【純愛】結界師のエロパロ伍【陵辱】at EROPARO
【純愛】結界師のエロパロ伍【陵辱】 - 暇つぶし2ch300:名無しさん@ピンキー
11/08/16 02:11:10.35 rUDtkGb2
俺、もし最終巻にあまり加筆修正が無かったら
このスレに投下するんだ―。


ドロドロしたお花畑という超誰得話なんだけどさ。

301:名無しさん@ピンキー
11/08/18 15:29:21.60 JzSFek23
以前いろいろ投下してた者ですが、単行本派だったので今までネタバレを避けて見ておらず、
今日久々に来ました。
また何か書きまーす。

302:名無しさん@ピンキー
11/08/18 17:01:35.89 ai4VBC19
>>301
じゃあ修史さんと時音ママとの
禁断の関係でw


というのは冗談ですが、期待してます!

303:名無しさん@ピンキー
11/08/19 22:04:51.84 N0dwFJVc
>>297
遅ればせながら超GJ!!
積極的なカケルと真面目な壱号もえますわー

304:名無しさん@ピンキー
11/08/20 12:59:28.96 S51/eq2f
時音かカケルか水月か夜未か、それが問題だ。

305:名無しさん@ピンキー
11/08/20 15:50:09.38 uJ/xIh7j
とりあえずまほら様×時音で書き始めました。

306:名無しさん@ピンキー
11/08/20 16:07:36.56 9TlgJC6S
最終巻買ったけど本筋に絡まない程度に修正がちょこっと入っただけなのね。
自分>>300ですけど近いうち投下しようと思います。
ただ、凄く凄く長いし内容がある意味ntrだしifストーリーだしで、
需要あるといいんですけど…。

>>305
楽しみにしてます!

307:名無しさん@ピンキー
11/08/20 20:35:34.17 N6Z9m29/
水月が月久に陵辱される話を誰かー

308:名無しさん@ピンキー
11/08/21 00:03:39.33 rezc6I7Y
最終巻の修正、読み直してみると本筋には直接絡まんけど
時音と良守の印象が本誌と比べて90°~135°違うんだよね…。
投下予定のやつ、最終巻の修正に合わせるように直した方がいいのか悩んできたぞ。orz

>>307
夫婦だったし一応和姦だよね。
身体換えるたびに水月と色々やってた可能性もあるし
総帥と兄弟でないことを忘れてたなら水月のこと本当に自分の妻だと
思い込んでたかもしれんのよね、月久って。
エロパロ的には美味しい人だよね。

309:名無しさん@ピンキー
11/08/21 02:14:39.33 nkKIbGK0
守美子さんって・・・マグロ??

310:名無しさん@ピンキー
11/08/21 11:00:39.75 m2UvE8qE
>>308
なるほど月久×水月にはいろんな可能性があるな……

ところで加筆部分てどこなんだろ。

311:308
11/08/21 11:18:27.48 PvLeB25p
>>310
加筆じゃなくて修正ね。
本誌掲載時の良守はストレス溜めるに溜めておかしくなった印象があったんだが
自分はそれをもとに投下予定のやつ書いたんだ。
このスレ、本誌で読んだ人どのぐらいいるのかな?
(修正内容の詳細は懐かし漫画板の本スレ書き込みから転載↓)


39 :愛蔵版名無しさん:2011/08/20(土) 15:21:42.10 ID:???
今最終巻読んでるんだが今回も修正あるね
大きく印象変わってるのは344話の9ページ目の2・3・4コマ目セリフと表情
・2コマ目 「あんた、すぐ高等部じゃないっ!」→「泣きたくなったらいいなよ。」時音の口元変更
・3コマ目 「また、烏森に通う事になるよ。」→「あたしは…お父さんの時我慢しちゃったから――」時音の口元変更&目元にトーンで影
・4コマ目 良守「ああ。」→「あれは、良くなかったと思う。」良守の目線変更&顔全体にトーン
になってて、時音が時夫が死んだ時に泣くのを我慢してた描写が入ってた

建築家云々のセリフも少し変わってたが、そこ変更するなら良守の守美子に対する気持ちなんかを加筆するべきだったと思った

312:名無しさん@ピンキー
11/08/21 22:19:11.60 yFtO4U2H
>>311
なるほど……微妙な変更なんだな。
どうもです。

313:名無しさん@ピンキー
11/08/22 09:37:35.31 4Rvh8DYc
特典のイラスト集に載ってるプロゴルファーの時音がかわいい。

314:名無しさん@ピンキー
11/08/22 21:56:28.48 aIo11rd/
あれかわいいよね!
抱きしめたい♪

315:名無しさん@ピンキー
11/08/22 23:24:43.89 cEOMcswV
プロゴルファー時音のエロもいいな・・・

316:名無しさん@ピンキー
11/08/22 23:31:04.33 aIo11rd/
時音の喘ぎ声って、一生懸命堪えるような声しそうで興奮する

317:名無しさん@ピンキー
11/08/23 01:03:00.92 /aBLH4kQ
最終巻発売したらまた賑わい出してて驚いた。
でもこのスレにいる人って本誌読んだ人コミックスだけ読んだ人
どのくらいいるんだろう?
修正箇所に困惑してる人自分以外におらんのかな?orz

318:名無しさん@ピンキー
11/08/23 10:37:12.06 eE+MTlRb
もう当時のサンデーが無いので
>>311の改変がどのぐらい大きな意味合いを持つのかわからない俺ガイル

よくわからんけど、雑誌だと最後まであっさり気味で
あのラストの雰囲気が正直気持ち悪かった(個人的に)二人の関係が
修正である程度「分かり合ってる」形が示されて、多少は印象和らいでる程度にはなっているかも、でおk?

319:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:26:12.85 yga+ELw6
まほら×時音投下しますー
まあ、普通に触手ものですがね……

320:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:26:56.12 yga+ELw6
(ここは……?)
時音が目を覚ますと、そこは薄暗い中に白くぼんやりとした光が灯る空間だった。
横たわる時音の下には、深い森の中のように縦横に木の根が走り、ところどころで盛り上がっている。
「動くな、まだ再生が済んでいない」
突然かけられた声をきっかけに違和感に気づいた時音は、自分の両足の先が無いのに気づいた。
(えっ……!)
時音の全身を恐怖が駆け抜ける。
しかし痛みは無く、よく見ると足はゆっくりと形を取り戻して行くように見えた。
(そういえばわたし、空身が解けて、何かドロドロに溶かされたような……)
徐々に意識が明瞭になり、時音は自分が服を着ていないことに気づいた。
「やっ……!」
時音は横たわったまま、咄嗟に胸を隠した。
「服までは再生してないぞ。面倒だからな」
時音はようやく声の主を見た。
白く輝く茸のようのシルエットの中に、髪の長い少女のような顔があった。
その声は、男のようにも女のようにも聞こえる。
(これが、まほら様……?)
「特別だ、存外、お前に邪心のないことがわかったからな……」
それは無造作に時音に語りかけた。
「えっ……じゃあ土地を譲って……?」
少女の顔が、にやりと笑った。
「これから色々と面倒事が起こりそうだが……その前に、お前にはちょっと俺の嗜好に付き合ってもらおうか」
その言葉を聞いて、時音は緊張した。住み家を譲るのと引き換えだ。一体何を要求されるかわからなかった。

321:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:27:55.10 yga+ELw6
「お前の記憶はもう見せてもらった。なかなか面白いが……お前、まだ性の悦びを知らんな」
「えっ……」
「俺は、お前のような霊力の強い人間が味わう官能に目がなくてな。しかも初物となればまた格別だ。眠りを醒まされた以上、そのくらいの楽しみは味わわせてもらいたい」
時音は呆然と聞いていたが、どうにかそれの言っている意味を理解した。
時音の鼓動が早鐘を打つ。
時音は、深くゆっくりと呼吸すると、いつの間にか再生の済んだ両足を揃え、少女の顔をした神に対して向き直った。
片腕で胸を隠し、裸のまま正座した時音が目を上げる。
「わたくしめの……身体を捧げろとおっしゃるのですね」
毅然とした態度を取るつもりだったが、声が震えるのを抑えられない。
だが、この使命は果たさなければならないのだ。
「悪いようにはしないさ。人同士では叶わぬほどの愉しみを得られることは約束しよう」
それは少女の顔に尊大な笑みを浮かべながら、時音に語りかけた。
「どうだ、人間よ……俺の申し出を受けるか?」
時音は震える瞳を必死に開いて少女の顔をを見返しながら、声を絞り出すように応えた。
「はい………この場所を譲っていただけるなら構いません。わたくしの身ひとつであれば……どうぞ、お好きなように……」
恐怖を抑えつけながら、時音は一礼した。
「見上げた覚悟だ。気に入ったぞ」
それが嬉しそうに笑う。
「存分に楽しむがいいさ。そして俺はお前の官能を楽しもう……なあ、まほら!」

322:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:28:38.70 yga+ELw6
それの呼びかけと同時に、突然、時音の足元が盛り上がった。
「きゃっ……!」
不意を打たれて、時音は小さく悲鳴を上げる。
次の瞬間、今まで立っていた場所から、夥しい数の太い木の根が地上に飛び出した。
根は無数に枝分かれしながらあっという間に時音を取り囲み、手足に巻き付いて絡め取った。
「あっ……!」
木の根は時音の両腕を身体から引き剥がし、両足をも固定して、その白い裸身を磔にした。
時音の、一糸まとわぬ美しい身体が、無防備にさらけ出された。
なまめかしい白い肌に包まれた肢体が優美な曲線を描き、あられもない姿で戒められていた。
「いや………!」
あまりの恥ずかしさに、時音は耐えきれず叫びを上げた。
時音の手足はしっかりと拘束され、もはや身を隠すこともできない。
一度は覚悟を決めたとはいえ、人知を超えた存在に身体を捧げる恐怖に、時音はすくみあがった。
「怖がることはない。まほらはけっこう優しいからな」
時音を取り囲む根の表面のあちこちが膨らんだかと思うと、樹皮を突き破ってたくさんの緑の芽が生え出した。
芽は瞬く間に長く伸び、葉を生やし、太い蔓となって時音の白い肌に群がった。
「ふあっ……!?」
時音は、全身の肌という肌に、しっとりと濡れた蔓が巻き付き、ざわざわと蠢き始めるのを感じた。

323:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:29:20.69 yga+ELw6
(なに、これ……)
この根や蔓は、自分が降りてきたあの大木の一部なのだろうか?
時音は混乱しながら、必死に状況を把握しようとした。
この植物の姿をしたものがまほら様なのか?
落ち着いて考えようとする時音の心を、蠢く蔓の妖しい感触が乱した。
「あっ………」
時音のすらりと伸びた腕や脚に、真っ白い背中に、丸い腰に、異形の蔓が群がり、ざわざわ、さわさわとそのなめらかな肌を撫で回していた。
(やだ、なんか、変………)
首筋を這い登った蔓が耳をくすぐった。
柔らかな胸に巻き付いた蔓が、桃色の乳首をその先端で転がした。
「あっ………やぁっ………」
体中に与えられる繊細な感覚に、時音は思わず喘ぎを洩らした。
無数の蔓は、まるで意思を持つかのように時音の美しい肢体をまさぐり、その先端や生やした葉で敏感な場所を愛撫した。
「はぁっ………んぁっ…………」
時音は目を閉じ、眉を悩ましげに寄せて、突如として襲ってきた予想外の感覚に耐えていた。
(うそ………こんなの………)
決死の覚悟に張り詰めた心を、めくるめく感覚が激しく揺さぶった。
異界の植物によるあまりに巧妙な愛撫は、確実に時音を昂らせていった。
「いい顔だな、人間」
少女の顔をした神が近付いて来て言った。
「だがまだ固いな………もっと心を開いて受け入れろ。そうすればもっと気持ちよくなるし、俺ももっと豊かなものを味わえる」
少女の唇が、喘ぎ続ける時音の唇に重ねられた。
甘い唾液にくるまれた舌が時音の啌内に分け入り、舌や歯茎を愛撫した。

324:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:30:19.19 yga+ELw6
緑の蔓は、ゆっくりと、確実に、美しい獲物の弱点をとらえ、その感じやすい場所を優しく開いて行った。
「……あんっ………んうっ…………」
時音の喘ぎには徐々に熱がこもり、全身がしっとりと汗ばんで紅潮していた。
縛られた身体が、蔓の動きに反応して、時折ぴくりと震える。
時音は、自分の脚の間から流れ出たものが、太腿の内側をはしたなく滴り落ちるのを感じた。
(やだ……あたし、濡れてる………)
その匂いを嗅ぎ付けたかのように、何本かの蔓が時音の脚の間にその先端を伸ばすと、柔らかくほどけた割れ目をゆるやかにまさぐった。
「あっ!!………うぁあっ!!」
弾かれたかのように、時音の身体が跳ね上がった。
蔓の先端たちは、透明な液でなめらかに濡れた襞の中を、ゆっくりと探るように蠢いた。
「やっ……だめ……っ………ふあぁっ!!」
最も敏感で柔らかな部分への愛撫に、時音は翻弄された。
蔓が時音の中で動く度に、切ない疼きが身体の中心から湧き起こり、捕らわれた裸身がびくびくと震えた。
「あっ……あぁっ………」
時音は、予想だにしなかった大きな快感に打ちのめされていた。
(こんなの……信じられない………)
時音は動けない身を捩り、涙を流して人外の快楽に耐えた。
少女の顔をした神は、木の根と蔓に絡め取られた時音を満足そうに眺めている。
「ふん、思った通り、お前はなかなか見所があるな……わかるか? お前の体が、神の息吹を受け止めて、わなないているのが……」

325:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:31:02.85 yga+ELw6
先端に大きな蕾を付けた蔓が、時音の周りを取り囲んだ。
喘ぎ続ける時音がそれに気づくと同時に、いくつもの蕾が、ゆっくりと、ほどけるように花開いた。
(ああ…………)
濃密な甘い香りが、快楽に朦朧とする時音の鼻孔を包み込んだ。
なまめかしく濡れた紅い花々が、捧げられた生贄を飾るように咲き乱れた。
(……きれい………)
蠢く蔓の愛撫に身をくねらせながら、時音は花の香りに酔った。
神の木の根から生え出た花々は、開いた花弁を蔓に捕らわれた裸身に向けて傾けると、その中心にある雄蕊から蜜を溢れさせ、時音の肌へと滴らせた。
「あ――」
甘い匂いの源である、透明な蜜が、時音の白い肌にとろとろと流れ落ちる。
時音は、むせかえるような甘い匂いを放つ、ぬめる蜜が体中に滴るのを感じた。
狡猾な蔓たちは蜜を掬い取り、時音の肌という肌を、ぬるぬるといたぶった。
「うあっ!………あぁ………んっ」
身体中に甘く香る蜜を塗りたくられ、その淫らな感触に時音はおののいた。
(やだ………)
異形の植物に体中を弄ばれ、さらにはぬめる液体にまみれていやらしく愛撫されて、時音は背徳的な快感に打ちのめされた。
(あたし……こんなことされて……感じてる………)
とめどなく滴る蜜は時音の脚の間へと流れ落ちて行き、時音自身から流れ出す粘液と混ざり合って、蔓たちのまさぐる柔らかな襞を濡らした。
「あぁっ………はぁっ……」
いまや時音は自分の体全体が甘い蜜に覆われ、這い回る蔓によってそれが肌に塗り込められているのを感じていた。
時音の身体の中心にある最も敏感な部分では、蜜と体液がとめどなく溢れ、溶けてしまいそうに柔らかくなって何本もの先端を迎え入れていた。

326:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:31:43.86 yga+ELw6
「どうだ、人間よ……気持ちいいか?」
異様な快感によって我を失わんばかりの時音は、恍惚に目を閉じたままその声に答えた。
「はい………はぁっ………気持ちいい……です………」
濡れた感触にいたぶられながら、時音は自分の言葉に驚いていた。
(あたし……こんな恥ずかしいこと……)
「もっと、欲しいか?」
少女の顔をした神が、大きな目と口を持った異形の姿に変わっている。
「あっ………もっと………くだ、さい………」
時音の真っ白い裸身はいまや滴る蜜に濡れ、なまめかしく光を映しながら蠢く緑の蔓に弄ばれていた。
丸みを帯びた乳房に、よく締まった腹に、肉感的な太腿に妖しい植物が群がり、淫靡な動きで獲物を味わっていた。
時音はかつて味わったことのない悦楽と同時に、神の意思が身体に流れ込んで来るのを感じた。
(まほら様………)
体中を駆け抜ける切ない震えの中で、時音は土地神の存在をすぐ近くに感じていた。
蜜を滴らせる花が、時音の脚の間に近付き、その紅い花弁をそっと濡れた割れ目に寄せた。
「あっ………?」
そして花の中心にある蜜にくるまれた雄蕊が、ゆっくりと時音の身体の奥へと入って行った。
「あ――あああっ!!」
時音は背筋を反らし、全身を強ばらせて叫んだ。
雄蕊は時音の身体の中心へと至ると、たくさんの蜜をそこへ流し込んだ。
「あ――あっ……っ………!!!」
とめどない痙攣が身体の奥からほとばしり、時音の四肢を断続的に震わせた。
信じがたい絶頂の快楽の中で、時音は自分がひとつの濡れた花になって、この神木の雄蕊からの精を受け入れているように感じた。

327:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:32:22.45 yga+ELw6
「まほら………様………」
時音ははしたない悦びに震えながら、その名前を口にした。
「言っておくが、俺はまほらじゃないぞ。俺は眺める者。まほらの寵愛を受けるお前は美しいな」
時音の中に蜜を注ぎ込んだ花が、溢れた蜜をこぼしながらゆっくりとその雄蕊を時音から引き抜くと、また別の花が、濡れた雄蕊をそこに滑り込ませた。
「あっ……いや………っ」
背中から降りてきたもうひとつの花は、蜜にまみれた後ろの穴にそっと雄蕊を挿し込んだ。
「ん………ぁうっ…………!」
おぞましい快感が、時音の尻から身体を貫く。
絶頂の余韻も冷めやらぬうちに、時音は再び自分の身体が熱く満たされるのを感じた。
「安心しろ、この中では時間はそんなに流れない。お前にはまだまだゆっくり、まほらの精を味わってもらうぞ」
「………はい………」
その言葉に時音は安心し、そして、さらに快楽の波に身を任せていった。
(気持ちいい………)
木の根と蔓、雄蕊と蜜に捕らえられて、時音は終わりのない愉悦に沈み込んで行った。

<終>

328:名無しさん@ピンキー
11/08/23 20:32:56.95 yga+ELw6
以上です。
長文失礼いたしました~

329:名無しさん@ピンキー
11/08/24 16:09:33.54 oOlpIHtS
ハァハァGJ!

神×時音イイ・・・!

330:名無しさん@ピンキー
11/08/27 11:41:02.65 OdlK8HLB
GJ!!!
しばらく離れてたら神が降臨してたw

331:名無しさん@ピンキー
11/08/28 01:47:57.40 TSpIPkH6
良守と時音の初夜は初々しそうw

332:名無しさん@ピンキー
11/08/28 02:27:25.96 pqdLTtUj
良守以外の時音カプで投下しようとしてた漏れはどうすればw

333:名無しさん@ピンキー
11/08/28 17:42:34.22 zc7pNpQq
>>332
迷わず投下したまへ

334:名無しさん@ピンキー
11/08/28 17:45:05.54 TSpIPkH6
かまわん続けろ

335:名無しさん@ピンキー
11/08/28 22:13:07.74 HvpeiUbh
>>332
お待ちしております♪

336:332
11/08/29 00:44:55.14 CMW0Yu7q
それではお言葉に甘えて。
閃×時音←良守の三角関係?物です。
とても長くて数回に分けて投下する予定で、初回はエロ全く無いです。

前書き(という名の保険)↓
・最終回以後のif話なので、苦手な方はスルー推奨
・カプとしての良時全否定するので、良時好きな方もスルー推奨
・ドロドロしたお花畑といった感じの内容なので、苦手な方は(ry

こんな感じですが、それでも興味を持ちましたら読んでみて下さい。

337:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 00:47:42.04 CMW0Yu7q
「何、で…」
閃は息を呑んだ。
目の前の少女に釘付けとなったまま、視線はそこから離れない。
目の前の少女もまた、閃がこの場所に居ることに戸惑いを隠さず、
睨み付けるように彼を見つめている。
―その目に、大粒の涙を溜めながら。

「…どうしてあんたがここにいるの?」
「あ、いや…」
何か返そうとするも、上手く言葉がまとまらない。
本日2度目の異常事態に、閃の思考回路はショート寸前。
対して目の前の少女はそんな閃の動向を黙って見守っている。

雪村時音。
それが、少女の名前であった。

   * * *

事の始まりは数時間前。
閃は久々に墨村の家を訪れた。
裏会の騒動も何とか収拾し、諜報班としてこれといった仕事があるわけでもない彼は
その他の雑用は全て秀に押し付けてこの地までやって来た。
久々といってもごく僅かな期間ではあるが、積もる話がないわけでもない。
墨村家の呼び鈴を押し、反応を待つ。
一陣の冷たい風が閃の身体を吹き付け通り過ぎていった。

「影宮ー!」
程なく、閃のよく知る声が扉の向こうから聴こえてきた。
直後にガラガラと音を立てて玄関の扉が開く。
「影宮!」
元気のいい声と共に良守が扉の向こうから現れた。
「よー、良守。
 久しぶり……ん?」
玄関に現れた人物に閃は訝しげな表情を浮かべる。
そこに立っていたのは良守だけではなかった。
友人の隣にいたその人は、本来ならこの家にはいない人物である。
長い黒髪が彼女の動きに合わせて美しい曲線を描いた。
「雪村?」
閃は彼女の名を呼んだ。


338:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 00:50:02.76 CMW0Yu7q
雪村時音。
墨村の隣家の人間である彼女は、良守の幼馴染でもある。
「久しぶり。
 …何よ、変な顔して。」
時音は閃の態度など気にもせず、彼がよく知るクールな表情を浮かべ、そこに立っていた。
「今、時音とケーキ焼いてたんだ。
 お前も食うだろ?」
「お、おう…。」
良守に促され閃は墨村の家に足を踏み入れる。
だが、見慣れない光景に動揺を隠せない。
閃の見ていないところで、この2人は重大な局面を迎えた。
それがふたつの家を変えたのだと、少年は悟った。


「しっかし意外だな。
 お前、ケーキ作れるようになったの?」
「ううん、あたしはまだ良守を手伝ってるだけ。
 …あたしがケーキ焼くのって、そんなに変?」
「お前が勉強と修練以外のことしてんの見たことねーし。」
「まあ、前はそうだったけど…
 色々あったからね。」
そう言って目の前の少女は笑った。
含みのあるものに見えたそれは、だが確かに以前の彼女のそれとは違うように感じられた。
「(こいつって、こんな風に笑うんだな。)」
閃は目の前の少女の以前の姿を思い浮かべる。
記憶の中の彼女はもっと常に気を張り詰め、むっつりとした表情が多かったように思う。
もっとも、それは単純に閃が彼女にそのような顔をさせてばかりだったのかもしれないとも思った。
「(俺、こいつのこと怒らせてばっかだったしな…。)」

「ケーキ焼けたぞー!」
閃が色々と思索に更けていると、勢いのある声を張り上げ良守が食卓へと現れた。
その両手には焼きたてのチーズケーキ1ホール。
そんな彼の傍らには弟の利守が笑顔を浮かべて立っている。
「閃ちゃん、久しぶり!」
「おう。」
名前の通り利発な少年の口から元気な声が飛び出した。
「あ、あたし食器持って来るね!」
そう言って時音はすっくと立ち上がり、居間を後にする。
勝手知ったる他人の家というものか、いつの間にか彼女は墨村の家に馴染んでいた。

339:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 00:52:57.05 CMW0Yu7q
彼らの姿にはかつて両家の間にあった因縁など、微塵も感じられない。
左右に揺れる長い黒髪の主を見送ると、今度は良守が閃に話しかけてきた。

「で、どうよ。
 俺と時音の共同作業?」
「あー、まあいいんじゃねーの?」
食べてみないと分からないと思いつつも、閃は適当に返事する。
だが、良守の話は終わらない。
「時音さ、教師になりたいんだってさ。」
「教師?」
「そ。
 それも数学。」
「へー…。」

閃は思い浮かべた。
眉を吊り上げ教壇に立つ数学教師の時音の姿を。
ビシッとスーツを着こなし生徒を厳しく叱る女教師。
そしてその下に常に身に付けている短パン。
―いや、それは蛇足か。

「…まあ、アイツに合ってるっちゃ合ってるだろうな。」
「えー!?
 何でお前までそういう事言うの!?
 何か怖いだろ!!」
「そうかぁ?
 将来の夢は可愛いお嫁さん~とか言われる方がよっぽど怖いだろ。」
「俺としてはそっちの方がいいんだよ!!」
「お前の妄想押し付けんなよ。」

良守の叫びなど気にもせず、閃はあっさりと返した。
けれど、まさか将来の夢について目の前の友人が語るなど、閃はそれこそ夢にも思わなかった。
そうなってしまうと、あとはごく自然に浮かんだ疑問が言葉となってストレートに少年の口から
飛び出していくだけだった。
「そういやお前は、将来なりたいやつとか、あんの?」
その言葉を聞いて、良守は待ってましたと言わんばかりに自信たっぷりに笑みを浮かべ、返す。
「建築家!」
「や、無理だろ。」
「即答!?」
「だってお前勉強できねーし。」

340:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 00:55:00.58 CMW0Yu7q
閃は熟考するわけでもなく、瞬時に答えた。
将来設計を否定され、良守は両膝をついてがっくりと項垂れる。
「それ…時音にも言われたんだよ。
 『数学できなきゃ建築家になれない』って。
 俺と時音が住めるぐらいの家を建てたいって言ったばかりなのに。」
「へー。」
「しかもその後、数学教えてあげるってさっきの教師の話してくるし。」
「ん?」
涙声で語り続ける良守の言葉に、閃は怪訝な表情を浮かべた。
それに気付き、目の前の友人がぱっと顔を上げる。
「何だよ?」
「…別に、大したことじゃねーよ。」
煮え切らない態度に良守は疑惑の眼差しを向けるが、閃は何も答えなかった。

「(それって…遠回しにオーケー出してんじゃねーの?)」
自分たちの家を建てたいという良守のプロポーズ(?)。
それに対する時音なりの返事。
…なのかもしれない。
「(いやでも、アイツすげー鈍いし。)」
単純に良守の夢を応援したいという気持ちから出た言葉だとしても不思議じゃないと思えてしまえるのが、
雪村時音という少女の恐ろしいところ。
閃の疑問は解けそうに無かった。
「おまたせ。」
程なくして、4人分の皿とフォークを持った疑惑の少女が少年らの前に現れた。
途端に良守は先程の明るい笑顔を取り戻し元気よく立ち上がる。
「それじゃ食べよーぜ!」


「んで、氷浦は今どうしてんの?
 元気にしてる?」
「まあな。
 夜行に入った途端皆から引っ張りだこになって、どの班に入れるかで未だに取り合いやってんだ。
 アイツ、お前が送ったシャーペン、すげー嬉しそうに使ってるぜ。」
「そっか!」
閃の言葉に良守もまた嬉しそうに笑う。
目の前の少年は幼馴染との恋の悩みになると時に好ましくない行動を取るが、基本的に他人思いの
優しい性格である。

341:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 00:57:23.71 CMW0Yu7q
良守がずっとその身を憂慮していた氷浦蒼士という少年は先の戦いで様々な呪縛から解き放たれ、
現在は閃達と共に生活している。
自由の身となった友人に良守は心から安堵し、笑顔を見せていた。

「…あんたも何か、変わったわね?」
「へ?」
突然の時音の言葉に閃は目を丸くする。
彼女が声をかけた相手は、紛れも無く閃である。
逸らすわけでもなく自分を真っ直ぐ見据えている時音の目に、閃は少なからず動揺した。
「だって前はそんな風に笑うこと無かったじゃない。」
「そ、そうか?」
それを言うならお前だって。
そんな言葉を返したかったものの、閃はそれを吐き出すことなく呑み込んだ。
確かに、以前任務の為にこの地で生活していた頃よりも、その前よりも、今は気持ちが
軽くなっているという自覚がある。
だがそれを、まさか目の前の少女から指摘される日が来るとは閃は夢にも思わなかった。
身体が熱を帯びていくように感じる。
時音はただ笑って閃を見つめていた。
それがより一層気恥ずかしさを患い、閃の調子を狂わせる。
けれど、出来れば平静を装いたい。
そんな気持ちが閃に次の言葉を促した。
「ま、良かったな。」
だが、その選択が間違いであったことに閃はすぐに気付く。

