ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α10at EROPARO
ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α10 - 暇つぶし2ch124:名無しさん@ピンキー
10/11/13 03:27:45 Omwr1GFB
出来損ないとな!かなり以前の他スレより転載。
作者は《ACCESS総合相談所 その12》の978-979氏で、投稿日は2005/07/10。
なんか向こうでは完全スルーされてたんだが、
このスレの兄貴達は値打ちが分かりそうだから引っ張ってきた。以下、氏の作品。

***********************************************************************************
「わ、わたし……どうして止まっちゃったんでしょう」
彼女は困ったようにうつむいた。
「おまえさ」ぼくは言った。
「ロボットってことは中にコンピュータとか入ってるんだよな」
「え、ええ、そうですけど?」
「もしかして、そのコンピュータのOSってさあ、マイクロソフト製?」
「はい、そうです」
「そうか……」
ぼくはため息をついた。

「もしかして、いま『こいつのOS、マイクロソフトでうざすぎ。面倒見切れないよ』とか思って、
ため息つきませんでした?」
「―いや、そういうわけでもないんだけど……」
「いいえ、嘘をついても駄目ですわ。呼気圧に毎秒25立方センチメートルの有意な増加を検出しました。
知ってる……これはため息。あの洪水の晩と同じです」
「いや、真面目な話、おまえは悪くない」ぼくは断言した。「悪いのはおまえのOSなんだ」
彼女はあいまいな笑みを浮かべて、小首をかしげた。そのまま動かなくなってしまった。
*ピー*
「な、なんだ、そのエラー音は」ぼくはうろたえた。
《人格統合モジュールSuperEgoで、自己同一性エラーが発生しました。
自己イメージ「のOS『のOS』」は無効な参照です》
無機的なエラーメッセージ。とび色の目を見開いたまま、
彼女の表情筋コントロールが凍りついたように停止している。
しょうがないなあ、こいつ、「わたし」と「わたしのOS」を区別しようとして
自己参照ポインタが無限ループに陥ったな。何というやわな……
《セッションで保存していない記憶は失われます。人格を続けるには、任意の突起を押してください》
人格を続けるには」とはどういうエラーメッセージだ、マイクロソフトのAIめ。
そのうえ「任意の突起」だぁ?
ぼくはちょっと考えてから、彼女の鼻の頭を押してみた。あんのじょう、何の反応もない。
やれやれ。どうせそんなことだろうと思ったよ。

125:名無しさん@ピンキー
10/11/13 03:28:58 Omwr1GFB
あちこち開けたり閉めたり押したり引いたり、さんざん手こずったあげく、
ようやく彼女の人格に再起動をかけると、
《性別定義ファイルが壊れています。初期化しますか?》
またぞろ、わけの分からないエラーが出やがった。
自己認識に失敗したくらいで、いちいち人格システムファイルが壊れるか?
とりあえず「無視」を選択して彼女の再起動を続ける。
《体内時計の同期中。GPSの信号を受信しています。しばらくお待ちください……》
「あ、先輩……」彼女はハッとしたように叫んだ。
「わたしったら、ログのタイムスタンプに一兆ナノ秒レベルのとんでもない空白が。
……もしかして……って、もしかしなくても、また止まっちゃったんですね?」
「まあ、まだ二度目だし」ぼくは慰めるように言った。「それに『わたし』が生きていて良かったよ」
「『わたし』は、『ぼく』のエイリアスです。でもぼく……」
彼女は困った顔をした。その顔がどんどん曇ってゆく。
「どうかしたか?」
「『ぼく』は……『あなた』ではないですよね?」
「なんか、壊れてるなあ。……あのさあ。おまえ性別のバックアップってとってある?」
「性別ですか?」彼女はにっこりほほえんだ。「はい、復元ポイントがちゃんと」
「良かった……。とりあえず、それリストアしてみ。なんか壊れたとかって、さっき出てたから」
「分かりました。ぼくの性別が壊れちゃったんですね。
えーと、どのバックアップからリストアしたらいいんでしょう?」
「最新のでいいんでないの?」
「最新が3つあるんです。ひとつは男、ひとつは女、ひとつは訳が分からないファイルです。
どれにしますか?」
「……どれにしますか、と言われても」
「先輩のお好きなので……」彼女はほほえんだ。
「……というか、どうしてバックアップの間にそんな不整合が……」
「ぼくの意識ったら3つもあったんですね。ぜんぜん知らなかったよ」彼女は頭をかいた。
「仕様だろ、きっと」ぼくはつぶやいた。

126:名無しさん@ピンキー
10/11/13 04:37:44 nwUukTsI
>>123
分かる
いわゆるドジッ娘萌えに近いようなものなのかな

127:名無しさん@ピンキー
10/11/13 04:54:31 EFO06Pzb
ドジッ娘というか

128:名無しさん@ピンキー
10/11/13 05:00:44 EFO06Pzb
すまん手が滑った

>>126
ドジッ娘というか、OS娘のMEたんみたいなダメッ娘はいいな

129:名無しさん@ピンキー
10/11/13 05:06:40 nwUukTsI
meタソは男の庇護本能をくすぐるような天然系だな
実際ああいうのが身内にいたら非常に困るんだろうけど

130:名無しさん@ピンキー
10/11/13 05:13:12 PbmZGP1Q
俺としてはリミットちゃんがサイボーグだったのが悲しい
あれがロボットだったら間違いなく史上最高傑作だったのに

131:名無しさん@ピンキー
10/11/13 06:27:11 EFO06Pzb
リミットちゃんは止めとけ
さすがに歳がばれる
せめてネンネンにしとけ

132:名無しさん@ピンキー
10/11/13 06:43:42 PbmZGP1Q
ネンネンこそまずいんじゃ
セーラー服の美少女ロボが、お尻にホースを差し込んで燃料補給するのはヤバいだろ
考えてみると、肝心なところで燃料切れってのもなんかいいな
燃料切れは壊れの一パターンに含めてもいいかもしれない

133:名無しさん@ピンキー
10/11/13 12:13:49 5dZAjgHx
人間を便利にサポートするはずなのに、逆に迷惑を掛けまくりのMEタン
なのに、なんでみんなに愛されてるんだろうな

134:名無しさん@ピンキー
10/11/13 12:40:45 iKneRhYZ
meタソはもう俺たちに迷惑をかけることもできないからなあ

135:名無しさん@ピンキー
10/11/13 13:35:35 rRIQF1/W
>>98-108

俺にとっては、あくまで体の中が機械であるのがいいんであって、
人から造られた存在であろうとも、人造人間では萌えないのだ。

俺の好きな長門有希が、人造人間じゃなく、純粋な機械であれば
よかったのに。

136:名無しさん@ピンキー
10/11/13 14:48:35 8QsioaNR
駆動系や外観、マテリアル系はこの数年で飛躍的に進化を遂げた。
AIは…まぁ色々なんとかなってきてるだろう。

問題は動力源だな。内燃機関は論外、バッテリーも進化や資源に陰りが見えてきた。
ここはやはり燃料電池か…

137:名無しさん@ピンキー
10/11/13 14:52:10 1VP7/87V
困った時にはゼンマイに決まってるだろ

138:名無しさん@ピンキー
10/11/13 15:26:31 Hy3ZppsD
ゴム巻きの力も捨てがたい。

どっかのメイドロボが自白していたな。実際に実装されてるのかは
怪しいけど…

139:名無しさん@ピンキー
10/11/13 15:51:55 5GRTCo/v
>>124
そのままいろんな事を続けると、乳房とか女性器とかのデバイスが
エラー起こしてフリーズしまくりそうだな

140:名無しさん@ピンキー
10/11/13 20:04:12 zQM+Lh62
ロボ娘は燃料切れで機能停止しなくてはいけないから
すぐ切れるようなエネルギーにして欲しいな

141:名無しさん@ピンキー
10/11/13 20:43:34 i/6r8G4u
[こいん いっこ いれる]

142:名無しさん@ピンキー
10/11/13 20:49:24 NQiuEx44
自分で自分のエネルギー残量がわからない
自分でエネルギー補給ができない
ってどんだけ低性能なのかと
ASIMOですらやれんのに
NANAみたいに微エロシーンの口実に使ってるのもあるが

143:名無しさん@ピンキー
10/11/14 01:41:24 0D3StHXD
>>139
女性器が咥えこんだまま計画的にフリーズするようにして、殺人するという話、昔あったな・・・。

144:名無しさん@ピンキー
10/11/14 10:54:17 Vjb7MlwD
このスレの過去作にもいるじゃないかw
URLリンク(bluerose.g.ribbon.to)

145:名無しさん@ピンキー
10/11/14 12:03:26 zakKYb72
アトムの頃からエネルギー切れで行き倒れるのはお約束だから仕方ない

146:名無しさん@ピンキー
10/11/14 22:38:25 2W2XaXgV
例えとしては変かもだが、車のガソリン切れなんかは現代でも割と
起こり得るトラブルだし、エナジー残量を示す計器の指針が異常、故障等で目測を謝る的な
事として考えられる事態では?

…まあこの理由でも、それは日頃のメンテが悪いって話になるか。。

147:名無しさん@ピンキー
10/11/14 22:55:32 VqkfNzga
判っていても補給できないシチュエーションもありでは?
補給装置の暗証番号を知らないとか、出先で補給装置がないとか。

148:名無しさん@ピンキー
10/11/15 02:50:31 CoYpeD68
ロボは3原則で自己の保存より優先度の高い項目が設定されてるからエネルギー切れはある意味必然だな
そして、自己保存と他者救済のジレンマこそがロボ物のロマンだと思う

149:名無しさん@ピンキー
10/11/17 01:25:38 iV4a5QCo
基本的な3原則に従うならそのタイプは間違いなく他者救済じゃねぇの?
アシモフの堂々巡りみたいに3原則の強さを変えてあったら面白いことが起こるけどw

150:名無しさん@ピンキー
10/11/17 02:07:02 j4U1gv/L
たとえばなんだけど、例の三原則を極力緩く解して、
「三原則に反しない限り、自由に行動し、人格形成する」
という話はどうだろう?
たとえば、「人間を害する」とは「肉体的に傷害罪・致死罪に当たる行為をすること」という解釈で、
恋敵を罵ったり、浮気な恋人にビンタしたりできるロボっ娘って萌えない?

151:名無しさん@ピンキー
10/11/17 07:08:56 b3CNUcah
その設定の上でロボである必要があるキャラ設定ならありだと思う
主人が好きすぎて周りの人間に嫉妬するロボ子ってのはなんというか・・・良いね

152:名無しさん@ピンキー
10/11/17 08:12:52 OGfsbd7g
アシモフ三原則は、本来否定されるためにある原則なんだけどな
その制約や矛盾、縛られた者の不幸、時にはその克服がテーマになってる作品も多い
どうしてあれを普遍不可避と考えるのか


153:名無しさん@ピンキー
10/11/17 12:53:00 h+4lpMBm
微妙なネタだが、今度のスパロボにオリジナルキャラとして「アンドロイド」が出てくるのが微妙にうれしい。
(いや、ラミア姐さんもだけど、あの人は自分がアレなこと隠してたし)
でも、主人公のパートナーロボ(青髪・ショート)より、ライバルのパートナーロボ(赤毛・ロング)のほうが、個人的には萌えるんだよなぁ。性格もマルチとセリオっぽいし。

154:名無しさん@ピンキー
10/11/18 08:43:27 lbpj4bs8
>150

1)ロボットは人間に危害を加えてはならない。この場合、「危害」とは「在籍する国家における傷害罪・致死罪に当たる行為をすること」である
2)ロボットは「オーナーである人間」に与えられた命令には服従しなければならない。
 無論、与えられた命令が、第1条及び社会規範に反する場合は、この限りでない。
3)ロボットは、第1条および第2条に反するおそれのないかぎり、自己責任において、自由に行動する権利を有する。無論、行動の結果如何によっては法的処罰の対象となる。

……なんて、イカサマ三原則をデッチ上げてみた。
オーナーが死んだ娘に似せたアンドロイドを保有、しかしその娘が知り合った青年に惚れたり……とかするとおもしろい話が書けそう。
あるいは本来の三原則を知ってる人間が、それを悪用しようとしてロボ子を懲らしめられる、とか。
「え!? な、なんで動けるんだ? 命令には絶対服従のはずじゃあ……」なんてね。

155:名無しさん@ピンキー
10/11/18 09:18:58 lUEds2CK
草上仁の「かれはロボット」みたいなオチはいや

156:名無しさん@ピンキー
10/11/18 13:34:34 LBaKJvy0
ロボット三原則って実は
(人間の)主人が(人間の)奴隷に対して命じてきたことと
まったく同じなんだよね

第三原則を言い換えれば
「どんなに辛くても自殺すんな(俺の評判に関わるから)」
という意味でしかない

つまりは人格・権利の全否定なわけで
萌えの対象たるロボ娘に
そんなもん、とても強要できんわ

157:名無しさん@ピンキー
10/11/18 14:07:46 /baZnc4+
>>156
お前には浪漫が足りない
モンブランでも食え

158:名無しさん@ピンキー
10/11/18 15:54:12 025ZQjTY
>>157
俺は三原則の打破にこそ浪漫を感じる
マスターが縛りを解き放つもよし
自ら足枷を引きちぎるもよし




159:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:20:24 9e+rL20W
 本部に戻った僕たちを待っていたのは、「特機隊の恥さらし」という汚名であった。
 民間人に負傷者を出しながら、むざむざ暴走ロボカーを取り逃がしたことが幹部の逆鱗に触れたのだ。
「まったく、高価な装備を与えられておきながら」
「一晩掛かって何をやっとったのかね」
「これで航空隊のヘリに美味しいところを持っていかれてしまう」
 散々な評価であるが、事実だから反論の余地はない。
 昨夜のヒーローは、一夜にして汚物に転落したらしい。

 なにとぞ名誉挽回のチャンスをと願ったが、幹部たちの返答はつれないものだった。
「恥の上塗りは隊の名誉に関わるから」
「君たちにはこの任務から外れてもらうよ」
「当分の間、機動捜査は禁止する」
 彼らにしてみれば、ロボコップ計画を進めた都知事をいたぶる絶好の機会だ。
 僕たちに汚名返上させる訳にはいかないのだろう。
 直ぐにもシズカに役立たずの烙印を押し、都知事に全責任を擦り付ける腹づもりなのだ。

