14/02/26 10:44:35.90 6nK+ADOB
>>434氏
茜可愛いよ茜
相変わらずGJ!
結婚式編楽しみにしてます!
「雪の日の夫婦」
GJ!続き読みたいなぁ
両片思い、切ないけど何処か優しい
踏まえたうえでの気持ちと心、身体の交わる姿が見たいです!
516:434
14/03/09 21:22:22.82 e2DX1qMl
藍沢夫妻の続きができたので投下します
エロ遠い、エロ薄い、本番あってないようなもの、人によっては不快になる表現あり
等々好き勝手やっておりますので「夫婦の墓参り」をNGでお願いします
517:夫婦の墓参り
14/03/09 21:26:25.89 e2DX1qMl
藍沢彪は慄いていた。
別に辛いことや悲しいことがあったわけではない。むしろその逆だ。最近、
「……彪、起きてる?」
「あ、うん。どうしたの?」
「ええ、と…寒くて」
「そ、そっか。…あの、アレだ、そのー…に、人間カイロとかどうでしょう」
「……お願い」
気が強くしっかりしていて甘える姿など見せなかった筈の大事なお嫁さんが、藍沢偲乃さんが、
なんでだかやたらと理由を付けてくっついてくるようになったのである。訳が分からない可愛い。
「……あたたかい」
「よ、よかった。寒いのは辛いもんね」
「うん」
ちなみに本日の最低気温は6度だ。日中はうららかな春のぽかぽか陽気だった。当然夜もそこまで冷え込まない。
「今日は、なにをしてたの?」
「昨日と同じだよ。家事やってから将棋の駒作り。もう少しで全部そろえられるかな」
「そう。…ごめんね、おじいさん達が面倒なこと頼んじゃって」
「平気平気。細かい作業は好きだし、頼みごとをしてもらえるのも嬉しいよ」
「ならいいけど。…完成したら見せてね」
「うん」
「一番にね?」
「うん、分かってます」
言いながら、抱きしめた状態のまま頭を撫でてみると、偲乃は満足げに目を細めた。
日向で寝転んでるかゴロゴロ言いながら爪を出し入れしてる猫みたいだ、と呆けた頭の端で思う。
それ以外の頭の中は「偲乃さん可愛い超かわいいなんなのコレなんなんだよこれ」という言葉で埋め尽くされていたが。
どうしてこうなったのか、正直なところ、彪にはまったくもって覚えが無い。
この感情を伝えたわけでもないし、彼女からの印象が変わるような劇的な言動をしたわけでもない。筈だ。
ただ、思い返してみれば、偲乃がこのようにくっついてくれるようになったのは、二度目の雪の日からだったような気がする。
(いやでもあの時だって別に何もしてないよなぁ。
「自宅周りの雪かきしながら"恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです"って言ってみろリア充どもーっ!」とか思いながら一日中雪かきしてただけだし。
お客さんだって茜さん待ちの葵さんしか来なかったし。……そういえば、偲乃さんと葵さん、随分話しこんでたなぁ。何話してたんだろ。……もしや葵さんが何か言っ)
「ふぁっ?! ひ、ひのひゃ、にゃに?!」
正解に辿り着くよりも早く偲乃に両ほっぺを引っ張られ、彪は情けない悲鳴を上げた。
「今何か考えてたでしょ」
「か、考えてまひひゃけど!」
「私がいるのに」
「ひのひゃんのこと考えてひゃんだよ!?」
「…………」
「……し、偲乃さん?」
不意に頬が解放されて目を瞬いた彪の一方、偲乃は何かを堪えるようにぷるぷると震えている。
どうしたのだろうと顔を覗き込むと、驚くくらい真っ赤な仏頂面が目に入ってきた。どうしよう俺何かやっちゃったのかな。
518:夫婦の墓参り
14/03/09 21:29:07.24 e2DX1qMl
「あの…偲乃さん…?」
「……もう寝る」
「う、うん…? て、あ、そうだ! 偲乃さんごめんちょっとお願いが!」
「……なによ、もう」
彪の胸に顔を埋めたままくぐもった声だけが返ってくる。眠いのだろう。
「ごめんね。でも、大事なこと思い出して」
「……なに」
「来週の日曜、休ませてもらってもいいかな。地元に帰りたくて」
瞬間、空気が凍った、気がした。
「……ど、ゆう、こと?」
恐る恐るこちらを見た偲乃は何故だか表情を凍りつかせていた。あれその日用事入ってたっけ、と思い返しつつ、彪は呑気に言葉を続ける。
「いや、そのまんまの意味なんだけど…まずいかな?」
「…いや…まずいとか、じゃなくて…そりゃ、彪がそうしたいのなら私に止める権利なんて無いけど…」
「そうかな? いやでも、その日何か手伝うことがあるのならその次の週でも平気だよ?」
「次の週って…あの、あなたが忍耐強いのは知ってるけど、そこまで我慢しなくったっていいのよ?
