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隠しを付けされ、ちひろが手を引いて連れて来られたのは。
「応接……室?」
ほんの数分前まで二人は部室棟の地下にいたはずなのに。
「詳しくは言えないけど、いくつかの通路があるんだ。それと『特別奉仕』は校外の支援者の相手
が殆どだから、この奥の特別室を使うことになってるんだよ」
「こ、こんな大がかりな……」
校内で、教職員が関わっている以上は学園側も関わっているだろうとは推測していたちひろだ
が、ここまで本腰を入れた仕組みだとは思ってもいなかった。信じられない、という顔で室内をキ
ョロキョロと見回してしまう。
「それと、これに着替えてくれる?」
「え?」直樹が差し出した、それは「私の……制服ですか?」
どこから見ても、蓮美台学園の高等部の制服だ。
「いや、一年用だし橘さんのサイズに近いからそう見えるだけで、真っ新だよ。同じ学年に片桐
翔子って子がいるのは知ってる?」
「…………翔子ちゃんは、同じクラスで付属の頃からのお友達ですけど……」
「今日は、その片桐さんになって貰うから」
「……えっと?」
正直、訳が分からない。
「って言っても、別に演技とかはしなくても良いから。多分だけど、名前を呼ばれたら返事をする
くらいで大丈夫だと思う」
「わ、わかりました」
ちひろを遮る直樹の口調が事務的になる。きっと、これ以上は何を尋ねても答えてはもらえないの
だと直感したちひろは、とりあえず従おうと決めた。どうせ、もうに逃げ道はなんだし、と。
「あと、さっきも説明したけど『特別奉仕』は学園にとっても重要な人を相手にする。だから普段
の『奉仕活動』と違って、途中での中止は殆ど有り得ないと思って欲しい。つまり俺なんかじゃ介入
出来ないんだ。だから橘さん自身の為にも、決して口答えとか拒絶するような態度とかで怒らせるこ
とがないように気をつけるんだ。冗談でも何でもなく、腕を折られたりとか体に跡が残るような怪我
をしたりしたこともある」
「!!」
想像以上の厳しい言葉に、ちひろの顔が強ばる。
「でも、言うことを聞いていれば怪我をする程に乱暴な目には遭わないと思うし、馬場先生の何十
倍の料金を払ってくれるから、橘さんの立場も間違いなく良くなる」
だから頑張ってね、と髪を撫でてくれた直樹に渡された制服に着替え、ウイッグを付けてクラスメ
イトの少女となったちひろは、隣室への扉を開いた。