12/03/15 22:18:38.37 Phqth3kr
あの日以来全てがかわった…生体科学者でもあった本郷は、苦悩の中で己の体の分析を幾度も行ってきた。
ショッカー怪人に勝つ為の戦闘能力の分析だけではない。
未改造の脳髄に比べ、筋や神経群、内臓器官…生物的に、生理的に自分はどこまでかわってしまったのか。
生殖能力が失われていないことを知ったとき、彼は一瞬安著もした…
だが詳細に研究を重ねるうち、それは暗澹たる思いにかわった。
たとえ人間体―本郷猛の姿であろうと、改造人間である自分が普通の人間女性にその能力をむけたらどんな事になるか。
その研究の確実な結果を、実は本郷は未だ出していなかった…
分析を続け蓄積するデータの中で徐々に判明しつつあること…それはあまりに未知数であり、
ケースによっては危険の可能性を示す内容だった…それも相手の女性の身体にとって。
半ば打ちのめされ、彼は生殖能力の分析はそれ以来ふっつりとやめてしまっていた。
人間体ですらその傾向のデータ内容…怪人体ならもはやその数値、見るまでもない。
更に研究や戦闘の日々で、普通の人間に戻れないといやでも理解しつつある現状があった。
まだ諦めていなかったものの、時折脳裏にもう二度とまともに異性を愛せないのかという不安がよぎる。
…だが本郷がその絶望感を表にした事はごく少なかった。
幸か不幸か、非人間に改造されてしまった精神的衝撃、それでいてショッカーに対抗し、やれるのは自分しかいないという、
良心故にのしかかることになった重圧感があまりに強かったからだ。
戦いと手探りの自己分析だけで過ぎ去り、ショックに沈む暇もないほどの必死の連日…
ショッカーの虐げられる人々を目にして、彼は戦いに集中するため私心を極力封じ込めた。
そうだ、俺は心を封印していた… 改造されてしまってからそうせざるを得なかった…
…だのにあんな場で正体をさらしたあげく…ふがいないだと…偽善だと。
ルリ子がよせてくる好意を心の中で気づきながらも、好意に気づかない振りをし
自ら触れる事もできず、一歩引いてただ守るだけしかできない自分に…
俺を、そう生きざるを得ない怪物に変えた貴様らが言うか、俺を絶望にたたき落とした貴様らが!!
仮面の隙間から野獣にも似た呻き、唸り声がもれる。胸ぐらをつかまれたまま、ライダーは身をよじり手鎖を鳴らした。
「…黙…れ…貴様…! だれの…だれのせいで!」
「フフ… 我らのせいか。つまりお前自身はこの娘の肉体を望み、そのくせ行為におよべぬ腑抜け男だと認めるわけか」
「黙まれぇぇえ!」
血と汚れの飛沫を散らし、より上身を起こし、拘束されたままの両腕を振り上げようとするライダー…
怪人は掴んでいた胸ぐらを離した。同時にライダーの喉―あご下を鷲掴みにして押しやり、上身を勢いよく床上に押しもどす。
「ガァ…ッ!」「ライダー!」
泣き声を交えたルリ子の声…上身背面と後頭部を床上に叩き付けられ、ライダーはまた意識が遠くなった。
「つまらん。実につまらん。そのショッカー怪人の身で、馬鹿げた禁欲をつき、ただ弱者どもの護衛に徹するなど、
あまりにつまらん生き方だと思わないのか、仮面ライダー」
「おも…わ…ん… き…さ…グ…ッ グウ…」
喉を強烈に掴む怪人の指のため言葉が続かない…
貴様らに分かる事ではない…心の内で叫び、怒りと苦痛で肩が上下する。