11/08/31 01:08:16.08 xZOhayxk
「……今年は、お前がいるからちょっとは温かいかな」
意識がなくなりかけた頃に、私に話しかけているのか、独り言なのかわからないくらいの声で先輩が言った。
とても意外な気がしたその言葉に振り向くと、先輩は仰向けのまま目を閉じていた。
ほとんど真っ暗な中に、その整った横顔がわずかに青白い影を映し出している。
やっぱり頬の辺りが熱いのは、飲みすぎだろう。
「そうですよ。感謝してくださいよー」
「……夏は暑くなったけどな」
「あー、素直じゃないなぁ」
なんだか妙に照れくさい。多分、先輩もだ。
「いいからもう寝るぞ」
「そうですね……おやすみなさい」
「……おやすみ」
私がここに来るまで、先輩はどんな風にして暮らしていたんだろう。
先輩がこの部屋で、一人で食事をして、一人で眠って、一人で起きる所が何故だか想像できない。
―想像できないというのは、私自身のこともだ。
まだ1年も経たないのに、今のこの生活があまりにも当たり前で、去年の今頃は先輩に会ってもいなかっただなんて、信じられない。
そして、そのうち私も先輩も大学を卒業して、ここを出て行ってしまうなんてことも。
今という時間が、過去にも未来にも、同じ姿で存在しているんじゃないかという感覚。
これまでに、経験したことの無い気持ちだ。
多分、実際にこの生活はずうっと続くのだろうと、寮のボロい天井を見ながら半分眠った頭で、思う。
もちろん、そんなわけはないのに。
ちょっと腕を動かしたら、先輩の柔らかくて小さな手に触れた。温かい、な。
私は先輩の手を握ったまま、眠ってしまった。