11/03/07 21:52:58.87 7XyG3muZ
室内には煙が充満し、澱んだ空気も熱気を帯びていた。
遠くに聞こえていた怒号や悲鳴も、今は散発的なものになっていた。
落城が近いのである。
ここスペランカ王国の本城は、隣国のドルトムント共和国の奇襲攻撃を受けた。
強国で知られたスペランシアだったが、同盟国に援兵を送っている隙を突かれてはひとたまりもなかったのだ。
良港に恵まれたスペランシアは、山岳国であるドルトムントにとって喉から手が出るほど欲しい垂涎の的であった。
スペランシアを落とせば海軍力を保有できる
そのうえ海運貿易により手中にできる富は計り知れない。
ドルトムントの議会がスペランシアを狙ったのも当然といえば当然であった。
しかし、彼らが隣国を騙し討ちしたのにはもう一つ理由があったのだ。
大陸一の美姫として知られたラミア姫の存在がそれである。
ドルトムントのゲゼット将軍は、以前舞踏会で見かけたラミア姫に恋い焦がれた。
そして何が何でもラミア姫を手に入れようと企んでいたのである。
そのチャンスはやってきた。
お人好しのスペランシア国王が、自軍の半数を同盟国に送るという情報を掴んだのだ。
表面上はドルトムントもスペランシアと友好条約を結んでいる。
ドルトムントは彼の国が自国寄せる信頼を逆手に取ったのであった。
恥知らずな戦法は功を奏した。
ドルトムントの重騎兵部隊は、宣戦布告もなしに国境を突破したのだ。
もちろん条約破棄の通達などあろう筈もなかった。
完全に虚を突かれた国境警備隊は、あっさりと蹴散らされてしまった。
同盟国への出兵のため人員を引き抜かれていたことも、戦いがワンサイドゲームに終わった原因となっていた。