戦う司書でエロパロat EROPARO
戦う司書でエロパロ - 暇つぶし2ch608:名無しさん@ピンキー
14/09/18 15:44:12.39 TTJN8VLY
教室に戻ると、委員長のミレポックがクラスメートたちに囲まれ、質問攻めにされていた。
男子か女子か、どこの高校から来たのかなど・・・。次々に来る質問に、ミレポックは完全に困惑している。
「ほら、委員長も困ってるから、席に戻れよ」
大きな心と身体の持ち主のルイモンが周りの生徒達を諭し、いくらか教室は静かになったが、
ホームルームを前に、皆そわそわと落ち着かない様子だった。時計の針が8時10分を少し過ぎた
ところで教室の扉が開き、担任のハミュッツが現れる。目を覆うまん丸の眼鏡に、
ボサボサの黒髪を無造作にリボンで纏めた、いつものスタイルだ。足下は便所サンダルで、
綿のシャツは大きくはだけ、豊満な胸の谷間が丸見えである。このだらしない服装の教師を見て、
転校生は果たしてどう思っているのだろうか・・・。委員長の号令と共にホームルームが始まり、
起立・礼・着席を済ませると、いつもの間延びした口調でハミュッツが話を始める。
「はぁ~い、みんな今日も元気かなあ?何かもう知ってるみたいだけど、今日このクラスに
 転校生が来るわよう。じゃ、早速入ってきてちょうだい」
ハミュッツの合図とともに、扉の外から長身の男子生徒が現れる。しかし、その服装を見た瞬間、
教室が一斉に静まりかえった。膝丈よりも長い黒の学ランに、鍔付きの学帽。バントーラ高校は
服装規程の緩い校風ではあるが、下駄を履いている生徒など見たことがない。学帽の下から流れる
透明な髪も他にない特異な色で、異様さを際立てていた。ノロティのすぐ前の席に座るキャサリロが
後ろを振り向き、こっそりと耳打ちする。
「ねえ・・・あの学ラン、溺高の制服だよね?」
「え?う、うん・・・」
徐々にざわつき始める生徒たちに構うことなく、ハミュッツはマイペースに紹介を始める。
「エンリケ=ビスハイル君よう。今日からクラスの一員だから、みんな仲良くするのよう。
 じゃ、君からも自己紹介してちょうだい。」
クラスにやってきた大柄な転校生はにこりともせず、淡々と話し始める。
「名はエンリケ=ビスハイル。神溺工業高校から来た。・・・今日から頼む」
それだけ言い口を閉じるエンリケに、ハミュッツはポリポリと頭を掻く。
「・・・うーん、転校生が来るときって、もうちょっと楽しそうなイメージだったんだけどなぁ。
 そうねえ、あんたたちからも質問はない?」
よく見ればイケメンであるが、強面で無愛想な転校生、しかも恐らく札付きの不良相手に、なかなか
質問の手が上がらない。基本気の良い連中ばかりであるが、こればかりは皆戸惑いを隠せない。
しかし、気まずい雰囲気の中、互いの顔を見合わせるばかりの生徒達の中から一人、手を挙げた少女がいた。
細く引き締まった腕を真っ直ぐ挙げる少女の方を全員が注目した。漸く手を挙げた生徒をハミュッツは指名する。
ノロティは椅子から立ち上がり、仏頂面の転校生に大きな瞳を向ける。エンリケもノロティの顔を真っ直ぐに見据える。
「あの、あたし、ノロティ=マルチェっていいます!部活はチアリーディングに入ってて、好きな授業は体育です。
 エンリケさんはその・・・前の学校では部活とか入っていましたか?」
快活な少女の質問に、学ランの転校生は律儀に答える。
「前の学校に、部活はなかった。生徒が暴れすぎたせいで・・・全部廃部になった」
「じゃあ、入ってみたい部活ってありますか?うちの学校、部活にも力を入れてるから
 大きい大会に出られるところもたくさんあるんです!」
転校生にもう慣れたのか、屈託ない笑顔で質問をぶつけるノロティに皆驚くが、部活に関しては
皆興味のあるところだった。クラス全員に見つめられ、照れくさそうに俯くエンリケだったが、
しばらくし、ぽつりと呟いた。
「・・・・・・お笑い研究会。」
「え?」
「・・・ずっと、笑ってみたいと思っていた。この学校には、お笑い研究会があると聞いたことがある。
 だから、そこに入るためにこの学校に来た」
衝撃的な答えにびっくりする一同であったが、このやり取りのおかげで、この後少しずつエンリケは
クラスに馴染むことができるようになった。しかし、肝心のお笑い研究会が部員不足と生徒会による
経費削減で昨年廃部になったことは、ハムロー兄弟を除きまだ誰も知らないのだった。

二話目終わり。

609:名無しさん@ピンキー
14/09/18 23:03:54.44 ETF30qN/
おお、早くもつづき来てる
ノロティかわいいな
あとエンリケさん超かっけえええ!!

