に帰りましょう」
ホーキンズの口にキスをすると、ゆっくり此方へ目を向けた。
その目は聖母を想像させるほど、穏やかだった。
「……帰りましょう…ユードへ」
この瞬間、周りに響き渡っていた悲鳴が沈黙へと変わった。
周りを見渡すと、燃え盛る民家と死体の山だけが無惨にも残されていた。
空を見上げてみる…。
いつの間にかドラゴンの群れは綺麗に消えていた。
太陽の光が真っ赤に染まった地を照らしている…。
136:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:21:07.98 oiqtNrra
「……あいつは…」
太陽の光に影が一つ…。
「ドラグノグ…」
鉄よりも硬い真っ赤な鱗を身に纏い優雅に空を飛んでいる。
ドラグノグ居たのか……しかしこう見ると、やはり先ほど群れを成していたドラゴン達とは風格も体格も違う。
今襲われたら間違いなくこの都市は完全に崩壊する…だが、空を飛んでいるだけで攻撃してくる気配は無さそうだ。
「アンナさん…港へ降りましょう。ホーキンズは俺が抱えますんで」
「えぇ…お願い…」
アンナさんに抱き抱えられているホーキンズを受け取りおんぶすると、死体で埋め尽くされた広場を歩き出した。
死体に躓かないように、足元を見ながら歩く。
「…」
女……子供……赤ちゃん……兵士…。
一人一人の死体と目が合う。
その度胃液が喉まで上がるが、それを我慢して飲み込んだ。
数十分…ほんの数十分であれだけ活気があった都市が死滅したのだ。
後ろを振り返り、バレン城へと目を向ける…。
被害がかなり大きく全壊と言っても過言では無いかもしれない。
国としてはもう再起不能だろう…。
王が民を捨て逃げたのだ…この国にはもうゾグニの居場所は無い。
「…魔王様……魔王様が降臨なされたぞぉ!!!」
137:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:21:39.06 oiqtNrra
一人の老人が突然両手を重ね天高く突き上げた。
魔王様?頭をやられたのだろうか?
この老人も怪我を見る限りもう助からない。
「魔王様の怒りが我々に裁きをあたえたのだ!!魔王様の歩む道を拒む者を消すんじゃ!」
ヨロヨロと俺の足元へたどり着くと、目の前にある死体を一体引きずり俺の前から取り除いた。
「魔王様…魔王様!」
「我々に…慈悲…を…」
それが切っ掛けとなり、次々と続く者達が現れた。
「な、なんですかこれ…」
「さぁな…俺が魔王だってよ…はは」
頭を地面に擦り付け慈悲を乞う老人を無視して歩き出す。
歩く先々、傷だらけの者達が死体を取り除き頭を地面に擦り付ける。
正直胸くそ悪かった…コイツらは完全なる敵だ。
敵から突然崇められても俺はコイツらの神になるつもりは無い。
勝手に滅べばいいのだ。
何とか広場を抜けると、足早に港へと向かった。
「…どこも死体だらけですね」
「あぁ…多分町に居た兵士はほぼ全滅だろうな…」
幸か不幸か兵士の半数近くが俺達討伐の為にこの国を離れているはずだ。
その兵士達は助かったと思う…しかし…。
「……ゾグニ…」
あいつだけは俺の手で殺したかった…。
138:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:22:04.76 oiqtNrra
何をされても……蔑まれようとも…。
悪魔になろうとも…。
「港につき……………酷い有り様ですね…」
港に到着するとまず始めに目についたのは、やはり死体の山だった。
沖に数隻船が出ているが、すべて燃えている。
逃げようとした船だろうか…。
港に停泊している船もすべて全壊していた。
ふと、港の端にある倉が視界に入った。
倉の前に一体のドラゴン…あそこは確かメノウ達が隠れている場所。
「おい、皆居るのか!?」
少し離れた場所から問いかけてみる。
ティエルに俺の声が届いていればすでに森へと逃げているはずなのだが…
俺の声が届いたのか倉の隙間からひょこっとクーが顔を出した。
「お前ら逃げてなかったのか!?てゆうか早く此方に来い!」
目の前に居るドラゴンが見えないのか、クーは無防備のままメノウの手を引き此方へ歩み寄ってきた。
「―ねてる?」
此方へと到着すると、クーはメノウの手を離し俺が担いでるホーキンズに顔を近づけた。
「……あぁ…ちょっと疲れたから寝てるんだ…イタズラすんなよ?
それよりあのドラゴン…なんなんだ?」
やはりあのドラゴンも我々に危害を加える気配を感じさせない。
139:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:22:33.03 oiqtNrra
「聖物達はライト……貴方が呼び寄せたのよ」
クーの頭に乗っかるティエルが空を見上げて呟いた。
先ほどからドラグノグが俺達を見ながらずっとついてきている…。
「ティル・ナ・ノーグってしってる?」
「なんだそれ?」
「聞いたことあります……核戦争が起こるよりも遥か昔…6000年前に世界でも数少ない“楽園”と呼ばれる地が存在したとか……一部の人の間では“常若の国”と言われていたそうです。
たしか妖精最後の生存地と言われていましたよ。
神族の母と崇められる女神ダヌに見守られた聖地であると…たしか妖精ディーナ・シーもそこに住んでいるそうですが…」
ハロルドが意味深に首を傾げて話し出した。
神族の母?女神ダヌ?また宗教臭い話しなのか…。
でも妖精ディーナ・シーは聞いたことがある。
何を隠そうティーナはそのディーナ・シーから名前を頂いたそうだ。
ティーナのお母さんが妖精のように可愛くなるようにつけたらしいが……。
「存在って言うか今でも存在するわよ?貴方達生物体の母神である女神ダヌを守る守護獣として産まれたのがドラグノグ………ちなみにドラグノグの“ノグ”はその地名からきてるのよ?」
140:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:24:15.27 oiqtNrra
「へぇ…お前ら物知りだな」
「てゆうか聞いたこと無いの?これもかなり有名な神話の一つよ?」
そんなに有名な話しなのか…生憎俺は夢の国と言われたエンジェルランドしか知らない。
「ドラグノグは女神ダヌが産み出したドラゴンの中で一番古い聖物になるの…貴方が壊したあの丸い結晶はドラグノグの瞳よ」
瞳?そう言えばティエルがそんなこと呟いていたような…
「でも何故俺がドラゴンを呼び寄せた事に繋がるんだ?俺はただ投げて割っただけだぞ?」
別に宗教染みた事は何一つしていないはずだ。
「あの瞳はね…持っている者の憎悪が大きくなるにつれて光が増すのよ…」
「そうなのか?」
確かに強く光っている時、俺の頭の中は憎悪で埋め尽くされていたかもしれない…クーに反応せずハロルドや俺に反応したのはそう言う事だったのか。
「そしてその憎悪を覆う欲……血が渦巻く時…結晶となったドラグノグの瞳を割ると、瞳は主人の代わりに血の涙を流すの…」
血の涙?そう言えば俺がペンダントを割った時光と同時に赤い何が溢れた気がする。
「それを感じたドラゴン達は、仲間の危機と感じ、割れた瞳へと集まる……いえ…割った“主人”である者の元へと集うのよ」
141:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:26:18.40 oiqtNrra
割った主人…俺の事か…。
「聖物達がライト達を攻撃せず、守る対象に選んだのはそう言うことよ……貴方は今、ドラグノグと対等に話せる唯一の人間って事ね…まぁ、対等って言ってもドラグノグと横に並んだ訳じゃないから勘違いしないでよ?
ライトなんか一瞬で殺されちゃうから」
「んなことわかってるよ…それに俺は一度こっぴどくやられてるからな…もうごめんだ」
それより…これからどうするかだ…。
船はすべて潰された…これでは脱出できない。
それに船ではすぐ追手に追い付かれてしまうだろう…。
「そう言えば…確かティーナがこの国に来たのは空飛ぶ船に乗ってきたって言ってたな」
そんなもの存在するかかなり怪しいが、ティーナが嘘つくとは思えないし…。
「……おい、おまえ」
「ひっ、ひぃ!?」
血を流し横たわる兵士に声をかける。
目を見開き俺を見上げると、傷だらけの体を引きずりながら逃げようとした。
「お前に聞きたい事がある…空を飛ぶ船ってなんだ?」
「そ、空を…ひ、飛行船です!その倉の中に飛行船が数隻あります!それの事だとッひぃ!?」
胸ぐらを掴み無理矢理立たせる。
「寝てるお前達も来い!ドラゴンの餌にするぞ!」
142:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:27:35.59 oiqtNrra
俺の声に死んだフリをしていた兵士が数人慌てて立ち上がる。
立ち上がらない他の兵士は本当に死んでいるようだ。
倉を兵士達に開けさせ中へと入る。
「これが飛行船…」
倉の中には人が数十人乗れるであろう船があった。
ただの船に見えるが…普通の船ではなさそうだ。
それに思ったより小さい気がする…。
「この他に飛行船は無いのか?」
「お、大きい飛行船はすべて他国の来客達を送る為に出払ってます…バレン城にも数十隻ありますが…多分すべて…」
ドラゴンが潰した…か…。
確かにバレン城があの状態ではかなり高い確率で破壊されているだろう。
バレン城まで戻る時間を考えればこの飛行船しか無いか…。
「よし…ならすぐに飛べるようにしろ。変なことを考えるなよ?ドラゴンの力をかりなくてもお前らぐらいなら片手でも余裕なんだからよ」
剣を腰から引き抜き目の前の兵士へと向けた。
「た、助けてください!貴方様には決して逆らいません!私達は貴方様の下僕…どうか命だけは」
震える体を隠す素振りすら見せず地面に頭を擦り付ける。
「…さっさとやれ」
兵士達の言葉を無視し、踵を返して倉の外へと出た。
これでやっとホーキンズを帰してやれる…。
143:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:28:03.59 oiqtNrra
バレン王国―世界屈指の大都市であり、世界一の軍事力を誇る強国。
その強国が一時間足らずで壊滅的な被害を受けた。
呆気ない…本当に呆気ない…人間が作るモノはここまで弱いモノなのか。
「…もうすぐ帰れますね…」
ハロルドが後ろから歩み寄ってきた。
「あぁ…そうだな」
海を眺め思うのは、故郷ユードの花畑。
この大海の向こう側にユードがある…見えないけど海を眺めていると落ち着く。
ユードの花畑から見た海とは雲泥の差だが、海は海だ。
母なる世界の海は全ての大陸に繋がっている―。
「ハロルド…」
「なんですか?」
ハロルドの顔を見る事なくホーキンズを手渡した。
安らかに眠るホーキンズの顔を目に焼き付け再度海に目をむけ呟いた。
「……俺は一緒に帰れない」
「……は?な、何を言っているのですか!?」
一瞬呆気に取られたハロルドが我を取り戻し声を荒らげた。
「俺は顔を知られ過ぎた…この国のヤツらは俺がドラゴンを使って攻撃したと思っているだろう…いや、実際そうだ」
無意識にせよ兵士平民貴族すべてを敵だと判断したのは紛れもなく俺自身だ。
「だからなんですか!?貴方は一つも間違った事などしてません!」
144:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:30:17.38 oiqtNrra
「そう言う問題じゃない…俺がこの船に乗りノクタールへ戻れば必ず他国と戦争が起きる。
ノクタールがバレンを滅ぼしたって図は絶対に作っちゃいけないんだ」
その図を作ればユードだってただじゃすまない。
「そんな…」
「それにな…ノクタールで俺を待ってる女も居るんだ…もうすぐ子供も産まれる……だから…俺がノクタールへ戻らない事がその女と子供を守る事に繋がるんだよ」
自分のエゴかもしれない…だけど事が大きくなりすぎた今、俺ができる事はただ一つ。
「ライト…貴方まさか…」
「……平民から世界一の騎士団員になり、初代騎士団長しか成し得なかったドラゴン殺しの名誉を受け英雄になり、騎士団福長になって仲間を助ける為に旅人になり……最果ての地で魔王になる。
筋書きではかなり良い物語じゃねーか?」
おどけたように笑うと、アンナさんと一緒に居るメノウに近づいた。
俺が近づくとアンナさんから離れてメノウから歩み寄ってきた。
「メノウ…お前はこの船に乗れないんだ」
「メノウ乗れないの…?なんで?」
「お前は魔王の人質になるからだ」
「魔王ってだれ?」
「俺だよ俺」
もうこれしか方法が無い。
皆を助ける方法はこれしか…。
145:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:30:44.10 oiqtNrra
「アンナさん…ホーキンズをよろしくお願いします」
アンナさんに一度大きく頭を下げると、倉の裏に繋いでいた馬にメノウを乗せて一緒に股がった。
「待ってください!」
走り出そうとする馬の前に立ち塞がるハロルド。
その目は今まで見てきたハロルドの目とはまったく違った。
「ホーキンズとアンナさんは僕が責任を持ってユードまで守ります…ですから…」
「あぁ…わかってるよ…またな」
「―」
「クー…肩車の約束なんだけど…また今度でいいか?」
「―クーもライトといっしょにいく―」
「…ダメだ…クーは皆を守ってくれ…」
本当の所クーを早くシェダの元へと帰してやりたかった。
シェダも心配しているはずだ、これ以上危険な目に合わせる事はできない。
「―いや―クーも―いく―」
「クー…そうだ…それじゃもう一つ何か約束しようか?」
「―」
「何がいい?」
「――また―クーに―いっぱい―おしえてほしい―」
「……分かった。約束だ」
馬の上からクーの頭を軽く撫でると、兵士達に目を向けた。
明らかに怯えた目……コイツらには俺が悪魔にでも見えているのだろうか?
146:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/06/22 02:31:30.59 oiqtNrra
「お前達…此処に居る者を安全に東大陸まで送り届けろよ。もし何かあったら…」
「わ、わかりました!命に換えても送り届けます!!」
倉の中に居た兵士達が皆声を揃えた。
これなら大丈夫そうだ…。
「メノウ…ライトの言う事ちゃんと聞くのよ?あとこれ…御守り」
メノウの手に布で作った手作りの小さな御守りを握らせた。
「ありがとうお姉ちゃん!またアップルパイ作ってね!」
「……えぇ…元気でね」
アップルパイという言葉に一瞬アンナさんの目に涙が溜まった…アンナさんも分かっているのだろう……もうメノウとは会えない事に。
「それじゃ行くわよ!!此処から私の力を存分に見せつけてやるんだから!!」
「……おい…お前は話聞いてたのか?」
俺の頭で小さな棒を振り回すティエルに問い掛けた。
「私は私の行きたい場所に行くの!!ライトがなんて言おうと私も行くわよ!」
馬の頭に飛び乗ると元気よく棒をかざして将軍を気取った。
これは何を言ってもダメだな…。
「はは……なら心強いな…んじゃ行くか…メノウ舌噛むなよ?」
「うん!」
「進め進め~!」
―目指すはメノウの故郷―水に愛された都市、雪原大陸フォルグ王国だ。
147:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 02:33:09.23 oiqtNrra
ありがとうございました、夢の国投下終了です。
次は夜と闇投下させてもらいます。
148:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 05:54:54.81 mTeKv/cH
あーくそ、ややこしくなって頭がこんがらがってきやがった
149:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 12:12:19.54 8RlJrdJ7
>>147
「夜と闇」投下告知!
「夢の国」も良いけど、こっちの方がツボなんでwktkしながら待ってます!
150:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 21:26:02.02 aMrQfQzg
俺は夢の国が好きだああああああああああああああああああああああああああああああ
これでまたしばらく頑張れる
151:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 22:58:12.44 ihBSk1GT
GJ
夜と闇期待
152:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/23 10:06:33.90 8Xcwzfe/
おおおお!!GJ
しかしティーナはどこまでも報われないな・・・
153:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/23 23:21:35.97 W6yJAeBd
ってか夢の国の作者さんの精神力やばくね?
よく放置せず書き続けられるよな…クオリティもめっちゃ高いし…
まぁ何が言いたいかって言うと…ホーキンズぅぅぅぅううぅぅ…
あとティーナを幸せにしてくれ…
ライトに妊娠を告白したシーン読み返したんだが…可愛すぎるだろ…
これからも応援してます!
154:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 00:09:45.68 IBBWlyBM
最近エロパロ板に夢の国が投下されてるか見に来るのが日課になってる。
155:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 07:11:23.98 hN6mC83z
俺はメノウ派
続き楽しみにしてますぜぃ
156:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 12:07:39.30 EBIjnhrS
保管庫トップにコメしたやつまじやめろ
管理人さんに迷惑かけないで
157:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 13:13:48.57 k00A2oir
保管庫更新感謝
158:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 01:02:04.09 7Keed4ZT
ていうかまさか俺らがこのスレに依存しているんじゃ・・・
159: 忍法帖【Lv=23,xxxPT】
11/06/25 02:02:57.25 YjaoAEZT
>>158
何を今更
160:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 04:17:21.36 68ZKGf2/
>>158
ここの住人達は、それこそ初代から依存しっぱなしだぜ?
161:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 12:20:03.11 ARKzBuCz
>>127
投下GJ!!
たまらん
162:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/25 14:46:59.42 68ZKGf2/
>>127
あれれ。。。ホー…キンズ……orz
163:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/27 18:25:30.55 1ZTKuXBd
夜と闇もまってりゅううううううう
164:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/27 20:11:58.00 ZOZk9lu7
保管庫さん乙!
165:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/28 01:02:28.13 pILZRmpw
このスレは最高だ
166:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 23:17:34.05 ++goOpLB
保守保守
167: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:52:27.92 mMvJOqsr
夜と闇、投下させてもらいます。
168:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:53:04.73 mMvJOqsr
この島に来て一年と数ヶ月が過ぎ、守夜さん以外に数人ではあるが顔見知りもできた。
島生活を堪能する暇も無く、慌ただしく暮らしてきた生活も今は穏やかだ。
楽しく、暮らしている。
教師業も板に付き、余裕を持って生徒達と向き合えるようになった。
そして守夜さんとも……。
「ちゅ…む…ッあむ……っはぁ…どうだ?気持ちいいか?」
「は、はい…ッ」
守夜さんの口と僕のペニスがいやらしく糸を引く。
僕の返事に心良くしたのか、そうか…と呟くと再度ペニスを小さな口で頬張った。
頭を上下に揺らし、チュポチュパッと水を含んだ音を鳴らしながら舐めたり吸ったりと忙しそうに動いている。
「守夜さん…ッ…出ます!」
守夜さんの頭を軽く掴み、喉の奥へとペニスを差し込んだ。
「うっごッ…ぁ……ッん…」
一瞬苦しそうに眉を潜めたが、すぐに元の表情に戻りペニスから出た精子を飲み込んだ。
「ごほっ……ふふ…冬夜のは美味しいな…」
ペニスから口を放すと、いとおしそうにペニスを手で擦る。
「守夜さん…学校行かなきゃ…」
「分かってる…その前にもう一度だけ…」
ベッドへ横になると、自分で足を開き僕を誘うように広げて見せた。
169:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:53:35.17 mMvJOqsr
―結局、その後も三回もしてしまった。
「はぁ…ぁ…はぁ…腰がッ、抜けるかと思った…ッよ…」
「抜けるって……でも、守夜さんエッチしてる時感触は無いんでしょ?別に無理しなくても…」
「無理などしていないさ。冬夜と身体を合わせる事が幸せなんだ。」
そう笑顔で話すと、僕の頬へキスをした。
最近守夜さんの家に泊まる事が多くなってきた。
理由としては、夕食を守夜さんの家で取り一緒に風呂へ入る→エッチ→一緒に風呂→お互い疲れて寝る→起きる→朝早くからエッチ→一緒に風呂→食事→軽くイチャイチャ→学校へ向かう……こんな感じだ。
殆ど同棲状態…それに他の教師も疑い始めている。
生徒からも「先生達、二人で歩いてたよね?」と言われた事がある…。
「守夜さん」
「なんだ?」
「もう少し規則正しい生活してみませんか?」
二人一緒にシャワーを浴びた後、朝食を取っている時に提案してみた。
「規則正しい?例えば?」
「そうですね…例えば初心に戻るとか」
「初心…?」
「えぇ。付き合い始めた頃は僕がこの家にお邪魔して夕食を食べて家に帰っていたじゃないですか?あんな感じですよ」
正直言うと、最近疲れが取れていない気がする。
170:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:54:16.54 mMvJOqsr
一つのベッドに大人二人が寝るとたまに身体の節々が痛いのだ。
「な、なんで突然?何か冬夜の勘に触るような事を私はしたのか?」
「違います、違います。単純にそうしたほうがお互い身体の疲れも取れやすいでしょうし…それに自分の家を毎日空けるっていうのは…」
「で、でも二人で一緒に居た方が何かと便利だし、助け合っていけるじゃないか」
確かに…守夜さんは僕が居た方が何かと便利だろう…だけどそれじゃ僕が何かの理由で居なくなってしまった時、守夜さんはダメになってしまう気がする。
「まぁ、とにかく今日は一度家に帰ります。冷蔵庫の中身も整理しなきゃ。
ごちそうさまでした。遅くなってすいません、美味しかったです」
食事を終え箸を茶碗の上に乗せると、既に食べ終えていた守夜さんの食器と僕の食器を重ね合わせ流し台へと持って行った。
「なぁ…冬夜?」
「ん~?なんですか~?」
食器を洗いカゴの中へと次々入れていく。
食器を洗うのは僕の仕事と決まっているのだ。
「そろそろ…私達も結婚とか…しても…」
食器を洗う手がピタッと止まった。
「結婚…ですか?」
171:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:54:52.39 mMvJOqsr
「うん……二人とも良い歳だろ?それなりのケジメというか……。
それに結婚したらコソコソしなくても堂々と一緒に居られるじゃないか」
確かに…結婚すれば周りからあーだこーだ言われる事は無くなるかも知れない…しかし…。
「う~ん…まだ付き合い出して一年ちょっとですし……結婚は真剣に考えてはいますが、…」
まだ胸を張って守夜さんを幸せにできるかと言われれば…かなり怪しい。
まだまだ若造だし、人生経験も豊富では無い。
それにお互いやりたいことも出てくるかも知れない。
「い、いつかは私と結婚してくれるんだろ?」
「え?そりゃ、この先どうなるかなんて分からないですが、現時点では守夜さんとは将来結婚したいと思っていますよ」
「ちょっと待ってくれ」
「はい?」
「この先どうなるかって…この先は結婚しかないだろ?
だって二人が愛し合ってるなら遅かれ早かれ結婚に繋がるはずだ。ただ次期の問題なんだろ?私は結婚してくれると約束してくれるならいつまでも待つつもりだ」
洗い物を終えると、タオルで手を拭き守夜さんの元へと向かった。
「そうやって堅苦しく考えてたら疲れますよ?僕が結婚したいと思えば貴女にちゃんとプロポーズしますから。」
172:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:55:18.18 mMvJOqsr
今はこの関係が心地良い…。
「だから今は恋人同士を満喫しましょうよ」
「ん…分かったよ…冬夜を信じる」
守夜さんの頬にキスすると、学校へ行く為に早速スーツへと着替えた。
誰も居ない事を見計らって守夜さんの家を先に出ると、ゆっくりと学校へ向かった。
一緒に家を出て見つかりでもしたらすぐに噂される…。
「お~い!先生~ッ!」
「んっ?おぉ、どうしたんだ?」
前から見覚えのあるイガグリ坊主が走って来た。
浩司だ。
「先生知ってたのか!?」
「はぁ?何が?」
突然現れたと思ったら意味不明な事を口走った。
「今日新しい先生くるんだろ!?」
「……はっ?新しい先生?」
「もう職員室に来てるよ!」
「はぁ?」
そんな話し聞いてないぞ?
何かの間違いじゃないのかと聞き返したが、浩司は学校に行けば分かるの一点張り。
話にならん…どうせからかってドッキリでも仕掛けようとしているのだ。
「先生!」
また目の前から一人走って来た。
今度はメガネが似合う女の子、紗枝だ。
「なんか新しい先生が来てるんだけど!」
「本当か!?」
「ちょっ!?なんで俺の時は信用しなかった癖に紗枝の時は信用するんだよ!!」
173:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:55:45.76 mMvJOqsr
それは日頃の行いの違いとしか言いようが無い。
「こんな場所で何を騒いでるんだ?」
ギャーギャーわめく浩司のイガグリを手で押さえ付けていると、後ろから守夜さんが追い付いてきた。
「あ、藤咲先生おはようございます。
いや…なんか新しい教師が赴任して来たって…」
白々しく守夜さんに挨拶をした。
「おはよう、須賀先生。
新しい教師?あぁ、研修生の事でしょ?数年に一度のペースで学校に新米が研修生として勉強しに来るんだ」
あぁ…そう言う事か…。
「でも僕知らなかったですよ?」
「多分知らない職員は君だけだよ。普通は知らされるモノだから」
なんだそれ?俺は普通じゃないのか?
