13/04/21 15:27:33.52 MgqrQtv0
>>687
「その認識をこれから変えていくの。さ、それじゃあボク、お姉さんと一緒にお布団に入りましょうか」
少年は呻いた。がむしゃら攻撃後に狙い撃ち攻撃を受けて頭にクリティカルヒットしてしまった気分だった。
「けど、これも仕事か。わかっ―」
「オーナー。言うことを聞く必要はないです」
少年は痛みに歯を食いしばる。
「わ、わかった、から、胸元をつねらないでくれよ」
「オーナー、和ゴス装備なんていりませんので早く帰りましょう」
「……お前がそう言うのなら、僕としても構わないよ。でも、今日は僕とお前が初めて会った日なんだから、せめてプレゼント代くらいは稼がせてほしかったな」
「ヤーはオーナーと一緒ならそれで満足」
少年の肩まで上ると、エスパディアは彼の頬に額をつけた。
「オーナーのほっぺ、温かい」
ランサメントがエスパディアを睨みつける。
「見せつけてくれるじゃないの。けれど、私だって今は怪人なの。悪いけれど、君の好きにはさせないわ」
「ね、お姉さん。このバイトってやっぱり最後までやらないとダメ……だよね?」
「お仕事ですので。当然のことね」
だってさ、と少年は肩に乗るエスパディアを手のひらに移した。
真正面から見た彼女の顔は、笑っていなかった。笑ってないのはいつものことだが。
「オーナー、全力でお守りします。主に心を」
「頼むよ。数時間で終わるバイトだから」
エスパディアは力強く頷くと、少年の手から下りてランサメントの前に仁王立ちした。
「ダーが息子が娶ってきたお嫁さんですって? ……ふーん」
棒読みだった。
エスパディアは無表情なまま、視線だけは鋭くなっていた。
「ヤーは息子の母です。この家で勝手な振る舞いをすることはヤーの顔に泥を塗ることになりますので」
またしても棒読みだった。
「出たな! 悪の怪人め! 息子さんをどうする気なの!?」
ランサメントは腕を組んで高らかに叫んだ。自分の設定を押し通そうとする意思が見え見えだった。
「あらこのお味噌汁、薄いったらないわ」
「この怪人は超音波を使う……!? このクワガタ怪人め!」
「いいえ、薄いどころではないわ。味がないのね」
「違う、魔術師タイプね! 成敗してくれるわ!」
「成敗……? 武士を愚弄するか、無礼者……!」
少年は上質な布団にもぐって目を瞑る。
別に仕事内容に反してはいない。室内で好きにしていればいいだけの簡単なお仕事なのだ。
「武士の皮をかぶって悪事を働く秘密組織の怪人め! 許さないんだからっ!」
「お味噌汁もまともに作れない武士など良妻賢母ではないの」
「そこまで言うなら、貴女はまともなお味噌汁を……って、なんか会話変じゃないかしら。オーナーさんが蚊帳の外……はっ!?」
「ふ。ダーは既にヤーの術中にハマっている。オーナーを寝取らせは、しない!」
エスパディアは息を荒くして言い放った。
少年は静かに目を瞑る。
「オーナー。寝てはいけません、仕事内容に反します」