610:名無しさん@ピンキー
14/09/19 12:46:29.60 lFbXJ9vG
勢いで3話目も行ってみます。608の続き的な感じです

転校生エンリケが来てから早一週間が経つ。ノロティのおかげで、県内一の不良と恐れられた
エンリケもクラスに馴染めるようになり、実はいい人であることが判明してからは
男女ともに親しまれている。相変わらずの無愛想さと仏頂面のため、本人がクラスメートを
どう思っているかははっきりとは分からないが、満更でもなさそうであった。
ある日の放課後。2階の生徒会室の窓からふと、長い黒髪の美少女が外を覗く。生徒会副会長にして、
学校のマドンナであるユーリ・ハムローだ。才色兼備の上実家が豪邸という超お嬢様で、
美貌、才能、経済力の全てを兼ね備える彼女に憧れを抱く者は多い。唯一の欠点は、今現在生徒会室
のソファに横たわり、苦しげに咳き込む双子の兄を溺愛し過ぎている点である。そう、重度のブラコン
なのである。その彼女が窓から見ているのは、転校生のエンリケ=ビスハイルと、クラスのマスコット的存在
のノロティ=マルチェ。彼が転校して以来、普段の学校生活で何かと一緒に居ることの多い二人。
互いに恋愛に疎い性質のため、つきあっているわけでは全くない。しかし、県内一の不良と誰からも愛される
心優しい少女という一見真逆の二人が仲睦まじくしている様子は、素直に可愛らしく思える。今日は部活がないのか、
放課後エンリケと一緒に下校していくノロティの姿が見える。エンリケは一切無表情であるのに、何が楽しいのか、
ノロティの方は無邪気に笑っている。生徒会としても、転校生が学校に馴染めていることは素直に嬉しいのだが、
二人を見つめるユーリの表情は厳しい。窓から二人の姿が見えなくなったところで、ユーリはソファに横たわる兄の方
を振り向く。
「お兄様、咳の方は落ち着きまして?」
「ゲホッ、ゴホッ!・・・はぁ、すまない・・・もう大丈夫だ。」
この病弱な男は、ユーリの双子の兄にして生徒会長のユキゾナ=ハムローである。5月になり、少し汗ばむ気温に
なってきたにもかかわらず、制服の冬服の下にセーターを着用し、顔にはマスクという、見ていて暑苦しい服装である。
生まれつき難病を抱えているため、夏でもこの服装にしなければならないというのである。本来クラスで最も労るべき
生徒なのだが、その気難しさと生真面目さ、そしてちょっと根暗な性格のせいか、本人が真面目に生徒会長の仕事を
すればするほど野次が飛ぶ。根が繊細な性格であるため、野次られると大体ストレスで病状が悪化してしまう。
今寝込んでいるのも、生徒総会で中間考査前の勉強について呼びかけた途端に野次が飛んだせいである。どさくさに紛れて
担任のハミュッツまで混じって叫んでいたため、今日は吐血までしてしまった。
「さ、お兄様。暖かいコーヒーでも飲んで、ゆっくり休んで下さい。」
ようやく落ち着いた兄に、慈愛に満ちあふれた優しい笑みでミルクコーヒーを差し出すユーリ。
「ありがとう、ユーリ。ところで、前に話した転校生の件だが・・・」
「ええ・・・まだ部活の登録はしていないようですわ。」
「そうか・・・。まさかお笑い研究会に入部希望者がいたとは。こんなことになるなら、あと一年
 様子を見るべきだったな。」
二人が抱える問題とは、エンリケの部活の件である。転校初日で彼が入部希望を明かした
お笑い研究会は、昨年生徒会が経費削減のため取りつぶしてしまったのである。十数年前まで
学校が誇る文化系の部活の一つであったが、お笑いブームも廃れている近年では、入部する者も
いなかった。誰も入っていないからと、安易な気持ちで先代の生徒会長が取りつぶしを決定したの
だが、よりによって次の年に入部希望者・・・しかも、中学時代は警察でも手のつけられない不良
だったと噂される男が現れるとは、想定外だった。正直にその部が廃部になったことを告げようか
とも思ったが、そのことで生徒会に報復が来ないとも限らない。本人の様子を見る限り、確かに
それほど悪い男には見えなかったが、念には念を入れなければならない。何とか穏便に事を済ませるための
方法に、兄妹は頭を悩ませる。転校後一週間が経ち、そろそろ部活のことで動き始めるはずだ。

611:名無しさん@ピンキー
14/09/19 12:49:10.19 lFbXJ9vG
「お笑い研究会の件は仕方のないことですわ、お兄様。そもそも廃部にしたのは先輩方の代でしたし、
 お兄様が気に病む必要などありませんわ。」
「だが・・・、あんな昭和の香りを漂わせた不良が、お笑い研究会に入りたいと言ったんだぞ。
 これはもう、『一見怖いけど実は心優しい気の良いヤンキー』というテンプレのパターンではないか。
 本当に申し訳ないことをしてしまった・・・」
「・・・お兄様の口からそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたが、どちらにせよ、その部活の事は
 諦めるしかありませんわ。生徒会規則では、一度廃部になった部を再び設立するには最低2人以上の
 入部希望者がいることと、教員全員の承認が条件と書かれています。入部希望者がエンリケさん一人では、
 どうしようもありませんわ。」
「やはり、他の部を推薦するしかないか・・・」
腕を組み考え込む二人だが、そんなとき、廊下をバタバタと走る音が近づき、生徒会室のドアが
勢いよく開かれた。思いも寄らない人物が現れ、双子は目を丸くして驚く。
「はぁ、はぁ・・・し、失礼します!」
「ノロティさん!帰っていたんじゃありませんの?」
彼女は先程エンリケと一緒に帰っていたはずだ。全力で走ってきたのだろう。顔には汗をかき、
膝に手を当てながら荒い息を吐きながら呼吸を整えている。
「ごめんね、ユーリさん・・・!今日借りてた英語のノート、借りっぱなしだったから」
先週公欠した分の授業の記録を見せるため、ノートを貸していたのだ。返し忘れたことに気付いて
慌てて戻ってきたのだろう。
「まあ・・・別に明日でも良かったのに」
「いや、まだ学校からそんなに離れてなかったし、借りっぱなしは良くないから」
「だって、エンリケさんと一緒に帰っていたじゃありませんの。なんだか悪いですわ。」
「ううん!エンリケさん、待っててくれるって言ってたから、気にしないでいいよ。
 あたしこそ、活動中なのにごめんね。」
タイプの違う美少女が二人、友人同士の会話をしている様子を眺めていたユキゾナは、ふと思いついたこと
をノロティに聞いた。

612:名無しさん@ピンキー
14/09/19 13:07:55.03 lFbXJ9vG
「そういえばノロティ。エンリケはまだ何部に入るか決めていないのか?」
「え?ああ・・・やっぱり、お笑い研究会には入りたいみたいでしたよ。明日部活見学したいって言ってました」
「・・・やっぱりそうか。」
予想した通りの回答に、ユキゾナは頭を抱えため息をつく。
「え!?な、何か問題なんですか?」
「そうね・・・ノロティさんになら言っておいてもいいかしら。・・・実はね、エンリケさんが入りたがっている
 お笑い研究会は、昨年廃部になりましたの。」
「ええ~!?」
ブルーの瞳をまん丸にしてノロティは驚く。確かに聞いたことのない部活だとはノロティも思っていた。
しかし、活動内容不明の部や、マニアックな同好会は他にも腐るほどあるため、
大して気に留めてはいなかった。だが、転校をしてまで入りたがっていた部活がタイミングのずれ
で廃部になっていたとエンリケが知ったらどうなることか・・・。
「そ、それって・・・もう一度部活を復活させるとかはできないんですか?」
「無理だ。一度廃部になった部を立て直すには、二人以上の部員と先生方全員の承認が必要になる。
 碌に活動実績のなかったお笑い研究会に、先生方全員が承認するとは思えん。」
「そんな・・・。じゃあ、他の部活にするしかないってこと?」
「今のところは申し訳ないが、そうしてもらう以外にない。ノロティ、生徒会の中には溺高から来たあいつを
 警戒する者もいる。正直、俺も今回の件のことがあいつに知られたらどうなるか不安なところがある。
 これは俺からの頼みなのだが、お笑い研究会が廃部になったことはあいつには告げずに、他の部を薦めてみてはもらえないだろうか」
「う~ん。でも、そこはやっぱり正直に言った方が・・・」
「私からもお願いですわ、ノロティさん。エンリケさんのことを全く信用していないわけではないけれど、
 万が一お兄様・・・いえ!生徒会に危害が加えられることがあってはなりませんの!どうか、協力して下さらないかしら」
ここまで懸命に頼み込まれては、さすがにノロティも嫌とは言えなかった。エンリケの意気込みを知る立場としては
彼の望みを叶えてやりたいが、規則で禁止されている以上どうしようもないことだ。それに、まだ他の部のことも知らないはずだから、
もしかしたら心変わりするかもしれない。
「・・・わかりました。明日エンリケさんに他の部のことも話してみます」
「ありがとう、頼みますわ。」