「とにかく僕達も早く学校へ向かいましょう」
「えぇ、そうね。でもちょっと疲れたから押してくれないか?」
僕の前に車椅子で移動すると、背中を預ける様に車椅子のグリップを差し出した。
「分かりました。それじゃ行きますね」
当たり前の様に車椅子に触れると、そのままゆっくりと車椅子を押して前へと進んだ。
―これは一番大きな進歩だと僕は思っている。
174:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 20:56:14.03 mMvJOqsr
あれだけ車椅子に触れられる事を嫌っていた守夜さんが、僕に「車椅子を押してくれないか?」と頼んできたのは、僕と守夜が初めて身体の関係を持った翌日の事だった。
なんでも僕には全てを任せる覚悟があるという所を見せたかったらしく、その日ゆっくりとだが学校の校門前まで車椅子を押していった。
それを何度も繰り返し、今では何も言わず僕が車椅子を押しても驚かなくなった。
これは僕に対して安心感を得た証拠なのだろう…純粋に嬉しかった。
「ねぇ、先生なんで最近家に居ないの?」
「あっ、そうだよ!俺達が迎えに行っても全然居ないじゃん!」
僕と守夜さんを挟むように隣を歩いていた二人が疑問をぶつけてきた。
「先生にも友達が出来たんだよ」
「友達って誰だよ?寺のやすしか?この島で一番の美女花子か?」
誰だ寺のやすしって……。
多分コイツらはこの辺一帯の住人の顔を殆ど知っているのだろう…ちなみに花子と言うのはこの島に数頭居る牛の一頭だ。
「お前らは知らないよ…」
「なんか怪しいぞ…まさか……藤咲先生と同棲してるんじゃッ!?」
このハゲはたまに核心を突くから侮れない。
「えっ、嘘でしょ!?先生、本当なの!?」
175:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:01:30.25 mMvJOqsr
浩司の言葉に過剰反応した紗枝が俺の手を掴み必死に問いかけてくる。
この年代は恋愛系の話にかなり敏感だ。
「はは…そんなわy「もし同棲してたらどうするんだ?」
軽く否定しようとすると、横から守夜さんが割り込んで来た。
「ぇ…どうって…え?本当…?」
「は、はははっ、騙されたな紗枝。そんな訳無いじゃないか。藤咲先生も生徒をからかわないでくださいよ~」
笑いながら紗枝の頭を軽く撫でると、守夜さんの車椅子を押して足早に歩き出した。
後ろから二人の愚痴が聞こえてきたが全て無視してやった。
―学校へ到着し、浩司と紗枝と校門前で別れると、早速職員室へと向かった。
「研修生ってどんな人なんですかね?」
「さぁ……あんまり興味無いな」
本当に興味が無いようで、廊下の窓から見える景色をぼんやりと眺めている。
最近分かった事なのだが、守夜さんはあまり人に対して執着したり興味を示したりしない人らしい…。
人と出会っても僕以外は挨拶程度だし、他人に自分から話しかけようとしてる所なんて殆ど見たことが無い。
「おはようございま~す」
ガラガラッと職員室の扉を片手で開け、挨拶をしながら中へと入った。
176:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:01:56.70 mMvJOqsr
「おぉ、おはよう。今日も仲良く出勤だな」
初老の職員が話しかけてきた。
「はは…研修生の方が今日から学校に来るって聞いたんですが、何処ですか?」
軽く流して話をすり替える。
「ん?あぁ、あれだよあれ」
後ろを振り返り軽く指差した。
「女性の方…ですか」
後ろ姿しか見えないのでハッキリとした事は分からないが、見た目は僕より年下に見える。
「あの~…」
「え?あっ、おはようございます!」
後ろから声を掛けると、慌てて振り向き挨拶をしてきた。
僕が使っていいのか分からないが、初々しい。
僕もこの学校に来た時はこんな感じだったのだろうか?
新しいスーツに薄い化粧…髪も黒く誠実そうだ。
「この学校で教師をしています須賀 冬夜です」
「あのっ、今日から研修生として勉強させてもらうことになりました、浜深 唯(はまみ ゆう)です!よろしくお願いします!」
「はは、僕もまだ此処に来て一年過ぎたぐらいだから君とあんまり変わらないよ。一緒に勉強していこうね」
「は、はい!」
お互い頭を下げて、自分のデスクに鞄を置いた。
「あ…そう言えば藤咲先生…あれ…?」
後ろを振り返り守夜さんに声を掛けようとした……。
177:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:02:37.93 mMvJOqsr
しかし既にそこには守夜さんはおらず、自分のデスクへと向かっている最中だった。
(守夜さん、浜深さんに自己紹介したのかな…?まぁ、いいか)
深く考えずに椅子に腰かけた。
「この学校って若い職員の方少ないんですか?」
偶然が分からないが、僕の隣が浜深さんらしい。
「そうだね。僕とあそこに居る藤咲先生ぐらいだよ」
「色々と大変じゃないですか?」
「まぁ、子供達と遊ぶのは完全に僕一人ですからね…初めの頃は筋肉痛続きで嫌になることもありましたが、今は楽しくさせてもらってるよ」
「凄いですねぇ、教師の鏡みたいです!」
「はは、あんまり言わないでね?恥ずかしいから」
同世代だからだろうか?誉められるとかなり恥ずかしい。
そんな感じで軽い雑談をしながら時間を潰していると、職員全てが職員室に集まり、職員朝会が始まった。
皆が立ち上がり校長の話に耳を傾ける。
毎朝の事ながら、30分だけの短い職員朝会が一番眠たくなる。
デスクに片手をつき、ボーっと話を聞いていると校長から浜深さんの話がでた。
もう一度、挨拶と自己紹介をしてもらうそうだ。
カチコチに固まった肩を軽く叩いて、送り出してやる。
178:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:03:08.85 mMvJOqsr
此方へ一度振り返ると、震える口で少し笑みを浮かべて見せた。そのままの表情を保ち、教頭のデスクがある一番前まで歩いていく。
緊張する気持ちは痛いほど分かる。
僕だって頭が破裂しそうになるほど緊張した…だけどこの後、全校生徒の前でも挨拶をしなければいけないのだ…。
これぐらいで身体を硬直させるようじゃあ、ダメだ。
「今日から研修生として勉強させてもらうことになりました、浜深 唯です。至らない事ばかりだと思いますが、少しずつでもしっかり覚えていきますので、どうかよろしくお願い致します」
一礼して、頭を上げた。
その瞬間、職員全員が拍手した。
「いやぁ、若いのにしっかりしてるね~」
「本当、本当。誰かさんはガチガチで何言ってるか分からなかったもんね~」
「誰かさんは未だに学校の教室全部把握してないもんな~」
数人の教師が、此方へ目を向けてきた。
「はは…すいません…」
―その後、浜深さんは生徒の前でもしっかりと挨拶をして見せた。
179:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:05:39.73 mMvJOqsr
―「それじゃ、浜深さんの歓迎会を兼ねて今日はパーっと飲みましょうか!」
「おぉ、それはいいですねぇ~!唯ちゃんもそれでいい?」
「あ、私は別に大丈夫ですけど」
「んじゃ、校長の家に行きましょう!」
夕方の7時。生徒を全て帰らせた後、浜深さんの歓迎会が開かれる事になった。
若い女の子と触れ合う機会が少ない為か、男連中は皆張り切っている。
「こ、こんな早く帰れるものなんですか?」
「う~ん…僕が二年前に研修生として居た学校では9時ぐらいまで学校に居たね…やることも覚える事もいっぱいあったから。
でもここでは生徒が少ないので、全員帰れば我々の仕事も終わりなんです」
研修生にこんな事言ってもいいのか分からないが、勉強しに来る学校を誤ったんじゃないだろうか…。
まぁ、そんな事を僕が言えた立場では無いので口には出さない。
そんな事より今日は羽を伸ばせそうだ。
最近は守夜さんと二人きりで居る事が多いので、職員達と触れ合う場も欲しいと思っていた所だ。
「藤咲先生も行きますよね?」
一人の職員が守夜さんに声を掛けた。
「えぇ…明日に差し支えない程度であれば」
「それじゃ校長の家にレッツゴーだ!」
「おぉー!」
180:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:06:23.05 mMvJOqsr
初老のはしゃぎっぷりは何処か見ていて痛々しい…。やはりストレスも溜まるのだろうか?
この島には娯楽と言われるモノが無いので楽しみと言えばお酒ぐらいだ。
「じゃあ、藤咲先生向かいましょうか?」
「……そうだな…」
「どうしました?具合でも悪いのですか?」
「いや…ちょっと胸がムカムカするだけだ…」
胸がムカムカ?まだお酒を飲んでいないのに?そう言えば守夜さんがお酒を飲む姿を見たことが無いな…。
「どうしますか?帰りますか?」
「須賀先生はどうするんだ?」
「う~ん…若いのは僕だけなんで一応着いて行きます。家まで送っていきますか?」
「いや、私も行くよ」
想像しただけで胸がムカムカするほどお酒が弱いなら…と思ったのだが、お酒以外にも何かしらの食事は出るだろう…。
お酒を飲まず浮くということは無さそうだ。
「早くこいよ~!」
「あ、はい!今いきます!それじゃ行きましょう」
「……あぁ…」
元気の無い守夜さんを気にしながらも、職員総出で校長の家へと向かった。
校長の自宅は一度だけお邪魔させてもらった事があるのだが、この島では一番大きな日本家屋かも知れない。
港からでも一つ屋根が飛び抜けて見えるほど大きいのだ。
181:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:06:48.86 mMvJOqsr
祝い事がある度家を借りて祝杯を行うそうなのだが、迷惑にならないのだろうか…。
まぁ、校長も混ざってお酒を飲んでるあたり大丈夫なのかも知れない。
そんな些細な事を考えながら歩いていると、あっという間に校長の自宅へと到着した。
「うわ~、大きな家ですねー!」
浜深さんが立派な門を見上げて驚きの声を漏らした。
確かにいつ見ても大きい。
インターホンすら鳴らさずゾロゾロと中へ入ると、数十メートル進んだ場所に玄関が見えてきた。
「おぉ、皆来たか。さ、中に入ってくれ」
玄関に居たのはこの家の主である校長だ。
皆当たり前のように家の中へと進んで行く。
「…須賀先生」
「あっ、そうでしたね。ちょっと待ってください」
車椅子の安全バーを引きロックすると、自分の靴と守夜さんの靴を脱がして守夜さんを抱えた。
こういった古い家の床を車椅子で走ると、床を傷つけてしまうのだ。
守夜さんを抱え大広間まで進むと、すでに数々の料理が並んでいた。
前もって浜深さんの歓迎会をする事を伝えていたようだ。
「二人は本当に仲がいいなぁ」
「はは、ありがとうございます」
守夜さんを座布団の上にゆっくりと下ろすと、守夜さんのすぐ隣に腰を落とした。
182:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:08:41.39 mMvJOqsr
全員が適当にテーブルに腰を落とすと、浜深さんの挨拶を皮切りに歓迎会という宴会が始まった。
次々とお酒や料理が運ばれ、場が盛り上がっていく。
「守夜は子供の頃から人に頼らなかったからなぁ、須賀先生に頼る姿を見るとやっと女らしくなってきたなぁと思うよ…」
「ははっ、喧嘩もやたら強かったよなぁ。家の息子も昔はピーピー泣きながら家に帰ってきたよ」
「まぁ、嵐の日に真っ裸で海を泳ぐ人間は守夜ぐらいだな」
「もう…昔話はやめてよみんな」
この学校の教師も殆どがこの島の人間。
此処に居る僕以外の教師は守夜さんの事を本当の子供のように大切にしてきたそうだ。
一番手の掛かる子供だったらしく、皆の心配の種でもあったそうだが…。
「後は結婚だけだなぁ…」
「守夜は誰か好きな人居ないのか?ワシが誰か紹介してやろうか?60歳のニートとかどうだ」
ケラケラと笑いながら、お酒や料理に手をつけだした。
悪酔いの見本だ。
「私にも結婚相手ぐらい居るさ」
「ぇ…お前…彼氏居るのか?」
大広間全体が静まり静まり返った。
「一年ぐらい前から結婚を前提にお付き合いしてる男性が一人」
周りとは違い淡々と料理に箸をつける守夜さん。
183:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:09:17.52 mMvJOqsr
「う、嘘だぁろ~?おまえ自分より若い子が入ってきたからってイキッてんだろ~?」
守夜さんをおちょくるように言い捨て、酒に手を伸ばす…がその手は動揺からくる震えでテーブルにこぼしまくっている。
「嘘じゃないよ。私にもちゃんと一緒に居てくれる人ができたの」
「……何処の男だ?たつおか?」
「あんたの息子じゃないわよ。まぁ、この島に住んでる人。
近いうちに紹介してあげる」
「よ~し近いうちに見つけ出して皆でボコボコにして海に流すぞ~!!」
「「「おぉ~!」」」
父親魂に火を付けてしまったようだ…。
それからと言うもの、主役の浜深さんをほったらかしにして、守夜さんの彼氏は誰かという予想が立てられ、どうやって探すか…どうやって痛め付けるかを話し合ったり笑い合ったり泣き合ったり。
(僕と守夜さんと浜深さんはただ聞いていただけ…)
久しぶりにストレス発散できた一日だった。
帰り際、校長から「浜深先生は君に任せたから色々教えてやってくれと頼まれ」心良く承諾した。
ただ、やましい気持ちなど微塵にも感じなかったのに後ろから感じる針で刺すような守夜さんの視線には沈黙でしか答える事ができなかった。
184:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:10:29.08 mMvJOqsr
それは今でも後悔している…あの時、守夜さんの目を見て何らかの対応を取っていればこんな事にはならなかったはず……。
その夜―僕は守夜さんに頬を叩かれた。
―あの女と仲良くするのはやめろッ!