ていうか、わざわざ宣言するものでもないんだから…」
「え、宣言は必要じゃない? お店やってる日は無理だし、休みだって仕入れが入ることもあるんだからさ」
「お店って…まぁ確かに急にいなくなられちゃうと困るけど…でもそこまで律儀にならなくても…」
「いなくなる? 誰が?」
「……うん?」
どうも話が噛み合っていない。
「…待って、彪。来週の日曜、休みたいのよね? 地元に帰りたいから」
「うん。事前に言っておかないと、って思ったんだけど」
「…そう…よね。……その、帰ってきて、くれる?」
「えっ帰ってきちゃ駄目かな!?」
夜には帰ってこないと次の日辛いんだけど、と零すと、偲乃は少しだけ硬直して、次いで深々と息を吐いた。
「……馬鹿だわ、私」
「偲乃さんが馬鹿だったら俺は大馬鹿だよ!?」
「そっちの馬鹿じゃなくて。ていうかあなた馬鹿じゃないでしょ」
「…馬鹿だよー…体育と技術家庭科以外は全滅だよー…」
「だからそっちじゃなくて」
もう一度溜め息をついた偲乃は、どこか安堵した様子で彪にすり寄る。反射的に速まった鼓動を耳にした偲乃は頬を緩ませた。
「…まぁ、それなら、いいわ。ご家族に会うの? それともお友達?」
「いや、墓参り行こうと思って」
「……ご家族はご健勝よね?」
「うん。子どもの頃お世話になった小母さんの7回忌なんだ。
結婚してから行くのは初めてだし…あ、もしよかったら偲乃さんも行く? わりと遠いんだけど」
「行くわ」
即答であった。
その後は、少しばかり話をして、おやすみのちゅーとやらをしてから眠りに落ちた。これもここひと月程で築いた習慣である。
藍沢彪は慄いていた。
お嫁さんが積極的で、毎日が幸せすぎて、どんどん我慢が効かなくなっていて、慄いていた。
もしかしたら偲乃は、自分のことが好きなんじゃないかなんて、とんでもない勘違いをしてしまいそうで、怖くて怖くて仕方がなかった。
519:夫婦の墓参り
14/03/09 21:31:28.75 e2DX1qMl
一週間はあっという間に過ぎていった。
朝起きて、昼間は懸命に働いて、夜、偲乃とのんびりした時間を過ごしてから一緒に眠る。
一日が過ぎるのが早くて、周りが猛スピードで進んでいるのに自分だけ止まっているような、そんな気分になった。
驚くほど幸せな筈なのに、何故か、置いていかれているような―そう、世界から置いていかれているような気がして、彪は酷く心細かった。
おかしなことを感じている自覚はある。
愛しい人が笑いかけてくれて、触れてくれて、触れさせてくれて、自分のことを知ろうとしてくれて、何が怖いんだと言いたくなる。
偲乃も自分を好いてくれたのだと、いっそ勘違いしてしまえば良いだろうにとも思う。
あの葵だって「恋はある種錯覚みたいなところがあるな」と言っていたのだから。
それでも、何故か、この状況を喜んで受け入れる気持ちにはなれなかった。
どうして偲乃がこうなったのか、自分は彼女に好いてもらえる人間なのか、分からないまま、ただずるずると流されるのはどうにも嫌だった。
「……うん」
完全に自己満足だけど。彪は思う。
きちんと偲乃に告白しよう。今までは、拒否されて、離れることになるのが嫌で考えないようにしていたけれど。
好きだと言って、受け入れてもらえたら万々歳。もし駄目だったら、これまでのお礼を言って潔く離れよう。
偲乃なら、彪がいなくなったって、すぐにもっと良い人を見つけられるから。
今までは、それを認めるのが嫌で、彼女の隣を他人に譲りたくなくて、夫というこの上なく強力な立場にしがみついただけだ。
そんなことはもう、止めにしなければ。傷付くのが怖くて逃げてばかりじゃ、彼女の隣にいることに負い目を感じてしまう。それは、すごく、辛いから。
520:夫婦の墓参り
14/03/09 21:34:47.01 e2DX1qMl
「…偲乃さん、今平気かな」
「彪?」
というわけで、彪は初めて自分から偲乃の部屋を訪れた。
「珍しいわね、あなたが来るなんて」
「う、ん。あの、なんていうか…ええと、言わなきゃいけないことが、あって」
