ファルコムでエロ小説PartⅦat EROPARO
ファルコムでエロ小説PartⅦ - 暇つぶし2ch150:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:55:37.79 GLr7oSXO
***

不幸中の幸いと言うべきか、鋭く研がれた小さなナイフは、ロイドの手の甲から入り、骨を綺麗に避けて刺さっていた。
簡単な治療を支援課のビルで受けるだけに留まったのは、気絶のその理由も、寝不足からくるものと判断された為だ。

「目が覚めたら栄養のあるものをしっかり摂っていただければ、全快は直ぐですよ。」
「ありがとうございます、リットン先生。」
「いやー、皆さんに先生って呼ばれると照れますね。じゃ、私はこれで。」

お辞儀をし、緊急で駆けつけた医師は、部屋を出た。安眠の妨げにならぬよう、関係者一同もその後に続く。
アロネの部屋のベッドに寝かされたロイドの寝息が、時計の秒針と静かなアンサンブルを奏でていた。その掌には包帯が巻かれている。

「それにしても俺達の役者っぷりも捨てたモンじゃないな。」

一階のリビングに降りたところで、ランディが愉快そうに言う。
今回の犯人を騙す形での捜査には、感づかれることが最も恐ろしいリスクだったが、彼らは見事それを乗り切った。

「これまでも色々似たようなことしてましたから、慣れてしまったのかもしれませんね。」
「ああ。それにしてもロイド、いつのまにキーアにまで仕込んでたんだかな。子供は正直者だからよ。やっこさんもそれで信じたんじゃあねえのか?」
「え、なあにランディ?」
「ほら、ロイドが夜な夜などこか行ってたってやつよ。迫真の演技だったぜ。」
「えんぎ…?でも、ロイドほんとうにどこかいってたよ?」
「おいおい。もう良いんだよキーア。全部終わったんだ。」

本当なのに、と顔を膨らませるキーアの頭を、ランディがかき混ぜながら笑う。

「それで、課長はいつロイドさんから説明を受けていたんですか。」
「ん?なんの話も聞いてねえよ。」
「え?」
「お前らが妙な遊びをしてたからそれに付き合ってやっただけだ。」
「本当に、それだけですか?」
「クク、俺をカヤの外に追い出してくれるとはやってくれるぜ。おかげで逮捕するときは遠慮なくいけたがな。」

そうして、彼はビルを後にし、捜査官の波に消えていった。

「部下が部下なら、上司も上司だな。」
「ドノバンさん…。」
「やっほー。ティオちゃん。」
「ロイドのやつはセルゲイをあえてハブることでリスクを背負ったんだろうよ。何かあれば警察全体の責任に発展しかねないからな。」
「そのわりに妙に落ち着いてましたよねえ。これも捜査官の勘のなせる業ってやつでしょうか。」
「フン。どうだろうな。」

レイモンドが首を傾げながら、突き進んでいくドノバンの後についていった。
ティオは後で腰掛けるツァイトの頭を撫でながら、小さなため息をつく。
このあと受ける煩雑な質問攻めを思い、その返答をあれこれとシミュレーションしていた。
その思考を遮るように、何度もロイドの掌の傷が思い浮かぶ。

(完全に、気を失っていたはず。)

彼女もランディと共に、即座に彼の元に駆けつけていた。
背を向けていたとはいえ、彼女の鋭敏な五感は、彼に意識が無かったことを告げている。

151:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:57:31.82 GLr7oSXO
(それなのに…。)

エリィに届かなかったナイフ。
疑問を浮かべ、推理をすすめ、しかし彼女はその行き着く場所に足を踏み入れるのを拒否した。

(今更ですね。)

そしてその度に、嘲笑が漏れた。

「あ、皆様。ここにいらっしゃったのね。」

やがて二階でカウンセリングを受けていたアロネとエリィが降りてくる。
彼女達はメンバーを見つけると、その輪に加わった。

「おーう。その様子を見るにたいして必要じゃなかったんじゃないか。」
「ふふ、こう見えてもそれなりの厄介ごとには直面してきましたもの。」

そうして微笑むアロネだが、やはりその顔には陰りが見えた。

「皆様には、謝らないといけませんわ。あのお店で言ったことを…。」
「ああ、いいのいいの。気にしてねえよ。」
「当然の反応です。」
「そうですけども、わたくしの気が済みませんわ。本当に、ごめんなさい。」

アロネは顔をあげ、ひそめた眉もそのままに告げる。

「それで、皆様にお願いがありますの。」

振り返るアロネと、エリィの目が合った。

再び街に風が吹く。
わずか一日をして、噂の的に突きつけられた矛先は一部を除いて賞賛の声と変わり、連続窃盗犯、放火犯の完全な沈黙は、人々に安息を与えた。
一部を除いて、というのは、過程において生じた問題に対する批判であり、その責任を問うまでは発展しなかったものの、セルゲイは代表として叱責を受けることになる。
もっとも、彼の監督不行き届きは今に始まったわけでも無く、狐は苦々しげに髭を撫でるのだった。

爆弾騒ぎは朝日に溶けて消え、それが幻だったと錯覚させるほどに、クロスベルは日常へと戻っていった。

「え、じゃあ俺は丸一日寝ていたのか!?」
「そういうこふぉいなるな。」

お見舞いとして届いたリンゴをほおばりながら、ランディが言う。
彼らは皆ロイドが目を覚ましそうというキーアの嬉々とした叫び声に、アロエの部屋に集合していた。

「良かった、本当に良かったですわ。」
「あ、アロネ…エリィ。怪我は無いのか。」
「ええ。おかげさまで。」
「そうか。っつ…これは無事じゃ済まなかったのは、俺のほうだったみたいだな。」

ロイドが右手の包帯を見て苦笑する。
その仕草は、周囲に様々な表情の変化を与えた。
無論彼はそれに気付かない。抱きついてくるキーアを優しく左の腕で抱きかかえ、鼻先をこすりつけてくる無邪気な愛撫に身を任せていた。

「まあ安心しな。全部終わったよ。俺としては楽しかったぜ。またロイド作詞の一幕するときは遠慮なく言ってくれ。」
「…ランディさんの演技にはなにやら日ごろの鬱積が篭っていたように見えましたけど。」
「はーっはっは!さーてお兄さんがうまーい飯つくってやるよ!」

152:共に歩みぬく意志
11/06/08 23:59:07.56 GLr7oSXO
ランディがリンゴの芯をしゃぶりながら一階へ降りていく。

「今回は名目もあるのですから、今のうちに休んでおくと良いかと。それも、リーダーの仕事です。」
「あ、ああ。ありがとうティオ。」

彼女も部屋を後にした。

「その、二人とも…。」
「良いのです。ロイド様がご無事なら、それで。」
「そうよ。心配したんだから。」

眉間にしわをたくわえるロイドを慰め、二人は立ち上がる。

「私も、お茶をいれてくるわね。」
「わたくしも。ロイド様、どうか養生なさってください。」
「ああ。そうさせてもらうよ。」
「おやすみなさい、ロイド!」

残りの一同も部屋を去る。

「まいったな…ある程度自己管理はしていたつもりなんだけど。一日ごっそり寝て過ごすなんて。」

ふとベッドの下を見ると、ツァイトがうずくまって寝ていた。

「はは、一応守ってくれてる、のかな。」

返事は無く、その尾が左右に二度、振られただけだった。

***

―明日になれば貴方は、発ってしまう。

「ん…。」

―どうして?わたくしの事が…お嫌い?

「む…む。」

―お願い!どうかわたくしを…

「…んんんっ!?」
「ロイドさま。」

ロイドが目を開けると、眼前にアロネの姿がぼんやりと浮かんでいた。
ぼんやりとは一瞬の事で、直ぐにその鮮明な全様が飛び込んでくる。そのほとんどを濡れた磁気のように艶を帯びた肌の色が占めていた。

「アロネ?こ、これは一体…。」
「やはり、まだ充分の休息ではないのですね。わたくしがこうしてお待ちして、一時間目覚めないのですもの。」

ロイドを四肢で跨ぎ、はだけた前を隠そうともせず、アロネは彼を真っ直ぐに見つめていた。
状況の整理が出来ないままうろたえる様に、くすりと微笑む。

「変わってませんのね。思い出しますわ…。一年前もこうして貴方にお情けをと。」
「ああ…いや、それはともかく一時間も?いそいで服を。」
「ロイドさま、お願い。」

153:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:00:39.92 GLr7oSXO
焦るように、アロネはロイドに抱きついた。
柔らかな重みが胸にかかり、ロイドの腕を止める。それは抱きつくというよりは、しがみつくといったほうが正しかった。

「どうか、わたくしを…抱いてくださいませ。」

この時、支援課のビルを、三階を中心に異様な緊張感が支配していた。
二階の部屋には、ランディがくつろぎ、一階ではツァイトがキーアの遊び相手をしていた。
セルゲイが居ないのはいつもの事だが、この雰囲気の異常さは、一階玄関から入っても感じ取ることが可能であろう。

事件を終え、アロネはお願いがあることを告げ、こう続けた。

「わたくしとロイド様に、二人でお話する時間を下さいまし。」

ランディ、キーア、そしてセルゲイからすれば、何故改めて今頃とも思えるものだったが、女性陣は流石にその意味を汲み取れないほど鈍感ではない。
エリィはもとより話しをつけてあったのだろうか。穏やかではないにしても承諾していた。
しかしあと一人の表情は、瞬間明らかに不満を浮かべたことは、誰にも悟られていない。

「アロネ…。」
「一年前のあの日からずっと、この気持ちに変わりはありません。愛しています、ロイドさま。」

見つめあう二人の影が、ベッドランプのほのかな灯りにより、しかし鮮明に壁に映し出される。
その距離は徐々に縮んでいった。
そのアロネの部屋の壁一つとなり、即ちティオの部屋に、愛を育もうとしている二人の部屋側に、ぴったりと背中をつけて座る来客が居た。

「…お疲れなら横になったらどうですか。エリィさん。」

顔を横に逸らし、耳を立てようとしていたエリィが、ハッと向き直る。

「い、いいえ、いいの。これでも十分楽だから。ごめんなさいね急に。なんだか話し相手が居ないと落ち着かなくて…。」
「…別に構いませんけど、お話をしていても落ち着かないみたいですね。」

エリィは先ほどから髪をなぶり足を摺り寄せ、それはまるで雨に踊る百合の花のようだった。
その姿に、ティオは確かな不快感を覚えていた。
彼女はロイドの掌の傷の意味を理解していないのではないか、だからこんな彼女らしからぬ行為に出ているのではないか。
いつしか疑惑は嫉妬を混じえ、怒りへと代わる。
深淵に渦をまきはじめたその怒りは、顔を出すのを待ち構えながら水面を揺らす。

「そんなに気になりますか。お隣さんが。」
「そういうわけではないけど…。」
「ご安心ください。ロイドさんはにぶちんもびっくりの、超一級のにぶにぶですから。それに二人の会話は聞き取れますから大事に至れば把握できます。
前の事件が解決したときの夜だって…」
「えっ…?」

ティオはしまったと口を塞ぐ。いつの間にか渦は表に至り、言葉として出ていた。
それが衝動的な感情であれば、ティオにはありえない失態だった。エリィのほうを見るのがためらわれ、彼女は顔を伏せ、続ける。

「…ですから、気にしなくても大丈夫です。盗み聞きが得意なのは、私一人で十分です。」

吐き捨てるように言い切る。
耳を塞ぎたくなるように頭が鳴り痛んだ。浮かぶのは、居場所が消えるであろう事に対する後悔、そして純粋な恐怖だった。
伏せた顔から、光の感触が消える。彼女は体をこわばらせ、歯を噛み締めた。

「……?」

頬に飛んでくるであろう衝撃は、まったく違う感触として彼女に届く。

154:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:02:07.21 GLr7oSXO
「エリィ…さん?」
「ごめんね、ティオちゃん…ごめんなさい…。」

エリィが謝っている。それが何故なのかティオには理解できなかった。
おいたをしたのは自分であり、それは情事の盗聴という、世間ではおよそ許されないことであり、それを暴露した自分に待っている結果は、痛みのみのはずだった。

「どうして、謝るのですか?理解できません。」
「アロネが言ってたの。ティオちゃんが、ロイドの事を好きだって…。」

ティオの顔がみるみる朱に染まる。

「ち、違います。そんなこと、真に受けないで下さいっ。」
「私だって、根拠もなくこんなこと言わないわ。意識して気づかなっただけで、思い当たるフシは沢山あるもの。
だから今解かったの。ティオちゃんの気持ち。」
「なんでそう言い切れるんですか…。」

エリィは腕の中で、小さな体が震えるのを感じ取りながらも、続ける。

「ティオちゃんは、出会ったときからすごく可愛くて、素敵だったわ。でも、最近はその比じゃないもの。」
「…。」
「嬉しかったり、怒ったりしたときも、顔に良く出るようになったわ。さっきみたいに。
それが誰のせいなのか…考えないようにしてきたけど。」

自分の心のうちを見透かされることほど、気分の悪い事はない。
ティオは渦に飲まれたままの自分を意識しながらも、抑えられずには居なかった。

「それと、謝ることと何か関係があるんですか?。」
「私がティオちゃんだったら、耐えられない。ティオちゃんだって、あの日のロイドが普通じゃなかったことは、気づいていたでしょう?
私は舞い上がってしまっていたの。あなたの気持ちも考えないで…。」
「…そうだとしても、どうして…」

ティオがエリィの腕を押し戻し、真正面から見つめる。

「どうして、ロイドさんの事を信じてあげられないんですか?あの人は…あの人は本当にエリィさんの事が好きなんです!」
「ティオちゃん…。」
「そうじゃなければ…あのナイフだって…。」

エリィはまだこの週の疲れが抜け切っていない表情で、それでも精一杯に微笑む。

「解かってるの…ロイドが、守ってくれたことの意味。信じていない訳では、けっしてないけど、万が一ロイドがアロネさんと、その、そういう事になっても、止めるつもりはないわ。」

え、とティオが声にもならぬまま驚きの表情を浮かべる。

「だって、私にとってもそうなように、彼女にとって、大事な存在なんですもの。一年越しの想いを邪魔をする権利は、今の私には無いわ。」
「…。」
「でも、現実を受け入れるために、直接自分の耳で確かめたかったの。ただ、それだけ…。だからこんなこと…。
笑っちゃうくらいに、独りよがりだけど。」
「…エリィさん。」

155:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:03:50.51 GLr7oSXO
その時ティオの耳に届いたのは、エリィの告白だけではなかった。