頬を叩かれた事は泣きながら謝られた…だけど、僕は許せなかった。
頬を叩かれたのが許せなかった訳じゃ無い…守夜さんに信用されていない事が物凄く悲しかったのだ。
その日、初めて和解する事無く僕は守夜さんの家を飛び出した。
「冬夜!謝るからッお願い待って!一人にしない―ッ!―と―ッ ―ゃ― 」
泣き叫ぶ守夜さんを置いて…。
赤くなった頬はいつまでもジンジンと痛みを訴えていたが、あれはただ叩かれただけの痛みだろうか?
分からない…だけど今は守夜さんの顔を見たくなかった―。
185: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 21:11:26.88 mMvJOqsr
ありがとうございました、投下終了です。
後二回ぐらいの投下で完結させます。
186: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/02 22:04:11.20 mMvJOqsr
すいません>>183にある鍵カッコの位置間違えました。
お手数ですが
> 帰り際、校長から「浜深先生は君に任せたから色々教えてやってくれと頼まれ」心良く承諾した。
では無く。
> 帰り際、校長から「浜深先生は君に任せたから色々教えてやってくれ」と頼まれ、心良く承諾した。
に変えといてください。
お願いします。
187:名無しさん@ピンキー
11/07/02 23:05:47.57 ppmXx9Gb
GJ
いいね、いいね~
188:名無しさん@ピンキー
11/07/03 17:56:34.95 oLJLlstr
人少なすぎ
189:名無しさん@ピンキー
11/07/03 19:29:26.46 oPCR1Npe
投下乙
男を引き止めるために自らの愛や肉や法で縛ろうとする美人さん
……有りだな
190:名無しさん@ピンキー
11/07/03 20:21:22.16 MdXN5HNh
gjj
191:名無しさん@ピンキー
11/07/04 01:52:20.31 MqSIdtMC
夜と闇面白いな。いい依存で強気なヒロインが大好きだ。
192:名無しさん@ピンキー
11/07/04 19:31:18.83 vSMVhUlU
GJ!
193:名無しさん@ピンキー
11/07/05 00:26:54.96 jVAdhSz8
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!
GJ!
194:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:12:03.33 YyAi+SIU
夢の国投下します。
195:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:12:45.98 YyAi+SIU
私がバレンからノクタールへ戻って来てから6日後の朝、何がノクタール上空へと侵入して来た。
「あれは…船ですか?」
「そのようだな…私が乗ってきたモノとは一回り小さいが多分バレンの飛行船だ」
ノクタールの見張り台の警備兵から、未確認飛行物体が此方へ向かっているという情報を聞きつけ駆けつけたのだが…。
「無断でノクタール領地に……何のつもりだ?」
飛行船一隻の所を見ると戦争…って訳では無さそうだが…。
「とにかく…空だからといって勝手に領地に侵入されては我々騎士団の名に傷がつく。海門兵との連絡は随時取り、もう少し様子を見て怪しい気配を見せたら容赦なく砲撃して撃ち落とせ。船が降りてくるなら、着陸する場所を先読みして、待ち伏せしろ」
目的が分からない輩はまず拘束した後尋問する。
鉄則だ。
「……あっ、降りてきましたね……どうしますか?」
ゆっくりと低空飛行をしたかと思うと、城の中庭付近に降りていった。
下を見下ろして確認する……既に下には何百という兵士が松明を持ち待ち構えている。待ち伏せするまでも無かったか……それに降りていく時、赤いランプを光らせていた…あれは戦闘の意思が無い事を表している。
196:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:13:18.49 YyAi+SIU
ノクタール海門には漂流して流れ着く他国船が年間百隻以上あるのだが、我々は敵では無いという意思表示で赤いランプを照らすのだ。
そうすれば例外を除いて基本助けるし、此方から攻撃しない事になっている。
「よし、中庭に向かうぞ」
踵を返し見張り台から出ると、足早に中庭へと向かった―。
私を数多くの兵士達が追い越していく、本来なら私が先頭に立って向かうべきなのだろうが、私はもはや騎士では無い。
鎧もバレンから帰ってきて一度も着ていないし、剣も握っていない。
そんなものは必要無いのだ…。
優しくお腹を擦りながら空に目を向ける。
―バレンから帰ってきてまず私がした事、それは王位継承者であるアルベル将軍に、私のお腹に宿った命の存在を伝える事だった。
姫様は目を大きく見開き物凄く驚いていたが、アルベル将軍は意外と平然としていたのを覚えている。
もしかしたら、すでにライトが私との関係を話していたのかも知れない。
すぐに産休を取らされ、子供が産まれるまで大人しくしていろと言われたのだが……。
「……はぁ…使えない部下を持つと疲れるよ……だから早く帰って来てくれライト」
空に手を合わせ目を瞑る。
197:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:13:59.51 YyAi+SIU
今の私の姿を見たらライトは笑うだろうか?
いや…今の私ならライトは受け入れてくれるに違いない。
目を開けて自分の手を見つめる。
人を殺め続けてきた手…。
本当にこの手でライトにすがっていいのだろうか?
「いや……いいんだ…」
ライトが言ったんだ―帰って来たら結婚してくれって―。
「…ふふ……プロポーズなんだ……あれは絶対に…」
冷たくなった手を頬に当て小さく微笑んだ。
「あ、団長!休まなくていいんですか!?」
「大丈夫だ。それより状況は?」
私が中庭へ到着する事にはすでに騎士団が飛行船を取り囲んでいる所だった。
「信用して良いのか分かりませんが……何らかの出来事でバレン国が壊滅的な被害を受け、バレン国から逃げてきたそうです…」
壊滅的?数十日前まで私はバレンに居たのだが……私達がバレンから離れて数十日の間にバレンが壊滅的になるなんて考えられない。
と言うかあり得ない。
「船員の人数は?」
「一応船員は怪我をしたバレン兵が八名と……ユードの出身者と名乗る者が三名…そして死体が一体です」
「死体?…ユード出身者?それは何処に居るんだ?」
「あそこに」
団員が指差す場所に目を向ける。
198:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:14:30.14 YyAi+SIU
「……アイツは…」
ライトと一緒にバレンに居た白衣の男……なんで、アイツがこんな所に居るんだ?
もしかしてライトも帰って来てるのか?
ライトを探しながら白衣の男に近づく。
「―あ~―ぴかぴかー、―」
「なッ!!?」
咄嗟に隣に居た団員の剣を奪い取り構えた。
あの銀髪……間違い無い。
バレンで一戦交えた化け物だ。
私を指差しぴかぴか呟いている。
「お前ら全然銀髪から離れろッ!!」
普段とは違う私の声に危機感を感じたのだろう……私の声に反応した団員は瞬時に後ろへと飛び退いた。
「お前…こんな所で何をしている」
「クーは―みんな―ともだち―ライトから―おねがい―まもる―クー、みんなまもる―」
立ち上がると、胸を張り鼻息を漏らした。
「ライト?……此処に来た目的は?」
銀髪が言うライトとは間違いなく私が知ってるライトの事だろう…。
「目的などありません……バレンから逃げてきただけです」
銀髪に話しかけたのだが、隣に座り込んだ白衣が返答した。
まぁ、銀髪よりは話が通じる相手みたいだ…。
仕方なく剣を下げ会話を続けた。
199:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:15:08.61 YyAi+SIU
「バレンから逃げるのにわざわざ此処まできたのか?ノクタールじゃなくても良かっただろ」
助けを求めるならわざわざ何日もかけてノクタールに来る必要が無い。
それこそ隣にあるメノウ姫の母国、フォルグにでも逃げればいい。
「先ほども話しましたが、私達はこちら側の人間です。ユードに行けば私達がユードに住む者だと分かりますよ?家には土地の権利書や身分証明書、ユードの村長の所へ行けば住民票だってありますから」
淡々と話す白衣の男…多分嘘は言っていないだろう……しかし…。
「分かった…だが海門を通らない限り、密入国だと疑われても仕方のない事だ。全員事情聴取は受けてもらうからな……それと……ライトはどこだ?確かお前と一緒に居たはずだが?まさか…」
「……安心してください、ライトは無事です」
私の心情を悟ったように一呼吸溜めて割って入ってきた。
「当たり前だ。お前達が生き延びてライトが死ぬはずないだろ…そんな事を聞いてるんじゃない。ライトは何処だと問いかけているのだ」
内心、変な間を作るなよと思ったが口に出さずに同じ質問を投げ掛けた。
「ライトは帰ってこないわよ」
今度は白衣の男の隣に居る女が割って入ってきた。
200:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:15:44.74 YyAi+SIU
何なんだコイツら…わざわざ人に変わってもらわないと会話すらできないのか?
「どういう意…?」
この女も見たことがある……確かメノウ姫の側に居た女だ。
この女もライトと知り合いなのか…。
しかし、何故この女が此処に居るのだ?
この女もユードの者なのか?
「ティーナ団長、このミクシーの女…たしかフロード教会のシスターで、名前はアンナとか…」
一人の団員が耳元で小さく呟いた。
「フロード教会?フロード神父の所はシスターなど居ないはずだが?」
あの教会は神父一人だけのはず。
各国から数多くのシスターが神父の元で聖職者として働きたいと申し出たが、私がユードに居た頃は全て断っていたのを覚えている。
「数年前に神父様が一人シスターを迎え入れたとか…ほら、神父様が殺害された時…」
「……」
思い出した…バレンで見た時も何処かで会った事があるとは思っていたが…ユードで一度顔を会わせていたのか。
そうなると、余計に話がややこしくなってきた。
何故シスターごときがメノウ様の隣に居たのか…何らかの繋がりがあったにせよ、複雑な事にかわり無い。
「アンナ…でいいか?」
「えぇ、久しぶりね?よろしく団長さん」
201:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:16:12.69 YyAi+SIU
「あぁ、よろしく。それで先ほど貴女が言っていたライトは帰ってこないってどういう意味なんだ?」
「言葉の通りよ。ライトとはバレンで別れたの」
「一緒には帰って来なかったのか?いつ帰ってくる?」
「さぁ?ライトはメノウと一緒にフォルグに向かったから」
「メ、メノウ様と?何故ライトが?」
頭がこんがらがってきた……ライトがメノウ様とフォルグに旅立った?