「お前らも自由の身になったんだし…」

言った直後に気付き、次第に声が小さくなる。
自身の表情が歪んでいくのを閃は感じていた。
当事者らの表情が一瞬強張ったのが分かった。
「……わりぃ」
けれど、既に口にしてしまった言葉を無かったことにはできない。
静寂がこの場を支配した。

確かに墨村と雪村の家が400年間抱き続けていた確執はなくなったのかもしれない。
彼らの役目と共に。
しかしそれは、1人の女性がその身を犠牲にしたことで終結を迎えたものだった。

墨村守美子。
彼女は、この家の者にとってとても大切な人であった。


342:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 00:59:47.88 CMW0Yu7q
「…気にすんなよ、影宮。」
少しして良守が口を開く。
「母さんの意思だったんだ。
 …俺には、どうする事も出来なかった。」
ぽつりと呟く良守の顔を覗き込む。
小さく笑うその表情は、閃にとっては初めて見る良守の顔であった。
「そうだよ、閃ちゃんが気にすること無いよ!」
つられるように良守の弟がはにかむ。
それに呼応するかのように、再び良守の表情が明るくなっていく。
「それより、ケーキ食えって!
 早く食わないと冷めるぜ?」
「…何だそりゃ。」
閃は呆れるように溜め息を吐いた。
目の前の友人は悲劇に見舞われた当事者であるにもかかわらず、それをものともしないといったように
明るく振舞う。
少年の目に映る友人は、大輪の花を咲かせんばかりの満面の笑みを浮かべていた。
「(…何だ、あんま気にしなくても良かったのか?)」
良守が何を考えているのかは分からない。
けれど、言及できない空気が漂っているのは確かだった。
閃は手元のケーキに目をやると、フォークで取り分けてそれを口の中に運んだ。

   * * *

ケーキを食べ終え、取り留めの無い世間話を切り上げた頃には、
窓の向こうの景色はすっかり夕焼け色に染まっていた。
「時音も帰っちゃうのかよ…。
 もう少しゆっくりしてけばいいのに。」
「ううん、これから家の手伝いもあるし。」
墨村家の玄関には、10代の若人ら3人が立っていた。
「それじゃあな、良守。」
「影宮、次は秋津や氷浦も連れて来いよ。」
「いや…もうここへはあんま来ないわ。」
「へ、何で?」
「そりゃ、当然だろ。」

任務を終えた以上、もうこの地へ足を運ぶ理由は無く、また、いくら閃が非戦闘員であるとはいえ
そう何度も現在の良守達に関わりを持つわけにはいかないだろう。
役目のなくなった彼らは、過去はどうであれ一般人と変わりない。

343:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 01:01:40.47 CMW0Yu7q
「寧ろ良守、たまにはお前の方から夜行に遊びに来いよ。
 お前の方は堂々と遠出しても問題ないだろ?」
「お、おう!」

良守や時音と別れ、閃は1人になった。
全てのものが赤く染まった世界の中で、薄く伸びた影が視界に映る。
「(それに…)」
その場を離れた2人を見送りながら、閃はふと思った。
「(あんまここに来ると邪魔になりそうだしな。)」
良守と時音、2人の関係の。

胸の内に小さな痛みを感じた。
けれどそれを呑み込み、閃は墨村の家を後にするべく踵を返す。


―その時だった。
どこからか響いてくるその声に、閃の足が止まった。
「うっ……うぅん…グスッ……」

「へ?」
閃は目を丸くした。
聞き覚えのある声だ。
それも、つい今しがた聴いた声。
考えるまでも無く、その声の主が泣いているのがはっきりと分かった。
閃は進むべき方向を変更し、その足を再び墨村の家へと向かわせた。
だが、行くのは玄関ではない。
先ほど後にしたその場所から横に逸れ、足は庭へと向かっていく。

庭の隅にうずくまっている小さな体。
影の中にすっぽりとその身体を潜り込ませ、こちらに背を向け嗚咽を殺して泣きじゃくる少年の姿を、
閃は見た。

「お、お母さん……うっ、ひっく…」

利守は、泣いていた。
帰ってこない母親を想って。



344:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 01:04:20.91 CMW0Yu7q
「(何だアレ、何だアレ!?)」
苛立ちを抑えることが出来ないまま閃の足は進む。
行き先は墨村家でなく、その隣の雪村家。
「(何であいつら…あんな風に笑ってたんだよ!)」

母親を永遠に失ってしまう気持ちは閃には分からない。
だが、親しい人を失う悲しみは分かる。
良守や利守が抱えてしまった悲しみは、そんなものよりずっと大きいものなのかもしれない。

けれど彼らは笑った。
何事もなかったかのように。
そして利守は泣いていた。
その姿を誰にも悟られないようにしながら。
そしてまたきっとどこかで笑うのだろう。
―目の前にいる誰かのために。


「お邪魔します!」
時音の母に挨拶し、閃は雪村の家に上がり込んだ。
なるべく平静を努めるようにしたかったが、眉間に寄せられた皺と座った両眼は
治まる気配を見せなかった。
別にこの家で何かをしようとしているわけではない。
ただ、先程別れた少女に、どうしようもないこの気持ちをほんの僅かでも訴えかけたかった。

閃の足は迷うことなく時音の部屋へと向かった。
普段ならそのドアを叩いて客人の存在を伝えるところだったが、頭に血が上ったこの状態で
閃がその行動を起こすことは無かった。
何の躊躇いもなくドアを開ける。
雪村の跡取りである少女の姿が閃の視界に飛び込んできた。
―だが、閃はその事態に再びその身を凍りつかせることとなった。

「きゃっ…!?」
「…なっ!?」

床に膝を突き、ベッドに突っ伏していた少女。
振り返り驚く彼女の目に溜まった大粒の涙。
―時音もまた、泣いていた。


345:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 01:06:48.03 CMW0Yu7q
「何、で……」
お前まで泣いてんだよ。
そう言おうとして、閃はその言葉を呑み込んだ。
けれど、代わりにかける言葉が見つからない。
ただ口を閉ざし、少年は立ち尽くす。
しかし時音は涙ぐんだまま睨み付けるように閃を見つめていた。
「…どうしてあんたがここにいるの?」
「あ、いや…」
返すべき言葉が見つからない。
異常な光景を目撃して、それを話そうとした相手も同じ事態を引き起こしていた。
こういう時、何と言えばいいのだろう。

閃は自分に出来ることを考え、思い至る。
出来ることは限られていて、そして本当に大したことない。

閃は泣いている少女の隣まで足を進め、その場所でゆっくりと腰を落ち着けた。
「…何かあったのか?」
「どうしてあんたに話さなきゃなんないの。」
「誰にも話せねーからそうやって1人で泣いてんだろ。」
少年の言葉に少女は口をつぐみ、俯いた。
閃は口元を右手で押さえ、少女から顔を背け、呟く。
「別に誰かにバラしたりしねーから。」

そう、今回の行動に他意なんてない。
もし溜め込んだものを言葉にすることで隣の少女が少しでもその気持ちを
落ち着けることが出来るのであれば、時間の許す限り聞いてもいいと思っていた。
そうすることで自分が誰かに必要とされることを少年は知っていたからである。
その欲望が、単純に隣の少女に向いただけだった。
だから他意なんてない。
そう、少年は思っていた。


「…たまに、守美子さんのことを考えるの。」
ややあって。
少女がその重い口を開いた。


346:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 01:08:57.60 CMW0Yu7q
「どうにもならなかったのは分かってるけど…
 思い出すたびに、こうやって涙が止まらなくなるのよ。」
「何だそりゃ。
 …アイツ、良守にはその事話したのか?」
「ううん、話すつもりないわよ。
 アイツが1番悲しいの、分かってるから…」
「(…なるほどな。)」
閃は納得した。

両家の因縁、過去のしがらみを解き放った1人の人間。
彼女の犠牲のもとにようやく訪れた安穏の時。
だが、そのために抱えることとなった悲しみを時音は誰にも話すことが出来なかった。
因縁から開放された自分の家族。
大事な人を失った墨村家の人間。
―そして、十数年同じ時を過ごしてきた幼馴染にも。

「…でも。
 あたしのはそんな、優しい気持ちじゃない。」
少女はぽつりと呟いた。

「守美子さんには申し訳ないと思ってるの。
 あの人のこと、疑ったこともあったし。
 でも良守は無事に帰ってきたし、完全封印を果たすことは出来た。
 もう烏森のために誰かが傷付くことはない。
 そのことに、どこかほっとしている自分がいるのよ。」

「(…なるほど。)」
確かに良守には話せない内容だわ、と。
ぽつりぽつりと語り続ける時音の言葉を耳に入れながら閃はそう思った。
対して少女の眼からは、、留まっていたはずの涙が再び溢れんと滲み出てくる。
「宙心丸君や守美子さんは異界の中にずっといるのに。
 そんな風に思う自分が、凄く嫌…!」
言い終えると再び時音の眼から涙が零れ落ちる。
少女の涙は止まりそうになかった。

閃は懐を探ると、中から取り出した物を時音の手に乗せた。
涙が絶えず溢れ続ける少女の目にそれがぼやけて映る。
少女の手に握られたのは、無地の質素なハンカチだった。
「…それで涙拭いとけよ。
 後でおばさん達の前に出る時はちゃんと顔洗っといた方がいいぞ。」

恐らく少女は泣きやまない、それならそれでいい。
泣きたい時もあるのだろう。

347:秘密。(閃×時音←良守)その1
11/08/29 01:11:32.77 CMW0Yu7q
そう感じた少年はゆっくりと立ち上がり、時音のもとを離れようとした。
だが、すぐさま床を這うような音と腕元を強く引かれる感覚に閃の足が止まる。
「ま、待って!」
少女の声が聴こえて、閃は下を向いた。
見れば相も変わらずその両眼に涙を溜めたままの時音が閃の上着の袖を強く掴んでいた。
「お、お願い……ここにいて、閃。」
最早少女の表情には先程のような怒気は見られない。
ただ真っ直ぐに少年のことを見つめ、そう言った。
「……分かった。」
閃はそう答えると、再び足を崩し時音の隣に座り直した。
その状態で何をするわけでもなく、2人並んで虚空を見つめる。
たまに少女の方からすすり泣く声が少年の耳に飛び込んできた。

閃。
少女は確かに少年のことをそう呼んだ。
彼女に名前で呼ばれるのは初めてかもしれないと思い至り、少年の胸に微かな痺れが去来する。
ふと、閃の心にある欲望が沸き上がった。
それは好奇心とも勇気ともとれる、言い換えればどちらともおぼつかないものであった。

それを知っている者は確かにいる。
だが、閃はこれを今まで親しい仲間の誰にも話したことはなかった。
けれど、目の前の少女になら。
誰にも明かせなかった本心を、自分に少しだけ打ち明けてくれたこの少女になら。
―自分の秘密を、打ち明けたい気持ちになった。

「あー…あのな……」
「?」
口を開いてはすぐ閉じて黙り込む。
そんな閃を見やり、時音は怪訝な表情を浮かべた。
どちらが何を言うわけでもなく、しばしの間部屋の中を静寂が支配する。
ややあって、意を決したように少年はその重い口を開いた。
「…実は、俺」


心を覗くより心を開いてくれる方がずっと嬉しい。
理由はそんな単純なものだった。
ただ、それだけの事。
深い意味なんて、きっとない。



だが。
―それが、間違いだった。

348:名無しさん@ピンキー
11/08/29 01:18:18.50 CMW0Yu7q
これで今回の投下は終わりです。
それでは、失礼しました。

349:名無しさん@ピンキー
11/08/29 21:19:35.38 9qPtdrkW
閃時いいね~!

350:名無しさん@ピンキー
11/08/30 21:13:30.18 8xbb2UAP
続きを待とう……

351:名無しさん@ピンキー
11/08/30 22:31:28.24 nrmo5i0h
のんびり待ってるw

352:348
11/09/01 01:00:48.31 AqqDuR9z
こんばんは、2回目の投下に参りました。
といってもまだエロはありません。
それでも読んで下さる方がいたら嬉しいです。

353:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:03:01.45 AqqDuR9z
「はあ…」
時音は本日何度目かの深呼吸を行った。
彼女が現在立っている場所は雪村の家の中。
電話と向かい合ったまま少女はずっと立ち尽くしていた。

「…何やってんのかしら、あたし。」
緊張しているのが自分でも分かる。
いつもより速い胸の鼓動がいやが上にも彼女にその事実を認めさせる。
鏡を見ていないので分からないが、ひょっとしたら顔も赤くなっていたりするのかもしれない。
命をかけた戦に赴くわけではない。
しかし時音がこれから行おうとしていることは、未だかつて彼女が体験したことのないものである。
「まどかは良いって言ってくれた、お母さんもお婆ちゃんも美味しいって言った…。」
まるで呪詛のように呟かれる言葉。
これも本日何度目かの行動である。
「…………よし!」
ようやく覚悟が決まり、時音の手は目の前の電話に伸びた。
受話器を手に取ると番号がプリントされたボタンを押す。
その動作を11回繰り返すと、受話器を耳に当て向こうの反応を待った。
規則正しい音が何度か流れると、突如それは止み向こうの雰囲気が変わるのが分かった。

『もしもし?』
受話器の向こうから聴こえてくる若い声。
それは時音がよく知る人物のもので、それは留守番電話サービスに送られること無く無事に
当人の携帯電話に繋がった事実を示していた。
「あ、もしもし……閃?」
『雪村?』
時音は受話器の向こうの相手の名を呼んだ。
その声だけで相手の方も時音の存在を認識し、名前を呼んでくる。
雪村家の人間は3人いるが、彼が『雪村』と呼ぶ人物は、この家の中では時音だけであった。
『初めてだな、お前が電話かけてくるなんて。
 で、一体どうしたんだよ?』