次の日の朝、教室でエンリケに会ったノロティは早速他の部の見学を薦めることにしてみた。

613:名無しさん@ピンキー
14/09/20 12:14:50.92 Zi+n+sWE
続きです。

「何?他の部活の見学?」
「はい!せっかく色んな部があるんですし、色々見て回ってから決めるのもいいんじゃないかと思って」
「しかし・・・俺はもうお笑い研究会に入ると決めている。そのためにこの高校に来た。」
エンリケは怪訝そうな顔でノロティを見つめる。何とか上手く説得できないかと、前の夜に必死に考えた言い訳を試してみる。
「あ、でも!エンリケさんの話では、笑いたいからお笑い研究会に入りたいんですよね?あたし、考えたんですけど、笑うといっても色んな笑いがあると思うんです!
 あたしが入ってるチア部だって、皆と練習してると楽しくて自然に笑顔になりますし、他の部活の子もそうだと思います。こう~、青春を謳歌するというか・・・。
 と、とにかく!心から楽しい、好きだっていう部活に入ることが一番大事なんじゃないかと思います!」
ノロティの言葉を聞き、何か感じるところがあったのか顎に手を当てエンリケは考え込む。ノロティは我ながら良いことを言えたんじゃないかと、心の中で
ガッツポーズをする。しばし考えた後、エンリケが口を開く。
「お前が本当に部活が好きなんだということは、この一週間でよくわかった。そのお前が言うなら、間違いないんだろう。」
「エンリケさん・・・!じゃあ、他の部も見てくれますか?」
「具体的にどこを見るかは決めていないが、とりあえずお前がいいと思ったところがあるなら見てみようと思う。」
「う~ん、良いと思う部活かぁ・・・。実績があるところはたくさんあるけど、難しいなあ。エンリケさんは、スポーツとかは
 興味ないんですか?」
「身体を鍛えることは嫌いじゃない。・・・が、誰かと勝敗を争うことはあまり好きじゃない。」
少し意外には思ったが、好戦的でむやみに人を傷つけたりするような人間でないことは、この一週間でわかったことだ。
「そっか。でも勝敗が関わらないスポーツなんてないしなあ・・・。あ!なんだったら、クラスの人に部活のこと聞いてみましょう!
 皆の話を聞いたら気も変わるかもしれませんし、クラスの子と一緒なら、エンリケさんも楽しめると思います!とりあえず、昼休みに
 なったら、皆の所に話を聞いてみましょう。」
「ああ、わかった」

朝のホームルームを知らせるチャイムが鳴り、朝練のあった生徒も続々と教室に戻ってくる。そんな生徒たちに
席に着くよう促しながら、いつもと変わらないスタイルのハミュッツが教室に入ってくる。出席の確認と簡単な事務連絡をしてホームルーム
は終わり、1限目からハミュッツの地獄の世界史の授業が始まる。一睡でもすれば殺人チョークが飛び、テストで赤点を取ろうものなら
殺人サーブで地球儀を顔面にぶつけられると噂されている。恐怖の1限目を無事やり遂げた後は、フィーキーによる数学の授業が始まる。
こちらの授業は、クラスの半数が寝るか、今日のフィーキーのパンツを予想するのがお決まりとなっている。そんな午前のスケジュールを終え、
ノロティたちは無事昼休みを迎えた。

614:名無しさん@ピンキー
14/09/20 14:25:12.63 Zi+n+sWE
「あ!エンリケさん、こっちです!お弁当持ってきましたか?」
「ああ。大丈夫だから、あまり大声で叫ぶな」
皆が昼食を摂っている教室のど真ん中で大きく手を振りながらノロティがエンリケを呼んでいる。いくら色恋沙汰に疎いエンリケでも、
クラスメート全員がこちらを見てヒソヒソと噂しているのを見れば、流石に気恥ずかしい。というより、この娘に羞恥心とかそういう
ものはあるのだろうか。
「エンリケさん!皆とお昼食べながら、部活のこと聞いてみましょう」
ノロティが向かう方には、同じ部のキャサリロとミレポックが座る席があり、その周りにルイ-クやルイモン、ヴォルケンたち男子の
集団の席がある。男女両方の話を聞けるよう配慮してくれたのはありがたいが、大勢で昼食を食べることに慣れていないエンリケは
少しだけ抵抗感を覚えた。そんなエンリケとは対照に、腕を引っ張るノロティはとても楽しそうだった。
「お!な~に?ノロティ、腕なんか組んで!エンリケ君ともうつきあってるわけ?」
「キャサリロさん、エンリケさんが困ってるでしょう!ごめんなさい、エンリケさん。騒がしいと思うけど、あまり緊張しないでね。」
小柄で小動物を思わせる活発な少女、キャサリロがノロティをからかい、品行方正な優等生のミレポックがそれを制す。このクラスは
性格が全くバラバラの生徒が多いのに、よく仲良くできているものだとエンリケは不思議に思った。その様子を後ろで見ていた男子の集団も
そこに混ざってくる。「なんだよエンリケ、モテモテだなあ!」とルイモンが豪快に笑いながらエンリケの背中を叩く。それを見て困惑しながら
やめろよ、と声をかけるヴォルケンを見て、ますます疑問は大きくなった。その横でルイ-クが何故かいじけていることには誰も気付いていない。
それぞれ持ってきた昼食を食べながら、エンリケの部活の件について話をする。

