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鉄板が取り付けられ、その下には四角い鉄板にこれもペンキで手書きされた時刻表が申し訳程度にくっ付いている
ポールがぽつねんと突っ立っていた。このレトロなしょぼさが、いかにもこの街らしい。首都圏には、こんな一昔以上前
のバス停なんか、もうありゃしないからな。
「ありがたいことに、バスが待っていてくれてるぜ」
「でも、時刻表では間もなく発車時刻でこざるぞ。各々方、お急ぎを」
沙織に言われ、あたふたと乗り込んだ途端、バスは身震いするようにブルブルとエンジンを始動し、ドアを閉じて動き
出した。
「間一髪ね。沙織と一緒だと、無駄にスリリングなことがあって、本当に飽きないわ……」
黒猫の指摘は、毎度のことながらシニカルだが、俺も同意見だな。だが、それがいい。
ガタゴトという騒音が目立つ、この街に似つかわしい古臭さを漂わせたバスに揺られること二十分。俺たちは、この
街の東側にある繁華街に行き着いた。
この街が変わっている点はいくつもあるが、その一つは、中央駅の周辺には大手の百貨店とか中央郵便局とかが
あるにはあるが、繁華街と呼べるほどの賑わいはないことだ。
本当の繁華街は、中央駅から離れた、盆地の中央付近に散在していた。
これは、鉄道が古くからの街並みを避けて、盆地の南の縁をなぞるように敷設されたためだろう。
新幹線が通るようになっても、この街が本当に賑わっているところは、昔も今も変わらないらしい。
だが……、
「ここなの?」
バスから降りた俺と黒猫は、沙織に訝るような視線を向けた。
だって、繁華街とはいっても、大通りから狭くて薄暗い路地がいくつも延びているだけで、東京や千葉のそれとは
かなり趣きが違う。
「たしか、この路地で間違いないはずなんでおじゃるが……」
沙織は、目当ての店のホームページか何かを印刷した紙切れで、その店の場所を確かめているようだった。
「いったい、俺たちをどこへ連れていくんだよ」
ここに至っては、もう、俺の出る幕はねぇな。あとは、沙織だけが頼りだ。
その沙織は、その紙切れに記されている住所と、電柱とかに書かれている番地とを見比べながら、目的地を探っている。
「交番で訊いた方がよかねぇか?」
あ、そうは言っても、交番がどこにあるか分かってないよな。俺って、どんだけ間抜けなんだか。
「まだ、分からないの?」
黒猫も、埒があきそうもない沙織にイラついてきたのか、赤い瞳から繰り出す視線が、心なしか刺々しい。
だが、沙織は、時折、「う~~ん」と呻吟はするものの、磊落そのもので、紙切れに記されている住所とガイドブックの
地図とを照合し始めた。
「おお!!」
「わ、分かったんだな?!」