 白河法子知事に恩義があるわけじゃないが、このままで済ませてはシズカが可哀相だ。
 アンドロイド故に表面には出さないが、敵を取り逃がしたことで彼女のプライドは深く傷ついているだろうから。
 落ち込んでいる女の子を慰めるのは、やはり主役の義務であろう。
 どんな手を使ってでも、リターンマッチのリングに上げてやらなくては。
 と言ってRX9を取り上げられては、あのロボカーには太刀打ちできない。
 徒手空拳の僕に何ができるか、懸命に考えてみる。
 寮に戻ってきてからも、そればかりが頭の中でグルグル回っていた。

 なのに、肝心のシズカときたら─サトコと一緒にのんびりお風呂を楽しんでいる真っ最中だ。
 こんな時にはお風呂が一番だと、サトコが気を利かせてくれたのだ。
 洗いっこでもしてるのか、バスルームからはキャッキャと黄色い声が漏れてくる。
 まったく呑気なモノだ。
 まあ、これ見よがしに落ち込まれるよりはいいのかもしれない。
 考え疲れたので、その場に仰向けに寝転がる。

 よく考えたらまる2日近く寝ていなかったな。
 流石に疲労感を覚え、ウトウトしはじめる。
 けど、騒がしい女どもが、眠りに落ちるのを許してくれなかった。
「クロー……クロー……」
 ただならぬ声に叩き起こされたと思ったら、上下逆さまになったシズカが目に入った。
 いや、逆さまになっていたのは僕の頭だが、驚いたことにシズカは一糸まとわぬマッパだった。
「クロー……シズカの体……おかしい……」
 機能に異常でも生じたのかと焦ったが、問うより先にシズカはドアの向こう側へ引っ込んだ。
 と思ったら、今度はサトコの手を引いて再び姿を見せる。

「ちょっとぉ、シズカ。やめなさいってば」
 風呂上がりのサトコは、バスタオルのみを体に巻き付けたセクシースタイルだった。
「股間に毛がないの……シズカだけ……サトコだって……」
 ほらっ、とばかりサトコのバスタオルをむしり取ったからたまらない。
 股間の茂みも生々しい、美人女子大生のフルヌードが露わになった。
「ギャアァァァッ、見ないでぇっ」
 サトコは悲鳴を上げて胸と股間を覆い隠した。

 幼馴染みとは言え、敬虔なカトリック教徒である彼女の裸などお目に掛かったことは無い。
 至近距離でお宝ヌードを目の当たりにして、僕の全身の血は一気に股間と鼻へ収斂した。
 ブッと鼻血を噴き上げてのけ反る僕に、追い打ちの一撃が加えられる。
「見るなっつってるだろうがぁ、このバカァーッ」
 嫌になるほど重たいストレートが僕のアゴを的確に捉え、同時に景色がグニャリと歪んだ。

160:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:21:11 9e+rL20W
 

「嫌らしい目で私を見るからですっ。しばらく顔も見たくありませんっ」
 サトコのわめき声が、ふすまの向こうから聞こえてくる。
 脳震盪を起こした僕は、シズカの膝枕で介抱されながらそれを耳にした。
 遂に家庭内別居だよ。
 つか、そんなに僕の顔を見たくなけりゃ、自分の家に帰ればいいのに。
 こんなになっても、まだ僕とシズカがエッチするのを邪魔する気でいるのだ。

「君って奴は、まったく。大人になれば毛ぐらい生えるのは当たり前だろうに」
 僕は恨めしげにシズカを見上げた。
「けど……クロー秘蔵のコミックでも……女の股間には…毛が生えてない……女は生えないのが普通と…思っていた……」
 アレは生えてないんじゃなくて、描かれた当時の自主規制ってやつだ。
 って言うか、その話はNGで願いたい。
「なら……シズカも……毛……欲しい……サトコだって……生えてる……」
 あんなもの、あってもなくても同じだろうに。
 他人が持ってるモノをなんでも欲しがるのはよくない傾向だ。
 そのうち「オチンチンが欲しい」なんて言い出すんじゃないだろうな。
「ペニスは不要……クローのがあれば……充分……」
 シズカはこっちが赤面するようなことをサラリと言ってのけた。

 まあ、それほど欲しいってのなら、植毛の技術を応用すれば簡単だろうけど。
「それならば……次のご褒美には……毛を要求する……」
 だったら手柄を挙げられるように知恵を絞るんだな。
 とにかく、今は陰毛の心配なんかしている場合じゃない。
 このままじゃ、ロボコップ計画の存続すら危ういんだから。
「禁止されたのは……機動捜査だけ……足で情報を稼ぐのは……許されている……」
 だから、何の情報を稼ぐつもりなのかね。。
「一昨日のロボカーと……昨夜の事件の関係を……洗う……」
 なるほど、2つの事件はロボカーが絡んでいるというところに共通点がある。

 一昨日のロボカーは警察を首都高に引き付けておくための囮で、その裏で宝石店を狙う強盗犯人に操られていた。
 昨夜のロボカーはどうだろう。
 少なくとも、騒ぎのあった時刻に大きな事件は発生していない。
 首都高を荒らした目的は、別にあったと考えていいだろう。
 第一、ロボカーの性能だけを見ても両者の差は歴然としている。
 それでも2日続けてロボカー騒ぎが起こったのは偶然とは思えない。
「これは、昨日逮捕した技術者をもう一度叩く必要があるな」
 そうと決まれば善は急げだ。
 捜査一課の取り調べがそこに及ぶ前に、奴の口を割らせるのだ。



 その半時間後、僕とシズカは新霞ヶ関の本庁舎にいた。
 重要事件の被疑者は所轄署ではなく、警視庁本庁舎の留置場にお泊まりいただくことになっている。
 一昨日逮捕された技術者もその例に漏れず、ここの22階に留置されている。

「ああ、クロード主任。残業ですか?」
 厳重にガードされた受付で、僕は顔見知りの看守に呼び止められた。
 以前、この留置場はサイボーグどもに襲撃され、徹底的に破壊されたことがある。
 そのサイボーグ軍団を壊滅させたことで、僕は看守たちから英雄視されているのだ。
「うん、一昨日ぶち込んだ技術者だけど。ちょっとでいいから、話をさせてくれないかな?」
 僕は愛想のいい笑顔を見せて看守に頭を下げた。
 途端に看守は困惑した顔になった。
 奴を逮捕したのは特機隊の僕だが、事件そのものは既に捜査一課が担当している。
 僕たち特機隊は猟犬の集団である。
 被疑者を逮捕しても手続書を作るくらいで、その後の処理は事件を所管する部課や所轄署に引き継ぐのだ。
 だから僕には例の技術者を取り調べる権限はない。

161:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:21:45 9e+rL20W
「いや、それは分かってるんだ。その上で頭を下げてるんじゃないか」
 僕は拝むような仕草で頼み込んだ。
「幾らクロード主任のお願いでも、こればっかりは……」
 職務に忠実な看守は、人情と職務倫理に板挟みになって苦悶する。
「今度、女子大生とのコンパをセッティングするからさぁ。お願いっ」
「えぇっ、女子大生?」
 女子大生を餌にすると、看守は呆気なく食い付いてきた。
 出会いに恵まれない警察官、それも外部との接触が極度に限定された看守勤務員はこの手の話に飢えている。
 女子大生とコンパする機会など、そうそう得ることはできないのだ。
「ちょっとだけ……本当にちょっとだけですからね」
 看守は厳めしそうに顔を引き締めると、さっそく留置人の出場手続きに入った。

 いつの時代でも、女子大生には需要があるもんだ。
 但し、相手の全員が厳しい戒律に縛られた敬虔なカトリック教徒だと知ったら、看守たちはさぞかし落ち込むだろうなあ。


「さて、アンタの作ったロボカーについて話してもらおうか」
 僕は如何にも理系バカといった風貌の男に尋問を開始した。
 男はフンッと鼻を鳴らすと、軽蔑したような笑いを浮かべた。
 こういう時には、押しの利く厳つい外見に生まれなかったことを悔やむ。
「君に僕の創った芸術が理解できるとでもいうのかね?」
 男は尊大そうな態度でせせら笑う。
 こいつは大手エアカー会社、ユナイテッド・モータースの技術者だったが、研究の成果が上がらずクビになった。
 天才を自負している男には、我慢ならないことであったろう。
 それで社会に対する恨みを晴らし、研究費を稼ぐために宝石店強盗を企んだのだ。
「芸術? なるほど、そう言えば余りにも繊細だったよな、アンタのロボカーは」
 シズカに頼るまでもなく、M6カービンの連射で炎上するのだから、芸術と言うよりはむしろプラモデルだ。

 僕が負けじと鼻で笑うと、男は真っ赤になって立ち上がった。
 その鼻先に、昨夜現れたロボカーの写真を突き付けてやる。
 シズカの映像記録装置が保存していた動画をプリントアウトしたものだ。
 濃紺とイエローに塗り分けられた優美なボディを目の当たりにするや、男はサッと顔色を変えた。
「やはり何か知ってるようだね。洗いざらい吐いてもらおうか」
 僕は男の肩に手を掛け、無理やりに座らせてやった。
 それでも男は口を閉ざし、プイッと横を向いてしまう。
 仕草としては可愛いが、男がやっても特に感銘を受けるものではない。

「も、黙秘権を行使させてもらう」
 なら、なおさら聞きたくなるのが人情ってもんだ。
「これ以上は絶対にしゃべらないから……」
 男が全てを言いきる前に、メキメキというもの凄い音がして取調室のドアが破壊された。
 被疑者の逃走防止のため、とびきり頑丈に取り付けられている金属製のドアが外側に引きちぎられたのだ。
「クロー……このドア……立て付け…悪い……」
 ただの分厚い鉄板と化したドアを片づけながら、シズカがボソッと呟いた。
 立て付けの問題じゃない。
 取調室のドアってのは中から開けにくくするため、内側へ開く構造になってるんだ。

162:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:22:17 9e+rL20W
「ヒッ……ヒィィィーッ」
 シズカを見た途端、男が震え上がった。
 そりゃ、逮捕された時にアレだけ酷い目にあわされたのだから怯えもするだろう。
 彼は生身の人間だから、本来ならシズカの攻撃は受けずに済んだはずだった。
 ところが悪あがきした挙げ句、パワードスーツじみた作業機械まで使ったから余計な恐怖を味わうことになったのだ。
 彼にとってせめてもの幸運だったのは、シズカがバトルモードに入らなかったことだ。
 シズカが本気になっていたら、彼はこうして震え上がることもできなかったろう。
「言いますっ、全部しゃべります」
 男は誰に命令されるまでもなく、土下座の姿勢をとっていた。


 男がゲロった内容を要約すると、だいたいこのような話である。
 彼はユナイテッド・モータースのAI開発部の技師であった。
 UMは次世代型のエアカーを全てロボット化する計画を立て、それに搭載するAIの開発を彼に委ねたのである。
 一般道路における自動運行を担うシステムの根幹を築き上げれば、以後の市場をほぼ独占したも同じだ。
 他社はUMからそのテクノロジーを買わねばならなくなるのだから。
 それ故にUMも必死だったのであろう。

 ところが期限を過ぎても市販に耐えうる自動操縦システムの確立には至らず、彼は無能の烙印を押されて解雇された。
 自尊心を傷つけられた自称天才ほど怖ろしいものはない。
 彼は自作のロボカーを大暴れさせることで、プライドを充足させようとした。
 そして、ついでにその騒ぎに乗じて宝石店強盗を働き、研究を続けるための資金を得ようと企んだのだ。
 で、その結果がこのとおりなのだが。

「しかし、腑に落ちないな。アレだけのロボカーを作る技術がありながら、どうして解雇されたんだい?」
 実際、一昨日暴れた彼のロボカーも大したもんだった。
 プロのレーサー並の走りを自動操縦でこなすんだから、よほど優秀なAIを開発したに違いない。
 僕が問い詰めると男はまた震え始めた。
「ん? また何か隠そうとしてる?」
 僕がシズカを呼ぼうと手を叩きかけると、男は泣きながら最後の自供をした。
「ごめんなさいっ、アレは僕の技術じゃありませんっ。他人の開発したAIを応用、いえ、盗用したんですっ」



 男の供述に従い、僕とシズカは都立武蔵野工科大学を訪ねた。
 彼はここの研究室が開発した試作のAIを盗み出し、自分のロボカーに搭載したという。
 AIの開発責任者はベットーという名の教授である。
「昨日のロボカーと……関係……あるの……?」
 シズカはまとわりついてくる学生たちの視線をうざったそうにしている。
 ハルトマン社のウーシュタイプは学生たちにとって垂涎の的だろうし、メイド姿はどうにも目立ちすぎる。
 連中ときたら、シズカを分解したくてヨダレを垂らさんばかりになっている。
 とにかく彼女を見る目の色が普通じゃない。
「さあな、肝心なところを聞く前に時間切れになっちゃったし。取り敢えず研究室の方で事情聴取するしかないだろう」

 僕は受付で身分を明かし、来意を告げて人工知能開発室へと案内してもらった。
 研究室で応対してくれたのは、若い女性技師であった。
 ショートヘアの活発そうな女性で、眼鏡の奥の目はクリッとして可愛らしいが、瞳は知性を帯びた光を放っている。
 見た感じ、まだ学生でも充分通用するなと思っていたら、彼女は助手でもなんでもなく本当に学生だったのだ。
「お忙しいところ済みません。ベットー教授に取り次いでもらいたいのですが」
 教授は公共交通関係に関する人工知能の分野じゃ第一人者で通っているらしい。
 その教授をもってしても、車社会のフルオートマチック化は見込みすら立っていないと言う。
 精密なダイヤグラムで管理されている公共機関と比べ、自動車の運行は余りにも自由度が高すぎるから仕方ない。

163:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:22:56 9e+rL20W
「残念ですが、先生との面会は諦めて下さい」
 女学生の技師は申し訳なさそうに頭を下げた。
 さしずめ、偏屈な天才博士の非礼を詫びる弟子といった図式か。
 けど、ここであっさり引き下がっては特機隊は務まらない。
「そこを何とかお願いします。お手間は取らせませんから」
「クロー……お礼に精子を……分けてあげれば……いい……」
 頼むからシズカ君は少し黙っていてくれたまえ。

 僕は女性技師の興味を引こうと、例のロボカーの写真を取り出した。
 それが予想以上の効果を発揮した。
「ビッグ・ベン……やっぱり……」
 女性技師は両手で口元を覆うと、目を見張ったまま絶句した。
「知ってるんですね、これを」
 僕は女性に写真を手渡した。
「恐ろしいロボット兵器です。何としても退治しないと。そのためにも教授にお取り次ぎを」
 僕に促されると、彼女は諦めたように肩を落とした。
「先生にはやっぱり会えません、どなたであろうと。殺されたんですの、一昨日」