615:名無しさん@ピンキー
14/09/20 14:34:25.55 Zi+n+sWE
「部活か~。迷ってるんだったら、一度俺んとこのアメフト見に来いよ。高校から始めるやつも多いから、初心者大歓迎だぜ!」
どんと来いと言わんばかりに豪快に胸を叩くルイモン。
「あ、でも、エンリケさんはあまり勝敗を競うことは好きじゃないそうなんです。スポーツ系だと、やっぱりそういう部はないのかなぁ」
「いや・・・そういうのが絶対に嫌だというわけではない。ただ、あまり大人数でやる競技に少し抵抗があるだけだ」
ノロティの言葉に少し訂正を加えて話すエンリケに、静かに話を聞いていたヴォルケンが口を開く。
「それだったら、うちの陸上部はどうかな。個人競技だし、人によって練習のペースやメニューも違うから比較的やりやすいと思うぞ。」
「個人競技か・・・たしかに悪くはないな。」
「ただ、基本的に土日も練習や大会があるから、入るならそこは覚悟した方がいいな」
なるほど、個人種目かとノロティも納得する。エンリケの性格的にも、自己記録を伸ばすことに重きを置いた競技の方が向いているとは思った。
エンリケも少し興味を持っているように見えたが・・・。
「そうか。ところで、その部活ではその・・・笑うことはできるんだろうか?」
いささか唐突で、それまでの流れとあまり関係のない質問がエンリケの口から出たので、その場にいる全員が一瞬固まった。
やっぱりそこに一番こだわるのか、とノロティは思った。
「え?ああ、そうだな・・・。練習は確かに厳しいけど、記録が伸びたときは嬉しい・・・かな。」
困惑しながらも、至って真面目な顔で質問するエンリケに、ヴォルケンは律儀に返す。話しを聞いていたキャサリロが
頭に手をあてながらそういえば、と話を切り出した。
「あんた確か、転校した初日にお笑い研究会に入りたいとか言ってなかったっけ?」
お笑い研究会の真実を知るノロティはビクンと心臓が飛び跳ねるのを感じた。
「ああ~、あれか。実は俺、その部活聞いたことねえんだよな」とルイ-クが首を捻る。
「1年の頃、張り紙を見た気がしないでもないが・・・」
他の生徒もその存在には前から疑問を感じていたようだ。実際、ノロティもエンリケがその名を出すまで存在すら知らなかったのだから無理もないが。
「文化系の部なら他にも結構面白そうなのあるんだけどね。そういえばミレポ、あんた何か部活入ってなかったっけ?」
突然話を振られ、ミレポックは動揺する。ほんの少し、彼女の白いほおが赤く染まったようにノロティには見えた。
「え!?わ、私?え、え~と、一応地学部、だけど・・・(どうしよう・・・、部員が私一人で、鉄錆を落としながら愚痴を言って
 ストレス発散しているなんて、とてもじゃないけど言えない・・・)」
「地学か~、地味な部活に入ってんなあ。」
「でも、なんかそういうの似合うよね~ミレポ」
「な!ちゃんと真面目に研究もしてるわよ!」
「『も』って・・・。」
部活を馬鹿にされ怒るミレポックを周りがなだめる横で、ノロティはエンリケの顔をちらっと見た。皆がお笑い研究会の
存在を知らないと答えたことに、彼はどう思っているのだろうかと少し不安になった。暴走しかけるミレポックを鎮めるため、ヴォルケンが話を元に戻す。
「お笑い研究会のことはよく知らないんだが、新歓や文化祭の時はどの部でも皆ふざけるし、笑いをとる機会もあると思うぞ」
「おう!俺も去年柔道部で女装したんだぜ」とルイ-クもその話題に乗る。その絵面を想像し、エンリケは少し吐き気を催した。
「まあ、どの部活もそれぞれ面白いところがあるって話よ。まだ一週間しか経ってないんだし、ゆっくり考えてみたら?」

それぞれの部活の話を一通り聞いたところで昼休み終了のチャイムが鳴り、皆次の授業の準備に取りかかっていった。ノロティも準備をしようとしたところで、
エンリケが後ろから呼び止めた。
「放課後少し話がある。帰りに教室に残ってくれないか」
ノロティはそれが部活のことだと何となくわかった。やはり皆の反応を聞いて多少違和感を覚えたのだろう。ユキゾナとユーリには悪いが、
やはりこのままエンリケに嘘をつくわけにはいかないと判断し、ノロティは「わかりました」と答えた。

616:名無しさん@ピンキー
14/09/21 23:26:51.35 KZ8KvE89
放課後、部活に遅れる旨をキャサリロに伝えたノロティは、約束通り教室に残った。
二人以外に教室には誰も残っていない。
「エンリケさん、お話って何ですか?」
「・・・ノロティ、お前、何故部活のことを俺に隠す?」
「・・・やっぱり、気付いてたんですね。」
予想していた通り、エンリケはノロティが隠していた真実に気付いてしまっていたようだ。
「この学校に来てから部活の張り紙を見て回っていたが、お笑い研究会だけはどんなに探しても見つからなかった。
 それに・・・今日のお前の様子は、どこか変だった。」
自分でも人に嘘をつくことは苦手だと自覚していたが、案の定、エンリケには今日の自分が不自然に映ったようだ。
頼まれたこととはいえ、隠し事をしてしまった申し訳なさに胸が締め付けられそうになり、ノロティは頭を深く下げた。
「エンリケさん・・・ごめんなさい!実は、エンリケさんが探してた部活、事情があって廃部になってしまっていたんです。
 エンリケさんがそこに入るためだけに転校してきたって聞いて、その・・・、落ち込んでほしくなくて・・・本当に、ごめんなさい。」
「いや、別にいい。とにかく、顔を上げてくれ。・・・俺まで辛くなる」
その言葉で顔を上げると、いつもの仏頂面ではなく、狼狽した表情を浮かべたエンリケがいた。彼が転校してきてから初めて見せる表情だった。
「す、すみません。」
「だから、謝るな。それに、どうせお前一人の意志で隠していたわけではないんだろう。」
「え!?な、なんでそこまで・・・?」
ノロティが生徒会から頼まれていたことまでは、いくらなんでもエンリケは知らないはずである。心の奥底まで見透かされているようで、
ノロティは驚くと同時に、少し怖くなった。
「お前が嘘をついているのはすぐにわかったが、まるで誰かに言わされているような感じだった。俺に廃部のことを知られて、困る連中がいるのか?」
その問いに、ノロティはどうしても答えることができなかった。学校の中にまだエンリケのことを信頼していない者がいるなどと伝えれば、
エンリケはきっと傷付くだろう。長い沈黙の後、エンリケが先に口を開いた。
「・・・話せないのならそれでいい。どうせ、廃部が知られれば俺が暴れるとでも考えたんだろう」
どうして何も話していないのにそこまで分かるのか。そんな目でノロティはエンリケの顔を見ていた。顔に思っていることが全部書いてあるなどと、
本人は全く気付いていないのだろう。ノロティは何とかして、エンリケを元気づけようとしていた。
「エンリケさん!皆がエンリケさんのことをそんな風に思っているわけじゃないんです。きっと、エンリケさんのことをよく知らないから、怖がってるんだと思います。
 だから・・・この学校のこと、嫌いにならないでくださいね」
「安心しろ。別に気にしてなんかいない。人から恐がられるのには慣れている」
学帽の鍔を摘み、顔を隠すようにエンリケは帽子を下げた。エンリケが過去どのように日々を過ごしていたのかはノロティは知らないが、
色々と辛いことがあっただろうことは想像がついた。ノロティはふと、気になっていたことを聞いてみた。

