11/03/06 08:48:11.92 9cdJfIvR
「おお、黒猫氏、お目が高い。これは、ナチスの大立者で、国家元帥だったヘルマン・ゲーリング愛用のルガーを忠実に
再現したモデルですぞ」
「そうなの……」
そのあっさりとした返答で、黒猫の興味の対象が、モデルガン本体ではなく、それに付随しているものであると分かった。
「なぁ、拳銃の隣にある勲章みたいなもんは何なんだ?」
「あれは、騎士鉄十字章でござる。ナチスドイツにおいて、軍人が獲得し得る最高の戦功章で、受章者は当時、ドイツ社
会で英雄とみなされ申した」
「そういう代物なんだ……」
中央に鉤十字がレリーフになっているのは好みが分かれるだろうが、周囲を銀色の金属で縁取りされた黒い十字は、
いかにも黒猫が好みそうな意匠だった。
「モデルガンじゃなくて、あの勲章が欲しいんだな?」
俺の問い掛けに黒猫は、こっくりと頷いた。
だが値札には、三万六千円と記されている。
「ちょっとなぁ……、甲斐性なしの俺には、不可能に近い金額だぜ……」
昨年のコミケで御鏡が作ったシルバーアクセサリーを買ったように、目の前にある騎士鉄十字章をモデルガンごと
黒猫に買ってやりたかった。だが、それは金額的には到底不可能だった。
「……別にいいわよ……。それほど欲しいと思った訳じゃないから」
そう言いながらも、目は勲章に釘付けになったままだ。こいつは、こういうところで嘘がバレるんだよな。
さて、どうしたものか。
沙織も、下顎に手を当てて、何やら考えているような雰囲気だった。
その沙織が、決心したかの如く口元を一文字に引き結び、何かを確かめるかのように、軽く頷いたように見えた。
「黒猫氏、そのモデルガンと騎士鉄十字章は、拙者が購入致しますぞ」
「そう……、沙織が買うのなら仕方がないわね」
資本力がある者が、欲しい物を優先的に手に入れる。
古今東西から変わらぬ、商取引の原則の一つだ。
だが、沙織には、金にあかせて何かを買い占めるというような下品な振る舞いは、およそ似合わない。
沙織のことだ。購入したモデルガンと騎士鉄十字章のうち、後者を黒猫に譲るつもりなんだろう。
そうすることで黒猫は目当ての勲章を入手できる。だが、黒猫の自尊心はどうなんるんだ。
「でも……、施しだったらいらないわ……」
案の定、誇り高き闇の眷属は、沙織の狙いをお見通しだった。
ささやかだが、腹の底から搾り出されたような黒猫の抗議の声に、沙織は、口元を『ω』な風にすぼめ、後頭部をポリ
ポリと引っ掻いた。
「いや、いや、黒猫氏、それは早合点というものにござるよ。拙者、別に黒猫氏にその騎士鉄十字章を差し上げたくて、