「……どうしたの?」
疑問9割怯え1割の光を目に宿した偲乃が対面に座る。
風呂上がり故か彼女の頬はうっすらと紅色に染まっていて、ああもうきれいだなぁと現実逃避をしたくなった。
「ええと、ですね」
「うん」
「あの、最近…じゃないや。えーと、わりとまえから、なんだけど」
「…うん」
「その…なんていうか…あの…」
しまった言葉が出てこない。
自分の語彙力の乏しさに泣きたくなった彪だが、偲乃はあくまでも真摯にこちらの話を聞いてくれている。
その、人にも仕事にもまっすぐな姿勢を最初に好きになったのだ、と思いだして、彪の口は自然と動いた。
「俺、偲乃さんのことが、好きです」
「うん、知ってるわ」
「…………はい?」
今なんと申されたか。
「えっ、ちょあの、待って。偲乃さんあの、知ってるって、え?」
「いやだから、彪が私のこと好きだってこと。それで、わざわざ宣言したってことはなにかあったのよね。どうしたの?」
「ま、待ってくださいちょっと待って。知ってるって、あの、えと、いつから?」
「確信したのは10月の半ば頃だけど…ってまさか、あなた、私が気付いてないとでも思ってたの?」
思ってました。
二の句が継げなくて黙り込んだ彪を見て、偲乃は思いっきり呆れ顔になった。
「あのねぇ…そりゃ、茜さんみたいに壊滅的に鈍感な人だったら気付かないでしょうよ。でも、生憎私は人の機微には敏感なほうなの。
お客さんが本当においしいって思ってくれてるかなんて、言葉だけじゃ分からないんだから」
「……さすがです」
「どうも。で、あんたね、自分がすっごく分かりやすいってこと自覚したほうがいいわよ。
まず第一に顔に出すぎ。目が合っただけで真っ赤になって嬉しそうな顔されたらすぐ気付くわ。
あと、意図的にかどうか知らないけど言葉にも出てる。可愛いだのきれいだの凄いだの。確かに好きって言われたことはないけど、さすがに気付くわよ」
「……い、言ってましたか、俺」
「思いっきり言ってたわ」
うわー恥ずかしーはははー
(10月半ばって、それ俺が自覚するよりも早いじゃないっすか。なんつーか、もう、俺は駄目だははははー)
521:夫婦の墓参り
14/03/09 22:09:46.00 e2DX1qMl
「……思いつめた顔して来るからなにかと思ったけど。もしかして、それを言いに来たの?」
「…うん…そうです…」
「私が気付いてないと仮定して。言って、どうしたかったの?」
「迷惑じゃないようなら今までどおり置いてもらって…迷惑だったら潔く実家に帰るかーと…」
「ふぅん。で、今はどうしたいの?」
「恥ずかしいので今すぐ逃げたいです…」
「却下」
即答だった。
「…だ、だめかな」
「駄目よ。絶対駄目。…大体、漸く言葉で言ってくれたのに、逃がすわけないでしょ」
偲乃の声は嬉しそうに弾んでいた。思わず顔を上げると、ほとんど同時にぎゅうっと抱きつかれる。
石鹸の優しい香りが鼻孔をくすぐって頭がくらくらした。
「……偲乃さん」
「そろそろ呼び捨てにしてほしいんだけど」
「え゛」
「同い年でしょ。誕生日だけなら私の方が遅いし」
「…し、偲乃さ…偲乃?」
「うん。聞いてる」
「……だいすきです」
「私もよ。……もっと早くに言ってたら良かったのにね。ごめん」
「偲乃が、謝ることは、ないと思うな」
「あるの。あんなこと言ったくせに好きだなんて、都合良すぎるって思ったのよ。でも、ちゃんと、言えばよかった」
震えた声に顔を覗き込むと、想定外に気弱な視線が返ってきた。
守りたいなぁ、とぼんやり思って、自分はそれを言うことが許されているのだと思いだす。胸の内が熱くなった。
「……偲乃?」
「なぁに?」
「あの…キス、してもいい、ですか」
「うん。…うれしい」
「……それ以上のことを、しても?」
おっかなびっくり求めた言葉は面白いくらいに震えていたが、偲乃は心底嬉しそうに微笑んだ。
「うん、して。たくさん、して」
522:夫婦の墓参り
14/03/09 22:13:07.47 e2DX1qMl