617:名無しさん@ピンキー
14/09/22 01:01:04.18 PBy2nK7v
「エンリケさんは、その、お笑いとか見るのが好きなんですか?転校してきてからずっと笑いたいって言ってましたけど、それって・・・?」
エンリケはとにかく笑うことにこだわりを持っているようだが、ほぼ万年仏頂面であろうこの男が、夕方のお茶の間で笑点などを見て
笑ったりしているのだろうか。何となく、単にお笑いが好きだという理由ではなさそうだとは思っていた。案の定エンリケは「いや、見ない」と即答していた。
ノロティの質問に、エンリケは学帽で顔を隠したまま、恥ずかしそうに俯いた。やはり聞いてはいけないことだっただろうかと身構えたが、やがてエンリケは小さい声で語り出した。
「小さい頃に医者に言われたのだが、どうも俺は、顔の表情筋が尋常でなく固いらしい。今まで訳も分からぬまま街の不良に絡まれ続けてきたが、ここ数年になって自分の顔に愛想が
 なさすぎるのが原因だと気付いた。笑えるようにならなければ、俺はきっと一生不良に絡まれ続けるだろう。それに、『笑う門には福来たる』という言葉を最近知ったんだが・・・このままでは
 一生幸せになることができないんじゃないかと思ってな・・・」
「エンリケさん・・・!それで必死にお笑い研究会を探してたんですね」
「ああ。だが、無い以上はもうどうしようもない。諦めて他の部を探すしかないだろう。時間をとらせてすまなかった。もう部活に行っていい」
そう言ってエンリケは少ない荷物をまとめて教室出口へ歩いて行く。そのとき、ふとある考えが頭に浮かびノロティはエンリケを呼び止めた。
「あ、待って下さい!ひとつだけ、お笑い研究会を復活させる方法があるんです!」
ノロティの言葉に、下駄の音がぴたりと止まる。
「部活を復活させる・・・?そんなことが可能なのか?」
「要求が通るかは分かりませんが、不可能じゃないと思います。」
その方法は、以前ユキゾナたちから聞いたものだ。エンリケ以外のもう一人の部員を探し、生徒会を通し先生方全員の承認を得ることだった。
条件をエンリケに説明するノロティだが、対してエンリケは腕を組み深く考え込む。
「しかし、俺以外にこの部に入りたがるやつがいるとは思えない。それに・・・俺はてっきり部活の指導者がいるものだと思っていた。
 仮にもう一人部員が増えたとしても、そいつと二人だけでやっていけるとは思えん。」
不安を口にするエンリケだが、なぜかノロティの表情は自信満々であった。何か策があるのだろうか。
「大丈夫ですエンリケさん!あたし、絶対に引き受けてくれる人たちを知ってます。任せて下さい!」
「『人たち』・・・?まさか、部員の他に顧問まで見当がついているのか?」
「はい!今からその人たちに話をつけてきます。絶対に楽しい部活をつくってみせますから、安心して下さいね!」
言うや否や、困惑するエンリケを置いたまま少女はバタバタと廊下を走っていってしまった。果たして本当に大丈夫なのだろうかというエンリケの不安は、
次の日物の見事に的中する事になる。

「・・・どうしてこうなった。」
翌日の昼休み、顔合わせがあるからと生徒会室に呼び出されたのだが、その部屋にはノロティの他はエンリケとユキゾナしかいなかった。
「おい、ノロティ・・・まさかとは思うが、こいつが入るんじゃないだろうな?」
「何言ってるんですか、エンリケさん!昨日事情を話したら、快く引き受けてくれましたよ。」
「・・・全く快く引き受けたように見えないんだが。」
生徒会室のソファでは、顔を両手で覆い静かに涙を流しているユキゾナが横たわっている。廃部の件で責任を感じていたのと、
クラス一心の優しい少女の頼みを断り切れなかったことが入部を引き受けてしまった原因だろう。そのことに恐らくノロティは気付いていない。
天真爛漫な笑顔を浮かべるノロティは、そんな二人に更なる恐ろしい宣告をするのだった。
「あと、マットアラスト先生に事情を説明したら、すぐに演技指導を引き受けてくれました!3人で楽しい部活を作ろうって、言ってましたよ。」
恐らくきっと、「楽しい部活」ではなく「楽しい映画」の間違いだろう。ソファから吐血する声が聞こえるとともに、エンリケは窓の外の晴れ渡る青い空を見つめた。
「空が、綺麗だ。」


長くなってしまいましたが、これで終わります。ぐだぐだで申し訳ないです。

618:名無しさん@ピンキー
14/09/22 22:27:22.86 2ogfn0xX
完結、乙です!
やっぱノロティ可愛いよノロティ

>ハミュッツ先生の殺人チョーク
これ、比喩じゃなくて本当に殺しちゃうよね
マジ喰らいたくねーw

619:名無しさん@ピンキー
14/09/22 23:57:29.83 RW7PK+cE
毎回オチに使われるマットさんかわいそう…

620:名無しさん@ピンキー
14/09/23 01:11:08.41 mbPfZhzO
>>618
シリーズ完結みたいな締め方しちゃったけど、今後も思いついたときに投下していく予定です!
ハミュッツ先生の馬鹿力はこっちの世界でも健在です。手加減はしてるけど本気でやったら死人が出るでしょうねw