何故ライトが?
それよりライトとメノウ様は知り合いなのか?
あの時…メノウ様が何度も口にしたライトの名前は……私が知ってるライトなのか?
「貴女本当に何も知らないの?そこまでいくと罪ね…」
「お前は先ほどから何を言っているんだ?私が罪?何も知らない?」
遠回しな発言ばかりで流石にイライラしてきた。
耳を引っ張りあげて、無理矢理吐かせてやろうか…。
ふと、アンナの後ろにある木の箱に視線を奪われた。
「…貴女は見ないほうが良いわよ?多分耐えられないから」
「耐えられない?…あぁ、死体か」
そう言えば一体死体があるとか言っていたな…あれは棺桶だったのか。
しかし耐えられないってどういう意味だ?
私が女だから死体に耐性が無いとでも思っているのだろうか?
202:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:16:38.17 YyAi+SIU
だとしたらバカらしい…何人私がこの手で人を殺してきたか…。
「開けて見せろ」
「……分かったわ」
ゆっくりと後ろへ身体を反転させると、木の板を開けて棺桶を開けて見せた。
中には死臭がしないように薬草が詰められている…。
何て事ない普通の死体…。
「………ぇ…」
―ホーキンズ?
間違いない…顔を酷く傷つけられているが、ホーキンズだ。
「ティーナ団長!」
立ち眩みがしたと思うと、無防備に後ろへと倒れ掛かった。
それを咄嗟に団員達が支える。
「ほら…だから言ったじゃない」
表情を変える事なくホーキンズの頬を撫でた。
支えた団員達を突飛ばし、ホーキンズの元へと走りよる。
「脈拍を調べても無駄よ…」
ホーキンズの手首を手に取ると、脈拍を確かめる前にアンナが呟いた。
アンナの言葉に耳を貸すことなくホーキンズの手首に中指を添える。
確かに脈は無い…。
続いて胸に耳を当てて見る……心音も聞こえない。
「……何故、ホーキンズが?」
もう一度脈を確かめようか迷ったが…もう無駄だろう…。
ホーキンズの両手を胸へ添えアンナに問いかけた。
203:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:17:05.99 YyAi+SIU
「そ、そいつはメノウ様を連れ去った大罪人だ!だからゾグニ様自らの手で処刑をされたのだ!」
「メノウ様を連れ去った?ホーキンズが?なに目的で?」
「目的など知らん!メノウ様は我々の女神となられる方だ!」
色の失った目で叫び散らすバレン兵士。
数人の団員が後ろから押さえつけた。
「……アンナ…お前はホーキンズの女か?」
ホーキンズの頬を撫でていた手がピタッと止まる。
ゆっくりと此方へ振り返ると、小さく…しっかりと口にした。
「ホーキンズは私の夫人よ…」
「そうか……ならホーキンズをユードの教会裏にある花畑に埋葬したいのだが…」
あそこはいつも私達三人が遊んだ場所で、海も見渡せる…。
神父の墓もあるから寂しくは無いだろう…。
「えぇ…ありがとう…」
それだけ言葉にすると…静かにホーキンズが眠る棺桶の蓋を閉めた。
「おい…お前ら…」
「な、なんだっぎぃやあああああああッ!?」
なんの躊躇も無く、バレン兵の太股に剣を突き刺した。
どうやら私もまだ大人にはなれないようだ…。
「お前ら全員まともな身体でバレンに帰れると思うなよ……おい!兵士すべて独房に放り込め!」
204:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:17:30.34 YyAi+SIU
「ヒヒッ、お前なんて怖くねぇよ!魔王様に比べたらッy「喋らず歩け!!」
暴れる兵士達を団員が連れていく。
魔王ってなんだ?
ゾグニの事か?帝王に飽きたらず今度は魔王か…。
「お前達は私について来い。アンナはホーキンズと共にユードへ迎え。ホーキンズをそんな小さな箱に何日も詰め込んだままにするのは可哀想だ…船を出してやるからホーキンズの事は頼む」
「えぇ…」
アンナとホーキンズを団員に任せ、私と銀髪、白衣の男は城内にある一室へと向かった。
「そこに座れ…それで早速だが…お前達にはライトに関しての全てを吐いてもらう」
聴取室に到着すると、まず兵士を全て払い私と二人だけにした。
聴取と言うのは建前の話…本当はライトの事を聞きたかったのだ。
「分かりました…では一つ一つ順を追って話しますね」
それからやく一時間―白衣の男の話を長々と聞いた。
(名前はハロルドと言うらしい)
バレン船での妖精から始まり、ライトが面倒を見ていたのがメノウ様で、そのメノウ様がホーキンズやアンナと一緒にバレンに拐われたので、ライト達が助けに向かったと…。
多少強引だが辻褄は合う……。
205:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:18:01.11 YyAi+SIU
鬱陶しい正義感を無駄にかざす辺りライトやホーキンズがしそうな事だ。
しかしあまりに話が出来すぎていて、信用ができない。
「それを証明する証拠は?」
「残念ながらありませんね…強いて言えばホーキンズの死とライトが此方へ帰って来れない現状でしょうか」
「話にならんな…」
やはりコイツらは信用できない…。
ライトの友達なのだろうが、基本ライトやホーキンズは騙されやすい人間…だからホーキンズも…。
「ぴかぴか―おなか―ひかって―る―」
突然銀髪が口を開いた。
お腹が光ってる?
自分の腹部に目を落とす…何て事ない自分のお腹だ。
「……貴女まさかッ!お腹に子供が!?」
驚いた表情を浮かべると、椅子からガタッと立ち上がりテーブルに身を乗り出してきた。
「あぁ、私のお腹にはライトとの子供がいる」
別に隠すような事では無いだろう…。
どうせ結婚すれば嫌でも皆に知れ渡るのだ。
私の返答に眉を潜め、椅子に座り込むと黙り込んでしまった。
「なんだお前は…黙ったり叫んだり…いい加減ライトがいつ帰って来るか教えろ」
自分でもわかるぐらい堪忍袋の紐が緩みだした。
これは単純に苛立ちからくるモノなのか?
206:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:18:28.15 YyAi+SIU
それとも不安からくるものなのか…。
自分では分からない…だから“他人”にこの胸騒ぎの理由を聞いているのだ。
大丈夫…ライトと私には約束があるのだ…約束が…
「……ライトは…多分帰って来れません…」
―たった一つの光が消えた気がした。
「……」
ライトが帰って来ない?
震える手を力強く押さえ込む。
額から汗が吹き出し、目の前がボヤける。
嘘だ…コイツは嘘をついている…だってライトは絶対に私の元へ帰ってくると約束したのだ…。
帰ってきたら結婚もする…そしたら晴れて夫婦だ。
―式場はユードのフロード教会…神父もホーキンズも居るから祝福してくれるに違いない。
それが嫌ならノクタールでパレードもいい…。
家は新しく建てよう…。
子供ができるのだから、少し大きな家がいいだろう。
一階建て?二階建て?
それはライトと今後決めていけばいい…。
夫婦部屋にベッドは一つ…これぐらいの我が侭は許してくれるだろうか?
女としての身嗜みも、ライトが恥にならないよう毎日心掛けるつもりだ。
それが妻としての役目だと私は思っている。
料理も上手くなった。
207:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:21:28.28 YyAi+SIU
多分ライトが私の料理を一口食べたら、結婚後仕事が終わると真っ先に家に帰ってくるはずだ。
だから、浮気の心配も無い。
それでも、浮気をしてしまったというなら…三度までなら許そう。
夫婦というのはそういうモノなのだろう?
ライトが騎士団を辞めてほしいと言うなら私は主婦となり家庭へ入る。
ライトが無敵の団長を求めるなら私はライトの前に立ち、全てを蹴散らそう。
それが団長としての勤めだと私は思っている。
―子供だってライトが欲しいだけ産む。
女の子?男の子?
お腹に居る子は男の子だから次は女の子にしようか…それもライトが帰ってきてから話し合えばいい…。
ライトが望む全てを私がライトに与え続ける。
何故ならそれが私のあり方なのだから…。
今度は私とライト、そしてお腹に居るこの子と共に生きていくのだ。
ライトが帰ってきたら私達の“家族”の始まり…。
だから…だから…
「お願いだから…ライトを連れていかないで……ッ」
騎士としてでは無く―、一人の女として出た言葉だった。
「ぇ……ティ、ティーナさん!!」
痛む腹部を手で押さ、テーブルに上半身を預けると、そのままゆっくりと意識を手放した。
208:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:22:13.32 YyAi+SIU
◆◇◆†◆◇◆
「さぁ、食べておくれ」
「すいませんわざわざ…それじゃ頂きます…」
老婆の手からお皿を受け取り中に入っている野菜のスープに口をつけた。
温かい…バレンを旅立ってから温かい食事を取る暇がなかったので、身体の隅々まで染み渡っていくのがハッキリと分かった。
俺がスープを飲む姿を見て、メノウも皿に口をつけて少しずつ飲みだした。
―バレンを出発して17日…隣国とはいえ、山四つを越えなければたどり着けないフォルグ。
やっとの思いで四つの山を超えると、山のふもとに小さな小屋を一軒発見した。
周りには民家など見当たらなかったので廃屋かと思い小屋に向かったのだが、驚く事に白髪頭の老婆が一人住んでいたのだ。
こんな場所で一人暮らしは危なくないですか?と問いかけると、産まれた時から此処に住んでいるので他の土地に移る気は無いそうだ。
元はこの小屋だけでは無く、小さな集落だったらしい。
それが数十年前に起きた戦争で巻き添えをくらい、残ったのはこの小屋一軒…。
誰も訪れる事はなく、数十年前からずっと一人で過ごしているそうだ。
209:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:22:39.95 YyAi+SIU
「この森を抜けたら雪原にでるから、後は真っ直ぐ雪原を走ったらフォルグに着くよ。だから明日の朝早くに出るといい」
「そうですか…何から何まで、ありがとうございます」
今日はもう遅いので、この小屋に泊まらせてもらう事にした。
泊まらせてもらう代わりにお金を払うと言ったのだが、受け取って貰えなかった…。
しかし此方ばかり甘えるのは申し訳ないので、自分に何かできる事は無いかと尋ねると、明日朝早く山下にある川で水を汲んで来てほしいとの事。
それぐらいならと、快く承諾した。
「ねぇ~、私熱い食べ物苦手だからふーふーしてよ~」
俺のズボンをくいっくいっと引っ張り料理の入った皿を指差した。
「あぁ…はいはい…」
ティエルのお皿を取り、息を吹き掛けた。
「あらあら…妖精ちゃんと貴方は夫婦なの?」
老婆はおどけたように笑うと、コップに水を入れてティエルの前に差し出した。
「ち、違うわよ!な、な、なんで私が人間のッおと、男なん…か……ねぇ…?」
顔を真っ赤にしてもじもじすると、コップに顔を突っ込み水を飲みながら俺の顔をチラチラと見てきた。
「ねぇって言われてもな…まず妖精と人間が夫婦なんてなれるのか?」
210:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:23:06.04 YyAi+SIU
「そ、そりゃあ…もしなったら私が初めての妖精に……ってなに言わせんのよ変態ライト!アホ!」
独り言をブツブツ呟いたかと思うと、いきなり怒りだし膝を蹴ってきた。
妖精はみんなこんな感じなのだろうか?
照れ隠しを通り越して情緒不安定になってる気がする。
「ねぇ、夫婦ってなに?」
隣でスープを飲んでいたメノウが話しかけてきた。
皿を見てみると、すでに中身が無くなっている…まだ二分ほどしか経っていないのだが…仕方なく俺のスープをメノウに差し出した。
「まだあるから、いっぱいお食べ」
鍋の蓋を開けると、メノウの皿を取り皿の中にスープを入れてくれた。
「すいません…」
「ねぇ!夫婦ってなに?」
いつの間にか俺が手渡したスープも空になっている…。
どんな胃袋しているんだメノウは…。
「夫婦っていうのは結婚して一緒に暮らすって事だよ…メノウの場合はお嫁さんだな」
メノウの口の周りについたスープを布で拭き取ってやる。
これをやるとすぐにメノウは顔を背けようとするのだが、慣れたもので横に動くメノウの口に合わせて手も自然と動くようになった。
「んっ…メノウ、ライトのお嫁さんになれるの!?」
211:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:24:14.39 YyAi+SIU
拭い終わると同時ににキラキラした目を輝かせながら問いかけてきた。
「いや…俺のお嫁さんはもう居るから無理かな…」
「もう…バカ…」
何を勘違いしたのか、ティエルが俺の膝の上に飛び乗り身体をくねらせると、横腹を人差し指で突っついてきた。
「……メノウ、ライトのお嫁さんになれないの?それじゃ、これメノウのあげる」
ティエルをつまみ上げ何処に閉じ込めてやろうかキョロキョロしていると、メノウがスープの入ったお皿を俺の前に持ってきた。
「なんで?もうお腹一杯なのか?」
「んーん…メノウ、ライトのお嫁さんになりたいからあげる」
だから自分のスープを差し出したのか?