「…エリィさんなら…きっと、大丈夫です。」


「…どうしても、抱いていただけないのね。」
「ごめん。アロネ。君が嫌いなわけじゃないんだ。」

ロイドはアロネを抱きしめたまま、天井を見つめていた。

「昔言っていた、想い人が、見つかったからですの?」
「想い人…そんなことも言ったっけか。」
「ええ、おっしゃいましたわ。顔もわからない、声も思い出せない、と。」

ロイドは苦笑した。アロネを抱きしめたまま上体を起こし、彼女の肩を掴む。

「そうだな、見つかったのかもしれない。いや、見つかったんだな。」
「エリィさん…なのですわね。」

ロイドは頷くかわりに、僅かに視線を傾けた。

「わたくしは…貴方の心に彼女がいることも、勝ち目が無いことも存じてますわ。」
「…。」
「でも、二番目以降でも良いの。事故と想っていただいても構いませんわ。一度だけ、どうかわたくしに、貴方への想いを…。」
「尚更、出来ないよ。」

ロイドはアロネの髪をそっと撫でる。

「君みたいに綺麗な人を、事故扱いで抱くなんて。それに…エリィは、俺にとっての、一番じゃないんだ。唯一人、なんだ。」
「…」
「この先、もし俺が好きになる人が出来るとしたら、それはエリィの別の一面に対してだろうし、浮気するとしても、雰囲気が違う、髪型の違う、エリィが良いんだ。」

そこまで言いながら、ロイドはかすかに照れたように頬をかいた。
アロネはしばらく悲しそうな瞳を彼にむけていたが、やがて笑みに代わり、自らの腕を抱きすくめる。

「ふふふ、やっぱり、あなた様は、わたくしの真の理想のお方ですわ。」

(本当の意味で…だからこそ、届かない…。)

「でも、君は俺の大事な親友だ。そうだろう?」
「え?きゃっ…。」
「だからこうして、一緒に寝そべって、昔のことを話すのなら、誰にも咎められないはずだ。」

ロイドは自分の毛布をアロネにかけると、背に手をまわし、自分の隣に横たわらせる。

156:共に歩みぬく意志
11/06/09 00:05:20.30 GLr7oSXO
「これくらいしか、俺には思いつかないけど、だめかな?」

アロネは少女のように笑い、すこし目尻を拭き、彼の肩に頭を寄せた。


「…だから、ずっとロイドさんの傍にいてあげてください。」
「…。」
「私が好きなロイドさんは、きっと、『エリィさんの事を好きでいる』ロイドさんなんです。」
「ティオちゃん…。」
「支援課の皆も、ランディさんも、ツァイトも、キーアも、セルゲイさんも…皆好きです。
エリィさんのことも…大好きですから。」

エリィは泣き出しそうな顔で、たっぷりの羽毛を持つ親鳥のように、ティオを包み込む。
その腕の中、くすぐったそうに眉をひそめ、しかしその体のふるえはすでに止まり、ティオは、心地よい温もりに身を任せていた。

そして、いつかのウルスラでの出来事を思い出していた。
あの時、心の暗闇に灯った、近く、大きく広がる、血の巡る月の光。
そのパールグレイは、月の表面ではなく、エリィより美しく流れる、髪の輝きだった。

157:名無しさん@ピンキー
11/06/09 00:11:18.06 IEpw5f9z
以上です。
失敗してしまって本人にもこのスレ見てくれてる人たちにも迷惑かけてしまい、大変申し訳ございませんでした。
これからは同じ失敗のないように精進していくので、今回はどうかお許しくださいm(_ _)m

158:名無しさん@ピンキー
11/06/09 07:58:33.23 Zx4AS6nM
続きキター! GJ!
浮気も、雰囲気と髪型の違うエリィが良いなんてカッコ良すぎるぞ攻略王!

>>165
どんまい。気にするなー。


159:名無しさん@ピンキー
11/06/09 10:33:55.63 r9riyVEi
なんだよ陵辱物じゃねーのかよ死ねよ糞カスww

160:名無しさん@ピンキー
11/06/09 11:14:08.59 IWyVZQFj
純愛ラブラブちゅっちゅが好きな俺は
凌辱はちょっと・・・

161:名無しさん@ピンキー
11/06/09 11:53:43.77 BxDFaxuj
エリィかわいいマジかわいい

162:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/09 19:20:07.13 hyfYkAu/
某所でエリィ陵辱絵見たけどやっぱり純愛の方が良いな。
と言うか調教とかマジ無理

163:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 12:35:19.31 uMJWF2M2
最近は寝取られとかデブとか人気あるみたいだけど
そっち方面ならok?

164:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 13:10:20.89 rjLAZQgp
御免なさい無理です

165:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 13:14:45.92 LNk8Scer
寝取られ大好き
でも書く時は注意書きをしないと駄目だろうね

166:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 14:32:40.05 rjLAZQgp
寝取られよりやっぱり純愛の方が好きだな

167:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 16:34:46.51 McWoY8wt
>>174
同意。

168:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 16:40:09.49 rjLAZQgp
でもワジノエは何故か調教一歩手前な妄想しか出来ない。

169:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/10 19:57:52.89 737UV3TA
分け身リーシャを次々攻略するロイドで誰かお願いしまつ

170:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 04:11:45.41 CcMwzJny
>>174
自分も同意。

171:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 08:53:04.19 jDMpU2Fu
んだんだ

172:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/11 11:03:59.17 e4+XQsbh
グルーダをアドルに寝取られたエルディールが、当て付けにドギと…
みたいな地獄の様な設定でどなたかお願いします

173:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/12 14:05:46.09 dHePh5cO
アガッさんとヨっきゅんの両腕脚きりおとして達磨になってる目の前で
ティータちゃんとエステルちゃんをボコボコにしながら犯しまくりたい^^
死なない程度にボコりつつ妊娠するまでひたすらやりまくって
赤ちゃん産まれるまで全員虫の息で生存させといて、
やがて出産になったら産まれた赤ちゃん踏み潰してアガッさんとヨっきゅんに美味しく味あわせたい

174:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/13 12:07:15.27 ug+TgUKg
ヨシュアやアガットが知らないところで犯されるティータやエステルが見たい。
そしてそのことがばれた時の反応が楽しみ

175:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 00:34:16.49 iUQbUXOK
シャーリィはこのスレでネタにされそうな気がする
あの世界であんなに露出が多い格好だからなぁ

176:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 02:31:44.57 XicsqzaE
くそっ!ロイドとエリィのイチャラブとか淫乱痴女なエリィさんとかばっかり浮かびやがる!


177:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 09:40:12.60 NVCUvmic
後者はロイドを襲うのか。
ランディの入れ知恵でドSを演じるエリィとか面白そう

178:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 20:03:17.62 PUZqQDEs
そして途中でスイッチが入っちゃって股間がバーニングハートなロイドさんと立場反転しちゃうんですね

179:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/17 20:15:11.08 NVCUvmic
ありえそうですね。
後ワジノエは途中でワジにおねだりするノエルさんとか

180:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 16:56:04.48 CFfgRXGh
特務支援課解散から再結集まで間が空いてたら、エリィさん悶々とした日々送ってそうとか
考えてしまう。手紙すら送ってこないロイドさんを思ってオナヌー三昧とか

181:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 18:17:10.33 w3yz9BAM
ロイドさんをネタにオナヌーは零2章以降ずっとやってそう

182:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 19:08:09.31 QvGRZN2h
ノエルさんはオナヌーせずに訓練で発散とか。
そしてワジに色々されると

183:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 22:48:09.99 usJ1J9jV
零って百合もいけるよね。エリィ×ティオとかセシル×エリィとか。

184:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 22:57:24.81 CFfgRXGh
マリアベル様がみてる


185:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 23:05:20.17 wmZT5RNk
ワジの詐術に引っ掛かって手の平で転がされるノエルが容易に想像できる

186:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/18 23:05:51.77 usJ1J9jV
お姉ちゃん感じているの?とかが容易に想像できる

187:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/19 12:36:55.35 gsB+qO0W
ビッチなエリィさんも見たい

188:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 02:16:02.38 Q6oryLa6
支援課解散の夜に、ロイドを誘い出して続きの確認をするエリィをみたい

189:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/22 09:11:09.60 M3Kehb0B
お風呂でロイドにご奉仕するエリィさんとか

190:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/23 22:54:51.73 YR9Hm8uI
色々想いが爆発しちゃってロイドを押し倒すエリィが見たい


191:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/24 12:17:40.88 82Vr6YZL
セシルとイリアに翻弄されるロイドも良いと思うんだ

192:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/27 01:21:11.10 JFVK/E/I
マクダエル議長に曾孫の顔を見せるために頑張るロイドさんがみたい

193:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/29 11:35:56.81 +aO9e9J2
ロイドもそろそろエリィをオカズにしたりしそう

194:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/29 17:46:15.20 dakf63e2
セシルさんに似てるモデルが出てるグラビア雑誌を愛用してそう。
それをエリィが見付けて…

195:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/29 23:48:55.35 OZKEfZlO
エリィさんがロイドの部屋を漁ってオカズゲットしてたりしそう

196:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 01:04:13.13 B80HPgnG
エリィさんはロイドの下着の匂いかいでそう

197:Kメンテ
11/06/30 02:00:12.41 vwIHmbyD
どうしてそうも変態と化すw

198:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 06:34:53.12 KUg+hUPX
いけないと思いつつしちゃうとかあると思います。ロイドの名前いいながら、燃えてしまったり。
で、ロイドさんにみつかると。

199:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 10:39:23.74 Qp/Zslpx
ニヤニヤ

200:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 11:50:28.19 jL311HkX
そしてシャツに下着姿で自慰していた光景が焼きついて眠れないロイドの為に、
勝手に色んなもの使ったお詫びとして生のおかずになる展開まで追加

201:名無しさん@自治スレで設定変更議論中
11/06/30 14:04:21.12 Qp/Zslpx
裸エプロンやお風呂に入ってる時にご奉仕とかも良いよね

202:名無しさん@ピンキー
11/07/01 16:22:28.77 1HtqziEy
触手に襲われそうなノエルさんに危機一髪でかけつけてくるワジとか

203:名無しさん@ピンキー
11/07/01 22:04:35.51 RKJqmDis
むしろほんとに危機一髪になるまで
「ほらほらおねーさん、助けてー! って言ってごらんよ」とか言って
のんびり観察しているような気がするw>ワジ

204:名無しさん@ピンキー
11/07/02 10:34:41.33 LpJzDxjg
ありえそうで困る。
それで強がるノエルさんとか

205:名無しさん@ピンキー
11/07/03 10:10:24.07 v1p/TsPj
触手に捕まって、ノエルの太ももをそれが這い、乳房をしめあげられて、胸の頂を細い触手がはじいているのに、ワジさんなら興味深げに「今のお姉さん、色っぽいよ」とかいいかねない。

206:名無しさん@ピンキー
11/07/03 10:58:32.52 e3zHdc9J
ワジなら余裕でやりそうで困るw


ランティオSS中編投下ー。
前編は>>131-139

207:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・1】
11/07/03 11:01:34.10 e3zHdc9J


 やっと見つけた、暖かい灯り。
 今度は眺めるだけにしない。
 絶対に、手に入れる……。


※※※

 静寂というのは、近くに人がいるかいないかで随分変わってくるものですと、最近は特に思う。
(キーアはツァイトと一緒に部屋で寝てて……エリィさんは今夜もロイドさんの部屋へ行ったようで
すね)
 仕事も夕食も入浴も終えた夜遅く、ティオは自室にて聴覚をフル解放し、支援課ビル三階フロアの
様子を一気に確認すると、ふぅっと息をつく。
(……エリィさんとロイドさんは、今夜も奏でているのでしょうか……)
 恋人達の愛し合う声と音―世界で一番優しい音楽を。
(わたしは、まだ奏でる事も聞く事も出来ない音楽……)
 そう考えた途端に、ティオの胸の中へ氷の塊にも似た絶望感がストンと落ちてくる。が、首を軽く
数度振って、気持ちを奮い立たせる。
(ランディさんは、順番を経て恋人同士になったら聞かせてくれると約束してくれました)
 ならば今は。
「……わたしに出来る事を始めましょう」
 誰ともなく口ずさむと、ティオは部屋の明かりを消した。
 暗闇の帳が部屋の中へ落ちてきた数秒後、窓の外から差し込む街明かりが室内の様子をぼんやりと
浮かび上がらせる。
 ティオは棚に飾ってあるみっしぃのぬいぐるみを持ち上げると、後ろに隠してあった香水の瓶と一
緒にベッドに持ち込んだ。
 ごつごつ角張ってて少し無骨な印象を与えるデザインの香水瓶。蓋を開けると、中に詰まっていた
香りがふわりと浮き上がってくる。
 ティオは少しの間目を閉じ、香水の―ランディが愛用している香水の匂いを堪能すると、抱えた
みっしぃのぬいぐるみに香水を数滴垂らした。
 瓶の蓋を閉めてサイドテーブルに置くと、みっしぃのぬいぐるみを両手で抱き締め、背中からベッ
ドへ飛び込む。
 スプリングが揺れて背中を震わせる中、ティオはパジャマの上着のボタンを外した。
 控えめな丘陵を描く自身の胸元へみっしぃのぬいぐるみを乗せ、左手で押しつけるように抱える。
それから、右手をそっと下へ滑らすと、履いてるパジャマのズボンとパンツを下げた。
 雪のような白い肌と、その中に埋没しそうな程ささやかな茂みを生やした下腹部が露わになる。
(大丈夫だ、問題ない。練習なのですから)
 未だキス止まりで先に進まない状況を打破し、世界で一番優しい音楽を奏でる為の練習なのですか
ら。
(……とは思っても恥ずかしいものです……)
 ティオは聴覚をもう一度フル解放して誰かが来る様子が無いのを確認すると、右手を下腹部の下へ
滑り込ませた。
 茂みを乗り越え、股の中へ右手の指先が潜っていく。
「んっ……」
 外から一番離れた場所に咲く小さな花弁へ中指が触れた途端、ティオの口が自然と声を零した。
 みっしぃのぬいぐるみを強く抱き締め、垂らした香水の匂いを目一杯吸い込むと、ティオは指を曲
げる。
 花弁が開き、蜜壷へ繋がるクレバスへ中指の先が潜り込む。ぬるっとした弾力が指先と股にきて、
頭の奥に針で刺されるような刺激となる。
「ん……んんっ……!」
 ティオが思わず目をつぶって身体を固くする。光を遮断した意識へ、肺と鼻腔に吸い込んでいた香
水の匂いが流れ込み、彼の姿を記憶の中から引き出してくる。
 そのイメージを胸に抱えているみっしぃのぬいぐるみへ転化させると、ティオは右手を動かし始め
た。

208:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・2】
11/07/03 11:06:40.35 e3zHdc9J
 中指に続いて人差し指と薬指が、クレバスから蜜壷へ潜り込む。
 閉じていたお腹が内側からぐっと押し開かれる感触と共に、指先が熱くなって濡れてきた。
「ふっ……くっ……はぅっ……」
 外へ響かぬよう声を抑えて喘ぐティオの下腹部から、くちゅ、くちゅ、ちゅっ……と、少し遠慮が
ちな水音が響き始める。
 目を閉じたまま身体を揺するティオに合わせ、みっしぃのぬいぐるみも胸元で小刻みに動く。香水
の匂いをまとったぬいぐるみの毛がティオの胸や乳首をこちょこちょくすぐり、その刺激にティオが
思わず目端を歪ませ切なげな声を漏らす。
「はっ……は、ぁ……っつ……!」
 部屋の外に漏れ出ないよう抑えていた声が、徐々に大きくなっていく。
 第二関節の途中で侵入を止めていた指がどんどん深く潜り込み、蜜壷の中を単純に擦るだけだった
動きに関節をグネグネ曲げる変化が加わる。
 指先で開けた花弁のクレバスから出る愛液も量を増し、シーツの上へポタポタッ……と、雨粒のよ
うに落ちて染みを作っていく。
 乳首も自然と尖り、そこをみっしぃのぬいぐるみが愛撫するように擦っていく。そのくすぐったさ
に唇が勝手に緩んで声を漏らした。
「はぅんっ……!」
 耳へ流れ込んできた自分の声の気恥ずかしさに、ティオが思わず手を止め顔を熱くする。もし今目
の前に鏡があったら、一体どんな格好が映るのか―考えただけで頭の中が恥ずかしさに煮え立つ。
 お腹の方でも蕩けるような感触が走ったかと思うと、ぐじゅっ……と、右手の指の付け根が熱く濡
れた。
(え……?)
 右手を止めているのに股から零れてきた愛液にティオが驚き、目を開く。
(……これが、気持ち良いという感覚……?)
 古ぼけて塗装が少し剥げかけた天井を見つめたまま、誰に問う事もなく思うティオに、みっしぃの
ぬいぐるみへ垂らした香水の―彼の香水の匂いが鼻先を掠めていく。
 それで途中だった事を思い出し、ティオは再び瞼を閉じた。
 蜜壷へ差し込まれた右手を再び動かし、くちゅ、ぐちぅ、と粘りけのある水音を奏でていく。
「ふっ……んっ……」
 弾力のある蜜壷の肉壁を指先で圧して凹ませ抉る度に、綿でそっと撫でられるようなくすぐったさ
が神経を痺れさす。
 足や腰がもがいてベッドを弾ませ、反動で、ぬいぐるみを抱えていた左手が横にずれた。
 ぴんと尖った乳首へ指先が触れるや、胸の中でくすぐったい気持ちが弾けて全身に駈け巡る。
「あぁんっ!」
 ベッドの上でティオの身体が魚のように飛び跳ね、スプリングが音をたてて軋む。
 蜜壷に差し込んだままの右手の中へ、とろっ……と、熱い愛液が垂れ落ち、掌から零れてシーツに
染みをつくった。
(これ、は……)
 予想以上の気持ちよさと自分の反応に、ティオが目を開いて驚く。
(もしかしたら、今日こそ、いけますか……)
 そう思った途端に胸が高鳴り、左手が勝手に乳首を摘んでいた。


209:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・3】
11/07/03 11:09:41.42 e3zHdc9J
「あぅっ……!」
 ティオが身動ぐ下で、彼女の右手が蜜壷の中で勝手に蠢く。もっと大胆に肉壁へ触れてしごいて押
し広げていく。花弁から愛液を吐き出させ、ぐちゃねちゅといやらしい水音を奏でさせる。
 先に動いた左手も負けじと、摘んでいた乳首を揉みほぐして引っ張ってギュっと押し潰して、胸か
ら全身へ快楽の電流を走らせる。
「あ、っは、ふぅっ、んぁっ、あぁっ!」
 恥ずかしいという感情は全身を巡る気持ち良さに押し流され、小さな唇から漏れ出る声が艶と音量
を増し、花弁から響く水音と一緒に部屋の中で響きだす。
 ベッドの上に横たえた身体がもがくように弾み、うっすら汗をかいて赤らんだ顔の周囲でライトブ
ルーの髪が乱れ舞う。
 薄く開いた瞳は、花弁から出る愛液の量が増えるにつれて焦点を失い、ティオの脳へ届く映像のイ
メージがぼんやりしてくる。
 胸に抱えたみっしぃのぬいぐるみが、摘まれてない方の乳首をわさわさ擦りつつ、香水の匂いを周
囲に撒き散らす。視界が曖昧になってきたティオへ香水の匂いを―彼の匂いを、強く強く押しつけ
てくる。
 その匂いが―匂いから湧き出た彼の姿のイメージが、最後の一押しになった。
「っ―!!」
 快楽が刃となってティオの意思や思考をぶった切る。全身を心臓に変えて脈動させる。
「ふぁああぁ……っ!」
 口が大きく開いて声をあげ、両足がぴぃぃん……とまっすぐ伸びて小刻みに痙攣する。
 右手を咥え込んだ蜜壷と花弁も大きく揺らぎ、大量の愛液を勢いよく吐き出す。
 やがて、花弁から迸る愛液の勢いが止まった頃、硬直していたティオの身体がぐにゃりと解けた。
「はぁっ……はぁっ、はぁっ……」
 荒い息をつきながら、ティオがベッドへ身を沈めていく。差し込んでいた右手をそっと外して顔の
前までもってくると、掌や手首はもとより、前腕の中程にまで愛液の飛沫がとんでいた。
(これ、が……イくという感覚……)
 前腕についた飛沫を見て物思いにふけっていたティオは、ふと思い当たって視線を下へ向ける。と、
太股の膝に近い辺りや、みっしぃのぬいぐるみの尻尾まで愛液の飛沫で濡れていた。
「……想像以上、です……」
 でも、これで。
「やっと、ランディさんと、キスから先に進めます……」
 世界で一番優しい音楽ヲ奏デル事ガ出来マス。
 安堵するように口ずさみながら、ティオは窓の方へ顔を向ける。
 夢見るような輝きを瞳を浮かべた彼女の顔が窓ガラスに映り込み、夜闇に沈んだクロスベルの町並
みと混ざり合った。


210:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・4】
11/07/03 11:13:27.00 e3zHdc9J

※※※

 甘い匂いのないお菓子屋さん。それが、百貨店≪タイムズ≫にある女性下着の専門店へティオが抱
いた第一印象だった。
 所狭しと陳列された様々な色やデザインの下着類。それらを照らす無数のスポットライト。
(これだけ色鮮やかなのに匂いは違うと、かえって妙な感覚があります……)
 色彩の洪水に少し気圧されつつも、ティオはカゴを取って店内へ入った。
(ランディさんへのアピール用の下着……どんなのが良いのでしょうか……)
 黒や真っ赤などの原色を多用した、大人っぽくて派手目なのか。
 それとも、白とかピンクにフリルやレースが山とついた可愛らしさを全面に押し出したモノか。
 いやいや、ここは自分らしく、みっしぃがあしらわれた奴とかどうだろう。丁度そこにコーナーが
あ……。
「る……!?」
 店内を回っていたティオの足が、みっしぃ関連のコーナーの前で止まる。
 みっしぃのイラストが布地にプリントされたモノ。ブラのカップがみっしぃの手になっているモノ。
中には、みっしぃの尻尾が生えているパンツまである。
「何ですか、このけしからんみっしぃ達は……!」
 ティオの手が、目に付くみっしぃの下着を片っ端から放り込んでいく。みっしぃがプリントされた
奴は何着か愛用しているが、ここで売られているモノは、布地の質や縫い目の丁寧さが明らかに違う。
「これはこれで良い買い物が出来ました……」
 ほぅ、と満足げに息をついた後、ティオはカゴに入れたモノの値札を確認する。……下着の質の良
さの分、値段も今まで買ってきたのとは段違いだった。
「あら、ティオちゃん?」
 手の中のカゴを見下ろしたままティオが固まっていると、後ろから聞き慣れたエリィの声がかかる。
「こんな所で会うなんて、奇遇ね」
 ティオが少し驚きながら振り返ると、エリィも少し驚いた風に目を丸くして寄ってきた。
「……このコーナー、ティオちゃんが見たら絶対夢中になると思ったわ」
 みっしぃの下着類が並ぶ棚へ視線を飛ばすと、エリィが瞳を綻ばす。
「もし良かったら、一つプレゼントで買ってあげよっか?」
「えっ……良いんですか?」
「ええ。だってティオちゃんにはいつもお世話になっているし」
 意外な申し出に思わず顔を明るくするティオに、エリィが微笑んで頷いてきた。
「すいません、助かります……」
 ティオはぺこりと頭を下げると、カゴの中に入れていた奴の中でも一番安いの―それでもそれな
りの金額だったが―をエリィに差し出す。
 エリィは迷わず受け取ると、自分のカゴへ入れた。
 桜色の布地にクリーム色の飾り紐が縫いつけられた下着や、ミント色の総レース布地をベースにし
た上に肩紐やカップをピンクのチュールレースやら小さなリボンやらで飾り立てた下着、紺色の布地
に同色のレースで構成されたシンプルな下着などの上に、ティオのみっしぃ下着が乗っかる。
「あ、やっぱりエリィさんもロイドさん用のを買いに来てたんですね」
 エリィのカゴの中身を見てティオが何気なく言った途端、ぼんっ! と、火が音を立てて膨らむか
のようにエリィの顔が茹で上がった。
「いえあのその仕事の時に着けようかなーって思っているのもあるから!」
(エリィさん……言い訳どころか思いきり肯定しています)
 顔を真っ赤にして騒ぐエリィに、ティオは唇を結んで突っ込みたい気持ちを抑えた。
「すいません、エプスタインジョークです」
 代わりに、いつもの淡々とした口調でティオが返すと、エリィがやっと落ち着く。
「もうティオちゃんってば……!」
 ぷくー、と頬を膨らませて軽く怒ってくるものの、赤みの残滓がついた顔はとても幸せそうだった。
(あぁ、やはり世界で一番優しい音楽を奏でている人は違いますね……)
 どれだけロイドさんと慈しみ合って、愛し合っているのでしょうか。
 エリィを見上げるティオの心が、羨望と嫉妬で少しだけ尖る。
(わたしも、早くそうなりたい……)
 早ク、世界で一番優しい音楽ヲ奏デテ、コノ胸ノ奥ニ温モリヲ灯シタイ。
 期待と決意を込めてティオがエリィに笑いかけていたら、棚の向こう側に黄金の髪と鳩羽色の髪が
見えた。


211:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・5】
11/07/03 11:15:45.03 e3zHdc9J
「あ……」
 見覚えのある姿にティオが声をあげると同時に、相手も―イリアとリーシャもこちらに気付く。
「お久しぶりです、エリィさん、ティオちゃん」
「ここで会うってのも奇遇ねぇ」
 回り込んで挨拶してくるリーシャとイリアに、ティオとエリィもこんにちはと頭を下げた。
「そういえば、弟君はどうしたの?」
「ロイドなら、キーアちゃんとランディの三人で、食料品の買い出しに回っているわ」
「今日は≪タリーズ≫で缶詰が通常価格の一割引セール、≪フレッシュ・ディンズ≫ではポイントが
通常の三倍DAYだから、日持ちするモノを買いだめしておこうとか言って張り切っていました」
 イリアの問いに、エリィとティオが順に述べた後、顔を見合わせて肩を軽くすくめる。
「≪フレッシュ・ディンズ≫のポイント三倍DAYを把握しているなんて……ロイドさんって意外と
しっかりしているんですね」
「いえ、むしろオカンと言った方が正しいかと」
「カジノへ行こうとしたランディを荷物運びにって引きずっていったロイド、妙に楽しそうだったわ
ねぇ……」
 感心しきりのリーシャにティオがきっぱり切り返し、エリィが力なく笑う。
 それを聞いて、イリアとリーシャも苦笑いを浮かべてきた。
「ところで、お二方も買い物に?」
「……うふふ、よくぞ聞いてくれたわね~」
 ティオが何気なく問い返した途端、イリアの瞳が怪しげに煌めく。
「実は、リーシャにって思ってオーダーしたブラが出来上がったから、受け取りに来たのよ」
 こっそり離れようとしたリーシャをぐいっと抱き寄せ笑うと、イリアが何か思いついたように口を
開けた。
「そうだ、これからリーシャに試着して貰うから、ちょっと二人も見てってくれない?」
「い、イリアさんっ!?」
 慌てふためくリーシャに、いーじゃないのよとイリアが返す。
「あたしが渾身の力を込めて指定したデザインがどのくらい通じるか、第三者にも是非見て貰いたい
のよ。とゆー訳で、二人もちょっとこっち来て~♪」
 言うや、イリアがリーシャを引っ張って歩き出した。
「……エリィさん、行ってみましょう」
 まごつくエリィにティオが声をかける。
「でもティオちゃん……」
「でないと、試着したリーシャさんを、わたし達の元まで連れてくるかと」
「……確かにそうね」
 ため息と共に頷いたエリィと共に、ティオはイリア達の後を追った。


212:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・6】
11/07/03 11:18:00.10 e3zHdc9J
「リーシャ、着替え終わったわね。それじゃあご開ちょ……」
「店内、他に人います! いますから!」
 試着室の中を覗いてからカーテンを開け放とうとしたイリアを、三人が急いで止める。
「んもう、見せるだけなら減るもんでもないでしょー……」
「その代わり黒歴史が増えていきます」
 口紅を引いた唇を尖らせるイリアにティオは冷静に突っ込んだ。
「く、くろ……?」
「何だか面白そうじゃない、それ!」
 目を白黒させるエリィの横で、イリアが不敵に笑ってカーテンを再び開け放とうとする。
「だから止めてくださいって!」
「なら入らせて貰うわよ~♪」
 試着室の内側で必死にカーテンを抑えて叫ぶリーシャに、イリアがカーテンの中を縫うように入っ
ていった。
「あら上だけ? せっかくだし下も脱ぎなさいよ。何なら手伝ってあげ……」
「いえ、だって、エリィさん達を待たせる訳にはいきませんから、ねっ!?」
 カーテンの向こう側で、どたどた騒ぐ音がする。
「……すいません、お邪魔しても宜しいでしょうか?」
 放っておいたらもっと酷い事になりそうだなと思ったティオがリーシャへ助け船を出すと、お願い
しますの言葉が悲鳴混じりの声で返ってきた。
 ティオはエリィと一度顔を見合わせた後、カーテンに隙間を作らないよう留意しながら試着室へ入
る。さすがに四人で入ると狭いが、中は思ったより広かった。
「ここでオーダーのサイズ計測とかもするから、広いのよ」
 意外そうに目を丸くするティオとエリィに、イリアが唇を綻ばせて笑うと、横にすっとどく。舞い
の始まりを告げるような動きで、背中に隠していたリーシャを見せてくる。
 イリアの動きにティオとエリィが一瞬見惚れた後、続けて視界に飛び込んできた上半身ブラ姿の
リーシャを見て息を呑んだ。
「サイズ、変わっていませんよね……?」
「あ、やっぱり小さめに見えますか?」
 目を丸くして問うティオに、リーシャが少し嬉しそうにはにかみ、イリアがガッツポーズを作る。
 菖蒲色のシルク布地をベースに、森林のシルエットを思わせるデザインの黒レースがまんべんなく
縫いつけられたカップとアンダーベルト。肩紐の片側には同じ布地のフリルがぐるっと回り込んで、
羽根のよう。
 何よりもティオとエリィを驚かせたのは、服を着ていた時よりも今の姿の方が、胸が小さ目に見え
るという点だった。
「色にはね、膨張色と収縮色というのがあるの。膨張色は実際よりも大きめに、収縮色は小さめに見
える色って事ね」
 目が丸くなったままのティオとエリィに、イリアが人差し指をぴんとたてて説明してきた。
「でもそれだけじゃないの。膨張色と収縮色を組み合わせると、収縮色の部分が奥まって見える効果
が出たり、その逆も起こす事が出来るわ」
「つまり、ベースの生地を膨張色にした上で、カップ部分に収縮色の黒を配置する事よって、実際よ
りも少し小さめに見える錯覚を起こさせているんですね」
 言葉を引き継いだエリィに、イリアがその通り! と鼻息荒くして頷いてきた。
「ベースにした生地も、赤みが強いけど紫……弱目だけど収縮色の効果もあるわ。で、リーシャのサ
イズだとどうしても肩紐が太くなるから、その辺はフリルをつけて派手にしちゃえ! ……ってね」
「その辺、全部カレリアさんからのアドバイスでしたけど」
 胸を張るイリアの横で、リーシャが笑いながら付け加えてくる。
「ちょっとリーシャぁ! ネタばらししなくたっていいじゃないのー!」
「さっき二回もカーテンを開けようとしたお返しですっ」
 きゃっきゃっ笑いながら、イリアとリーシャが軽くじゃれ合う。
 その様子にエリィが思わず破顔している横で、ティオは、イリアの言葉を頭の中で反芻していた。


213:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・7】
11/07/03 11:23:37.72 e3zHdc9J
(膨張色……収縮色……)
 ティオが、思考回路をフル回転させる。
(小さいのを更に小さく見せてはいけない……ならば、少しでも大きいように見せられる色とデザイ
ンで、尚かつ予算内の物は……)
 情報の海の中へ飛び込むイメージと共に、眼窩の奥に店内の映像記憶を転写し、自分の望みに一番
叶うデザインのを探り当てると、三人への挨拶もそこそこに試着室から出て行った。
 記憶のままに店内を歩き、目的の下着の前へ行く。
 思わず目を細めたくなるような鮮やかなレモンイエローのサテン布地をベースに、雪のように白い
チュールレースを何層も重ね合わせてカップに縫いつけられたデザイン。お揃いのパンツもセットで
用意されている。
(膨張色に膨張色を組み合わせたこれならば……)
 ティオはほっと息をついて下着を手にとろうとした矢先、記憶と少し違う事に―自分のサイズの
物が売り切れている事に気が付いた。
「―!?」
 動揺でティオの身体が痺れる。
 幸い、同デザインの一つ上のサイズは残っている。だけど、一つ上というだけでもカップに圧倒的
な差がある。そのまま着用した場合、中身との差でカップがガバガバ凹むのは間違いない。
(他のを選んだ方がいいでしょうか……)
 だけど予算内で望みのデザインのと言えば、これしかない。
 既にカゴに入れてあるみっしぃのを一つ戻せば選択肢は増えるが、そんな事をすればエリィに訝し
まれる。
(となれば……)
 ティオの目が、レジ前の籠に入ったパッドへ向けられる。
(こういう虚偽はあまりしたくないのですが……仕方ありません)
 敗北感にため息つきながらも、ティオが件のブラをカゴに入れた時、
「ちょ~っとサイズが大きいようだけど、大丈夫なの?」
 唐突に後ろからイリアの声がした。

214:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・8】
11/07/03 11:26:15.65 e3zHdc9J
「……成長期に期待しようかと思いまして」
 ライトブルーの髪の毛の下に冷や汗をかきつつ、でも表情は普段通りのままティオが振り返る。
「今すぐ誰かを魅せたい、とかじゃなくて?」
 怪しげな笑みを唇に浮かべながら指摘してきたイリアに、ティオの心臓が少し竦んだ。
(流石は劇団トップスター……人の心の機敏について聡いです)
 うっかり口にしたら洗いざらい全て吐かれてリーシャやエリィにもバラされると思ったので、ティ
オは心の中でだけ頷く。
 尤も、イリアにはその沈黙だけで充分伝わってしまったらしく、ニヤっと笑って囁いてきた。
「で、相手は弟君? それとも赤毛のオニーサン?」
 ティオの心臓が再び竦み、視線がイリアの元から逃げ出す。
(ピンチ、です……)
 『ポムっと!』で例えるなら、大連鎖を行う為にデッドラインギリギリまでポムを積んでいた所へ
予想外のお邪魔ポムが降ってきた時のよう。
(もしここで上手く誤魔化せずに、イリアさん経由でエリィさんにバレたら……)
 エリィさんのように世界で一番優しい音楽を奏でようとしているとバレたら……。
(真面目なエリィさんの事です。ロイドさんと一緒になって止めてくるに違いありません……)
 ソウシタラ、世界で一番優しい音楽ヲ奏デル事ガ出来ナクナッテシマウ……。
 その状況を想像して、ティオが思わず悲観して俯いた矢先。
「まぁ……気をつけなさいよ」
 どこかため息混じりな声と共に、イリアに頭を撫でられた。
「えっ?」
 唐突な言葉にティオが思わず顔をあげ、イリアと目が合う。情熱の炎をそのまま具現化して固めた
ような強さと光を持つ彼女の瞳が、優しさと不安が混在した眼差しで自分を見ているのが視界に飛び
込む。
「……!?」
 驚いて目を見開くティオに、イリアは小さく息をついて笑うと、手を軽く振って去っていった。
(パッドを過信するなという事でしょうか……)
 だけど、あの眼差しは、もっと別の事を案じていたような気がする。
 道の先に大きくて深い落とし穴があるのに気付かず突き進んでいるのではないか……そんな不安感
にティオの心がぱつぱつに膨らんでいく。
(思い切って、全てを晒して確認するべきでしょうか……)
 でも、その解らない何かが、自分の目的―世界で一番優しい音楽を奏でる事―とは無関係だっ
たら? 晒す事でバレて、望みを果たせなくなったら……?
 試着室から出てきたリーシャと合流するイリアの横顔を見ながらティオが葛藤していたら、エリィ
から声をかけられる。
「ティオちゃん、せっかくだしここの会計が終わった後に、お茶でもしない?」
「あ、はい」
 ティオは心の中の葛藤を無理矢理断ち切ると、イリアから顔を逸らした。

215:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・9】
11/07/03 11:28:37.48 e3zHdc9J

※※※

 クロスベルにまたいつもの夜がくる。
「はぁ~……」
「ランディさん、とてもオヤジ臭いです、それ」
 自分の部屋のソファーに身体を預けて気の抜けた声を吐くランディに、遊びに来たティオも思わず
呆れてため息を漏らす。
 シャワーも浴びて、とっておきのボディソープで身体もしっかり洗った。着ているルームワンピー
ス―白と緑のボーダー模様に、中心から少し左側にずれた位置に赤いジッパーが縦走するデザイン
―の下には、例のレモンイエローのブラとパンツを装着済み。一サイズ大きなブラの隙間はパッド
が二枚ずつ使ってようやく埋まるレベルだったのには凹んだが、それでも、今日こそは……! と、
ティオが緊張で胸を熱くしながらランディの部屋に来れば、部屋の主はソファーで軟体生物のように
だれていた。
「そうは言ってもよぉ……安いし日持ちするし皆も多用するからって、ホールトマトの缶詰1ダース
はねぇよ……」
 そこに別の缶詰とか食材とかも加わったんだぜ……と、ぼやくランディに、ティオは少しばかり同
情する。が。
「お酒のツマミにと、共用食材をちょくちょくつまみ食いしていたのですから仕方ないかと。それに、
以前、調理酒と称して自分用のワインを経費で買いましたね?」
 冷製な口調でティオが突っ込むと、ランディがうぐっと息を詰まらせた。
「……そんじゃ、つまみ食いする悪いオヤジは、今日は疲れたからとっとと寝るとしますか」
「ならばマッサージにスパークダインをかけてあげます」
 むくれた表情を造ってソファーから立ち上がろうとしたランディの前にティオはエニグマを手に立
ちはだかる。
「ちょ! そこはレキュリアとブレスにしろっての!」
「こっちの期待に勘付いておきながら袖にしようとしたお返しです」
 ソファーに再び腰を落として慌てるランディをジト目で見つめながら、ティオはエニグマをテーブ
ルに置いた。
「……まぁそこまで気合い入ってりゃあ、ロイドだって気付くだろうなぁ」
 ランディがソファーに座ったままティオの胸元に右手を伸ばす。彼女のライトブルーの髪の毛を人
差し指に絡ませつつ、ルームワンピースのジッパーを―ここを下ろすだけでルームワンピースを脱
がせる事が出来るジッパーを小指でいじくる。
「……だって……いつもキスだけで先に進まないから……」
 声のトーンを暗くして呟くと、ティオは力なく俯いた。
「……ま、そりゃ順番を経てからって約束だったからな」
 ランディが、ティオの髪に絡めていた人差し指を引き抜く。
 ライトブルーの髪の毛が、くるくる廻りながら解けていく。
「……キスの時間だけが長くなっていくのが……ですか?」
 ティオは俯いたまま率直に問うと、視界の外にいるランディの雰囲気が尖った。
「確かに、わたしは、ランディさんの愛読するグラビアの人達みたいなナイスボディには程遠いスタ
イルです……」
 ティオは、俯いたまま言葉を続ける。考えて、暗記して、鏡の前で上手な語り方と仕草を練習して
きた言葉を続ける。
「でも、わたしだって、もう子供じゃありません……キスだけで眠るなんて、もう、いや、です」
 緊張は否応なく高まり、心臓の打つリズムは急加速する。
 シミュレーションした計画ではここで顔をあげてランディを見つめる予定だったけど、緊張で興奮
しすぎた心臓が全身を震わせて、顔が持ち上がらない。
(仕方ありません……少し予定を変更します)
 ティオは震えの止まらない右手をなんとか持ち上げると、胸元のジッパーを摘んだ。
 ジッ……ジジッ……。虫の羽音にも似た音をたててジッパーが降りていく。着ているルームワン
ピースが左右に開き、雪のように白い肌と、レモンイエローのブラがチラリと顔を出しくる。
 ランディが息を呑む音が微かに聞こえてくる中、ティオはジッパーを全部下ろした。
 ルームワンピースが左右に開き、ティオの身体から勝手に滑り落ちていく。
「こ、これ、でも、だめ……で、すか?」
 歯の根が噛み合わなくなる程ガチガチに緊張しながらティオが顔を持ち上げた刹那、ブラのカップ
からパットが一つ落っこちた。


216:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・10】
11/07/03 11:30:47.20 e3zHdc9J
 ぽてっ、と、ティオの右足の甲にパットが当たる。
「……っ……!?」
 ソファーに座っているランディの顔が盛大にひきつる前で、ティオは反射的に身を竦ませる。
 ささやかな丘陵を描くティオの胸元が強く寄せられ、勢いでカップの中に残っていたパットが全て
押し出された。
 ぽてぽて、ぽてっ。サイズの差を埋める為に詰めていたパット三つが落っこち、ブラのカップがべ
こっと凹む。
 空白のような沈黙が部屋に満ちた次の瞬間、ランディが、ぶふぉっ! と、盛大に吹き出した。
「!!!!???」
 その場にしゃがみ込むティオの前で、ランディがソファーの上でげたげた笑い転げる。
「ちょ、ティオ、す、け、おまっ、無理しすぎだっての!」
 膝をバンバン叩いて、笑いで息も絶え絶えにランディが叫ぶ。
「~~~~っ!!!!!」
 顔を真っ赤にして縮こまっていたティオがきっと眦を裂くと、脱ぎ捨てたルームワンピースでラン
ディを殴った。
「おわっ!?」
 緑と白のボーダー布地がランディの顔に巻き付く。
「こっ……こうなったのも、誰のせいだと思っているんですか……」
 八つ当たりだとは解っていつつも、ティオが肩をいからせて呻くと、ランディが顔から布を剥がし
ながら謝ってきた。
「悪ぃ悪ぃ。……いやー久しぶりに爆笑させて貰ったぜ」
 目尻に浮いた涙を指で拭うランディへ、ティオの頭の中が熱くなる。
「エニグマ駆動……出力マックス、最大レベルにてクリムゾンレイ構築開始……!」
「いや、だから俺が悪かったっての!」
 テーブルに置いてあった自分のエニグマを掴むティオにランディが慌てて謝ると、彼女の背に右手
を回して抱きしめた。
 自分のものではない鼓動がティオの耳を揺さぶってくる。
「……ここまで恥をかかせておいて、今日もキスだけなんて言わせませんよランディさん……」
「いや今のはティオすけの自ばk……」
 言いかけるランディをティオは睨んで黙らせる。
「……まぁ、しゃーねーか」
 はあと息をつくランディに、ティオの心が一気に晴れた。
 つられて綻ぶ表情を隠す為に、ティオはランディの胸へ顔をうずめる。
(予定より大幅に狂いましたが、計画通りになりました……!)
 怪しげな笑みが浮かびそうになるのを堪えながら、ティオが喜びに浸っていると、右の耳たぶに彼
の指が触れてきた。
 ぞくっ、とティオの身体に震えが走る。
「あっ……」
 ティオが切なげな声を漏らして背を逸らし、うずめていた顔が自然とあがる。そこへランディが顔
を寄せてキスをしながら、ティオをソファーへ押し倒した。
(あぁ、やっと先に進めます……)
 ヤット、世界で一番優しい音楽を奏デル事ガ出来マス……。
 後頭部を揺らすスプリングの音と、唇から流れ込んでくる彼の吐息に、ティオの胸は否応なく昂ぶ
る。
 背中に回されたランディの右手がブラのホックを外したかと思うと、ティオの右耳に触れていた左
手が首筋から肩へと滑り降り、ティオの身体からブラを引き剥がした。
 ティオの、ささやかな二つの丘陵がさらけ出される。頂点には桃色の小さな乳首がちょこんとのっ
かり、昂ぶる鼓動に合わせて微かに震えていた。
 ランディの左手が、ティオの右の乳房にそっと乗っかってくる。
 彼の大きな手の重みと暖かさに、ティオの心は緊張で少しだけ痺れる。
(ここから先は初めての事ですが、大丈夫。ちゃんと練習してきたのですから……)
 ランディと唇をはみ合い舌を絡ませ合いながらティオが己の心に言い聞かせていた時、彼の左手の
指が右の乳首をつんと押してきた。
 さっきよりも大きな痺れが、心の中にまた走る。
「んっ……!?」
 練習の時には一度も起きなかった感覚にティオが戸惑い、目を見開く。
(……接触方法は同じな筈……なのに練習の時とは違う……?)
 何故? と、ティオが考える間もなく、今まで背中に回っていたランディの右手がするする……と
下がり始めた。


217:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・11】
11/07/03 11:32:01.60 e3zHdc9J
 まだ少しだけ堅くて熟してない果実のようなティオのお尻と太股が、ランディの指と掌全体でそっ
と撫でられていく。そして、ティオの膝まできて止まると、またそおっとなぞり上げてくる。
「っ……」
 ティオが吐息を漏らして微かに震える。
 お臍の下の辺りからは、とろとろ煮込まれるような熱が湧き始め、外を求めて股の方へ流れ込んで
くる。
 そして、彼の指先が太股とお尻の境目の凹みに少しだけ潜ってきた途端、熱がとろっと零れ出て、
履いているパンティーと秘部の間に粘りのある湿り気が広がった。
「―んっ!」
 ティオが、キスで塞がれた口の中で声を漏らして身じろぐ。
 ソファーの中からスプリングの軋む音が響く中、ランディが右手の指をティオの股へ伸ばして、パ
ンティーをぐっと押してきた。
 ぐじゅっ……と、パンティーの布地から熱い水―愛液が染み出てくる。
「あぁっ……!」
 ティオが思わず唇を離して仰け反り、ソファーのスプリングがさらに大きく軋んで音をたてた。
「ん。ちゃんと反応してるな」
 ランディがにこっと笑いかけると、ティオの胸の前まで顔を下げてくる。ささやかな丘陵を描く左
の乳房へ唇を寄せ、乳首を軽く甘噛みしてくる。
「っあ……!」
 電流をくらったような痺れがティオの胸全体に走る。両足が自然ともがいて、彼の右手を太股で挟
んで押さえつける。
「……ティーオーすーけー。これじゃあ右手が動かせねぇよ」
 ランディがさして困っている風でもなく笑うと、左手でティオの右乳房を揉みほぐしつつ、左乳首
を思い切り吸い上げてきた。
 ちぅぅっ……! と、室内に響く音をたてて、ランディが唇と前歯を使ってティオの左乳首を引っ
張っていく。
「っ……! や、あ、あぁんっ……!!」
 ティオが嫌々と首を横に振って悶える一方、左乳首は固く尖って、彼の舌に触れていく。
「!!」
 舌の熱と弾力を左乳首に感じた途端、ティオが口と目を大きく見開いて仰け反った。
「ふっ……あ、あぁっ……!」
 撫でられ揉まれ舐められるままに、ティオが身動ぎ声を漏らす。閉じていた太股も自然と離れ、ラ
ンディの右手を解放する。
 愛し合う声と音。ティオがずっと待ち望んでいた世界で一番優しい音楽……。

 その筈なのに。

 状況が進めば進む程、彼に身体を撫でられ揉まれ舐められる程、ティオの心は冷たく痺れてきた。
 コレジャナイ、コレハ違ウと叫ぶ声が耳の奥で響いていた。
 
 


218:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・12】
11/07/03 11:34:52.60 e3zHdc9J
(何故です……?)
 自分の心の動きにティオは思わず問いかける。
(これは、ずっと待ち望んでいた事なのに、何故、わたしはこうも怯えているのです……?)
 初めての事で怖い?
 理解が追いつかなくて怖い?
 初めては凄く痛いという話だから、それが怖い?
(……いいえ……どれも違います……)
 どれも、この違和感を説明できません。
 不思議な浮遊感に包まれて熱くなる身体と反比例して、心が凍えて痺れてくる説明がつきません。
「ランディ、さん……」
 満ち足りた気持ちからではなく心細さからで彼の名前を口ずさんでしまう。
「……大丈夫。いつものようにリラックスしてろ、ティオすけ」
 ランディが乳首から口を離して告げると、ティオの眼前まで顔を寄せ、再びキスをしてきた。
 流れ込む暖かい吐息。優しく圧してくる唇。こっちの咥内に入ってきて、やんちゃしてくる舌。も
う何度も行ってきたキス。その度にティオの胸の中を暖かく満たしてくれたキス。
 なのに。
 今は、そのキスが冷たかった。
 キスを続けていけばいく程、寒さで胸の中が痺れてきて……かつてグノーシスの経膣投与実験で受
けた感覚に近いものが心の中に広がってきた。
(―え……)
 驚くティオの心に、びりっとした痛みのようなものが駆け抜ける。
 身体の動きも自然と止まり、萎縮するように舌が引っ込む。
(そんな筈は……だって、これはあんな実験なんかではなく、世界で一番優しい音楽……)
 わたしがずっと待ち望んだ、恋人同士が奏でる音楽。
(恋人同士でないと生み出す事の出来ない音楽……)
 そこまで考えた瞬間、ティオは違和感の理由に気付いた。
「……!!!」
 ティオの胸の中に降り積もっていた寒さが破裂する。心臓が限界一杯まで膨らんで、痛いくらい大
きな鼓動を打ち鳴らす。
(わたし……は……!)
 今まで何を勘違いしていたのだろう。
 何て間違いをしていたのだろう。
(世界で一番優しい音楽を奏でる事ばかりに目を向けて必死になって……)
 本当に重要な事を見失っていた。
(ランディさんと恋人同士になる為の努力を怠っていた……!)
 彼のどこに惹かれたのか。
 どうして彼を愛したいと思ったのか。
 その理由をちゃんと見つける事が前提であり必須の条件だったのに、それをしていなかった。
(こんなに寒くなるのも当たり前です……)
 心をないがしろにして、肉体だけを求めている結果になっているのだから。
 かつて自分の膣へチューブを押し込み、グノーシスを子宮へ直接投与してきた教団の人間達と、同
じ原理で行動しているのだから。
(……教団の大人達と同じ事を、今のわたしは……行っている……)
 心をないがしろにして、肉体だけを求めている……。
 ティオの目が大きく見開かれる。全身に鳥肌が浮き上がり、手足がカタカタ震え始める。
「? ティオすけ……!?」
 異変に気付いたランディが唇を離した途端、ティオが両手で自分の口元を覆い隠した。
「おい、どうしたんだ? まさか、夕飯で中ったのか……!」
 真っ青になって震えるティオにランディが慌てふためき、手で彼女のお腹を撫でて暖めようとする。
 が。
 
「いやぁっ!」
 
 先に、ティオの悲鳴が部屋に響き渡った。
 
 

219:聞かせて、世界で一番優しい音楽【中編・13】
11/07/03 11:37:02.96 e3zHdc9J

※※※

 ランディの顔に愕然とした表情が浮かぶ。
 が、それも一瞬の事。すぐにいつもの表情を浮かべると、がしがし頭をかきながらティオの元から
後ずさった。
「あー……すまん。……がっつきすぎたな、俺」
 ルームワンピースを拾い上げ、ティオの身体へそっとかけると、ランディはそのまま立ち上がって
離れていく。
「ぁ……」
 ようやく我に返った―自分が今何をしたかを理解したティオが、慌てて身体を起こしてランディ
を追いかけようとする。
 が。
「悪ぃ。男っつーのは、そうそうすぐに落ち着くモンじゃねぇんだ」
 ティオから背を向けたまま、ランディがぼそっと言い放ってきた。
「だから、今日はもう……出てってくんないか?」
 赤茶色の髪を乱雑に掻き回しながら告げるランディに、ティオは身体を縮める。
「すいません……」
 何故、もっと早くに気付けなかったのだろう。
(イリアさんは気が付いていた……わたしが、恋に恋している状況だった事を)
 だから、気をつけなさいよと警告してきた。
(なのにわたしは……!)
 我が身可愛さで警告を無視して、結果、ランディさんの気持ちを踏みにじって傷つけてしまった。
「……すいません……」
 部屋の中にティオの声がぽつりと響く。
 今はひたすら、自分が情けなかった。
 過剰に舞い上がって全てを台無しにした挙げ句、教団の大人達に昔やられたのと根底では同じ事を
やってランディを傷つけてしまった自分が、どうしようもなく嫌だった。




220:保管庫”管理”人様へ、6-404で保管お願いします
11/07/03 11:39:09.50 e3zHdc9J
とりあえず今日はここまで。

後編はあらかた書き上がってますので、
順調にいけば今週中にでも投下できるかと。

221:名無しさん@ピンキー
11/07/03 12:09:54.59 v1p/TsPj

GJ!!!!
ティオすけせつないぜ……

222:名無しさん@ピンキー
11/07/03 12:36:06.20 cnhoaQ8k
乙です
ティオすけ…

>>213
ロイド達はノエルがピンチだと聞いて駆けつけた時には既にワジが魔獣退治したタイミングで登場して欲しい
そしてワジノエの夫婦漫才を眺めるとか

223:名無しさん@ピンキー
11/07/03 12:46:12.57 v1p/TsPj
しかしその裏でロイドさんとエリィさんがお楽しみすぎるw
エリィさんの下着にゴクリ

224:Kメンテ
11/07/03 15:27:37.63 EOXAOrou
GJ!!
ティオ、頑張れ・・・
あと自分の中ではイリーシャが既にデキてるので、二人の登場に思わず
ニヨッとしてしまってキメェw

225:名無しさん@ピンキー
11/07/03 15:33:38.99 cnhoaQ8k
夜にこの二人もお楽しみなんですね分かります

226:名無しさん@ピンキー
11/07/04 20:05:08.90 4HLuK1lS
クローゼちゃんの旨い糞、たっぷりと頬張れ。

227:名無しさん@ピンキー
11/07/05 02:17:25.34 sAVX4IhW
ティオちゃんの夏ウンチ、たっぷりと食う。

228:名無しさん@ピンキー
11/07/06 00:02:24.94 CFq5TOjA

ランティオSS後編投下ー。

前編は>>131-139
中編は>>215-227



229:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・1】
11/07/06 00:03:41.44 CFq5TOjA


 自分の灯りが欲しくなった。
 他人が照らす灯りへ虫のように寄っていくのではなく、自分と一緒に進む灯りが欲しくなった。



230:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・2】
11/07/06 00:04:13.06 CFq5TOjA

※※※

(……驚いたな)
 こんだけギラギラしてんのに、夜空に月がないだけで、ここまで燻った雰囲気になんのか。
 特務支援課のビルの屋上からクロスベルの夜景を眺めながら、ランディは息をつく。
 手すりに右肘をついて頬杖をつきつつ、ウイスキー瓶を握った左手はビルの外へぞんざいに投げ出
して適当に揺らし続けている。
 瓶の中では半分に減ったウイスキーがチャプチャプと波がたて、時折通り過ぎる夜風へウイスキー
の香りをプレゼントしていた。
「にやゃゃあ~」
 ランディの足下から、コッペの満足げな声があがる。
「ん? もう食い終わったんか?」
「にゃおーん♪」
 ランディが顔を下へ向けると、コッペが嬉しそうな声で頷き、口の周りについたチーズの残骸を舌
で舐めとる。
 そして、ランディの脛に身体を数度すりすりすると、そのまま立ち去っていった。
 綺麗に舐め取られた皿が、ランディの足下に残される。酒の肴にと持ってきたが、コッペに殆ど食
べられてしまった。
「いいねぇ、猫は気楽で」
 ため息と共に呟くと、ランディはまた手すりの外へ目を転じた。
 星も月もない夜空の下で無数の導力灯を瞬かせているクロスベルの夜景。それはまるで、闇しかな
い夜空に押し潰されまいと必死に抗っているかのよう。真っ暗の道をただ進むしかない自分の人生と
よく似ている。
「……」
 ランディは唇を歪ませて笑うと、左手に持ってたウイスキーをラッパ飲みする。少しぬるくなった
ウイスキーと共に、火が直に流れ込んでくるような熱さが喉と腹の中に走った。
「……っはー!」
 盛大に息をついて口を離すと、顎に垂れたウイスキーを服の袖で拭う。瓶の中身は、今の一飲みで
だいぶ減っていた。
(うーむ、こりゃ全部飲んじまうか?)
 ウイスキーの瓶を揺らしながらランディが悩んでいたら、首の後ろがチリっと痺れた。
 ランディが表情を僅かに強ばらせて振り向いた直後に、屋上の出入口が開き、部屋着姿のロイドが
現れる。
「……おやぁ、こんな夜更けにどうしたのかねロイドくぅん?」
 眠れないのならオニーサンが付きやってやるぞーと、ランディがへらへら笑いながらウイスキーの
瓶を向けると、ロイドが少し呆れた風にため息つきながら寄ってきた。
「随分と飲んでいるようだが、大丈夫か?」
「ん。へーきへーき。酒に呑まれるような飲み方はしてねぇよ」
 隣に来て尋ねるロイドに、ランディは手すりに背中を預けながら答える。実際、左手のウイスキー
を未開封の状態から飲んでいるというのに、酩酊感は全くなかった。
「で、お前はキー坊とお嬢にフラれたからこっち来たのか?」
「まぁそんなとこかな」
 ランディが冗談めかして言った言葉を、ロイドがあっさり認めてくる。
「なっ?!」
「ティオの部屋で、女の子だけのパジャマパーティーだそうだよ」
 思わず素に戻って驚いたランディへ、ロイドが説明してきた。
「……ここ最近のティオ、何か思い悩んでいるみたいだからね」
 視線をティオの部屋のある辺りへ落としてロイドが独り言つ。
「……そうだな」
 ランディも相槌をうつと、そのままウイスキーを口にする。動揺で跳ねた鼓動の乱れをウイスキー
の熱と一緒くたにさせる。
「ま、お嬢とキー坊ならティオすけもすぐに元気になるだろ」
「そうだね。エリィになら、ティオも相談しやすいだろうし」
 何もない夜空を見上げるランディへ、横からロイドの明るい声が届く。ついでに、頬の辺りにロイ
ドの視線も突き刺さってきた。


231:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・3】
11/07/06 00:04:44.02 CFq5TOjA
 止まった会話の代わりに、夜風がビルの屋上を通過していく。
(こりゃ完璧に探り入れられてんなー)
 届く視線の様子からすると、ロイドも確信がある訳ではなく、とりあえず聞きに来た程度なのだろ
う。
(ま、お嬢がティオすけのとこに行ってんのなら、俺が説明する事もねぇな)
 ランディはウイスキーを一口煽ると、夜空を見たまま唇を開いた。
「……グノーシス事件の時もそうだったが、ティオすけはマジメすぎるんだよ」
 物事の元凶を自分と結びつけて、背負い込んで。
「自分にも原因があるんじゃないかって思いこんで、自分で自分をいじめてしまう」
 そんな必要ねぇのにな、の言葉を唇の上で転がすと、ランディはまたウイスキーを煽った。
 ―確かに、強制的に据え膳を押しつけてきておいて突然嫌がられたのには腹がたった。が、ティ
オの真面目すぎる性格と、彼女が前に進む為なら喜んで卑怯者になるという宣言をしていた以上、怒
りを露わにするべきではなかった。いつものように、適当にいなしてフォローするべきだった。
(結局、戦場から理由もなく這い出てきた時と同じ。何もかもが中途半端なだけって事か……)
 恋とか愛とか、強い想いによって得られるモノなんざ、俺には一生手に入らないって事か。
「……ランディ?」
 横からロイドの心配そうな声が届き、ランディは我に返る。
「やっぱり、かなり無理して飲んでいるんじゃないか?」
「いやいや、そんな事はねーぞ」
 相変わらず酩酊感は全くないし、ロイドが屋上に来る事も察知出来た。
 ランディはウイスキーから口を離すとロイドの方を見て笑う。それから急に表情を切り替えた。
「……ところでロイド、お前はツマミと酒を用意してきたのか?」
 真剣な顔して問うランディに、ロイドが、え? と、きょどる。
「え? じゃねーよ。女の子だけでパジャマパーティーやってんなら、ここは俺達も対抗して野郎ど
ものパーティーをだな……」
「ランディ、やっぱり酔ってるな」
 両手を大きく広げて騒ぐランディに、ロイドが盛大にため息をつく。
「何を言う、俺は酔ってなんかいないぞー!」
 ランディが、調子はずれの陽気な声を出してロイドへ抱きつこうとすると、するっとかわされてし
まった。
「全く……明日も早いんだから無理するなよ」
 そう言うと、ロイドが出入口へ向かっていく。
「んー? もう帰るのかよー」
 酒よこせツマミよこせーと、ぶーたれるランディに、ロイドが盛大に肩を落としてため息つくと、
立ち止まって振り返ってきた。
「さっき、ランディが言った言葉、ティオにもちゃんと伝えて貰えないかな」
 夜風が止み、ロイドの声がよく響く。
「きっと、何よりの救いになると思うんだ。お互いに」
 僅かに見開いたランディの瞳を真正面から射貫くように見据えて告げると、ロイドは屋上から出て
行った。
「……何だよ、ハナっから解ってたんじゃねぇか」
 扉の閉まる音が消えて数秒後、ランディが頭を抑えて呻く。
(まぁ、折を見て伝えとけってのは俺も賛成だが……あからさまでないけど避けられてんだよなー)
 さてどうしようかと考えながら、ランディはウイスキーの瓶をラッパ飲みする。が、舌の上に滴が
落ちてきただけだった。
「……って、もう空っぽかよ」
 まるまる一瓶空けてしまったのに、酩酊感はどこでサボっているのやら。
 ランディはため息つくと、足下の皿を回収して、自室へ戻る事にする。
 今夜は、幾ら飲んでも酔えそうになかった。


232:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・4】
11/07/06 00:05:16.49 CFq5TOjA

※※※

 二日酔いほど律儀なものはない。
 どんなに飲んでも酔えなかった身体にも、次の日になればきっちりやってくる。
「だから無理して飲まない方が良いって言ったのに……」
 昼食を食べ終えた後なのに未だ二日酔いで顔色が青いランディを見上げて、ロイドがため息をつく。
「いやー、すまん。俺もついにリベール王国に住むと噂の大酒豪になれたかと思ったんだが……」
 ズキズキ痛むこめかみを抑えて苦笑いを浮かべると、ランディは前を向いて歩き出した。
 もこもこした雲があちこちで泳ぐ青空の下、ぽかぽか陽気に涼しげな風がアクセントとなって通り
すぎていく西クロスベル街道は、今日も魔獣が徘徊している。
「で、問題の強盗魔獣はどの辺にいるんだ?」
「セルテオさんの話によると、もう少し行った先にある池の辺りで襲われて、荷物の赤いリュックを
奪われたらしい。聞いた限りの外見だとサージヒツジンの群れのようだな」
 歩きながら問うランディに、ロイドも横で歩きながら捜査手帳を開いて答える。
「もしかして、セルテオさんって、私達に新作レシピを考える手伝いをしてくれって支援要請をして
きた人?」
 しんがりを務めていたエリィが、ロイドの説明を聞いて声をあげる。
「あぁ。奪われた赤いリュックの中身も、ピクニックと思って用意した料理だそうだ」
「それは支援要請も緊急の案件になるわね……人間の食事の味を覚えた魔獣は、それを求めて積極的
に襲うようになるっていうもの」
「だな。次の被害者が出る前に、早いとこ見つけて退治しておこう」
 捜査手帳を仕舞って会話するロイドの足が自然と遅くなり、エリィの横を並んで歩くようになる。
 必然的にティオが二番手にあがり、ランディの後ろについた。
「……そういや、俺は支援要請のボーナスで貰ったグラールロケットがあるけど、ヒツジン戦の対策
はちゃんととってあるか?」
 ランディが歩きながら後ろを向く。
「あぁ。流石にあの睡眠攻撃は厄介だからな」
「今回は、前もって対策がとれるから有り難いわね」
 ティオが肩とライトブルーの髪を揺らして驚く一方、ロイドとエリィがそれぞれスターペンデュラ
ムを掲げてきた。
「お揃いとは、また見せつけるねぇ」
 ランディがヒュゥッと口笛鳴らすと、ロイドとエリィが顔を赤らめ焦りだす。
 面白いくらい素直な反応の二人にランディは思わず口元を綻ばすと、ティオへ話を振ろうと視線を
落としかけた瞬間、首の後ろがチリっと痺れた。
「!」
 スタンハルバードを構えて前を向くランディの視界に、空飛ぶオムライスの映像が飛び込む。
「へっ?」
 間の抜けた声がランディの口から漏れる中、オムライスはティオと後ろ二人の中間へ落ちてきた。
 ぼむっ! と、盛大な音を立ててオムライスが爆発する。
 香辛料の爆煙と衝撃波が四人の身体を押し出し、ランディとティオ、ロイドとエリィの二手に別れ
る格好になる。
「なっ……!?」
「なんでボムライスが……!」
 ロイドとエリィが咳き込みながらボムライスの煙の中から出てきた途端、甲高い鳴き声と共に近く
の茂みから赤紫色の毛玉―もといサージヒツジンの群れが飛び出してきた。


233:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・5】
11/07/06 00:06:10.81 CFq5TOjA
 とっさに背中を庇い合ったロイドとエリィを、六匹のサージヒツジンが取り囲み、一斉に襲いかか
る。
「そうはさせるかっ!」
 ロイドが素早くトンファーを構えて身体を軽く捻る一方、エリィが腰のホルスターから導力銃を取
り出しその場に屈み込む。
 次の瞬間、ロイドがその場でアクセルラッシュを発動させた。
 ロイドの身体が独楽のように躍り回り、エリィの頭上をトンファーが猛烈な勢いで掠めていく。襲
いかかってきたサージヒツジン六匹全てをトンファーで弾き飛ばす。
「そこっ!」
 続けてエリィが導力銃の連射によるクロスミラージュを発動させ、サージヒツジン六匹を順に撃ち
抜いた。
 サージヒツジン六匹が宙を舞う。が、軽やかにバク転して着地すると、再びロイドとエリィを取り
囲む。
「前に戦った群れよりも統制がとれている……!」
「ねぇロイド。奪われた荷物の料理ってまさか……」
 眼前にいるサージヒツジン達へトンファーを突きつけて牽制するロイドへ、すぐ後ろにいるエリィ
が立ち上がりながら呟く。
「……考えたくはないが、セルテオさんへボムライスを渡したのは俺だからな……」
「つまり、このサージヒツジン達は、別の意味で人間の料理を―標的へ投げつける攻撃料理として
の味を、覚えた訳ね……」
 ロイドとエリィのこめかみに冷や汗がうっすら浮かぶ。そこへ、サージヒツジン六匹が、今度は波
状で襲いかかってきた。
「ティオ、セルテオさんの荷物を持ったサージヒツジンがどこかにいる筈だ! そいつを見つけ出し
てくれ!!」
 エリィと分担でサージヒツジン六匹の攻撃をいなしながら、ロイドがティオの方を向いて叫ぶ。
「……」
 ティオはロイドに背を向けたまま、何も言わずに歩いていく。ふらふらした足取りで、イヤリング
状に加工したティンクルピアスをチリンチリン鳴らしながら、ランディの方へ寄っていく。
(まさか……)
 中に詰まった大量の香辛料で標的の精神を変調させるボムライス。ティオの着けているティンクル
ピアスでは、それを防ぐ事は出来ない。
 息を呑むロイドの前で、ティオが魔導杖をランディの背中へ振り下ろした。
 扇状に広がる光の軌跡が、ランディの背中をもろに抉っていく。
「うをっ!?」
 後ろから突然きた衝撃波にランディが仰け反った瞬間、彼の目の前に立ちはだかっていたサージヒ
ツジン―ロイドやエリィを囲んでいる六匹に比べて、身体が一回り大きな個体―が地面を蹴って
飛び出した。
 ランディがとっさに振るったスタンハルバードの刃を易々とかいくぐり、大きなサージヒツジンが
距離を詰める。尻尾一本で立ち上がると、連続蹴りの体勢に入る。
 が。
「ちぃっ!」
 ランディが顔をしかめてクラッシュボム用の手榴弾を掴んだ途端、彼の腹めがけて伸ばしていた足
を横にずらした。
 大きなサージヒツジンの足が、ランディの手からクラッシュボム用の手榴弾を弾き飛ばす。
 誰もいないエリアにクラッシュボムが炸裂し、広がった黒煙は空しく消えていった。
(何て奴だ……あのタイミングで弾きやがった……!)
 すぐに距離をとった大きなサージヒツジンを睨んでランディが歯噛みする。
 体格や筋力は勿論の事、とっさの判断力と反射神経も通常の魔獣を超えている。毛皮の中身はベテ
ラン猟兵でしたと言われても驚くどこかむしろ納得できるレベルだった。
(さらにあと一匹、攻撃料理を持ったサージヒツジンの伏兵か……)
 ボムライスの扱いの的確さから考えれば、目の前にいる大きなサージヒツジンと同レベルの知能と
判断力がある。もしかしたら、そいつが群れのリーダーであるかもしれない。
「少し油断してた……と言ったらちと厳しいかな、これは」
 後方で混乱中のティオがふらふら彷徨っている足音を聞きながら、ランディはスタンハルバードを
構え直した。


234:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・6】
11/07/06 00:08:00.70 CFq5TOjA
「―エリィ! ティオへレキュリアを頼む!」
 ロイドが意を決して叫ぶと、両手を胸の前に交差させ全身の筋肉を震わせる。
 エリィも覚悟を決めた顔で頷き、銃からエニグマに持ち替えた。
「エニグマ、駆動……治癒モードの発動展開……!」
 エリィの元で風が吹き、彼女の全身が仄かな光に包まれる。
「キキッ!?」
 ロイドとエリィを取り囲んでいた六匹が喚声のような鳴き声をあげ、焦った様子で襲いかかる。が、
六匹の攻撃が届くより先に、ロイドのバーニングハートが発動した。
「うおおおぉおおおっ!!」
 咆哮と共にロイドの全身から炎のような闘志が噴き出す。自ら熱風となって、ランディの動体視力
ですら捉えられない程のスピードで、サージヒツジン六匹の攻撃を弾いていく。
 サージヒツジン六匹も数の優位に任せて何度も攻撃を仕掛けるが、それ以上の勢いでロイドのトン
ファーが唸る、回る、突き上げる。
「無茶しやがる……」
 だがこれで何とかなるか……と、ランディが大きなサージヒツジンの連続蹴りをスタンハルバード
で受け流しながら考えていたら、鋭い鳴き声が少し離れた場所から聞こえてきた。
 サージヒツジン六匹が突然下がり、包囲網の円が大きくなる。
 茂みの一角が微かに揺れ動いたかと思ったら、弁当箱が飛び出してきた。


235:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・7】
11/07/06 00:08:30.88 CFq5TOjA
「仰天悪戯ボックスまであんのかよ!」
 顔を青ざめて叫ぶランディの前で、悪意の詰まった弁当箱がロイドとエリィの元で炸裂する。
「うおっ!?」
「きゃぁあっ!」
 ロイドが呻く横で、エリィが悲鳴をあげて膝を折る。続けて、ピキピキッ……と薄氷がひび割れる
ような物音が響き、エリィの全身へ石が蔦のように巻き付いた。
 エニグマの風と光もぷつりと消え、石の中に呑み込まれる。
「くっ……うぅっ……!」
 苦悶の表情を浮かべて呻くエリィに、周囲にいたサージヒツジン六匹が歓声のような鳴き声をあげ
て拍手する。
 ちゃんすだー! とばかりに襲いかかる六匹へ、ロイドが獣のような咆哮をあげてトンファーを振
るった。
「エリィに指一本触れさせはしないっ!!」
 燃える心のままにロイドが動く。全身から噴き出す炎のような闘志は怒りで更に勢いを増し、トン
ファーから起きる風は衝撃波レベルにまで強まる。
 が、その一方で、ロイドの顔色から血の気がひき始め、額からは脂汗が垂れ始めていた。
「……キキッ!」
 大きなサージヒツジンが、ロイドを見て愉快そうな鳴き声をあげる。
(まずいな、ロイドの身体が限界に近づいてきているのに気付きやがったか)
 エリィは仰天悪戯ボックスで石化し、ティオは開始のボムライスで混乱。ロイドもやがてはバーニ
ングハートの反動で倒れるだろう。
 そうなれば、後は自分一人だけ。
「余裕でテメーらの勝利ってか……?」
 喉の奥を揺らして笑うランディに、大きなサージヒツジンが怪訝そうな鳴き声をあげる。が、その
視線が後方にいるティオへとんだ途端、気配から余裕めいたものが無くなった。
「そゆ事。うちの年少は、いつまでも混乱してるようなのんびり屋じゃねぇんだよ」
 徐々に力が戻ってきているティオの足音を背中で聞きながら、ランディがスタンハルバードを構え
直す。普段よりも若干後ろで握ってリーチを伸ばす。
 大きなサージヒツジンの気配が針のように尖るや、弾丸のような勢いで突進してきた。
「あま……ぃっ!?」
 スピードはあるが単純な動きにランディが笑って駆け出した矢先、背中に魔導杖の光と衝撃波がき
た。
「っ―!」
 呼吸の出来ない痛みに歯を食いしばりつつランディは走る。こちらへ向かってくる大きなサージヒ
ツジンへ一気に距離を詰めると、全力でスタンハルバードを振り落とした。
 ドガァッ!! と、重たい音がたつ。ランディの振るったスタンハルバードが地面を抉り、土塊を
周囲へ撒き散らす。
「キキィッ!」
 スタンハルバードの攻撃を紙一重で避けた大きなサージヒツジンが、嬉しそうに顔を歪ませて鳴く
と、尻尾で身体を支えながら連続蹴りの体勢に入る。
 スタンハルバードの刃は地中、ランディはスタンハルバードの柄を両手で握ったまま、たたらを踏
んでいる。とっさに下がって避ける事も、別の得物で応対する事も不可能。
 ……の、筈だった。


236:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・8】
11/07/06 00:14:27.17 CFq5TOjA
 ランディが両足に力を込めると、スタンハルバードを握ったまま地面を蹴る。前のめりになった身
体をさらに前へ傾け、足を空へ向かって勢いよく回す。
 そして、大きなサージヒツジンの上を、スタンハルバードの柄を支えに空中で前転しながら、跳び
越えた。
「キッ……!」
 大きなサージヒツジンが呻くような鳴き声をあげると、無理矢理身体を回してスタンハルバードの
柄を蹴り、その反動を使って後ろへ飛び退く。
「いい反応だ」
 大きなサージヒツジンの蹴りがくる寸前に柄から手を離したランディが、空中で素早く体勢を整え
地面に降り立つ。
「だが……それが命取りだ!」
 ランディはスタンハルバードを再び握ると、大きなサージヒツジンへ向かって力任せに薙ぎ払った。
 刃から土塊を撒き散らし、スタンハルバードが唸りをあげる。大きなサージヒツジンの懐へ勢いよ
くめり込み、刃についた衝撃増幅ユニットからゴシャァッ! と、盛大な音がたつ。
「うぉぉおおおぉっ!!!」
 スタンハルバードの柄を弓形にしならせ、ランディは、大きなサージヒツジンを仰天悪戯ボックス
が出てきた茂みへ向けて弾き飛ばした。
 茂みの中から焦る鳴き声が響いたかと思うと、そこへ大きなサージヒツジンの身体が吸い込まれて
いく。隙間から赤紫の毛皮と赤いリュックらしきものが見えた次の瞬間、爆発が何度も発生した。
「キキッ!?」
 ロイドへ襲いかかっていたサージヒツジン六匹が、爆発が起きた茂みを見て固まる。
(! 今なら!)
 攻撃の手が止まった一瞬、ロイドは懐からキュリアの薬を取り出すとエリィの唇へ素早く流し込ん
だ。
 清らかな白光がエリィの身体を包み、全身に絡んでいた石の蔦を消していく。
「ありがとう、ロイド……」
 エリィが微笑み、導力銃を構えて立ち上がる。その姿にロイドが安堵の笑みを浮かべ、サージヒツ
ジン六匹が絶望に満ちた鳴き声をあげた。
 サージヒツジン六匹が、ロイドとエリィの包囲を放棄し逃げ出していく。
「ティオすけ、お嬢、逃がすな!」
 ランディが吠えるように叫びながら、ロイドとエリィの横を走り抜けていく。ぽんぽん跳ねながら
遠ざかるサージヒツジン六匹の後を追いかけていく。
 そんなランディに、ロイドとエリィが一瞬戸惑う。が、続けて近づいてくるティオの足音に―ボ
ムライスによる混乱から回復した彼女の足音に全てを悟り、それぞれ動き出した。
 ランディの後を追ってロイドもサージヒツジン六匹を追いかける。
「エリィさん、三つ目の導力灯に位置指定でお願いします……!」
 入れ替わる形で駆けつけてきたティオへエリィが頷き、薄く目を閉じて集中に入った。
「エリィさん、行きます……!」
「いつでもいいわ!」
 ティオとエリィの身体が青白い輝きに包まれる。溢れた光は銀糸となって、背中合わせで立つ二人
の足下に導力場を描いていく。
「コールドゲヘナ!」
 凛とした声をあわせてエリィとティオが叫んだ刹那、二人を包む輝きは閃光となり、柱となって天
を貫いた。
 二人がいる場所から三つ目の導力灯に天から飛来した閃光が着弾し、冷風を巻き起こしながら地面
に導力場を描いていく。
「キィッ……!?」
 すぐ目の前の地面で輝く導力場にサージヒツジン六匹が焦るが、全力で逃げていた足は止まらない。
そのまま吸い込まれるように飛び込んだ途端、導力場の光は無数の氷柱へと姿を変えた。
 地面から生え出た無数の氷柱がサージヒツジン六匹を上空へ突き上げる。ぽぽぽぽーんと身体が浮
かび、強制的に急停止させられる。
 そこへ、ランディとロイドが追いついた。
「いくぜぇ、ロイド!」
「いつでもいいぞ!」
 ランディとロイドが声を掛け合い、それぞれの得物を振りかぶる。
 次の瞬間、二人のバーニングレイジが撃風と轟音を幾度も巻き起こし、サージヒツジン六匹を吹っ
飛ばした。


237:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・9】
11/07/06 00:15:00.53 CFq5TOjA
 
 
 地面に描かれていたコールドゲヘナの導力場が静かに消えていく。
 再びのどかな雰囲気を取り戻した西クロスベル街道。その一角で、ランディとロイドが盛大に息を
吐きながら引っ繰り返った。
「ロイド、起きてるかー……?」
「あぁ。何とか……限界がくる前に、闘志の抑制へ回れた、よ……」
 青空の中を滑っていく雲を眺めながら問うランディに、ロイドがか細い声で頷く。真っ青になった
顔には大量の脂汗が流れているが、瞳の光はしっかりしていた。
「そりゃ良かった……」
 ふぅっと安堵の息をつくランディの耳へ、爆音にも似た轟音が二度届く。
「あ、やべ」
 残り二匹の存在を思い出し、ランディが上体を起こして向かおうとしたら、先にエリィとティオが
駆け寄ってきた。
「二人とも大丈夫?」
 心配そうな顔で尋ねるエリィに、ランディとロイドは右手をひらひら振って応える。
「悪ぃな、お嬢、ティオすけ。トドメの後始末やらせちまって」
「ううん、大丈夫よ。ランディのと攻撃料理のダメージでボロボロだったから、クリムゾンレイ一回
ずつで済んだわ」
 エリィが首を横に振って微笑むと、鈴蘭の刺繍が入ったレースハンカチを取り出してロイドの顔の
汗を拭き取り始めた。
「お嬢、膝枕もつけてやれー」
「い、いや、そこまではいいって……!」
 ランディの囃し立てに、ロイドがわたわた焦る。
 その反応にランディがニヤニヤ笑っていたら、後ろからブレスの柔らかな光が降り注がれた。
「……すいません。わたしが、ちゃんと混乱対策してなかったばかりに……」
 振り向くランディに、エニグマを握りしめたティオが頭を下げてくる。一瞬だけ見えた瞳は涙で少
し歪んでいた。
「いやいや、まさか魔獣が攻撃料理を使ってくるとは想定外だったんだし、しゃーねーだろ」
「そうね。私も、石化対策をちゃんとしてなかったばかりに、ロイドに無茶させちゃったわ」
 ランディが返せば、エリィもロイドの汗を拭いながら言葉を続けてくる。
「いや、そもそも俺がボムライスをセルテオさんに渡さなければ、こんな事態を招かなかったと思う
んだ」
 更にロイドまで話にのっかってきた。
「ティオすけが悪いってんなら、俺達も悪い。俺達が悪くないなら、ティオすけも悪くない……ま、
そーゆーこった」
 まごつくティオへ、ランディがからから笑って言うと、後ろ頭についた土を手で払い始める。
「……」
 ティオは、すいません、と動きかけた唇を一度止めてから、三人へ礼を述べた。
「ありがとうございます……」
 ティオの顔に浮かぶ微笑みに、三人も嬉しそうに安心したように笑い返す。
 ぽかぽか陽気に相応しい雰囲気に包まれる中、ふとランディが表情を変えた。
(あれ、そういや……)
 手を首の後ろにあてたランディがティオの方を向く。
 見つめられたティオがライトブルーの髪の毛を微かに揺らした時、ランディの首の後ろがチリっと
痺れた。
「あのね、ランディ。疲れている所悪いんだけど、ロイドに肩を貸してあげて貰える?」
 ランディが振り向くと同時に、エリィが申し訳なさそうに請うてくる。
「あ、いや大丈夫。一人でも歩けるよ……」
「無茶すんな。気ぃ失わないようにすんので精一杯なんだろ」
 よろよろと起きようとするロイドを、ランディは手で制して立ち上がった。
「つーか俺も、今の戦闘で武器がイカれたっぽくてな。お前に肩貸す名目でもないと、帰り道の戦闘
をサボれねぇんだよ」
 ため息つきながらランディが右手のスタンハルバードを軽く振ると、先端の衝撃増幅ユニットの辺
りからガシャガシャと怪しい物音がたつ。
「ははっ……それじゃあ遠慮無く肩を貸して貰おうかな」
 ロイドが力なく笑うと、ランディの肩へ寄りかかる格好で立ち上がる。
 街道に漂うのんびりした雰囲気に合わせるように、四人がゆっくり歩き出した。


238:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・10】
11/07/06 00:15:42.42 CFq5TOjA

※※※

 時が流れ、暖かな陽気と光が消えて夜になる。
「……っと、これで大丈夫かな?」
 ドライバーを軽やかに回して衝撃増幅ユニットのネジを締めると、ランディは、自室のソファーに
座ったままスタンハルバードを軽く振った。
 ヴゥン、と、虫の羽音のような振動音が刃の辺りから聞こえ、小刻みに揺れる風が赤茶色の髪を撫
でていく。
「やれやれ……部品の取り替えだけで済んだとはいえ、結局オーバーホールに近い作業になっちまっ
たなー」
 スタンハルバードをソファーの脇に置くと、ランディは肩を軽く叩きながら息をついた。
 ふと時計を見やると、いつもなら寝酒を飲んでる時間帯だ。
「……今日のは随分と埃と金属臭の強い酒だなオイ」
 テーブルの上に散乱する工具と土埃と壊れた部品を見下ろして自虐的に笑った後、ランディは首の
後ろを撫でた。
(あれは、やっぱり気のせいじゃなかったな……)
 ランディの瞳と唇に優しい笑みが自然と浮かぶ。
 首の後ろに手を当てたままランディが時計の秒針の進む音を聞いていると、コンコンとドアがノッ
クされた。
「? 開いてるぜー」
 ランディが首の後ろから手を離して呼びかけると、ティオがおそるおそる扉を開けて入ってくる。
 いつも頭に装着しているヘッドセットはなく、ベージュ色のコットン布地にみっしぃの顔が大きく
プリントされたルームワンピースを着ていた。
「あの……昼間の戦闘で、わたしの魔導杖の攻撃を受けた背中は大丈夫かと心配になりまして」
「ん? ああ、へーきへーき。さっき風呂入った時に鏡でチェックしたからな」
「そうですか……それなら良かったです」
 ランディがふざけ半分に両腕に力こぶをつくって笑うと、ティオもつられて少しだけ唇を綻ばして
きた。
「つーか、ティオすけこそ大丈夫か? 今日の夕食やら報告書やら全部一人で請け負って」
「大丈夫です。あの戦闘で皆さんの負った負担に比べたら軽いものです」
 両腕をおろしてソファーから身を乗り出すランディに、ティオは淡々と答える。
 本来の当番や担当であったエリィやロイドは固辞したのだが、それ以上にティオが頑として譲らず、
結局、『まぁ本人がやりたいっつーなら気の済むまでやらせてやれ』と、課長が仲裁に入って決着が
ついた。
「あの……この前は、すいませんでした」
 時計の秒針が数回進んだ後、ティオが膝におでこをくつける勢いで頭を下げてくる。
「わたしが、本当に大切な事を見失っていたばかりに、ランディさんを傷つけてしまいました……」
 ライトブルーの髪の毛先が床を払っていく中、ティオは、もう一度、すいませんでしたと頭を揺ら
した。
「んなの気にすんなって」
 ランディはソファーからたつと、頭を下げたまま動かないティオの前へ膝をつく。
「ティオすけが嫌がってんのに強行したら、俺は教団の奴らと一緒になっちまうだろ」
 右手でティオの肩を優しく叩くと、左手で彼女のライトブルーの髪を優しくすくって毛先を床から
浮かせてあげた。
「何で……そんなに怒ってないんですか?」
 むしろ、とても上機嫌で嬉しそうなランディの雰囲気に、ティオがおそるおそる頭を上げる。
「もしかして、わたしのお願いは迷惑だったのでしょうか……」
「んな訳ゃねーだろ」
 暗い顔して悲観するティオへ、ランディは時計の秒針が動くより早く斬り捨てた。


239:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・11】
11/07/06 00:16:23.27 CFq5TOjA
「……昔から、さ。後ろで誰かが何かしたり近づいてくる直前、首の後ろが軽く痺れるんだ」
 ランディが首の後ろに手をやって語りだす。
「それは敵だけじゃない。どんなに信頼している仲間でも、家族でも、そうだ」
 ミレイユやカーターやラフィなど、警備隊時代の同僚達でも。
 ロイドやエリィ、課長やキーアが相手でも。
「どんなに止めようと思っても、油断が出来ない。信頼より先に警戒がくる。首の後ろに痺れが走
る」
 それは戦場と殺し合いに生きる猟兵ならば必須の能力だろう。でも、ここは戦場ではない。
「……最近は、もうどうしょうもねぇなと諦めてた。生まれついての癖だなこれはと開き直ってた」
 だけど。
「その首の後ろの痺れが、ティオすけ、お前にだけは起きなかったんだ」
 そう言った時のランディの顔に、満面の笑みが浮かんだ。
「あの戦闘の時、混乱したお前に二度背中をボコられても、首の後ろは痺れなかった。生まれて初め
て、俺ん中で信頼が警戒に勝ったんだ」
 何もかもが中途半端だった存在に、初めて、強く想う事で得られるモノが手に入ったんだ。
「だからティオすけ……お前には感謝してる。俺に、信頼を与えてくれたお前にな」
 ランディは、今まで首の後ろに回していた手でティオの頬を撫でると、笑顔で告げた。
 