受話器の向こうで閃が尋ねてくる。
用件を伝えなければならない。
そう思うと、速かったはずの鼓動が更に早鐘を打つのを、時音はその身に感じた。
顔が熱を帯びてくるのが分かる。

354:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:04:29.96 AqqDuR9z
もう鏡を見て確認しなくとも、それが赤くなっているであろうことを彼女は理解していた。
「あ、あのね、閃…」
時音はゆっくりと舌を動かす。
こんなことで緊張するなんて本当にらしくない。
頭の中で冷静にこの状態を見つめている自分がいるのと同時に、肉体の方はかつて無いほどの
緊張に見舞われていた。
「その…。
 今度の休み……うちに、来ない?」
『へ?』

   * * *

次の休日。
2件並んだ歴史のある大きな家のひとつに、閃は立ち入っていた。
その家の塀にぴたりと貼ってある1枚の表札。
だが、そこに書かれているのは『墨村』の文字だった。

「びっくりしたよ。
 お前、しばらく来ないような事言ってたのに。」
大きなテーブルに向かいつつ、良守は目の前の友人にそう述べた。
「ま、そういう事もあるだろ。
 …それよりお前、手を休める暇があったらさっさとやれよ、それ。」
閃は良守の手元に視線を合わせたまま、淡々と返す。
目の前の少年の左手に握られているのは1本のシャープペンシル。
そしてその下に広げられているのは、複数の教材と問題集。
良守は只今勉強中だった。
「分かってるよ。」
そう言うと良守は再度手元の方へ視線を移した。
だが、教材と問題集を交互に見やるばかりで、その作業の進行具合は順調とはいえなかった。
しかし良守の目は手元に向かったまま一向に外れる気配が無かった。
「(前よりは一応、ちゃんと勉強する気があるんだな。)」
閃は目の前の友人をじっと観察したままそんな事を考える。
その光景は以前の良守なら絶対に見ることの叶わなかったものだった。

「良守、調子はどう?」
程なくして、ケーキと食器を持った時音と利守がこの場に現れた。
閃は何気なく友人の弟を見る。
いつ泣いたのだろう、やはりその目は赤く染まっていた。

355:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:06:07.10 AqqDuR9z
時音は慣れた手つきで食器を並べると、ケーキを均等に切り分けそこへ載せていく。
表情を崩すことなく進められるその行為は、今まで幾度と無くそれが行われてきたことを雄弁に語っていた。

「だーっ!
 全然分かんねえっ!!」
そんな中、この場で1番最初に表情を変えたのは良守だった。
反応し、どれどれと彼の手元にある問題集を時音が覗き込む。
「何よあんた、さっきからちっとも進んでないじゃない。」
「えっ、マジ?」
つられるように閃と利守も良守のそばに歩み寄った。
グレーで埋め尽くされたそのページ。
良守が取り掛かっているその問題は、周囲の余白をふんだんに利用し何行にもわたる途中計算が書かれている。
しかし確かに、それは正しい答えを導き出すには中途半端といわざるを得ない内容であった。

「…お前、よくこんなんで建築家になりたいなんて言うよな。」
閃は呆れるように溜め息を吐いた。
眉間に皺を寄せ、半ば涙ぐんだ良守が切ない声を荒げ反論する。
「んだよ、夢見るぐらい別にいいだろっ!」
「それにしたって適正なさすぎだろ。
 …あ、良守。
 アレやってみたらどうだ?」
「アレ?」
「無想。
 あの状態で勉強したら少しははかどるんじゃねーの?
 方印が消えたっつっても、結界術が使えなくなったわけじゃないんだろ?」
閃は事も無げにそう提案した。
無論、その発言に何かしらの悪意がある筈もない。
だが良守は途端に苦虫を噛み潰したような顔をした。
眉間により深い皺を寄せ、俯いてしまう。
「いや…無想は……」
「?」
閃は怪訝な表情を浮かべた。
だが良守はそれ以上は喋らず、手元の問題と睨めっこを再開した。

   * * *

「んじゃ良守、またな。」

356:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:08:22.28 AqqDuR9z
「おう。」
「良守、あたしも帰るね。」
勉強が順調に進んだかどうかはさておき、墨村家に集った若人らはその場を離れることとなった。
玄関先で良守と別れ、外に出れば夕日に照らされ仄かな切なさを孕んだオレンジ色の世界が閃達を出迎える。
だが閃の足はまだこの地を離れない。
しばし様子を見て、扉の向こう、良守が完全に家の奥へ去っていくのをその足音から確認する。
「…じゃ、今度はうちに来てくれる?」
時音が微かな笑みを浮かべ、閃を見やった。
「…おう」
閃はそれだけ返すと、時音の後につくように雪村の門をくぐる。
念のため顔だけ覗かせ辺りを見回す。
良守の姿がどこにも無いことを確認すると、閃は音を殺しながらそっと玄関の扉を閉めた。
この家に行く事こそが、彼の本当の目的だった。


「それにしてもあんた、わざわざ回りくどい事やるのね。」
雪村家の居間にて、座って向かい合う男女が1組。
時音は呆れるように溜め息を吐いた。
しかし言われた側の少年はそれこそ真剣な表情で返す。
「仕方ねえだろ。
 このぐらいしないと、どこで足が付くか分かんねーんだよ。」
面倒なことは避けたいんだよ、閃はそう付け加えて応戦した。

もともと閃をこの地に呼びつけたのは時音の方だった。
しかし、烏森に滞在していた頃ならいざ知らず、夜行本部からここへ行くとなると、
どうしてもその目的を仲間に告げなければならない。
年の近い少女の家へ男1人で訪ねるのである。
あらぬ誤解を受けないとも限らないし、それがどこかで良守の耳に入らないとも限らない。
その為、カモフラージュを用意する必要があった。
それが良守のいる墨村の家になってしまったのは皮肉とも言える。

「ただ会うだけなんだし、別に気にする必要ないじゃない。」
時音は変わらず腑に落ちないといった表情を浮かべていた。
しかし、閃の考えは変わらない。
「一度噂が立ったら矛先向けられんのはこっちなんだよ。」
眉間に皺を寄せ、唸るように閃は呟く。
噂好きの女性陣や恋愛事に憧れる男性陣に一斉に同じ質問を延々とされる光景を思い浮かべ、
少年の表情が暗くなった。


357:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:10:42.50 AqqDuR9z
「…で、用件って何だよ?」
閃はとりあえず頭の中の雑念を振り払い、本題に入ることにした。
話題を切り出された目の前の少女の身体が気のせいか強張ったように見える。
「えっと、あの……」
普段のはっきりとした口調は鳴りを潜め、時音はいかにも気後れしたような態度を見せた。
閃は眉を顰め目の前の少女の動向をじっと見守る。
だが彼女は突如立ち上がると閃に背を向け今を後にする。
時音の背中を見送りつつも、少年の頭には絶えず疑問符が浮かび続けていた。
「(……何なんだ、一体?)」

   * * *

「これ…食べて欲しいんだけど」
少しして戻ってきた時音の両手には1枚の皿が抱えられていた。
その上に並べられていたのは、赤みがかったクッキーの山。
ところどころ形が歪であるそれは、手作りのものであるように見えた。
「……これ、お前が作ったの?」
「そ、そう…」
「へー」

閃は皮肉でなく感心したように声を漏らした。
時音は少し前までお菓子作りが得意ではなかったし本人も多少なりともそれを気にしていた。
最近は良守と共にケーキを焼くようになったが、まさか1人でクッキーを作れるようになっていたとは、
閃は想像もしていなかった。
「良守を手伝うようになってから、あたしにも何か作れないかと思って色々やってみたの。」
そう言って時音はぎこちなく笑う。
その顔が少々赤らんでいるように、閃には見えた。
「じゃ、良守もこれ食ったのか?」
少年は感じたままの疑問をストレートに言葉にする。
だが時音は、首を横に振った。
「ううん、良守は…食べてない。」
「へ?」
「お母さん達やまどかには味見してもらったけど…」
「…何で良守だけ?」

358:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:12:19.82 AqqDuR9z
「い、いいから!
 とにかくお願い、これ食べて!」
そう言って時音はクッキーの盛った皿を閃の前に突き出す。
だが、閃は解消されない謎が気になって仕方なかった。

「(アイツだったら、雪村が作ったもん貰ったら喜んで食いそうなのに…)」
時音にとって今の良守は幼馴染であると同時にお菓子作りの教師でもある。
ならば生徒の作品を見てその出来を確かめるのも、教師の仕事だろう。
「(…何か釈然としねーな。)」
閃は目の前のクッキーと睨み合いつつも思考を巡らせる。
しかし今ここで時音から答えを得るのは難しい。
ならば目の前のそれを口にし、先に進む以外に疑問を解決する手段は無いのかもしれない。

閃は手を伸ばした。
クッキーを1枚掴むと口元に持っていってそれを噛む。
もぐもぐと咀嚼し、喉の奥へと追いやる。
その様子を時音は何も言わず、ただ見守っていた。
「……ど、どう?」
少女の口がゆっくりと開き感想を催促する。
それに応えるように、空っぽになった閃の口が開いた。
「…美味い。」
「ホ、ホント!?」
答えを耳にした瞬間、時音の表情がぱあっと明るくなるのが分かった。
「こんなんで嘘つくわけねーだろ。」
素直な言葉とは裏腹に訝しげな顔をしたまま、閃は手の中に残るそれも口に入れ、食べた。
だが時音の表情は変わることなく嬉しそうな笑みを浮かべている。
「まだ食っていいんだよな、これ?」
「え?
 う、うん、全部食べちゃっていいわよ。」
そのようなやり取りの後、時音の笑顔が更に輝いた。
その頬は紅潮し、先ほど見たものが幻でないことを閃は知る。
何故彼女が自分の前で満面の笑みを浮かべるのか分からないものの、閃は目の前のそれに
絶えず手を伸ばし、クッキーを1枚1枚平らげていった。


「……ねえ、閃」
「何だよ」
皿の上のクッキーが残り1枚となったところで、再び時音の口が開いた。
「実はね、そのクッキー…」
彼女の口はゆっくりと動き、少しずつ真実を告げていく。

359:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:14:30.34 AqqDuR9z
「……人参が、入ってるの。」
「…………へ?」

閃は思わず情けない声を上げた。
皿の中に残る僅かなそれと時音の顔を交互に見やる。
赤みがかった色のクッキー。
それを作った少女。
人参といえば閃の嫌いな食べ物のひとつであり、時音は閃の好き嫌いを目撃しては、
何かをそれを克服させようと叱り飛ばしていた。
「…………は?」
時間をかけて、閃の思考回路が少しずつ回復していく。
そしてようやく思考が現実に追いついた。
「は?!!」
同時に大声を張り上げる。
「だってあんた、しょっちゅう人参残してたから。
 何とか食べさせられないか、色々考えてたの。」
時音は閃の反応など気にも留めず、あっけらかんと応える。
「は、え!?
 お、お前……!」
「何回も作り直したのよ。
 そのたびにお母さん達に協力してもらったの。
 でも良かった、あんたが美味しいって言ってくれて。」
そう言って目の前の少女は屈託の無い笑みを見せた。
その様子に閃は全身から力が抜け、徐々に落ち着きを取り戻す。
かける言葉も失い、手は宙に止まったままだ。

「(…こいつなりに色々頑張ったんだよな?)」
結果として騙されたことになったのが腑に落ちないものの、嫌いなものをどうしても
食べて欲しかったというのも、自分の作ったものを食べて欲しかったというのも、恐らくは彼女の本心である。
「あの…残ったクッキー、食べたくなかったら食べなくてもいいから。」
それだけ言うと時音は口をつぐみ、閃の動向を待った。

閃は何も言わず、目の前のクッキーをじっと見つめている。
残り1枚となった人参入りクッキー。
試行錯誤の末ようやく完成したと思われる、恐らくは汗と涙の結晶体。

閃は何も言わない。
ただ黙って、目の前のそれを手に取り、口の中へと運んでいった。

360:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:16:21.73 AqqDuR9z

   * * *

「有り難う。
 クッキー、全部食べてくれて。」
「別に大したことじゃねーよ。
 美味かったから食べたかっただけだって。」

場所は変わって時音の部屋。
彼女のベッドの上で2人は並んで座り、他愛の無い会話を繰り広げていた。
「そういえばお前、数学教師になりたいんだって?」
「え?」
「良守から聞いた。
 アイツ何か怖がってたぞ。」
「そう…。
 良守も酷いわよ、それなら何になるのが似合ってたっていうの。」
「可愛いお嫁さんとかじゃねーの?」
「え?」
「ま、俺はそっちの方がずっと怖いって言ったけど。」
「何よそれ、あんたまで。」
小さく頬を膨らませて時音が拗ねた表情を見せる。
だが、本心で嫌がっているわけではないことを、閃は感じ取っていた。

「…そういえば、あんたは将来どうするの?」
「へ?」
「夜行よ。
 これから先もずっと、あんたはあそこにいるの?」
そう言って時音は閃をじっと見つめる。
「…まあ、そうなるだろうな。」
それだけ返すと閃は時音から視線を外し、天井を見上げる。
電灯の光が視界に入り、少しだけ眩しい。

以前は自分にないものに憧れ、苛立ちを募らせていたこともあった。
自分に欠けているものを求めていた。
今だって自分で自分の生き方を選べるだけの力は無い。
だが、自分の居場所に少し満足した時、欠けたものは少しずつ埋まり始めた。

「ま、お前の夢は結構ハマってると思うぜ。
 頑張れよ、雪村?」
「時音。」
「へ…?」
「名前で呼んで。」

361:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:18:31.20 AqqDuR9z
目の前の少女の突然の呼びかけに、閃は目を丸くした。
しかし時音はそれを気に留めることもなく、言葉を続ける。
「あたし、前はあんたのこと『あんた』とか、『あの子』とか呼んでた。
 でも今は『閃』って呼んでる。
 名前で呼んでる。
 だから……」
俯いたかと思えば、すぐ顔を上げ閃を見つめる時音。
熱を帯び、潤んだ瞳がそこにはあった。
「名前で、呼んで。」


