11/08/04 17:47:24.00 vu+4NuA9
簡素な机で熱心に本を読んでいる細い背中に、静かに声をかける。
「カケル様、お食事をお持ちしました」
ピク、とその肩が小さく動き、俯けていた身体をそっと起こす。
肩に着かない長さの髪が軽く揺れ、形良く尖った顎が机の端を
指した。そこへ置いておけ、という意味だろう。
食事のトレーを机の端の、邪魔にならない位置に置く。
チラリと横顔に目を走らせるが、何やら難しい書物に
視線を落とす横顔からは、何も読み取れない。
この城へ戻ってから、どのくらい経ったのだろうか。
ミチルを失ったカケルは、壱号にミチルが遺した本や日記を
ありったけ集めさせ、この部屋からほとんど出ることなく、
一日中読書や書き物に没頭している。
壱号はそんな彼女の命令に黙って従い、定期的に食事を運び、
掃除や洗濯をし、本や日記を探して持ってくる。そんな日々だ。
ふと周囲を本に囲まれた部屋に目を走らせる。これだけ大量の本を、
たちまちのうちに自分の知識として貪欲に吸収してしまうのだから、
その向上心や知識欲たるや恐ろしいものがある。まるで、まじないに
ついて学ぶことを止めてしまったら、自分の存在価値が無くなって
しまうかも知れないと恐れているようにすら見える。