 研究室に通された僕たちは、女性技師、ニーノ・ダイナから詳しい話を聞かせてもらった。
 一昨日、教授と最後に会ったのは、ユナイテッド・モータースの技術者だという。
 事件を担当している武蔵野署に確認したところ、教授の死亡時刻は午後0時ころである。
 当日の来訪者記録によると、ちょうどそのころにUM社のIDカードを持った男が受付を通過している。
 現在、本庁舎の留置場にブチ込まれてる例の男だ。
 あいつ、無職になったくせに、飲み屋とかで見栄を張るためにIDカードは返さなかったんだろう。

 殺されたベットー教授は、以前よりUMからヘッドハンティングを受けていたらしい。
 UM本社は、今をときめくティラーノ・グループの傘下企業だから、さぞかし美味しい条件を呈示したことであろう。
 それにも関わらず、孤独だが自由な研究を愛する教授は勧誘を断り続けてきたのだった。
 僕の想像とは少し方向性が異なるが、教授はやはり変人だったようだ。

「その客が教授を殺害したことは間違いないんですね?」
 僕は真っ青になっているニーノ嬢に尋ねた。
 教授殺しの犯人を逮捕したのがこの僕だと知ると、彼女はすごく協力的になってくれた。
「ちょうどデータを取っている最中のことですから。全ての映像と音声が記録用ビデオに撮られていたのです」
 アイツは別件の強盗事件で僕に逮捕されたんだが、放っておいても直ぐに殺人容疑でパクられてたってことか。
 コロシまでやっていたとなると、こりゃ当分は出てこれそうにないな。

「男は新型AIを搭載したマイクロPCの提供を強要してきたのです。それが叶わぬと知るや、いきなり先生を……」
 教えてくれるニーノ嬢の声は、怒りのためか微かに震えていた。
 アイツはベットー教授の開発したAIを自作のロボカーに搭載し、自分を解雇したUM社を見返そうとしたのである。
 他人のフンドシで相撲を取ろうってんだから呆れてしまう。
 どこまで性根の腐った奴なんだろう。

164:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:23:34 9e+rL20W
「で、そのロボカーのことなんですが。ええっと、ビッグ・ベン……でしたっけ?」
 僕はニーノ嬢の手にある写真を指差した。
「ええ。形式番号Bo-0634、通称ベンKC。教授が開発した完全自律型AIを搭載した……意思を持ったエアカーです」
 そう説明する時、ニーノ嬢の目が燃え上がった。
 よほどの自信作で、素晴らしい性能を誇るのであろう。
 単純にスラスター出力だけを見てもKC、すなわち1000サイクロンである。
 これは市販されている高出力エアカーの2倍に迫る数字だ。
「犯人が持ち去ったAIは初期の試作品です。ベンと同等クラスのAIが盗まれていたら、大変なことになっていました」
「そんな優秀なベンが、どうして珍走狩りなんかを」
 僕はできるだけ嫌味に聞こえないよう、言葉を選んで尋ねた。
 すると、ニーノ嬢は悲痛な顔になって説明してくれた。

 教授が襲われた時、ベンはボディから降ろされて調整を受けているところであった。
 残酷なことに、彼は自分の親とも言える教授が殺される現場に居合わせたのだ。
 優秀な人工知能は、幸か不幸か目の前で起きたことを正しく理解する知力を有していた。
 そして、再度ボディに搭載されて身体の自由を回復するや、いきなりラボを飛び出していったという。

「ということは、ベンはUMに対する復讐を?」
 作り物の人工知能が、仇討ちなんて人間くさいことを考えるものなのか。
「そうとしか思えません。誰かが吐いた『代わりにUMのエアカーを1000台潰してやる』という恨み節を聞いてたのでしょう。
 ベンには生命の概念が理解できていません。UMのエアカーを1000台破壊すれば、教授が戻ってくると信じているのです」
 なるほど、RX9はアフラ社製だから見逃してもらえたってわけか。
 それにしても、いじらしいまでの忠誠心じゃないか。
 平気で上司を呼び捨てにする、どこぞのロボ娘にも見習ってもらいたい。

「なら……スクラップ場に呼び出して……気が済むまで……好きに壊させてあげれば……いい……」
 シズカは産廃処理業者が泣いて喜びそうなアイデアを提供した。
 ロボットらしい合理的な発想だが、どんなもんだろう。
 こういう場合は“生き餌”が基本だと相場が決まっているんだが。
 それに説得しようにも、ビッグ・ベンはどこに現れるか見当も付かない。
 けど、可愛い女の子が悲痛な表情をしていたら、何とかしてあげたくなるのが男気ってもんだ。

「心配しないで。ベンは僕たちが必ず止めてみせるから」
 僕は少しくだけた口調に変えて、一気にニーノ嬢との間合いを詰める。
「でも、クローは……機動捜査を禁止されている……RX9も……使えない……」
 ニーノ嬢の肩に手を置く寸前、シズカが嫌なことを思い出させてくれた。
 そのとおり、ここまで来るのにもタクシーを使ったのだった。
 機動力なしで、あのビッグ・ベンと渡り合うことなどできない。

「それじゃ、これを使って下さい」
 ニーノ嬢は立ち上がると、僕たちを部屋の隅にあるシャッターの前へ誘った。
 そして壁のボタン錠を数回押してシャッターを開けにかかる。
 彼女は何を見せてくれようとしているのか。
 シャッターが完全に開ききる前に、それは明らかになった。
 倉庫に保管されていたのは─なんとビッグ・ベンと寸分違わぬエアカーだったのだ。

 流体力学の粋を集めたような、優美な曲線の連続体である。
 細長くスマートなボディのため、コクピットはタンデム式の2シーターにデザインされている。
 尾部から左右に張り出したメインスラスターは2基であり、あの素晴らしい機動性能を支える源となっている。
 空気抵抗を極限まで減らすためなのか、濃紺と黄色に塗り分けられたボディ表面は鏡のように磨き上げられていた。

165:雲流れる果てに…6 ◆lK4rtSVAfk
10/11/19 14:24:25 9e+rL20W
「これは……」
 驚きのため僕は絶句し、シズカは速射破壊銃の発射態勢をとって身構えた。
「AIは搭載していませんが……ベンのために作ったスペアの筐体です。私は元々こちらが専門なもので」
 なんと、ニーノ嬢は自動車技師だったのか。
 ベットー教授が頭脳を、彼女がボディを、それぞれ分担してロボカーを開発していたのだ。
 あんな凄いマシンを作れるのだから、彼女の自動車技師としての能力は確かなんだろう。
 親子ほども年齢の離れた2人が、仲むつまじく開発に当たっている姿が容易に想像できた。
「これをお預けします。なんとしてもあの子を……ベンを止めてあげて下さい」
 しかし、性能は互角としても、向こうは完全自律型のフルオートマチックマシンだ。
 自由度の高いロボカーを相手に、マニュアル操縦で果たしてどこまで対抗できるのか。

「問題ない……クローには……シズカがいる……」
 いや、確かに自由度でいったら君の方が遙かに自由だけど。
 シズカはコンパネの配線を引っ張り出すと、耳の穴の差し込みジャックに直結した。
 自分のAIをエンジン・コントロール・ユニットとして利用しようというのだ。
 直ぐにエンジンに火が入り、部屋中に轟音が響き渡った。
「とにかく……チャッチャと片付ける……そして……二度とここには来ない……」
 シズカは不機嫌そうに呟いた。



「さっきから何を怒ってるんだ、君は」
 ビアンカと名付けられたエアカーを受領して都心へ戻る途中、僕は後席に座ったシズカに話し掛けた。
 なぜだか彼女はご機嫌斜めであり、さっきから一言も口をきいてくれない。
 元々無口な方だけど、このダンマリにはちょっとした悪意を感じる。
「あの女といると、クロー……血圧が上昇……βエンドルフィンは過剰分泌……分かり易すぎ……」
 なんだって。
 僕がニーノ嬢に好意を感じていることに嫉妬しているのか。

「クローには……地公法35条に規定された……職務専念義務がある……余計な心理的動揺は……シズカにも迷惑……」
 分かり易すぎるのはどっちなんだ。
 鼻から漏れている排気熱がもの凄い温度になってるじゃないか。
「いい……サトコに言いつける……から……」
 ゲッ、それだけは勘弁してくれ。
 今のサトコにそんなこと吹き込んだら、事の真偽を確かめる前に殺されてしまう。
 しかし、いつの間にこんな悪知恵を身に付けたんだよ。

 これは本当に早く事件を解決しなくてはならないようだ。
 僕個人の命に関わってきたとなると、冗談ではなく職務に専念する必要がある。
 しかも、同時にニーノ嬢の名誉も守ってやらねばならないとなると、これは並大抵の労力では追いつきそうにない。

 僕はさして広くない両肩に、ズシリと重荷がのし掛かってくるのを感じていた。

166:名無しさん@ピンキー
10/11/19 14:25:00 9e+rL20W
投下終了です

167:名無しさん@ピンキー
10/11/19 21:18:47 vE+7hNQD
乙。
シズカだけかと思ったら車のAIにも萌え要素が。
そしてどっちに転んでもお仕置きされそうな主人公の明日はどっちだw

168:名無しさん@ピンキー
10/11/19 22:15:23 vWl6cwHD
乙乙

169:名無しさん@ピンキー
10/11/19 22:35:44 K/jiPbZV
自分ではマスターに手を出せないから、他人の力を使って暴力を振るうのか
シズカは賢いなあ

170:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 00:57:30 Ld0dfL3C
 宮家島という無人島がある。
 元は21世紀の中ごろから続く、数度に渡る海底火山活動により隆起してできた新島だ。
 それに振動波を利用した人工造山技術を施して、現在の形となった。
 海岸線長は約80キロ、最高標高は1015メートル、上空から見るとほぼ円形をしているのが分かる。
 5年前の噴火を最後に火山活動は終息し、以後は周辺の地殻運動も安定した。

 同島を行政区画とする帝都が、広大な土地の有効活用を模索しはじめたのは昨年のことである。
 軍事施設、廃棄物処理場など幾つかの候補が挙がったが、おきゃんな都知事が採択したのは島のサーキット化であった。
「だって、マン島TTレースみたいでイカしてるじゃない。私は無粋なことは大嫌いなの」
 白河法子知事はそううそぶいたと聞くが、行く行くは島の公営ギャンブル場化を目論んでいるという噂もある。
 打算的で抜け目のない知事のことだから充分あり得る話だ。
 何はともあれ、宮家島を利用した第一回エアカーレースが開催されることに決まった。

 これに食い付いてきたのが、政治経済の分野で世界制覇を目論む国際貴族、ティラーノ・グループだった。
 メインスポンサーを買って出た彼らは、市販車ベースの改造エアカーを使ったレースを提案してきた。
 レース開催の主眼が、市販車の技術向上にあることを強調するためである。
 無論、傘下のユナイテッド・モータースにアドバンテージありと踏んでのことだ。
 UMは宣伝効果を上げるため、新開発の全自動ロボカーを投入することを宣言した。
 同社のロボカー技術が、マニュアル操縦のエアカーに優ることを見せつけようという腹なのだ。

 UMに関わらず、ポンタ技研や帝産自動車などの各メーカーも、次代を見越してロボカーの開発に入っている。
 しかし勝利の確信を持てない彼らはUMの後塵を拝することをよしとせず、ロボカーにレーサーを乗せる折衷案を取った。
 AIが苦手とする部分をマニュアル操縦で補おうというのだ。
 彼らは面子を捨ててでも確実に勝つ道を選んだのであろう。
 ここでロボカー合戦に出てUMにしてやられるようなことになれば、将来のシェアは確実に削り取られてしまうのだから。

 などと、他人事のように言っているが、実はこの僕も宮家島レースに出場することになっている。
 その経緯について、少し説明をしなければならないだろう。


 先日のこと、僕とシズカは本庁舎の廊下で都知事の白河法子にバッタリ会った。
 向こうも僕のことを覚えていてくれて、その場で少し立ち話になった。
 その時、このレースのことが話題に上がったのだ。
 聞けば、知事はレースの主催者として、雑踏警備の打ち合わせのために警視庁を訪れたという。
「UMはこのレースに社運を掛けているみたいね」
 なんでも、UMは完全自動のワークスマシンの他にも、20台以上のプライベーターを送り込むそうだ。
 連中にすれば、圧倒的な技術力の差を他社や観衆に見せつける必要があるのだろう。
 また、後ろ盾たるティラーノ・グループの顔に泥を塗ることはできまい。
 それ故の必勝態勢なのだ。

「でも参加台数の半分がUMのエアカーじゃ、ちょっと面白味に欠けるわね」
 知事はそう言うと、僕に意味ありげな視線を送ってきた。
 いやにUMの参加台数を気にするなと訝しんでいると、ふとあることに思い当たった。
 ビッグ・ベンことベンKCの存在だ。
 UM車の1000台斬りを目指している彼のことだから、このレースのことを知ればきっと襲って来るだろう。
 ベンにしてみれば、UMに復讐するのに格好の舞台だし。

171:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 00:58:50 Ld0dfL3C
「ところで、あなた新しいエアカーを手に入れたそうじゃない。えぇっとぉ……ダイナモータースだっけ?」
 僕は思わずギクリとなった。
 上司にも隠しているビアンカのことを、どうして部外者の都知事が知っているのだ。
 しかも、彼女はかなり核心部分に近いところまで嗅ぎつけているようだ。
 ダイナモータースってのは、どう考えてもニーノ・ダイナの名をもじったものなのだろうから。
 何故そんなでっち上げの社名を口にしたのか知らないが、迂闊に返事ができなくなった。
 都知事はニコニコ笑っているだけで、本心を明かそうとしない。
「面白そうだから、あなたもレースに参加すれば」
 この一言で僕の出場は決定事項となった。
 主催者権限を発動すれば、僕の出場資格などどうにでもなるってことだ。

 どうしてだかは知らないが、この美人の知事はベンの正体や、奴がUM車を狙っている情報を既に掴んでいるようだ。
 その上で、僕にベンを仕留めろと命令しているのだ。
 知事には都の治安を維持し、市民生活の平穏を守る義務がある。
 いつまでもベンに交通機能を掻き回されているわけにはいかない。
「これでも都知事なんだから。私の知らないことなんてあるわけないでしょ」
 都知事は得意そうにニンマリ笑った。
 そういや武蔵野工科大は都立だった。
 都知事である白河法子に隠し事などできるはずがない。
 彼女はニーノ嬢を責め上げて、事態の全てを把握してしまっているのだろう。