学パロは妄想ばっかり浮かんできて辛楽しい・・・というわけでまた妄想してしまった
本編はジャズやクラシックしか出てこないけど、学パロでは普通に色んな音楽があるので、それぞれ聞いてそうな音楽想像してみた

ハミュッツ→ミッ〇ィーのテーマがお気に入りで、よく鼻唄を歌う。カラオケの十八番はキューティーハニー
マットさん→クラシックからロックまで幅広く。一番好きなのはジャズで自分でも弾けちゃうモテ男。カラオケでは女子ウケのいい曲を完全マスター
ミレポック→音楽を全く聞かない派。クラスでカラオケ行くことになってから慌てて練習する。音痴だと可愛いです///
ノロティ→恋愛にはすごく疎いのにラブソング聞いて泣いちゃう子。aikoとかmoumoonみたいな女性シンガーの曲聞いてるの希望
エンリケ→尾崎豊の15の夜は名曲。歌わないけど演歌も好き。
ヴォルケン→音楽聞かなさそうに見えるけど実は聞いてる。純粋な子なのでスピッツとかスキマスイッチとかのイメージです。
モッカニア→レナスさんが好きな曲は何でも好き。女性ボーカルの曲をよく聞いてたけど、病んだ勢いでロキノン系にのめり込む。
ルイモン→ロックとかラップとかアメリカン?なイメージ。(ルイモンさんニューヨークにいそう)
ルイーク→モテない現実逃避でアイドルの追っかけになる。AKBのライブには必ず行く
キャサリロ→男性女性問わず、アイドル系の曲とかとにかくノリのいい曲が好き。カラオケでは振り付けも完全マスターしてる。
オリビアさん→見た目恐そうだけど、実はしっとり系のバラードが好き。美声で中島美嘉とか歌う。
テナちゃん→テクノ系やボカロ、アニソンとか聞いてそう。電波系天然って司書の中では結構特異なキャラだと思う
ハムローさんち→主にユーリさんが兄と歌いたいがために、わざわざデュエット曲をチョイスする。ユーリ個人はディ〇ニー映画の曲が大好き。
アルメ→ヘヴィメタやらヤンデレソングやら聞くけど、実はクラシックの造詣が深いといいです。
シガル→河村隆一。以上

621:ノロティ
14/09/23 21:04:38.55 BqE1O/al
あたしのよさがなかなか良く出てて気分は良いわね。

よし100点よ。

622:名無しさん@ピンキー
14/09/25 15:26:31.78 l325Y1w0
キャラの設定、よく考えてあって面白いです
司書は殺伐とした話が多かったから、日常SSも大歓迎!です

>>619
マットさん、カッコよくて強くて金持ちでオシャレですからね、
「イケメンの醜態ほど笑えるもんはなかね」みたいなw

623:ノロティ
14/09/25 15:52:51.08 /4U0U7p8
世界はあたしのも

624:名無しさん@ピンキー
14/09/25 18:20:48.13 D6GpcTeo
>>619
いやな思いしちゃってたら本当にごめんね!
これでもマットさんは大好きですよ!

真面目な話を書こうとすると、本編思い出して悲しい話しか書けなくなっちゃうもんで・・・
設定はアニメ原作とDVD特典小説の描写をもとに考えてるけど、書いてるうちにふざけるのでキャラは普通に崩れると思うorz
読み返したら本当にマットさんの残念なとこしか書いてなかったんで、ちゃんとしたところも書きます(書けるといいな・・・)

625:名無しさん@ピンキー
14/09/25 19:21:52.16 D6GpcTeo
学パロ4話目です。マットさんとハミの出会いで、ちょいシリアスです。


その日、マットアラストは夢を見た。十年以上前から定期的に見る、あの夢だ。

あれは悪夢というのだろうか。夢の中の自分は血を流している。
辺りは雪のように真っ白に染まっており、そこに自分のスーツの黒と点々と滴る血の赤だけが存在する。
何もない景色の中を、何故か自分は必死に歩いている。血を流しているというのに痛みはなく、
雪の冷たさも感じない。感じるのは焦燥と、今まで生きてきた中で感じたこともないとてつもない
恐怖だった。自分は誰かを探しているのだ。あの人のところへ行かなければならない。その人のところへ
行き、何かを成し遂げなくてはならない。時間の概念すら存在するか怪しい、空虚な空間に突如終わりは来る。
目の前に巨大な物体が突如現れ、マットアラストの歩みはそこで妨げられる。
―それは黒い、巨大な針だ。
夢の中の自分がその針の頂を見てはならないと叫ぶのに、その先を見ずにはいられない。空を見上げ、そこでようやく
自分のいた空間がただの虚空でないことに気がつく。天には雲があり、そこから真っ白な雪が舞い落ちてくる。
いつも見上げるあの空であることに変わりは無い。どうしようもなく虚しく、クソみたいにつまらない現実と同じ空だ。
しかし、そのひどく現実的な空に映る光景を、自分は受け止めることができない。見上げた針の先から、自分の身体から流れ出ていた
ものと同じ色が滴り落ちてくる。真っ白な雪と、毒々しいまでの赤とのコントラストが視界に飛び込んでくる。

そして、現実と虚空の狭間にある針の先に目を懲らそうとしたところで、この夢は終わる―。


「・・・おい、起きろ。」
無愛想な声とともに、マットアラストは目を覚ました。まだ夢から覚醒しきれていない頭は、
ここが現実であるかどうかをすぐには判断できず、数秒ほど辺りを見渡した。そこは学校の敷地内にある土手だった。
そうだ。空きコマの時間に煙草を吸いに外へ出て、あまりに良い天気だったのでその土手に寝転んでみたのだった。
まさか生徒に起こされるまでそこで爆睡してしまうとは思わなかったが。
「ん・・・ああ、エンリケ君か。起こしてもらって悪いね、今何時間目だ?」
名前を呼ばれた白銀の髪の生徒は小さく息を吐き、昼休みがもうすぐ終わりになることを告げた。
「まいったな・・・。3限目はB組の英語じゃないか」
「だから、さっさと教室に来いと言っている。委員長が怒っていたぞ」
「やれやれ、わかったよ。支度したらすぐ行くから、それまで各自自習しておくように伝えてくれ」
いつもの飄々とした態度ではあったが、どことなく普段と違うものを感じ、エンリケは眉を顰めた。
「なんだい、エンリケ君。俺の顔に何か付いてるのか?」
「・・・いや」
相手のちょっとした表情の変化にすぐに気付くその鋭さは相変わらずで、エンリケは気のせいだったかと思い直す。が、その後すぐに
やはり気のせいではないと確信する。
「・・・髪に、テントウムシが付いてるぞ。」