よく分からない意思表示だ…。
しかしこのスープを飲んだら俺はメノウと結婚する事になってしまうのか?
「残念だけど、それなら飲めないな」
「なんで?ライトはメノウ嫌いなの…?」
キラキラした目が一転今度は今にも泣き出しそうな目で訴えかけてきた。
「嫌いじゃない。嫌いじゃないけど俺にはもうお嫁さんが居るんだ。だからメノウは違う旦那さんをy「やだぁ!メノウ、ライトと一緒がいい!」
首に腕を回して抱きついてきた。
「メノウ…話を聞け」
212:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:24:42.07 YyAi+SIU
巻き付いた手を引き放しメノウの目を直視しする。
大粒の涙が流れ落ち、メノウの服を濡らしている…。
その姿を見て、罪悪感にも似た感情が溢れ出そうになるが、それを無理矢理押さえ込んだ。
今甘やかせば、今後メノウの為にはならない。
そう、フォルグに居るであろうメノウの両親にメノウを帰した後の事を考えたら…。
「メノウ…お前は今日から一人で寝るんだ。分かるな?」
「なんで!?やだッ!!メノウ、ライトと一緒に寝る!」
「メノウッ!!!」
俺の声のデカさにメノウの肩がビクついた。
「俺の言うこと聞けるな?お前は彼処で寝るんだ」
わかりやすくメノウの寝袋を端に投げてやる。
「やだぁ…ヒッ…ぅう…メノウ、ライトと一緒じゃなきゃやだぁ…ぅぅ…」
その寝袋を拾いにいくと、ヨロヨロと此方へ歩み寄ってきた。
「ダメだ…お前は向こうで寝ろ……」
メノウの手から寝袋を奪い取ると、再度端に寝袋を投げ、メノウの顔から目を反らた。
今までの事を考えると、メノウにとっては残酷かもしれない。
しかしこれもメノウの為だ……顔を見ていたら、必ず手を差し伸べてしまう。
213:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:25:08.01 YyAi+SIU
「メノウ、ライトに何か怒らせるようなことしたの?謝るから…謝るからメノウと一緒に…」
「ッすいません…騒がしくして」
メノウが隣に来るのが分かった……だけどそれでも俺はメノウの顔に目を向けなかった…。
目の前にいる老婆に頭を下げ、スープに口をつける。
―あれだけ温かかったスープはすでに冷めていた。
「いいお兄ちゃんだねぇ…」
お兄ちゃん?
そうか…俺はメノウを妹としてみているのか…。
だから助けたくなるのか…。
「明日早いので今日はこれで…食事ありがとうございました」
「はいはい、お粗末様…それじゃ私も寝ようかねぇ」
老婆に頭を下げて、自分の寝袋に入り込むと後ろから寝袋をズルズルと引きずる音が聞こえてきた…。
「ぐすっ…ライト…寝たの?」
後ろからメノウの声が聞こえてきたが、返答はしなかった。
ゴソゴソと俺のすぐ後ろでメノウが寝袋に入る音を確認すると、俺も目を閉じて眠る事にした。
―メノウの小さな泣き声と俺を呼ぶ声は夜遅くまで聞こえてきたが、いつの間にか泣き声は寝息へと変わっていた。
これは自立への一歩といってもいいのだろうか?
自分では分からないが、今日メノウは一歩大人に近づいた気がする。
214: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/06 16:27:33.63 YyAi+SIU
ありがとうございました、投下終了です。
215:名無しさん@ピンキー
11/07/06 17:29:45.14 ANLwgLdO
いえいえこちらこそ、投下ありがとうございますGJ
誰も救われないなホント…
216:名無しさん@ピンキー
11/07/06 18:19:30.54 YyAi+SIU
いつも保管庫更新感謝です。
217:名無しさん@ピンキー
11/07/06 20:25:24.95 xNZVk/Ux
投下乙
現状唯一連載してるou.3Y1vhqc氏は本当にゴッドやでぇ……
218:名無しさん@ピンキー
11/07/06 22:07:02.94 9T2XDwRq
おい…おい…ティーナ…
頼むよぉぉぉぉぉティーナを幸せにしてやってくれよぉぉぉぉぉ…
ダメなら俺がもらうっ
まぁ、ライトの思いも強そうだしな、頑張ってくれよ…
219:名無しさん@ピンキー
11/07/06 22:17:10.71 LKNBEze4
おおおおおおおおおおおおおおおGJすぎるうう。
220:名無しさん@ピンキー
11/07/06 23:15:49.01 WU616gUp
>>◆ou.3Y1vhqc氏
もうホント、貴方の投稿なしでは生きられないです。
221:名無しさん@ピンキー
11/07/07 04:25:53.39 48DW1Tyo
ナイス依存
222:名無しさん@ピンキー
11/07/07 20:09:35.38 0+7Ogieh
うおぉぉぉGJ!
ライトが帰れなくなった理由が何となく分かった・・・
223:名無しさん@ピンキー
11/07/07 22:07:02.20 EBLwGbHT
ハイパーGJ!
224:sage
11/07/11 16:39:54.96 Q8eLtKdr
保
225:名無しさん@ピンキー
11/07/11 21:41:43.51 ibag5wm2
夢の国にちょっと出てきたティル・ナ・ノーグとか妖精ディーナ・シーとか本当にあった神話なんだな。
それじゃ女神ダヌを守る守護獣「ドラグノグ」も本当にいた話なのか?
妖精の神話調べてたら偶然ディーナ・シーにたどり着いてびっくりしたW
226:名無しさん@ピンキー
11/07/11 22:38:14.27 gOysKVOL
>>225
もしかしたらそれがネタばれになってるかもだから気をつけて読めよ?w
227:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:08:49.21 Eo4X49+E
夜と闇投下します。
228:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:09:23.77 Eo4X49+E
「はぁ…」
午前6時…ため息から始まる1日…多分ため息で終わる1日になるだろう。
「朝食は……もういいか…」
食べる気力が無い。
いつもなら台所で守夜さんが料理を作ってる時間帯。
長い時間守夜さんと居たからだろうか…朝起きて寝惚け眼で守夜さんを探してしまった。
昨日の出来事を思い出してみる…。
守夜さんの家につくなり守夜さんが僕を責め立て頻りに「あの女とは会話をするな!」とわめいていた。
あの女とは浜深さんの事だろう…なぜ守夜さんは浜深さんを敵視するのだろうか…
「う~ん…分からん…」
頭を抱えて唸ってみる。
しかしこうしていても時間だけが過ぎてしまう……守夜さんと顔を会わせるのは気まずいが…仕方ない。
重い身体を動かしゆっくりとスーツに着替えると、鍵を閉める事なく家を出た。
不思議な事に家を開けっ放しにすると、周りの住民が家に上がり冷蔵庫に料理を入れてくれるのだ。
畑で取れた新鮮野菜や海で取れた新鮮魚介類。
始めは何故勝手に人の家に上がり込むんだ?と思ったが今は感謝している。
周りの人間に恵まれているのだろう……僕も実家から贈られてくる食べ物は周りに分けるようにしてる。
229:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:09:46.69 Eo4X49+E
持ちつ持たれつ…それが良い近所付き合いの方法だ。
「……守夜さんと会うかな…」
家を出て坂道を見下ろしてみる。
今学校に向かえば途中の道で高い確率で守夜さんと出会ってしまうだろう…。
「……此方から行くか」
いつも歩く道とは違い、遠回りして学校へ向かう事にした。
どんな顔して話せばいいか分からない…。
少しの間お互い頭を冷やす時間が必要だろう…冷却期間だ。
―石垣の階段を登り見慣れない道を歩いていく。
一度、気分転換で此方から学校へ行った事があるのだが、少しの差で下の道から行く方が早かったのだ。
それに守夜さんと付き合いだしてから完全に自宅より上の道には行くことが無かった…ちょうど良い機会なので、此方の道もちゃんと覚えとこう。
「しかし……本当に階段が多い島だな…」
後ろを見ても前を見ても階段…風情があっていいと思うのは早朝だからだろうか?
昼になると石垣が熱を持って熱くなるので、太陽が登っていない今の時間帯だから景色を見る余裕があるのかもしれない。
「須賀先生~!」
声につられて後ろへ振り返ると、階段を駆け上がってくる女性が視界に入ってきた。
「おぉ、浜深先生じゃないですか」
230:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:10:09.88 Eo4X49+E
昨日研修生として入ってきた浜深先生だ。
「はぁ、はぁっ、何故こんな所に居るんですか?」
僕の場所まで登ってくると、胸を押さえながら息を整え問いかけてきた。
「この下に僕の家があるんだよ。赤い屋根だから分かりやすいんじゃないかな」
「あっ、確か一軒だけ真っ赤な屋根の民家がありましたね!あれ先生の家だったんですね~それじゃ私が借りてる家からも近いですね。私の家はアレです」
後ろを振り向き指をさす。
まだ新築だろうか?
綺麗な家が一軒民家に混じって不自然に建っていた。
あれを借りれたのか…かなり運がいい。
「この辺坂道や階段が多いから大変でしょ?」
「いえ、大学まで運動部に入ってましたから。全然問題無いです」
「何の運動部に入ってたの?」
「ラクロスです。分かりますか?スティックの先に網がついていて小さなボールをそれで受けたり投げたりするスポーツです」
「あぁ、見たことあるよ。かなり激しいスポーツだよね?」
「慣れたらそうでも無いですけどね。でも楽しかったですよ」
「僕も学生の時はサッカーしてたんだ」
「へぇ~、かっこいいですね~!」
「万年補欠だったけどね~」
231:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:10:33.03 Eo4X49+E
―こうやって守夜さん以外の異性と二人で話すのは何ヶ月ぶりだろうか?
人との会話がこれ程新鮮に感じるとは思ってもみなかった。
やはり今までの生活に問題があったのだろうか…。
―二人で雑談をしながら歩いていると、あっという間に学校へと到着した。
その足でまっすぐ職員室へと向かう。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
「おぉ、おはよう…あれ?今日は藤咲先生と一緒じゃないんだね」
「はい、朝は会わなかったですね」
会わなかったでは無く会わないようにした…が正しい。
職員達に頭を下げながら自分のデスクへと向かう。
「……(まだ、守夜さんは来てないのか)」
職員室の中を見渡してみるが、守夜さんの姿を見つける事はできなかった。
普段この時間帯なら守夜さんは学校へと来ているはずなのだが……もしかしたら守夜さんも顔を合わせるのが気まずくて、図書室に居るのかも…まぁ、今はその方が自分的にも気が楽だ。
デスクに鞄を置いて、授業の準備をする事にした。
「それじゃ朝会を始めますよ~」
40分後、校長が姿を現した。
それと同時に時計に目を向ける。
もう7時だ…。
未だに守夜さんの姿を見ていない。
232:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:10:58.40 Eo4X49+E
「あれ…藤咲先生はどうしたの?」
校長も気がついたようで守夜さんのデスクに目を向けた後、此方へ視線を投げ掛けてきた。
いつも一緒に来ているので、僕だけ来ているのが不思議なのだろうか……。
「いや…僕は分かりませy「はぁはぁッ、す、すいません…遅れました」
荒い息を吐きながら、守夜さんが職員室に飛び込んで来た。
「藤咲先生遅刻ですか?珍しいですね」
「はぁ…はぁ…ッすいません…」
本当に珍しい事もあるもんだ…寝坊でもしたのだろうか?
