12/09/25 22:18:12.42 2RyeAtZQ
月人居住区のある中州を間に挟み、高層ビルが建ち並ぶ繁華街の対岸に位置する住宅街の中に建て
られた満弦ヶ崎大学付属カテリナ学院は見晴らしも良く、常に海からの風が穏やかに空気を入れ替え
ているので夏でも比較的涼しい。
ましてや、その屋上ともなれば更に快適……な訳がなく、逆に直射日光で熱せられたコンクリート
の発熱で蜃気楼が立つほどの暑さである。
「……麻衣?」
が、そんな屋上にも知る人ぞ知ると言う穴場があった。夏休みも終わり日差しが傾き始めると、階
段棟の重い扉の裏側に、ほんの僅かだが一日中日差しが当たらないポイントが発生する。そこであれ
ば昼休みでもそこそこ涼しく、また喧噪からも解放された快適な隠れ場所となる。
「あ、菜月ちゃん!」
もっとも、そこそこ程度の涼しさを求めて更に快適な教室や食堂その他の場所を放棄する者などい
る筈もなく、結果として短期間ではあるが麻衣と菜月が内緒の逢瀬を繰り返すための学院内での隠れ
家となっている。
「遅くなってごめんね? 翠に捕まっちゃって……」
先に来てレジャーシートを広げ二人分のお弁当を前に待ってくれていた恋人……になったばかりの
先日まで幼馴染み兼妹みたいな存在だった麻衣の甲斐甲斐しさに思わず頭を下げてしまう菜月。
「ううん、全然気にしてないから座って座って?」
「そう……だね。うん、そうする」
タンポポの様に飾り気がなく真っ直ぐな笑みに菜月も自然と笑顔になる。ちょうど一人分だけ残し
てある麻衣の隣に腰を下ろし、愛情の籠もった昼食に手を……
「だぁ~め!」
「へ?」
……何故か嬉しそうに背中に隠されてしまった。
「な、菜月ちゃんは私のカノジョさんなんだから」そしてチラリ、と上目遣い「気にしてないって
言われても、その……あるでしょ?」
「え? あ……ああ、これで許して……ね?」
座った場所から動かず、互いに首を伸ばし合って軽く。
「ちゅっ」