熱に浮かされてるみたいだ、と彪は思った。頭の芯がぼんやりとぼやけて、なのに身体は燃えるように熱い。自分も、偲乃も。
「んっ…あきらぁ…そこばっか、ぅ…やだぁ…」
「…もうちょっと」
「も…っふぅ…ん…!」
偲乃の文句を先送りにして右胸にしゃぶりつく。甘い声が喉の奥で殺された。
もうかれこれ10分以上も上半身ばかりを弄っているのだから、いい加減焦れてきたという偲乃の気持ちも分かる。分かるのだが。
「…おちつく…」
「こっちはおちつかな、っひゃん!」
乳房をふにふにと唇で食んだり、乳首に優しく吸いついてみたりするのが想像以上に心地よくて止められないのだ。
それに、一々びくりと反応する偲乃を感じるのも楽しい。
「ぅ…もぉ…ばかぁ…!」
「どーせ俺は脳みそまで筋肉でできてますよー」
「そっちじゃっ…なぃぅんっ…やっ、あきら…そこ」
「ん、これ?」
うなじを指先でくすぐると偲乃は逃れるように身をよじった。どうもここが弱いらしい。
「ふぁっ!? あ、あきっ…ぅ…だめ、あきら、だめっ…」
「どうして?」
反射的に尋ねると、真っ赤な顔で涙に濡れた黒曜石の瞳が向けられる。
「…まだ、もらってない、のに…きちゃう、からぁ…」
理性という名のストッパーは吹き飛んだ。
「っや、まって、あきら…や…ぁっ―!」
弓なりにしなる身体を抱きしめる。口に含んだままのぴんと張り詰めた乳首を舌先でくすぐると、偲乃はいやいやと首を振った。
とはいえ、彼女の両手は縋るように彪を抱きしめているのだから、本当に嫌がっているわけではなさそうだけれど。
「まっ…ぁ、あきらっ、も…んぅ、んんっ、ゃだぁ…!」
「偲乃、ごめんね。もうちょっと我慢して」
「やぁっ…も、ほしぃのに…!」
「うん、ごめん。でも、偲乃、すごく可愛いんだ。もっと見たい」
そう言ってキスを落とすと、偲乃は泣きだしそうな顔で身体の力を抜いた。
ありがとう、と頭を撫でる刺激だけでも感じるのか、鼻にかかる声をもらす。
(おかしいなぁ…俺、Sじゃないはずなんだけど…すごいなかしたい。二つの意味で)
完全にいかれた思考の端で思いながら、今度は後ろから抱きかかえるようにして座らせる。
あぐらの間にすっぽりと納まった偲乃の、頬、耳たぶ、首筋にと唇を寄せて細いうなじに吸いついた。
「ぁっ、やぁぁっ! あき、ゃだ、そこやだぁ…!」
「分かってる。こっちもするから」
「ちがぅ、のっ…ぁ…ぁあ…」
どうやら声を押さえることも忘れてしまっているらしい。
愛らしい声を零す偲乃に口元を緩めながら、ちゅうちゅうとわざと音を立ててうなじを吸う。
時折なめたり、強く吸いついて赤い痕を残すたびに偲乃は大きく震え、両手で胸を転がすだけで背筋を逸らす。
自身に身を委ねきっている彼女が愛おしくて仕方なかった。
523:夫婦の墓参り
14/03/09 22:16:24.32 e2DX1qMl
「…好きだよ」
「っや…ぁぅ…あきら…」
「うん、大好き。…ほんとに、俺は幸せ者だ」
「ぇ…ぁ…~~っ!?」
しみじみと呟くと偲乃の身体が大きく震えた。一瞬何が起こったのかついていけなくなる。
肩で息をする彼女が振り向いて、涙と色で潤み上気した表情を見せたところでようやく達したのだと理解した。
「…ほん、とに…?」
「えっ、えと、ごめんなにが?」
「ほんとに、しあわせって…思って、くれてる…?」
「思ってる! 思ってます! 俺以上の幸せ者はいないよ!」
脊髄反射で心の底から即答すると、偲乃は潤んだ表情のままふわりと微笑んだ。
力の入らない身体を引きずって、半ばもたれかかるようにして彪に縋りつく。
「…よかったぁ…」
耳元で、普段からは想像もつかないほど蕩けた声で、言われて。彪は自分の中の何かが致命的になってしまったことを、妙に冷静な思考で認識した。
「……偲乃」
「ん…なぁに、あきら」
「俺は、どうすればいいかな」
「…なにを?」
「どうすれば、この、偲乃が好きだー! って感情を、伝えられるかな」
この上ないほど真剣に言ったつもりなのに、きょとんとした偲乃は、次の瞬間たまらないというように噴き出した。