「ありがとな、ティオすけ」
 
 ランディの暖かな声は、ティオの中で大きく膨らむ。今までずっと、申し訳なさと自己嫌悪で凍り
付いていた身体の芯が暖かくなって、雪解け水のような涙が目端から零れる。
「っ……!」
 ティオは慌てて涙を拭うと、ランディから背を向け、エニグマを取り出した。
「? ティオすけ??」
「エニグマ駆動……完全防御システムの構築と展開を開始……」
 戸惑うランディを置いて、ティオは導力魔法のアダマスガードを発動させる。
 金色の障壁がティオの身体を包み込んだかと思うと、何事もなかったかのように消えていった。
「ランディさん、わたしの背中をスタンハルバードで思いっきり薙ぎ払って貰えますか?」
 背を向けたままティオが請う。
「へ? いや、おま、昼間の件なら気にすんなってさんざん言っただろ!」
「違います。昼の件を詫びるつもりなら、そもそもアダマスガードをかけたりしません」
 声を荒げるランディに、ティオは背を向けたまま首を横に振った。
「わたしも知りたいんです。ランディさんが得たモノを」
 今までの人生において、ずっとついて回ってきた壁を乗り越えた想いを。
「もしかしたら、それは……」
 ティオは言いかけた声を止めると、背筋を伸ばし、両手を胸の上に置いて、身体の芯に灯った温も
りを抱き締めた。
 ティオの瞳が自然と閉じられ、身体から気負いが抜ける。
「ランディさん、お願いします」
 改めて請われて、ランディが少し迷った表情で頭を数度掻いた後、ソファーの脇に立てかけてあっ
たスタンハルバードを手にとった。
「んじゃ……いくぞ」
 宣言と同時に、強い風が室内を巡る。
 ティオの背中を抉るように通過するスタンハルバードの刃にアダマスガードが反応し、衝撃波を相
殺しながら砕け散った。


240:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・12】
11/07/06 00:17:00.54 CFq5TOjA
 アダマスガードの光が周囲に散らばり消えていく中、ティオは唇を綻ばす。身体の芯に灯った温も
りが、ほんの少し強まったのを感じて。
「ティオすけ~、いくらアダマスガードがあるって言っても、ちったぁ身構えた方がいいぞ」
「ランディさんこそ、昼の戦闘では混乱しているわたしに対してノーガードだったのに、それを言う
のですか?」
 困惑しきりの顔でスタンハルバードを近くの壁に立てかけるランディに、ティオは目を開きながら
振り向く。
「うっ……」
 指摘されて息を詰まらせるランディに、ティオはにっこり笑いながら言った。
「確かめたかったんです。わたしも、ランディさんをどれだけ信頼しているのかを」
 そして解ったんです。
「わたしの信頼も、きっとランディさんと同じ。もし昼の戦闘の立場が逆でしたら、きっとわたしも
ランディさんと同じ事をしていました」
 身体の芯に灯った温もりは全身に広がり、ティオを優しく包み込む。どこまでも清らかで柔らかな
雰囲気を外へ放っていく。
「もし、許されるのなら、わたしはそれを愛と呼びたいです」
 顔が自然と優しい笑みを浮かべ、溢れ出る想いを小さな唇から紡がせる。
「それはロイドさんやエリィさんのような愛とは全然違うものです。もしかしたら、わたしは、また
根底から間違えているかもしれません」
 恋人同士になる努力をせず、世界で一番優しい音楽だけを求めていた頃のように。
 過ちに気付かぬまま間違ったアプローチをして逃げ出した夜を思い出して、ティオの身体がブルっ
と震える。
「信頼は信頼であって、決して愛になる事はないのかもしれません。そもそも欠けた存在であるわた
しが愛を得る事など不可能なのかもしれません……」
 次々と出てくる悪い考えに、ティオの手足の先がピリピリ冷たく痺れだす。蛇が這いずるように、
身体の中央へ向かって伸びてくる。
「正直、それはとても怖いです。でも、今は……」
 身体の芯に灯った温もりまで掻き消そうとしてくる冷たい痺れを前に、ティオが、胸の上に置いた
両手をぎゅっと握りしめて叫びかけた刹那、ランディの手がティオの頭に乗っかってきた。
 彼の大きな手に包まれて、ティオの中から冷たい痺れが霧散していく。
「ティオすけ。お前はマジメすぎんだよ」
 知らぬ間に俯いていた顔をあげるティオへ、ランディは優しげな光をたたえた眼差しで言ってきた。
「どんなに他人を憧れたって、その他人に俺達は絶対なれねぇんだ。当然、愛の形だって同じだ。他
人のがそのまま自分に適用できる訳がない」
 それにな、と、ランディが続ける。
「俺達ゃ神様なんかじゃねぇ。結末を見越しての行動なんか出来る訳がない。その時その時を積み重
ねて進むしかない。たとえその結果が……積み上げてきたものが過ちだったとしても、そうして生き
ていくしかないんだ」
 唱えるように響く彼の声は、砂漠に降る雨のようにティオの心へ吸い込まれていく。握り締めてい
た両手は自然とほぐれ、知らぬ内に強ばっていた表情も再び穏やかなものになる。
「……さて、ティオすけ」
 ランディは咳払いを一つ入れると、ティオの瞳をじっと覗き込む。
「もし、お前が構わないってんなら、俺も、この信頼を愛と呼びたいんだがいいか?」
 少しだけ首を傾げて問われた途端、ティオは、身体の芯に灯っていた温もりが一気に溢れ出すのを
感じた。

241:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・13】
11/07/06 00:17:42.41 CFq5TOjA
 
 
「ぁ……」
 身体の震えが止まらない。とても暖かいのに身体の震えが止まらない。
「は……い……」
 頷く声も掠れてしまう。満面の笑みを彼へ贈りたいのに、顔の筋肉がひきつって上手く笑顔をつく
れない。
 でも、彼は、嬉しそうに笑って、頭に乗せたままの手で優しく撫でてきてくれた。
 
 


242:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・14】
11/07/06 00:18:26.45 CFq5TOjA
「まぁ当然、結末が過ちになんかならんように最大限努力はするさ」
 片手でティオの頭を撫でつつ、もう片方の手で自分の胸元まで彼女を抱き寄せ、ランディは誓う。
「わたしも頑張ります。ただでさえ、一度は盛大に間違えてしまったのですから。そんな事、もう繰
り返したくはありません」
 涙で少し潤んだ瞳でティオがランディを見上げると、頭を撫でていた彼の手が顎まで滑り下りてき
た。
 近づいてくる吐息の気配に、ティオの目が自然と薄く閉じられる。
 ランディの赤茶色の髪の毛がさらりと零れ、ティオの肩へ抱きつくように触れてくる中、二人の唇
が重なり合った。
 お酒の匂いのしないキス。なのに、今まで彼と交わしてきたどんなキスよりも、身体が火照って鼓
動が強まる。
 その熱と鼓動の変化が間違いじゃないと教えてくれて、ティオは喜びで胸が一杯になる。
 突き動かされるように、両手でランディの頬と耳へ触れると、重ねた唇から舌を突き出した。
「っふ……」
 指先で彼の耳をなぞったり耳たぶを優しく揉んだりしながら、ティオが口と舌を咀嚼するように動
かす。感覚をフル解放して彼の反応する箇所を探して見つけて、そこを精一杯撫でて舐めて摘んで触
る。
 ランディも負けじと唇と舌をティオの口や歯や舌へ這わせつつ、両手を耳から顎・首筋を経て胸骨
まで滑らすと、また顎と首筋を通りながら耳たぶまで撫で上げるを繰り返す。
 時折生まれる隙間から二人の吐息と唾が漏れ、口端をつたって垂れていく。
 お互いの髪が相手を求めるように揺れて交わり、二人の顔の横で赤茶色とライトブルーが混ざり合
う。
 時計の秒針が刻む音にピチャクチャと唾が混ざる音が加わったかと思うと、室内で響く度合いが
徐々に大きくなってくる。
 やがて、零れた唾液が銀糸のように伸びて床に落ちた頃、二人が手を止め唇をそっと離した。
「っ……ふぅっ、ふぅ……」
 真っ赤に染まった顔で、ティオが切なげに息をつく。胸骨から上の部分だけをいじくられていただ
けなのに、履いているパンツの中はオイルの中に浸ったかのようにヌルヌルして、足をちょっと動か
すだけで、ぐじゅ……と布からいやらしい音がたって太股の内側に生暖かい愛液が垂れてしまう。
「ティオすけ、大丈夫か? 嫌とか、やっぱ止めときたいっつー気持ちはねぇか?」
 少し心配そうな顔で確認してくるランディに、ティオは静かに頷く。
「大丈夫です、問題ありません……」
 むしろ、身体がドロドロに溶けてしまいそうな程に熱いので、早く着ているモノを脱ぎ捨てたい位
だった。
「……そっか」
 ランディが安心したように笑うと、ティオのルームワンピースの襟に指をかけ、ん? とくぐもっ
た声をあげる。
「このワンピ、被り物か?」
「はい……すいません」
 こんな事ならこの前のルームワンピースを着てくれば良かったとティオが少し後悔していたら、ラ
ンディがニヤっと怪しい笑みを浮かべてきた。
「ならば一気に剥ぎ取るのみっ」
 いつもの軽い調子で笑う声が聞こえたと同時に、ティオの視界と身体が急回転する。
「きゃっ」
 驚いて声を漏らすティオをランディはお姫様抱っこで軽々と抱き上げると、そのままベッドまで歩
き始めた。
 足音のリズムに合わせてティオの身体は上下に揺れ、耳には彼の鼓動が流れ込んでくる。
(ぁ……)
 二つの音と振動に、ティオは、教団のロッジから助け出された時の事を思い出す。あの時も、あの
人にこうして抱っこされながら、光のある場所へ連れ出されたのを思い出す。
(ガイさんといいランディさんといい、どうやら、わたしは、兄属性の人がキーパーソンになる運命
のようですね……)
 ティオがランディに隠れて微笑んでいたら、足音が止まり、ルームワンピースの裾を掴まれた。


243:聞かせて、世界で一番優しい音楽【後編・15】
11/07/06 00:20:09.84 CFq5TOjA
「そ~らよっと!」
 ふざけた調子でランディが叫ぶと、掴んだルームワンピースを思い切りまくりながらティオをベッ
ドの上へ落とす。
「きゃっ!?」
 どさっ、と布が擦れあう音とベッドのスプリングが軋む音がティオを揺らし、ルームワンピースに
プリントされた特大みっしぃの顔が眼前を通過していったかと思うと、身体が急に涼しくなった。
 ベッドの上で、ティオが下着姿になって寝転がる。
「おっ、やっぱり下着もみっしぃか」
 みっしぃのイラストが布地にプリントされたブラとパンツを見て口笛吹くと、ランディは剥ぎ取っ
たルームワンピースをソファーの方へ放り投げた。
「やっぱこっちの方がティオすけらしいや」
 朗らかに笑いながらベッドに乗ると、ランディはティオの上に被さる。両手の人差し指をブラのス
トラップに引っかけると、掌の付け根部分をブラのカップに押しつけた。
 ささやかな丘陵を描く膨らみが、カップごと圧されて形を変える。布地の摩擦と彼の手の暖かな重
みは、知らぬ間に固く尖っていたティオの乳首にこそばゆい刺激を与えてきた。
「んっ……」
 ティオは反射的に肩を竦めて吐息を漏らす。そこへ、彼の人差し指が、引っかけていたブラのスト
ラップを指先で弾いてきた。
 ぱちん、と、ストラップで両脇を軽く叩かれる音と感触は、ティオの中で細波に変わる。
「っ……!」
 ティオが思わず瞼を揺らして震える中、細波に押し出されるように履いているパンツの股部分から
愛液が滲み出た。
 ランディは、もう一度両手の人差し指をブラのストラップに引っかけると、ブラのカップに乗せた
掌の付け根部分を動かし始める。
 布地にプリントされたみっしぃの絵柄が、彼の掌の付け根に圧され揉まれて姿が歪む。完全に固く
なって尖った乳首が、ブラの中で曲がって潰れて歪む度に、微弱な電流にも似たくすぐったさを体中
へ吐き散らかしていく。
 時折、彼の人差し指がストラップをぱちんと弾いて、与える刺激に変化をつけてきた。
「んっ……ん、ぁ、っ……」
 甘えるような声を出して、ティオが首を左右に振って悶える。
 くすぐったくて気持ち良くて、そして焦れったくてたまらない。もし彼の手が直に胸を触れてきた
らどうなるのだろうという疑問と共に、早くそうしてきて欲しいと願ってしまう。
「ふっ、ん……んんっ……」
 でも口から零れるのは、ブラと一緒に乳房と乳首をいじられ揉まれるこそばゆさが変化した声。下
の口から零れるのは、原始的な反応。汗と愛液で濡れきったパンツは股へ張り付き、秘部の形にそっ
て凸凹を浮かべていく。
 そんな自分の一挙一足を、彼は少しでも見逃すまいと唇を結んで凝視してくる。その強い眼差しに
射貫かれる感覚も、焦らす動きと合わさってティオを更に感じさせて、心臓と頬と下腹部が否応なし
に熱くなる。
「ん、あっ……ぅっ……んっ……」
 さらさらと、鈴のような音をたててシーツの上で踊るライトブルーの髪の毛が、キスの間ずっと絡
み合っていた赤茶色の髪の毛を探して求めるような動きが、ティオの今の意思を一番現していた。
「あっ―!」
 ふいに一際強い声がティオの口から出る。パンツの股の部分が微かに盛り上がり、愛液がごぽりと
染み出てくる。
 その声が聞きたかったとばかりに両手を離したランディの前で、ティオはベッドへゆっくり沈んで
いった。
「はぁっ……はぁ、はっ……」
 涎でテカる唇で短い呼吸を繰り返しながら、ティオが歳月が染み込んだ古い天井をぼんやり見てい
ると、ランディがベッドから降りた。
 視界の外から、ランディが着ている服のボタンを外して脱いでいく音が聞こえてくる。
 ティオが顔を横へ倒すと、丁度ランディが上着を脱ぎ終えた所だった。
 室内の明かりに照らされて、スタンハルバードを易々と振るえる程に鍛え抜かれた上体の筋肉が肌
の上で微かな陰影を描く。それはまるで一つの彫刻作品のよう。動きに合わせて揺れる赤茶色の髪や、
体のあちこちに残る古傷が、装飾品のように彼の身体を一層惹き立てる。
(ランディさんが女性のグラビアを見ている時もこんな気持ちなのでしょうか……)
 新たな発見にティオが胸をときめかせる中、ランディがズボンを脱ぎ、下着のボクサーパンツを脱
いだ。



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