626:名無しさん@ピンキー
14/09/25 22:34:08.68 D6GpcTeo
放課後になり、マットアラストは何とは無しに、社会科資料室の扉を開ける。
そこには、いつものように鼻唄を歌いながら呑気に刺繍しているハミュッツの姿があった。だらしなく開いた胸元も、
碌に化粧を施さないそばかすだらけの顔も相変わらずだったが、一つだけいつもと違う箇所があることに気付く。
「あら、授業終わったのう?お疲れ~マット」
「・・・なあ、今日髪どうしたんだ?」
「ん~?ああ、これ?」
いつも黒のリボンで無造作に纏められた髪型ではなく、十数年ぶりに見る姿だった。豊かな黒髪を後ろでざっくりと編み上げ
背中に垂らした髪型だった。なぜか唐突に昼間見た夢のことを思い出した。
「懐かしいでしょう?まだあんたと付き合ってたときはこの髪型だったもんね~」
まるでこちらの夢のことを見透かされているような心地になり、微かに心臓が跳ねるのを感じた。
「ああ、そうだったな。でも、何でまた急に・・・」
「別に~。何となく懐かしくなっただけよう。」
それだけ答え、ハミュッツはまた黙々と針を動かし始める。出会って十数年になるというのに、変わらず作り続ける
謎のウサギの胸を針が貫いたのを見たとき、ひどく嫌な気持ちになった。
「どうしたの?何か、顔色悪いわよう。」
「・・・夢を見た」
「前からよく見るやつ?」
「ああ。しばらく見てなかったんだが、こう久々に見るとどうにも落ち着かなくてな。」
「授業サボってばっかりいるから、罰があたったのよう。・・・にしても、ほんと不思議よねえ。まさかあんたと二人で母校で教鞭を振るうなんて。
 正直、あんたが教師なんて想像すらつかなかったわよう」
「おい、あの時の話はしない約束だぞ、ハミ」
昔を思い出したハミュッツは、こちらの顔を見てクスクスと笑う。思い出したくない記憶を掘り返され、マットアラストは思わず顔をしかめた。

二人はこのバントーラ高校を十数年前に卒業した生徒で、しかも元同級生だった。
しかし、当時は今の仲の良さが嘘のように、互いに互いを嫌悪していた。二人とも優秀な生徒だったが、マットアラストは家庭環境が冷え切っていたせいか、
教師も手をつけられない不良であった。方やハミュッツは、規則にルーズで破天荒な性格、おまけに容姿に無頓着な野暮ったい風貌で、
クラスでも浮いた存在だった。同じくクラスの輪から外れた二人であったが、そこで連帯意識が生まれるようなことはなかった。むしろ、そんな調子の
ハミュッツをマットアラストがふざけ半分でからかい、そんな子供染みた彼の痛いところをハミュッツが的確に突いたことで、仲は最悪になった。
ことある毎に殴り合い、いや、殺し合いというにふさわしい派手な喧嘩を二人は三年も続けたのだった。
何故その関係から今に至ったのか。正直なところ、マットアラストは自分でも分かりかねる部分がいくつもあった。ただ、はっきりとその関係が変化したと
感じたのは、二人が学校を卒業した日だった。せっかくの高校生活を、こんな奴にほとんど費やすことになるとは。そんな気持ちで、最後に一言何か言って
やろうとハミュッツに近寄ったのがきっかけだった。
「ねえ。」
先に話しかけてきたのは向こうが先だった。こちらから言ってやろうと思っていたのを邪魔され、気分は最悪になる。最後に挨拶くらいは交わしてやろうと思っていたが
そんな気分も台無しになった。
「あ?なんだよ」
「あんたさ、大学出たら何になるの?」
思いもよらぬことを唐突に聞かれ、胸にこみ上げていた怒りは完全にかき消えてしまった。そして、丸い銀縁眼鏡の奥の瞳が決してからかいで聞いているわけでは
ないことを伝えていた。完全に調子を狂わされたマットアラストは、困ったように首の後ろを掻いた。
「・・・何って、親の会社の後を継ぐよ。昔から、俺のことなんざ単なる跡継ぎの道具としか思っちゃいない連中なんでね。今更刃向かったところで、俺に何か見返りがあるわけ
 でもなし。このまま合理的に生きていくさ」
関係の冷え切った家族の話は、マットアラストが最も話したくない話題の一つだった。その話題が、まさか自分の口から飛び出るとは思わず、そのとき既に何かが変だとは
感じていた。一方のハミュッツは、自分から聞いたくせに、三つ編みの先を弄りながらつまらなさそうに聞いていた。
「ふ~ん。意外と従順なんだ、そういうところ。」
「そういうお前は何になるつもりだよ」
むっとした口調で聞き返すマットアラストだったが、その問いの答えを聞いたあと、驚愕のあまり思わず目の前の少女の正気を疑ってしまった。

627:名無しさん@ピンキー
14/09/25 22:36:33.97 D6GpcTeo
「・・・お前それ、冗談じゃないだろうな?」
「何言ってんのよう。最後に嘘吐くわけないでしょう?本気よう。あたし、この学校で先生やるの」
校則はおろか、社会の常識そのものを覆さんばかりの無茶苦茶なこの女が、人を指導する立場になれるのかと思った。
「何でまた教師なんかになろうと思ったんだ?・・・お前、教師どころか、学校自体大嫌いだろう。」
「・・・やだ、何でそんなこと分かるの?」
隠していたつもりだったのか、ハミュッツは本気で驚いていた。しかも、大の学校嫌いであることについても一切否定はしなかった。
「お前、そんなんで本当に教員になるつもりか?まさか、楽だからなろうなんて考えてるんじゃないだろうな」
「楽だし、お給料も安定してるから。決まってるでしょ?」
呆れるほど平然とそう答えるハミュッツに対し初めは驚き、しかし段々と怒りが湧いてくるのを感じた。ふざけるな。お前も自分の都合で子供を振り回すのかと。
心のどこかで、とうの昔に失ったと思っていた正義感が叫びを上げているのを感じていた。同時に、何故自分はそんな綺麗事を、一番嫌いなはずの相手に求めているのだろうか
と頭の片隅で考えていた。
「・・・お前、いくら何でも世の中舐めすぎだぞ。他人の子供の命預かって、その未来まで考えて導くのが教師の仕事だろう。お前なんかに教師の仕事が務まるとは思えない。」
らしくない説教までしてしまったことに、言った後で後悔した。しかし、マットアラストをからかうでもなく、ハミュッツは「そうかもね」とあっさり認めた。
簡単に開き直るその態度に余計腹が立ち、更に一言言おうとしたところで、ハミュッツは言った。
「でも、あんたとおんなじでしょ?合理的に生きる。ただそれだけよ」

