10/05/20 03:49:24 IsLrkVxw
ようするに俺は臆病なんだ。
人付き合いなんてものはイコール利害の一致。
恋愛なんて絶対にできないだろうなと思っていた。
それが……。
君のことが気になり始めたのは、本当に安直な、反吐が出るほどのテンプレシチュエーションによるものだった。
……無口、無表情、無愛想。しかも『金持ちのボンボン』らしく、近寄りがたい、と、クラスメイトから遠巻きにされていた俺に、君だけが『普通に』声を掛けてくれた。
何気ないことだった。
熟睡中の俺を「問3、当てられてるよ」と起こしてくれた。
「消しゴム落ちてたよ」「今日日直だよ」「プリント回してるよ」
そんなことで。
……と、君は言うかもしれないけれど、そんなちょっとしたことだって、負の感情は隠せないもの。必要以上に素っ気なかったり、一瞬も目の合うことがなかったり、そもそも見て見ぬふりをされていたりと、『普通』というのは、本当に得難いものなんだ。
擬音で言うならコロリ、と。
俺は君に好意を持った。
最初は……そう、人当たりの良い店員の「いらっしゃいませ」に思わず会釈を返したくなるような、ごく人間的な好意だったはずだ。
俺と君との間に会話なんてものはなく、あるのはただの伝達だけ……。
正直、君の名前もうろ覚えだった。
変わったのは、初夏だ。
衣替えのとき、君は夏服になると同時に髪を切った。
白地のセーラー服は君の下着をうっすらと透かせていた。
それまで髪に隠されていたその首は、なんて細くて、なんて白かっただろう。
力任せにつかめば折れてしまいそうな二の腕。
心持ち短くなったスカートに……。
その日一日、顔から熱が引かなかったのを覚えている。
端的に言えば、欲情した。
実在人物の夢を見たのも初めてなら、クラスメイトの女子で抜いたのも初めてだった。
……ん?
ああ、君の裸やら性器やらを想像して、日がな一日扱きまくった。
それで……俺はもしや君のことが好きだったのか? ……と思ったんだ。
他の女子も夏服になっていたはずだが、俺の目に焼き付いたのは君だけだった。
夢に出てきたのも君だけだったし……。
試しに君の親友でも扱いてみたが、何度やってもイけなかった。
それからというもの、グラビアやアダルトビデオが途端に味気のないものになった。
そんなものより君を裸にしたくて仕方なかったし、抱きしめたり、においを嗅いだりもしてみたかった。
この時点での疑いは四割といったところだ。
なるほど、君への好意は『人当たりの良い店員』から『毎晩のオカズ』にまで育ったわけだが、それが恋愛感情かと言うとはなはだ疑問と言ってよかった。
明確な定義を持っていたわけではないが……。
恋愛感情というのはもっと……。
もっと……。
……上手く言えない。
とにかく俺は、残りの六割で君は性欲の対象なのだと考えた。
君の肉体が思いがけず魅力的だっただけで、内面への興味は依然『店員』のままのはずだった。
君と俺を繋ぐものは、未だにただの伝達だけだったから……。
そこで俺は君を知ることにした。
君の人間性を知悉した上で、君への感情を整理しようと考えた。
まず、クラスメイト全員を買収した。
実験場に不確定要素が含まれているのは好ましくない。
いくら金を積んでも演技力は上がらなかったが、一同の努力のおかげで、親友がイジメに遭っていたときの君の対処、イジメの対象が君に移ったときの反応などなど……。様々なデータを得ることができた。
怒った顔や泣きそうな顔、貴重な映像も撮ることができたが、まもなくたいして意味がなかったと気がついた。
こういった特異な状況下での対応も人間性をはかる上で重要なことではある。
が、……俺が知りたかったのは『普段の君』だったんだ。
だからすぐに手を引かせた……つもりだが、もしも俺の目の届かないところで何かされていたら言ってほしい。
もっとも、俺の目をかいくぐれるヤツがそうそういるとも思えないが。