「多少ハプニングがあった方がエキセントリックでいいわ。優勝候補が順当に勝つんじゃつまらないとは思わない?
町工場の作った無名のロボカーに負けたとなれば、あのキーヨ・ティラーノがどんな顔をするか。是非見てみたいわ」
 都知事はそう言うとクスクス笑った。
 ダイナモータースなんて架空のメーカー名は、ビアンカが弱小の町工場製であることを強調するための方便だったのか。
 全てはスポンサーであるキーヨ氏に、恥をかかせるためのギミックなのだ。


 キーヨ・ティラーノと言うのは、世界中の主要企業の大半を勢力下に置くティラーノ・グループの総帥の名前だ。
 国際貴族の出身で、世界政府初代主席の座を狙っている野心家でもある。
 世界の政治と経済を牛耳ろうと企む彼が、いよいよ我が帝都に触手を伸ばしてきたのだ。
 宿敵、ミナモンテス・グループが宇宙開発事業の失敗で衰退した今こそが、千載一遇の勝機であると見たのだろう。

 キーヨにとって天佑だったのは、ミナモンテス家が当主の急死に始まる不幸の連鎖に見舞われたことだ。
 ミナモンテス家が当主の突然死で混乱を極めるさなか、同家に絡む疑獄や脱税事件が次々と明るみに出てきた。
 お陰でミナモンテス家の威光は完全に失墜した。
 余りにも不自然な事件事故が続いたため、政敵ティラーノの暗躍が疑われたが、確たる証拠は何もない。
 再興を望むミナモンテス家だったが、後継者たる嫡男が女性問題で失脚したことにより、中央から完全に一掃された。
 今やティラーノの進撃を止める存在は皆無であり、キーヨ・ティラーノはWG主席に最も近い男と目されている。

 そんなキーヨのことを、帝都の女知事はあまり好きではないらしい。
 彼の力をいいように利用はしても、美味しいところは自分が持っていくつもりでいる。
 島の開発をティラーノに無償でさせておきながら、続くカジノ事業には指一本触れさせる気はないのだ。
 そのため宮家島に「名門が無名の町工場に屈した恥辱の地」というレッテルを貼りたがっているのである。
 そうなれば、ティラーノにとって宮家島は鬼門となり、嫌でも撤退せざるを得ない。

172:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 00:59:26 Ld0dfL3C
「期待してるわよ、ハンサム君。今回はかなり危険な任務みたいだから」
 警察官たる僕の任務は、決して都知事から直に与えられるものではないのだけど。
 いつの間にか彼女の手駒にされてしまってるってのか。
「そうだ、私の懐刀を貸してあげよっか? ジョセフィン」
 白河都知事は背後を振り返り、お付きの名を呼んだ。
 純白のミニスカワンピース制服を着た、可愛らしい看護師が一歩前に出る。
「ナースのジョオ・ウィッチ。警視庁警備部所属のSPだから、あなたとは同業ということになるわね」
 紹介されたジョオ・ウィッチは、ペコリと頭を下げて挨拶してきた。
 なるほど、毒殺を怖れての看護婦帯同かと思っていたら、それがカムフラージュだったとは。

「彼女は射撃の名手なのよ。残念ながらオリンピックには出られないけど」
 女知事は言外に、ジョオがレベル3以上の改造を受けた公認の戦闘サイボーグであると匂わせた。
「人工衛星を利用した照準器を装備してて、飛んでる戦闘機だって3機に2機は墜としちゃうんだから」
 都知事のSPを1人で任されるのだから、実力は推して知るべしというところか。
 実に頼りになりそうだし、素直そうな外見はポイントが高い。
 ここはお言葉に甘えちゃおうかなと思っていると、すかさずインターセプトが入った。

「要らない……わ……」
 それまで興味なさそうに黙っていたシズカがポツリと呟いた。
「クローには……シズカがいるもの……サイボーグにできて……シズカにできないのは……脳卒中くらい……」
 いや、ジョークのつもりなんだろうけど、シュールすぎてまったく笑えない。
 というか、その場に居合わせた全員が凍りついた。
「とにかく……シズカに任せておけば……いい……」



 そう大見得を切ったシズカの前に、とんだ障壁が立ち塞がることになった。
 ECUの代用品としてビアンカの後席に搭乗したシズカだったが、その結果は散々なものであった。
 マシンにも相性があるっていうけど、シズカとビアンカのそれは最悪だったのだ。
 燃料噴射のタイミングが狂ってエンジンは吹けないわ、エアブレーキはまともに働かないわで、試走の結果は最悪だった。
 シズカに搭載されたハルトマン社製の人工知能は、そこらの自動操縦用AIより遙かに高性能だ。
 それにも関わらず、シズカはビアンカを全く制御できなかった。
 これじゃ、解体屋で売ってる中古の制御コンピュータを取り付けた方がまだマシだ。
 なんたってシズカより軽いし。

「君、わざとやってるんじゃないよな」
 ビッグ・ベンに勝てなければニーノ・ダイナの顔は丸潰れになる。
 まさかと思うけど、シズカときたらニーノ嬢をとことん嫌っているからなあ。
「デバイスドライバのバグか……電送信号のレベルの問題……シズカとは相性が……悪い……」
 そんなアキバのショップ店員が、無知な客を煙に巻く時のようなことを言われては身も蓋もない。
 こっちはまったくの門外漢なんだから、理解できるように説明してくれ。

 シズカは無表情のままで、左右の耳に突っ込んだケーブルを盛んに弄っている。
 そんなことで調子が上がるとは思わないが、早く原因を究明してもらわないと。
 予選が始まるまでには、もうそれほど時間が残されていない。
 不調の原因は、本当にどうしようもない相性の問題なのか。
「それと……このコクピット……あの女の臭いがする……」
 それだっ。
 原因はそれに違いない。
 内装に染み付いたニーノ嬢の移り香が、シズカを反発させているのだ。
 頼むからニーノ嬢を敵視するのは止めて、レースに集中してくれ。
 僕は彼女のことなんか何とも思っていないのだから。

173:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 01:00:15 Ld0dfL3C
「それじゃ……あのナースは……?」
「えっ?」
 ジョオ・ウィッチことジョセフィン嬢の愛らしい顔が頭をよぎった途端、僕の脳内からまたけしからん物質が出たらしい。
 それを観測したのだろう、シズカの目が極端に細められた。
 同時にシンクロ率が急激に下がり、ビアンカのエンジン回転がガクッと落ちる。
「やっぱり……クロー……信用できない……」
 いい加減にしないと怒るぞ。
「勝手に怒ればいい……サトコに言いつける……」
 ああ、本当にもう勘弁して。
 頼むから今は予選に集中させてくれ。


 僕はご機嫌斜めのシズカとビアンカを操って、ようやく予選を走り終えた。
 結果は42台中の15位。
 マシンの不調を考慮すると上出来であった言えよう。
 しかしポールポジションを獲得したUMワークスのロボカーからは大きく離されてしまった。
 ベンが真っ先に狙ってくるのはUMのロボカーだろうから、本戦では必死で食らい付いていかねばならない。

 レースは山頂に造られたサーキットを周回した後、一般道路へと移行する半公道コースだ。
 途中数カ所のチェックポイントが設けられており、それぞれの区間を時間内に通過しないと即失格となる。
 まずは峠道を下る山岳コースで、ここではエンジンパワーよりマシンのトータルバランスが重要視される。
 またブラインドコーナーが連続するので、コーナリングのテクニックと度胸の良さが問われることになる。
 山を下りきってしまうと、海岸線沿いの周回コースに出る。
 ここで物を言うのは絶大なパワーであり、今のビアンカではUMワークスに付いていくのは不可能だ。
 何とか山岳コースを出るまでにケツに食らい付き、後はスリップストリーム効果を期待するしかない。

 予選で見たUMワークスの速さを思い出すと、頭が痛くなってくる。
 プースカをベースにロボット化したマシンは、恐ろしいまでの完成度を誇っていた。
 前後比重のバランスの良さは勿論、機械ならではの冷静さと大胆さを兼ね備えたハンドリングは侮れない。
 おまけにエンジンもレース用のものに積み替えているから、直線では完全に置いていかれてしまうだろう。
 こりゃ、アフラRX9を持ってきても勝てないかもしれない。
 UMがいつの間にこんなロボカーを開発していたのか知らないが、正直たいしたもんだと思う。
 これが解雇された例の男が開発したAIの効果なのだろうか。
 もしそうだとしたら、UMは取り返しの付かない人的損失をしたことになる。
 何にしても、僕は持てる能力の全てを使ってレースに臨まなければならない。


 やがて本戦の開始時刻となり、僕とシズカは15番グリッドに置かれたビアンカに近づいていった。
 メインスタンドには、万を超す観衆が溢れかえっている。
 純粋なレースファン、メカフェチ、レースクイーン目的のカメ小など、それぞれがレースの開始を今や遅しと待っていた。
 完全に仕事モードの僕からすれば羨ましい限りだ。

 僕はレーシングスーツを着ているが、シズカはいつものメイド姿だ。
 場違いなフリフリのミニドレスは、嫌でも他のレーサーたちの目を釘付けにする。
 バカな男たちは、見えそうで見えないスカートの中身にハラハラしっぱなしだ。
「気をつけて……今日は休暇扱いだから……怪我しても労災認定されない……」
 シズカは男たちの熱い視線などお構いなしに、キュートなヒップをフリフリさせて歩く。
 僕としてはレース以外で、あまり目立つようなことはしたくないのだが。
 そんな僕に向け、時ならぬ哄笑が降り注いできた。

174:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 01:00:53 Ld0dfL3C
「オーッホッホッホッ。あなたね、町工場の作ったポンコツで果敢にチャレンジしてきたドンキホーテというのは」
 耳障りな高笑いに続き、上から目線のセリフが追加される。
 なんだと思って顔を上げると、真っ赤なプースカのボンネットに真紅のレザースーツを着た金髪美女が仁王立ちしていた。
 スレンダーな長身であるが、女性として出て然るべき部位は不必要なまで充分に出ている。
 美人と言えば間違いなく美人なのだが、顔中に溢れかえった高慢さが鼻につく。
 何者かと思っていたら、周囲のレーサー達の呟きが耳に入ってきた。
「コ……コリーン・ティラーノ」
「コリーン様だ」
 なんと、彼女こそティラーノ・グループ総帥、キーヨ・ティラーノの長女だったのだ。

 プロフィールによれば、今年ケンブリッジを卒業したばかりの22歳で、既にグループの一翼を担う役員として君臨している。
 彼女の美貌はハリウッド女優だった母親譲りで、自身もファッション雑誌の表紙を飾るトップモデルとして活躍中だ。
 その傍ら、趣味でエアカーレースを楽しんでいるという、まさに才色兼備のスーパーレディなのだ。
 更には国際貴族に属する身分ときては、もはや地上に対抗馬は見当たらない。
 今回は父上のため、腕に覚えのあるレースで貢献しようとしゃしゃり出てきたのだろうか。
 一説によれば、彼女の能力やグループ内での人望は、嫡男ドン・シーゲル氏を凌駕するという。

「王族なんてのは……大悪党を先祖に持つという証拠……貴族は……先祖が大悪党の手下だった……何よりの証拠……」
 シズカが吐き捨てた途端、コリーン嬢のこめかみに太い血管が浮き上がった。
 ビキビキという音が聞こえてくるようだ。
「なんですの、この無礼な小間使いはっ?」
 コリーン嬢はボンネットから飛び降りると、もの凄い形相でシズカの前に立ちはだかった。

 ズンと突き出された胸の膨らみは、巨乳のシズカより更に一回り大きい爆乳サイズだ。
「シズカは……小間使いじゃ……ない……」
 シズカも絶世の美少女だが、見た目には16、7歳の小娘だ。
 コリーン嬢が全身に纏った色香には及ばない。
 本来ならば、もう5年も経てばコリーン嬢に対抗できるようになるだろうが、残念なことにシズカは年を取らない。
 しかし、たとえお色気じゃコリーン嬢に敵わなくても、気の強さじゃシズカは一歩も引けを取らなかった。

「オッパイ大きい女が偉いのなら……ホルスタインの雌が一番偉いことに……なる……」
 シズカがチェーホフ作の『どん底』じみたセリフを吐くと、レーサーやメカニックたちが大爆笑した。
「な、な、生意気ですわっ。覚えてらっしゃい、後で大恥かかせて差し上げますからっ」
 虚仮にされるのに慣れていらっしゃらないお姫様は、真っ赤になって僕たちを睨み付けてきた。
 やれやれ、僕は全く関係ないのに、余計な厄介ごとを背負い込まされてしまった。

「クロー……ちょっとだけ……やる気出てきた……」
 そいつは有り難いが、もうちょっとだけ早くその気になってもらいたかったな。
 5列目スタートでは、UMのワークスマシンに食らい付くのは相当厳しいんだから。
 おまけに予選時のマシンコンディションじゃ、スタートと同時に何台に抜かれるか分かったもんじゃない。
 混雑する集団に巻き込まれてしまえば、渋滞を抜け出る頃にはUMのロボカーは遙か彼方に消え去っているだろう。
 つか─こいつ、やっぱやる気なかったんじゃないか。
「問題ない……シズカがなんとか……する……」

175:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 01:01:29 Ld0dfL3C
 
 頼もしいことを言ってくれたが、ナビゲーターシートに座ったシズカは、まだ本調子に戻っていなかった。
 メーターが示すシンクロ率は、どうにかビアンカを動かせる最低限のレベルだ。
 カッカきて余計な思考ノイズが加わった分、予選の時より状態は悪くなっている。
「こりゃ苦戦は免れそうにないな」
 僕がボソッと呟くと、シズカは不機嫌そうに反論してきた。
「クローは……シグナルに集中して……背後はシズカに任せれば……いい……」

 言っとくけど、ナビゲーターシートを後部銃座として使うのは無しだぞ。
 コクピットに当てず、エンジンだけをぶち抜くのもダメだ。
 銃器類の使用は禁止事項なんだから。
 君は大人しく、あくまで制御用AIに徹してくれ。
 そんな心配をしていると、いよいよスタートの時間が迫ってきた。

 突如、観衆の中にざわめきが起こり、続いて大歓声へと変わった。
 メインスタンドに主催者の白河法子都知事が現れたのだ。
 知事は手を振って声援に応えながら貴賓席へと歩く。
 今日のお召し物は、お気に入りの真っ赤なボディコンスーツである。
 周囲を取り巻くSPの中に、ナースのジョオ・ウィッチの姿は見えない。
 代わりにラテン系らしい長身の紳士が知事の傍らに立っていた。

 男は髪をオールバックに撫でつけ、女たらしっぽい顔ににやけた笑みを湛えている。
 誰かと思って記憶を手繰ると、あるVIPの名前に辿り着いた。
 驚いたことに、あれはティラーノ・グループ総帥、キーヨ・ティラーノその人だ。
 記憶が確かなら、既に50を過ぎているはずだが、見た目には30代後半の精力的な男にしか見えない。
 これが天下に最も近いといわれる男のオーラなのか。

