13/04/21 15:25:56.75 MgqrQtv0
>>686
少年は足元を見下ろした。
少年の所有物ではない神姫がいた。
「カブト型神姫ランサメントお姉さんよ。お姉さんって呼んでいいわ」
「インセクトアームズ社の雛型神姫の一体だよね。でもごめんね、僕クワガタ派なんだ。縦に一閃したり横に一閃したりが好きで」
「お姉さんショックだわ……けど燃えるじゃないの! さて、そろそろ時間ね」
言い終わってから、気まずい沈黙と暗闇が続く。
部屋の電気がついた。
「どっこいしょ……あいたたた……どう?」
ランサメントは腰を軽く叩いて立ち上がる。
少年は息を飲んだ。
「どうって、入ってきた時は殺風景だった部屋が、メルフェンな感じになってるぞ……!」
「でしょ? フリフリの装飾に、曲線が美しい机や椅子、腰掛ければ埋もれてしまいそうなソファーに、この道十数年の匠が仕上げた芸術級のお布団」
ランサメントの笑い声は清々しいものだった。
「あと、床に畳みが敷かれてる……これは良い材質……」
「あら、クワ娘さんはわかってるわね。流石は同じ土で生まれた神姫ね」
「クワ娘じゃない。緑青って呼んで。オーナーのつけてくれた名前だから」
「僕、ずっと座ってたんだけど……畳みとかいつの間に」
少年は深くは考えないことにした。
インセクトアームズの 技術って スゲー! と思うようにした。
「この室内で何をしたらいいの」
「良い質問ね緑青ちゃん。今から私は君のオーナーを寝取りますので、緑青ちゃんは全力で防ぎきってくださいな」
エスパディアの目元がキツく絞られる。
「オーナーを取ると……? オーナーの神姫になるのではなく?」
「その通り。私が悪の怪人役をやるから、緑青ちゃんは遠慮なく私を退けてね」
「武力行使はなし……?」
「なし。実験にならないからね。あくまでも君の魅力で守ってみせてね」
ランサメントが茶目っ気溢れるウインクをする。
エスパディアは胸ポケットに収まったまま、頭上の主人に目を向ける。
少年は突然明るくなった視界に眩しそうに瞬きを繰り返していた。
「ねえ、お姉さん。僕はあまりカブト型は好みじゃないから、実験にならないと思うよ?」
何気ない風に少年は断言した。