「と…」
閃は目の前の少女の名を呼ぼうとした。
しかし口を突いて出てくるのは最初の1文字ばかりで、肝心の2文字目3文字目に上手く繋がらない。
名前を呼ぶのはこんなに難しいことだったろうか。
「(……何やってんだ、俺。)」
閃は夜行での生活を振り返る。
侵食を共にしている者の中には、彼が当然のように名前で呼ぶ者もいる。
無論それに性別は関係ない。
なのに、そんな当たり前のことが目の前の少女に出来ない。
今まで『怪力女』だの『短パン女』だの、変な愛称を彼女に付けることはあったのに名前は出てこない。
ときね。
たった3文字のシンプルな名前であるにもかかわらず。

「と…」
緊張で口の中が乾いているのが分かった。
だが目の前の少女は自分の名前を呼ぶまで離してくれそうに無い。
どのくらいの時間が流れたのか。
時音は閃のことをずっと見つめていた。

閃は大きく息を吸い込み、吐いた。
しばらくの間その動作を繰り返し、気持ちが少し落ち着いた頃、勢いのままにその3文字を口にした。
「…時音」



362:秘密。(閃×時音←良守)その2
11/09/01 01:20:13.41 AqqDuR9z
「…………うん。」
「と、時音…………言ったぞ?」
「うん…」
名を呼ばれた少女もまた、それを反芻するかのように同じ言葉だけを口にする。
しかしその顔は安堵によるものか満足感を得られたことによるものか、優しい笑みに満ちていた。
「……閃」
時音が少年の名を呼ぶ。
それと同じくして閃の右肩に唐突に温もりのあるものが寄りかかってきた。
見ればそれは他ならぬ時音の頭であり、彼女の身体が閃のそれにのしかかっている事実を示していた。
勿論、重くないわけが無い。
けれど閃は、それを嫌だとは思わなかった。
代わりに少年の顔が赤みを帯びていく。

少女の右腕が動いた。
それに応えるように少年の左腕もまた、少しずつ動いていく。
どちらからともなく出会う2人の手。



優しく触れたそれは、やがて指を絡め合い。
繋がれた手は、確かに2人の距離を縮めていった。

363:名無しさん@ピンキー
11/09/01 01:22:16.82 AqqDuR9z
今回の投下はこれで終わりです。
エロについてはもう少しお待ち下さい。
それでは、退散いたします。

364:名無しさん@ピンキー
11/09/01 23:01:00.00 OySCb4c9
やっぱり純愛もいいねぇ~!

365:363
11/09/05 01:11:39.58 sv34cecB
こんばんは、投下に参りました。
今回もエロは特にありません、その割りに長いですが…。
それでも読んで下さる方がいたら嬉しいです。

366:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:14:00.22 sv34cecB
カーテンの隙間を縫うように外から淡い光が差し込んできた。
それは朝が来て、日の出の時刻をとうに過ぎてしまったことを指している。
部屋の中は照明の光で絶えず照らされていたが、今の時間帯ならスイッチを切りカーテンを開けても
薄暗いなんてことはないだろう。
―そろそろ、ここを発たなければならない。

「ん…」
閃の傍らにいる少女の口から、小さな声が漏れる。
壁に背を付け、閃にもたれかかった少女の重みや温もり、布越しに伝わる感触が、
身体を預けられた少年の身に伝わっていく。
少女の肩からは大きな特徴といえる長い髪が流れ、緩やかな曲線を描いている。
その少女の肩に、閃の手が回される。
黒く艶めく一束の髪を指でそっと梳き、戯れに弄る。
「んんっ」
少女が反応して軽く身をよじった。
だがその表情は嫌悪ではなく、寧ろ安らぎに満ちてさえいた。
「時音」
閃が傍らの少女の名を呼んだ。
「俺、そろそろ行くから」
「んー……だめ。
 まだ行かないで…。」
夢と現の間のような甘い声が時音の口から漏れる。
彼女の意識がまだ半分夢の中にいるであろうことは容易に想像できた。
「そういうわけにもいかねーだろ。
 な、起きろよ?」
「……んー。」
努めて優しい声で諭し、彼女の身体を自身から引き剥がす。
時音は眠たそうに目を擦り、閃を見る。
しかしやはりその目はまだぼんやりしていた。
「それじゃ、またな。」
「…気をつけて帰ってね、閃。」
「おう」
別れの挨拶を済ませ、閃は時音の部屋を後にする。
普通なら彼女の部屋の入り口を経由して外に向かうところだが、閃の靴は彼女の部屋に置いてあった。
それを手に取り、窓に足をかけ外へと飛び出す。
時音はぼんやりとしつつも微笑みながらその様子を見守っていた。

367:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:16:05.75 sv34cecB

   * * *

「(…どうしてこうなったんだ?)」
ある日の午後。
紅や茶色い落葉が地面を色とりどりに飾るその光景をぼんやりと眺めながら、閃は今更ながらに考え込んでいた。
自分と時音の関係。
時音がひとたび『会いたい』と言えば、閃はヒマを見つけて彼女の元へ飛んでいく。
会えば他愛の無い会話を繰り返すこともあれば、互いに何も話さずただ2人一緒に過ごすだけのこともある。
たまにその逢瀬が朝まで長引くこともあり、その状態について閃は不安を抱えていた。
「(いつ夜行の皆に怪しまれても不思議じゃない。
  …っていうか、もう十分怪しまれてる可能性もあるよな……。)」
カモフラージュは相も変わらず良守の家であったが、彼の家に寝泊りしているという事実は当然ない。
そのため、もし閃の朝帰りについて疑問を持った仲間達から良守に連絡が行くようであれば、
やはり友人に真実が伝わる恐れがある。

時音は良守の好きな人。
そして閃は、良守との関係を壊したくないと思っていた。
「(早い話が、もうアイツと会うのやめりゃいいだけの話なんだけどな…。)」
アイツ。
それは、閃を事あるごとに召喚してくる少女のことを示す。
だが、そう考えて閃の眉間に皺がきつめに寄せられた。
時音がどんなに逢瀬を催促しても、閃がそれをきっぱり断ってしまえばいいだけのこと。
閃がこの地を訪れさえしなければ、夜行の仲間達に怪しまれることも無く良守の心を
傷付けるような事態も起こり得ない。
しかし、それにはいくつかの障害が存在していた。
そのひとつは、閃の気持ちだった。
時音の願いを断ることは、今の彼には出来なかったのである。

閃は縁側で胡坐をかき頬杖を突いたまま微動だにしなかった。
時折溜め息を吐いては焦点の定まらぬ目でどこかを見ている。
物思いに更けている今の閃は、自分を取り巻く世界のことを気にも留めない、無防備な状態となっていた。
そのため、彼の傍に近づく者の気配にも、やはり全く気付くことはない。
本日何度目かの溜め息の後、少年はぽつりと呟いた。
「人を好きになるって、何なんだろうな…。」


368:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:18:24.42 sv34cecB
「え?」
自分でない誰かの声が閃の耳に飛び込んでくる。
そこでようやく少年の意識は現実に引き戻された。
「へ?」
閃は間の抜けた声を上げつつ、反射的にその方向を振り向いた。
「影宮、お前何言ってんの?」
「…………。」
閃のすぐ隣に来ていたのは、彼がその関係性を危惧している墨村良守その人であった。


「えっ、えっ、ええええ――っ!!?」
ようやく頭が正常に機能してきたところで、閃は元気のいい悲鳴を上げた。
「何だよお前、人を見るなり叫んだりして。」
「おっ、おまっ、お前。
 なっ、なっ、何でここにいるんだよ!?」
「ケーキ焼けたから呼びに来たんだよ。」
良守は閃の態度も意に介さないといった様子でそれを流し、用件を伝えた。

そう、ここは。
閃が現在座っているその場所は、夜行本部でもなければ雪村の邸宅でもない。
良守が生活の拠点として暮らしている墨村家の邸宅である。
なので良守が閃の前に現れたのは予想外でも何でもなく、寧ろ想定の範囲内ともいえる出来事だった。

「それより影宮、さっきのことだけど…」
「(げっ!)」
怪訝な表情を浮かべる良守を前にして、閃の胸が警鐘を鳴らし始める。
冷や汗が頬を伝うその顔は、見る者に動揺の色を否応にでも窺わせる。
「ひょっとしてお前…」
良守がゆっくりと口を開き言葉を続ける間も、閃は焦りを募らせ滝のような汗を流した。
「(…気付かれた!?)」
閃と時音の間に生まれた微妙な関係性。
閃が時音に対し抱き始めた感情。
よりによって1番知られたくない相手に、それを知られてしまったら。
閃の身体に緊張が走った。
「…好きな人が出来たこと、ないのか!?」


「――は?」
良守の口から飛び出た言葉。
それは、閃が予想したものとは正反対の意味を孕んでいた。

369:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:20:17.82 sv34cecB
「そっかー、影宮まだなんだー。」
嬉々として喋り続ける良守。
笑みを浮かべる友人の姿を、閃は呆然とした顔で見守っていた。
だが、ここで本心を気取られてしまうよりはその話に乗ってしまった方が得策。
そう判断した閃は何とか表情を取り繕うと顔の筋肉を動かす。
だが動揺を完全に消し去ることは出来ず、少年の笑みは苦々しいものとなった。
「ま、まあな…」
「まあ、そんなに気にすることじゃねえよ!
 そのうちお前も誰かを好きになる日が来るって!」
「お、おう…」
「でもそっかー、これに関しては影宮より俺の方が先輩かー。」
「……」

「(…何か、ムカつく。)」
適当に話を合わせようと思いつつも、上機嫌の良守を見ているとそのこめかみに
長く伸ばした爪を立ててしまいたくなる。
しかし誤ってその誤解を解いてしまうような事態があればそれこそ大問題。
閃は何も言わずにその場を離れることにした。
「あ、影宮待てよー。」
背後で良守の明るい声が響いていたが、返事せずに無視を決め込んだ。

   * * *

墨村家の廊下を歩きながら、閃は1人物思いに更けていた。
「(ちょっと前なら、ああいうの憧れてたんだけどな…。)」

ああいうの。
異性と街へ繰り出して手を繋いだり腕を組みながら歩く、そういった行為を指す。
つまるところ、いちゃつくというシチュエーションに閃は淡い憧れを抱いていた。
決まった相手を望んでいたわけではない。
それを実行に移せるということに対して幻想を抱いていたのだった。
そして、その望みは現在時音と過ごす時間によって叶えられていた。
不特定の人物ではなく、雪村時音という特定の人物。
問題はそこだった。
今の自分が彼女以外の人物とそういった関係を持ちたいか。
その疑問に対して答えを出すのにそれこそ時間はいらなかった。
「…思わねーな。」

時音が好き。
それが、現在の閃の嘘偽り無い本心だった。

370:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:22:12.27 sv34cecB
そしてそれが彼女との関係を断ち切れない障害のひとつであった。
「(…どうしてこうなったんだ?)」
廊下で立ち止まり俯いて、閃は本日何度目かの自問を繰り返す。

あの日。
久々に時音や良守と再会したあの日に、誰にも打ち明けることの出来なかった秘密を互いに
吐露したことが原因だろうか。
時音にとって初めて秘密を打ち明けた初めての人に、閃がなることとなったからか。
それとも閃が時音を、自身の秘密を打ち明けた初めての人としたからか。
或いは、あの日の出来事はただのきっかけでしかなく、実は彼女に対して以前から特別な思いを
燻らせていたりしたのか。

―いずれにしても、その問いに対する応えはもう出ているのかもしれない。
どうしてこうなったのか。
今更考える必要など無かった。


ふと。
誰かのすすり泣く声が耳に入って、閃は顔を上げた。
「(…また)」
閃の足は自然と声のする方へ動く。
気配を殺し音を立てぬよう細心の注意を払いながら声の主を探る。
諜報班として培ったスキルがこういった時に役に立つ。
「(つーか俺、こういう場面に出くわしてばっかだな…。)」
自らの強運を半ば恨めしく思いつつ閃の目は薄く開いた襖の向こうのその人物を捉えた。

やはりというか、彼は閃のよく知る相手だった。
ただ、今度は利守ではなかった。
彼は眼鏡を持ち上げて、その下から流れ落ちる涙を拭っている。

良守の父・墨村修史。
彼が仕事部屋として使用しているその場所で、声の主は泣いていた。
脇をしっかりと閉め、両手で顔を覆い、嗚咽を殺した状態で。
「守美子、さん…」

ああ、やっぱり。
閃はそう思った。
良守の父親もそうなのだ。
大事な人を失い、未だに立ち直れないでいる。

371:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:24:10.36 sv34cecB
修史は大作を生み出すべく現在執筆活動中なのだと良守から聞かされていた。
今までそのような姿勢で取り組むことなど無かったらしく、ひょっとすると目の前の男は
永遠に取り戻すことの叶わなくなってしまったその悲しみを執筆の原動力にしているのかもしれない。
無論、それはただの憶測でしかない。

何にせよ閃には、何も出来ない。
見てしまったところでただ黙ってその場を去るしかない。
そしてそれを、閃は実行に移した。
先程と同じように気配を殺し音を立てぬように元来た道を引き返す。
そして向かう先は、良守のもと。
「(…………くそっ)」
普段なら舌打ちのひとつもしているところだったが、今の閃にそのような余裕は無かった。

   * * *

「(…どうすりゃ良かったんだ。)」
良守と別れ墨村の家を出た閃は、現在時音の部屋にいた。
天井の照明をぼんやりと見つめたまま、ベッドに背を付け頭をシーツに押し付け、1人唸る。
眉間にきつく寄せられた皺が少年の苦悩を雄弁に語っていた。

閃は、今の自分が墨村の家に深く関われる立場に無いことを自覚していた。
たとえ墨村の人間が笑顔の裏でどんな悲しみを抱えていたとしても、
その事実を閃が知ってしまったとしても、それを暴く権利など閃は持ち合わせていない。
彼らがそれを望まない限り、閃には何も出来ない。

「あー、くそっ!」
閃は勢いよく飛び起き、部屋の中を見回す。
部屋の主はまだ帰ってこない。
しかし思考を中断させねば今度は閃が参ってしまう。
そう思い閃は自信の気を紛れさせることの出来る物を探すことにした。
「……ん?」
そしてそれは、少年の目に留まった。


