愛するが故に無理やり…… Part7at EROPARO
愛するが故に無理やり…… Part7 - 暇つぶし2ch471: ◆h1Zp3va3xs
11/05/11 00:28:31.67 jJ7Q117T
 30年以上努めた会社を数年前に定年退職後、ひとみは東京に引っ越し、退職金と貯蓄、年金を元手に通信制大学に入学した。
既に夫はこの世を去っているし、結婚した娘も東京に暮らしている。田舎の広い家で一人で日がな一日過ごす生活よりは、
娘の育児を手伝いながら興味のあることでも好きに勉強してみようか、と思ったのがきっかけだった。

 日が暮れた道を子供たちが競うようにして帰っていく。孫と同じくらいの子供たちだろうか、次々ひとみの傍らを走り抜けていく。
揃いのユニフォームはサッカー教室の後の子供たちだろう、泥だらけで、それでも飽きずにサッカーボールを蹴りながら歓声を上げる。
そのうちの一人が、昔どこかで見たことのある顔のような気がして、ひとみは目を瞬いた。
 まさか、ね。
 若社長は先代のようにはなれなかった。就任して数年で社内の女子に手をつけたとの噂がまことしやかに立ち・・・
そしてそこから立ち直ることができなかった。
 他人の空似だわ、・・・若社長の小さな頃に似てるなんて。
 
「多田商事、新社長が決定」
 夕刊の片隅に、小さな記事が写真つきで載っている。年嵩の男性の写真だった。
 明の解任が決まったとの知らせを実は宮田から知らされた。経営悪化の責任を取って辞任、が表向きの理由だったが、
実際のところは経営以上の問題で、社長の放蕩が原因だったらしい。多田だからと目をつぶってきた地元の取引先にいくつも逃げられ、
株主と役員にそっぽを向かれたとのことだった。
―旧家の嫁さんに暴力を振るって逃げられたとか、会社の金を博打に使ったとか、
本当かどうか分からないけど最近の明の噂はそんなのばっかりだ。あいつ、どうかしてるよ。
 多分、明は本気で由香を愛していたのだ。子供を作るのもそれが目的のすべてではなく、本当は由香を繋ぎとめるための手段ではなかったか、
と思う。却って由香を失い、結果自分自身まで見失うほど、深く―。今はもう実にはわからない。
「お父さん、ごはん出来たよ」
「ああ、悪い悪い」
 妻の声に、実は我に返った。
「ただいまー」
 サッカー教室が終わり、今日も汗と泥まみれになって帰ってきた息子の着替えを手伝い、2歳になる娘を抱きあげて食卓に着く。
「今日は何?」
「今日はシチュー」
「やったあ!」
 男同士、顔を合わせて歓声を上げた。その表情が、いつかどこかで見た横顔と重なって、実は幻を振り払った。

蛙の夢、終わり

お付き合い、ありがとうございました。


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