頭の上に疑問符を飛ばす彪の前で、くすくすとおかしそうに笑っている。
「……変なこと、言った?」
「ふふっ…ううん、ぜんぜん。でも、嬉しくて、笑っちゃったのよ」
納得はいかなかったが、楽しそうに目じりを下げる彼女を見ているとなんだかどうでもよくなってきた。一緒になって笑い声を零しながら偲乃を布団に押し倒す。
ズボンと下着を取り払うと秘部はしとどに濡れそぼっていて、またしても胸がいっぱいになった。
「…俺は、すごく幸せだよ」
「それ、こんな状況で言う台詞かしら」
「言いたくなったから言っちゃった」
「……私も、幸せよ」
「よかった」
どちらからともなく口付ける。互いの唇を夢中になって味わいながら、猛る剛直を秘裂に差し込む。
熱くぬめるひだは蕩けそうな喜悦を与えたが、彪はゆっくり労るように肉壁をこすった。
激しい快楽を得ることよりも、今は、互いの温度を感じていたかった。
「っは…あき、らぁ…」
「ん…好きだよ、偲乃」
偲乃は嬉しそうに笑っていた。彼女の目に映る自身も、この上ないほど能天気に笑っていた。
(ああ、しあわせ、だな)
深い喜びと思慕を携えて、二人はほぼ同時に天辺に達した。
524:夫婦の墓参り
14/03/09 22:21:20.67 e2DX1qMl
「……本当に遠かったわね」
「そうなんだよ。もうちょっと来やすい所にお墓作ってくれたらよかったのにね」
次の日の昼すぎ。二人は彪の地元で一番高い山の頂付近にいた。
眼下の町のみならず遠い先まで見通せるその場所は、山の頂上にあるお寺に隣接する墓地だ。
計画通り墓参りを終えた二人は、椅子に座ってここまで登ってきた足を休ませていた。
天気は快晴。遠くの地平線には海も見える。空の蒼と海の藍が混ざり合ってまさに絶景だった。
「…でも…すごくいい眺め。冴子さん、この眺めが気に入ったからこの場所に決めたのかしら」
「どうだろう? "私が死んだら誰も来れないような場所で誰にも邪魔されず眠ってやる!"って豪語してたから」
「面白い人ね」
「そうなんだよ」
冴子―小田切冴子というのが、二人が弔った墓の主である。豪胆且つ口が悪く、性根は優しいのにそれを認めようとしない捻くれ者。享年93歳。大往生であった。
「…ほとんどの人に悪い人だって誤解されて、誤解を解く努力もしなくってさ。
旦那さんもいないし、家族と縁も切れてたとかで…お葬式も、ほとんど人が来なくって。
…あの時は悲しかったなぁ。人一人が亡くなったっていうのに、清々したなんて言う人もいたんだ」
「言っていいことと悪いことの分別が付かない愚か者ね」
「そうだね、今はそう思う。…けど、当時は高校生だってのに分からなくて、随分悩んだんだよ。教えてもらった遊びも手に着かなくなっちゃって。
夏休み全部使って自転車旅行したこともあるんだよ」
「……初耳なんだけど」
「そうだっけ?」
穏やかな微笑に影はない。それを確認して偲乃は心の中で安堵の息をついた。
過去を引きずっているわけではなく、今と過去の区別を付けて、大切な思い出として語っている表情だ。
「言った気になってたなぁ。…なんか、なにをすればいいか分かんなくなってさ。どうにもこうにも混乱して、嫌になって"よし、走るか!"って」
「"よし、走るか!"って…すごい勢いね」
「あの時はわりと必死だったんだ。夏休みの前までバイトしてお金貯めて、夏休み全部の時間とバイト代をつぎ込んで、北海道一周旅行。
…まぁ、ほとんど野宿だったし色々大変だったから、他人には絶対に勧めないけどね。て言うか止める」
「無事にここにいてくれてよかったわ。で、なにかふっきることはできたの?」
「ぜーんぜん!」
あまりにもあっさりと笑われて偲乃は少しだけ絶句した。呆然とした表情が可笑しかったのか、彪は無邪気な笑顔を見せる。
525:夫婦の墓参り
14/03/09 22:23:33.89 e2DX1qMl
「北海道一周しても、なーんにも変わらなかった。俺は落ちこぼれのままだし、冴子おばさんも嫌われ者のまま。でも、そういうもんなんだって分かったよ。