僕がこの学校に来て初めて遅刻した守夜さんを見た気がする。
僕の方を一瞬ちら見した後、守夜さんもデスクへと向かった。
「それじゃ皆が揃ってので朝会始めますよ」
守夜さんがデスクへ着くのを確認すると、校長の声と共に職員会議が始まった。
―校舎裏にある花壇が―ッ―
「……」
―屋上の鍵が壊れ―
「……」
―生徒達のロッカーが―
「……」
見てる……守夜さんが校長の話を無視して僕を見ている。
「……(どうしよ…やっぱり話し合ったほうがいいかな)」
校長の話が耳に入らないほど、僕も守夜さんに意識を持っていかれていた。
233:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:11:21.35 Eo4X49+E
―てる―の―
「……」
―てるのか―」
「……」
「須賀先生ッ!」
「は、はい!!」
身体をビクつかせ前に視線を向ける。
校長が此方を睨んでいた。
「ゴホンッ…昨日言ったが君には浜深先生の指導役をしてもらうから。分かったね?」
「は、はい!分かりました!」
「うむ…それじゃこれで朝会を終了します」
朝会が終了し、教師各々の教室へと向かう。
僕の教室は二階。今日から浜深さんは僕が担任を任されている組の副担として勉強する事になったのだ。
「それじゃ、行こうか?」
「はい!」
浜深さんと職員室を後にしようと扉に指を掛けた。
「ちょっと待ってくれないか、冬夜」
聞き慣れた声に思わず声がする方へと振り向いた。
「ど、どうされました藤咲先生」
いつの間にかすぐ傍まで守夜さんが迫っていた。
「冬夜…二人で話があるんだ」
「ちょっ、ちょっと藤咲先生ッ」
ヤバい…浜深さんが僕と守夜さんを交互に見ている。
学校では名前で呼ばない約束なのに…。
軽く周りを見渡す…よかった……他の教師は全て職員室から出ていったようだ。
「ま、また後でいいですか?早く向かわないと間に合わないんで…それじゃ」
234:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:11:45.33 Eo4X49+E
「と、冬夜、その女と…」
守夜さんが呼び止めるのを無視して横を通り抜けると、職員室を急いで飛び出した。
今、守夜さんは何を言おうとしたのだろうか?
何故か危機感に襲われた。
「須賀先生。もしかして藤咲先生と…」
「いやぁ…はは……周りには言わないでね?」
「は、はい。分かりました」
気まずい空気の中、僕と浜深さんは足早に教室へと向かった―。
■■■■■■
おかしい…冬夜がずっとあの女と一緒に居る。
校長から頼まれたにしろ、あれじゃあ他の教師の目にも間違った写りかたをするんじゃないだろうか?
今朝もそうだ……私は昨日の事を謝ろうと、冬夜の家の下で待っていたのに…二時間待っても冬夜が階段から降りてくる事は無かった。
それでも謝る為に階段下で待っていると、階段から降りてきた老人に「須賀先生ならもう学校へ向かったよ?珍しく上の道通ってたけど…そう言えば新しく来た先生と一緒だったなぁ」
と教えられ、すぐに学校へと向かったのだ。
朝は仕方ない…あれはあの女が居たから、私と話す機会が無かっただけ…。
「冬夜、昼は図書室に来るんだろ?」
小さなバスケットを両手で抱えて、冬夜に問いかけた。
235:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:17:04.11 Eo4X49+E
「きょ、今日はサンドイッチにしたんだ。ほら、冬夜も好きだろ?」
「……学校では名前で呼ばない約束だったでしょッ」
キッと睨まれ、デスクから離れていってしまった…。
慌てて後を追いかける。
そうだ…私は冬夜と約束していたのだ
「ごめんなさい……破るつもりは無かったんだ…だから怒らないでくれ。この通り謝るから…だから一緒に図書室に行こう。
冬…須賀先生に話さないといけない事もあるから」
そう…私は冬夜の頬を叩いた事をちゃんと謝っていないのだ。
あの時、大人げなく冬夜に嫉妬して頬を叩いてしまった…だから冬夜は私を避けるんだ…。
職員室を出てスタスタ歩いていく冬夜を必死に追いかける。
「ッ…と、冬夜待って!」
私が見えないかの如く冬夜は中庭へと歩いていってしまった。
追いかけたい…追いかけたいのに…ほんの小さな段差が私を拒んでいる…。
私はこの段差を越えられない…足が無い私は…。
忌々しい…。
「お願いだから、待って!昨日の事は本当に謝る!だから、手をかしてくれ!」
涙声に近い声で冬夜に悲願した。
その声が届いたのか、冬夜は頭を掻くと、足を止め此方へ振り返った。
236:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:17:32.99 Eo4X49+E
「と、冬夜…」
冬夜のその行動に私は安堵し、冬夜に甘えるように両手を広げて助けを求めた。
「…校長先生から浜深先生に学校を案内しろと言われてるので今日は無理です。それでは」
一度此方へ一礼すると、何事も無かったように歩いていってしまった。
私は両手を広げたまま固まる…。
いつもなら、私が助けを求めると冬夜は助けてくれた……この小さな段差だって、私一人では無理かも知れないが、冬夜と一緒なら問題無いのに…。
冬夜に壁を作られた?
「無い…ある訳無い…」
冬夜が私に壁を作る訳が無い。
だって冬夜とはこれからもずっと一緒に居るんだ。
結婚の約束はしてもらえなかったが、いずれ結婚もする。
そうなればずっとこの島で一緒に暮らしていける…。
「やっぱり…叩いた事を…」
それしか考えられない…他にあるとしたら……あの女…。
まさか…あの女と浮気?
「ダメだッ…私の醜い嫉妬がライトを怒らせた可能性もある…」
じゃあ、あの女に冬夜を盗られてもいいのか?
そんなの絶対に嫌だ。
でももし既に身体の関係を持っていたら…。
だから、私を置いて一緒に学校へ…
「いや…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、いやぁぁぁぁぁ!!」
237:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:17:56.42 Eo4X49+E
頭を抱えて悲痛な叫び声をあげる。
その瞬間、私の膝に置いてあるバスケットが勢いよく地面に落ち、段差を転がっていった。
咄嗟に手で庇おうとしたが、間に合わなかったのだ…。
「あぁ…」
バスケットの蓋が開き、中身のサンドイッチが外に飛び出してしまっている。
これじゃあもう食べれない…。
「どうしたんですか?藤咲先生」
廊下の方から同僚の教師が歩いてきた。
この人も昔からお世話になってる一人。
「ん?…あぁ、落としちゃったのね」
そう言いながら、同僚は段差を降りてバスケットを掴もうとした。
「やめろッ!触るな!」
バスケットに触れようとする同僚を後ろから怒鳴る。
肩をビクつかせ此方を振り返ると、首を傾げて「何が?」と問いかけてきた。
そのバスケットは私と冬夜のモノだ。
「冬夜が来てくれるので、大丈夫です」
「そ、そう…それじゃ気を付けてね」
気が触れたと思われただろうか?
別に問題ない…誰に何を思われようと冬夜が居れば。
「冬夜!」
冬夜が消えていった中庭奥の方角へと呼び掛ける。
「バスケットを落としてしまったんだ!だから拾ってくれないか!」
冬夜なら絶対に来てくれる。
238:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:18:19.18 Eo4X49+E
「居るんだろ!?私を降ろしてくれたら私が片付けるからッ、だから早く戻ってきてくれ!」
冬夜からの返答は無く、姿も見えない。
「あ、謝ったら許してくれるのか!?意地悪してるならもうやめてくれ!私が悪かったから!私が…悪かったから…」
私の叫び声はすべて空に吸い込まれていく。足が動けば、今からでも冬夜を追いかけるのに。
「うぅぅぅぅッ!」
自分の足を力一杯殴る。
足に痛みは感じない…だけど胸の痛みは増す一方だ。
「このっ、このっ、こッ痛!」
手を振り上げて足を叩くはずが、車椅子に手をぶつけてしまった…。
小指から血が出てる…
「冬夜…冬夜…冬夜!指から血が…出たから…治療を…」
指を必死に段差の向こうへと差し出す。
しかし冬夜はいない…。
だけど…段差の向こう側に居る冬夜に私の痛みが伝われば……そう脳裏に少し浮かんで消えていった。
私は何をしているのだろうか?
冬夜を傷つけ…冬夜に愛想を尽かされ…。
他の女に盗られて…。
「うぅ…ぐッ…ひっ…く…うぁ…」
ポロポロと目から流れ落ちる涙が動かなくなった足を濡らす。
この日嫌というほど再確認させられた…。
―私は冬夜に生かされているのだと。
239:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:18:42.14 Eo4X49+E
■■■■■■
「はぁ…ただいま…」
誰もいない自宅に一人虚しく帰ると、鞄をテーブルの上に投げて畳の上に寝転んだ。
学校に来て一年と数ヶ月…まさか僕が指導役に選ばれるなんて…。
校長からの頼みだから仕方なく受けたけど、やはり疲れる…別に浜深さんに問題がある訳じゃ無い。
浜深さんは熱心に仕事を覚えようとしているし、生徒とも仲良くしようと頑張っている。
……問題があるのは僕だ。
「早く守夜さんと仲直りしなきゃなぁ…」
朝からずっと守夜さんの事を考えっぱなしだ。
喧嘩の原因が原因なので此方から謝るのはシャクだと思っていたが、そうも言ってられなくなってきた。
守夜さんがあの状態ならいつかバレてしまう。
「今から謝るかな…」
受話器を取り、番号に人差し指を持って行く。
「……電話はダメだな」
守夜さんと電話で話して上手く話せた例しが無い。
受話器を置いて、再度畳に寝転がる。
「流石にフラれたかな…」
実は今日の放課後に謝ろうと思っていたのだが、守夜さんは僕を待つこと無くすぐに帰ってしまったのだ。
やはりあの昼休みの出来事が溝を広げてしまったようだ…。
240:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:19:13.29 Eo4X49+E
学校内でお互いの名前で呼ぶのは辞めようと提案したのは僕だが、初めから守夜さんは気に食わなかったのだろうか…。
「とにかく…明日謝らなきゃ」
明日の朝、学校に行く前に守夜さんの自宅に行って謝ろう…。
それが一番良い。
許してもらわなければ…。
「……はぁ~…」
大きくため息を吐き捨てると、カップラーメンに手を伸ばした。
「守夜さんの手料理が恋しい…」
人の手料理に慣れると、インスタントは本当に味気なく感じる。
お湯を入れて三分で出来る料理より、一時間待って僕の為に作ってくれる料理の偉大さにこんな時に痛感するなんて……本当に早く謝って関係を修復したほうがよさそうだ。
―翌朝。
朝早く起きた僕は早速守夜さんの家に向かった。
「守夜さんいますか?守夜さん?」
しかし、先ほどから何度となくノックをしているのだが、出てくる気配を見せない。
仕方なく合鍵で扉を開けて中を覗き込んでみた。
「あれ…もう学校に行ったのかな」
既に守夜さんの靴は玄関から消えていた。
何か授業の準備でもあるのだろうか?
腕時計に目を落とす…まだ6時になったばかりだ。
「僕も学校に向かうか…」
学校に居るなら学校で謝ればいい。
241:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:19:37.85 Eo4X49+E
どうせ生徒達はグラウンドと体育館で遊んでるはずだ。
この時間帯に学校に向かったなら、職員も少ないだろう。
謝る場所が少し違っただけだ…問題無い。
守夜さんの家の扉を閉め鍵を掛けると、足早に学校へと向かった。
―学校へ到着すると、まず校門から見える図書室に目を向けた。
カーテンが閉まってる…となると別の教室。
「まだ来てないって事は無いだろうし…」
「須賀先生!」
表玄関から職員が慌てた様子で走り寄ってきた。
どうしたのだろうか?
「早く、校長室へ行きなさい!」
「ぇ…校長室ですか…?でも鞄は…」
「そんなもん私が預かってあげるから早く!」
職員に背中を押されて学校へと入った。
なんだろうか?