「おまたせ。」
程なくして、扉の向こうから時音が現れた。
簡素な服に身を包み、湿り気を帯びた髪をそのまま流し、頬をほんのりと上気させている。

372:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:26:33.42 sv34cecB
「おう、風呂入ってたのか?」
「うん。
 …あら、あんたアルバム見てるの?」
「見て良かったんだよな?」
「うん。」
そう答えて時音はベッドに歩み寄る。
シーツの上に座り直した少年の隣に気軽に腰掛け、アルバムの中身へと目をやった。
シャンプーの香りが閃の鼻腔をくすぐる。
顔が熱を持つのを感じたが、それを気取られぬよう閃の視線はアルバムから外さなかった。
「…これ、お前の親父?」
「うん。」
話題は写真の中の人物へと移る。
時音と思わしき幼い少女。
笑顔の彼女と一緒に写っている1人の男性。
他の写真が家族で埋め尽くされている事を考えれば、その正体は自ずと分かる。
「雪村時雄、あたしのお父さん。」
「ふーん。」
閃は写真の中の人物をじっくりと観察した。
幼い時音を優しく抱き上げる父親の姿。
彼が不幸な最後を遂げたことは話には聞いていた。
しかし、そうなる前の親子はやはり幸せそうな笑みを浮かべている。
「こうして見ると、お前は父親似だな。」
「そう?」
「ああ。
 …つーかおばさんとはあんま似てねーだろ、お前。」
「そっか…。」
その言葉の後、閃は自身の肩に寄りかかってくる重みを認識した。
見れば時音がアルバムから視線を外さぬままその身体を預けている。
「そうかもね。」
先程よりもシャンプーの匂いが鼻腔を刺激し、時音の温もりが閃の身体に布越しであるとはいえ伝わってくる。
少し目線を下げれば、服の上からでも分かるふたつの膨らみが閃の視界に飛び込んできた。
そこから逃れようと少年は視線をアルバムに戻す。
すると、今度は幼い時音と共に写る幼い少年の姿が閃の目に映った。
「…コイツは良守?」
「うん。
 まだお役目に付いてなかった頃は、周りに内緒で一緒に遊んだりもしたのよ。
 写真はそんなに撮ってたわけじゃないから、そんなに多くないけど…。」
「…ま、これからはいつでも写真撮れるんだし、いいんじゃねーの。」
「…そうね。」

373:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:28:37.94 sv34cecB
それだけ言うと時音は沈黙した。
閃は肩を小さく揺らし、傍らの彼女の顔を覗き込む。
閃の視線に気付き、時音もまた少年を見つめ返した。
穏やかな笑みを浮かべた少女の顔。
だがその笑顔は、どこか心もとないように見えた。

「…何か言いたいことあんのか?」
閃は呟くように言った。
それは傍らの時音には当然筒抜けであり、少女は口をつぐんだまま俯いた。
沈黙が2人のいる空間を支配した。
しばらくして、意を決したように時音が顔を上げ閃と再び向かい合った。
「…あたし、覇久魔の異界で一度死んだらしいの。」
「へ?」

閃は言葉を失った。
目の前の少女の目は真剣そのもので、嘘を吐いていないのは見て分かる。
しかし告げられた内容が内容だけに、どう返したらいいのか分からない。
そんな閃を見やりつつ時音は言葉を続ける。
「『眺める者』があたしを生き返らせたのよ。
 特例だって。
 でも、もしそれがなかったら…あたし、あの場所で死んでた。」

「…何でそれを今俺に話したんだ?」
閃の口がようやく動き、言葉らしい言葉が飛び出した。
しかし、それは今の自分が本当に伝えたいものではないということを少年は感じ取っていた。
「どうしても、誰かに話したかったの。
 お婆ちゃんはあの時、あたしのこと凄く心配してたから言えないし、
 お母さんにも言えない。
 ……良守には絶対話せない。」
それを告げる少女の顔が暗い影を落としていくのを少年は見落とさなかった。
だからといって今の彼が明るい表情をしているのかといえば、やはりそうではない。
「あたしは覚悟を決めてたつもり。
 良守がいたから、最後まで戦うつもりでいた。
 でも…やっぱり怖かったんだと、思う。」
「その話聞いて俺が心配しないって、本気で思ってたのか?」
普段より低い声が飛び出たことに、閃は内心驚いていた。
だが、それが止まることはない。
怒気を孕んだ声が時音の部屋に響く。
部屋の主は閃からその身を離すと、まるで怯えているかのような表情で少年を見つめ返した。
「ご、ごめん。」


374:秘密。(閃×時音←良守)その3
11/09/05 01:30:53.54 sv34cecB
少女の口から漏れる素直な謝罪の言葉。
それを聞いて閃は舌打ちしたい衝動に駆られた。
別にこんな台詞を聞きたかったわけではない。
こんな顔をさせたかったわけでもない。

俯いて押し黙る時音。
そんな少女の顔を、閃はじっと見つめていた。
どのくらいの時が流れたのか。
やがて少年の手が、少女の頬にそっと触れた。
「…大丈夫なんだろうな?」
不安をそのまま形にした閃の言葉。
それに呼応するかのように時音が顔を上げ、2人の視線が交わる。
再び静寂に包まれる時音の部屋。
少女は身を乗り出し、閃の身体に再度乗りかかるように詰め寄った。
同時にその手は少年の膝元のアルバムに伸び、音を立てずにページを閉じていく。
笑顔を浮かべた幼い時音や父親の姿が、影の中へと消えていく。
まるでされたことを返すかのように、少女のもう片方の手が閃の頬に伸びた。
指で耳元まで優しくなぞっていき、緩やかなくせのある金の髪を軽く弄る。
「―試してみる?」



閃と時音の関係を断つことの出来ないもうひとつの障害。
それは、互いにその気持ちを全く誤魔化していないところにあった。

375:名無しさん@ピンキー
11/09/05 01:34:42.49 sv34cecB
ずっと暴走したような内容ですみません。
最後までこんな感じです。
次回はエロ突入します。

では、退散します。

376:名無しさん@ピンキー
11/09/05 04:37:02.41 lM/lbADt
がんばれー

377:名無しさん@ピンキー
11/09/05 17:02:46.66 WvLWk7jA
どきわく♪どきわく♪

378:名無しさん@ピンキー
11/09/08 11:07:24.94 NJzcVFUn
良守×神田×無想部屋という謎の怪電波を受信した今日この頃

379:375
11/09/09 03:41:28.26 /wlQC0oV
こんばんは、4回目の投下に参りました。
今回でエロ突入します、やっぱり長いです。

380:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:43:14.65 /wlQC0oV
「試してみる、って…」
閃は目の前の少女が口にしたその言葉を反芻した。

互いが互いの頬を触れ合っているこの状態。
少し近づいただけで抱擁を交わすことが可能なその状態。
間合いを詰めているのは、何も物理的なものだけに限らない。
「何、言ってんだ。
 お前それ、どういう意味…」
「―そういう意味よ。」
時音は視線を外すことも瞬きをすることもせずただ閃をじっと見つめながらあっさりと返した。
少年が触れているその箇所が熱を帯びてきているのが分かる。
心なしか彼女の目が潤んできているように見えた。

そういう意味。
その言葉がどのようなニュアンスを孕んでいるのか分からないわけではない。
だが、目の前の少女がそのような発言をするなど、今まで閃は夢にも思わなかった。
「(ちょっと前まで、色気ゼロだったのに…。)」
などと思うものの、閃は口には出さない。
代わりに自分をずっと見つめている時音の視線から逃げるように顔を別の方向へと向けた。
「…やめとく。」
「どうして?」
「アイツに言えないことが増えるだけだぞ。」

アイツ。
その言葉が指し示す人物を、時音もまた分からないわけではなかった。
閃と時音が同じ時間を過ごすようになってからも、たびたび彼の名前が話題に出る。
その彼に黙って逢瀬を重ねる2人。
これ以上の関係を築くというのであれば、彼との関係性がどう変わっていってしまうのか。
―だが。

「いいの。」
「へ…」
時音の言葉に反応する間もなく、閃の身体は後方へと追いやられ、その背中をベッドへと押し付けられた。
しかし少年の目が天井を見ることは叶わなかった。
閃の視界は目の前の何かによって完全に覆われ、周りを見回すことも叶わない。
「――ん、んんっ??」
そして彼の唇に、何か柔らかい物がぐっと押し付けられた。
しばらくするとぼやけた視界は少しずつ目の前の状況に慣れ始め、閃は自分を覆うその正体を知ることとなった。

381:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:44:28.59 /wlQC0oV
長い睫が、閉じた瞼の端から一斉に伸びている。
それが時音のものであるのは想像に難くない。
すぐ目の前にある彼女の顔。
閃の唇に触れる柔らかい物体。
その感触に覚えが無いわけではない。
それは、今彼が触れられている物自身にじかに触れた時の感触に近い。
否、同じか。
それが分かった時、閃はようやく現在の自分が置かれている状況が呑み込めてきた。
先程よりも近くなった時音の髪からシャンプーの匂いがはっきりと香る。
甘い匂い。
だが、甘いのは匂いだけではなかった。

どのくらい経ったのだろうか、時音の顔が閃のそれから離れた。
だが、密着している互いの身体はその状態を保っており、どちらのものとも分からない心臓の鼓動をその身に感じる。
どう切り出したらいいものかと少年が考えあぐねていると、少女の方からその口を開いてきた。
「…良守がお役目を終えて帰ってきた後、ずっと落ち込んでたの。
 守美子さんを説得できなかったこと、宙心丸君を助けられなかったこと、色々あったけど…
 あたしはアイツに元気になって欲しかった。」
ぽつりぽつりと時音は語った。
「アイツ、いつもはあたしが黙ってても落ち込んでることとか気付いちゃうから
 励ましながらそういうの気付かれたらどうしようかなんて考えたりもしたけど、
 良守、本当に落ち込んでて。
 だから、あたしが頑張らなきゃって思ってた。」

その言葉を聞き、閃は良守と時音に再会した時のことを思い出した。
誰にも打ち明けられない悲しみを抱え、1人で泣いていた時音。
自分たちの関係性までもがらりと変えてしまった、あの日。

時音は言葉を続ける。
「自分でも驚くくらい普段通りに接することが出来たの。
 多分…お役目が無くなって、戦う必要がなくなったからだと思う。」

完全封印は、良守のみならず時音にも大きな変化をもたらしていた。
父を失い、犠牲者を出すまいと駆け抜けてきた数年間。
命のやり取りをし、神経をすり減らしては常に戦いの中にその身を置いていた。
その才が自分にない事を知りながら。


382:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:46:20.18 /wlQC0oV
その責務から解放され、心にどこか隙間が開いたような気がしていた。
何もそれは悪いことばかりではなく、寧ろ穏やかな日々を得たことでようやく少女に
精神的な余裕が生まれることが出来た。
時に様々な感情が時音を襲うことがあった。
また、過去を振り返ることも、現在のこと、これからのこと、
周囲の人間や自分自身に対してじっくり考え込めるだけの時間が、彼女の中に生まれた。

「あたし、前にアイツに好きって言ったことがあるの。
 『あんたの優しいところが大好きよ』って。
 あたしは良守のこと大事に思ってるし、アイツの望みなら何でも叶えてあげたい。
 でも…アイツの好きとあたしの好きは違う。」
それを口にした途端、少女の顔が曇った。
「気付かない振りしようとしてた。
 そうすれば今のままの関係でいられるかもしれないって。
 でも、もう無理。
 あたし…変わっちゃったから。」

良守が以前烏森の地を離れることになった日の前日、時音は良守に言った。
優しいところだけはずっと変わらないで欲しいと。
しかし完全封印を終えた良守が帰郷して、取り返しの付かない結末を迎え。
緩やかながらもいろいろなものが変わってしまったように時音は感じていた。
その中に、彼女自身も含まれていた。
生活が一変し、真っ直ぐに夢を追って生きることが可能になり。
そして少女には、好きな人が出来た。
それは確かに烏森という狭い世界の中で短いながらも苦楽を共にした人物の1人だったが、
同時に彼はその狭い世界の外にいる存在でもあった。
生を受けた時に当然のように自分の周りにあったもの。
その外にいる存在に、彼女は心惹かれた。

「…あんたは」
「?」
「自分のこと、秀君達に話すつもりはないんでしょ?」
「…まあ、な。」

少女の問いかけに閃は力無く答えた。
かつて少女に告げた自分の秘密。
決して他人に知られてはならないと、同じ能力を持つ上司から強く言い聞かせられた筈のもの。
それなのに少年は泣いている彼女に対して、それを告げてしまった。
彼を突き動かしたのは好奇心か、それとも勇気か。


383:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:47:50.68 /wlQC0oV
だが同時にそれを伝えた途端、彼女に拒まれることも閃は確かに想定していた。
自身の秘密を打ち明けてくれた少女に拒絶されることを、全く考えていないわけではなかった。
しかし、少女は閃を拒んだりはしなかった。
―そうして、2人の関係はあの日確かに変わってしまった。

「あたしも別に誰かに話すつもりなかったのよ。
 …でも、あんたには話しちゃったから。」
そう言って、時音は曇った表情をほんの少し和らげた。
「だからもう少しだけ、素直になろうと思ってるの。」


そうしてしばらく、2人は何も言わずその姿勢を保っていた。
沈黙が2人のいる部屋を支配する。
それが終わりを告げた頃、少女の肩に突如、閃の手が伸びた。
「きゃっ…!?」
彼女が気付いた時には既にその身体は回転させられシーツの上に押し倒されていた。
そしてその上に閃の身体が覆いかぶさり、互いが先程と正反対の体勢をとっていた。
少年の左手が時音の右手首を強く握った。
「…後悔すんじゃねーぞ。」
眉間に皺を寄せ、睨むように時音を見据えるその眼差しは、これからする事を静かに物語っていた。
それに応えるように時音の口が開いた。
「後悔なんて、しないわよ。」
その言葉を受けて閃は上体を時音に近付けた。
そして少女にその身を密着させ、その顔を彼女のそれへと近づける。
そうして、互いの唇が触れ合った。

   * * *

照明を消せば、2人の姿は暗闇の中に隠れてしまう。
しかし、職業柄夜目の利く2人の目は戸惑うことなく互いの姿を認識する。
身体を密着させ、唇を重ねる。
離れては触れるその行為を幾度と無く繰り返すと、次第にその口付けはより激しいものへと変化していく。
舌を絡ませ唾液が混じり、互いの口内を貪り合う。
だがそれでも物足りないといったように、2人の体が熱を帯びていく。
もっと触れ合いたい。
それが少年達に生まれたありのままの欲望であった。


384:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:49:17.65 /wlQC0oV
「(…調子いいな、俺。)」
ふと、閃は自嘲の笑みを浮かべた。
つい先程まで目の前の少女からの誘いを拒んでいたというのに、その身に集まる熱は
これから自分が何をしたいのかを雄弁に物語っていた。
「んっ…、は、あっ……閃…」
唇を離すたび少女のそれから漏れる切なげな声が耳に入り、少年の全身を駆け巡っては
今まで感じたことの無い甘い痺れをもたらす。
閃の身体は欲望のままに動く。
唇を彼女のそれから離すとその位置を徐々に下げて余分な肉の付いていない白い首へと移し何度も口付ける。
「あぁ…んっ……」
別の箇所から受ける唇の感触。
両目を閉じ恍惚の表情を浮かべ、その感触をもっと味わうように少女が喘ぐ。
閃は右手で時音の胸部を服の上から弄る。
以前体験したその行為。
布の上から手を当てているだけのものであるが彼女に触れているというその事実だけでも興奮し、
またその行為について目の前の少女が愉悦の表情さえ見せているという現実に、
少年の身体は否応無しに高ぶっていく。
丸みを帯びた曲線を指でなぞり、その膨らみ手全体で覆って揉みしだく。
「はぁ…んっ、あんっ……んっ」
「と、きねっ…!」
2人の呼吸が闇の中に溶けていく。
互いの声を聞いているのは、今この場にいる2人だけ。
2人だけだった。

「(……足りねえ。)」
荒い呼吸を繰り返しながら閃は時音を見ながらそんな風に思った。
一度火の点いた欲望は際限なくその欲望を増していく。
そしてそれは、普段理性的に物事を考える少年からそのブレーキを完全に奪っていた。
「…時音」
「…ん、せ、閃っ……な、なに?」
ただ感じるままに、その言葉を口にする。
「脱がすぞ」
「…う、うん」
その表情に気恥ずかしさを残しつつも、時音もまた素直に肯定の言葉を口にした。
互いに上体を起こし、再びベッドに腰掛けるような体勢をとる。
時音が両腕を上げると、閃は少女の服の端に手をかけ、自身の両腕を上げてゆっくりと脱がしていく。
布の塊が長い髪の末端を通り過ぎると、閃はそれを床の上へと軽く投げた。
アルバムの上に落ちたそれは、ページを開かせないようにするかのように下にある物を全て覆い尽くす。

385:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:50:38.74 /wlQC0oV
そうして、時音の上半身は胸元を守るものだけを残し、その白い肌と美しい曲線を露わにした。
「…あんまり、じろじろ見ないでよ。」
時音が恥ずかしそうにもじもじと身体を揺らす。
そんな彼女を眺めながら、閃もまた少女に倣うように上半身に身に着けているものを脱いだ。
布の塊を、やはり先程と同じように彼女の物がある場所へと軽く放り投げる。
ふと時音を見やると、胸元を隠すように両腕を組む彼女の姿が視界に飛び込んだ。
閃は少女の腕を解きそこから取り払うと自身の両腕を彼女の背中に回し、互いの身体を密着させる。
「きゃっ」
「隠すなよ。」
時音の肩に自らの顎を乗せ、耳元で囁く。
同時に両手を下着の留め金へと移動させ、その継ぎ目を外すべく指を動かし試行錯誤を繰り返す。
「んっ、んっ…」
時音の口から漏れる喘ぎ声が、閃の耳を刺激する。
密着し擦れ合う肌と肌が、互いの身に絶えず浅い快感を生み出していた。
もっと直に触れたい。
その欲望が閃自身を突き動かしていく。
小さな金属音が少女の背中で生じた。
「あっ…」
同時に背中で留められていた下着は側面へするすると移動していく。
ストラップを腕から通し、下着を手にした閃はそれも床の上へと放り投げた。
そうして振り返ると、閃の視界に再び時音の姿が飛び込んできた。

上半身を露わにし、白い肌をさらけ出した時音の姿。
腋から胸へと伸びる滑らかな曲線。
それは決して男には持ち得ないものである。

閃の手が時音の左胸に触れる。
少女の体が強張るのもお構い無しに、指は曲線の麓を図形を描くようにそっとなぞっていく。
「…ここに方印があったんだよな?」
「んっ……そ、そうっ…」
色の混じった息を漏らしつつ、時音は答える。
「(一度くらいは拝んどきたかったな。)」
閃はふとそんなことを思った。
かつて自分と少女を繋いでいたもの。

386:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:52:39.81 /wlQC0oV
今の自分たちがそれとは違うもので繋がれているとしても、見れるものなら見てみたかった。
―彼女のそれを過去に見てしまった者が1人だけいるのだが。

「時音」
目の前の少女の名を呼び、彼女が反応を見せる前にその唇を自らのそれで塞ぐ。
両腕を少女の背中と頭に回し、髪を梳きその根元に指を這わせる。
「あぁっ…んっ……はぁっ……ふぁ…あっ」
唇が離れるたびに切なげな声が少女の口から漏れる。
彼女の腕は閃の背中に回され、裸の胸を擦り合わせては互いの身体に心地よい快感が走る。
勿論それで少年の欲望が満たされるわけが無い。
再びシーツの海にその身を横たえ口付けを繰り返していると、時音は自らの腿に何かが
当たっていることに気付いた。
それが目の前の少年の脚でない事を知ると、ただでさえ赤い顔が更に赤みを増していく。
知識としては知っていたが、実物に触れるのは初めてだった。
「驚いたか?」
熱を持った少年の声が、暗い部屋に響く。
「ば、馬鹿にしないでよ。
 見た事くらいはあるんだから。
 …お、お父さんのを、昔ちょっとだけだけど……。」
そう答える時音の声は、闇に紛れるように次第に小さくなっていく。
そんな彼女の返答に小さな笑みを浮かべつつ、閃の両手は時音の腰へと伸びた。
「下も、脱がすぞ。」
ゆっくりと確実に、目の前の少女に聞こえるようにその言葉を告げる。
時音は何も答えない。
ただ黙って閃の方をじっと見つめ、そして小さく頷いた。
了承の合図が取れたと見るや、閃の両手は時音の下腹部を覆うものを少しずつ下げていく。
静かな空間に衣擦れの音だけがしっかりと響く。
やがてそれも床の上へ放り投げてしまうと、閃の下にいるのは何一つ身に纏っていない1人の少女となった。
閃の指が再び時音に触れる。
脚の付け根のその先をなぞると、少女の体がぴくりと震えた。
「濡れてる」
「やっ…言わ、ないでっ……あっ」
割れ目を這うだけに飽き足らず、更にその向こうへと指を進めていく。
やがてその入り口に辿り着くと、迷うことなくその中へと侵入し、少しずつ指を埋めていく。
「はぁん…あんっ……」
内部をかき回され、そこから湧き上がる感覚が声となって時音の口から漏れる。
同時に内部はそこから分泌される液体と共に指により一層絡みつき、
暗い部屋に少女の喘ぎ声と淫猥な音が静かに響く。

387:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:54:33.07 /wlQC0oV
閃が腕を引くと、粘り気のある液体にまみれた指が、糸を引きその入り口から現れた。
「すげっ…」
女体の神秘に、少年はありのままの言葉を言葉にする。
「はぁ、はぁ…んっ……ば、ばかっ……」
閃の下で時音が胸を上下させながら喘いだ。
「…挿れるぞ」
閃は今一度確認の言葉を目の前の少女に投げかけた。
それに対し、時音は首を横に振るわけでもなく拒絶の意思を口にするわけでもない。
「…よろしく、お願いします。」
首を縦に振り、肯定の言葉を口にした。
「何だよ、改まって。」
そんな少女を見ていたら何だかおかしくて。
少年の口元が自然と緩んだ。
「…何となく。」
つられるように時音もまた小さく笑った。


薄暗い部屋の中、何も身に着けていない少年と少女がいた。
いきり立った少年の体の一部が少女の体内へとゆっくり侵入していく。
「ああ、あああぁぁっ……!」
生まれて初めて味わう衝撃に時音の顔が苦痛に歪む。
目の端から涙が零れ落ちるのを視認して閃の動きが止まった。
「や、やめるか…?」
「いいから、続けてっ…!」
少女の言葉に閃は戸惑いつつも自身を更に奥へと突き進めて行く。
もう、後戻りなど出来ない。

最深部へと辿り着いた頃、目の前の少女は痛みに堪えようと深い呼吸を繰り返していた。
「…だ、大丈夫か?」
閃は時音に問いかけた。
大丈夫である筈がないのは分かっていたが、それでも聞かずにいられない。
「だい…じょうぶっ……」
尚を涙を流し、少女は呼吸の落ち着かない様子を見せていた。
だが彼女の答えは決して拒絶を示さない。
「だって…。
 あたし達、繋がってるじゃない……。」

激痛が走る。
痛みがある。
けれど、それ以上に嬉しいと感じる自分がいる。

388:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:56:33.04 /wlQC0oV
時音はそう自覚していた。
烏森で自らの役目を果たすべく戦いに明け暮れた日々。
烏森を守る為には時に自分を犠牲にしてでも冷酷な判断を下さねばならない。
だが、怖くなかったわけではない。
自分や相棒、仲間が傷つくことへの恐怖は絶えず存在していた。
傷を負い、苦しみ、恐れる。
戦いの日々に安息は無かった。

しかし今は、痛いだけ。
穏やかな日々があり、想いを寄せる者と共にあるというその現実。

激痛は走る。
痛みがある。
けれど、それ以上に嬉しいと感じる自分がいる。

「初めてなのよ…こんな気持ちになるの。」
時音はそれだけ言うと、あとはひたすら呼吸を繰り返していた。
そんな少女の身体に閃の手が伸びる。
彼女の苦痛を少しでも和らげるべく、丸いふたつの膨らみにそっと触れた。
「ぅんっ…」
時音の身体が小さく震えるのを確認すると、閃は両手で少女の胸をしっかりと覆い、揉みしだいていく。
滑らかな曲線は手の動きに合わせて形を変え、時折先端を指で擦り、摘むと
少女の口から色の混じった声が漏れた。
「ふあ、あぁんっ……」
「時音、少しは楽になったか?」
「んっ……た、多分……」

その柔らかな感触と結合部から絶えず沸き起こる感覚は同時に閃自身を追い詰め、高めていく。
少年の限界は近い。
だが時音のことを思えばまだ達してしまうわけにもいかず、行為を続けながら閃の思考は同じ場所を往復する。
しかし、そんな彼の考えは目の前の少女には筒抜けだった。
「…あんた、今凄い顔してる。」
「…へ、へっ?」
「無理しなくていいわよ。
 …好きに動いていいから。
 でも……」
時音は自分の胸に添えられた閃の手を掴むと、自らの顔に持っていく。
「その前に…キスして?」
そう言って少女はふふ、と微笑んだ。


389:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 03:58:38.03 /wlQC0oV
時音の望みに応えるべく、閃は顔を近づけ時音の唇に自らのそれを重ねる。
離れては触れ、互いを求めるように舌を絡め合う。
唇を離すと両手を少女の腰に移動させ、しっかりと掴んだ。
「い、いくぞ…。」
何度と無く繰り返される閃の問いかけに、時音は黙って首を縦に振った。
途端、少年は自らの腰を激しく動かし始めた。

「はぁっ…はっ、ぅん……は、あっ…」
薄暗い部屋の中。
2人の呼吸とベッドの軋む音が絶えず響き渡り、それぞれの存在を高めるかのように絡み合っていく。
次第に、そこに別の音が入り混じる。
2人の結合部から生じたそれは徐々に大きくなり、また同時に少女の口から漏れる声も
色を帯び変化していく。
「はぁんっ……や、んんっ…あ、あぁんっ…!」
暗闇の中でも時音の顔が熱を持っていくのが閃には見えた。
更に上り詰めるべく、腰の動きを速めていく。
それに呼応するかのように時音の声もリズムを速め大きくなっていった。
「う、くっ…時音……!」
「はぁ…んっ、……す、すごい……
 ど、どうしよう、あ…あたしっ……!
 お、おかしくなっちゃ…ああぁっ!」
2人の意識は互いに集中し、律動が2人の身体に甘い痺れをもたらす。
感覚は否応無く上り詰められ、限界はすぐそこまで来ていた。
「時音、俺…も、もうっ……!」
「はぁっ……閃…閃っ……!!」
時音の体が大きく震え、堰を切ったように彼女の中へ強い衝動が注がれていく。
それを互いの身に感じ取りながら、少年と少女は終焉を迎えた。

   * * *

薄暗い時音の部屋。
情事の終わったこの部屋で2人分の寝息が静かに響いていた。
やがて片方の寝息が止まり、シーツの下で少年の体がもぞもぞと動き始めた。
「(……眠れねー。)」
閃は寝返りを打っては何度も意識を手放そうとそれを試みた。

390:秘密。(閃×時音←良守)その4
11/09/09 04:00:32.81 /wlQC0oV
しかし、先程の情事が頭に焼き付いて離れず、瞼を閉じればその時の情景が
どうしても鮮明に蘇ってきてしまう。
茹で上がった頭は睡眠という基本的欲求を決して許さず、少年は半ば恨めしい目つきで
隣で眠る少女を見やった。
初体験を最後まで完遂させた彼の相方は、それこそ普段通りであるかのようにすやすやと
穏やかな寝息を立てて眠っていた。
普段通りでないのは、何も身に着けていないという事実だけ。
「(…人の気も知らねーで。)」
閃は時音の整った顔を睨みつつもまじまじと見つめた。
時折、少女の口から閃の名を呼ぶ声が漏れ、そのたびに彼の身体は熱を持つ。
そういう事もあって、やはり少年は眠れなかった。

「(アイツが知ったら何て言うかな…。)」
閃はふと、ここにいない友人の事を考えた。
今日の出来事が目の前の少女や、彼との関係を大きく変えてしまうものであることは間違いない。
閃は、烏森の地で彼の行動をずっと見てきた。
彼が時音のことをどのぐらい大切に思っているか、想像出来ないわけではない。
―きっと、想像以上だ。

「(…でも、分かんねーけど)」
少年は口の端を緩め、小さく笑う。
彼の気持ちは不思議と落ち着いていた。

閃は右手を伸ばし、時音の顔にそっと触れた。
頬を優しく撫で、口元にかかる髪を後ろへと持っていく。

彼女の顔を眺めていたい。
そんな気持ちが、今の少年にはあった。
だからきっと、後悔なんてしないのだ。多分。

閃は瞼を閉じると、睡眠するべく本日何度目かの挑戦を試みた。
だが、いくらやっても眠ること叶わず。
結局少年は、夢の中にいる少女の隣で悶々とした時間を過ごすことになるのであった。



―変わってしまったのは、誰だったのか。

391:名無しさん@ピンキー
11/09/09 04:03:31.31 /wlQC0oV
これで終わりじゃないぞい、もうちっとだけ続くんじゃ。



最後までお付き合い下されば光栄です。
それでは、退散いたします。

392:名無しさん@ピンキー
11/09/09 13:17:14.36 JCsah3nN
グッヂョヴです!
次も楽しみだ~♪

393:名無しさん@ピンキー
11/09/09 21:51:20.10 WXJuSZBI
GJ!