 大会スポンサーの登場というサプライズに、スタンドの観衆は総立ちで歓声を送っている。
 僕から3列前の6番グリッドでは、コリーン嬢が愛車から身を乗り出すようにしてキーヨ氏に手を振っている。
 それに気付いたお父上も、顔を一層にやけさせて愛娘に手を振り返す。
 家庭円満をアピールする演出と言うより、本当に仲のいい親子なんだろう。
 キーヨ氏は隙のない身のこなしで都知事を貴賓席にエスコートすると、もう一度観衆に手を振ってから着席した。
 文句の付けようがない紳士っぷりである。
 ハンサムだから女にモテるし、スケベっぽいから男を敵にせずに済む。
 案外、この辺りの洗練度の差が、質実剛健をモットーとするミナモンテス家を凋落させた理由なのかもしれない。

「みんなぁ~、楽しんでるぅ~?」
 主催者の白河法子が観衆に向かって開会の言葉を述べ始めた。
 都のトップとは思えぬはっちゃけぶりであるが、タレント出身の彼女もまた民衆の扱いをよく心得ている1人だ。
 2人に共通しているのは、民衆が自分にどうあって欲しいと思っているのかをよく理解していることだろう。
 美人なのに気取らず、気さくでお洒落な知事は、今のところは都民の誇りなのだ。
「長い挨拶はヌキでイクわよ。人間が勝つかロボットが勝つか、誰よりも私が興奮してるんだもんっ」
 エロティシズム溢れる声色に、観衆は総立ちで拍手する。
「さあ、お願いっ。早くイッてぇ~っ」
 ものの数秒の開会式が終わり、いよいよクリスマスツリーにレッドシグナルが灯る。
 同時に轟々というエンジンの音が響き始める。
 赤いランプが一つずつ灯っていき、やがてグリーンのランプに切り替わった。
 次の瞬間、第一回宮家島TTレースが開始された。

176:雲流れる果てに…7 ◆lK4rtSVAfk
10/11/23 01:02:13 Ld0dfL3C
 僕はこれ以上は無いというタイミングで、ビアンカを発進させることに成功した。
 前列の11番と12番グリッドの間に機首をねじ込み、強引に抜きに掛かる。
 一気に5台を抜き去り、早くも10位に浮上する。
 しかし、ビアンカのエンジンはもたついて吹け上がらない。
 アッと言う間に背後から後続集団が接近してきた。
 まずい、アレに巻き込まれたら、トップを走るUMワークスに引き離されてしまう。

 と思った次の瞬間、シズカがキャノピーをスライドさせた。
 そして中腰になると、お尻をコクピットから突き出した。
 当然のこととして、スカートとペチコートが風に翻る。
 いきなり丸見えになったキュートなヒップに、11位以下の後続車はパニックに陥った。
 スピンに入る者あり、コースアウトする者あり。
 事情を知らない後方のドライバーが大混乱の中に突っ込んでいく。
 危うく集団に飲み込まれ掛けたビアンカは、アクシデントに乗じて第1コーナーへと加速していった。

 シズカは肩越しに振り返り、冷静な目で効果が充分なことを確認する。
 そして何事もなかったような顔でシートに腰を下ろすと、悠然とキャノピーを閉じた。
「これで……しばらくは……大丈夫……」
 恐ろしい女だ。
 シズカはただの白い布きれが秘めている絶大な破壊力を正しく理解しているのだ。
 しかも、それが女の尻に貼り付き、スカートに隠されることによって、本来の威力を倍加させることも。
 事故ったスケベ男どもに同情の余地はないが、アレだけの惨劇を引き起こしといて眉一つ動かさないシズカもどうかと思う。
 せめて薄笑いくらい浮かべて欲しい。
 ホント、絶対に敵に回してはいけないタイプの女だ。

 そうしている間に第1コーナーが近づいてきた。
 僕はエンジン回転を落とさないよう、パーシャル状態を保ったままアウト側からコーナーに突っ込む。
 基本遵守のアウト・イン・アウトのコースラインを描き、ビアンカの機首を出口へと導く。
 加速性能の悪い現状では、突っ込み重視のコーナリングを続けなくてはならない。
 一旦エンジン回転数を下げてしまえば、コーナー脱出時にスピードを回復できないのだ。

 続くS字コーナーをなるたけ直線的に最短コースで駆け抜け、立ち上がりで先行する1台をパスする。
 更にヘアピンの入り口で2台を抜き去る。
 これで7位に浮上だ。
 前方に赤いプースカが小さく見えてきたが、幾つコーナーを抜けてもなかなか距離を縮められない。
 コリーン嬢もなかなかやる。

 長いホームストレッチに入ると、コリーン嬢との差は見る見る開いていった。
 それどころか、さっき追い抜いたレオパルドとクリントンが背後から迫ってきている。
 残念だが、今のビアンカでは世界の一流どころには太刀打ちできない。

 頼む、シズカ。
 早くご機嫌を直してくれ。

 こうしている間にもビッグ・ベンが襲いかかってくるかもしれないのだ。

177:名無しさん@ピンキー
10/11/23 01:03:15 Ld0dfL3C
投下終了です

178:名無しさん@ピンキー
10/11/23 06:56:59 2OM2jcc4
今回は投下早いね
乙です

179:名無しさん@ピンキー
10/11/23 21:59:45 HaNnWsYY
今更のように気がついたけど、これって平家物語の未来版なの?
クローとシズカの時点で気付くべきだったけど

那須与一の強引な萌えキャラ化に糞ワロタ

180:名無しさん@ピンキー
10/11/23 23:50:29 bkC2BAYL
>>179
?


181:名無しさん@ピンキー
10/11/24 02:09:44 mDQLJdnz
>179
あ、ナースのジョオ・ウィッチ=ナスノヨイチか。理解理解。

182:名無しさん@ピンキー
10/11/24 14:25:52 uUHrgnxN
あー、光学センサゆにっとから保護カバー

183:名無しさん@ピンキー
10/11/24 17:49:52 /ZB61Egn
ベンKCは普通に海外ドラマのベン・ケーシーかと思ってたら弁慶かい
これはラストが悲しい展開になりそうな予感

184:名無しさん@ピンキー
10/11/24 19:09:23 5wpWafVi
気がつくと
「ベンKCを壊し、クローを殺し……」
と呟く自分に愕然とする、二重人格の猟奇犯罪者、
なんてのもいいかもな


元ネタなんだっけw


185:名無しさん@ピンキー
10/11/25 00:12:51 GjtMbR8g
ベンKCは、何となく某召喚ゲームのポンコツ三等兵ヴァルゼルドをイメージしてた。
最後に一言言い残して大破機能停止。修理しても人格だけは戻らないとかだと、泣ける。

186:名無しさん@ピンキー
10/11/25 00:45:31 FMfQstiG
サイボーグの脳卒中、吹いたw

187:名無しさん@ピンキー
10/11/27 17:05:53 5svsv45T
「雲流れる」、いい作品なんだというのはわかるんだが、
個人的には未来世界を舞台にしたSSというのは苦手だなあ。
ついていけないというか。
いや、俺が馬鹿なだけで、作品はいいんだと思うんだけどね。
ロボものという性質上、未来が舞台というのはまっとうなはずだから。

ロボ娘ものSSである以上、過去が舞台というのはあり得ないとして、
せめてやっぱり現代ものの作品のほうが馬鹿な俺には読みやすいな。

188:名無しさん@ピンキー
10/11/27 20:40:37 QVmhsEBZ
それを今言ってどうしろというのか……。そっと胸にしまっておくか自分で書けばいいじゃないか。

189:名無しさん@ピンキー
10/11/27 21:04:35 3og6iNZh
>>187
未来世界が舞台って言っても、未来的な描写は車に車輪がないことくらいのもんだし
自分でも認めてるように、現代に精巧なロボが存在している方が不自然でついていけない

でも現代の技術でロボット工学を追究しようというのも一つのスタンスであり
そんなSSを望む気持ちも分からんでもない

早くお気に入りの作品を書いてくれる作家が現れてくれるといいな

190:名無しさん@ピンキー
10/11/27 22:44:00 HhEWDBXy
まー、お互いこのへんで終わりにしとけ。
俺の趣味に合う、合わないからどうこうなんて話されても作者さんが困るだけだし。

191:名無しさん@ピンキー
10/11/28 10:37:31 k//aArQZ
三人称で書く書き手の登場まだか。

192:名無しさん@ピンキー
10/11/28 11:25:03 qVO9AFBw
全てが気に入らないわけね

193:名無しさん@ピンキー
10/11/28 12:01:18 OjzSDgeE
つーか流石に投下してくれるだけでも嬉しいくらいあまり投下が頻繁じゃないスレで自らの理想をぶち上げるとか考え無しにもほどがあるだろ……。
これでまたハードルあげて、書き手がさらに居なくなったらどうするつもりなんだよ。
金払ってるなら論評(笑)するのも分かるが、ただで読ませてもらってるのに文句ばっかり言うなよ。
個人的な嗜好で文句つけるなら、粗があってもいいから自分で書けよ。誰も批難しないから。

194:名無しさん@ピンキー
10/11/28 12:50:13 u0JAWsa7
自分で書くってのは最高だよね
自分の嗜好に合わせた好きな作品が書けるんだからさ

195:名無しさん@ピンキー
10/11/28 13:57:53 29OUtneq
書いてみたいんだが
面白い面白くない以前に極端にフェチな代物になりそうで
他人に理解される気がしないぜー

196:名無しさん@ピンキー
10/11/28 14:02:18 kjWsr3HO
待て待て。
このスレでフェチじゃない訳がなかろうがw


197:名無しさん@ピンキー
10/11/28 15:12:07 PJ9khIfb
「叩かれるかもしれない」「合わないかもしれない」「理解されないかもしれない」
こういう風な話が出るのも>>187のせいだよな。

198:名無しさん@ピンキー
10/11/28 23:59:55 FHRPC7Xk
このスレでそんな心配するなんて最近きた人なのかな?
炊飯器だろうが16KBのスクリプトだろうが萌えるのがこのスレだろう

199:名無しさん@ピンキー
10/11/29 01:15:13 gFhBgMYl
URLリンク(d.hatena.ne.jp)
これは?

200:名無しさん@ピンキー
10/11/29 04:48:30 a5vaG0h2
>>199
ToHeart2の三姉妹でやれば……と思ったけどそれじゃ1人足りないのね
にしてもオチがひどいw

201:名無しさん@ピンキー
10/11/30 20:32:56 loVOBPS3
最近やったエロゲに隠れロボ娘さんがいた
分類としては生体だそうなのででメカ描写は一切なかったけど
陽の光で充電したりAIが成長して自然な言動に近づいていったり
お前記憶再生してるだろレベルで自慰始めたりで実に嬉しい誤算だったぜ

202:名無しさん@ピンキー
10/11/30 23:19:44 lItHaPbu
>>201
くわしく

203:名無しさん@ピンキー
10/12/01 10:29:52 rOMJgN2k
>>202
失われた未来を求めて
公式のキャラ紹介に匂わせる情報はあるしネタバレという程ではないが・・・
このスレ的には「ロボ娘としての魅力が内面だけでも栄養になる人向け」か?
しかし皮肉な事に今までやってきたメカ耳つけて後適当、みたいな物より遥かに良かった

204:名無しさん@ピンキー
10/12/01 23:30:18 cjnMs28h
♀「仕様」か。

205:名無しさん@ピンキー
10/12/02 08:58:42 JRxdrfD+
作られた心に魂を感じることができない人には
ロボ娘は道具にしか見えない

ある素質を持った人だけに許される萌え
それがロボ娘萌えなのだ

206:名無しさん@ピンキー
10/12/02 14:39:29 aWZFcAcj
別にそんな大袈裟なものでもなくね?

207:名無しさん@ピンキー
10/12/02 16:45:28 siMpd7TL
いつも人間ぽいのに、壊れたり充電が切れたりした時に見せる道具っぽさが興奮する

208:名無しさん@ピンキー
10/12/02 21:40:13 pnEIqxKJ
見掛けは人間と同じでマスターも女として扱ってくれてるのに、最後には裏切られるのではないか?
そんな不安が終始付きまとう悲しさこそがポイントだろ

209:名無しさん@ピンキー
10/12/02 22:07:44 jQ5GWJHY
まぁそういう多用な萌え方もあるってことで。
どこがポイントというのも好みだろうさ。

210:名無しさん@ピンキー
10/12/02 22:17:26 pqpYR6/t
だね。
俺の好みが絶対!みたいな言い方や態度は反感買うだけだし、荒れる原因にしかならん。

211:名無しさん@ピンキー
10/12/02 22:48:05 G+0sysEn
そうそう
意外なところで新たな萌え属性を発見するかもしれんしな


炊飯器萌えとかw


212:名無しさん@ピンキー
10/12/05 23:02:27 X4qUQqDg
俺は無限軌道萌えになった

213:名無しさん@ピンキー
10/12/06 20:05:29 jQsSVEVw
ただでさえマイノリティな趣味なのに、これ以上細分化しても仕方がないしね
好みを宣言するのは大いにアリだけど、他を否定するような言い回しにならないようにってところかー

銀魂さんを観てて改めて思ったんだけど、芙蓉篇はいい話だなあ
ロボットの感情獲得とか自己犠牲とか、そういう人情話に弱いなあ俺は

214:名無しさん@ピンキー
10/12/09 05:42:16 WamUP51A
2010年宇宙の旅のHAL9000は泣けた
これから粉々に吹き飛ぶってのに
「ボウマン博士、また一緒に仕事ができてうれしいです」
だもんな

215:名無しさん@ピンキー
10/12/09 07:36:42 Rr11pef1
そこで再び『デイジー・ベル』を歌わせたかった

216:デーブ、太り過ぎだよ、デーブ
10/12/09 08:01:01 wbkzy+U1
デーブ、怖いんだよ、デーブ。

217:名無しさん@ピンキー
10/12/09 12:51:21 zd0VySuu
スタンディングモードがうんたら

218:名無しさん@ピンキー
10/12/10 00:24:15 rHECQVx9
メイドロボが自己メンテナンス

219:名無しさん@ピンキー
10/12/14 20:39:25 syJi3QXB
Q10が電気ショックとかでぶっ壊れて欲しかったのに…
壊れろよ!