周りが変わるのを待ってるんじゃなくて、変わらない世界の中で、どうやって生きていくかなんだなって思った。それで、少し楽になった」
「……そう」
なんとなく頭を撫でるとくすぐったいと笑われた。
それでも振り払うことはしない彪が、たまらなく好きなのだと伝えたら、どんな顔をするだろう。
「…それに、周りは変わらなかったけど、俺は変わったと思う。
旅行から帰ってから、お父さんに"これ以上勉強でやってくのは無理だから高校出たら働く"って言えたんだ。最初は反対されたけど、結局あっちが根負け」
「あなたが、あのお義父さんに? すごいわね」
「我ながらそう思う。…色々大変だったし、散々迷ったけどさ。これでよかったんだなぁって思えるよ。…偲乃たちにも会えたし」
唐突に名を出されて偲乃は少しだけうろたえた。優しい微笑を湛えていた彪は、そういえば、と笑みを深くする。
「冴子おばさんに"お前は絶対に結婚しろ"って言われたことがあるよ」
「冴子さんに? ええと…どうして?」
「"私は一人の方が良かったし、一人でいるのを後悔したことはない。けどお前はよわっちいから、いい人を見つけて結婚しろ"って」
「……優しい人ね」
「俺はそう思う。…生きてるうちは無理だったけど、こんな素敵なお嫁さんを紹介できて、よかった。ありがとう、偲乃」
不覚にも。不覚にもその一言は、偲乃の琴線に触れた。
熱くなる目頭を押さえて俯くと、彪は仰天した様子で偲乃の肩を抱く。暖かい手の温度が優しくてますます涙が溢れてきた。
「……あきら」
「なっ、なに!? どうした!? なにか持ってくる!?」
「…ううん、いらない。…なにも、いらないから…傍にいて」
「わ、分かった!」
ぎゅうっと力強く抱きしめられてどうしようもなく嬉しくなる。大きな背中に手を回すと腕に込められる力が強くなった。
愛しい人の肩越しに見上げた空は、どこまでも深く青く澄んでいた。
526:434
14/03/09 22:26:55.51 e2DX1qMl
ここまで!
途中エラーが起こって投稿に間が空いてしまい、申し訳ありませんでした
本当はシリアスからのラブラブになるつもりで、そのつもりで書き始めたのですが
…最初っからお花畑全開でどうしてこうなったマジで。マジで
いつも閲覧・コメントまで頂きありがとうございます。嬉しく思っています
少しでも暇つぶしになりましたら幸いです
527:名無しさん@ピンキー
14/03/12 23:44:10.52 2goem3uU
超乙!
528:名無しさん@ピンキー
14/04/04 06:33:44.80 LgGWovz8
ほ
529:名無しさん@ピンキー
14/04/14 06:50:55.84 Ps/KqzqA
し
530:434
14/04/17 21:16:31.22 jN4WETeV
保守代わりに小ネタ投下
エロなしな上誰が得するんだって話なので必要に応じて「小ネタ」をNGでお願いします
531:小ネタ
14/04/17 21:20:17.71 jN4WETeV
「助かったよ、彪」
「いえいえ。こんなことで良かったらいつでも言ってください」
偲乃の祖父藍沢弘喜に彪は笑顔を返した。
ここは、定食屋"あいちゃん"から自転車で20分程の場所にある偲乃の祖父母の自宅である。
あいちゃんにも住む場所はあるのに何故こんな所にも家があるのか。それにはちょっとした理由がある。
あいちゃんは偲乃の曾祖母が始めた店だ。初代店主である曾祖母藍沢愛(あいざわまな)から、
2代目の祖父弘喜が後を継ぎ、3代目を父亮太郎が継ぎ、その後を継いだ偲乃は4代目になる。
店を始めた当初は利便性や金銭面等々の理由で自宅兼店舗の形にしたが、
幸いなことにあいちゃんは人気が出、跡継ぎも立派に成長したので改めて自宅を買い直したのだ。
自然に囲まれているこじんまりとした平屋の一軒家。老後を過ごすには最適だとか。
こんな理由で、彪はわりと近くに住んでいる義祖父母にも可愛がられているのだ。閑話休憩。
「…うん、きれいにできているね。彪に頼んで正解だった」