394:名無しさん@ピンキー
11/09/10 17:40:27.94 BtgVUhoq
時音は結界でティルドを作って一人でしてそう。

395:名無しさん@ピンキー
11/09/11 19:00:15.51 U8I2EK4O
長らく閑古鳥だったのに最近投下増えて嬉しいな

396:名無しさん@ピンキー
11/09/12 01:21:49.46 ocWDZXwB
単行本派の参入が効いたかね

397:391
11/09/14 02:24:27.33 C94oAEin
こんばんは、5回目の投下に参りました。
一応エロ有りですが、やはり長いです。
基本的には、いちゃついてるだけの話です。

398:秘密。(閃×時音←良守)その5
11/09/14 02:26:13.15 C94oAEin
草木も眠る丑三つ時。
夏もとうに過ぎたこの時期、深夜に屋外を歩き回る者にはやはりその風は肌寒く、長居が体調に
障ることは誰の想像にも難くない。
しかしそれを理解した上でその場に立つ者がいた。
彼は烏森学園のプレートが飾られた塀の外で、校門の前に立ち尽くしていた。
ボサボサの黒髪が街灯の光を受けて仄かに反射し、パーカーにジャージといういつもの服装で
彼―墨村良守は、烏森の地の前に立っていた。

思慮深げに立ち尽くしていた少年がやがてそれを止めると、意を決したように校門の向こうへ片足を下ろす。
もう片方の足もこちら側へ下ろしてしまえば、良守の身体は完全に学校の敷地内へ入ったことになる。
改めて良守は校庭を見回した。
そこに本来あった筈の学び舎は存在せず、代わりに新しい校舎になる予定の建造物と、
現在高等部生徒らが授業を受けているプレハブの教室がこの地を占めていた。

この地に足を踏み入れるのは簡単だった。
今まではたまたまその機会がなく、またその必要性も無かったため、帰省後の良守が学校の
敷地内に入ることなど無かった。
だが、ひとたび決意してこの地に来てしまえば、難しいことなど何一つ無い。
「…まるで、全然知らない場所に来たみたいだな。」
良守はぽつりと、自分が感じたことを素直に口にした。
以前の良守が毎晩足繁く通っていた場所。
校庭を走り回り、命を懸け、悲しみに巡り会い。
この場所には、良守の感じてきたものが確かにあった。
だが今は、浮遊霊1人出会わない。

「あれ…」
良守は何と無しに空を仰ぎ見た。
街灯の光が届かないこの場所は、今は数え切れないほどの星が瞬き煌めいている。
幼い頃の良守は、自らに課せられた役目を重苦しく思いつつも、かつてこの空を見て感じた筈だった。
あの頃と何一つ変わらない烏森の空。
それを頭で理解している筈なのに、別の感情が良守の口を突いて出る。

「この空って、こんなんだったっけ…」
全く心動かされず、綺麗だと思わない。
そんな空が少年の目に映っていた。


輝きは、どこへ行ったのか。

399:秘密。(閃×時音←良守)その5
11/09/14 02:27:52.10 C94oAEin

   * * *

「う…ん……」
薄暗い時音の部屋。
2人の色に染め上げたシーツの上で、閃は何と無しに目覚めた。
はじめは朧げながらも徐々に意識が覚醒していくと、その身に密着する柔らかな感触があることに気が付く。
同時に、右腕は何かにかっちりと固定され思うように動かせない。
そんな事実にも。
「…重い。」
閃はぽつりと呟いた。
負荷のかかった右手は左手と共に前方で何か柔らかい物をしっかりと掴んでいる。
そして彼の顎は滑らかな曲線の上に乗っており、閃の声はすぐ隣で眠っている人物の耳に直に
届く状態となっていた。
「…あんただって、ずっと触ってるじゃない。」
時音の声が前方から響いてきた。

触ってる。
何を、と今更聞くこともない。
薄地のインナーを身に着けて眠っていた時音。
彼女の胸元にある2つの膨らみを閃の両手がしっかりと掴んでいる。
2人が並んで寝ると、このような体勢になるのはよくあることだった。
閃は別に、意識してそれを行っているわけではなかった。
すぐ傍にある温もりが恋しくて彼女の肌に触れる。
時音が閃に背を向けて眠っていたなら、抱きしめる彼の手が掴みやすいその場所に
行ってしまうのは、不自然なことでもなんでもなかった。

「こうされんの、嫌か?」
時音の耳元で優しく囁きながら、閃は両手の中にある柔らかな物体を揉みしだく。
時折既に硬くなっている先端を擦り、摘むと彼女の口から小さな嬌声が漏れる。
直に触れるのは勿論、こうした布越しの愛撫も閃は好んでいた。
「んっ、ぅん……嫌じゃ、ないわよっ……。」
色の混じった声でたどたどしいながらも肯定の意思を示す言葉が少女の口から返ってくる。
触れ合うその箇所から、彼女の身体が再び熱を持ってきているのが閃には分かった。
彼の身体もまた、それに呼応するかのように熱を持ち徐々に高ぶっていく。


400:秘密。(閃×時音←良守)その5
11/09/14 02:29:15.77 C94oAEin
「…でも、重いんでしょ?」
「そりゃ、重いけど。」
「…骨が折れるんじゃないの。」
「はあ?何だそりゃ??」
時音の言葉に閃の手が止まった。
時音は少し身体を捻ると、自身の顔を閃のそれに向けた。
何を言うわけでもなく、ただ少年のことをじっと見つめる。
かつて閃が時音に対し不用意に向けた言葉。
彼とこういう関係になった今、時音がそれを頭の片隅に綺麗さっぱり残さないというわけにもいかず、
少女は不安そうにその目を揺らしながら黙って彼の反応を窺っていた。
そんな彼女の真意を知ってか知らずか、自分を見つめる時音の目を見つめ返しながら閃がぽつりと呟いた。
「……折れねーよ。」
「…そう?」
素っ気無い閃の言葉に、時音もまた冷たく返す。
だが少年のその態度は幾分かの優しさを孕んでいることを、今の少女は知っている。
時音はその口元を緩ませ満更でもないといった笑みを浮かべた。
―実は右腕が少し痺れてきていたが、閃がその事実を口にすることは無かった。

「でも、今日学校だから。
 …お風呂入ってくるね。」
そう言って時音は閃の拘束を逃れ、ベッドから離れた。
照明のスイッチを入れようとして、ふとその手が止まる。
「…こっち見ないでよ?」
「おー」
時音の言葉に閃は生返事を口にした。
ひとたび情事が終われば時音は肌を見せるのを躊躇う。
それを残念に思いつつも、恥じらう彼女が可愛いという気持ちが閃にはあった。
とはいえ、少年の身に集まり高ぶってしまったこの熱はそう簡単に引きそうには無かった。
どうしようかと閃が思考を凝らし考えあぐねていると、スイッチが入れられ部屋の照明に光がともる。
そうなってしまうと閃は時音の言葉通り、彼女に背を向けその着替えを見ないようにすることしか出来ない。
言われた通りに背を向け、真正面にある壁でも見つめることにする。
静かな部屋で、衣擦れの音だけがただ響いた。
「…あれから結構経つな。」
「……そうね。」


401:秘密。(閃×時音←良守)その5
11/09/14 02:31:12.55 C94oAEin
あれから。
2人が初めて肌を重ねた日から、幾分かの時が流れた。
だが、2人が言及しているのはその日数についてではない。
「…俺達のこと、良守に話したか?」
「まだ、話してないわよ。」
「何だよ、お前俺よりアイツと一緒にいること多いだろ。」
「あんただって話さないじゃない。
 あたしと会う前は必ず良守のところに行ってるのに。」
「まあ、な。」

それだけ言うと2人は再び口を閉ざした。
2人が男女としての一線を越えた後、逢瀬の頻度は以前より増した。
だがそれを良守や夜行の仲間に知られるのを躊躇う閃は、やはり以前にも増して良守と会うようになった。
良守から真実を隠すため良守と会う。
それが閃に、時音に罪悪感をもたらさないわけが無い。
しかしそれ以上に、良守に全てを告白するのには躊躇いがあった。

2人の秘密。
友人と会うたびに回を重ねていく逢瀬。
そのたびに深まる2人の関係。
それに伴う罪悪感。
だが、それこそが更に秘密を増大し、皮肉にも2人の関係をより結び付けていく。


「もう、こっち向いていいわよ。」
衣擦れの音が止むと、時音の声が再び閃の耳に届いた。
彼女に言われるままに振り返ると、閃の視線の先にパジャマを身に付けた時音が立っていた。
流石に裸のまま廊下を歩くわけにもいかないらしく、彼女は事を終え入浴する際には必ずその前に
身に付けていたものを着ていく。
「んじゃ、俺も着替えるか。」
そう言って閃の手は自然に脱ぎ捨てた衣服の方へ伸びる。
その途中で、再度時音の口が開いた。
「あ…あのね、閃。」
「?」
突然の呼びかけに少年の手が止まった。
そのまま手は空中で静止し、閃は怪訝な表情を浮かべて時音の言葉を待つ。
目の前の少女は頬をうっすらと紅潮させその目を泳がせていた。
これから発言することに若干の躊躇いがある。
そんな風に閃には見えていた。
「お風呂のことなんだけど、その……」
「…何だよ?」

「……一緒に入んない?」
「…へっ?」

402:秘密。(閃×時音←良守)その5
11/09/14 02:33:16.86 C94oAEin

   * * *

「あー……、くそっ」
それから少し経ち。
チッ、と小さく舌打ちをしながら閃はよろよろと夜行本部の廊下を歩いていた。
「慣れないことはするもんじゃねーな…。」
眉間に皺を寄せ、壁にどかっと寄りかかり。
独り言をぼやきながら、閃は自身の胃に課せられた重たい宿命に必死で堪えていた。

慣れないことをして、冒険して。
その結末がこれである。
とはいえ、それをしなければ先に進めないという断固たる意思が少年の中にはあった。
別にそれをしなくてもこれからの人生特別困るということは無い。
そんなことは閃自身誰よりもよく理解していた。
だが、意地といえるものが彼の中に生じ、少年の身を突き動かしたのだ。
どうしてそんなことをしたのか。
その原因と呼べるものも、やはり彼は理解している。
些細なきっかけが、少年を変えた。
その変化は始めこそ微々たるものであるのかもしれない。
彼を知る人間が、それに気付くか気付かないか、その程度のものである。
だが、その小さな変化は、確かに閃自身を変えていく礎となろうとしていた。

「うぇっ、気持ちわりー…。」
とはいえ、本来ならば口にした者の栄養となる筈のそれが今まさに閃の身を蝕んでいるのも事実だった。
かといって今更後戻りするという選択肢も無い。
結局はこの辛く苦しい時間をどうにかやり過ごす以外、少年に選択肢は無い。
閃は口元を押さえた状態で適当な場所に腰掛けた。
「(こういう時は何か別のこと考えりゃいいんだよ…。)」
などと思いながら目を瞑り、思考を巡らす。
頭の中に浮かんだイメージに必死で食いつき、それを辿っていく。
それ自体は楽な作業だった。
何故なら最近、彼の記憶に強く残るような出来事に遭遇していたためである。

床に敷き詰められたタイル。
照明の消された暗闇の一室。
終始肌にまとわりつく蒸気。

それらのイメージが自身の感情に訴えかけた時、かつての衝撃が閃の脳裏に鮮やかに蘇った。

403:秘密。(閃×時音←良守)その5
11/09/14 02:35:10.69 C94oAEin

   * * *

気配を殺すことに細心の注意を払いながら2人で臨んだ脱衣場。
若い2人がいちゃつくのにどういうわけか非常に役に立った偵察のスキル。

2人で入浴するにあたって、時音は風呂場の照明を点けるのを拒んだ。
それ自体は部屋でするのと変わりないからと了承し、内心少し残念に思いつつも
閃は先に風呂場に入って時音が来るのを待った。
湯気が肌や髪に貼り付き落ち着かないながらも大人しく待機していたところに現れた時音。
暗闇に慣れた閃の目は、明かりの点いていない風呂場の中で普段目にすることの無い
少女の立ち姿をはっきりと捉え、その美しい曲線を眺めれば、閃はその身も心も
彼女に触れる前から高揚していく。
恥ずかしがる時音の手を引いて2人向き合い、互いの身体を嬉々として洗い合う少年と少女。
風呂場に声を響かせぬよう口をつぐむも、相手の弱いところを指でなぞるように洗い攻め上げれば
どんなにか細くても色の混じった声が互いの口を突いて出てくる。
泡を洗い流し、風呂椅子の上で互いに抱き合うように腰を落とし、その身を繋げていく閃と時音。

初めて肌を重ねた日から、2人が逢瀬を重ねた回数は数えるほどしかない。
しかし閃と時音は生命力に満ち溢れた若者である。
片や戦闘型でないとはいえ常人よりよほど身体能力の高い妖混じり。
片や幼い頃から自分を鍛え続け戦いにその身を投じてきた結界師の正統継承者。
更に時音は基本的に真面目で勉強熱心な性格である。
精力的な2人がひとたび肌を重ねれば経験を積むべく情事に勤しむようになるのは不自然なことではなく、
その回数を数え切ることは今となっては容易なことではなかった。



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