220:名無しさん@ピンキー
10/12/15 07:15:13 Hp7ffHR2
壊れ厨か
最初から顔面が壊れてんだからいいじゃない

221:名無しさん@ピンキー
10/12/15 17:24:44 FrbXuuP8
所詮、惨事は惨事だしな

222:名無しさん@ピンキー
10/12/16 21:05:43 fXB0CaAS
またその話題を繰り返すのか…

223:名無しさん@ピンキー
10/12/16 21:39:57 zXZrT3vM
なんか必死なアンチがいるようだな。炊飯器もそうだったが。

224:名無しさん@ピンキー
10/12/16 23:05:30 22T5IvZX
Valveのポータル2が神ゲーっぽいぞおまいら
なんと今度は2プレイヤーCOOPモードも実装される
プレイヤーはGLADOSたんの作った試験用ロボットになってマジキチアスレチックをクリアするらしい
復活したGLADOSたんはもう完全ヤンデレAIと化してるぞ

「また会いましたね。貴女と私は似た者同士、私は貴女を試し、貴女も私を試しました。
 貴女は私を殺し、私は……おっと、私はまだ貴女を殺していませんでしたね……考えておきます。この極悪人めが……」
こんな台詞だった

225:名無しさん@ピンキー
10/12/17 20:28:51 DaVk1ykV
リルルは新しい方が可愛いかもしれないな

226:名無しさん@ピンキー
10/12/18 00:10:25 EeaqD8sq
しかも沢城…ここまではOKだ、ここまでは

227:名無しさん@ピンキー
10/12/22 20:43:24 noBYUYaR
ハンゲの育成ゲームが誰得すぎる
ライトなキャッキャウフフゲーと思ったら設定画に惚れた

228:名無しさん@ピンキー
10/12/22 21:53:18 2SSNV/WY
>>227
どれかわかんね。ゲーム名plz

229:名無しさん@ピンキー
10/12/23 00:47:10 O3S5RDC+
えれも~ど
ってのがかんたんゲームの所にあると思うんだが
4亀の記事見て入ったけどもうすぐβ版終わっちゃうらしい
こういうのはもっと早く記事書けよ・・・ッ!

230:名無しさん@ピンキー
10/12/23 01:28:10 acq250BD
今時ある意味めずらしいくらい形上だけとはいえ凝ってるな。
開発規模が残念といえば残念だが……。

231:名無しさん@ピンキー
10/12/23 14:00:21 JR1iCR4r
低速回線しかない俺には無理だこれ...何をするにも読み込み長すぎ
しかし、マッサージしないといけないロボ娘ってのは斬新かもしれんw

232:名無しさん@ピンキー
10/12/24 02:34:21 +gCT65Xk
でも、こういうので生体とかにいかないで充電、冷却液交換必要な
完全ロボって珍しい。是非とも正式版までいってほしい。
>>231
残念だが光回線でも容赦なく遅い。
正式版では直す気らしいから見守ってやれ

233:名無しさん@ピンキー
10/12/25 05:04:27 dfnSbgWZ
今月のSFマガジンに載ってたテッド・チャンの短編がものすごいロボ萌え小説だった
AIに性機能追加するか否かってたまらんテーマだったわ 本編にはエロはなかったがいろいろと漲った
ぼくたち愛し合えるもん!みたいな主張をするロボ可愛いよ
高性能なボディを追加してあげたいぜ

234:名無しさん@ピンキー
10/12/25 05:13:14 gunyIhGt
それもう先月号…

235: ◆pww.X/1uYI
10/12/25 20:56:24 LStEl8+x
えれも~ど、終わってもうた…
ちゃんと正式版になって戻って来るんだよ…

236:名無しさん@ピンキー
10/12/27 14:58:59 kng25WqJ
このスレ的にはこわれかけのオルゴールとかどう?
イカ娘見てるときに、CMでちらっとみたけどよさそう。


237:名無しさん@ピンキー
10/12/27 22:29:25 8Bh0nvrh
スレリンク(erochara板)>>712-716
好み分かれそうな妄想設定だけど、俺は萌えた。なんとなく。

238:名無しさん@ピンキー
10/12/28 00:42:13 WCL62g2b
以下の内、このスレの住民にとって一番辛いのって何だ

1、長年連れ添ったメイドロボが事故で自分を庇って大破→再起不能
2、長年連れ添ったメイドロボが事故で自分を庇って大破→古いモデルでパーツが足らず、新型筐体に。新機能の殆どに対応していない旧式AIが、自身と身体の不一致から暴走・自壊。
3、長年連れ添ったメイドロボが事故で自分を庇って大破→完全修復したもののデータが全部飛んで初期化、全く同じ型の他人として、義務的に接してくる。
4、長年連れ添ったメイドロボが事故で自分を庇ってくれずに大怪我→病院のベッドで「これで、ずっと一緒に居られますね!」
5、長年連れ添ったメイドロボが起こした事故に巻き込まれて大怪我→病院のベッドで「うわーーんごめんなさいマスター!わたしのせいでっとととととと、きゃーーー!」大事な管が外されてチーン。
6、長年連れ添ったメイドロボがどうみてもカリフォルニア州知事

239:名無しさん@ピンキー
10/12/28 09:55:15 Tju6tDGD
>>238
すべて美味しく頂けますがなにか?

240:名無しさん@ピンキー
10/12/28 10:56:47 Doeu/KmL
ですよね~

241:名無しさん@ピンキー
10/12/28 11:08:52 XTgAtU2e
最後待てw

242:名無しさん@ピンキー
10/12/28 12:42:02 f6zlQ7Q/
7、長年連れ添ったメイドロボが事故で自分を庇って大破→特殊モデルでパーツが足らず、新型筐体に。新機能の殆どに対応していない旧式AIが、自身とどうみてもカリフォルニア州知事の外見の不一致から暴走

243:名無しさん@ピンキー
10/12/28 22:53:46 4awSS74J
最後のは娘じゃないだろ・・・! と思ったら姉妹スレじゃなかったのでセーフだった。
とりあえず全部いけそう。

244:名無しさん@ピンキー
10/12/28 23:00:00 6NeGmlzB
8、長年連れ添ったメイドロボと仲良く轢かれてチーン。しかしその意識はメイドロボのAIに移植され、少女の身体に心がふたつ。

245:名無しさん@ピンキー
10/12/28 23:04:35 EdrywdWg
>>242
可愛らしいガワが吹っ飛んだらターミネーターの中身みたいなのがボロリと出てくるメイドロボもいいな

246:名無しさん@ピンキー
10/12/28 23:56:57 oF9BKF4/
9、長年連れ添ったメイドロボが実は男の娘だった

247:名無しさん@ピンキー
10/12/29 00:31:15 kcXiVFDd
>>246
なにそのご褒美

248:名無しさん@ピンキー
10/12/29 01:44:05 Bv3/1IwU
褐色肌のショタロイドにメイドコス着させて買い物行かせたい。
疑似ペニスを携帯からの信号でいつでもエレクちおんさせられるようにして、メイドショタロイドが女性下着売り場の前に来た時にスイッチオン。
恥ずかしさの余りその場にへたり込んで、フリルスカートのうえから必死に股間抑えるショタロイド。

気付いた女性店員(実は精巧に作られたガイノイド)が近づいてきて「どうかなさいましたか?」って聞くと、ショタロイドは「ご、ごめんなさい……ボク、その……」ってカクカク震えながら謝りだす。
疑似オニンニンがエレクちおんしているのに気付いたガイノイド店員は、事情を察して「持ち主の方の悪戯ね?大丈夫、信号の届かない部屋があるから、そこで細工を解除してしまいましょう」と言ってスタッフルームに連れて行く。

薄らと邪な笑みを浮かべながら、後ろ手でドアのカギを描けるガイノイド店員。
電気棒片手ににじり寄りながらニコニコ。

「ダイジョーブ、痛くしないから!ね!」
「やだーー!やだーー!助けてマスター!」
「ダイジョーブ!音も外に漏れないからね!痛いのは最初だけだから!」


続き頼んだ。

249:名無しさん@ピンキー
11/01/01 15:58:55 dRGgab6F
>>248
ガイノイド店員さん、萌えっ

250:CWGに口づけを
11/01/06 03:27:06 stHpZ8ux
スコープを覗く。
少女が一人、小型の電探を背負って辺りを見回している。
「敵発見。数一、ライザモデル。装備からして偵察兵と判断。指示求む。」
偵察兵は面倒だ。人形は特に。
こちらの位置をある程度掴んだ上での偵察か、破壊させて場所を割り出す囮か区別できない。
『近々ミラージュの侵攻が有るらしい。その下調べだろう。手早く撃ち抜いてやれ。』
やれやれ。簡易偵察なら、ラジコンで充分だろうに。
引き金を引く。
二桁行くか行かないかの小娘の頭が爆ぜ、金属や半導体を撒き散らして地面に倒れる。
ラジコンと同じ物を撒き散らして、人型をした物が倒れる。
何度撃ち抜いても慣れない、奇妙な違和感。
「頭を撃ち抜いた。後続無し。引き続き警戒する。」
『了解。後続が来たら連絡して下がれ。歩行戦車の部隊を送る。』
戦場の主力が人形と歩行戦車になっても、人間の歩兵は不要にならない。
人と同じ思考能力の人形は、歩兵十人分の働きをして歩兵千人分の金がかかる。
「…マスター。せめて、AIを避けるとかはできないんですか?」
…最も、ソレは戦場でと言った条件を付けた上でだが。
「ジャイロを撃っても下手すりゃ自爆するし、他の部位を撃っても止まるまでは時間がかかる。AIが一番マシだ。」
俺の相棒であるコイツは、クレストのエリスモデルだ。
すっかり旧式の癖して、優秀な学習機能はコイツに悲しいくらいの人間臭さを与えた。
「でも、きっと自爆しない可能性だって…」
それも、狙撃屋の相棒には不釣り合いなお人好しな人間臭さを。
敵であっても、自我のロクに無い軍用の人形であっても、コイツは同情しちまうらしい。
コイツのAIの基礎設定組んだヤツを殴りたくなるような優しさである。
「狙撃は1ショット1キル、悪くても2ショット1キル。ソレで仕留めなきゃヤバいんだ、加減なんてできない。」
神様。アンタを恨む。
心優しい俺の相棒は、俺が銃を撃つといつもこの会話を繰り返す。
優秀な学習機能もコレだけは学習してくれず、俺は何時も咎めるような視線と涙声での懇願を受けるんだ。
「もう、こんな仕事辞めて都市に帰りましょうよぉ。マスターならきっと他の仕事も…」
そうして、俺は何度繰り返したか分からないいつもの答えを返す。
「お前と結婚できる日が来たら、考えてみるさ。」
それが現実になる事を祈りながら。

ネタが湧いたので即興で書き上げた。
近頃やっているゲームとやや世界観が被ったが許してほしい。
…熟成させた方が良かったかな。

251:名無しさん@ピンキー
11/01/06 03:33:47 ZIDb0e7+
大変結構でございます
書き続けながら熟成するのも宜しかろうと
つきましては是非続きをですね

252:名無しさん@ピンキー
11/01/11 20:49:18 mwpkneiL
NHKクローズアップ現代 1/12 19:30~19:58
アンドロイド“人間らしさ”の追求
URLリンク(cgi4.nhk.or.jp)

253:名無しさん@ピンキー
11/01/12 17:42:59 4Ud5UDTN
お前と結婚できる日が来たら、考えてみるさ。・・・か、主人公、かっこいい^^

254:名無しさん@ピンキー
11/01/23 03:16:44 f4kw2Ghp
保守

255:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:13:40 rbUjHWMh
 僕は反則スレスレのブロックで8、9位を押さえ込み、順位をキープしたままホームストレッチを駆け抜けた。
 そのまま第1チェックポイントを兼ねたゲートを潜り、公道コースへと入り込む。
 ここからはエンジンパワーに左右されないテクニカルコースが続く。
 下手に馬力に頼ろうとすると─ミラーに映った後続2台のようにパワーを持て余して振り回される。
 パワーに対するスタビライザーの強化不足が原因で、ケツが流れ気味になっているのだ。
 とは言うものの、僕の乗るビアンカも燃料噴射や点火タイミングの狂いから本調子が出ていない。
 特に加速不足は致命的で、一旦エンジン回転を落とすとなかなか吹け上がらない。
 そのため車体を横滑りさせ、パワーバンドを維持したまま機首の向きを変えるスライド走行を強いられる。

 これだと視界を広く取れるため、ブラインドコーナー続きのコースじゃ有効ではある。
 しかし、体に掛かる横Gが半端じゃないから、疲労は著しく蓄積していく。
 救いと言えば、後席のシズカがケロッとしていることくらいか。
 つか、彼女が制御コンピュータとしてまともに機能してくれたら、こんな苦労をしなくてもすむのだ。
 こうなったら、特機隊の訓練で身に付けたテクニックをフルに発揮して頑張るしかない。

 いつ事故ってもおかしくないようなコーナリングを続けていると、ようやく赤いプースカのテールが見えてきた。
 コリーン嬢もこのテクニカルコースに手を焼いているようで、追い抜くにはまたとないチャンスである。
 レディファーストの精神は嫌いじゃないが、レースではそうも言ってられない。
 第一、手を抜いたりしてはコリーン嬢に失礼だし、かえって怒らせてしまうだろう。
 振り返るたびにリアウィンドウ越しに見えるご尊顔にも、かなり苛立ちの色が滲んでいるようだし。
「クロー……さっさとブチ抜いて……」
 後席からシズカが煽ってくるが、ここは冷静に抜きどころを見極めないと。

 コリーン嬢のバックに取り付いて様子を窺っていると、Rの小さなコーナーが近づいてきた。
 道幅も充分だし、ここならアウトからパスできる。
 コリーン嬢が制動を掛けると同時に、僕はアクセルを吹かしてアウト側から被せていった。
 ボディを極限までバンクさせて遠心力を緩和させる。
 上手くスライドが決まり、クリッピングポイントまでにプースカと横並びになる。
 やった、と小躍りしかけた次の瞬間、僕の心臓は凍りつきそうになった。
 イン側にいるコリーン嬢がニヤリと笑ったと思うと、強引に幅寄せしてきたのだ。

 彼女にしてみれば、ずっとこの機会を待っていたに違いない。
 自分に恥をかかせた僕たちを葬り去ろうと、チャンスを窺っていたのだ。
 横Gの掛かっていたビアンカはあっさり弾き飛ばされ、頑丈なガードレールに激突した。
「オーッホッホッホッホッ。ごめんあそばせ」
 高笑いを残し、コリーン嬢のプースカは走り去っていった。


「シズカ……大丈夫か?」
 僕はふらつく頭を巡らせて、背後のナビゲーターシートを確認した。
「問題ない……それよりクロー……頭から血が……」
 当然のことながら、アンドロイドのシズカは無傷だった。
 この娘さんときたら、至近距離からロケット弾の直撃を受けても平気なのだから。
 それでも、事故ったのはドライバーである僕の責任だから、同乗者が無傷なのは何よりもありがたい。

256:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:14:44 rbUjHWMh
 続いて僕はコクピットを降り、ビアンカの点検に移った。
 その横を、もの凄いエグゾーストノートを残し、後続車両の集団が駆け抜けていく。
 せっかくタイムを稼いでいたのに、これでビリになってしまった。
 何とかレースに復帰し、ここから巻き返さないとビッグ・ベンを止めることはできない。
 それに早く次のチェックポイントを通過しないと、失格になってレースの参加資格そのものを失ってしまう。
 ビアンカのボディを点検すると、左のスラスターが微かに擦過していたが、内部メカには異常は無いようだった。
 よし、これならレースを続けることができる。

 ドライバーシートに乗り込もうとしたら、シズカが熱っぽい目で僕を見詰めていた。
「クロー……自分より……シズカを心配してくれた……やっぱりクローにとって……シズカが一番……」
 はあ?
 同乗者を気遣うのは、運転手として当然の義務だろ。
 何をそんなに目をウルウルさせているのやら。

 呆れながらコクピットに入った僕だったが、今度はこっちが感激してウルウルくる番であった。
 なんとAIシンクロ率は100パーセントを超え、メーターを振り切っていたのだ。
「シズカ君。いよいよやる気になってくれたのか」
 これならオリジナルの性能を上回るポテンシャルを引き出せそうだ。
「シズカ……やる……あの性悪女に追いついくから……クロー……是非お仕置きを……」
 いやいや、性格の悪さでは君だって負けていない。
 それは置いておいて、とにかくレースに復帰しなくては。

 とは言っても、今からじゃまともに走っていては、とてもじゃないがトップグループに追いつけない。
 ここからはヘアピンカーブが連続するつづら折れになっていて、おいそれとスロットルを開けないのだ。
 路外は急峻な崖になっていて、コースアウトは即リタイアを意味する。
 しかし、ここを一気に駆け下りることができたら、ショートカットでかなりの時間が稼げるのではないか。
 幸いなことに、この辺は植樹されたばかりの人工林だから木々も疎らだ。
 少々危険だけど、冒険してみる価値はあるだろう。

「よし、シズカ。ちょっと揺れるけど、行くぞっ」
 僕は意を決すると、アクセルを目一杯踏み込んでガードレールを乗り越えた。
 途端に機首がガクリと落ち、ビアンカが急降下を開始した。
 いきなり大木が目の前に迫ってくる。
 僕は左のバーニアを吹かし、ギリギリのところで大木を避けた。
 安心する間もなく、ケツが浮き上がって機首が地面に突っ込みそうになる。
 シズカのお陰で姿勢制御機能が働き、自動的に尾部のダウンフォースが有効になった。
 機首が上がり、機体が地面と平行を保つ。
 実際には45度以下の斜面なのだけど、感覚的にはほとんど垂直落下も同然だ。
 何度も死ぬような目にあいながら降下を続けると、ようやく山麓に到着した。

 大きく蛇行した道路を直線で貫くワープ走行が功を奏し、かなりの時間を稼げた。
 コースアウトはしたが、前後2つのチェックポイントはきっちり通過しているから、規定上は反則とはならない。
 これをルールの不備だと、主催者を指弾するのは酷であろう。
 今のようなキ印じみたコース取りは、まともなレース関係者の想定外なのだから。
 僕をズルイと責めるのなら、他の選手も同じことをすればいい。
 たとえもう一度やれと言われても、僕は遠慮させてもらうけど。

257:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:15:46 rbUjHWMh
 なんにせよ、麓に辿り着いた時、僕は2位に浮上していた。
 チェックポイントで得た情報では、先に通過していった車はUMワークス1台のみだ。
 僕は一か八かの賭けに勝利したのだった。
 ここからはパワーさえあればどうにでもなる、対面4車線の沿岸周回コースだ。
 幸い復調なったシズカのお陰で、ビアンカのパワーは最大限に引き出せる。
「400……450……500……」
 アッと言う間に愛機RX9の最高速度である時速470キロを超える。
 レシプロ戦闘機並みの速度を地表スレスレで出すのだから、体感速度ときたら恐ろしいほどだ。
 上空にいる報道ヘリも、今のビアンカにはついてこれない。
「……550……600……」
 遂に僕も経験したことのない別次元の速さに突入した。
 それでもスタビライザーの働きで揺れは少なく、機動は驚くほど安定している。
 流体力学の粋を集めた機体設計なのだ。
 あのニーノ・ダイナって女子大生は天才に違いない。

 緩やかなカーブの海岸線をフルスロットルで駆け抜けると、長いストレートの先にUMワークスのプースカが見えてきた。
 完全自動のロボカーだが、パワーはビアンカの方が強いようだ。
 これなら直ぐに追いつける。
 最初からシズカが本気を出していてくれたら、僕もこんなに疲れることはなかったろうに。
 そう考えるとなんか釈然としない。
 褒めるべきか怒るべきか、複雑な思いに駆られていると、シズカがポツリと呟いた。
「確か……この先に……トンネルがある……長さは5.2キロ」
 なるほど、ビッグ・ベンが現れるならそこだ。
 上空のヘリから死角になる場所といえば、トンネルの中だけだから。
 警戒されずに待ち伏せするには、またとない絶好のポイントなのだ。
「よし、トンネルに入るまでにUMロボカーの前に出る。そしてベンと対決するんだ」
「分かってる……大事な…大事な……アタックチャンス……」

 トンネルまで5キロの地点で、僕たちは遂にロボットプースカに並んだ。
 一気に前に出ると、ロボプーがサッとスリップストリームに入ってきた。
 機械のくせに生意気な─と言うより、妙に人間じみていて不気味である。
 だが、これこそ僕が待っていた通りの動きだったのだ。
 ロボプーが真後ろに取り付くと、僕はフラップを開いてエアブレーキを利かせた。
 速度が落ちると同時に、ロボプーが右から追い抜きに掛かる。
 そうはさせじと、ビアンカを右へ流してブロックする。
 ロボプーはリトラクタブルライトを起こして激しくパッシングしてくる。
 この辺の品のなさは、AIデザイナーの性格によるものなのか。
 はたまた学習によって身に付けた後天的なものなのか。

 しばらくそのまま走り続けていると、急にロボプーが大人しくなった。
 それどころかスピードを落として後方へと遠ざかっていく。
 何か企んでいるのかと思ったが、シズカがその理由を話してくれた。
「シズカが……教えてあげた……アンタ死にたいの……って……」
 ロボプーが先にトンネルに入れば、待っているビッグ・ベンによって確実に破壊される。
 いきなりそんなことを言われたら、たとえ人工知能でもビビって当然だ。
 続いてシズカは、トンネルの入り口で待っているようロボプーに命令する。
 これでロボプーを巻き添えにしなくて済みそうだ。
「無線LANの……暗号解読に手間取った……もう大丈夫……」
 さすが、スーパーアンドロイドの看板は伊達じゃない。

 僕たちがトンネルに突入すると、いきなり正面から強烈なヘッドライトを浴びせられた。
 その先に見慣れた流線型のシルエットが浮かび上がる。
 もちろん、彼こそ僕が探していたビッグ・ベンだ。
 思った通り、ベンはここでUM製のエアカーが来るのを待ち構えていたのだ。
 僕はベンの姿を認めると、ブレーキターンでビアンカを横滑りさせた。
 そのままベンの頭をTの字に押さえ込むように停止する。
 自分と寸分違わぬボディの出現に、ベンは戸惑ったようにフリーズしていた。

258:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:16:32 rbUjHWMh
「やあベン、迎えにきたよ。一緒にニーノさんのところへ帰ろう」
 僕はビアンカのコクピットから降り、ベンに話し掛けた。
 すかさずシズカがベンの通訳を買って出る。
「UM車は全部破壊する……邪魔するな……と怒ってる……こいつ生意気……」
 やはり、彼はUM車を1000台破壊するつもりでいるのだ。
「あのね。UMのエアカーを幾ら壊したって、ベットー教授は……死んだ人間は戻ってこないんだ」
 シズカが通訳すると、ベンのヘッドライトの光量が上がった。
 まるで興奮した人間の血圧が上がるみたいに、急に発電量が増加したようだ。

 まさかとは思うが、シズカが誤解を生むような通訳をしたんじゃないだろうな。
「していない……従わないと……ブッ飛ばすと言っただけ……」
 勝手に余計な脚色を付け加えないでくれ。
 ハナから喧嘩腰では話し合いにもならないだろ。
 考えてみれば、シズカは前にベンを取り逃がしている。
 きっと再戦のチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。
「もう遅い……どのみち話し合いは……不毛……」

 シズカが呟きおわる前に、ベンに搭載された1000サイクロン級エンジンの排気音が轟いた。
「ベンッ、落ち着けって」
 僕は両手を上げてベンをなだめにかかる。
「熱くなってるAIに……何を言っても……無駄……」
「君が熱くさせたんだろ。つか、君はなんでそんなにクールなんだ。とにかくベンを落ち着かせてくれ」
 巻き込まれたら大変だから、僕はビアンカに乗って安全圏まで後退することにした。
 こうなったら僕にはメイドロボ対マシン兵器の決戦を見守ることしかできない。

 戦いはベンのぶちかましから始まった。
 ベンは無人機ならではの加速をもって、真っ正面からシズカに体当たりを敢行してきた。
 ただ、助走が短く速度が乗り切らなかったため、シズカはベンのノーズを押さえ込むことに成功する。
 シズカはそのままベンの鼻先を抱え込み、左の拳をハンマーのように振り下ろした。
 ガンと音がして、レールガンすら弾く超合金のボディがへこむ。
 パンチは弾よりも遅いから衝撃がじわりと浸透し、避弾経始が有効に機能しないのだ。
 更にもう一発、強烈なハンマーパンチが叩き込まれる。
 これにはベンも驚いたのか、バーニアを逆噴射してシズカの腕から逃れた。

「腋に毛がないから……滑った……毛の必要性について……クローに再考を求める……」
 シズカは僕に冷たい目を向ける。
 えぇっ、僕のせいなのか?
 生えていようがいまいが、どのみちそこの毛は処理するものなんだけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
 一旦後退して距離を取ったベンが、充分な加速を付けて再度突っ込んできたのだ。
 今度はシズカも押さえ切れず、重量1.5トンもある金属の塊に吹っ飛ばされた。
 1.5トンといえば、大昔の戦艦に搭載されていた主砲弾に匹敵する重さだ。
 それが猛スピードで突っ込んでくるのだから、衝撃は以前喰らった鉄球の比ではない。
 これには軽量級のシズカはひとたまりもなかった。

 トンネルの壁に激突したシズカは、一時的に機能をシャットダウンさせた。
 それでも急速に再起動を果たし、よろよろと起き上がる。
 その頃にはベンも転回を済ませ、またも猛スピードで突っ込んできた。
 トンネル内といえ片側2車線もある広い空間だから、ベンは持ち前の高機動力を充分に活かせる。
 シズカはギリギリまでベンを引き付けると、サッと左へ身をかわした。
「上手い」
 と思ったのも束の間で、またもシズカの体は吹っ飛ばされた。

 何事かと注視すると、ベンのボディから腕が生えているではないか。
 シズカは油断したところにラリアートを喰らったのだ。
 こんな奥の手を隠していたとは、宇宙世紀のモビルアーマーも真っ青だ。
 少々まずいことになってきたな。
 このままではシズカはやられてしまう。
 しかし、シズカは僕が思っているよりずっとタフでクレバーだった。

259:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:17:17 rbUjHWMh
 ゆっくりと起き上がったシズカは、左手を前へと突き出した。
 その手首がポロリと外れたと思うや、鈍い輝きを放つ銃身が現れた。
「まさか……こんなところで……これを使うとは……思わなかった……」
 彼女の言う“これ”とは、僕も初見となる秘密兵器であった。
「プラズマキャノン砲の……使用許可を……」
「許可っ。許可するっ」
 僕は一も二もなくシズカの申請を受諾した。
 銃身の側面についた赤いLEDが次々と灯っていき、エネルギーが充填されていくのが分かる。
 やがてLEDがグリーンに切り替わり、発射態勢が整ったことを告げるアラームが鳴る。

「発射……」
 短くクールな射撃申告と同時に、シズカの左手から眩しいプラズマ火球が飛び出した。
 目を開けてられないような眩しい光の球だ。
 それが合計5発、トンネルの壁と天井に命中して大爆発を起こした。
 四方を囲まれた閉所だったから衝撃波は尋常ではなかった。
 ビアンカに乗っていなかったら、僕もただでは済まなかったろう。
 後でシズカに聞いたところによると、これでも僕のことを気に掛けて出力を絞っていたらしい。
 本当かどうか疑ったら、シズカはムキになって怒ってきた。
 だから余計に怪しい。

 それはともかく、激しい落盤はトンネル内に即席のシケインを作り上げ、ベンはその高機動力を活かせなくなった。
「あんな車……潰すのは簡単……けど……それでは……クローの面目も……潰れる……」
 シズカは得意がる風でもなく、あくまでクールに左手を元に戻した。
 これで俄然シズカの有利になったと思ったが、そう簡単に行かないのが現実の厳しいところだ。
 ベンは少しの間戸惑っていたが、直ぐに新たな戦術に切り替えてきた。

 2基のメインスラスターを支えているスウィングアームが尾部へと後退したと思ったら、ガクンと下方向へ90度転回した。
 続いてボディが上方向へ90度転回する。
 なんと、ベンはスラスターを脚代わりにして立ち上がったのだ。
 格納されていた両腕が飛び出ると、ベンは二足歩行型の戦闘ロボットへ変貌を遂げた。
「ト、トランスフォーム?」
 僕は驚くよりも、ニーノ嬢の稚気というか懐古趣味に呆れていた。
 20世紀末のアニメじゃあるまいし、変形ロボなんか今どき流行らないだろうに。
 多目的マシンは便利なように見えて、下手をすると全ての能力が中途半端になるおそれがあるんだぞ。
 でも、どこか燃えるものがあるのも確かである。

「ガォォォーォォッ」
 全長7メートル超のマシンロボは雄叫びを上げて走り出した。
 対するシズカはあくまで冷静であった。
 シリーズネームのウーシュとはラテン語で“恐れを知らぬ者”の名。
 たとえ敵がスーパーヘビーウェイトであろうとも、真っ正面から挑戦を受け止めるのだ。