卒業した後も、大学を出て社会人となった今も、その言葉は忘れられなかった。その言葉を言われたとき、内心では「違う」と否定したかったが、結局何も言い返すことが
できなかった。ただ周りの状況を諦めて、心の中で望んでいた信条も平然と捨てて生きてきた。結果的に周りにも迷惑をかけず、自分の利益に害をなさなければそれでいいと、
「合理的」であることを言い訳に、流されてきたことに気付かされたのだ。そのことに気付かされた時には、自分は望みもしない親の金融会社に入り、理不尽のはびこる世界の中で生きていた。
例の夢を初めて見たのが、ハミュッツのその言葉を聞いた日の夜だった。夢には自分一人しか出てこないはずなのに、巨大な針が出てくる度に何故かあの嫌いだった女の
顔を思い出すのが、初めはどうしようもなく胸糞が悪かった。
出世していく度、以前からクソ食らえと思っていた親の会社の、更なる悪の面が見えてくる度、何度も何度も同じ夢を見た。他人の利益の為に財産をむしり取られ泣く家族、
会社内の競争で、汚い手で貶められていく同僚。そんな姿を見る度、自分は何度もあの不気味な針に遭遇するのだ。
あの針の先にいるのは、誰なのだろうか?一つ確信を持てるのは、あれは、自分が救うはずだったとても大切な何かのはずだったということだ。その姿はいつも見ることができないが、
代わりとして、決まって彼女のあの言葉が目覚めの後に木霊する。あの針の夢を恐れると同時に、マットアラストは夢の女の声に救いを求めていたのだと理解するようになった。
その頃になりようやく、マットアラストはハミュッツに抱いていた本当の想いに気がついたのだった。
会社の経営が傾いたところで、マットアラストはそれまでの地位も、家族との縁も全て絶ち切り、金融会社を退職した。
関連企業や取引先企業との繋がりも全て断ち切られ、マットアラストは完全にその世界から隔絶された。全く、仕事はできない癖にこういうことには用意周到だと鼻で笑ってやったが。
退職後、今まで貯めてきた莫大な財産で大学を入り直し、マットアラストは教師の道を歩むことにした。
全くの自分の信念でその道を選んだのかと聞かれれば疑問は残るが、それでも、前の職に比べれば遥かにマシな仕事だと思えた。働かない理事長に、学校一恐れられる
存在のイレイア・・・自分がいた頃と何も変わらない学校が、そのとき初めて愛おしいものに感じられたのだった。

628:名無しさん@ピンキー
14/09/25 23:06:41.74 D6GpcTeo
着任式当日、以前学校に送った荷物が社会科資料室にあると言われ、マットアラストはその部屋の扉を開いた。そこで見たのは、高校卒業時と変わらない、あの野暮ったい女の姿だった。
マットアラストの方は、彼女が絶対にここにいると確信していたが、ハミュッツの方は全くの想定外だったようで、眼鏡の奥の瞳がまん丸に見開かれていた。
「・・・嘘、でしょ・・・?何で、あんたがここにいるのよ」
「よう。ちゃんと働いてるみたいだな。ハミュッツ先生?」
久々に再会した同級生は、高校時代のあの不良とは思えない、品のある大人の男性に成長していた。その姿を見つめるハミュッツの表情に、微かに女の色が浮かんだ
のをマットアラストは見逃さなかった。卒業した後の長い時間、あの不気味な夢だけでつながっていた女性がちゃんと目の前にいるかどうか確かめたくなり、ハミュッツの
了解を得ることなくその身体を抱きしめた。突然抱きつかれたハミュッツは完全に動揺し、手足をばたつかせて暴れていたが、そんなことには構わず、ただその身体の温もり
を確かめた。彼女をこうして抱いたのは初めてであるのに、不意に懐かしさが胸をこみ上げるのを感じた。


―数年の時を経て二人は完全に和解した。その時から、付き合ったり別れたりを繰り返す奇妙な間柄となっている。あの不思議な夢はその後見る回数は少なくなっていったが、
たまに見たときは、なぜかとてつもなく不安な気持ちに苛まれた。最初に夢のことを打ち明けたときには、腹を抱えてハミュッツは笑っていたが、マットアラストがその後口を
聞いてくれなくなったので、今ではちゃんと話を聞くようにしている。
「ふ~ん。ここしばらく見てなかったのに、珍しいわねえ。ま、そんなに気にする事じゃないわよう、きっと」
「・・・だといいんだがな」
「マットって、意外とロマンチストっていうか、結構そういう夢とか迷信とかなんだかんだで気にするわよねえ。昔から」
「馬鹿言え、男は皆ロマンチストだよ。」
「はいはい。でも、仕事サボった罰っていうのは当たってる気がするのよねえ。ちょっと初心に返ってみたら?」
言われてみれば、この夢を見た最初の頃、自分の求める信条やら生きていく上での合理性やらで、様々な葛藤に苦しんでいたのを思い出した。周囲の流れに乗るまま、
様々な悪事に手を染めなければならなかったあの頃が特に夢見が悪かった。あの夢は、自分が無意識のうちに心の中で飼っていた警告のようなものなのだろうか。
明日から気をつけるよ、と返したマットアラストは、ふと気になったことを聞いた。
「なあ。君はどうして、教師になろうと思ったんだ?あのときと同じ答えだったら、君はとっくにこんな仕事辞めてると俺は思うよ」
自分の歩む人生まで大きく変えたこの女の答えを、ずっと知りたいと思っていた。彼女は何を思い、何を目的に生きているのか、それはどんなに考えても分からなかった。
完成したアップリケを机に置き、ハミュッツは大きく伸びをする。そして、少し考え込むように頭を掻いた後、一言だけ答えた。
「う~ん・・・忘れちゃった」

4話目はこれで終わりです。相変わらずの駄文ですが、マットさんとハミの関係を書けて満足です


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