彪が渡した将棋の駒をしげしげと眺め、弘喜は満足げに頷いた。たこや切り傷が残る大きな掌には飛車と歩と角が乗っている。
以前ここを訪れた時に、困ったような笑顔の弘喜が頼んできたお願いが将棋の駒作りだ。
曰く、いつものように友人と打っていたところ、一つは猫にとられ、一つはまっぷたつに砕け、一つは焼け跡が付いてしまったらしい。
百歩譲って猫にとられたのは仕方がないとしても、後半二つは一体何をやったのかと問いただしたい衝動に駆られた。
新しい駒を買うのも考えたが、駄目にしてしまった三つの為だけに全ての駒をそろえるのは少々もったいない。
そこで、自覚はないが細工や絵画系が異様にうまい彪に声をかけたのだ。
彪も、将棋の駒ぐらいなら―勿論きちんとしたものを作るには素晴らしい職人芸が必要だ―なんとかなるかな
弘喜さんのお願いだし、と引き受け、きっちり完成させた次第である。
「そう言ってもらえると嬉しいです。他に、なにかできることはありますか?」
「いいや、平気だよ。どうもありがとう」
のほほんと笑われて彪の表情も緩んだ。弘喜の、どんな時でものんびりゆったりしている雰囲気が、彪は好きだった。
この穏やかさのおかげで、緊張しいな自分でもわりとすんなり藍沢家に馴染めたと思っている。
なにを隠そう、藍沢家で一番最初に親しくなったのも弘喜だったのだ。こんなこと天地が逆さまになっても偲乃には言えないが。
「そうだ。彪、昼ごはんはまだだろう?」
「へ? あ、はい。そうです」
「一人で来たということは、偲乃もいないんだね?」
「ええ。ご友人とお出かけで」
篠原茜から誘いを受けた時の「茜さんとお出かけしたいしお話もしたいけど彪と一緒にいれないのは寂しいどうしよう」
とでも言いたげな葛藤した様子を思い出しつつ、彪は答える。きのうのしのさんはすごかったです。
「なら、一緒に食べよう。お礼がてら作るから」
「え、いいんですか?」
「もちろんさ」
わぁい。
「…とはいっても、簡単なものしかないけれどね」
「嬉しいです!」
「じゃあ、作ろう。ちゃちゃっとやっちゃうから、洋子を呼んできてくれるかい」
「分かりました」
台所へ向かった弘喜を見送って、彪は裏庭へ回る。
532:小ネタ
14/04/17 21:23:02.21 jN4WETeV
裏庭では、白髪混じりの長い髪を一つにまとめ、紺色の作務衣をびしっと着こなした女性が小さな畑の世話をしていた。
「洋子さん」
声をかけると、女性は未だ衰えを感じさせない鋭い視線を彪に返す。しゃんと伸びた背筋や汚れを落とす機敏なしぐさは年齢を感じさせない。
「彪か。…弘喜がご飯を?」
「はい」
「では、戻りましょう」
そう言って凛とした笑顔を見せたのが偲乃の祖母の藍沢洋子である。
女性としては高い身長にすらりと長い手足、おまけに冷たい印象を受けそうなほど整った顔立ちはさながら宝塚俳優のようだ。
性格も、今は大分丸くなったらしいが強気且つ勝気。男勝りな性格で、学生時代は男性よりも女性からの方がより人気だったとのこと。
偲乃と亮太郎曰く「「私(俺)の性格はおばあさん(おふくろ)から受け継いだ」」らしい。そうかもしれない、と彪は思う。
ちなみにこの言葉は「「だからおじいさん(親父)には弱い」」と続く。確かにそうだ、と彪は思う。
「そうだ。将棋の駒のこと、ありがとうございました」
「いえいえ。あのくらいならいくらでも」
「あのくらいとは言うけれど、大変だったでしょう? なにかお礼をさせてください」
「弘喜さんのご飯が食べられますから」
「……それはお礼になるでしょうが」
困った様子の洋子を見て、彪は自然と笑顔になった。
居間に戻ると、机の上には既に美味しそうな料理が湯気を立てて並んでいた。
彪が洋子を迎えに行ってから戻ってくるまで10分もかかっていない筈なのだが、いつも通りのことなのでもう慣れてしまった。
「おかえり、二人とも。さあ、食べよう」
「ありがとうございます!」
「いつもありがとう」
各々席に座り、いただきますと合掌して早速箸を手に取る。