何か問題でも起きたのだろうか…もしかして昨日の浜深さんの指導が悪かったとか…。
「はぁ…胃がキリキリする」
次から次へと問題が出てくる…守夜さんにも謝らなきゃいけないのに。
重い足取りで校長室へと向かうと、校長室の扉を軽く二回ノックした。
「はい」
中から聞こえた声は校長の声だ。
「あの~、須賀ですけど…」
「入っていいよ」
「はい、失礼します」
扉を開けて中へと入った。
242:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:20:04.10 Eo4X49+E
―まず目に飛び込んで来たのは、車椅子…そして守夜さんの後ろ姿だった。
周りには数人の職員達が此方を見ている。
「……藤咲先生の横に立ちなさい」
校長の指示に従い、守夜さんの隣に立つ。
意味が分からず、理由を求めるように守夜さんを見下ろした。
「ぇ…しゅ、守夜さん!?どうしたんですかその頬!!」
守夜さんの頬には赤く滲んだ大きな絆創膏が貼られていた。
おまわずしゃがみこんで守夜さんの頬に目を近づけた。
昨日の夕方までこんな傷なかった…だとすると昨日の学校の帰りか昨日の夜…そして今日学校に行く時…。
「昨日の夜に包丁を滑らせて怪我をしたそうだ……後数センチずれていたら命に関わったそうだよ」
「ッ……(僕は何をしているんだ!)」
心の中で自分に激怒した。
守夜さんは車椅子…こういう事故はいつ起きてもおかしく無かったはず。
もし僕が守夜さんについていたら、こんな事故は……。
「冬夜…ごめんなさい……これで…許して…」
「ぇ…何を許y「それでだが…君に聞きたいことがあって呼び出したんだ」
校長の声に我に返った僕は守夜さんから手を放して立ち上がった。
243:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:20:27.29 Eo4X49+E
―しかし、守夜さんが放した手をギュッと握って来た。
再度守夜さんを見下ろして手を放そうとした……が、守夜さんは僕の手を放さなかった。
震える汗ばんだ手で僕の手を一生懸命握っていた…。
「はぁ……付き合ってるんだね?」
校長がため息を吐き片手で頭を押さえると、椅子に腰かけた。
他の職員も何とも言えない顔を浮かべて立っている。
「……はい」
これはもう誤魔化しようがない…。
いつの間にか守夜さんの事も普通に呼んでしまっている。
「分かった…これは教師としてでは無く、一人の人間として聞くが…守夜と結婚する気はあるのか?」
「…ありますけど……今の僕でy「冬夜とはもう結婚も決まっている。ただ、ちょっと様子を見ていただけなんだ」
「そうか…なら皆に報告しなきゃな」
報告?なんの報告だ?
しかも結婚が決まってるって…。
「ちょ、ちょっとまっy「守夜も結婚かぁ…島の皆が喜ぶな」
「喜ぶどころじゃないだろ。早く子供見せてくれよ!」
「式は早いほうがいいだろ。いつするんだ?」
「まだ詳しく決まっていないが、今年中にはしたいな…」
おいてけぼりのまま話が進んでいく。
244:夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 19:21:25.63 Eo4X49+E
別に守夜さんと結婚するのが嫌な訳じゃ無い…嫌な訳じゃ無いけど、結婚はちゃんと二人で話し合って―
「それじゃ、結婚式は10月ぐらいはどうだろうか?ねぇ。冬夜…」
守夜さんが僕を見上げる。
その眼は僕の全てにすがり付くように弱い眼をしていた。
「…そうですね」
コクッと頷き守夜さんから目を反らした。
結婚は切っ掛けだとよく言われているが、これが結婚する切っ掛けだったのだろうか?
―分からない…分からないけど、皆が話す内容に僕は他人事の様に無言で頷く事しかできなかった。
245:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:23:25.38 Eo4X49+E
ありがとうございました、投下終了です。
夜と闇はあと一回~二回で終わりです。
246:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:39:39.67 dBLkz/2R
>>245
乙
冬夜に何かイライラする しっかり支えてやれ的な
247:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:43:30.91 voZfCAJX
複数連載してると時折ごっちゃになる、といわれているがその様を見た
248:名無しさん@ピンキー
11/07/14 19:48:55.08 Eo4X49+E
あれ…何か間違ってましたか?
249:名無しさん@ピンキー
11/07/14 20:03:57.78 gCOJclFu
>>236かな?
250: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/14 20:09:34.29 Eo4X49+E
本当だ…。
>「ダメだッ…私の醜い嫉妬がライトを怒らせた可能性もある…」では無く
>「ダメだッ…私の醜い嫉妬が冬夜を怒らせた可能性もある…」です。
すいませんでした…。
次から気を付けます。
>>249
ご指摘感謝します。
251:名無しさん@ピンキー
11/07/14 23:20:19.75 w85DUt+f
>>245
投下乙
面白かった
不穏な空気が漂ってるけど
二人には幸せになって欲しいな
252:名無しさん@ピンキー
11/07/15 07:33:08.00 2Fsv8aDl
GJ!
冬夜にイライラはわかるわw
守夜さんの病院の先生に拗ねて(嫉妬?)見せたくせに自分は棚上げだし、てか嫉妬される=信用されてないとか思考が短絡的すぎてもうね!
とりあえず守夜さんは可愛い
253:名無しさん@ピンキー
11/07/15 23:36:32.04 pVERdQO6
保管庫更新感謝します。
254:名無しさん@ピンキー
11/07/16 00:58:40.29 6vaenxm2
浜深先生はどう動くんだろうか…
255:名無しさん@ピンキー
11/07/16 16:23:35.97 zVgpGWAI
このスレに書いてたwkzのひと、プロデビューしたんだね
256:名無しさん@ピンキー
11/07/16 23:58:25.50 PtXR4jft
人すくないなぁ…
257:名無しさん@ピンキー
11/07/17 00:13:40.92 EotrCIil
保管庫更新ありがたいです
258:名無しさん@ピンキー
11/07/20 17:05:44.39 ri785uPi
キャッチャー
259: ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:39:15.64 FTrQPxxE
夢の国投下します。
260:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:39:52.13 FTrQPxxE
「それじゃ、水汲みに行ってきますね」
「気を付けていくんだよ。森の中に入らなきゃ安全だから道を歩いていきな」
―翌朝、食事を終えた俺は老婆から頼まれた水汲みに向かう事にした。木の水桶を二つ掴み外へと向かう。
「あっ、ライト私も!」
食事をしていたメノウが、スプーン床に置き此方へ歩み寄って来た。
「ダメだ。メノウは食事がまだ終わってないだろ?」
で歩み寄ってくるメノウを片手で拒み、座るよう促した。
「帰ってきたら食べるからメノウも一緒に行く」
「ダメだ…メノウは此処で待つんだ」
メノウに背中を向けて靴を履く。
俺の肩に乗っているティエルが心配そうに俺を見ているのが視線で分かった…。
だけどこれもメノウの為なのだ。
「ライト!た、食べたよホラ!これでメノウも一緒に行っていい?」
靴を履く俺の横に走り寄ってくると、空になった皿の中身を見せてきた。
「…俺が帰ってくるまで此処で待つんだ」
「ライト……なんでメノウにイジワルするの!?」
立ち上がり家を出ようとする俺の前にメノウが立ちふさがり、睨むように見上げて来た。
「はぁ…別に意地悪じゃないよ……とにかくメノウは此処で待つんだ」
261:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:40:41.18 FTrQPxxE
「いやッ!メノウもライトと一緒に行く!」
自分の靴を慌てて履くと、俺の腕を掴んで外に出ようとした…。
「メノウ…い…言うこと聞かなきゃ…置いていくぞ」
―自分でも分かるぐらい声が震えていた。
メノウの手を払い外へと出る。
「置いていく?…なんで…そんな……」
「泣かずに此処で待ってろ…そしたら戻ってくるから」
涙声になるメノウに言い放つと、そのまま川へと足早に向かった。
「ライト~…あんたのする事間違って無いけどさぁ…ちょっと極端すぎるんじゃない?」
俺の肩に乗り耳元で愚痴るティエル。
極端になるのはしょうがない事…だって今日にはフォルグに入国し、メノウを親に引き渡さなければならないのだ。
俺だって焦る。
「ほら、川見えてきたわよ?」
森の中を一直線に抜けるとあっという間に川にたどり着いた。
老婆から教えられた道を行けば倍近くの時間が掛かってしまう…此方にはティエルが居るからボルゾに襲われる心配は無いはず…(クーが居れば一番安心なのだが…)
「冷たいわね……雪解け水かしら?」
ティエルが俺の肩から飛び降り、川に口をつけている。
262:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:41:07.05 FTrQPxxE
この山の裏は雪原が広がっているそうだから川に流れてくる水は間違いなく雪解け水だろう。
「よし…早いとこ済ませよう」
ティエルの横に座り水桶に水を汲んだ。
「ふ~…帰る…か…?」
ふと、水の中に目を向けた。
水の中には小さな魚達が元気に泳ぎ回っている。
川なのだから当たり前だ……それを目で追っていると一匹の魚が水面を綺麗に跳ねて見せた。
「ぉ……ッ!(な、なんだ…?)」
軽い立ちくらみがしたかと思うと、突然景色が色褪せ俺以外の全てのモノがゆっくりと動きだした。
ティエルの悪戯かと思いティエルに目を向けるが、同様にティエルも固まったまま動かない。
音も聞こえない―色も無い―。
目の前には先ほど跳ねた魚がゆっくり宙を舞っている。
「…(なんだろコレ…夢?)」
おもむろに魚に手を伸ばし、掴んで見た。
「うわぁあ!ライト凄い!!!」
ティエルの声と共に景色が瞬時に元に戻る。
「はぁ…はぁ…なんだ…今の?」
一瞬だが自分の身体じゃないような感じがした…。
「ねぇねぇ、もう一回やってよ!!」
ティエルが俺の膝に飛び乗ると、目を輝かせながら騒ぎ出した。
「…もう一回って何がだよ?」
263:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:42:10.77 FTrQPxxE
「一瞬で跳ねた魚をパシッ!て掴んだじゃない!!」
魚を掴んだ?
夢の話か?
「……あれ…?」
確かに…右手には魚が握られていた。
ピチピチとヒレを動かしてるあたりまだ新鮮な魚のようだ。
「これ…本当に俺が掴んだのか?」
確かに先ほど魚を掴んだ記憶はある…だけど自分の意思では無かった気がする。
「あぁ、そういえばライトは“人間の権利”渡しちゃったんだったね」
「人間の…権利?」
「ほら、あんたドラグノグの瞳使って自分の願望叶えちゃったでしょ?」
「願望…あぁ、あれか」
確かに…“あそこ”に居るホーキンズを攻撃する者達に殺意を持ったのは確かだ。
結果、数多くのバレン人を虐殺したことになってしまったが……俺は後悔していない。
「あの時、ドラグノグの力の権利とライトの人間である為の権利を交換する事になったの」
「なんだそれ!そ、それじゃ俺は今人間じゃないのか!?」
勘弁してくれ……自分の願望を叶える為に人を殺し、その為に人間の権利を捨て…これじゃ本当に魔王じゃないか…。
「人間は人間よ?ただ、ドラグノグの力の一部を貴方が貸してもらってる状態。言わば等価交換ってやつよ」
264:夢の国 ◆ou.3Y1vhqc
11/07/22 01:42:45.59 FTrQPxxE
「人間の権利とドラゴンの力…等価交換になってんのかよ本当に…」
「本来ならそんな契約あり得ないわね。人間の権利がほしいって思ったのもドラグノグみたいだし…あの子何考えてんのかしら」
俺に聞かれても分からない…ドラゴンが何を考えてんのかなんて……逆に人間が何を考えているのか分からないから、人間の権利を欲しがったとか…。
「てゆうか、ドラグノグはどうしたよ?」
気づけばいつの間にか空を飛んでいたドラグノグは姿を消していた。
「う~ん…ちょっと前に念飛ばしてきたけど……余(よ)の微笑みを受けて顔を強張らせた事を罪に思うがいい…とかなんとか…」
「なんだそりゃ?俺ドラグノグと会話なんかしたことないんだけど」
まったく意味が分からない。
いったいなに目的でアイツは俺達についてきてたんだか…。
「てゆうか人間の権利とやらを使って何をするんだ?」
「人間になってどっかで暮らしてみたいんじゃないの?あの子変わってるみたいだから」
ティエルはドラグノグをあの子呼ばわりしてるが、俺は一度痛い目に合っているので口が避けてもそんな事言えない。
「あれ…そう言えばドラグノグと戦った時に……いや…あり得ないな…」