11/06/02 00:47:53.76 ZBFW7IM8
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「……あの当時は、注射みたいに痛い投与だとしか思っていませんでした」
空のマグカップをベッドの上に置くと、ティオは自分の臍の下に右手をあてる。
「ただ、初めてあの投与をされた際……両足を開かされた体勢で身体を固定された時に、妙な不安を
感じた事は覚えています」
今にして思えば、きっと本能的なものだったんでしょう。
突き放した物言いで告げたティオの顔は、感情がごっそり抜け落ちていた。
部屋の中が静まり、凍りつく。
二人の息遣いすらも消えた静寂の中、部屋の窓から見える夜空の中に月が入り込んできた。
ベッドの上に腰掛けているティオの方へ月光が差し込む。
「……もう諦めるしかないんです、わたしは……」
どこまでも青白く、まるで悲鳴をあげているかのような月の色が、ティオの姿を照らし出す。
「いくら望んでも、あの音楽を奏でられるだけの資格を、わたしはもう持っていない。女性としての
身体は、とうの昔に汚れてしまったから……」
臍の下にあてていた右手をぎゅっと握って呟くと、ティオはベッドから降りた。
残されたみっしぃのぬいぐるみが支えを失い、ベッドの上に引っ繰り返る。
「ホットミルク、ご馳走様でした」
重く抑揚のない声でティオが述べて、立ち竦むランディの傍を通り抜けようとした時。
「……馬鹿野郎」
の小さな声と共に、ランディの左手が、ティオの身体に回ってきた。