 両手を広げて襲いかかってきたベンに対し、シズカは体を捻りながらジャンプしてローリングソバットを叩き込む。
 カウンターを喰らったベンが仰向けに倒れると、そこに情け容赦のないニードロップを仕掛ける。
 が、ベンは右手を振るってそれをはたき落とす。
 軽量級のシズカは簡単に吹き飛び、路面を転がった挙げ句、トンネルの壁にぶち当たってようやく止まる。
 立ち上がったベンはシズカに駆け寄ると、全体重を掛けたスタンピングを雨霰と降らせた。
 あんな強烈なものを連続で喰らうと、衝撃で主電源が飛んでしまう。

260:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:18:05 rbUjHWMh
「シズカッ、逃げろ」
 僕に言われるまでもなく、シズカは側溝に転がり込んでベンの蹴りを逃れていた。
 そしてバランサーが回復すると、キックの合間をぬってベンの股間から背面へと転がり抜けた。
 起き上がったシズカは脚部にフルパワーを掛け、ダッシュと共に体当たりを敢行する。
 体重の軽さを加速度で補うニュートンアタックだ。
 たまらず膝を屈したベンの脇腹に、シズカのハンマーパンチが炸裂する。
 しかしウェートの差は如何ともし難く、ベンが身を振るうとシズカはあっさり吹き飛ばされてしまった。

 今度転がったのは道路の中央付近だから逃げ場はない。
 まずいぞシズカ。
 ベンは仰向けになったシズカを容赦なく踏みつけた。
 シズカは腹の上で腕をクロスさせ、必死で集中防御を図る。
 この体勢ではウェイトの差がモロに出て、シズカは逃げ出すことができない。
 手に汗握って戦いを見守っていると、なんか焦げくさい臭いがしてきた。
 過負荷のせいでシズカの回線がショートしているのだ。

「シズカッ」
 僕がコクピットから飛び出すと、シズカはチラリとこちらを見たが、何も言わずにベンとの戦いに意識を戻した。
 なんてことだ。
 火器を使えば有利に戦えるのに、敢えて素手で戦い抜くつもりなのか。
 彼女は僕のニーノ嬢への体面を考えてくれているのだ。
 しかし、そんなことを言っている場合ではなくなってきた。
 ベンを壊してニーノ嬢に嫌われるのは辛いけど、シズカを失うわけにはいかない。
 シズカは僕にとって大切なパートナーなのだから。

「シズカッ……」
 僕が火器の使用を許可しようとした時だった。
 いきなり眩い光源が突入してきたと思ったら、トンネル中に爆音が轟いた。
 真っ赤なUMプースカがトンネル内に進入してきたのだ。
「な、なんですの、この騒ぎはっ?」
 コリーン・ティラーノのキンキン声が響いた。
 ようやく後続のグループが追いついてきたのだ。
 その集団の中にUMロボカーの姿は見えない。
 シズカの脅しが利いており、まだ大人しくトンネルの入り口で待機しているのであろう。

 停止しているロボプーを見てコリーン嬢がどう思ったのかは知らないが、トップに躍り出る機会を彼女が見逃すわけがない。
 今回はサポート役に徹するつもりだったのに、ロボカーを制して優勝できるチャンスが巡ってきたのだ。
 ところが、トンネルに入るや目にしたのはロボットプロレスだった。
 ましてリタイアしたと思っていた僕たちが、いつのまにか先行していたのだから驚かない方がどうかしている。

「ど、ど、どうしてあなた達が? そ、そうですわっ。反則を使ったに違いありませんわっ」
 反則魔はアンタの方だろ、お嬢さま。
 コーナーでビアンカをお弾き飛ばしあそばしたのは、ホンの数十分前のことだぞ。
 突発性の健忘症でも発症したというのなら、同情くらいはして差し上げるけど。
 だが、彼女の登場は僕たちにとって、まさに女神降臨とも言うべき天佑であったのだ。

 シズカを踏みにじっていたベンがピタリと止まった。
 その視線の先にはお嬢さまの愛機、真っ赤なUMプースカが─。
 ベンは果たすべき優先順位を判断した結果、シズカの腹から脚を外してプースカを振り返った。
 そしてドシドシと足音を立てて突進を始めた。

261:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:18:38 rbUjHWMh
「なんなんですのォッ? アレェェェ~ッ」
 コリーン嬢は愛機の前に立ちすくみ、あられもない悲鳴を上げた。
 憎ったらしいお嬢さまだが、警視庁職員としては見殺しにするわけにもいかない。
 僕は横っ飛びにコリーン嬢に飛び付くと、そのまま転がってプースカから離れた。
 直後にベンが突入し、哀れプースカはスクラップになった。
 漏れ出した燃料に火が付き、ボディが爆発を起こして吹き飛ぶ。
「ひっ」
 肩口にしがみついてるコリーン嬢の手に力がこもる。
 小刻みに震えているのがちょっとだけ可愛かった。

「クロー……何してるの……」
 シズカの冷たい声が僕たちを我に返らせた。
 僕はコリーン嬢に覆い被さり、その豊満なボディを抱きしめていたのだ。
「不埒者ぉっ」
 ピシャリという鋭い音と同時に、僕の左頬に焼け付くような傷みが走った。
 僕はコリーン嬢を救ったご褒美に、畏れ多くも強烈なビンタを拝領したのだった。
 コリーン嬢は真っ赤になって息を荒げていたが、その場から駆け出してトンネルの入り口へと走り去った。
 人前で恥をかくのに慣れていらっしゃらない人だから仕方ないのだろうな。

 などと感慨に浸っていると、それがとんでもない間違いだと気付かされた。
 なんとお嬢さまはトンネルの入り口で待機しているロボプーに乗り込むと、マニュアルモードで強制発進させたのだ。
「オォ~ホッホッホッ。あなた達はここで遊んでらっしゃい。優勝は私のものですわっ」
 コリーン嬢は高笑いを残して僕たちの傍らを駆け抜けていく。
 なかなかどうして、タフなお嬢さまではないか。
 笑うしかないが、笑っているわけにもいくまい。
 焦っているのはベンも同じだろう。
 一暴れしてようやく落ち着いたころだろうし、そろそろディスカッションに入るか。

「ベン、聞いてくれ。僕たちは邪魔じゃなく、君に協力するようニーノさんに頼まれて来たんだ」
 シズカを介して話し掛けると、ベンはデュアルアイのカメラを僕に向けてきた。
「賢い君のことだ、本当は知ってるんだろ? UM製の車を1000台潰したところで、教授が戻ってこないことくらい。
第一、君を作った教授の命って、UMのエアカー1000台分にしかならないほど安っぽいものなのかい? 違うだろ」
 いや、実のところベンはUMカー1000台と教授の命を等価で交換できると信じていたに違いない。
 幾ら優秀だといっても、彼には生命の概念は理解できないのだから。
 しかし僕の指摘を受けて試算したところ、教授の命の値段が3千万クレジットにしかならないことに気がついたのだ。
 その金額と教授の生涯賃金の差額を計算すれば、不可解な結果が出てきて当たり前だ。

 フリーズしたベンの横を、数台のUMマシンが駆け抜けていく。
 それに気付いたベンが唸りを上げて反応する。
「よせ、もういいっ。もういいんだ、ベン」
 僕が一喝すると、ベンは大人しくなった。
「1台3万クレジットのケチな車を壊してどうなるもんじゃない。それよりどうだ、僕と組めば連中にもっと深刻な
大打撃を与えることができる。一気に数万、いや数十万台のUMマシンをぶち壊すのと同じくらいの超大打撃をね」

 僕はベンに教えてあげた。
 UM社がこのレースを新開発のロボカーの宣伝に使っていること。
 そして優勝すればロボカーが量産に入り、月に数万台の販売体制が敷かれることを。
 勿論、親会社のティラーノグループが、この島にUMの生産工場を建設しようと数十億を先行投資していることも。

262:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:19:23 rbUjHWMh
「だからUMのロボカーに絶対優勝させちゃいけない。その上、連中を負かしたのが無名の僕たちとなればどうだろう。
大企業のUM社にしたら死ぬほど恥ずかしくって、とてもじゃないけどこの島に居座ることはできなくなるだろうな」
 となれば、UMが大損害を被ることは間違いない。
 その損害額はとてもじゃないがエアカー1000台程度では済まないのだ。
 それに、レースでベンの優越性を示すことで、亡き教授の無念を晴らしてあげることができる。
「了解した……ロボプーはレースで葬り去る……と言ってる……」
 シズカがつまらなそうに呟いた。


 そこからのベンの活躍は圧巻だった。
 調整済みの専用AIを搭載したロボカーは、シズカを直結しただけのビアンカの比ではなかった。
 燃料の混合比、噴射率、点火タイミングなど、全てが最良の状態に保たれたエンジンは、完全に別物だった。
 その上で、風向風速や慣性Gまでを計算に入れた最高のライン取りでコーナーを駆け抜け続けるのだ。

 僕たちが先行集団に追いつくまでに、さほどの時間を必要としなかった。
 それらをゴボウ抜きにすると、いよいよコリーン嬢の搭乗するロボプーとの一騎打ちだ。
 男の僕でさえきついGを感じているのだから、逃げるお嬢さまもかなりこたえているだろう。
 やはりティラーノグループ宗家の意地なのであろうか。
 つか、ロボプーは完全自動操縦下にあるのだから、たとえコリーン嬢が失神しても同じことなんだけど。
 それでもお嬢さまの頑張りは称賛に値するだろう。
 だが、名門の意地だけではどうにもならないことだってある。
 僕の乗るベンKCは、確実にロボプーを追い詰めていった。

 この時の僕は、ゴールまでにはどうにか逆転できるだろうと楽観視していた。
 それにシズカが異を唱えたのは、ゴールまであと僅かとなった時であった。
「残念……双方がこのペースを保てば……0.03秒から0.09秒の差で……負ける……」
 シズカの計算した結果は冷徹なものだった。
 なんてこった。
 グングン追い上げているのに、ギリギリのところで間に合わないのか。
 もう少し距離があったら届くのに。

「撃っても……いい……?」
 最初シズカが何を言っているのか正確に理解できなかった。
「ロボプーの……ミラースポイラーを……吹き飛ばせば……ゴール寸前で逆転できる……許可を……」
 なんと、シズカは狙撃による走行妨害を申し出てたのだ。
 なるほど、整流効果を乱して速度を失わせれば勝てるだろうし、シズカにはそれが可能だ。
 だが、それは紛れもない規則違反であり、僕はシズカにそれを命じるわけにはいかない上司なのだ。
 第一、目の前であからさまなインチキを行うのだから、それで勝ったとしてもベンは喜ぶまい。
 そんなことよりも、シズカが悔しそうな顔をしていることに僕は驚いていた。
 機械の彼女が悔しいという感情を、しかもそれを他人のために露わにしているのだ。
 少し前までなら考えられないような成長ぶりである。

 バックミラーに映るシズカの膨れっ面を、複雑な思いを込めて見詰めていた時であった。
 シズカが急に眉をひそめて右方向へ首を振った。
「銃声……」
 呟き声がしたと思ったら、前方を走っているロボプーが急にふらつき始めた。
 AIが車酔いでも起こしたのかと思いきや、よく見ればスポイラーを兼ねた右のサイドミラーが吹き飛んでいる。
「狙撃された?」
「シズカじゃ……ない……」
 無論、分かってる。
 シズカは右手のスタンドを睨み付けているが、シューターの姿は視認できないらしいく黙ったままであった。
 それでも狙撃があったのは事実なのだ。
 時速600キロで突っ走っているエアカーのドアミラーを、それも偏差の激しい横方向から狙って。
 信じられないことだが、目の前で起こった出来事である。
 そしてロボプーが急激に速度を落としたのも、紛れもない事実であった。

263:雲流れる果てに…8 ◆lK4rtSVAfk
11/01/24 18:19:54 rbUjHWMh
 神聖な勝負に第三者の介在があったとすれば不本意だが、僕が直接手を下したことではない。
 従って何も遠慮することはないのだ。
「今だっ、ベン。ぶち抜けぇぇぇっ」
 僕の叫びに応えるように、ベンの1000サイクロンエンジンがひときわ高く咆吼した。

 その結果─僕たちがゴールラインを通過した時、UMロボプーには5メートルの差をつけていた。



 火を噴くようなデッドヒートを制した僕は、表彰台の一番高いところにいた。
 もちろんシズカも一緒だ。
 スタンドを埋め尽くした観衆は、割れんばかりの歓声を上げて大興奮している。
 おおよその予想を覆し、全くの無名のダイナモータースが優勝したのだから当然だ。
 オッズは知らないが、当たり車券はもの凄い配当になっていることだろう。
 それと反比例して、UMの新型ロボカーの価値は大暴落しているに違いない。
 なにせ町工場の作った手製のエアカーに敗北したのだから。

 興奮していると言えば、僕の隣にも飛び切りエキサイトしている女性がいた。
 2位でゴールしたコリーン嬢である。
「悔しいですわっ。私、これまで一度だって男の人に後れを取ったことなどありませんのにっ」
 コリーン嬢はキンキンわめいていたが、それでも落ち着きを取り戻すと僕に礼を述べてきた。
「でも、助けてくれてありがと……」
 何のことかと思ったら、トンネルの中での一件だ。
 僕が突き飛ばしていなかったら、彼女はベンの体当たりを受けて即死していただろう。
 口調は不本意感ありありだし、声量もほとんど呟き同然だったが、コリーン嬢はレディとしての作法をきちんと守ったのだ。

「やあ、優勝おめでとう。それに、娘を悪のロボットから守ってくれたんだって? 父親として礼を言わせてもらうよ」
 気がつくと、目の前に優勝カップを抱えたキーヨ・ティラーノ氏が立っていた。
 その隣には白河法子都知事が満面の笑みを浮かべて並んでいる。
 今までどこで何をしていたのやら、射撃の名人、ナースのジョオ・ウィッチが知事の傍らに佇んでいた。
「ハンサム君ならきっとやってくれると信じてたわ。ゴメンね、キーヨ。なんか恥かかせちゃったみたいで」
 法子都知事はキーヨ氏からカップを受け取ると、それを僕に突き付けてきた。

「いやいや、勝負の世界は実力本位です。素直に彼の才能を讃えるべきでしょうな」
 キーヨ氏はあくまで笑顔を崩さずに僕を褒めちぎった。
 この辺りがやはり大物たる所以である。
 彼はこの島に注ぎ込んだ、何十億クレジットという先行投資をふいにしたというのに。
「しかし、このレースが障害物競走だとお聞かせいただいておれば、事前にそれなりの対策をとっておりましたものを」
 キーヨ氏の口調が少しだけ嫌味っぽくなった。
 ベンがUMのエアカーを狙っており、レース中に襲ってくる可能性があったとは、さしものキーヨ氏も知らなかったろう。


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