11/07/12 16:02:22.11 vuqkB5PE
「エリィさん、私このあと、IBCに行ってきます。」
「あら、メンテナンスのお手伝い?」
「はい。夕方には戻ります。」
ティオがエリィの正面に立つ。
「ロイドさんに言いたいこと、一杯あるんじゃないですか。」
「え。」
エリィは一瞬驚いたが、直ぐに思い直す。
考えてみれば、彼女の憤りを共有していたのは、アロネだけではなかったのだ。
「そう、ね。沢山あるわね。」
「それを今日、言ってあげてください。あのにぶちんさんに思い知らせてあげてください。
今まで、今日までずっと、エリィさんがどれだけロイドさんの事で気を揉んでいたのか。」
「ティオちゃん…。」
ティオがゆっくりと、エリィに寄りかかる。抱きしめられながら、彼女は自分の行動を不思議に思う。
驚くほどに自然な行動だった。体が勝手に動くというのは、こういう事を言うのだろう。
そうしてまた、仔猫のように、彼女の豊かな温もりに擦り寄るのだった。
一同は駅を後にする。
ランディは繁華街へ、ティオはIBCへと出かけていった。
最後にキーアを日曜学校に送り出し、エリィ、ロイドの二人は支援課ビルへと戻ってくる。
「昨日までの賑わいが嘘みたいだ。」
すでに課長もどこかへ出かけていた。書置きを見ないまでも、また明日の朝ひょっこりと帰ってくるであろう事は、想像に易い。
ロイドが静まり返った室内を見渡し振り返ると、玄関を後から入ってきたエリィが、神妙な顔つきでこちらを見ているのに気づいた。
「ん、どうしたんだ、エリィ?」
「いえ…。ロイド、少し時間をもらえる?」
ドアのベルが乾いた音を立て、閉まった。
リビングにてロイドは手帳を開き、一連の事件を振り返る。
それはいつも彼が報告書を作るうえでのプロットの作成と、チームの反省点を組み立てる前哨としての、大事な作業だった。
エリィがキッチンに入ってしばらくたつが、部屋にはドア越しに彼女の立てる音以外、何も聞こえてこない。
ツァイトもどうやらティオについていったようで、ロイドが机の下を覗いても空のエサ箱だけが佇んでいた。
「なあに、机の下に何かあるの?」
キッチンを出てきた彼女の声、それに返事をするように豪快な音が返ってきた。
「あだっ!」
「きゃっ、大丈夫?ロイド。」
後頭部を机に打ちつけ、頭に手を添えながらロイドが這い出す。顔半分をしかめながら、あわてて隣に座るエリィに微笑みかけた。
「ハハ、ペンを落としたんだけど、うっかりしてたな。」
「ごめんなさいね、急に声かけて。見せて?」
エリィがロイドの頭を優しくなで、打って赤くなっている部位を見た。
彼らしからぬ事故に、彼女は少し首を傾げたが、頭を抑えるロイドの手がやや強張っているのに気づく。
(ロイドも…、緊張してる?)