本日のメニューは、白米と玄米が混ざったホカホカご飯、鰹節の出汁が効いた筍の煮物、鰆の塩焼き、付け合わせに春キャベツとカブの甘辛炒め、
ジャガイモと玉ねぎと油揚げが入ったお味噌汁だ。全然簡単じゃないとか、あの短時間でどうしてこれだけのものができるのだとか、
突っ込みたいところは山ほどあるが、いつものことなので何も言わずに美味しく頂く。
「お味噌汁は今朝作ったもので筍は昨日沢山作っただけだから、そんなに手はかかっていないんだよ」
「心を読まないでください弘喜さん!」
「顔に出てたからねぇ」
「そんなに分かりやすいですか俺」
「…あなたの、素直で正直なところは美徳ですよ」
「……フォローありがとうございます」
何も言えなくなったので大人しくお味噌汁を口に含んだ。白味噌の柔らかい甘さと丁寧にとられた出汁が胃を優しく解していった。
「「……おいしい」」
煮物を食べた洋子と彪の声が被る。思わず顔を見合わせた二人を見て、弘喜は笑みを深くした。
「二人とも、喜んでくれるから作り甲斐があるよ。
感想は強要するものではないし察することもできるけれど、言葉にしてもらえると、やっぱり嬉しいね」
にこにこ笑う弘喜を見て、洋子は恥ずかしさを誤魔化すように鰆を食べる。
しかし、どこか憮然としていた表情も、絶妙な塩具合の鰆を食べる頃には大分緩んでいて、それを見た弘喜はにこにこにこにこと笑っていた。
(お義父さんが同居をしない気持ち、ちょっとだけ分かるかもしれないなぁ)
いつだったか、あの二人は幼い頃からあんな具合なんだと遠い目をしていた亮太郎に思い馳せつつ、彪は筍を口に入れる。
一から調理するのは難しいと聞くが、流石と言うべきか、程良く柔らかくも噛み応えがある筍には出汁がよく染み込んでいて非常においしい。
こんな料理を無料で食べれるなんて得だ、と笑った彪は、ふとあることを思い出す。
533:小ネタ
14/04/17 21:24:12.18 jN4WETeV
「…そういえば、外でご飯食べるの久しぶりだ」
「そうなんですか?」
独り言は存外大きく響いた。
「あ、はい。いつも、偲乃さんが作ってくれるので」
「ああ。……そういわれてみると、私も最近外食をしていませんね」
「やっぱり、弘喜さんが?」
「はい、毎回。妻としてのプライドは大分昔に捨て去りました」
「あはは、なるほど」
料理ができないわけではないんですよ、と弁解する洋子に彪は同意する。
勿論作れと言われれば作るが、偲乃の方がはるかに上手だし、彪が申し出る前になんでもない顔で美味しいご飯が並べられているのだ。
作る機会が減っても仕方ないだろう。
「たまには変わろうかと言ってみても、平気平気の一点張りで」
「うん。それはそうだよ」
ため息交じりの洋子の言葉に、弘喜は柔らかく微笑んだ。
「せっかく料理が得意なんだからさ。大事な人のご飯を自分が作りたいと思うのは、自然な感情だろう」
「そうかもし……」
あまりにもあっさりと、さらりと言われて普通に同意しかけた洋子だったが、時間差で効いてきたようで言葉を止めた。
じわりじわりと頬を染め、丁寧に箸を置き、大きな溜め息をついて頭を抱える。
「…せめて人前では止めてくれと何度言ったら分かるんだ…!」
「事実だからねぇ」
「年齢を考えろ年齢を…!」
「事実だからねぇ」
真っ赤になったまま文句を言う洋子と、のほほんと笑いながら文句を受け流す弘喜を見て、彪は思う。
(お義父さんが同居できない気持ち、分かるなぁ)
塩が効いているはずの鰆は、何故かとても甘かった。
その日の夜、偲乃のご飯を食べながら弘喜の言葉を思い出して、目の前のどこか満足げな偲乃を見た彪は時間差で悶える羽目になるのだが、それはまた別の話。
534:434
14/04/17 21:26:23.26 jN4WETeV
以上!
いやほんと誰が得するんだって話ですが個人的に老夫婦がとても好きで
その思いが暴走した結果こんなことになってしまってそのすみませんでした
535:名無しさん@ピンキー
14/04/18 09:24:59.00 HdhJlalg
GJ!
年をとってもラブラブでいたいものです
見習わねば!